(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6480897
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】工具保持具とモータとの接続構造
(51)【国際特許分類】
B25F 3/00 20060101AFI20190304BHJP
B24B 23/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
B25F3/00 Z
B24B23/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-151793(P2016-151793)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-20389(P2018-20389A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年3月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成28年6月22日−24日東京ビッグサイトにおいて開催された第20回機械要素技術展、2.「精密電動マイクログラインダ E−FORCE」,永興電気工業株式会社,平成28年6月16日、3.「E−FORCE TOOL CATALOGUE」,永興電気工業株式会社,平成28年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】595040560
【氏名又は名称】永興電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】新実 盛弘
(72)【発明者】
【氏名】伊山 秀貴
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−174885(JP,A)
【文献】
独国実用新案第202013102832(DE,U1)
【文献】
特表2000−515782(JP,A)
【文献】
特表2010−509078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 3/00
B24B 23/00
B25B 21/00
B23B 31/00
B23Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと工具保持具との接続構造であり、
前記モータは、一端でモータ本体の回転軸の回転を出力するための出力軸を露出させていると共に、前記出力軸の近傍に形成された凹部を備えており、
前記工具保持具は、一端で前記出力軸と接続される入力軸を露出させ、他端に工具を装着する工具装着部を備えていると共に、前記入力軸の近傍に形成された凸部を備えており、
前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速型モータの前記凹部の深さは、前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が前記低速型モータより高い高速型モータの前記凹部の深さより大きく、
前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速用工具保持具の前記凸部の高さは、前記高速型モータの前記凹部の深さより大きく、前記低速型モータの前記凹部の深さ以下であり、
前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が前記低速用工具保持具より高い高速用工具保持具の前記凸部の高さは、前記高速型モータの前記凹部の深さ以下であり、
前記凹部と前記凸部との係合により、前記低速型モータと前記低速用工具保持具、前記高速型モータと前記高速用工具保持具、及び前記低速型モータと前記高速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が許容される一方、
前記凹部と前記凸部との干渉により、前記高速型モータと前記低速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が阻止される
ことを特徴とする接続構造。
【請求項2】
モータと工具保持具との接続構造であり、
前記モータは、一端でモータ本体の回転軸の回転を出力するための出力軸を露出させていると共に、前記出力軸の近傍に形成された凸部を備えており、
前記工具保持具は、一端で前記出力軸と接続される入力軸を露出させ、他端に工具を装着する工具装着部を備えていると共に、前記入力軸の近傍に形成された凹部を備えており、
前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速用工具保持具の前記凹部の深さは、前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が前記低速用工具保持具より高い高速用工具保持具の前記凹部の深さより大きく、
