【文献】
EVERAERTS, Pieter,Rate capability and ion feedback in GEM-detectors,Academiejaar 2005-2006,FACULTEIT INGENIERSWETENSCHAPPEN, UNIVERSITEIT GENT,pp.52-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記絶縁性基材の一方主面に形成された第1導電層パターンの線幅は10μm以上、40μm以下であり、前記絶縁性基材の他方主面に形成された第2導電層パターンの線幅は、前記第1導電層パターンの線幅の0.4倍以上0.9倍以下である請求項1に記載のイオンフィルター。
前記貫通孔の第1導電層パターン側の第1開口部の面積は、前記貫通孔の第2導電層パターン側の第2開口部の面積よりも小さく、前記貫通孔を形成する前記第2導電層パターン側の内側面は前記絶縁性基材の主面に対して40度以上80度以下の角度を有する請求項1又は2に記載のイオンフィルター。
前記絶縁性基材の主面に沿う所定の単位面積に対する、前記貫通孔により形成される開口部の総面積の割合である、前記貫通孔の開口率は70%以上である請求項1〜4の何れか一項に記載のイオンフィルター。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明に係るイオンフィルターを、ILD(International Large Detector)測定器を構成する測定器の一つである中央飛跡検出器に適用した場合を例にして説明する。本実施形態のILD測定器は、少なくとも中央飛跡検出器を備える。本実施形態では、中央飛跡検出器として、ガス検出器を用いることができる。さらに具体的に、本実施形態では、ガス検出器100としてTPC(Time Projection Chamber)100を用いる。本実施形態のTPC100は、所定の高磁場下において荷電粒子を含む放射線の飛跡を測定し、放射線の飛跡から粒子の位置や運動量を測定する。本実施形態のILDには中央飛跡検出器が必要であり、その中央飛跡検出器にガス検出器100が適用される。そのガス検出器100の電子増幅部にガス電子増幅器2(GEM:ガス増幅フォイル2)が設けられ、併せて、イオンフィルターがガス電子増幅器2(GEM:ガス増幅フォイル2)に併設される。
【0018】
図1は本実施形態におけるガス検出器を用いた中央飛跡検出器の一例としてのTPC(Time Projection Chamber)100の構成図である。
図1に示すように、本実施形態のTPC(Time Projection Chamber)100は、イオンフィルター1と、ガス電子増幅器2と、検出電極3と、計測器4と、電極5と、ドリフト領域DRとなる空間と、チャンバCBとを備える。ドリフト領域DRはチャンバCB内に形成される。本実施形態のTPC(Time Projection Chamber)100では、検出用ガスで満たされたチャンバ内に荷電粒子を入射させると、荷電粒子がガス中を通過するときに起きるガス原子との光電効果により、チャンバ内のガス分子がイオン化される。荷電粒子によりイオン化されたガス分子が電子を放出する。TPC(Time Projection Chamber)100は、チャンバ内のガス分子がイオン化されたときに生じる電子に起因する電気信号を検出する。ドリフト領域DRに入射した放射線(荷電粒子を含む、以下同じ)の飛跡に沿って、チャンバ内のガス分子のイオン化、つまり電子の放出が起きる。ガス検出器は、電子の位置を遂次検出することにより、荷電粒子の二次元の飛跡を追跡する。言い換えると、荷電粒子がチャンバ内に入射したときに起きた放射線とガスとの光電効果により一次電子が発生し、この一次電子が電場によってガス電子増幅器2(例えば電子増幅フォイル2)に到達すると増幅されて二次電子を放出する。ガス検出器は、二次電子の位置を遂次検出することにより、放射線の飛跡を追跡する。また、本実施形態のTPC100は、放射線とガスとの光電効果によりガス原子から飛び出した一次電子をドリフトさせるドリフト領域を備え、放射線の飛跡の二次元の位置、さらには、二次元の位置のみならず三次元の位置を測定する。
さらに、本実施形態のTPCは、ドリフト領域DRにおける粒子のドリフト時間を用いてZ軸方向を含む三次元の飛跡を計算する。つまり、本実施形態のTPCは、三次元飛跡検出機能を備えたガス検出器である。
【0019】
本実施形態のガス電子増幅器2は、荷電粒子を含む放射線とガス分子との光電効果によりガス分子をイオン化したときに生じた電子を、高電場において電子なだれ効果により増幅させる。このように電子を増幅させることにより、ガス原子をイオン化したときに生じた電子に起因する電気信号を正確に検出できる。検出電極3は、電気信号を正確に検出する。検出電極3は、検出した電気信号を計測器4に出力する。
【0020】
計測器4は、検出電極3から取得した検出信号を用いて、入射した荷電粒子の飛跡(経時的な位置変化)を測定する。つまり、TPC100内を通過する荷電粒子の通過位置を測定する。計測器4は、TPC100に入射した荷電粒子の飛跡の測定結果を外部に出力する。TPC100に入射した荷電粒子の位置の計測データは、国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)実験に用いられる。ILC実験では、TPC100などのガス検出器を含む複数の測定器から得られる測定値を総合して、観測対象となる粒子の存在を確認し、または観測対象となる粒子の性質を計測する。
【0021】
本実施形態のガス検出器を用いたTPC100は、少なくとも、イオンフィルター1と、ガス電子増幅器2と、検出電極3とを備える。本実施形態のTPC100は、チャンバCBを備える。本例のTPC100のチャンバCB内には、イオンフィルター1と、ガス電子増幅器2と、検出電極3と、電極5とが設けられる。チャンバCBは、その内部に荷電粒子が移動する空間であるドリフト領域DRを有する。図示しない一又は複数の電源は、これらに電力を供給する。本実施形態のTPC100は、計測器4を備える。計測器4は、検出電極3から検出電極を取得する。
【0022】
各構成について、以下に説明する。
チャンバCBは、検出用ガスで満たされる空間を形成する。チャンバCBに充填される検出用ガスとしては、一般に、希ガスとクエンチャーガスとの組合せが使用される。希ガスとしては、例えば、He、Ne、Ar、Xeなどを含む。クエンチャーガスとしては、例えば、CO
2、CH
4、C
2H
6、CF
4、C
4H
10などを含む。特に限定されないが、希ガス中に混合するクエンチャーガスの混合比率は5〜30%とすることが好ましい。
【0023】
