(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479627
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】電動作業車
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20190225BHJP
B60W 40/114 20120101ALI20190225BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20190225BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20190225BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
B60L3/00 N
B60W40/114
B60W40/076
B60L15/20 S
B60L9/18 P
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-213093(P2015-213093)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-85814(P2017-85814A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛和
(72)【発明者】
【氏名】松田 和晃
【審査官】
今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−168871(JP,A)
【文献】
特開平10−103985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 9/18
B60L 15/20
B60W 40/076
B60W 40/114
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操縦操作ユニットを備えた走行車体と、
前記走行車体を対地支持する左駆動輪に回転動力を供給する左モータと、
前記走行車体を対地支持する右駆動輪に回転動力を供給する右モータと、
前記操縦操作ユニットに対する操作に基づいて、前記左モータと前記右モータとに独立した駆動信号を与え、方向転換の際には前記左駆動輪と前記右駆動輪とに回転速度差を与えるモータ制御ユニットと、
前記走行車体の実ヨーレートを検出するヨーレート検出器と、
前記左モータから前記左駆動輪に供給される前記回転動力の回転数と前記右モータから前記右駆動輪に供給される前記回転動力の回転数とから演算ヨーレートを導出する演算ヨーレート算出部と、
前記演算ヨーレートと前記実ヨーレートとからスリップの発生を判定するスリップ検出部と、を備えた電動作業車。
【請求項2】
前記スリップ検出部は、前記実ヨーレートと前記演算ヨーレートとの差を演算し、前記差が、上限しきい値以上の場合にスリップの発生を判定する請求項1に記載の電動作業車。
【請求項3】
前記スリップ検出部は、前記実ヨーレートと前記演算ヨーレートとの差の符号に基づいて、スリップが発生している駆動輪を特定する請求項1または2に記載の電動作業車。
【請求項4】
前記左駆動輪に供給される前記回転動力の回転数および前記右駆動輪に供給される前記回転動力の回転数の変化量に基づいて演算加速度を算出し、
前記実ヨーレートと前記演算ヨーレートとが下限しきい値以下の場合、前記走行車体の加速度を検出する加速度センサの検出結果と、前記演算加速度とを比較することにより前記左駆動輪及び前記右駆動輪にスリップが発生していることを判定する請求項1から3のいずれか一項に記載の電動作業車。
【請求項5】
前記左駆動輪に供給される前記回転動力の回転数と前記右駆動輪に供給される前記回転動力の回転数とが同一であり、前記実ヨーレートが前記演算ヨーレートを超える場合に、斜面走行が判定される請求項1から4のいずれか一項に記載の電動作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のモータによってそれぞれ独立して駆動される左右一対の駆動輪を備えた電動作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による電動芝刈車両は、左右一対の駆動前車輪に回転動力を分配するモータと、モータの回転数を検出する第1センサと、モータに流れる電流の電流値を検出する第2センサとを備えている。