(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軟磁性細線は、LCR測定による実部透磁率μ’が200以上350以下で、かつ虚部透磁率μ”との比率μ’/μ”が10以上100以下である請求項1に記載の軟磁性細線。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス化に伴い、携帯電話においては、非接触無線充電(置くだけ充電)の市場が拡大している。非接触無線充電とは、1次コイルを埋め込んだ充電器の上に2次コイルを内蔵した機器(例えば、携帯電話)を置くことによって、コイル間を電磁結合させ、機器に内蔵された電池を充電する方法をいう。非接触無線充電は、その他にも、電動歯ブラシや電気又はハイブリッド自動車の充電や自動車のスマートキーのアンテナコア材や電波時計のアンテナコア材にも使用されている。
【0003】
携帯電話に内蔵されている電池のカバーは、通常、金属製である。一方、携帯電話は小型化が求められており、携帯電話の内部空間は限られている。携帯電話内部において2次コイルと金属部品が接近していると、1次コイルからの充電用電磁波によって金属部品内に渦電流が発生する。この渦電流は、反対方向の磁束を発生させることによる充電効率の低下や、金属部品の発熱の原因となる。
【0004】
非接触無線充電における携帯電話の充電効率を向上させるためには、2次コイルと金属部品との間に軟磁性材料を挿入するのが有効である。軟磁性材料としては、例えば、軟磁性粉末とゴムの複合体からなる磁性シートや、フェライト焼結品などが知られている。
しかしながら、充電時間を短縮するためには、電流を高めて充電効率を向上させる必要がある。そのためには、軟磁性材料を厚くするのが有効である。
一方、携帯電話は、軟磁性材料を挿入可能な空間が狭いため、軟磁性材料を極端に厚くすることができない。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、質量%で、Ni:35〜50%、Cr:5〜10%、および、Mn:0.1〜15%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる軟磁性材料が開示されている。
同文献には、このような化学組成にすることによって、従来の軟磁性材料に比べて透磁率及び体積抵抗率が向上する点が記載されている。
【0006】
特許文献2には、Al:1〜10原子%、Ga:0.5〜4原子%、P:0〜15原子%、C:2〜7原子%、B:2〜10原子%、Fe:残部であるFe基軟磁性金属ガラス合金が開示されている。
同文献には、このようなFe基軟磁性金属ガラス合金は、電磁シールド用網に好適に用いられる点が記載されている。
【0007】
特許文献3には、組成式:(Fe
1-a-bCo
aNi
b)
100-x-yM
xB
yで表される軟磁性金属ガラス合金からなる電磁シールド用鋼が開示されている。但し、0≦a≦0.29、0≦b≦0.43、5原子%≦x≦20原子%、10原子%≦y≦22原子%であり、MはZr、Nb、Ta、Hf、Moのうちの1種または2種以上からなる元素である。
【0008】
さらに、特許文献4、5には、Fe−6.5wt%Si合金からなる直径70μmの軟磁性金属繊維と、直径60μmの銅線とを用いた織物状構造体からなる電磁波シールド材料が開示されている。
【0009】
軟磁性材料からなる繊維を用いて磁気シートを構成すると、その厚みを極端に厚くすることなく、磁気特性を向上させることができる。しかしながら、従来の材料を用いた場合であっても、十分な磁気特性が得られず、充電電力は2(W)が限界であった。すなわち、従来の材料では、非接触無線充電における充電時間の短縮には限界があった。また、携帯電話に限らず、この手の非接触充電は、軟磁性材料を薄くできた方が、装置の軽量化、設置場所の自由度が上がるので、薄くするのは、潜在的ニーズがある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 軟磁性細線]
本発明に係る軟磁性細線は、以下の構成を備えている。
(1)前記軟磁性細線は、線径が0.15mm以下である。
(2)前記軟磁性細線は、横断面の測定視野内で、結晶粒径が1μm以上100μm以下の範囲にある結晶粒の面積率が50%以上である。
