特許第6480140号(P6480140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6480140-二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480140
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20190225BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20190225BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190225BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20190225BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M10/052
   H01M10/054
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-204938(P2014-204938)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-76348(P2016-76348A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹川 寿弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正義
(72)【発明者】
【氏名】獨古 薫
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−234983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の表面にアルカリ金属イオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、
負極集電体の表面にケイ素単体を含有する負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、
電解液を保持するセパレータと、
を有する発電要素を備え、
前記電解液は、溶質としてのアルカリ金属塩(MX)が、溶媒としてのメチルトリグライムおよびメチルテトラグライムに溶解されてなり、
前記メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数(M)と前記アルカリ金属塩(MX)中のアルカリ金属(X)のモル数(M)との比(M/M)は、0.9を超えて1.1未満である、二次電池。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩(MX)におけるXは、Cl、Br、I、BF、PF、CFSO、ClO、CFCO、AsF、SbF、AlCl、N(FSO、N(CFSOおよびN(CFCFSOからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩(MX)におけるXは、N(CFSOであり、
当該メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数に対するメチルテトラグライムのモル数の割合は、30〜70モル%である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩(MX)におけるXは、N(FSOであり、
当該メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数に対するメチルテトラグライムのモル数の割合は、10〜70モル%である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩(MX)におけるアルカリ金属(M)は、Li、NaおよびKからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。より詳細には、本発明は、ケイ素を含む負極活物質を用いた場合における、電解液の劣化を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護運動の高まりを背景として、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、および燃料電池車(FCV)の開発が進められている。これらのモータ駆動用電源としては繰り返し充放電可能な二次電池が適しており、特に高容量、高出力が期待できるリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池が注目を集めている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、集電体表面に形成された正極活物質(たとえば、LiCoO、LiMn、LiNiO等)を含む正極活物質層を有する。また、非水電解質二次電池は、集電体表面に形成された負極活物質(たとえば、金属リチウム、コークスおよび天然・人造黒鉛等の炭素質材料、ケイ素やスズ等の金属およびその酸化物材料等)を含む負極活物質層を有する。
【0004】
リチウムイオン二次電池においては、一般的に、上述した正極活物質層と負極活物質層との間の短絡を防止するための隔壁としてセパレータが設けられる。そして、このようにして構成された発電要素を外装体の内部に封入し、電解液を注液して封止することにより電池が完成する。
【0005】
ここで、電解液としては、従来、エチレンカーボネートやジエチルカーボネート等の有機溶媒にリチウム塩を溶解させたものが用いられている。このような電解液を用いたリチウムイオン二次電池では、例えば、200℃以上の高温に曝されると電池特性が悪化するという問題があった。このような問題を解決すべく、溶媒として難燃性で揮発性が極めて低いグライム(対称グリコールジエーテル;R−O(CHCHO)−R)を用い、これに溶質としてのアルカリ金属塩(MX)を溶解させて電解液を構成する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムからなるグライム混合物およびリチウムイオンから構成されるグライム錯体を含むリチウムイオン二次電池用の電解液が開示されている。特許文献1によると、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムを混合することによって生じる共晶効果により、充放電反応時のエチレンオキシド鎖の酸化分解が抑制され、二次電池のサイクル特性を向上させることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−287481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、上記特許文献1に記載の電解液と、ケイ素を含有する負極活物質とを組み合わせて二次電池を構成した場合において、十分なサイクル特性が得られないという問題が生じることが判明した。
