特許第6479341号(P6479341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479341
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 7/02 20060101AFI20190225BHJP
   E04B 7/06 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   E04B7/02 502
   E04B7/06 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-109812(P2014-109812)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-224465(P2015-224465A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 智勇
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−160923(JP,U)
【文献】 特開平02−272142(JP,A)
【文献】 実開平04−021615(JP,U)
【文献】 特開平03−002446(JP,A)
【文献】 特開平10−046736(JP,A)
【文献】 特開平02−136456(JP,A)
【文献】 特開平10−195985(JP,A)
【文献】 特開平05−163791(JP,A)
【文献】 特開2003−171997(JP,A)
【文献】 特開平09−151536(JP,A)
【文献】 実開平03−054416(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 7/00−7/24
E04B 1/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の構面において、複数本の柱、及び、当該複数本の柱のうち隣り合う2本の柱に架け渡された梁を有する下層架構と、
前記所定の構面において、2本の柱、及び、当該2本の柱に架け渡された梁からなり、少なくとも一方の桁となる梁の位置が前記下層架構の桁となる梁の位置より後退した状態となるように前記下層架構の上に構築されたコ字形状部分を有する上層架構と、
前記所定の構面において、一対の第1の登り梁を有し、前記第1の登り梁の上端同士が互いに接合され、少なくともいずれか一方の第1の登り梁の下端が前記上層架構に対して前記上層架構の柱の頭部上端面に接合されて、前記上層架構の上に構築された合掌構造を有する頂部架構と、
前記所定の構面において、上端が前記上層架構に対して前記上層架構の前記柱の頭部側面に接合され、下端が前記下層架構に対して接合され、前記一対の第1の登り梁のうち一方の前記第1の登り梁と一直線状となるように配置された第2の登り梁を有する裾部架構と、を備えた勾配屋根架構を有する建物。
【請求項2】
前記上層架構の桁面に沿って外壁が形成され、
前記第2の登り梁に沿って袖壁が形成され、
前記外壁と前記袖壁とで囲まれた領域にベランダが形成されている、請求項1記載の建物。
【請求項3】
前記第2の登り梁の下端は、前記下層架構に対して水平方向に相対的に移動可能に接合されている、請求項1又は2に記載の建物。
【請求項4】
前記下層架構は、水平部と傾斜部とが屈曲部で連続しているへの字梁を備え、
前記傾斜部は、前記一方の第1の登り梁及び第2の登り梁と同一の傾斜角を有し、
前記第2の登り梁の下端は、前記への字梁の屈曲部近傍に接合され、
前記一方の第1の登り梁、第2の登り梁及び傾斜部は一直線状となるように設けられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の建物。
【請求項5】
桁方向に隣り合う2つの前記勾配屋根架構の間の空間において、
前記上層架構の対向する2本の柱の上端部間には前記桁となる梁が掛け渡され、当該対向する2本の柱の下端部間には梁が掛け渡されておらず、
前記下層架構における前記桁となる梁の直下には梁が掛け渡されていない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の建物。
【請求項6】
