(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
交通手段の発達した現代社会では、自動車は物資の運搬や人間の移動の手段として大きな役割を果たしている。自動車は、推進力を発生させるエンジンを搭載しており、エンジンの開発の際にはその走行特性の試験が行なわれることが多い。その走行特性の試験は、開発段階で繰返し行なう必要があり、最終確認以外は自動車にエンジンは搭載せずにベンチ上でエンジンのみの試験を行なうシミュレート装置が用いられる(特許文献1,2参照)。この装置は、エンジンが連結されるダイナモを備え、そのダイナモに連結されたエンジンのスロットルの開度を調節しながら自動車の走行特性、例えば燃費やNOx排出量などをシミュレートする装置である。このシミュレート装置には、エンジンのスロットルの開度の制御値を求めるスロットル制御装置が備えられている。このスロットル制御装置では、自動車の速度指令値の時間変化を表わす速度指令パターンと、エンジンの回転速度など自動車の速度に相当する速度相当値の計測値とが比較され、速度指令値どおりの速度相当値が計測されるようにスロットル開度の制御値が求められる。
【0003】
ここで、例えば燃費等の試験を行なうにあたっては、標準の走行パターンが法令で定められていて、その標準の走行パターン通りに運転(速度変化)させたときの燃費を計測する必要がある。
【0004】
ところが、ベンチ上でその標準の走行パターン通りに速度変化させて燃費等の走行特性を計測すると、そのエンジンを実際の自動車に搭載して人間ドライバーがその走行パターンに従って運転したときとはかなり異なる計測値が得られるという問題がある。その原因は、ベンチ上のシミュレーションでは、標準の走行パターン通り忠実に運転させるためにスロットル開度の制御値が急激に変化する場面が多いことにある。
【0005】
法令上の標準の走行パターンには、その標準の走行パターンを挟んで、速度上限値の時間変化からなる速度上限パターンと速度下限値の時間変化からなる速度下限パターンが定められていて、それら速度上限パターンと速度下限パターンとの間には許容速度領域が存在する。人間ドライバーが走行パターンどおりに自動車を運転するにあたっては、その許容速度領域をうまく使って、急激な加減速をできるだけ避けるようにアクセルを調整する。ベンチ上の試験と人間ドライバーの運転による試験とではこのような相違があり、実際の運転で得られる走行特性と比べたときのベンチ上で得られる走行特性の誤差の大きな要因の1つとなっている。
【0006】
このことから、アクセル踏込み量を滑らかにして人間ドライバーの運転により近づける試みがなされている(特許文献3参照)。この特許文献3では3次のスプライン関数を用いて目標速度を作り、この目標速度を時間微分して目標加速度を求め、それらの目標速度と目標加速度を用いてアクセル踏込み量を求めている。しかしながら、この方法では、法令上の速度の上下限値は意識されていないため、許容速度領域から外れないという保証はない。また、ここでは3次のベーススプライン関数を用いた短時間領域の平滑化にとどまっているため、人間ドライバーの運転パターンとはまだまだ大きな誤差を持つ場面が存在するものと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、人間ドライバーの運転により近づけたシミュレーションを可能にするための速度指令パターン算出装置およびスロットル制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の速度指令パターン算出装置は、
速度上限値の時間変化
を折れ線で表した速度上限パターンと、その速度上限パターンとの間に許容速度領域が形成されるように設定された、速度下限値の時間変化
を折れ線で表した速度下限パターンとに基づいて、許容速度領域内を通過する、速度指令値の時間変化
を折れ線で表した速度指令パターンを算出する速度指令パターン算出装置であって、
許容速度領域内の開始ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な、速度下限パターン側の第1の下限側ポイントと速度上限パターン側の第1の上限側ポイントを算出する1次ポイント算出部と、
