【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人応用物理学会 分科会 日本光学会発行、日本光学会年次学術講演会 Optics & Photonics Japan 2013 講演予稿集CD、12pA3、平成25年10月28日発行 (2)公益社団法人応用物理学会 分科会 日本光学会主催、日本光学会年次学術講演会 Optics & Photonics Japan 2013、奈良県新公会堂(奈良県奈良市春日野町101)、平成25年11月12日開催
【文献】
AHMAD,A. et al.,Cross-correlation-based image acquisition technique for manually-scanned optical coherence tomography,Optics Express,2009年,17,8125-8136
【文献】
LIU,X. et al.,Distortion-free freehand-scanning OCT implemented with real-time scanning speed variance correction,Optics Express,2012年,20,16567-16583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被測定物体の奥行き方向の軸に平行な2次元断層画像を同一位置に関して複数取得し、取得された複数の断層画像に基づいて被測定物体の変位の測定が可能な光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
前記複数の断層画像のうちの1つの断層画像を基準画像とし、前記基準画像の微小領域に対して他の断層画像の対応する微小領域を軸方向及び前記軸方向に直交する断層画像面内の方向にシフトすることによって、相関係数を計算する相関係数算出部と、
前記相関係数算出部からの出力に基づいて、前記軸方向の変位と前記軸方向に直交する断層画像面内の方向の変位とを相関係数に関係づける相関係数の数学モデルのパラメータを算出する相関係数モデル算出部と、
変位測定対象の断層画像と前記基準画像との位相シフトを求める位相シフト算出部と、
前記位相シフト算出部からの出力に基づいて前記軸方向の変位を求める軸方向変位算出部と、
前記軸方向変位算出部からの出力及び前記相関係数モデル算出部からの出力に基づいて前記軸方向に直交する断層画像面内の方向の変位を求める横方向変位算出部と、
を有する光コヒーレンストモグラフィー装置。
被測定物体の奥行き方向の軸に平行な2次元断層画像を同一位置に関して複数取得し、取得された複数の断層画像に基づいて被測定物体の変位を測定する光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定方法であって、
前記複数の断層画像のうちの1つの断層画像を基準画像とし、前記基準画像の微小領域に対して他の断層画像の対応する微小領域を軸方向及び前記軸方向に直交する断層画像面内の方向にシフトすることによって、相関係数を計算する相関係数算出工程と、
前記相関係数算出工程で算出された前記相関係数に基づいて、前記軸方向の変位と前記軸方向に直交する断層画像面内の方向の変位とを相関係数に関係づける相関係数の数学モデルのパラメータを算出する相関係数モデル算出工程と、
変位測定対象の断層画像と前記基準画像との位相シフトを求める位相シフト算出工程と、
前記位相シフト算出工程で算出された前記位相シフトに基づいて前記軸方向の変位を求める軸方向変位算出工程と、
前記軸方向変位算出工程で算出された前記軸方向の変位及び前記相関係数モデル算出工程で算出された前記パラメータに基づいて前記軸方向に直交する断層画像面内の方向の変位を求める横方向変位算出工程と、
を有する光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定方法。
【実施例】
【0025】
本発明者らは、本発明において、OCTを用いた二次元的な組織変位測定装置及び測定方法を提案し、レーザ照射中での温度膨張測定も可能とした。本発明の変位測定装置及び測定方法における主な特徴は、本発明の変位測定装置及び測定方法は、ドップラ位相シフトと相関係数の両方を用いて、軸方向と横(側面)方向の変位を測定する構成にある。
【0026】
以下の実施例の記載では、次の順で、本発明の実施例を明確にする。
(1)まず、本発明の変位測定装置を構成する、また測定方法に使用するための光コヒーレンストモグラフィーを含むシステムについて説明する。
【0027】
