特許第6479423号(P6479423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479423
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】トルク変動吸収ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20190225BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20190225BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   F16F15/126 B
   F16F15/12 S
   F16H55/36 H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-226934(P2014-226934)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-89988(P2016-89988A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】関根 政勝
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−248689(JP,A)
【文献】 特開2002−005234(JP,A)
【文献】 特開平08−028626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/126
F16F 15/12
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定されるハブにダンパゴムを介して振動リングを連結したダンパ部と、前記ハブにカップリングゴムを介してプーリを連結したカップリング部とを有し、装着時、前記ダンパ部がエンジン側に配置されるとともに前記カップリング部がフロント側に配置されるトルク変動吸収ダンパであって、
前記プーリは、前記カップリングゴムの外周側に配置されるとともに前記カップリングゴムに対し連結された大径筒部と、前記振動リングの外周側に配置されるとともに前記振動リングに対し相対回転可能とされた小径筒部と、前記大径筒部および小径筒部間に設けられた段差部とを一体に有し、
前記振動リングの外周面に、前記段差部が軸方向に係合可能な突起部が設けられ、
前記段差部および突起部の組み合わせにより、前記プーリがフロント側へ脱落しないように抜け止めする抜け止め構造が設けられていることを特徴とするトルク変動吸収ダンパ。
【請求項2】
請求項1記載のトルク変動吸収ダンパにおいて、
前記プーリの小径筒部と前記振動リングとの間にラジアルベアリングが介装されていることを特徴とするトルク変動吸収ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ部およびカップリング部を有するトルク変動吸収ダンパ(DDU)に関する。本発明のトルク変動吸収ダンパは例えば、エンジンのクランクシャフトに装着され、またはその他の回転軸に装着される。
【背景技術】
【0002】
従来から図2に示すトルク変動吸収ダンパ51が知られており、このトルク変動吸収ダンパ51は、回転軸に固定されるハブ52にダンパゴム62を介して振動リング63を連結したダンパ部61と、ハブ52にカップリングゴム72を介してプーリ73を連結したカップリング部71とを有し、装着時、ダンパ部61がエンジン側Eに配置されるとともにカップリング部71がフロント側Fに配置される構成とされている。前者のダンパ部61は、回転軸の捩り振動を低減しようとするダンパ機能を発揮し、後者のカップリング部71は、回転軸の回転変動をベルトに対して絶縁しようとするカップリング機能を発揮する(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、後者のカップリング部71については、クランキング等で共振点を通過する際に非常に大きなゴム歪が発生する。また、エンジンのアイドリング中にカップリングの共振を避けるためには、極力ゴムを柔らかく設定する必要がある。これらにより、クランキングにおけるゴム歪は大きくなる傾向がある。したがってこの大きなゴム歪によりカップリングゴム72が破断するようなことがあると、プーリ73がフロント側Fへ飛び出し(矢印T)、周辺機器に衝突するなどして、重大な事故を引き起こす虞がある。
【0004】
尚、他の従来技術として図3に示すように、カップリングゴム72が破断してもプーリ73がフロント側Fへ飛び出すことがないようプーリ73に、振動リング63に対し軸方向に係合するストッパ部品74を取り付けることが考えられているが、この場合には専用のストッパ部品74を必要とするため、部品点数が増大し、組立てに手間がかかる不都合がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−226509号公報(図5
