特許第6480135号(P6480135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社槌屋の特許一覧 ▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許6480135シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法
<>
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000004
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000005
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000006
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000007
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000008
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000009
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000010
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000011
  • 特許6480135-シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480135
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20190225BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20190225BHJP
   B29C 51/00 20060101ALI20190225BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20190225BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190225BHJP
   B32B 27/02 20060101ALI20190225BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   B32B27/12
   B29C51/08
   B29C51/00
   H02K3/30
   B32B27/00 A
   B32B27/02
   H02K3/34 B
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-194924(P2014-194924)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-64586(P2016-64586A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】林 秀共
(72)【発明者】
【氏名】成子 聡
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−208464(JP,A)
【文献】 特開2014−099282(JP,A)
【文献】 特開2011−229283(JP,A)
【文献】 特開2010−024574(JP,A)
【文献】 特開平08−197690(JP,A)
【文献】 特開2011−173418(JP,A)
【文献】 特開2011−004565(JP,A)
【文献】 特開2000−197295(JP,A)
【文献】 国際公開第03/091015(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 51/00−51/28、51/42、51/46
H02K 3/30−3/52、15/00−15/02
H02K 15/04−15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を用いて成形した次元成形体であって、少なくとも一部に延伸率が5%以上300%以下の延伸成形部位を有する成形体。
【請求項2】
さらに、1又は2以上の屈曲角度が5度以上180度以下の屈曲部を有しており、前記1又は2以上の屈曲部の端縁に沿って前記延伸成形部位を有する、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記延伸成形部位は、フランジ形状、絞り形状及び折り曲げ形状から選択されるいずれかの形状を有する、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記延伸成形部位の絶縁破壊電圧は、6kV以上12kV以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
電気絶縁用である、請求項1〜4いずれかに記載の成形体。
【請求項6】
コアに巻き付けられたコイルを絶縁するためのコア絶縁部材であって、
DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の絶縁性の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を用いて成形した三次元成形体からなり、
前記コアのスロットに対して絶縁するスロット絶縁部と前記スロットの延在方向の端面に対して絶縁するスロット端面絶縁部とを備える、コア絶縁部材。
【請求項7】
DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を用いて成形した三次元成形体の製造方法であって、
長方形状の前記シート状積層体の長手方向の所定範囲にわたって伸びる凹状の屈曲部を付与可能なスリット状成形凹部を有する凹型と、前記スリット状成形凹部に対向してその内部に挿入される凸状の成形凸部を有する凸型と、を用い、
前記シート状積層体を、前記長手方向の少なくとも一方の端部を所定量前記スリット状成形凹部から突出させつつ前記スリット状成形凹部表面に沿った状態でセットして、前記凹型と前記凸型により前記シート状積層体に前記屈曲部を形成する工程と、
前記シート状積層体の前記スリット状成形凹部から突出する前記端部を外側に折り曲げつつ延伸して前記屈曲部の周縁に沿うフランジ部に形成する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項8】
前記フランジ部形成工程は、前記スリット状成形凹部の形状におおよそ倣って凹状部に形状付与された前記端部の前記凹状部の開口側から底部側に向かって開口端縁側から前記凹状部の底部に移動する治具で前記端部を前記フランジ部に形成する工程である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記フランジ部形成工程は、前記屈曲部形成工程と同時に実施する、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記三次元成形体は、コアに巻き付けられたコイルを絶縁するためのコア絶縁部材であって、
前記屈曲部は、前記コアのスロットに対して絶縁するスロット絶縁部であり、前記フランジ部は、前記スロットの延在方向の端面に対して絶縁するスロット端面絶縁部である、請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示はシート状積層体の三次元成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機等におけるステータは、コアとコイルとコア絶縁部材を備えている。こうした絶縁部材は、従来、樹脂フィルムを絞り成形や折り曲げ加工などするなどして製造されている(特許文献1)。また、一般的な樹脂成形によっても所定形状の絶縁体を形成することができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−239787号公報
【特許文献2】特開2002−199641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、絞り成形や曲げ加工による場合には、形状の自由度にも限界があり、特に小型化には不利となる場合もあった。また、延伸成形する場合には、成形加工後に、成形端部のトリミングが必要であり、製造工程を煩雑にしてしまう。さらに、特許文献2のような樹脂成形品の場合には、薄肉化には限界があった。
【0005】
そこで、本明細書の開示は、延伸成形部位を有しかつ形状精度の高い三次元形状を有するシート状積層体の3次元成形体を提供することを1つの目的とする。また、本明細書の開示は、形状精度の高い三次元形状を有するシート状積層体の三次元成形体を延伸成形により簡易に製造する方法を提供することを他の1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、一定の結晶化熱量以上の熱可塑性樹脂シートに対して一定の結晶化熱量以上の不織布層が接着材を介さずに積層されているシート状積層体を用いることで、延伸成形部を有しながらも、例えば、成形後のトリミングなどが不要であるなど、形状精度の高い、三次元成形体が得られることがわかった。こうした知見に基づき、本明細書によれば以下の手段が提供される。
