【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の教示によれば、前記目的は、以下の重量%の合金化成分、
3.6%≦Mg≦6%、
Si≦0.4%、
Fe≦0.5%、
Cu≦0.15%、
0.1%≦Mn≦0.4%、
Cr<0.05%、
Zn≦0.20%、
Ti≦0.20%、
を有し、残りはAlと、個別で最大0.05重量%、全体で最大0.15重量%の不可避の不純物とであるアルミニウム合金からアルミニウムストリップまたは薄板を製造するための方法であって、
この方法は、以下のステップ、
− 指定されたアルミニウム合金からなる圧延インゴットを鋳造するステップと、
− 圧延インゴットを480℃から550℃で少なくとも0.5時間均一化するステップと、
− 圧延インゴットを280℃から500℃の温度で熱間圧延して熱延ストリップとするステップと、
− 熱間圧延後のアルミニウム合金ストリップを最終中間焼鈍の直前の圧延度10%から45%で冷間圧延するステップと、
− 冷間圧延されたアルミニウム合金ストリップに対して、冷間圧延されたアルミニウム合金ストリップが中間焼鈍後に再結晶した微細構造を有するように、少なくとも最後の中間焼鈍を300℃から500℃で行うステップと、
− 中間焼鈍されたアルミニウム合金ストリップを30%から60%の圧延度で最終厚さに冷間圧延するステップと、
−
アルミニウム合金ストリップを
コイルとして最終厚さ
で逆焼鈍するステップであって、
190℃〜250℃の金属温度
で少なくとも0.5時間、
アルミニウム合金ストリップを焼鈍し、アルミニウム合金ストリップの微細構造中の回復プロセスにより成形特性の改善をもたらす、逆焼鈍するステップと、
を含む方法によって実現される。
【0011】
次に、さらなる加工において、薄板をアルミニウム合金ストリップの長さに切ることができる。本発明によって用いられるアルミニウム合金の3.6重量%から6重量%、好ましくは4.2重量%から6重量%、特に好ましくは4.2重量%から5.2重量%というマグネシウム含有率は、良好な成形特性を有するアルミニウム合金が、同時に高い強度値、特に降伏強度値R
p0.2および引張強度値R
mを実現する事実に寄与している。望ましくない時効硬化およびSiの析出の影響は、Si含有率を最大0.4重量%に制限することによって軽減される。Fe含有率は、アルミニウム合金の特性が悪影響を受けないように、最大0.5重量%に制限されるべきである。これは、最大0.15重量%に制限されるべきである。銅含有率にもあてはまるマンガンは、強度の増加という結果を生じ、粒界腐食に対する抵抗性の改善という結果も生じる。しかし、マンガン含有率は、制限されなければならない。さもないと逆焼鈍されたアルミニウム合金ストリップの成形特性が悪影響を受けるからである。さらに、最後の中間焼鈍時の高すぎるMn含有率は、20μm未満の平均結晶粒直径という結果を生じる。この理由で、Mn含有率は、0.1重量%から0.4重量%であるべきである。クロムは、最小量でもすでに成形特性、たとえば均一伸びA
gまたは破断後面積減少百分率Zを減少させる結果を生じ、そのため成形特性が悪化する。さらに、Crも中間焼鈍後の小さな結晶粒サイズという結果を生じる。この点で、クロム含有率は、0.05重量%未満、好ましくは0.01重量%未満の値に制限されるべきである。ここで個別に挙げられていないZrについても普通、合金に加えられなければならないので、原則として同じことがあてはまる。亜鉛は、アルミニウム合金ストリップの腐食抵抗性に対して負の影響を及ぼすことが可能であり、したがって0.2重量%に限定されるべきであるチタンは、通常、結晶粒微細化剤として、アルミニウム合金の連続鋳造時にたとえばTiホウ化物ワイヤまたはロッドの形で加えられる。しかし、過剰なTi含有率は、再び成形特性に負の影響を及ぼし、そのため最大0.20重量%というTi含有率への制限が望ましい。
