特許第6481235号(P6481235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6481235-インクジェット用記録シートの製造方法 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481235
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】インクジェット用記録シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20190304BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20190304BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20190304BHJP
   D21H 19/60 20060101ALI20190304BHJP
   D21H 19/62 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B41M5/52 110
   D21H27/00 Z
   D21H19/38
   D21H19/60
   D21H19/62
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-63898(P2015-63898)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-193250(P2015-193250A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2018年1月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-70357(P2014-70357)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】トッパン・フォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】木村 徹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 悟史
【審査官】 樋口 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−008992(JP,A)
【文献】 特開2005−280035(JP,A)
【文献】 特開平11−107194(JP,A)
【文献】 特開平11−222513(JP,A)
【文献】 特開平11−020301(JP,A)
【文献】 特開2008−162239(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/027614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/00,5/50−5/52
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えるインクジェット用記録シートの製造方法であって、
前記受容層は、顔料及びバインダーを含み、
前記顔料は、平均2次粒子径が異なる第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムを含み、
前記バインダーと、前記第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムと、を含むインク受容層用組成物を、前記基材に塗工することで、前記受容層を形成し、
前記バインダーと、前記第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムと、を配合することで、前記インク受容層用組成物を得ることを特徴とする、インクジェット用記録シートの製造方法
【請求項2】
前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムの平均2次粒子径が1μm未満であり、
前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの平均2次粒子径が2〜5μmである、請求項1に記載のインクジェット用記録シートの製造方法
【請求項3】
前記受容層及びインク受容層用組成物において、前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムと前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの含有量の比率が、10:90〜40:60である、請求項2に記載のインクジェット用記録シートの製造方法
【請求項4】
前記受容層及びインク受容層用組成物が、前記バインダーとして、ポリビニルアルコール及びポリウレタンを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット用記録シートの製造方法
【請求項5】
前記受容層及びインク受容層用組成物において、前記バインダーの含有量が、前記顔料の含有量100質量部に対して5〜20質量部であり、前記ポリビニルアルコールのケン化度が85モル%以上であり、かつ前記ポリビニルアルコールの重合度が1800以下である、請求項4に記載のインクジェット用記録シートの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用記録シートに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクによる情報記録方式は、フルカラーの高画質な画像を容易に得られ、近年の技術進歩により、銀塩写真に迫る高画質も実現できることから、急速に広まってきている。