【0008】
そこで本発明は、ケイ素を含有する負極活物質を有する二次電池において、サイクル特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、溶媒としてのメチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数に対する、アルカリ金属塩のモル数の割合を特定の範囲とすることにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態によると、正極集電体の表面にアルカリ金属イオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、負極集電体の表面にケイ素を含有する負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、電解液を保持するセパレータとを有する発電要素を備えた二次電池が提供される。当該電解液は、溶質としてのアルカリ金属塩(MX)が、溶媒としてのメチルトリグライムおよびメチルテトラグライムに溶解されてなる。そして、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数(M)とアルカリ金属塩(MX)中のアルカリ金属(X)のモル数(M)との比(M/M)は、0.9を超えて1.1未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電反応時における電解液の電気的安定性が向上されうる。その結果、二次電池のサイクル特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る扁平型(積層型)の双極型でないリチウムイオン二次電池の基本構成を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一形態によると、正極集電体の表面にアルカリ金属イオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、負極集電体の表面にケイ素を含有する負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、電解液を保持するセパレータとを有する発電要素を備えた二次電池が提供される。当該電解液は、溶質としてのアルカリ金属塩(MX)が、溶媒としてのメチルトリグライムおよびメチルテトラグライムに溶解されてなる。そして、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数(M)とアルカリ金属塩(MX)中のアルカリ金属(X)のモル数(M)との比(M/M)は、0.9を超えて1.1未満であることを特徴とする。以下、本形態に係る電解液の構成成分についてまず説明し、その後、当該電解液の用途である二次電池に係る実施形態について説明する。
【0014】
<電解液>
電解液は、溶質としてのアルカリ金属塩(MX)が、溶媒としてのメチルトリグライムおよびメチルテトラグライムに溶解されてなる。
【0015】
[溶媒]
本形態では、メチルトリグライム(以下「G3」と略記する場合がある)およびメチルテトラグライム(以下「G4」と略記する場合がある)の混合液を溶媒として用いる。
【0016】
メチルトリグライム、メチルテトラグライムは、それぞれ以下の化学構造を有する。
【0017】
【化1】
【0018】
このように、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの混合液を溶媒として用いることにより、メチルトリグライムまたはメチルテトラグライムのいずれか一方を単独で用いた場合と比較して、サイクル特性が有意に向上しうる。特に、当該サイクル特性向上の効果は、サイクル数が多くなった場合において、より顕著となる。より具体的には、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの混合液を溶媒として用いることにより50サイクル以降、さらには60サイクル以降、特に80サイクル以降において、サイクル特性が顕著に向上しうる。混合液とすることによりサイクル特性が向上するメカニズムは定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。本発明者らの検討によると、ケイ素系負極へのアルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)の充電過程に着目すると、メチルトリグライムを単独で用いた場合よりも、メチルテトラグライムを単独で用いた場合の方が優れた結果が得られた。一方、放電過程に着目すると、メチルテトラグライムを単独で用いた場合よりも、メチルトリグライムを単独で用いた場合の方が優れた結果が得られた。したがって、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムを混合して使用する場合は、充電または放電のそれぞれの過程で反応に優位な活性種を利用することが可能となり、サイクル特性や電池容量が向上すると考えられる。
【0019】
メチルトリグライムとメチルテトラグライムとの混合比は、特に制限されない。ただし、サイクル特性をより一層向上させる観点から、当該メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数に対するメチルテトラグライムのモル数の割合が、10〜90モル%であることが好ましく、20〜80モル%であることがより好ましく、30〜70モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが特に好ましく、45〜55モル%であることが最も好ましい。このような割合とすることにより、サイクル特性がより一層向上しうる。なお、後述するように、アルカリ金属塩(MX)の種類によってメチルトリグライムとメチルテトラグライムとの混合比の最適な範囲を適宜設定することもまた好ましい。
