特許第6481295号(P6481295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481295
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20190304BHJP
   B60C 19/08 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B60C15/06 C
   B60C19/08
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-181059(P2014-181059)
(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2016-55660(P2016-55660A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】岸添 勇
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−268863(JP,A)
【文献】 特開平07−081334(JP,A)
【文献】 特開2013−086724(JP,A)
【文献】 特開2012−192876(JP,A)
【文献】 特開平10−081110(JP,A)
【文献】 特開2014−062259(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/083749(WO,A1)
【文献】 特開2007−176437(JP,A)
【文献】 特表2015−502357(JP,A)
【文献】 特開2015−171850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/08、15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部のリムと接触する箇所に設けられたリムクッションゴムと、
前記リムクッションゴムとともに配置されて前記リムクッションゴムの外面に前記リムと接触するように一端が露出し前記リムクッションゴムに隣接し導電性を有するタイヤ構成部材に他端が接触して設けられており、前記リムクッションゴムよりも電気抵抗値が低い導電性ゴムと、
を備え、前記リムから入った電気が前記導電性ゴム、前記タイヤ構成部材を通ってトレッド部側に流れ、
前記リムクッションゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上であり、
前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるインナーライナー層に他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
ビード部のリムと接触する箇所に設けられたリムクッションゴムと、
前記リムクッションゴムとともに配置されて前記リムクッションゴムの外面に前記リムと接触するように一端が露出し前記リムクッションゴムに隣接し導電性を有するタイヤ構成部材に他端が接触して設けられており、前記リムクッションゴムよりも電気抵抗値が低い導電性ゴムと、
を備え、前記リムから入った電気が前記導電性ゴム、前記タイヤ構成部材を通ってトレッド部側に流れ、
前記リムクッションゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上であり、
前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるビードフィラーに他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
ビード部のリムと接触する箇所に設けられたリムクッションゴムと、
前記リムクッションゴムとともに配置されて前記リムクッションゴムの外面に前記リムと接触するように一端が露出し前記リムクッションゴムに隣接し導電性を有するタイヤ構成部材に他端が接触して設けられており、前記リムクッションゴムよりも電気抵抗値が低い導電性ゴムと、
を備え、前記リムから入った電気が前記導電性ゴム、前記タイヤ構成部材を通ってトレッド部側に流れ、
前記リムクッションゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上であり、
前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるビード補強層に他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記リムクッションゴムの300%モジュラスが10MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することのできる空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1は、トレッド部と、サイドウォール部と、ビード部と、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至るカーカスと、カーカスのタイヤ半径方向外側にブレーカーを備えた空気入りタイヤであって、トレッド部、ブレーカーおよびサイドウォール部にそれぞれ形成されるトレッドゴム、ブレーカーゴムおよびサイドウォールゴムの体積固有抵抗は、いずれも1×10Ω・cm以上であり、さらにカーカスを構成するカーカスプライとサイドウォールゴムとの間、およびブレーカーとトレッド部の間に配置されて厚みが0.2mm〜3.0mmの導電性ゴムと、導電性ゴムと接続し一部がトレッド部の表面に露出するようにトレッド部に埋設される通電ゴムと、導電性ゴムの下端と連結しビード部のリムフランジに接する領域に配置されるクリンチと、を備え、導電性ゴム、通電ゴムおよびクリンチゴムの体積固有抵抗が1×10Ω・cm未満である空気入りタイヤが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−023504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の空気入りタイヤは、転がり抵抗を低く維持しながら路面とタイヤの走行時に発生する静電気を効果的に放出することを目的としている。しかし、特許文献1の空気入りタイヤは、カーカスを構成するカーカスプライとサイドウォールゴムとの間、およびブレーカーとトレッド部の間に配置されて厚みが0.2mm〜3.0mmの導電性ゴムと、導電性ゴムの下端と連結しビード部のリムフランジに接する領域に配置されるクリンチと、を備え、これらの体積固有抵抗が1×10Ω・cm未満とされている。すなわち、特許文献1の空気入りタイヤは、カーカスプライとサイドウォールゴムとの間、およびブレーカーとトレッド部の間の導電性ゴムや、ビード部のリムフランジに接する領域のクリンチゴムが、電気抵抗の低いゴム材で形成されている。この結果、電気抵抗の低いゴム材は、発熱が大きいため、耐転がり抵抗性能や高速耐久性能が低下する傾向となる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の発明の空気入りタイヤは、ビード部のリムと接触する箇所に設けられたリムクッションゴムと、前記リムクッションゴムとともに配置されて前記リムクッションゴムの外面に前記リムと接触するように一端が露出し前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材に他端が接触して設けられており、前記リムクッションゴムよりも電気抵抗値が低い導電性ゴムと、を備え、前記リムクッションゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上であることを特徴とする。