第1の下限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な、速度上限パターン側の第2の上限側ポイントと、第1の上限側ポイントから前記許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な、速度下限パターン側の第2の下限側ポイントとを算出する2次ポイント算出部と、
開始ポイントと第1の下限側ポイントと第2の上限側ポイントとを結ぶ第1の折れ線の折れ曲がりの向きと、開始ポイントと第1の上限側ポイントと第2の下限側ポイントとを結ぶ第2の折れ線の折れ曲がりの向きとに基づいて、第1の下限側ポイントと第1の上限側ポイントとのいずれかのポイントを次の開始ポイントとして1次ポイント算出部に通知することで、順次更新された開始ポイントどうしを繋いだ速度指令パターンを生成する開始ポイント更新部とを備え、
1次ポイント算出部が、開始ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な最遠の、速度下限パターン上の
許容速度領域側に突き出た頂点
を第1の下限側ポイントとして算出するとともに、速度上限パターン上の
許容速度領域側に突き出た頂点
を第1の上限側ポイントとして算出するものであり、
2次ポイント算出部が、第1の下限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な最遠の、速度上限パターン上の
許容速度領域側に突き出た頂点を第2の上限側ポイントとして算出するとともに、第1の上限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な最遠の、速度下限パターン上の
許容速度領域側に突き出た頂点を第2の下限側ポイントとして算出するものであり、
開始ポイント更新部が、
上記第1の折れ線が速度上昇側に凸の折れ線
もしくは一直線であったときは、上記第2の折れ線の折れ曲がりの向きに拘らず第1の下限側ポイントを次の開始
ポイントとし、
上記第1の折れ線が速度下降側に凸のときは、上記第2の折れ線が速度上昇側に凸であるか速度下降側に凸
の折れ線であってさらに第2の折れ線が速度上昇側に凸
の折れ線もしくは一直線のときは第1の下限側ポイントを次の開始ポイントとし、
上記第1の折れ線が速度下降側に凸の折れ線であってさらに第2の折れ線が速度下降側に凸の折れ線のときは第1の上限側ポイント
を前記次の開始ポイントとし、
開始ポイント更新部が、順次更新された互いに隣接する開始ポイントどうしを直線で繋ぐことにより折れ線からなる速度指令パターンを生成することを特徴とする
、
エンジンが連結されるダイナモを備え、ダイナモに連結されたエンジンのスロットル開度を調節しながら自動車の走行特性をシミュレートする装置における速度指令パターン算出装置である。
【0010】
本発明の速度指令パターン算出装置は、開始点から見通し可能な第1の下限側ポイントと第1の上限側ポイントを算出し、さらにそれら第1の下限側ポイントおよび第1の上限側ポイントのそれぞれから見通し可能な第2の上限側ポイントおよび第2の下限側ポイントを算出して、次の開始ポイントを定めているため、人間ドライバーの思考に近い速度指令パターンが算出され、人間ドライバーによる実際の運転による試験に高精度に近似したシミュレーションを行なうことが可能となる。
【0012】
また、本発明の速度指令パターン算出装置によれば、上記のようにして頂点をポイントとして選択することで、時間的な遠点まで見通した、すなわち激しい変化をできる限り避けた速度指令パターンが算出される。
【0014】
また、開始ポイント更新部における
上記のアルゴリズムにより次の開始ポイントを決定すると、許容速度範囲内のできる限り下限側が選択され、人間ドライバーによる実際の運転に更に近づいた試験を行なうことができる。
【0015】
また、本発明のスロットル制御装置は、
本発明の速度指令パターン算出装置と、
速度指令パターン算出装置により算出された速度指令パターン
折れ線の速度指令パターン