インクとしては、水や、水及び親水性有機溶媒の混合溶媒等の溶媒中に、各種色材を含有させた水系インクと、疎水性有機溶媒中に油溶性の色材を含有させた油系インクとが挙げられ、目的に応じて使い分けられる。
一方、インクジェット用の記録シートは、インクを吸収させて画像を形成するためのインク受容層が、紙等の基材上に形成されてなる。そして、インク受容層は、例えば、シリカを主成分とし、さらにこれを分散させるための分散媒を含む組成物を塗布及び乾燥することで形成できる。
【0003】
このような記録シートとしては、これまでに種々のものが提案されており、例えば、支持体の少なくとも一方の面に、平均二次粒子径が0.1〜5.0μmの凝集軽質炭酸カルシウムを20〜100重量部含む顔料100重量部に対して、結着剤5〜25重量部、カチオン性高分子5〜30重量部を含む塗工液を、1〜25g/m塗工してなることを特徴とする多目的記録用紙が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−8992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者らは、特許文献1の多目的記録用紙を高速プリンターでのインクジェット印刷に用いると、ドット滲みや乾燥不良が生じる場合があることを見出した。ここで、高速プリンターとは、例えば、500f(152.4m)/分以上の速度で印刷するプリンターを意味する。
【0006】
そこで、本発明は、高速プリンターでインクジェット印刷した場合であっても、ドット滲がなく、乾燥性も良好な、インクジェット用記録シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えるインクジェット用記録シートの製造方法であって、前記受容層は、顔料及びバインダーを含み、前記顔料は、平均2次粒子径が異なる第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムを含み、前記バインダーと、前記第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムと、を含むインク受容層用組成物を、前記基材に塗工することで、前記受容層を形成し、前記バインダーと、前記第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムと、を配合することで、前記インク受容層用組成物を得ることを特徴とする、インクジェット用記録シートの製造方法を提供する。
【0008】
前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムの平均2次粒子径は1μm未満であり、前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの平均2次粒子径は2〜5μmであることが好ましい。
【0009】
前記受容層及びインク受容層用組成物において、前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムと前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの配合量の比率は、10:90〜40:60であることが好ましい。
【0010】
前記受容層及びインク受容層用組成物は、前記バインダーとして、ポリビニルアルコール及びポリウレタンを含むことが好ましい。
前記受容層及びインク受容層用組成物において、前記バインダーの含有量が、前記顔料の含有量100質量部に対して5〜20質量部であり、前記ポリビニルアルコールのケン化度が85モル%以上であり、かつ前記ポリビニルアルコールの重合度が1800以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速プリンターでインクジェット印刷した場合であっても、ドット滲みが少なく、乾燥性も良好な、インクジェット用記録シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1、3、4及び比較例2、10、11のインクジェット用記録シートに使用した顔料の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えるインクジェット用記録シートであって、前記受容層は、顔料及びバインダーを含み、前記顔料は、平均2次粒子径が異なる第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムを含むことを特徴とする、インクジェット用記録シートを提供する。前記インク受容層は、基材にインク受容層用組成物を塗工して形成される。
【0014】
<インク受容層用組成物>
インク受容層用組成物(以下、単に「組成物」と略記することがある)は、顔料、バインダー及び必要に応じてその他の成分を含む。
【0015】
(顔料)
前記顔料は、インク中の顔料を保持し、水分の吸収及び透過に影響を与える成分である。
顔料としては、炭酸カルシウムを使用する。炭酸カルシウムには、重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムが存在する。重質炭酸カルシウムは、天然の石灰石を粉砕分級したものであり、軽質炭酸カルシウムは、化学的に合成したものである。軽質炭酸カルシウムの粒子の形や大きさは化学的に制御することができる。軽質炭酸カルシウムの粒子の形には、立方形、紡錘形、柱形等が存在する。また、軽質炭酸カルシウムには、1次粒子が単体粒子として存在するものと、1次粒子が凝集して2次粒子を形成したものが存在する。