【特許文献2】特開2010−77996号公報(図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、カップリングゴムが破断してもプーリがフロント側へ飛び出すのを防止することができ、しかも専用のストッパ部品を用いることなくプーリがフロント側へ飛び出すのを防止することができるトルク変動吸収ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるトルク変動吸収ダンパは、回転軸に固定されるハブにダンパゴムを介して振動リングを連結したダンパ部と、前記ハブにカップリングゴムを介してプーリを連結したカップリング部とを有し、装着時、前記ダンパ部がエンジン側に配置されるとともに前記カップリング部がフロント側に配置されるトルク変動吸収ダンパであって、前記プーリは、前記カップリングゴムの外周側に配置されるとともに前記カップリングゴムに対し連結された大径筒部と、前記振動リングの外周側に配置されるとともに前記振動リングに対し相対回転可能とされた小径筒部と、前記大径筒部および小径筒部間に設けられた段差部とを一体に有し、前記振動リングの外周面に、前記段差部が軸方向に係合可能な突起部が設けられ、前記段差部および突起部の組み合わせにより、前記プーリがフロント側へ脱落しないように抜け止めする抜け止め構造が設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2によるトルク変動吸収ダンパは、上記した請求項1記載のトルク変動吸収ダンパにおいて、前記プーリの小径筒部と前記振動リングとの間にラジアルベアリングが介装されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成を備える本発明のトルク変動吸収ダンパにおいては、カップリングゴムが破断しても、プーリに設けられた段差部が振動リングに設けられた突起部に対し軸方向に係合するため、プーリがフロント側へ飛び出すのを防止することが可能とされる。段差部はプーリに設けられ、突起部は振動リングに設けられ、プーリおよび振動リングは何れも既存の部品であるため専用のストッパ部品を用いる必要がなく、よって専用のストッパ部品がなくてもプーリがフロント側へ飛び出すのを防止することが可能とされる。
【0010】
また、本発明では、プーリに小径筒部が設けられ、この小径筒部が振動リングの外周側に配置され相対回転するため、このプーリの小径筒部と振動リングとの間にラジアルベアリングを介装することが考えられ、このようにベアリングを介装すると相対回転時に摺動摩擦が発生する。したがってこの摺動摩擦によって、回転軸に生起される捩れ振動に対する減衰効果を発揮することが可能とされ、またこれに付随して、ダンパ部に設定する慣性質量の大きさを小さく設定することが可能とされる。
【0011】
また、カップリング部については、プーリのフロント側内径を大きく取ることで、カップリングゴムの径方向寸法を長く設定することが可能とされるため、これによりカップリングの捩れに対するゴムの歪率を緩和し、耐久性を向上させることが可能とされる。
【0012】
また、本発明によれば、装着時にダンパ部がエンジン側に配置されるため、ダンパゴムが破断しても、振動リングがフロント側へ飛び出すのも防止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0014】
すなわち本発明においては以上説明したように、カップリングゴムが破断してもプーリがフロント側へ飛び出すのを防止することができ、しかも専用のストッパ部品を用いることなくプーリがフロント側へ飛び出すのを防止することができる。また、プーリの小径筒部と振動リングとの間にラジアルベアリングを介装する場合には摺動摩擦による振動減衰効果が発揮されるため、ダンパ部にかかる負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例に係るトルク変動吸収ダンパの半裁断面図
図2】従来例に係るトルク変動吸収ダンパの半裁断面図
図3】他の従来例に係るトルク変動吸収ダンパの半裁断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るトルク変動吸収ダンパ1を示し、当該実施例に係るダンパ1は以下のように構成されている。
【0018】
すなわち当該ダンパ1は、回転軸(クランクシャフト、図示せず)の外周に固定されるハブ2にダンパゴム12を介して振動リング(慣性質量体)13を連結したダンパ部(ダイナミックダンパ部)11と、ハブ2にカップリングゴム22を介してプーリ23を連結したカップリング部21とを有し、回転軸への装着時、前者のダンパ部11がエンジン側Eに配置されるとともに後者のカップリング部21がフロント側(反エンジン側)Fに配置される。エンジン側Eにはエンジンカバー31が配置される。
