特許第6480411号(P6480411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480411
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】培養装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   A61M1/16
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-503365(P2016-503365)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公表番号】特表2016-513571(P2016-513571A)
(43)【公表日】2016年5月16日
(86)【国際出願番号】US2014030277
(87)【国際公開番号】WO2014145494
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】61/788,052
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】100111372
【弁理士】
【氏名又は名称】津野 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100168538
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 来
(74)【代理人】
【識別番号】100186495
【弁理士】
【氏名又は名称】平林 岳治
(74)【代理人】
【識別番号】100191640
【弁理士】
【氏名又は名称】星 睦
(72)【発明者】
【氏名】パートリッジ、エミリー
(72)【発明者】
【氏名】フレイク、アラン
(72)【発明者】
【氏名】デイビー、マーカス
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05207639(US,A)
【文献】 米国特許第04509505(US,A)
【文献】 米国特許第05218958(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0193096(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0010005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14 − 1/26
A61G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児を子宮外環境で維持する培養装置であって、
前記胎児と該胎児を液没させるのに十分な体積の無菌液とを保持して前記無菌液を受け入れる経路を提供する入口ポートと前記無菌液を除去する経路を提供する出口ポートとを具備した袋または嚢からなる培養室と、
流入ポートと流出ポートとを有する酸素化装置を具備し、
1)前記胎児から前記酸素化装置の流入ポートへの動脈流出を提供する第1の部分と、
2)前記流出ポートから前記胎児への戻り流れを提供する第2の部分と
を含む経路を画定する態様で前記胎児に連結するポンプレス酸素化回路と、
前記袋または嚢からなる培養室内の前記胎児を液没させるのに十分な体積の無菌液よりも多い供給用の無菌液を格納する供給タンクと、
前記培養室から使用済みの液体を受け取る排液路と、
前記供給タンクから前記胎児を液没させるのに十分な体積の無菌液を前記入口ポート経由で前記袋または嚢からなる培養室に送り出すと共に前記出口ポート経由で送り出すポンプと
を備えている培養装置。
【請求項2】
前記酸素化装置が、前記流入ポートと前記流出ポートとの間で測定した場合に、1.5L/分の血流での圧力低下が約40mmHg未満である、請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記培養室が前記無菌液を保持しているときに、前記酸素化装置が前記無菌液の外部に位置する、請求項1に記載の培養装置。
【請求項4】
前記ポンプレス酸素化回路が、約2.01/分以上の速度で血流を提供する、請求項1に記載の培養装置。
【請求項5】
前記培養室が、前記培養室内の無菌液が汚れるのを防ぐために封止される、請求項1に記載の培養装置。
【請求項6】
前記培養室内の無菌液へのアクセスを提供して前記培養室内の無菌液から廃棄物および破片を除去する吸引機構を備えている、請求項1に記載の培養装置。
【請求項7】
前記培養室が、前記胎児が前記無菌液に含まれているときに該胎児への無菌到達を可能にする少なくとも1つのグローブポートを具備している、請求項1に記載の培養装置。
【請求項8】
前記培養室内の無菌液が、合成羊水を含む、請求項1に記載の培養装置。
【請求項9】
空気と酸素を混合してスイープガスを形成するガス混合器をさらに備え、
前記スイープガスが、前記酸素化装置に接続された、請求項1に記載の培養装置。
【請求項10】
前記ポンプレス酸素化回路が、約150ml/分以上のガス移送速度を実現する、請求項1に記載の培養装置。
【請求項11】
前記無菌液をフィルタ処理するフィルタを備え、
前記無菌液が、前記フィルタを通して送り出され、フィルタ処理された無菌液が、前記培養室に送り出される、請求項1に記載の培養装置。
【請求項12】
前記培養室が、流体を継続的に交換する密閉型の殺菌システムである、請求項1に記載の培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、2013年3月15日に提出された米国仮特許出願第61/788,052号の優先権を主張するものである。
上記米国仮特許出願を本明細書で引用により援用する。
【0002】
本発明は、新生児医療の分野に関する。
より詳細には、本発明は、子宮外で生存可能前の胎児の生体恒常性を維持する装置および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
本発明が属する従来技術について説明するために、複数の刊行物および特許文献を明細書全体で引用する。
これらの文献の全引用は、本明細書の全体を通じて把握することができる。
各文献は、完全に記載されているものとして引用により援用される。
【0004】
極端な早産の場合、肺の成長やガス交換のための成熟が不十分である等の器官形成の不備により、子宮外での生存は難しくなる。
さらに、先天性横隔膜ヘルニアや肺形成不全を引き起こす他の原因など、肺の成長および発育に影響する先天性異常の場合、不十分な肺機能によって長期的な生存が制約されかねない。
胎児の進行している成長および発育を、出生後の集中治療により引き起こされる不安要因を取り除きつつ補助する体外システムの開発により、そのような胎児の死亡率および長期的な疾病率を軽減して、生存させることが可能となる。
生存可能前の胎児の生体恒常性を数週間または数か月にわたり維持することができれば、子宮外での生存可能性の評価に関する現状の基準が変わる可能性もある。
【発明の概要】
【0005】
本発明によると、体外膜型酸素化システム(人工胎盤)が提供される。
詳細な実施形態では、このシステムは、ポンプレスであり、極低抵抗な酸素化装置を備える。
このシステム/装置は、被験体と、被験体を液没させる無菌液とを保持する培養室をさらに備えることができる。
このシステム/装置は、無菌液用のポンプおよび濾過システムをさらに含むことができる。
本発明のシステム/装置の例を、図1および図7Aに示す。
【0006】
本発明の別の態様によると、被験体の体外酸素化(たとえば、胎児を子宮外環境で維持して成長および成熟させる)の方法が提供される。
特定の実施形態では、この方法は、本発明の体外膜型酸素化システムに被験体を接続するステップを含む。
被験体は、首の血管を通じて、酸素化装置に接続される。
特定の実施形態では、被験体は、未熟胎児、超未熟胎児、または生存可能以前の胎児である。
特定の実施形態では、酸素化装置は、胎児血でプライミングされる。