前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速型モータの前記凸部の高さは、前記高速用工具保持具の前記凹部の深さより大きく、前記低速用工具保持具の前記凹部の深さ以下であり、
前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が前記低速型モータより高い高速型モータの前記凸部の高さは、前記高速用工具保持具の前記凹部の深さ以下であり、
前記凹部と前記凸部との係合により、前記低速型モータと前記低速用工具保持具、前記高速型モータと前記高速用工具保持具、及び前記低速型モータと前記高速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が許容される一方、
前記凹部と前記凸部との干渉により、前記高速型モータと前記低速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が阻止される
ことを特徴とする接続構造。
【請求項3】
前記モータと前記工具保持具は、一方を他方に対して、回転を要することなく直線的に挿し込むことにより接続されるものであり、
前記凹部は、接続の際の相対的な進行方向に向かって少なくとも開口しており、前記進行方向に向かって開口幅が広くなっている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を保持する工具保持具とモータとの接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形状、サイズ、材質等の異なる砥石、ヤスリ、刃体などの種々の工具を着脱式に保持する工具保持具と、工具を駆動するモータとが別体であり、工具保持具とモータとを接続し一体化した状態で把持して作業する手持ち工具ユニットが使用されている。
【0003】
工具保持具には、工具の取付け軸の方向が相違するものや、モータの回転を往復動に変換するものなど複数の種類が存在し、それらはモータから入力すべき回転の速度の上限値が高いタイプと低いタイプとに分けられる。これに応じて、モータも、使用可能な回転速度の上限値が高いタイプと低いタイプとが用意されている。回転速度の上限値が高い工具保持具は回転速度の上限値が高いモータと接続し、回転速度の上限値が低い工具保持具は回転速度の上限値が低いモータと接続して使用される他、回転速度の上限値が高い工具保持具は、回転速度の上限値が低いモータと接続して使用されることがある。一方、回転速度の上限値が低い工具保持具を、回転速度の上限値が高いモータと接続してしまうと、ギアなど工具保持具の部品や、取付けられた工具が破損するおそれがある。
【0004】
しかしながら、従来の手持ち工具ユニットでは、構造的には回転速度の上限値が低い工具保持具を、回転速度の上限値が高いモータと接続することが可能であった。例えば、従来の手持ち工具ユニットの接続構造としては、
図5に示すように、工具保持具120aの接続端の外周面に形成されている雄ネジ121と、モータ110aの接続端の内周面に形成されている雌ネジ111とを螺合させるものがある。或いは、
図6に示すように、工具保持具120bの接続端の外周面に形成されている雄ネジ122と、モータ110bの接続端に回転可能に取り付けられているナット115の内周面に形成されている雌ネジ112とを螺合させるものがある。何れも、雄ネジと雌ネジとの螺合による接続構造であるため、回転速度の上限値が高い工具保持具と回転速度の上限値が低いモータとの接続を可能にしようとすれば、ネジのピッチを共通にするほかはなく、回転速度の上限値が低い工具保持具と回転速度の上限値が高いモータとを接続する不適な接続も可能となってしまう。
【0005】
不適な接続を防止しようとする従来の試みとしては、回転速度の上限値が高いモータと低いモータとでスイッチの色を異ならせるなど視覚で識別できる要素を設けることにより、不適な接続をしないようユーザ自身が留意することを促す程度にとどまっていた。そのため、不適な接続が構造的に阻止されることが要請されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、回転速度の上限値が低い工具保持具と、回転速度の上限値が高いモータとを接続する不適な接続が、構造的に阻止されている工具保持具とモータとの接続構造の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる工具保持具とモータとの接続構造(以下、単に「接続構造」と称することがある)は、
「モータと工具保持具との接続構造であり、
前記モータは、一端でモータ本体の回転軸の回転を出力するための出力軸を露出させていると共に、前記出力軸の近傍に形成された凹部を備えており、