、あるいは、該折れ線の速度指令パターンに基づいて作成された、該折れ線の角を丸めるスムージング処理を施した後の速度指令パターンを構成する速度指令値の入力と、計測された車速相当値の入力を受けて、速度指令値どおりの速度相当値が計測されるようにスロットル開度の制御値を求めるスロットル開度算出装置とを備えたことを特徴とする
、
エンジンが連結されるダイナモを備え、該ダイナモに連結されたエンジンのスロットル開度を調節しながら自動車の走行特性をシミュレートする装置におけるスロットル制御装置である。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によれば、人間ドライバーの運転により近づけた走行試験シミュレーションが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、自動車の走行特性をシミュレートするシミュレート装置の一例を示すブロック図である。このシミュレート装置には、本発明の一実施形態としてのスロットル制御装置が含まれている。
【0020】
この
図1に示すシミュレート装置100には、動力伝達部104によってエンジン101に連結されたダイナモ102が備えられており、エンジン101が回転するとその回転に伴ってダイナモ102も回転する。このダイナモ102はエンジン101の動力に対する負荷としての役割を担っている。
【0021】
このダイナモ102からは、速度計測値とトルク計測値が出力される。ダイナモ102からの速度計測値は、スロットル制御装置10とダイナモ制御装置103に入力され、ダイナモ102からのトルク計測値はダイナモ制御装置103に入力される。
【0022】
スロットル制御装置10では、ダイナモ102からスロットル制御装置10に入力された速度計測値に基づいてスロットル開度の制御値が算出され、その制御値に基づいてエンジン101のスロットルの開度が制御される。
【0023】
また、スロットル制御装置10で生成されたブレーキ指令値はダイナモ制御装置103に入力される。ダイナモ制御装置103では、スロットル制御装置10からのブレーキ指令値と、ダイナモ102からの速度計測値とトルク計測値とに基づいて、ダイナモ電流の制御値が算出される。ダイナモ102にはその制御値に応じたダイナモ電流が流れ、これにより負荷の大きさが調整される。
【0024】
ここで、
図1に示すシミュレーション装置100を構成するスロットル制御装置10(すなわち本実施形態のスロットル制御装置)に代えて従来型のスロットル制御装置を用いた場合の問題点について説明する。
【0025】
図2は、自動車の速度パターン(A)とスロットル開度(B)を示した図である。横軸は時間軸である。
【0026】
自動車の燃費等の走行性能の試験にあたっては、法定の標準の速度パターンどおりの運転が行なわれる。ただし、人間ドライバーの場合、その標準の速度パターンに厳密に沿って運転するのは難しく、その標準の速度パターンを挟むように上限の速度パターンと下限の速度パターンが規定されており、それら上限の速度パターンと下限の速度パターンに挟まれた許容速度領域内を通るように運転すればよいことになっている。
【0027】
図2(A)のグラフbは人間ドライバーによる自動車の運転速度パターンであり、
図2(A)のグラフaは、
図1に示すシミュレーション装置100において、従来型のスロットル制御装置を用い、法定の標準速度パターン通りに運転(速度変化)させたときの運転速度パターンである。
【0028】
図2(B)のグラフa,グラフbは、
図2(A)のグラフa,グラフbにそれぞれ対応しており、グラフbは人間ドライバーによる、またグラフaはシミュレーション装置100における、スロットル開度の変化パターンを示している。
【0029】
図2(B)から明らかな通り、人間ドライバーの場合はスロットル開度の変化が穏やかであり、シミュレーション装置100の場合はスロットル開度が急激に変化している。これは、人間ドライバーの場合、上限の速度パターンと下限の速度パターンとに挟まれた許容速度領域をうまく使ってその許容速度領域から外れない範囲でスロットル開度(アクセル開度)が緩やかになるように調整するのに対し、シミュレーション装置100の場合はあくまでも標準の速度パターンに忠実に運転しようとするためである。
