特許第6481103号(P6481103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6481103油分含有排水の浄化剤の製造方法、および該浄化剤を用いた排水の浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481103
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】油分含有排水の浄化剤の製造方法、および該浄化剤を用いた排水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20190304BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20190304BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B01J20/02 Z
   B01J20/30
   C02F1/28 A
   C02F1/28 N
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-200365(P2014-200365)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68016(P2016-68016A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(73)【特許権者】
【識別番号】397014938
【氏名又は名称】東京カリント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇
(72)【発明者】
【氏名】西村 昇
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−370023(JP,A)
【文献】 特開2006−239583(JP,A)
【文献】 特開2013−192970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C02F 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油含有排水を浄化するための貝殻を用いた浄化剤の製造方法であって、
該貝殻はマガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキから成る群から選ばれるが1種単独でも良いし、複数混合されたものでも良くて、該貝殻を粉砕しないで使用し、
処理対象の植物油は米油、キャノーラ油、コーン油、棉実油、ベニバナ油、大豆油、ピーナッツ油、オリーブ油、ひまわり油から成る群から選ばれる1種単独もしくは2種以上を含む植物油であり、
前記貝殻を水で洗って塩化ナトリウム分含有量を1.0wt%以下とする前処理工程と、
濃度0.91規定以上3.42規定以下の硫酸水溶液を前記貝殻1kgあたり7.9リットル以上13.0リットル以下加え、温度10℃以上50℃以下で、24時間以上340時間以下希硫酸処理する酸処理工程と、
清浄な水を散布するもしくは、清浄な水に浸して洗浄する洗浄工程と、
を含む植物油含有排水を浄化するための前記貝殻を用いた浄化剤の製造方法。
【請求項2】
貝殻を用いた浄化剤による植物油含有排水中の植物油の除去方法であって、
該貝殻はマガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキから成る群から選ばれるが1種単独でも良いし、複数混合されたものでも良いが、該貝殻を粉砕しないで使用し、
処理対象の植物油は米油、キャノーラ油、コーン油、棉実油、ベニバナ油、大豆油、ピーナッツ油、オリーブ油、ひまわり油から成る群から選ばれる1種単独もしくは2種以上を含む植物油であり、
前記貝殻を水で洗って塩化ナトリウム分含有量を1.0wt%以下とする前処理工程と、
濃度0.91規定以上3.42規定以下の硫酸水溶液を前記貝殻1kgあたり7.9リットル以上13.0リットル以下加え、温度10℃以上50℃以下で、24時間以上340時間以下希硫酸処理する酸処理工程と、
清浄な水を散布するもしくは、清浄な水に浸して洗浄する洗浄工程とから製造した浄化剤を使用し、
前記植物油を含むn−ヘキサン抽出物価10,000mg/リットル以下の植物油含有排水1リットルあたり2g以上30g以下の前記浄化剤を加え、その直後のpHが3.2以上5以下であることを特徴とする前記貝殻を用いた浄化剤による植物油含有排水中の植物油の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製菓工場などの食品工場から排水される植物油が含有または分散された排水を浄化するための浄化剤とその製造方法、および該浄化剤を用いた浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(製菓工場における排水処理の現状と課題)