【0019】
ハブ2は、回転軸への装着時に取付け用のボス部とされる第1筒部(内周筒部)2aを有し、この第1筒部2aのフロント側(軸方向一方)Fの端部から径方向外方へ向けて端面部(立ち上がり部)2bが一体成形され、端面部2bの径方向中ほどからフロント側Fへ向けて第2筒部2cが一体成形され、端面部2bの外周端部からエンジン側(軸方向他方)Eへ向けて第3筒部(外周筒部)2dが一体成形されている。
【0020】
ハブ2の第3筒部2dの外周側にダンパゴム12が嵌合され、ダンパゴム12の外周側に振動リング13が嵌合され、これらハブ2、ダンパゴム12および振動リング13によって上記ダンパ部11が構成されている。一方、ハブ2の第2筒部2cの外周側にカップリングゴム22が嵌合され、カップリングゴム22の外周側にプーリ23が嵌合され、これらハブ2、カップリングゴム22およびプーリ23によって上記カップリング部21が構成されている。カップリングゴム22はその外周面にスリーブ24を加硫接着され、このスリーブ24を介してプーリ23と連結されているが、プーリ23と直接連結されるものであっても良い。
【0021】
プーリ23は、カップリングゴム22の外周側に配置されるとともにカップリングゴム22に対し連結された比較的大径の大径筒部23aと、振動リング13の外周側に配置されるとともに振動リング13に対し相対回転可能とされた比較的小径の小径筒部23bとを一体に有し、小径筒部23bの外周面に無端ベルト(図示せず)を巻架するためのプーリ溝23cが設けられ、また大径筒部23aと小径筒部23bの間に環状の段差部23dが設けられている。
【0022】
また、振動リング13の外周面に、上記プーリ23がフロント側Fへ移動したときに段差部23dが係合可能な突起部13aが設けられ、この段差部23dおよび突起部13aの組み合わせによって、プーリ23がフロント側Fへ脱落しないように抜け止めする抜け止め構造3が設けられている。
【0023】
突起部13aは、プーリ23の大径筒部23aの内周側においてカップリングゴム22および段差部23d間に非接触で配置され、環状に成形され、大径筒部23aの内径寸法をd、小径筒部23bの内径寸法をd、突起部13aの外径寸法をdとして、d>d>dの関係に設定され、これによりプーリ23がフロント側Fへ移動したときに段差部23dが突起部13aに係合することによりプーリ23がフロント側Fへ脱落しないように抜け止めする抜け止め構造3が設けられている。
【0024】
また、プーリ23の小径筒部23bと振動リング13との間に、環状筒状の樹脂材料等よりなるラジアルベアリング4が介装されている。
【0025】
上記構成を備えるトルク変動吸収ダンパ1においては上記したように、プーリ23に設けた段差部23dと、振動リング13に設けた突起部13aとの組み合わせよりなる抜け止め構造3が設けられているため、カップリングゴム22が万一破断してもプーリ23がフロント側Fへ飛び出すのを防止することができ、しかも専用のストッパ部品を用いることなくプーリ23がフロント側Fへ飛び出すのを防止することができる。
【0026】
尚、プーリ23はエンジンカバー31に突き当たるため、プーリ23がエンジン側Eへ飛び出すことはない。また、プーリ23の大径筒部23aの内周側に嵌合したスリーブ24の内径寸法を突起部13aの外径寸法より小さく設定することにより、ここにプーリ23がエンジン側Eへ脱落しないように抜け止めする第2の抜け止め構造を設けることも考えられる。
【0027】
また、上記構成を備えるダンパ1においては、プーリ23の小径筒部23bと振動リング13との間にラジアルベアリング4が介装されているため、相対回転時に摺動摩擦が発生する。したがってこの摺動摩擦によって、回転軸に生起される捩れ振動に対する減衰効果を発揮することが可能とされ、またこれに付随して、ダンパ部11に設定する慣性質量の大きさを小さく設定することが可能とされる。
【0028】
また、カップリング部21においては、プーリ23のフロント側内径寸法(大径筒部23aの内径寸法)を大きく取ることで、カップリングゴム22の径方向寸法を長く設定することが可能とされるため、これによりカップリングの捩れに対するカップリングゴム22の歪率を緩和し、耐久性を向上させることが可能とされる。
【符号の説明】
【0029】
1 トルク変動吸収ダンパ
2 ハブ
2a,2c,2d 筒部
2b 端面部
3 抜け止め構造
4 ベアリング
11 ダンパ部
12 ダンパゴム
13 振動リング
13a 突起部
21 カップリング部
22 カップリングゴム
23 プーリ
23a 大径筒部
23b 小径筒部
23c プーリ溝
23d 段差部
24 スリーブ
31 エンジンカバー
E エンジン側
F フロント側
図1
図2
図3