電極5は、チャンバCB内に電界を形成する。放射線とガスとの光電効果による相互作用によりガス原子から電離した電子は、この電界の中を、アノードとして機能する検出電極3側へドリフト移動する。TPC100における、粒子の位置分解能の精度向上の観点から、電極5に加えて、電場形成用の電極(図示せず)を、チャンバCBの内側の側面に設けてもよい。電場形成用の電極は、ドリフト領域内に電子の移動方向に沿って複数設けることができる。ドリフト領域内に電場形成用の電極を設けることにより、検出電極3へ向かう方向に沿って電子をドリフト移動させることができる。チャンバCBの内側の側面に設けられた電場形成用の電極は、ドリフト領域の電場の崩れを抑制し、電場を均一に保つ。これにより、電場の崩れにより、ドリフト移動する際の電子の軌道が歪むことを防止できる。
特に、ILC−TPCのように、ドリフト領域の長さ(電子の移動方向に沿う長さ)が長く形成される場合には、ドリフト領域内の電場の均一性が崩れる(均一性が乱れる)傾向がある。このような場合であっても、電極5に加えて、電場形成用の電極をドリフト領域内に設けることにより、ドリフト領域内の電場の崩れを抑制して、電場を均一に保つことができる。
【0024】
ガス電子増幅器2は、電子を増幅させるMPGD(Micro Pattern Gas Detector)の一種である。
本実施形態において用いられるガス電子増幅器2としての電子増幅フォイル2は、シート状の絶縁性基材の両主面が銅などの導電層が形成され、多数の貫通孔を有する。ガス電子増幅器2の貫通孔は、絶縁性基材の主面に対して略垂直方向に延在する。絶縁性基材の両主面に形成された導電層に数百Vの電位差を与えることで、貫通孔の内部には高電場が形成される。この貫通孔内部に電子が入ると、電子は急激に加速される。加速した電子は、周囲のガス分子を電離させ、貫通孔内部において電子が雪崩式に増幅される(電子なだれ効果)。なお、ガス電子増幅器2は、GEM:Gas Electron Multiplierとも呼ばれることがある。
【0025】
特に限定されないが、電子増幅フォイル2の厚さは、数百μm程度である。一例ではあるが、貫通孔の直径は70[μm]程度、ピッチは140[μm]程度のものが知られている。絶縁性基材の主面に沿う所定の単位面積に対する、電子増幅フォイル2の複数の貫通孔により形成される開口部の総面積の割合である、電子増幅フォイル2の貫通孔の開口率は23%程度である。電子増幅フォイル2を構成する絶縁性基材の材料としては、例えば、ポリイミドや液晶ポリマーなどの高分子ポリマー材料を用いることができる。電子増幅フォイル2を構成する導電層の材料としては、例えば、銅、アルミニウム、金、又はボロンなどを用いることができる。電子増幅フォイル2の導電層は、導電性材料を絶縁性基材にスパッタ蒸着して形成してもよいし、めっき処理により形成してもよいし、ラミネート処理により形成してもよい。
【0026】
検出電極3は、電子なだれ効果により増倍された電子を検出し、検出信号を計測器4に送出する。計測器4は検出電極3から取得した信号に基づいて各種の検出データを演算する。特に限定されないが、検出データは、荷電粒子の飛跡の測定、荷電粒子の位置や運動量の測定などに用いられる。
【0027】
チャンバCB内において、放射線とガスとの光電効果によりガス分子をイオン化したときに生じた電子eは、矢印で示す方向Dに沿ってドリフト移動する。その方向Dは、電極5から検出電極3へ向かう電子の移動方向Eに沿う方向である。電子の移動方向Eにおいて、電極5が配置された一方側が上流側であり、検出電極3が配置された他方側が下流側である。
【0028】
続いて、本実施形態のイオンフィルター1について説明する。
先述したように、ガスの電離により電子数が増幅される際に、同数の陽イオンが生成される。この陽イオンのうち、ガス電子増幅器2の貫通孔の中央を通過し、ドリフト領域DRに移動(フィードバック)するものがある。
陽イオンのドリフト速度は遅いため、陽イオンが例えば平板状の一群として長時間に渡ってドリフト領域DRに滞在し、ドリフト領域DRに局所的にイオン密度の高い場所を形成してしまう。これにより、ドリフト領域DRの電場が歪められる。チャンバ内に磁場が存在する場合、ドリフトする電子にE×B effectを与えられると、位置分解能が低下する場合がある。特に、本実施形態のTPC100は、ILC実験の要求から、ILC−TPC、つまり本実施形態のTPC100では、電子の進行方向Eに沿って相対的に長いドリフト領域を備える。このため、ドリフト領域に逆流した陽イオンによってドリフト領域DRの電場が歪められ、粒子の位置分解能が低下する傾向がある。ちなみに、ILC実験においては、単に粒子の三次元位置を測定するだけではなく、発生の可能性が予測される各種の粒子の三次元位置を測定することが求められる。発生が予測される粒子の種類に応じて、その粒子の三次元位置測定に必要なドリフトの距離の長さが、ILC−TPCの構造において備えるべきドリフト領域の長さとなる。このため、TPC100は、電子の進行方向Eに沿って、相対的に長いドリフト領域を備える。
【0029】
本実施形態のイオンフィルター1は、電子増幅に伴い発生した陽イオンがドリフト領域DR側(電子の移動方向とは逆方向)に移動しないように捕集する機能を有する。
【0030】
本実施形態のイオンフィルター1は、絶縁性基材と、その絶縁性基材の一方主面に形成された第1導電層と、その絶縁性基材の他方主面に形成された第2導電層と、を有する三層構造を備える。イオンフィルター1は、その絶縁性基材の厚さ方向に沿って形成された複数の貫通孔を有する。
【0031】
なお、ガス増幅フォイル2を示す「GEM」という言葉を用いて、陽イオンフィードバックの抑制機能を有する部材を「GEM GATE(ジェムゲート)」と称する先行技術も見受けられる。しかし、「GEM」は高電圧を印加することにより電子なだれ効果を起こさせる機能を有し、他方、「GEM GATE(ジェムゲート)」は低電圧を印加することにより、フィードバックしてくる陽イオンを捕獲する機能を有し、両者は技術な意義が異なる装置である。
また、フィードバックイオンを捕獲する目的に利用されうるという点のみにおいては、「GEM GATE」と「イオンフィルター」は共通する側面もあるが、その具体的な構造は全く異なる。
イオンフィルターとGEMとは、絶縁性基材の両面に導電層を備えるという「3層構造」である点は電子増幅器(GEM)と共通するものの、両者の具体的な形態は大きく異なる。
表1に電子増幅器(GEM)とイオンフィルターの基本構造の違いをまとめた。
【0033】
表1に示すように、イオンフィルターは、GEMに比して、厚さが薄く、開口径が大きく、開口率が大きい。このような形態のイオンフィルターをGEMとして使用した場合には、その薄さ、線幅の細さから高電圧の印加に耐えられず(破壊されてしまう)、GEMとして機能することは不可能である。そもそも、厚さ25μm以下のイオンフィルター1は、貫通孔に形成される高電場領域が小さいため、電子を増幅させることは論理上できない。他方、表1の形態のGEMをイオンフィルターとして使用した場合には、その厚さ、開口率の低さから、計測対象となる電子の通過を抑制し、十分な検出精度を維持することが困難である。
