特許第6480176号(P6480176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480176
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】ウレタン粘着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/08 20060101AFI20190225BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190225BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20190225BHJP
【FI】
   C09J175/08
   C09J11/06
   C09J7/38
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-258033(P2014-258033)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-117827(P2016-117827A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】高森 愛
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5707715(JP,B2)
【文献】 特開平4−211486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08L75/00− 75/16
C08G18/00−18/87,71/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールとイソシアネート化合物が混合され、両成分が反応することで得られるウレタン樹脂、
可塑剤および安定化剤を有し、
ポリオールがポリエーテルポリオールを含み、
可塑剤がヒマシ油系化合物を含む、ウレタン粘着剤。
【請求項2】
ヒマシ油系化合物は、25℃の粘度が5〜400mPa・sである、請求項1に記載のウレタン粘着剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウレタン粘着剤が塗布された粘着フィルム。
【請求項4】
請求項3の粘着フィルムで保護された部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着テープ、粘着フィルム及び粘着ラベル等の粘着製品、特に、窓ガラス、及び携帯電話、スマートフォン、タブレット及びテレビのディスプレイ等を覆う保護フィルムに塗布されるウレタン粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、テープ、シール、ラベル、化粧用シート及び滑り止めシート等に用いられてきたが、近年、液晶ディスプレイの表面保護フィルムにも用いられている。表面保護フィルムは、いずれ、ガラス又は液晶ディスプレイ用偏光板等の被着体から剥がされる。よって、粘着剤は、保護フィルムを貼り付けた後、たとえ長時間経過しても、人間が手で保護フィルムを剥がすことができる、即ち優れた再剥離性を有することが必要である。
【0003】
従来、粘着剤としては、アクリル樹脂系及びゴム系等の粘着剤が知られている。しかし、アクリル系粘着剤は、粘着層自体の凝集力不足のために、貼付後に時間が経過すると、著しい粘着性増加、及び剥離時に被着体上に糊残り(即ち、凝集破壊)が、起こることがあった。
【0004】
一方、ゴム系粘着剤は、一般に粘着付与樹脂及び可塑剤等の添加剤を多量に含有する。よって、貼付後の時間の経過と共に、これら添加剤がブリードとして析出することがあり、その結果、粘着剤の粘着性低下、及び剥離時に被着体上に糊残りが生じることがあった。
これらの問題点を解決する手段の一つとして、ウレタン粘着剤が使用されることがある(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1は、不飽和単量体の共重合体とウレタン樹脂との複合樹脂に多官能ポリイソシアネート化合物を配合してなる粘着剤を開示する(特許文献1[請求項1]、[[0041]〜[0054]及び[0066]〜[0067]参照)。
特許文献2は、ポリウレタンポリオール、多官能イソシアネート化合物及び脂肪酸エステルを混合して得られる、ウレタン粘着剤を開示する(特許文献2[請求項1]、[0046]〜[0047]参照)。
【0006】
特許文献1及び2のウレタン粘着剤は、アクリル系粘着剤及びゴム系粘着剤と比較すると、ブリードの析出及び糊残りの発生を抑制することができ、長期間経過後の再剥離についても、ある程度の性能を保つことができる。しかしながら、高温状態及び/又は高湿状態で時間が経過したときの、両文献のウレタン粘着剤の再剥離性は、十分とは言えない。
【0007】
また、窓ガラスの保護フィルム用にウレタン粘着剤を使用する場合、ウレタン粘着剤は、紫外線によって黄変し易いので、多量の添加剤を包含することが必要である。その結果、多量の添加剤が粘着剤の相溶性を低下させ、ブリードが発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−328035号公報
