特許第6480760号(P6480760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480760
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】保冷剤及び保冷剤パック
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   C09K5/06 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-42552(P2015-42552)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-160397(P2016-160397A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176876
【弁理士】
【氏名又は名称】各務 幸樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(72)【発明者】
【氏名】松末 一紘
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−011307(JP,B1)
【文献】 特開2014−088538(JP,A)
【文献】 特開2010−047622(JP,A)
【文献】 特公昭49−001244(JP,B1)
【文献】 特開2003−277637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
A61F 7/00− 7/12
C08B 1/00−37/18
F25D 1/00− 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、この水に分散される保水材とを含む保冷剤であって、
上記保水材の主成分が微細セルロース繊維であり、
上記微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径が20μm以上175μm以下であることを特徴とする保冷剤。
【請求項2】
上記微細セルロース繊維が第1の微細セルロース繊維及び第2の微細セルロース繊維を含み、
上記第1の微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径が140μm以上200μm以下であり、
上記第2の微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径が15μm以上140μm未満である請求項1に記載の保冷剤。
【請求項3】
上記微細セルロース繊維全体に対する上記第1の微細セルロース繊維の含有量が20質量%以上95質量%以下である請求項2に記載の保冷剤。
【請求項4】
上記第1の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において3つのピークを有する請求項2又は請求項3に記載の保冷剤。
【請求項5】
上記第2の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において3つのピークを有する請求項2、請求項3又は請求項4に記載の保冷剤。
【請求項6】
上記第2の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する請求項2、請求項3又は請求項4に記載の保冷剤。
【請求項7】
袋体と、この袋体に封入された請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の保冷剤とを備える保冷剤パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保冷剤及び保冷剤パックに関する。
【背景技術】
【0002】
保冷剤パックは、生鮮食品、医薬品等の温度上昇を防ぐため輸送時にこれらの品物と共に梱包されて使用される。生鮮食品、医薬品等と共に梱包されるため、保冷剤パックには保冷能力に加え、安全性に対する配慮が必要とされる。この保冷剤パックとしては、水に吸水性樹脂等の保水材を混合した保冷剤を容器に詰めたものが市販されている。上記保冷剤パックは、予め低温で固化させた水が一定温度で融解することを利用して保冷対象物の温度を水の融解温度付近に保つ。この時、保水材は、水分子を固定し水分子が持つ熱の拡散を抑止することにより、上記水が完全に融解してしまうまでの時間(保冷時間)を増大させる効果を有する。
【0003】
このような保水材としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)が公知である。このCMCをそのまま水に混合すると、CMCが十分に溶解せず沈降し易いため保冷剤を固化させた際にCMCが偏在し、十分な保冷時間が得られない。このためCMCの分散性を向上させる必要がある。このCMCの分散性を向上させる方法として、CMCを造粒により顆粒状にしたり、架橋剤や界面活性剤等により表面処理を施したりする方法が提案されている(特開2009−298955号公報参照)。
【0004】