【0007】
この空気入りタイヤによれば、リムクッションゴムよりも電気抵抗値が低い導電性ゴムを備えることで、リムから入った電気が導電性ゴム、タイヤ構成部材を通ってトレッド部側に流れる。このため、リムクッションゴムに電気抵抗値を考慮せず低発熱性のゴムを採用することができ、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上することができる。この結果、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することができる。しかも、この空気入りタイヤによれば、リムクッションゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上であるため、具体的に、リムクッションゴムが比較的に低発熱性のゴムとなり、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を助勢することができる。
【0008】
第2の発明の空気入りタイヤは、第1の発明において、前記リムクッションゴムの300%モジュラスが10MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
この空気入りタイヤによれば、リムクッションゴムの300%モジュラスを10MPa以上としたことで、操縦安定性能を向上することができる。
【0010】
第3の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるカーカス層に他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする。
【0011】
この空気入りタイヤによれば、電気抵抗と、他性能(耐転がり抵抗性能、高速耐久性能)を両立することができる。
【0012】
第4の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるインナーライナー層に他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする。
【0013】
この空気入りタイヤによれば、カーカス層の低発熱化が可能となるため、転がり抵抗をさらに低減することができる。
【0014】
第5の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるビードフィラーに他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする。
【0015】
この空気入りタイヤによれば、導電性の高いビードフィラーに導電性ゴムが接することで、さらなる電気抵抗値の低減を見込むことができる。
【0016】
第6の発明の空気入りタイヤは、第1または第2の発明において、前記導電性ゴムは、前記リムクッションゴムに隣接するタイヤ構成部材であるビード補強層に他端が接触して設けられ、この場合の前記導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下であることを特徴とする。
【0017】
この空気入りタイヤによれば、導電性がより高いスチールなどの補強層と導電性ゴムが接するため、さらに効率よく電気抵抗を低減でき、かつ、さらにタイヤ剛性を増加でき、高速耐久性や、高速操縦安定性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る空気入りタイヤは、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
図3図3は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図4図4は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図5図5は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図6図6は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図7図7は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図8図8は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図9図9は、リム組時にビード部に掛かる圧力を示すグラフである。
図10図10は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図11図11は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図12図12は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図13図13は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図14図14は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図15図15は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図16図16は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図17図17は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図18図18は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
図19図19は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0021】
図1および図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
【0022】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0023】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1および図2に示すように、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8と、インナーライナー層9とを備えている。
【0024】