1次粒子が凝集して2次粒子を形成した軽質炭酸カルシウムを凝集軽質炭酸カルシウムという。1次粒子の平均粒子径(平均1次粒子径)は、例えば、走査型電子顕微鏡で観察した結果から求めることができる。2次粒子の平均粒子径は、例えば、レーザー回折法で測定することにより求めることができる。
【0016】
インク受容層用組成物は、平均2次粒子径が異なる第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウムを含む。前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムの平均2次粒子径は1μm未満であることが好ましく、且つ前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの平均2次粒子径は2〜5μmであることが好ましい。平均2次粒子径が1μm未満の凝集軽質炭酸カルシウムを含むことにより、インクジェット印刷した場合のドット滲みを減少させることができる傾向にある。また、平均2次粒子径が2〜5μmの凝集軽質炭酸カルシウムを含むことにより、インクジェット印刷した場合のインクの乾燥性を高めることができる傾向にある。ここで、インクの乾燥性が高いとは、インクの乾燥に要する時間が短いことを意味する。
【0017】
前記第1の凝集軽質炭酸カルシウム(例えば、平均2次粒子径が1μm未満のもの)と前記第2の凝集軽質炭酸カルシウム(例えば、平均2次粒子径が2〜5μmのもの)の配合量の比率は、10:90〜40:60であることが好ましい。ドット滲みを減少させる観点からは、平均2次粒子径が1μm未満の凝集軽質炭酸カルシウムの配合量が高いことが好ましく、インクの乾燥性を高める観点からは、平均2次粒子径が2〜5μmの凝集軽質炭酸カルシウムの配合量が高いことが好ましい。前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムと前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの配合量の比率が、10:90〜40:60であることにより、ドット滲みの抑制と乾燥性の向上の双方をバランスよく達成することができる。
インク受容層における、常温で揮発性及び昇華性のいずれも有しない成分同士の含有量の比率は、通常、インク受容層用組成物におけるこれら成分同士の含有量の比率と同じとなる。したがって、インク受容層は、前記第1の凝集軽質炭酸カルシウムと前記第2の凝集軽質炭酸カルシウムの含有量の比率は、10:90〜40:60であることが好ましい。ここで、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15〜25℃の温度が好適である。
【0018】
(バインダー)
前記バインダーは、インク受容層において顔料(前記第1及び第2の凝集軽質炭酸カルシウム)を保持する成分である。
前記バインダーとしては、水溶性高分子が例示でき、より具体的には、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール;カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール;酸化デンプン;リン酸エステル化デンプン;ローコンス;カゼイン;カルボキシメチルセルロース(CMC);エステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン等のポリウレタン等が例示できる。
前記バインダーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0019】
前記バインダーのうち、例えば、ポリビニルアルコールは、インク受容層の安定した維持、インクの乾燥性、ドット滲み、インク受容層の耐水性にも影響を与える成分である。
また、例えば、ポリウレタンは、インク受容層の耐水性、インク受容層用組成物の安定性にも影響を与える成分である。
【0020】
ポリビニルアルコールは、ケン化度が85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、93モル%以上であることがさらに好ましく、96モル%以上であることが特に好ましい。ポリビニルアルコールのケン化度が前記下限値以上であることで、ドット滲みがより抑制され、インク受容層の耐水性が向上する。ポリビニルアルコールのケン化度の上限値は特に限定されず、例えば、99モル%であってもよいし、100モル%であってもよい。
【0021】
ポリビニルアルコールは、重合度が250以上であることが好ましく、350以上であることがより好ましく、400以上であることが特に好ましい。ポリビニルアルコールの重合度が前記下限値以上であることで、インク受容層の耐水性が向上する。一方、ポリビニルアルコールは、重合度が1800以下であることが好ましく、1750以下であることがより好ましく、1700以下であることがさらに好ましく、例えば、800以下であってもよい。ポリビニルアルコールの重合度が前記上限値以下であることで、インクの乾燥性がより向上する。
【0022】
ポリウレタンは、カチオン性、アニオン性及び非イオン性のいずれでもよいが、インク受容層の耐水性が向上する点から、非イオン性であることが好ましい。
【0023】
前記バインダーとしては、ポリビニルアルコールのみ、又はポリビニルアルコール及びポリウレタンのみを用いることが好ましい。
【0024】
前記バインダーとして、ポリビニルアルコール及びポリウレタンを併用することで、インク受容層の特性を調節できる。例えば、ポリビニルアルコール及びポリウレタンを併用することで、インク受容層は耐水性がより向上し、水分共存下での基材からのインク受容層の剥離が高度に抑制され、バインダーの使用量を低減できる。