被験体は、無菌液を含む培養室で液没して維持される。
詳細には、無菌液は、加熱され、継続的に濾過システムを通って送り出される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の装置の例の写真である。
図2】培養室の例の写真である。培養室の4つのポートが明確に示されている。これらのポートのうちの2つは、培養室の無菌液の循環用である(「羊水入力」(Amniotic in)および「羊水出力」(Amniotic out)のラベル付き)。残り2つのポートは、培養室内の封入装置に温かい液体を循環させて被験体の体温を維持するためのものである。
図3】酸素化装置を含む乾燥室の例の写真である。
図4】濾過システムの写真である。
図5】酸素化装置の回路設計の写真である。
図6A】本発明の装置に接続された、早産の子ヒツジの写真である。
図6B】5日間の成長後の子ヒツジの写真である。
図7A】本発明の装置の例の概略図である。
図7B】本発明の装置の例の写真である。
図7C】本発明の装置の回路の例の写真である。
図8A】胎児の生化学的および血行動態的パラメータの安定性を示す図であって、頸動脈試料採取によるpHを示す図である。
図8B】胎児の生化学的および血行動態的パラメータの安定性を示す図であって、COおよびOの分圧を示す図である。
図8C】胎児の生化学的および血行動態的パラメータの安定性を示す図であって、300時間にわたり記録された胎児の脈拍数を示す図である。
図8D】胎児の生化学的および血行動態的パラメータの安定性を示す図であって、収縮期血圧を示す図である。
図8E】胎児の生化学的および血行動態的パラメータの安定性を示す図であって、酸素化装置へのFiO運搬を示す図である。
図8F】胎児の生化学的および血行動態的パラメータの安定性を示す図であって、回路流量を示す図である。エラーバーは、5回の独立した実験を表す。
図9】収縮期血圧(mmHg)と回路流量(ml/分)との間の線形関係を示すグラフである。エラーバーは、4回の独立した実験を表す。
図10A】本発明による胎児の成長および代謝を示す図であって、胎児培養の過程における体重増加を示す図である。
図10B】本発明による胎児の成長および代謝を示す図であって、動脈PaC0レベルの増加に対する胎児の呼吸反応を示す図である。
図10C】本発明による胎児の成長および代謝を示す図であって、胎児の心エコー検査により確認された動脈管の開存性を示す図である。
図10D】本発明による胎児の成長および代謝を示す図であって、培養の過程における胎児の酸素消費量を示す図である。
図11A】子ヒツジの成長および発育を示す図であって、第1日目(GA120日)の胎児ヒツジの写真である。
図11B】子ヒツジの成長および発育を示す図であって、第14日目(GA134日)の胎児子ヒツジの写真である。
図11C】子ヒツジの成長および発育を示す図であって、第14日目以降のパラフィン包埋した胎児肺のヘマトキシリンエオジン染色(H&E)の画像である。
図11D】子ヒツジの成長および発育を示す図であって、培養から6か月後の子ヒツジの正常な成長および発育を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
呼吸不全は、極度の未熟児が生存するうえで依然として大きな障害となっている。
胎児の進行している成長および発育を補助する子宮外システムの開発は、そのような患者の取り扱いにおけるパラダイムを変化させる。
人工胎盤の概念が初めて紹介されたいのは50年以上前だが、従来のポンプ補助式体外酸素化システムを利用する多数の研究は、循環過負荷および心不全のために、限られた成功しか収めていない。
ポンプレスの酸素化回路は、現在のECMO技術を上回る利点を約束すると長年考えられてきた。
これらの利点には、プライミング容積および分布容積の低減、血液の血栓形成表面への露出の短縮、および胎児の心臓そのものによる血流および血圧の先天的調整の実現が含まれる。
しかし、そのような回路の開発は、依然として難しく、いくつかの入念に計画された研究が急速な循環不全という結果に終わっている。
本明細書では、安定した血行動態、胎児巡回の維持、ならびに正常な成長および代謝を伴う、ポンプレス人工胎盤による子宮外胎児子ヒツジの完全な生理学的補助について報告する。
これは、胎児胎盤回路に類似する態様での体循環の自己調節を伴う子宮外環境で、胎児の長期的な維持に成功した最初の例である。
【0009】
早産は、複数の理由のいずれかにより起こる可能性がある。
たとえば、早産は、早期破水(Preterm Rupture of the Membranes;PROM)、子宮頸部短縮等の子宮の構造的な特徴、外傷性もしくは感染性の刺激、または多胎妊娠により、自発的に起こる可能性がある。
また、早期陣痛および早産は、胎児鏡検査または胎児外科の文脈でも頻繁に遭遇する。
これらにおいては、最大限の子宮収縮抑制にも関わらず、子宮の計測によって制御不可能な陣痛がしばしば誘発される。
【0010】
2010年CDC全国人口動態統計レポートによると、米国での過去10年間の妊娠期間28週未満での出生率は約0.7%、または年間約30,000件で横ばいである。
同様に、米国での過去10年間の妊娠期間28〜32週での出生率は、1.2%、または年間50,000件で横ばいである。
先天性横隔膜ヘルニア、羊水過少症、または腹壁欠陥に伴う肺形成不全を患う患者も、かなりの数である。
全国出生時欠損予防ネットワークの報告によると、先天性横隔膜ヘルニアの年間発生率は、出生数10,000人あたり0.9〜5.8、または年間約375〜2,500件である。
肺形成不全の他の原因の発生率については、適当な文書が存在しない。
【0011】
早産児の生存に影響する主な生理的制限は、ガス交換を可能にする肺の成長および成熟が不十分であることに起因する、肺不全である。
胎児の体外酸素化システムの開発は、完全な人工胎盤に向けた大きなマイルストーンとなる。
動物モデルで胎児の十分な酸素化を実現するための過去の試みでは、ポンプにより補助される従来型の体外膜型酸素化(Extracorporeal Membrane Oxygenation;EMOC)が利用されてきたが、処置動物の循環過負荷および心不全による制約を受けてきた。
Reomaら(J.Ped.Surg.(2009)44:53−59)は、低抵抗の酸素化装置(MC3、ミシガン州アナーバー)を使用した動静脈体外生命維持システムについて説明している。
しかし、Reomaらのポンプレスシステムは、7人の胎児のうち2人が3時間以内に死亡し、残りの胎児が4時間以内に胎児低血圧、除脈、およびアシドーシスを伴う血行動態不安定を示したため、失敗に終わった。
4時間の間に、Reomaらは装置の流量が減少し、酸素の運搬が減少し、大動脈内血流量が徐々に低下するのを確認し、最終的に、十分な長期的補助のためにはポンプを使用することが必要であると結論付けた。
【0012】
本発明のシステムは、胎児の生理機能を体外環境で維持しつつ、胎児を補助し、継続的な成長および臓器の成熟を可能にする。
このシステムは、早産および複雑な肺病変に関連する死亡率、疾病率、および費用を実質的に軽減する。
実際、米国医学研究所による2007年のレポート(Behrmanら編、医学研究所(米国)早産の理解と健全な結果の保証に関する委員会、ワシントンDC、ナショナルアカデミープレス、2007)では、早産に関連する費用を2005年だけで262億ドル超と見積もっており、費用の大半は、集中治療環境での初期医療管理で生じると指摘している。
【0013】
本発明によると、胎児の心臓が、回路および酸素化装置を通じた流れを駆動するために使用される(すなわち、ポンプレスのシステムである)。
ポンプレスのシステムを使用することで、胎児の心臓が非拍動性のポンプ補助式回路で生じる過剰な与圧に晒されることが回避される。
また、ポンプレスのシステムにより、血流動態の本来的な胎児循環調節が可能となる。
本発明の酸素化装置は、極低抵抗であり、プライミング容積が少なく、膜間圧の低下が小さく、効率的なガス交換を実現する。