【0007】
(1)DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を成形してなる三次元成形体であって、少なくとも一部に延伸率が5%以上300%以下の延伸成形部位を有する成形体。
(2)さらに、1又は2以上の屈曲角度が5度以上180度以下の屈曲部を有しており、前記1又は2以上の屈曲部の端縁に沿って前記延伸成形部位を有する、(1)に記載の成形体。
(3)前記延伸成形部位は、フランジ形状、絞り形状及び折り曲げ形状のいずれかの形状を備える、(1)又は(2)に記載の成形体。
(4)前記延伸成形部位の絶縁破壊電圧は、6kV以上12kV以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の成形体。
(5)電気絶縁用である、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形体。
(6)コアに巻き付けられたコイルを絶縁するためのコア絶縁部材であって、
DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の絶縁性の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を成形してなる三次元成形体からなり、
前記コアのスロットに対して絶縁するスロット絶縁部と前記スロットの延在方向の端面に対して絶縁するスロット端面絶縁部とを備える、コア絶縁部材。
(7)DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を成形してなる三次元成形体の製造方法であって、
長方形状の前記シート状積層体の長手方向の所定範囲にわたって伸びる凹状の屈曲部を付与可能なスリット状成形凹部を有する凹型と、前記スリット状成形凹部に対向してその内部に挿入される凸状の成形凸部を有する凸型と、を用い、
前記シート状積層体を、前記長手方向の少なくとも一方の端部を所定量前記スリット状成形凹部から突出させつつ前記スリット状成形凹部表面に沿った状態でセットして、前記凹型と前記凸型により前記シート状積層体に前記屈曲部を形成する工程と、
前記シート状積層体の前記スリット状成形凹部から突出する前記端部を外側に折り曲げつつ延伸して前記屈曲部の周縁に沿うフランジ部に形成する工程と、
を備える、製造方法。
(8)前記フランジ部形成工程は、前記スリット状成形凹部の形状におおよそ倣って凹状部に形状付与された前記端部の前記凹状部の開口側から底部側に向かって開口端縁側から前記凹状部の底部に移動する治具で前記端部を前記フランジ部に形成する工程である、(7)に記載の製造方法。
(9)前記フランジ部形成工程は、前記屈曲部形成工程と同時に実施する、(7)又は(8)に記載の製造方法。
(10)前記三次元成形体は、コアに巻き付けられたコイルを絶縁するためのコア絶縁部材であって、
前記屈曲部は、前記コアのスロットに対して絶縁するスロット絶縁部であり、前記フランジ部は、前記スロットの延在方向の端面に対して絶縁するスロット端面絶縁部である、(7)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本明細書に開示されるシート状積層体の三次元成形体の一例を示す図である。
図2A】本明細書に開示される三次元成形体を製造するための成形型の一例を示す図である。
図2B】本明細書に開示される三次元成形体を製造するための成形型の一例を示す図である。
図2C】本明細書に開示される三次元成形体を製造するための成形型の一例を示す図である。
図3】本明細書に開示される三次元成形体の製造工程の一例を示す図である。
図4】本明細書に開示される三次元成形体の製造工程の一例を示す図である。
図5】実施形態の積層体の成形品の斜視図である。
図6】実施例で深絞り成型性を評価するために使用した円柱状プレス金型の概略図であり、(A)がプレス前の状態を示し、(B)がプレス後の状態を示している。を示す図である。
図7】積層体の厚みと絶縁破壊電圧(BDV)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の開示は、シート状積層体の三次元成形体及びその製造方法に関する。本明細書に開示される三次元成形体は、結晶化熱量を特定した熱可塑性樹脂シートと同様に結晶化熱量を特定したポリフェニレンサルファイド繊維を含む湿式不織布層とを接着材を介さずに積層したシート状積層体からなる。このシート状積層体は、優れた延伸性を有するほか、精度の高い成形加工が可能であるため、延伸成形してもその後のトリミング加工なくても、意図した三次元形状の延伸成形部位を備えることができる。
【0010】
また、本発明の成形体は、特定の結晶化熱量を有する、いわゆる非晶部分の多い熱可塑性樹脂シートを積層して得られたシート状積層体を結晶化温度まで加熱しながら成形されたものである。このシート状積層体は、融点近傍までの高温時形状安定性が高く,且つ三次元加工性に優れるため、本発明の成形体は、高い形状精度を有する3次元成形体となっている。また、高い形状精度及び積層構造の確実な維持により、例えば、電気絶縁性等にも優れる効果を奏する成形体となっている。
【0011】
また、本明細書に開示される三次元成形体の製造方法は、所定の長方形状のシート状積層体の所定範囲に屈曲部を形成するとともに、当該屈曲部に続く端部に延伸成形を行うことで、その後のトリミングが不要な程度に形状精度の高い三次元成形体を得ることができる。
【0012】
こうしたことから、本明細書に開示される三次元成形体は、高い形状精度、薄さ、強度及び絶縁性が求められる回転機等の絶縁部材として有用である。
【0013】
本発明の三次元成形体は,特定の結晶化熱量を有する、いわゆる非晶部分の多いシート状積層体を結晶化温度まで加熱しながら成形するため,融点近傍までの高温時形状安定性が高く,且つ三次元加工性に優れ形状精度,電気絶縁性に優れる効果を奏する。
【0014】
以下、本明細書に開示される各種の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(三次元成形体)
本明細書に開示される三次元成形体は、DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を成形してなる三次元成形体である。本明細書に開示されるシート状積層体は、熱可塑性樹脂シートと湿式不織布層とを備えて良好な可撓性と強度を有しつつ、優れた成形加工性を備えているため、本三次元成形体を得るのに適している。なお、シート状積層体については後段で詳述する。
【0016】
本三次元成形体は、少なくとも一部に延伸成形部位を有することができる。延伸成形部位の形状、部位については限定しない。延伸成形部位は、いわゆるフランジ部のように、張り出して形成されていてもよいし、さらに、後述する屈曲部の周縁を折りたたみ線として張り出し状にフランジ部として備えられていてもよい。個数については特に限定しない。また、本三次元成形体は、さらに、1又は2以上の屈曲部位を備えていてもよい。本明細書において屈曲部位は、延伸成形であってもよいし、曲げ成形であってもよい。さらに、延伸成形による屈曲部位と曲げ成形による屈曲部位とを備えていてもよい。
【0017】
本三次元成形体は、線状の屈曲部を有する場合、当該屈曲部を中心として開閉可能な可撓性を備えることができる。こうした可撓性を有することで、本三次元成形体を狭い箇所に挿入したり、適切にフィットさせたりすることができる。
【0018】
本三次元成形体は、例えば、回転機等の電気絶縁部材としてもよい。この種の絶縁部材は、典型的には、コアに巻き付けられたコイルを絶縁するためのコア絶縁部材である。例示であって限定するものではないが、コア絶縁部材の一例を図1に示す。図1に示すコア絶縁部材2は、シート状積層体1からなり、コアのスロットに対して絶縁するスロット絶縁部4とスロットの延在方向の端面に対して絶縁するスロット端面絶縁部6とを備えることができる。
【0019】
スロット絶縁部4は、スロットの形状に応じた断面略コの字状であって、長尺方向に沿って折りたたまれて(曲げて)形成されている。また、スロット端面絶縁部6は、スロット絶縁部4の長尺方向の両端において略コの字の端縁に沿って外側に折りたたまれる(曲げられる)とともに略コの字状の底部近傍では略半円状に延伸されてフランジ状に形成されている。
【0020】
スロット端面絶縁部6は、スロット絶縁部4の対向する端縁から外側に押し広げられた第1のフランジ部7aと、スロット絶縁部4の略コの字状の底部近傍で外側に略半円状に押し広げられた第2のフランジ部7bとを備えている。第1のフランジ部7aは、主として曲げ成形、第2のフランジ部7bは主として曲げ成形と延伸成形とで形成されている。スロット絶縁部4の形状及びサイズ、スロット端面絶縁部6の形状及びサイズは、適宜変更される。
【0021】
絶縁部材2のスロット絶縁部4及びスロット端面絶縁部6は、意図した形態に精度よく成形されているためにスロット等に対する良好な追従性を備えるほか、絶縁性も優れている。例えば、スロット端面絶縁部6においても、絶縁破壊電圧として6kV以上12kV以下を備えることができる。