【特許文献2】特開2011−190420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、保護フィルムに塗布され、高温高湿状態等の過酷な状態で、長期間経過しても、その再剥離性が低下せず、相溶性に優れたウレタン粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定のポリオールから合成されたウレタン樹脂と特定の可塑剤を有するウレタン粘着剤は、過酷な状態でも再剥離性を維持することができ、可塑剤や安定化剤が配合されても、各成分の相溶性が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明および本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
本発明は、一の要旨において、ポリオールとイソシアネート化合物が混合されて得られるウレタン樹脂、可塑剤および安定化剤を有し、ポリオールがポリエーテルポリオールを含み、可塑剤がヒマシ油系化合物を含む、ウレタン粘着剤を提供する。
【0012】
本発明は、一の態様において、ウレタン樹脂は、ポリオールとイソシアネート化合物とを混合して得られたウレタンポリオールに、更に、追加のイソシアネート化合物を添加することで得られるウレタンプレポリマーである、ウレタン粘着剤を提供する。
本発明は、他の態様において、ポリオールは、さらにポリエステルポリオールを含む、ウレタン粘着剤を提供する。
【0013】
本発明は、好ましい態様において、ヒマシ油系化合物は、25℃の粘度が5〜400mPa・sである、ウレタン粘着剤を提供する。
本発明は、更なる態様において、安定化剤がフェノール系酸化防止剤を含む、ウレタン粘着剤を提供する。
【0014】
本発明は、更に他の態様において、イソシアネート化合物が脂肪族イソシアネートおよび脂環式イソシアネートから選択される少なくとも1種を含む、ウレタン粘着剤を提供する。
本発明は、更に好ましい態様において、ウレタン粘着剤を得るための、ウレタンポリオールと、追加のイソシアネート化合物を組み合わせた、2液型ウレタン粘着剤を提供する。
本発明は、他の要旨において、上述のウレタン粘着剤が塗布された粘着フィルムを提供する。
【0015】
本発明は、好ましい要旨において、上述の粘着フィルムで保護された部材を提供する。
本発明は、更なる要旨において、ポリオールとイソシアネート化合物が混合されて得られ、可塑剤を含有し、該ポリオールがポリエーテルポリオールを含み、該可塑剤がヒマシ油系化合物を含む、ウレタンポリオールを提供する。
本発明は、好ましい態様において、ヒマシ油系化合物は、25℃の粘度が5〜400mPa・sである、ウレタンポリオールを提供する。
本発明は、更に好ましい態様において、さらに、安定化剤を含む、ウレタンポリオールを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のウレタン粘着剤は、ポリオールとイソシアネート化合物が混合されて得られるウレタン樹脂、可塑剤および安定化剤を有し、ポリオールがポリエーテルポリオールを含み、可塑剤がヒマシ油系化合物を含むので、
高温高湿状態等の過酷な状態でも再剥離性が低下せず、可塑剤や安定化剤等の添加剤との相溶性にも優れているため、ブリードが発生することもない。
本発明のウレタン粘着剤は、ガラス及び液晶ディスプレイ用偏光板などからの再剥離性が良好なので、窓ガラス及び携帯電話などの表面保護フィルム用粘着剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るウレタン粘着剤は、ポリオールとイソシアネート化合物が混合されて得られるウレタン樹脂、可塑剤および安定化剤を有する。
【0018】
<ウレタン樹脂>
ウレタン樹脂は、ポリオールとイソシアネート化合物とが混合され、両成分が反応することで得られるポリマーであり、ウレタン結合を有する。ウレタン樹脂は、イソシアネート基を過剰に有するウレタンプレポリマーであっても、水酸基を過剰に有するウレタンポリオールであっても良く、後述する可塑剤、安定化剤、及びその他成分を含有することができる。
ポリオールとイソシアネート化合物との混合方法は、本発明の目的を達成する限り、特に制限されることはない。
【0019】
<ポリオール>
本発明において、ポリオールは、ポリエーテルポリオールを含む。
ポリエーテルポリオールとして、公知のポリエーテルポリオールを使用できる。ポリエーテルポリオールは、例えば、水、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の低分子量ポリオールを開始剤として使用して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド及びテトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を重合させることにより得ることができる。
【0020】
具体的には、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等の官能基数が2以上のポリエーテルポリオールが用いられる。
【0021】
ポリエーテルポリオールは、500〜5,000の数平均分子量を有することが好ましく、800〜4,000の数平均分子量を有することが特に好ましい。ポリエーテルポリオールの数平均分子量が上記範囲にあることによって、本発明のウレタン粘着剤は相溶性に優れ、ブリードが発生し難いものとなる。
【0022】
