(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479404
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】フレキシブルディスプレイ用基板及びフレキシブルディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G09F 9/30 20060101AFI20190225BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
G09F9/30 310
G09F9/30 308Z
C08F292/00
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-212174(P2014-212174)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-80869(P2016-80869A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年2月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年6月11日一般社団法人繊維学会発行の「平成26年度繊維学会年次大会予稿集 発表番号2D04」に発表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治
(72)【発明者】
【氏名】戸木田 雅利
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 順次
【審査官】
村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−327641(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/112558(WO,A1)
【文献】
特開2010−262257(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/108451(WO,A1)
【文献】
特開2016−216691(JP,A)
【文献】
特開2011−145636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/00 − 9/46
C08F 292/00
G02F 1/133
G02F 1/1333
G02F 1/1334
G02F 1/1339− 1/1341
G02F 1/1347
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リビングラジカル重合による高分子グラフト鎖が形成された微粒子が前記高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列された自立性フィルムからなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板
であって、
前記自立性フィルムは0.1μm〜500μmの厚さを有し、
前記リビングラジカル重合の開始剤は、下記化学式(1)
【化1】
(ただし、R1はそれぞれ独立したC1〜C3のアルキル基であり、R2はそれぞれ独立したメチル基またはエチル基であり、Xはハロゲン原子であり、mは2〜10の整数であり、nは3〜10の整数である)
によって示される、末端にハロゲンを有する化合物を含み、
前記自立性フィルムは前記高分子グラフト鎖を有する微粒子が分散する分散液を用いて形成され、
前記分散液中の前記高分子グラフト鎖を有する微粒子は、1〜30質量%の濃度を有する、フレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項2】
前記微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項3】
前記微粒子がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項4】
前記高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項5】
前記高分子グラフト鎖が、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、スチレン誘導体、酢酸ビニル及びアクリロニトリルから選択される1種以上の化合物のリビングラジカル重合によって形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項6】
互いに隣接する前記微粒子の前記高分子グラフト鎖間に化学結合が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイ用基板を有することを特徴とするフレキシブルディスプレイ。
【請求項8】
前記高分子グラフト鎖の連鎖成長末端は、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も活性を保持することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルディスプレイ用基板及びフレキシブルディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの各種ディスプレイにおいて、薄型化、軽量化、大画面化、形状の自由度、曲面表示などの特性に優れるフレキシブルディスプレイに注目が集まっており、重くて割れ易いガラス基板の代わりとなる基板の開発が進められている。このフレキシブルディスプレイに用いられる基板(以下、「フレキシブルディスプレイ用基板」という。)には、一般的に、耐熱性、柔軟性及び透明性などの特性が要求される。
【0003】
近年、転写を用いた素子形成技術(例えば、特許文献1)の実用化によって、フレキシブルディスプレイの量産化が実現されている。その一方、転写を用いた素子形成技術では、ガラス基板上に転写用樹脂(例えば、ポリイミドなど)を形成し、一連の工程終了後にレーザーアブレーションなどの方法によってガラス基板から転写用樹脂を剥離するというプロセスが一般に必要である。また、転写用樹脂は、TFT形成工程のプロセス温度(500℃程度)に耐える必要があるため、非常に高価である。これらの要因によって、フレキシブルディスプレイのコストは、従来のガラスを用いたディスプレイよりも高くなってしまう。
【0004】