(3)前記軟磁性細線は、飽和磁束密度が0.6T以上2.6T以下、かつ、125kHzにおける複素比透磁率が100以上である軟磁性材料からなる。
(4)前記軟磁性細線は、15〜150kHzの交流下で使用される磁気シートに用いられる。
【0018】
[1.1. 線径]
軟磁性細線の線径は、磁気特性に影響を与える。一般に、線径が太くなるほど、渦電流が発生しやすくなる。また、線径が太くなるほど、細線をシート化したときの細線間の接触面積が大きくなり、渦電流が発生しやすくなる。その傾向は、線径0.15mmを境に徐々に変化し、例えば、0.10mm以下の極細線領域では磁気特性に及ぼす上昇率はより高いものとなる。特に、用いる軟磁性細線の長さ/直径の比で示されるアスペクト比が、100〜50000のものではその有効性が顕著で好適する。
従って、高い充電効率を得るためには、軟磁性細線の線径は、0.15mm以下である必要がある。線径は、さらに好ましくは、0.050mm以下、さらに好ましくは、0.030mm以下である。
一方、線径が極端に細くなると、結晶粒が成長せず、細線の複素比透磁率が低くなる。また、線径があまりに細くなると、介在物起因の破断等、製造が困難となる。従って、軟磁性細線の線径は、0.005mm以上が好ましい。線径は、さらに好ましくは、0.020mm以上である。
ここで、「線径」とは、横断面の面積から算出される等価直径(等価線径)をいう。本願において、軟磁性細線は、基本的に断面円形の丸線を対象とする。しかし、これに限らず断面非円形の楕円や角線を使用することもできる。非円形断面の場合には、算術上の計算値を求め、これを等価線径とする。
【0019】
[1.2. 結晶粒径]
軟磁性細線の結晶粒径は、特定の周波数域における磁気特性に影響を与える。一般に、結晶粒径が小さいものが多いほど、低周波域における透磁率は低下する。
逆に、結晶粒径が大きいものが多いほど、高周波域における透磁率は低下する。
【0020】
15kHz以上の交流下において、高い透磁率を得るためには、結晶粒径は、1μm以上が好ましい。結晶粒径は、さらに好ましくは、5μm以上である。しかし、その結晶粒径が100μmを超えるほど大きくすることは、その細線の材料強度の低下をもたらすことから、好ましくは、結晶粒径5〜30μm程度の範囲に調整すべきである。参考として、
図4に、線径0.050mmの軟磁性細線(熱処理温度:673K・1083sec、1173K・20sec、1373K・2sec)の横断面を拡大した顕微鏡写真の一例を示している。これに見るように、結晶構造はその熱処理条件によって変化し、特に673〜1373Kの温度範囲では比較的安定しているものの、大小様々な結晶が混在していることがわかる。なお、結晶粒径は、その結晶粒の長径と短径との平均値で示すものとする。
【0021】
[1.3. 面積率]
軟磁性細線を特定の周波数域における磁気シートとして用いるためには、結晶粒径が所定の範囲内にある結晶粒の数は、多いほど良い。15kHz〜150kHzの周波数域において高い磁気特性を得るためには、結晶粒径が1μm以上100μm以下の範囲にある結晶粒の面積率は、50%以上である必要があり、より好ましい形態は結晶粒径が5μm以上30μm以下の範囲にある結晶粒の面積率が80%以上である。その場合も、残りの20%以下は、その設定範囲よりも小さい結晶粒(すなわち、5μm未満)であることが好ましい。なお、本発明では、該面積率の検証の簡素化を図るために、その計測視野内における上位5点の粗大結晶粒を抽出して、その粗大結晶粒5点の平均値が前記結晶粒径の範囲内にあることも好ましい。
【0022】
ここで、「面積率」とは、次の(1)式で表される値をいう。
面積率(%)=ΣS
i×100/S
0 ・・・(1)
但し、
S
0は、所定の測定視野の面積(例えば、測定倍率は、所定の結晶粒の大きさに応じて400〜1500倍)、
ΣS
iは、結晶粒径が所定の範囲(1μm以上100μm以下の範囲)にある個々の結晶粒の断面積(S
i)の総和。
【0023】
[1.4. 飽和磁束密度]
軟磁性細線を構成する軟磁性材料の飽和磁束密度は、充電電力に影響を与える。飽和磁束密度は、材料固有の値である。一般に、飽和磁束密度が大きくなるほど、充電電力を大きくすることができる。2(W)以上の充電電力を得ることが可能な磁性シートを得るためには、軟磁性材料の飽和磁束密度は、0.6T以上である必要がある。飽和磁束密度は、さらに好ましくは、0.8T以上、さらに好ましくは、1.0T以上である。しかし、2.6Tを超えると、充電電力が飽和状態となることから、0.6T以上2.6T以下が好適である。