(2)次に、本発明の原理及び処理動作について順次説明する。即ち、本発明の変位測定装置及び変位測定方法は、その特徴的な構成は、上記のとおり、ドップラ位相シフトと相関係数の両方を用いて、軸方向と横(側面)方向の変位を測定する構成にある。
【0028】
この構成は、変位測定装置を構成するシステムに含まれるコンピュータに搭載される変位測定のためのプログラムが、コンピュータを、ドップラ位相シフトと相関係数の両方を用いて、軸方向と横(側面)方向の変位を算出するように処理動作(機能)させることで具現化される。従って、変位測定のためのプログラムによる動作について、その原理(本発明の原理)及び処理動作を説明する。
【0029】
(3)次に、本発明の変位測定装置及び変位測定方法の効果を確認するために、本発明者らは実験を行った。以下、その実験例について、実験装置、実験結果等について説明する。
【0030】
(変位測定装置のシステム)
本発明に係る光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定装置及び測定方法では、一例として、
図2に示すFD−OCT1(FD−OCTはフーリエドメインOCTの略であり、特開2007−298461号公報参照)を使用する。
【0031】
FD−OCT1は、
図2(a)に示すように、広帯域光源2、干渉計3、及び分光器4(スペクトロメータ)とを備えている。このFD−OCT1は、低コヒーレンス干渉の原理を用いて奥行き方向の分解能を得ているため、光源として、SLD(スーパールミネッセントダイオード)、超短パルスレーザ等の広帯域光源2が用いられる。
【0032】
広帯域光源2から出た光は、まずビームスプリッター5で物体光と参照光に分割される。このうち物体光は、レンズ6を通してガルバノミラー7で反射され被測定物体8(眼底などの生体試料)を照射し、そこで反射、散乱された後に分光器4に導かれる。
【0033】
一方、参照光はレンズ9を通して参照鏡10(平面鏡)で反射された後に物体光と並行に分光器4に導かれる。これらの二つの光は分光器4の回折格子によって同時に分光され、スペクトル領域で干渉し、結果、スペクトル干渉縞がCCDによって計測される。
【0034】
このスペクトル干渉縞に対して適当な信号処理を行うことで、被測定物体8のある点における深さ方向1次元の屈折率分布の微分、つまり、反射率分布を得ることが可能となる。さらに、ガルバノミラー7を駆動することによって被測定物体8上の計測点を1次元走査することにより2次元断層画像(FD−OCT画像)を得ることができる。
【0035】
通常のOCTでは、2次元断層画像を得るために、深さ(光軸)方向の走査(この走査を「A−スキャン」と言い、この方向を「A−方向」、「Aスキャン方向」とも言う。)と、横方向の操作(この走査を「B−スキャン」と言い、この方向を「B−方向」、「Bスキャン方向」とも言う。)の2次元の機械的走査が必要なのに対して、FD−OCT1では、A−スキャンは不要で一回の測定で深さ方向の後方散乱データを取得することができるから、B−スキャンの1次元の機械的走査しか必要とされない。
【0036】
なお、物体光を走査するための光スキャナとしては、ガルバノミラーに限定されず、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、音響光学素子(AOM)であってもよい。
【0037】
また、物体光と合成させる参照光を生成するための参照光学系としては、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。
【0038】
なお、上記例では、参照ミラーを用いた反射光学系を用いたが、透過光学系(例えば、光ファイバー)によって構成されてもよい。透過光学系は、例えば、カップラーからの光を戻さず透過させることにより検出器へと導く。
【0039】
FD−OCT1には、追加的に、
図2(b)に示すように、被測定物体8に向けてレーザを照射するためのレーザ照射光学系100が設けられていてもよい。レーザ照射光学系100は、例えば、治療用レーザ光を照射し、被測定物体8を凝固するために用いられる。なお、レーザ照射光学系100は、被測定物体を低侵襲にて治療可能な構成であってもよい(例えば、マイクロパルスレーザー装置、低出力パルスレーザ装置等)。
【0040】
レーザ照射光学系100には、治療用レーザ光を被測定物体8に対して走査させるための治療レーザ用光スキャナが設けられてもよい。なお、治療レーザ用光スキャナと、FD−OCT1の光スキャナは、同期して制御されてもよい。また、同じ光スキャナが用いられても良い。
【0041】
なお、レーザ照射光学系を備えるOCTの詳細な構成については、例えば、特開2012−213634号公報、特開2012−135550号公報等に記載されている。