トレッド部2は、トレッドゴム2Aからなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延び、タイヤ赤道線CLと平行なストレート主溝である複数(本実施形態では4本)の主溝22が設けられている。そして、トレッド面21は、これら複数の主溝22により、タイヤ周方向に沿って延びるリブ状の陸部23が複数形成される。なお、主溝22は、タイヤ周方向に沿って延在しつつ屈曲や湾曲して形成されていてもよい。また、トレッド面21は、陸部23において、主溝22に交差する方向に延在するラグ溝24が設けられている。本実施形態では、ラグ溝24をタイヤ幅方向最外側の陸部23に示す。ラグ溝24は、主溝22に交差していてもよく、またはラグ溝24は、少なくとも一端が主溝22に交差せず陸部23内で終端していてもよい。ラグ溝24の両端が主溝22に交差する場合、陸部23がタイヤ周方向で複数に分割されたブロック状の陸部が形成される。なお、ラグ溝24は、タイヤ周方向に対して傾斜して延在しつつ屈曲や湾曲して形成されていてもよい。
【0025】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。すなわち、ショルダー部3は、トレッドゴム2Aからなる。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。このサイドウォール部4は、サイドゴム4Aからなる。図1に示すように、サイドゴム4Aは、タイヤ径方向外側の端部が、トレッドゴム2Aの端部のタイヤ径方向内側に配置され、タイヤ径方向内側の端部が、後述するリムクッションゴム5Aの端部のタイヤ幅方向外側に配置されている。また、図2に示すように、サイドゴム4Aは、タイヤ径方向外側の端部が、トレッドゴム2Aの端部のタイヤ径方向外側に配置されてショルダー部3まで延在していてもよい。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。このビード部5は、リムR(図3図8に二点鎖線で示す)と接触する外側部分に露出するリムクッションゴム5Aを有する。リムクッションゴム5Aは、ビード部5の外周をなすもので、ビード部5のタイヤ内側から下端部を経てタイヤ外側のビードフィラー52を覆う位置(サイドウォール部4)まで至り設けられている。なお、図3図8において、空気入りタイヤ1をリムRに装着した場合、リムクッションゴム5Aは、ビード部5のタイヤ内側のビードトウのタイヤ径方向内側部分がリムRに押圧されて変形する。
【0026】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向にある角度を持って複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。このカーカス層6は、少なくとも1層で設けられている。なお、図1および図2において、カーカス層6は、折り返された端部がビードフィラー52全体を覆うように設けられているが、折り返された端部がビードフィラー52の途中までを覆い、ビードフィラー52とリムクッションゴム5Aとが接触するように設けられていてもよい(図5参照)。また、カーカス層6の折り返された部分のタイヤ幅方向外側であって、リムクッションゴム5Aとの間に、スチールコードまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)がコートゴムで被覆されたビード補強層10(図6参照)が設けられていてもよい。
【0027】
ベルト層7は、少なくとも2層のベルト71,72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルト71,72は、互いのコードが交差するように配置されている。
【0028】
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5度)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。図1および図2で示すベルト補強層8は、ベルト層7全体を覆うように配置され、かつベルト層7のタイヤ幅方向端部を覆うように積層配置されている。ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、例えば、2層で、ベルト層7全体を覆うように配置されていたり、ベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されていたりしてもよい。また、ベルト補強層8の構成は、図には明示しないが、例えば、1層で、ベルト層7全体を覆うように配置されていたり、ベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されていたりしてもよい。すなわち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
【0029】
インナーライナー層9は、タイヤ内面、すなわち、カーカス層6の内周面であって、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部5のビードコア51の位置まで至り、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されて貼り付けられている。インナーライナー層9は、タイヤ外側への空気分子の透過を抑制するためのものである。なお、インナーライナー層9は、図1および図2に示すようにビードコア51の下部(タイヤ径方向内側)に至り設けられているが、図8または図10に示すようにビード部5のタイヤ内側であってビードコア51の間近に至り設けられていてもよい。
【0030】
図3図8は、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である。
【0031】
上述した空気入りタイヤ1において、図3図8に示すように、リムクッションゴム5Aは、導電性ゴム11が設けられている。導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aとともに配置されてリムクッションゴム5Aの外面であってリムRと接触する部分に一端11aが露出し、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に他端11bが接触して設けられている。また、導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aよりも電気抵抗値が低いゴム材からなる。この導電性ゴム11は、タイヤ周方向で連続して設けられていても、断続して設けられていてもよい。
【0032】
リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材とは、図3および図8ではカーカス層6を示し、図4および図7ではインナーライナー層9を示し、図5ではビードフィラー52を示し、図6ではビード補強層10を示している。
【0033】