特定の実施形態では、酸素化装置は、1.5l/分の血流での圧力低下が約50mmHgまたは約40mmHg未満である。
特定の実施形態では、酸素化装置のプライミング容積は、約100ml未満であり、詳細には約85ml未満である。
特定の実施形態では、酸素化装置は、血流量の範囲が最大で約2.0l/分、約2.5l/分、約2.8l/分、またはそれ以上である。
特定の実施形態では、酸素化装置は、Oのガス移送速度が約150ml/分、約160ml/分、約180ml/分、またはそれ以上である。
特定の実施形態では、酸素化装置は、中空糸膜型酸素化装置(たとえば、ポリミチルペンテン中空糸膜型酸素化装置)である。
特定の実施形態では、酸素化装置は、抗凝固手段/混合物(たとえば、固定化ポリペプチドおよび/またはヘパリン)を備える。
特定の実施形態では、酸素化装置は、Quadrox−iD(商標)小児酸素化装置(Maquet、ニュージャージー州ウェイン)である。
【0014】
本発明の被験体は、満期産児および早産児を含む乳児であり得る。
早産児は、未熟児(すなわち、推定妊娠期間37週未満、特に28〜32週)、超未熟児(すなわち、24〜28週)、または、生存可能以前の胎児(たとえば、20〜24週)であり得る。
これらの妊娠期間は、人間用だが、他の動物の対応する早産児も使用することができる。
特定の実施形態では、早産児は、潜在的な先天性疾患を持たない。
特定の実施形態では、満期産児または早産児は、先天性横隔膜ヘルニアや、肺形成不全などの肺の発育に影響する先天性異常により、肺ガス交換の機能が制限されている。
特定の実施形態では、被験体は、たとえば先天性肺疾患(気管支肺胞上皮の形成異常、界面活性蛋白質Bの不足等)により、肺移植を待機している早期新生児または満期新生児である。
そのような移植手術は、現在、米国でほとんど実施されていない(Huddlestonら(2002)Ann Surg.、236:270−6)。
しかし、本発明により提供される、より安定した肺補助方法により、移植手術の数は、増えるであろう。
また、被験体は、重度の気道病変を患い、根本的切除まで長い時間がかかることが予想される患者を含む、子宮外胎盤循環下胎児治療(Ex Utero Intrapartum Treatment;EXIT)分娩の候補者であり得る。
また、被験体は、特に早産を引き起こす早期陣痛を伴う、胎児外科的処置または胎児鏡処置の患者であり得る。
被験体は、必要な期間(数日、数週間、数か月等)にわたり、本発明の装置で維持される。
【0015】
本発明の特定の実施形態では、被験体の首の大血管(頸動脈等)にカニューレを配置して、被験体の循環系を酸素化装置に接続する。
首の大血管への配置により、血管攣縮および臍血管でのカニューレの不安定性の問題が回避される。
酸素化装置とカニューレとの間の接続チューブ(たとえば、シリコン)は、被験体の外部の血液量を減らすために、できるだけ短く、かつ細いことが好ましい。
しかし、被験体の潜在的な動きをチューブの長さで考慮する必要がある。
特定の実施形態では、チューブは、カニューレから酸素化装置まで約12インチ以下である。
特定の実施形態では、チューブは、抗凝固手段/混合物(たとえば、固定化ポリペプチドおよび/またはヘパリン)を備える(すなわち、チューブは耐凝固性を有する)。
以下に説明するように、カニューレの外部は、(たとえば、安定化縫合糸の張力を上げられるように)スリーブに嵌合し得る。
スリーブは、シリコンで形成することができ、たとえば、長さ約1〜10cm、詳細には長さ3〜5cmである。
カニューレは、(嵌合したスリーブを介して)動物に縫合して、動物の首に固定することができる。
【0016】
本発明の特定の実施形態では、酸素化装置は、血液によりプライミングされる。
酸素化装置は、たとえば、母体血および/または胎児血でプライミングすることができる。
酸素化装置を胎児性ヘモグロビンでプライミングすることで、細胞膜にまたがる最適な酸素交換が許容される。
実際、胎児の酸素解離曲線は、左方移動する。
つまり、胎児の動脈血酸素分圧は、成人の動脈血酸素分圧より低い。
特定の実施形態では、血液は、ヘパリンを含む。
【0017】
特定の実施形態では、酸素化装置へのガスの流入は、 医療用空気と酸素とを混合したものである。
【0018】
特定の実施形態では、被験体は、培養室に委ねられる。
特定の実施形態では、培養室には、被験体が液没するように(たとえば、子宮内環境に近いかたちで)無菌液が満たされている。
培養室は、内部の無菌液が汚れるのを防ぐために封止することができる。
特定の実施形態では、培養室の上部は、被験体に到達できるようにするために、取り外し可能であるか、または蓋になっている。
ただし、培養室の上部は、培養室の残りの部分に(ガスケット等を介して)封止できるようになっている必要がある。
特定の実施形態では、培養室は、ガラス、金属、または不活性の医療用プラスチップもしくはシリコンでできたボックスまたはボウル等の剛構造物である。
特定の実施形態では、培養室は、(たとえば、不活性の医療用プラスチックまたはシリコンで水密に作られた)袋または嚢であり、それによって羊膜腔を模倣する。
培養室は、被験体を培養室内に配置するための吊り下げ式または懸垂型の網またはハンモックを備え得る(たとえば、図11Aおよび図11Bを参照)。
吊り下げ式/懸垂型の網(たとえば、釣り包帯またはハンモック)により、胎児の不安が軽減され、よって胎児の動きが減り、取り付けられたプローブまたはカニューレが破損したり外れたりする可能性が減少する。
吊り下げ式/懸垂型の網(たとえば、釣り包帯またはハンモック)は、金属やナイロンなど、滅菌した不活性の医療用材料で作成することができる。
培養室は、被験体への無菌到達を可能にするグローブポートをさらに備えることができる(たとえば、被験体を押さえて落ち着かせたり、培養室の内部にあるものに到達したりするため)。
【0019】
培養室内の無菌液は、羊水、無菌人工/合成羊水、乳酸リンゲル液等である。
無菌液は、抗生物質(ペニシリン等)および/またはリゾチームを含むことができる。
被験体の体温を維持するために、無菌液および/または培養室を加熱することができる。
無菌液は、培養室の外で加熱されて温かい状態で送り出されるか、および/または培養室内で加熱される。
特定の実施形態では、温かい液体(水等)が、培養室内の密閉ユニット(詳細にはループ形状またはコイル形状のチューブ等(シリコン製等))に送り出され、加熱器に戻され、その後再び送り出される。
特定の実施形態では、温かい液体は、摂氏約50度の加熱コイルに送り出される。
【0020】
特定の実施形態では、培養室内の流体は、ポンプと、1つ以上のフィルタとに接続される(たとえば、培養室内の被験体から排出された粒子状物質を除去するため)。
特定の実施形態では、装置は、一連のフィルタを備える。これらのフィルタは、オプションで、フィルタの詰まりを迅速に識別できるようにする圧力計をフィルタの間に備える。
濾過システムは、UV流体フィルタをさらに備え得る。
濾過システムの例を、図4に示す。
図4には、30ミクロンのフィルタ、5ミクロンのフィルタ、および0.15ミクロンのフィルタと連続して接続されたグロスデブリフィルタが示されている。
濾過システムは、多様な孔寸法のフィルタを任意の数だけ含むことができる。
たとえば、濾過システムは、1ミクロンのフィルタ、30ミクロンのフィルタ、1ミクロンのフィルタ、5ミクロンのフィルタ、0.2ミクロンのフィルタ、および、0.15ミクロンのフィルタと連続して接続されたグロスデブリフィルタを含むことができる。
別のフィルタシステムの例を図7Aに示す。このフィルタシステムでは、ポンプが100μmのフィルタおよびUV光に接続されている。
【0021】
特定の実施形態では、培養室内の流体は、1日に約1〜10回、詳細には1日に約1〜5回または1日に約2〜4回交換される。
無菌流体は、少なくとも1つのポートにより培養室に送り出され得る。
流体は、少なくとも1つのポートを通じて培養室から除去され得る。
ここで、流体は、ポンプを利用して培養室から除去することができる。
交換システムの例を、図7Aに示す。