【0022】
こうしたコア絶縁部材によれば、スロット絶縁部の屈曲部分において可撓性を有しており、コアのスロットにスロット絶縁部を容易に挿入することができるとともに、コア内側面に密着させることができる。また、同様にスロット端面絶縁部をスロット端面に密着させることができる。さらに、シート状積層体は繊維を含むため良好な強度も備えている。
【0023】
本三次元成形体は、モーター、オルタネータ、トランスといった電気機器の電気絶縁シートとしても用いることもできる。
【0024】
(三次元成形体の製造方法)
本明細書に開示される三次元成形体の製造方法は、DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体を成形してなる3次元成形体の製造方法である。本製造方法によれば、シート状積層体を用いて、延伸率が5%以上300%以下の延伸成形部位を備える三次元成形体を簡易にかつ高い形状精度で製造することができる。より好ましくは20%以上40%以下である。なお、延伸率は長さ基準であり、延伸による増加分を規定している。
また、本製造方法の好ましい態様によれば、シート状積層体を用いて、屈曲角度が5度以上180度以下の屈曲部と延伸率を備える三次元成形体を簡易にかつ高い形状精度で製造することもできる。屈曲角度は、より好ましくは60度以上150度以下である。
【0025】
本製造方法は、予め所定の長方形状に加工されたシート状積層体を用いることができる。予め所定形状に加工された特定構成のシート状積層体を用いることで、曲げ成形及び延伸成形後のトリミング加工を回避することができる。
【0026】
シート状積層体に付与された所定の長方形状は、特に限定されない。屈曲部と当該屈曲部の端縁における延伸成形によるフランジ部の形態に応じて設定される。なお、長方形状というシンプルな形態であるために、シート状積層体の切断加工が容易であり、また、より大きなシート状積層体をトリミング加工するにも、予めシート状積層体を所定の長方形状に製造するにも、工程を簡略化することができる。
【0027】
本製造方法は、シート状積層体の成形工程に先立って、シート状積層体を所定の長方形状に加工する切断加工(トリミング)する工程を備えていてもよい。
【0028】
(成形型)
本製造方法は、所定の長方形状のシート状積層体の長手方向の所定範囲にわたって伸びる凹状の屈曲部を付与可能なスリット状の成形凹部を有する凹型と、前記スリット状成形凹部に対向して挿入される凸状の成形凸部を有する凸型と、を用いることができる。こうした凹型と凸型とを備える成形型を用いることで、シート状積層体を簡易に曲げ成形して所定の屈曲部を付与することができる。
【0029】
また、成形型は、端部の略コの字状の開口側から底部側に向かって移動する治具でフランジ部を備えることができる。
【0030】
例示であって限定するものではないが、図2A図2Cに、成形型10の一例を示す。図2Aに示すように、凹型12は、型中央部において得ようとする凹状屈曲部の形状に応じたスリット状の成形凹部14を有している。また、凸型16は、成形凹部14と対向状に、当該凹部14に挿入される成形凸部18を有している。凹型12と凸型16とは、成形凹部14内に成形凸部16が配置されるように相対移動されるように構成されている。図2A図2Cに示す形態では、固定された凹型12に対して凸型16が移動するようになっている。これらの凹型12と凸型16とは、それぞれ曲げ成形に寄与する成形部分を構成している。
【0031】
さらに、図2Bに示すように、成形型10の成形凹部14が開口している双方の端面12a、12bに近接して、後述するフランジ部を形成するための治具としての延伸成形部20、30が配設されている。
【0032】
延伸成形部20は、凹型12側に突出する第1の延伸部22と第1の延伸部22の凸型16側に備えられる第2の延伸部24とを備えている。第1の延伸部22は、端面12a、すなわち、後述する成形時において成形凹部14から略コの字状に突出したシート状積層体の端部のコの字状底部近傍を外側方向に屈曲しつつ延伸するようになっている。また、第2の延伸部24は、同様に、シート状積層体の端部の略コの字状の側面相当部分を外側方向に屈曲しつつ延伸するようになっている。これら2つの延伸部22,24により、シート状積層体の凹型12の成形凹部14から突出される端部は、フランジ状に延伸成形される。
【0033】
図2Cに示すように、第1の延伸部22は、凹型12の端面12aに沿って成形凹部14の深さに対応する長さで延在するとともに、成形凹部14で成形されたシート状積層体の略コの字状端部に挿入可能な幅を有し、さらに、成形凹部14の長手方向に所定の奥行きを持った扁平な概ね板状体に形成されている。また、第1の延伸部22は、その成形凹部14に対向する端面である成形面23が、先端側から基部に近接するほど、端面12aに向かって張り出すように形成されている。
【0034】
第2の延伸部24は、第1の延伸部22の基部に連続して一体化されている。また、第2の延伸部24は、成形凹部14の長手方向にそって第1の延伸部22と同様の奥行きを持って形成されている。第2の延伸部24は、シート状積層体の主として成形凹部14の内側面に沿う部分を左右に開拡するように延伸成形するための成形面として、第1の面25、第2の面27及び第3の面29を備えている。第1の面25は、凹型12の端面12a側に、第1の延伸部22の成形面23に連続して凹部12の端面12aに近接してほぼ平行に配置され、成形凹部14に挿入可能な程度の幅であって成形凹部14の深さ方向に所定長さで細長く伸びる長方形状に形成されている。第2の面27は、第1の面25に連続して凸型16方向に逆二等辺三角形状に形成されている。第3の面29は、第2の面27の等辺である2つの側辺から凹型12の端面12aから遠ざかるように傾斜面29a、29bから構成されている。
【0035】
延伸成形部30も、他方の端面12bに対して延伸成形部20と同様に構成されている。こうした延伸成形部20、30は、凸型16の凹型12への移動に伴ってあるいは独立して凹型12方向へ移動するように構成されている。例えば、凸部14の移動より少し遅れて凹型12に移動するように構成されていてもよいし、凸部14の移動と同時に凸部14の先端と第1の延伸部22、32の先端とが同じ移動位置を保って移動するように構成されてもよい。さらに、凸部14の移動が完全に終了後に、延伸成形部20、20が移動するように構成されていてもよい。なお、凹型12と凸型16は相対移動により意図した型合わせ状態となればよく、凹型12と凸型16の移動方向を特に限定するものではない。
【0036】
凹型12、凸型16、延伸成形部20、30は、いずれも、シート状積層体を成形できる程度に加熱可能に、例えば、金属等の材料で形成されている。また、成形及び脱型が可能に少なくとも相対移動が可能に構成されている。さらに、凹型12と凸型16において、あるいは延伸成形部20,30と凹型12の端面12a、12bに対して、必要に応じて圧力を付与できるようになっている。
【0037】
(屈曲部形成工程及びフランジ部形成工程)
屈曲部形成工程は、所定の長方形状のシート状積層体を、長手方向の少なくとも一方の端部が所定量成形凹部から突出しつつ成形凹部表面に沿った状態でセットして、凹型と前凸型によりシート状積層体に屈曲部を形成する工程とすることができる。また、フランジ部形成工程は、シート状積層体の成形凹部から突出する端部を外側に折り曲げつつ延伸して屈曲部の周縁に沿うフランジ部に形成する工程とすることができる。記フランジ部形成工程は、成形凹部の形状におおよそ倣って略コの字状に形状付与された端部の略コの字状の開口側から底部側に向かって移動する治具でフランジ部に形成する工程としてもよい。
【0038】
これらの工程により、屈曲部の端縁に沿って延伸成形部位としてのフランジ部を備える三次元成形体を一挙に得ることができる。なお、曲げ成形、延伸成形にあたっては、形状を付与するほか、成形型や延伸成形部を適宜加熱したり、適度に加圧したりすることを含むことができる。また、加熱後には、冷却(放冷を含む)をすることを含むことができる。
【0039】
以下、説明のために、図1に示す絶縁部材の製造工程を例示する図3及び図4を参照しつつ、本明細書に開示する成形型を用いてシート状積層体1を成形する工程を説明する。
【0040】
まず、図3(a)に示す凹型12、凸型16、延伸成形部20、30を、100℃〜120℃程度に加熱する。加熱温度は例示であって限定するものではないが、シート状積層体が曲げ成形及び延伸成形可能な温度であればよい。本明細書開示のシート状積層体であれば、100℃以上120℃以下で十分に曲げ成形及び延伸成形が可能である。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、所定の長方形状のシート状積層体1の長手方向の双方の端部1a、1bが所定量成形凹部14から突出させるようにして成形凹部14表面に沿った状態でセットする。シート状積層体1は、可撓性を有しているため、成形凹部14の内表面に沿って密着するようにセットされる。なお、図3(a)及び図3(b)では、延伸成形部20、30は、工程をわかりやすくするため省略して示すが、凹型12の端面12a、12bに沿ってそれぞれ配設されている。
【0042】
(屈曲部成形工程)