製菓工場を含む食品工場では多種類の油菓子が製造されている。特にえびせん,かりんとう,各種ドーナツ,ポテトチップス,揚げあられ,揚げせんべいなどは代表的な油菓子であり、製造工程で様々な食用油が使用されている。これらの工場排水には油性液体と水性液体が混在する場合が多い。製菓工場を含む食品工場は中小事業者によって営まれるものも多く、排水処理に高価で複雑な排水処理装置と工程を導入することが、経済面、用地確保面から難しい事例も少なくない。事業者によっては、産業廃棄物処理を委託するところも散見される。上述のような油性液体と水性液体が混在する油分混入排水をより簡便に行う技術が強く求められている。
【0003】
これまで、油水分離して排水浄化する技術には各種技術が公開されている。カルシウム系材料を活用したものに関する例として、特許文献1では油分混入排水に親油性表面処理した無機物質微粒子を添加すると油層と水槽の2層に分離する技術が、特許文献2ではカキ貝殻表面に生息する微生物を活用した浄化促進剤に関する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−198600号公報
【0005】
【特許文献2】特開2003−390862号公報しかしながら、浄化剤の親油性表面処理を要すること、排水処理が微生物に頼り吸着材の管理に条件があることなどのため、中小事業者の排水浄化処理において難しい面があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、えびせん,かりんとう,各種ドーナツ,ポテトチップス,揚げあられ,揚げせんべいなどの油菓子の内で、特にかりんとうおよび各種ドーナツなどの油菓子の製造工程で排出される食用の植物油を含む排水から、食用油分を吸着除去する排水浄化剤および該浄化剤を用いた排水浄化方法に関するもので、入手が容易かつ、コストが低廉な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らが上述の課題を克服すべく鋭意検討した結果、(1)貝殻を硫酸で処理して得られることを特徴とする植物油含有排水の浄化剤であり、(2)貝殻を前処理工程、酸処理工程、および洗浄工程を経て得られることを特徴とする植物油含有排水の浄化剤の製造方法であり、(3)マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキから成る貝殻の群から選ばれる1種単独若しくは複数混合されたものであることを特徴とする(1)記載の植物油含有排水の浄化剤の製法であり、(4)マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキから成る貝殻の群から選ばれる1種単独若しくは複数混合されたものであることを特徴とする(2)記載の植物油含有排水の浄化剤の製法であり、(5)貝殻を前処理工程、酸処理工程、および洗浄工程を経て処理する際の、酸処理工程において、濃度0.91規定以上3.42規定以下の硫酸水溶液を貝殻1kgあたり7.9リットル以上13.0リットル以下加え、温度10℃以上50℃以下で、24時間以上340時間以下希硫酸で処理することを特徴とする植物油含有排水の浄化剤の製法であり、(6)マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキから成る貝殻の群から選ばれる1種単独若しくは複数混合されたものであり、該貝殻を前処理工程、酸処理工程、および洗浄工程を経て処理する際の、酸処理工程において、濃度0.91規定以上3.42規定以下の硫酸水溶液を貝殻1kgあたり7.9リットル以上13.0リットル以下加え、温度10℃以上50℃以下で、24時間以上340時間以下希硫酸で処理することを特徴とする植物油含有排水の(2)記載の植物油含有排水の浄化剤の製法であり、(7)米油、キャノーラ油、コーン油、棉実油、ベニバナ油、大豆油、ピーナッツ油、オリーブ油、ひまわり油から成る群から選ばれる1種単独もしくは2種以上を含むn−ヘキサン抽出物価10,000mg/リットル以下の油分含有排水1リットルあたり2g以上30g以下の(1)、乃至(4)の内の何れか1項に記載の浄化剤を加え、その直後のpHが3.2以上5以下であることを特徴とする油分含有排水の除去方法に関する発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、貝殻を所定の希硫酸処理を行って調製して得た浄化剤をかりんとうおよび各種ドーナツなどの油菓子製造工程の植物油分含有排水に添加し撹拌することによって、排水を浄化することができ、食品工場周辺の環境改善に大いに貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に開示するが、本発明の実施態様を詳細に説明するためのものであり、発明の範囲を限定的に捉えることを目的としていない。
【0010】
(浄化剤)
(原料として好適な貝殻)