【0042】
なお、レーザ照射光学系100の光軸は、光路結合部材(例えば、ダイクロイックミラー、ハーフミラー等)200によってFD−OCT1の光軸と同軸に配置される。
【0043】
以下の説明では、被測定物体1が眼の網膜であって、レーザ照射中の網膜の変位を測定する場合を例として説明する。被測定物体1は、眼に限定されない生体であってもよいし、生体でなくてもよい。
【0044】
FD−OCT1は、装置全体を制御するコンピュータ300のプロセッサ(CPU)によって制御される。コンピュータ300は、取得された画像を処理する画像処理部として用いられる。また、FD−OCT1によって取得される画像は、コンピュータ300の記憶部に記憶されるように構成する。
【0045】
この記憶部には、FD−OCT1を動作させるためのプログラムが格納されており、また後述する変位測定のための処理動作を行うためのプログラムが格納されている。このように、コンピュータに搭載される変位測定のためのプログラムが、コンピュータを、ドップラ位相シフトと相関係数の両方を用いて、軸方向と横(側面)方向の変位を算出する処理動作(機能)させるようにする。
【0046】
(本発明の原理)
特定の画素でのOCT信号sは、下記の数1に示す式(1)のように、ランダムに分布した散乱体の複素反射率a(r)と、点像分布関数(PSF:point spread function)h(r)と、のコンボリューション(*)によって表現される。
【0047】
【数1】
【0048】
ここで、r=(x、y、z)は、デカルト(Cartesian)座標における位置ベクトルである。(x、y)は、横方向の位置を示す。zは深さ位置を示す。
【0049】
仮に、散乱現象の数が十分大きい場合、確率変数Sは、複素の円周標準正規分布に従う確率変数として考慮される。加えて、測定における加算的ノイズNは、複素の円周標準正規分布に従い、OCT信号Sから独立する。
【0050】
それらの加算、すなわちG=S+Nによって与えられる測定信号Gは、また、複素の円周標準正規分布に従う確率変数である。ここで、2つの測定された信号G1とG2との間の母集団の複素相関係数は、次の数2に示す数式で定義される。
【0051】
【数2】
【0052】
ここで、振幅ρは、母集団の複素相関係数を表し、位相差Φは、母集団の位相シフトを示し、添字(subcript)*は、複素共役を示す。
【0053】
測定信号G
i(i=1、2)を、OCT信号S
iと追加的ノイズN
iに置換することによって、OCT信号S
1とS
2との間の母集団の信号相関係数は、次の数3に示す数式で定義され、下記の数4に示す式(2)のように書き換えられる。
【0054】
【数3】
【0055】
【数4】
【0056】
ここで、SNR
1とSNR
2は、各測定における信号対ノイズ比の期待値であり、次の数5に示す数式として定義される。
【0057】
【数5】
【0058】
この数式によって、信号対ノイズ比の影響無しで、信号相関係数が求められる。この数式に関するさらなる詳細は、17. S. Makita, F. Jaillon, I. Jahan, and Y. Yasuno, “Noise statistics of phase-resolved optical coherence tomography imaging: single-and dual-beam-scan Doppler optical coherence tomography,”Opt. Express 22(4), 4830-4848 (2014)に記載されている。
【0059】
二次元変位測定において、変位前後の信号相関係数は、次の数6に示す数式として書き換えられる。Cは、散乱過程と、走査システムの再現性の影響を示した定数である。ρ
hは、PSF
sの相関係数であり、Δxは横方向の変位であり、Δzは軸方向の変位である。
【0060】
【数6】
【0061】
ここで、画像面内(in-plane)と剛体(rigid-body)の変位のみが考慮される。言い換えれば、他のファクターによって引き起こされる相関係数の減少が考慮されない。他のファクターとしては、画像面外(out-of-plane)の変位Δy、非剛体の変位、すなわち、散乱体分布の歪み(deformation of scatterer distribution)が挙げられる。
【0062】
サンプル上でのビームプロファイルをガウス関数、光源のスペクラム形状をガウス関数と仮定すると、PSFは、次の数7に示す数式として表される。
【0063】
【数7】
【0064】
ここで、wは、1/e
2でのガウシアンビームスポット半径であり、Δkは、光源のガウシアンスペクトラムの1/e