しかしながら、上述のような加工をされたCMCでは、その形状や表面の性状によりCMCが本来持つ保冷能力を十分に発揮できないおそれがあり、このようなCMCを用いた従来の保冷剤の保冷時間は十分長いものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−298955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、安全性に優れ、保水材の水に対する分散性が高く、かつ保冷時間の長い保冷剤及びこの保冷剤を用いた保冷剤パックの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この保冷時間の長い保冷剤について本発明者が鋭意検討したところ、叩解により微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径を小さくしていくと、微細セルロース繊維の水に対する分散性が高まり保冷剤の保冷時間が増大することを見出した。一方、微細セルロース繊維の体積平均粒子径をさらに小さくしていくと、微細セルロース繊維が有する水分子の熱の拡散を抑止する効果が低下することを見出した。つまり、適度な叩解により微細セルロース繊維の体積平均粒子径を一定の範囲内とした微細セルロース繊維を保水材として用いることで、保水材の水に対する分散性を高め、かつ劇的に保冷剤の保冷時間を増大できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するためになされた本発明に係る保冷剤は、水と、この水に分散される保水材とを含む保冷剤であって、上記保水材の主成分が微細セルロース繊維であり、上記微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径が20μm以上175μm以下であることを特徴とする。
【0009】
当該保冷剤は、その体積平均粒子径が上記範囲内の微細セルロース繊維を含むので、保水材の水に対する分散性が高く、かつ保冷時間が長い。また、微細セルロース繊維は、天然の植物を原料としており、生鮮食品や医薬品等に対する安全性にも優れる。
【0010】
また、本発明者は、適度な叩解により体積平均粒子径が大きく、繊維長を長く保った微細セルロース繊維と、さらなる叩解により体積平均粒子径が小さく、繊維長を短くされた微細セルロース繊維とを混合した保水材を用いることで、保水材の水に対する分散性をさらに高め、かつ保冷剤の保冷時間をさらに向上できることを見出した。体積平均粒子径の異なる2種類の微細セルロース繊維を混合した保水材を用いることで保水材の水に対する分散性が高まり、かつ保冷剤の保冷時間が増大する理由は明らかではないが、本発明者は次のように推測している。まず、比較的繊維長が長い第1の微細セルロース繊維は、親水性の三次元ネットワークを構成することにより水分子を固定し易く、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が高いと考えられる。そして、第2の微細セルロース繊維は、繊維長が第1の微細セルロース繊維よりも短いため、水に対する分散性が第1の微細セルロース繊維よりも高い。従って、第2の微細セルロース繊維は、第1の微細セルロース繊維と共に三次元ネットワークを構成することで第1の微細セルロース繊維が沈降することを防止でき、保水材全体の分散性を高めることができる。以上から、第1の微細セルロース繊維と第2の微細セルロース繊維との相乗効果により保水材の水に対する分散性が高まり、かつ保冷剤の保冷時間が増大すると考えられる。
【0011】
すなわち、上記微細セルロース繊維が第1の微細セルロース繊維及び第2の微細セルロース繊維を含むとよく、上記第1の微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径としては、140μm以上200μm以下が好ましく、上記第2の微細セルロース繊維の水分散状態でレーザー回折法により測定される体積平均粒子径としては、15μm以上140μm未満が好ましい。このように上記体積平均粒子径が上記範囲内であり、繊維長が比較的長い第1の微細セルロース繊維を保水材として含むことで、水分子が持つ熱の拡散を抑止する保水材の効果が得られる。また、上記体積平均粒子径が上記範囲内であり、繊維長が第1の微細セルロース繊維よりも短い第2の微細セルロース繊維を保水材として含むことで、保水材の水に対する分散性が得られる。このため、第1の微細セルロース繊維と第2の微細セルロース繊維とを保水材として含むことで、上述の相乗効果により、保水材の水に対する分散性及び保冷剤の保冷時間を向上することができる。
【0012】
上記微細セルロース繊維全体に対する上記第1の微細セルロース繊維の含有量としては、20質量%以上95質量%以下が好ましい。このように上記微細セルロース繊維全体に対する上記第1の微細セルロース繊維の含有量を上記範囲内とすることで、保水材全体の分散性を維持しつつ、より確実に水分子を固定できる。このため、保冷時間の増大効果がさらに高まる。
【0013】
上記第1の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において3つのピークを有するとよい。このように第1の微細セルロース繊維を上記擬似粒度分布曲線において3つのピークを有する微細セルロース繊維とすることで、繊維の微細化が進行していないパルプ繊維のセルロースの含有割合が高まる。このため、第1の微細セルロース繊維は、より強い親水性の三次元ネットワークを構成でき、水分子をさらに固定し易い。従って、保冷時間をさらに増大することができる。
【0014】
上記第2の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において3つのピークを有するとよい。このように第2の微細セルロース繊維を上記擬似粒度分布曲線において3つのピークを有する微細セルロース繊維とすることで、繊維の微細化が進行していないパルプ繊維のセルロースの含有割合が高まる。このため、第2の微細セルロース繊維が第1の微細セルロース繊維と共に親水性の三次元ネットワークを構成し易く、水分子をさらに固定し易い。従って、保水材の水に対する分散性を維持しつつ保冷剤の保冷時間をさらに増大することができる。
