特許第6481105号(P6481105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナトコ株式会社の特許一覧

特許6481105非水分散型硬化性樹脂組成物及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481105
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】非水分散型硬化性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 57/12 20060101AFI20190304BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20190304BHJP
   C09D 157/12 20060101ALI20190304BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C08L57/12
   C08K5/29
   C09D157/12
   C09D133/14
【請求項の数】14
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-31495(P2017-31495)
(22)【出願日】2017年2月22日
(65)【公開番号】特開2017-149945(P2017-149945A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年5月31日
(31)【優先権主張番号】特願2016-31009(P2016-31009)
(32)【優先日】2016年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】千年屋 愛
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 尚
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−049741(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/035782(WO,A1)
【文献】 特開平10−292084(JP,A)
【文献】 特開平11−158342(JP,A)
【文献】 特開2001−270972(JP,A)
【文献】 特開2005−023285(JP,A)
【文献】 特開2002−129097(JP,A)
【文献】 特開2001−254020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 57/00−57/12
C08K 5/00−5/59
C08G 18/00−18/87
C09D 133/00−133/26
C09D 143/00−143/04
C09D 157/00−157/12
C09D 175/00−175/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水分散型硬化性樹脂組成物であって、
ヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分と、
アルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分と、
脂肪族炭化水素系溶剤であり、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当する弱溶剤と、
を含有し、
前記第1成分を少なくとも前記弱溶剤における可溶性成分として含有し、
前記第2成分を前記弱溶剤における不溶性成分として含有する、非水分散型硬化性樹脂組成物であって、
前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下であり、
前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下である、非水分散型硬化性樹脂組成物
【請求項2】
前記ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーは、ヒンダードアミノ基を有する(メタ)アクリロイル系モノマーである、請求項に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーは、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリロイル系モノマーである、請求項又はに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、イソシアネート化合物及び脱水剤を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
非水分散型硬化性塗料キットであって、
請求項1〜のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物と、
イソシアネート化合物と、
脱水剤と、
を備える、キット。
【請求項6】
非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
脂肪族炭化水素系溶剤であり、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当する弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であってヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、前記弱溶剤における不溶性成分であってアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、前記弱溶剤中に前記第1成分を含有するとともに前記第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程
を備え、
前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下であり、
前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下である、製造方法
【請求項7】
非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
脂肪族炭化水素系溶剤であり、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当する弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であってヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、前記弱溶剤における不溶性成分であってアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、前記弱溶剤中に前記第1成分を含有するとともに前記第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程と、
前記分散液に、イソシアネート化合物及び脱水剤を混合する工程と、
を備える、製造方法であって、
前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下であり、
前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下である、製造方法
【請求項8】
塗装方法であって、
請求項1〜のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備える、塗装方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
【請求項10】
以下[条件]に記載の条件で行われるメタルウェザオメータによる塗膜の促進耐候性試験において、{(試験後の塗膜の光沢値)/(試験前の塗膜の光沢値)}×100で定義される光沢保持率が95%以上であり、(試験後の塗膜のYI値)―(試験前の塗膜のYI値)で定義されるΔYI値が、1.0以下である、請求項に記載の塗装物。
[条件]
UVカットフィルター:KF−1
ブラックパネル温度:63℃
UV照射強度:750W/m
降雨条件:2mm/120min
照射時間:480時間
【請求項11】
請求項に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
【請求項12】
請求項に記載の非水分散型硬化性塗料キットの前記非水分散型硬化性樹脂組成物と前記イソシアネート化合物と、前記脱水剤とを混合して得られる塗料組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
【請求項13】
塗装方法であって、請求項に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備える、塗装方法。
【請求項14】
塗装方法であって、
請求項1〜のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物と、イソシアネート化合物と、脱水剤とを混合して塗料組成物を調製する工程と、
前記塗料組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程と、
を備える、塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、非水分散型硬化性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の外装及び内装分野では、臭気の多い、いわゆる強溶剤を使用する塗料は、他の分野に比べて敬遠される傾向が強い。また、水性塗料は、寒冷地での作業における速乾性に難がある。このため、臭気が少なく揮発性の良い、いわゆる弱溶剤を溶剤として用いる塗料が開発されている。
【0003】
建築市場において汎用的に使用される弱溶剤可溶型塗料は様々上市されている。かかる塗料としては、例えば、アクリルウレタン系塗料やアクリルシリコン系塗料がある。アクリルウレタン系塗料は、一般的に主剤(アクリルポリオール化合物)と硬化剤(イソシアネート化合物)を混ぜて使用する二液型である。
【0004】
一方、アクリルシリコン系塗料としては、アルコキシシリル基を含む主剤とその架橋反応を促進する触媒を混合して使用する二液型のほか、弱溶剤系非水分散型硬化樹脂組成物を利用した一液型の塗料が挙げられる(特許文献1)。一般に、かかる一液型塗料は、疎水性の分散媒(弱溶剤)に不溶の高分子量ポリマーをコアとし、分散状態を安定化する分散媒に可溶のポリマーをシェルとする分散構造を有している。特許文献1では、コアをアルコキシシリル基含有ビニル樹脂粒子とし、シェルをリン酸基含有ビニル樹脂としており、架橋性反応基であるアルコキシシリル基と硬化触媒となるリン酸基とを、一液中に隔離した状態で含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−23285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、二液型であるアクリルウレタン系塗料は、塗装作業性に問題がある場合がある。また、非水分散型硬化樹脂組成物を利用した一液型アクリルシリコン系塗料は、常温で十分な硬化性を有しているものの、耐候性を確保するのが困難である場合があった。
【0007】
また、外壁材等の表面には概してアクリル樹脂などの塗膜を予め備えていることが多い。アクリル樹脂塗膜は、一般に、さらに上塗りする各種塗料の付着性に優れている。一方、近年、外壁材等の表面には耐候性向上の観点からフッ素樹脂などの塗膜を有する場合もある。さらに、外壁材に対して雨どいなどの塩化ビニル樹脂成形品と近接して配置されている場合があり、こうした成形品にも塗装を施すことが好適な場合もある。従来の一液型アクリルシリコン系塗料は、フッ素樹脂や塩化ビニル樹脂(以下、難付着性材料ともいう。)に対して付着しにくい場合があった。したがって、こうした難付着性材料に対しても密着性を有する塗膜を形成できる非水分散型硬化性塗料も求められている。
【0008】
本明細書は、建築用途に求められる重要な機能である耐候性に優れた非水分散型硬化性樹脂組成物、さらには、貯蔵安定性及び常温硬化性に優れる非分散型硬化性樹脂組成物、及びその製造方法を提供する。また、本明細書は、難付着性材料に対しても良好な密着性を有する非水分散型硬化性樹脂組成物等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、非水分散型硬化性樹脂組成物について種々検討したところ、アルコキシシリル基とヒンダードアミノ基とを、ある種の分散形態で用いることで,耐候性に優れるほか、常温硬化性及び貯蔵安定性に優れる、という知見を得た。本明細書は、こうした知見に基づき、以下の手段を提供する。
1.
非水分散型硬化性樹脂組成物であって、
ヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分と、
アルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分と、
脂肪族炭化水素系溶剤であり、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当する弱溶剤と、
を含有し、
前記第1成分を少なくとも前記弱溶剤における可溶性成分として含有し、
前記第2成分を前記弱溶剤における不溶性成分として含有する、非水分散型硬化性樹脂組成物であって、
前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下であり、
前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下である、非水分散型硬化性樹脂組成物。
2.
前記ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーは、ヒンダードアミノ基を有する(メタ)アクリロイル系モノマーである、1.に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
3.
前記アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーは、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリロイル系モノマーである、1.又は2.に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
4.
さらに、イソシアネート化合物及び脱水剤を含有する、1.〜3.のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
5.
非水分散型硬化性塗料キットであって、
1.〜3.のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物と、
イソシアネート化合物と、
脱水剤と、
を備える、キット。
6.
非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
脂肪族炭化水素系溶剤であり、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当する弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であってヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、前記弱溶剤における不溶性成分であってアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、前記弱溶剤中に前記第1成分を含有するとともに前記第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程
を備え、
前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下であり、
前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下である、製造方法
7.
非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
脂肪族炭化水素系溶剤であり、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当する弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であってヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、前記弱溶剤における不溶性成分であってアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、前記弱溶剤中に前記第1成分を含有するとともに前記第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程と、
前記分散液に、イソシアネート化合物及び脱水剤を混合する工程と、
を備える、製造方法であって、
前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下であり、
前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体であり、前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下であり、
前記第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下である、製造方法
8.