前記工具保持具は、一端で前記出力軸と接続される入力軸を露出させ、他端に工具を装着する工具装着部を備えていると共に、前記入力軸の近傍に形成された凸部を備えており、
前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速型モータの前記凹部の深さは、前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が前記低速型モータより高い高速型モータの前記凹部の深さより大きく、
前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速用工具保持具の前記凸部の高さは、前記高速型モータの前記凹部の深さより大きく、前記低速型モータの前記凹部の深さ以下であり、
前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が前記低速用工具保持具より高い高速用工具保持具の前記凸部の高さは、前記高速型モータの前記凹部の深さ以下であり、
前記凹部と前記凸部との係合により、前記低速型モータと前記低速用工具保持具、前記高速型モータと前記高速用工具保持具、及び前記低速型モータと前記高速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が許容される一方、
前記凹部と前記凸部との干渉により、前記高速型モータと前記低速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が阻止される」ものである。
【0008】
「凹部」と「凸部」は、モータ及び工具保持具それぞれにおいて、両者を接続したときに対応する位置に形成される。
【0009】
本構成では、モータの凹部の深さは出力軸の回転速度の上限値に応じて異ならせていると共に、工具保持具の凸部の高さは入力軸の回転速度の上限値に応じて異ならせている。そして、高速型モータと高速用工具保持具を接続させようとするとき、凸部の高さは凹部の深さ以下であるため、凹部内に凸部が挿入されて両者が係合し、接続が許容される。また、低速型モータと低速用工具保持具を接続させようとするとき、凸部の高さは凹部の深さ以下であるため、凹部内に凸部が挿入されて両者が係合し、接続が許容される。更に、低速型モータと高速用工具保持具を接続させようとするとき、高速型モータの凹部の深さより低速型モータの凹部の深さの方が大きいため、当然に凸部の高さは凹部の深さ以下であるため、凹部内に凸部が挿入されて両者が係合し、接続が許容される。一方、高速型モータと低速用工具保持具とでは、凸部の高さは凹部の深さより大きいため、両者を接続させようとすると凸部と凹部が干渉し、接続が阻止される。
【0010】
従って、本構成によれば、高速型モータと高速用工具保持具、低速型モータと低速用工具保持具、及び低速型モータと高速用工具保持具との接続を許容する一方で、高速型モータと低速用工具保持具との不適な接続のみを、凹部と凸部との干渉という構造的な障害で、確実に阻止することができる。
【0011】
本発明にかかる接続構造は、上記構成に替えて、
「モータと工具保持具との接続構造であり、
前記モータは、一端でモータ本体の回転軸の回転を出力するための出力軸を露出させていると共に、前記出力軸の近傍に形成された凸部を備えており、
前記工具保持具は、一端で前記出力軸と接続される入力軸を露出させ、他端に工具を装着する工具装着部を備えていると共に、前記入力軸の近傍に形成された凹部を備えており、
前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速用工具保持具の前記凹部の深さは、前記工具保持具のうち前記入力軸の回転速度の上限値が前記低速用工具保持具より高い高速用工具保持具の前記凹部の深さより大きく、
前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が所定値以下の低速型モータの前記凸部の高さは、前記高速用工具保持具の前記凹部の深さより大きく、前記低速用工具保持具の前記凹部の深さ以下であり、
前記モータのうち前記出力軸の回転速度の上限値が前記低速型モータより高い高速型モータの前記凸部の高さは、前記高速用工具保持具の前記凹部の深さ以下であり、
前記凹部と前記凸部との係合により、前記低速型モータと前記低速用工具保持具、前記高速型モータと前記高速用工具保持具、及び前記低速型モータと前記高速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が許容される一方、
前記凹部と前記凸部との干渉により、前記高速型モータと前記低速用工具保持具との間では、前記出力軸と前記入力軸との接続が阻止される」ものとすることができる。
【0012】
