特許第6480345号(P6480345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6480345脂肪族ポリエステル樹脂組成物および脂肪族ポリエステル樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480345
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】脂肪族ポリエステル樹脂組成物および脂肪族ポリエステル樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20190225BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20190225BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   C08L67/04
   C08L29/04 D
   C08K5/053
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-554519(P2015-554519)
(86)(22)【出願日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2014006073
(87)【国際公開番号】WO2015098001
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-265179(P2013-265179)
(32)【優先日】2013年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 徹也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀之
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−217513(JP,A)
【文献】 特開平06−065484(JP,A)
【文献】 特表2010−504396(JP,A)
【文献】 特開平09−151310(JP,A)
【文献】 特開2012−177011(JP,A)
【文献】 特開2007−231184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/08
C08L 29/00−29/14
C08K 5/00− 5/59
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート(A)、酢酸ビニルを含む共重合体(B)およびペンタエリスリトール(C)を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物であり、
ポリヒドロキシアルカノエート(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)が非相溶である脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)を0.5〜5重量部、前記ペンタエリスリトール(C)を0.05〜20重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)がエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)が酢酸ビニル比率30〜60重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする、請求項3に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)がエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)が酢酸ビニル比率20〜40重量%かつ、一酸化炭素比率5〜20重量%であることを特徴とする、請求項5に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、下記一般式(1)
[−CHR−CH−CO−O−] (1)
(式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)、
で示される繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシバレレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4-ヒドロキシブチレート)から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなる脂肪族ポリエステル樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物に関するものであり、特に微生物の働きによって分解される生分解性ポリエステル樹脂を、種々の産業用資材として適用するための脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびそれから構成される成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境への大きな負荷を与える原因となっている問題を解決できるものとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。
【0003】
中でも植物由来の生分解性プラスチックを燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書の下、重要視され、積極的な使用が望まれている。
【0004】
最近、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来のプラスチックとして脂肪族ポリエステル系樹脂が注目されており、特にポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと称する場合がある)系樹脂、さらにはPHA系樹脂の中でもポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂(以下、P3HBと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂(以下、P3HB3HVと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(以下、P3HB3HHと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂(以下、P3HB4HBと称する場合がある)およびポリ乳酸等が注目されている。
【0005】