本明細書で記載された数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン標準を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定値を換算した値である。具体的には、下記のGPC装置及び測定方法を用いてMnを求めることができる。GPC装置は、東ソー社製のHCL−8220GPCを用い、検出器として、RIを用いる。GPCカラムとして、東ソー社製のTSKgel SuperMultipore HZ−M 2本を用いる。試料をテトラヒドロフランに溶解して、流速を0.35ml/min、カラム温度を40℃にて流して測定値を得、標準物質としての単分散分子量のポリスチレンを使用した検量線を用いて測定値の換算を行って、目的とするMnを求める。
【0023】
ポリエーテルポリオールは、30〜200mgKOH/gの水酸基価を有することが好ましく、特に50〜150mgKOH/gの水酸基価を有することが望ましい。ポリエーテルポリオールの水酸基価が上記範囲にあることによって、本発明のウレタン粘着剤は、凝集力と粘着性とのバランスに優れたものとなり、その結果、高温高湿の過酷な条件下でも再剥離性を維持できる。
本明細書で水酸基価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するために要する水酸化カリウムのmg数を示す。
【0024】
本発明では具体的には、下記式(i)で算出される。
(i):水酸基価=(低分子量ポリオールの重量/低分子量ポリオールの分子量)×低分子量ポリオール1モルに含まれる水酸基のモル数×KOHの式量×1000/ポリエーテルポリオールの重量
【0025】
本発明では、ポリオールは、さらに、ポリエステルポリオールを含むことが好ましい。ポリエステルポリオールが含まれることで、本発明のウレタン粘着剤は凝集力に優れたものとなる。
【0026】
本発明において「ポリエステルポリオール」とは、「主鎖型」ポリエステルであって、「主鎖」にエステル結合と水酸基を有する化合物をいう。ポリエステルポリオールは、一般に、低分子量ジオールと、ジカルボン酸及び/又はその無水物との縮合重合反応によって得られる。
【0027】
そのようなジカルボン酸として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸等が例示される。これらは、単独又は組み合わせて使用される。
【0028】
カルボン酸無水物として、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸を例示できる。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0029】
低分子量ジオールとして、官能基数が1〜3個のジオールが好ましい。具体的には、エチレングリコール、1−メチルエチレングリコール、1−エチルエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、及び2,4−ジブチル−1,5−ペンタンジオール等を例示できる。
【0030】
ポリエステルポリオールは、500〜3,000の数平均分子量を有することが好ましく、特に1,000〜2,500の数平均分子量を有することが好ましい。ポリエステルポリオールの数平均分子量が上記範囲にあることによって、本発明のウレタン粘着剤は相溶性に優れ、ブリードが発生し難いものとなる。ポリエステルポリオールの数平均分子量は、ポリエーテルポリオールの数平均分子量と同様、GPCで測定される。
【0031】
ポリエステルポリオールは、30〜200mgKOH/gの水酸基価を有することが好ましく、特に50〜150mgKOH/gの水酸基価を有することが望ましい。ポリエステルポリオールの水酸基価が上記範囲にあることによって、本発明のウレタン粘着剤は、凝集力と粘着性とのバランスに優れたものとなり、その結果、高温高湿の過酷な条件下でも再剥離性を維持することが可能になる。
【0032】
ポリエステルポリオールの水酸基価は、下記式(ii)で算出される。
(ii):水酸基価=(低分子量ジオールの重量/低分子量ジオールの分子量)×低分子量ジオール1モルに含まれる水酸基のモル数×KOHの式量×1000/ポリエステルポリオールの重量
【0033】
本発明では、ウレタン粘着剤を製造する際、ポリオールと少量のイソシアネート化合物とを混合し、水酸基を末端に有するウレタンポリオールを調製し、その後このウレタンポリオールを、更に追加のイソシアネート化合物と混合して、ウレタンプレポリマーを調製することが好ましい。ウレタンポリオールは、後述する可塑剤及び安定化剤を有することが好ましい。可塑剤及び安定化剤は、ウレタンポリオールを調整する際、添加されても良いし、ウレタンポリオールに後で添加されても良い。可塑剤は、後述するヒマシ油系化合物を含む。
【0034】
ウレタンプレポリマーは、ウレタンポリオールと追加のイソシアネート化合物との混合によって得られ、末端にイソシアネート基を有する。尚、追加のイソシアネート化合物は、最初のイソシアネート化合物と同じでも相違してもよい。この末端イソシアネート基と大気中の水分が反応し、ウレタンプレポリマーは、粘着性を有する。本発明に係るウレタン粘着剤は、このウレタンプレポリマーを含むことができる。ウレタンプレポリマーを含むウレタン粘着剤を、いわゆる1液型粘着剤として使用することができる。
【0035】