【0020】
[溶質]
本形態では、アルカリ金属塩(MX)を溶質として用いる。
【0021】
アルカリ金属塩(MX)中のアルカリ金属(M)は、特に制限されず、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)のいずれも使用可能である。
なかでも、実用面、ならびに元素の存在量の観点から、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、およびカリウム(K)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、リチウム(Li)を含むことがより好ましい。これらのアルカリ金属(M)は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。なお、電解液中においては、グライムの酸素原子がアルカリ金属イオン(M)に配位し、錯体(錯塩)として存在しうる。
【0022】
一方、アルカリ金属塩(MX)中のXも、特に制限されないが、グライムと錯体構造を形成した電解液の融点、粘性、イオン伝導性の観点から、Cl、Br、I、BF、PF、CFSO、ClO、CFCO、AsF、SbF、AlCl、N(FSO、N(CFSOおよびN(CFCFSOからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なかでも、N(CFSO、N(FSOは、得られる錯体構造物の粘性が低く、イオン伝導性も1mS・cm−1を超え、電池用電解液の実用面でも十分使用に耐えうることから特に好適である。これらのXは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0023】
アルカリ金属塩(MX)の具体例としては、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiClO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiN(FSO、LiN(CFSOおよびLiN(CFCFSO、NaN(FSO、NaN(CFSO、NaN(CFCFSO、KN(FSO、KN(CFSO、KN(CFCFSOなどが挙げられるが、これに制限されない。
【0024】
なお、本願の出願後に開発されたアルカリ金属塩(MX)であっても、特許請求の範囲の規定を満たす限り、本願の技術的範囲に包含されうる。
【0025】
本形態の電解液は、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの総モル数(M)とアルカリ金属塩(MX)中のアルカリ金属(X)のモル数(M)との比(M/M)が0.9を超えて1.1未満であることを必須とする。この範囲を外れると、サイクル特性が有意に低下しうる。M/Mが上記範囲を外れた場合にサイクル特性が低下する理由は定かではないが、本発明者らは、以下のように推測している。すなわち、M/Mが0.9以下となると、電解液中にグライムと錯体を形成することができない過剰なアルカリ金属塩(MX)が生じ、充放電反応の際に、強い還元力を有するケイ素系材料からなる負極活物質に還元分解されうる。この際に生じる副生成物が徐々に負極表面に堆積することによって、充放電反応が妨げられ、サイクル特性(特に長期サイクル特性)が低下するものと考えらえる。一方、M/Mが1.1以上となると、電解液中にアルカリ金属塩(MX)と錯体を形成することができない過剰なグライムが生じ、当該グライムのエチレンオキシド鎖が充放電反応の際に酸化分解されうる。この酸化分解によって生じる副生成物もまた電解液中に徐々に蓄積し、充放電反応に悪影響を及ぼすことによって、サイクル特性が低下すると考えられる。実際、本発明者らがM/M=0.9、1.0、1.1である電解液をそれぞれ調製して、作用極・対極ともにLi電極を使用したサイクリックボルタンメトリーにより各電解液の電気化学的安定性試験を行ったところ、M/M=0.9の電解液は、M/M=1.0の電解液と比較して、より高い電位で還元が起こることが分かった。また、M/M=1.1の電解液では大きな酸化ピークが観察されるのに対し、M/M=1.0の電解液では酸化ピークが全く観測されなかった。以上の結果より、M/Mを0.9超1.1未満とすることにより、電解液の電気化学的安定性が向上し、その結果、電池におけるサイクル特性が向上するものと考えられた。
【0026】
本発明は、上述のように、ケイ素を含有する負極活物質を用いた場合の二次電池におけるサイクル特性を向上させることを課題としている。ケイ素系負極は、従来のグラファイト等の炭素系負極と比較して反応性が高いため、特許文献1に記載の電解液を用いてケイ素系負極を備える二次電池を構成した場合、炭素系負極では起こらなかったアルカリ金属塩の還元分解が起こり、十分なサイクル特性が得られないものと推測される。本形態の二次電池は、電解液のM/Mを0.9超1.1未満とすることにより、このような還元分解が抑制され、サイクル特性が向上すると考えられる。
【0027】
本形態の電解液は、アルカリ金属塩(MX)中のXが、N(CFSOである場合(例えば、アルカリ金属塩(MX)がLiN(CFSOである場合)は、メチルトリグライム(G3)およびメチルテトラグライム(G4)の総モル数に対するメチルテトラグライム(G4)のモル数の割合は、30〜70モル%であることが好ましく、40〜60モル%であることがより好ましい。また、アルカリ金属塩(MX)中のXが、N(FSOである場合(例えば、アルカリ金属塩(MX)がLiN(FSOである場合)は、メチルトリグライム(G3)およびメチルテトラグライム(G4)の総モル数に対するメチルテトラグライム(G4)のモル数の割合は、10〜70モル%であることが好ましく、30〜60モル%であることがより好ましい。このような範囲とすることによって、サイクル特性および電池容量をより一層向上させることができる。
【0028】