【0015】
上記第2の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において1つのピークを有してもよい。このように第2の微細セルロース繊維を上記擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する微細セルロース繊維とすることで、微細化が進行し繊維長が第1の微細セルロース繊維よりも短いセルロースの含有割合が高まる。このため、第2の微細セルロース繊維により、第1の微細セルロース繊維が沈降することをより確実に防止でき、保水材全体の分散性がさらに高まる。従って、保水材がより多くの水分子を固定できるので、保冷時間の増大効果がさらに高まる。
【0016】
本発明は、袋体と、この袋体に封入された当該保冷剤とを備える保冷剤パックを含む。当該保冷剤パックは、当該保冷剤を有するので、保冷時間が長い。従って、生鮮食品、医薬品等の温度上昇を防ぐために好適に用いることができる。
【0017】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。また、「保水度」とは、JAPAN−TAPPI−No.26:2000に準拠して測定される値である。「擬似粒度分布曲線」とは、ISO−13320(2009)に準拠して、粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社の「Microtrac MT−3000II」)を用いて測定される体積基準粒度分布を示す曲線を意味し、「体積平均粒子径」とは、体積で重みづけされた平均粒径であり、粒度分布測定装置により測定される個々の粒子径di及び粒子体積Viを用いて、下記式(1)によって算出される平均値MVを意味する。
体積平均粒子径MV=Σ(di×Vi)/ΣVi ・・・(1)
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の保冷剤は、安全性に優れ、保水材の水に対する分散性が高く、かつ保冷時間が長い。従って、当該保冷剤は、生鮮食品、医薬品等の温度上昇を防ぐ保冷剤パックとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第一実施形態〕
以下、本発明の第一実施形態の保冷剤及び保冷剤パックについて説明する。
【0020】
[保冷剤]
当該保冷剤は、水と、この水に分散される保水材とを主に含む。
【0021】
<水>
水は融解潜熱が比較的大きく、冷却効果に優れる。保冷剤における水の含有率の下限としては、90質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。一方、保冷剤における水の含有率の上限としては、99.995質量%が好ましく、99.95質量%がより好ましい。保冷剤における水の含有率が上記下限未満である場合、保冷剤の冷却効果が不十分となるおそれがある。逆に、保冷剤における水の含有率が上記上限を超える場合、保水材による水分子の固定が不十分となり、保冷剤の保冷時間が短くなるおそれがある。
【0022】
<保水材>
上記保水材の主成分は微細セルロース繊維である。微細セルロース繊維は、木材由来のパルプの適度な解繊により得られる繊維又は木材由来のパルプのうち解繊を必要としない微細なものである。
【0023】
微細セルロース繊維の原料であるパルプとしては、特に限定されないが、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等を挙げることができる。これらの中でも解繊処理により保水度が上昇する傾向が比較的強いLBKP及びNBKPが好ましく、LBKPがさらに好ましい。LBKPがさらに好ましいことは以下の理由による。一般に保水度の低いパルプは、保水度の高いパルプに比べ、セルロース繊維同士の間に多くの水素結合が形成されている。例えば乾燥履歴がない湿潤状態のパルプは、パルプの表面の水酸基が周囲の水分子と水素結合することで高い保水度を有する。これに対し、乾燥履歴があるパルプは、乾燥時の水の蒸発によりパルプのセルロース繊維同士が接近してセルロース繊維間で多くの水素結合が形成され、結果として水分子との水素結合が少なくなるため、保水度が低くなる。従って、微細セルロース繊維の製造においては、セルロース繊維同士の水素結合が少ない、すなわち保水度が高いLBKPが適している。
【0024】
さらに本発明者は、微細セルロース繊維を製造する方法として、保水度が90%以下であるLBKPを用い、機械的叩解処理を行う方法が好ましいことを見出した。このように保水度が上記上限以下であるLBKPを用い、機械的叩解処理を行うことで、水に対する分散性が比較的高く保冷剤とした際の保冷時間の比較的長い保水材を得易い。その理由は明らかではないが、本発明者は次のように推測している。すなわち、パルプを構成するセルロース繊維を解繊する手段として機械的叩解処理を用いることで、化学的処理や酵素処理により解繊する手段と異なり、セルロースの重合を化学的に分断することなく、処理を行うことができる。このため繊維長の長い微細セルロース繊維を得やすくなり、水に対する分散性や保冷剤とした際の保冷時間が向上し易いと考えられる。このような機械的叩解処理としては、例えばグラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、水中対向衝突等の公知の方法を挙げることができる。
【0025】