ここでは、ポンプが第1のポートで無菌流体を培養室に送り出し、第2のポンプが第2のポートを通じて古い流体を培養室から除去する。
特定の実施形態では、本発明の装置および方法は、流体の無菌状態を維持するために、流体の交換および/または濾過を使用する(たとえば、流体の交換は、補助的な濾過なしで使用することができる。ただし、組み合わせて使用することで、無菌性が向上する)。
【0022】
特定の実施形態では、被験体は、培養室にいる間に、栄養チューブまたはIVを通じて栄養補給を受ける。
また、被験体の動きを制限するために鎮静剤を投与することもできるが、本発明では、培養室内での動きがある程度許容されるため、鎮静剤の投与は必ずしも必要ではない。
また、被験体に、抗生物質(アンピシリン、ゲンタマイシン等)を投与することができる。
また、被験体に、抗凝固剤(ヘパラン等)を投与することができる。
また、被験体に、プロスタグランジン(プロスタグランジンE1またはE2等)を投与することができる。
被験体の生命兆候、体重、肝機能、および血流も、典型的には監視される。
ビリルビン値を監視することもできる。
【0023】
図1および図7は、本発明の装置の例を示す。
図7Aは、本発明の装置の例の概略図である。
この装置は、単一のユニットでもよいし、チューブで相互接続された個別の収容ユニットを含んでいてもよい。
また、図示されている装置は、子ヒツジに適した寸法になっている。
装置は、被験体の寸法に応じて適切に寸法設定することができる。
たとえば、装置は、人間の被験体の場合は約1/3の寸法にすることができる。
【0024】
図2は、培養室の拡大図である。
培養室は、任意の数の入口および出口を備えることができる。
特定の実施形態では、培養室は、内部の無菌液を循環させるために、少なくとも1つの入口と1つの出口とを備える。
培養室は、被験体への無菌到達を可能にするグローブポートをさらに備えることができる(たとえば、被験体を押さえて落ち着かせたり、培養室の内部にあるものに到達したりするため)。
培養室は、被験体へのIVライン用の少なくとも1つのポートをさらに備えることができる。
培養室は、任意の多様な監視装置への到達を可能にする多様なポート(たとえば、再封止可能なポート)を備えることができる。
たとえば、培養室は、超音波装置および/または透析ユニットへの到達を可能にするポートを備えることができる。
培養室は、UV光ユニットをさらに備えることができる(たとえば、黄疸を治療/抑制するため)。
【0025】
図3は、オプションの乾燥室に含まれている酸素化装置の画像である。
図5および図7Cは、乾燥室なしで酸素化装置を備える循環設計の例を示す。
乾燥室は、単一のユニット内で仕切りによって培養室から分離されているものとして示されているが、2つを個別のユニットに分ける(ただし、必要なチューブ等により接続する)ことも可能である。
被験体からのカニューレは、乾燥室内の酸素化装置に直接接続されるか、または乾燥室のポートを通じて接続される。
乾燥室は、ガスの流れを酸素化装置に接続するための少なくとも1つのポートをさらに備えることができる。
このポートは、乾燥室内のチューブを介して酸素化装置に接続し得る。
図3は、チューブおよび酸素化装置を循環する血液の温度を(たとえば、温かい液体およびチューブにより)維持するヒーターを乾燥器に追加するための、追加のポートをさらに示している。
さらに、酸素化装置へのチューブおよび/または酸素化装置からのチューブは、モニタ(温度モニタ、ガス含量モニタ等)に取り付けられ得る。
【0026】
図7Aは、本発明の装置の例の概要を示す。
培養室は、システムの温度を維持する水槽の中に配置されたボウルとして描かれている。
培養室は、培養室の内部への無菌到達のために培養室の上部に設けられた2つのグローブ/ハンドポートと共に描かれている(ただし、これらのポートは、培養室の側面など、任意の位置に設けることができる)。
培養室は、無菌羊水を受け入れるための入口ポートと、使用済みの/古い羊水を除去するための出口ポートとを備える。
また、培養室は、ポンプと、少なくとも1つのフィルタと、細菌および汚染物質を除去するためのUVフィルタとを含む濾過システムを備えるものとして描かれている。
培養室は、被験体が配置される網をさらに備えている。
また、図7Aは、詳細には被験体の首の血管に設けられたカニューレを通じて、被験体の血液系と流体接続された酸素化装置(Ox)をさらに示している。
酸素化装置は、空気および酸素の上に描かれたガス混合器に接続されている。
酸素化装置システムの配管は、被験体の血流に混合物(たとえば、栄養物、抗生物質、薬等)を導入するための、少なくとも1つのポートを備えることができる。
圧力、流量、温度等を判断するためのモニタを、酸素化装置システムに接続し、および/または被験体に直接接続することができる。
【0027】
定義
単数形式の「a」、「an」、および「the」は、文脈によって明確に規定されない限り、複数の対象物を含む。
【0028】
本明細書で使用されている「ホスト」、「被験体」、および「患者」という用語は、任意の動物を示し、詳細には人間を含む哺乳類を示す。
【0029】
以下の例は、本発明の多様な実施形態を示すために提供されている。
これらの例は、実証となるものであり、いかなる方法でも本発明を限定することを意図したものではない。
【0030】
例1
早産の子ヒツジ(28週)を、本発明の装置で、本発明の方法を使用して維持した。
8F〜10Fの動脈ECMOカニューレを、顎動脈および内顎静脈に配置した(寸法は手術時に選択)。
約12インチのECMOチューブを流出および流入で使用してカニューレに接続した。
提供される栄養補給は、完全腸管外栄養であった。
図6Aは、装置に接続された子ヒツジの画像であり、図6Bは、5日間の成長後の子ヒツジを示す。
早産の子ヒツジが5日間成長したことは、本発明が子宮外で胎児を維持できることを実証している。
【0031】
例2
早産の合併症は、高い疾病率および死亡率につながる。すべての乳児死亡の1/3が、生存者の主要な器官系のほとんどに影響する未熟状態および慢性後遺症によるものである。
2010年、米国における全出産の12.0%が早産(妊娠期間37週未満)であり、3.5%が前期早産(妊娠期間34週未満)であった(Martinら(2013)MMWR Surveill.Summ.、62(Suppl 3):136−138)。
これらの患者が直面する最も一般的かつ困難な問題は、呼吸不全である。
これは、極度な早産の新生児のガス交換は、肺が構造的および機能的に未熟であることによって損なわれるからである。
出産前ステロイド投与、界面活性剤の交換、肺血管拡張療法、高周波振動換気などを含む新生児集中治療の進歩により、帰結が改善され、妊娠期間22〜24週で肺発生の管状期から嚢状期に移行する生育力の限界が押し上げられた。
しかし、ほとんどの主要な臓器系の不完全な発育は、依然として多くの患者の生存および最善な機能的帰結の妨げとなっている。
胎児の進行している成長および発育を、出生後の集中治療により引き起こされる不安要因を取り除きつつ補助する体外システムの開発により、極度の早産児が生存することが可能となり、死亡率および長期的な疾病率が減少する可能性がある。
【0032】
胎児の体外膜型酸素化(ECMO)の概念は、体外ガス交換が胎盤により実行される先天的胎児生理機能に近いという点で、魅力的である。
人工胎盤は、1960年代から実験の対象とされ、臍血管を通じて胎児子ヒツジをカニューレ処置し、第1世代の気泡膜型酸素化装置により40分〜2日間にわたり潅流する、一連の短期的な実験が行われてきた(Callaghanら(1963)Circulation 27:686−690、Zapolら(1969)Science 166:617−618)。
その後の20年間での酸素化装置およびポンプ技術の実質的な改善により、体外での胎児生命維持の期間は、従来型のポンプ駆動式ECMO回路を使用して延長され、循環不全の兆候が表れるまで最大で3週間続けられるようになった(Kuwabaraら(1986)Artificial Organs 11:224−277、Kuwabaraら(1989)Artificial Organs 13:527−531、 Unnoら(1993)Artificial Organs 17:996−1003、Unnoら(1997)Artificial Organs 21:1239−1246)。