【0025】
インク受容層用組成物におけるバインダーの配合量(含有量)は、顔料の配合量(含有量)を基準として、好ましくは3〜50質量%であり、より好ましくは5〜50質量%であり、さらに好ましくは5〜25質量%であり、特に好ましくは5〜20質量%である。下限値以上とすることで、インク受容層を一層安定して形成でき、上限値以下とすることで、インクの乾燥性を良好な範囲に調節できる。
すなわち、インク受容層は、バインダーの含有量が、顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部であり、より好ましくは5〜50質量部であり、さらに好ましくは5〜25質量部であり、特に好ましくは5〜20質量部である。
【0026】
インク受容層の耐水性が顕著に向上する点から、インク受容層は、前記バインダーとして、ポリビニルアルコール及びポリウレタンを含み、バインダーの含有量が、顔料の含有量100質量部に対して5〜20質量部であるものが好ましく、さらにポリビニルアルコールのケン化度が85モル%以上であり、かつポリビニルアルコールの重合度が1800以下であるものがより好ましい。
【0027】
(その他の成分)
インク受容層用組成物は、本発明の効果を妨げない範囲内において、前記顔料及びバインダー以外に、その他の成分が配合されていてもよい。
その他の成分としては、溶媒、カチオン樹脂、多価金属塩、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、酸化防止剤、防腐剤、耐水化剤、紙力増強剤、着色染料、着色顔料、色素定着剤、顔料分散剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等、インクジェット用記録シートの受容層において通常使用される成分が例示できる。
その他の成分は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
ここで、「溶媒」とは、顔料又はバインダーを分散物として配合し、前記分散媒として使用したもの以外に溶媒を使用しなかった場合には、前記分散媒を指す。また、前記分散媒として使用したもの以外に、別途溶媒を配合した場合には、前記分散媒とこの別途配合した溶媒の双方を指す。そして、顔料及びバインダーを共に固形物として配合した場合には、これらとは別に添加される溶媒を指す。溶媒としては、水、アルコール等が挙げられる。
【0029】
カチオン樹脂は、インクジェットインクの定着剤として好適なものであり、水に溶解したときに解離してカチオン性を呈するものが好ましい。
なかでも、前記カチオン樹脂は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン若しくは第4級アンモニウム塩のモノマー、オリゴマー又はポリマーであることが好ましく、前記オリゴマー又はポリマーであることがより好ましい。
前記カチオン樹脂でさらに好ましいものとしては、アルキルアミン−エピクロルヒドリン共重合物;第2級アミノ基、第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体;ポリビニルアミン;ポリビニルアミジン;5員環アミジン類;ジシアンジアミド−ホルマリン共重合体等のジシアン系カチオン樹脂;ジシアンジアミド−ポリエチレンアミン共重合物等のポリアミン系カチオン樹脂;ポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類及びその誘導体;ジアリルジメチルアンモニウム−SO共重合物;ジアリルアミン塩−SO共重合物;ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物;アリルアミン塩の重合物;ビニルベンジルトリアリルアンモニウム塩の単独重合体又は共重合体;ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物;アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物;ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩が例示でき、アルキルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物であることが特に好ましく、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物であることが最も好ましい。
なお、本明細書において「誘導体」、「類」との記載は、特に断りのない限り、元の化合物の1個以上の水素原子が水素原子以外の基(原子)で置換されているものを意味する。
【0030】
カチオン樹脂は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0031】
インク受容層用組成物中のカチオン樹脂の配合量(含有量、固形分)は、顔料の配合量(含有量)を基準として、好ましくは1〜40質量%であり、例えば、5〜40質量%であってもよいし、5〜25重量%であってもよい。
すなわち、インク受容層は、カチオン樹脂の含有量が、顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部であり、例えば、5〜40質量部であってもよいし、5〜25重量部であってもよい。
【0032】
多価金属塩は、インクの乾燥性を向上させる成分である。