一方、上述のウレタンポリオールと追加のイソシアネート化合物を、一組の組み合わせとして維持して、使用するときに混合して、得られた混合物をウレタン粘着剤として使用することもできる。ウレタンポリオールと追加のイソシアネート化合物を混合することで、上述のウレタンプレポリマーを生ずる。ウレタンポリオールと追加のイソシアネート化合物の組み合わせを、いわゆる、2液型粘着剤として使用することができる。可塑剤、安定化剤及びその他の成分等は、初めからウレタンポリオール及び/又は追加のイソシアネート化合物に加えられても、上述の混合の際に加えてもよい。当業者であれば、適切に選択することができる。可塑剤は、ウレタンポリオールに加えることが好ましい。更に、安定化剤は、ウレタンポリオールに加えることができる。
【0036】
更に、ポリオールと少量のイソシアネート化合物からウレタンポリオールを得る際の、イソシアネート化合物のNCO基とポリオールのOH基との比(NCO/OH)(モル比)は、0.7〜0.9であることが好ましい。
また、ウレタンポリオールと追加のイソシアネート化合物からウレタンプレポリマーを得る際の、追加のイソシアネート化合物のNCO基とウレタンポリオールのOH基との比(NCO/OH)(モル比)は、0.8〜1.1であることが好ましい。
(NCO/OH)(モル比)を適切に制御することで、より適切な粘着剤を得ることができる。
【0037】
<イソシアネート化合物>
イソシアネート化合物は、本発明が目的とするウレタン粘着剤を得ることができる限り特に限定されるものではないが、脂肪族イソシアネート及び脂環式イソシアネートから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。イソシアネート化合物が上記イソシアネートを含むことによって、本発明のウレタン粘着剤は、耐候性が良好になるので、安定化剤(酸化防止剤及び紫外線吸収剤など)の配合量が少なくなり、相溶性も向上する。
【0038】
本発明に係る「イソシアネート化合物」は、脂肪族イソシアネート及び脂環式イソシアネートのみから構成されることを意味しない。本発明のウレタン粘着剤の再剥離性及び相溶性に悪影響を与えない範囲で、イソシアネート化合物は、芳香族イソシアネートを含んでもよい。尚、イソシアネート化合物は、耐候性の観点から、エチレン性二重結合(例えば、エチレン基及びブチレン基等)を含まないことが好ましい。
【0039】
本明細書では、「脂肪族イソシアネート」とは、鎖状の炭化水素鎖を有し、その炭化水素鎖にイソシアネート基が直接結合している化合物であって、環状の炭化水素鎖を有さない化合物をいう。「脂肪族イソシアネート」は、芳香環を有してもよいが、直接その芳香環と、イソシアネート基は、結合していない。
尚、本明細書では、芳香環は環状の炭化水素鎖に含まれない。
【0040】
「脂環式イソシアネート」とは、環状の炭化水素鎖を有し、鎖状の炭化水素鎖を有してよい化合物である。イソシアネート基は、環状の炭化水素鎖と直接結合しても、有し得る鎖状の炭化水素鎖と直接結合してもよい。「脂環式イソシアネート」は、芳香環を有してもよいが、その芳香環と、イソシアネート基は、直接結合していない。
【0041】
「芳香族イソシアネート」とは、芳香環を有し、かつ、イソシアネート基がその芳香環と直接結合している化合物をいう。従って、たとえ芳香環をその分子内に有していたとしても、イソシアネート基が芳香環に直接結合していない化合物は、脂肪族イソシアネートか、脂環式イソシアネートに分類される。
【0042】
従って、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(OCN−C−CH−C−NCO)は、イソシアネート基が芳香環に直接結合しているので、芳香族イソシアネートに該当する。一方、例えば、キシリレンジイソシアネート(OCN−CH−C−CH−NCO)は、芳香環を有するが、イソシアネート基が芳香環に直接結合せず、メチレン基と結合しているので、脂肪族イソシアネートに該当する。
尚、芳香環は、二つ以上のベンゼン環が縮環していてもよい。
【0043】
脂肪族イソシアネートとして、例えば、1,4−ジイソシアナトブタン、1,5−ジイソシアナトペンタン、1,6−ジイソシアナトヘキサン(以下、HDI)、1,6−ジイソシアナト−2,2,4−トリメチルヘキサン、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル(リジンジイソシアネート)、及び1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン(キシリレンジイソシアネート)等を例示できる。
【0044】
脂環式イソシアネートとして、例えば、5−イソシアナト−1−イソシアナトメチル−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート:IPDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水添キシリレンジイソシアネート)、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添ジフェニルメタンジイソシアネート)、及び1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン等を例示できる。
【0045】
本発明において、イソシアネート化合物は、本発明が目的とするウレタン粘着剤を得ることができる限り、芳香族イソシアネートを含んでもよい。芳香族イソシアネートとして、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、及びm−フェニレンジイソシアネート等を例示できる。