塗装方法であって、
1.〜4.のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備える、塗装方法。
9.
1.〜3.のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
10.
以下[条件]に記載の条件で行われるメタルウェザオメータによる塗膜の促進耐候性試験において、{(試験後の塗膜の光沢値)/(試験前の塗膜の光沢値)}×100で定義される光沢保持率が95%以上であり、(試験後の塗膜のYI値)―(試験前の塗膜のYI値)で定義されるΔYI値が、1.0以下である、9.に記載の塗装物。
[条件]
UVカットフィルター:KF−1
ブラックパネル温度:63℃
UV照射強度:750W/m
降雨条件:2mm/120min
照射時間:480時間
11.
4.に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
12.
5.に記載の非水分散型硬化性塗料キットの、前記非水分散型硬化性樹脂組成物と、前記イソシアネート化合物と、前記脱水剤とを混合して得られる塗料組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
13.
塗装方法であって、4.に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備える、塗装方法。
14.
塗装方法であって、
1.〜3.のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物と、イソシアネート化合物と、脱水剤とを混合して塗料組成物を調製する工程と、
前記塗料組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程と、
を備える、塗装方法。
なお、本明細書は、上記1.〜14.とは別に、以下(1)〜(18)の手段を提供するものでもある。
【0010】
(1)非水分散型硬化性樹脂組成物であって、
ヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分と、
アルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分と、
弱溶剤と、
を含有し、
前記第1成分を少なくとも前記弱溶剤における可溶性成分として含有し、
前記第2成分を前記弱溶剤における不溶性成分として含有する、非水分散型硬化性樹脂組成物。
(2)前記第1成分が、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含む第1モノマー組成物を重合して得られる重合体である、(1)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(3)前記第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が0.2質量%以上4質量%以下である、(2)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(4)ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーは、ヒンダードアミノ基を有する(メタ)アクリロイル系モノマーである、(2)又は(3)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(5)前記第2成分が、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合して得られる重合体である、(1)〜(4)のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(6)前記第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が5質量%以上30質量%以下である、(5)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(7)アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーは、アルコキシシリル基を有する(メタ)アクリロイル系モノマーである、(5)又は(6)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(8)さらに、イソシアネート化合物及び脱水剤を含有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物。
(9)非水分散型硬化性塗料キットであって、
(1)〜(7)のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物と、
イソシアネート化合物と、
を備える、キット。
(10)非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であってヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、前記弱溶剤における不溶性成分であってアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、前記弱溶剤中に前記第1成分を含有するとともに前記第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程
を備える、製造方法。
(11)非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法であって、
弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であってヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、前記弱溶剤における不溶性成分であってアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、前記弱溶剤中に前記第1成分を含有するとともに前記第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程と、
前記分散液に、イソシアネート化合物及び脱水剤を混合する工程と、
を備える、製造方法。
(12)塗装方法であって、
(1)〜(8)のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備える、塗装方法。
(13)(1)〜(7)のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
(14)メタルウェザオメータによる促進耐候性試験において、480時間後の光沢保持率が95%以上であり、ΔYI値が、1.0以下である、(13)に記載の塗装物。
(15)(8)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
(16)(9)に記載の非水分散型硬化性塗料キットの前記非水分散型硬化性樹脂組成物と前記イソシアネート化合物とを混合して得られる塗料組成物を塗布した塗膜を備える、塗装物。
(17)塗装方法であって、
(8)に記載の非水分散型硬化性樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備える、塗装方法。
(18)塗装方法であって、
(1)〜(7)のいずれかに記載の非水分散型硬化性樹脂組成物と、イソシアネート化合物と、を混合して塗料組成物を調製する工程と、
前記塗料組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程と、
を備える、塗装方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、第1の態様の非水分散型硬化性樹脂組成物(以下、単に、第1の樹脂組成物ともいう。)及びその製造方法等に関する。第1の樹脂組成物は、ヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分と、アルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分と、弱溶剤とを含有している。また、第1の樹脂組成物は、第1成分を、少なくとも弱溶剤における可溶性成分として含有し、第2成分を、弱溶剤における不溶性成分として含有している。これにより、第1の樹脂組成物は、第2成分が第1成分を含む弱溶剤に均一に分散した形態を採ることができる。
【0012】
第1の樹脂組成物は良好な貯蔵安定性を備えるとともに、常温硬化性及び光安定性などの耐候性にも優れる塗膜を提供することができる。第1の樹脂組成物においては、上述した分散構造によって、ヒンダードアミノ基を有する第1成分とアルコキシシリル基を含有する第2成分とが、相互に分離され、第1成分に存在するヒンダードアミノ基が、第2成分に接触することが抑制又は回避されている。このため、塗膜形成前においてはヒンダードアミノ基による第2成分の架橋やゲル化が抑制され、良好な貯蔵安定性が確保される。また、弱溶剤の留去を伴う塗膜形成時には、アルコキシシリル基に基づく縮重合による良好な硬化性が発揮される。
【0013】
さらに、第1の樹脂組成物による塗膜においては、ヒンダードアミノ基がヒンダードアミノ系光安定剤(HALS(Hindered Amine Light Stabilizer))として作用するとともに、第1成分の硬化物によって長期間に亘って良好な光沢を保持することができる。したがって、第1の樹脂組成物によれば、建築用途、特に外装塗装に求められる耐候性(紫外線曝露による塗膜の劣化や変色への耐性等を含むことができる。)にも優れた非水分散型硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0014】
以上のことから、第1の樹脂組成物によれば、一液性であっても、貯蔵安定性、塗装後の硬化性に優れるとともに、光安定性などの耐候性に優れる塗膜を得ることができる。
【0015】
