(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンとし、前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量が25〜45μmであり、かつ、前記水性ボールペン用インキ組成物が、少なくとも水、着色剤、球状有機樹脂粒子、剪断減粘性付与剤からなり、前記球状有機樹脂粒子が水素結合性官能基と、複素環構造を有し、さらに重量平均分子量が20000〜120000であるデキストリンを含んでなり、デキストリンの含有量が、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%であり、前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec−1において、5000mPa・s以下であることを特徴とする水性ボールペン。
前記水性ボールペン用インキ組成物に、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸塩から選ばれる1種以上の界面活性剤を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の特徴は、少なくとも水、着色剤、平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子、剪断減粘性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物であって、前記有機樹脂粒子が水素結合性官能基を有し、前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec
−1において、5000mPa・s以下であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物とすることである。
【0012】
本発明では、平均粒子径が15μ m以下であり、水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子を含有することが重要である。これは、平均粒子径が15μ m以下である有機樹脂粒子とすることで、前記ボールとチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制することを可能とし、さらに、前記有機樹脂粒子は、無機物と比較して硬度が低いことから、粒子同士が一部変形などして、お互い密着することで、微弱な凝集構造を形成し、インキ漏れを抑制する。さらに、前記有機樹脂粒子が水素結合性官能基を有することで、前記有機樹脂粒子表面の水素結合により、凝集構造を生じることにより、静置時のインキ漏れに対しての抵抗作用の高い構造をインキ中で形成することで、高いインキ漏れ抑制を可能とすると推定する。
【0013】
また、前記平均粒子径が15μ m以下であり、水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子は、微弱な凝集により形成された構造のため、筆記時にはボールの回転などの物理作用により凝集構造は解砕されるため、筆記時のインキ流動性を阻害することなく、良好に筆記することで、濃い筆跡を得ることが可能である。さらに、前記平均粒子径が15μm以下である水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子は、ボールとボール座との間に入り込み、直接接触しづらくするため、ボールの回転抵抗を緩和し、ボール座の摩耗を抑制することが可能である。
【0014】
インキ粘度については、20℃環境下、剪断速度1.92 sec
-1で、インキ粘度は、5000mPa・s以下にすることが良い、5000mPa・ sを越えると、ボール座の摩耗抑制や書き味が劣りやすく、さらにインキ吐出量が少なく、濃い筆跡や良好な筆跡が得られないためである。また、前記インキ粘度が1000mPa・s未満だと、インキ粘度が低過ぎて、インキ漏れを抑制しづらいため、前記インキ粘度は、1000〜5000mPa・sが好ましい。より考慮すれば、1500〜3500mPa・ sが好ましい。
そのため、平均粒子径が15μ m以下である水素結合の官能基を有する有機樹脂粒子を含有し、かつ、インキ粘度については、20℃環境下、剪断速度1.92sec
-1で、インキ粘度は、5000mPa・s以下にすることが重要である。
【0015】
前記水素結合性官能基としては、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基などが挙げられる。その中でもアミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基の中から1種以上を有する有機樹脂粒子を用いることが好ましい。
これは、水素結合力としてはスルホン酸基、リン酸基などよりも劣るものの、微弱な水素結合により凝集構造を形成することにより、インキ漏れ抑制効果が得られるとともに、水素結合力が微弱なことから、筆記時のボールの回転などにより容易に凝集構造が解砕しやすいためである。このため、静置時のインキ漏れ抑制効果だけでなく、書き出し性能や書き味などの筆記性能の向上を両立させる効果が得られるためである。さらに、その中でも、アミノ基及び/またはイミノ基を有する平均粒子径が15μm以下である有機樹脂粒子が好ましい、これは、アミノ基及び/またはイミノ基を有すると、安定な凝集構造を長期間とりやすく、インキ漏れを抑制しやすいためである。なお、アミノ基、イミノ基の官能基を有する含窒素樹脂粒子としては、3級アミン、4級アミンなども含むものとする。
【0016】
さらに、アミノ基及び/またはイミノ基を有する窒素樹脂粒子の中でも、架橋構造を有する含窒素樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、架橋構造を有すると、強度、耐熱性、耐溶剤性などに特に優れるため水性インキ中での吸湿などもせずに安定しているため、経時安定性に優れるため好ましい。さらに前記含窒素樹脂粒子自体の安定性と、含窒素樹脂粒子間の相互的な水素結合性により、長期間凝集構造をとりやすく、インキ漏れを安定して抑制しやすいためある。特に、架橋構造を有する含窒素樹脂粒子中でも、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂などの複素環構造を有する樹脂粒子は、より吸湿しづらく、安定しているため、好ましい。
【0017】
前記水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子について、アミノ基、イミノ基を有するものは、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂などの含窒素樹脂粒子などや、カルボキシル基を有するものは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸、スチレン、エチレン、プロピレンなどの各種重合性モノマーから成る単重合または共重合体の重合性樹脂、カルボン酸変性などの変性処理をされたオレフィン樹脂などや、水酸基を有するものとしては、セルロース樹脂やその誘導体などが挙げられる。これらの有機樹脂粒子は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0018】