上記構成では、モータに凹部が形成され工具保持具に凸部が形成されていたが、本構成では逆にモータに凸部が形成され工具保持具に凹部が形成されている。モータの出力軸及び工具保持具の入力軸の回転速度の上限値に基づいて凹部の深さと凸部の高さとの関係を異ならせることにより、高速型モータと高速用工具保持具、低速型モータと低速用工具保持具、及び低速型モータと高速用工具保持具の接続を許容する一方で、高速型モータと低速用工具保持具との不適な接続のみを凹部と凸部との干渉で阻止する原理は、上記構成と同じである。
【0013】
本発明にかかる接続構造は、上記構成に加え、
「前記モータと前記工具保持具は、一方を他方に対して、回転を要することなく直線的に挿し込むことにより接続されるものであり、
前記凹部は、接続の際の相対的な進行方向に向かって少なくとも開口しており、前記進行方向に向かって開口幅が広くなっている」ものとすることができる。
【0014】
本構成では、モータと工具保持具との接続が、一方を他方に対して挿し込むことにより接続されるものであり、雄ネジと雌ネジとの螺合による接続のような回転を要しない直線的なものである。このような接続のためには、凹部は少なくとも、接続の際の相対的な進行方向に向かって開口している必要がある。本構成では、この凹部について、接続の際の相対的な進行方向に向かって開口幅が広くなっているところに、特徴を有する。
【0015】
このような構成により、モータ及び工具保持具の一方を他方に対して挿し込む際に、凹部と凸部との位置が多少ずれていても、凹部の開口縁線に沿って凸部が案内されるため、凹部に凸部を挿入する操作が容易である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の効果として、低速用工具保持具と高速型モータとを接続する不適な接続が、構造的に阻止されている工具保持具とモータとの接続構造を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】モータの接続端近傍の(a)正面図、(b)左側面図、及び(c)A−A線断面図である。
【
図2】工具保持具の接続端近傍の(a)斜視図、(b)ボールが突出した状態の斜視図、及び(c)ボールが突出した状態で真上から見た図である。
【
図3】(a)モータ及び工具保持具それぞれの接続端近傍の側面図及び断面図、及び(b)モータと工具保持具とを接続した状態の説明図である。
【
図4】モータと工具保持具との接続が許容または阻止される関係を示す図である。
【
図5】従来のモータと工具保持具の接続の説明図である。
【
図6】
図5とは異なる従来のモータと工具保持具の接続の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態である接続構造1について、
図1乃至
図4を用いて説明する。ここでは、モータ10に凹部15が形成されていると共に、工具保持具20に凸部25が形成されている場合を例示する。
【0019】
本実施形態の接続構造1では、モータ10は、一端でモータ本体10bの回転軸の回転を出力するための出力軸11を露出させていると共に、出力軸11の近傍に形成された凹部15を備えている。工具保持具20は、出力軸11と接続される入力軸21を一端で露出させ、他端に工具を装着する工具装着部29を備えていると共に、入力軸21の近傍に形成された凸部25を備えている。
【0020】
より詳細に説明すると、本実施形態の接続構造1では、モータ10は出力軸11の回転速度が1000〜20000回/分である低速型モータ10Lと、出力軸11の回転速度が1000〜40000回/分であり、上限値が低速型モータ10Lより大きい高速型モータ10Hとの二種類である。本書面では、低速型モータ10Lと高速型モータ10Hとを特に区別する必要がない場合は、単に「モータ10」と称している。
【0021】
何れのモータ10も、一端である接続端(工具保持具20と接続される側の端部)側の構成は共通であり、
図1及び
図3に主に示すように、モータ本体10bの収容部30より小径のヘッド部31を有している。出力軸11は、ヘッド部31の内部を回転自在に貫通しており、ヘッド部31の先端で出力軸11の端部が露出している。
【0022】
ヘッド部31は、収容部30から連設された基礎筒部31aと、基礎筒部31aより接続端側に連設された小径の小径筒部31bと、小径筒部31bより接続端側に連設された、小径筒部31bより大径で、端面が平面である先端筒部31cとを有している。基礎筒部31aの外周面には、接続端に向かって開口していると共に、外方に向かって開口している凹部15が複数形成されている。各凹部15の形状は同一であり、閉端側の内周面が円弧状であると共に、接続端に向かって開口幅が両側に広がっていることにより、開口縁線は直線的に傾斜している。
【0023】