また、本明細書の開示は、第1の樹脂組成物に対して、さらにイソシアネート化合物と脱水剤とを含む第2の態様の非水分散型硬化性樹脂組成物(以下、単に、第2の樹脂組成物ともいう。)及び第1の樹脂組成物とイソシアネート化合物とを備えるキット及び塗装方法等にも関する。第2の樹脂組成物において、イソシアネート化合物は、第2成分と同様に、弱溶剤における不溶性成分として存在し得るが、第2成分は、イソシアネート化合物と反応性がないかあるいは低い。さらに、第2の樹脂組成物は脱水剤を含んでいるため、イソシアネート化合物が反応性を呈する水分は生じたとしても速やかに除去される。このため、第2の樹脂組成物中において、イソシアネート化合物の反応性は抑制されて、反応性が維持されて保持される。さらに、第2の樹脂組成物が、被塗装物に塗布されて弱溶剤が留去されることで、イソシアネート化合物は被塗装物の表面の官能基と反応したり、イソシアネート化合物の極性部分等が被塗装物と物理的又は化学的に吸着することで、イソシアネート化合物を含んでない第1の樹脂組成物が付着しにくい被塗装物に対して密着性を発揮すると推定される。
【0016】
以上のことから、イソシアネート化合物及び脱水剤を含む第2の樹脂組成物によれば、一液性であっても、貯蔵安定性、塗装後の硬化性及びいわゆる難付着性材料への密着性等に優れるとともに、光安定性などの耐候性に優れる塗膜を得ることができる。また、第2の樹脂組成物は、難付着性材料以外の被塗装物に対しても良好な密着性を維持しているため、異なる特性・材料の被塗装物に対して、連続して、一続きに、あるいは同時に、塗膜を形成することができるものとなっている。
【0017】
また、第1の樹脂組成物とイソシアネート化合物とを硬化性塗料キットとし、用時、すなわち、塗装前にこれらを混合して塗料組成物を調製して被塗装物に供することで、貯蔵安定性、塗装後の硬化性及びいわゆる難付着性材料への密着性等に優れるとともに、光安定性などの耐候性に優れる塗膜を得ることができる。
【0018】
以下、第1の樹脂組成物及びその成分である第1成分、第2成分、弱溶剤及び第1の樹脂組成物の製造方法、塗装方法、塗膜を備える塗装物等の各種形態について詳細に説明する。また、第2の樹脂組成物の成分であるイソシアネート化合物、脱水剤、硬化性塗料キットについても詳細に説明する。
【0019】
(第1の態様の非水分散型硬化性樹脂組成物)
(第1成分)
第1の樹脂組成物は、ヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分を少なくとも弱溶剤における可溶性成分として含有することができる。弱溶剤における可溶性成分として存在する第1成分は、弱溶剤に溶解して存在していることが好ましい。
【0020】
ビニル系重合体である第1成分は、第1の樹脂組成物によって得られる塗膜の構成樹脂であるとともに、そのヒンダードアミノ基は、塗膜の光安定剤として機能する。
【0021】
第1成分であるビニル系重合体を得るための第1モノマー組成物の組成は、ヒンダードアミノ基を含むビニル系重合体が得られる限り特に限定されない。かかる第1モノマー組成物は、少なくともヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーを含有し、さらに他のビニル系モノマーを含有することができる。
【0022】
ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーしては、例えば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアクリレートなどを用いることができる。ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーとしては、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
第1モノマー組成物に含まれる、その他のビニル系モノマーとしては、各種(メタ)アクリロイル系モノマー、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー、ビニル芳香族モノマー、不飽和アルコール等を挙げることができる。その他のモノマーとしては、こうしたモノマーを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(メタ)アクリロイル系モノマーとしては、直鎖又は分岐状アルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマー、脂環式アルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマー、水酸基含有(メタ)アクリロイルモノマー、フッ素含有(メタ)アクリロイルモノマー、カルボニル基含有(メタ)アクリロイルモノマー、エポキシ基含有(メタ)アクリロイルモノマー、イソシアナト基含有(メタ)アクリロイルモノマー、酸化硬化性基含有(メタ)アクリロイルモノマー、アリル基含有(メタ)アクリロイルモノマー、多官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0025】
アルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なお、第1成分の疎水性確保の観点から、第1モノマー組成物には長鎖アルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマーを含むことが好ましい。このようなモノマーとしては、炭素数8以上、好ましくは同10以上の、さらに好ましくは同12以上の長鎖アルキル基を備える、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートモノマーを挙げることができる。
【0026】
脂環式アルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0027】
水酸基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体や分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0028】
フッ素含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ノナフルオロブチル(メタ)アクリレート、ウンデカフルオロペンチル(メタ)アクリレート、トリデカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0029】
カルボニル基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0030】
エポキシ基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0031】
イソシアナト基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0032】
酸化硬化性基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0033】
アリル基含有(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0034】
多官能(メタ)アクリロイルモノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ハイパーブランチポリエステル(分岐型ポリエステル)多官能(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0035】
また、オキサゾリン基含有ビニル系モノマーとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、4−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4−エチル−2−ビニル−2−オキサゾリン等を挙げることができる。
【0036】
ビニル芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−クロルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。
【0037】
不飽和アルコールとしては、例えば、ビニルアルコール、アリルアルコール等を挙げることができる。
【0038】
また、さらに他のビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルイソプロペニルケトン等を挙げることができる。
【0039】
第1成分は、アルコキシシリル基を含有しないことが好ましい。より具体的には、第1組成物がアルコキシシリル基含有(メタ)アクリロイルモノマー等のビニル系モノマーを含まないことが好ましい。ただし、アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーを含んでいてもよい。この場合、第2成分に含まれるアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーは20%を越えない範囲であることが好ましく、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0040】
第1モノマー組成物におけるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量は、第1の樹脂組成物における第1成分の使用量にもよるが、第1モノマー組成物を構成するモノマーの全質量に対して0.2質量%以上4質量%以下であることが好ましい。ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーの量が、0.2質量%未満では耐候性が低下しやすくなる傾向があり、4質量%を超えると貯蔵時に硬化反応が進行してしまう虞がある。より好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下であり、さらに好ましくは。0.5質量%以上2質量%以下であり、なお好ましくは、1質量%以上2質量%以下である。
【0041】
第1モノマー組成物を重合して得られる第1成分は、任意の公知の方法、例えば、アゾ化合物、過酸化物等を開始剤に用い、弱溶剤中で、ラジカル重合法等で製造することができるほか、商業的に入手することができる。
【0042】
