特許第6479551号(P6479551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479551
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】温度調整システム
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/005 20060101AFI20190225BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20190225BHJP
   F24F 1/04 20110101ALI20190225BHJP
【FI】
   A41D13/005 106
   F24F5/00 L
   F24F5/00 102C
   F24F1/04
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-87752(P2015-87752)
(22)【出願日】2015年4月22日
(65)【公開番号】特開2016-204781(P2016-204781A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103921
【氏名又は名称】オリオン機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】中根 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】太田 浩一
【審査官】 ▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−333602(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3193039(JP,U)
【文献】 特開平06−127488(JP,A)
【文献】 特開平10−072707(JP,A)
【文献】 実開昭48−103211(JP,U)
【文献】 特開平06−092295(JP,A)
【文献】 特開2001−115315(JP,A)
【文献】 実開昭49−021743(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00−13/12
F24F 1/04
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防塵服と、冷凍サイクルを有して前記防塵服の内側の温度を調整する温度調整装置とを備え、
前記温度調整装置は、前記冷凍サイクルの圧縮機および蒸発器が前記防塵服の前記内側に配設されて当該蒸発器によって当該防塵服の当該内側を冷却可能に構成されると共に、前記冷凍サイクルの凝縮器が前記防塵服の外表面に配設されて大気との熱交換によって当該冷凍サイクルの冷媒を凝縮可能に構成されている温度調整システム。
【請求項2】
前記温度調整装置は、前記防塵服の前記内側に配設されて前記冷凍サイクルを可動させるためのバッテリーを備えている請求項1記載の温度調整システム。
【請求項3】
熱媒液を案内する導管が配設された中着を備え、
前記温度調整装置は、前記防塵服の前記内側に配設されて前記導管が接続されると共に前記蒸発器によって前記熱媒液を冷却可能に構成された熱交換器と、前記防塵服の前記内側に配設されて前記熱媒液を循環させるポンプとを備えている請求項1または2記載の温度調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防塵服内の温度を調整可能な温度調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の特許文献には、冷却塩水等の媒質(以下、「熱媒液」ともいう)を案内する導管が内蔵された衣服と、潜熱貯臓器および液体ポンプを有して熱媒液の温度を調整して圧送可能な温度調整装置(同文献において「空調機器」と称されている装置)とを備え、温度調整装置によって温度調整した熱媒液を衣服(導管)に供給することによって衣服内(衣服の着用者)の温度を調整可能に構成された温度調整システムの発明が開示されている。
【0003】