【0030】
従来型のスロットル制御装置を用いたシミュレーション装置の場合、このスロットル開度の急激な変化によって、人間ドライバーによる運転の際に得られる走行特性とはかなり異なる走行特性が得られる。最終的には人間ドライバーの運転による走行特性が採用されるため、シミュレーション装置では、人間ドライバーによる運転時の走行特性に高精度に一致した走行特性を得る必要がある。
【0031】
この
図2を参照して説明した以上の問題点を踏まえ、この問題点が改善された本実施形態の説明に戻る。
【0032】
図3は、
図1に1つのブロックで示すスロットル制御装置の構成を示すブロック図である。
【0033】
ここには、速度上下限パターンが記憶された速度上下限パターン記憶部11が備えられている。速度上下限パターン記憶部11には、速度上限値の時間変化からなる速度上限パターンと、その速度上限パターンとの間に許容速度領域が形成されるように設定された、速度下限値の時間変化からなる速度下限パターンとが記憶されている。
【0034】
速度指令パターン算出装置20では、速度上下限パターン記憶部11に記憶されている速度上限パターンおよび速度下限パターンに基づいて、速度指令値の時間変化からなる速度指令パターンが算出される。この算出のアルゴリズムについては後述する。この速度指令パターン算出装置20で算出された速度指令パターンは、速度指令パターン記憶部13に記憶される。この速度指令パターン算出装置20は、本発明の速度指令パターン算出装置の一例に相当する。
【0035】
また、このスロットル制御装置10には、さらにスロットル開度制御値算出装置14が備えられている。このスロットル開度制御値算出装置14には、速度指令パターン記憶部13から読み出された速度指令値、および速度指令値を時間微分して作成された加速度指令値と、ダイナモ102(
図1参照)で得られた速度計測値が入力される。本実施形態の場合、このスロットル開度制御値算出装置14では、それら速度指令値と速度計測値に基づいて、スロットル開度制御値が算出される。
図1に示すエンジン101のスロットルは、このスロットル開度制御値に基づいてその開度が制御される。このスロットル開度制御値は、速度指令値どおりの速度計測値が計測されるように算出された値である。
【0036】
スロットル開度制御値算出装置14自体については、広く知られた技術であり、ここでの詳細説明は省略する(例えば前掲の特許文献1,2参照)。
【0037】
図4は、速度指令パターンの模式図である。
【0038】
この
図4に示すグラフa,b,cは、いずれも、あらかじめ設定されている速度パターンであり、それぞれ標準パターン、上限パターン、下限パターンである。ただし、これらのグラフa,b,cは、模式的に示したものであり、実際の法定の速度パターンとは無関係である。ここで、横軸は、時間、縦軸は速度である。
【0039】
図2のグラフaは、標準パターン(
図4のグラフa)を忠実にトレースした結果である。以下では、標準パターン(
図4のグラフa)は無視して、グラフb(上限パターン)とグラフc(下限パターン)とに挟まれた許容速度領域から外れないように新たな速度パターンを算出することを考える。
【0040】
具体例を挙げると、開始ポイントS
1と終了ポイントN
Aとを結ぶ線分S
1N
Aは許容速度領域を外れるので不適合である。一方、開始ポイントS
1とポイントN
Bとを結ぶ線分S
1N
Bは、開始ポイントS
1から許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに、許容速度領域を外れることなく見通し可能であって、かつ後述する意味において最長の線分である。このようなポイントN
Bを算出し、次にそのポイントN
Bを新たな開始ポイントとして次のポイントを算出し、これを繰り返すことにより順次更新された開始ポイントどうしを繋いだ速度指令パターンを生成する。
【0041】
以下、この開始ポイントの更新アルゴリズムについて詳細に説明する。
【0042】
図5は、
図3に1つのブロックで示す速度指令パターン算出装置の機能ブロック図である。この速度指令パターン算出装置は、コンピュータとそのコンピュータ内で実行されるプログラムによって構成されるが、この