次に、図3(c)に示すように、まず、凸型16を凹型12方向に移動させて、成形凸部18をスリット状成形凹部14に挿入する。これにより、シート状積層体1に略コの字状の屈曲部であるスロット絶縁部4が形成される。また、スロット絶縁部4に倣って、凹型12の端面12a、12bが突出されたシート状積層体1も略コの字状に形状付与される。
【0043】
(フランジ部成形工程)
次いで、図3(d)及び図4(a)に示すように、延伸成形部20、30の第1の延伸部22、32と第2の延伸部24、34が、凹型12の端面12a、12bにおいて突出されたシート状積層体1の略コの字状に仮成形された端部1a、1bの底部を指向して移動させる。
【0044】
延伸成形部20、30の移動に伴う第1の延伸部22、32の移動により、成形面23、33が、端部1a、1bを、シート状積層体1の端部1a、1bの底部の最も端縁に近い側から、徐々に第1の延伸部22、32の移動方向(図面においては下方)へと屈曲し始めて、次いで、第2の延伸部24,34の第1の成形面25,35、さらに引き続いて第2の成形面27,37によって、スロット絶縁部4の第2のフランジ部7bを形成する。
【0045】
同時に、第2の延伸部24、34の第3の成形面29a、29b、39a、39bが、シート状積層体1の略コの字状の端部1a、1bの側壁相当部分を徐々に端面12a、12bに対して押し広げながら、第2の成形面27、37が、端面12a、12bに端縁1a、1bの側壁相当部分を押し当てるように折りたたみ20〜30%延伸させてコア絶縁第1の3〜5mm幅のフランジ部7aを成形する。
【0046】
最終的には、図4(b)に示すように、第2の延伸部24、34の第2の成形面27、37が、シート状積層体1の端部1a、1bを、完全に端面12a、12bに対して押し広げるような状態で圧接した状態とする。
【0047】
この状態で延伸成形部20、30の移動を停止して、成形型10及び延伸成形部20、30が、例えば、50〜60℃になるまで放冷する。
【0048】
放冷後、脱型を行い、シート状積層体1の三次元成形体としてスロット絶縁部4とスロット端面絶縁部6とを備えるコア絶縁部材2を得ることができる(図3(d))。コア絶縁部材2は、トリミング加工しなくても、形状精度の高いスロット端面絶縁部6を備えている。
【0049】
なお、上記説明では、フランジ部形成工程に先だって屈曲部形成工程を実施したが、これに限定するものではなく、屈曲部形成工程とフランジ部形成工程とを同時に行ってもよい。その場合には、凹型12と凸型16との型合わせに伴って、延伸成形部20、30を、凹型12の端面12a、12bに沿って移動させて、フランジ部7を形成するようにすればよい。
【0050】
また、上記説明では、図1に示すコア絶縁部材2を図2に示す成形型10を用いて製造する工程を説明したが、本製造方法は、当該コア絶縁部材2を成形型10を用いて製造する方法に限定されるものではなく、シート状積層体に延伸成形部位を備える三次元成形体を製造する方法全般に適用されるものであり、他の成形型を用いて製造する方法にも適用されるものである。
【0051】
さらに、上記説明では、図1に示すコア絶縁部材2を図2に示す成形型10を用いて製造する工程を説明したが、本製造方法は、当該コア絶縁部材2を成形型10を用いて製造する方法に限定されるものではなく、シート状積層体に延伸成形部位を備える三次元成形体を製造する方法全般に適用されるものであり、他の成形型を用いて製造する方法にも適用されるものである。
【0052】
(シート状積層体)
本明細書に開示されるシート状積層体は、DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シートの少なくとも一面に、ポリフェニレンサルファイド繊維を含みかつDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の湿式不織布層が接着材を介さずに積層されたシート状積層体である。本発明の積層体は、電気絶縁用、加熱変形用又は耐熱用として利用可能である。
【0053】
本明細書に開示されるシート状積層体は、繊維シート層と樹脂シート層の両方が特定の結晶化熱量を有する非晶部分の多い状態とし、かつ、繊維シート層を抄紙法により製造し、その構造を均一化することで改善されるという知見に基づくものである。
【0054】
ここで、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層と熱可塑性樹脂シート層のどちらか一方でも、規定の構成、結晶化熱量の範囲を満たしていないと、積層体全体のシート伸度が低下し、成型時に破断し易くなるため、積層体とする、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層と熱可塑性樹脂シート層の両方が規定の構成、結晶化熱量の範囲内であることが重要である。さらに、湿式抄紙法により得られるポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層は、均一な構造体であるため、成型時の応力が不織布を構成する各繊維へ均一に伝わり、安定した成型結果が得られる。
【0055】
本発明における、DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上の熱可塑性樹脂シート層とは、熱可塑性樹脂を溶融成形してシート状またはフィルム状としたものであり、結晶化熱量が10J/g以上であるので、非晶性部分を多く有している。すなわち、シート状とした後、未延伸のものが好ましい。また、該熱可塑性樹脂シート層の厚みは2〜500μmであるものが絶縁材として好適に用いることができる。
【0056】
ここでDSC測定による結晶化熱量とは、示差走査熱量計を用いて、サンプルを微量精秤し、窒素下、昇温速度10℃/分で昇温し、観察される主発熱ピークの熱量を測定することにより得ることができ、結晶化熱量の数値が大きい程、非晶成分が多く残存していることを意味する。結晶化熱量が10J/g未満では、成型加工時に樹脂シートの伸びが乏しく、90℃以上170℃以下の加熱成型時の、深さ/絞り径比の値が0.5以上の深絞り成型が不可能となるか、あるいは、深さ/絞り径比の値が0.5の深絞り成型の収率が90%未満となる。
【0057】
前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも記す)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、PPS樹脂等があげられ、特にPPS樹脂は耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性などの諸特性に優れ、過酷な使用環境にも耐え得ることから、絶縁材として特に好適に用いることが出来る。
【0058】
ここで、PPSとは、繰り返し単位としてpーフェニレンサルファイド、単位m−フェニレンサルファイド単位などのフェニレンサルファイド単位を含有するポリマーである。本発明におけるPPS樹脂は、これらのいずれかの単位のホモポリマーでもよいし、両方の単位を有する共重合体でもよい。また、他の芳香族サルファイドとの共重合体であってもよいが、好ましくは繰り返し単位の70モル%上がpーフェニレンサルファイドからなるものである。かかる成分が少ないとポリマーの結晶性、熱転移温度等が低くなりPPSを主成分とする繊維やフィルムの特長である耐熱性、寸法安定性、機械特性が低下する。
【0059】
以下に、本発明で特に好ましく使用できる未延伸PPSフィルムについて説明する。
【0060】
本発明に好適に用いられる未延伸PPSフィルムとは、PPS樹脂組成物を、溶融成型してなる厚さ2〜500μmのフィルム、シート、板の総称であり、延伸されておらず、非晶部分の多い状態のシートである。そのため、高温下では、荷重をかけた際に変形し易く、非常に高伸度であり、高度な深絞り成型が可能となる。
【0061】
ここで、PPS樹脂組成物とは、前記PPSを70重量%以上、好ましくは80重量%以上含む樹脂組成物をいう。PPSの含有量が70重量%未満では、組成物としての結晶性、熱転移温度等が低くなり、該組成物からなるフィルムの特長である耐熱性、寸法安定性、機械特性および加工性等が低下する。
【0062】
また、該組成物中の残りの30重量%未満はPPS以外のポリマー、無機または有機のフィラー、滑剤、着色剤などの添加物を含むことができる。さらに、PPS系組成物の溶融粘度は、温度320℃、剪断速度200sec-1のもとで、50〜1200Pa・sの範囲がシートの成型性の点で好ましい。剪断速度200sec-1のもとで50〜1200Pa・sの範囲がシートの成型性の点で好ましい。
【0063】
未延伸PPSフィルムの製造方法について説明する。エクストルダーに代表される溶融押出機にPPS樹脂組成物を供給し、PPSの融点以上(好ましくは300〜 350℃の範囲)の温度に加熱し充分混練溶融した後、スリット状のダイから連続的に押出し、PPSのガラス転移点以下の温度まで急速冷却することによって、実質的に未配向のシートが得られる。
【0064】
本発明で用いる積層体は、上記熱可塑性樹脂シート層の少なくとも一面に、DSC測定による結晶化熱量が10J/g以上のポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層を接着剤を介さず積層したものである。
【0065】