多価金属塩としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化バリウム、塩化亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、インク乾燥性、発色濃度、耐水性、耐擦過性等のインクジェット印刷適性をバランスよく向上させることができ、安全性も高い点で、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムが好ましい。
【0033】
多価金属塩は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
インク受容層用組成物中の多価金属塩の配合量(含有量、固形分)は、顔料の配合量(含有量)を基準として、好ましくは3〜55質量%であり、例えば、5〜55質量%であってもよいし、5〜25重量%であってもよい。
すなわち、インク受容層は、多価金属塩の含有量が、顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは3〜55質量部であり、例えば、5〜55質量部であってもよいし、5〜25重量部であってもよい。
【0035】
インク受容層用組成物における、前記その他の成分の総配合量は、目的に応じて適宜調節すればよい。
【0036】
(インク受容層用組成物の製造方法)
インク受容層用組成物は、前記顔料、バインダー、及び必要に応じてその他の成分を配合して、これら配合成分を十分に撹拌することで製造できる。本発明の組成物において、顔料及びバインダーは、共に分散されていることが好ましい。
【0037】
各成分は、一度にまとめて配合してもよいし、成分ごとに順次配合してもよく、一部の成分のみをまとめて配合してもよい。各成分の配合順序は特に限定されない。
【0038】
配合時の温度は特に限定されず、配合成分の種類等に応じて適宜調整すればよいが、15〜30℃であることが好ましい。
撹拌は、ミキサーを使用する方法等、分散物を調製する公知の方法で行えばよい。撹拌時間は、製造する組成物の総量や撹拌方法等に応じて、適宜調整すればよい。
【0039】
<インクジェット用記録シート>
本発明のインクジェット用記録シート(以下、単に「記録シート」と略記することがある)は、上記のインク受容層用組成物が基材上に塗布及び乾燥されてなるインク受容層を備えたことを特徴とする。
【0040】
基材の材質は特に限定されず、塗工層を形成可能なものであれば目的に応じて選択すればよい。具体的には、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、レジンコート紙、合成紙等の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等の合成樹脂等が例示できる。また、二種以上の材質のものが積層されたものでもよい。
【0041】
基材の厚さは、基材の形状がシート状又はフィルム状である限り、特に限定されないが、20〜1000μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで、インク受容層の構造を一層安定して保持でき、上限値以下とすることで、記録シートとしての取り扱い性が一層良好となる。
【0042】
組成物の塗布方法は特に限定されず、液状物を塗布できる方法であれば、いずれでもよい。具体的には、エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、グラビアオフセットコーター等の各種コーター;ワイヤーバーコーター等の装置を使用する公知の方法が例示できる。
【0043】
組成物の塗布は、一回で行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けて行う場合には、乾燥させた塗布層上にさらに塗布する方法、乾燥していない塗布層上にさらに塗布する方法のいずれでもよい。
組成物の塗布量は、組成物の固形分濃度、インク受容層の所望の厚み等を考慮して、適宜調節すればよい。
【0044】
塗布した組成物は、送風乾燥、加熱送風乾燥等、公知の方法で乾燥させればよい。乾燥温度、乾燥時間等の条件は、乾燥方法に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
インク受容層は、厚さが1〜30μmであることが好ましく、2〜20μmであることがより好ましい。このような範囲とすることで、インク受容層の構造を一層安定して保持できると共に、本発明の効果に一層優れた記録シートとなる。
【0046】
本発明の記録シートは、インク受容層形成後に、マシンカレンダー、TGカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー、グロスカレンダー、コンパクトカレンダー、マットスーパーカレンダー、マットカレンダー等の装置を使用して、表面が平滑化処理されていてもよい。
【0047】
カレンダー装置は、コーターと分離されたオフタイプ、及びコーターと一体となったオンタイプのいずれでもよい。
カレンダー装置のうちロールには、例えば、剛性ロール及び弾性ロールがある。
前記剛性ロールとしては、金属製ロール、金属の表面が硬質クロムメッキ等で鏡面処理されたロール等が例示できる。
前記弾性ロールとしては、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリアミド、フェノール樹脂又はポリアクリレート等の樹脂製ロール;コットン、ナイロン、アスベスト又はアラミド繊維等を成型したロール等が例示できる。
【0048】
カレンダー仕上げの条件は、剛性ロールの温度、カレンダー圧力、ニップ数、ロール速度、カレンダー前の紙水分等により、要求される品質に応じて適宜選択される。
【0049】