図5には、そのプログラムの動作によってコンピュータ内に構築される機能をブロックで表わしたものである。
【0043】
この
図5に示す速度指令パターン算出装置20は、次候補ポイント算出部21、次々候補ポイント算出部22、および開始ポイント更新部23により構成されている。これら次候補ポイント算出部21、次々候補ポイント算出部22、および開始ポイント更新部23は、本発明にいう、それぞれ1次ポイント算出部、2次ポイント算出部、および開始ポイント更新部の各一例に相当する。
【0044】
次候補ポイント算出部21には、例えば
図4のグラフb,cに示すような上下限速度パターンが入力され、その上下限速度パターンに基づいて、上限速度パターン(例えばグラフb)と下限速度パターン(例えばグラフc)とに挟まれた許容速度領域内の開始ポイントから、その許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な、速度下限パターン側の第1の下限側ポイントと速度上限パターン側の第1の上限側ポイントが算出される。具体的には、この次候補ポイント算出部21では、開始ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な最遠の、速度下限パターン上の頂点および速度上限パターン上の頂点が、それぞれ第1の下限側ポイントおよび第1の上限側ポイントとして算出される。
【0045】
また、次々候補ポイント算出部22では、次候補ポイント算出部21で算出された第1の下限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な、速度上限パターン側の第2の上限側ポイントが算出されるとともに、次候補ポイント算出部21で算出された第1の上限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な、速度下限パターン側の第2の下限側ポイントとが算出される。具体的には、この次々候補ポイント算出部22では、第1の下限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な最遠の、速度上限パターン上の頂点が第2の上限側ポイントとして算出され、さらに、第1の上限側ポイントから許容速度領域を時間進行方向に眺めたときに許容速度領域を外れることなく見通し可能な最遠の、速度下限パターン上の頂点が第2の下限側ポイントとして算出される。
【0046】
さらに、開始ポイント更新部23では、開始ポイントと、次候補ポイント算出部21で算出された第1の下限側ポイントと次々候補ポイント算出部22で算出された第2の上限側ポイントとを結ぶ第1の折れ線の折れ曲がりの向きと、開始ポイントと、次候補ポイント算出部21で算出された第1の上限側ポイントと、次々候補算出部22で算出された第2の下限側ポイントとを結ぶ第2の折れ線の折れ曲がりの向きとに基づいて、第1の下限側ポイントと第1の上限側ポイントとのいずれかのポイントを次の開始ポイントとして次候補ポイント算出部21に通知することで、順次更新された開始ポイントどうしを繋いだ速度指令パターンが生成される。具体的には、この開始ポイント更新部23では、第1の折れ線が速度上昇側に凸の折れ線であったときは、第2の折れ線の折れ曲がりの向きに拘らず第1の下限側ポイントが次の開始ポイントとされ、第1の折れ線が速度下降側に凸のときは、第2の折れ線が速度上昇側に凸であるか速度下降側に凸であるかに応じて、それぞれ、第1の下限側ポイントあるいは第1の上限側ポイントが次の開始ポイントとされる。
【0047】
以下、これら次候補ポイント算出部21、次々候補ポイント算出部22、および開始ポイント更新部23の作用について具体例を挙げながらさらに説明する。
【0048】
図6は、
図5にブロック図で示した速度指令パターン算出装置における処理の流れを示したフローチャートである。
【0049】
また、
図7は、速度指令パターン算出装置における処理の概念図である。
【0050】
ここでは、先ず上下限速度パターン(例えば
図4のグラフb,c)が読み込まれる(ステップS01)。
図7には、速度上限パターンと速度下限パターンの一部が示されている。上限速度パターンと下限速度パターンとに挟まれた領域が許容速度領域である。