このように、生存時間が延長されたにも関わらず、これらの研究は、循環過負荷および心不全による制約を受け、過輸液状態が進行して実験動物が死亡するという結果となった。
【0033】
従来型のポンプ駆動式静動脈ECMO回路は、この技術を胎児の補助に応用するうえで障害になっていると考えられている。
回路の大きなプライミング容積は、先天的な胎盤機能予備能の余剰分を実質的に上回り、よって分布容積の増加につながる。
また、ポンプにより補助される非拍動性の流れは、胎児の先天的な生理機能からかけ離れており、流量を自己調節する先天的機能が失われることに加えて、心後負荷が著しく上昇して心筋緊張を引き起こす可能性がある。
さらに、そのような回路は表面積が大きいため、高度な全身抗凝固療法が必要となる。
ポンプレス回路は、プライミング容積および分布容積の低減、血液の血栓性表面への露出の短縮、胎児の心臓そのものによる血流および血圧の先天的調節の実現など、現在のECMO技術を上回る利点を提供する可能性がある。
【0034】
ポンプレス体外酸素化システムの開発は、依然として困難である。
ポンプレスシステムで胎児の酸素化を実現する試みは、文献で5件だけ報告されているが、そのすべてが最終的に失敗している。
胎児は、血流量が低下し、潅流を人工的に長引かせるための昇圧補助が必要になってから数分〜29時間以内に死亡している(Awadら(1995)J.Invest.Surg.、8:21−30、Reomaら(2009)J.Pediatr.Surg.、44:53−59、Mimaら(2012)Pediatr.Res.、72:490−494、Schobererら(2014)Artificial Organs 38:208−14)。
【0035】
近年の体外膜技術の進歩により、プライミング容積が少なく、ガス交換の効率が高く、胎盤そのものの特性をより適切に再現する、極低抵抗な装置が生成された。
詳細には、MaquetQuadrox−ID小児酸素化装置は、生来の心臓を使用して回路を通じた流れを駆動する、胎児血液のポンプレス酸素化の実現を補助する。
この酸素化装置は、小児患者のポンプレス人工肺として適用され、良好な成功を収めている(Bostonら(2013)J.Thorac.Cardiovasc.Surg.、146:e42−e43)。
本明細書では、胎児の心臓がポンプとして機能することを可能にする改良されたポンプレス回路を使用して、胎児の先天的な血行動態を再現することにより、胎児血の酸素化と安定した血行動態とを維持するアプローチを探った。
主な課題は、先天的な胎児循環により自己調節される安定した潅流を実現すること、無菌流体に液没した子宮内環境を再現すること、胎児の適切な成長および発育を促進すること、などであった。
【0036】
本明細書では、哺乳類の胎児を最大3週間にわたって長期的に培養し、通常の成長、代謝、および自己調節胎児循環の維持を実現することに成功した、ポンプレス体外胎児生命維持(Pumpless Extrauterine Fetal Life Support;PEFLS)の初めての実証が提供される。
【0037】
方法
外科的処置
妊娠日数が明確な妊娠中の雌ヒツジを、妊娠期間120〜135日(満期=145日)で使用した。
動物は、フィラデルフィア小児病院の施設内動物愛護使用委員会により承認された手続きに従って扱われた。
【0038】
雌ヒツジは、15mg/kgの筋肉内ケタミンで麻酔され、O中の2〜4%のイソフルランの吸入により全身麻酔が維持された。
手術中の血行動態の監視には、パルスオキシメトリが含まれ、母体の体液平衡を維持するために、右顎静脈に配置された中心静脈ラインから投与される等張食塩水が持続的に注入された。
【0039】
正中線の下方を開腹して子宮を露出し、小規模な子宮切開を実施して胎児ヒツジの頭および首を露出した。
双生児の子ヒツジの場合、ドナー動物から胎児血を収集して回路をプライミングした。
ドナー動物は、右首を小さく切開して頸静脈を露出し、筋肉内投与1回分のブプレノルフィン(0.005mg/kg)および静脈内投与1回分のヘパリンナトリウム(150USP単位、APP Pharmaceuticals、イリノイ州シャンバーグ)を投与した。
続いて右首を小さく切開して頸静脈を露出し、ドナー動物の全血液を収集するためのカテーテルを配置した。
単生児の子ヒツジの場合、母体血を収集して回路をプライミングした。
すべての動物で、母体血を収集し、実行中の輸血の必要性に備えて保存した。
【0040】
実験用の子ヒツジは、右首を小さく切開して頸動脈および頸静脈を露出した。
動物は、ブプレルフィン(0.005mg/kg)の筋肉内投与を1回、ヘパリンナトリウム(300USP単位)の静脈内投与を1回、それぞれ受けた。
各血管により収容される最大カニューレ寸法を判断した後、ECMOカニューレを配置し(寸法範囲8〜12Fr、Avalon Laboratories、LLC、カリフォルニア州ランチョドミンゲス)、首のカニューレの外部長さに沿って安定化縫合糸を置いた。
一部の動物では、カニューレの外側部分を3〜5cmのシリコン製「スリーブ」に嵌合させて、安定化縫合糸の張力を上げられるようにした。
また一部の動物には、目の筋電図(EOG)活動および脳波(EEG)活動を測定するために、絶縁されたマルチストランドステンレス鋼ワイヤ電極を配置した。
EMGワイヤ電極を、片目の眼窩に重なる筋肉の上縁および下縁の皮下に埋め込み、一対のEEG電極を、傍矢状頭頂葉皮質の上の硬膜に配置し、シアノアクリレート接着剤で固定して、基準電極を後頭部の上に縫い合わせた。
【0041】
酸素化装置を上述したように構築して血液プライミングを行った後、胎児の心臓を超音波画像により継続的に視覚化した状態で、カニューレを回路に接続した。
回路の血流が確立された直後に、臍帯の閉鎖を実施し、心筋収縮力が弱い一部の動物には、回路の流れが確立された直後に、追加の血液および/またはアトロピン(0.1mg)および/またはエピネフリン(0.1mg)を投与した。
安定した心機能および回路血流を確認した後、カニューレの外部長さに沿って滞在縫合糸を置いて、カニューレを動物の首に固定した。
その後、胎児子ヒツジを体重測定し、温かい無菌食塩水槽で洗浄し、上述した後続の処置のために無菌流体培養室に移した。
【0042】
子宮内のヒツジ胎児の基準データを生成するために、妊娠期間118日の妊娠日数が明確な2頭の妊娠中の雌ヒツジを開腹して、胎児血管カテーテルおよび電極を説明のとおりに埋め込んだ(Crossleyら(1997)Reprod.Fertil.Dev.、9:767−73)。
簡単に言うと、全身麻酔を行って胎児を露出した後、胎児の頸動脈および頸静脈にカテーテルを埋め込み、羊膜腔に基準カテーテルを配置し、その後、EOGワイヤ電極および2本のEEGワイヤ電極を上述したように配置した。
加えて、これらの研究のために、EMGワイヤ電極を項筋および横隔膜筋に配置した。
左後部の横隔膜に腋窩中央の切開から1.0cmの間隔で縫い付けられた2つの電極でアプローチする一方、項部活動を記録するために単一の電極を頸長筋に縫い付けた。
胎児のカテーテルおよび電極を母体の横腹を通して外に出し、子宮および腹部を閉じた。
48〜72時間の回復期の後、胎児監視用の保持籠に雌ヒツジを移した。
【0043】
回路
ポンプレス子宮外胎児生命維持(P−EFLS)回路は、3/16インチBIOLINEヘパリン被覆Medtronicチューブ(Medtronic、ミネソタ州ミネアポリス)によりECMOカニューレに接続された低抵抗中空糸酸素化装置(Quadrox−ID、Maquet、ラシュタット、ドイツ)を含む。
接続は、動静脈体外酸素化回路として確立し、拍動性全身圧力下の頸動脈カテーテルの流出を酸素化装置の流入ポートに接続し、戻り流れを流出ポートに接続した。