本発明で好ましく取り扱うことができる貝殻の種類は、アサリ、ハマグリ、バカガイ、ホタテガイ、ヤマトシジミ、セタシジミ、マシジミ、マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキなどが好ましく、ホタテガイ、マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキがより好ましく、マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキがさらに好ましく、マガキ、およびイワガキが最も好ましい。これらの貝殻は1種単独でも良いし、複数が混合されていても良い。以下、マガキ、イワガキ、スミノエカキ、シカメガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキおよびヒラガキ等の貝殻については単にカキ殻と記す。
【0011】
(製法工程の構成)
本発明の食用植物油含有排水の浄化に効果を有する浄化剤は、上記の貝殻を原料とし、前処理工程に続く、酸処理工程と清浄な水による洗浄工程および乾燥工程からなる。なお、乾燥工程は必須な工程ではない。以下に各工程について詳細に記述する。
【0012】
(前処理工程)
貝殻を原料とする浄化剤は以下の工程により調製することができる。貝殻に塩分をなるべく含まない水を掛け、石、ゴミ、食塩などを除く。この時、浄化剤原料の貝殻の塩化ナトリウム分含有量は、1.0wt.%以下が好ましく、0.8wt.%以下がより好ましく、0.5wt.%以下が最も好ましい。この範囲を超過すると、排水中の油分除去能が低下する恐れがある。なお、貝殻は粉砕しなくて良い
【0013】
(酸処理工程における希硫酸水溶液の好適な濃度)
濃度3モル/リットルの硫酸(6規定硫酸)に清浄な水を加えて希硫酸を調製する。水で希釈後の硫酸の規定濃度は、0.91規定以上3.42規定以下が好ましく、0.97規定以上1.71規定以下がより好ましく、1.03規定以上1.48規定以下が最も好ましい。この濃度範囲を外れると排水中の油分除去能が不充分となりやすい傾向が見られる。
【0014】
(酸処理工程における希硫酸水溶液の好適な温度)
希硫酸の温度は10℃以上50℃以下が好ましく、10℃以上45℃以下がより好ましく、12℃以上40℃以下が最も好ましい。希硫酸の温度が好適な温度未満では油分除去能が不充分になりやすく、この温度を超過するとヒュームが発生しやすくなる場合が認められるため好ましくない。ここでいう清浄な水とは、通常の飲用に適する水道水、井戸水、雨水などを指す。
【0015】
(酸処理工程における貝殻1kgあたりの希硫酸水溶液の所要量)
浄化剤の調製に要する希硫酸量は貝殻1kgあたり、7.9リットル以上13.0リットル以下が好ましく、8.3リットル以上11.1リットル以下がより好ましく、9.5リットル以上10.5リットル以下が最も好ましい。この範囲未満では得られる浄化剤の油除去能が不充分となる。この範囲を超過しても浄化剤の性能には影響されないが、未反応の希硫酸量が増加するため経済的な効果が希薄になるため好ましくない。
【0016】
(好適な撹拌時間)
撹拌時間は24時間以上340時間以下が好ましく、48時間以上250時間以下がより好ましく、70時間以上180時間以下が最も好ましい。この範囲未満では、貝殻表面に微生物や雑菌が残存する虞があり、この範囲を超過しても酸処理効果が飽和し、延長するための技術的な意義が希薄になるため好ましくない。撹拌には、プロペラや撹拌子などを配し機械的に撹拌することはもとより、ブロワを用いて空気泡を発生させることによる撹拌も好ましい。希硫酸水溶液と貝殻の反応は遅いため、撹拌の目的は希硫酸を貝殻に満遍なく接触させることである。よって、希硫酸水に流れ(動き)があればよく、強く撹拌することは必須ではない。
【0017】
(好適な酸処理工程を経た後の好ましい粒子径)
所定温度域にある希硫酸に、散水によって石、ゴミ、食塩などを除去した貝殻を投入し撹拌すると貝殻が顆粒状に崩れ始めるようになる。貝殻の粒子径が好適な範囲になるまで、上述の好適な撹拌時間の範囲にて撹拌操作を継続する。この際、貝殻の粒子径については、3.5メッシュ以上26メッシュ以下が好適であり、4メッシュ以上14メッシュ以下がより好適であり、5.5メッシュ以上10メッシュ以下が最も好適である。粒子径がこの範囲を外れた場合、メッシュ値が大きすぎる(粒子が小さすぎる)と後述の食用油含有排水を処理する際に、浄化剤の沈降が遅くなり浄化能力が飽和する可能性があり、逆にメッシュ値が小さすぎる(粒子が大きすぎる)と、浄化剤投入量が増加する傾向が高まってくるため好ましくない。
【0018】
(洗浄工程)
浄化剤の製造における最終工程は洗浄工程である。酸処理工程を経た浄化剤原料については清浄な水を散布するもしくは、清浄な水に浸して洗浄する。ここでいう清浄な水とは、飲用に適する水道水、井戸水、および雨水などを指す。洗浄工程は5℃以上60℃以下で行われることが好ましく、5℃以上50℃以下で行われることがより好ましく、5℃以上45℃以下で行われることが最も好ましい。本洗浄工程においては洗浄工程水のpH値が5以上6.5以下になるまで行われることが望ましい。洗浄工程に要する時間は浄化剤原料の量によって一概には決まるものではないが、12時間以下で行われることが生産効率の観点から望ましい。