工具保持具20は、入力軸21の回転速度として可能な範囲が1000〜20000回/分である低速用工具保持具20Lと、入力軸21の回転速度として可能な範囲が1000〜40000回/分であり、上限値が低速用工具保持具20Lより大きい高速用工具保持具20Hとの二種類である。より具体的には、高速用工具保持具20Hには、工具装着部29が入力軸21と同軸の工具保持具20aと、工具の装着がクランプ式である工具保持具20bの二種類があり、低速用工具保持具20Lには、工具装着部29の軸方向が入力軸21と直角な工具保持具20c、無端ベルト形状のサンダーを工具90として工具装着部29に装着する工具保持具20dと、入力軸21の回転を工具装着部29の往復動に変換する工具保持具20eの三種類である(
図4参照)。本書面では、低速用工具保持具20Lと高速用工具保持具20Hとを特に区別する必要がない場合は、単に「工具保持具20」と称している。
【0024】
何れの工具保持具20も、一端である接続端(モータ10と接続される側の端部)側の構成は共通であり、
図2及び
図3に主に示すように、入力軸21が回転自在に挿通されている長筒部41と、長筒部41より外側で、長筒部41より接続端側まで長く延びており、長筒部41に対して固定されている固定筒部42と、固定筒部42より内側でスライド可能であり、接続端に向かってコイルバネ53で付勢されている摺動内筒部43と、固定筒部42より外側でスライド可能であり、接続端に向かってコイルバネ54で付勢されている摺動外筒部44と、を有している。
【0025】
固定筒部42の途中には、貫通する孔部52が形成されている。この孔部52の位置は、コイルバネ53の付勢によって摺動内筒部43が接続端に向かって移動したときに、摺動内筒部43によって孔部52が塞がれる位置である。また、孔部52の付近において、固定筒部42と摺動外筒部44との間には空隙51があり、この空隙51にボール55が挿入されている。なお、孔部52及びボール55の個数は三個以上とし、中心軸に対して等角度間隔に設けると望ましい。
図3では、断面にボール55が二個図示されているが、ボール55の個数が奇数のときは、断面にあらわれるボール55は一個である。
【0026】
更に、固定筒部42の内周面には、接続端の近傍で円柱状の凸部25が突出している。本実施形態では、工具保持具20一つ当たり凸部25は一個である。凸部25は、凹部15との関係によってモータ10と工具保持具20との接続を許容または阻止するための構成であり、モータ10と工具保持具20とを接続させるための構成ではないため、一個で十分であるが、複数設けても良い。なお、一個の凸部25に対し、凹部15が複数あれば、工具保持具20に対してモータ10を相対的に挿し込む際の位置合わせの自由度が高い。
【0027】
上記構成のモータ10及び工具保持具20において、凹部15と凸部25の関係は以下のようである。すなわち、高速型モータ10Hの凹部15の深さは0.6mmであり、低速型モータ10Lの凹部15の深さは0.9mmである。一方、高速用工具保持具20Hの凸部25は0.5mmであり、低速用工具保持具20Lの凸部25は0.8mmである。つまり、低速型モータ10Lの凹部15の深さ(0.9mm)は、高速型モータ10Hの凹部15の深さ(0.6mm)より大きい。低速用工具保持具20Lの凸部25の高さ(0.8mm)は、高速型モータ10Hの凹部15の深さ(0.6mm)より大きく、低速型モータ10Lの凹部15の深さ(0.9mm)より小さい。また、高速用工具保持具20Hの凸部25の高さ(0.5mm)は、高速型モータ10Hの凹部15の深さ(0.6mm)より小さい。
【0028】
上記構成により、モータ10と工具保持具20とを接続する前の段階では、
図3(a)に示すように、工具保持具20において摺動内筒部43がコイルバネ53の付勢によって接続端側に移動しており、孔部52を閉塞している。そのため、ボール55は、固定筒部42と摺動外筒部44との間の空隙51に存在している。摺動外筒部44の内周面は、この空隙51より奥側で、内側に向かって傾斜している傾斜面44bを有している。そのため、摺動内筒部43によって孔部52が閉塞されていることによって、内側への移動を規制されたボール55によってこの傾斜面44bが押されることにより、摺動外筒部44はコイルバネ54の付勢に抗して、奥側(接続端部とは反対側)に移動した状態が保持されている。
【0029】
モータ10と工具保持具20とを接続するために、モータ10のヘッド部31を工具保持具20の固定筒部42の内部に相対的に挿し込むと、
図3(b)に示すように、モータ10の出力軸11が工具保持具20の入力軸21と接続される。これと共に、ヘッド部31の先端筒部31cの端面によって、摺動内筒部43がコイルバネ53の付勢に抗して押し込まれる。これにより、摺動内筒部43によって閉塞されていた孔部52が開放され、ボール55が孔部52を介して内部に突出し、モータ10のヘッド部31の小径筒部31bの外周面に当接する。ボール55と小径筒部31bの外周面との当接により、モータ10と工具保持具20とが接続される。また、ボール55の移動により、コイルバネ54の付勢に抗して摺動外筒部44が奥側に移動していた状態を保持していた力がなくなるため、コイルバネ54の付勢によって摺動外筒部44は接続端側に移動する。