プライミング容積は、81mLであり、ヘパリン処置された胎児血が使用可能であれば使用し、単生児妊娠では母体血を利用した。
回路流量は流量プローブ(Transonic Systems Inc,、ニューヨーク州イサカ)で測定し、酸素化装置に供給されるスイープガスは、胎児血のガス値に容量設定された、医療用空気と酸素の混合物であった。
【0044】
流体培養
試験的な培養室設計は、無菌合成羊水で満たされた30リットルの加熱ステンレス鋼製リザーバ(「スチルリザーバ」)、一連の無菌フィルタを通じて流体が継続的に再循環する40リットルのポリカーボネートタンク(「再循環濾過」)、および無菌液の継続的な交換を促進するダブルヘッド蠕動ポンプに取り付けられた流入流出チューブ内の60リットルタンク(「継続的交換」)などであった。
最後に述べたシステムでは、タンクの容積全体が、180リットルのリザーバからの無菌流入により24時間で3回交換される。
合成羊水は、Na(109mM)、Cl(104mM)、HCO−(19mM)、K(6.5mM)、Ca(1.6mM)、pH7.0〜7.1、容量オスモル濃度235.8mOsm/kgの水を含む平衡塩類溶液で構成された。
18mg/Lのゲンタマイシンと30mg/Lのシプロフロキサシンの終濃度まで抗生物質を追加し、液没可能なUV殺菌ポンプを流体リザーバに配置して、実行中の継続的な再循環および滅菌を行った。
【0045】
回路での胎児子ヒツジの維持
動物の安定化および流体培養室への移送に続いて、ヘパリン(1時間に80〜200USP単位)およびプロスタグランジンE1(0.1mcg/kg/分、Pfizer Inc、ニューヨーク州ニューヨーク)の持続点滴を静脈内投与した。
血液ガス、電解質、および凝固の値を調べるために、i−Stat(登録商標)System(Abbott Point of Care Inc、ニュージャージー州プリンストン)を使用して1〜4時間ごとに採血を行った。
ヘパリン注入を目標の活性化クロッティング時間である180〜200秒に容量設定し(1時間に100〜400USP単位)、酸素化装置のスイープガスをOの目標胎児分圧(PaO 20〜30mmHg)およびCOの目標胎児分圧(PaCO 35〜45mmHg)に容量設定した(FiO 21〜55%、スイープガス0.125〜1.5L/分)。
保存された母体血を使用して、胎児のヘモグロビンレベルを9mg/dLよりも高く保った。
知覚された胎児ジストレス(落ち着かない反復的な胎動、頻脈、高血圧)の間、鎮静剤(ブプレノルフィン、必要に応じて3〜5時間ごとに0.005mg/kg IV)および抗不安剤(ミダゾラム、必要に応じて3〜5時間ごとに0.4mg/kg IV)を投与した。
完全非経口栄養を胎児培養の期間を通じて投与し、3.5g/kgのアミノ酸(TrophAmine(登録商標)10%)、5〜10%のブドウ糖、および3g/kgの脂質(Intralipid(登録商標)20%)を投与した。
【0046】
データ取得
胎児の血圧、心拍数、回路流量、膜間差圧、スイープガス流量、および水槽の流体温度を、0.1秒ごとの入力採取で継続的に記録した(LabChart 5、ADInstrumentsInc、コロラド州コロラドスプリングス)。
酸素消費量および呼吸商を毎日計算すると共に、酸素化装置の排気ガスに含まれる酸素および二酸化炭素を測定した。
以下の式を使用した。
【0047】
血中酸素含有量(0C)=1.34×Hgb×SaO/100+0.003×Pa0(mmHg)
酸素運搬(OD)=膜後0C×回路流量/100/体重
酸素消費量(OC)=(膜後0C−膜前0C)×回路流量/100
酸素抽出率(OER)=(OC/OD)×100
【0048】
子宮内のカテーテルを挿入した胎児子ヒツジの監視は、手術の48〜72時間後に始まり、実験プロトコルが妊娠期間140日で完了するまで、24時間間隔で隔日に継続した。
EEG、EMG、および動脈圧の継続的なポリグラフ記録は、0.1秒ごとにキャプチャされるデータにより記録した(LabChart 5、ADInstrumentsInc、コロラド州コロラドスプリングス)。
【0049】
抜管
計画された培養期間が完了した後、動物を流体水槽から移送し、気管内挿管および吸引で過剰な流体を肺から除去した。
全身麻酔を100%のO内の2〜4%の吸入イソフルランで維持し、手術中の血行動態の監視にパルスオキシメトリを含めて、末梢静脈カニューレを通じて投与される等張食塩水を一定注入した。
動脈および静脈のECMOカニューレを除去して血管を結紮し、首の切開を吸収性縫合糸により閉じた。
その後、麻酔を解除し、自発呼吸が開始され動脈血液ガスが十分なガス交換(FiOが21%の吸入医療用空気でPaO>75mmHg、PaCO<50mmHg)を示したところで動物から抜管した。
【0050】
結果
予備研究
合計5回の予備実験を行って、PEFLS回路での胎児の安定性を判断した(表1)。
胎児の妊娠期間は、120〜140日、体重は3.20〜4.89kgであった。
すべての動物は、回路での補助中に優れた血行動態安定性を示し、アシドーシス、乳酸の上昇、回路流量の低下、または循環不全の兆候はなかった。
2頭の動物がPEFLS回路に対して胎児循環を最初に開いた直後に突如として除脈を示し、通常の心機能を回復するためにエピネフリンおよびアトロピンを投与することが必要となった。
この最初の出来事の後、実験中に昇圧剤の補助が必要になった動物はいなかった。
すべての動物は、全身抗凝固療法および完全非経口栄養法により維持された。
【0051】
【表1】
【0052】
胎児の長期的な生存に関して、いくつかの障害があることがわかった。
5頭の動物のうちの4頭で、流体培養室の細菌汚染が確認された(表1)。
最初の予備研究では、温められた開放型の培養室を利用し、それを無菌の羊水で満たして、蒸発による損失のみを補うように羊水を補充した。
中間的な混合は行わず、抗生物質も使用しなかった。
12時間以内に、この培養液には細菌が著しく異常発生し、回路を使用し始めてから23時間後には、動物が深刻な肺出血を起こした。
組織学的検査で、重大な細菌性肺炎に相当する著しいびまん性炎症変化が肺全体で確認された。
その後、流体培養室の設計を見直して密閉型のシステムとし、羊水に抗生物質を含め(シプロフロキサシン30mg/L、ゲンタマイシン18mg/L)、孔径が段階的に小さくなる一連のフィルタ(1mm、10μm、5μm、2μm、0.2μm)を通じて羊水を再循環させて、グロスデブリを取り除き無菌性を維持することにした。
この培養室で2回の研究を実施した。
どちらの研究でも、培養開始から48時間以内に採取した水槽溶液で、細菌の増殖が確認された。
1頭の動物でFiOの必要性が培養期間を通じて上昇し、心エコー検査の結果、動脈管が著しく狭窄し、酸素化された血液の上大静脈を通じた混合が損なわれていることがわかった。
もう1頭の動物は、96時間の培養期間で合併症を起こさず、140日間の妊娠期間(満期)で生み出されて抜管されたが、自発呼吸の努力は活発であるものの、ガス交換が不十分であることがわかった。
どちらの動物も、肺炎に相当する肺の著しい炎症と菌血症とを患っていた。
流体を継続的に交換する密閉型の殺菌システムを設計し、一連の0.22μmフィルタに合成羊水を通して培養室に入れ、流入量を流出と一致させ、60リットルの培養室容積を毎日2〜4回完全に交換した(図7)。
【0053】
そのほかに確認された技術的制約として、エピネフリンを投与した2頭の動物で動脈管が時期尚早に閉塞したこと、抗血栓コーティングが施されていないチューブ区間を含む回路内で血栓が形成されたこと、および1頭の動物が外傷性抜管により出血で死亡したことが挙げられる(表1)。
これらの調査結果より、胎児短絡を維持するためにプロスタグランジンE2の継続的注入を追加し、抗血栓コーティングが完全に施されたチューブを使用する回路を実装し、各カニューレに無菌シリコンスリーブオーバーレイを追加してアンカー滞在縫合糸の安定性を向上させることとなった。
【0054】
胎児の生化学的および血行動態的パラメータ
上述したシステムの改良を施した後、5頭の実験動物をPEFLS回路で343.5+/−93.5時間にわたって維持した(表2)。
