(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480177
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/19 20060101AFI20190225BHJP
【FI】
B62D1/19
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-259235(P2014-259235)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-117435(P2016-117435A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112082
【氏名又は名称】ヒルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳二
(72)【発明者】
【氏名】野田 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】荒木 功二
(72)【発明者】
【氏名】大月 俊一
(72)【発明者】
【氏名】市成 浩典
【審査官】
岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−126832(JP,A)
【文献】
特開2014−166850(JP,A)
【文献】
特開2004−009920(JP,A)
【文献】
特開平08−175400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアシャフトを内蔵したロアジャケットに、アッパーシャフトを内蔵したアッパージャケットを進退自在に嵌合し、ロアシャフトに対してアッパーシャフトを進退自在に連結して、アッパージャケットを車体に支持する支持ブラケットに取り付けられた操作レバーの回動軸に設けた拘束カムを、前記操作レバーの回動操作によりロアジャケットに押し付けて前記ロアジャケットに対してアッパージャケットを位置拘束させたり、前記回動操作によりロアジャケットから遠ざけて前記ロアジャケットに対してアッパージャケットを進退自在にしたりするテレスコ機能を備えたステアリングコラム装置において、
アッパージャケットから切り出されて前記アッパージャケットと一体に構成され、前記アッパージャケットに片持ち支持されたスペーサを、ロアジャケットと拘束カムとの間に介在させることにより、前記拘束カムをロアジャケットに間接的に押し付けることを特徴とするステアリングコラム装置。
【請求項2】
スペーサは、アッパージャケットの進退方向に延在し、対向する側縁が拘束カムの圧接する幅で平行な一対の側方スリットと、前記側方スリットの端縁をアッパージャケットの進退方向に直交して結ぶ端部スリットとにより、アッパージャケットから切り出される請求項1記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともテレスコ機能を備えたステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハンドル(操舵ホイール)の前後位置や高さ(又は傾き)を調整するため、テレスコ機能やチルト機能を備えたステアリングコラム装置が見受けられる。ステアリングコラム装置のテレスコ機能は、例えばロアシャフトを内蔵したロアジャケットに、アッパーシャフトを内蔵したアッパージャケットを進退自在に嵌合し、ロアシャフトに対してアッパーシャフトを進退自在に連結して、アッパージャケットを車体に支持する支持ブラケットに取り付けられた操作レバーの回動操作により、ロアジャケットに対してアッパージャケットを位置拘束したり、進退自在にしたりする構成により実現される(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1が開示するステアリングコラム装置(チルト・テレスコピックステアリング装置)は、車体に対して揺動自在に組み付けられるロアジャケット(ロアチューブ)と、前記ロアジャケットに進退自在に組み付けられたアッパージャケット(アッパーチューブ)とを備えた構成で、前記アッパージャケットは、車体に支持される支持ブラケット(アッパーサポートブラケット)に支持され、前記支持ブラケットに取り付けられた操作レバー(操作子)の回動軸(ボルト)に拘束カム(ガタ取りカム)を組み付けて、操作レバーの回動操作により前記拘束カムをロアジャケットに押し付けることにより、ロアジャケットに対してアッパージャケットを位置拘束している(特許文献1・[請求項1]ほか)。