電解液(グライム錯体)の製造方法は特に制限はなく、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、アルカリ金属塩を適宜混合することによって製造できる。例えば、メチルトリグライムと、メチルテトラグライムとを予め混合したグライム混合物に、アルカリ金属塩を加えて電解液を製造する方法;メチルトリグライムにリチウム塩を混合して得た混合物と、メチルテトラグライムにリチウム塩を混合して得た混合物とを混合して電解液を製造する方法;メチルトリグライムにリチウム塩を混合して得た混合物と、メチルテトラグライムとを混合して電解液を製造する方法;メチルテトラグライムにリチウム塩を混合して得た混合物と、メチルトリグライムとを混合して電解液を製造する方法などが挙げられるが、いずれの方法によっても本形態の電解液(グライム錯体)が得られる。
【0029】
混合の際の条件は、特に制限されないが、必要に応じて20〜80℃の温度下で均質になるまで攪拌混合することが好ましい。また、電解液の調製は、アルゴン、窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0030】
電解液中の水分は電池反応に影響を及ぼすため不活性ガス中の水分は極力低く抑えることが重要であり、露点−60℃以下で作業を行うことが好ましい。とりわけ露点−70℃以下であることがより好ましい。
【0031】
続いて、上述した電解液が用いられる本形態の二次電池について、リチウムイオン二次電池を例に挙げてその具体的な実施形態を説明する。ただし、本発明が、以下の実施形態のみには制限されるわけではない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る扁平型(積層型)の双極型ではないリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を模式的に表した断面概略図である。図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体である電池外装材29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、セパレータ17と、負極とを積層した構成を有している。なお、セパレータ17を含めた電池外装材の内部には、上述した電解液が注液されている。正極は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、セパレータ17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0033】
なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面または両面に正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0034】
正極集電体12および負極集電体11は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板(タブ)27および負極集電板(タブ)25がそれぞれ取り付けられ、電池外装材29の端部に挟まれるようにして電池外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12および負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0035】
なお、図1では、扁平型(積層型)の双極型ではない積層型電池を示したが、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層と、を有する双極型電極を含む双極型電池であってもよい。この場合、一の集電体が正極集電体および負極集電体を兼ねることとなる。以下、各部材について、さらに詳細に説明する。
【0036】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質としては、ケイ素系材料(ケイ素を含み、リチウムイオンを吸蔵放出することにより負極活物質として機能しうる材料)が必須に用いられる。
【0037】
負極活物質として用いられるケイ素系材料としては特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、ケイ素(Si)単体のほか、SiOなどのケイ素酸化物などが挙げられる。負極活物質は1種類であってもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
より好ましい実施形態において、負極活物質は、ケイ素(Si)の単体を主成分として含む。なお、本明細書において、「主成分」とは、負極活物質層に含まれる負極活物質の総容量に占めるケイ素(Si)の単体の容量が50%以上であることを意味する。言い換えると、ケイ素(Si)単体の質量が10質量%以上であることを意味する。より大きい理論容量を達成可能であるという観点からは、好ましくは、当該質量は30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0039】
なお、場合によっては、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、ケイ素系材料以外の金属材料(例えば、スズ(Sn)など)など、ケイ素系材料以外の負極活物質が併用されてもよい。
【0040】
負極活物質層の積層方向の厚さは特に制限されない。ただし、電池特性に優れた電池を提供するという観点からは、好ましくは50nm〜100μmであり、より好ましくは100nm〜100μmであり、さらに好ましくは100nm〜50μmである。なお、負極活物質層はケイ素系材料からなる薄膜でありうる。かような薄膜は、負極活物質としてのケイ素系材料(例えば、ケイ素単体)を気相成膜プロセスにより集電体に蒸着させることにより形成されうる。かような気相成膜プロセスの具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の手法が適宜採用されうる。一例としては、真空蒸着法、スパッタリング法(例えば、RFスパッタリング法)、化学気相蒸着(CVD)法などが例示されうる。かような手法によれば、簡便な手法により均一な厚さを有する負極活物質層が形成されうる。
【0041】