また、本発明者は、叩解により微細セルロース繊維の体積平均粒子径を小さくしていくと、微細セルロース繊維の水に対する分散性が高まり保冷剤の保冷時間が増大することを見出した。一方、微細セルロース繊維の体積平均粒子径をさらに小さくしていくと、微細セルロース繊維が有する水分子の熱の拡散を抑止する効果が低下することを見出した。つまり、適度な叩解により微細セルロース繊維の体積平均粒子径を一定の範囲内とした微細セルロース繊維を保水材として用いることで、保水材の水に対する分散性を高め、かつ劇的に保冷剤の保冷時間を増大できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、微細セルロース繊維の体積平均粒子径の下限としては、20μmであり、30μmがより好ましく、70μmがさらに好ましく、100μmが特に好ましい。一方、微細セルロース繊維の体積平均粒子径の上限としては、175μmであり、160μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記下限未満である場合、微細セルロース繊維の繊維長が短くなるため、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が低下し、当該保冷剤の保冷時間が低下するおそれがある。逆に、微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記上限を超える場合、保水材の水に対する分散性が不足するため、当該保冷剤の保冷時間が低下するおそれがある。
【0026】
上記微細セルロース繊維の保水度の下限としては、220%が好ましく、230%がより好ましく、280%がさらに好ましい。一方、上記微細セルロース繊維の保水度の上限としては、380%が好ましく、335%がより好ましく、320%がさらに好ましい。上記微細セルロース繊維の保水度が上記下限未満である場合、保冷時間の増大効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記微細セルロース繊維の保水度が上記上限を超える場合、微細セルロースの解繊処理が進み過ぎ、微細セルロース繊維が短繊維化しているおそれがある。このため、親水性の三次元ネットワークが十分に構成できず、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が不十分となるおそれがある。
【0027】
保冷剤における保水材の含有率の下限としては、0.005質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましい。一方、上記保水材の含有率の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記保水材の含有率が上記下限未満である場合、保水材による水分子の固定が不十分となり、保冷剤の保冷時間が短くなるおそれがある。逆に、上記保水材の含有率が上記上限を超える場合、保冷剤における水の含有率が減少するため、保冷剤の冷却効果が不十分となるおそれがある。
【0028】
上記保水材の含有量が1質量%の水分散液のB型粘度の下限としては、10cpsが好ましい。一方、上記B型粘度の上限としては、5000cpsが好ましく、4000cpsがより好ましく、3500cpsがさらに好ましい。上記B型粘度が上記下限未満である場合、微細セルロース繊維が三次元ネットワークを構成し難くなり、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記B型粘度が上記上限を超える場合、その粘性により袋体や保冷容器への充填が困難となるおそれがある。ここで「B型粘度」とは、JIS−Z8803(2011)に準拠して測定される値である。
【0029】
また、微細セルロース繊維のパルプ粘度の下限としては、1.5cpsが好ましく、3.6cpsがより好ましい。一方、上記パルプ粘度の上限としては、8.5cpsが好ましく、6.5cpsがより好ましい。上記パルプ粘度が上記下限未満である場合、微細セルロース繊維同士が絡み合い難くなるおそれがある。逆に、上記パルプ粘度が上記上限を超える場合、微細セルロース繊維の凝集を十分に制御できないおそれがある。いずれの場合においても、微細セルロース繊維が三次元ネットワークを構成し難くなり、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が不十分となるおそれがある。なお、「パルプ粘度」とは、JIS−P8215(1998)に準拠して測定される値である。
【0030】
<その他の成分>
保冷剤は、保冷剤を封入する袋体や保冷容器が破損した場合でも共に梱包されている品物を汚損しないようにゲル状であることが好ましい。保冷剤をゲル状とするためには、例えば架橋剤を添加するとよい。このような架橋剤としては、例えば多価金属塩を用いることができる。この多価金属塩としては2価又は3価のものが好適に用いられ、カリミョウバン、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸亜鉛、塩化バリウム、硝酸クロム、酢酸鉛、塩化第二銅、塩化スズ、硝酸銀等を挙げることができる。これらの中でも、使用時の触感が良好であるカリミョウバンが好ましい。カリミョウバンの添加量の上限としては、水100質量部に対して0.6質量部が好ましい。カリミョウバンの添加量が上記上限を超える場合、保水材が水を取り込み難くなり、当該保冷剤の保冷時間の増大効果が不十分となるおそれがある。
【0031】