しかしながら、前記PHA系樹脂は、結晶化速度が遅いことから、成形加工に際し、加熱溶融後、固化のための冷却時間を長くする必要があり、生産性が悪い、成形後に起こる二次結晶化により機械物性(特に、引張破断伸度などの靭性)が経時変化する、という問題点がある。
【0006】
このため、従来から、PHA系樹脂に、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などの無機物を配合して結晶化を促進しようとする提案があった。しかし、得られた成形体の引張伸びが低下する、成形体表面外観が悪化する、などの弊害が多く、効果は不十分であった。
【0007】
その他、PHA系樹脂の結晶化を促進する試みとしては、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトールのような天然物由来の糖アルコール化合物を添加する方法(特許文献1)、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンを添加する方法(特許文献2)等が挙げられるが実質的に効果の高い結晶核剤は未だ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/099586号パンフレット
【特許文献2】特開2007−077232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、PHA系樹脂に結晶核剤としてペンタエリスリトールを混合することにより、結晶化速度を著しく改善できることを見出した。さらに、ペンタエリスリトールを含む有機化合物系の結晶核剤については、加工条件や材料の組み合わせ等により、成形体の使用時に結晶核剤が成形体の表面に出てくる、いわゆるブルームという現象が発生する場合があることも見出した。
【0010】
本発明は、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性ポリエステルの中でも、特にポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂の欠点である結晶化の遅さを改善して、射出成形などの成形加工における加工性を改善し、加工速度を向上するとともに、得られる成形体からのブルームを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、結晶化の遅いポリヒドロキシアルカノエートに、酢酸ビニルを含む共重合体およびペンタエリスリトールを混合し、ポリヒドロキシアルカノエートと酢酸ビニルを含む共重合体を非相溶とすることにより、加工性の改善と成形体からのブルームの抑制を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)、酢酸ビニルを含む共重合体(B)およびペンタエリスリトール(C)を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物であり、ポリヒドロキシアルカノエート(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)が非相溶である脂肪族ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0013】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)を0.5〜5重量部、前記ペンタエリスリトール(C)を0.05〜20重量部を含有することが好ましい。
【0014】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)がエチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。
【0015】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)が酢酸ビニル比率30〜60重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。
【0016】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)がエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体であることが好ましい。
【0017】
前記酢酸ビニルを含む共重合体(B)が酢酸ビニル比率20〜40重量%かつ、一酸化炭素比率5〜20重量%であることが好ましい。
【0018】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、下記一般式(1)
[−CHR−CH−CO−O−] (1)
(式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)、
で示される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0019】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(A)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシバレレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4-ヒドロキシブチレート)から選択される1種以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなる脂肪族ポリエステル樹脂成形体にも関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂組成物によれば、PHA系樹脂の欠点である結晶化の遅さを改善し、射出成形などの成形加工における加工性を改善し、加工速度を向上するとともに、成形体からのブルームを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と酢酸ビニルを含む共重合樹脂の相溶性確認の方法において、PHAが連続相で酢酸ビニルを含む共重合体が分散相となった状態である、即ち「非相溶」と判断する場合の透過型電子顕微鏡写真である。
図2】ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と酢酸ビニルを含む共重合樹脂の相溶性確認の方法において、PHAと酢酸ビニルを含む共重合体が判別できない状態、即ち「相溶」と判断する場合の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0024】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、PHA(A)と、酢酸ビニルを含む共重合体(B)とペンタエリスリトール(C)とを含有し、かつPHA(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)が非相溶であることを特徴とする。