第1成分の重量平均分子量は、特に限定するものではないが、硬化性、耐候性等の観点から、ポリスチレン換算(本明細書における重量平均分子量は、以下、ポリスチレン換算重量平均分子量で示す。)で、例えば、約10,000以上約150,000以下であることが好ましい。より好ましくは約30,000以上約100,000以下である。
【0043】
なお、第1の樹脂組成物は、ヒンダードアミノ基をヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーに由来する単位として第1成分であるビニル系重合体に備えることが好ましいが、意図する耐候性を損なわない範囲で、非共重合性のHALSを含んでいてもよい。
【0044】
(第2成分)
第1の樹脂組成物は、アルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を弱溶剤における不溶性成分として含有することができる。
【0045】
第1の樹脂組成物における第2成分は、後述するように、弱溶剤及び第1成分の存在下で合成され、合成されると同時に、弱溶剤及び第1成分と共存する。すなわち、第2成分の合成とほぼ同時に、第1の樹脂組成物が製造される。以下、こうした第2成分について説明する。
【0046】
本明細書においてアルコキシシリル基とは、Si原子とそれに結合する1個以上3個以下のアルコキシ基とを有する基をいう。したがって、アルコキシシリル基としては、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシリル基、同2個有するジアルコキシシリル基及び同3個有するトリアルコキシシリル基が含まれる。
【0047】
アルコキシシリル基は、少なくとも1つのアルコキシ基を有している限り、アルコキシ基以外の加水分解性基をSi原子に結合して備えていてもよい。こうした加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アシロキシ基及び水酸基等を挙げることができる。
【0048】
第2成分であるビニル系重合体を得るための第2モノマー組成物の組成は、アルコキシシリル基を含むビニル系重合体を得られる限り特に限定されない。かかる第2モノマー組成物は、少なくともアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを有し、さらに他のモノマーを含有していることが好ましい。
【0049】
アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーとしては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレンなどを用いることができる。これらの化合物の中では、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランを用いることがより好ましい。アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーとしては、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
第2モノマー組成物に含まれる、他のモノマーとしては、第1モノマー組成物に用いることができるその他のモノマーをそのまま適用することができ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0051】
上述のように、第2成分は、ヒンダードアミノ基を有していてもよい。より具体的には、第2モノマー組成物は、ヒンダードアミノ基含有(メタ)アクリロイルモノマーの等のビニル系モノマーを含んでいてもよい。かかるビニル系モノマーとしては、第1モノマー組成物に用いることができるヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーをそのまま適用することができ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。第2モノマー組成物中のヒンダードアミノ基含有モノマーは、特に限定しないが、第1の樹脂組成物中に含まれる全てのヒンダードアミノ基含有モノマーの50%以下であることが好ましい。より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下であり、なお好ましくは20%以下である。
【0052】
また、第2モノマー組成物中のアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーに対するヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、5質量%以下であることが好ましい。5質量%以下であると、第1の樹脂組成物は良好な貯蔵安定性を備えることができる。
【0053】
第2モノマー組成物におけるアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量は、第1の樹脂組成物に対して用いる第2成分の量にもよるが、第2モノマー組成物を構成するモノマーの全質量に対して5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーの量が、5質量%未満では硬化性が不十分になる傾向があり、30質量%を超えると非水分散型硬化性樹脂組成物としての貯蔵安定性が低下する傾向があり、本明細書で意図する非水分散型硬化性樹脂組成物が得られにくくなる場合があるからである。より好ましくは6質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは8質量%以上20質量%以下である。
【0054】
第2モノマー組成物を重合して得られる第2成分は、従来公知の方法で合成することができるが、後述するように、弱溶剤と第1成分との存在下において、公知の方法により合成することが好ましい。
【0055】
第1の樹脂組成物においては、硬化性や耐候性の観点から、第1成分と第2成分の質量比が20:80〜90:10であることが好ましい。より好ましくは、30:70〜50:50である。
【0056】
また、第1の樹脂組成物において用いた全モノマーの質量に対するヒンダードアミノ基含有モノマーは、例えば、0.1質量%以上2質量%以下とすることができ、また例えば、0.3質量%以上1.5質量%以下とすることができ、また例えば、0.5質量%以上1.5質量%以下などとすることができる。また、ヒンダードアミノ基含有モノマーは、第1モノマー組成物中にあることが好ましいが、第1モノマー組成物中及び第2モノマー組成物中にあってもよい。両者に存在する場合には、第1モノマー組成物中にヒンダードアミノ基含有モノマーの50質量%以上が存在することが好ましい。
【0057】
また、第1の樹脂組成物において用いた全モノマーの質量に対するアルコキシシリル基含有モノマーは、例えば、1質量%以上30質量%以下とすることができ、また例えば、5質量%以上25質量%以下とすることができ、また例えば、5質量%以上15質量%以下などとすることができる。また、アルコキシシリル基含有モノマーは、その第2モノマー組成物中にあることが好ましいが、その全てが第2モノマー組成物中にあることが好ましい。
【0058】
(弱溶剤)
弱溶剤とは、脂肪族炭化水素系溶剤であり、ターペンやミネラルスピリット等に代表されるような高引火点、高沸点、低有害性であるものをいう。弱溶剤は、混合溶剤タイプ及び単成分溶剤タイプを含んでいる。混合溶剤としてはミネラルスピリット、ホワイトスピリット、ミネラルターペン、イソパラフィン、ソルベント灯油、芳香族ナフサ、VM&Pナフサ、ソルベントナフサ等がある。市販品としては、エッソ石油社製のソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200や、コスモ石油株式会社製のスワゾール310、スワゾール1000、スワゾール1500、丸善石油株式会社製のスワクリーン150、スワゾール1000、スワゾール1500や、シェル社製のソルベッソ150、ソルベッソ200、HAWS、LAWSや、エクソンモービル社製のアイソパーG,H,L、エクソールD40,D80、ペガゾール3040、AN45や、出光興産株式会社製のAソルベント、クレンゾル、イプゾール100、リニアレン10、リニアレン12、シェルゾールSや、新日本石油化学株式会社製のミネラルスピリットA、ハイアロム2Sや、新日本理化株式会社製のリカソルブ900、リカソルブ910B、リカソルブ1000などが挙げられる。こうした弱溶剤は、労働安全衛生法の第3種有機溶剤に該当するものが含まれうる。
【0059】
この他、単成分溶剤としてはn−ブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソノナン、n−デカン、n−ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタン等の脂肪族炭化水素類等が用いられる。
【0060】
第1の樹脂組成物における弱溶剤の含有量は特に限定するものではないが、例えば、第1の樹脂組成物の総質量のうち、弱溶剤を20質量%以上80質量%以下含有することができる。好ましくは30質量%以上70質量%以下である。さらに好ましくは、40質量%以上60質量%以下である。第1の樹脂組成物において、固形分率が高すぎる(すなわち、弱溶剤の含有量が少なすぎる)と貯蔵安定性が低下する傾向があり、固形分率が低すぎる(すなわち、弱溶剤の含有量が多すぎる)と第1の樹脂組成物による塗膜の光沢に悪影響を及ぼす場合もあるからである。
【0061】
なお、第1の樹脂組成物は、弱溶剤以外の有機溶剤を含有することもできる。その場合、その質量は弱溶剤の質量以下であることが好ましい。
【0062】
(第2の態様の非水分散型硬化性樹脂組成物)
(イソシアネート化合物)
第2の樹脂組成物は、第1の樹脂組成物に含まれうる成分に加えて、イソシアネート化合物を含むことができる。イソシアネート化合物を含むことにより、イソシアネート化合物を含まない場合よりも、いわゆる難付着性材料への密着性を向上させることができる。
【0063】
第2の樹脂組成物に用いるイソシアネート化合物としては、特に限定するものではないが、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート及び芳香族イソシアネートから適宜選択することができる。反応性等の観点から、イソシアネート化合物は、2価以上のイソシアネート化合物を用いることができ、例えば、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物等を用いることができる。イソシアネート化合物は、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0064】