【0030】
このような工具保持具20に対するモータ10の相対的な挿し込み操作に伴い、
図3(b)に示すように、工具保持具20の凸部25はモータ10の凹部15の内部に相対的に進入する。その際、凹部15では、接続端に向かって解放している開口の開口幅が、接続端に向かって広がっている。そのため、凸部25と凹部15との位置が多少ずれた状態で挿し込まれても、凸部25の相対的な移動が凹部15の開口縁線に沿って案内されるため、凸25部が凹部15の内部まで進入し易い。
【0031】
そして、凸部25の高さが凹部15の深さ以下のとき、つまり、高速型モータ10Hと高速用工具保持具20Hとの接続、低速型モータ10Lと低速用工具保持具20Lとの接続、及び低速型モータ10Lと高速用工具保持具20Hとの接続の場合は、凸部25が凹部15内に挿入されて両者が係合することにより、モータ10と工具保持具20との接続が許容される。一方、凸部25の高さが凹部15の深さより大きい場合、つまり、高速型モータ10Hと低速用工具保持具20Lとの場合は、両者を接続しようとすると、凸部25の高さが凹部15の深さより大きく凸部25と凹部15とが干渉するため、両者の接続が阻止される。なお、
図4では、接続が許容される関係を「○」で、接続が阻止される関係を「×」で示している。
【0032】
モータ10と工具保持具20との接続を解除する場合は、コイルバネ54の付勢に抗して摺動外筒部44を奥側に移動させる。これにより、傾斜面44bが奥側に移動し、孔部52の外側の空隙51が大きくなるため、ボール55は孔部52を介して空隙51内に移動すると共に、摺動内筒部43はコイルバネ53の付勢によって接続端側に移動して孔部52を閉塞し、
図3(a)に示した状態となる。その結果、ボール55と小径筒部31bの外周面との当接が解除されるため、工具保持具20の固定筒部42の内部からモータ10のヘッド部31を引き抜くことができる。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、凹部15と凸部25との係合または干渉という簡易な構成により、高速型モータ10Hと高速用工具保持具20H、低速型モータ10Lと低速用工具保持具20L、及び低速型モータ10Lと高速用工具保持具20Hの接続が許容される一方で、高速型モータ10Hと低速用工具保持具20Lとの不適な接続のみを、確実に阻止することができる。
【0034】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0035】
例えば、上記の実施形態では、モータ10に凹部15が形成されており工具保持具20に凸部25が形成されている場合を例示したが、逆に、工具保持具に凹部が形成されておりモータに凸部が形成されている構成とすることができる。例えば、工具保持具において突出するヘッド部を入力軸が貫通しており、ヘッド部が挿し込まれる固定筒部、及び摺動内筒部、摺動外筒部等の筒状の構成が、モータの接続端に形成されている構成とすることができる。
【0036】
また、上記では、固定筒部42の孔部52を介したボール55の出没により、工具保持具20とモータ10との接続及び解除がなされる場合を例示した。工具保持具とモータとの接続は、このようなボールを使用した構成に限定されず、例えば、摺動内筒部がヘッド部によって押し込まれることにより、ヘッド部の外周面と係合するフック状の部分が固定筒部より内部に突出する構成とすることができる。
【0037】
更に、上記では、モータ10と工具保持具20が、一方を他方に向かって挿し込む直線的な移動によって接続される場合を例示した。これに限定されず、
図5,6を用いて例示した従来例と同様に、回転による雄ネジと雌ネジとの螺合によってモータと工具保持具とが接続される場合であっても、本発明の接続構造を適用することができる。その場合、例えば、雄ネジより接続端側に環状の凹部が形成されており、雌ネジより奥側に凸部が形成されている構成とすることができる。
【0038】
なお、本発明の接続構造が適用される工具ユニット、すなわち別体の工具保持具とモータとを接続し一体化した状態で把持して作業する手持ち工具ユニットは、工業用工具ユニット、歯科用工具ユニット、一般ユーザ向けの趣味用工具ユニットなど、用途は問わないものである。また、モータも、電動モータの他に、エア駆動のモータを使用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 接続構造(モータと工具保持具との接続構造)
10 モータ
10b モータ本体
10H 高速型モータ
10L 低速型モータ
11 出力軸
15 凹部
20 工具保持具
20H 高速用工具保持具
20L 低速用工具保持具
20a,20b 工具保持具(高速用工具保持具)
20c,20d,20e 工具保持具(低速用工具保持具)
21 入力軸
25 凸部
29 工具装着部