【0024】
[1.5. 複素比透磁率]
軟磁性細線を構成する軟磁性材料の複素比透磁率は、充電電力に影響を与える。その測定は、例えばLCRで測定される実部(μ’)と虚部(μ”)に基づき、次式から求めることができる。
複素比透磁率μ=μ’−jμ” 但し、j:虚数。
複素比透磁率は、材料組成だけでなく、材料の構造(線径、結晶粒径、加工ひずみなど)や使用条件(周波数)にも依存する。一般に、複素比透磁率が大きくなるほど、充電電力を大きくすることができる。125kHzの複素比透磁率の実部μ’は、その代表的な値であり、15〜150kHzにおいては、ほぼ同じ値を示す。例えば、携帯電話の充電の場合、125kHzの周波数域において2(W)以上の充電電力を得ることが可能な磁性シートを得るためには、軟磁性材料の125kHzにおける複素比透磁率は、100以上である必要がある。125kHzにおける複素比透磁率は、さらに好ましくは、150以上である。また、自動車の無線充電の場合の20kHz付近でも、125kHzの透磁率と同じ値を示す。
一方、複素比透磁率が高すぎると、例えば、飽和磁束密度B=1.0T[10000G]で、複素比透磁率μ≧10000とすると、低磁界H=1.0[Oe]で飽和してしまい、電力2[W]のような高磁界では、複素比透磁率μが1になる。従って、125kHzにおける複素比透磁率は、1000以下が好ましい。複素比透磁率は、さらに好ましくは、500以下である。
また、前記複素比透磁率に関連して、前記軟磁性細線は、LCRメーター測定による実部透磁率μ’が200以上350以下で、かつ虚部透磁率μ”との比率μ’/μ”が10以上100以下であることも好ましい。
これらの値は、同様に例えば該細線の製造条件、特に熱処理条件とそれによる結晶粒径によって任意に調整することができる。
【0025】
[1.6. 軟磁性材料の具体例]
軟磁性材料であって、上述した条件を満たすものとしては、例えば、以下のようなものがある。
(1)70〜80質量%のNiを含むFe−Ni−Mo−Cu合金(PCパーマロイ;JIS−C2531記載)があり、より好ましい一例としてC≦0.02質量%、Si≦0.60質量%、Mn≦0.80質量%、Ni:75〜82質量%に加えて、更にMo及び/又はCuのいずれかを各々0〜6質量%含むもの。
(2)40〜50質量%のNiを含むFe−0〜1質量%Mn合金でPBパーマロイに相当するもの。そのより好ましい一例として、C≦0.02質量%、Si≦0.60質量%、Mn≦0.50質量%、Ni:40〜50質量%とし、更に前記Mo及びCuを各々0〜6質量%含むこともできる。
(3)FeとCoの質量比が約1:1(例えば0.95〜1.05:1.05〜0.95)で、更に1〜3質量%のVを含むパーメンジュール合金。
(4)電磁純鉄。
(5)0.4〜5質量%のSiを含むFe−Si系合金(ケイ素鉄)、Fe−7〜18質量%Cr、Fe−7〜18質量%Cr−0.1〜3質量%Si−0.1〜3質量%Al、Fe−0.1〜3質量%Al−0.1〜3質量%Si。
(6)7〜15%のCrを含むFe−Cr系電磁ステンレス鋼。
これらの合金の中でも、特にPCパーマロイ、PBパーマロイは、加工性に優れ極細化に適するものであり、また、パーメンジュール、電磁純鉄、けい素鉄及び電磁ステンレス鋼は、その製造方法を最適化することによって、高い充電電力が得られるので、軟磁性細線を構成する材料として好適である。
【0026】
[1.7. 絶縁層]
軟磁性細線の表面には、絶縁層が形成されていても良い。軟磁性細線の表面に絶縁層がある場合、細線間の電流の流れが遮断されるため、渦電流の発生がさらに抑制される。また、これによって充電効率をさらに向上させることができる。
特に、細線の線径が相対的に太い場合、及び/又は、シート化した時の細線間の接触圧が相対的に大きい場合、細線間の接触面積が大きくなる。このような場合において、細線の表面に絶縁層を形成すると、渦電流の発生を抑制することができる。
【0027】
