(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480876
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】積層型ガスセンサ素子、ガスセンサ、及び、積層型ガスセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-15089(P2016-15089)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-133983(P2017-133983A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 愛
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正樹
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−266379(JP,A)
【文献】
特開平11−337517(JP,A)
【文献】
特開平11−337519(JP,A)
【文献】
特開2015−148503(JP,A)
【文献】
特開2008−157649(JP,A)
【文献】
特開2015−169459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
G01N 27/41
G01N 27/419
G01N 27/416
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とするアルミナ板状体を含む複数のセラミック板状体を積層した積層型ガスセンサ素子であって、
ジルコニアを主成分とする固体電解質部と前記固体電解質部の両面に設けられた2つの電極とで構成される固体電解質セルを含むガス検出部を備え、
前記2つの電極のうちの少なくとも一方の電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域における少なくとも一部において、前記一方の電極と前記固体電解質部との間に、多孔質の緩衝層、又は、前記アルミナ板状体よりもジルコニア成分が多い緩衝層が設けられていることを特徴とする積層型ガスセンサ素子。
【請求項2】
請求項1記載の積層型ガスセンサ素子であって、
前記緩衝層は多孔質であることを特徴とする積層型ガスセンサ素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層型ガスセンサ素子であって、
前記緩衝層は、ジルコニアを主成分とし、アルミナを副成分とするセラミック材で形成されていることを特徴とする積層型ガスセンサ素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層型ガスセンサ素子であって、
前記2つの電極のうちの前記緩衝層を介して前記固体電解質部に設けられた電極において、前記緩衝層とは反対側の表面が前記複数のセラミック板状体と離間していることを特徴とする積層型ガスセンサ素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層型ガスセンサ素子を備えることを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
アルミナを主成分とするアルミナ板状体を含む複数のセラミック板状体を積層した積層型ガスセンサ素子の製造方法であって、
アルミナを主成分とするアルミナ未焼成板状部材を含む複数のセラミック未焼成板状部材を準備する準備工程と、
前記複数のセラミック未焼成板状部材を積層して積層体を作製する積層工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、
を備え、
前記準備工程は、未焼成の固体電解質部を含むセラミック未焼成板状部材を準備する工程として、
(a)ジルコニアを主成分とする未焼成の固体電解質部を準備する工程と、
(b)前記固体電解質部の表面のうち、該固体電解質部の両面に形成される2つの電極のうちの少なくとも一方の電極の形成予定領域であって、該少なくとも一方の電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域の形成予定領域の少なくとも一部に、多孔質の緩衝層、又は、前記アルミナ板状体よりもジルコニア成分が多い緩衝層を形成するための緩衝材ペーストを印刷して未焼成の緩衝層を形成する工程と、
(c)前記未焼成の緩衝層に重なるように、前記固体電解質部の両面に前記2つの電極を形成するための導電ペーストを印刷する工程と、
を含むことを特徴とする積層型ガスセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層型ガスセンサ素子及びそれを用いたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排ガスの特定のガス成分の濃度測定を行うために、ガスセンサが利用されている。このようなガスセンサとしては、複数の長板状のセラミック層(例えば固体電解質体やアルミナ基板)を積層した積層型ガスセンサ素子を用いたものが知られている(特許文献1,2)。積層型ガスセンサ素子の先端側には、測定対象となるガス成分の濃度を検出するために、測定室を含むガス検出部が設けられている。ガス検出部は、固体電解質と、固体電解質の両面に設けられた電極とを有する固体電解質セルを含んでいる。