前記第2の登り梁に連続しない前記第1の登り梁の下端は、前記上層架構を構成する梁の中間部に接続されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の勾配をもった勾配屋根を備えた建物が知られている。例えば特許文献1には、工場で製造された複数の箱状のユニットを組み合わせて形成される勾配屋根を備えた建物が開示されている。この建物では、建物本体を構成する建物ユニット、傾斜面を構成する屋根ユニット、小屋裏空間を構成する低建物ユニット等を組み合わせるユニット構法によって、勾配屋根を備えた建物が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−311116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなユニット構法に用いられる各ユニットは、比較的大きな箱状に形成されている。そのため、敷地条件によっては、現場へのユニットの搬入や現場での施工などが困難であり、建築できない虞があった。
【0005】
また、このようなユニット構法を用いずに、一般的な合掌形式、洋小屋形式、束形式等の勾配屋根架構を行う場合には、屋根の大きさ(高さや間口)に応じた長さの登り梁(合掌材)、垂木等の斜材を必要とする。そのため、ユニット構法と同様に、敷地条件によっては、搬入、施工等が困難であり、建築できない虞があった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、建築の可否が敷地条件に左右されにくい勾配屋根架構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、勾配屋根を有する建物における妻面に平行な構面内の架構であって、柱及び梁を有する下層架構と、柱及び梁を有し、少なくとも一方の桁となる梁の位置が下層架構の桁となる梁の位置より後退した状態となるように下層架構の上に構築された上層架構と、一対の第1の登り梁を有し、第1の登り梁の上端同士が互いに接合され、少なくともいずれか一方の第1の登り梁の下端が上層架構に対して上層架構の柱梁接合部近傍に接合されて、上層架構の上に構築された頂部架構と、上端が上層架構に対して上層架構の柱梁接合部近傍に接合され、下端が下層架構に対して接合され、一対の第1の登り梁のうち一方の第1の登り梁と一直線状となるように配置された第2の登り梁を有する裾部架構と、を備える。
【0008】
上記の勾配屋根架構では、第1の登り梁によって構築された頂部架構と第2の登り梁によって構築された裾部架構とによって勾配屋根が形成されている。そのため、大きな勾配屋根を構築する場合であっても、登り梁が第1の登り梁と第2の登り梁とに分割されるため、運搬性や施工性が向上する。また、第1の登り梁と第2の登り梁とが一直線状となるように配置されるため、仕上がりとしては、直線状の一つの登り梁を使用した場合と同等の外観を得ることができる。
【0009】
また、第2の登り梁に沿って袖壁が形成されていてもよい。この場合、袖壁が屋根の登り梁に沿って斜めに形成されることで、桁面側においては、採光性に優れた居室空間を構築することができるとともに、袖壁が下方からの目隠しとして機能する。また、妻面側から目視した際に、同じ傾きの一連の勾配屋根が段差なく下層架構まで延伸したような印象を与えることができ、意匠性に優れた外観を備えることができる。
【0010】
また、第2の登り梁の下端は、下層架構に対して水平方向に相対的に移動可能に接合されていてもよい。この場合、外力によって建物に変形が生じた場合でも、下層架構に大きな荷重が作用することが抑制される。そのため、下層架構の部材断面を大きくしたり、補強用の柱を追加したりする必要がなく、運搬性や施工性が低下しない。
【0011】
また、下層架構は、水平部と傾斜部とが屈曲部で連続しているへの字梁を備え、傾斜部は、一方の第1の登り梁及び第2の登り梁と同一の傾斜角を有し、第2の登り梁の下端は、への字梁の屈曲部近傍に接合され、一方の第1の登り梁、第2の登り梁及び傾斜部は一直線状となるように設けられていてもよい。第1の登り梁、第2の登り梁及び傾斜部が一直線状となるように設けられることで、より大きな勾配屋根を構築することができる。また、より大きな勾配屋根を構築する場合であっても、運搬性や施工性が低下しない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建築の可否が敷地条件に左右されにくい勾配屋根架構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る勾配屋根架構を示す斜視図である。(b)は当該勾配屋根架構を備えた建物の外観を示す斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る第1の登り梁の上端部を拡大して示す側面図である。