【0025】
[ポリヒドロキシアルカノエート(A)]
本発明において、PHA(A)は、一般式:[−CHR−CH−CO−O−]で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂である。
【0026】
本発明に用いるPHA(A)は、式(1) :
[−CHR−CH−CO−O−]
(式中、RはC2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステルであることが好ましい。
【0027】
PHAは、3−ヒドロキシブチレートが80モル%以上からなる重合樹脂であることが好ましく、より好ましくは85モル%以上からなる重合樹脂であり、微生物によって生産された物が好ましい。具体例としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシプロピオネート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシバレレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘプタノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシノナノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシデカノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシウンデカノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂等が挙げられる。
【0028】
特に、成形加工性および成形体物性の観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3-ヒドロキシバレレート−コ−3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂が好適に使用し得る。
【0029】
これらPHAは、単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0030】
前記PHAにおいて、3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)と、共重合している3−ヒドロキシバレレート(以下、3HVと称する場合がある)や、3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHと称する場合がある)や、4−ヒドロキシブチレート(以下、4HBと称する場合がある)等のコモノマーとの構成比、即ち共重合樹脂中のモノマー比率としては、成形加工性および成形体品質等の観点から、3−ヒドロキシブチレート/コモノマー=97/3〜80/20(モル%/モル%)であることが好ましく、95/5〜85/15(モル%/モル%)であることがより好ましい。コモノマー比率が3モル%未満であると、成形加工温度と熱分解温度が近接するため成形加工し難い場合がある。コモノマー比率が20モル%を超えると、PHAの結晶化が遅くなるため生産性が悪化する場合がある。
【0031】
前記PHAの共重合樹脂中の各モノマー比率は、以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定できる。乾燥PHA約20mgに、2mlの硫酸/メタノール混液(15/85(重量比))と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生が止まるまで放置する。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、上清中のPHA分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析することにより、共重合樹脂中の各モノマー比率を求められる。
【0032】
前記ガスクロマトグラフとしては、島津製作所社製「GC−17A」を用い、キャピラリーカラムにはGLサイエンス社製「NEUTRA BOND−1」(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)を用いる。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧を100kPaとし、サンプルは1μl注入する。温度条件は、8℃/分の速度で初発温度100℃から200℃まで昇温し、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温する。
【0033】
本発明のPHAの重量平均分子量は、20万〜250万が好ましく、25万〜200万がより好ましく、30万〜100万がさらに好ましい。重量平均分子量が20万未満では、機械物性等が劣る場合があり、250万を超えると、成形加工が困難となる場合がある。
【0034】
前記重量平均分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(昭和電工社製「Shodex GPC−101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31400、197000、668000、1920000のポリスチレンを使用して作成する。
【0035】
なお、前記PHAは、例えば、Alcaligenes eutrophusにAeromonas caviae由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したAlcaligenes eutrophus AC32株(ブダペスト条約に基づく国際寄託、国際寄託当局:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)、原寄託日:平成8年8月12日、平成9年8月7日に移管、寄託番号FERM BP−6038(原寄託FERM P−15786より移管))(J.Bacteriol.,179,4821(1997))等の微生物によって産生される。
【0036】
[酢酸ビニルを含む共重合体(B)]
本発明に用いる酢酸ビニルを含む共重合体(B)は、酢酸ビニルを構成単位として含み、PHA(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)が非相溶となるものであれば、特に制限されないが、エチレンおよび酢酸ビニルを構成単位として含むものが好ましい。
【0037】