本発明のPPS繊維湿式不織布層を構成するPPS繊維は、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、吸湿寸法安定性に優れているので、上記PPS樹脂を溶融紡糸して繊維化したものを原料とするのが好ましい。得られた湿式不織布、すなわちPPS繊維を抄紙して不織布としたものも同様の特長を有することができる。
【0066】
また、PPS繊維に用いるPPS樹脂の重量平均分子量としては、40000〜60000が好ましい。40000以上とすることで、PPS繊維として良好な力学的特性を得ることができる。また、60000以下とすることで、溶融紡糸の溶液の粘度を抑えることができ、特殊な高耐圧仕様の紡糸設備を必要とせずに済むので好ましい。
【0067】
本発明で用いるシート状積層体における結晶化熱量は10J/g以上であることが重要である。結晶化熱量が10J/g未満では、加熱成型時に積層体の伸びが乏しく、90℃以上170℃以下の加熱により、深さ/絞り径比の値が0.5以上の深絞り成型が不可能となるか、あるいは、深さ/絞り径比の値が0.5の深絞り成型の収率が90%未満となる。本発明で用いるPPS繊維湿式不織布は、延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維の両方を含むことができ、結晶化熱量を10J/g以上有する湿式不織布は、未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維を80質量%〜100質量%含むことで得ることができる。より成型性を高められる点から、未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維を90質量%〜100質量%含むことがさらに好ましい。
【0068】
未延伸PPS繊維はPPS樹脂をエクストルダー型紡糸機等で口金を通して溶融紡糸した後、概ね延伸することなく回収することで、得ることができる。
【0069】
また一方で延伸されたPPS繊維は、PPS樹脂をエクストルダー型紡糸機等で溶融紡糸した後、3.0倍以上、好ましくは5.5倍以下、さらに好ましくは3.5〜5.0倍の範囲で延伸することにより得ることができる。この延伸は1段で延伸してもよいが、2段以上の多段延伸を行ってもよい。2段延伸を用いる場合の1段目の延伸は総合倍率の70%以上、好ましくは75〜85%とし、残りを2段目の延伸で行なうのが好ましい。得られた未延伸PPS繊維および延伸されたPPS繊維は捲縮を付与せずにカットしでもよいし、捲縮を付与してカットしてもよい。
【0070】
また、捲縮の有無については、有するものと有しないものとのそれぞれに利点がある。捲縮を有する繊維は、例えば湿式不織布の製造において、繊維同士の絡合性が向上して強度の優れた湿式不織布を得るのに適している。一方、捲縮を有しない繊維は、水への分散性が良好で、あるので、ムラが小さい均一な湿式不織布を得るのに適している。
【0071】
本発明のポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布とは、PPS繊維から製造される湿式不織布状物であり、他の不織布製法であるスパンボンド法やニードルパンチ法等によって得られる乾式不織布対に比べ、均一構造の繊維シートが容易に得られ、成型加工において成型応力が構成繊維に均一に分散するため、応力集中が生じ難く、優れた成型加工収率が得られる。
【0072】
また、目的に応じ、本発明の効果を損じない限り、PPS繊維以外の他の繊維を含むことができる。例えば、セルロース及びポリエチレンテレフタレート、アラミド、ポリイミド、全芳香族ポリエステル、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、からなる繊維を含むことができる。他の繊維の配合量としては20質量%以下である。さらに、耐熱性、絶縁性を向上させる目的から、マイカ、酸化チタン、タルク、カオリン、水酸化アルミなどの鉱物系粒子を添加することができる。尚、湿式不織布層がPPS繊維以外の他の繊維を含む場合には、湿式不織布層全体としてDSC測定による結晶化熱量が10J/g以上となる必要がある。
【0073】
湿式不織布に使用するPPS繊維の単繊維繊度としては、いずれも0.05dtex以上10dtex以下が好ましい。細いと繊維同士が絡み易くなり均一に分散するのが難しくなる。太くなると、硬くなり、繊維同士の絡合力が弱くなるので、十分な紙力が得られず、破れ易い不織布になってしまう傾向がある。
【0074】
また、湿式不織布に使用するPPS繊維の繊維長としては、質量として90%以上が1〜20mmの範囲内とするのが好ましい。一定長さ以上とすることで、繊維同士の絡合により湿式不織布の強度を高くすることができる。また一定長さ以下とすることで、繊維同士がダマになるなどして湿式不織布にムラ等が生じるのを防ぐことができる。
【0075】
本発明に用いるPPS繊維湿式不織布の目付は、低目付としては、5g/m2以上、さらには10g/m2以上、一方、高目付としては200g/m2以下、さらには120g/m2以下であることが好ましい。厚みは、下限としては、5μm以上、さらには10μm以上、一方、上限としては、500μm以下、さらに300μm以下の範囲で、あることが好ましい。
【0076】
次に、前記のPPS繊維湿式不織布を製造する方法の一例を示す。ただし、本発明におけるPPS繊維湿式不織布の製造方法はこれに限定されるわけではない。また、本発明における湿式不織布とは、抄紙法により得られた不織布であり、抄紙法とは水と混ぜ合わせた繊維を網に載せ、圧力や熱で脱水することで不織布を得る一般的な方法である。
【0077】
まず、繊維を、水中に分散させ、抄紙スラリーをつくる。抄紙スラリー全体に対する繊維の合計量としては、0.005〜5質量%が好ましい。合計量を0.005質量%以上にすることで、抄紙工程で水を効率よく活用できる。また、5質量%以下にすることで繊維の分散状態が良くなり、均一な湿式不織布を得ることができる。
【0078】
延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維の両方を含む湿式不織布を製造する場合、抄紙スラリーは、延伸繊維のスラリーと未延伸繊維のスラリーとを別々に作ってから両者を抄紙機で混合してもよいし、最初から両者を含むスラリーを作ってもよい。それぞれの繊維のスラリーを別々に作ってから両者を混合するのは、それぞれの繊維の形状・特性等に合わせて撹排時間を別個に制御できる点で好ましく、最初から両者を含むスラリーを作るのは工程簡略の点で好ましい。
【0079】
抄紙スラリーには、分散状態を良好にするためにカチオン系、アニオン系、ノニオン系などの界面活性剤などからなる分散剤や油剤、また泡の発生を抑制する消泡剤等を添加してもよい。
【0080】
前記のように準備した抄紙スラリーを、円網式、長網式、傾斜網式などの抄紙機または手漉き抄紙機を用いて抄紙し、これをヤンキードライヤーやロータリードライヤー等で乾燥し、湿式不織布とすることができる。この後、得られた湿式不織布の表面平滑化、表面毛羽抑制、高密度化などのために、カレンダー加工を行ってもよいが、高度な熱圧着を行うと湿式抄紙を構成するPPS繊維の結晶化が進み、成型性が損なわれるため、結晶化熱量が10J/g以上を維持できる程度に抑えなければならない。このため、湿式不織布乾燥工程・カレンダー工程では、PPSの結晶化温度以上の熱を与えないことが好ましい。結晶化温度とは、示差走査熱量計、例えば「島津製作所製、DSC−60Jを用いて、サンプルを微量精秤し、窒素下、昇温速度10℃/分で昇温し、観察される主発熱ピークの温度を測定することにより得ることができる。
【0081】
湿式不織布の乾燥温度と湿式不織布のカレンダー温度とを例えば120℃未満とすることで、PPS繊維湿式不織布を構成するPPS繊維を非晶部分の多い状態のまま接合工程へ移ることができ、その結果、フィルム表面との密着力が高くなるため、成型加工を含む、後工程の加工時に繊維シート層とフィルム層が剥離し難くなる。
【0082】
本発明で用いる積層体は、前記の熱可塑性樹脂シート層の少なくとも一面に、前記のポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層を接着剤を介さず積層したものである。
【0083】
熱可塑性樹脂シート層とポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層のそれぞれ単独では、種々の問題により、積層体の絶縁シートとしての一般的な要求特性を満たすことができない。例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布単独では、繊維間に空隙を有しているため、電気絶縁性能が低く、絶縁シートとして機能しない。一方、熱可塑性樹脂シート単独は、通常電気絶縁性は問題ないが、絶縁システムへの組み込み作業で表面が傷付き易く、傷部分の絶縁性が低下する、または傷部分を起点に割れる、絶縁システムへ樹脂で固着する際に接着用樹脂との接着性が不足する、といった問題がある。最低1層以上の繊維シートと最低1層以上の熱可塑性樹脂シートが接合・積層されていることで、電気絶縁性、絶縁システムへの組み込み作業性、樹脂固着性、といった一般的な要求特性を満たすことができる。更に、熱成型加工においては、積層体により成型された絶縁シートの金型への貼り付きを防ぐことができ、金型から容易に取り出すことができる。