【0034】
図2A及び
図2B、
図3A及び
図3Bに基づいて、上記構成のイオンフィルター1の機能を説明する。本実施形態のイオンフィルター1は3層構造を備えているため、
図2Aに示すように、絶縁性基材の両面に形成された第1導電層と第2導電層の印加電圧を反転させることにより、イオンフィルター1はフィードバックする陽イオンをブロック(捕集)する。イオンフィルター1を、
図2Bのようにドリフト領域に設置して低電圧(相対的に低い電圧、例えば5V−20V程度)を印加することにより、信号となる電子は透過させ、フィードバックするイオンをブロックするゲートとして機能する。
【0035】
図3A及び
図3Bは、イオンフィルター1をゲートとして機能させた場合における、イオンフィルター1近傍のイオンの動きを示す図である。
図3Aは、信号となる電子を通過させる「ゲートオープンモード」にてイオンフィルター1を機能させたときのイオンの動きを示す。
図3Bは、陽イオンを捕獲する「ゲートクローズモード」にてイオンフィルター1を機能させたときのイオンの動きを示す。先述したように、フィードバックする陽イオンは平板状の形状に集まって移動するので、TPC100の制御タイミングを含む制御内容に基づいて予測された陽イオンディスクの位置に応じてイオンフィルター1のオープンモードとクローズモードを切り替えることができる。
【0036】
本実施形態のイオンフィルター1の第1導電層には第1導電層パターンが形成され、第2導電層には第2導電層パターンが形成される。そして、絶縁性基材の一方主面側(第1導電層)が、ガス検出器100における電子の移動方向の上流側に配置され、絶縁性基材の他方主面側(第2導電層)が、ガス検出器100における電子の移動方向の下流側に配置されている。つまり、本実施形態では、ガス検出器100における電子の移動方向の上流側に第1導電層パターンが配置され、ガス検出器100における電子の移動方向の下流側に第2導電層パターンが配置される。
【0037】
図4A,
図4B,
図4Cは、本実施形態のイオンフィルター1の一例を模式的に示す図である。
図4Aは、本実施形態のイオンフィルター1の斜視図であり、
図4Bは、本実施形態のイオンフィルター1の平面図である。
各図に示すように、本実施形態のイオンフィルター1は、貫通孔30を備える。隣り合う貫通孔30の間にはリム20が形成される。貫通孔30はリム20に囲われている。リム20が貫通孔30の内壁を構成する。貫通孔30は、イオンフィルター1の主面に沿う開口部31を形成する。このリム20は、ハニカム構造の絶縁性基材と、その絶縁性基材の一方主面上に形成された第1導電層パターンと、その絶縁性基材の他方主面上に形成された第2導電層パターンとからなる。貫通孔30はリム20に囲われており、リム20は貫通孔30の内壁の一部(上面側と下面側)を構成する。本実施形態の貫通孔30の形状は平面視において六角形(多角形)である。本実施形態のイオンフィルター1は、いわゆるハニカム構造を有する。
【0038】
また、本実施形態の貫通孔30を囲むリム20とリム20の間隔は140[μm]〜300[μm]である。また、リム20の幅(貫通孔30の内壁間の距離)は、45[μm]以下、好ましくは40[μm]以下、さらに好ましくは35[μm]以下である。
【0039】
ところで、本実施形態のイオンフィルター1は、フィードバックしてくる陽イオンを捕集し、ドリフト領域DRへ移動しないように機能するが、その一方で、計測対象となる電子の移動を妨げてはならないという制約がある。このため、イオンフィルター1として利用するためには、貫通孔の開口率が高く、かつ厚さが薄い構造であることが求められる。
【0040】
発明者らが行ったシミュレーションによれば、電子の移動を妨げないようにするため、つまり、イオンフィルター1として機能するためには、イオンフィルター1の貫通孔30の開口率は65%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上であることが望ましいということがわかった。本実施形態において、貫通孔30の開口率とは、絶縁性基材の主面に沿う所定の単位面積に対し、貫通孔30が形成する開口部31の総面積の割合である。開口率を算出するための単位面積は任意に定義できる。開口部31は、イオンフィルター1の主面に沿う、絶縁性基材及び導電層の無い二次元領域である。本実施形態の貫通孔30の開口部31の形状は略六角形である。本実施形態のイオンフィルター1は、いわゆるハニカム構造を有する。
また、発明者らが行ったシミュレーションによれば、電子の移動を妨げないようにするため、イオンフィルター1の絶縁性基材11の厚さが25[μm]以下であることが望ましいということがわかった。更には、以下に示すように第1導電層パターンの線幅と第2導電層パターンの線幅とが特定の関係にあることが望ましいということがわかった。
【0041】
本発明の本実施形態では、これらの条件を満たすイオンフィルター1を提供する。
本実施形態のイオンフィルター1は、電子を増幅するガス電子増幅器2としての電子増幅フォイル2の上流側(電極5,ドリフト領域DR側)に、電子増幅フォイル2とは別の部材として配置される。本実施形態のイオンフィルター1は、電子増幅に伴い発生した陽イオンを捕集するという、電子増幅フォイル2とは異なる目的において用いられ、電子増幅フォイル2とは異なる機能を奏するものである。
【0042】
本実施形態では、イオンフィルター1を、電子の移動方向Eにおいて、ガス電子増幅器2よりも上流側(電極5が設けられた側,ドリフト領域DRが設けられた側)に配置する。つまり、イオンフィルター1は、ガス電子増幅器2と電極5との間に配置する。イオンフィルター1をこのように配置することにより、ガス電子増幅器2において発生する陽イオン群を、イオンフィルター1で捕集し、フィードバックする陽イオンがドリフト領域DRの全体に影響を与えることを防止する。これにより、ドリフト電子が陽イオン群の影響を受けにくくすることができる。
【0043】
本実施形態のイオンフィルター1は、TPC100が備えるガス電子増幅器2に併設される。ガス電子増幅器2は、電子を増幅させるものであれば、平板状の電子増幅フォイル2であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0044】
図4Cは、本実施形態のイオンフィルター1の、
図4Bに示すIIC−IIC線に沿う断面図である。
図4Cに示すように、本実施形態のイオンフィルター1は、絶縁性基材11の一方主面に形成された第1導電層パターン12と、他方主面に形成された第2導電層パターン13とを備える。第1導電層パターン12と第2導電層パターン13は、予め設定された電位に印加される。また、