基材上にインク受容層が形成された後に表面が平滑化処理された記録シートは、その厚さ方向に圧縮されているため、基材やインク受容層がより目詰まりして通気性が低下し(例えば、JIS P 8117:2009に従って測定される透気度の値が大きくなり)、通常であれば、インクの通りが悪くなって乾燥性が低下する傾向にある。しかし、本発明においては、例えば、前記バインダーとして、ポリビニルアルコール及びポリウレタンを併用し、バインダーの使用量を低減するなど、インク受容層の含有成分を調節することで、インクの乾燥性の低下を抑制できる。
【0050】
平滑化処理された記録シートは、表面の光沢度が高くなる。例えば、本発明の記録シートは、JIS−P8142:2005に従って測定された光沢度75°が、好ましくは15〜50%、より好ましくは20〜50%のものとすることができる。
【実施例】
【0051】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
なお、以下に示す表において、配合成分の欄が空欄であるのは、その成分が配合されていないことを意味する。また、評価結果の欄が空欄であるのは、その項目が未評価であることを意味する。
【0052】
<使用原料>
以下に示す実施例及び比較例では、基材にインク受容層用組成物を塗工して、インクジェット用記録シートを製造した。インク受容層用組成物の調製では、顔料として、表1に示す物性の凝集軽質炭酸カルシウム(凝集粒子である合成炭酸カルシウム)、表2に示す物性の軽質炭酸カルシウム(単体粒子である合成炭酸カルシウム)、表3に示す物性の重質炭酸カルシウム(天然の石灰石を粉砕分級したもの)及び表4に示す物性のシリカ微粒子を使用した。表1において、平均1次粒子径は、顔料を走査型電子顕微鏡を用いて倍率30000倍で観察し、1次粒子20個の粒子径を測定してその平均値として算出した。
表1〜4において、平均2次粒子径又は平均粒子径は、MICROTRAC MT3000(商品名、日機装社製)を用いたレーザー回折法により測定した。測定結果は個数基準に換算した。
【0053】
また、バインダーとしては、表5に示す特性のポリビニルアルコール(クラレ社製「PVA105」、「PVA205」、「PVA117」)、ポリウレタン(第一工業社製「スーパーフレックスE−2000」(非イオン性エステル系ポリウレタンエマルジョン)、以下、「SFE2000」と略記することがある)を使用した。
【0054】
表6に、インク受容層用組成物の材料の配合量を示す。表6中の(A)〜(J)は、表1〜4に物性を示した顔料(A)〜(J)にそれぞれ対応する。
また、カチオン樹脂として、Jetfix260(商品名、アルキルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物、里田化工社製)を使用した。また、多価金属塩として塩化カルシウムを使用した。表6中の数字の単位は質量部であり、全て固形分換算した量である。
【0055】
[実施例1]
顔料(A)(平均2次粒子径0.49μmの凝集軽質炭酸カルシウム)25質量部と顔料(B)(平均2次粒子径3.39μmの凝集軽質炭酸カルシウム)75質量部に、ポリビニルアルコール10質量部(固形分)を加え、固形分濃度が40%となるように水を加え、攪拌機を使用して、撹拌することで十分に分散を行い、インク受容層用組成物を製造した。
製造したインク受容層用組成物を、ワイヤーバーコーターを使用して、基材(フォーム用紙、商品名:NPiフォーム<90>(日本製紙社製)、厚さ128±8μm、A4サイズ)の片面上に塗布し、オーブンを使用して105℃で60秒間加熱送風乾燥を行い、厚さが10μmのインク受容層を形成して、実施例1のインクジェット用記録シートを製造した。
【0056】
[実施例2〜7、比較例1〜16]
インク受容層用組成物の材料を、表6に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜7及び比較例1〜16のインクジェット用記録シートを製造した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
[ドット滲みの評価]
ドット滲みをドット形状係数により評価した。評価サンプルは、卓上インクジェットプリンターを用いて、実施例1〜7、比較例1〜16の各インクジェット用記録シートのインク受容層上に、水性黒色顔料インクを2cm×2cmのサイズでドットが重ならないように濃度10%で印刷(単色印刷)して作成した。続いて、インクジェット用記録シートの表面の顕微鏡画像を撮影し、ドットアナライザー(DA6000、王子計測機器社製)で解析した。具体的には、ドットの周囲長及び面積を測定し、次の計算式によりドット形状係数を算出した。
ドット形状係数=(周囲長)/(4π×面積)
【0064】
ドット形状係数は、ドットが真円であるときには1となり、ドットの形状が真円から離れるほど、すなわち、ドットが滲んでいるほど大きな値となる。なお、卓上インクジェットプリンター(印刷速度0.43f(0.13m)/分)で測定したドット形状係数が、高速インクジェットプリンター(印刷速度500f(152.4m)/分)で測定したドット形状係数と十分な相関があることを事前に確認した。
【0065】
実施例1〜7、比較例1〜16の各インクジェット用記録シートについて、それぞれ約30個ずつのドットのドット形状係数を算出して平均値を求め、下記評価基準でドット滲みを評価した。結果を表7に示す。かっこ内にドット形状係数の平均値を示す。比較例13及び14のインクジェット用記録シートは、インク受容層が剥離したため測定不能であった。
1.8以下:○
1.8超2.0以下:△
2.0超:×
【0066】
[乾燥性の評価]