絶縁層の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、シリコン樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂材料が好ましい。軟磁性細線は、これらのいずれか1種以上で表面被覆される。その成形処理は、例えば該細線の最終仕上げ段階で、ストランド方式により一定速度で溶融樹脂層内を通過させることで被覆を均一化できる。その層厚さは、該絶縁剤の材料にもよるが、通常1〜100μmである。絶縁層を形成した軟磁性細線は、後述する交流用メッシュシート、交流用ゴムシート又は交流用積層シートなどに用いることができる。
【0028】
[2. 交流用メッシュシート]
本発明に係る交流用メッシュシートは、本発明に係る軟磁性細線を用いて、空間率80%以下になるように織製することにより得られるものからなる。必要ならば、さらにこれを圧縮加工して扁平メッシュにすることができる他、例えば複数のメッシュシートを多層に積層し、またはこれを圧縮して用いることもできる。これら圧縮加工による場合には、加工に伴い低下する磁気特性を回復する為に、最後に熱処理を施して結晶粒径が前記範囲になるように調整することが望まれる。
このような多層化によって、単層のメッシュの場合より開口を減じて高磁気特性をもたらすことができる。
【0029】
[2.1. 空間率]
なお、メッシュシートにおける「空間率」とは、該メッシュシートを厚さ方向に透視したときの所定平面当たりにおける空間の割合をいう。一般に、メッシュシートの空間率が低くなるほど、磁束の吸収量が多くなる。磁束吸収量の増大に伴い、充電電力は向上する。高い充電電力を得るためには、空間率は、80%以下である必要がある。空間率は、さらに好ましくは、50%以下、さらに好ましくは、30%以下である。
一方、空間率が小さくなりすぎると、細線間の接触圧が高くなり、細線間の通電抵抗が低下する。その結果、渦電流が発生し、充電電力が大きく低下する。従って、空間率は、10%以上が好ましい。空間率は、さらに好ましくは、20%以上である。
【0030】
[2.2. 織り方]
軟磁性細線の織り方は、特に限定されるものではなく、種々の編み方を用いることができる。織り方としては、例えば、平織り、綾織り、平畳織り、クリンプ網、溶接金網、亀甲金網などがある。
メッシュシートに用いられる軟磁性細線は、断面形状が円形の丸線だけでなく、断面形状が円形でない異形線を用いても良く、そのような場合の前記線径表示は、その横断面の面積から算出される等価直径(等価線径)を用いるものとする。
【0031】
[3. 交流用焼結シート]
本発明に係る交流用焼結シートは、
本発明に係る軟磁性細線を所定の長さ、例えば0.1mm以上500mm以下に切断し、
切断された前記軟磁性細線を一定方向又はランダムに配置して、その空間率80%以下になるように焼結させる
ことにより得られるものからなり、前記メッシュシートの場合と同様に、焼結と同時に所定厚さとなるように圧縮成形して、該細線の空間を減じることが好ましい。
シートは、例えば0.3〜5mm程度に加圧焼結される。シートは、その成形厚さが0.3〜5mm程度になるように成形される。その成形処理は、例えば該細線同士を直接焼結するものでも、また予め細線の表面に後述の絶縁層を設けたものを用いて、該絶縁層同士の融着で一体にするものであってもよい。前記空間率は、その加圧程度に応じて適宜調整でき、同時に各細線は、その隣接細線との接触部で相互拡散し結合される。それによって、全体として取り扱い容易なシート成形品が得られる。また本形態のように、焼結によって一体にする場合は、前記軟磁性細線は実質的に無被膜のものが用いられ、その分布状態も、前記するように各細線を一定方向に多層に整列配置したものの他、綿状にランダム方向に配置して絡み合わせたものとすることもできる。
【0032】
[3.1. 軟磁性細線の長さ]
交流用焼結シートを製造するための軟磁性細線の長さもその成形品において磁気特性に影響を及ぼし、また所定の成形品形状を維持する観点から、長さの長い細線の使用が推奨される。軟磁性細線の長さが短すぎると、細線同士の十分な絡まりが得られず、厚さの薄いシート成形品として十分な取扱い強度を持たせることができない。従って、軟磁性細線の長さは、0.1mm以上である必要がある。軟磁性細線の長さは、さらに好ましくは、前記アスペクト比が100倍以上になるよう、1mm以上のものが用いられる。
一方、後者のように細線をランダム方向に配置する場合、軟磁性細線の長さが長すぎるものでは、焼結後のシートの厚みやその分布状態のばらつきが大きくなる。従って、軟磁性細線の長さは、500mm以下である必要がある。軟磁性細線の長さは、さらに好ましくは、100mm以下である。