前記有機樹脂粒子については、平均粒子径が小さい方が、お互い密着して、微弱な凝集構造をとりやすく、インキ漏れを抑制しやすいため、10μm以下が好ましく、さらに、6μ m以下が好ましく、ボールの回転抵抗を緩和し、ボール座の摩耗を抑制することを考慮すれば、より平均粒径が小さい3μm以下が好ましい。さらに、最も好ましくは 1μm以下が好ましい。これは、粒子径が微小化すると、筆記時のボールの回転などにより凝集構造が解砕されやすいため、書き出し性能や書き味などの筆記性能を向上する傾向にある。また、水素結合による凝集構造を形成することから、粒子自体が比較的小さくても巨視的な凝集構造を形成しやすいため、より細かい粒子径を用いても優れたインキ漏れ抑制効果を得ることができる。また、平均粒子径は、レーザー回折法(MICROTRAC9320-X100 Honeywell製)による体積基準法によって求められる。
【0019】
前記有機樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでも良い。
【0020】
また、前記有機樹脂粒子については、具体的には、エポスター S6(メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径0.3〜0.6μm)、同 S(メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径0.1〜0.3μm)、同 S12(メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径1〜2μm)、同 MS(ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径1〜3μm)、同 M30(ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合粒子、平均粒子径2.5〜4μm)(以上(株)日本触媒製)、ナイロン SP-500(ナイロン樹脂粒子、平均粒子径5μm) ((株)東レ製)、Orgasol2001− UD−NAT− 1(ナイロン樹脂、平均粒子径5μm)、同2001−EXD− NAT−1(ナイロン樹脂、平均粒子径10μm)、同3501−EXD− NAT− 1(ナイロン樹脂、平均粒子径10μm)(以上アルケマ(株)製)、MW-330(ナイロン樹脂、平均粒子径7μm)(住化エンバイロメンタルサイエンス(株)製)、FS−102(平均粒子径0.1μm、スチレン・アクリル樹脂)、FS−106(平均粒子径0.1μm、アクリル樹脂)、FS−107(平均粒子径0.1μm、アクリル樹脂)、FS−201(平均粒子径0.5μm、スチレン・アクリル樹脂)、FS−301(平均粒子径1.0μm、スチレン・アクリル樹脂)、FS−501(平均粒子径0.5μm、アクリル樹脂)、FS−701(平均粒子径0.1μm、フッ素系アクリル樹脂)、MG−351(平均粒子径1.0μ m、スチレン・アクリル樹脂)(以上日本ペイント(株)製)、スミカフレックス951HQ(平均粒子径0.8μm、アクリル樹脂粒子)、スミフィットCK 1D(平均粒子径0.1μm、アクリル樹脂粒子)(以上スミカケムテックス(株))、ケミパールS300(平均粒子径0.5μm、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂粒子)、ケミパールSA100(平均粒子径1μm、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂粒子)(以上三井化学(株)製)、アートパールC-600TH(平均粒子径10μm、水酸基付与ウレタン樹脂粒子))((株)根上工業製)、DispersEZ−300(平均粒子径0.3μm、水酸基変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子)(テクノケミカル(株)製)、CELLULOBEADS USF(平均粒子径4μm、セルロース粒子)(大東化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0021】
また、前記有機樹脂粒子の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%がより好ましい。これは、前記有機樹脂粒子の含有量が、0.1質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、10.0質量%を越えると、凝集構造が強くなりやすく、書き味やドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1〜5.0質量%が好ましく、最も好ましくは、0.3〜3.0質量%が好ましい。
【0022】
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、マイクロカプセル、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。これらの顔料および染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0023】
それらの着色剤の中でも、平均粒子径が1μm以下である顔料粒子を用いることが好ましい。これは、本発明のように、前記水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子を用いる場合は、前記有機樹脂粒子同士が密着し、前記水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子間に隙間が発生した場合、インキ漏れに影響を及ぼすこともあるので、平均粒子径が1μm以下である顔料粒子によって、前記隙間を埋めることで、インキ漏れ抑制効果がより得られやすいためであり、より考慮すれば、平均粒子径が0.5μm以下である顔料粒子が好ましい。さらに、顔料粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状顔料粒子が好ましく、より好ましくは、球状の顔料樹脂粒子である。ここでいう球状顔料粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の顔料粒子や、略楕円球状の顔料粒子などでも良い。
また、顔料粒子の平均粒子径は、レーザー回折法( MICROTRAC9320-X100 Honeywell製)による体積基準法によって求められる。
【0024】
また、前記有機樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/ X<2.0の関係であることが好ましい、これは、前記有機樹脂粒子同士が密着した時に、前記有機樹脂粒子間に隙間が発生した時に、該隙間を埋めづらく、インキ漏れに影響が出やすいためである。より考慮すれば、Y/X<1.5の関係であることが好ましく、最も好ましくは、0.05<Y/X<1.0である。
【0025】
また、インキ漏れを抑制するために、デキストリンを用いることが好ましい、これは、デキストリンを用いることで、ペン先のインキが乾燥時に、皮膜を形成することで、ボールとチップ先端の内壁との間の隙間よりインキ漏れ抑制効果が得られためである。
【0026】
また、デキストリンの重量平均分子量については、5000〜120000がより好ましい。重量平均分子量が120000を超えると、ペン先に形成される皮膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がカスレやすい傾向があり、一方、重量平均分子量が5000未満だと、吸湿性が高くなりやすく、ペン先に皮膜が柔らかくなりやすく、インキ漏れ抑制効果を十分に得られづらい傾向があるためである。さらに、重量平均分子量が20000より小さいと、皮膜が薄くなりやすい傾向があるため、重量平均分子量が、20000〜120000が最も好ましい。