【0051】
次に、初回の開始ポイントSが設定される(ステップS02)。
【0052】
図7では、開始ポイントSが許容速度領域内に概念的に示されているが、初回の開始ポイントは、
図4に開始ポイントS
1として示すようにパターンの開始点に設定される。
【0053】
次に、次候補ポイントL,Uが算出される(ステップS03)。
【0054】
次候補ポイントL,Uを算出するにあたっては、開始ポイントSから時間進行方向(
図7に示す矢印時間t方向)を眺める。そしてその開始ポイントSから、許容速度領域から外れることなく見通し可能な最遠の、下限速度パターン上の頂点、上限速度パターン上の頂点が、それぞれ次候補ポイントL,Uとされる。
【0055】
次候補ポイントL,Uが算出されると、次に次々候補ポイントが算出される。開始ポイントの更新にあたって必要となる次々候補ポイントは、2つの次々候補ポイントLN1,UL2のみであるが、
図7では分かり易さのため、4つの次々候補ポイントLN1,LN2,UN1,UN2が示されている。
【0056】
次々候補ポイントの算出アルゴリズムは、開始ポイントSから見たときの次候補ポイントL,Uの算出アルゴリズムと同一である。すなわち、次候補ポイントLから時間進行方向(矢印時間t方向)を眺め、次候補ポイントLから、許容速度領域から外れることなく見通し可能な最遠の、上限速度パターン上の頂点、下限速度パターン上の頂点が、それぞれ次々候補ポイントLN1,LN2とされる。またこれと同様に、次候補ポイントUから時間進行方向(矢印時間t方向)を眺め、次候補ポイントUから、許容速度領域から外れることなく見通し可能な最遠の、上限速度パターン上の頂点、下限速度パターン上の頂点が、それぞれ、次々候補ポイントUN1,UN2とされる。
【0057】
このようにして、次候補ポイントL,Uおよび次々候補ポイントLN1,LN2,UN1,UN2が算出されると、次に、開始ポイントSの更新が行なわれる(ステップS05)。
【0058】
図8は、
図6に1つのステップで示す開始ポイント更新ステップの詳細フローを示した図である。
【0059】
ここでは開始ポイントSと、次候補ポイントLと、次々候補ポイントLN1とを結んだ第1の折れ線(S−L−LN1)および、開始ポイントSと、次候補ポイントUと、次々候補ポイントUN2とを結んだ第2の折れ線(S−U−UN2)に着目する。そして、第1の折れ線(S−L−LN1)が上に凸または一直線、すなわち、次々候補ポイントLN1が、開始ポイントSと次候補ポイントLとを結んだ線分の延長線よりも下またはその延長線上にあるときは、次候補ポイントLが次の開始ポイントとして採用される(ステップS051)。
【0060】
第1の折れ線が下に凸のときは、次に第2の折れ線(S−U−UN2)に着目する。
図7に示す例では、第1の折れ線(S−L−LN1)は、次々候補ポイントLN1が開始ポイントSと次候補ポイントLとを結ぶ線分の延長線よりも上にあるため、下に凸となっている。この場合、第2の折れ線(S−U−UN2)が下に凸、すなわち次々候補ポイントUN2が開始ポイントSと次候補ポイントUとを結ぶ線分の延長線よりも上にあるときは、次候補ポイントUが次の開始ポイントとして採用される。一方、第2の折れ線(S−U−UN2)が上に凸または一直線、すなわち次々候補ポイントUN2が開始ポイントSと次候補ポイントUとを結ぶ線分の延長線よりも下またはその延長線上にあるときは、次候補ポイントLが次の開始ポイントとして採用される。
図7に示す例では、次々候補ポイントUN2が、開始ポイントSと次候補ポイントUとを結ぶ線分の延長線上にあり、したがってこの場合、ステップS052における判定により、次候補ポイントLが次の開始ポイントとして採用される。
【0061】
このようにして開始ポイントが更新されると、その更新された開始ポイントが終了ポイントと一致するか否かが判定される(
図6、ステップS06)。ここで終了ポイントは、パターンの終了点であり、
図4の終了ポイントN
Aに相当する。
【0062】
