特許第6480192号(P6480192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6480192血管床における流体の灌流方法並びに該方法の実施装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480192
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】血管床における流体の灌流方法並びに該方法の実施装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20190225BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20190225BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20190225BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20190225BHJP
   A61L 27/50 20060101ALN20190225BHJP
   A61F 2/06 20130101ALN20190225BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20190225BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20190225BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   C12M1/04
   C12M1/36
   C12M3/00 A
   !A61L27/50 300
   !A61F2/06
   !C12N5/077
   !C12N5/071
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-10005(P2015-10005)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-131551(P2016-131551A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 和紀
(72)【発明者】
【氏名】関根 秀一
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−000105(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/036225(WO,A1)
【文献】 特開2004−049185(JP,A)
【文献】 ライフサポート,2009年,Vol.21, No.3,p.104-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12Q 1/00− 3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管床における流体の灌流方法であって、
前記血管床外部から変動圧力を加え、加圧しながら灌流培養するものであり、
前記血管床が、細胞シートを積層した血管床であり、
培養容器内を通す細胞培養用ガスの圧力を変動することで前記変動圧力とし、前記変動圧力が、パルス加圧になっている
ことを特徴とする灌流方法。
【請求項2】
前記血管床が生体組織片由来である、請求項1に記載の灌流方法。
【請求項3】
前記生体組織片が皮弁である、請求項に記載の灌流方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の灌流方法を実施する灌流培養装置において、
血管床を収納する培養容器と、
前記培養容器に接続され、前記血管床に流体を流入する流体流入部と、
前記培養容器に接続され、前記血管床から流体を排出する流体排出部と、
前記培養容器に接続され、前記培養容器内を通す細胞培養用ガスの圧力を変動することでパルス加圧を加えて加圧する加圧部と、
を備えることを特徴とする灌流培養装置
【請求項5】
請求項4に記載した灌流培養装置において、
前記加圧部がユニット化され、培養容器に対して接続された装置が構築されることを特徴とする灌流培養装置
【請求項6】
請求項5に記載した灌流培養装置に着脱自在に取り付けられる加圧部
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管床における流体の灌流方法および該方法の実施装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体外で細胞を組織化した上で再生組織として不全部に移植する再生研究が始まっており、その一環として、温度応答性培養皿を用いて、細胞−細胞間接着やECM構造と機能を破壊することなく細胞をシートとして回収する回収手法が開発されている。