これらのイソシアネート化合物は、単独で又は組み合わせて使用することができる。特に、HDIが好ましい。
【0046】
追加のイソシアネート化合物は、上述のイソシアネート化合物のアダクト体であることが好ましく、トリメチロールプロパンアダクト体であることがより好ましく、ジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体であることが特に好ましい。そのようなアドクト体として、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体を例示することができる。
追加のイソシアネート化合物としてアダクト体を使用することで、粘着剤は、凝集力が向上し、再剥離性がより優れたものとなる。
【0047】
<可塑剤>
本明細書では、可塑剤とは、ポリマー組成物に添加され、ポリマー組成物に柔軟性を付与する物質をいう。本発明において、可塑剤はヒマシ油系化合物を含む。
ヒマシ油系化合物として、ヒマシ油及びヒマシ油誘導体を例示できる。ヒマシ油及び/又はヒマシ油誘導体が可塑剤に含まれることによって、本発明のウレタン粘着剤は、相溶性に優れ、高温高湿の過酷な条件下でも優れた再剥離性を有することができる。
【0048】
ヒマシ油とは、トウダイグサ科のトウゴマの種子から採取する植物油の一種であり、成分は不飽和脂肪酸(リシノール酸87%、オレイン酸7%、リノール酸3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸等が3%)とのグリセリドである。ヒマシ油系化合物として市販品を使用することができる。ヒマシ油の市販品として、伊藤製油株式会社製のLAV(商品名)が挙げられる。
【0049】
本発明において、ヒマシ油誘導体とは、植物油の一種であるヒマシ油を母体とし、官能基の導入、酸化、還元及び原子の置き換え等、母体であるヒマシ油の構造や性質を大幅に変えない程度の変性がなされた化合物のこととする。
ヒマシ油誘導体として、脱水ヒマシ油、ヒマシ硬化油、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、12-ヒドロキシステアリン酸、及びヒマシ油脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0050】
ヒマシ油誘導体の市販品として、伊藤製油株式会社のヒマシ硬化油A(商品名)、CO-FA(商品名)、DCO-FA(商品名)、リックサイザーS4(商品名)、リックサイザーC−101(商品名)、及びリックサイザーGR-310(商品名);
青木油脂工業株式会社製のブラウノンBR−410(商品名)、ブラウノンBR−410(商品名)、ブラウノンBR−430(商品名)、ブラウノンBR−450(商品名)、ブラウノンCW−10(商品名)、ブラウノンRCW−20(商品名)、ブラウノンRCW−40(商品名)、ブラウノンRCW−50(商品名)、及びブラウノンRCW−60(商品名);及び
日油株式会社製のカスターワックスA(商品名)、ニューサイザー510R(商品名)、ステアリン酸さくら(商品名)、ヒマシ硬化脂肪酸(商品名)、NAA−34(商品名)、NAA−160(商品名)、及びNAA−175(商品名)等が挙げられる。
ヒマシ油系化合物は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0051】
本発明に係るヒマシ油系化合物の酸価は、3.0mgKOH/g以下であることが好ましく、特に2.0mgKOH/g以下であることが望ましい。酸価が上記範囲にあることによって、本発明のウレタン粘着剤は、相溶性に優れたものとなり、ブリードの発生を低減することが可能となる。
【0052】
尚、本発明において、「酸価」は、ヒマシ油系化合物1g中に含まれる酸基が全て遊離した酸であると仮定して、それを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数の計算値で表す。従って、実際の系内で塩基として存在しているとしても、遊離した酸として考慮する。本発明に係る「酸価」は、下記式(iii)で求めることができる。
(iii):酸価=(ヒマシ油系化合物に含まれる酸の重量/ヒマシ油系化合物に含まれる酸の分子量)×ヒマシ油系化合物が有する酸1モルに含まれる酸基のモル数×KOHの式量×1000/ヒマシ油系化合物の重量
【0053】
本発明において、ヒマシ油系化合物の屈折率は、1.450〜1.470N25であることが好ましい。屈折率とは、一般的には真空中の光速を物質中の光速で割った値をいい、より具体的には、本明細書では、JIS K0062-1992に準ずる方法で測定した値をいう。(なお、屈折率とは、光がある物質中を進行するときの「抵抗」の量を意味し得る。)
【0054】
本発明では、ヒマシ油系化合物の25℃での溶融粘度は、5〜400mPa・sであることが好ましく、特に5〜300mPa・sであることが望ましい。
本明細書において、25℃の溶融粘度とは、ブルックフィールド粘度計を用い、27番ロータ、回転数100で測定された値をいう。
ヒマシ油系化合物の溶融粘度が上記範囲にあることによって、本発明のウレタン粘着剤は、相溶性に優れ、ブリードが発生しにくくなり、さらに塗工性にも優れる。
【0055】
<安定化剤>