【0084】
次に上記方法により得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層と熱可塑性樹脂シート層との積層方法について説明する。本発明で用いる積層体は、非晶部分の多いポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層と非晶部分の多い熱可塑性樹脂シート層からなり、接着剤を使用せず、各層を直接熱接着することで得られる。接着剤を使用しないことで、積層体を構成する材料の熱成型性を阻害することなく、積層体としても優れた成型が可能となる。
【0085】
かような加熱処理としては、加熱ロールや加熱プレスによる方法があげられる。加熱温度としては90℃〜170℃が好ましい。加熱ロールの場合は、線圧1〜11.8kN/cm、速度1m/min〜40m/minの範囲が好ましい。かような工程を熱融着し、貼り合わせていく。このとき、高圧力であれば低温で貼り合わせることができ、高温であれば低圧力で貼り合わせることができる。また、高温であれば、高速度で貼り合わせることができ、低温であれば、低速度で貼り合わせることとなる。例えば、温度170℃超、線圧11.8kN/cm以上、速度1m/min未満で貼り合わせた場合、繊維シートがフィルム状となって融着し、繊維シートの密度が高度に高密度化し、電気絶縁体として使用するときの樹脂の含浸性が低下してしまう傾向がある。また折り曲げ加工時にフィルム化したポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層が割れ易くなる。また、例えば、温度90℃未満、線圧0.01kN/cm未満、速度40m/min以上で貼り合わせた場合、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層とフィルムの接着力が低く、実用に耐えない積層体となる。
【0086】
また、熱可塑性樹脂シート面及びPPS繊維湿式不織布面にコロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施し、表面に−CO−、−C=O、−COOHといった適切な官能基を導入することで、熱可塑性樹脂シート層とPPS繊維湿式不織布層とを、より低温・低圧・高速の条件によって接合できる。その結果、熱履歴を抑えることができ、非晶部分の多い状態の成型性に優れたシートを得られるため、好ましい。プラズマ処理は、処理ガスの選択により、ポリマー表面に導入される官能基の種類とその量を制御することができる点から、コロナ処理よりも好適である。プラズマ処理で選択できるガスの一例として、酸素ガス、酸素化合物ガス、アルゴンガス、アンモニアガス、ニトロ化合物ガス、またこれらの混合ガスなどが挙げられ、適宜選択して用いることができる。
【0087】
本発明で用いる積層体は、立体成型性に優れるものである。図5に積層体の成形品105を示す。尚、図5のAは絞り径を示し、図5のBは深さを示す。図5に示される代表的な成型形状である円筒深絞り成型において、金型温度:90℃以上170℃以下のいずれかの温度、加工速度:7.5mm/min、の条件で、深さ/絞り径比の値が0.5以上の深絞り成型が可能であり、かつ、深さ/絞り径比の値が0.5の深絞り成型の収率が90%以上である。さらに好ましくは、深さ/絞り径比の値が0.7以上の深絞り成型が可能であり、かつ、深さ/絞り径比の値が0.7の深絞り成型の収率が90%以上である。
【0088】
本発明における深絞り成型とは、側壁が周囲からの流入によって形成される一般的な深絞り成型を含み、また、平らなシートを3次元的に成型する際に、成型体の一部が延伸または、圧縮される成型をも含む。
【0089】
成型方法としては、成型対象であるシートを加熱により、軟化させ、外部応力により、要望の形状とする工法を含み、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、延伸成形などが使用できる。なお、好ましい成形温度(金型温度)は、90℃以上170℃以下であり、より好ましくは100℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは100℃以上120℃以下である。
【0090】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【実施例】
【0091】
[測定・評価方法]
【0092】
(1) 目付
JIS L1906:2000に準じて、25cm×25cmの試験片を、1枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、1m2当たりの質量(g/m2) で表した。
【0093】
(2)厚さ
JIS L1906:2000で準用するJIS L1096:1999に準じて、試料の異なる10か所について、厚さ測定機を用いて、直径22mmの加圧子による2kpaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0094】
(3)絶縁破壊強さ
JIS K6911:1995に準じて測定した。試料の異なる5か所から約10cm×10cmの試験片を採取し、直径25mm、質量250gの円盤状の電極で試験片を挟み、試験媒体には空気を用い、0.25kV/秒で電圧を上昇させながら周波数60Hzの交流電圧をかけ、絶縁破壊したときの電圧を測定した。測定には、絶縁破壊耐電圧試験機(安田精機製作所社製)を使用した。得られた絶縁破壊電圧をあらかじめ測定しておいた中央部の厚さで割り、絶縁破壊強さを算出した。
【0095】
(4)成型テスト1
図6の通り、凹金型44、皺押え42、プレス成型機のパンチ41等で構成される円筒深絞り成型金型50を使用し、プレス成型機のパンチ41を下降させることにより、シート状の積層体43の深絞り成型加工を行った。パンチ41の絞り径は8.0mm、絞り深さは最大15mm、とし、金型温度100℃ 、加工速度:7.5mm/min、とし、積層体に破れ、シワなく成型可能な、最大絞り深さを測定した。
【0096】
(5)成型テスト2−1
図6の通り、凹金型44、皺押え42、プレス成型機のパンチ41等で構成される円筒深絞り成型金型50を使用し、プレス成型機のパンチ41を下降させることにより、シート状の積層体43の深絞り成型加工を行った。パンチ101の絞り径を8.0mm、絞り深さを4.0mm、金型温度を100℃ 、加工速度を7.5mm/min、とした。成型後に破れ、皺がなく、細部まで成型できたものを合格とし、100個成型した中の合格数を、収率とした。
【0097】
(6)成型テスト2−2
図6の通り、凹金型44、皺押え42、プレス成型機のパンチ41等で構成される円筒深絞り成型金型50を使用し、プレス成型機のパンチ41を下降させることにより、シート状の積層体43の深絞り成型加工を行った。パンチ41の絞り径を8.0mm、絞り深さを5.6mm、金型温度を100℃ 、加工速度を7.5mm/min、とした。成形後に破れ、皺がなく、細部まで成型できたものを合格とし、100個成型した中の合格数を、収率とした。
【0098】
以上の成形テストで成形した延伸成形部位は、その屈曲角度は90度であり、延伸率は20%(増加分、長さ基準)であった。
【0099】
(7)ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層の結晶化熱量の測定
ピンセット等を使用し、積層体から、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層の一部を採取し、約2mg精秤し、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−60)で窒素下、昇温速度10℃/分で昇温し、観察される主発熱ピークの発熱量(J/g)を測定することにより行った。
【0100】
(8)熱可塑性樹脂シート層の結晶化熱量の測定
ピンセット等を使用し、積層体から、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層を取り除いた後、熱可塑性樹脂シート層の一部を採取し、約2mg精秤し、示差走査熱量計「島津製作所製、DSC−60」で窒素下、昇温速度10℃/分で昇温し、観察される主発熱ピークの発熱量(J/g)を測定することにより行った。
【0101】
(実施例1)
(1)PPS繊維湿式不織布の製造
未延伸PPS繊維として、単繊維繊度3.0dtex、カット長6mmの東レ社“トルコン”(登録商標)、品番S111を用いた。未延伸PPS繊維を水に分散させ抄紙分散液とし、底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ25cm×25cm、高さ40cmの小型抄紙機(熊谷理機工業社製)に仕上がりが50g/m2となるように投入し、さらに水を追加して抄紙分散液の総量を20Lとし、攪拌器で十分に攪拌した。次に、小型抄紙機の水を抜き、抄紙網に残った湿紙を濾紙に転写した。上記湿紙を濾紙ごとロータリー式乾燥機に投入し、温度100℃、工程通過速度0.5m/min、工程長1.25m(処理時間2.5min)にて乾燥する処理を2回繰り返して、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を得た。
