(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(リチウムイオン電池100)
図1は、リチウムイオン電池100の構成を模式的に示す断面図である。板片状に構成されたチップ型のリチウムイオン電池100は、充放電によって繰り返し使用可能な二次電池(充電式電池)である。
【0012】
リチウムイオン電池100は、正極側集電層101、負極側集電層102、外装材103,104、集電接続層105、正極板106、固体電解質層107及び負極層108を含む。リチウムイオン電池100は、積層方向Xにおいて、正極側集電層101、集電接続層105、正極板106、固体電解質層107、負極層108及び負極側集電層102が順次積層されることによって構成される。
【0013】
リチウムイオン電池100の板幅方向の端部は外装材103,104によって封止されている。正極側集電層101、集電接続層105及び正極板106によって正極110が構成される。負極側集電層102及び負極層108によって負極120が構成される。
【0014】
1.正極側集電層101
正極側集電層101は、正極板106の外側に配置される。正極側集電層101は、集電接続層105を介して正極板106と機械的かつ電気的に接続される。正極側集電層101は、正極集電体として機能する。
【0015】
正極側集電層101は、金属によって構成することができる。正極側集電層101を構成する金属としては、ステンレス、アルミニウム、銅、白金、ニッケルなどが挙げられ、特にステンレスが好適である。正極側集電層101は、板状又は箔状に形成することができ、特に箔状が好ましい。従って、正極側集電層101としてステンレス箔を用いることが特に好ましい。正極側集電層101が箔状に形成される場合、正極側集電層101の厚さは1〜30μmとすることができ、5μm以上25μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0016】
2.負極側集電層102
負極側集電層102は、負極層108の外側に配置される。負極側集電層102は、負極層108と機械的かつ電気的に接続される。負極側集電層102は、負極集電体として機能する。負極側集電層102は、金属によって構成することができる。負極側集電層102は、正極側集電層101と同様の材料によって構成することができる。従って、負極側集電層102としてステンレス箔を用いることが好ましい。負極側集電層102が箔状に形成される場合、負極側集電層102の厚さは1〜30μmとすることができ、5μm以上25μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0017】
3.外装材103,104
外装材103,104は、正極側集電層101と負極側集電層102の隙間を封止する。外装材103,104は、正極板106、固体電解質層107及び負極層108によって構成される単電池の側方を取り囲む。外装材103,104は、リチウムイオン電池100内への水分の侵入を抑制する。
【0018】
外装材103,104の抵抗率は、正極側集電層101と負極側集電層102の間の電気的絶縁性を確保するために1×10
6Ωcm以上が好ましく、1×10
7Ωcm以上がより好ましく、1×10
8Ωcm以上がさらに好ましい。このような外装材103,104は、電気絶縁性の封着材によって構成することができる。封着材としては、樹脂を含む樹脂系封着材を用いることができる。樹脂系封着材を用いることによって、外装材103,104の形成を比較的低温(例えば400℃以下)で行うことができるため、加熱によるリチウムイオン電池100の破壊や変質を抑制できる。
【0019】
外装材103,104は、樹脂フィルムの積層や液状樹脂のディスペンスなどによって形成することができる。
【0020】
4.集電接続層105
集電接続層105は、正極板106と正極側集電層101の間に配置される。集電接続層105は、正極板106を正極側集電層101に機械的に接合するとともに、正極板106を正極側集電層101に電気的に接合する。
【0021】
集電接続層105は、導電性材料と接着剤を含む。導電性材料としては、導電性カーボンなどを用いることができる。接着剤としては、エポキシ系などの樹脂材料を用いることができる。集電接続層105の厚さは特に制限されないが、5μm以上100μm以下とすることができ、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0022】
5.正極板106
正極板106は、板状に成形される。正極板106は、本実施形態に係る「板状リチウム複合酸化物」の一例である。正極板106の微構造については後述する。
【0023】
正極板106の厚みは特に制限されないが、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。特に、正極板106の厚みを50μm以上にすることによって、単位面積当りの活物質容量を十分に確保してリチウムイオン電池100のエネルギー密度を高めることができる。また、正極板106の厚みの上限値は特に制限されないが、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の上昇)の抑制を考慮すると、200μm未満が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態に係る正極板106の膨張収縮率Eは、後述するように、