このような問題を克服するため、印刷法によるTFT形成技術が盛んに検討されている。印刷法によるTFT形成技術では、TFT形成工程のプロセス温度は、従来の方法に比べて大幅に低下させることが可能であるものの、実用に耐え得るTFT特性や配線抵抗を得るためには、少なくとも150℃程度のプロセス温度が必要である。
【0005】
透明ポリイミドや芳香族ポリエーテル樹脂は、耐熱性や透明性などの特性に優れているため、それらのフィルムをフレキシブルディスプレイ用基板として用いることが提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、透明ポリイミドや芳香族ポリエーテル樹脂は、高価であるため、フレキシブルディスプレイの製造コストが上昇するという問題がある。
他方、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの一般的な樹脂フィルムは、高い透明性を有し且つ安価であるが、印刷法によるTFT形成用途に対しても、耐熱性が不十分である。また、一般的な樹脂フィルムは、表面硬度が低いため、フレキシブルディスプレイの基材として用いた場合、傷がつき易いという問題や、樹脂フィルムのリタデーション値が比較的大きいため、ディスプレイの表示品位が低下するなどの問題を有している。
そこで、耐熱性及び表面硬度を改善する方法として、無機粒子を樹脂フィルムに分散させる方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−156523号公報
【特許文献2】特開2010−152004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機粒子は、樹脂フィルムに均一に分散させることが難しい。例えば、無機粒子を含む樹脂フィルムは、無機粒子を含む樹脂材料をフィルム状に成形することによって製造されるところ、樹脂材料中で無機粒子が凝集及び/又は沈殿することがあるため、無機粒子が均一に分散した樹脂フィルムを得ることが難しい。それ故、無機粒子が分散していない部分では耐熱性や表面硬度が十分でないことがある。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、印刷法によるTFT形成工程に対して十分な耐熱性を有し、表面硬度、柔軟性、透明性に優れ、且つリタデーション値も小さい、安価なフレキシブルディスプレイ用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、高分子グラフト鎖が形成された微粒子が前記高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列された自立性フィルムが、フレキシブルディスプレイ用基板として用いるのに適した特性を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、高分子グラフト鎖が形成された微粒子が前記高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列された自立性フィルムからなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印刷法によるTFT形成工程に対して十分な耐熱性を有し、表面硬度、柔軟性、透明性に優れ、且つリタデーション値も小さい、安価なフレキシブルディスプレイ用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例2における自立性フィルムの重合度とガラス転移温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板は、高分子グラフト鎖が形成された微粒子が前記高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列された自立性フィルムからなる。
ここで、本明細書において「高分子グラフト鎖」とは、微粒子表面から重合反応によって伸長して形成された鎖長が2個以上のポリマー鎖を意味し、ポリマーブラシとも称される。
また、本明細書において「微粒子」とは、1μm以下の平均粒子径を有する粒子のことを意味し、微粒子の「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した50%累積粒径のことを意味する。微粒子は、平均粒子径が小さくなるほど、自立性フィルムの透明性を向上させることができる。そのため、微粒子の平均粒子径は、好ましくは1nm〜500nm、より好ましくは3nm〜100nm、さらに好ましくは5nm以上50nm未満、最も好ましくは8nm〜30nmである。
【0012】
本発明に用いられる微粒子としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の微粒子を用いることができる。微粒子の例としては、シリカなどのケイ素化合物;Au、Ag、Pt、Pdなどの貴金属;Ti、Zr、Ta、Sn、Zn、Cu、V、Sb、In、Hf、Y、Ce、Sc、La、Eu、Ni、Co、Feなどの遷移金属、それらの酸化物若しくは窒化物などの無機物質;各種有機物質の微粒子が挙げられる。その中でも、耐熱性及び透明性の観点から、シリカ微粒子を用いることが好ましい。
【0013】
高分子グラフト鎖が形成された微粒子は、リビングラジカル重合による表面グラフト重合法によって形成することができる。この方法を用いることにより、鎖長及び鎖長分布が規制された高分子グラフト鎖を高密度で微粒子の表面に形成することができる。微粒子の表面近傍では、高分子グラフト鎖は、隣接する高分子グラフト鎖間の立体反発により、微粒子の表面に対して垂直な方向に伸長した状態(濃厚ポリマーブラシ状態)となる。微粒子の表面からある程度離れると、高分子グラフト鎖間の立体反発が緩和されるため、高分子グラフト鎖は、濃厚ポリマーブラシ状態に比べて伸張度合が低い状態(準希薄ポリマーブラシ状態)となる。濃厚ポリマーブラシ状態では、高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm
2以上、好ましくは0.1〜1.2本鎖/nm
2となり、準希薄ポリマーブラシ状態では、高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm
2未満、好ましくは0.01本鎖/nm
2以上0.1本鎖/nm
2未満となる。
【0014】
微粒子に形成される高分子グラフト鎖は、濃厚ブラシ状態のみを有していること、すなわち、高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm
2以上であることが好ましい。濃厚ブラシ状態のみの高分子グラフト鎖を有する微粒子を用いることにより、形成される自立性フィルムの耐熱性を向上させることができる。濃厚ブラシ状態のみの高分子グラフト鎖は、重合度を調整することによって得ることができる。