この回収手法によれば、得られた細胞シートは生体組織へ速やかに生着する特徴を有しており、細胞シートを積層化できれば、厚みのある組織や臓器も作製することができると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2012/036225
【特許文献2】国際公開WO2012/036224
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、積層化した細胞シートに関して、従来は、4枚以上積層すると、細胞シート積層体内部に酸素・栄養が十分に透過できず、壊死してしまうという問題を抱えており、3層程度の積層が限界であった。
しかしながら、特許文献1にも記載されているように、最近では、微小流路付きコラーゲンゲルを利用し、その上に細胞シートを載せて培養し、コラーゲンゲルを血管床とした灌流可能な血管網を構築した上で、その上に細胞シートを積層させ、培地を灌流培養することにより細胞シート内に毛細血管網を新生させ上層の細胞シートに酸素や栄養素を供給しながら積層化を図る、in vitroにおける積層化手法が提案されており、この手法を利用して従来の積層限界を突破できたと報告されている。
しかし、この積層化手法を利用した場合でも、現在のところ、積層枚数は12枚が限界であり、また、血管新生から次の細胞シートの積層まで5日間はかかることが報告されている。
【0005】
また、特許文献2には、動脈・静脈ループを有する動物由来の組織片を血管床として利用し、灌流可能な血管網を構築した上で、その上に細胞シートを積層させ、動脈から培地を灌流培養させて積層した細胞シート内にも培地を送り込み、毛細血管網を新生させながら積層化を図る手法が提案されており、この手法を利用して従来の積層限界を突破できたことが報告されている。しかし、特許文献1の積層化手法を利用した場合であっても、現在のところ、積層枚数は12枚が限界であり、また、次の細胞シートを積層するまでに3日間は間隔を置かなければならないことが問題であった。また、当該方法では、動脈側から灌流した培養液が血管床から漏れ出てしまうために、静脈側から排出される培養液の割合が4割以下となってしまい、血管床やそれに積層された細胞シート内に効率的に培養液が供給されないなどの問題点も有していた。
【0006】
そこで、本発明者らは、血管床中に灌流される培地の潅流方法に関して鋭意工夫を行った結果、血管床に変動圧力を加えた試験を実施したときに、血管床中の流体が効率的に灌流されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
それ故、本発明は、変動圧力を利用することを特徴とする、新規且つ有用な血管床における流体の灌流方法および該方法の実施装置を提供することを、その目的とする。
また、本発明は、加圧部をユニット化し、血管床の灌流培養装置に着脱自在としたものを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものである。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]血管床における流体の灌流方法であって、前記血管床の外部から変動圧力を加え、加圧しながら灌流培養することを特徴とする灌流方法。
[2]前記変動圧力が、周期的に変動する周期変動圧力である[1]に記載の灌流方法。
[3]前記血管床が、生体組織片由来である[1]または[2]に記載の灌流方法。
[4]前記生体組織片が皮弁である、[3]に記載の灌流方法。
[5]前記血管床が、細胞シートを積層した血管床である、[1]〜[4]に記載の灌流方法。
[6][1]〜[5]に記載の灌流方法を実施する灌流培養装置において、血管床を収納する培養容器と、前記培養容器に接続され、前記血管床に流体を流入する流体流入部と、前記培養容器に接続され、前記血管床から流体を排出する流体排出部と、前記培養容器に接続され、前記培養容器の内部に周期変動圧力を加えて加圧する加圧部と、を備えることを特徴とする灌流培養装置。
[7][6]に記載した灌流培養装置において、前記加圧部は培養容器内を通す細胞培養用ガスの圧力を変動することで加圧することを特徴とする灌流培養装置。
[8][6]または[7]に記載した灌流培養装置において、前記周期変動圧力はパルス加圧になっていることを特徴とする灌流培養装置。
[9][6]〜[8]に記載した灌流培養装置において、前記加圧部がユニット化され、培養容器に対して接続された装置が構築されることを特徴とする灌流培養装置。
[10][9]に記載した灌流培養装置に着脱自在に取り付けられる加圧部。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血管床における流体の灌流方法によれば、毛細血管を有した血管床内及び血管床に積層した細胞シート内にも効率的に培地等を供給することが可能となる。これにより、酸素や栄養を血管床内及び積層した細胞シートに効率的に供給することが可能となり、従来技術よりも活性が高い血管床及び積層細胞シートを得ることが可能となる。
また、この方法は、本発明の灌流培養装置を用いて実施できる。この装置で、加圧に係わる加圧部をユニット化すれば、培養容器側と別体とできるので取扱い上利便性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る血管床の灌流培養装置の全体構成図である。