0.43%以下に抑えられている。このように、正極板106の膨張収縮率Eが十分に低ければ、リチウムイオン電池100のレート特性の向上を目的として正極板106の厚みを30μm以下にしたとしても、固体電解質層107の欠陥又は/及び正極板106の剥離を抑制することができる。従って、正極板106の厚みは、リチウムイオン電池100の放電容量と正極板106の膨張収縮率Eを考慮して適宜設定することができる。
【0025】
正極板106の厚さは、正極板106の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察した場合に、略平行に観察される2つの板面間の平均距離(任意の3箇所における距離の平均値)を測定することによって得られる。
【0026】
なお、本実施形態において、厚み方向とは、正極板106の固体電解質側表面106a(「板面」の一例)と平行な方向(以下、「板面方向」という。)に垂直な方向であり、積層方向Xと略同じである。固体電解質側表面106aは、正極板106の断面において、正極板106と固体電解質層107の界面を最小二乗法によって直線近似した線によって規定することができる。
【0027】
6.固体電解質層107
固体電解質層107は、酸化物系セラミックス材料の1つであるリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料によって構成されることが好ましい。固体電解質層107の厚さは、リチウムイオン伝導性の向上という観点からは薄いことが好ましいが、充放電時の信頼性(欠陥抑制、セパレータ機能、クラックなど)を考慮して適宜設定することができる。固体電解質層107の厚さは、例えば、0.1〜10μmが好ましく、より好ましくは0.2〜8.0μm、さらに好ましくは0.3〜7.0μm、特に好ましくは0.5〜6.0μmである。
【0028】
正極板106の固体電解質側表面106aにセラミックス材料からなる固体電解質層107を被着させる成膜法として、スパッタリング法を用いるのが好ましい。この際、スパッタリング法での成膜条件(例えば、成膜時間)を制御することによって、固体電解質層107の厚さを調整することができる。正極板106は、表面にLiPONからなる固体電解質層をスパッタリング法により形成して電池化した場合であっても電池性能の不具合を生じにくい。
【0029】
LiPONは、Li
2.9PO
3.3N
0.46の組成によって代表されるような化合物群であり、例えばLi
aPO
bN
c(式中、aは2〜4、bは3〜5、cは0.1〜0.9である)で表される化合物群である。従って、スパッタリングによるLiPON系固体電解質層の形成は、Li源、P源及びO源としてリン酸リチウム焼結体ターゲットを用いて、N源としてのガス種としてN
2を導入することにより公知の条件に従って行えばよい。スパッタリング法は特に限定されないが、RFマグネトロン方式が好ましい。また、スパッタリング法に代えて、MOCVD法、ゾルゲル法、エアロゾルデポジション法、スクリーン印刷法、などの成膜法を用いることもできる。
【0030】
固体電解質層107は、LiPON系セラミックス材料以外の酸化物系セラミックス材料によって構成されてもよい。LiPON系セラミックス材料以外の酸化物系セラミックス材料としては、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、及びリン酸系セラミックス材料、ゼオライト系材料からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ガーネット系セラミックス材料の例としては、Li−La−Zr−O系材料(具体的には、Li
7La
3Zr
2O
12など)、Li−La−Ta−O系材料も用いることができる。ペロブスカイト系セラミックス材料の例としては、Li−La−Ti−O系材料(具体的には、LiLa
1−xTi
xO
3(0.04≦x≦0.14)など)が挙げられる。リン酸系セラミックス材料の例としては、Li−Al−Ti−P−O,Li−Al−Ge−P−O、及びLi−Al−Ti−Si−P−O(具体的には、Li
1+x+yAl
xTi
2−xSi
yP
3―yO
12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)など)が挙げられる。
【0031】
固体電解質層107は、硫化物系材料によって構成されていてもよい。硫化物系材料としては、Li
2S−P
2S
5系、LiI−Li
2S−P
2S
5系、LiI−Li
2S−B
2S
32系、若しくはLiI−Li
2S−SiS
2系の固体電解質、チオリシコン、及びLi10GeP2S12等の中から選択される材料を用いることができる。硫化物系材料は比較的柔らかいので、正極板106の表面に硫化物系材料粉末をプレスして押し付けることで固体電解質層を形成し、電池化することができる。より具体的には、バインダーなどを用いてシート状にした硫化物系材料粉体を正極板106に積層してプレスすることによって、或いは、硫化物系材料粉末を分散させたスラリーを正極板106に塗布して乾燥させた後にプレスすることによって固体電解質層を形成できる。