図3】第1の実施形態に係る第1の登り梁の下端部及び第2の登り梁の上端部を拡大して示す側面図である。
図4】第1の実施形態に係る第2の登り梁の下端部を拡大して示す断面図である。
図5】下部接合金物を拡大して示す斜視図である。
図6】(a)は本発明の第2の実施形態に係る勾配屋根架構を示す斜視図である。(b)は当該勾配屋根架構を備えた建物の外観を示す斜視図である。
図7】第3の実施形態に係る勾配屋根架構を備えた建物の架構を示す側面図である。
図8】第4の実施形態に係る勾配屋根架構を備えた建物の架構を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1(a)、(b)に示されるように、第1の実施形態に係る勾配屋根架構100Aを備えた建物1Aは、鉄骨ラーメン構造の架構を有する工業化住宅であり、予め規格化(標準化)された構造部材の組み合わせによって架構(軸組)が構成される。構造部材は工場にて製造され、現場にて組み立て作業がなされる。建物1Aにおける勾配屋根架構100Aは、複数層の主架構を備えている。複数の主架構のうち、最上階を形成する主架構は上層架構130Aであり、上層架構130Aの下に隣接して設けられた主架構は下層架構150Aである。なお、本実施形態では鉄骨ラーメン構造の主架構を例に説明するが、鉄骨ピンブレース構造、木造軸組構造等であってもよい(但し、鉄骨の柱・梁を予め直方体形状に形成した複数のユニットを搬入し建築現場でこられユニットを組み合わせて構築する、所謂ユニット構造、ボックスラーメン構造等と呼ばれる架構は除く)。
【0015】
建物1Aは、所定の平面モジュールを有している。この平面モジュールとは、建築において設計上の基準となる基本寸法を意味し、建物1Aは、平面的寸法(隣り合う柱の中心間の距離など)が平面モジュールの整数倍となるように構成される。
【0016】
建物1Aは、下部構造である基礎部3を備えており、この基礎部3は例えば鉄骨コンクリート造の布基礎からなる。また、建物1Aの一部を形成する床や外壁は、平面モジュールに基づく平面的寸法を有する軽量気泡コンクリート(ALC)パネルからなる。
【0017】
建物1Aの主架構は、通り(布基礎)の交点上に立設された複数の柱101と、各通り上で、隣接する柱101間に架け渡された複数の梁(大梁=柱で支持された梁)105とで構成されている。
【0018】
柱101は角形鋼管からなり、4つの側面に各階の梁105との接合部101aを備え、それぞれの接合部101aには梁105をボルト接合するためのボルト孔101bが穿設される(例えば図3参照)。柱脚部101cにはベースプレート(図示省略)が溶接され、露出型固定柱脚工法にて基礎に接合される。柱101には、原則として1階から連続した通し柱が使用されるが、2階以上の架構を構成する柱については、下端が下階の架構を構成する梁105に接合され、1階(基礎)まで到達しない柱を使用することができる。本実施形態では、上層架構の一部に管柱103が使用されている。各階の梁105は、H形鋼からなり、その両端部には、鋼板からなりボルト孔が穿設されたエンドプレート116が溶接されている(例えば図3参照)。エンドプレート116は、柱101の側面における接合部101aに当接されて高力ボルト接合される。
【0019】
梁105は、平面モジュールの整数倍の「呼び長さ(梁を架け渡す2本の柱間の芯−芯寸法)」を有しており、平面モジュールに対応した刻み寸法で複数種制定される。また、例えば、梁に取り付ける他の部材の寸法を統一し、部品の種類を減らすために、梁105の梁成、幅及びウェブ厚は、設置階や「呼び長さ」にかかわらず全て共通となっている。フランジ厚及びウェブ厚については接合に支障を生じない程度のバリエーションがある。なお、フランジの内側には他の部材を取り付けないため、フランジ厚の変更は接合に影響しない。梁105の上下フランジ及びウェブには、平面モジュールに基づくピッチで他の部材をボルト接合(固定)するためのボルト孔が穿設されている。互いに対向する梁105間には床パネル支持のための二次梁(図示省略)が適宜架け渡される。二次梁も平面モジュールの整数倍の呼び長さを有する。二次梁は、平面視でT字状あるいはL字状のジョイント金物を介して梁105のウェブにボルト接合される。ジョイント金物は梁105のウェブに予めボルト接合されたのち、その突出片に二次梁がボルト接合される。