図4Cに示すように、本実施形態のイオンフィルター1は、絶縁性基材11の一方主面上に形成された第1導電層パターン12の線幅W12と、他方主面に形成された第2導電層パターン13の線幅W13とが異なるように構成される。具体的には、本実施形態では電子の移動方向(矢印E)の上流側になる第1導電層パターン12の線幅W12が、第2導電層パターンの線幅W13よりも長くなるように構成されている。
【0045】
また、リム20を構成する絶縁性基材11の断面は、一方主面側の辺の長さが他方主面側の辺の長さよりも長い台形状に形成される。
図4Cに示すように、第1導電層パターン12は、絶縁性基材11の一方主面上の全面に形成され、第2導電層パターン13は、絶縁性基材11の他方主面上の全面に形成される。第1導電層パターン12は、貫通孔30を有するハニカム形状の絶縁性基材11の一方主面に対応した形状であり、第2導電層パターン13は、貫通孔30によるハニカム形状の絶縁性基材11の他方主面に対応した形状である。
【0046】
なお、第1導電層パターン12の線幅W12が、第2導電層パターンの線幅W13よりも長ければ、リム20を構成する絶縁性基材11の幅よりも短くても、長くても良い。つまり、第1導電層パターン12は、絶縁性基材11の一方主面の全面に形成することなく一部に形成しても良い。即ち、第1導電層パターン12の線幅W12が、リム20を構成する絶縁性基材11の一方主面の幅よりも短くなるように形成しても良い。また、第1導電層パターン12は、絶縁性基材11の一方主面から貫通孔30の中央側に向かってはみ出して形成してもよい。即ち、第1導電層パターン12の線幅W12が、リム20を構成する絶縁性基材11の一方主面の幅よりも長くなるように形成しても良い。
【0047】
一方、第2導電層パターン13の線幅W13は、貫通孔30の開口率及び電子透過率を確保するため、リム20を構成する絶縁性基材11の他方主面の幅と同一であることが好ましい。即ち、本実施形態に示すように、貫通孔30を有する絶縁性基材11の他方主面の全面に第2導電層パターン13が形成されていることが好ましい。
【0048】
また、第1導電層パターン12の線幅W12が、第2導電層パターン13の線幅W13よりも長ければ、これらとともにリム20を形成する絶縁性基材11の断面形状は台形状に限定されず、矩形状であっても良い。この場合、第1導電層パターン12は、絶縁性基材11の一方主面の一部に形成されることになる。
【0049】
また、本実施形態のイオンフィルター1は、電子の移動方向(矢印E)上流側、即ち、絶縁性基材11の一方主面側から見たときに、第2導電層パターン13が第1導電層パターン12に重なるように形成されている。特に、第2導電層パターン13の全ての領域が、第1導電層パターン12に重なるように(第1導電層パターン12の領域に含まれるように)配置され形成されることが好ましい。
【0050】
本実施形態のイオンフィルター1は、特に限定されないが、第1導電層パターン12の線幅W12を、10[μm]以上、40[μm]以下とすることが好ましい。第1導電層パターン12の剥離を防止する観点から第1導電層パターン12の線幅W12を10[μm]以上とすることが好ましい。電子透過率を向上させる観点から第1導電層パターン12の線幅W12を40[μm]以下とすることが好ましい。本実施形態では、第1導電層パターン12の線幅W12を35[μm]とする。さらに、本実施形態では、第1導電層パターン12の線幅W12を30[μm]とすることが好ましい。
【0051】
第2導電層パターン13の線幅W13は、第1導電層パターン12の線幅W12の0.4倍以上0.9倍以下であることが好ましい。第2導電層パターン13の線幅W13は、第1導電層パターン12の線幅W12の0.5倍以上0.7倍以下であることが好ましい。第2導電層パターン13の線幅W13が、第1導電層パターン12の線幅W12の0.4倍未満であると、構造上の強度を保つことができないからである。本実施形態のイオンフィルター1の厚さは、後述のとおり非常に薄い。この薄いシート状のイオンフィルター1は、その主面の位置(面の方向)を一定に保つために張力をかけつつモジュールに固定される。このため、イオンフィルター1には一定の張力が常にかかる。このように、所定の張力をかけてモジュールに固定した状態においては、2導電層パターン13の線幅W13が、第1導電層パターン12の線幅W12の0.4倍未満であると、イオンフィルター1の構造上の強度を保つことが難しくなる。
第1導電層パターン12の線幅W12を最大値である40[μm]とした場合を例にすると、第2導電層パターン13の線幅W13の下限値は、40×0.30=12[μm]、40×0.40=16[μm]となる。発明者らが行った剥離の発生に関するシミュレーションによれば、第2導電層パターン13の線幅W13が細くなるほど、第2導電層パターン13が剥離する可能性が高くなることがわかった。本実施形態では、発明者らが行った剥離の発生に関するシミュレーションに基づいて、第2導電層パターン13の線幅W13を、第1導電層パターン12の線幅W12の0.4倍以下とすることにより、第2導電層パターン13が剥離することを抑制できる。同じく、第2導電層パターン13の線幅W13を、第1導電層パターン12の線幅W12の0.30倍以下とすることにより、第2導電層パターン13が剥離することを抑制できる。他方、第2導電層パターン13の線幅W13が、第1導電層パターン12の線幅W12の0.9倍を超えると、期待する効果を得られない。
【0052】
貫通孔30の第1導電層パターン12側の第1開口部の面積は、貫通孔30の第2導電層パターン13側の第2開口部の面積よりも小さい。貫通孔30を形成する第2導電層パターン側の内側面は、絶縁性基材11の主面(
図4C中xy平面)に対して傾斜角αを有する。貫通孔30の第2導電層パターン側の開口部の縁に沿って、傾斜角αは均一であることが好ましい。特に限定されないが、傾斜角αは40度以上70度以下とすることが好ましい。傾斜角αは50°以上69°以下であることが好ましい。
【0053】
一例ではあるが、絶縁性基材11の厚さが12.5[μm]、第1導電層パターン12の線幅W12が35[μm]、第2導電層パターン13の線幅W13が25[μm]であるときには、貫通孔30の内側面の傾斜角αは69°である。絶縁性基材11の厚さが15[μm]、第1導電層パターン12の線幅W12が35[μm]、第2導電層パターン13の線幅W13が10[μm]であるときには、貫通孔30の内側面の傾斜角αは50°である。
【0054】
本実施形態のイオンフィルター1において、第1導電層パターン12の厚さth1,第2導電層パターン13の厚さth2は特に限定されない。同じ厚さであってもよいし、異なる厚さであってもよい。さらに、第1導電層パターン12の厚さth1,第2導電層パターン13の厚さth2は、5.0[μm]以下であることが好ましい。特に限定されないが、本実施形態の第1導電層パターン12,第2導電層パターン13の厚さは、1〜4[μm]、さらに好ましくは3[μm]以下である。