この場合、上記の温度調整装置における潜熱貯臓器は、潜熱貯臓媒質としての水や氷を貯蔵可能な貯臓器ハウジング(以下、単に「ハウジング」ともいう)を備え、ハウジング内の潜熱貯臓媒質との熱交換によって熱媒液を冷却することができるように構成されている。これにより、この温度調整システムでは、衣服内の導管と潜熱貯臓器との間で液体ポンプによって熱媒液を循環させることにより、衣服内(衣服の着用者)を冷却することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−537458号公報(第5−11頁、第1−5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の温度調整システムには、以下の解決すべき問題点が存在する。すなわち、従来の温度調整システムでは、衣服(導管)に供給する熱媒液をハウジング内の潜熱貯臓媒質との熱交換によって冷却する構成が採用されている。この場合、潜熱貯臓媒質として水を使用したときには、熱媒液との熱交換によってハウジング内の水が短時間で温度上昇してしまうため、衣服(導管)に対して充分に冷却した熱媒液を長時間に亘って供給するのが困難となっている。一方、潜熱貯臓媒質として氷を使用することにより、水を使用したときよりも長い時間に亘って熱媒液を冷却し続けることが可能となるものの、熱媒液との熱交換によってハウジング内の氷が短時間で溶融してしまうため、充分に冷却した熱媒液を充分に長い時間に亘って供給するのが依然として困難となっている。
【0006】
また、大量の潜熱貯臓媒質を貯蔵しておくことで、充分に冷却した熱媒液を充分に長い時間に亘って供給することが可能となるが、かかる場合には、大量の潜熱貯臓媒質を貯蔵可能な大型のハウジングを搭載する必要が生じ、温度調整装置を装着した利用者の軽快な動作が阻害されるだけでなく、潜熱貯臓媒質を含む温度調整装置全体の重量が増加する分だけ、利用者に大きな負担が掛かることとなる。
【0007】
そこで、出願人は、上記の温度調整における温度調整装置を改良して、潜熱貯臓器に代えて冷凍サイクルの蒸発器によって熱媒液を冷却する構成を採用した温度調整システムを開発した。出願人が開発した温度調整システムによれば、ある程度の蓄電容量のバッテリーを搭載することで冷凍サイクルの圧縮機を充分に長い時間に亘って動作させ続けることができるため、蒸発器によって熱媒液を長時間に亘って冷却することができる結果、大量の潜熱貯臓媒質を携行することなく、充分に冷却した熱媒液を充分に長い時間に亘って衣服(導管)に供給することが可能となる。
【0008】
この場合、この種の温度調整システムは、例えば、粉塵が舞う環境下で作業する者が防塵服を着用する際に防塵服内を冷却するのに有効利用することができる。このような利用形態においては、導管が配設された衣服を着用し、その上から防塵服を着用することで防塵服内を冷却することとなるが、出願人が開発した温度調整システムでは、大気との熱交換によって冷媒を冷却して凝縮させるための凝縮器を防塵服の外に配置する必要があることから、温度調整装置を防塵服の外に配置し、この温度調整装置によって冷却した熱媒液を防塵服内の衣服(導管)に供給することとなる。
【0009】
一方、防塵服を装着した状態での作業が完了したときには、例えば高圧洗浄機(高圧の水を噴射して付着物を除去する洗浄機)を使用して防塵服等に付着している汚れを除去する必要が生じることがある。この場合、防塵服に付着している汚れを除去する際には、汚れの除去が完了するまで防塵服を脱ぐことができないため、防塵服内の衣服(導管)に接続されて防塵服の外側に配設された温度調整装置と共に防塵服を洗浄することとなる。
【0010】
この際に、大気との熱交換によって冷媒を凝縮させる凝縮器は、防塵服と同様に汚れが付着しているため、高圧洗浄機によって防塵服と共に汚れを除去するのが好ましい。しかしながら、圧縮機(圧縮機における電動機)については、水分が付着することで故障を招くおそれがあるため、防塵服等の洗浄に際して水分が付着しないように配慮する必要がある。このため、出願人が開発した温度調整システムでは、作業完了後の洗浄作業が煩雑となっており、この点を改善するのが好ましい。
【0011】
本発明は、かかる改善すべき課題に鑑みてなされたものであり、充分に長い時間に亘って防塵服内の温度を調整可能としつつ、高圧洗浄機等によって防塵服等を容易に洗浄し得る温度調整システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、請求項1記載の温度調整システムは、防塵服と、冷凍サイクルを有して前記防塵服の内側の温度を調整する温度調整装置とを備え、前記温度調整装置は、前記冷凍サイクルの圧縮機および蒸発器が前記防塵服の前記内側に配設されて当該蒸発器によって当該防塵服の当該内側を冷却可能に構成されると共に、前記冷凍サイクルの凝縮器が前記防塵服の外表面に配設されて大気との熱交換によって当該冷凍サイクルの冷媒を凝縮可能に構成されている。
【0013】
請求項2記載の温度調整システムは、請求項1記載の温度調整システムにおいて、前記温度調整装置は、前記防塵服の前記内側に配設されて前記冷凍サイクルを可動させるためのバッテリーを備えている。
【0014】