【0102】
(2)未延伸PPSフィルムの製造
攪拌機付きのオートクレーブに硫化ナトリウム33kg(250モル、結晶水40重量%を含む)、水酸化ナトリウム100g、安息香酸ナトリウム36kg(250モル)、及びN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略称する。)79kgを仕込み攪拌しながら徐々に205℃まで昇温し脱水した後、残留混合物に1,4−ジクロルベンゼン38kg(255モル)及びNMP20kgを加え、265℃で4時間加熱した。反応生成物を熱湯で8回洗浄し、溶融粘度3200ポイズのPPS樹脂組成物21kgを得た。
【0103】
得られた組成物を180℃で2時間、減圧下で乾燥した後、平均粒径0.1μmのシリカ微粉末を0.5重量%混合し、310℃の温度でガット上に溶融押出して、さらに該ガットをチップ状切断した。該チップを減圧下で180℃の温度で3時間乾燥した後、エクストルダーのホッパに投入し、320℃で溶融し、T型口金からシート状に押出し、表面温度30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して未延伸PPSフィルムを得た。
【0104】
(3)積層体の製造
得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度110℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度7m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0105】
(実施例2)
延伸PPS繊維として、単繊維繊度1.0dtex、カット長6mmの東レ社製‘トルコン’(登録商標)、品番S301を用いて、未延伸PPS繊維として、単繊維繊度3.0dtex、カット長6mmの東レ社“トルコン”(登録商標)、品番S111を用いた。延伸PPS繊維10wt%、未延伸PPS繊維90wt%となる様に混合し、水に分散させ、抄紙分散液とした以外は、実施例1と同様にして、PPS繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを得た。
【0106】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度130℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度3m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0107】
(実施例3)
PPS繊維湿式不織布を構成する延伸PPS繊維と未延伸PPS繊維の混率を変更した以外は、実施例2と同様にして、PPS繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを得た。
【0108】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度130℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度3m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0109】
(実施例4)
(1)PPS繊維湿式不織布の製造
実施例1と同様にして、PPS繊維湿式不織布を得た。
【0110】
(2)未延伸PETフィルムの製造
テレフタル酸ジメチル194重量部とエチレングリコール124重量部に、酢酸マグネシウム4水塩0.1重量部を加え、140〜230℃でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、リン酸トリメチル0.05重量部のエチレングリコール溶液、および三酸化アンチモン0.05重量部を加えて5分間撹拌した後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を230℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を0.1kPaまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。3時間重合反応させ所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻して重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングして固有粘度0.63dl/g、融解温度257℃のポリエチレンテレフタレート(PET)のペレットを得た。該ペレットを減圧下で180℃の温度で3時間乾燥した後、エクストルダーのホッパに投入し、280℃で溶融し、T型口金からシート状に押出し、表面温度30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して未延伸PETフィルムを得た。
【0111】
(3)積層体の製造
得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布と未延伸PETフィルムを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度90℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度7m/minとし、未延伸PETフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0112】
(実施例5)
実施例2と同様にして、PPS繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを得た。
【0113】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布の上に未延伸PPSフィルムを重ね2層体とした後、2層体の未延伸PPSフィルム側にポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を重ね3層体とした。この時、3層体は、下から、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布、未延伸PPSフィルム、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布の順番で重ねられている。3層体を金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、3層積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度130℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度3m/minとした。また、得られた積層体のポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布層の結晶化熱量を測定する際、カレンダー加工時に金属ロール側を通過した湿式不織布層について測定した。
【0114】
(比較例1)
積層体とするためのカレンダー条件を、温度180℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度3m/minとした以外は実施例1と同様にして作製した。
【0115】
(比較例2)
PPS繊維湿式不織布を構成する延伸PPS繊維と未延伸PPS繊維の混率を変更した以外は、実施例2と同様にして、PPS繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを得た。
【0116】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布と未延伸PPSフィルムを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度150℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度3m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0117】
(比較例3)
延伸PPS繊維として、単繊維繊度1.0dtex、カット長51mmの東レ社製‘トルコン’(登録商標)、品番S301を用いた。延伸PPS繊維を針深度5mm、針密度150本/cm2の条件でニードルパンチ加工した後、温度240℃でカレンダー処理し、見かけ比重が0.7g/cm3、厚み100μmのPPS繊維ニードルパンチ不織布を得た。また、実施例1と同様にして未延伸PPSフィルムを得た。得られたPPS繊維ニードルパンチ不織布と未延伸PPSフィルムとを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度240℃、圧力0.1kN/cm、ロール回転速度1m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0118】
(比較例4)