【0004】
特許文献2が開示するステアリングコラム装置は、車体に支持され、ロアシャフト(ロアシャフト)を内蔵するロアジャケットと、支持ブラケット(クランプ)によって車体に支持され、アッパーシャフト(アッパーシャフト)を内蔵し、前記ロアジャケットに外嵌するアッパージャケットとを備えた構成で、前記アッパージャケットは、支持ブラケットに取り付けられた操作レバーの回動軸(クランプ用ボルト)に拘束カム(偏心カム)を設け、前記操作レバーの回動操作により前記拘束カムをロアジャケットに押し付けることにより、ロアジャケットに対してアッパージャケットを位置拘束している(特許文献2・[請求項1]ほか)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-322552号公報
【特許文献2】特開2010-030579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2が開示するステアリングコラム装置は、いずれもアッパージャケットを車体に支持させる支持ブラケットに取り付けられた操作レバーの回動軸に拘束カムを設け、前記操作レバーの回動操作により回転する拘束カムをロアジャケットに直接的に押し付けることにより、ロアジャケットに対してアッパージャケットを位置拘束する点で共通している。しかし、このように回転する拘束カムをロアジャケットに押し付けてアッパージャケットを位置拘束する構成は、次のような問題があった。
【0007】
通常、操作レバーを押し下げる回動操作により拘束カムを後方(ハンドル側)に回転させ、ロアジャケットに対する圧接を緩和又は解除し、逆に操作レバーを引き上げる回動操作により拘束カムを前方(エンジン側)に回転させ、ロアジャケットに対して圧接させる。これは、何らかの事情でロアジャケットに対してアッパージャケットが前下方に移動すると、相対的に後上方に移動するロアジャケットとの摩擦で拘束カムが連れ回り、圧接を解除する虞のあることを意味する。
【0008】
テレスコ機能を備えたステアリングコラム装置は、拘束カムによりロアジャケットに対して位置拘束されたアッパージャケットが、例えば車両の衝突によって前方に振られた運転手がハンドルにぶつかった際、前記拘束カムとの摩擦に抗してアッパージャケットが前下方に移動していくことにより、衝撃吸収機能を発揮することが期待されている。しかし、上述のように、相対的に後上方に移動するロアジャケットとの摩擦で拘束カムが連れまわり、圧接が解除されてしまえば、前記衝撃吸収機能はまったく期待できず、むしろアッパージャケットの移動が規制されなくなり、ハンドルに衝突した運転手に衝撃が加わり、危険である。
【0009】
ここで、操作レバーの回動操作方向を逆にすれば、アッパージャケットが前下方に移動し、ロアジャケットが相対的に後上方に移動しても、前記ロアジャケットとの摩擦で連れ回る拘束カムの圧接を強くでき、上記危険は生じない。しかし、ハンドル周辺の他部材との関係もあり、操作レバーの回動操作方向を変えることが難しい。そこで、操作レバーの回動操作によりロアジャケットに拘束カムを圧接する構成でテレスコ機能を実現するステアリングコラム装置において、車両の衝突等に起因してアッパージャケットが前下方に移動し、ロアジャケットが相対的に後上方に移動する場合、前記ロアジャケットとの摩擦で拘束カムが連れまわらない構造を、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
検討の結果開発したものが、ロアシャフトを内蔵したロアジャケットに、アッパーシャフトを内蔵したアッパージャケットを進退自在に嵌合し、ロアシャフトに対してアッパーシャフトを進退自在に連結して、アッパージャケットを車体に支持する支持ブラケットに取り付けられた操作レバーの回動軸に設けた拘束カムを、前記操作レバーの回動操作によりロアジャケットに押し付けて前記ロアジャケットに対してアッパージャケットを位置拘束させたり、前記回動操作によりロアジャケットから遠ざけて前記ロアジャケットに対してアッパージャケットを進退自在にしたりするテレスコ機能を備えたステアリングコラム装置において、