あるいは、負極活物質層は、従来の一般的な活物質層と同様の形状であってもよい。すなわち、負極活物質層は、ケイ素系材料を含む負極活物質と、必要により添加されるバインダーや導電助剤等の添加剤とが混合されてなる合剤層の形態であってもよい。これにより、従来の一般的な活物質層作成プロセスに類似の手法により活物質層を作成することが可能である。かような形態において、粒子状活物質である負極活物質粒子のサイズについて特に制限はない。一例を挙げると、電池特性に優れた電池を提供するという観点からは、粒子状の負極活物質の平均粒子径は、好ましくは1nm〜100μmであり、より好ましくは1nm〜10μmであり、さらに好ましくは1〜500nmである。なお、かような形態の負極活物質層は、従来公知の合剤層の形状の負極活物質層と同様の液相プロセスにより作製されうる。例えば、まず、負極活物質層を構成する各成分(粒子状活物質ならびに、必要であればバインダーおよび導電助剤)を適量の溶媒(N−メチル−2−ピロリドンなど)に分散させて、スラリーを調整する。次いで、当該スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることで、負極活物質層が作製されうる。
【0042】
負極活物質層がバインダーを含む場合には、水系バインダーを含むことが好ましい。水系バインダーは、原料としての水の調達が容易であることに加え、乾燥時に発生するのは水蒸気であるため、製造ラインへの設備投資が大幅に抑制でき、環境負荷の低減を図ることができるという利点がある。
【0043】
水系バインダーとは水を溶媒もしくは分散媒体とするバインダーをいい、具体的には熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、水溶性高分子など、またはこれらの混合物が該当する。ここで、水を分散媒体とするバインダーとは、ラテックスまたはエマルジョンと表現される全てを含み、水と乳化または水に懸濁したポリマーを指し、例えば自己乳化するような系で乳化重合したポリマーラテックス類が挙げられる。
【0044】
水系バインダーとしては、具体的にはスチレン系高分子(スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−アクリル共重合体等)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、(メタ)アクリル系高分子(ポリエチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチルゴム)、ポリプロピルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリラウリルメタクリレート等)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリビニルピリジン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂;ポリビニルアルコール(平均重合度は、好適には200〜4000、より好適には、1000〜3000、ケン化度は好適には80モル%以上、より好適には90モル%以上)およびその変性体(エチレン/酢酸ビニル=2/98〜30/70モル比の共重合体の酢酸ビニル単位のうちの1〜80モル%ケン化物、ポリビニルアルコールの1〜50モル%部分アセタール化物等)、デンプンおよびその変性体(酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオン化デンプン等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、ポリエチレングリコール、(メタ)アクリルアミドおよび/または(メタ)アクリル酸塩の共重合体[(メタ)アクリルアミド重合体、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸塩共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜4)エステル−(メタ)アクリル酸塩共重合体など]、スチレン−マレイン酸塩共重合体、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性体、ホルマリン縮合型樹脂(尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂等)、ポリアミドポリアミンもしくはジアルキルアミン−エピクロルヒドリン共重合体、ポリエチレンイミン、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白、並びにマンナンガラクタン誘導体等の水溶性高分子などが挙げられる。これらの水系バインダーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。
【0045】
上記水系バインダーは、結着性の観点から、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、およびメタクリル酸メチルゴムからなる群から選択される少なくとも1つのゴム系バインダーを含むことが好ましい。さらに、結着性が良好であることから、水系バインダーはスチレン−ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0046】
水系バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムを用いる場合、塗工性向上の観点から、上記水溶性高分子を併用することが好ましい。スチレン−ブタジエンゴムと併用することが好適な水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールおよびその変性体、デンプンおよびその変性体、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、またはポリエチレングリコールが挙げられる。中でも、バインダーとして、スチレン−ブタジエンゴムと、カルボキシメチルセルロースとを組み合わせることが好ましい。スチレン−ブタジエンゴムと、水溶性高分子との含有質量比は、特に制限されるものではないが、スチレン−ブタジエンゴム:水溶性高分子=1:0.3〜0.7であることが好ましい。
【0047】
負極活物質層がバインダーを含む場合、負極活物質層に用いられるバインダーのうち、水系バインダーの含有量は80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることが好ましく、100質量%であることが好ましい。水系バインダー以外のバインダーとしては、下記正極活物質層に用いられるバインダーが挙げられる。
【0048】