【0019】
(乾燥工程)
洗浄後の浄化剤の乾燥工程は必須ではない。乾燥工程を経ずに排水処理に用いても良いし、乾燥工程を経ても良い。つまり、乾燥の有無による排水浄化性能の差はない。乾燥工程に関しては工場内で浄化剤を製造し、オンサイトで使用する場合などは省略した方が低コストであり好ましい。浄化剤の製造と使用場所が離れているような場合には、水分を除いた方が軽量化するため望ましい。温暖な地域では、長期に保管する場合には雑菌等の繁殖の可能性も完全には否定できないので80℃を超える温度または、直射日光に当てながら乾燥することが望ましい。このように使用する環境に応じて、乾燥工程を省くか、行うかの選択をすれば良い。
【0020】
(酸処理した浄化剤の特徴、効果)
以上述べてきた工程を経て、浄化剤が得られる。該浄化剤によると、排水中の食用植物油分除去率が大幅に改善する。これに加えて、元来貝殻に生息している微生物、雑菌が死滅し排水処理槽などにおける腐敗や黴の発生が抑制される効果が大きいこと、得られる浄化剤貝殻が顆粒状になっていることによって排水管理が非常に容易となる特徴がある。このように、本浄化剤によれば、本来の目的である食用植物油含有排水の浄化能の改善に加え、排水管理など取扱性の改善効果も極めて高い。
【0021】
以下に、本発明の浄化剤を用いた食用植物油含有排水の浄化方法を詳細に説明する。
(油分含有排水の浄化方法)
(浄化対象の油分含有排水中に含まれる油脂類)
油分含有排水中の油脂類は食用植物油である。排水が含む食用植物油は米油、キャノーラ油、コーン油、棉実油、ベニバナ油、大豆油、ピーナッツ油、オリーブ油、ひまわり油が好ましく、米油、ベニバナ油、コーン油、大豆油、キャノーラ油がより好ましい。これらの内、1種もしくは複数種含有していても良い。
【0022】
特に、イ:米油単独、ロ:米油とベニバナ油の混合油、およびハ:米油と大豆油の混合油分を含む排水浄化に最適である。なお、本発明において機械油、工作油、燃料油、潤滑油、作動油および切削油などの鉱油類を主に含む排水は本発明の対象ではない。
【0023】
(浄化対象排水中に許容される糖分の上限)
対象排水中には7wt.%を超過しない範囲で糖分の混入を妨げない。ここでいう糖分は、かりんとうや各種ドーナツなどの油菓子製造に用いられるもので、例えばブドウ糖、ショ糖、果糖、これらの混合物などである。本濃度範囲を超過しても、油分除去効果にはほとんど影響されないが、貯水槽内の腐敗などが進行しやすくなり、排水設備の管理が煩雑になる可能性が考えられる。
【0024】
(浄化対象排水に許容される食用植物油量)
対象となる排水に含まれる食用植物油の含有量はノルマルヘキサン(n−C14)抽出物価として、10,000mg/リットル以下が好ましく、8,000mg/リットル以下がより好ましく、6,500mg/リットル以下が最も好ましい。上記を超過する油分を含有する排水を扱う場合には、単位時間当たり浄化能力が低下するため、設備が大型化する傾向が懸念される。
【0025】
(排水浄化に要する好適な浄化剤投入量)
排水1リットル当たりの浄化剤投入量は、2g/リットル以上30g/リットル以下が好ましく、5g/リットル以上20g/リットル以下がより好ましく、7g/リットル以上15g/リットル以下が最も好ましい。この範囲未満では排水浄化が不充分になる場合が見られ始める。この範囲を超過しても排水浄化には影響されないが、スラリー濃度が高くなるため設備の保守頻度が高くなり技術的な意義が希薄になる。
【0026】
(排水浄化中の好適な水素イオン濃度)
浄化剤を投入直後の油分含有排水の浄化処理中の水素イオン濃度はpH3.2以上5以下が好ましく、pH3.2以上4.5以下がより好ましく、pH3.5以上4.5以下が最も好ましい。この範囲を外れた場合には、浄化の進行が遅く、処理時間が著しく延長される傾向が見られる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し本発明の内容をさらに詳細に説明する。これは本発明の実施態様の一例を示すためのものであり、発明の内容を限定的に捉えてはならない。
【0028】
(浄化剤の詳細)
実施例1から実施例7にはカキ殻を原料とする本発明の浄化剤に関して詳細に記述する。なお、カキ殻としては宮城県松島産のマガキの貝殻を用いた。
【0029】
(実施例1)
カキ殻(宮城県松島産のマガキの貝殻)を未粉砕のまま散水し塩化ナトリウム分濃度が0.5wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度12℃、1.48規定の希硫酸水溶液9.5リットルに投入し、180時間撹拌した。撹拌後のサイズは5.5メッシュだった。得られた浄化剤を温度12℃で水道水を散布し洗浄した。洗浄後の浄化剤を吸取紙に広げ余剰な水分を除去し浄化剤1を得た。なお、浄化剤の保管にはプラスチック製のネジ口瓶を使用した。
【0030】
(実施例2)