また、当該保冷剤に凝固点降下剤が添加されてもよい。凝固点降下剤の添加により当該保冷剤の保冷温度を低下させることができる。凝固点降下剤としては、安全面から食品又は食品添加物が好ましい。このような食品又は食品添加剤としては、エタノール、塩化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、結晶亜硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、グリセリン、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、無水炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、結晶炭酸ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、結晶硫酸マグネシウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、結晶リン酸一ナトリウム、無水リン酸一ナトリウム、結晶リン酸二ナトリウム、無水リン酸二ナトリウム、結晶リン酸三ナトリウム、無水リン酸三ナトリウム等を挙げることができる。これらの中でもエタノール及びグリセリンが好ましく、保冷剤の柔軟性の点からグリセリンがより好ましい。
【0032】
当該保冷剤には、上述した成分以外にも一般に保冷剤に用いられる成分を添加することができる。このような成分としては、例えばグアーガム、ポリビニルアルコール、澱粉等の水溶性高分子、凍結温度調整のためのエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等の塩類、防腐剤、着色剤などを挙げることができる。
【0033】
<保冷剤の製造方法>
当該保冷剤は、例えばパルプ繊維の解繊により微細セルロース繊維を得る工程と、上記微細セルロース繊維及び水を混合調製する工程とを備える製造方法により製造できる。
【0034】
(微細セルロース繊維取得工程)
微細セルロース繊維取得工程では、パルプ繊維を原料とし、微細セルロースを製造する公知の方法、例えばナイヤガラビーターによるパルプ繊維原料の叩解処理により上記パルプ繊維を解繊する。上記パルプ繊維原料におけるパルプ繊維の含有量は、特に限定されないが、例えば1質量%以上3質量%以下とできる。また叩解処理時間としては、例えば20分以上160分以下とできる。さらに、叩解処理した微細セルロース繊維を例えばグラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、水中対向衝突を用いる方法等により微細化処理を行ってもよい。この微細化処理は必要に応じて複数回実施してもよい。微細化処理を行う場合の繰り返し回数としては、1回以上10回未満が好ましい。このようにして所望の体積平均粒子径を有する微細セルロース繊維を得る。
【0035】
(混合調製工程)
混合調製工程では、上記微細セルロース繊維取得工程で得られた微細セルロース繊維及び水を混合調製することで保冷剤を得る。混合調製する手順としては、所望の混合比となる限り特に限定されないが、例えば微細セルロース繊維を水に分散し、所望の濃度となるように混合調製する。
【0036】
<保冷剤パック>
当該保冷剤パックは、袋体と、この袋体に封入された当該保冷剤とを備える。
【0037】
上記袋体の材質としては、可撓性を有するフィルム又はシートが好ましい。このように袋体の材質を可撓性を有するフィルム又はシートとすることで、当該保冷剤パックは柔軟性と食品等の品物に対する密着性とを有することができる。このような袋体の材質としては、一般に保冷剤パックに使用されている高分子材料を用いることができる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ナイロン等が挙げられる。また、上記袋体を構成するフィルム又はシートは、単層構造であってもよく、2層以上が積層された多層構造であってもよい。
【0038】
上記袋体の平均厚さ(多層構造の場合は、層全体の平均厚さ)の下限としては、200μmが好ましく、300μmがより好ましい。一方、上記袋体の平均厚さの上限としては、800μmが好ましく、600μmがより好ましい。上記袋体の平均厚さが上記下限未満である場合、袋体の強度が不足し、保冷剤パックが破損し易くなるおそれがある。逆に、上記袋体の平均厚さが上記上限を超える場合、保冷剤パックに必要な柔軟性を確保できないおそれがある。
【0039】
また、当該保冷剤パックは、その外面の全部又は一部を覆う被覆層を有していてもよい。このように当該保冷剤パックの外面を被覆層で覆うことで、当該保冷剤パックの破損等を防ぐことができる。上記被覆層の材質としては、人工繊維、天然繊維、織布、合成樹脂、緩衝材等が挙げられる。
【0040】
<利点>
当該保冷剤は、その体積平均粒子径が上記範囲内の微細セルロース繊維を含むので、保水材の水に対する分散性が高く、かつ保冷時間が長い。また、微細セルロース繊維は、天然の植物を原料としており、生鮮食品や医薬品等に対する安全性にも優れる。
【0041】
従って、当該保冷剤を備える保冷剤パックは、生鮮食品、医薬品等の温度上昇を防ぐために好適に用いることができる。
【0042】
〔第二実施形態〕
以下、本発明の第二実施形態の保冷剤について説明する。
【0043】
当該保冷剤は、水と、この水に分散される保水材とを主に含む。上記保水材の主成分は微細セルロース繊維である。また、第二実施形態における微細セルロース繊維は、第1の微細セルロース繊維と、この第1の微細セルロース繊維よりも体積平均粒子径が小さく、繊維長を短くされた第2の微細セルロース繊維とを含む。このうち、水は第一実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0044】
[保水材]