【0003】
積層型ガスセンサ素子は、通常、複数の長板状のセラミック層を準備し、積層した後に、全体を焼成することによって形成される。ガス検出部を含むセラミック層は、固体電解質の上に導電ペースト等の電極材料を塗布又は印刷することによって形成され、その後、他のセラミック層とともに積層されて焼成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−145214号公報
【特許文献2】特開2014−149287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に、電極材料と固体電解質は焼成時の収縮率が大きく異なるため、積層型ガスセンサ素子の焼成時に電極と固体電解質の間に大きな応力が発生する可能性がある。このとき、固体電解質がその応力に耐えられなくなると、固体電解質が引き裂かれて内部クラックが発生する。また、このような内部クラックに起因して、センサ素子の耐久性の低下や出力異常などの不具合が発生する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、アルミナを主成分とするアルミナ板状体を含む複数のセラミック板状体を積層した積層型ガスセンサ素子が提供される。この積層型ガスセンサ素子は、ジルコニアを主成分とする固体電解質部と前記固体電解質部の両面に設けられた2つの電極とで構成される固体電解質セルを含むガス検出部を備え、前記2つの電極のうちの少なくとも一方の電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域において、前記一方の電極と前記固体電解質部との間に、多孔質の緩衝層、又は、前記アルミナ板状体よりもジルコニア成分が多い緩衝層が設けられていることを特徴とする。
この積層型ガスセンサ素子によれば、少なくとも一方の電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域における少なくとも一部において、その電極と固体電解質部との間に緩衝層が設けられているので、電極と固体電解質部の間に発生する応力を緩和することができ、固体電解質部における内部クラックの発生を抑制できる。
【0008】
(2)上記積層型ガスセンサ素子において、前記緩衝層は多孔質であるものとしてもよい。
この構成によれば、多孔質の緩衝層を用いるので、電極と固体電解質部の間に発生する応力を更に緩和できる。
【0009】
(3)上記積層型ガスセンサ素子において、前記緩衝層は、ジルコニアを主成分とし、アルミナを副成分とするセラミック材で形成されているものとしてもよい。
この構成によれば、緩衝層が、ジルコニアを主成分とし、アルミナを副成分とするセラミック材で形成されているので、固体電解質部と同様な固体電解質として機能することができ、固体電解質セルの性能を高めることができる。
【0010】
(4)上記積層型ガスセンサ素子において、前記2つの電極のうちの前記緩衝層を介して前記固体電解質部に設けられた電極において、前記緩衝層とは反対側の表面が前記複数のセラミック板状体と離間しているものとしてもよい。
この構成によれば、特に電極と固体電解質部の間に大きな応力が発生しやすい構成において、電極と固体電解質部の間に発生する応力を効果的に緩和することができ、固体電解質部における内部クラックの発生を抑制できる。
【0011】
(5)本発明の他の形態は、上記の積層型ガスセンサ素子を備えることを特徴とするガスセンサである。
このガスセンサによれば、固体電解質セルの電極と固体電解質部の間に発生する応力を緩和することができ、固体電解質における内部クラックの発生を抑制できる。
【0012】
(6)本発明の更に他の形態によれば、アルミナを主成分とするアルミナ板状体を含む複数のセラミック板状体を積層した積層型ガスセンサ素子の製造方法が提供される。この製造方法は、アルミナを主成分とするアルミナ未焼成板状部材を含む複数のセラミック未焼成板状部材を準備する準備工程と、前記複数のセラミック未焼成板状部材を積層して積層体を作製する積層工程と、前記積層体を焼成する焼成工程と、を備える。前記準備工程は、未焼成の固体電解質部を含むセラミック未焼成板状部材を準備する工程として、(a)ジルコニアを主成分とする未焼成の固体電解質部を準備する工程と、(b)前記固体電解質部の表面のうち、該固体電解質部の両面に形成される2つの電極のうちの少なくとも一方の電極の形成予定領域であって、該少なくとも一方の電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域の形成予定領域の少なくとも一部に、多孔質の緩衝層、又は、前記アルミナ板状体よりもジルコニア成分が多い緩衝層を形成するための緩衝材ペーストを印刷して未焼成の緩衝層を形成する工程と、(c)前記未焼成の緩衝層に重なるように、前記固体電解質部の両面に前記2つの電極を形成するための導電ペーストを印刷する工程と、を含むことを特徴とする。