請求項3記載の温度調整システムは、請求項1または2記載の温度調整システムにおいて、熱媒液を案内する導管が配設された中着を備え、前記温度調整装置は、前記防塵服の前記内側に配設されて前記導管が接続されると共に前記蒸発器によって前記熱媒液を冷却可能に構成された熱交換器と、前記防塵服の前記内側に配設されて前記熱媒液を循環させるポンプとを備えている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の温度調整システムによれば、温度調整装置における冷凍サイクルの圧縮機および蒸発器を防塵服の内側に配設して蒸発器によって防塵服の内側を冷却可能に構成すると共に、冷凍サイクルの凝縮器を防塵服の外表面に配設して大気との熱交換によって冷媒を凝縮可能に構成したことにより、潜熱貯臓媒質との熱交換によって熱媒液を冷却する従来の温度調整システムとは異なり、大量の潜熱貯臓媒質を携行することなく、冷凍サイクルによって温度調整用の流体(熱媒液や空気)を長時間に亘って冷却し続けることができるため、利用者の軽快な動作を阻害したり、利用者に大きな負担を掛けたりすることなく、防塵服内を長時間に亘って快適な温度に調整することができる。また、圧縮機や蒸発器を防塵服の内側に配設したことで、洗浄を要する汚れがこれらに付着する事態を回避できるだけでなく、防塵服と同様に汚れが付着し易い凝縮器を防塵服の外表面に配設したことで、防塵服を装着したまま、防塵服の外表面と共に凝縮器を洗浄することができるため、洗浄作業にかかる負担を充分に軽減することができる。さらに、大量の熱が発せられる凝縮器を防塵服の外表面に配設したことで、凝縮器からの排熱によって防塵服の内側が温度上昇する事態を好適に回避することができると共に、防塵服の外側に存在する充分な量の大気との熱交換によって凝縮器内の冷媒を充分に冷却することができるため、蒸発器に供給すべき充分な量の冷媒を好適に凝縮させることができる。
【0016】
請求項2記載の温度調整システムによれば、防塵服の内側に配設されて冷凍サイクルを可動させるためのバッテリーを備えて温度調整装置を構成したことにより、高価な防水型のバッテリーを採用することなく、防塵服等の洗浄時にバッテリーに対して水分が付着するのを確実に回避することができる。また、電源ケーブルを接続して圧縮機等を動作させる構成とは異なり、作業の邪魔となる電源ケーブルが存在しない分だけ、利用者の負担を充分に軽減することができる。
【0017】
請求項3記載の温度調整システムによれば、熱媒液を冷却可能な熱交換器、および熱媒液を循環させるポンプを備えて温度調整装置を構成し、これらを防塵服の内側に配設して熱交換器を中着の導管に接続したことにより、温度調整用の流体としての空気等の気体を冷却して防塵服の内側に供給する構成とは異なり、熱媒液を案内する導管を引き回した部位に低温の熱媒液を確実に供給することができるため、防塵服内の各部を確実に快適な温度に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る温度調整システム1を利用者Xが装着した状態を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る温度調整装置1の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る温度調整システムの実施の形態について説明する。
【0020】
図1に示す温度調整装置1は、「温度調整システム」の一例であって、防護服2、水冷ジャケット3および温度調整装置4を備えて構成されている。
【0021】
防護服2は、「防塵服」の一例である化学防護服または放射線防護服であって、一例として、利用者Xの全身(上半身Xa、下半身Xbおよび頭部Xc)を覆い、利用者Xに塵埃や汚染物質等が付着するのを阻止可能に構成されている。なお、同図に示すように、防護服2の装着に際しては、利用者Xの顔面を覆うマスク、利用者Xの足部を覆うカバー、および図示しない手袋等を併用するが、これらについては、既存の用具を使用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0022】
水冷ジャケット3は、「中着」に相当し、一例として、利用者Xの上半身Xaに装着可能なジャケット本体の各部(すなわち、利用者Xの上半身Xaの各部)に「熱媒液(温度調整用の流体)」の一例である不凍液Wを案内可能に導管3a(図2参照)が配設されている。なお、不凍液Wに代えて、清水やオイル等の各種の「熱媒液」を使用する構成を採用することもできる。
【0023】
温度調整装置4は、「温度調整装置」の一例であって、図2に示すように、冷凍サイクル10、熱交換器21、ポンプ22、バッテリー23および制御部24を備えて防護服2の内側の温度を調整する(冷却する)ことができるように構成されている。具体的には、温度調整装置4は、冷凍サイクル10における圧縮機11、膨張弁13、蒸発器14と、熱交換器21、ポンプ22、バッテリー23および制御部24とが収容された本体ユニット4a、並びに冷凍サイクル10における凝縮器12およびファンFが収容された放熱ユニット4bを備えて構成されている。
【0024】
熱交換器21は、「熱交換器」の一例であって、冷凍サイクル10の蒸発器14を備えると共に、蒸発器14内の冷媒とポンプ22によって圧送される不凍液Wとの熱交換によって不凍液Wを冷却することができるように構成されている。また、ポンプ22は、「ポンプ」の一例であって、水冷ジャケット3と熱交換器21との間に配設されると共に、バッテリー23から供給される電力によって動作して不凍液Wを熱交換器21に圧送することで熱交換器21内の不凍液W(蒸発器14によって冷却された不凍液W)を水冷ジャケット3に供給し、かつ水冷ジャケット3において利用者Xの上半身Xaを冷却して温度上昇した不凍液Wを本体ユニット4aに回収する(不凍液Wを循環させる)。
【0025】
この場合、圧縮機11とバッテリー23との間には、バッテリー23から圧縮機11への電力の供給をオン/オフするスイッチ11aが配設され、ファンFとバッテリー23との間には、バッテリー23からファンFへの電力の供給をオン/オフするスイッチFaが配設され、かつポンプ22とバッテリー23との間には、バッテリー23からポンプ22への電力の供給をオン/オフするスイッチ22aが配設されている。また、制御部24は、スイッチ11aをオン状態に制御することで圧縮機11による冷媒の圧縮処理を実行させ、スイッチFaをオン状態に制御することでファンFによる凝縮器12への送風を実行させて凝縮器12内の冷媒を冷却する冷却処理を実行させ、かつスイッチ22aをオン状態に制御することでポンプ22を動作させて不凍液Wの圧送処理を実行させる。
【0026】
また、この温度調整システム1では、図1,2に示すように、本体ユニット4aを水冷ジャケット3と共に防護服2の内側に配設し(「冷凍サイクルの圧縮機および蒸発器と、冷凍サイクルを可動させるためのバッテリーとが防塵服の内側に配設されている」との状態の一例)、かつ、放熱ユニット4bを防護服2の外側(外表面)に配設した状態で(「冷凍サイクルの凝縮器が防塵服の外表面に配設されている」との状態の一例)、熱交換器21内の蒸発器14によって不凍液Wを冷却しつつ、凝縮器12において大気との熱交換によって冷媒を冷却して凝縮させることができるように構成されている。
【0027】
この場合、本例の温度調整システム1では、温度調整装置4の本体ユニット4aおよび放熱ユニット4bが防護服2の背部と一体化されている。また、本例の温度調整システム1では、図2に示すように、冷凍サイクル10における本体ユニット4aに収容された圧縮機11と放熱ユニット4bに収容された凝縮器12とを相互に接続する冷媒配管、本体ユニット4aに収容された膨張弁13と凝縮器12とを相互に接続する冷媒配管、および本体ユニット4aに収容されたバッテリー23から放熱ユニット4bに収容されたファンFに電力を供給する電源線が、防護服2の背部を貫通させられて防護服2の内側(本体ユニット4a)から防護服2の外側(放熱ユニット4b)に引き出されている。
【0028】
この温度調整システム1の使用に際しては、まず、水冷ジャケット3を上半身Xaに装着する。次いで、防護服2の脚部に両足を通した後に、本体ユニット4aに取り付けられている図示しない肩掛けベルトに両腕を通すようにして本体ユニット4aを背負う。この場合、本例の温度調整システム1では、前述したように、防護服2の背部と温度調整装置4(本体ユニット4aおよび放熱ユニット4b)が一体化されている。このため、本体ユニット4aを背負った状態においては、利用者Xの背中が防護服2の背部によって覆われ、かつ放熱ユニット4bが利用者Xの背中において防護服2の外側(外表面)に位置した状態となる。
【0029】
続いて、防護服2のフード部によって頭部Xcを覆うと共に、防護服2における図示しない前面開口部を閉塞する。この後、マスク、足部用のカバーおよび手袋等を装着し、必要に応じて、それらと防護服2との隙間を養生テープ(マスキングテープ、隙間閉塞用の粘着テープ)で閉塞する。これにより、温度調整システム1の装着が完了する。
【0030】
この状態で、図示しないメインスイッチがオン操作されたときに、制御部24は、スイッチ11a,Fa,22aをそれぞれオン状態に制御する。この際には、圧縮機11によって圧縮された高温高圧の冷媒が凝縮器12に導入され、ファンFによって送風される大気との熱交換によって冷却されて凝縮させられた後に、膨張弁13を通過して蒸発器14に吐出される。また、ポンプ22によって不凍液Wが熱交換器21に圧送されることで、熱交換器21内の不凍液Wが水冷ジャケット3の導管3aに圧送される。この結果、蒸発器14内での冷媒の断熱膨張によって熱交換器21内の不凍液Wが冷却され、充分に温度低下した状態で水冷ジャケット3(導管3a)に圧送される。これにより、水冷ジャケット3に接している利用者Xの上半身Xaが好適に冷却される。