【0020】
このような主架構を備えた建物1Aは、外観上、2階建の陸屋根形式建物の屋根面5に庇のない切妻の屋根7がかけられ、その内部が3階部分とされた構成である。そのため、2階部分が下層架構150A、3階部分が上層架構130Aとなる。本実施形態では、上層架構130Aの上に頂部架構120Aが設けられ、上層架構130Aと下層架構150Aとに裾部架構140Aが架け渡されている。以下、それぞれの架構について説明する。なお、本実施形態では、前述したような柱及び梁等が柱勝ちに構成された下層架構150A及び上層架構130Aを例に説明するが、これは梁勝ちであってもよい。
【0021】
下層架構150Aは、前述のように、複数の柱101と、柱101間に架け渡された梁105とによって構成されている。本実施形態では、下層架構150Aの妻方向のスパン数は2であり、桁方向のスパン数は1となっている。すなわち、下層架構150Aにおいては、四隅にそれぞれ柱101が設けられるとともに、妻面Tを構成する構面(妻方向の構面)Pにおける左右両端の柱101の中間の位置にも柱102が設けられている。このような主架構を備える下層架構150Aでは、梁105間に図示しない二次梁が適宜架け渡されたうえで、ALCパネル等からなる床スラブが敷設される。この床スラブの上には、防水層が形成される。下層架構150Aにおいては、床スラブまたは水平ブレースによって、剛性が確保されている。また、桁面K及び妻面Tに沿ってALCパネル等からなる外壁パネル及び窓やドア等の開口パネルが取り付けられて外壁Wが形成されている。
【0022】
上層架構130Aは、複数の柱101と、柱101間に架け渡された梁105とによって構成されており、下層架構150Aの上に構築されている。本実施形態では、4本の柱101と4本の梁105とによって上層架構130Aが構成されているため、上層架構130Aのスパン数は、妻方向及び桁方向でいずれも1となっている。妻面Tを構成する構面Pにおいて、一方の柱102は下層架構150Aの中間の柱102と共通しており、他方の柱103は下層架構150Aの梁105の中間に位置している。これにより、桁となる梁(桁梁)106の位置(最外端の柱位置)は、下層架構150Aにおける桁梁106の位置よりも後退した状態となっている。すなわち、上層架構130Aの桁位置が下層架構150Aの桁位置よりも内側に位置することで、上層架構130Aは下層架構150Aの上に凸状に形成される。このように、下層架構150Aに対し、上層架構130Aを後退させることで形成された領域は上方が開放されており、建築基準法に規定された斜線制限を回避し易くするための領域(後退部B)となる。
【0023】
上層架構130Aの上に構築される頂部架構120Aは、妻面Tを構成する構面Pに設けられる一対の第1の登り梁121と、対向する妻面T間において登り梁121の上端同士を連結する棟梁129とを備えている。対向する妻面Tは同様の架構であるため、一方側のみ説明する。いずれもH形鋼によって形成される第1の登り梁121及び棟梁129は、平面視において互いに直交するように配置されている。
【0024】
図2に示されるように、同じ斜度で傾斜する一対の第1の登り梁121の上端121aには、それぞれ上部接合金物123がボルト等の締結部123aによってウェブ121bに固定されており、この上部接合金物123が棟梁129のウェブ129bを挟み込んだ状態でボルト等の締結部123bによって固定されている。これにより、一対の第1の登り梁121は、棟梁129を介して上端121a同士が互いに接合された、いわゆる合掌構造となっている。棟梁129は、対向する妻面Tの第1の登り梁121に対して同様に固定されている。上部接合金物123は、例えば、金属プレートが断面T字状に形成されたものでもよいし、断面L字状に形成されたものでもよい。
【0025】