【0032】
7.負極層108
負極層108は、固体電解質層107上に配置される。負極層108は、リチウム金属を主成分として含有する。負極層108は、固体電解質層107上に形成されるリチウム含有金属膜であってもよい。リチウム含有金属膜は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などによって形成することができる。
【0033】
負極層108の厚さは特に限定されないが、200μm以下とすることができる。リチウムイオン電池100におけるリチウム総量を多く確保することとエネルギー密度を高くすることとを考慮すると、負極層108の厚さは10μm以上が好ましく、10μm以上50μm以下がより好ましく、10μm以上40μm以下がさらに好ましく、10μm以上20μm以下が特に好ましい。
【0034】
(正極板106の微構造)
図2は、正極板106の断面を示す模式図である。正極板106は、複数の一次粒子20が結合することによって構成されている。各一次粒子20の外形は特に制限されるものではなく、板状、直方体状、立方体状、或いは球状などであってもよい。正極板106には、外形の異なる一次粒子20が含まれていてもよい。本実施形態において、各一次粒子20は、正極板106の板面方向に結合するとともに、厚み方向にも結合している。各一次粒子20は、正極板106の断面のSEM像において、結晶粒界に囲まれた配向角度の揃った領域である。各一次粒子20の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0035】
1.一次粒子20を構成する材料
各一次粒子20は、リチウム複合酸化物によって構成される。リチウム複合酸化物とは、Li
xMO
2(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にCo,Ni,Mnのうちの1種以上を含む。)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は、層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的には、α−NaFeO
2型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。
【0036】
リチウム複合酸化物としては、例えば、Li
xCoO
2(コバルト酸リチウム)、Li
xNiO
2(ニッケル酸リチウム)、Li
xMnO
2(マンガン酸リチウム)、Li
xNiMnO
2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、Li
xNiCoO
2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、Li
xCoNiMnO
2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、Li
xCoMnO
2(コバルト・マンガン酸リチウム)などが挙げられ、Li
xCoO
2が特に好ましい。
【0037】
なお、リチウム複合酸化物には、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi、Wなどのうち一種以上の元素が含まれていてもよい。
【0038】
2.正極板106の膨張収縮
リチウムイオン電池100の充放電時、リチウムイオンは、各一次粒子20の内部を(003)面と平行な方向(
図2中の「La方向」)に移動する。この際、充放電時のリチウムイオンの出入りに伴って、各一次粒子20が(003)面と垂直な方向(
図2中の「Lb方向」)に伸縮するため、正極板106の全体は、固体電解質側表面106aと平行な方向(以下、「板面方向」という。)に膨張収縮する。このように、正極板106の全体が板面方向に形状変化すると、固体電解質層107との界面である固体電解質側表面106aにおいて引張応力とせん断応力が生じてしまう。このような引張応力とせん断応力が大きければ、正極板106が固体電解質層107から剥離するおそれがある。
【0039】
そこで、本実施形態では、満充電時の板面方向における正極板106の膨張収縮率Eは、
0.43%以下に抑えられている。これによって、固体電解質側表面106aに生じる引張応力とせん断応力を低減できるため、固体電解質層107に欠陥が生じたり、正極板106が固体電解質層107から剥離したりすることを抑制することができる
。
【0040】
図2に示すように、板面方向に対する各一次粒子20の配向角度γは、0度〜90度までの所望の値に設定できる。配向角度γとは、一次粒子20の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度である。複数の一次粒子20の配向角度γの平均値(以下、「平均配向角度θ」という。)の好適な値は、各一次粒子20を構成する材料と、充電時におけるLiの組成比xの減少量αとに基づいて決定される。
【0041】