図2図1のパルス加圧部の構成図である。
図3図2におけるパルス加圧の説明図である。
図4】実施例における生体由来の血管床の作製方法を示す図である。
図5】実施例の灌流率の試験結果(定圧下とパルス加圧下での比較)を示すグラフである。
図6】実施例の灌流率の試験結果(パルス加圧下での灌流率の時間依存性)を示すグラフである。
図7】実施例の灌流率の標準偏差を示すグラフである。
図8】実施例の灌流率の変動係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る血管床における流体の灌流方法を実施するのに用いる灌流培養装置1について、図面にしたがって説明する。
先ず、構成について説明する。
図1に示すように、灌流培養装置1は、培養容器3を備えている。
この培養容器3の容器本体5は、矩形箱状で上方に開口しており、正面に見える側部には、流体流入用接続ポート7と流体流出用接続ポート9が並べて設けられている。また、左右両側の側部の一方の角部寄りには、ガス流入用接続ポート11が、他方の対角寄りには、ガス流出用接続ポート13がそれぞれ設けられている。また、側部の上面で為す四角枠状の上面の4つの角部には、雌ネジ穴15がそれぞれ形成されている。
符号17は蓋体を示し、上記した容器本体3に対応して矩形のプレート状を為している。この蓋体17は、内方側には大きく透明な矩形状の観察窓19が備えられている。また、4つの角部には、上記した容器本体3側の雌ネジ穴15に対応して貫通孔21が形成されている。
【0012】
蓋体17で容器本体5の上方開口を閉塞すると、培養容器3は、上記したポートの部位を除けば、実質的に密閉容器となる。温度コントローラ(図示省略)も備えられているので、培養容器3の内部は、温度が調整された培養空間となる。
容器本体5側の雌ネジ穴15に蓋体17側の貫通孔21を連通させ、ネジ23で締付けることで蓋体17が固定される。
この培養容器3内で、血管床B及び細胞シートCが培養される。
【0013】
この実施の形態の場合には、血管床に酸素や栄養素を供給するための灌流液として培養液が使用されており、培養容器3の培養空間に培地を灌流するための灌流系が備えられている。灌流液は特に限定されるものではないが、細胞培養に用いられる培地、血液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、無血清培地等、灌流培養する血管床や細胞等の種類に応じて適宜選択すればよい。また、灌流液には、必要に応じて細胞成長因子等の蛋白質や薬剤を含んでいてもよい。
符号25はチューブ状の流体供給ラインを示し、その一端部は上記した流体流入用接続ポート7に接続されている。また、他端部には供給針27が連結され、その供給針27が培養液槽29の蓋体31を貫通して下降しており、その先端が培養液槽29に溜められた培地Bの液位より下側に延びている。流体供給ライン25の中間には、流体送給手段としてのポンプ33が介装されている。
【0014】
符号35はチューブ状の流体排出ラインを示し、その一端部は上記した流体流出用接続ポート9に接続されている。また、他端部には重量計測用のスケール37が接続されている。このスケール37には、排出袋が備えられており、そこに溜まった培地の重量を測定するように構成されている。
上記した培地の供給・排出ラインを利用して灌流系が構築されており、スケール37を設けることで、後述する灌流率の評価を可能としている。上述の流体供給ライン25の一端部と、上述の流体排出ライン35の一端部は、同一の培養液槽29に繋がっていてもよい。この場合、血管床Bの培養に使用された灌流液が流体排出ライン35から培養液槽29に排出され、培地Bと混合されることになるが、培養槽29には透析膜等を備えることで、排出された灌流液を再利用することが出来、灌流液の使用量を節約することができる。
【0015】
血管床は無数の毛細血管網を備えており、動脈から枝分かれした毛細血管が再び収束して静脈に戻る構成となっている。生体内において、血管床中に流入する血液は、動脈から毛細血管を通って、ほぼ100%の割合で静脈へと戻る。そのため、効率的に組織内へと酸素や栄養分を供給できると同時に、組織で産生された二酸化炭素や乳酸等の老廃物を効率的に排出することができる。しかし、本発明に用いられる血管床は、生体内の組織と繋がっていた毛細血管網を一部切断することで血管床として生体外へと取り出して利用するものであるため、動脈から供給される灌流液が、切断された毛細血管網や組織から漏れ出し、静脈へ戻る灌流液が著しく減少してしまう。そのような血管床に細胞シートを積層化した場合、ある一定の枚数までは栄養や酸素を供給することが可能であるが、12枚を超えると細胞シート全体に供給される培地の量が不足してしまい、部分的に壊死を起こしてしまう。
【0016】