負極活物質層中に含まれるバインダー量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層の全量100質量%に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは2〜4質量%であり、最も好ましくは2.5〜3.5質量%である。水系バインダーは結着力が高いことから、有機溶媒系バインダーと比較して少量の添加で活物質層を形成できる。
【0049】
負極活物質層は、必要に応じて、導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
【0050】
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0051】
電解質塩(リチウム塩)は、上述した電解液が負極活物質層へと浸透することで、負極活物質層中に含まれることになる。したがって、負極活物質層に含まれうるリチウム塩の具体的な形態は、上述した電解質を構成するリチウム塩と同様である。
【0052】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0053】
負極活物質層および後述の正極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0054】
[正極活物質層]
正極活物質層は活物質を含み、必要に応じて、導電助剤、バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
【0055】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni−Mn−Co)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくは、Li(Ni−Mn−Co)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0056】
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
【0057】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiNiMnCo(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
【0058】
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
【0059】
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と耐久性とのバランスに優れる点で好ましい。
【0060】
なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0061】
正極活物質層に含まれる活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。
【0062】
正極活物質層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのバインダーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
正極活物質層中に含まれるバインダー量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0064】
バインダー以外のその他の添加剤については、上記負極活物質層の欄と同様のものを用いることができる。
【0065】
[セパレータ(電解質層)]
セパレータは、電解液を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
【0066】
セパレータの形態としては、例えば、上記電解液を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
【0067】
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
【0068】
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。一例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
【0069】
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
【0070】
ここで、セパレータは、樹脂多孔質基体の少なくとも一方の面に耐熱絶縁層が積層されたセパレータでありうる。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダーを含むセラミック層である。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電気デバイスの製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
【0071】
このように、耐熱絶縁層としてのセラミック層が積層されてなる構造を有するセパレータにおいては、当該セラミック層が、発電要素の内部で発生したガスを前記発電要素の外部へと放出させるガス放出手段としても機能する。
【0072】
また、本発明では、上述した電解液がセパレータ中に保持される。セパレータに保持される上述の電解液は、液体電解質の形態であってもよいし、ゲルポリマー電解質の形態であってもよい。ここで、ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の電解液が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0073】
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0074】
[集電体]
集電体を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が用いられる。
【0075】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、その他合金等などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
【0076】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