第1センサと第2センサとの少なくとも一方の検出結果に基づいて車輪がスリップ状態であるか否かが判定され、車輪がスリップ状態であると判定された場合にモータのトルクを減ずる制御が行われる。これにより、車輪のスリップを抑制して、芝の損傷を防止することが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012―75254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1による電動芝刈車両では、モータの回転数またはモータの電流値に変化によってスリップが検出されるが、車輪が完全に空転しているような状態では、モータの回転数またはモータの電流値が大きく変化するので、スリップ判定が容易であるが、車輪が草や泥等による負荷によってスリップしているような場合では、モータの回転数やモータの電流値の変化が比較的小さく、スリップ判定の精度が悪くなる。
このような事情から、左右一対のモータによってそれぞれ独立して駆動される左右一対の駆動輪を備えた電動作業車において、車輪のスリップを適切に判定する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電動作業車は、操縦操作ユニットを備えた走行車体と、前記走行車体を対地支持する左駆動輪に回転動力を供給する左モータと、前記走行車体を対地支持する右駆動輪に回転動力を供給する右モータと、前記操縦操作ユニットに対する操作に基づいて、前記左モータと前記右モータとに独立した駆動信号を与え
、方向転換の際には前記左駆動輪と前記右駆動輪とに回転速度差を与えるモータ制御ユニットと、前記走行車体の実ヨーレートを検出するヨーレート検出器と、前記左モータ
から前記左駆動輪
に供給される前記回転動力の回転数と前記右モータ
から前記右駆動輪
に供給される前記回転動力の回転数とから演算ヨーレートを導出する演算ヨーレート算出部と、前記演算ヨーレートと前記実ヨーレートとからスリップの発生を判定するスリップ検出部とを備えている。
【0006】
このような作業車では、左右のモータの回転数(回転速度)に差、結果的には左右の駆動輪の回転数に差を作り出すことで、旋回を行う。旋回時に駆動輪にスリップが生じると、スリップが生じた駆動輪による地面走行力(地面をとらえて走行車体を動か力)が低下し、走行車体は、理論的に得られるヨーレートとは異なるヨーレートで旋回する。つまり、スリップが生じると、左右のモータの回転数(結果的には左右の駆動輪の回転数)に基づく計算上の走行車体のヨーレートである演算ヨーレート(左右の駆動輪の回転数から算定する理論上のヨーレート)と、実際の走行車体のヨーレートである実ヨーレート(ヨーレート検出器等によって計測される)との間で差が生じる。また、直線走行する場合には、左右のモータの回転数を等しくする。しかしながら、この直線走行時においても、片方の駆動輪にスリップが生じると、スリップが生じた駆動輪による地面走行力(地面をとらえて走行車体を動か力)が低下し、走行車体は、理論的に得られるヨーレートゼロであっても、実際はスリップが生じている駆動輪側へのヨーイングが生じる(実際に測定されたヨーレートはゼロでない値をもつ)。これらのことを利用して、駆動輪のスリップの判定、さらにはスリップ量の推定が可能となる。スリップの発生が判定されると、スリップ発生の報知やスリップを抑制するためのモータ制御などの対処策が実行される。また、左駆動輪と右駆動輪との回転数、つまり左モータと前記右モータの回転数を検出する検出ユニットは、モータ制御のために元々備わっているので、新たにヨーレート検出器を装備さえすれば、あとは、相応なコンピュータプログラムをインストールするだけで、スリップ検出が可能となる。
【0007】
演算ヨーレートと実ヨーレートとの差に基づいて、スリップの発生を判定するための簡単な方法の1つは、演算ヨーレートと実ヨーレートの差(差分値)を求め、この差を予め実験等を通じて決定したしきい値と比較することである。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記スリップ検出部は、前記実ヨーレートと前記演算ヨーレートとの差を演算し、この差が、上限しきい値以上の場合にスリップの発生を判定するように構成されている。
【0008】