例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと称する場合がある)またはエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体(以下、EVACOと称する場合がある)が挙げられる。
【0038】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体)
エチレン−酢酸ビニル共重合体は酢酸ビニル比率(以下、VA比率と称する場合がある)が30〜60重量%のものが好ましく、35〜60重量%がより好ましい。VA比率が30重量%未満であると、成形体表面が剥離する場合がある。VA比率が60重量%を超えると、PHAとEVAが完全に相溶し、成形体からのブルームを抑制できない場合がある。なお、前記EVAのVA比率は、JIS K 7192に準じて求めることができる。
【0039】
前記EVAとして、具体的にはLANXESS社製「Levapren600HV」(VA比率60重量%のEVA)、LANXESS社製「Levapren500HV」(VA比率50重量%のEVA)、LANXESS社製「Levapren450」(VA比率45重量%のEVA)、LANXESS社製「Levapren400」(VA比率40重量%のEVA)、LANXESS社製「Levapren500XL」(VA比率50重量%の部分架橋EVA)および、三井・デュポン ポリケミカル社製「エバフレックスEV45LX」(VA比率46重量%のEVA)、三井・デュポン ポリケミカル社製「エバフレックスEV40LX」(VA比率41重量%のEVA)、三井・デュポン ポリケミカル社製「エバフレックスEV150」(VA比率33重量%のEVA)、三井・デュポン ポリケミカル社製「エバフレックスV523」(VA比率33重量%のEVA)および、東ソー社製「ウルトラセン760」(VA比率42重量%のEVA)、東ソー社製「ウルトラセン750」(VA比率32重量%のEVA)、および、住友化学社製「エバテートR5011」(VA比率41重量%のEVA)、住友化学社製「エバテートM5011」(VA比率32重量%のEVA)などが挙げられ、これらを少なくとも1種使用できる。
【0040】
(エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体)
エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素三元共重合体はVA比率が20〜40重量%かつ、一酸化炭素比率5〜20重量%であるものが好ましい。VA比率が20重量%未満であると、成形体表面が剥離する場合がある。VA比率が40重量%を超えると、PHAとEVACOが完全に相溶し、ペンタエリスリトールのブルームを抑制できない場合がある。
【0041】
またCO比率が5重量%未満であると、PHAとの親和性が悪くなり、成形体表面が剥離する場合がある。CO比率が20重量%を超えると、PHAとEVACOが完全に相溶し、成形体からのブルームを抑制できない場合がある。
【0042】
前記EVACOとして、具体的には三井・デュポン ポリケミカル社製「エルバロイ741」(VA比率24重量%、CO比率10重量%のEVACO)、三井・デュポン ポリケミカル社製「エルバロイ742」(VA比率28.5重量%、CO比率9重量%のEVACO)などが挙げられ、これらを少なくとも1種使用できる。
【0043】
本発明に用いる酢酸ビニルを含む共重合体(B)の含有量は、PHA(A)と酢酸ビニルを含む共重合体(B)が非相溶となれば特に制限されないが、PHA(A)100重量部に対して、0.5〜5重量部が好ましく、0.7〜3重量部がより好ましい。0.5重量部未満であると、成形体からのブルームを抑制できない場合があり、5重量部を超えると、ペンタエリスリトールの結晶核剤としての効果が悪くなる場合がある。
【0044】
本発明のPHAと酢酸ビニルを含む共重合体との相溶性の判断は、透過型電子顕微鏡(日立製作所社製「H−7650」)を用い、RuO染色した脂肪族ポリエステル樹脂組成物または脂肪族ポリエステル樹脂成形体を1万〜4万倍で観察することで、PHAと酢酸ビニルを含む共重合体が判別できない状態まで分散している場合を「相溶」とし、PHAが連続相で酢酸ビニルを含む共重合体が分散相となった分散構造を形成している場合を「非相溶」とする。
【0045】
[ペンタエリスリトール(C)]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物ではポリヒドロキシアルカノエートの結晶核剤としてペンタエリスリトール(C)が用いられる。
【0046】
ペンタエリスリトールとは、下記式(2)
【0047】
【化1】
で示される化合物である。多価アルコール類の一種であり、融点260.5℃の白色結晶の有機化合物である。ペンタエリスリトールは糖アルコールに分類されるが、天然物由来ではなく、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドを塩基性環境下で縮合して合成することができる。
【0048】
本発明で用いられるペンタエリスリトールは通常、一般に入手可能であるものであれば特に制限されず、試薬品あるいは工業品を使用し得る。試薬品としては、和光純薬工業株式会社、シグマ・アルドリッチ社、東京化成工業株式会社やメルク社などが挙げられ、工業品であれば、広栄化学工業株式会社品(商品名:ペンタリット)、日本合成化学工業社品(商品名:ノイライザーP)、東洋ケミカルズ株式会社品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
一般に入手できる試薬品や工業品の中には不純物として、ペンタエリスリトールが脱水縮合して生成するジペンタエリスリトールやトリペンタエリスリトールなどのオリゴマーが含まれているものがある。上記オリゴマーはポリヒドロキシアルカノエートの結晶化には効果を有しないが、ペンタエリスリトールの結晶化効果を阻害しない。従い、オリゴマーが含まれていても構わない。
【0050】
本発明で用いられるペンタエリスリトールの量は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)の結晶化を促進できれば特に制限されない。しかし、ペンタエリスリトールの結晶核剤としての効果を得るためには、ペンタエリスリトールの含有量の下限値は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、好ましくは0.05重量部であり、より好ましくは0.1重量部であり、更に好ましくは0.5重量部である。また、ペンタエリスリトールの量が多すぎると、溶融加工時の粘度が下がってしまい、加工し難くなる場合があるため、ペンタエリスリトールの含有量の上限値は、ポリヒドロキシアルカノエート(A)100重量部に対して、好ましくは20重量部であり、より好ましくは10重量部であり、更に好ましくは8重量部である。