保水材の主成分である微細セルロース繊維の原料であるパルプとしては、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
(第1の微細セルロース繊維)
第1の微細セルロース繊維は、第2の微細セルロース繊維より体積平均粒子径が大きい。上記第1の微細セルロース繊維の体積平均粒子径の下限としては、140μmが好ましく、160μmがより好ましい。一方、上記第1の微細セルロース繊維の体積平均粒子径の上限としては、200μmが好ましく、190μmがより好ましい。上記第1の微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記下限未満である場合、微細セルロースの解繊処理が進み過ぎ、第1の微細セルロース繊維が短繊維化しているおそれがある。このため、親水性の三次元ネットワークが十分に構成できず、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記第1の微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記上限を超える場合、保冷時間の増大効果が不十分となるおそれがある。
【0046】
上記第1の微細セルロース繊維の保水度の下限としては、80%が好ましく、90%がより好ましく、100%がさらに好ましい。一方、上記第1の微細セルロース繊維の保水度の上限としては、280%が好ましく、200%がより好ましく、150%がさらに好ましい。上記第1の微細セルロース繊維の保水度が上記下限未満である場合、保冷時間の増大効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記第1の微細セルロース繊維の保水度が上記上限を超える場合、微細セルロースの解繊処理が進み過ぎ、第1の微細セルロース繊維が短繊維化しているおそれがある。このため、親水性の三次元ネットワークが十分に構成できず、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が不十分となるおそれがある。
【0047】
上記微細セルロース繊維全体に対する上記第1の微細セルロース繊維の含有量の下限としては、20質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。一方、上記第1の微細セルロース繊維の含有量の上限としては、95質量%が好ましく、65質量%がより好ましく、45質量%がさらに好ましい。上記第1の微細セルロース繊維の含有量が上記下限未満である場合、親水性の三次元ネットワークが十分に構成できず、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記第1の微細セルロース繊維の含有量が上記上限を超える場合、後述する第2の微細セルロース繊維の含有量が不足するおそれがあるため、保水材全体の分散性を維持できないおそれがある。
【0048】
上記第1の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において3つのピークを有するとよい。第1の微細セルロース繊維を上記擬似粒度分布曲線において3つのピークを有する微細セルロース繊維とすることで、第1の微細セルロース繊維において繊維の微細化が進行していないパルプ繊維のセルロースの含有割合が高まる。このような第1の微細セルロース繊維を用いることにより、上記保水材はより強い親水性の三次元ネットワークを構成でき、水分子をさらに固定し易い。従って、当該保冷剤の保冷時間をさらに増大することができる。
【0049】
(第2の微細セルロース繊維)
第2の微細セルロース繊維は、第1の微細セルロース繊維より体積平均粒子径が小さい。上記第2の微細セルロース繊維の体積平均粒子径の下限としては、15μmが好ましく、17μmがより好ましい。一方、上記第2の微細セルロース繊維の体積平均粒子径としては、140μm未満が好ましく、100μm未満がより好ましい。上記第2の微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記下限未満である場合、解繊処理の時間が長くなり製造コストが増加するおそれがある。逆に上記第2の微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記上限以上である場合、第2の微細セルロース繊維の水に対する分散性が不足し、第1の微細セルロース繊維の沈降を十分に防止できないおそれがあるため、当該保冷剤の保冷時間の増大効果が不十分となるおそれがある。
【0050】
上記第2の微細セルロース繊維の保水度の下限としては、300%が好ましく、3400%がより好ましく、380%がさらに好ましい。上記第2の微細セルロース繊維の保水度が上記下限未満である場合、第2の微細セルロース繊維の水に対する分散性が不足し、第1の微細セルロース繊維の沈降を十分に防止できないおそれがあるため、当該保冷剤の保冷時間の増大効果が不十分となるおそれがある。一方、上記第2の微細セルロース繊維の保水度の上限は、特に限定されないが、例えば500%とできる。
【0051】
上記第2の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において3つのピークを有するとよい。第2の微細セルロース繊維を上記擬似粒度分布曲線において3つのピークを有する微細セルロース繊維とすることで、第2の微細セルロース繊維において繊維の微細化が進行していないパルプ繊維のセルロースの含有割合が高まる。このような第2の微細セルロース繊維を用いることにより、第2の微細セルロース繊維が第1の微細セルロース繊維と共に親水性の三次元ネットワークを構成し易く、水分子をさらに固定し易い。従って、当該保冷剤は保水材の水に対する分散性を維持しつつ保冷時間をさらに増大することができる。