本明細書において、安定化剤とは、ウレタン粘着剤の安定性を向上して、ウレタン粘着剤の熱による分子量低下、ゲル化、着色、及び臭気の発生等を防止するために配合されるものであり、本発明が目的とするウレタン粘着剤を得ることができるものであれば、特に制限されるものではない。「安定化剤」としては、例えば、酸化防止剤及び光安定剤を例示することができる。本明細書では、光安定剤は、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系安定剤(HALS)に大別される。
【0056】
「酸化防止剤」は、ウレタン粘着剤の酸化劣化を防止するために使用される。酸化防止剤として、例えばフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤を例示できる。
「紫外線吸収剤」は、紫外線を吸収して、紫外線のエネルギーをプラスチックに無害な運動エネルギー及び熱エネルギーに変換することで、ウレタン粘着剤の耐候性を高める化合物をいう。紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤を例示できる。
「ヒンダードアミン系安定剤(HALS)」は、紫外線により生成したラジカルを捕捉し、着色防止・光沢保持の効果をもたらす。
【0057】
上述の安定化剤は、後述する本発明が目的とする粘着フィルムを得ることができるものであればウレタン粘着剤に添加することができ、特に制限されるものではない。
安定化剤として、市販品を使用することができる。例えば、アデカ社製のアデカスタブAO-50及びアデカスタブLA-36;住友化学工業社製のスミライザーGM(商品名)、スミライザーTPD(商品名)及びスミライザーTPS(商品名);BASF社製のイルガノックス1010(商品名)、イルガノックス1330(商品名)、イルガフォス168(商品名)、イルガノックス1520(商品名)、チヌビン479及びチヌビン123;城北化学社製のJP-650(商品名)及びJF77(商品名)を例示することができる。これら安定化剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0058】
本発明に係るウレタン粘着剤は、更にその他の成分を含むことができる。
「その他の成分」を、ウレタン粘着剤に添加する時期は、目的とするウレタン粘着剤が得られる限り、特に制限されるものではない。
「その他の成分」として、例えば、粘着付与樹脂、顔料、難燃剤、触媒及びワックス等を例示することができる。
【0059】
「粘着付与樹脂」として、例えば、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、ロジンエステル、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂(ポリエステルポリオールを除く)等を例示できる。
「顔料」として、例えば、酸化チタン及びカーボンブラック等を例示できる。
「難燃剤」として、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤及び、金属水酸化物系難燃剤等を例示できる。
【0060】
「触媒」として、金属触媒、例えば、錫触媒(トリメチルチンラウレート、トリメチルチンヒドロキサイド、ジブチルチンジラウレート及びジブチルチンマレエート等)、鉛系触媒(オレイン酸鉛、ナフテン酸鉛及びオクテン酸鉛等)、そのほかの金属触媒(ナフテン酸コバルト等のナフテン酸金属塩等)、及びアミン系触媒、例えばトリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルへキシレンジアミン、ジアザビシクロアルケン類、ジアルキルアミノアルキルアミン類等を例示できる。
「ワックス」として、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等のワックスが好ましい。
【0061】
本発明のウレタン粘着剤は、上述のウレタン樹脂及びヒマシ油系化合物、安定化剤、更に、場合により加えられるその他の成分を混合することによって得られる。混合方法は、本発明が目的とするウレタン粘着剤を得ることができる限り、特に限定されるものではない。成分を混合する順序等についても、特に限定されるものではない。本発明に係るウレタン粘着剤は、1液型でも2液型でも、特別な混合方法及び特別な混合順序等を要することなく製造することができる。そして得られたウレタン粘着剤は、相溶性に優れ、ガラスや偏光板に対する再剥離性にも優れている。ウレタン粘着剤の再剥離性は、高温高湿状態でも低下することがない。
【0062】
ウレタン粘着剤を塗工する方法は、目的とする粘着フィルムを得ることができる限り、特に制限されるものではない。塗布方法としては、グラビアコート、ワイヤーバーコート、エアナイフコート、ダイコート、リップコート、及びコンマコートなどの様々な方法により行うことができる。
【0063】
本発明に係る粘着フィルムは、上述のウレタン粘着剤が塗布されたものであり、電子部品、木工、建築材料、及び衛生材料等に幅広く利用されるが、ガラス板及び偏光板等の表面保護フィルムとして好適に使用できる。
本発明に係る部材とは、上述の粘着フィルムを用いて製造された部材をいう。部材の種類については、上述のウレタン粘着剤を用いて製造される限り、特に限定されることはないが、例えば、テレビ、携帯電話及びタブレット等のディスプレイ、家屋の窓ガラス、自動車のガラス、家具、オムツ、及び容器を例示できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を更に詳細に、より具体的に説明することを目的として、実施例及び比較例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【0065】