こうした問題を解決するため、本発明の灌流培養装置1はパルス加圧部が備えられている。血管床を外部から加圧することで血管床内の流体の流れを促進させることが可能となり、血管床内の毛細血管網の構築を促進することができるばかりでなく、血管床の上に積層した細胞シートにも効率的に酸素や栄養分を供給することが可能となる。本発明の灌流培養装置1は細胞等を培養するときに必要となる細胞培養用ガスの供給機構が設けられており、このガス供給機構を利用してパルス加圧部が構成されている。なお、細胞培養用ガスは、この実施の形態では、混合ガス(CO:5%、空気:残部)であるが、酸素や、窒素、空気等、用途に応じて適宜選択することができる。
パルス加圧部はガス供給側と排出側に分かれている。ガス供給側で符号39はチューブ状の混合ガス供給ラインを示し、その一端部は上記したガス流入用接続ポート11に接続されている。また、他端部にはガス供給部41が接続されている。
【0017】
ガス供給部41の筐体42の内部では、図2に示すように構成されている。
供給ガスは空気とCOガスを混合したものになっており、チューブ状の空気流入ライン43の一端側は外部に開放され、ガスポンプ45と、流量調整用のスロットルバルブ47が開放側から順に介装されて、外気が取りこまれて、調整された流量で送られるようになっている。
【0018】
また、COガス側では、COガスを溜めたガスボンベ49(図1では図示省略)が筐体外部に配されている。チューブ状のCO流入ライン51の一端側が筐体の外まで延ばされ接続されている。内部では、マスフローコントローラ53が介装され、調整された流量で送られるようになっている。
空気流入ライン43とCO流入ライン51は合流して、混合ガス流入ライン55に連なっており、この混合ガス流入ライン55がコネクタを介して筐体外の上記した混合ガス供給ライン39に連なっている。
従って、筐体42内に取り込まれた空気とCOガスの混合ガスが混合ガス供給ライン39を介して培養容器3内に供給される。図示しないが、ガス供給ライン39には滅菌フィルターが設けられており、培養容器内に汚染物質(細菌、ウイルス、塵等)が流入するのを防いでいる。培養容器内に汚染物質が流入することを防止する手段は特に限定されず、外気と培養容器とをつないでいる流路内に設けられていればよい。
【0019】
混合ガス流入ライン55には、筐体内部で、COセンサー57が介装されている。このCOセンサー57はCO濃度調節器59と電気結線され、CO濃度調節器59は上記したマスフローコントローラ53と電気結線されている。
この構成により、COセンサー57が常時混合ガスのCO濃度を検知し、CO濃度調節器59がこの濃度情報を受取ると、目標濃度(この実施の形態の場合には、5%)に収まるように、制御信号を適宜生成しマスフローコントローラ53に送出して、マスフローコントローラ53を制御しており、所望のCOガス濃度が維持される。
【0020】
ガス排出側で符号61はチューブ状のガス排出ラインを示し、その一端部は上記したガス流出用接続ポート13に接続されている。他端部はガス排出部63の筐体64内のガス吸引ライン65に接続されている。図示しないが、ガス排出ライン61には滅菌フィルターが設けられており、培養容器内に汚染物質(細菌、ウイルス、塵等)が流入するのを防いでいる。培養容器内に汚染物質が流入することを防止する手段は特に限定されず、外気と培養容器とをつないでいる流路内に設けられていればよい。
このガス排出部63の筐体64の内部は、図2に示すように構成されており、上記したガス排出ライン61がガス吸引ライン65に連なっている。
このガス吸引ライン65の先端部は外部に開放されており、その開放側寄りに圧力調整用バルブ67が介装されている。灌流培養装置1では、この圧力調整用バルブ67が閉じると、培養容器3の内部の培養空間が加圧下に置かれるようになっており、バルブの開き度合の調整により加える圧力値がコントロールされている。
【0021】
圧力調整用バルブ67に培養容器3からの混合ガスを送り込む側には、電磁弁(切替弁)69が介装されている。電磁弁69は3ポート式になっており、一つのポートは圧力開放用になっており、チューブ状の圧力開放ライン71に接続されている。この圧力開放ライン71は外部に開放されている。
【0022】
電磁弁69には、タイマー73が電気結線されている。
このタイマー73の設定部75では、電磁弁69の切替えモードが手動操作により設定可能になっている。
タイマー73の切替えモードは間欠的にON/OFFを繰り返すものになっており、このON状態では、電磁弁69を介してガス排出ライン61が圧力調整用バルブ67側と連通するので、ガス供給部41から培養容器3を経由してガス排出部63に向かうガスラインが確立され、培養容器3内は、圧力調整用バルブ67で調整された圧力で加圧されることになる。
【0023】
一方、OFF状態では、電磁弁69を介して、培養容器3側から延びたガス吸引ライン65が圧力開放ライン71側と連通するので、培養容器3内のガスはそのまま外部に抜けることになり、培養容器3内では加圧が解除される。
【0024】
この灌流培養装置1では、このON/OFFを利用して、培養容器3内に周期変動圧力を加えており、変動形態はパルス(矩形)モードとなっている。
この実施の形態では、圧力調整用バルブ67による加圧と電磁弁69の切替えタイミングにより、圧力(P)と、パルス幅(W)と、間隔(D)が設定され、例えば、図3に示す圧力モードで培養容器3内が加圧される。