2での最大幅であり、z
0は、干渉計におけるゼロディレイでの深さ位置である。
【0065】
信号相関係数は、以前の研究(例えば、X. Liu, Y. Huang, and J. U. Kang, “Distortion-free freehand-scanning OCT implemented with real-time scanning speed variance correction,” Optics Express 20, 16567-16583 (2012))に類似した手法で、次の数8に示す式(3)として書き換えられる。
【0066】
【数8】
【0067】
信号相関係数は、変位の関数として減少し、それは、ガウシアン関数に従う。つまり、相関係数は、変位量に対してガウス関数的に減衰する。式(3)を横方向の変位Δxについて解くと、次の数9に示す式(4)として表される。
【0068】
【数9】
【0069】
よって、式(3)からOCT画像の平面内での移動量は、相関係数の減衰から理論的に推定できる。
【0070】
軸方向の変位は、複素相関係数の位相ΔΦを得ることによって取得される。このドップラシフトは、アンラップされ、以下の数10の式(5)を用いた軸方向の変位に変換される。ここで、nはサンプルの屈折率、λは光源の中心波長、Φunwrappedは、アンラップされた位相シフトである。
【0071】
【数10】
【0072】
(処理動作)
<処理ステップ>
OCT Aラインは、スペクトル干渉縞のフーリエ変換を用いることによって取得される。スペクトルインターフェログラムは、波数空間においてリサンプルされ、再形成(reshaped)されてガウシアンプロファイルを持つ。
【0073】
その分散は、計算上補正される。複数のOCT Bスキャンは、下記数11の式で表されるように、サンプルの同一位置で繰り返しプローブビームを走査することによって取得される。ここで、Nは、Bスキャンの数である。
【0074】
【数11】
【0075】
本発明の変位測定装置及び測定方法によって、OCTBスキャン間において、空間的に分解された二次元変位を測定する。変位測定のための処理ステップは、
図1のフローチャートにおいて要約される。
【0076】
前処理において、分解能と、式(3)内の定数パラメータ(w;Δk;C)と、が求められる。分解能パラメータは、Bスキャンにおいて不変にセットされうる。しかし実際には、分解能パラメータは、収差による空間的な位置、散乱過程、ノイズの寄与、によって変化する。そこで、変位測定前の全画素に関するパラメータを求めてもよい。
【0077】
後処理では、相関係数、ドップラー位相シフト、求められたパラメータを用いて、全画素に関する横方向と軸方向の変位が計算されてもよい。各画素での変位は、Kx×Kzの画素ブロック
(微小領域)の中で近接する画素を用いて計算される。KxとKzは、それぞれ横方向と軸方向におけるKernelサイズである。
【0078】
<前処理>
前処理において、以下のステップをとることによってデータ処理される。最初のステップでは、相関係数ρsimulationは、参照Bスキャンと、デジタル処理によってシフトされたBスキャンと、の間で計算される。
【0079】
この目的のため、変位がない2つの連続するBスキャンg
r(x,y)とg
r+1(x,y)が選択される。一方は、参照Bスキャンとして用いられ、他方は、対象Bスキャンとして用いられる(
図1(ア)参照)。
【0080】
対象Bスキャンは、デジタル処理によってシフトされたBスキャンを生成するため、ゼロパッディング(zero-padding)を用いてリサンプルされる。ここで、対象Bスキャンは、横方向にシフトされる。シフトされたBスキャンは、次の数12の数式として示される。dは、一定の変位量である。
【0081】
【数12】
【0082】
g
r(x,y)とg
r+1(x+Δx
l,y)との間の相関は、次の数13に示す式(6)を用いて計算される(
図1(イ)参照)。ρ
cは、計算された相関係数であり、Rは参照Bスキャンの識別情報、Tは対象Bスキャンの識別情報である。
【0083】
【数13】
【0084】
ここで、例えば、7×7ピクセルのKernelサイズが用いられる。SNR
n(x,y)は、次の数14に示す式(7)によって与えられる。Nは、ノイズフロアである。
【0085】
【数14】
【0086】
この計算は、式(2)に基づくので、ノイズに対してよりロバストである。実際、ノイズフロアは、測定前に記録される。しかし、ノイズ成分は、確率論的である。計算されたSNRは、真のSNRといつも対応しない。同様なことは、計算された相関係数でも起こる。例えば、いくつかのケースにおいて相関係数が1より大きくなることがある。