この製造方法によれば、少なくとも一方の電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域において、その電極と固体電解質部との間に緩衝材ペーストを印刷するので、電極と固体電解質部の間に発生する応力を緩和することができ、固体電解質部における内部クラックの発生を抑制できる。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、積層型ガスセンサ素子や、ガスセンサ、そのガスセンサを備えるガス検出装置、そのガス検出装置を搭載する車両、及び、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】積層型ガスセンサの内部構造を示す概略断面図。
【
図2】積層型ガスセンサ素子の外観を示す概略斜視図。
【
図3】第1実施形態の積層型ガスセンサ素子のガス検出部の説明図。
【
図4】第2実施形態の積層型ガスセンサ素子のガス検出部の説明図。
【
図5】第3実施形態の積層型ガスセンサ素子のガス検出部の説明図。
【
図6】積層型ガスセンサ素子の製造方法を示すフローチャート。
【
図7】未焼成固体電解質体の製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、第1実施形態におけるガスセンサの内部構造を示す概略断面図である。このガスセンサ200は、軸線CL方向に延びる積層型ガスセンサ素子210を備えている。ガスセンサ素子210は、主体金具217の貫通孔218内において、セラミックホルダ219や滑石220やセラミックスリーブ221を貫くように配置されている。ガスセンサ素子210の後端側の外表面には、複数の電極パッド222が設けられている。これらの電極パッド222は、外部回路(図示せず)に接続されたリード線223における先端側に設けた接続端子224と接触して電気的に接続されている。ガスセンサ素子210の先端部(図中の下端部)には、特定の被測定ガスの濃度測定のための固体電解質セルを有するガス検出部211が設けられている。
【0016】
図2は、積層型ガスセンサ素子210の外観を示す斜視図である。ガスセンサ素子210は、板状の検出素子部240と、板状のヒータ250とが積層された積層体である。ガスセンサ素子210の先端側にはガス検出部211が設けられており、後端側の第1主面231及び第2主面232には複数の電極パッド222が形成されている。
【0017】
図3(A)は、ガス検出部211の一部を示す概略断面図である。検出素子部240は、固体電解質を含む固体電解質体300と、他の複数のセラミック板状体241〜244とが積層された構成を有している。複数のセラミック板状体241〜244のうちの少なくとも一部は、アルミナを主成分とするアルミナ系セラミック材で形成されていることが好ましい。アルミナ系セラミック材としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)を97重量%含有するとともにジルコニア(ZrO
2)を3重量%含有する材料を利用することができる。板状のヒータ250は、ヒータとして機能する導電層251を有している。
【0018】
固体電解質体300は、アルミナを主成分とするアルミナ基板310と、アルミナ基板310に設けられた貫通孔に挿入された固体電解質部320とを有している。固体電解質部320の両面には電極331,332がそれぞれ形成されている。また、第1の電極331の外周縁には、第1の電極331と固体電解質部320との間に緩衝層341が設けられている。同様に、第2の電極332の外周縁にも、第2の電極332と固体電解質部320との間に緩衝層342が設けられている。また、これらの電極331,332の周囲には、電極331,332の表面を壁面の一部とする測定室空間RM1,RM2がそれぞれ設けられている。例えば、第1の測定室空間RM1には図示しない拡散律速層を介して被測定ガスが導入され、第2の測定室空間RM2には図示しない空気通路を介して基準ガスとしての大気が導入される。固体電解質部320と2つの電極331,332とで構成される固体電解質セルは、第1の測定室空間RM1における被測定ガスの濃度に応じた電圧を発生することが可能である。典型的なガス検出部211は、2つ以上の固体電解質セルを有しているが、ここでは簡略化して1つの固体電解質セルのみを図示している。
【0019】
図3(B)は、アルミナ基板310の固体電解質部320の上に、緩衝層341が設けられた状態を示す平面図であり、電極331を省略した図である。
図3(C)は、
図3(B)に、更に、電極331と配線パターン350を追加した状態を示している。これらの図から理解できるように、緩衝層341は、電極331の外周縁331p(
図3(C))に沿った枠状の外周縁領域(外周縁331pを含む略矩形の枠状領域)に設けられており、その一部が電極331と固体電解質部320との間に挟まれるように形成されている。なお、緩衝層341の範囲は
図3(B)よりも広げても良いが、固体電解質部320の表面の少なくとも一部の領域は、緩衝層341が無く、電極331と直接接触する表面領域として残される。換言すれば、緩衝層341は、内側に開口部を有する枠状の平面形状を有することが好ましい。このような緩衝層341の形状、及び、以下で説明する緩衝層341の組成や特徴は、他方の緩衝層342も同様である。
【0020】
アルミナ基板310は、アルミナを主成分とするアルミナ系セラミック材で形成されていることが好ましい。アルミナ系セラミック材としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)を97±2重量%含有するとともにジルコニア(ZrO
2)を3±2重量%含有する部材を利用することができる。