例えば、各一次粒子20がLi
xCoO
2(コバルト酸リチウム)によって構成される場合であって、満充電時におけるLiの組成比xの減少量αが0.1以上0.7以下であるとき、平均配向角度θは、下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0042】
E=2.56α×sinθ・・・式(1)
上述のとおり膨張収縮率Eは
0.43%以下であるため、例えば、減少量αが
0.3のときには平均配向角度θを0度より大きく
33.8度以下とすることができる。
【0043】
ここで、平均配向角度θは、正極板106の断面のEBSD(後方散乱電子回折)像において、固体電解質側表面106aに露出する各一次粒子20の配向角度γの長さ分布から求めることができる。
【0044】
以下、平均配向角度θの求め方について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、正極板106の断面において固体電解質側表面106a付近をEBSDで観察したイメージ図である。
【0045】
まず、
図3に示すように、固体電解質層107と接する固体電解質側表面106aに露出する10個以上の一次粒子20を観察できる断面EBSD像を10枚取得する。
図3のイメージ図では、固体電解質側表面106aに露出する10個の一次粒子20が示されている。
【0046】
次に、各断面EBSD像において、固体電解質側表面106aに露出する10個の一次粒子20を任意に選択する。続いて、各断面EBSD像において、選択された10個の一次粒子20の配向角度γ(すなわち、(003)面の板面方向に対する傾斜角度)ごとに、固体電解質側表面106aにおける長さ分布を求める。
図3では、固体電解質側表面106aにおける配向角度30°の長さが実線で示され、固体電解質側表面106aにおける配向角度40°の長さが破線で示されている。
【0047】
そして、合計100個の一次粒子20の長さ分布から算出される配向角度の算術平均値を平均配向角度θとする。
【0048】
3.配向角度γの分布
各一次粒子20の配向角度γの分布は、狭い(すなわち、広がり幅が小さい)ことが好ましい。具体的に、平均配向角度θの算出に用いた100個の一次粒子20のうち平均配向角度θ±15度以内の配向角度γを有する一次粒子20が、固体電解質側表面106aの線分上で占める「長さ割合」は、40%以上が好ましく、51%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましい。これによって、固体電解質側表面106aに生じる引張応力とせん断応力をより低減できるため、正極板106が固体電解質層107から剥離することをより抑制することができる。
【0049】
4.厚み方向における一次粒子20の平均個数
厚み方向に配置された一次粒子20の個数は少ないことが好ましい。これによって、リチウムイオン伝導方向において、リチウムイオン伝導を阻害する一次粒子20どうしの粒界数を少なくできるため、リチウムイオン伝導性を向上できる。これによって、リチウムイオン電池100のレート特性とサイクル特性を向上させることができる。特に、正極板106の厚みが厚い場合には、レート特性とサイクル特性だけでなく、リチウムイオン電池100のエネルギー密度も高めることができる。
【0050】
具体的には、正極板106の厚みが50μm以上である場合、厚み方向に配置された一次粒子20の平均個数は、6個以下であることが好ましく、5個以下がより好ましい。厚み方向における一次粒子20の平均個数は、正極板106の断面のSEM像において、任意の位置に厚み方向に平行な5本の線を引き、5本の線それぞれと重なる一次粒子20の個数を算術平均することによって得られる。
【0051】
(正極板106の製造方法)
次に、正極板106の一例としてLiCoO
2焼結板の製造方法について説明する。まず、一次粒子20の平均配向角度θを比較的大きくしやすい第1製造方法について説明した後、一次粒子20の平均配向角度θを比較的小さくしやすい第2製造方法について説明する。
【0052】
[第1製造方法]
この第1製造方法は、平均配向角度θを30度以上にする場合に適している。
1.グリーンシートの作製
Co
3O
4原料粉末にBi
2O
3を添加した混合粉末と分散媒とバインダーと可塑剤と分散剤とを混合する。そして、この混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに所望の粘度に調整することによってスラリーを調製する。
【0053】
次に、ドクターブレード法によって、調製したスラリーをPETフィルムの上に成形してグリーンシートを形成する。
【0054】
2.配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して焼成(900℃〜1400℃、1時間〜10時間)することによってCo
3O
4焼結板を形成する。
【0055】
3.リチウムシートの作製
Li
3CO
4原料粉末とバインダーと可塑剤と分散剤とを混合する。そして、この混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに所望の粘度に調整することによってスラリーを調製する。