【0052】
また、上記第2の微細セルロース繊維が水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において1つのピークを有してもよい。第2の微細セルロース繊維を上記擬似粒度分布曲線において1つのピークを有する微細セルロース繊維とすることで、第2の微細セルロース繊維において微細化が進行し繊維長が第1の微細セルロース繊維よりも短いセルロースの含有割合が高まる。このような第2の微細セルロース繊維を用いることにより、第2の微細セルロース繊維は、第1の微細セルロース繊維が沈降することをより確実に防止でき、保水材全体の分散性がさらに高まる。従って、保水材がより多くの水分子を固定できるので、保冷時間の増大効果がさらに高まる。
【0053】
微細セルロース繊維全体(第1の微細セルロース繊維及び第2の微細セルロース繊維)の体積平均粒子径、微細セルロース繊維全体の保水度、保冷剤における保水材の含有率、保水材の含有量が1質量%の水分散液のB型粘度、及び微細セルロース繊維のパルプ粘度は、第一実施形態と同様とできるので、詳細説明を省略する。
【0054】
また、当該保冷剤にその他の成分として第一実施形態と同様の成分を添加してもよい。
【0055】
<保冷剤の製造方法>
当該保冷剤は、例えばパルプ繊維の解繊により第1の微細セルロース繊維を得る工程と、パルプ繊維の解繊により第2の微細セルロース繊維を得る工程と、上記第1の微細セルロース繊維、上記第2の微細セルロース繊維及び水を混合調製する工程とを備える製造方法により製造できる。
【0056】
(第1の微細セルロース繊維取得工程)
第1の微細セルロース繊維取得工程は、第一実施形態における微細セルロース繊維取得工程と同様であるので説明を省略する。なお、第1の微細セルロース繊維として、木材由来のパルプのうち解繊を必要としない微細なものを用いることもできる。
【0057】
(第2の微細セルロース繊維取得工程)
第2の微細セルロース繊維取得工程では、第1の微細セルロース繊維よりも解繊が進み、体積平均粒子径を小さくした微細セルロース繊維を得る。第2の微細セルロース繊維を得る方法としては、特に限定されないが、例えば第1の微細セルロース繊維と同様のパルプ原料を用い、さらに長い叩解処理時間、例えば30分以上200分未満とすることで得る方法、第1の微細セルロース繊維の一部をさらに微細化処理することで得る方法等を挙げることができる。
【0058】
(混合調製工程)
混合調製工程では、上記第1の微細セルロース繊維取得工程で得られた第1の微細セルロース繊維、上記第2の微細セルロース繊維取得工程で得られた第2の微細セルロース繊維、及び水を混合調製することで保冷剤を得る。混合調製する手順としては、所望の混合比となる限り特に限定されないが、例えば以下の手順を挙げることができる。まず、第1の微細セルロース繊維と第2の微細セルロース繊維とを所望の比率となるように混合し、保水材を得る。次に、この保水材を水に分散し、所望の濃度となるように混合調製する。
【0059】
<利点>
当該保冷剤は、上記体積平均粒子径が上記範囲内であり、繊維長が比較的長い第1の微細セルロース繊維を保水材として含むことで、水分子が持つ熱の拡散を抑止する保水材の効果が得られる。また、当該保冷剤は、上記体積平均粒子径が上記範囲内であり、繊維長が第1の微細セルロース繊維よりも短い第2の微細セルロース繊維を保水材として含むことで、保水材の水に対する分散性が得られる。このため、当該保冷剤は、第1の微細セルロース繊維と第2の微細セルロース繊維とを保水材として含むことで、その相乗効果により、保水材の水に対する分散性及び保冷剤の保冷時間を向上することができる。
【0060】
[その他の実施形態]
本発明の保冷剤は上記実施形態に限定されるものではない。
【0061】
上記実施形態では、水及び保水材を含む保冷剤の場合を説明したが、水、アルコール及び保水材を含む保冷剤としてもよい。このようなアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール等のモノアルコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールなどを挙げることができる。
【0062】
これらのアルコールは寒剤としても効果があり、保冷剤が所望の融解温度となるように選択することもできる。アルコールを寒剤として利用する場合、冷却され凝固した状態でも可撓性を有し、かつ−20℃以下の凝固点を有する多価アルコールが好ましい。さらに、多価アルコールの中でも、家庭用冷蔵庫の冷凍庫の冷却温度よりも十分に低い凝固点(−59℃)を有するプロピレングリコールがより好ましい。
【0063】
水100質量部に対する上記アルコールの含有量の上限としては、60質量部が好ましい。上記アルコールの含有量が上記上限を超える場合、保冷剤全体の融解潜熱が不足し、保冷時間の増大効果が不足するおそれがある。
【0064】
水、アルコール及び保水材を含む保冷剤全体に対する保水材の含有率としては、水及び保水材を含む保冷剤の場合と同様とできる。
【0065】
また、水、アルコール及び保水材を含む保冷剤全体に対する水の含有率の下限としては、60質量%が好ましく、65質量%がより好ましい。一方、上記水の含有率の上限としては、99.99質量%が好ましく、99.9質量%がより好ましい。上記水の含有率が上記下限未満である場合、保冷剤の冷却効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記水の含有率が上記上限を超える場合、保水材による水分子の固定が不十分となり、保冷剤の保冷時間が短くなるおそれがある。