イソシアネート化合物は、2量体以上であることが好ましい。イソシアネートの2量体以上の構造としては、特に限定するものではないが、例えば、ビウレット構造、ヌレート構造及びアダクト構造等が挙げられる。ビウレット構造及びヌレート構造等が好適な場合があり、さらにビウレット構造が好適な場合がある。また、イソシアネートは、ブロック剤を備えていてよいが、第2の樹脂組成物においては、加熱硬化でなくとも硬化し塗膜を形成できるため、ブロック剤を備えていなくてもよい。
【0065】
第2の樹脂組成物において、イソシアネート化合物は、弱溶剤に対して溶解性成分であってもよいし、第2成分と同様、弱溶剤に対して不溶性成分であってもよい。
【0066】
脂肪族イソシアネートとしては、特に限定するものではないが、例えば、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
また、脂環族ジイソシアネートとしては、特に限定するものではないが、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネートが挙げられる。脂環族ジイソシアネートは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
芳香族イソシアネートとしては、特に限定するものではないが、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族イソシアネート類などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。芳香族イソシアネートは、塗膜を黄変させる場合があるため、透明性等が要請される塗膜には、脂肪族イソシアネート及び脂環族イソシアネートが好適である。
【0069】
脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート及び芳香族イソシアネートは、いずれかを単独で使用してもよいし、脂肪族イソシアネートと脂環族イソシアネートとの2種を併用してもよいし、脂肪族イソシアネートと芳香族イソシアネート上記ジイソシアネートとの2種を併用してもよいし、脂環族イソシアネートと芳香族イソシアネートとの2種を併用してもよい。工業的入手のしやすさ及び分散性、黄変等の観点から、脂肪族イソシアネート及び脂環族イソシアネートから選択される1種又は2種以上が好適であり、さらには、HDI及びIPDIが好ましく、さらに反応性等の観点から、HDIがより好ましい。
【0070】
第2の樹脂組成物におけるイソシアネート化合物の含有量は特に限定するものではなく、分散性や適用する被塗装物の種類や要請される付着強度等に応じて適宜決定することができる。例えば、第2の樹脂組成物の樹脂固形分、換言すれば第1成分と第2成分の総質量100質量部に対して、0.1質量部以上40質量部以下のイソシアネート化合物を含有することができる。また例えば1質量部以上30質量部以下とすることができる。また例えば、2質量部以上20質量部以下とすることができる。さらに例えば、5質量部以上20質量部以下とすることができる。さらに例えば、10質量部以上20質量部以下などとすることができる。
【0071】
(脱水剤)
第2の樹脂組成物は、脱水剤を含むことができる。脱水剤は、イソシアネート化合物の反応性を抑制して第2の樹脂組成物の貯蔵安定性を向上させることができるとともに、第2の樹脂組成物をイソシアネート化合物を含みつつ一液型塗料とすることができるため好適である。なお、第2成分自体が脱水剤として機能しうるため、イソシアネート化合物の量や種類によっては、脱水剤を含めなくても良い場合がある。
【0072】
脱水剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等の高活性シラン化合物、p−トルエンスルホニルイソシアネート、ベンゼンスルフォニルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、などのモノイソシアネートなどのイソシアネート類、オルソギ酸メチル、オルソギ酸エチルもしくはオルソ蟻酸ブチル等のオルソギ酸アルキル;オルソ酢酸メチル、オルソ酢酸エチルもしくはオルソ酢酸ブチル等のオルソ酢酸アルキル;またはオルソほう酸メチル、オルソほう酸エチル、オルソほう酸ブチル等のオルソほう酸アルキル等のオルソカルボン酸エステルや、などが挙げられる。分散性等を考慮すると、高活性シラン化合物、各種モノイソシアネートを含むイソシアネート類を好ましく用いることができる。
【0073】
第2の樹脂組成物における脱水剤は、特に限定するものではないが、用いるイソシアネート化合物の種類や量等に応じて適宜設定することができる。例えば、第2の樹脂組成物に用いるイソシアネート化合物100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下とすることができる。また例えば、1質量部以上20質量部以下とすることができる。また例えば、2質量部以上10質量部以下とすることができる。
【0074】
第1の樹脂組成物における第1成分と第2成分との分散形態としては、例えば、第2成分が不溶性のコア粒子として存在し、第1成分が可溶性でコア粒子の分散安定剤として機能するシェルとして存在するコア−シェル型の分散形態を挙げることができる。また、第1の樹脂組成物における樹脂の重量平均分子量は、特に限定するものではない。硬化性や塗膜強度、耐候性等の観点から、例えば、数万〜数十万程度であることが好ましい。
【0075】
第1の樹脂組成物の、第2成分は、弱溶剤における不溶性成分であるが、弱溶剤及び弱溶剤に対する可溶性成分として存在する第1成分によって、弱溶剤において分散安定化されている。こうした分散安定化状態において、第1成分中のヒンダードアミノ基が弱溶剤において可溶性成分として存在し、第2成分中のアルコキシシリル基が不溶性成分として存在することで、光安定剤としてのヒンダードアミノ基を第1の樹脂組成物中に含有していても、優れた貯蔵安定性を発揮することができる。
【0076】
一方、弱溶剤中におけるこうした分散形態は、弱溶剤が留去されることにより崩壊する。すなわち、第1成分及び第2成分は、弱溶剤の留去に伴い硬化反応が進行し、耐候性に優れる塗膜成分を構築する。さらに、第1成分に含まれるヒンダードアミノ基は、それ自体光安定剤であるため、このヒンダードアミノ基によって、耐候性に優れる塗膜成分を構築することができる。
【0077】
以上のことから、第1の樹脂組成物は、優れた貯蔵安定性と耐候性とを兼ね備えることができる。
【0078】
イソシアネート化合物等を含む第2の樹脂組成物は、第1の樹脂組成物と同様の分散安定性を備えるため、優れた貯蔵安定性を備えるほか、その分散形態によって耐候性に優れる塗膜成分を構築できる。また、第2の樹脂組成物は、イソシアネート化合物に基づく反応性が、脱水剤等によって維持されるため、イソシアネート化合物を含みつつ優れた貯蔵安定性を兼ね備えることができる。そして、イソシアネート化合物が被塗装物表面と反応しあるいは物理的及び/又は化学的に吸着することなどによって被塗装物表面との密着性が発揮される。このため、イソシアネート化合物を含まない場合には密着しがたい、フッ素樹脂や塩化ビニル樹脂などの難付着性材料に対しても密着性に優れた塗膜を形成することができる。すなわち、一般的なアクリル樹脂材料の皮膜を有する内外装材料等の被塗装物及び難付着性の被塗装物の双方に対して密着性の良好な塗膜を形成することができる。換言すれば、1種類の第2の樹脂組成物によって、異なる特性・材料の表面を連続しあるいは同時に、一続きの塗膜を形成することができる。
【0079】
(非水分散型硬化性塗料キット)
本明細書に開示される非水分散型硬化性塗料キット(以下、単に本キットともいう。)は、第1の樹脂組成物とイソシアネート化合物と、を備えることができる。本キットは、これらを備えることで、被塗装物に適用時に、樹脂組成物とイソシアネート化合物とを混合することで、耐候性を備えるとともに、フッ素樹脂や塩化ビニル樹脂などの難付着性材料に対しても密着性に優れた塗膜を形成することができる。
【0080】
本キットにおけるイソシアネート化合物は、第1の樹脂組成物に対して、任意の量で組み合わせられていてもよいが、既に説明したように、イソシアネート化合物及び脱水剤を含まない第1の樹脂組成物の樹脂固形分の総質量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上40質量部以下のイソシアネート化合物を含有することができる。また例えば1質量部以上30質量部以下とすることができる。また例えば、2質量部以上20質量部以下とすることができる。さらに例えば、5質量部以上20質量部以下とすることができる。さらに例えば、10質量部以上20質量部以下などの比率で混合可能に構成されうる。本キットにおいては、イソシアネート化合物は、所定量の第1の樹脂組成物に対して適用される使用量毎に個別に容器等に収容されてキット化されていてもよいし、必要に応じて計量して用いるように容器等に収容されてキット化されていてもよい。
【0081】
本キットを用いて塗装するにあたっては、第1の樹脂組成物と適当な量のイソシアネート化合物とを混合し、必要に応じて撹拌等して塗料組成物を調製し、その後、この塗料組成物を被塗装物に供給して塗膜を形成することができる。
【0082】
本キットを用いて得られる塗膜は、イソシアネート化合物と脱水剤とを含む第2の樹脂組成物を用いて得られる塗膜と同様に、優れた密着性と耐候性とを備える塗膜となっている。
【0083】
(第1の非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法)
本明細書に開示される第1の樹脂組成物の製造方法(以下、第1の製造方法ともいう。)は、弱溶剤及び前記弱溶剤における可溶性成分であるヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体である第1成分の存在下で、弱溶剤における不溶性成分であるアルコキシシリル基を有するビニル系重合体である第2成分を合成して、弱溶剤中に第1成分を含有するとともに第2成分を分散安定化して含有する分散液を調製する工程、を備えることができる。この製造方法によれば、容易に所定の分散形態を有する第1の樹脂組成物を得ることができる。