【0015】
ここで、本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応を意味する。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより、任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0016】
本発明に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、原子移動ラジカル重合を行う場合、重合開始剤を微粒子の表面に固定した後、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動ラジカル重合を行うことにより、高分子グラフト鎖が形成された微粒子を得ることができる。
【0017】
重合開始剤を微粒子の表面に固定する方法としては、特に限定されず、例えば、微粒子と重合開始剤とを接触させればよい。
本発明に用いられる重合開始剤としては、微粒子の表面に固定することが可能なものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。本発明において用いるのに好ましい重合開始剤としては、末端にハロゲンを有する化合物であり、例えば、下記の一般式(1)又は(2)で表される化合物を用いることができる。
【0020】
一般式(1)及び(2)中、R1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;mは2〜10、好ましくは3〜8の整数であり;nは3〜10の整数、好ましくは4〜8の整数である。一般式(1)の化合物の具体例としては、2−ブロモ−2−メチル−N−(3−トリエトキシシリル)プロピル)プロパンアミド(BPA)などが挙げられ、一般式(2)の化合物の具体例としては(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)などが挙げられる。
【0021】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するものであり、例えば、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、スチレン誘導体、酢酸ビニル及びアクリロニトリルなどが挙げられる。具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどのアクリレート系モノマー;スチレン、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレン、プロピオン酸ビニル、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなどを用いることができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。
【0023】
高分子グラフト鎖が形成された微粒子の製造にあたり、使用する微粒子、重合開始剤、ラジカル重合性モノマー、ハロゲン化銅、リガンド化合物の量は、それらの種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。また、製造条件も、使用する原料の種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0024】
なお、リビングラジカル重合は、無溶媒で行ってもよいが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、アニソール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの有機溶媒や水が挙げられる。溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0025】
リビングラジカル重合によって形成される高分子グラフト鎖の分子量は、反応温度、反応時間、使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000の高分子グラフト鎖を得ることができる。また、高分子グラフト鎖の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。
【0026】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板として用いられる自立性フィルムは、上記のような特徴を有する高分子グラフト鎖が形成された微粒子を、高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列させた構造を有する。
ここで、本明細書において「自立性フィルム」とは、支持体を用いることなく、単独で形状を十分に保持することが可能なフィルムを意味する。
【0027】
上記のような配列を有する自立性フィルムは、当該技術分野において公知の方法を用いて製造することができる。例えば、溶媒キャスト法を用いる場合、高分子グラフト鎖が形成された微粒子を溶媒に分散させ、その分散液を基板上に塗布して溶媒を蒸発させることで自立性フィルムを形成した後、形成された自立性フィルムを基板から剥離することによって製造することができる。
【0028】
基板としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。基板の例としては、ガラス板、ステンレス板、ステンレスベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが用いられる。これらの基板には、自立性フィルムの剥離性を向上させるために、必要に応じて鏡面加工や表面離型剤処理などを施してもよい。
【0029】
高分子グラフト鎖が形成された微粒子を分散させる溶媒としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル;トルエン;水などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
分散液中の高分子グラフト鎖が形成された微粒子の濃度としては、特に限定されないが、一般に1〜30質量%、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
【0031】