アッパージャケットから切り出されて前記アッパージャケットと一体に構成され、前記アッパージャケットに片持ち支持されたスペーサを
、ロアジャケットと拘束カムとの間に介在させることにより、前記拘束カムをロアジャケットに間接的に押し付ける構成である。本発明は、拘束カムをロアジャケットに圧接することによりアッパージャケットを位置拘束するテレスコ機能を有するステアリングコラム装置であれば、チルト機能の有無を問わず、適用される。
【0011】
本発明のステアリングコラム装置は、拘束カムを直接的にロアジャケットに押し付けるのではなく、スペーサを介して前記拘束カムを間接的にロアジャケットに押し付ける。これにより、車両の衝突等に起因してアッパージャケットが前下方に移動し、ロアジャケットが相対的に後上方に移動する場合、アッパージャケットに対して相対的に後上方に移動するロアジャケットはスペーサに摺接するだけで、拘束カムを連れまわすことがなくなるので、前記拘束カムによる圧接を変化させない。仮にロアジャケットがアッパージャケットに対して相対的に前下方に移動する場合も、前記ロアジャケットはスペーサに摺接するだけで、拘束カムを連れまわすことがなく、前記拘束カムによるスペーサを介したロアジャケットの圧接を変化させない。
【0012】
本発明のスペーサは、ロアジャケットに連れて移動しないように、アッパージャケットに位置拘束されながら、アッパージャケットに対して片持ち支持にして、拘束カムに押されたことを変形又は変位によりロアジャケットに伝達できるようにしている。片持ち支持されるスペーサは、拘束カムの回転面を含む直線上に、アッパージャケットに対する固定部位があるとよい。通常、拘束カムはアッパージャケットの延在方向に回転面を揃えているから、片持ち支持されるスペーサは、アッパージャケットの固定部位から前記アッパージャケットの延在方向に延びる。これにより、前記固定部位を起点とするスペーサの変形又は変位は、拘束カムの回転面を含む面内で生じ、前記拘束カムに横方向の負荷を与えなくなる(拗れなくなる)ので、拘束カムが安定して回動できるようにできる。
【0013】
スペーサは
、アッパージャケットから切り出されて前記アッパージャケットと一体に構成すれば、前記取付手段が不要になり、当然前記取付手段がロアジャケットと干渉しないようにする工夫も必要なくなる。アッパージャケットから切り出すスペーサは、片持ち支持となるように、アッパージャケットにスリットを設けて形成するとよい。
【0014】
具体的なスペーサは、アッパージャケットの進退方向に延在し、対向する側縁が拘束カムの圧接する幅で平行な一対の側方スリットと、前記側方スリットの端縁をアッパージャケットの進退方向に直交して結ぶ端部スリットとにより、アッパージャケットから切り出される構成を例示できる。U字状スリットによりアッパージャケットから切り出されるスペーサは、アッパージャケットに片持ち支持され、前記アッパージャケットに対する固定部位を起点とする変形又は変位が拘束カムの回動を邪魔しない。
【0015】
アッパージャケットは断面円形なので、前記アッパージャケットから切り出されるスペーサは、幅が狭いほど平板に近くなり、円滑に変形又は変位する。しかし、スペーサの幅が拘束カムより幅が狭いと、拘束カムの押圧力を十分にロアジャケットに伝達できず、スペーサの側縁が擦れて拘束カムの表面を傷つける虞がある。これから、スペーサの幅を拘束カムが圧接する幅としている。ここで、「拘束カムが圧接する幅」とは、スペーサに押し付けられた拘束カムが実際にスペーサに接触している幅を意味する。スペーサの幅と拘束カムが圧接する幅とは、厳密に一致しなくても構わず、スペーサの変形又は変位を阻害せず、拘束カムの表面を傷つけない範囲で、両者に差があってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のステアリングコラム装置は、ロアジャケットとの摩擦で拘束カムが連れまわることがなくなることにより、拘束カムを押し当てて実現されるロアジャケットに対するアッパージャケットの位置拘束を安定させると共に、車両の衝突等に起因してアッパージャケットが前下方に移動し、ロアジャケットが相対的に後上方に移動することで実現される衝撃吸収性能を安定させる効果を得る。本発明の効果は、チルト機能の有無を問わず、拘束カムの圧接によりアッパージャケットを位置拘束するテレスコ機能を有するステアリングコラム装置で得られるため、本発明の適用範囲は広い。