【0025】
筐体内では、電磁弁69より培養容器3側に、分岐ライン77が設けられており、そこに圧力センサー79が取付けられている。この圧力センサー79にはデジタル表示器81が備えられており、この表示器81が、図1に示すように、筐体64の正面に配設されている。従って、培養容器3への加圧状況が視認できる。
【0026】
灌流培養装置1は、上記したように培養容器3を中心として複数の要素により構成されており、ガス供給部41とガス排出部63はユニット化されている。
それぞれの筐体42、64から延びているラインは、培養容器3のポートに着脱自在に接続されるので、使用時に接続して装置を構築することができる。
【0027】
灌流培養装置1を用いて細胞シートを積層化する場合には、培養容器3内で、血管床付き細胞シートの上に、新たな細胞シートを載せ、調整された温度およびパルス加圧の元で、血液を灌流させて培養を行い、その細胞シート内に血管新生させた後に、更にその上に新たな細胞シートを積み上げていくことになる。
【0028】
本発明に用いられる血管床とは、生体組織、臓器で見られる毛細血管とその周辺の組織を合わせた構造をいう。血管床は、血管床内に無数に張り巡らされた毛細血管の薄い壁を介し、生体組織内の酸素、ブドウ糖、その他の栄養素を交換する機能を果たしたり、二酸化炭素のような老廃物を血管床の毛細血管内へ滲出させる機能を果たす。生体組織において組織液が比較的一定に保たれているのは、毛細血管での物質交換が存在するからである。
【0029】
本発明において利用する血管床は動脈及び静脈を備え、血流のあった生体組織片、皮弁、または動脈及び静脈を備えた人工血管床であればいずれでも良く、特に限定されるものではない。例えば、生体組織片として、筋肉、腸間膜、大網等がすでに血管網が高度に構築されており好都合である。その中で、筋肉は生体組織上、栄養や酸素が十分に供給される部位であり、すなわち血管網がより一層高度に構築されておりさらに好都合である(図4)。本発明では、これらの組織片、皮弁、また動脈及び静脈を備えた人工血管床に対し、さらに血管網を構築させても良い。その方法は特に限定されるものではないが、例えば、組織片、皮弁に対し、一部の血管を閉じ血管網をさらに構築し血流が循環するまで生体内で処理を行う方法、その際に無菌的な容器内にその組織片、皮弁を閉じ込め、生体と動静脈だけで繋がっている状態を作製し、血管網がさらに構築し血流が循環するまで生体内で留置する方法、VEGFやFGF等の血管新生を促進するサイトカインを投与する方法等が挙げられる。本発明で用いられる血管床の動物種の由来は特に制約されるものではないが、例えば、ヒト、或いはラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、チンパンジーあるいはそれらの免疫不全動物等が挙げられる。
【0030】
動脈―静脈ループとは、動脈と静脈が繋がり、血液、培地などの液体成分を一箇所又は複数箇所の血管から流入させた際、流入させた血管以外の一箇所又は複数箇所の血管から液体成分が流出するような流路が構築された血管流路のことをいう。動脈―静脈ループの長さについては特に限定されるものではないが、血管床の大きさにより適宜決められる。動脈と静脈とをつなぐ方法についても特に限定されるものではないが、動脈と静脈との間に毛細血管網を構築させて良く、切断された動脈の一端と切断された静脈の一端を吻合して作製してもよい。動脈と静脈との間に毛細血管網を構築する方法についても特に限定するものではないが、例えば、動脈と静脈がそれぞれ繋がっている生体組織片を電気メス等で切離し、生体組織片と動脈と静脈がそれぞれ1本ずつ繋がった状態を作り出し、その状態を維持したまま、一週間程度、生体内に留置する方法が挙げられる。その結果、動脈と静脈との間に毛細血管の短絡(動静脈ループ)が起こり、動脈から毛細血管網を介して静脈へ戻る流路が構築される。
【0031】
本発明に用いられる血管床は脱細胞化処理されているものを用いてもよい。脱細胞化処理とは、生体組織を物理的または化学的な処理により、組織を構成する細胞や抗原性を有する成分を除去し、細胞外マトリックスを構成するタンパクのみを残存させる方法のことをいう。こうして得られた細胞外マトリックスは、脱細胞化する前の組織や臓器の骨格、毛細血管の骨格を維持しており、この骨格(構造体)に血管内皮細胞やその他目的とする細胞を播種することにより、毛細血管網を有する三次元組織を得ることができる。脱細胞化処理を行う方法は特に限定されないが、灌流式脱細胞処理や、浸漬式脱細胞処理等があり、適宜選択すればよい。
【0032】
本発明における人工血管床とは、毛細血管網が構築され、毛細血管網の間をゲル及び/または細胞により充填された血管床様構造物のことをいう。生体組織由来の血管床は、毛細血管を構成する細胞の他、組織由来の様々な細胞が含まれている。そのため、生体組織由来の血管床上で細胞シート積層化物を灌流培養する際、血管床由来の細胞代謝物も細胞シート積層体に混入する場合がある。混入する細胞代謝物は、血管床上の細胞シートの維持培養にとって好ましい場合や、細胞シート内の血管網形成を促進し、好ましい場合もある。その一方、混入する細胞代謝物は、細胞シートを構成する細胞の種類によっては、維持培養に悪影響を及ぼす場合や、積層化した細胞シートの使用用途(例えば、移植に利用、又は細胞シートの活性を評価する場合)によっては好ましくない場合もある。生体由来の血管床、又は人工血管床を選択するかは目的に応じて選択すればよく、特に限定されない。