【0012】
圧延インゴットを480℃から550℃で少なくとも0.5時間鋳造および均一化することによって、非常に均一な合金化成分の分布を有する熱間圧延用の圧延インゴットが提供されることができる。280℃から500℃の温度範囲での熱間圧延によって、熱間圧延の終りに均一な再結晶した熱延ストリップが提供される。最後の中間焼鈍前に、アルミニウム合金ストリップの冷間圧延時の圧延度は、最後の中間焼鈍前の圧延度が中間焼鈍時に再結晶時の結晶粒構造の形成に決定的に影響を及ぼすので、本発明によれば10%から45%である。圧延度が高すぎる場合、300℃から500℃の温度での最後の中間焼鈍時の再結晶時に、20μm未満の平均結晶粒直径、すなわち平均結晶粒サイズを有する比較的細かな微細構造が製造される。しかし、減少した結晶粒直径は、アルミニウム合金ストリップの腐食挙動に対して負の影響を及ぼす。中間焼鈍前の冷間圧延時の10%から45%の低い圧延度では、最後の中間焼鈍時に本発明による組成物で20μmを超える平均結晶粒直径が製造され、このことはアルミニウム合金ストリップの腐食抵抗性に良い方向に影響を及ぼす。そのような中間焼鈍は、最終厚さへの圧延度30%から60%で行われる最後の冷間圧延ステップに再結晶した微細構造が提供されることを可能にする。最終圧延度は、軟化焼鈍された変化形と異なり、所望の利用のために歪み硬化によって製造されるアルミニウム合金ストリップの降伏強度を、たとえば後続の最終焼鈍後に190MPaを超える降伏強度に、連続的に増加させることを可能にする。190℃から250℃の金属温度で少なくとも0.5時間のコイル形のアルミニウム合金ストリップの最終逆焼鈍は、アルミニウム合金ストリップの微細構造中の回復プロセスにより成形特性、特に均一伸びA
gおよび破断後面積減少百分率Zの改善という結果を生じる。しかし、軟質状態と比べて高い降伏強度R
p0.2が、少なくとも大部分維持される。この製造方法では、それによって、一方ではたとえば車両コンポーネントに容易に成形することができ、他方では未成形区域において高い降伏強度を提供するアルミニウム合金ストリップが提供されることができる。製造されたアルミニウム合金ストリップは、同時に、粒界腐食に抵抗性でもあり、簡単な製造プロセスの所為で従来用いられているAA6XXX合金ストリップよりコスト効率がよい。
【0013】
本発明による方法の第1の実施態様によって、最後の中間焼鈍の前の冷間圧延時の圧延度が20%から30%に制限された場合、最後の中間焼鈍の後にアルミニウム合金ストリップ中により大きな結晶粒直径が提供され、したがって、逆焼鈍されたアルミニウム合金ストリップにおける粒界腐食への抵抗性が改善される。
【0014】
本方法の次の実施態様によれば、最後の中間焼鈍の後の最終厚さへの冷間圧延時の圧延度が40%から60%であった場合、降伏強度R
p0.2は、成形特性、たとえば均一伸びA
gまたは破断後面積減少百分率Zが悪影響を受けることなく、200MPaを上回る値に設定されることができる。
【0015】
すでに前に説明されているように、本発明による方法は、アルミニウム合金ストリップおよび薄板が車両コンポーネント、たとえばボディー・イン・ホワイト(BIW)コンポーネントへの成形に提供されることを可能にする。本方法のさらに別の実施態様によれば、アルミニウム合金ストリップが0.5mmから5.0mmの厚さに、好ましくは1.0mmから3.0mmの最終厚さに冷間圧延された場合、車両コンポーネント用の成形部品が非析出硬化性アルミニウム合金から製造されることができ、そのことが、自動車工学における軽量化の潜在力をコスト効率のよい方法で実現することができる。
【0016】
本方法のさらに別の実施態様によれば、アルミニウム合金ストリップの逆焼鈍時の温度は、220℃から240℃である。逆焼鈍時により高い温度を選ぶことにより、回復プロセスを通じて均一伸びA