実施例1記載の方法で塩化ナトリウム分を0.8wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度10℃、1.71規定の希硫酸水溶液8.3リットルに投入し、48時間撹拌した。撹拌後のサイズは4メッシュだった。得られた浄化剤を温度10℃で水道水を散布し洗浄した。実施例1記載の要領で余剰な水分を除去して浄化剤2を得た。実施例1と同様に浄化剤はプラスチック製ネジ口瓶に保管した。
【0031】
(実施例3)
実施例1記載の方法で塩化ナトリウム分を1.0wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度50℃、0.91規定の希硫酸水溶液13リットルに投入し、340時間撹拌した。撹拌後のサイズは26メッシュだった。得られた浄化剤を温度60℃で水道水を散布し洗浄した。実施例1記載の要領で余剰な水分を除去して浄化剤3を得た。実施例1と同様に浄化剤はプラスチック製ネジ口瓶に保管した。
【0032】
(実施例4)
実施例1記載の方法で塩化ナトリウム分を0.5wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度25℃、1.14規定の希硫酸水溶液9.25リットルに投入し、70時間撹拌した。撹拌後のサイズは8.6メッシュだった。得られた浄化剤を温度25℃で水道水を散布し洗浄した。実施例1記載の要領で余剰な水分を除去して浄化剤4を得た。実施例1と同様に浄化剤はプラスチック製ネジ口瓶に保管した。
【0033】
(実施例5)
実施例1記載の方法で塩化ナトリウム分を0.7wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度45℃、0.97規定の希硫酸水溶液11.1リットルに投入し、250時間撹拌した。撹拌後のサイズは14メッシュだった。得られた浄化剤を温度50℃で水道水を散布し洗浄した。実施例1記載の要領で余剰な水分を除去して浄化剤5を得た。実施例1と同様に浄化剤はプラスチック製ネジ口瓶に保管した。
【0034】
(実施例6)
実施例1記載の方法で塩化ナトリウム分を0.4wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度40℃、1.03規定の希硫酸水溶液10.5リットルに投入し、170時間撹拌した。撹拌後のサイズは10メッシュだった。得られた浄化剤を温度45℃で水道水を散布し洗浄した。実施例1記載の要領で余剰な水分を除去して浄化剤6を得た。実施例1と同様に浄化剤はプラスチック製ネジ口瓶に保管した。
【0035】
(実施例7)
実施例1記載の方法で塩化ナトリウム分を0.9wt.%以下としたカキ殻1kgを、温度10℃、3.42規定の希硫酸水溶液7.9リットルに投入し、24時間撹拌した。撹拌後のサイズは3.5メッシュだった。得られた浄化剤を温度5℃で水道水を散布し洗浄した。実施例1記載の要領で余剰な水分を除去して浄化剤7を得た。実施例1と同様に浄化剤はプラスチック製ネジ口瓶に保管した。
【0036】
以上の実施例1〜実施例7の主要な結果を表1にまとめて示す。
【0037】
(本発明の浄化剤を用いた食用植物油含有排水の浄化例)
実施例101から実施例107には、本発明の実施態様をさらに詳細に示すため、本発明の浄化剤を用いた食用植物油含有排水の浄化例を記述する。
【0038】
(実施例101)
ビーカーに入れたイオン交換水(精製水、トラスコ中山株式会社製)をマグネティックスターラー(RSH−1D型、アズワン株式会社製)で撹拌子の回転数を約500〜550rpmで撹拌しながら新油の米油(新油)を添加した。30分間撹拌を継続し、n−ヘキサン抽出物価6,500mg/リットルの模擬排水を調製した。模擬排水を同条件で撹拌しながら1リットルあたり15gの浄化剤1を添加し60分撹拌を継続し模擬排水の浄化処理を行った。この時のpHは3.5であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0039】
(実施例102)
実施例101と同様な方法で、イオン交換水を撹拌しながら新油の米油を添加し、n−ヘキサン抽出物価8,000mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水1リットルあたり20gの浄化剤2を添加し、同様に浄化処理した。この時のpHは3.2であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0040】
(実施例103)
実施例101と同様な方法で、イオン交換水を撹拌しながらそれぞれ新油の米油と大豆油の混合油(米油分60vol.%)を添加し、n−ヘキサン抽出物価10,000mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水1リットルあたり30gの浄化剤3を添加し、同様に浄化処理した。この時のpHは5.0であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0041】
(実施例104)