【0033】
動脈及び静脈を備えた人工血管床を作製する方法は特に限定される訳ではないが、例えば、無菌的な容器内で区切られた領域内に動脈―静脈ループを有する生体組織(大網等)を配置し、生体内に留置することで毛細血管網を高度に構築させる方法が挙げられる。人工血管床を作製する容器としては、生体適合性基材であれば特に限定されるものではなく、医療用器具等の分野において一般的な素材を用いることができる。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミック、金属等が挙げられる。これらの素材は単独あるいは組み合わせて用いてもよい。人工血管床のサイズは、作製する細胞シート積層化物、移植する細胞シート積層化物、人工血管床を作製する生体組織の部位等により適宜最適化することができ、特に限定されるものではない。
【0034】
人工血管床に充填するゲルは特に限定されないが、生体内へ移植治療に利用することを目的とした場合は、生分解性ポリマーからなるゲルを用いるのがよい。生分解性ポリマーの種類は特に限定されないが、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、多糖類、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、キチン、キトサン等の単独、もしくは2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
人工血管床に充填するゲルに細胞を混合しても良い。ゲルに混合する細胞は生体組織から直接採取した細胞、直接採取して分化させた細胞、或いは細胞株が挙げられるが、その種類は何ら制約されるものではない。例えば、心筋組織の再生、或いは心筋機能を評価する方法を目的とした場合、使用する細胞としては心筋細胞、心筋芽細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞のいずれか1種、もしくは2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。肝組織の再生、肝組織を模擬した人工肝臓の作製、或いは肝組織の機能を評価する方法等を目的とした場合は、肝実質細胞、類洞内皮細胞、クッパー細胞、星細胞、ピット細胞、胆管上皮細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、もしくは2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。腎組織の再生、腎組織を模擬した人工腎臓の作製、或いは腎機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、腎細胞、顆粒細胞、集合管上皮細胞、壁側上皮細胞、足細胞、メサンギウム細胞、平滑筋細胞、尿細管細胞、間在細胞、糸球体細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、もしくは2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。副腎組織の再生、副腎を模擬した人工副腎の作製、或いは副腎機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、副腎髄質細胞、副腎皮質細胞、球状層細胞、束状層細胞、網上層細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、もしくは2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。皮膚の再生、或いは皮膚機能を評価する方法を目的とした場合、例えば、表皮角化細胞、メラノサイト、立毛筋細胞、毛包細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、線維芽細胞、骨髄由来細胞、脂肪由来細胞、間葉系幹細胞のいずれか1種、もしくは2種以上の細胞が混合したもの等が挙げられる。粘膜組織の再生、或いは粘膜組織の機能を評価する方法を目的とした場合、粘膜を構成する組織から採取される細胞を使用すればよく、例えば、頬側粘膜、胃粘膜、腸管粘膜、嗅上皮、口腔粘膜、子宮粘膜などが挙げられる。
上記の細胞の含有比率についても特に限定されるものではない。その際、人工血管床内に血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞等が混合されていると、人工血管床内の血管網の構築が効率良く行われ、好都合である。
【0036】