【0056】
次に、ドクターブレード法によって、調製したスラリーをPETフィルムの上に成形してリチウムシートを形成する。
【0057】
4.リチウムの導入
Co
3O
4焼結板をリチウムシートで上下挟み込み、ジルコニア製セッター上に載置して焼成(800℃〜950℃、5時間〜30時間)することによってLiCoO
2焼結板(正極板106)を形成する。
【0058】
この際、焼成鞘内のリチウム雰囲気の濃度を調整することによって、正極板106を構成する一次粒子20の平均配向角度θを制御できる。具体的には、リチウム雰囲気の濃度を高くすると平均配向角度θを小さくでき、リチウム雰囲気の濃度を低くすると平均配向角度θを大きくできる。
【0059】
また、焼成鞘内のリチウム雰囲気の濃度を調整することによって、正極板106を構成する一次粒子20の厚み方向における平均個数を制御できる。具体的には、リチウム雰囲気の濃度を高くすると、リチウムの導入過程において、正極板とリチウムとの反応中に一次粒子20間からリチウム化合物が揮発することを抑えて各一次粒子20の粒成長を促進させることができるため、厚み方向における一次粒子20の平均個数を少なくできる。一方で、リチウム雰囲気の濃度を低くすると、一次粒子20間からリチウム化合物が揮発して各一次粒子20の粒成長が抑えられるため、厚み方向における一次粒子20の平均個数を多くできる。
【0060】
また、焼成温度を調整することによっても、厚み方向における一次粒子20の平均個数を制御できる。具体的には、焼成温度を高くすると粒成長が促進されるため、厚み方向における一次粒子20の平均個数を少なくでき、焼成温度を低くすると粒成長が抑えられて、厚み方向における一次粒子20の平均個数を多くできる。
【0061】
さらに、正極板106を構成する一次粒子20の個数を制御することによって、配向角度が平均配向角度θ±15度の範囲内に入っている一次粒子の長さ割合を調整できる。一次粒子20の個数は、上述した厚み方向における一次粒子20の平均個数と同様、焼成鞘内のリチウム雰囲気の濃度を調整することによって制御できる。
【0062】
なお、焼成鞘内におけるリチウム雰囲気の濃度は、リチウムシートに含まれるLi濃度によって調整できるが、雰囲気粉としてのLiCoO
2粉末を鞘内に配置することによっても調整できる。ただし、雰囲気粉の量が多すぎると、揮発せずに残留したリチウム化合物によって正極板106がセッターに貼り付いてしまう場合がある。
【0063】
[第2製造方法]
この第2製造方法は、平均配向角度θを0度より大きく30度以下にする場合に適している。
1.LiCoO
2テンプレート粒子の作製
Co
3O
4原料粉末とLi
2CO
3原料粉末を混合して焼成(500〜900℃、1〜20時間することでLiCoO
2粉末を合成する。得られたLiCoO
2粉末をポットミルにて体積基準D50粒径0.2μm〜3μmに粉砕することで板状のLiCoO
2粒子を得る。このようなLiCoO
2粒子は、LiCoO
2粉末スラリーを用いたグリーンシートを粒成長させた後に解砕する手法や、フラックス法や水熱合成、融液を用いた単結晶育成、ゾルゲル法など板状結晶を合成する手法によっても得ることができる。
【0064】
2.マトリックス粒子の作製
Co
3O
4原料粉末をマトリックス粒子として用いる。Co
3O
4原料粉末の体積基準D50粒径は特に制限されず、例えば0.1〜1.0μmとすることができるが、テンプレート粒子の体積基準D50粒径より小さいことが好ましい。このマトリックス粒子は、Co(OH)
2原料を500℃〜800℃で1〜10時間熱処理を行なうことによっても得ることができる。また、マトリックス粒子には、Co
3O
4のほか、Co(OH)
2粒子を用いてもよいし、LiCoO
2粒子を用いてもよい。
【0065】
3.グリーンシートの作製
テンプレート粒子とマトリックス粒子を100:3〜3:97に混合した粉末と分散媒とバインダーと可塑剤と分散剤とを混合する。そして、この混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに所望の粘度に調整することによってスラリーを調製する。続いて、ドクターブレード法によって、調製したスラリーをPETフィルムの上に成形してグリーンシートを形成する。
【0066】
4.配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して焼成(500℃〜900℃、1〜10時間)することによってCo
3O
4焼結板を得る。次に、Li/Co比(モル比)が0より大きく1.0以下になるように、Co
3O
4焼結板をリチウムシートで上下挟み込み、ジルコニアセッター上に載せる。このセッターをアルミナ鞘に入れ、大気中にて加熱処理(700〜850℃、1〜20時間)した後、Co
3O
4焼結板をリチウムシートで上下挟み、さらに加熱処理(750〜900℃、1〜40時間)することによって、LiCoO
2焼結板を得る。この焼成工程は、2度に分けて行ってもよいし、1度に行なってもよい。
【0067】
なお、Co
3O
4焼結板を挟むリチウムシートにおけるLiは、Coに対してLi/Co比で0.1倍〜1.5倍程度過剰であることが好ましい。これによって、一次粒子20の粒成長を促進させることができる。