5回の独立した実験の過程における胎児の血液ガス、血行動態、および回路流量の傾向を図8にまとめる。
pHは培養期間を通じて安定し(図8A)、酸素および二酸化炭素の分圧は実験の過程を通じて目標の胎児レベルに維持された(図8B)。
基礎心拍数は培養の期間を通じて安定していたが(図8C)、動物の収縮期血圧は、予想された増加率で着実に増えた(図8D)。
同様に、回路流量は血圧の上昇に比例して増加し(図8F)、目的の動脈血中酸素濃度を維持するために必要な供給酸素の濃度も、胎児の代謝要求の増加を反映して着実に増えた(図8E)。
【0055】
【表2】
【0056】
PEFLSの流量特性
PEFLS中の胎児流量は、動物の基礎血圧に線形で関連し(図9)、拍動性があり、測定された心拍出量と直接的に相関している。
低酸素状態に応じて回路流量の自己調節が一貫して見られ、酸素化装置へのスイープガスの流量の減少に応じて基礎血圧および回路流量が補完的に増加し、スイープガスの流量が回復した後は、基準の流量および血圧に正常化した。
【0057】
PEFLSでの胎児の成長および代謝
209〜490時間にわたる5回の独立した実験の過程で、動物の体重は平均で930+/−278グラム増加した(図10A)。
胎児の呼吸運動は、培養期間を通じて規則的に確認され、体循環で測定される二酸化炭素の分圧と相関していた(図10B)。
心エコー検査を実施して、動脈管を含む、胎児短絡の開存を確認した(図10C)。
成長と、胎児代謝要求の比例的増加とに応じて、総酸素消費が5回の独立した実験で着実に増加した(図10D)。
PEFLS前およびPEFLS後の体重から生成される成長曲線から求められる予想胎児体重への正常化の後、酸素消費速度は、培養の過程を通じて安定していた。
【0058】
2頭の慢性的にカテーテル処置された胎児子ヒツジで、睡眠起床周期、呼吸運動、および全身運動をEEG、EOG、およびEMGにより記録し、同じ妊娠期間にわたり人工胎盤で維持された2頭の子ヒツジと比較した。
子宮内のカテーテル処置された胎児子ヒツジの記録を、125日および140日の妊娠期間で行い、人工胎盤の胎児子ヒツジの記録を、同じ妊娠期間で行った。
2つの妊娠期間の間での断片型の睡眠から統合型の睡眠への発育的進歩は、子宮内の動物およびPEFLSの動物の両方で明らかである。
【0059】
胎児の成長および発育は、培養期間の過程を通じて一貫して観察され、まぶたが閉じた状態から開いた状態になり、羊毛の成長が増大し、活動および敏捷さの水準が上がった(図11Aおよび図11B)。
肺の成長を示す組織学的証拠も一貫して示され、妊娠期間120日の子ヒツジの肺と比較して、肺胞壁の壁厚減少と二次的な隔壁形成とが、200時間以上にわたるPEFLSの実行が完了した後に見られた(図11C、表2)。
【0060】
1頭の動物は、288時間にわたって感染症を発症せずに維持され、人工胎盤から正常に産み出されて、出生後生活に移行した(図5D)。
磁気共振画像診断で脳、胸部、および腹部内蔵の正常な構造が確認され、動物は、8か月にわたり適切な成長および発育を示し、その後、長期養育施設に移された。
【0061】
子宮外の胎児を長期的に補助するポンプレス回路は、人工胎盤に最適な設計である可能性がある。
しかし、従来の試みは、低い流量と不十分な潅流とによる制約を受けてきた。
本明細書では、哺乳類の胎児を最大で3週間以上にわたり安定して長期培養することができる、ポンプレス子宮外胎児生命維持(PEFLS)システムについて説明する。
極低抵抗でプライミング容積が少ない、優れた酸素化装置を利用することで、胎盤そのものにより近い回路を作成した。
ヒツジの報告されている胎盤血液量は23.1〜48.1ml/kgであり(Creasyら(1970)Circ.Res.、27:487−494)、報告されている胎盤血流量は199+/−20ml/分/kgである(Faberら(1972)J.Pysiol.、223:375−393)。
本明細書で説明される回路は、80〜90ml、または平均的な妊娠年齢120日の体重3kgの胎児子ヒツジで27ml/kgのプライミング容積と、システムにおける平均120〜140ml/分/kgの流量とを必要とする。
【0062】
胎児に体外酸素化を適用する際、酸素化装置回路を胎児血でプライミングすると、酸素の分離および抹消潅流の維持の点で利点が得られる可能性がある。
ただし、回路のプライミングは、双胎の場合は胎児血で完了し、単生児の子ヒツジの場合は母体血で完了した(表1および表2)。長期的な胎児培養の過程で、動脈酸素含量、乳酸の生成、または心機能における差異は見られなかった。
【0063】
自己調節により先天的な血行動態を維持できるポンプレス回路は、正常な胎児発育のために有利である可能性がある。
本発明がなされる前、最長の子宮外胎児培養実験は、シリコン製の中空糸膜型酸素化装置とローラーポンプとを利用した回路で動物を維持し、臍血管を通じて動物をカニューレ処置するというものだった(Kuwabaraら(1986)Artificial Organs 11:224−277、Kuwabaraら(1986)Artificial Organs 13:527−531)。
ローラーポンプにより直接調節された胎児循環で維持された6頭の動物のうち、最大培養期間は8時間だったが、心不全の兆候がすぐに表れ、実験の大半で胎児が死亡した。
この研究では、血液リザーバを追加することで、実行時間が著しく伸びた。
この血液リザーバは、臍帯動脈の流出物で受動的に満たされ、リザーバが満たされる速度に応じて流量をポンプにより自動的に調節した。
流量は、すべての動物で100〜200ml/分に維持され、胎児のガスが培養期間を通じて目標の範囲内に維持された。
ポンプレスシステムではないものの、この変更によって流量を先天的な循環に近づけることが可能となり、生存時間が最大165時間に伸びた。
しかし最終的には、出血や塞栓などの医原性の合併症に屈しなかったすべての動物で、心不全と皮下浮腫が進行した。
以降の研究では、このリザーバ補助式の回路を改良して、流体と電解質のバランスを改善する血液透析を加え、50〜100ml/分/kgの流量で最大236時間の培養期間を実現した。
ここでも、3頭の動物がカテーテルの不具合に起因して死亡する一方、すべての非技術的な死亡の原因は心不全であり、循環系の機能低下の進行により最終的に回路上で死亡した。
胎児運動が流体のアンバランス、流量の乱れ、および出血の併発を招いた可能性があるとの考えに基づき、以降の研究では、この回路を利用して、麻痺薬を継続的に投与した。
結果、2頭の早産ヤギ胎児を80〜180ml/分/kgの流量でそれぞれ494時間および543時間にわたり安定的に補助し、培養室から機械的人工呼吸に移すことができた(Unnoら(1993)Artificial Organs 17:996−1003)。
しかし、動物は十分な自発呼吸をすることができず、呼吸不全により死亡した。
この回路の性能のさらなる分析では、動脈流出に固定抵抗点を作成する閉塞管の配置を含む改良により、最大236時間の培養時間を実現した。
しかし、すべての動物は、流量および血圧の減少と、繰り返し発生する不整脈とを特徴とする循環不全により死亡した(Unnoら(1997)Artificial Organs 21:1239−1246)。
【0064】
長期化した子宮外胎児培養の後の循環系の改善を目指す追加の研究では、循環不全による死亡が同様に確認された。
1998年、臍血管を通じてカニューレ処置され、中空糸膜型酸素化装置と遠心ポンプとからなる回路で維持された4頭のヤギ胎児についての研究がなされた(Yasufukuら(1998)J.Pediatr.Surg.、33:442−448)。
この回路は、113〜193ml/分/kgの流量により、従来公開されていた報告よりも高い速度で拍動性のある流量を提供することができた。
総補助期間は、87〜237時間であり、すべての動物が循環不全に続く水症で死亡した。
2002年、臍動脈の排液の量を向上させる試みとして、12頭のヤギ胎児に臍血管を通じてカニューレ処置し、流量を手動制御するローラーポンプを利用した回路により補助する研究が行われた。