ウレタン粘着剤を合成するための原料を以下に示す。
(A)ポリエーテルポリオール
(A1)ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製のプライムポールFF3320(商品名)、Mn:3000、3官能性、水酸基価:56mgKOH/g)
(A2)ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製のプライムポールPX1000(商品名)、Mn:1000、2官能性、水酸基価:112mgKOH/g)
(A3)ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社製のポリテトラメチレンエーテルグリコール850(商品名)、Mn:850、2官能性、水酸基価:132mgKOH/g)
【0066】
(B)ポリエステルポリオール
(B1)3−メチル−1,5−ペンタンジオール/アジピン酸から製造されるポリエステルポリオール(クラレ社製のクラレポリオールP−1000(商品名)、Mn:1000、2官能性、水酸基価:112mgKOH/g)
(B2)アジピン酸/ヘキサンジオール/ネオペンチルグリコールから製造されるポリエステルポリオール(豊国製油社製のHS2F−231AS(商品名)、Mn:2000、2官能性、水酸基価:56mgKOH/g)
(B3)3−メチル−1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオールから製造されるポリカーボネートポリオール(クラレ社製のクラレポリオールC−1090(商品名)、Mn:1000、2官能性、水酸基価:112mgKOH/g)
【0067】
(C)安定化剤
(C1)フェノール系酸化防止剤(アデカ社製のアデカスタブAO-50(商品名))
(C2)フェノール系酸化防止剤(BASF社製のイルガノックス1330(商品名))
(C3)リン系酸化防止剤(城北化学社製のJP-650(商品名))
(C4)ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製のチヌビン479(商品名))
(C5)ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製のチヌビン123(商品名))
【0068】
(D)イソシアネート化合物
(D1)脂肪族イソシアネート(1,6-ジイソシアナトヘキサン(HDI)のイソシアヌレート体:旭化成ケミカルズ社製のデュラネート50M-HDI(商品名))
(D2)脂環式イソシアネート(イソホロンジイソシアネート(IPDI)のイソシアヌレート体:住化バイエルウレタン社製のVESTANAT T1890/100(商品名))
(D3)脂肪族イソシアネート(キシリレンジイソシアネート(XDI):三井化学社製のタケネート500(商品名))
【0069】
(E)可塑剤
(E1)脂肪酸エステル(日油社製のIPM-R(商品名)、酸価:0.5mgKOH/g以下、屈折率:1.434N25、溶融粘度:10mPa・s(25℃))
(E2)脂肪酸エステル(ジェイプラス社製のDINA(商品名)、酸価:0.04mgKOH/g以下、屈折率:1.449N25、溶融粘度:16mPa・s(25℃))
(E3)ヒマシ油系二塩基酸エステル(伊藤製油社製のリックサイザーS-4(商品名)、酸価:1.00mgKOH/g以下、屈折率:1.442N25、溶融粘度:9mPa・s(25℃))
(E4)ヒマシ油系脂肪酸エステル(伊藤製油社製のリックサイザーC-101(商品名)、酸価:1.7mgKOH/g以下、屈折率:1.454N25、溶融粘度:17mPa・s(25℃))
(E5)ヒマシ油系脂肪酸グリセリンエステル(伊藤製油社製のリックサイザーGR-301(商品名)、酸価:2.0mgKOH/g以下、屈折率:1.468N25、溶融粘度:215mPa・s(25℃))
(E6)炭化水素(マルハニチロ社製のスクワラン(商品名)、酸価:0.5mgKOH/g以下、屈折率:1.454N25、溶融粘度:305mPa・s(25℃))
【0070】
<ウレタン粘着剤の製造>
上述の成分(A)〜(C)を混合し、その混合物に(D)イソシアネート化合物を反応させ、ウレタンポリオールを合成した。ウレタンポリオール100重量部に対し、(E)可塑剤を添加して攪拌し、ウレタンポリオール溶液を調製した。
尚、上述の数値は、全て固形分換算値とする。
ウレタンポリオール溶液100重量部に対して(D)イソシアネート化合物のアダクト体3重量部を添加してウレタンプレポリマー(ウレタン樹脂)を合成した。
本明細書では、ウレタン粘着剤は、前記ウレタン樹脂と、(C)安定化剤および(E)可塑剤を有する。ウレタン粘着剤のより具体的な製法を以下に示す。
【0071】
[実施例1]
成分(A1)77重量部、(B1)15.4重量部および(C1)9.4重量部をセパラブルフラスコに入れ、110℃で120分間減圧攪拌して脱水した。その後、(D1)7.2重量部をフラスコに投入し、フラスコ内を110℃で5時間維持することで各成分を反応させ、ウレタンポリオールを調製した。
得られたウレタンポリウオール100重量部に対して(E3)33.3重量部を添加し、常温下で攪拌溶解してウレタンポリオール溶液とした。
ウレタンポリオール溶液100重量部と(D4)ヘキサメチレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体(旭ケミカルズ社製のデュラネートP301−75(商品名))の75重量%酢酸エチル溶液3重量部を配合して、ウレタンプレポリマー(ウレタン樹脂)を合成した。