【0068】
また、Co
3O
4粒子径に応じて、加熱処理における加熱条件を調整することが好ましい。例えば、Co
3O
4粒子径が1μm以下である場合、昇温速度を50℃/h〜200℃/hにすることによって、又は、600℃〜850℃まで昇温した後に一旦1時間〜10時間保持することによって、溶融したリチウムシートをCo
3O
4焼結板内に保持することが好ましい。これによって、一次粒子20の粒径を大きくするとともに、厚み方向における一次粒子20の平均個数を減らすことができる。
【0069】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0070】
上記実施形態では、本発明に係る板状リチウム複合酸化物をリチウムイオン電池100の正極板106に適用した例について説明したが、板状リチウム複合酸化物はその他の電池構成にも適用することができる。
【0071】
例えば、本発明に係る板状リチウム複合酸化物は、電解質としてイオン液体、ポリマー電解質、ゲル電解質、液系電解質等を用いたリチウムイオン電池に用いることができる。イオン液体は、常温溶融塩とも呼ばれ、カチオンおよびアニオンの組み合わせからなる塩である。イオン液体として、例えば、四級アンモニウム系カチオンを含むイオン液体およびイミダゾリウム系カチオンを含むイオン液体などが挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下において本発明に係るリチウムイオン電池の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0073】
(サンプルNo.1)
1.グリーンシートの作製
Co
3O
4原料粉末(体積基準D50粒径0.3μm、正同化学工業株式会社製)に5wt%の割合でBi
2O
3(体積基準D50粒径0.3μm、太陽鉱工株式会社製)を添加して混合粉末を得た。この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに4000cPの粘度に調整することによって、スラリーを調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが52μmとなるように、シート状に成形してグリーンシートを得た。
【0074】
2.配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたグリーンシートを、カッターで30mm角に切り出した。そして、突起の大きさが300μmのエンボス加工を施したジルコニア製セッター(寸法90mm角、厚さ1mm)の中央に切り出したグリーンシートを載置し、1300℃で5時間焼成後、降温速度50℃/hにて降温し、セッターに溶着していない部分をCo
3O
4焼結板として取り出した。
【0075】
3.リチウムシートの作製
Li
2CO
3原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル製)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)5重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに4000cPの粘度に調整することによって、スラリーを調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが25μmとなるように、シート状に成形してリチウムシートを得た。
【0076】
4.リチウムの導入
Li/Co比が1.3になるように、Co
3O
4焼結板をリチウムシートで上下挟み込み、ジルコニアセッター上に載せた。このセッターを90mm角のアルミナ鞘に入れ、さらに雰囲気粉としてのLiCoO
2粉末を鞘内に5g入れてフタをした。この鞘を大気中にて900℃で20時間加熱処理してLiCoO
2焼結板を得た。
図4は、サンプルNo.1のLiCoO
2焼結板の断面SEM像である。
【0077】
5.正極の作製
導電性カーボンを分散させたエポキシ系の導電接着剤を用いて、LiCoO
2焼結板をステンレス集電板に固定することによって正極を作製した。
【0078】
6.固体電解質層の作製
直径4インチ(約10cm)のリン酸リチウム焼結体ターゲットを準備し、スパッタリング装置(キャノンアネルバ社製 SPF−430H)を用いてRFマグネトロン方式にてガス種N
2を0.2Pa、出力0.2kWにて膜厚2μmとなるようにスパッタリングを行なった。こうして、厚さ2μmのLiPON系固体電解質スパッタ膜をLiCoO
2焼結板上に形成した。
【0079】
7.リチウムイオン電池の作製
イオンスパッタリング装置(日本電子社製 JFC−1500)を用いたスパッタリングにより、固体電解質層上に厚さ500ÅのAu膜を形成した。
【0080】
Au膜上にLi金属箔とCu箔を載置し、Ar雰囲気のグローブボックス中に配置した200℃のホットプレート上で加圧圧着した。
【0081】
このようにして、正極板/固体電解質層/負極層の単位電池(サイズ:10mm×10mm平方)を得た。そして、単位電池をAr雰囲気中でAlラミネートフィルムに封入することでリチウムイオン電池を形成した。