【0033】
[3.2. 空間率]
「空間率」とは、焼結シートの見かけの体積に対する空間の割合をいう。一般に、焼結シートの空間率が低くなるほど、磁束の吸収量が多くなる。磁束吸収量の増大に伴い、充電電力は向上する。高い充電電力を得るためには、空間率は、80%以下である必要がある。空間率は、より好ましくは、60%以下、さらに好ましくは、50%以下である。
一方、空間率が小さくなりすぎると、細線間の接触圧が高くなり、細線間の通電抵抗が低下する。その結果、渦電流が発生し、充電電力が大きく低下する。従って、空間率は、5%以上が好ましい。空間率は、さらに好ましくは、10%以上である。
なお、該空間率については、該シートの全体を通じて均一であることが望まれるが、完全な均一化は技術的に困難であり、部分的なバラツキを生じることは避けられない。そうしたことを前提として、本発明では該空間率の計測は、該シートの任意に選定した単位面積、例えば10cm
2当たりの空間率(平均空間率)で示すものとする。
【0034】
[4. 交流用ゴムシート]
本発明に係る交流用ゴムシートは、
ゴム材料をマトリックスとして、その内部に、
本発明に係る軟磁性細線を長さ0.1mm以上500mm以下に切断し、
切断された前記軟磁性細線を一定方向又はランダムに配置して、空間率70%以下になるようにゴムと複合化させることにより得られるものからなる。
その成形厚さは、例えば、0.05〜0.5mm程度のシート状に一体に複合しており、例えば、所定量の前記細線を溶融状のゴム材料中に混練して押し出しや塗装方式で所定厚さに成形するもの、又は、長尺の前記細線を一定方向に整列配置した隙間内にマトリックスのゴム材料を含浸させることで成形される。その配列を密着状態にすることで、前記空間率をより小さく抑えることができる。
【0035】
[4.1. 軟磁性細線の長さ]
軟磁性細線の長さについては、これを所定のマトリックス中に複合する場合、前者のランダム配置によるものでは、必要以上に長い長尺細線では混練による分散が行い難く、後者のように一定方向に配置するものでは、その長さは少なくとも10mm以上の長尺状の細線が好ましいことから、例えば、100mm以下の粉末状乃至短冊状細線にすることが望まれる。
[4.2. 空間率]
「空間率」とは、ゴムシートの一定容積内において、その内部に存在する前記細線を除く部分(空間部分)が占める見かけ上の容積の比率を表し、その上限が70%である点を除き、交流用焼結シートと同様であるので、説明を省略する。
[4.3. ゴム]
交流用ゴムシートに用いられるゴムの材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0036】
[5. 交流用積層シート]
本発明に係る交流用積層シートは、
本発明に係る前記軟磁性細線の複数本(例えば30〜10,000本/シート幅10mm当たり)をほぼ一定方向に、かつ多層に整列配置し、その空間率が50%以下になるように薄膜シート状をなす。また、該細線間は、例えばその表・裏面に用いられる樹脂製のシート材料がその加圧融着によって各細線同士の隙間に含浸し、各々隔離した状態で分布する。該シートの成形厚さは、例えば、1mm程度以下の膜状で、このような複合化技術は、繊維強化の技術分野ではプリプレグ法と呼ばれている。
【0037】
[5.1. 軟磁性細線の配列]
交流用積層シートにおいて、軟磁性細線は、一定方向に並べられる。軟磁性細線を一方向に配列させる方法としては、細線を、所定ドラムに整列状態で巻き付ける方法、例えば、密着多層巻きして、製膜後に裁断する方法がある。
[5.2. 空間率]
「空間率」とは、前記交流用ゴムシートの場合と同様に、該積層シートの一定容積あたりにおける、軟磁性細線を除く樹脂マトリックスが占める空間相当の容積の割合を意味する。
[5.3. 樹脂]
交流用積層シートに用いられる樹脂の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができ、例えば前記絶縁層に用いるのと同様の熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
また、これらメッシュシートや焼結シート、ゴムシート、積層シートにあっては、前記軟磁性細線として、例えば線径や種類の異なる2種以上のものを適宜割合で併用することもできる。