【0017】
スペーサがアッパージャケットから切り出されて前記アッパージャケットと一体に構成されていれば、スペーサをアッパージャケットに取り付ける取付手段とロアジャケットとの干渉が問題にならないほか、スペーサを正しくアッパージャケットに取り付ける取付作業や調整作業が不要になる。これは、製造コストの増加を抑制又は防止する効果のあることを意味し、本発明をステアリングコラム装置に適用しやすくする効果をもたらす。
【0018】
側方スリットと端部スリットとによりアッパージャケットから切り出され、拘束カムの圧接する幅に等しいスペーサは、拘束カムに押されて必要充分な範囲で変形又は変位し、ロアジャケットに押し付けられると共に、前記拘束カムの回動面を含む直線上、すなわちロアジャケットの延在方向に片持ち支持の固定部位が位置するため、前記変形又は変位が拘束カムの回動を邪魔しない本発明に好適なスペーサとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用したステアリングコラム装置の一例における主要部を表す側面図である。
【
図2】本例のステアリングコラム装置における主要部を表す底面図である。
【
図3】アッパージャケットに固着した取付ブラケットの底面を除いた本例のステアリングコラム装置における主要部の部分破断底面図である。
【
図4】スペーサと拘束カムとの関係を表す部分正面図である。
【
図5】操作レバーを下げて調整状態とした本例のステアリングコラム装置における主要部の断面図である。
【
図6】操作レバーを下げて使用状態とした本例のステアリングコラム装置における主要部の断面図である。
【
図7】車両の衝突等により、相対的にロアジャケットがアッパージャケットに挿入された状態を表す本例のステアリングコラム装置における主要部の側面図である。
【
図8】車両の衝突等により、相対的にロアジャケットがアッパージャケットに挿入された状態を表す本例のステアリングコラム装置における主要部の底面図である。
【
図9】車両の衝突等により、相対的にロアジャケットがアッパージャケットに挿入された状態を表す本例のステアリングコラム装置における主要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明は、例えば
図1〜
図3に見られるように、ロアシャフト(図示略)を内蔵したロアジャケット1に、アッパーシャフト(図示略)を内蔵したアッパージャケット2を進退自在に嵌合し、ロアシャフトに対してアッパーシャフトを進退自在に連結して、アッパージャケット2を車体に支持する支持ブラケット3に取り付けられた操作レバー4の回動軸41に拘束カム42を設けたステアリングコラム装置に適用される。本例のステアリングコラム装置は、チルト機能及びテレスコ機能を備える。
【0021】
図1以下の各図では、説明の便宜上、ロアジャケット1及びアッパージャケット2を嵌合させたステアリングコラム装置における主要部を水平に図示しているが、実際にはロアジャケット1は前下方(
図1中左下方)に突出し、アッパージャケット2は後上方(
図1中右上方)に突出するように、全体として車両の前方に向けて下り勾配の斜め姿勢で車体(図示略)に支持される。このため、ロアジャケット1又はアッパージャケット2の進退方向について、車両の前後左右を基準に前下方及び後上方と説明するが、各図では左方又は右方として図示される。
【0022】
ロアジャケット1は、環状フランジを前端に備えた金属製の円筒で、アッパージャケット2に前下方側から内嵌合され、内部に保持させたロアシャフト(図示略)を前記アッパージャケット2に保持させたアッパーシャフトと進退自在に連結する。本例のロアジャケット1は、車体に揺動軸(図示略)で軸着され、支持ブラケット3に対する拘束が緩められたアッパージャケット3を揺動自在にし、チルト機能を実現する。また、本例のロアジャケット1は、アッパージャケット1に対してがたつきなく進退できるように、外周面に樹脂製の円筒形カバーであるリテーナ11を装着し、前記アッパージャケット2の内周面との隙間を埋めている。
【0023】