【0051】
[脂肪族ポリエステル樹脂組成物]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート単独、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエートとペンタエリスリトール以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物に比べて、加工時の樹脂組成物の結晶化が幅広い加工条件で安定して進行する点で優れているので以下に示すような利点がある。
【0052】
ポリヒドロキシアルカノエートの中でも、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(P3HB3HH)や、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート(P3HB3HV)などは、加熱溶融後に冷却して結晶化させる際、結晶化の進行は溶融時の樹脂温度の影響を受ける。すなわち、溶融時の樹脂温度が高いほど結晶化が進行し難くなる傾向がある。例えば、P3HB3HHは、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点から170℃程度の温度の場合では、溶融時の樹脂温度が高いほど冷却時の樹脂の結晶化は進み難くなる傾向がある。
【0053】
また溶融時の樹脂温度が180℃程度以上の温度の場合では、冷却時の結晶化が数時間に渡って進行する傾向が有る。したがって、良好に成形加工を行なうためには、溶融時の樹脂温度を170℃〜180℃程度の温度範囲に制御しなければならないが、一般的な成形加工では溶融時の樹脂温度は均一でないため、上記の温度範囲で制御することは非常に困難である。
【0054】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化は、樹脂の溶融時の幅広い温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、溶融時の樹脂温度が樹脂の融点以上から190℃程度の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。尚、溶融時の樹脂温度が200℃以上の温度で溶融加工する事は、熱劣化の観点で好ましくない。
【0055】
また、ポリヒドロキシアルカノエートの結晶化の進行は冷却温度にも依存している。例えば、P3HB3HHは、加熱溶融後の冷却温度が50〜70℃で最も結晶化が進行する傾向があり、冷却温度が50℃より低い、または70℃より高い場合は、結晶化が進行しにくくなる傾向がある。一般的な成形加工では金型温度が冷却温度に相関し、金型温度を上記温度範囲、すなわち50℃〜70℃の範囲で制御しなければならないが、金型温度を均一に制御するためには、金型の構造や形状を緻密に設計する必要が有り、非常に困難である。
【0056】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化は、溶融後の樹脂の幅広い冷却温度範囲に対して安定的に進行する。すなわち、加熱溶融後の冷却温度が20℃〜80℃の温度範囲の場合であっても結晶化が安定的に早く進むため、本発明の樹脂組成物は、幅広い加工条件に対して優れた加工特性を有している。
【0057】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、従来のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂、あるいは、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂とペンタエリスリトール以外の糖アルコール化合物を含む樹脂組成物では得られなかった、上記のような利点を有するので、溶融時の樹脂温度や金型などの冷却温度を幅広く設定できる点で、優れた加工特性を有している。
【0058】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、結晶化が安定的に早く進行することによって、以下に記すような特性が発現される。
【0059】
例えば、P3HB3HHは、成形時に十分に結晶化が進行しないため、成形後も徐々に結晶化が進行し球晶が成長するため、機械物性が経時変化し、成形品が徐々に脆化してしまう傾向があった。ところが、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、成形直後に多数の微結晶が生成するので、成形後には球晶が成長し難くなり、成形品の脆化も抑制されるため、製品の品質安定性の点で優れている。
【0060】
また、射出成形用の成形金型のキャビティ部のあわせ部(例えば、パーティングライン部、インサート部、スライドコア摺動部など)には、隙間があり、射出成形時に、その隙間に溶融した樹脂が入り込んでできる「バリ」が成形品に付着してしまう。ポリヒドロキシアルカノエートは、結晶化の進行が遅く樹脂が流動性を有する時間が長いため、バリが起こり易く、成形品の後処理に多大な労力を要する。ところが、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物では結晶化が早いのでバリができ難く、成形品の後処理の労力を低減できるため、実用上好ましい。
【0061】
本発明にかかる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートの融点以上にまで加熱し混練できる装置であれば公知の溶融混練機により容易に製造できる。例えば、ポリヒドロキシアルカノエートと酢酸ビニルを含む共重合体とペンタエリスリトールと、さらに必要であれば他の成分とを押出機、ロールミル、バンバリーミキサーなどにより溶融混練してペレット状とした後、成形に供する方法、ペンタエリスリトールの高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これをポリヒドロキシアルカノエートと酢酸ビニルを含む共重合体に所望の割合で溶融混練して成形に供する方法、などが利用できる。ペンタエリスリトールとポリヒドロキシアルカノエートと酢酸ビニルを含む共重合体は混練機に同時に添加してもよいし、あるいは先にポリヒドロキシアルカノエートと酢酸ビニルを含む共重合体を溶融させた後ペンタエリスリトールを添加してもかまわない。
【0062】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物はPHAの融点以上でPHAと酢酸ビニルを含む共重合体(B)を溶融混練すること、または、クロロホルム等のPHAと酢酸ビニルを含む共重合体(B)を溶解できる溶媒中で両樹脂をブレンドすることで、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を容易に得ることができるが、生産性の観点から溶融混練で作製することが好ましい。