【0038】
[6. 軟磁性細線の製造方法]
本発明に係る軟磁性細線の製造方法は、溶解工程と、線材製造工程と、熱処理工程とを備えている。軟磁性細線の製造方法は、さらに絶縁層形成工程を備えていても良い。
【0039】
[6.1. 溶解工程]
まず、飽和磁束密度が0.6T以上2.6T以下である軟磁性材料の溶解を行う(溶解工程)。溶解・鋳造方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
【0040】
なお、得られた鋳塊は、そのまま次工程に供しても良く、あるいは、1回以上のエレクトロスラグ再溶解を行っても良い(再溶解工程)。
単なる溶解・鋳造法により得られた材料内には、通常、比較的大きな非金属介在物が存在する。この状態のまま材料の伸線加工を行うと、伸線時に断線が多く発生し、著しく歩留まりが悪化する。
【0041】
従って、本発明のように線径0.15mm以下のような極細領域のものを対象とし、かつその領域への伸線加工や、成形シートとしての使用に適する十分な強度特性をもたらすには、前記エレクトロスラグ再溶解によって、非金属介在物を低減し清浄化しておくことが有効である。その処理は、伸線加工の前に、材料に対して少なくとも1回のエレクトロスラグ再溶解を行っても良い。これにより、粗大な非金属介在物を除去することができる。また、伸線加工時の断線が抑制され、歩留まりが向上する。
非金属介在物を低減するためには、エレクトロスラグ再溶解の回数は多いほど良い。再溶解条件は、特に限定されるものではなく、材料組成に応じて最適な条件を選択することができる。
【0042】
[6.2. 線材製造工程]
次に、溶解工程で得られた鋳塊を圧延及び/又は伸線する(線材製造工程)。
圧延及び伸線の方法及び条件は、特に限定されるものではなく、材料組成に応じて最適な条件を選択することができる。特に、前記細線領域での伸線加工では、最終加工率を80〜98%の高率引抜加工によって、その結晶粒を例えば1000nm以下の微細繊維状にしておくことが好ましく、加工は、ダイヤモンドダイスによる湿式伸線加工が推奨される。
【0043】
[6.3. 熱処理工程]
次に、線材製造工程で得られた線材を熱処理し、本発明に係る軟磁性細線を得る(熱処理工程)。
熱処理は、圧延・伸線加工時に材料中に導入された加工ひずみを除去するために行われる。熱処理条件は、細線の交流の磁気特性を左右するため重要であり、673〜1373Kの加熱が行われる。
熱処理温度が1373Kを超える程高温のものでは、前記結晶粒の粗大化とともに強度特性を低下させることとなり、所定特性やシート成形加工が得られ難く、逆に673K未満の加熱温度のものでは、該細線中の所定の結晶構造が得られず、所定の磁気特性が得られない。
こうした温度範囲において、より好ましい磁気特性や機械的特性を持つ軟磁性細線とする方策として、その熱処理時間を下記式(2)で求められる範囲に設定することが有効である。
(1×10
7)/3exp(0.012T)≦t≦(1×10
9)/3exp(0.012T) ・・・(2)
但し、
Tは、熱処理温度(K)、tは、熱処理時間(sec)、673≦T≦1373。
その熱処理時間が長すぎる場合、結晶粒が粗大化し、125kHzにおける複素比透磁率が低下する。
一方、熱処理時間が短すぎる場合、多量の加工ひずみが残留し、複素比透磁率が低下する。
【0044】
高い充電電力を得るためには、熱処理条件は、上記の(2)式を満たしているのが好ましい。伸線加工後の線材に対して、(2)式を満たすように熱処理を行うと、所定の複素比透磁率を有する軟磁性細線が得られる。(2)式は、材料によらず成り立つ。
熱処理条件は、特に、(2.1)式を満たす条件が好ましい。
(1×10
7)/3exp(0.012T)≦t≦(1×10
8)/3exp(0.012T) ・・・(2.1)
なお、熱処理は、伸線加工を行いながら連続的に行う「インライン方式」でも良く、あるいは、伸線加工が終了した線材に対して行う「オフライン方式」でも良く、より好ましくは、露点温度が−50℃以下の水素ガスにより、冷却速度100K/sec以下の急速冷却で行うことが望ましい。
【0045】
[6.4. 絶縁層形成工程]