図3に示されるように、一対の第1の登り梁121の下端121cは、上層架構130Aの柱梁接合部131近傍に下部接合金物125を介して接合されている。本実施形態では、柱勝ちとなっているため、第1の登り梁121は、柱梁接合部131近傍の一つである柱101の頭部101dに下部接合金物125を介して接合されている。第1の登り梁121のウェブ121bの下端にはエンドプレート126が溶接されている。また、柱の頭部101dには、下部接合金物125がボルト等の締結部125aによって固定されている。下部接合金物125は、断面L字状に屈曲した板状であり、柱の頭部101dに対して締結部125aにて取り付けられる当接片125bと、当接片125bから屈曲して略垂直に立設された支持片125cとを有する。当接片125bの上面には、支持片125cに並んで補助片125dが立設されており、支持片125cと補助片125dとの間には補強リブ125eが設けられている。第1の登り梁121のエンドプレート126と、下部接合金物125の支持片125cとがボルト等の締結部127によって接合されることで、第1の登り梁121が上層架構130Aに接合される。
【0026】
第1の登り梁121、棟梁129及び上層架構130Aの桁梁106で囲まれた領域には、対角線状をなすように勾配ブレース(屋根面ブレース)128が張設される(図1(a)においては、一方側の屋根面の勾配ブレース128のみを破線で示している)。これにより、屋根面の剛性が確保され、棟方向(桁方向)についても安定した架構となる。頂部架構120Aにおいては、第1の登り梁121に沿ってALCパネル等の下地パネル7a(図2参照)が敷設され、更に下地パネルの上に屋根材が葺かれて勾配屋根7が形成される。また、妻面Tには外壁パネルが取り付けられて、上層架構130Aの妻面Tの外壁に連続する外壁Wが形成される。このように、上層架構130Aの上に頂部架構120Aの屋根面(勾配ブレース)が構築されることによって、上層架構130Aの剛性も確保される。そのため、上層架構130Aにおいては、床スラブや水平ブレースを省略して、屋根面に沿う勾配天井とすることで、天井高を高くすることができる。
【0027】
裾部架構140Aは、妻面Tを構成する構面Pに設けられる第2の登り梁141を有している。第2の登り梁141は、妻面Tを構成する構面Pにおいて上層架構130Aの左右に設けられるが、略同様の構成であるため、まず図1(a)における右側の登り梁を説明し、左側については右側と異なる部分についてのみ説明する。なお、対向する妻面Tは同様の架構を備えるため、一方側の妻面Tのみ説明する。図3に示されるように、第2の登り梁141は、第1の登り梁121と同一断面のH形鋼からなっており、第1の登り梁121と一直線状(図3において二点鎖線で示される)となるように上層架構130Aの柱梁接合部131近傍と下層架構150Aの上端面とに架け渡されている。第2の登り梁141の上端141aにおいては、上部接合金物142がボルト等の締結部142aによってウェブ141bに固定されており、この上部接合金物142が上層架構130Aの柱101の上端部における接合部101aに対してボルト等の締結部142bによって固定されている。また、図4に示されるように、第2の登り梁141の下端141cは、下層架構150Aに固定された下部接合金物145に接合されている。下部接合金物145は、H型鋼からなる下層架構150Aの梁105aの長手方向の中間に接合されている。
【0028】
図4及び図5に示されるように、下部接合金物145は、断面L字状に屈曲した本体部145aを有し、本体部145aは、梁105aのフランジ105cにボルト等の締結部105dにて取り付けられる当接片145bと、当接片145bから屈曲して略垂直に立設された支持片145cとを有する。当接片145bの上面には、支持片145cに並んで補助片145dが立設されており、支持片145cと補助片145dとの間には補強リブ145eが設けられている。
【0029】
支持片145cの上部には、第2の登り梁141に接合される接合片145fが横方向(水平方向)に突き出すように設けられている。接合片145fは、鉛直面に沿って設けられた矩形板状であり、一側面には補強片145gが水平面に沿うように設けられている。接合片145fには、補強片145gを挟んで上下の位置に、それぞれ長孔145hが形成されている。上下の長孔145hは、長手方向が水平方向に沿うように設けられている。
【0030】
第2の登り梁141のウェブ141bの下端には、下方に突き出た突出片141dが形成されている。突出片141dは下部接合金物145の接合片145fに当接している。また、突出片141dには、接合片145fの長孔145hの中心に重なるように丸孔141eが形成されている。下部接合金物145の長孔145h、及び第2の登り梁141の丸孔141eにはボルト147dの軸部が挿通されるとともに、軸部の端部にナットが螺合されることで第2の登り梁141と下部接合金物145とが締結される。このボルトナットによる締結の際にはトルク管理がされており、所定の力が作用した際に突出片141dが下部接合金物145の接合面に対して滑って、第2の登り梁141の下端が下層架構150Aに対して相対的に水平移動するように構成されている。
【0031】
このような第2の登り梁141を備えた裾部架構140Aの右側においては、対向する妻面Tを構成する構面との中間にさらに登り梁143が設けられている。この登り梁143では、第2の登り梁141と同様に、上端が上部接合金物142によって上層架構130Aの桁梁106に接合され、下端が下部接合金物145によって下層架構150Aの二次梁107に接合される。この二次梁107は、梁105aに対する第2の登り梁141の接合位置105b間に架け渡されているため、登り梁143は、第2の登り梁141と同じ傾斜を有することになる。このような登り梁143を設けることで、桁方向の中間に妻面Tに平行な構面を設けることができる。
【0032】
隣接する2本の第2の登り梁141の間の領域には、図1(b)に示されるように、頂部架構120Aの勾配屋根7と同様の勾配を有した勾配屋根8が、頂部架構120Aの勾配屋根7に連続するように設けられている。勾配屋根8の下方は、上層架構130A内の空間と一体の空間となっている。
【0033】
本実施形態では、中間に設けられた登り梁143を利用することで、上層架構130Aの一部の桁面(図1において、右奥の桁面)に対しては、勾配屋根8が設けられている。一方、上層架構130Aの他の桁面(図1において、右手前の桁面)には、外壁パネル、窓、ドア等の開口パネル9が取り付けられている。これにより、下層架構150Aの桁面の外壁Wよりも後退した外壁(開口パネル9)を形成することができ、後退した領域を利用してベランダ(バルコニー)9aを設けることができる。図面上、手前側の妻面Tを構成する構面Pにおいて、第2の登り梁141を外壁パネルで挟み込むことによって、第2の登り梁141に沿って、頂部架構120Aの勾配屋根7に連続した直角三角形状の袖壁10が形成されている。
【0034】
左側に位置する第2の登り梁141Lは、第2の登り梁141と同じように、第1の登り梁121と一直線状となるように上層架構130Aと下層架構150Aとに架け渡されている。この第2の登り梁141Lは、その下端が下部接合金物145によって下層架構150Aの柱101の頭部に接合されている点において第2の登り梁141と異なっている。このような第2の登り梁141Lを備えた左側の裾部架構140においては、対向する妻面Tを構成する構面の中間に登り梁が設けられていない。そのため、頂部架構120Aの勾配屋根7と同様の勾配を有した勾配屋根8Lが、対向する妻面T間の全面にわたって頂部架構120Aの勾配屋根7に連続するように設けられている。
【0035】
この建物1Aでは、第1の登り梁121によって構築された頂部架構120Aと第2の登り梁141によって構築された裾部架構140とによって勾配屋根7,8が連続して一体的に形成されている。そのため、大きな勾配屋根を構築する場合であっても、登り梁が第1の登り梁121と第2の登り梁141とに分割されるため、運搬性や施工性が向上する。また、第1の登り梁121と第2の登り梁141とが、同一の傾斜を有して一直線状となるように、柱梁接合部131の近傍に配置されるため、仕上がりとしては、直線状の一つの登り梁を使用した場合と同等の外観を得ることができる。
【0036】
また、3階部分の一部にベランダ9aを設けながら、妻面Tを構成する袖壁10が設けられている。そのため、袖壁10が第2の登り梁141に沿って斜めに形成されることで、桁面側においては、採光性に優れた3階居室空間を構築することができるとともに、袖壁10が下方からの目隠しとして機能する。また、ベランダ9aの位置に勾配屋根8が形成されていないにもかかわらず、妻面側から目視した際には、同じ傾きの一連の勾配屋根7,8が段差なく頂部架構120Aから下層架構150Aまで延伸したような印象を与えることができ、意匠性に優れたものとなる。
【0037】
また、第2の登り梁141の下端141cが、下層架構150Aに対して相対的に水平移動するように構成されているため、外力によって建物に変形が生じた場合でも、下層架構150Aに大きな荷重が作用することが抑制される。そのため、下層架構150Aの部材断面を大きくしたり、補強用の柱を追加したりする必要がなく、運搬性や施工性が低下しない。地震などによって上層架構130Aと下層架構150Aとが相対変位した場合において、第2の登り梁141に作用する力が所定の値に達すると、第2の登り梁141の下端141cが下層架構150Aに対して相対的に水平移動するので、第2の登り梁141には大きな軸方向力が作用せず、下層架構150Aとの接合位置105bに応力が集中することを抑制できる。その結果、第2の登り梁141が、建物1Aの構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。特に、本実施形態では、第2の登り梁141の下端141cが、撓みが大きくなりやすい梁105aの中間(接合位置105b)に接合されているが、梁105aの中間に応力が集中するのを避けることができるので有利である。
【0038】
また、仮に想定外の過大な水平力が作用することで下部接合金物145が損傷しても、第2の登り梁141の上端141aは上層架構130Aに接合された状態を維持され、第2の登り梁141が上層架構130Aに保持された状態は維持されるため、安全性が確保される。
【0039】
また、この下部接合金物145では、下層架構150Aに対する第2の登り梁141の鉛直方向の移動を規制し、水平方向の移動を許容する構成であり、第2の登り梁141の鉛直荷重は下層架構150Aにて支持されることになる。したがって、第2の登り梁141を下層架構150Aに取り付ける際には、第2の登り梁141の下端を浮かせた状態を保つ必要がなく、下層架構150Aに預けて(第2の登り梁141の重量を負担させて)の取り付けが可能になるので、施工性がよい。また、第2の登り梁141の荷重や第2の登り梁141が支持する部材の荷重である長期荷重を安定して支持することができる。
【0040】
次に、図6を参照し、第2の実施形態に係る勾配屋根架構100Bを備える建物1Bについて説明する。なお、第2の実施形態に係る建物1Bは、第1の実施形態に係る建物1Aと同様の要素や構造を備えている。そのため、第1の実施形態と同様の要素や構造には同一の符号を付して詳細な説明は省略し、第1の実施形態と異なる部分について説明する。
【0041】
図6に示されるように、建物1Bでは、下層架構150Bにおける一部の梁の形状が第1の実施形態と相違している。また、これに伴って下層架構150Bにおける一部の柱の形態も第1の実施形態と相違している。
【0042】
建物1Bの妻面Tを構成する構面Pにおいて、図面上右側のスパンの梁は、水平部108aと傾斜部108bとが屈曲部108cで連続しているへの字梁108となっている。への字梁108の水平部108aは、右側のスパンにおける梁105に連続して、第2の登り梁141との接合位置まで形成されている。への字梁108の水平部108aには、この接合位置の近傍を屈曲部108cとして、第1の登り梁121及び第2の登り梁141と同一の傾斜角で下向きに傾斜する傾斜部108bが連続している(すなわち、第2の登り梁141の下端141cは、への字梁108における屈曲部108c近傍に接合されている)。この傾斜部108bの端部は、他の柱101より短く形成された柱101Bの上部に接続される。この柱101Bと対向する妻面の柱101Bとの間には桁梁106が架け渡される。これにより、第1の登り梁121、第2の登り梁141及び傾斜部108bは一直線状となる。対向する妻面における傾斜部108b間の上方には、頂部架構120A及び裾部架構140Aの勾配屋根7,8と同一の勾配を有した勾配屋根11が、勾配屋根7,8に連続して形成される。
【0043】
以上、本実施形態に係る建物1Bでは、第1の登り梁121、第2の登り梁141及び傾斜部108bが一直線状となるように設けられることで、第1の実施形態における建物1Aよりも大きな勾配屋根(連続して一体的に構成される勾配屋根7,8,11)を構築することができる。このように、より大きな勾配屋根を構築する場合であっても、登り梁が分割されていることにより、運搬性や施工性が低下しない。
【0044】
次に、図7を参照し、第3の実施形態に係る勾配屋根架構100Cを備える建物1Cについて説明する。図7は、建物1Cの勾配屋根架構100Cを示す模式的な側面図(妻面側の構面)である。なお、建物1Cは、第1の実施形態に係る建物1Aと同様の要素や構造を備えているので、同様の要素や構造には同一の符号を付して詳細な説明は省略し、第1の実施形態と異なる部分について説明する。
【0045】
図7に示されるように、建物1Cにおける勾配屋根架構100Cは、第1の実施形態における勾配屋根架構100Aの一方の裾部架構(向かって左側)140Aを省略した裾部架構140Cを備えている。このように、登り梁が第1の登り梁121と第2の登り梁141とに分割されていることにより、一方側のみ(本実施形態においては図面上右側のみ)に第2の登り梁141を配置するような、意匠性に優れた自由な設計を容易に実現することができる。
【0046】
次に、図8を参照し、第4の実施形態に係る勾配屋根架構100Dを備える建物1Dについて説明する。図8は、建物1Dの勾配屋根架構100Dを示す模式的な側面図(妻面側の構面)である。なお、建物1Dは、建物1A及び建物1Cと同様の要素や構造を備えているので、同様の要素や構造には同一の符号を付して詳細な説明は省略し、第1の実施形態と異なる部分について説明する。
【0047】
図8に示されるように、建物1Dにおける勾配屋根架構100Dは、建物1Cと同様に一方の裾部架構(向かって左側)を省略した裾部架構140Cを備えたうえで、上層架構130Aの間口(妻方向スパン長を)が広げられた上層架構130Dを備えたものである。これにより、上層架構130Dの上部の一部が陸屋根面13となり、頂部架構120Aの勾配屋根7の一方が陸屋根面13に連続した構成となっている。この構成では、上層架構130Dの柱101が全て通し柱となっている。
【0048】
以上、本発明について、各実施形態に係る建物1A〜1Dを例に説明したが、本発明は上記の実施形態のみには限定されない。例えば、各実施形態では、柱勝ちの架構について説明したが、梁勝ちであってもよい。この場合、例えば、上層架構130Aに対する第1の登り梁121の下端121cの接合は、柱101の頭部ではなく、梁105に対してなされることになるが、柱梁接合部近傍であることに変わりはない。同様に、頂部架構120Aにおいて、第1の登り梁121の上端121a同士が棟梁129を介して互いに接合された例を示したが、第1の登り梁121同士が接合金物等によって直接接続されてもよい。
【0049】
また、上記の各実施形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用することができる。例えば、第3、第4の実施形態における下層架構150A対して、第2の実施形態におけるへの字梁108を採用してもよい(この場合、下層架構が下層架構150Bの構成となる)。
【0050】
第1の登り梁121及び第2の登り梁141が、妻面Tを構成する構面Pのみに形成されている例を示したが、これに限定されない。例えば、桁方向のスパンを複数として、対向する妻面間に形成される妻面に平行な構面に対して第1の登り梁121及び第2の登り梁141を形成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1A,1B,1C,1D…建物、7,8,11…勾配屋根、10…袖壁、100A,100B,100C,100D…勾配屋根架構、101,101B…柱、P…構面、105…梁、106…桁梁(梁)、108…への字梁、108a…水平部、108b…傾斜部、108c…屈曲部、120A…頂部架構、121…第1の登り梁、121a…第1の登り梁の上端、121c…第1の登り梁の下端、130A,130D…上層架構、131…柱梁接合部、140A,140C…裾部架構、141…第2の登り梁、141a…第2の登り梁の上端、141c…第2の登り梁の下端、150A,150B…下層架構、T…妻面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8