更新後の開始ポイントが未だ終了ポイントに達していないときは、ステップS03に戻り、更新後の開始ポイントSから時間進行方向を眺めて次候補ポイントL,Uが算出される。ただし、次々候補ポイント算出のステップ(ステップS04)で新たな次候補ポイントが算出済みのときは、新たな算出は省略してもよい。
【0063】
ステップS03〜S06を繰り返し開始ポイントが終了ポイントに達すると、この処理は終了する。このとき順次更新された開始ポイントを繋いだパターンが速度指令パターンとなる。尚、このままの速度指令パターンは折れ線のパターンであるが、その折れ線の角を丸めるようなスムージング処理を施し、そのスムージング処理を施した後のパターンを速度指令パターンとしてもよい。
【0064】
図9は、第1の折れ線および第2の折れ線の各種例を示した図である。
【0065】
図9(A)の場合、第1の折れ線(S−L−LN1)が上に凸である。この場合、第2の折れ線(S−U−UN2)を考慮することなく、次候補ポイントLが採用される(
図8のステップS051)。
【0066】
図9(B)の場合、第1の折れ線(S−L−LN1)は下に凸である。このためステップS051からステップS052に進む。また、第2の折れ線(S−U−UN2)は下に凸である。したがってステップS052において、次候補ポイントUが採用される。
【0067】
図9(C)の場合、第1の折れ線(S−L−LN1)は、
図9(B)と同様、下に凸である。このためステップS051からステップS052に進む。一方、この
図9(C)の場合、第2の折れ線(S−U−UN2)は上に凸である。したがってステップS052において、次候補ポイントLが採用される。
【0068】
このようにして作成された速度指令パターンは、
図3に示す速度指令パターン記憶部13に記憶される。そして走行特性のシミュレーションにあたり、その速度指令パターンを構成する速度指令値が時間順に取り出されてスロットル開度制御値算出装置14に順次入力される。
【0069】
図10は、本実施形態における処理を施す前後それぞれの速度指令パターンと、スロットル開度の変動を示した図である。
【0070】
図10(A)のグラフaは、本実施形態における処理を施す前の速度指令パターン(
図4のグラフaに相当するパターン)を示している。これに対し、
図10(A)のグラフbは、本実施形態における処理を施した後の速度指令パターン(
図4のグラフb,cに相当する上下限速度パターンを用いて上記の処理を施した後)の速度指令パターンを示している。
図10(B)のグラフa,b,は、
図10(A)のグラフa,bにそれぞれ対応するスロットル開度(マイナスはブレーキ)の時間変動を示したグラフである。特に楕円Rで囲った部分を見ると、グラフaと比べグラフbの方が、スロットル開度(人間ドライバーによるアクセル、ブレーキ操作量に相当する)が安定していることが分かる。
【0071】
このように、許容速度範囲をうまく使って速度指令パターンを作成することで、人間ドライバーによる運転パターンに高精度に近づけた走行特性シミュレーションを行なうことができる。
【0072】
尚、ここでは、分かり易さのため、法定の速度パターン(
図4のグラフa)を挟む法定の上限パターン(グラフb)と下限パターン(グラフc)を採用して速度指令パターンを作成する例について説明したが、本発明にいう速度上限パターン、速度下限パターンは必ずしも法定のパターンをそのまま使う必要はなく、1本の速度パターンと、その速度パターンとの間に許容速度領域が形成されるように設定されたもう1本の速度パターンとからなる2本の速度パターンであればよい。例えば、法定の標準パターン(
図4のグラフa)と法定の上限パターン(グラフb)との中間のパターンを作成して、その中間パターンを本実施形態で採用する上限速度パターンとしてもよい。またこれと同様に、グラフaとcとの中間のパターンを作成してその中間パターンを本実施形態で採用する速度下限パターンとしてもよい。
【0073】
また、ここでは一例として、
図1に示すようなシミュレーション装置に組み込まれたスロットル開度制御装置、およびそのスロットル制御装置に組み込まれた速度指令パターン算出装置について説明したが、本発明は、適用すべきシミュレーション装置のタイプを問うものではなく、シミュレーション装置自体はどのようなタイプのものであってもよい。