【0055】
本実施形態のイオンフィルター1において、第1導電層パターン12は、銅、ニッケル、金、タングステン、亜鉛、アルミニウム、クロム、スズ、及びコバルトの物質からなる群のうち、何れか一種以上の物質を含む材料から形成される。第2導電層パターン13は、第1導電層パターン12の表面部分の材料とは異なる材料であって、銅、ニッケル、金、タングステン、亜鉛、アルミニウム、クロム、及びコバルトの物質からなる群のうち、何れか一種以上の物質を含む材料から形成される。
【0056】
金は、その安定性において第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。アルミニウムは、その軽さにおいて第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。イオンフィルター1、ひいてはガス検出器100の重量を軽減できる。ニッケルは、その剛性(強さ)において第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。剛性は、イオンフィルター1の強度向上に貢献する。また、ニッケルは、その寸法安定性において第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。寸法安定性は、イオンフィルター1の平坦性に貢献する。タングステンは、その硬さにおいて第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。硬性は、イオンフィルター1の引っ張り強度の向上に貢献する。強度が高い材料や平坦性が高い金属を使用した場合、薄く、大きなフィルムをフレームなどに貼りつける際に容易に作業が行える。
【0057】
アルミニウム、クロム、コバルト、ニッケルは、銅と比較して多重クーロンの散乱が小さいという観点において、第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。多重クーロンの散乱は、電子の飛跡に影響を与える。電子の飛跡に与えた影響は、後段においてILD測定器によって行われる測定処理の精度に影響を与える。多重クーロンの散乱が小さいことは、検出結果を用いた測定精度の向上に貢献する。
【0058】
金、クロム、亜鉛、コバルト、ニッケル、タングステン、スズは、ガンマ線領域に反応性を有する点において、第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。γ線領域の反応性は、ガンマ線の検出効率を向上させる。ガンマカメラや非破壊検査器のようなガス放射線検出器においてはその検出精度の向上に貢献する。
【0059】
コバルト、ニッケル、クロム、タングステンは、剛性が高い点において、第1導電層パターン12、第2導電層パターン13に適している。薄く、貫通孔が多数形成された構造のイオンフィルター1は変形や断線による影響を受けやすい。剛性が高い点は、イオンフィルター1の強度向上に貢献する。
【0060】
本実施形態では、第1導電層パターン12又は第2導電層パターン13の何れか一方または両方ともを、銅を含む材料で形成する。銅は加工しやすく、本実施形態のように細いリム20と開口率の高いパターンの作製に適しており、入手が容易である。
【0061】
また、イオンフィルター1において、第1導電層パターン12の表面をニッケルにより形成してもよい。また、イオンフィルター1において、第2導電層パターン13の表面をニッケルにより形成してもよい。
【0062】
本実施形態のガス電子増幅器(電子増幅フォイル)2を備えるガス検出器100において、イオンフィルター1は、ガス電子増幅器2に併設される。そして、イオンフィルター1を構成する絶縁性基材11の他方主面は、ガス電子増幅器(電子増幅フォイル)2側に配置され、その絶縁性基材11の一方主面は電極5側に配置される。他方主面に形成された第2導電層パターン13の線幅W13は、一方主面に形成された第1導電層パターン12の線幅W12よりも短く構成される。なお、ガス電子増幅器2は、電子を増幅させるものであれば、電子増幅フォイル2でなくてもよい。
【0063】
ところで、イオンフィルター1の貫通孔30を通過する電子は、貫通孔30の内部に形成された電場に従い、貫通孔30の中央に集められ、所定の方向(
図1に示す矢印Eの方向)に沿って貫通孔30を通過する。ガス分子が存在しなければ、電子は貫通孔30の内部の電場方向に従いドリフトするので、絶縁性基材11に電子が吸収されることなく、理想的な電子透過率を実現できる。
しかし、実際には、ガス分子が存在するため、電子はガス分子と衝突し、電場には従うものの、電場の方向(図中矢印Eで示す)とは略垂直方向成分への移動を伴いながら貫通孔30を通過する。つまり、電子は、ガス分子との衝突により生じる挙動を含んだ電子ドリフト軌道を描いて貫通孔30を通過する。つまり、電子の軌道は、電場の方向Eと平行ではない場合がある。このとき、電子が貫通孔30の内壁を構成する絶縁性基材11に接近すると、電子が絶縁性基材11に吸収される場合がある。電子が絶縁性基材11に吸収されると、検出電極3に到達する電子が減少し、電子透過率が低下するという問題がある。
【0064】
図5Aに、本実施形態のイオンフィルター1の貫通孔30を通過する電子eの挙動モデルを模式的に表現した。電子eは、貫通孔30を通過する際に、ドリフトしながら電場の方向(図中矢印Eで示す)に沿って移動する。本実施形態の貫通孔30の内壁面は、絶縁性基材11の厚さ方向(電場の方向でもある)に対して傾斜している。本実施形態の貫通孔30の開口部の幅(大きさ)は、電場の方向(矢印E)の上流側から下流側に向かって徐々に拡大する。このため、電子eが、電場の方向(図中矢印Eで示す)とは異なる方向へ移動しても、絶縁性基材11に接触する確率は低減される。
【0065】
ちなみに、この電子の挙動モデルは、ポリイミド製の絶縁性基材11の厚さが12〜25[μm]、第1導電層パターン12の厚さが12[μm]、第2導電層パターン13の厚さが12[μm]、第1導電層パターン12の線幅W12が35[μm]、貫通孔30の傾斜角αが50°〜60°のイオンフィルター1を想定した。また、ILC実験におけるTPCの試験環境を、以下の条件で想定した。
使用ガス:Ar-CF4-isoC4H10(95:3:2)
ωτ>10
ドリフト電場:230V/cm
磁場:3.5T
【0066】
比較のために、
図5Bに、内径が共通する寸胴の貫通孔30を通過する電子eの挙動を模式的に表現した。先述したように、電子eは、貫通孔30を通過する際に、ドリフトしながら電場の方向(図中矢印Eで示す)に沿って移動する。本実施形態の貫通孔30の内壁面は、絶縁性基材11の厚さ方向に対して平行である。この貫通孔30の開口部の幅は、電場の方向(矢印E)の上流側から下流側に向かって等しい。
このように、電子eが電場の方向とは略垂直方向成分への移動を伴いながら貫通孔30を通過する場合には、