基板に対する分散液の塗布量としては、フレキシブルディスプレイ用基板に適した厚さの自立性フィルムを形成し得る量であれば特に限定されない。また、所望の厚さの自立性フィルムを得るために、分散液の塗布及び溶媒の蒸発を複数回行ってもよい。フレキシブルディスプレイ用基板に適した自立性フィルムの厚さは、一般に0.1〜500μm、好ましくは0.5〜300μm、より好ましくは1〜250μmである。自立性フィルムの厚さが0.1μmよりも薄いと、フレキシブルディスプレイ用基板として使用可能な機械的強度が得られないことがある。一方、自立性フィルムの厚さが500μmを超えると、自立性フィルムの柔軟性及び透明性が損なわれることがある。
【0032】
また、分散液を蒸発させる際の条件については、特に限定されず、分散液に使用する溶媒の種類に応じて適宜調節すればよい。一般的には、溶媒の沸点よりも高い温度に加熱すればよい。
【0033】
上記のようにして製造される自立性フィルムは、高分子グラフト鎖が形成された微粒子を用いているため、自立性フィルム中で微粒子が凝集及び/又は沈殿することなく均一に分散しており、自立性フィルム全体にわたって表面硬度及び耐熱性を均一に向上させることができる。また、この自立性フィルムは、高分子グラフト鎖をベースとするフィルムであるため、柔軟性及び透明性も優れている。
【0034】
自立性フィルムは、互いに隣接する微粒子の高分子グラフト鎖間に化学結合が形成されていてもよい。例えば、リビングラジカル重合に用いるラジカル重合性モノマーとして、光又は熱などの外部刺激によって架橋又は重合する官能基を側鎖に導入したモノマーを用い、自立性フィルムに光又は熱などの外部刺激を与えることで、互いに隣接する微粒子の高分子グラフト鎖間に化学結合を形成することができる。これにより、自立性フィルムの機械的特性を向上させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
平均粒子径が13nmのシリカ微粒子のメチルイソブチルケトン分散液(日揮触媒化成株式会社製、シリカ微粒子含有量40.7質量%)1.6gにエタノール56.8gを加え、超音波ホモジナイザー(日本エマソン株式会社製、Advanced Digital Sonifier 450DA)を用いて室温で3分間攪拌した後、28%アンモニア水4.9gをさらに加え、40℃で2時間攪拌した。この混合液に、エタノール2.7gに溶解した重合開始剤(BPA)0.7gを加え、40℃で18時間攪拌した。次に、この混合液からエバポレータを用いて大半の溶媒を除去した後、水を少量加え、4500rpmで遠心分離を行うことにより、BPAが表面に固定されたシリカ微粒子(以下、「BPA−シリカ微粒子」と略す。)を得た。
【0036】
次に、BPA−シリカ微粒子364.3mgに、MMA9.4g(93mmol)、DMF0.4mL及びアニソール1.3mLを加え、ホモジナイザーを用いて氷浴下で3分間攪拌した。次に、この混合液、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン53.6mg(0.2325mmol)及びCuBr
220.4mg(0.15mmol)を2口フラスコに入れて凍結融解法により脱気した後、CuBr29.0mg(0.296mmol)を加えて窒素置換を行い、40℃で12時間重合反応を行った。反応終了後、混合液をバブリングしてCuを失活させた。次に、メタノール/0.1MのEDTA水溶液の混合溶液(体積比4/1)で再沈殿を3回行うことにより、PMMA鎖が形成されたシリカ微粒子(以下、「PMMA−シリカ微粒子」と略す。)を精製した後、PMMA−シリカ微粒子を80℃で真空乾燥した。
【0037】
PMMA−シリカ微粒子をフッ酸に浸漬し、シリカ部を溶解させることによって分離したPMMA(高分子グラフト鎖)の分子量を、GPC測定装置(日本分光株式会社製LC−2000plus)を用いて評価した。標準試料にはポリスチレンを用い、検出器にはUV検出器を用いた。その結果、数平均分子量が60,100、重量平均分子量(Mw)が77,500であった。
【0038】
次に、トルエン1mLに対してPMMA−シリカ微粒子1mgの割合で混合して分散液を調製し、この分散液を基板上に塗布して120℃に加熱することにより、厚さが100μmの自立性フィルムを得た。
得られた自立性フィルムについて、小角X線散乱(SAXS)測定及び走査型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果、シリカ微粒子は凝集及び/又は沈殿しておらず、均一に分散していることが確認された。
また、得られた自立性フィルムについて、大塚電子製LCD−5200を用い、可視光に対する直線透過率を測定した。その結果、直線透過率は約45%であり、透明性が良好であることが確認された。
また、得られた自立性フィルムは、直径5mmの棒に巻き付けることが可能であり、十分な柔軟性を有していることが確認された。
また、得られた自立性フィルムをクロスニコル状態にある2枚の偏光板間に配置されたステージ上にセットし、ステージを回転させながら観察したところ、自立性フィルムの着色は発生せず、得られた自立性フィルムのリタデーションが極めて小さいことが確認された。
また、得られた自立性フィルムは、シリカ微粒子がフィルム中に高濃度且つ均一に分散しているため、微粒子が分散されていないフィルムや微粒子が不均一に分散されているフィルムよりも表面硬度が高く且つフィルム内でほぼ一定値を示すことが期待できる。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、重合条件を変更し、様々な重合度(230〜1840)のPMMA−シリカ微粒子を作製した。そして、得られたPMMA−シリカ微粒子を用いて、実施例1と同様にして自立性フィルムを作製した。
得られた自立性フィルムについて、示差走査熱量(DSC)測定からガラス転移温度(Tg)を求めた。
なお、比較として、グラフト化していないPMMAから形成される自立性フィルムのガラス転移温度も評価した。その結果を
図1に示す。
図1では、PMMA−シリカ微粒子から形成される自立性フィルムを「グラフトPMMA」、グラフト化していないPMMAから形成される自立性フィルムを「バルクPMMA」と表す。
【0040】
図1に示すように、重合度に関わらず、PMMA−シリカ微粒子から形成される自立性フィルムは、グラフト化していないPMMAから形成される自立性フィルムに比べて、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れていることが確認された。
【0041】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、印刷法によるTFT形成工程に対して十分な耐熱性を有し、表面硬度、柔軟性、透明性に優れ、且つリタデーション値も小さい、安価なフレキシブルディスプレイ用基板を提供することができる。