人工血管床に充填するゲルに、あらかじめ、血管新生を促進する血管増殖因子等を混合させておくことで、血管網を構築させてもよい。人工血管床に血管誘導を施す方法も特に限定されるものではないが、例えば、ゲルに直接血管増殖因子を混合させる方法、血管増殖因子であるFGFをミクロスフィアに包埋し、このミクロスフィアをゲルと混合し、長時間ミクロスフィアからFGFを放出させる方法などが挙げられる。
【0037】
血管床中に灌流させる培地の流速は特に限定されるものではないが、血管床内の流路が破壊されない程度の流速を最大の流速とし、灌流された培地が血管床内へ浸み出し、培地が血管床表面へ到達できる流速を最小の流速とすれば良い。
【0038】
本発明は、こうして得られた血管網を有する生体組織片、皮弁、又は動脈及び静脈を備えた人工血管床等の血管床において、in vitroの環境においても、効率的に灌流液を灌流させることができる方法、及びそれを実施する灌流培養装置に関するものである。これにより、効果的に血管床中に灌流液を灌流させることが可能となり、血管床の状態を生体内に近い状態に維持することができるばかりでなく、血管床の上に生着させた細胞シート等に対して、効率的に灌流液を供給することが可能となり、従来よりも厚い細胞シートを備えた血管床を作製することが可能となる。
【0039】
本発明における細胞シートとは、細胞培養器材上で培養して得られる1層、または複数層からなるシート状の細胞群のことをいう。細胞シートを得る方法としては特に限定されるものではないが、例えば、温度、pH、光等の刺激によって分子構造が変化する高分子を被覆した細胞培養器材上で細胞を培養し、温度、pH、光等の条件を変えて、細胞培養器材表面を変化させることで、細胞間の接着状態は維持しつつ、細胞培養器材表面から細胞層として剥離する方法、任意の細胞培養器材にて細胞を培養し、細胞培養器材の端部から、物理的にピンセット等により剥離する方法等が挙げられる。特に好ましいのが、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで培養し、細胞をシート状に剥離させる方法である。その際、細胞は0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で、ポリマーの水和力の弱い温度域で培養される。その温度とは通常、細胞を培養する温度である37℃が好ましい。本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。その際、培養、剥離されるものが細胞であることから、分離が5〜50℃の範囲で行われるため、温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)などが挙げられる。本発明に用いられる共重合のためのモノマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。
【0040】
本発明における積層化細胞シートを作製する方法については、特に限定されるものではないが、例えば、細胞を細胞培養器材に播種し、その上に細胞外マトリックスタンパクを構成するタンパク(ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、カドヘリン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、フィブリン、エラスチン、キチン、キトサン、ビトロネクチン等)を含むゲルを塗布後、さらに細胞を播種して積層した細胞層を得る方法や、培養細胞をシート状で剥離させ、必要に応じ培養細胞移動治具を用いて培養細胞シート同士を積層化させる方法等により得られる。その際、培地の温度は、培養器材表面に被覆された前記ポリマーが上限臨界溶解温度を有する場合はその温度以下、また前記ポリマーが下限臨界溶解温度を有する場合はその温度以上であれば特に制限されない。しかし、培養細胞が増殖しないような低温域、あるいは培養細胞が死滅するような高温域における培養が不適切であることは言うまでもない。温度以外の培養条件は、常法に従えばよく、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎児血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。また、必要に応じ、細胞シートを移動させるための治具を利用しても良い。そのような治具としては、剥離した細胞シートを捕捉できるものであれば材質、形状共に何ら限定されるものではないが、それらの材質としては、通常、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、シリコン、ポリビニルアルコール、ウレタン、セルロース及びその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、フィブリングルー等の材料を膜状、多孔膜状、不織布状、織布状として細胞シートに接触させて使用される。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、パルス加圧の形態には特に制限されることはなく、パルス幅および間隔だけでなく、圧力値を陰圧にする場合も含めて適宜設定できる。