次に、必要に応じて、熱処理された軟磁性細線の表面に絶縁層を形成する(絶縁層形成工程)。絶縁層形成工程は、必ずしも必要ではないが、軟磁性細線の表面に絶縁層を形成すると、細線間の電流の流れが遮断される。また、耐食性も向上する。そのため、磁気シールドシートの充電効率がさらに向上する。
【0046】
絶縁層の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。
絶縁層の形成方法としては、例えば、表面被覆処理により、所定の前記絶縁剤を一定粘度の溶融状態になるように調整した貯槽内を、該細線を通過させることで、設定厚さになるように表面被覆することができる。
【0047】
[7. 作用]
軟磁性細線の線径、面積率、材料組成(換言すれば、飽和磁束密度、複素比透磁率などの磁気特性)等を最適化すると、特定の周波数域における磁気特性が向上する。このような軟磁性細線を用いて製造されたメッシュシート、焼結シート、ゴムシート又は積層シートは、厚さが薄いにもかかわらず、特定の周波数域において高い磁気特性を示す。また、このようなシートを例えば携帯電話の非接触無線充電に適用すると、充電電力が向上し、充電時間を短縮することができる。
【実施例】
【0048】
(実施例
1〜3、参考例4〜5、実施例6、比較例1〜2)
[1. 試料の作製]
各種材料に対して、エレクトロスラグ再溶解、伸線加工及び熱処理を行った。材料には、パーメンジュール(実施例1)、PBパーマロイ(実施例2)、PCパーマロイ(実施例3)、1%ケイ素鉄
(参考例4)、電磁純鉄
(参考例5)、電磁ステンレス鋼(実施例6)、炭素鋼(比較例1)、SUS304(比較例2)を用いた。また、線径は0.015mmとした。さらに、結晶粒径及び面積率がほぼ同一となるように、熱処理したもので、例えば実施例2及び3のパーマロイ材についての熱処理条件は、温度973K〜1273K×10〜40secの範囲内で調整し行ったものである。なお、「最小(最大)粒径」とは、視野内にある最小(最大)の結晶粒の粒径である。
得られた細線を空間率78%となるように平織りし、メッシュシートを得た。
【0049】
[2. 試験方法]
[2.1. 複素比透磁率]
試料(細線)を測定用磁気リングケースに入れ、測定用コイルを50ターン巻き、アジレントテクノロジー社製E−4980Aにて、LCRメーター法を用いて、125kHzにおける複素比透磁率を測定した。
[2.2. 飽和磁束密度]
試料を測定用磁気リングケースに入れ、測定用コイル(1次側:50ターン、2次側:20ターン)を巻き、電子磁気工業製BH5501にて、直流B−H法を用いて、飽和磁束密度を測定した。
[2.3. 充電電力]
1次側コイル(外径:30mm、内径20mm)に一層20ターンを敷き詰め、2次側コイルも同様にして、充電電力を測定した。測定周波数は、125kHz又は20kHzとした。
【0050】
[3. 結果]
表1に、結果を示す。なお、表1には、材料組成も併せて示した。また、
図1に、各種材料を用いたメッシュシート(平織り、空間率78%)の充電電力を示す。表1及び
図1より、以下のことがわかる。
【0051】
(1)炭素鋼は、複素比透磁率が低い。また、SUS304は、複素比透磁率及び飽和磁束密度が低い。そのため、これらを用いたメッシュシートの充電電力は、いずれも2(W)を大きく下回った。
(2)パーメンジュール、PBパーマロイ、PCパーマロイ、1%ケイ素鉄、電磁純鉄、及び、電磁ステンレス鋼は、いずれも複素比透磁率及び飽和磁束密度が高い。そのため、これらを用いたメッシュシートの充電電力は、いずれも2(W)以上であった。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例11〜13、比較例11〜12)
[1. 試料の作製]
PBパーマロイに対して、エレクトロスラグ再溶解、伸線加工及び熱処理を行った。伸線条件及び熱処理条件を変えることにより、線径、結晶粒径を変化させた。
得られた細線を空間率78%となるように平織りし、メッシュシートを得た。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、複素比透磁率、飽和磁束密度、及び、充電電力を評価した。充電電力の測定周波数は、125kHzとした。
【0054】
[3. 結果]
表2に、結果を示す。なお、表2には、材料組成も併せて示した。また、
図2に、PBパーマロイを用いたメッシュシート(平織り、空間率78%)の線径と充電電力との関係を示す。表2及び