【0084】
第1の製造方法における分散液を調整する工程は、第1成分を含有する弱溶剤液中で、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を重合反応により合成することにより実施する。こうすることで、第2成分のゲル化を抑制しつつ、第1成分によって弱溶剤中に不溶性成分として概して均一に分散できる。
【0085】
以下、第1の製造方法における分散液調製工程について、より具体的に説明する。第1の製造方法においては、第1成分は、商業的に入手するかあるいは重合等により取得して弱溶剤溶液として準備することが好ましい。これらの準備工程は、調製工程に先立って適宜実施することができる。
【0086】
分散液調製工程は、第1成分を含有する弱溶剤溶液に対して、アルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを含む第2モノマー組成物を滴下等によって徐々に供給して、第2成分を重合させる。第2モノマー組成物を供給している間及び供給後においても、第1成分を含有する弱溶剤溶液を撹拌して、第2成分のゲル化を抑制し分散性を維持することが好ましい。
【0087】
分散液調製工程における、溶媒及び温度などの第2成分の合成条件は、例えば、第2モノマー組成物を構成するモノマーについての公知の重合条件を適宜適用することができる。
【0088】
第2成分を合成し、その重合体を含む組成物を室温まで冷却した後、必要に応じて弱溶剤等により固形分比を調整して、塗料等に適した第1の樹脂組成物を得ることができる。
【0089】
第1の製造方法によれば、かかる分散液調製工程を備えることにより、第1の樹脂組成物における第1成分と第2成分との分散構造を容易に構築することができ、一液型の塗料用等の樹脂組成物を得ることができる。
【0090】
(第2の非水分散型硬化性樹脂組成物の製造方法)
本明細書に開示される第2の樹脂組成物の製造方法(以下、第2の製造方法ともいう。)は、第1の製造方法における分散液を調製する工程に加えて、当該分散液にイソシアネート化合物及び必要に応じて脱水剤を混合する工程を、備えることができる。第2の製造方法によれば、これらを含有する第2の樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0091】
なお、第2の製造方法においては、既に第1の樹脂組成物について説明した第1成分、第2成分及び弱溶剤の各種実施態様と第2の樹脂組成物について説明したイソシアネート化合物及び脱水剤等の各種実施態様(質量比等を含む)を適用することができる。
【0092】
(第1の非水分散型硬化性樹脂組成物の塗装方法)
本明細書に開示される塗装方法は、第1の樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備えることができる。本塗装方法(以下、第1の塗装方法ともいう。)によれば、第1の樹脂組成物中の弱溶剤を留去させることで、塗膜を常温でも硬化させることができるとともに、耐候性に優れる塗膜を得ることができる。第1の樹脂組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成する工程は、特に限定するものではないが、塗料一般に適用される、例えば、エアスプレー法、エアレススプレー法、ロール刷毛による供給等を適宜選択することができる。なお、本塗装方法は、塗膜を備える塗装物の生産方法としても実施できる。
【0093】
塗膜形成工程は、被塗装物の表面に、公知の塗装方法によって供給することができる。塗膜から、例えば、室温で数時間〜数日間放置することで、弱溶剤を留去させる。特に、加熱炉などを用いて加熱する必要はなく、いわゆる常温放置によって弱溶剤を留去させることができる。弱溶剤の留去により、弱溶剤を介して分散安定化されていた第1成分と第2成分とが接触し、硬化反応が進行し、塗膜が形成される。なお、弱溶剤は、加熱炉などを用いた加熱により留去してもよい。この場合、用いる弱溶剤の種類に応じて、適宜加熱温度を調節することで、短時間で弱溶剤を留去することができる。
【0094】
得られた塗膜は、第2成分が有するアルコキシシリル基の加水分解縮合反応によって形成されたシロキサン結合により架橋した架橋構造と、第1成分とを含有する複合構造を有する。より具体的には、第2モノマー組成物が含有するアルコキシシリル基部分においてシロキサン結合により相互に架橋したネットワークポリマーと、第1モノマー組成物を重合して得られるポリマーとの複合構造を有している。
【0095】
塗膜においては、第2成分は、塗膜に光沢性及び耐候性を付与することができ、第1成分は耐候性、特に光安定性を付与できる。このため、耐候性及び外観に優れた塗膜を備える塗装物を得ることができる。本塗装方法で得られる塗膜は、後述する実施例におけるメタルウェザオメータによる促進耐候性試験において、480時間後の光沢保持率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上である。また、塗膜は、後述する実施例における促進耐候試験において、480時間後のΔYI値が、1.0以下であることが好ましい。
【0096】
(第2の非水分散型硬化性樹脂組成物の塗装方法)
第2の樹脂組成物の塗装方法(以下、第2の塗装方法ともいう。)は、第1の塗装方法と同様に、第2の樹脂組成物が被塗装物に供給し塗膜を形成する工程、を備えることができる。第2の樹脂組成物は、イソシアネート化合物等を含有するため、難付着性材料にも良好に密着する塗膜を形成することができる。すなわち、フッ素樹脂やポリ塩化ビニルなどを含む被塗装表面に対しても良好な密着性を示す塗膜を得ることができる。また、かかる塗膜は、同時に、アクリル樹脂などの易付着性材料からなる被塗装表面にも良好な密着性を示すため、1種類の第2の樹脂組成物により、異なる材料・特性の表面を一続きで覆う塗膜となっている。
【0097】
なお、さらに他の態様の塗装方法として、上述のように、本キットを用いて塗装方法を実施することもできる。すなわち、第1の樹脂組成物と、イソシアネート化合物とを混合して塗料組成物を調製し、当該塗料組成物を被塗装物に供給し塗膜を形成するようにする。この場合、第2の樹脂組成物を用いた塗装方法と同様の塗膜を得ることができる。塗膜の形成等については、第1の塗装方法と同様の手法を適宜採用することができる。
【0098】
(塗膜を備える塗装物)
本明細書に開示される塗装物は、第1の樹脂組成物によって得られる塗膜を備えることができる。当該塗膜は、上述したように、第1成分と第2成分との複合構造を有し、良好な耐候性を有するものとなっている。
【0099】
さらに、イソシアネート化合物等を含む第2の樹脂組成物を用いて得られた塗膜、本塗料組成物キットを用いて得られた塗膜は、優れた耐候性のほか、難付着性材料に対しても良好な密着性を有するものとなっている。
【実施例】
【0100】
以下に、本明細書の開示を具現化した具体例を示す。ただし、本明細書の開示は、以下の具体例に限定されるものではない。本明細書の実施例において、「部」及び「%」はいずれも質量基準のものである。
【0101】
本明細書における重量平均分子量は、以下のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム測定条件で行った。
使用機器:HLC8220GPC(株式会社東ソー製)
使用カラム:TSKgel SuperHZM−M、TSKgel GMHXL−H、TSKgel G2500HXL、TSKgel G5000HXL(株式会社東ソー製)
カラム温度:40℃
標準物質:TSKgel 標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(株式会社東ソー製)
検出器:RI
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1ml/min
【0102】
[1]イソシアネート化合物及び脱水剤を含まない非水分散型硬化性樹脂組成物(第1の態様の非水分散型硬化性樹脂組成物)の製造及び評価
<可溶性成分の製造>
(可溶性成分Aの製造)
弱溶剤として、スワクリーン150(C9アルキルシクロヘキサンの混合物、丸善石油化学株式会社製)を用い、スワクリーン150中で、表1に示すモノマー組成で、ヒンダードアミノ基を有するビニル系重合体を合成し、可溶性の樹脂である可溶性成分Aを含む弱溶剤溶液を製造した。なお、可溶性成分は、本明細書に開示における第1成分に相当する。
【0103】
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、スワクリーン150を40部仕込み約120℃に昇温した。次に、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーとして、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート(LA−82、ADEKA製)1.25部、ならびに、その他のモノマーとして、ラウリルメタクリレート(LMA)12.4部、ブチルアクリレート(BA)27.8部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)34部、イソボルニルメタクリレート(IBX)19.4部、メチルメタクリレート(MMA)5.1部、さらに開始剤として1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(和光純薬工業株式会社製V−40)0.5部からなる混合液を2時間かけて滴下し、2時間撹拌した。
【0104】
続いて、さらにスワクリーン150を20部、2,2’−アゾビス(2―メチルブチロニトリル)(株式会社日本ファインケム製ABN −E、以下同じ。)0.5部を混合させたものを滴下し、滴下後3時間撹拌させ、可溶性成分Aを含む弱溶剤溶液を得た。得られた弱溶剤溶液における固形分率は62.5%で、その重量平均分子量は、59,000であった。
【0105】