【0082】
(サンプルNo.2)
サンプルNo.2では、リチウム導入時の雰囲気粉として鞘に入れたLiCoO
2粉末の量を10gとした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0083】
(サンプルNo.3)
サンプルNo.3では、リチウム導入時の雰囲気粉として鞘に入れたLiCoO
2粉末の量を15gとし、かつ、加熱処理温度を840℃とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0084】
(サンプルNo.4)
サンプルNo.4では、リチウム導入時の雰囲気粉として鞘に入れたLiCoO
2粉末の量を10gとし、かつ、加熱処理温度を840℃とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0085】
(サンプルNo.5)
サンプルNo.4では、リチウム導入時の加熱処理温度を840℃とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0086】
(サンプルNo.6)
サンプルNo.6では、リチウム導入時の加熱処理温度を840℃とし、かつ、鞘内雰囲気をO
2雰囲気とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0087】
(サンプルNo.7)
サンプルNo.7では、リチウム導入時に雰囲気粉を入れず、かつ、加熱処理温度を840℃とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0088】
(サンプルNo.8)
サンプルNo.8では、リチウム導入時に雰囲気粉を入れずに鞘のフタを開けた状態にし、かつ、加熱処理温度を840℃とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0089】
(サンプルNo.9)
サンプルNo.9では、リチウム導入時に雰囲気粉を入れず、かつ、加熱処理温度を880℃とした以外は、サンプルNo.1と同じ工程にてリチウムイオン電池を形成した。
【0090】
(サンプルNo.10)
1.テンプレート粒子の作製
Co
3O
4原料粉末(体積基準D50粒径0.8μm、正同化学工業株式会社製)とLi
2CO
3原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル製)を混合し、800℃で5時間焼成することでLiCoO
2粉末を合成した。得られたLiCoO
2粉末をポットミルにて40時間粉砕することによって、体積基準D50粒径1.0μmの板状LiCoO
2粒子を得た。
【0091】
2.マトリックス粒子の作製
Co
3O
4原料粉末(体積基準D50粒径0.3μm、正同化学工業株式会社製)をマトリックス粒子とした。
【0092】
3.グリーンシートの作製
テンプレート粒子とマトリックス粒子を重量比が60:40になるように混合した。この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに粘度を10000cPに調整することによってスラリーを調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが40μmとなるようにシート状に成形してグリーンシートを得た。
【0093】
4.配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して焼成(900℃、5時間)することによってCo
3O
4焼結板を得た。そして、合成したリチウムシートをLi/Co比が1.0になるように、Co
3O
4焼結板をリチウムシートで上下挟み込み、ジルコニアセッター上に載せた。このセッターを90mm角のアルミナ鞘に入れ、大気中にて加熱処理(800℃、5時間)した後、さらにリチウムシートで上下挟んで加熱処理(900℃、20時間)することによってLiCoO
2焼結板を得た。
【0094】
(サンプルNo.11)
テンプレート粒子の粉砕時間を30時間とし、テンプレート粒子とマトリックス粒子の重量比を50:50とした以外は、サンプルNo.10と同様の工程にてLiCoO
2焼結板を得た。
図5は、サンプルNo.11のLiCoO
2焼結板の断面SEM像である。
【0095】
(サンプルNo.12)
板厚を30μmとした以外は、サンプルNo.9と同様の工程にてLiCoO
2焼結板を得た。
【0096】
(サンプルNo.13)
まず、サンプルNo.10と同様に、テンプレート粒子として板状LiCoO
2粒子を作製した。
【0097】
次に、Li/Co比が1.0となるように、サンプルNo.10のCo
3O
4原料粉末にLiOH・H
2O粉末(和光純薬工業株式会社製)を混合し、90mm角のアルミナ鞘に入れて大気中で加熱処理(650℃、5時間)することによって、マトリックス粒子として体積基準D50粒径0.3μmのLiCoO
2粒子を得た。
【0098】
次に、テンプレート粒子とマトリックス粒子の重量比を75:25としたスラリーを調製し、サンプルNo.10と同様の手法でグリーンシートを得た。
【0099】