延伸PPS繊維として、単繊維繊度1.0dtex、カット長51mmの東レ社製‘トルコン’、品番S301を用いて、未延伸PPS繊維として、単繊維繊度3.0dtex、カット長51mmの東レ社“トルコン”(登録商標)、品番S111を用いた。延伸PPS繊維50wt%、未延伸PPS繊維50wt%となる様に混合した以外は、比較例3と同様の方法で積層体を得た。
【0119】
(比較例5)
比較例3の延伸PPS繊維の替わりに、未延伸PPS繊維として、単繊維繊度3.0dtex、カット長51mmの東レ社“トルコン”(登録商標)、品番S111を用いた以外は、比較例3と同様の方法で積層体を得た。
【0120】
(比較例6)
積層体とするためのカレンダー条件を、温度130℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度7m/minとした以外は比較例3と同様にして作製した。
【0121】
(比較例7)
線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:E2280)を、窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥した後、押出機で溶融し、紡糸温度325℃で、孔径φ0.30mmの矩形紡糸口金から単孔吐出量1.38g/minで紡出し、室温20℃の雰囲気下で吐出された糸条を紡糸口金直下550mmに配した矩形エジェクターを用いて、エジェクター圧力0.25MPaで牽引し、延伸し、移動するネット上に捕集してPPS繊維ウェブとした。得られた長繊維の平均単繊維繊度は2.4dtexであった。引き続き、インライン上に設置された上ロールが金属製で水玉柄の彫刻がなされた圧着面積率12%のエンボスロールで構成され、下ロールが金属製フラットロールで構成された上下一対のエンボスロールで、線圧1000N/cm、温度270℃で熱圧着し(熱接着処理し)、さらに、270℃に設定したネットコンベア型の熱風乾燥機に送り込み、20分間の熱処理を実施し、目付53g/m2のPPS繊維スパンボンド不織布を作製した。
【0122】
また、実施例1と同様にして未延伸PPSフィルムを得た。得られたPPS繊維スパンボンド不織布と未延伸PPSフィルムとを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度130℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度7m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0123】
(比較例8)
線状ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ製、品番:E2280)を、窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥した後、押出機で溶融し、紡糸温度325℃で、孔径φ0.30mmの矩形紡糸口金から単孔吐出量1.38g/minで紡出し、室温20℃の雰囲気下で吐出された糸条を紡糸口金直下550mmに配した矩形エジェクターを用いて、エジェクター圧力0.25MPaで牽引し、延伸し、移動するネット上に捕集してPPS繊維ウェブとした。得られた長繊維の平均単繊維繊度は2.4dtexであった。
【0124】
また、実施例1と同様にして未延伸PPSフィルムを得た。得られたPPS繊維ウェブと未延伸PPSフィルムとを積層し、金属ロールとペーパーロールとからなるカレンダー加工機(由利ロール社製)に通して熱圧着し、積層体を得た。この時、カレンダー条件は、温度130℃、圧力1.3kN/cm、ロール回転速度7m/minとし、未延伸PPSフィルムがカレンダー加工機のペーパーロール側となる様に通した。
【0125】
(比較例9)
PPS繊維湿式不織布を構成する延伸PPS繊維と未延伸PPS繊維の混率を変更した以外は、実施例2と同様にして、PPS繊維湿式不織布を得た。
コーターバーを使用し、PPS繊維湿式不織布の片面に未硬化シリコーンゴムを平均厚み100μmとなるように均一に塗布した後、該繊維シートを150℃に調整した乾燥機中で5分間静置し、シリコーンゴムを硬化させ、積層体を得た。このとき、硬化後のシリコーン層の厚みは平均100μm、塗布目付量は128g/m2であった。
【0126】
(評価結果)
実施例1〜5、比較例1〜9の評価結果を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
実施例1〜5で得られた積層体は、構成材料であるPPS繊維湿式不織布層と熱可塑性樹脂シート層の結晶化熱量がともに10J/g以上であり、成型可能な深さ/絞り径比が高く、3次元的な立体成型性を有し、成型時の形状バラツキが少なく、優れた成型加工収率を有するものであった。
【0129】
また、比較例1〜2で得られた積層体を構成するPPS繊維湿式不織布層の結晶化熱量は10J/g未満であり、結晶化が進み、熱成型性に乏しく、さらに成型加工収率にも欠けるものであった。比較例5は、結晶化が進んでいるため、成型可能な深さ/絞り径比が低く、目的とする立体成型性を有していない。PPS未延伸糸を含む比較例3、4についても同様に結晶化が進んでいるため、成型可能な深さ/絞り径比が低く、目的とする立体成型性を有していない。また、比較例6は、非晶部分の多い材料で構成されているが、ニードルパンチ不織布はシートの均一性が乏しく、熱成型時に応力が分散するため、成型結果にバラツキがあり、成型加工収率に欠けるものであった。比較例7〜8は、PPS繊維湿式不織布の代わりに使用しているスパンボンド不織布の均一性が乏しく、熱成型時に応力が分散するため、成型結果にバラツキがあり、成型加工収率に欠けるものであった。比較例9では、シリコーンゴム層を硬化する工程でPPS繊維湿式不織布が結晶化した上、シリコーンゴム層の伸度が乏しく、成型可能な深さ/絞り径比が低かった。
【0130】
本実施形態では、積層体が加熱変形用として使用され且つ積層体が電気絶縁用であるが、これに限定されない。積層体が加熱変形用のみに使用されてもよいし、積層体が電気絶縁の用途のみに利用されてもよいし、積層体が加熱変形用以外として使用され且つ積層体が電気絶縁以外の用途に利用されてもよい。電気絶縁用又は加熱変形用以外の用途として、例えば耐熱用があり、耐熱用の用途の具体的として、例えば耐熱テープ又は耐熱容器等が挙げられる。
【0131】
このような場合であっても、積層体は、優れた立体成型性を有し且つ成型時の形状バラツキが少なく優れた成型加工収率を有する。
【0132】
(実施例6)
実施例5と同様にして積層体(厚み0.185mm)を得て、この積層体を60mm×150mmにカットして、100℃雰囲気下で一定温度で引き延ばし、延伸量を調整して異なる厚みの延伸シートを作製した。これらの各種延伸シートの絶縁破壊電圧(BDV)と測定部位の厚みを測定した。なお、絶縁破壊電圧の測定は、JIS C2110−1(IEC60243−1と同等である)に準じて行った。結果を図7に示す。
【0133】
図7に示すように、厚みと絶縁破壊電圧との関係からみても延伸成形後においても十分な絶縁破壊電圧を維持していることがわかった。また、厚みが約0.175mmであっても十分な絶縁破壊電圧(6kV〜12kV)を備えていることがわかった。
【0134】
なお、実施例5と同様にして得た積層体3種と、市販のメタアラミド系樹脂(NOMEX(商標))不織布と二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂シートをアクリル系接着剤で接着して得られた積層体について延伸性等について比較した。すなわち、以下の表2に示す金型成形温度100〜120℃、段落「0027」から「0047」で示す本明細書に開示の工法で、所定の形状の成形体を得た。これらの成形体についての評価結果を表2に示す。ここで延伸性は、成形前のシートに格子状の盤線を描いてその格子の距離の変化率を測定顕微鏡(ミツトヨ社製)を用いて測定した。この際延伸時に長さ基準で延伸による増加分が20%以上40%以下であるものを○とし、5%以上20%未満または40%を超えて300%以下を△とした。
【0135】
また、形状安定性として、寸法誤差を図1に示す形状に対して同図中4で示すスロット絶縁部の開口寸法同測定機で測定し、開口寸法の誤差が最も大きい部位で10%以内であるものを○とし、10%を超える場合を△とした。また、角度誤差としてスロット絶縁部4と同図中7a、7bで示すフランジ部との角度について、角度誤差が最も大きい部位で20%以内であるものを○とし、20%を超える場合を△とした。
【0136】
【表2】
【0137】
表2に示すように、PPS積層体では、十分な延伸性も形状安定性も得られた。
【符号の説明】
【0138】
1 シート状積層体、2 コア絶縁部材、4 スロット絶縁部、5 端縁、6 スロット端面絶縁部、7a 第1のフランジ部、7b 第2のフランジ部、10 成形型、12 凹部、14 成形凹部、16 凸型、18 成形凸部、20、30 延伸成形部、22、32 第1の延伸部、24、34 第2の延伸部、23 成形面、25、35 第1の成形面、27、37 第2の成形面、29、39 第3の成形面、41 パンチ、42 雛押え、43 積層体、44 凹金型、45 成形品、50 円筒深絞り成型金型
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7