【0087】
第2のステップでは、最小二乗フィッティングは、式(3)における横方向の分解能パラメータを見つけるために、全ての画素に関して行われる。
【0088】
第1のステップにおいて取得され、計算上シミュレートされた相関係数ρ
simulation(Δx
l、0)は、全ての画素に関して、数学モデルρ
s(Δx
l,0;C,w)にフィットされる。次の数15に示されるフィットされたパラメータは、下記の数16に示される等式(8)によって与えられる。
【0089】
【数15】
【0090】
【数16】
【0091】
同時に、上記処理ステップ1と2は、全ての画素に関して、軸方向の分解能パラメータΔkを見つけるために行われる。
【0092】
最後のステップでは、定数パラメータC´は、選択された連続するBスキャンg
r(x,y)とg
r+1(x,y)との間の相関によって決定される。結果として求められた次の数17で示されるパラメータは、ロバスト変位測定を提供する(
図1(ウ)参照)。
【0093】
【数17】
<後処理>
【0094】
後処理において、以下のようにデータ処理される。第1に、変位後に取得される対象Bスキャンg
t(x,y)が選択され(
図1(エ)参照)、相関係数ρ
measurement(x,y)(
図1(オ)参照)とドップラー位相シフトΔφ(x,y)(
図1(カ)参照)は、参照Bスキャンg
r(x,y)と対象Bスキャンg
t(x、y)との間で計算される。
【0095】
相関係数ρ
measurement(x,y)は、式(6)を用いて取得され、測定されたドップラー位相シフトΔφ(x,y)は、次の数18に示される式(9)によって与えられる(
図1(カ)参照)。
【0096】
【数18】
【0097】
測定された位相シフトは、優先順位付き経路追従法を用いてアンラップされる([20] D. C. Ghiglia and M. D. Pritt, Two-dimensional phase unwrapping: theory, algorithms, and software, (Wiley, New York, 1998). 参照)。
【0098】
軸方向の変位Δz(x,y)は、式(5)を用いてアンラップされた位相シフトから変換される(
図1(キ)参照)。横方向の変位Δx(x,y)は、測定された相関係数ρ
measurement(x,y)、測定された軸方向の変位Δz(x,y)、求められた次の数19に示される定数及び分解能パラメータを式(4)に代入することによって取得される(
図1(ク)参照)。
【0099】
【数19】
【0100】
(実験例)
本発明に係る光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定装置及び測定方法の効果を確認するために、本発明者らは実験を行った。以下、その実験例について説明する。
【0101】
実験装置として利用した光コヒーレンストモグラフィーは、
図2に示したFD−OCT1である。その具体的な仕様等について以下説明するが、もちろん、以下の装置は、実験装置を具体的に示したに過ぎず、本実施形態の装置は、下記の実験装置に限定されない。
【0102】
実験装置のFD−OCT1としては、広帯域光源2として1μmSLD光源(スーパー・ルミネッセント・ダイオード)を使用したSD−OCT(スペクトラルドメインOCT)が用いられる。
【0103】
使用した1μmSLD光源は、1.02μmの中心波長を持ち、100nmのスペクトル帯域を持つ。理論的な軸方向の分解能は、組織の中で3.4μmであり、測定された軸方向の解像度は、組織の中で5.9μmであった。
【0104】
光源からの光は、ビームスプリッター5(例えば、50/50ファイバーカップラ)によって分割され、サンプル(物体)アームと参照アームに送られる。サンプルアームにおいて、光は、OCTのBスキャンを取得するために、ガルバノミラー7によって横方向に走査される。
【0105】
画像サイズは、1024画素(水平)×512画素(垂直)である(1.5mm×1.3mm)。スペクトラル干渉縞は、分光器(スペクトロメータ)4によって検出される。スペクトロメータには、高速InGaAsラインセンサが用いられた。
【0106】
実験装置は、91,911 A−scans/sのラインレートで駆動される。プローブビームパワーは、1.86mW、測定された感度は、2.2dbの再結合損失を含む93dbであった。
【0107】
被計測物体8として組織ファントム(phantom)(疑似組織)を使用し、これは、
図2(a)に示すように、サンプルアームで測定される。ファントムは、ゼラチン粉10g、intralipid(脂肪乳剤イントラリピッド)、温水50mlによって作成された。
【0108】
組織ファントムは、移動ステージによって変位される。最大移動範囲は20μmであり、その際の軸上の絶対精度が1μmである。対物レンズの焦点距離は、16mmであり、ガウシアンビームウェストサイズは、10μmであった。
【0109】
また、被計測物体8として豚眼の網膜を使用し、これも、
図2(b)に示すように、サンプルアームで測定された。豚眼は、死後12時間内に摘出され測定された。532nmのレーザ照射光学系100からの光凝固レーザーは、豚眼を照射するために用いられる。レーザ出力は、0.2mW、照射時間は、0.02秒であった。
【0110】
光凝固レーザーと広帯域光源2からのOCT照射ビームとの中心軸は、
図2(b)に示すように、同軸に位置合わせされる。レーザが照射された組織は、照射スポットの中心から膨張あるいは収縮し、横方向の変位は、照射ビームの軸を中心に軸対称となると推測される。
【0111】
相関係数を用いた変位測定は、実験的に確認された。移動ステージに配置された組織ファントムは、複数のBスキャンを取得中において、段階的に、横方向又は軸方向に変位される。
【0112】
サンプルの位置は、0.2μmの大きさで増加され、各位置で毎回16Bスキャンが取得される。全体として、256Bスキャンが取得され、変位の合計は、3μmであった。変位は、参照Bスキャンと他のBスキャンとの間で測定された。
【0113】
相関係数は、式(6)を用いて、参照Bスキャンと他のBスキャンとの間で計算される。計算上シミュレートされた相関係数は、上記のように、参照Bスキャンと、デジタル処理によってシフトされたBスキャンと、の間で計算される。それらは、
図3(a)に示されるように、ランダムに選択された位置で観察される。
【0114】
測定された相関係数(
図4において矩形の棒状部に示される)と、計算上シミュレートされた相関係数(線と棒状部の交点で示される)は、
図4に示すように、変位の関数としてプロットされる。なお、
図4(a)は組織ファントムについての結果であり、
図4(b)は豚眼の網膜に関する結果である。
【0115】
計算上シミュレートされた相関係数は、単調に減少し、測定された相関係数と一致する。それらの結果は、相関係数の低下が、サンプルの位置に依存していることを示している。これは、最小二乗フィッティングが、全ての画素に対して要求されることを示している。
【0116】
しかしながら、もし、ある閾値を変位が超えると、非相関の影響が重大となる。相関係数は、振動を開始し、もはや信頼性がなくなる。そこで、フィッティングは、信頼性がある範囲内でのみ行われる。この制限は、本手段の測定可能範囲を示している。実験装置のシステムでは、閾値は、大体、10μmより少なかった。フィッティングの範囲は、3μmより少なかった。
【0117】
なお、レーザ照射された被計測物体である組織ファントム、豚眼の網膜等の変位は、数ミクロンよりも小さいことが予想されるので、測定範囲の制限は、大きな問題ではない。つまり、本発明の変位測定装置及び測定方法は、温度膨張のモニタリングに適している。
【0118】
測定された横方向と軸方向の変位は、移動ステージの位置検知出力と比較され、全てのBスキャンに関して記憶される。横方向と軸方向の変位測定の能力は、
図3(b)に示されるように、選択された関心領域において評価される。強度が10dbより少ない画素と、移動ステージの過渡的な反応(transient response)を受けた画素は、無視される。
【0119】
以下のパラメータは、変位を取得するために用いられる。
【0120】
【数20】
【0121】
上記数20で示されるパラメータは、計算上シミュレートされた相関係数を、数学的なモデル関数にフィッティングすることによって与えられる。
【0122】
【数21】
【0123】
上記数21で示されるパラメータは、測定された相関係数を、数学的なモデル関数にフィッティングすることによって与えられる。
【0124】
【数22】
【0125】
上記数22で示されるパラメータは、従来(conventionally)で使用されるように一定に設定される。変位測定の能力は、
図5に要約される。
図5(a)は測定された横方向における変位をリニアにプロットしたものであり、上記関心領域での最頻値がプロットされている。
【0126】
図5(b)は測定された横方向の変位のRMSエラーがプロットされている。
図5(c)は測定された軸方向の変位のリニアなプロットである。
図5(d)は測定された軸方向の変位のRMSエラーのプロットである。
【0127】
【数23】
【0128】
上記数23に示されるフィッティングされたパラメータは、最小のRMSエラーを提供する。
【0129】
【数24】
【0130】
上記数24に示されるフィッティングされたパラメータは、最大のRMSエラーを示した。
【0131】
言い換えれば、固定されたパラメータを用いて測定された変位は、より大きな変化があった。それは、パラメータの算出がロバストな変位測定に導くことを示している。
【0132】
一方、フィッティングされた次の数25に示されるパラメータは、固定されたパラメータよりも良い能力を示した。それは、本発明の変位測定装置及び測定方法が、ロバストな変位測定が可能であることを示している。RMSエラーは、2.8μmの変位で、0.6μmより少ない。
【0133】
【数25】
【0134】
位置センサーからの大きなずれは、0.4μmより小さな変位で見つかった。これは、1より大きな相関係数の変位は、0に強制的に変換されるためである。
【0135】
また、フィッティングされた次の数26に示されるパラメータの場合、位置センサーからのずれは、変位と共に増加する。これは、主に、計算上のシミュレーションが、追加的なノイズの寄与を考慮しないからである。
【0136】
【数26】
【0137】
レーザ照射は、Bスキャンの連続が取得される間において、豚眼の網膜に行われた。レーザ照射による温度に伴う組織の変化は、OCT強度、ドップラー位相シフト、相関係数、及び変位マップによってモニタリングされる。色分けされた変位マップは、色(Hue)が、ずれの方向を示し、その彩度が、変位の大きさを示しており、明度は、OCT強度によって与えられる。
【0138】
レーザ照射中の代表的な画像は、
図6に示される。
図6(a)はOCTのBスキャンの強度画像であり、
図6(b)はHSL(色相(Hue)、彩度(Saturation)、輝度(Lightness/Luminance または Intensity))での変位マップであり、マップのHueと膨張は、変位ベクトルの方向と大きさによって与えられる。
【0139】
図6(c)は測定された相関係数を示す画像であり、
図6(d)は測定されたドップラー位相シフトを示す画像であり、アンラッピング前のドップラー位相シフトを示す画像である。
【0140】
これらの画像からみて、また、組織ファントムについて動的な温度変化が、見られた。また、内網膜での大きな位相シフトと、網膜色素上皮複合体(RPE complex)での重大な相関係数の低下と、が見られた。OCT強度は、十分な変化を示さなかった。測定された変位は、明らかに変位マップによって視覚化された。
【0141】
豚の網膜等についての横方向と縦方向の変位は、
図7(a)と
図7(b)にそれぞれ示された。内網膜層の照射領域は、
図7(a)に示すように軸方向に変位される。網膜色素上皮複合体は、
図7(b)に示すように、非常に大きく、横方向に変位された。
【0142】
時間依存性を理解するため、内網膜層の軸方向での変位と、網膜色素上皮複合体の横方向での変位は、
図8に示すように、BスキャンIDの関数としてプロットされた。変位の増加は、レーザ照射中において明らかである。冷却状態において、軸方向における変位の緩やかな減少が見受けられ、漸近的に一定値に向かっている。一方、横方向の変位は増加した状態のままであり、軸方向の変位よりも十分に大きい。
【0143】
<レーザ照射中の温度変化>
図8に示すように、豚の網膜内層の軸方向における変位の緩やかな減少は、レーザ照射後だけに見られた。横方向の変位は、増加した状態のままであり、軸方向の変位より十分に大きかった。
【0144】
それは、凝固レーザは、RPE複合体の散乱・吸収分布を大きく変形させ、非弾性変形を生じさせることを示している。変形は、横方向の変位から区別することは不可能であるがこの結果は、本発明に係る光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定装置及び測定方法がレーザ照射された組織の直接的な温度変化を検出するのに有用である事を示している。
【0145】
(変形例)
なお、上記説明では、FD−OCT1として、広帯域光源2及び分光器4を用いたSD−OCT(スペクトラルドメインOCT)を例にして説明したが、これに限定されない。例えば、FD−OCT1として、波長走査型光源及びポイントセンサを用いたSS−OCT(スウィプトソースOCT)であっても、本実施形態の本発明に係る光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定装置及び測定方法の適用は可能である。
【0146】
以上、本発明に係る光コヒーレンストモグラフィーによる変位測定装置及び測定方法を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。