次に、Li/Co比が1.5(Li/Co比1.0はグリーンシート、残りのLi/Co比0.5はリチウムシート)となるようにグリーンシートをリチウムシートで挟み、800℃で5時間保持した後に900℃で20時間加熱処理を行うことによって、LiCoO
2焼結板を得た。
【0100】
(配向角度の測定)
まず、LiCoO
2焼結板のうち固体電解質層と接する固体電解質側表面に露出する10個以上の一次粒子を観察できる断面EBSD像を10枚取得した。次に、各断面EBSD像において、固体電解質側表面に露出する10個の一次粒子を任意に選択した。各断面EBSD像の取得には、日立ハイテクノロジーズ製FE−SEM、SU5000およびオックスフォード・インストゥルメンツ製EBSD検出器、NordlyNanoを使用し、倍率1000倍(観察範囲約130μm×約100μm)で行った。
【0101】
次に、各断面EBSD像において、選択した10個の一次粒子の配向角度ごとに、固体電解質側表面における長さ分布を求めた。そして、合計100個の一次粒子の長さ分布から算出される配向角度の算術平均値を平均配向角度として求めた。
図6は、サンプルNo.1についての配向角度ごとの長さ割合を示すヒストグラムである。
【0102】
次に、下記式(1)に、満充電時におけるLiの組成比xの減少量αを0.3として、算出した平均配向角度θを代入することによって、正極板の板面方向における膨張収縮率Eを算出した。算出結果を表1に示す。
【0103】
E=2.56α×sinθ・・・式(1)
【0104】
また、平均配向角度θの算出に用いた100個の一次粒子のうち配向角度が平均配向角度θ±15度の範囲に入っている一次粒子の長さ割合を算出した。算出結果を表1に示す。
【0105】
(厚み方向における一次粒子の平均個数)
図7は、
図4の断面SEM像を用いた一次粒子の平均個数の算出方法を説明するための図である。
【0106】
CP研磨加工によって正極板の厚み方向の断面を露出させた後、断面をSEMで観察した。そして、断面のSEM像において、任意の位置に厚み方向に平行な5本の線を引き、5本の線それぞれと重なる一次粒子の個数を算術平均した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0107】
(電池評価)
サンプルNo.1〜9に係るリチウムイオン電池を0.1[mA]定電流で4.05[V]まで充電した後、定電圧で電流が0.05[mA]になるまで充電した。そして、0.02[mA]定電流で3.0[V]まで放電し、放電容量W0を測定した。さらに、この操作を10回繰り返した後の放電容量W10を測定した。放電容量W10を放電容量W0で除することによって容量維持率を算出した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0108】
サンプルNo.10〜13に係るリチウムイオン電池を0.1[mA]定電流で4.2[V]まで充電した後、定電圧で電流が0.05[mA]になるまで充電した。そして、0.1[mA]定電流で3.0[V]まで放電し、放電容量W0を測定した。さらに、この操作を10回繰り返した後の放電容量W10を測定した。放電容量W10を放電容量W0で除することによって容量維持率を算出した。算出結果を表1にまとめて示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、正極板の板面方向における膨張収縮率Eが
0.43%以下であるサンプルNo.1〜6,10〜11,13では、90%以上の良好な容量維持率を達成することができた。これは、正極板の板面方向における膨張収縮率Eを小さくして、正極板と固体電解質層との界面に生じる応力を抑制することによって、固体電解質層の欠陥や固体電解質層からの正極板の剥離を抑制できたためである。
【0111】
また、表1に示すように、平均配向角度θ±15度内の配向角度を有する一次粒子の長さ割合が51%以上であるサンプルNo.1〜3,5〜6,10〜11,13では、当該割合が42%であるサンプルNo.4に比べて、容量維持率をより向上させることができた。これは、各一次粒子の配向角度の分布を狭くすることによって、正極板表面に露出する配向角度の大きい粒子を少なくし、配向角度の大きい粒子が存在する箇所での局所的な膨張による固体電解質層の欠陥や正極板の剥離を抑制できたためである。
【0112】
また、表1に示すように、平均配向角度を10.5度以上としたサンプルNo.1〜5,10〜11,13では、平均配向角度が5.6度であるサンプルNo.6に比べて、放電容量を向上させることができた。これは、平均配向角度を10.5度以上とすることによって、厚み方向におけるリチウムイオンの出入りを良好にできたためである。
【0113】
また、表1に示すように、正極板の厚みが50μm以上のサンプルNo.1〜4では、厚み50μm当たりにおける一次粒子の平均個数を5以下とすることによって、当該平均個数が12個であるサンプルNo.5に比べて、放電容量を向上させることができた。これは、厚み方向に配置された一次粒子の平均個数を少なくすることによって、厚み方向におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができたためである。