【実施例】
【0036】
以下、上記構成の本発明のスイッチ装置につき、その実施の形態を具体的な実施例のレベルで詳しく説明する。
【0037】
〔第1の実施例〕
以下、
図1、
図2を参照して本発明にかかわるスイッチ装置の第1の実施例を説明する。
【0038】
図1は本発明の第1の実施例におけるスイッチ装置の構成を示す回路図である。まず、構成要素を列挙する。
図1において、Aはスイッチ装置、T1p,T1nはスイッチ装置Aにおける直流電源の第1と第2の入力端子、T2p,T2nはスイッチ装置Aにおける直流電圧の第1と第2の出力端子、Q51は接続/遮断用のスイッチング素子、51は時定数回路、52は駆動制御回路、53は負荷回路、E51はバッテリなどの直流電源である。時定数回路51の構成要素として、C51は積分用の容量素子、R51は充放電用の抵抗素子、R52はバイアス用であるとともに容量素子C51を充電する電流制限用の抵抗素子、R56は急速放電用の抵抗素子である。駆動制御回路52は駆動用のスイッチング素子Q52と電流制限用の抵抗素子R52を備えている。電流制限用の抵抗素子R52は駆動制御回路52の構成要素であるとともに時定数回路51の構成要素も兼ねている。負荷回路53は、容量性負荷C53と抵抗性負荷R53を含んでいるものとする。接続/遮断用のスイッチング素子Q51として、ここではPチャネル型のMOS‐FETが用いられ、駆動用のスイッチング素子Q52として、ここではバイポーラでNPN型のトランジスタが用いられている。
【0039】
一対の入力端子T1p,T1nは、これに直流電源E51を接続して直流電流を入力するものであり、一対の出力端子T2p,T2nは、これに接続される負荷回路53に対して直流電力を供給するものである。高電位側の入力端子T1pと高電位側の出力端子T2pとが電源供給ラインL51を介して接続されるが、その途中に接続/遮断用のスイッチング素子Q51が挿入されている。低電位側の入力端子T1nと低電位側の出力端子T2nとが接地ラインL52を介して接続されている。
【0040】
駆動制御回路52において、駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタに電流制限用の抵抗素子R52の一方端子が接続され、その他方端子が接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御端子であるゲートに接続され、駆動用のスイッチング素子Q52のエミッタは接地ラインL52に接続されている。駆動用のスイッチング素子Q52のベースにはスイッチ制御信号Scが入力されるようになっている。このスイッチ制御信号Scは単純な“H”/“L”切り替え式の信号である。
【0041】
時定数回路51は、積分用の容量素子C51と充放電用の抵抗素子R51および電流制限用の抵抗素子R52に加えて、さらに急速放電用の抵抗素子R56を有している。すなわち、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間に積分用の容量素子C51が接続され、さらに積分用の容量素子C51に充放電用の抵抗素子R51が並列接続されている。加えて、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の入力側において、積分用の容量素子C51の正極端子と駆動用のスイッチング素子Q52の電流路におけるハイサイド端子であるコレクタとの間に急速放電用の抵抗素子R56が接続されている。換言すると、急速放電用の抵抗素子R56は、充放電用の抵抗素子R51と高電位側の入力端子T1pの接続点と、駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタと電流制限用の抵抗素子R52との接続点との間に接続されている。ここで、積分用の容量素子C51に対しては、充放電用の抵抗素子R51が並列に接続され、さらに、電流制限用の抵抗素子R52と急速放電用の抵抗素子R56との抵抗直列回路が並列に接続されている。つまり、充放電用の抵抗素子R51と、電流制限用の抵抗素子R52と急速放電用の抵抗素子R56との直列回路とは、積分用の容量素子C51からの放電経路を形成する並列抵抗回路を構成している。
【0042】
以上のように、本発明の第1の実施例のスイッチ装置Aは、
図4の第1の従来例のスイッチ装置Bに対して、急速放電用の抵抗素子R56を積分用の容量素子C51の正極端子と駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタ(ハイサイド端子)との間に追加したものに相当している。追加の回路要素は1部品となっている。
【0043】
次に、上記のように構成されたスイッチ装置Aの動作を
図2のタイミングチャート(動作波形図)を参照しながら説明する。
図2(a)は本発明の第1の実施例のスイッチ装置Aの立ち上がり特性を示す波形図であり、
図2(b)は立ち下がり特性を示す波形図である。
【0044】
〔1〕<スイッチ制御信号Scの“L”レベル状態>
いま、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態にあって電源供給ラインL51が遮断されており、負荷回路53に対して直流電源E51からの電力供給が行われていない負荷停止状態にあるとする。このとき、駆動制御回路52においてスイッチ制御信号Scは“L”レベルとなっていて、駆動用のスイッチング素子Q52は非導通状態となっている。したがって、積分用の容量素子C51には充電は行われていない。すなわち、積分用の容量素子C51の両端電圧はゼロであり、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧(ゲート‐ソース間電圧)もゼロとなっている。
【0045】
〔2〕<スイッチ制御信号Scの“H”レベルへの立ち上げ>
次に、負荷回路53に直流電源E51からの電力を供給して負荷動作状態にしようとするときは、
図2(a)に示すように、スイッチ制御信号Scを“L”レベルから“H”レベルに立ち上げる。すると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオンし、高電位側の入力端子T1pに印加されている直流電源E51により、時定数回路51における積分用の容量素子C51および並列抵抗回路(R51,R52+R56)から駆動用のスイッチング素子Q52の経路で電流が流れる。充放電用の抵抗素子R51の抵抗値と積分用の容量素子C51の容量値とで決まる時定数のもとで積分用の容量素子C51に対する充電が開始される。
図2(a)に示すように、スイッチ制御信号Scの立ち上がりタイミングから一定時間約9[ms]が経過した時点で接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧がしきい値電圧を超え、それ以降、接続/遮断用のスイッチング素子Q51からの出力電圧および出力電流が緩やかに増加する。増加が緩やかであるため、負荷回路53の容量性負荷C53への突入電流は抑制される。
【0046】
〔3〕<接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオン>
さらに所定の時間(約3[ms])の経過後に接続/遮断用のスイッチング素子Q51が完全にターンオンし、出力電圧が高電位側の入力端子T1pへの印加電圧のレベル(ここでは約24[V])で安定するとともに、出力電流は突入電流(6.6[A])の後、安定化する。この時点では突入電流の影響は緩和され、負荷回路53における容量性負荷C53と抵抗性負荷R53に対しては正常レベルの電流が安定的に供給される。
【0047】
上記の〔2〕および〔3〕の動作説明のように、本発明の第1の実施例で追加した急速放電用の抵抗素子R56の存在は、スイッチ装置Aの接続状態への立ち上がり初期における動作には影響を与えることがない。つまり、スイッチ装置Aのターンオン時の応答遅れ時間(約12[ms])は
図4に示す第1の従来例のターンオン時の応答遅れ時間(約12[ms])とほぼ同じとなる。また、突入電流に対する抑制効果についても遜色がなく、良好である。
【0048】
〔4〕<スイッチ制御信号Scの“L”レベルへの立ち下げ>
次に、負荷回路53の動作を停止させようとするときは、
図2(b)に示すように、スイッチ制御信号Scを“H”レベルから“L”レベルに立ち下げる。すると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオフする。しかし、接続/遮断用のスイッチング素子Q51はすぐにはターンオフしない。それは、積分用の容量素子C51に対して行われた充電によって接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧がしきい値電圧を超える状態を暫時継続するためである。駆動用のスイッチング素子Q52のターンオフによって負極端子が接地ラインL52から切り離された積分用の容量素子C51の充電電荷は、正極端子から負極端子へ向けて放電される。このとき、放電電流の一部は充放電用の抵抗素子R51を通して放電され、放電電流の残りは急速放電用の抵抗素子R56および電流制限用の電流制限用の抵抗素子R52の抵抗直列回路を通しても放電される。したがって、
図4の場合の充放電用の抵抗素子R51のみの放電より速く積分用の容量素子C51の蓄積電荷を放出できる。そしてこれに伴って、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧が急速に降下する。しかし、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が導通状態を保つ限りにおいて出力電圧、出力電流はともに“H”レベルに維持される(経過時間121[ms]まで)。この第1の実施例では、充放電用の抵抗素子R51、電流制限用の抵抗素子R52の抵抗値がともに10[kΩ]であり、急速放電用の抵抗素子R56も10[kΩ]となっている。
【0049】
ちなみに、充放電用の抵抗素子R51と抵抗直列回路(R56+R52)の合成抵抗値Rcを求めると、
Rc=R51・(R56+R52)/(R51+R56+R52)
であり、
R51−Rc=R51
2 /(R51+R56+R52)>0
∴R51>Rc
のように、合成抵抗値Rcは急速放電用の抵抗素子R56がない
図4(第1の従来例)の場合の抵抗値R51よりも小さくなっている。それゆえに、上述したように、第1の実施例によれば、積分用の容量素子C51の蓄積電荷を充放電用の抵抗素子R51のみ場合より速く放出することができるのである。
【0050】
〔5〕<接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオフ>
制御電圧がしきい値電圧以下となると、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がターンオフする。これにより、直流電源E51から高電位側の入力端子T1pを介して流入していた電流が遮断され、負荷回路53への電源供給が停止される。やがて、積分用の容量素子C51の放電が完了する。なお、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の非導通状態は、次にスイッチ制御信号Scが“H”レベルに立ち上がった後、所定のターンオン時の応答遅れ時間が経過するまで保持される。
【0051】
本発明の第1の実施例のスイッチ装置Aでは、
図4に示す第1の従来例に比べてターンオフ時の応答遅れ時間を相当に短縮することが可能となっている。ちなみに、スイッチ装置Aにおいては、
図2(b)に示すようにターンオフ時の応答遅れ時間は約121[ms]であり、これは
図5(b)に示す第1の従来例(
図4)のターンオフ時の応答遅れ時間約187[ms]に比べて大幅に短縮されている(約64.7%への短縮)。
【0052】
本発明の第1の実施例での対策は、
図7に示す複雑な回路構成の時定数回路15をもつ第3の従来例に比べてより簡易な回路構成となっている。また、急速放電用の抵抗素子R56を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の直近で付加していることから、次のメリットがある。すなわち、
図7の接続/遮断用のスイッチング素子TR11から離れた状態で駆動用のスイッチング素子TR12のベース側に時定数回路15を付加するものに比べると、突入電流やターンオフ時の応答遅れ時間のばらつきを抑制するために行う、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧の調整がより容易に行える。
【0053】
また、
図4に示す第1の従来例のターンオフ時の応答遅れ時間が長いという問題点を解消することを意図して考えられた
図8に示す第4の従来例の場合は、ターンオフ時の応答遅れ時間が約0.8[ms]と大幅に短縮化されている。しかし、そのための追加構成として、急速放電用の抵抗素子R55と急速放電用のスイッチング素子Q53と一方向性通電素子D52の3部品が必要であり、追加部品点数が多いために回路構成の複雑化を招くという問題がある。これに対して本発明の第1の実施例の場合の追加構成は、積分用の容量素子C51の正極端子と駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタ(ハイサイド端子)との間に接続した急速放電用の抵抗素子R56の1部品で済んでいて、回路構成の簡易化を図ることができる。
【0054】
ターンオフ時の応答遅れ時間の短縮の効果については、
図8に示す第4の従来例の方が優れている(
図9(b)参照)。一例を挙げると、回路定数や定格値を上記と同じにして、
図4に示す第1の従来例の場合のターンオフ時の応答遅れ時間は
図5(b)のように約187[ms](ミリ秒)であるのに対して、
図8に示す第4の従来例の場合は
図9(b)のように約0.8[ms]であり、本発明の第1の実施例の場合は
図2(b)のように約121[ms]の計測データがある。第4の従来例(
図8、
図9)によればターンオフ時の応答遅れ時間の大幅な短縮が図られるが、現実的な技術要請はそれほど極端なものでなく、約30〜40%にでも短縮できれば問題のない仕様のスイッチ装置Aにあっては、本発明の第1の実施例で充分満足いく結果が得られる。
【0055】
以上をまとめると、本発明の第1の実施例によれば、ターンオン時の応答遅れ時間および突入電流抑制作用については
図4、
図5に示す第1の従来例と遜色がなく、ターンオフ時の応答遅れ時間については
図4、
図5に示す第1の従来例に比べて相当な短縮を実現し、それでいて部品点数、回路構成の点では
図8に示す第4の従来例に比べて簡易化が実現されている。
【0056】
ところで、
図7に示す第3の従来例においては、ターンオフ時の応答遅れ時間短縮のために時定数回路15において積分用の容量素子C13の充電電荷を急速放電するための急速放電用の抵抗素子R16と一方向性通電素子D12が設けられている。しかし、この積分用の容量素子の急速放電のために急速放電用の抵抗素子と一方向性通電素子からなる直列回路の追加対策は、
図4に示す第1の従来例の接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間の積分用の容量素子C51に対しては単純に適用することはできない。本発明の第1の実施例のスイッチ装置Aのターンオン時の応答遅れ時間は
図4に示す第1の従来例のターンオン時の応答遅れ時間と変わらない。また、突入電流に対する抑制効果についても遜色がない。
【0057】
〔第2の実施例〕
次に、
図3を参照して本発明にかかわるスイッチ装置の第2の実施例を説明する。
図3は本発明の第2の実施例におけるスイッチ装置A′の構成を示す回路図である。
【0058】
第2の実施例のスイッチ装置A′は、
図1に示した第1の実施例のスイッチ装置Aにおいて、一方向性通電素子D51を追加したものに相当する。一方向性通電素子D51としては例えば整流ダイオードが用いられる。一方向性通電素子D51は、その順方向を駆動用のスイッチング素子Q52から積分用の容量素子C51に向かう方向とする状態で、電流制限用の抵抗素子R52に並列に接続されている。すなわち、一方向性通電素子D51のアノードを駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタに接続し、そのカソードを積分用の容量素子C51の負極端子に接続している。
【0059】
一方向性通電素子D51は、積分用の容量素子C51からの放電状態において、電流制限用の抵抗素子R52を短絡的にバイパスする。
図1に示す第1の実施例の場合には、積分用の容量素子C51に並列接続の充放電用の抵抗素子R51に対してさらに並列接続されているのは、急速放電用の抵抗素子R56と電流制限用の抵抗素子R52との抵抗直列回路である。これに対して、第2の実施例の場合には、電流制限用の抵抗素子R52に対してこれをバイパス的に短絡する状態で一方向性通電素子D51が並列に接続されているため、積分用の容量素子C51に並列接続の充放電用の抵抗素子R51に対してさらに並列接続されているは、急速放電用の抵抗素子R56のみとなり、電流制限用の抵抗素子R52は切り離された状態となる。
【0060】
ちなみに、充放電用の抵抗素子R51と急速放電用の抵抗素子R56の合成抵抗値Rc′を求めると、
Rc′=R51・R56/(R51+R56)
である。大小関係を求めると、
Rc−Rc′=R52・R51
2 /{(R51+R56+R52)・(R51+R56)}>0
∴Rc>Rc′
であり、第1の実施例よりも第2の実施例の方が放電の抵抗がより小さくなっている。したがって、部品点数として一方向性通電素子D51の1部品が増えはするが、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオフ時の応答遅れ時間をさらに短縮化することが可能となっている。なお、追加された一方向性通電素子D51は接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオン時の応答遅れ時間には影響を与えない。
【0061】
以上、2つの実施例について説明したが、本発明では次のような実施例も含むものである。
【0062】
一方向性通電素子D51としては整流ダイオードのほかサイリスタであってもよいし、ダイオード接続されたトランジスタであってもよい。バイポーラトランジスタの場合は、コレクタとベースを短絡したものが一方向性通電素子となり、MOS‐FETの場合は、ドレインとゲートを短絡したものが一方向性通電素子となる。
【0063】
直流電源E51としては、電池(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池など)、バッテリ(蓄電池)、太陽電池、燃料電池、DC−DCコンバータ、AC−DCコンバータ、スーパーキャパシタなどどのようなものであってもよい。
【0064】
負荷回路53としては、容量性負荷と抵抗性負荷を備えたものが一般的であるが、もっぱら容量性負荷が主体のものであってもよい。