ヨーレートは時間当たりのヨーイング(走行車体の鉛直線回りの揺動)であるので、方向性つまりその値は正負の符号を有する。このことから、実ヨーレートと演算ヨーレートとの差(差分値)の符号(正負)を考慮すれば、駆動輪の回転が正確に地面に伝達されていない方の駆動輪、つまりスリップしている方の駆動輪を特定することができる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記スリップ検出部は、前記実ヨーレートと前記演算ヨーレートとの差の符号に基づいて、スリップが発生している駆動輪を特定するように構成されている。この構成では、実ヨーレートと演算ヨーレートとを求めて演算するだけで、スリップが発生している方の駆動輪を特定することができ、好都合である。
【0009】
左駆動輪と右駆動輪の両者がほぼ同じ程度にスリップしている場合、いわゆる両輪スリップが発生している場合には、車速は変化するが、ヨーイングはほとんど生じない。このため、ヨーレートを利用したスリップ検出は不可能となる。このような状況においては、左駆動輪及び右駆動輪に対する駆動状況と走行車体の実際の速度変化とを評価することで、両輪スリップを検出することができる。したがって、本発明の好適な実施形態の1つとして、
前記左駆動輪に供給される前記回転動力の回転数および前記右駆動輪に供給される前記回転動力の回転数の変化量に基づいて演算加速度を算出し、前記実ヨーレートと前記演算ヨーレートとが下限しきい値以下の場合(実質的に直線走行が意図されている場合)、前記走行車体の加速度を検出する加速度センサの検出結果
と、前記演算加速度とを比較することにより前記左駆動輪及び前記右駆動輪
にスリップ
が発生
していることを判定することが提案される。
【0010】
通常の走行状態では、一方の駆動輪にスリップが生じている場合、スリップしている駆動輪の地面走行力が弱まるので、演算ヨーレートと実ヨーレートとに差が生じる。また、傾斜地の走行では
、左駆動輪と右駆動輪との回転数を同一にして直線走行しようとしても、重力加速度の影響で、演算ヨーレートと実ヨーレートとの間に差が生じる。このことを利用することで、斜面走行であることを検知することも可能となる。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、
前記左駆動輪に供給される前記回転動力の回転数と前記右駆動輪に供給される前記回転動力の回転数とが同一であり、前記実ヨーレートが前記演算ヨーレートを超える場合に、斜面走行の可能性が判定されるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に関係する電動作業車に採用されているスリップ判定の基本原理を示す説明図である。
【
図2】本発明に関係する電動作業車の実施形態の1つである電動草刈作業車の側面図である。
【
図3】電動草刈作業車の電気系統及び動力系統を示す系統図である。
【
図4】電動草刈作業車の制御系の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に関係する電動作業車の具体的な実施形態を説明する前に、
図1を用いて、この電動作業車に採用されているスリップ判定の基本原理を説明する。
【0013】
この電動作業車(以下、単に作業車と略称する)は、左駆動輪2aに回転動力を供給する左モータ21と、右駆動輪2bに回転動力を供給する右モータ22とを備えている。左モータ21と右モータ22には、運転者の操縦操作に基づいてモータ制御ユニット6が互いに独立して生成して駆動信号が送られ、この駆動信号により左モータ21と右モータ22が回転することで、左駆動輪2a及び右駆動輪2bが回転して、作業車が走行する。左駆動輪2aと右駆動輪2bとに回転差を作り出すことにより作業車は任意に旋回可能である。例えば、左旋回する場合には、左駆動輪の回転数を右駆動輪の回転数より低くし、右旋回する場合には、左駆動輪の回転数を右駆動輪の回転数より高くする。
【0014】
左モータ21の回転数(回転速度)、結果的には左駆動輪2aの回転数(回転速度)は左回転数計測部によって検出され、右モータ22の回転数、結果的には右駆動輪2bの回転数(回転速度)は検出する右回転数計測部によって検出される。以下、左モータ21の回転数または左駆動輪2aの回転数を左車輪回転数と称し、右モータ22の回転数または右駆動輪2bの回転数を右車輪回転数と称する。左車輪回転数及び右車輪回転数は、左モータ21及び右モータ22の回転数制御のためにモータ制御ユニット6で利用されるが、この作業車では、理論的なヨーレートである演算ヨーレートを算出する演算ヨーレート算出部51でも利用される。
【0015】