gおよび破断後面積減少百分率Zの増加を有するアルミニウム合金ストリップの成形性が、プロセス信頼性のある方法で提供される。220℃から240℃という高い逆焼鈍温度も、なんらかの操作中の熱応力の場合に、本発明によるアルミニウム合金ストリップから製造されたコンポーネントの改善された長期安定度という結果を生じる。
【0017】
本発明の第2の教示によれば、上記目的は、好ましくは本発明による方法を用いて製造され、以下の合金化成分、
3.6%≦Mg≦6%、
Si≦0.4%、
Fe≦0.5%、
Cu≦0.15%、
0.1%≦Mn≦0.4%、
Cr<0.05%、
Zn≦0.20%、
Ti≦0.20%、
を有し、残りはAlと、個別で最大0.05重量%、全体で最大0.15重量%の不可避の不純物とであるアルミニウム合金であって、
アルミニウム合金ストリップ
または薄板は、
190MPaを超える降伏強度R
p0.2と、
少なくとも14%の均一伸びA
gと、
50%を超える破断後面積減少百分率Zと、
ASTM G67による腐食試験において130℃で17時間の事前の鋭敏化熱処理の後に15mg/cm
2未満の質量損失と、
を有するアルミニウム合金からなる、冷間圧延および逆焼鈍されたアルミニウム合金ストリップまたは薄板によって実現される。
【0018】
190MPaを超える降伏強度を有し、少なくとも14%の均一伸びA
gおよび50%を超える破断後百分率面積減少Zを有すると同時に、130℃で17時間の事前の鋭敏化熱処理後に15mg/cm
2未満の質量損失を有するASTM G67による腐食試験における抵抗性を有する、上記で特定されたアルミニウム合金組成をアルミニウム合金ストリップまたは薄板に提供すると、今まで析出硬化性材料、特にAA6XXX型アルミニウム合金からなるアルミニウム合金ストリップに留保されたさらなる利用可能性を、非析出硬化性アルミニウム合金ストリップにもたらすことが明らかになっている。所定のアルミニウム合金組成を用いると、190MPa超から300MPaの降伏強度R
p0.2と14%から18%の均一伸びA
gおよび50%超から70%の破断後百分率面積減少Zとを上記の腐食抵抗とともに得ることができると予想される。後で示される例示的実施態様は、190MPaを超え、最大270MPaの降伏強度R
p0.2を有する一方で、最大16.6%の均一伸びA
gおよび最大62%の破断後百分率面積減少Zに起因して良好な成形挙動を保持するとともに粒界腐食への抵抗性が存在する、本発明によるアルミニウム合金ストリップまたは薄板を示している。予想値によれば、降伏強度値は、得られた均一伸びA
gおよび破断後百分率面積減少Zの値と逆に挙動する。これらの特定のアルミニウム合金ストリップは、それによってさらなる利用可能性、特に、車両コンポーネント、特にBIWコンポーネントを製造するためのコスト効率よく製造可能なアルミニウム合金ストリップおよび薄板を提供する可能性をもたらす。
【0019】
本発明によるアルミニウム合金ストリップ
または薄板のさらに別の実施態様によれば、アルミニウム合金ストリップまたは薄板のMg含有率が4.2重量%から6重量%、好ましくは4.2重量%から5.2重量%の場合、最後の冷間圧延後の最大の降伏強度をアルミニウム合金ストリップまたは薄板に提供することができる。
【0020】
本発明によるアルミニウム合金ストリップ
または薄板のさらに別の実施態様によれば、Mn含有率が0.1重量%から0.3重量%に制限されれば、アルミニウム合金ストリップまたは薄板の強度および腐食抵抗性へのマンガンの正の効果にもかかわらず、同時に良好な成形特性、すなわち均一伸びA
gおよび破断後百分率面積減少Zについて非常にプロセス信頼性のある方法で高い値を得ることができる。さらに、これらのMn含有率では、最後の中間焼鈍時に、アルミニウム合金ストリップまたは薄板の腐食抵抗性に良好に影響を及ぼす、20μmを超える平均結晶粒直径をプロセス信頼性のある方法で設定することができる。