図5Aに示す本実施形態に比べて、絶縁性基材11に接触する確率は高くなる。
【0067】
上述した課題に対し、本実施形態のイオンフィルター1では、電子増幅フォイル2側に配置された絶縁性基材11の他方主面の第2導電層パターン13の線幅W13を、電極5側に配置された絶縁性基材11の一方主面の第1導電層パターン12の線幅W12よりも短く構成する。
【0068】
本実施形態では、電子の移動方向(矢印E)を基準として、下流側の第2導電層パターン13の線幅W13を上流側の第1導電層パターン12の線幅W12よりも短くすることにより、貫通孔30の内壁面を構成する絶縁性基材11と電子との距離を大きくできるので、電子が絶縁性基材11に吸収されることを低減できる。この結果、計測対象となる電子の透過率を維持乃至向上させることができる。併せて、印加された第1導電層パターン12及び第2導電層パターン13を有するイオンフィルター1は、電子増幅フォイル2において発生した陽イオンが電極5側に移動することをも防止する。
【0069】
以上のとおり、本実施形態のように、第1導電層パターン12の線幅W12が、第2導電層パターン13の線幅W13より長くなるように構成した方が、第1導電層パターン12の線幅W12と第2導電層パターン13の線幅W13とを同一とする場合よりも、電子透過率を向上させ、検出精度をも向上させることができる。
【0070】
次に、
図6に基づいて、本実施形態のイオンフィルター1の製造方法について説明する。
図6においては、製造工程が分かりやすいように、端面図にて表現した。
【0071】
まず、
図6(A)に示すように、板状の絶縁性基材11Aの一方主面(図中上側面)に導電層12Aが形成され、その他方主面(図中下側面)に導電層13Aが形成された基材10Aを準備する。特に限定されないが、本実施形態では、絶縁性基材11Aの厚さが12[μm]〜25[μm]の基材10Aを用いる。本実施形態では、厚さが12.5[μm]のポリイミド製の絶縁性基材11Aを用いる。
【0072】
導電層12Aの厚さth1と導電層13Aの厚さth2は同じであってもよいし、異なる厚さであってもよい。特に限定されないが、本実施形態では、導電層12Aの厚さと導電層13Aの厚さは1[μm]以上であり、15[μm]未満の基材10Aを用いる。本実施形態では、銅製の導電層12Aの厚さth1が3[μm]以上であり、銅製の導電層13Aの厚さth2が3[μm]以下のものを用いる。
【0073】
なお、
図6(A)において示す絶縁性基材11Aは、イオンフィルター1の絶縁性基材11に対応し、導電層12Aはイオンフィルター1の第1導電層パターン12に対応し、導電層13Aはイオンフィルター1の第2導電層パターン13に対応する。
【0074】
本実施形態では、相対的に線幅が細い第2導電層パターン13を先に形成する。
そのため、
図6(B)には、
図6(A)に示す基材10Aの天地を逆にして示す。
図6(B)に示すように、既知のフォトリソグラフィ技術を用いて、導電層13Aの所定領域を除去して所定パターンの第2導電層パターン13を形成する。本実施形態において所定パターンは、ハニカムパターンである。
本実施形態において、第2導電層パターン13の線幅W12を、10[μm]〜40[μm]の範囲の40%以上、90%以下に形成することが好ましい。つまり、4.0[μm]以上、36[μm]以下に形成することが好ましい。
【0075】
次に、絶縁性基材11のうち、所定領域に対応する部分を除去する。
図6(C)に示すように、第2導電層パターン13が形成された一方主面側(図中上側)から波長が500[nm]以下のUV−YAGレーザーを照射する。例えば、第三高調波(波長355[nm])のUV−YAGレーザーを照射する。一方主面側から照射されるレーザーに対し、所定のハニカムパターンに形成された第2導電層パターン13がマスクとなり、所定領域に対応する領域(本例では六角形の領域)の絶縁性基材11が除去される。一方主面側から他方主面側までの絶縁性基材11を除去して、貫通孔を形成する。
【0076】
この絶縁性基材11を除去する工程は、エッチング液を用いて行ってもよい。
図6(B)に示す状態の基材10Aをエッチング液に浸漬すると、第1導電層パターン12及び導電層13Aがマスクとなり、所定領域に対応する領域(本例では六角形の領域)の絶縁性基材11が除去される。
【0077】
また、
図6(C)に示すように本実施形態の製造方法においては、ポリイミドなどの絶縁性基材11の実際の除去工程では、除去部分との境界面にテーパーをつけている。これは例えば、UV−YAGレーザーの出力を強くして、照射時間を短くする、又は、出力を弱くして、照射時間を長くすることにより、絶縁性基材11の主面(
図4Cのxy面)に対する傾斜角αが任意のテーパー面を形成することができる。本実施形態では、貫通孔30の内側面の、絶縁性基材11の主面(
図4Cのxy面)に対する傾斜角αが40°以上80°度以下の角度となるようにレーザーの出力強度、照射時間を調整する。
【0078】
プラズマデスミヤ処理などのデスミア処理を実施する。デスミア処理の手法は、絶縁性基材11の除去の手法に応じて、出願時に知られた手法を適宜に用いる。
【0079】
最後に、所定領域に対応する、絶縁性基材11の他方主面に形成された導電層12Aを、エッチング液を用いて除去して第1導電層パターン12を形成する。エッチング液は、導電層12Aの材料に応じて適宜に選択できる。第1導電層パターン12が銅製である場合には、硫酸と過酸化水素の混合液を使用する。本処理において、エッチング液は、他方主面(第2導電層パターン13)の側から作用させる。また、貫通孔の領域に対応する導電層12Aの領域(除去する領域)については、両方の面側(一方主面側及び他方主面側)から作用させてもよい。貫通孔の領域に対応する導電層12Aの領域は、他の領域に比べて二倍の速さで除去される。
【0080】
その結果、
図6(D)に示すように、一方主面側から他方主面側まで貫通した貫通孔を形成できる。これにより、所定パターン(例えばハニカムパターン)を構成するイオンフィルター1を得ることができる。
【0081】
開口率が75%以上を占める貫通孔30及びその貫通孔30を形成するリム20を、薄いシートに形成するのは容易ではない。本願出願時におけるフォトリソグラフィ技術においてエッチングパターンのずれの原因となる露光精度は+/−10[μm]程度と言われる。また、絶縁性基材11のエッチング処理を正確に実行することは困難であり、例えば、ポリイミドのエッチング処理においては傾斜が生じてしまう。このように、絶縁性基材の両主面に同じパターンを同じ位置に形成し、同じ位置を貫通させることは難しい。しかも、開口率が75%以上であるためには、リム20の太さが40[μm]以下であることが求められるため、このような導電層を形成することは容易ではなかった。
【0082】