図2より、線径が0.15mm以下になると、充電電力が著しく向上することがわかる。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例21、比較例21〜23)
[1. 試料の作製]
PBパーマロイに対して、エレクトロスラグ再溶解、伸線加工及び熱処理を行った。熱処理条件を変えることにより、結晶粒径、面積率を変化させた。
得られた細線を空間率78%となるように平織りし、メッシュシートを得た。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、複素比透磁率、飽和磁束密度、及び、充電電力を評価した。充電電力の測定周波数は、125kHzとした。
【0057】
[3. 結果]
表3に、結果を示す。なお、表3には、材料組成も併せて示した。また、
図3に、PBパーマロイを用いたメッシュシート(平織り、空間率78%)の面積率と充電電力との関係を示す。表3及び
図3より、面積率が50%以上になると、充電電力が著しく向上することがわかる。
【0058】
【表3】
【0059】
(実施例31〜37、比較例31〜34)
[1. 試料の作製]
PBパーマロイに対して、エレクトロスラグ再溶解、伸線加工及び熱処理を行った。なお、一部の材料については、エレクトロスラグ再溶解を行わなかった。また、製造条件を変えることにより、線径、結晶粒径、面積率を変化させた。
次に、得られた細線を所定の長さに切断した。切断された細線を所定の空間率となるように焼結させ、焼結シートを得た。また、切断された細線を所定の空間率となるようにゴムと混合し、ゴムシートを得た。また、切断された細線を所定の空間率となるように樹脂と混合し、プリプレグ法により積層シートを得た。
【0060】
[2. 試験方法]
[2.1. 複素比透磁率、飽和磁束密度、充電電力]
実施例1と同様にして、複素比透磁率、飽和磁束密度、及び、充電電力を評価した。充電電力の測定周波数は、125kHzとした。
[2.2. 引張試験]
細線に対して引張試験を行い、伸びを測定した。引張試験条件は、JIS Z 2201に準じて、試験片は4号規格とした。
[2.3. 製品歩留]
製品シート重量を投入切断細線重量で割り、100をかけて、製品歩留を求めた。
【0061】
[3. 結果]
表4に、結果を示す。また、
図5に、μ'、μ"、又は、μ'/μ"と充電電力との関係を示す。表4及び
図5より、以下のことがわかる。
(1)比較例31は、線径が0.15mmを超えているために、複素比透磁率及び充電電力が低い。
(2)比較例32、33は、面積率が50%未満であるため、複素比透磁率及び充電電力が低い。
(3)比較例34は、伸びが低いため、複素比透磁率及び充電電力が低い。
(4)実施例31〜37は、いずれも充電電力が2(W)以上であった。但し、実施例36は、エレクトロスラグ再溶解を行っていないため、製品歩留が低い。
【0062】
【表4】
【0063】
(実施例41〜45、比較例41〜45)
[1. 試料の作製]
PBパーマロイに対して、エレクトロスラグ再溶解、伸線加工及び熱処理を行った。なお、一部の材料については、エレクトロスラグ再溶解を行わなかった。また、製造条件を変えることにより、線径、結晶粒径、面積率を変化させた。
得られた細線を所定の空間率となるように平織りし、メッシュシートを得た。
[2. 試験方法]
実施例31と同様にして、複素比透磁率、飽和磁束密度、充電電力、引張特性、及び、製品歩留を評価した。充電電力の測定周波数は、125kHzとした。
【0064】
[3. 結果]
表5に、結果を示す。表5より、以下のことがわかる。
(1)比較例41は、線径が0.15mmを超えているために、複素比透磁率及び充電電力が低い。
(2)比較例42は、メッシュの空間率が80%を超えているため、充電電力が低い。
(3)比較例43、44は、面積率が50%未満であるため、複素比透磁率及び充電電力が低い。
(4)比較例45は、伸びが低く、複素比透磁率及び充電電力も低い。
(5)実施例41〜45は、いずれも充電電力が1.7(W)以上であった。但し、実施例45は、エレクトロスラグ再溶解を行っていないため、製品歩留が低い。
【0065】
【表5】
【0066】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。