なお、導電性ゴム11は、図3図8に示すように、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に接触するが、複数のタイヤ構成部材に接触してもよく、リムRから入った電気を導電性ゴム11、タイヤ構成部材を通ってトレッド部2側に流す効果をより顕著に得ることができる。また、導電性ゴム11の位置は、リムクッションゴム5Aの外面に一端11aが露出しリムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に他端11bが接触する距離がより短い最短距離の位置に配置することが、リムRから入った電気を導電性ゴム11、タイヤ構成部材を通ってトレッド部2側に流す効果をより顕著に得るうえで好ましい。
【0034】
このように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、ビード部5のリムRと接触する箇所に設けられたリムクッションゴム5Aと、リムクッションゴム5Aとともに配置されてリムクッションゴム5Aの外面にリムRと接触するように一端11aが露出しリムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材に他端11bが接触して設けられており、リムクッションゴム5Aよりも電気抵抗値が低い導電性ゴム11と、を備える。
【0035】
そして、本実施形態の空気入りタイヤ1は、リムクッションゴム5Aの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、導電性ゴム11の60℃における損失正接tanδが0.20以上である。60℃における損失正接tanδは、空気入りタイヤ1から採取したサンプルの測定によるものとする。
【0036】
近年では、転がり抵抗の向上に向けて、タイヤ外周であるケーシングゴムのコンパウンドの低発熱化が進んでいるが、特にリムクッションゴム5Aの低発熱化は、転がり抵抗のみならず、低扁平タイヤの高速耐久性や、高速操安時の熱ダレ性能向上にも大きく寄与するため、非常に重要である。しかし、リムクッションゴム5Aを低発熱化することにより、コンパウンドの電気抵抗値が悪化する傾向にあるが、リムクッションゴム5Aは、リムRと接触する箇所ということもあり、リムクッションゴム5Aの電気抵抗レベルの悪化は、タイヤの電気抵抗値を大きく悪化させてしまうことになる。
【0037】
この空気入りタイヤ1によれば、リムクッションゴム5Aよりも電気抵抗値が低い導電性ゴム11を備えることで、リムRから入った電気が導電性ゴム11、タイヤ構成部材を通ってトレッド部2側に流れる。このため、リムクッションゴム5Aに電気抵抗値を考慮せず低発熱性のゴムを採用することができ、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上することができる。この結果、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立することができる。
【0038】
しかも、この空気入りタイヤ1によれば、リムクッションゴム5Aの60℃における損失正接tanδが0.20以下であり、導電性ゴム11の60℃における損失正接tanδが0.20以上であるため、具体的に、リムクッションゴム5Aが比較的に低発熱性のゴムとなり、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を助勢することができる。
【0039】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、リムクッションゴム5Aの300%モジュラスが10MPa以上である。300%モジュラスは、JIS−K6251(3号ダンベル使用)に従った室温での引張試験により測定され、伸び300%時の引張応力を示す。
【0040】
この空気入りタイヤ1によれば、リムクッションゴム5Aの300%モジュラスを10MPa以上としたことで、操縦安定性能を向上することができる。なお、導電性ゴム11の300%モジュラスは、リムクッションゴム5Aよりも高くなるが、高速耐久性の観点から、導電性ゴム11とリムクッションゴム5Aとの300%モジュラスの差は10MPa以下であることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材であるカーカス層6に他端11bが接触して設けられ、この場合の導電性ゴム11の60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下である。
【0042】
この空気入りタイヤ1によれば、電気抵抗と、他性能(耐転がり抵抗性能、高速耐久性能)を両立することができる。しかも、この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものであるため、このカーカス層6に導電性ゴム11の他端11bを接触させることで、リムRから入った電気をトレッド部2側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0043】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材であるインナーライナー層9に他端11bが接触して設けられ、この場合の導電性ゴム11の60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下である。
【0044】
この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6の低発熱化が可能となるため、転がり抵抗をさらに低減することができる。しかも、この空気入りタイヤ1によれば、インナーライナー層9は、カーカス層6の内周面であって、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部5のビードコア51の下部に至り、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されて貼り付けられているものであるため、このインナーライナー層9に導電性ゴム11の他端11bを接触させることで、リムRから入った電気をトレッド部2側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0045】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材であるビードフィラー52に他端11bが接触して設けられ、この場合の導電性ゴム11の60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下である。
【0046】
この空気入りタイヤ1によれば、導電性の高いビードフィラー52に導電性ゴム11が接することで、さらなる電気抵抗値の低減を見込むことができる。
【0047】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、リムクッションゴム5Aに隣接するタイヤ構成部材であるビード補強層10に他端11bが接触して設けられ、この場合の導電性ゴム11の60℃における損失正接tanδが0.20以上0.30以下である。
【0048】
この空気入りタイヤ1によれば、導電性がより高いスチールなどの補強層と導電性ゴム11が接するため、さらに効率よく電気抵抗を低減でき、かつ、さらにタイヤ剛性を増加でき、高速耐久性や、高速操縦安定性能を向上することができる。