【0031】
この場合、凝縮器において冷媒を凝縮させているときには、冷媒との熱交換によって温度上昇した高温の空気(大気)が放熱ユニット4bから排出される。したがって、本例の温度調整システム1とは相違するが、凝縮器12を圧縮機11等と共に防護服2の内側に配設した場合には、凝縮器12からの排熱によって防護服2の内側が温度上昇し、利用者Xの上半身Xaを好適に冷却するのが困難となるだけでなく、冷媒を充分に冷却するのが困難となるため、蒸発器14に供給すべき充分な量の冷媒を凝縮させることが困難となる。これに対して、本例の温度調整システム1では、上記したように、凝縮器12(放熱ユニット4b)が防護服2の外部に配設されているため、凝縮器12からの排熱によって防護服2の内側を温度上昇させることなく、必要充分な量の冷媒を好適に冷却して凝縮させることが可能となっている。
【0032】
また、バッテリー23等の蓄電装置の能力が向上している今日では、小型で軽量なバッテリー23であっても、圧縮機11、ファンFおよびポンプ22を充分に長い時間に亘って動作させ続けることが可能となっている。したがって、水冷ジャケット3に供給すべき不凍液Wを蒸発器14によって長時間に亘って冷却することができるため、温度調整システム1を装着した利用者が、長時間に亘って快適な温度環境下で作業を継続することが可能となっている。
【0033】
一方、温度調整システム1を装着した状態での作業が完了したときに、防護服2や放熱ユニット4b等に汚れが付着しているときには、高圧洗浄機等によってこれを除去する必要がある。この際に、本例の温度調整システム1では、防護服2を装着したまま防護服2や放熱ユニット4bに水を吹き付けて洗浄することが可能となっている。具体的には、一例として、温度調整システム1(防護服2、水冷ジャケット3および温度調整装置4)や、マスク、足部用のカバーおよび手袋等を装着したまま、利用者Xの全身に洗浄用の水や洗浄液を吹き付ける。
【0034】
この際に、本例の温度調整システム1では、凝縮器12やファンFが収容された放熱ユニット4bが防護服2の外側(外表面)に配設されているため、防護服2の外表面と共に放熱ユニット4bに水や洗浄液を吹き付けることで、これらに付着している汚れが好適に除去される。また、本例の温度調整システム1では、圧縮機11、ポンプ22、バッテリー23および制御部24などが収容された本体ユニット4aが防護服2の内側に配設されているため、洗浄を必要とする汚れがこれらに付着すること自体が好適に回避されているだけでなく、防護服2や放熱ユニット4bを洗浄するための水や洗浄液が防護服2の内側の本体ユニット4aに付着することも好適に回避される。これにより、洗浄作業が完了する。
【0035】
このように、この温度調整システム1によれば、温度調整装置4における冷凍サイクル10の圧縮機11および蒸発器14を防護服2の内側に配設して蒸発器14によって防護服2の内側を冷却可能に構成すると共に、冷凍サイクル10の凝縮器12を防護服2の外側に配設して大気との熱交換によって冷媒を凝縮可能に構成したことにより、潜熱貯臓媒質との熱交換によって熱媒液を冷却する従来の温度調整システムとは異なり、大量の潜熱貯臓媒質を携行することなく、冷凍サイクル10によって不凍液Wを長時間に亘って冷却し続けることができるため、利用者の軽快な動作を阻害したり、利用者に大きな負担を掛けたりすることなく、防護服2内を長時間に亘って快適な温度に調整することができる。また、圧縮機11や蒸発器14を防護服2の内側に配設したことで、洗浄を要する汚れがこれらに付着する事態を回避できるだけでなく、防護服2と同様に汚れが付着し易い凝縮器12を防護服2の外側(外表面)に配設したことで、防護服2を装着したまま、防護服2の外表面と共に凝縮器12を洗浄することができるため、洗浄作業にかかる負担を充分に軽減することができる。さらに、大量の熱が発せられる凝縮器12を防護服2の外側(外表面)に配設したことで、凝縮器12からの排熱によって防護服2の内側が温度上昇する事態を好適に回避することができると共に、防護服2の外側に存在する充分な量の大気との熱交換によって凝縮器12内の冷媒を充分に冷却することができるため、蒸発器14に供給すべき充分な量の冷媒を好適に凝縮させることができる。
【0036】
また、この温度調整システム1によれば、防護服2の内側に配設されて冷凍サイクル10を可動させるためのバッテリー23を備えて温度調整装置4を構成したことにより、高価な防水型の「バッテリー」を採用することなく、防護服2等の洗浄時にバッテリー23に対して水分が付着するのを確実に回避することができる。また、電源ケーブルを接続して圧縮機11やポンプ22等を動作させる構成とは異なり、作業の邪魔となる電源ケーブルが存在しない分だけ、利用者の負担を充分に軽減することができる。