実施例101と同様な方法で、イオン交換水を撹拌しながら新油の米油を添加し、n−ヘキサン抽出物価4,500mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水1リットルあたり10gの浄化剤4を添加し、同様に浄化処理した。この時のpHは4.5であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0042】
(実施例105)
実施例101と同様な方法で、イオン交換水を撹拌しながら新油の大豆油を添加し、n−ヘキサン抽出物価6,800mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水1リットルあたり5gの浄化剤5を添加し、同様に浄化処理した。この時のpHは3.2であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0043】
(実施例106)
実施例101と同様な方法で、イオン交換水を撹拌しながらそれぞれ新油の米油とベニバナ油の混合油(米油分60vol.%)を添加し、n−ヘキサン抽出物価4,000mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水1リットルあたり7gの浄化剤6を添加し、同様に浄化処理した。この時のpHは4.5であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0044】
(実施例107)
実施例101と同様な方法で、イオン交換水を撹拌しながらそれぞれ新油の米油と大豆油の混合油(米油分60vol.%)を添加し、n−ヘキサン抽出物価9,000mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水1リットルあたり2gの浄化剤7を添加し、同様に浄化処理した。この時のpHは5.0であった。処理後の水は無色透明であり、表面の浮遊油量は処理前の模擬排油(以下、原水)に比べて格段に減少し、総合評価は適であった。
【0045】
実施例101〜実施例107の主要な結果を表2にまとめて示す。
【0046】
(本発明の浄化剤を用いた浄化能の効果)
実施例101から実施例107には本発明の浄化剤を用いた食用植物油含有排水の浄化処理方法とその効果について記述した。さらに、本発明の浄化剤の油分排水浄化効果を具体的に説明するための実施例を以下に示す。
【0047】
(表面浮遊油の比較検証結果から見た浄化能の効果)
(実施例201)
イオン交換水を撹拌子の回転数を約500〜550rpmで撹拌しながら新油の米油(新油)を添加した。30分間撹拌を継続し、n−ヘキサン抽出物価4,500mg/リットルの模擬排水を調製した。該排水500ミリリットルに対し、同条件で撹拌しながら5gの浄化剤4を添加(10g/リットルに相当する)し、さらに60分撹拌を継続し模擬排水の浄化処理を行った。浄化処理終了後、30分静置後に習字用墨汁を50ミリリットル加え、水面にビーカーの内径のサイズに切り取った円形の白紙を静かに置き、3分後に静かに剥がして乾燥させた。こうして得られた液層上面の油面と水面と分布を図1に示す。墨汁による黒灰色の部位は水面に相当し、白色に近い部位は油面に相当する。このように、本発明の浄化剤を加え、撹拌すると、排水を静置後も表面に浮遊してくる油分が格段に減少することが分かる例である。
【比較例】
【0048】
さらに、本発明による浄化剤の効果を説明するために、添加剤を使用しない場合の表面の油面と水面の状況の検証結果を比較例に示す。
【0049】
(比較例201)
浄化剤4を添加しない他は実施例201と同一条件で取扱った時の、液層上面の油面と水面の分布を図2に示す。実施例201の条件で操作した時の分布(図1)と比較すると、油面の割合が極端に多いことが分かる。このように、本発明の浄化剤を添加しないと、静置後は殆どが油面に覆われていることが分かる。実施例201と比較例201の結果を見比べると、本発明の浄化剤による処理が格段に効果的であることをより理解することができる。
【0050】
実施例201および比較例201の主要な結果を表3にまとめて示す。






































【0051】
【表1】








【0052】
【表2】








【0053】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、製菓工場などの油分含有排水から油分を取り除く浄化剤およびそれを用いる浄化技術は、河川の環境負荷を低減し環境改善に資することができるとともに、廃棄物として扱われるカキ殻等の貝殻を簡便な処理によって、浄化剤を得られることから、経済的な負担を最小限に抑えることができるため、産業界における重要性はますます高まる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明の浄化剤により油分が除去され液層上面に占める油面の割合(白色部)が格段に減少し、浄化効果が高いことを示す図である。
図2】本発明の浄化剤を使用しない場合には液層上面に占める油面の割合(白色部)が殆どで浄化されないことを示す図である。
図1
図2