可溶性成分B〜Jについては、それぞれ表1に示すモノマー組成で可溶性成分Aと同様に製造した。なお、表1に示すように、可溶性成分B〜D及びD1は、可溶性成分Aと同様、ヒンダードアミノ基を有しアルコキシシリル基を有しないビニル系重合体を含有している。また、可溶性成分E〜Jのうち、可溶性成分G、Hは、ヒンダードアミノ基を有しないビニル系モノマーを用い、同Iは、ヒンダードアミノ基を有するビニル系モノマーとアルコキシシリル基を有するビニル系モノマーを用い、同Jは、ヒンダードアミノ基に換えてリン酸基を含有するビニル系モノマーを用いた。
【0106】
【表1】
【0107】
なお、表1中、LA−87は2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート(ADEKA製)を示し、P−1Mは2−メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学製)を示し、MEMOは3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを示す。また、本明細書における合成安定性の評価は、ゲル化せず合成できたものを○、合成によりゲル化したものを×とした。
【0108】
表1に示すように、可溶性成分A〜Hとして、重量平均分子量35,000〜100,000程度のビニル系重合体を得ることができた。一方、ヒンダードアミノ基含有モノマーとアルコキシシリル基含有モノマーを共重合した可溶性成分Iでは、合成安定性に欠ける結果となった。このため、可溶性成分Iは、以下の非分散型硬化性樹脂組成物の製造には用いなかった。また、ヒンダードアミノ基含有モノマーに代えてリン酸基含有モノマーを用いた可溶性成分Jでは、合成はできたものの、孔径0.2μmのシリンジフィルター(DISMIC−13HP 13HP020AN ADVANTEC製)を通過せず、重量平均分子量を測定することができなかった。
【0109】
<非水分散型硬化性樹脂組成物の製造>
次いで、可溶性成分Aを含む弱溶剤溶液中で、表2に示すモノマー組成で不溶性成分としてのアルコキシシリル基を有するビニル系重合体を合成し、実施例1の非水分散型硬化性樹脂組成物を得た。すなわち、先の可溶性成分の製造に用いた反応器と同じ反応器に、可溶性成分Aを107部仕込み、窒素気流下、120℃に昇温した。反応器内部の温度を120℃に保ったまま、不溶性成分の合成のためのCHMA14.2部、IBX9.5部、BMA9.5部、MMA30.1部、MA28.4部、MEMO8.3部、さらに開始剤としてV−40を0.4部からなる混合液を2時間かけて滴下し、2時間撹拌した。
【0110】
続いて、さらにスワクリーン150を33部、2,2’−アゾビス(2―メチルブチロニトリル)0.4部を混合させたものを滴下し、3時間撹拌した後に冷却した。次に、スワクリーン150を94部添加して固形分率を50%に調整し、実施例1の非水分散型硬化性樹脂組成物を得た。なお、この樹脂組成物は、第1の樹脂組成物に相当する。また、この樹脂組成物に含まれる重合体(第1成分と第2成分が混合したもの)の重量平均分子量は141,000であった。
【0111】
なお、実施例1の非水分散型硬化性樹脂組成物の製造では、可溶性成分と不溶性成分の固形分比は、40:60となるように調整している。具体的には以下のような計算式に基づく。
(可溶性成分):(不溶性成分)=107部(可溶性成分含有弱溶剤溶液の使用量)×62.5/100(可溶性成分含有弱溶剤溶液における固形分率):100部(不溶性成分の使用量)=40:60
【0112】
実施例2〜8及び比較例1〜10の非水分散型硬化性樹脂組成物については、表2に示すモノマー組成で、実施例1の非水分散型硬化性樹脂組成物と同様に製造した。なお、比較例9は、リン酸基を有するアクリル共重合体を可溶性成分に含んでいるため、表2中に示す数値(0.5%)は、比較例9に用いた全モノマーに対するリン酸基含有モノマーの含有量である(表2中の※1)。また、比較例10は、非水分散型硬化性樹脂組成物の製造後に非共重合性HALSとして、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及び1−メチル−8−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートの混合物(BASF製TINUVIN292)を添加した(表2中の※2は、かかる非共重合性HALSとして推定される分布を示す)。
【0113】
また、表2には、各例に用いた可溶性成分の種類及び、結果として得られる非水分散型硬化性樹脂組成物において用いた全モノマーの質量に対するヒンダードアミノ基含有モノマーとアルコキシシリル基含有モノマーの分布及び含有量も併せて示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示すように、実施例2〜8並びに比較例1〜7及び10については、実施例1の非水分散型硬化性樹脂組成物と同様に製造することができた。なお、実施例2、5、6〜8については、GPC用のフィルターを通過しなかった。一方、アルコキシシリル基及びヒンダードアミノ基の双方を不溶性成分側に分配することを意図した比較例8は、合成の際にゲル化したため、製造することができなかった。また、ヒンダードアミノ基に換えてリン酸基を含有する可溶性成分Jを用いた比較例9も、合成の際にゲル化したため、製造することができなかった。
【0116】
実施例及び製造が可能だった比較例の非水分散型硬化性樹脂組成物について、(1)貯蔵安定性(60℃、7日間)、(2)常温3ヶ月後の貯蔵安定性及び(3)耐候性の3項目についての評価を行った。さらにこれら3項目の評価をもとに、(4)総合評価を行った。以下にその評価方法について説明し、評価の結果については表3に示す。
【0117】
(1)貯蔵安定性(60℃、7日間)
得られた非水分散型硬化性樹脂組成物を、40mlの蓋付き瓶に入れ、60℃に保ったまま7日間静置し、静置前後の粘度を比較した。粘度の測定は、B型粘度計を用いた。静置前後の粘度増加率を増粘率で評価した。評価は、増粘率が200%未満を○とし、それ以上を×とした。試験結果を表3に示す。
増粘率(%)=(静置後の粘度)/(静置前(合成直後)の粘度)×100
【0118】
(2)常温3ヶ月貯蔵安定性
製造した非水分散型硬化性樹脂組成物をガラス瓶に入れ密栓し、室温下で3ヶ月静置した際の非水分散型硬化性樹脂組成物の状態を目視にて評価した。静置後のガラス瓶の上下を逆さにした際に、樹脂が流動しガラス瓶底部に付着していなければ○とし、ゲル状になりガラス瓶底部に付着していたら×とした。試験結果を表3に示す。
【0119】
(3)耐候性
製造した非水分散型硬化性樹脂組成物を、ロール刷毛で弱溶剤の留去後の膜厚が100μmになるように窯業用サイディング板(エナメル塗料塗布済)に塗布し、耐候試験機(ダイプラメタルウェザオメータ)を用いた促進耐候性試験を行い、試験実施前後における60°光沢値及びYI(Yellow Index)値を測定した。光沢値は光沢保持率で評価し、YI値は試験実施前後におけるYI値の差(ΔYI)で評価した。評価は、光沢保持率95%以上、ΔYI1.0以下、塗膜の表面ブリード無し、を全て満たすものを○とした。試験結果を表3に示す。
光沢保持率(%)=(試験後塗板の光沢値)/(試験前塗板の光沢値)×100
ΔYI=(試験後塗板のYI値)―(試験前塗板のYI値)
【0120】
なお、促進耐候性試験は、以下の測定条件で行った。
UVカットフィルター:KF−1
ブラックパネル温度:63℃
UV照射強度:750W/m
降雨条件:2mm/120min
照射時間:480時間
【0121】
(4)総合評価
上述した評価(貯蔵安定性、耐候性、常温3ヶ月後貯蔵安定性)において全て○の結果が得られたものを○、それ以外を×とした。結果を表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
(試験結果)
(1)貯蔵安定性(60℃、7日間)
表3に示すように、実施例1〜7のほか、比較例2〜6及び10が貯蔵安定性(60℃、7日間)に優れ、それ以外の比較例1及び8については粘性が増加し、貯蔵安定性に欠ける結果となった。
【0124】
実施例1〜7については、第1の樹脂組成物において、適量のヒンダードアミノ基が可溶性成分側に分配され、同様に適量のアルコキシシリル基が不溶性成分側に分配されたため、貯蔵安定性に優れる結果となったと考えられる。なお、実施例8については、実施例1〜7と同様の分配傾向を有するものの、アルコキシシリル基に対してヒンダードアミノ基の量が多すぎるため、初期粘度が600mPa・sと高く、しかも、増粘率も600%を超えたものと考えられる。一方、比較例10については、ヒンダードアミノ基とアルコキシシリル基が実施例と同様の分配傾向を有するため、貯蔵安定性が優れる結果となったと考えられる。また、比較例4〜6については、アルコキシシリル基を全く含有していないため、比較例2及び3は、ヒンダードアミノ基を全く含有していないとともに、アルコキシシリル基の全部又はほとんどが不溶性成分側に分配されて架橋反応が進行しなかったためであると考えられる。
【0125】
また、比較例1では、ヒンダードアミノ基を含有しないが、アルコキシシリル基が可溶性成分側に分配される構成であり、比較例7では、ヒンダードアミノ基が不溶性成分側に、アルコキシシリル基が可溶性成分側に分配される構成である。このような構成では、貯蔵安定性に欠けることがわかった。
【0126】
(2)常温3ヶ月貯蔵安定性
表3に示すように、実施例1〜5及び7のほか、比較例2、4〜6及び10は常温3ヶ月貯蔵安定性に優れ、それ以外の実施例6、8並びに比較例1、3及び7については当該貯蔵安定性に欠ける結果となった。
【0127】
実施例1〜5及び7並びに比較例10については、(1)貯蔵安定性(60℃、7日間)と同様、適量のヒンダードアミノ基が可溶性成分側に分配され、適量のアルコキシシリル基が不溶性成分側に分配されたため、常温3ヶ月貯蔵安定性に優れる結果となったと考えられる。その他の常温3ヶ月貯蔵安定性に優れる比較例2、4〜6は、ヒンダードアミノ基を有していないか又はアルコキシシリル基を有していないため、(1)貯蔵安定性(60℃、7日間)と同様架橋反応が進行しなかったためと考えられる。
【0128】