アッパージャケット2は、固着された取付ブラケット22を介して、車体に固定された支持ブラケット3に支持される金属製の円筒で、ロアジャケット1に後上方側から外嵌合し、内部に保持させたアッパーシャフト(図示略)を前記ロアジャケット1に保持させたロアシャフトと進退自在に連結する。本例のアッパージャケット2は、進退方向に延びるU字状スリット211により切り離した平面視長方形状のスペーサ21を、操作レバー4の回動軸41に取り付けた拘束カム42に対向する底面側に設けている。このように、本例のスペーサ21は、後方側をアッパージャケット2に片持ち支持状態で、前記アッパージャケット2と一体に設けられている。
【0024】
本例のスペーサ21は、拘束カム42が圧接するカム面421の幅に等しい平面視長方形状(
図3参照)で、前記拘束カム42の押し付けに応じてアッパージャケット2内部に変形しやすい。しかし、断面円形のアッパージャケット2から切り出されるスペーサ21は、どうしても外面が湾曲している。このため、拘束カム42の押しつけが一点に集中しないように、本例の拘束カム42のカム面421を断面凹型に形成している(
図4)。これにより、拘束カム42はスペーサ21を捩ることなく、まっすぐ上方、すなわちアッパージャケット2の内部に向けて押し上げることができる。これは、拘束カム42に押されたスペーサ21がロアジャケット1の外面に広く接面し、拘束カム42の押しつけをもれなくロアジャケット1に伝達できることを意味する。
【0025】
本例のアッパージャケット2は、スペーサ21を覆うように、平坦な平面と、前記平面の両側縁から折り曲げられた一対の平行な側面とから構成される断面コ字状である金属製の取付ブラケット22を、溶接により底面側に固着している。取付ブラケット22は、アッパージャケット2の進退方向に延びるテレスコ用長孔221を、それぞれの側面に左右一対で設けている。本例のアッパージャケット2は、操作レバー4の回動軸41により取付ブラケット22と車体に固定された支持ブラケット3とが連結され、前記取付ブラケット22を介して支持ブラケット3に支持されている。
【0026】
支持ブラケット3は、左右一対にカプセル31,31を取り付けた金属製のブラケット本体33と、前記ブラケット本体33から左右一対で下ろされた一対の平行な金属製の挟持板32とから構成される。カプセル31は、平面視楔状に切り欠いたブラケット本体33の取付部位に装着される樹脂ブロックで、従来同種のステアリングコラム装置にも見られる部材である。カプセル31は、外部からの衝撃を受けて、位置拘束された使用状態にあるアッパージャケット2が強引に前下方に移動する際、ブラケット本体33の取付部位から分離し、前記位置拘束された使用状態にあるアッパージャケット2を移動可能にする。
【0027】
本例の支持ブラケット3は、左右一対の挟持板32それぞれに、ロアジャケット1に設けられた揺動軸(図示略)を中心とする円弧状のチルト用長孔321を設けている。これにより、アッパージャケット2に固着した取付ブラケット22のテレスコ用長孔221と、前記チルト用長孔321とを左右に連通させた状態で、操作レバー4の回動軸41を通すことにより取付ブラケット22及び支持ブラケット3とを連結し、前記取付ブラケット22及び支持ブラケット3を介して、アッパージャケット2を車体に支持させている。
【0028】
操作レバー4は、取付ブラケット22のテレスコ用長孔221と支持ブラケット3のチルト用長孔321とに連通する回動軸41を回転操作する操作部材である。本例の操作レバー4は、取付ブラケット22のテレスコ用長孔221間に、拘束カム42を設けた樹脂製の連動カラー422を外嵌している。連動カラー422は、延在方向にスプライン孔423を設け、回動軸に設けたスプライン411と前記スプライン孔423とをスプライン嵌合させて、回動軸41と一体に回転する。拘束カム42は、連動カラー422の回転中心から偏心し、半径を徐変に変化させるカム面421を有している。本例の拘束カム42は、前方が小径部分、後方が大径部分のカム面421である。また、カム面421は、アッパージャケット2に設けたスペーサ21の外面に倣って凹面である(
図4参照)。
【0029】
本例の操作レバー4は、左側(
図1中手前側、