【0021】
前にも説明したように、クロム含有率は、非常に小さな濃度でも成形挙動との関係でアルミニウム合金の特性に悪影響を及ぼし、最後の中間焼鈍の後の結晶粒サイズを制限し、そのため、アルミニウム合金ストリップまたは薄板のさらに別の実施態様によれば、クロム含有率は、0.01重量%未満に制限される。これは、ジルコニウムおよびスカンジウムについても同様にあてはまるが、ジルコニウムおよびスカンジウムは、あったとしてもアルミニウム合金中に痕跡量しか存在しない。
【0022】
さらに別の実施態様によれば、アルミニウム合金ストリップまたは薄板が、合金化成分の割合について以下の制約、
Si≦0.2重量%、
Fe≦0.35重量%、または
Zn≦0.01重量%、
の1つ以上を有する場合、アルミニウム合金ストリップまたは薄板の特性に対する前記合金化成分の負の影響は、除外することができる。
【0023】
本発明によるアルミニウム合金ストリップまたは薄板のさらに別の実施態様によれば、アルミニウム合金ストリップ
または薄板は、以下の特性、
− 200MPaを超える降伏強度R
p0.2、
− 少なくとも15%の均一伸びA
g、
− 少なくとも55%の破断後百分率面積減少Z、または
− ASTM G67による腐食試験において130℃で17時間の事前の鋭敏化熱処理後に10mg/cm
2未満の質量損失、
の1つ以上を有する。
【0024】
降伏強度、均一伸び、破断後百分率面積減少および腐食試験における挙動といった特定の特性を設定することによって、アルミニウム合金ストリップはさらに、種々の分野の利用に適応されるように製造することができる。たとえば、200MPaを超えるより高い降伏強度は、アルミニウム合金ストリップの最終厚さの低下、ひいてはそれから製造される成形部品、たとえば車両コンポーネントのさらなる重量の低下を可能にすることができる。少なくとも15%への均一伸びの増加および少なくとも55%への破断後百分率面積減少の増加は、本発明によるアルミニウム合金ストリップまたは薄板がより複雑な成形プロセスにおいて用いられることが可能であるという結果を生じ、たとえば複雑に設計された成形部品が少ない成形ステップで製造されることができる。ASTM G67による腐食試験における粒界腐食に対する腐食抵抗性の向上は、粒界腐食に起因する不良に対するアルミニウム合金ストリップから製造された成形部品の信頼性を向上させる。
【0025】
さらに別の実施態様によれば、アルミニウム合金ストリップまたは薄板が0.5mmから5.0mm、好ましくは1.0mmから3.0mmの厚さを有する場合、AA6XXX型析出硬化性アルミニウム合金からなる成形部品と同様な特性を有する成形部品がアルミニウム合金ストリップから製造されることができる。
【0026】
この実施態様によれば、特に1.0mmから3.0mmの厚さ範囲のアルミニウム合金ストリップまたは薄板は、これまでに用いられた軟化焼鈍された変種と比べて大幅に向上した降伏強度に起因して、顕著に増加した分野の利用を可能にする。
【0027】
最後に、上記の目的は、自動車の構造部品または車両コンポーネント、特にBIWコンポーネントの製造のための、本発明によるアルミニウム合金ストリップまたは薄板の使用によっても実現される。本発明によるアルミニウム合金ストリップは、非常に高度の変形を受けることができるが、同時にアルミニウム合金ストリップまたは薄板の材料厚さを小さくするために高い降伏強度を提供し、それでもASTM G67による腐食試験において非常に良好な腐食挙動を有する成形部品が対応する使用のために製造されることを可能にするからである。
【0028】
本発明は、下記において例示的実施態様を図とともに用いてより詳細に説明される。