ウレタンプレポリマー(ウレタン樹脂)、(C1)および(E3)を有する実施例1のウレタン粘着剤を得た。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
[実施例2〜比較例7]
表1〜3に示される組成で成分(A)〜(E)を配合してウレタン粘着剤を調製した。ウレタン粘着剤を調製する具体的な方法は、実施例1に記載の方法と同様である。
【0076】
<評価用粘着シートの作製>
実施例1〜15、比較例1〜7のウレタン粘着剤を非剥離型ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に10μmの厚さになるように塗工した。塗工終了後、80℃で5分間乾燥させ、離型PETフィルムを貼り合せて評価用粘着シートを作製した。
【0077】
<評価試験>
上述の評価用粘着シートから以下の各評価試験を実施した。
1.相溶性
実施例および比較例で作製したウレタンポリオール溶液を23℃で24時間保管し、その後、目視で溶液の白濁程度を確認した。評価基準は以下のとおりである。
◎:濁りなく透明
〇:少し濁りがあるが透明
△:半透明
×:白濁
【0078】
2.ガラスへの剥離性(常温)
上述の要領で作製した評価用粘着シートを、25mm×70mmに切り出した。切り出したシートから離型PETフィルムをはがした。被着体であるガラス板に、非剥離型PETフィルムを、ウレタン粘着剤層が接するように載せて、ローラーで2Kgの荷重を掛けながら1往復することで、非剥離型PETフィルムをガラス板に、ウレタン粘着剤層を介して貼付けた積層体を得た。
非剥離型PETフィルムとガラス板との積層体を、23℃、50%雰囲気下で28日間保管した。その後、23℃、50%雰囲気下で、引張試験機(島津社製)を用い、引張速度300mm/分でPETフィルムを180度方向に剥離し、剥離強度を測定した。評価基準は以下のとおりである。
◎:界面剥離(AF)かつ剥離強度が4g/25mm未満
〇:界面剥離(AF)かつ剥離強度が4g/25mm以上
△:界面剥離/凝集破壊(AF/CF)
×:凝集破壊(CF)
ここで、「界面剥離(AF:adhesive failure)」とは、ガラス板と粘着剤との界面で剥離を生じたことを意味する。従って、ガラス板上に、糊残りがないことを意味する。これに対し、「凝集破壊(CF:cohesive failure)」とは、粘着剤内部で破壊を生じたことを意味するので、粘着剤の少なくとも一部は、ガラス板に残留した、即ち、糊残りを生じたことを意味する。尚、PETフィルムは、非剥離型を使用したので、粘着剤とPETフィルムとの界面での剥離は認められなかった。
【0079】
3.ガラスへの剥離性(耐熱性)
ガラスへの剥離性(常温)で記載した方法と同様の方法で得た、非剥離型PETフィルムとガラス板との積層体を、150℃雰囲気下で24時間保管した。その後、さらに23℃、50%雰囲気下で24時間保管した。23℃、50%雰囲気下で、引張試験機(島津社製)を用い、引張速度300mm/分でPETフィルムを180度方向に剥離し、剥離強度を測定した。評価基準は以下のとおりである。
◎:界面剥離(AF)かつ剥離強度が100g/25mm未満
〇:界面剥離(AF)かつ剥離強度が100g/25mm以上
△:界面剥離/凝集破壊(AF/CF)
×:凝集破壊(CF)
【0080】
4.ガラスへの剥離性(耐湿熱性)
ガラスへの剥離性(常温)で記載した方法と同様の方法で得た、非剥離型PETフィルムとガラス板との積層体を85℃、85%(湿度)雰囲気下で21日間保管した。その後、さらに23℃、50%雰囲気下で24時間保管した。23℃、50%雰囲気下で、引張試験機(島津社製)を用い、引張速度300mm/分でPETフィルムを180度方向に剥離し、剥離強度を測定した。評価基準は以下のとおりである。
◎:界面剥離(AF)かつ剥離強度が15g/25mm未満
〇:界面剥離(AF)かつ剥離強度が15g/25mm以上
△:界面剥離/凝集破壊(AF/CF)
×:凝集破壊(CF)
【0081】
表1〜2に示されるとおり、実施例1〜15ウレタン粘着剤は、ポリエーテルポリオールおよびイソシアネート化合物から合成されたウレタン樹脂を含み、ヒマシ油系化合物および安定化剤を有するので、全ての評価項目が良好である。
【0082】
これに対し、比較例のウレタン粘着剤は、いずれかの評価項目に×が付いている。比較例1〜4、6のウレタン粘着剤は、ヒマシ油系化合物を含まないので、再剥離性が劣る。特に、比較例1〜4のウレタン粘着剤は、再剥離性のみならず、相溶性も低下する。
比較例5のウレタン粘着剤は、ウレタン樹脂を合成する際、ポリエーテルポリオールを使っていないため、再剥離性が低下する。比較例7のウレタン粘着剤は、安定化剤を有していないため、耐熱条件での再剥離性、耐湿熱条件での再剥離性が劣る。
【0083】
上述の結果より、ポリエーテルポリオールおよびイソシアネート化合物から合成されたウレタン樹脂、ヒマシ油系化合物および安定化剤を有するウレタン粘着剤は、高温高湿状態等の過酷な状態で長期間経過しても再剥離性が低下せず、相溶性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、ウレタン粘着剤を提供する。本発明に係るウレタン粘着剤は、携帯電話やテレビのディスプレイ、家屋の窓ガラス等に貼り付ける表面保護フィルムに塗布されるのが好ましい。