【0021】
固体電解質部320は、ジルコニアを主成分とする固体電解質材で形成されていることが好ましい。この固体電解質材としては、例えば、ジルコニア(ZrO
2)を80±5重量%含有するとともにアルミナ(Al
2O
3)を20±5重量%含有する部材を利用することができる。
【0022】
電極331,332は、例えば、導電ペースト(白金ペースト)を印刷(例えばスクリーン印刷)し、焼成することによって形成できる。
【0023】
緩衝層341は、積層型ガスセンサ素子210の焼成時に、固体電解質部320と電極331との間の熱収縮差によって固体電解質部320に大きな応力が発生し、固体電解質部320が引き裂かれて内部クラックが発生することを防止又は抑制する機能を有する。このような機能を達成するために、緩衝層341としては、多孔質材を用いることが好ましい。多孔質の緩衝層341を電極331と固体電解質部320との間に設けるようにすれば、焼成時における固体電解質部320と電極331との間の熱収縮差による応力を緩衝層341によって吸収又は緩和できる。この結果、固体電解質部320に過度の応力が発生することを防止することができ、固体電解質部320に内部クラックが発生することを抑制できる。また、このような内部クラックに起因して、積層型ガスセンサ素子210の耐久性の低下や出力異常などの不具合が発生する可能性を低減することが可能である。
【0024】
緩衝層341の材料としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)を80±5重量%含有するとともにジルコニア(ZrO
2)を20±5重量%含有する多孔質材を利用することができる。このような多孔質材は、例えば、アルミナとジルコニアの未焼成混合物を100重量部として、焼成により消失する可燃性粉末を30±5重量部混合した混合粉末を含む緩衝材ペーストを作製し、この緩衝材ペーストを未焼成の固体電解質部320の所望の領域に印刷し、焼成することによって形成できる。可燃性粉末としては、例えばカーボン粉末を使用可能である。こうすれば、可燃性粉末の部分が多数の空孔となった多孔質の緩衝層341を形成することができる。
【0025】
なお、緩衝層341としては、焼成時における固体電解質部320と電極331との間の熱収縮差による応力を緩和できるものであれば良く、多孔質でない層(緻密な層)を用いても良い。本明細書において、「多孔質」とは、断面の顕微鏡写真における空孔の面積割合が20%以上存在することを意味する。これに対して、断面の顕微鏡写真における空孔の面積割合が20%未満であることを「多孔質でない」又は「緻密」と言う。緻密な緩衝層341としては、例えば、アルミナ板状体(アルミナ基板310)よりもジルコニア成分が多い緩衝層を利用することが可能である。このような緩衝層は、アルミナ板状体(アルミナ基板310)よりも固体電解質部320に組成が近いので、焼成時における固体電解質部320と電極331との間の熱収縮差による応力を緩和することができる。なお、アルミナ板状体よりもジルコニア成分が多い緩衝層を多孔質としてもよい。更に他の形態として、緩衝層341を、電極331を形成する際に使用される導電ペーストよりも焼成時の熱収縮率が小さなペーストを用いて印刷して形成してもよい。この場合にも、結果として得られる緩衝層341は、多孔質でも良く、緻密でも良い。
【0026】
なお、緩衝層341は、多孔質か緻密かに係わらず、アルミナ(Al
2O
3)とジルコニア(ZrO
2)とを含む焼成体であることが好ましい。こうすれば、アルミナ基板310や固体電解質部320の主たる成分と同じ成分で緩衝層341が形成されるので、ガスセンサ素子210の使用時に熱サイクルを受けた場合に、緩衝層341とアルミナ基板310や固体電解質部320との間に発生する熱応力を緩和することができる。特に、緩衝層341の材質として、固体電解質としての特性を有する部材を利用すれば、固体電解質セルの特性を更に高めることが可能である。固体電解質としての特性を有する部材としては、例えば、ジルコニアを主成分とし、アルミナを副成分とするセラミック材を利用することが可能である。
【0027】
図4は、第2実施形態におけるガス検出部211aの一部を示す説明図である。
図3で説明した第1実施形態との違いは、固体電解質体300aの全体が固体電解質部320で構成されている点だけであり、他の構成は第1実施形態と同じである。第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、緩衝層341が、電極331の外周縁に沿った枠状の外周縁領域に設けられており、その一部が電極331と固体電解質部320との間に挟まれるように形成されている。他の緩衝層342も同様である。従って、固体電解質部320と電極331との間の熱収縮差によって固体電解質部320に大きな応力が発生し、固体電解質部320が引き裂かれて内部クラックが発生することを防止又は抑制することができる。
【0028】
図5は、第3実施形態におけるガス検出部211bの一部を示す説明図である。