一方、実施例6及び比較例3については、いずれも、貯蔵安定性(60℃、7日間)は優れていたものの常温3ヶ月貯蔵安定性には劣っていた。これは、実施例6については、アルコキシシリル基が不溶性成分側に分配されているもののその含有量が多いためと考えられる。また、比較例3については、ヒンダードアミノ基を含有していないが、アルコキシシリル基を可溶性成分及び不溶性成分のいずれにも含有しているため、貯蔵安定性(60℃、7日間)は優れていたものの緩やかに架橋反応が進行したものと考えられる。さらに、実施例8は、(1)貯蔵安定性(60℃、7日間)と良好でなかったのと同様の理由から(2)常温3ヶ月貯蔵安定性も良好でなかったと考えられる。また、比較例1及び比較例7は、前述の貯蔵安定性(60℃、7日間)の評価結果と同様の理由で常温3ヶ月貯蔵安定性の結果も良好でなかったと考えられる。
【0129】
以上の(1)及び(2)の貯蔵安定性の結果から、ヒンダードアミノ基が可溶性成分側に、アルコキシシリル基を不溶性成分側に分配するようにすることで、貯蔵安定性を向上させ得ることがわかった。また、ヒンダードアミノ基はその一部を不溶性成分側に分配しても、貯蔵安定性を確保できるように調整できることがわかった。さらに、ヒンダードアミノ基がアルコキシシリル基に対して多すぎる場合には、貯蔵安定性が低下する場合があることがわかった。さらにまた、第1の樹脂組成物におけるヒンダードアミノ基含有ビニル系モノマーの量は、アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーの種類や含有量によって適宜設定できるが、0.5%程度から2%程度(より好適には、1.5%以下程度、さらに好適には1.2%以下程度)とし得ることがわかった。
【0130】
(3)耐候性
表3に示すように、実施例1〜8のほか、比較例7は、耐候性に優れ、比較例1〜6は耐候性に劣る結果となった。実施例1〜8は、いずれも、分配状態にかかわらず、ヒンダードアミノ基とアルコキシシリル基を有していることで、優れた耐候性が得られることがわかった。一方、比較例1〜3は、ヒンダードアミノ基、すなわち、HALSを全く含有していないため、塗膜が黄変してΔYI値が増大したものと考えられる。また、比較例4〜6は、アルコキシシリル基を全く含有していないため光沢保持率が低下したものと考えられる。さらに、比較例10は、共重合性ではなく、非共重合性のHALSを用いたため、これが塗膜表面にブリードしてきたものと推測される。
【0131】
以上の結果から、耐候性を確保する観点からは、ヒンダードアミノ基をビニル系重合体中に備えることが好ましいことがわかった。また、ヒンダードアミノ基を可溶性成分側にアルコキシシリル基を不溶性成分側に分配するようにするこどで、耐候性を向上させ得ることがわかった。また、耐候性の試験において、試験に供した各例の第1の樹脂組成物は、いずれも、その塗装後には、室温条件下で良好な自己硬化性を呈した。
【0132】
以上、説明した貯蔵安定性及び耐候性の試験結果によれば、耐候性及び常温硬化性に優れる塗料等に用いる樹脂組成物を得るには、塗膜に対して光安定剤としての機能を発揮するヒンダードアミノ基を可溶性成分側に共重合体の構成要素として備え、塗膜に対して光沢保持等の機能を発揮するアルコキシシリル基を不溶性成分側の共重合体の構成要素として備えることが好ましいことがわかった。また、同様の構成で、耐候性及び常温硬化性に加えて貯蔵安定性に優れる塗料用樹脂組成物を得ることができることがわかった。
【0133】
[2]イソシアネート化合物及び脱水剤を含む非水分散型硬化性樹脂組成物(第2の態様の非水分散型硬化性樹脂組成物)の製造及び評価
【0134】
<実施例9>
実施例1の非水分散型硬化性樹脂組成物200部(樹脂固形分として100部)に、イソシアネート化合物(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラネート(登録商標)TPA−100)を10部、ビニルトリメトキシシラン(信越シリコーン製KBM−1003)を0.4部添加して20分間ディスパーで攪拌を行い、樹脂組成物を得た。
【0135】
<実施例10〜15、比較例11〜19>
表4及び表5に記載の配合に従い、実施例9と同様にして、各種樹脂組成物を作製した。なお、比較例19としては、エスケー化研製の超低汚染弱溶剤形アクリルシリコン樹脂クリヤー塗料(2液型)(クリーンSDトップ)を用意したものを使用した。また、表4及び表5における数値はいずれも固形分として示す。
【0136】
【表4】
・デュラネートTPA−100・・・旭化成ケミカルズ株式会社製ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレートタイプ、イソシアネート基含有率23重量%、不揮発分:100重量%
・デュラネート24A−100・・・旭化成ケミカルズ株式会社製ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプ、イソシアネート基含有率23.5重量%、不揮発分100重量%
・コロネートT−80・・・東ソー株式会社製、80質量%の2,4−TDIと20質量%の2,6−TDIの混合物
・ミリオネートMR−100・・・東ソー株式会社製、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、不揮発成分100%、NCO%30%
・KBM−1003・・・信越化学工業株式会社製、ビニルトリメトキシシラン
・KBE−9007・・・信越化学工業株式会社製、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
・PTSI・・・丸善油化商事株式会社製、p-トルエンスルホニルイソシアネート
【0137】
【表5】
【0138】
<試験板の作製>
実施例9〜15及び比較例11〜19の各種樹脂組成物を、ロール刷毛で弱溶剤留去後の乾燥膜厚が70〜80μmとなるように、フッ素コート窯業系サイディング材(フッ素系クリア塗膜を備える)及び硬質ポリ塩化ビニル板(TP技研製)に塗布した。塗布後、常温で7日間乾燥せしめて、各々塗装された試験板を作製した。このようにして得られた各試験板を使い、各種物性試験を行った。
【0139】
<物性評価>
各種樹脂組成物及び各種試験板を使い、(1)1次密着性、(2)貯蔵安定性(60℃、7日間)、(3)耐温水性及び(4)耐候性について評価を行った。
【0140】
(1)1次密着性
各種試験板に、カッターナイフの切り刃を30度に保持して、素地に達するよう2mm間隔の平行線を6本引き、それらの平行線に直交する2mm間隔の平行線を6本引いて、塗膜に25個の碁盤目を形成した。この碁盤目の上に接着テープ(ニチバン社製の工業用セロハンテープ)を気泡が残らないように指先で均一に圧着させた後、接着テープの端を持ち、塗面に対して60度の角度で引っ張って、塗面からテープを剥がし、25個の碁盤目の剥がれの有無を確認した。表では、(剥がれた碁盤目の数)/(初期の碁盤目の数)、で記載した。
【0141】
(2)貯蔵安定性(60℃、7日間)
各種塗樹脂組成物を、40mlの蓋付き瓶に入れ、60℃に保ったまま7日間静置し、静置前後の粘度を比較した。粘度測定は、B型粘度計を使って60rpmの条件で行い、静置前後の粘度増加率を以下の計算式で算出した。
増粘率(%)=(静置後の粘度)/(静置前の粘度)×100
【0142】
(3)耐温水性(50℃、7日間)
各種試験板の側面および裏面に防水処理を施したのち、50℃の温水に7日間浸漬させた。7日間経過後、試験板を温水から引揚げて、目視による外観評価を行った。また1次密着性で行ったのと同じ方法で密着性試験を行い、評価した。
【0143】
(4)耐候性
各種試験板について、耐候試験機(ダイプラメタルウェザオメータ)を用いた促進耐候性試験を行い、試験実施前後における60°光沢値及びb値を測定した。光沢値は光沢保持率で評価し、b値は試験実施前後におけるb値の差(Δb)で評価した。試験結果を表5に示す。
光沢保持率(%)=(試験後塗板の光沢値)/(試験前塗板の光沢値)×100
Δb=(試験後塗板のb値)―(試験前塗板のb値)
【0144】
なお、促進耐候性試験は、以下の測定条件で行った。
UVカットフィルター:KF−1
ブラックパネル温度:63℃
UV照射強度:750W/m2
降雨条件:2mm/120min
照射時間:480時間
【0145】
上記(1)〜(3)の評価結果を表6及び表7に示す
【0146】
【表6】
【0147】
【表7】
【0148】
表6に示すように、実施例9〜15においては、いずれも、良好な貯蔵安定性と一次密着性を呈した。さらに、温水に抗して外観及び密着性を維持できることわかった。さらに、良好な耐候性も備えていることがわかった。なお、実施例14及び15は、総合評価としては「×」とした。これは、耐候性試験の結果、塗膜が黄変してΔbが高くなったことに基づいている。黄変が問題とならないような、例えば、顔料等を含む塗膜や、さらに追加して当該表面に塗膜が形成される場合には、塗膜が黄変しても問題がないため、そのような場合には、「○」という趣旨である。実施例9〜15は、いずれも、評価に用いた試験板等の被塗装物に汎用される比較例19と同等の優れた一次密着性、耐温水性を示すとともに、比較例19よりも優れた耐候性を示した。なお、これらの実施例9〜15の樹脂組成物やキットが、アクリル樹脂の塗膜を有する窯業系サイディング材に対しても良好な密着性の塗膜を形成できることを確認した。
【0149】
一方、表7に示すように、イソシアネート化合物のみを含有する比較例11〜14及び17〜18においては、脱水剤を含まないため、貯蔵安定性が十分でなかった。なお、これらの実施例については良好な一次密着性を示し、耐温水性の外観については良好な結果を示した。なお、密着性(耐温水性)については、イソシアネート化合物含有量が少ない場合(比較例11、13)、やや低下する傾向があった。これは、イソシアネート化合物量が少なく、塗膜形成前にイソシアネート化合物の一部が消費されてしまったためであると考えられる。また、比較例15〜16については、脱水剤としてのモノイソシアネート化合物を含むものの脱水作用により貯蔵安定性を確保できたものの一次密着性を充足しなかった。なお、比較例11及び13の耐候性試験については、それぞれ比較例12及び14より低下することが推定されたため行わなかった。また、比較例15及び16の耐温水性試験及び耐候性試験については、一次密着性が不良であることから、これらについては行っていない。
【0150】
なお、表7において、比較例11〜14は、いずれも総合評価を「×※※」とした。これらの比較例及び実施例9〜15の結果から、実施例1の非水分散型樹脂組成物とイソシアネート化合物とを別に2液型塗料(キット)として構成することで、密着性及び耐候性に優れる塗膜を形成できることがわかった。