【0077】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0078】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0079】
[電池外装体]
電池外装体29は、その内部に発電要素を封入する部材であり、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースなどが用いられうる。該ラミネートフィルムとしては、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0080】
以上で説明したリチウムイオン二次電池等の二次電池は、本形態の電解液を使用することにより、優れたサイクル特性を発揮し得る。よって、本形態の電解液を適用した二次電池は、電動車両の電源装置として好適である。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるわけではない。
【0082】
<電解液の調製>
[比較例1]
溶媒であるメチルトリグライム(G3)に、溶質であるリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([Li][N(CFSO、以下「LiTFSI」とも称する)を加え、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、電解液を調製した。この際、メチルトリグライムのモル数(MG3)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG3/MLi)が1となるように添加量を調節した。なお、一連の作業は全て露点−60℃以下となるアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行なった。
【0083】
[比較例2]
溶媒であるメチルトリグライム(G3)に代えて、メチルテトラグライム(G4)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液を調製した。この際、メチルテトラグライムのモル数(MG4)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG4/MLi)が1となるように添加量を調節した。
【0084】
[比較例3]
溶質であるLiTFSIに代えて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド([Li][N(FSO、以下「LiFSI」とも称する)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液を調製した。この際、メチルトリグライムのモル数(MG3)とLiFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG3/MLi)が1となるように添加量を調節した。
【0085】
[比較例4]
溶媒であるメチルトリグライム(G3)に代えて、メチルテトラグライム(G4)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で電解液を調製した。この際、メチルテトラグライムのモル数(MG4)とLiFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG4/MLi)が1となるように添加量を調節した。
【0086】
[比較例5]
メチルトリグライムのモル数(MG3)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG3/MLi)が0.9となるように添加量を調節したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液を調製した。
【0087】
[比較例6]
メチルトリグライムのモル数(MG3)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG3/MLi)が1.1となるように添加量を調節したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液を調製した。
【0088】
[比較例7]
メチルテトラグライムのモル数(MG4)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG4/MLi)が0.9となるように添加量を調節したこと以外は、実施例2と同様の方法で電解液を調製した。
【0089】
[比較例8]
メチルテトラグライムのモル数(MG4)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG4/MLi)が1.1となるように添加量を調節したこと以外は、実施例2と同様の方法で電解液を調製した。
【0090】
[実施例1]
比較例1と同様の方法で、溶媒であるメチルトリグライム(G3)に、溶質であるLiTFSIを加え、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、リチウム塩メチルトリグライム溶媒和イオン液体(Li(G3)TFSI)を調製した。この際、メチルトリグライムのモル数(MG3)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG3/MLi)が1となるように添加量を調節した。また、比較例2と同様の方法で、溶媒であるメチルテトラグライム(G4)に、溶質であるLiTFSIを加え、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、リチウム塩メチルテトラグライム溶媒和イオン液体(Li(G4)TFSI)を調製した。この際、メチルテトラグライムのモル数(MG4)とLiTFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG4/MLi)が1となるように添加量を調節した。
【0091】
そして、Li(G3)TFSIと、Li(G4)TFSIとを、Li(G3)TFSIおよびLi(G4)TFSIの総モル数に対し、Li(G3)TFSIのモル数の割合が30モル%となるように量りとり、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、電解液を調製した。なお、一連の作業は全て露点−60℃以下となるアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行なった。