本実施形態の製造方法によれば、既知のフォトリソグラフィ技術を用いたエッチングは一方主面側のみにしか行わず、他方主面側は既知のフォトリソグラフィ技術を用いずにエッチングを行うので、露光精度の限界により生じるエッチングパターンのずれという問題が、生じない。これにより、本実施形態に係る、貫通孔30が形成されたイオンフィルター1を作製できる。この製造方法によれば、貫通孔30の開口率を70%以上にすることができる。また、他方主面側の導電層13Aをエッチングする際に、パターン形成のためのレジストを形成する工程を省くことができる。なお、発明者らが製造した100mm x 100mm size 乃至170mm x 220mm sizeのイオンフィルター1は、電子透過率80%を達成した。
【0083】
実施形態のイオンフィルター1の製造方法によれば、電子の移動及びその軌道に影響を与えることなく、陽イオンの移動を抑制できる構造のイオンフィルター1を提供できるとともに、併せて製造コストを低減できる。
【0084】
上記製造方法の別の態様として、絶縁性基材11Aをレーザーにより除去し、デスミア処理をした後の工程を、エッチングレジストを形成する以下の工程に置き換えてもよい。
【0085】
デスミア処理をした後に、絶縁性基材11Aの導電層12Aの表面にエッチングレジストを貼りつける。エッチングレジストは、導電層12Aの表面の全体を覆うものである。エッチングレジストを貼りつけた状態でエッチング処理を行う。エッチング処理により、導電層12Aの所定領域に対応する領域を除去する。その後、エッチングレジストを剥離する。
【0086】
別の態様の製造方法によっても、エッチングは一方主面側のみからしか行わないので、露光精度の限界により生じるエッチングパターンのずれという問題が、生じない。
【0087】
以下、他の態様の製造方法について説明する。
図7Aは、本実施形態のイオンフィルター1が適用可能なILD測定器(ILD)の概要を示す。ILD測定器(ILD)は、バーテックス(Vartex)検出器(VTX)、ガス検出器100(TPC)、カロリーメータ(ECal,HCal)を備える。ILD測定器(ILD)はミューオン検出器を含んでもよい。ILD測定器(ILD)はビームパイプ(BP)を軸とする円筒の外形を有する。その内部には、磁場を形成するコイル(CO)を備える。
【0088】
同図に示すように、本実施形態のイオンフィルター1が設置されるTPC100(中央飛跡検出器)は円筒形状であり、その内部のマルチ・モジュール(MMD)の構成の一例を
図7Bに示す。
図7Bに示すマルチ・モジュール(MMD)の長さは4m〜6m、例えば4m程度である。ILC実験に用いられるTPC100は、測定対象となる粒子との関係から、直径(φ)が2m〜4m、例えば2mと非常に広い面積の読み出し領域が要求される。ILC−TPCでは、
図7Bに示すような、マルチ・モジュール方式を採用し、約170mm×220mmサイズの扇形の単位モジュール(たとえば
図7BにMDで示す部分)を複数並べることにより、広い面積の読み出し領域を実現(提供)する。
【0089】
ちなみに、先述したように、イオンフィルター1は、絶縁性基材11の両面に第1導電層パターン12及び第2導電層パターン13を持つ、開口率の高い多数の貫通穴が形成された板状の部材である。本実施形態のイオンフィルター1は、従来のワイヤーによる陽イオンゲート装置に比べ、フィルタ型(薄板形状)であることから高磁場中でのExB effectを抑制でき、位置分解能低下を抑制できる。また、GEMのようなフオイル型の電子増幅器を採用したマルチ・モジュール方式のガス電子増幅機構においては、フィルム型のイオンフィルター1はモジュールへの組み込みが容易である。イオンフィルター方式の陽イオンゲート装置においても、ワイヤー方式の陽イオンゲート装置においても、検出精度を向上させる観点から一定のテンションを掛けた状態で設置し、その状態を維持する必要がある。イオンフィルター方式の機構一式は、ワイヤー方式の機構一式に一定のテンションを掛けた状態で設置・維持するために必要な複雑な機構を必要としない。本実施形態のイオンフィルター1を用いることにより、それが配置されるTPC100の不感領域の発生を抑制し、検出精度を維持できる。
【0090】
このように、マルチ・モジュール方式を採用するTPC100においては、フィルタ型(薄板形状)のイオンフィルター1を採用することが特に好ましい。ただし、TPC100のマルチ・モジュールMMDにおいて、一のモジュールMDと他のモジュールMDとの境界に関し、マルチ・モジュールMMDの半径rφ方向の境界については特に厳しい制約がある。ILC−TPCの測定精度の要求から、半径rφ方向に沿うモジュールMD間の境界は無い(境界幅がゼロ)ことが好ましくい。
【0091】
マルチ・モジュール(MMD)を構成する単位モジュール(MD)に組み込まれるイオンフィルター1の一例を
図7Cに示す。イオンフィルター1の第1導電層パターン12及び第2導電層パターン13の端部12E,13Eは、上側端部UF、下側端部LF、右側フレームRSF、及び左側フレームLSFの外側の境界に対応する。半径rφ方向に沿うモジュールMD間の境界を構成するのは、右側フレームRSFと左側フレームLSFである。モジュールとして隣接するイオンフィルター1はそもそも別体であるので、モジュールの間隔を小さくするためには、各イオンフィルター1の右側フレームRSFと左側フレームLSFの幅、つまり、イオンフィルター1の右端(又は左端)から第1導電層パターン12、第2導電層パターン13の右端(又は左端)までの距離を小さくすることが求められる。
【0092】
発明者らは、位置分解能の維持の観点から検討及びシミュレーションを行い、右側フレームRSF及び左側フレームLSFの幅は50μm以下であることが好ましいという結論を得た。しかし、本実施形態のイオンフィルター1のリム20の幅(導電層パターンの線幅)は35μmと非常に細く、これと同じくらいに、右側フレームRSF及び左側フレームLSFの幅を50μm以下とすることは容易ではない。イオンフィルター1はTPC100のドリフト領域(電場)を形成するため、特に、上流側に配置されるイオンフィルター1の一方主面側にポリイミドが露出することは避けなければならない。もしも、イオンフィルター1のポリイミドが露出した場合には、ドリフト領域に形成された電場が乱れ、TPC100の位置分解能の低下を招くことになる。つまり、イオンフィルター1の端部においては、ポリイミドを露出させることなく、右側フレームRSF及び左側フレームLSFの幅を細くすることが求められる。その際に、右側フレームRSF及び左側フレームLSFの幅は50μm以下であることが好ましい。
【0093】
ところで、本実施形態のイオンフィルター1はフォトリソグラフィ技術を用いて製造されることから、