【0063】
本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、各種添加剤を含有しても良い。ここで添加剤とは、たとえば、滑剤、ペンタエリスリトール以外の結晶核剤、可塑剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、離形剤、紫外線吸収剤、染料、顔料などの着色剤、無機充填剤、有機充填剤等を目的に応じて使用できるが、それらの添加剤は、生分解性を有することが好ましい。
【0064】
他の添加剤としては、炭素繊維等の無機繊維や、人毛、羊毛等の有機繊維が挙げられる。また、竹繊維、パルプ繊維、ケナフ繊維や、類似の他の植物代替種、アオイ科フヨウ属1年草植物、シナノキ科一年草植物等の天然繊維も使用することが出来る。二酸化炭素削減の観点からは、植物由来の天然繊維が好ましく、特に、ケナフ繊維が好ましい。
【0065】
[脂肪族ポリエステル樹脂成形体]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の製造方法を以下に例示する。
【0066】
まず、PHA、酢酸ビニルを含む共重合体(B)およびペンタエリスリトール、さらには必要に応じて、前記各種添加剤を押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状の脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなるペレットを得る。
【0067】
前記において、PHAと酢酸ビニルを含む共重合体(B)等を溶融混練する温度は、使用するPHAの融点、溶融粘度等や酢酸ビニルを含む共重合体(B)の溶融粘度等によるため一概には規定できないが、溶融混練物のダイス出口での樹脂温度が140〜200℃であることが好ましく、150〜195℃であることがより好ましく、160〜190℃がさらに好ましい。溶融混練物の樹脂温度が140℃未満であると、PHA中の酢酸ビニルを含む共重合体(B)の分散状態が悪くなる場合があり、200℃を超えるとPHAが熱分解する場合がある。
【0068】
前記方法によって作製されたペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工でき、任意の成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0069】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押し出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。フィルム成形時の成形温度は140〜190℃が好ましい。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0070】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。射出成形時の成形温度は140〜190℃が好ましく、金型温度は20〜80℃が好ましく、30〜70℃であることがより好ましい。
【0071】
本発明の成形体は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術範囲を限定されるものではない。
・ポリヒドロキシアルカノエートA1: 製造例1で得られたものを用いた。
【0073】
<製造例1>
培養生産にはKNK−005株(米国特許7384766号参照)を用いた。
【0074】
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% NaHPO・12HO、0.15w/v% KHPO、(pH6.8)とした。
【0075】
前培養培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19w/v% KHPO、1.29w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)、とした。炭素源はパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0076】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% NaHPO・12HO、0.067w/v% KHPO、0.291w/v% (NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0077】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0078】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油、を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0079】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHAを得た。得られたPHAの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHA20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHA分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中の脂肪族ポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、化学式(1)に示すようなPHA、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)であった。3−ヒドロキシブチレート(3HB)の比率は、94.4モル%、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)の比率は、5.6モル%であった。
【0080】
培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法にてP3HB3HHを得た。GPCで測定した重量平均分子量は60万であった。
【0081】
・ポリヒドロキシアルカノエートA2: 製造例2で得られたものを用いた。
【0082】
<製造例2>
KNK−631株および炭素源としてパーム核油を用いた以外は、製造例1と同様の方法でポリヒドロキシアルカノエート原料A2、P3HB3HHを得た。重量平均分子量は65万、3HBの比率は、88.6モル%、3HHの比率は、11.4モル%であった。
【0083】