【0027】
デキストリンの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、インキ漏れの効果が十分得られない傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ中で溶解しづらい傾向があるためである。よりインキ中の溶解性について考慮すれば、0.1〜3.0質量%が好ましく、よりインキ漏れについて考慮すれば、1.0〜3.0質量%が、最も好ましい。
【0028】
また、水分の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を考慮し、水溶性溶剤を用いる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール溶剤、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。その中でも、本発明で用いる前記樹脂粒子との溶解安定性を考慮すれば、多価アルコール溶剤を用いる方が好ましい。多価アルコール溶剤とは、二個以上の水酸基が脂肪族あるいは脂環式化合物の相異なる炭素原子に結合した化合物である溶剤であり、その中でも、2価または3価の水酸基を有する多価アルコールを少なくとも含有することが、最も好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
水溶性溶剤の含有量については、溶解性、水分蒸発乾燥防止、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜25.0質量%が好ましいが、本発明のようにインキ漏れを考慮すれば、10.0質量%以下が好ましい、これは、溶剤による極性によって、有機樹脂粒子同士の水素結合を阻害し凝集構造が崩れやすくなる傾向があるためである。前記有機樹脂粒子によるインキ漏れ抑制効果に影響しやすく、より考慮すれば、5.0質量以下%が好ましい。
【0030】
また、潤滑性を向上することで、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするために、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩などを用いることが好ましい。特に、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いる方が、好ましい。これは、リン酸基が金属吸着することで、より潤滑性を向上して、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするためである。リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系、ヘキサノール系等が上げられる。この中でも、フェニル骨格を有すると立体障害により潤滑性に影響が出やすいため、フェニル骨格を有さないリン酸エステル系界面活性剤を用いる方が、好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0031】
また、リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA212C(トリデシルアルコール系)、同A208B(ラウリルアルコール系)、同A213B(ラウリルアルコール系)、同A208F(短鎖アルコール系)、同A215C(トリデシルアルコール系)、同A219B(ラウリルアルコール系)等が挙げられる。また、脂肪酸塩の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR−14、FR−25(花王(株))等が挙げられる。これ等のリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0032】
また、顔料粒子を用いてより濃い筆跡とするには、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸塩から選ばれる1種以上の界面活性剤を用いることが好ましい。これは、紙に対する浸透性が向上することで、顔料粒子が、紙面上に残り、より濃い鮮明な筆跡が得られるやすいためである。そのため、前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量を15μm以上として、インキ吐出量を多くする仕様の場合、前記界面活性剤を用いることで、より濃い鮮明な筆跡が得られやすい。その中でも、フッ素系界面活性剤を用いるのが好ましい、これは、前記フッ素系界面活性剤は、最も表面張力を低減することが可能で、紙への浸透性も向上しやすいため、濃い筆跡が得られやすいからである。
【0033】
また、シリコーン系界面活性剤は、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、親水性特殊変性、フッ素変性、ジメチル、メチルフェニルなどのシリコーンオイル等が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロ基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親水性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられる。その中でも、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物を用いるのが好ましい。これは、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物のフッ素系界面活性剤は、より濃い筆跡になり易くすることが可能なため、好ましく用いることができる。さらに、エチレンオキシド基があると、親水性が強くなるため、水に対して溶解しやすく、経時安定性が安定する傾向にあることも挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0034】
また、インキ粘度調整剤として剪断減粘性付与剤を用いることが好ましいが、具体的には、架橋型アクリル酸重合体、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ−カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガム等が挙げられ、これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0035】
その他の添加剤は、所望により添加剤を含有することができる、具体的には、着色剤の経時安定性やさらに潤滑性を向上させるためにpH調整剤や、アクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン系樹脂エマルジョンなどの定着剤、酸性樹脂などの顔料分散剤、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防菌剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0036】
また、インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンとして、濃い筆跡を得るために、前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量を15μ m以上として、インキ吐出量を多くすることが好ましいが、本発明のように、樹脂粒子を用いると、凝集により形成された構造を生じることにより、インキ漏れに対しての抵抗作用の高い構造をインキ中で形成することで、高いインキ漏れ抑制できるので、効果的である。