【0092】
[実施例2]
Li(G3)TFSIおよびLi(G4)TFSIの総モル数に対する、Li(G3)TFSIのモル数の割合を50モル%としたこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液を調製した。
【0093】
[実施例3]
Li(G3)TFSIおよびLi(G4)TFSIの総モル数に対する、Li(G3)TFSIのモル数の割合を70モル%としたこと以外は、実施例1と同様の方法で電解液を調製した。
【0094】
[実施例4]
比較例3と同様の方法で、溶媒であるメチルトリグライム(G3)に、溶質であるLiFSIを加え、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、リチウム塩メチルトリグライム溶媒和イオン液体(Li(G3)FSI)を調製した。この際、メチルトリグライムのモル数(MG3)とLiFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG3/MLi)が1となるように添加量を調節した。また、比較例4と同様の方法で、溶媒であるメチルテトラグライム(G4)に、溶質であるLiFSIを加え、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、リチウム塩メチルテトラグライム溶媒和イオン液体(Li(G4)FSI)を調製した。この際、メチルテトラグライムのモル数(MG4)とLiFSI中のLiのモル数(MLi)との比(MG4/MLi)が1となるように添加量を調節した。
【0095】
そして、Li(G3)FSIと、Li(G4)FSIとを、Li(G3)FSIおよびLi(G4)FSIの総モル数に対し、Li(G3)FSIのモル数の割合が10モル%となるように量りとり、60℃にて24時間以上スターラーを用いて混合撹拌し、電解液を調製した。なお、一連の作業は全て露点−60℃以下となるアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行なった。
【0096】
[実施例5]
Li(G3)FSIおよびLi(G4)FSIの総モル数に対する、Li(G3)FSIのモル数の割合を30モル%としたこと以外は、実施例4と同様の方法で電解液を調製した。
【0097】
[実施例6]
Li(G3)FSIおよびLi(G4)FSIの総モル数に対する、Li(G3)FSIのモル数の割合を50モル%としたこと以外は、実施例4と同様の方法で電解液を調製した。
【0098】
[実施例7]
Li(G3)FSIおよびLi(G4)FSIの総モル数に対する、Li(G3)FSIのモル数の割合を70モル%としたこと以外は、実施例4と同様の方法で電解液を調製した。
【0099】
<負極の作製>
まず、負極集電体として、ニッケル箔(厚み20μm)を準備した。次いで、このニッケル箔の表面に、RFスパッタ法により負極活物質層であるアモルファスケイ素薄膜(厚み100nm)を形成して、負極を作製した。
【0100】
<評価用セルの作製>
上記で作製した負極と、対極であるリチウム箔とで、セパレータ(厚み25μmのポリプロピレン多孔質膜)を2枚挟持し、セパレータに上記で調製した電解液を注入した。これら積層体を市販のHSセル(宝泉社製)内に収納して、ねじ止めにて封止することで評価用セルを完成させた。なお、一連の作業は全て露点−60℃以下となるアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行なった。
【0101】
<電池の評価(サイクル試験)>
実施例1〜7および比較例1〜8で調製した電解液を用いて作製した評価用セルについて、サイクル試験の評価を行なった。具体的には、0.5Cレートの電流を一定のまま通電させて充電・放電を繰り返すことで、サイクル試験を実施した。充電は、開回路電圧の状態から評価用セルを極間電位差が5mVとなるまで所定の電流を流すことで行った。また、放電は、充電と同じく0.5Cレートの定電値のまま極間電位差が2Vとなるまで一定の電流を流すことで実施した。以上の評価は、30℃一定に保持された恒温槽内で実施した。充電容量、放電容量は、ともに充電過程、放電過程それぞれにおける総通電量を積算することで求めた。サイクル試験は、この充電過程、放電過程を所定の回数繰り返すことで行った。そして、5サイクル目における放電容量を100%とした場合の、各サイクルでの放電容量の割合(放電容量維持率%)を算出した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1の結果より、メチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの混合溶媒を用い、かつ、M/Mが0.9を超えて1.1未満である実施例1〜7は、比較例1〜8よりも放電容量維持率が高いことが示された。なお、実施例1と比較例2とを対比すると、30サイクル後では比較例2の方が放電容量維持率は僅かに高くなったが、50サイクル後では実施例2の方が有意に高くなることが示された。
【0104】
実施例1〜3と比較例1〜2とを対比すると、M/Mが1.0で一定であっても、溶媒をメチルトリグライムおよびメチルテトラグライムの混合溶媒とすることにより、有意に放電容量維持率が向上することが分かった。特に、実施例2と比較例1〜2と対比すると、比較例1〜2ではサイクル数が多くなるにつれ著しく放電容量維持率が低下するのに対し、実施例2では極めて高い放電容量が維持されることが示された。
【0105】
また、比較例1〜2と比較例5〜8との対比より、M/Mを0.9または1.1とすると、30サイクル後の放電容量維持率が有意に低下することが分かった。これは電解液中でアルカリ金属塩またはグライムが過剰となることにより、電解液の電気的安定性が低下することが原因であると推測された。
【符号の説明】
【0106】
10 リチウムイオン二次電池(積層型電池)、
11 負極集電体、
12 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 セパレータ、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 電池外装材。
図1