卓上インクジェットプリンターを用いて、実施例1〜7、比較例1〜16の各インクジェット用記録シートのインク受容層上に、水性黒色顔料インクを2cm×2cmのサイズでベタ印刷(単色印刷)した。続いて、排紙直後からインクが乾燥するまでの時間(秒)を目視で判定し、下記評価基準でインクの乾き具合を評価した。なお、インクの乾燥に要する時間が3.6秒以下であれば、高速インクジェットプリンター(印刷速度500f(152.4m)/分)で印刷した場合であっても、良好な乾燥性を示すことを事前に確認した。また、インクの乾燥に要する時間が3.6秒超5.1秒以下の場合においても、高速インクジェットプリンター(印刷速度500f(152.4m)/分)での印刷が可能な場合がある。
【0067】
結果を表7に示す。かっこ内に乾燥に要した時間(秒)を示す。比較例13及び14のインクジェット用記録シートは、インク受容層が剥離したため測定不能であった。
インクの乾燥に要する時間が3.6秒以下:○
インクの乾燥に要する時間が3.6秒超5.1秒以下:△
インクの乾燥に要する時間が5.1秒超:×
【0068】
[総合評価]
インクジェット用記録シートのドット滲み及び乾燥性を下記評価基準で総合評価した。
結果を表7に示す。
ドット滲み及び乾燥性の評価がいずれも「○」であれば「◎」
ドット滲み及び乾燥性の一方の評価が「○」で他方の評価が「△」であれば「○」
ドット滲み又は乾燥性の評価が「×」であれば「×」
【0069】
実施例1〜7のインクジェット用記録シートは、ドット滲みが少なく、乾燥性も良好であることが示された。
【0070】
【表7】
【0071】
[顔料の粒度分布の評価]
実施例1、3、4及び比較例2、10、11のインクジェット用記録シートに使用した顔料の粒度分布を測定した。より具体的には、実施例1については顔料(A)25質量部と顔料(B)75質量部の混合物について、粒度分布を測定した。実施例3、4及び比較例2、10、11についても、表6に示す顔料の配合量にしたがって混合した顔料について粒度分布を測定した。粒度分布はMICROTRAC MT3000(商品名、日機装社製)を用いたレーザー回折法により測定した。測定結果は個数基準に換算した。
【0072】
図1は、実施例1、3、4及び比較例2、10、11のインクジェット用記録シートに使用した顔料の粒度分布を示すグラフである。実施例1、3、4の顔料では、比較例2、10、11のような明確な2つの粒度分布のピークは観察されなかった。
【0073】
[実施例8〜26]
インク受容層用組成物の材料とその配合量を、表8に示すように変更し、インク受容層形成後にカレンダーによる平滑化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、インクジェット用記録シートを製造及び評価した。結果を表9に示す。なお、表8中の数字の単位は質量部であり、全て固形分換算した量である。
実施例11及び12は、実施例10とはカレンダー処理のスケールが異なっており、使用した装置のカレンダーローラーの径が、実施例11及び12では、実施例10の約3倍であって、それ以外は実施例10と同じ方法で行ったものであり、同じ方法で2回繰り返し行ったものである。実施例11及び12以外の実施例並びに比較例は、すべて実施例10と同じスケールで行ったものである。
カレンダーによる平滑化処理は下記方法で行った。評価は、実施例1等での乾燥性及びドット滲み以外に、下記方法で光沢度75°及び耐水強度についても行った。
【0074】
[平滑化処理]
ロール温度を40〜50度に設定した実機スーパーカレンダー装置にて、光沢度が10〜50となるように、平滑化処理を行った。
【0075】
[光沢度75°の評価]
JIS−P8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に従って、光沢度計(村上色彩技術研究所製「グロスメーターGM26D」)を用いて、用紙表面の光沢度75°(%)を測定した。
【0076】
[耐水強度の評価]
基材上に形成したインク受容層に対して、10μLの水道水を滴下し、その上に厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムを重ね、このフィルム上で重さ2kgの金属製ローラーを2往復させた後、前記フィルムを剥がし、基材上のインク受容層の状態について、その壊れ、剥がれの程度に基づいて、目視により下記基準で評価した。
A:優れている(インク受容層の壊れ、剥がれ等が認められない)。
B:実使用上問題なく優れている (インク受容層の若干の剥がれは認められる)。
C:実使用上問題ない(インク受容層の剥がれは認められる)。
D:実使用上問題がある(インク受容層が壊れ、根こそぎ剥がれている)。
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
実施例8〜26のインクジェット用記録シートは、平滑化処理を行っていても、ドット滲みが少なく、乾燥性も良好であった。これは、バインダーとしてポリビニルアルコール及ぶポリウレタンを併用することで、バインダーの使用量を低減できたためであると推測される。
また、実施例8〜26の結果から、バインダーとしてポリビニルアルコール及びポリウレタンを併用することで、インク受容層の耐水強度(耐水性)が向上する傾向にあることも確認できた。
このように、インク受容層形成後にカレンダーによる平滑化処理を行った場合でも、本発明のインクジェット用記録シートは、高速プリンターでインクジェット印刷した場合であっても、ドット滲みが少なく、乾燥性も良好であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、高速プリンターでインクジェット印刷した場合であっても、ドット滲みが少なく、乾燥性も良好な、インクジェット用記録シートを提供することができる。
図1