【0037】
また、前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量については、50μmを越えると、インキの漏れを抑制しづらいため、15〜50μmが好ましく、インキ吐出量を増やして、ボール座の摩耗抑制や書き味の向上や、濃い筆跡にしやすくするには、20μm以上が好ましいため、20〜50μmが好ましく、さらに考慮すれば、25〜45μmが好ましい。前記ボールペンチップのボールの軸方向への移動量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。
【0038】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
顔料分散体(着色樹脂粒子:平均粒子径0.4μm、固形分量34%)20.0質量部
水 58.7質量部
水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子(エポスターS6:平均粒子径0.6μm)
1.0質量部
多価アルコール(グリセリン) 10.0質量部
デキストリン(重量平均分子量:100000) 1.0質量部
尿素 5.0質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 2.0質量部
エチレンジアミン四酢酸(EDTA) 0.5質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
剪断減粘性付与剤(サクシノグリカン) 0.3質量部
【0039】
顔料分散体、水、水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子、多価アルコール溶剤、デキストリン、尿素、pH調整剤、エチレンジアミン四酢酸、潤滑剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。
【0040】
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV−II粘度計( CPE−42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec
−1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1600mPa・sであった。
【0041】
実施例2〜20
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜20の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0042】
比較例1〜5
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で比較例1〜5の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
【表4】
【0043】
試験および評価
実施例1〜20及び比較例1〜5で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボール径が0.7mmのボールを回転自在に抱持し、コイルスプリングなどの弾発部材を具備したボールペンチップ(ボールペンチップのボールの軸方向の移動量30μm)をチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したレフィル(1.0g)を(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G−knock)に装着して、以下の試験および評価を行った。
耐摩耗試験(ボール座の摩耗抑制)、書き味の評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。
【0044】
インキ漏れ試験:40gの重りをゲルインキボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールが、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。
インキ漏れ量が5mg未満であるもの ・・・◎
インキ漏れ量が5〜15mgであるもの ・・・○
インキ漏れ量が15mgを越えて、30mg未満のもの・・・△
インキ漏れ量が30mg以上のもの ・・・×
【0045】
耐摩耗試験:荷重100gf、筆記角度65°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が10μ m未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が10〜20μ mのもの ・・・○
ボール座の摩耗が20〜30μ mを越えるもの ・・・△
ボール座の摩耗が30μ mを越えるもの ・・・×
【0046】
筆跡の濃さ:手書きにより筆記した筆跡を観察した。
濃く鮮明な筆跡であるもの ・・・◎
濃い筆跡であるもの ・・・○
実用上問題ない濃さの筆跡であるもの ・・・△
薄い筆跡のもの ・・・×
【0047】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0048】
表の結果より、実施例1〜20では、インキ漏れ試験、耐摩耗試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。尚、実施例1〜20の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、コイルスプリングなどの弾発部材を具備しないボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、耐摩耗試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。
【0049】
さらに、実施例1〜20の水性ボールペン用インキ組成物を用いて、ボール径を1.0mmとしたボールペンチップ仕様に変更したゲルインキボールペンで試験したところ、インキ漏れ試験、耐摩耗試験、筆跡の濃さ、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。 そのため、ボール径が0.9mm以上のボールを用いて、インキ吐出量を多くする場合では、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間が大きく、インキ漏れの影響が発生しやすいが、本発明の効果は顕著であり、好適に用いられる。
【0050】
表の結果より、比較例1〜5では、水素結合性官能基を有する樹脂粒子を用いなかったため、実用上問題となるレベルであった。
【0051】
一般的に水性ゲルボールペンのボールペンチップは、インキ漏れ抑制するために、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖してあるが、本発明のようにインキの漏れ出しを抑制効果が特段に高い水性ボールペン用インキ組成物を用いると、前記コイルスプリングなどの弾発部材がなくても、インキ漏れを抑制できる。そのため、ボールと弾発部材との抵抗がなくなり、書き味が向上し、インキの流動性も向上することで、インキ追従性も向上し、さらに部品点数の低下に繋がり、コストを抑制することが可能となり、より効果的である。特に、出没式等のボールペンでは、インキ漏れの抑制については、より重要視されているので、好適に用いることが可能である。