【0066】
また、当該保冷剤パックは、生鮮食品、医薬品等の温度上昇を防ぐ用途に限定されるものではなく、保冷や冷却が必要とされる限り他の用途にも用いることができる。例えば身体の特定部位を保冷又は冷却するために用いてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、測定は下記の方法により行った。
【0068】
<保水度>
JAPAN−TAPPI−No.26:2000に準拠した保水度の測定法により、第1の微細セルロース繊維及び第2の微細セルロース繊維の保水度を測定した。
【0069】
<体積平均粒子径>
ISO−13320(2009)に準拠して、粒度分布測定装置(日機装株式会社の「Microtrac MT−3000II」)を用いて微細セルロース繊維の水分散液における体積基準粒度分布より、微細セルロース繊維の体積平均粒子径を取得した。また、2種類の微細セルロース繊維を混合した実施例9〜13については、第1の微細セルロース繊維の水分散液及び第2の微細セルロース繊維の水分散液における体積基準粒度分布より、それぞれの微細セルロース繊維の体積平均粒子径も取得した。
【0070】
<保冷効果の持続性>
保冷効果の持続性について以下の方法で測定した。まず、温度−20℃で16時間以上保管した保冷剤10gを用意した。次に、この保冷剤を温度23℃湿度50%の恒温恒湿環境に静置し、60分後の残固形分量を求めた。なお、残固形分量(質量%)は、恒温恒湿環境に静置する直前の質量から60分経過後の残固形分の質量を減算し、割合として算出した値である。この残固形分量が26質量%を超える場合、保冷効果の持続性に優れると判断できる。
【0071】
(実施例1)
微細セルロース繊維として、LBKPを2質量%含むパルプ原料をナイヤガラビーターで30分間叩解することで解繊処理したものを保水材として準備した。この保水材の含有量が1.0質量%となるよう水を加えて調製し、実施例1の保冷剤を得た。
【0072】
(実施例2〜5、比較例1)
実施例1の叩解時間を表1のように変化させた以外は、実施例1と同様にして実施例2〜5及び比較例1の保冷剤を得た。
【0073】
(実施例6〜8、比較例2)
微細セルロース繊維として、LBKPを2質量%含むパルプ原料をナイヤガラビーターで150分間叩解した。その後、石臼型粉砕機である増幸産業株式会社の「スーパーマスコロイダー10インチ」を用いて表1に示す微細化回数に従って磨砕することで解繊処理したものを保水材として準備した。この保水材の含有量が1.0質量%となるよう水を加えて調製し、実施例6〜8及び比較例2の保冷剤を得た。
【0074】
(実施例9〜13)
第1微細セルロース繊維として比較例1の微細セルロース繊維を準備し、第2微細セルロース繊維として比較例2の微細セルロース繊維を準備した。次に、第1の微細セルロース繊維と第2の微細セルロース繊維との含有量の比が表1に示す混合比となるように混合し、保水材を得た。さらにこの保水材の含有量が1.0質量%となるよう水を加えて調製し、実施例9〜13の保冷剤を得た。
【0075】
(比較例3)
比較例3として、市販の保冷剤に用いられるカルボキシメチルセルロース(CMC)を用意した。保水材の含有量は、1.0質量%である。
【0076】
【表1】
【0077】
なお、表1において「−」は、保冷剤が該当する微細セルロース繊維を有さないためデータが存在しないことを意味する。また、叩解時間の0分とは、叩解を行っていないことを意味する。
【0078】
表1の結果に示されるように、実施例1〜13の保冷剤は、比較例1〜3の保冷材に比べて60分経過後の残固形分が多い。実施例1〜13の保冷剤は、保水材の主成分が微細セルロース繊維であり、その体積平均粒子径が所定範囲内であるので、保冷効果の持続性に優れることが分かる。これに対し、比較例1の保冷剤は、微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記所定範囲の上限を超えており、微細セルロース繊維の繊維長が長いため、保水材の水に対する分散性が不足し、保冷効果の持続性が劣っていると推察される。また、比較例2の保冷剤は、微細セルロース繊維の体積平均粒子径が上記所定範囲の下限未満であり、微細セルロース繊維の繊維長が短いため、水分子が持つ熱の拡散を抑止する効果が低下し、保冷効果の持続性が劣っていると推察される。さらに、比較例3の保冷剤は、保水材に微細セルロース繊維を用いていないため、保冷効果の持続性が劣っていると考えられる。
【0079】
さらに詳しく見ると、比較例1及び比較例2の微細セルロース繊維を混合して保水材とした実施例9〜13の保冷剤は、比較例1及び比較例2の保冷剤よりも60分経過後の残固形分が多い。また、例えば微細セルロース繊維全体の体積平均粒子径がほぼ等しい実施例6と実施例10とを比較すると、2種類の微細セルロース繊維を混合した保水材を用いている実施例10の方が60分経過後の残固形分が多い。このことから、体積平均粒子径が140μm以上200μm以下の範囲にある第1微細セルロース繊維と、体積平均粒子径が15μm以上140μm未満の範囲にある第2微細セルロース繊維とを混合した保水材を用いることで、その相乗効果により保冷剤の保冷時間が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明の保冷剤は、保水材の水に対する分散性が高く、かつ保冷時間が長い。従って、当該保冷剤は、生鮮食品、医薬品等の温度上昇を防ぐ保冷剤パックとして好適に用いることができる。