図3で説明した第1実施形態との違いは、固体電解質部320の下面側に測定室空間が設けられていない点、及び、第2の電極332と固体電解質部320との間の緩衝層が省略されている点だけであり、他の構成は第1実施形態と同じである。この第3実施形態では、固体電解質部320の下面側に測定室空間が無いので、焼成時において固体電解質部320と電極332との間にはあまり大きな応力が発生しない。従って、固体電解質部320と電極332との間の緩衝層を省略することが可能である。なお、2つの電極331,332のうち、緩衝層341を介して固体電解質部320に設けられた電極331において、緩衝層341とは反対側の電極表面がセラミック板状体と離間している場合には、電極331の両面がセラミック板状体に接触している場合に比べて電極331が大きく収縮し、固体電解質部320に発生する応力が顕著になる。このような場合には、緩衝層341を設けることによって特に優位な効果が得られる。
【0029】
図6は、ガスセンサ素子210の製造方法を示すフローチャートである。なお、以下では、説明の便宜状、未焼成の板状部材にも焼成後と同じ符号を付して説明する。工程S100では、ガスセンサ素子210を構成する複数の未焼成板状部材241〜244,250,300(
図3)を準備する。このとき、表面に電極や配線パターンが形成される未焼成板状部材(例えば部材250,300)には、その表面に導電ペーストが印刷(例えばスクリーン印刷)される。工程S200では、準備した複数の未焼成板状部材241〜244,250,300を積層して積層体を作製する。工程S300では、積層体を焼成することによってガスセンサ素子210が完成する。
【0030】
図7は、
図6の準備工程S100のうち、固体電解質部320を含む固体電解質体300の未焼成板状部材(未焼成固体電解質体)の作製方法を示すフローチャートである。工程S110では、未焼成電解質部320を含む未焼成板状体を準備する。例えば、
図3の例のように、アルミナ基板310と、アルミナ基板310に設けられた貫通孔に挿入された固体電解質部320とを有する固体電解質体300を用いる場合には、工程S110において、まず、アルミナ基板310を形成するための未焼成アルミナ材シートと、未焼成固体電解質シートとを用意する。そして、未焼成アルミナ材シートに対してパンチ加工等の機械加工で貫通孔を形成し、その貫通孔の中に未焼成電解質シートから打ち抜かれた未焼成電解質部320を挿入する。この後、未焼成電解質部320が挿入された未焼成アルミナ材シートの両面を厚み方向に同時に圧縮することによって、その両面を平坦化することが好ましい。工程S120では、未焼成の固体電解質部320の表面に形成される予定の電極331,332の外周縁(すなわち、電極331,332の形成予定領域の外周縁)に沿って、未焼成の固体電解質部320の表面に、緩衝層341、342を形成するための緩衝材ペーストを印刷する(
図3(B))。工程S130では、更に、電極331,332を形成するための導電ペーストを印刷する(
図3(C)))。このとき、配線パターン350を形成する部分にも導電ペーストが印刷される。
【0031】
以上のように、上述した実施形態では、少なくとも一方の電極331の外周縁に沿った枠状の外周縁領域において、その電極331と固体電解質部320との間に緩衝層341が設けられているので、電極331と固体電解質部320の間に発生する応力を緩和することができ、固体電解質部320における内部クラックの発生を抑制できる。
【0032】
・変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0033】
・変形例1:
上述した各種の実施形態では、電極の外周縁に沿った枠状の外周縁領域の全周にわたって枠状の緩衝層を設けるものとしていたが、緩衝層を電極の外周縁領域の全周にわたって設ける必要はなく、外周縁領域の一部に設けるようにしてもよい。但し、緩衝層を電極の外周縁領域の全周にわたって設けるようにすれば、応力を緩和する効果がより顕著である。この点に関して、
図3に示した第1実施形態と同様の構成を有するガスセンサ素子210を製造して、その歩留まりを確認する実験を行った。この結果、電極331,332の外周縁領域の全周にわたって緩衝層341,342を設けた場合の歩留まりは、緩衝層341,342を全く設けない場合の歩留まりに比べて大幅に向上することが確認できた。また、電極331,332の外周縁領域の全周のうち上辺と下辺のみに緩衝層341,342を設けた場合には、それらの中間的な歩留まりが得られた。これらの結果から、緩衝層を電極の外周縁領域の少なくも一部に設けることによって応力を緩和できること、及び、緩衝層を電極の外周縁領域の全周にわたって設けるようにすれば応力緩和の効果がより顕著であることが確かめられた。
【0034】
・変形例2:
上述した実施形態の積層型ガスセンサ素子の構成は例示であり、本発明はこれ以外の種々の構成を有する積層型ガスセンサ素子にも適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
200…ガスセンサ
210…積層型ガスセンサ素子
211,211a,211b…ガス検出部
217…主体金具
218…貫通孔
219…セラミックホルダ
220…滑石
221…セラミックスリーブ
222…電極パッド
223…リード線
224…接続端子
231…第1主面
232…第2主面
240…検出素子部
241〜244…セラミック板状体
250…ヒータ
251…導電層
300,300a…固体電解質体
310…アルミナ基板
320…固体電解質部
331,332…電極
331p…電極の外周縁
341、342…緩衝層
350…配線パターン
RM1,RM2…測定室空間