図2中上側)に配置され、左側の挟持板32との間に押圧カム機構412を設けている。押圧カム機構412は、操作レバー4の回転操作に応じて、対向する凹凸の対向関係を変化させる一対のカム板から構成され、一対のカム板の凸が対向すると、前記カム板が左側の挟持板321を押して取付ブラケット221の側面と支持ブラケット3の挟持板32とを締め付け、一対のカム板の凸及び凹が対向すると、前記カム板が左側の挟持板321を押さなくなり、取付ブラケット221の側面と支持ブラケット3の挟持板32との締め付けが緩められる。
【0030】
本例のステアリングコラム装置は、次のようにして、チルト機能及びテレスコ機能を実現する。操作レバー4を前下方に押し下げると、押圧カム機構412が取付ブラケット22の側面と支持ブラケット3の挟持板32との締め付けを緩めると、チルト用長孔31やテレスコ用長孔221に連通する回動軸41の連通位置を自由に変更できるようになる。また、同時に、拘束カム42がカム面421の小径部分をアッパージャケット2のスペーサ21に対向させて前記スペーサ21の外面から僅かに離れるため、ロアジャケット1に対してアッパージャケット2が進退自在となる。
【0031】
こうしてロアジャケット1に対してアッパージャケット2が進退及び揺動自在の状態で、チルト用長孔321に対する前記回動軸31の連通位置を上下させるように、ロアジャケット1の揺動軸に対するロアジャケット1及びアッパージャケット2の傾きを調整すれば、チルト機能を実現できる。また、前記状態で、テレスコ用長孔221に対する回動軸41の連通位置を進退させるように、ロアジャケット1に対するアッパージャケット2の重なり長さを調整すれば、テレスコ機能を実現できる(
図5参照)。
【0032】
下ろした操作レバー4を後上方に引き上げると、今度は押圧カム機構412が取付ブラケット22の側面と支持ブラケット3の挟持板32とを締め付け、チルト用長孔31やテレスコ用長孔221に連通する回動軸41の連通位置を位置固定する。また、同時に、拘束カム42がカム面421の大径部分をアッパージャケット2のスペーサ21に対向させて前記スペーサ21の外面に圧接するため、ロアジャケット1に対してアッパージャケット2が位置固定される。こうして、調整されたロアジャケット1及びアッパージャケット2の傾きや、ロアジャケット1に対するアッパージャケット2の重なり長さが維持される。
【0033】
本発明の特徴は、ロアジャケット1の外周面に拘束カム42のカム面421を直接押し当てていた従来と異なり、ロアジャケット1と拘束カム42との間に、アッパージャケット2に片持ち支持されたスペーサ21を介在させることにより、前記拘束カム42をロアジャケット1に間接的に押し付ける点にある(
図6参照)。スペーサ21は、アッパージャケット2に片持ち支持されているので、拘束カム42がカム面421の大径部分を押し付けると、前記押し付けに応じてアッパージャケット2内部へと変位し、従来同様、ロアジャケット1の外周面を押圧するため、拘束カム42がロアジャケット1に対してアッパージャケット2を位置固定する働きは変わらない。
【0034】
しかし、
図7〜
図9に見られるように、例えば車両の衝突等に際して運転手がアッパーシャフト後端のハンドルに衝突することにより、アッパージャケット2が前下方に移動し(白抜き矢印参照)、ロアジャケット1が相対的に後上方に移動する(黒塗り矢印参照)場合、アッパージャケット2に対して相対的に後上方に移動するロアジャケット1はスペーサ21に摺接するだけで、拘束カム42を連れまわすことがなくなるので、前記拘束カム42によるスペーサ21を介したロアジャケット1の圧接を変化させない。
【0035】
拘束カム42をロアジャケット1に圧接させて、ロアジャケット1に対してアッパージャケット2を位置固定することは、テレスコ機能にとって、ロアジャケット1に対するアッパージャケット2の重なり長さを維持する働きであるほか、上述のように、ロアジャケット1に対してアッパージャケット2を無理に移動させて、ハンドルに衝突する運転手に加わる衝撃を吸収する働きがある(衝撃吸収機能)。本発明は、衝撃を受けて前下方にアッパージャケット2が移動する結果、相対的に後上方に移動するロアジャケット1が拘束カム42を連れ回さないようにして、前記拘束カム42によるロアジャケット1の押しつけを維持し、必要充分な衝撃吸収機能を発揮させる。
【符号の説明】
【0036】
1 ロアジャケット
11 リテーナ
2 アッパージャケット
21 スペーサ
22 取付ブラケット
3 支持ブラケット
31 カプセル
32 挟持板
33 ブラケット本体
4 操作レバー
41 回動軸
42 拘束カム