図8に示すように、両面銅貼基板(CCL: Copper Clad Laminate)などの基盤10A上に形成されるので、最終的にはイオンフィルター1を基板10Aから切り抜かなければならない。同図に示す例では、イオンフィルター1を型抜くために、イオンフィルター1の周囲の金属層(銅層)が除去されるので、絶縁性基材11がイオンフィルター1の第1及び第2導電層パターン12,13の端部12E,13Eを取り囲むように露出させている。
【0094】
イオンフィルター1を基板10Aから切り抜く切断処理の二つの例を
図9A及び
図9Bに示す。本実施形態の製造方法との対比をしやすくするために、
図6(B)−(D)及び
図10(A)−(C)に倣い、第2導電層13Aを図中上側に示した。
イオンフィルター1を基板10Aから切り抜く処理として、
図9Aに示すように、露出している(金属層が取り除かれている)絶縁性基材11(たとえばポリイミド材)を切断する手法がある。絶縁性基材11を切断する具体的な切断手段70としては、レーザー(70)や金型・カッター(70)などを用いることができる。しかし、この手法では、切断手段70のいかんに関わらず、先述のイオンフィルター1表面におけるポリイミドなどの絶縁性材料の露出を避けることができない。
【0095】
他の切断手法を
図9Bに示す。
図9Bのように、第1導電層12A(又は第2導電層13A)から切断する手法によれば、絶縁性基材11の材料(たとえばポリイミド)を露出させることなく切断することができるが、イオンフィルター1の絶縁性基材11の厚さは12.5μm程度と薄いため、金型やカッター(70)で切断した場合は、イオンフィルター1の第1導電層12A及び第2導電層13Aの銅箔が切断時に延ばされ、延びた銅箔が短絡を引き起こす可能性がある。また、レーザー(70)で切断加工した場合には、銅箔の伸びは発生しないが、レーザーの熱(燃焼)で生じた炭素が絶縁性基材11の側面に付着し、その炭素が短絡を引き起こす危険性がある。
さらに、
図9A及び
図9Bに示す切断加工を実施する場合には、機械精度はもとより、材料の変形や凹凸、加工時の平面度(平滑度)など被切断材料(イオンフィルター1)に起因する加工精度の低下を考慮する必要がある。厚さが35μm程度であり、貫通孔が形成され、主面における開口率が80%である本実施形態のイオンフィルター1を、精度良く、その周囲のフレームの幅が50μm以下となるように基材10Aから切り抜くことは極めて困難である。
【0096】
本実施形態の製造方法は、絶縁性基材11を除去する工程と、導電層12A、13Aをエッチング(除去)する工程とを含む方法により、絶縁性基材(及びその材料、例えばポリイミド)を露出させずに、幅が50μm以下の右側フレームRSF,左側フレームLSFを有するイオンフィルター1を提供する。しかも、本製造方法は、右側フレームRSF,左側フレームLSFの幅についての寸法誤差が+/−10μmという高レベルの寸法精度を実現する。
【0097】
まず、基材10Aにイオンフィルター1を形成する。イオンフィルター1は、
図6(A)〜
図6(D)に基づいて先に説明した製造方法を用いて作成する。
本実施形態の製造方法の概要を説明する。なお、具体的な内容は、前述の説明を援用する。
図6(A)に示すように、絶縁性基材11と、絶縁性基材11の一方主面に形成された第1導電層12Aと、絶縁性基材11の他方主面に形成された第2導電層13Aと、を備えた基材10Aを準備する。いわゆる両面銅貼基板を準備する。
【0098】
図6(B)に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、ハニカム模様などの所定のパターンを第2導電層13Aにパターニングし、第2導電層13Aの第2所定領域にエッチング液を作用させ、第2所定領域を除去することにより所定の第2線幅を有する第2導電層パターン13を形成する。エッチングにより除去された領域が貫通孔30、開口部31を形成し、残された領域がリム20を構成する(
図4A−
図4Cを参照)。
【0099】
次に、レーザー照射を行う。
図10(A)及び
図6(C)に示すように、他方主面側からレーザー光を照射する。別々の図面を用いて説明するが、本製造方法では、少なくとも二つの領域にレーザー光を照射する。本実施形態の製造方法では、(1)第2導電層パターン13の形成領域、及び(2)第2導電層13Aの端部13Eに沿うその外側領域Qに、レーザーを照射する。第2導電層パターン13の形成領域と外側領域とは連続しているので、イオンフィルター1が形成された基材10Aの全体にレーザーを照射するようにしてもよい。レーザーの照射により、絶縁性基材11のうち所定領域に対応する部分を除去する。レーザーにより除去された領域が後工程を経て貫通孔30、開口部31を形成し、残された領域が後工程を経てリム20を構成する(
図4A−
図4Cを参照)。また、このレーザーの照射工程により、外側領域Qにおいて露出されている絶縁性基材11が除去される。本処理の後の基材10Aの端部を
図10(B)に示す。なお、この工程は、第2導電層パターン13を形成した後であれば、第2導電層パターン13の形成処理の直後に行ってもよいし、第1導電層パターン12を形成した後に行ってもよい。
【0100】
その後、
図6(C)に示すように、少なくとも他方主面側(第2導電層13A側)から、その裏面側に形成された第1導電層12Aにエッチング液を作用させることにより、第1所定領域を除去して第2線幅よりも太い所定の第1線幅を有する第1導電層パターン12を形成する。これとともに、エッチング液を作用させた、基材10Aの端部において、端部13Eの外側領域Qの第1導電層12Aを除去する。端部13Eの外側領域Qの第1導電層12Aが除去された基材10Aを
図10(C)に示す。
発明者らの実験によれば、半径rφ方向に沿う右側フレーム/左側フレームの幅(太さ)が45μmのイオンフィルター1を得ることができた。しかも、繰り返しの実験において、寸法誤差が+/−10μmであった。
【0101】
このように、イオンフィルター1を最終的に基材10Aから切り出す切断工程において、絶縁性基材11を除去する工程と、導電層12A、13Aをエッチング(除去)する工程とを組み合わせることにより、絶縁性基材11(及びその材料、例えばポリイミド)を露出させることなく、幅が50μm以下の右側フレームRSF,左側フレームLSFを有するイオンフィルター1を提供できる。TPC100の検出精度の観点から、複数のモジュールに利用される複数のイオンフィルター1を均質に製造することが求められる。本実施形態の製造方法によれば、寸法精度が+/−(プラス又はマイナス)10μmという高レベルの寸法精度でフレーム幅が50μm以下のイオンフィルター1を製造できる。しかも、イオンフィルター1の第1及び第2導電層パターン13,12の形成工程における、レーザー照射工程、及びエッチング工程を利用して切断工程を行うので、新たな工程を追加することなく上記効果を得ることができる。
【0102】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。