【実施例】
【0042】
移植積層化心筋組織内への血管新生を促進させる手段として、ラットの大腿部の表皮を切開し、大腿動静脈を含む四頭筋骨格筋組織を電気メスにより1.5cm×2.0cm角で切離し、大腿動静脈のみが1.5cm×2.0cm角の四頭筋骨格筋組織と繋がった状態を作り出し、その状態を維持したまま、切開した表皮のみを縫合した。1.5cm×2.0cm角に切離した四頭筋骨格筋組織を一週間生体内に留置することで、毛細血管の短絡(動静脈ループ)を起こさせ、動脈から静脈へ戻る血管網を有する血管床を作製した(図4)。動静脈ループが起こった血管床をラットの大腿部から完全に切離し、大腿動脈、大腿静脈それぞれを、灌流液を灌流させるチューブと繋ぎ、灌流液を血管床内に循環させることができかつ血管床の外部空間を密閉できる組織灌流バイオリアクターを作製した(図1)。
【0043】
血管床自身の灌流液の流れを評価する方法として灌流率を次式のように定義した。

灌流率(%)=静脈側灌流液戻り重量(g)/動脈側灌流液送り重量(g)×100

灌流率が100%の状態とは、血管床の動脈側から送った培地が静脈側からすべて戻ってきたことを示しており、血管床の静脈以外の任意の場所からの培地の漏れがないことを示す。
【0044】
O−リングなど気体密閉機構を施した容器(以後加圧チャンバーと称する)に、血管床の動静脈をカニュレーションし、血管床の動静脈からなる培地供給の閉鎖系(以後血管床血管系と称する)と、血管床の外部を加圧するための閉鎖系の2つを構築した。構築した血管床の外部を加圧するための閉鎖系に5%CO(低酸素状態を含む)をガスミキサーにより吹き込むことにより血管床の外部閉鎖系を加圧した。圧力は、10mmHgとし、その後バルブの自動開閉により密閉空間内圧力を0mmHgとするようなパルス加圧空間にて灌流実験を行った。圧力は、ガスミキサーから加圧チャンバー内に送られるガスを出口でバルブにより流量を制御することにより調整し同時にチャンバー内圧力は、圧力計にて測定した。また、パルス圧力は、出口側においてバルブによる調整ラインと、大気解放ラインを電子3方弁のデジタルタイマーによる制御により20秒間の10mmHgの加圧状態と20秒間の0mmHgの大気解放状態を発生させた。
【0045】
血管床血管系へ灌流する灌流液は培地を用い、50μl/分の一定速度で送液した。48時間後の灌流率は加圧なし灌流の35%と比べて、パルス加圧による灌流は平均値68%±5.8%(n=5)と上昇し、血管床血管系の流れの改善がされた(図5)。また、168時間の長期灌流においても高い灌流率の維持が示唆された(図6)。

さらに、パルス加圧の有無により、還流率データのばらつきが改善するか否かを調べるために、複数の独立した実験を行い、下記の式に当てはめて標準偏差(S.D.)を算出した(図7)。
【数1】
変動係数は、下記の式で算出した(図8)。
【数2】
各データ取得時間においてパルス加圧、加圧なしの両群のデータの標準偏差および変動係数を比べると、パルス加圧の方が標準偏差、変動係数ともに減少しており、データのばらつきが抑えられたことが明らかとなった(n=3)(図7、8)。
これらの結果から、加圧チャンバーのパルス加圧により、血管床灌流の高効率化と安定化が同時に可能であることが明らかとなった。つまり、本発明の方法及びそれを用いた装置は、採取する個体や部位、作製手技が異なることにより血管床中の毛細血管網の構築度合が異なっていたとしても、血管床灌流を高効率的かつ安定的に行うことができ、血管床を用いた組織の品質の安定化に寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の血管床における流体の灌流方法によれば、効率的に血管床内に灌流液を供給することが可能となり、また、血管床を利用した細胞シートの積層枚数も増やすことが可能となる。これにより、厚みの有る臓器の製造の途を現実的に開くものと期待される。
【符号の説明】
【0047】
1…灌流培養装置
3…培養容器 5…容器本体
7…流体流入用接続ポート 9…流体流出用接続ポート
11…ガス流入用接続ポート 13…ガス流出用接続ポート
15…雌ネジ穴 17…蓋体
19…観察窓 21…貫通孔
23…ネジ 25…流体供給ライン
27…供給針 29…培養液槽
31…(血液溜めの)蓋体 33…ポンプ
35…流体排出ライン 37…スケール
39…ガス供給ライン 41…ガス供給部
42…(ガス供給部の)筐体 43…空気流入ライン
45…ガスポンプ 47…スロットルバルブ
49…ガスボンベ 51…CO流入ライン
53…マスフローコントローラ 55…混合ガス供給ライン
57…COセンサー 59…CO濃度調節器
61…ガス排出ライン 63…ガス排出部
64…(ガス排出部の)筐体 65…ガス吸引ライン
67…圧力調整用バルブ 69…電磁弁(切替弁)
71…圧力開放ライン 73…タイマー
75…(タイマーの)設定部 77…分岐ライン
79…圧力センサー 81…デジタル表示器
B…血管床 C…細胞シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8