この研究では、3頭の動物がカニューレの問題で死亡し、1頭が回路での血栓の形成に続く低酸素症で死亡する一方、残りの8頭が循環不全を発症した。
流量は、103.0+/−17.0〜176.0+/−15.0(ml/分/kg)の範囲で、十分なガス交換が行われたが、ローラーポンプによる臍動脈の排液により心筋への後負荷が増加したと考えられた。
【0065】
ポンプ補助式の胎児ECMOで回路の過負荷が続いたことは、これらの回路により許容不可能な後負荷が生じて、最終的な心不全につながっていることを示唆している。
さらに、人工胎盤は、完全な胎児胎盤ユニットで実現される、潅流が胎児の心拍出量によって決まる循環に近い循環を、胎児が維持できるようにするのが理想的である。
しかし、胎児潅流のためのポンプレスシステムを設計する従来の試みは、思わしくない結果に終わっていた。
たとえば、先天性横隔膜ヘルニアが外科的に作り出された一連の子ヒツジでのポンプレス回路の使用が報告されている(Awadら(1995)、J.Invest.Surg.、8:21−30)。
動物の潅流が最大6時間にわたって行われたが、回路流量は75ml/分を超えず、酸素化レベルは安定した長期培養を支えるには不十分だった。
2009年、中空糸酸素化装置と、ほぼ満期の4頭の子ヒツジでの臍帯カニューレ処置とを使用したポンプレス体外循環回路が報告された(Reomaら(2009)J.Pediatr.Surg.、44:53−59)。
動物は、このシステムで最大4時間にわたり補助されたが、この短い培養期間の過程で、回路流量および収縮期血圧が徐々に低下した。
胎児の十分な流量と潅流とを維持するには、ポンプ駆動式のシステムが必要である、というのが結論であった。
2012年、単一の臍動脈および臍静脈にカニューレ処置を施した妊娠期間130+/−1.6日の子ヒツジでのポンプレス体外回路が報告された(Mimaら(2012)Pediatr.Res.、72:490−494)。
5頭の研究対象動物が平均で18.2+/−3.2時間生存したが、進行性の乳酸アシドーシスを患い、結果的に心不全を起こして死亡した。
心筋収縮力を増加させる昇圧薬と、末梢血管拡張を誘発する変力物質とが投与されたが、このシステムで長期的な生存を実現することはできなかった。
さらに、プライミング容積が12mL、ガス交換表面積が0.12mの小型低容積酸素化装置の開発が報告された(Schobererら(2014)Artificial Organs 38:208−14)。
動物は、臍血管を通じたカニューレ処置を受けたが、体外酸素化に加えて、機械的な人工呼吸で補助された。
このシステムでは、7頭の研究対象動物のうちの6頭が、規定の終了点である6時間にわたりポンプレス体外補助で維持されたが、すべての動物が代謝性アシドーシス、血中乳酸の上昇、および血圧の連続的な低下を患い、3頭の動物が実験の終了点にたどり着くためにカテコールアミンを最終的に必要とした。
本発明のシステムでは、最大3週間の補助期間で、どの動物も安定した血行動態および潅流を維持するための昇圧薬の補助を必要としなかった。
【0066】
本研究では、胎児流体培養システムの長期的な無菌性が実現された。
液浸システムを利用した従来の報告では、細菌汚染の速度と、無菌性を向上させる方法とについて、あまり詳しく説明されていない。
代表的なものとして、インラインの濾過処理が毎日実施され、1日おきに完全に交換される合成羊水および抗生物質で満たされた培養室が説明されている(Kuwabaraら(1989)Artificial Organs 13:527−531)。
この研究では、胎児培養の最長期間は236時間であった。
本研究では、最終的な培養室設計を用いた場合、感染症は、第12日目、すなわち288時間が経過するまで、ほぼ発生しなかった。
培養期間が長くなれば、無菌性を維持するのも難しくなる可能性がある。
一連の実験動物を通じて、培養室の設計にいくつかの変更が加えられた。
これには、無菌性を損なうことなく動物の操作および姿勢変更が容易に行えるようにするための据付型グローブの追加や、廃棄物や破片を除去するための内部に固定および封止された吸引装置の配置が含まれる。
加えて、水族館方式のUV濾過システムを流体リザーバ内に配置して、抗菌保護を強化した。
これらの変更により、極度の早産児の成長および発育にとって重要な期間に相当する、最大3週間の胎児培養にわたって無菌性が維持された。
【0067】
胎児潅流のためのポンプレスシステムの利点の1つは、先天的な自己調節経路による脳血流の制御が維持されることである。
発育している脳に十分な酸素が供給されるようにすることは、人工胎盤の設計における重要な検討事項であり、脳自己調節能は脳潅流の重要な構成要素の1つであると考えられている。
脳自己調節能は、集中治療を必要とする新生児の集団で詳しく説明されてきたが、十分に理解されていない。
脳動脈の血流量、血管反応性、および自己調節しきい値の測定範囲に関しては、著しい個人差があり、これらの患者の基準値は未だに定義されていない(Vutskis,L.(2014)Pediatr.Anesth.、24:22−29)。
また、脳自己調節能は、人間の胎児でも確認されており、中大脳動脈の収縮期最大流量が子宮内胎児発育遅延のある胎児では増加することが説明されている(Hanifら(2007)、Am.J.Perinatol、24:501−505)。
従来のポンプ補助式ECMOが新生児の脳潅流に与える影響は、静動脈ECMOの子ヒツジモデル(Shortら(1993)Pediatr.Res.、33:289−294、Stolarら(1998)J.Pediatr.Surg.、23:1163−1168)、静静脈ECMOで補助された新生子ヒツジの研究(Walkerら(1996)Crit.Care Med.、24:2001−2006)、静動脈ECMOで補助された胎児(Papademetriouら(2013)Adv.Exp.Med.Biol.、765:203−209)等の多数のシステムで、胎児低酸素症による自己調節能の損失として報告されており、ポンプ補助式ECMOの流動の環境で脳潅流が著しく変化することが示唆されている。
特に、多くの研究では、ECMOの長期的な神経発生的影響として、これらの患者で機能的帰結が低下することが示されている(Kumarら(1994)Pediatrics 93:951−955、Iisselstiinら(2014)Semin.Perinatol.、38:114−121)。
本研究では、EEG調査で、子宮内の慢性的にカテーテル処置された子ヒツジのものと同じ波形が確認された。
脳自己調節能の維持により、人工胎盤での脳の潅流と発育が最適化され、従来型の管理で深刻な神経発生的後遺症を患う恐れがあるこの集団で、結果を改善できる可能性がある。
【0068】
完全子宮外胎児生命維持(Total Extrauterine Fetal Life Support;TEFLS)システムの可能性は、臨床的な技術革新を超越し、胎児発育における胎盤の役割に関する根本的な疑問を解決するための基盤を提供する。
史上初めて、母体胎盤軸から切り離された胎児の長期的な安定維持が実現され、この臓器の胎児成熟に対する相対的貢献を研究することが可能となった。
このシステムは、また、胎児から出生後生活への移行を橋渡しするためにも使用でき、これを先天性の肺疾患を抱えるモデルに適用して、治療介入の可能性を広げることもできる。
よって、TEFLSシステムは、胎児生理学の研究でこれまで利用できなかった機能を提供し、さまざまな移行的臨床用途のための新しい強力なリソースをもたらす。
【0069】
本発明の好ましい実施形態をいくつか説明し、具体的に例示してきたが、本発明がそれらの実施形態に限定されることを意図しているわけではない。
添付の特許請求の範囲に記載されているように、本発明の範囲および精神を逸脱しない範囲で、さまざまな変更を加えることができる。


図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
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