・ポリヒドロキシアルカノエートA3: 製造例3で得られたものを用いた。
【0084】
<製造例3>
生産菌株としてC.necatorH16株(ATCC17699)を用い、国際公開第09/145164号に準拠して、重量平均分子量が85万のP3HBを作製した。
【0085】
・ポリヒドロキシアルカノエートA4: Ecomann社製EM5400F(ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート、P3HB4HB)、3HBの比率は、86モル%、4HBの比率は、14モル%、重量平均分子量は105万)を用いた。
【0086】
その他、実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
【0087】
酢酸ビニルを含む共重合体B1〜5:以下の製品を用いた。
【0088】
B1:三井・デュポン ポリケミカル社製「エバフレックスEV150」(VA比率33重量%のEVA)
B2:LANXESS社製「Levapren500HV」(VA比率50重量%のEVA)
B3:LANXESS社製「Levapren800HV」(VA比率80重量%のEVA)
B4:三井・デュポン ポリケミカル社製「エルバロイ741」(VA比率24重量%、CO比率10重量%のEVACO)
B5:三井・デュポン ポリケミカル社製「エルバロイ742」(VA比率28.5重量%、CO比率9重量%のEVACO)
【0089】
<実施例1>
(脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造)
ポリヒドロキシアルカノエートA1、酢酸ビニルを含む共重合体B1、ペンタエリスリトール(広栄化学工業社製ペンタリットT)を、表1に示した配合比(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製:TEM−26SS)を用いて、設定温度120〜160℃(出口樹脂温度170℃)、スクリュ回転数100rpmで溶融混練し、脂肪族ポリエステル樹脂組成物を得た。樹脂温度はダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定した。当該脂肪族ポリエステル樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。
【0090】
(ポリヒドロキシアルカノエートと酢酸ビニルを含む共重合体の相溶性)
脂肪族ポリエステル樹脂組成物または脂肪族ポリエステル樹脂成形体について、23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、透過型電子顕微鏡(日立製作所社製「H−7650」)を用い、RuO染色した脂肪族ポリエステル樹脂組成物または脂肪族ポリエステル樹脂成形体を1万〜4万倍で観察することで、PHAが連続相で酢酸ビニルを含む共重合体が分散相(黒く大きな固まりとして見える)となった状態である場合を「非相溶」(図1)とし、PHAと酢酸ビニルを含む共重合体が判別できない状態(黒く大きな固まりが全く見えない)まで分散している場合を「相溶」(図2)とした。
【0091】
(射出成形)
得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物を原料として、射出成形機(東芝機械社製:IS−75E)を用い、成形機のシリンダー設定温度は120〜150℃(出口樹脂温度168℃)、金型の設定温度は55℃で、縦120mm、横120mm、厚み2mmの平板状成形体を成形した。
【0092】
(離型時間)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の加工性は射出成形時の離型時間で評価した。上記の射出成形において、金型内に樹脂を射出した後、金型を開いて突き出しピンによって試験片を変形させることなく突き出し、金型から離型させることができるまでに要する時間を離型時間とした。離型時間が短いほど結晶化が早く、成形加工性が良好で改善されていることを示す。
【0093】
(ブルーム評価)
射出成形で得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物よりなる平板状成形体を23℃、湿度50%雰囲気下にて3ヶ月保存および12ヶ月保存した後と、60℃のオーブン中で24時間アニールした後の平板状成形体の表面を目視した際に、白い粉状の物質が出てきていない場合を○、出てきている場合を×とした。
【0094】
<実施例2〜4>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、相溶性の確認、射出成形の離型時間、および平板状成形体のブルーム評価も行った。結果は表1に示した。
【0095】
<比較例1〜4>
表1に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、相溶性の確認、射出成形の離型時間、および平板状成形体のブルーム評価も行った。結果は表1に示した。
【0096】
【表1】
表1に示すように、比較例1、2ではペンタエリスリトールが入っていないので離型時間に60秒以上を要した。また、比較例3では成形品の離型時間は20秒と良好であったが、酢酸ビニルを含む共重合体が入っていないのでブルームが発生した。比較例4では成形品の離型時間は20秒と良好であったが、酢酸ビニルを含む共重合体がPHAと相溶しているためブルームが発生した。
【0097】
それに対して、実施例1〜4では酢酸ビニルを含む共重合体とペンタエリスリトールを併用した結果、射出成形時の離型時間は20秒と良好であった。更に23℃、湿度50%雰囲気下にて3ヶ月保存および12ヶ月保存した後と、60℃のオーブン中で24時間アニールした後でもブルームは発生していなかった。
【0098】
PHAと相溶しない酢酸ビニルを含む共重合体と、ペンタエリスリトールを併用することで、離型時間が早くなり、更には、ブルームも発生しないことがわかった。
【0099】
<実施例5〜7><比較例5〜7>
表2に示すような配合比で、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを作製し、相溶性の確認、射出成形の離型時間、および平板状成形体のブルーム評価も行った。結果は表2に示した。
【0100】
【表2】
【0101】
表2に示すように、比較例5、6では離型時間は短かったが、酢酸ビニルを含む共重合体がPHAと相溶しているためブルームが発生した。また、比較例7では離型時間は短かったが、酢酸ビニルを含む共重合体が入っていないのでブルームが発生した。それに対して、実施例5〜7ではPHAと相溶しない酢酸ビニルを含む共重合体と、ペンタエリスリトールを併用することで、離型時間が早くなり、更には、ブルームも発生しないことがわかった。
図1
図2