演算ヨーレート算出部51は、左車輪回転数と右車輪回転数とから演算ヨーレートを導出する機能を有する。つまり、左車輪回転数をR1、右車輪回転数をR2とし、演算ヨーレートをYcとすると、Yc=F(R1,R2)で表される変換式:Fが、演算ヨーレート算出部51に構築されている。この変換式:Fは、実験等を通じて求めることが可能であり、演算ヨーレート算出部51内で、関数ないしはテーブルで構築することができる。
【0016】
作業車の走行車体中心周りの実際のヨーイングを検出して実ヨーレートを出力するヨーレート検出器70が備えられている。さらに、左駆動輪2aと右駆動輪2bとにおけるスリップを検出(推定)するスリップ検出部50が備えられている。スリップ検出部50には、ヨーレート検出器70によって検出された実ヨーレート及び、演算ヨーレート算出部51で算出された演算ヨーレートが入力される。左駆動輪2aと右駆動輪2bのどちらか一方にスリップが発生すると、左右の駆動輪の地面走行力に差が発生して、その差の分だけ走行車体が旋回する。このことを利用して、スリップ検出部50は、スリップの発生を検出する。例えば、スリップ検出部50は、演算ヨーレートと実ヨーレートとの差が、予め設定されているしきい値を超えた場合スリップが発生していると判定することができる。演算ヨーレートと実ヨーレートとの差を求める際に、符号付引き算を行えば、その符号(正または負)によって、左駆動輪2aと右駆動輪2bのどちらにスリップが発生しているのかを特定することができる。
【0017】
ただし、左駆動輪2aと右駆動輪2bの両方にスリップが発生している場合、両方の駆動輪の地面走行力が減少して左右の駆動輪の地面走行力に差が発生しないので、地面走行力の差に基づくスリップは発生せず、単に速度が低下する。このような、左駆動輪2aと右駆動輪2bの両方におけるスリップ発生を判定するために、走行車体に加速度センサ73が設けられ、加速度センサ73によって検出された検出信号(加速度)がスリップ検出部50に入力される。スリップ検出部50は、車速変更操作がされていないにもかかわらず、演算ヨーレートと実ヨーレートとの差がゼロないしは非常に小さく、かつ走行車体の減速状態が検出された場合、左駆動輪2aと右駆動輪2bの両方におけるスリップ発生を判定することができる。
【0018】
草刈作業車などの作業車は、一般には定速作業走行するので、走行時には加速度が減少する。このことから、走行時には加速度が減少し(定速)、走行開始時には正の加速度(増速)が増加して、走行停止時には、負の加速度(減速)が生じることを考慮し、判定アルゴリズムには、操縦レバー、アクセルレバー、ブレーキレバーなどの操縦操作機構の状態を、左駆動輪2aと右駆動輪2bの両方におけるスリップ発生の判定に作業車の状態を組み込むことが好ましい。
【0019】
スリップ検出部50は、Yc:実ヨーレートとYs:演算ヨーレート、さらには必要に応じて、加速度:α、左回転数:R1、右回転数:R2を用いて、スリップ検出を行うことができる。例えば、その際、実験的に求められたテーブルや、ティーチングによって構築されたニューラルネットワークなどを採用することも可能である。
【0020】
次に、上述したスリップ検出の基本原理を採用した電動作業車の具体的な実施形態を以下に説明する。この実施形態では、電動作業車は、モーアユニット3を車体に装備している乗用電動草刈作業車(以下、単に草刈作業車と称する)であり、ゼロターンモーアとも呼ばれる。
図2は、草刈作業車の側面図である。
図3は、草刈作業車の電気系統図及び動力系統図を模式的に示している。
【0021】
この草刈作業車は、遊転自在なキャスタ型の左前車輪1aと右前車輪1bとからなる前車輪ユニット1、左後車輪として機能する左駆動輪2aと右後車輪として機能する右駆動輪2bとからなる後輪ユニット2、前車輪ユニット1と後輪ユニット2とによって支持される走行車体10を備えている。走行車体10の後部にはバッテリ20が配置され、バッテリ20の前方には運転座席11が配置されている。転倒保護フレーム12が運転座席11の後方に立設されている。前車輪ユニット1と後輪ユニット2との間で走行車体10の下方空間に、昇降機構13としての昇降リンク機構を介して昇降可能に走行車体10から吊り下げられたモーアユニット3が備えられている。昇降リンク機構の昇降動作は、この実施形態では、電気アクチュエータである電動式の昇降シリンダの伸縮動作によって行われる。
【0022】
運転座席11の前方には運転者の足載せ場であるフロアプレートが設けられており、そこからブレーキペダル14が突き出している。運転座席11の両側には、車体横断方向の水平揺動軸回りに揺動する左操縦レバー15aと右操縦レバー15bとからなる操縦操作ユニット15が配置されている。さらに、運転座席11の周辺には、刈刃操作レバー(スイッチタイプでもよい)91、モーアユニット昇降
レバー(
ペダルタイプでもよい)92、刈取り高さを調整する刈高さ調整ダイヤル93が配置されている。
【0023】
図3に示すように、左駆動輪2aと右駆動輪2bとをそれぞれ回転駆動する電気アクチュエータである左モータ21と右モータ22が装備されている。左モータ21と右モータ22はそれぞれ独立的にインバータ4を介して供給される電力量によってその回転速度が変化する。したがって、左駆動輪2aと右駆動輪2bの回転速度を相違させることができ、この左右後車輪速度差によって草刈作業車の方向転換が行われる。なお、この実施形態では、左モータ21と左駆動輪2aとの間及び右モータ22と右駆動輪2bとの間の動力伝達のために、それぞれ走行駆動機構23が設けられている。
【0024】
左モータ21ないしは左駆動輪2aの回転数(回転速度)を検出する左回転数計測部として機能する左回転検出センサ71及び右モータ22ないしは右駆動輪2bの回転数(回転速度)を検出する右回転数計測部として機能する右回転検出センサ72が配置されている。また、走行車体10には、走行車体10のヨーイングを検出するヨーレート検出器70、及び、走行車体10の加速状態を検出する加速度センサ73も配置されている。
【0025】
この実施形態では、モーアユニット3は、
図3に示すように、3枚刈刃(ブレード)のサイドディスチャージタイプであり、モーアデッキ3aと、3枚の回転式の刈刃30が備えられている。刈刃30を回転駆動させる刈刃駆動機構31は、電気アクチュエータである刈刃モータ32と刈刃モータ32の動力を刈刃30に伝達する刈刃動力伝達機構33とからなる。
【0026】
モーアユニット3のモーアデッキ3aは、天井面と、この天井面の前縁部から下方向きに延出した縦壁とによって構成されている。3枚の刈刃30はモーアデッキ3aに回転可能に支持されている。刈刃30のそれぞれは、その両端部に切断刃先を形成しており、さらに各切断刃先の背後側に形成された起風羽根を形成している。草刈り作業走行時には、刈刃30によって切断処理された刈草は、刈刃30の起風羽根によって発生した風により、バッフルプレートに案内されてモーアデッキ3aの内部を排出口の位置する横一端側に搬送されて、排出口からモーアデッキ3aの横外側に放出される。
【0027】
走行のための左モータ21と右モータ22、及び草刈りのための刈刃モータ32へのインバータ4を通じての給電は、ECUとも呼ばれるコントローラ5によるインバータ制御によって行われる。
【0028】
図4には、草刈作業車の制御系の機能ブロック図が示されている。制御系の状態検出機器として、左回転数計測部として左モータ21の回転数を検出する左回転検出センサ71と、右回転数計測部として右モータ22の回転数を検出する右回転検出センサ72が備えられている。さらに、走行車体10のヨーイングを検出してヨーレートを出力するヨーレート検出器70と、走行車体10の加速度を検出する加速度センサ73とが備えられている。これらの状態検出機器からの信号は、センサ情報処理部5aを介してコントローラ5に入力される。
図4では、手動操作入力デバイス群9として総括的に扱われている、左操縦レバー15aと右操縦レバー15bなどの操作状態を検出する各種センサ、ボタン、スイッチからの信号は、操作入力処理部5bを介してコントローラ5に入力される。
【0029】
制御系の中核部材であるコントローラ5には、本発明に特に関係する機能部として、スリップ検出部50、演算ヨーレート算出部51、モータ制御ユニット6、刈刃駆動制御部52が備えられており、これらの機能部は実質的にはプログラムの実行によって実現するが、必要に応じて、ハードウエアによって構築してもよい。センサ情報処理部5aは、ヨーレート検出器70、左回転検出センサ71、右回転検出センサ72や加速度センサ73から入力された信号を処理して、コントローラ5の内部で利用可能な情報に変換する。操作入力処理部5bは、手動操作入力デバイス群9から入力されたセンサ信号を処理して、コントローラ5の内部で利用可能な情報に変換する。
【0030】
スリップ検出部50と演算ヨーレート算出部51とは、
図1を用いて説明された機能の少なくとも一部を採用している。この実施形態でのスリップ検出部50は、第1スリップ判定部501と第2スリップ判定部502を有する。演算ヨーレート算出部51は、左回転検出センサ71からの信号に基づく左モータ21の回転数(左駆動輪2aの回転数)と右回転検出センサ72からの信号に基づく左モータ21の回転数(右駆動輪2bの回転数)との符号付の差を求め、その差から演算ヨーレートを算出して、スリップ検出部50に出力する。
【0031】
スリップ検出部50には、演算ヨーレート以外に、ヨーレート検出器70からの信号である実ヨーレート及び加速度センサ73からの走行車体10の加速度が入力されている。
第1スリップ判定部501は、演算ヨーレートと実ヨーレートとの符号付の差(ヨーレート差)を求め、このヨーレート差に基づいて、左駆動輪2aまたは右駆動輪2bにおけるスリップを検出する。この実施形態では、ヨーレート差が予め設定されているしきい値を超えた場合、左駆動輪2aまたは右駆動輪2bにスリップが発生していると判定するとともに、ヨーレート差の符号に基づいてスリップが発生している方の駆動輪を判定し、スリップ発生信号を出力する。第2スリップ判定部502は、ヨーレート差が小さい場合で、かつ駆動輪の回転数に基づく加速度に比べて加速度センサ73による加速度が小さい場合、左駆動輪2aと右駆動輪2bとの両方にスリップが発生していると判定して、スリップ発生信号を出力する。
【0032】
モータ制御ユニット6には、左輪速度演算部61、右輪速度演算部62、走行制御部63が含まれている。左輪速度演算部61は、運転者による左操縦レバー15aの操作量を検出する左操縦角検出センサ74aを通じての操作情報に基づいて左駆動輪2aの回転速度(回転数)、つまり左モータ21の回転速度(回転数)を求める。右輪速度演算部62も、運転者による右操縦レバー15bの操作量を検出する右操縦角検出センサ74bを通じての操作情報に基づいて右駆動輪2bの目標回転速度(回転数)、つまり右モータ22の目標回転速度(回転数)を求める。
【0033】
走行制御部63は、左輪速度演算部61及び右輪速度演算部62によって求められた左モータ21の目標回転速度と右モータ22の目標回転速度を実現するために必要な電力を左モータ21及び右モータ22送るための制御信号を、インバータ4を構成する左輪給電部41及び右輪給電部42に与える。さらに、左輪速度演算部61及び右輪速度演算部62は、スリップ検出部50からのスリップ発生信号に応答して、スリップしていると判定された左駆動輪2aまたは右駆動輪2bあるいはその両方に対して、スリップを抑制する制御、例えば、モータトルクの増大、回転数の低減などを実行する。なお、このインバータ4は、刈刃モータ32に給電する刈刃給電部40も備えている。インバータ4は、バッテリ20に接続されており、左モータ21、右モータ22、刈刃モータ32に適切な電力を供給する。
【0034】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、草刈走行車両は、モーアユニット3を前輪と後輪との間に配置するミッドマウント型であったが、モーアユニット3を前輪の前方に配置するフロントモーア型であってもよい。
(2)上述した実施形態では、後輪ユニット2の左駆動輪2aと右駆動輪2bとが独立して駆動可能な、いわゆるゼロターン型車両であったが、左駆動輪2aと右駆動輪2bとが差動機構によって連結されている車両であってもよい。
(3)上述した実施形態では、作業車は完全電動式の作業車として構成されていたが、ハイブリッド方式を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、左右の駆動輪を電動式で駆動する電動作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 :前車輪ユニット
1a :左前車輪
1b :右前車輪
2 :後輪ユニット
2a :左駆動輪
2b :右駆動輪
4 :インバータ
5 :コントローラ
5a :センサ情報処理部
5b :操作入力処理部
6 :モータ制御ユニット
9 :手動操作入力デバイス群
10 :走行車体
15 :操縦操作ユニット
15a :左操縦レバー
15b :右操縦レバー
20 :バッテリ
21 :左モータ
22 :右モータ
23 :走行駆動機構
41 :左輪給電部
42 :右輪給電部
50 :スリップ検出部
51 :演算ヨーレート算出部
52 :刈刃駆動制御部
61 :左輪速度演算部
62 :右輪速度演算部
63 :走行制御部
70 :ヨーレート検出器
71 :左回転検出センサ
72 :右回転検出センサ
73 :加速度センサ
501 :第1スリップ判定部
502 :第2スリップ判定部