【0037】
さらに、この温度調整システム1によれば、不凍液Wを冷却可能な熱交換器21、および不凍液Wを循環させるポンプ22を備えて温度調整装置4を構成し、これらを防護服2の内側に配設して熱交換器21を水冷ジャケット3の導管3aに接続したことにより、空気等の気体を冷却して防護服2の内側に供給する構成とは異なり、不凍液Wを案内する導管3aを引き回した部位に低温の不凍液Wを確実に供給することができるため、防護服2内の各部を確実に快適な温度に調整することができる。
【0038】
なお、「温度調整システム」の構成は、上記の温度調整装置1の構成に限定されるものではない。例えば、利用者Xの全身(上半身Xa、下半身Xbおよび頭部Xc)を覆う防護服2を備えた温度調整システム1を例に挙げて説明したが、「温度調整システム」を構成する「防塵服」はこのような構成のものに限定されず、利用者Xの上半身Xaだけを覆う「防塵服」(下半身Xbや頭部Xcを覆う衣を別体とした構成)や、利用者Xの上半身Xaおよび頭部Xcだけを覆う「防塵服」(下半身Xbを覆う衣を別体とした構成)を採用することができる(図示せず)。これらの「防塵服」を採用した場合には、利用者Xの下半身Xbを覆う衣や、頭部Xcを覆う衣については、既存の用具を併用すればよい。
【0039】
また、利用者Xの上半身Xaに装着可能な水冷ジャケット3を「中着」として備えた温度調整システム1を例に挙げて説明したが、「中着」の構成は、上半身Xaを覆う上記の水冷ジャケット3の構成に限定されず、上半身Xa、下半身Xbおよび頭部Xcの各部に不凍液Wを案内する構成、上半身Xaおよび下半身Xbの各部に不凍液Wを案内する構成、下半身Xbの各部に不凍液Wを案内する構成、並びに頭部Xcの各部に不凍液Wを案内する構成(いずれも図示せず)を採用することができる。これらの構成のいずれかを採用するときには、少なくとも、「中着」によって不凍液Wを案内する部位を覆うように「防塵服」を構成すればよい。
【0040】
また、バッテリー23を本体ユニット4a内に収容して防護服2の内側に配設する構成の温度調整システム1を例に挙げて説明したが、「バッテリー」については、防水構造を採用することで「凝縮器」と共に「防塵服」の外側(外表面)に配設することもできる。さらに、「バッテリー」を備えずに、圧縮機11、ファンFおよびポンプ22等を動作させるための電源を外部から供給させるための電源ケーブルを接続可能に構成することもできる(図示せず)。
【0041】
また、「熱媒液」の一例である不凍液Wを蒸発器14によって冷却して水冷ジャケット3(導管3a)に供給することで防護服2の内側(利用者Xの上半身Xa)を冷却する構成の温度調整システム1を例に挙げて説明したが、「熱媒液」に代えて、「防塵服」内の空気を「蒸発器」によって冷却して「防塵服」内に吐出させる構成を採用することもできる。このような構成を採用した場合においても、大量の潜熱貯臓媒質を携行することなく、「冷凍サイクル」によって「防塵服」内の空気を長時間に亘って冷却し続けることができるため、利用者の軽快な動作を阻害したり、利用者に大きな負担を掛けたりすることなく、「防塵服」内を長時間に亘って快適な温度に調整することができる。また、「圧縮機」や「蒸発器」を「防塵服」の内側に配設したことで、洗浄を要する汚れがこれらに付着する事態を回避できるだけでなく、「防塵服」と同様に汚れが付着し易い「凝縮器」を「防塵服」の外側(外表面)に配設したことで、「防塵服」を装着したまま、「防塵服」の外表面と共に「凝縮器」を洗浄することができるため、洗浄作業にかかる負担を充分に軽減することができる。さらに、大量の熱が発せられる「凝縮器」を「防塵服」の外側(外表面)に配設したことで、「凝縮器」からの排熱によって「防塵服」の内側が温度上昇する事態を好適に回避することができると共に、「防塵服」の外側に存在する充分な量の大気との熱交換によって「凝縮器」内の冷媒を充分に冷却することができるため、「蒸発器」に供給すべき充分な量の冷媒を好適に凝縮させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 温度調整システム
2 防護服
3 水冷ジャケット
3a 導管
4 温度調整装置
4a 本体ユニット
4b 放熱ユニット
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
11a,22a,Fa スイッチ
12 凝縮器
13 膨張弁
14 蒸発器
21 熱交換器
22 ポンプ
23 バッテリー
24 制御部
F ファン
X 利用者
Xa 上半身
Xb 下半身
Xc 頭部
W 不凍液
図1
図2