【0049】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図4図7および図8に示すように、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aが、ビード部5におけるビードコア51のタイヤ径方向内側端を基準とする水平線Hよりもタイヤ径方向内側に配置されていることが好ましい。
【0050】
水平線Hは、子午断面カットサンプルを後述する正規リムのリム幅相当に固定した場合に、タイヤ赤道面CLに直交し、タイヤ幅方向に平行なものである。また、図4図7および図8において、範囲A−Bは、空気入りタイヤ1をリムRに組み込んだときに、ビード部5がリムRに接触する範囲である。そして、範囲A−B内において、位置Cはビードコア51のタイヤ内側端のタイヤ径方向内側であり、位置Dはビードコア51のタイヤ外側端のタイヤ径方向内側であり、位置Eは水平線H上であり、位置Fはビードコア51のタイヤ径方向外側のタイヤ外側であり、位置Gはビード部5のタイヤ外側の変曲点である。リム組時にビード部5に掛かる圧力を示すグラフである図9では、この範囲A−B内における各位置の圧力を示している。また、図9において、実線は静的時(車両の停止時または低速走行時)であり、破線は高速走行時(150km/h以上)のビード部5に掛かる圧力を示す。
【0051】
図9に示すように、水平線Hよりもタイヤ径方向内側となる位置Aから位置Eの範囲では、ビードコア51がリムRに嵌まり込むためリムRとの接触圧が高く、高速走行時でも安定してリムRに接触する。従って、ビードコア51のタイヤ径方向内側端を基準とする水平線Hよりもタイヤ径方向内側に導電性ゴム11の一端11aを配置することで、効率よく電気抵抗を低減しながら、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能との両立を図ることができる。なお、図9に示すように、位置Fから位置Gの範囲では、静的時はリムRとの接触圧が高いが、高速走行時はビードコア51を中心としてビード部5が変位し易く、リムRとの接触圧が低下する傾向となる。
【0052】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤ1の要部拡大図である図10に示すように、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aの位置Pにおけるビード部5のプロファイルとの法線Nに対して±45°の範囲に他端11bが配置されることが好ましい。
【0053】
図10に示すように、子午断面カットサンプルを後述する正規リムのリム幅相当に固定した状態において、一端11aの位置Pは、一端11aの厚み方向の幅の中心位置である。法線Nは、ビード部5のプロファイルの位置Pにおける接線Tに直交する。そして、この法線Nに対して±45°の範囲に他端11bを配置することで、導電性ゴム11の体積の増加を抑制するため、発熱を抑えて耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を維持することができる。
【0054】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤ1の要部拡大図である図11図16に示すように、導電性ゴム11は、子午断面における厚み方向の幅W1,W2,W3が0.5mm以上10.0mm以下であることが好ましい。
【0055】
幅W1は導電性ゴム11の一端11aと他端11bとの中間の最大(中間が広くなる場合)または最小寸法(中間が狭くなる場合)であり、幅W2は導電性ゴム11の一端11aの寸法であり、幅W3は導電性ゴム11の他端11bの寸法である。
【0056】
導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の最小寸法が0.5mm未満である場合、導電性が低く電気抵抗低減効果が低下する傾向となる。一方、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の最大寸法が10.0mmを超える場合、導電性ゴム11の体積が大きく発熱が大きくなるため耐転がり抵抗性能および高速耐久性能が低下する傾向となる。従って、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3を0.5mm以上10.0mm以下とすることが、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立するうえで好ましい。
【0057】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤの要部拡大図である図11図16に示すように、導電性ゴム11は、子午断面における厚み方向の幅W1,W2,W3が0.5mm以上6.0mm以下であることが好ましい。
【0058】
導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の各寸法が0.5mm未満である場合、導電性が低く電気抵抗低減効果が低下する傾向となる。一方、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3の各寸法を6.0mm以下とすれば、導電性ゴム11の体積の増加を抑制して発熱が大きくなることを抑える。従って、導電性ゴム11の幅W1,W2,W3を0.5mm以上6.0mm以下とすることが、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とを両立するうえでより好ましい。
【0059】
ここで、図11では一端11aから他端11bに至り導電性ゴム11の幅W1,W2,W3が均等に形成された形態を示している。また、図12では、一端11aから他端11bに至り導電性ゴム11の幅W1が途中で広く形成された形態を示している。この図12に示す形態では、一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が0.5mm以上あればよく、途中の広い幅W1が10.0mm(好ましくは6.0mm)以下であればよい。図12に示す形態は、導電性ゴム11の幅W1が途中で広く形成されているため、電気を通しやすく電気抵抗低減効果が顕著に得られる。また、図13では、導電性ゴム11の一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が均等で途中の幅W1よりも広く形成された形態を示している。また、図14および図15では、導電性ゴム11の一端11aの幅W2または他端11bの幅W3の一方が広く形成された形態を示している。また、図16では、導電性ゴム11の一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が途中の幅W1よりも広く形成され、かつ一端11aの幅W2が他端11bの幅W3よりも広く形成された形態を示している。この図13図16に示す形態では、途中の幅W1が0.5mm以上あればよく、一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が10.0mm(好ましくは6.0mm)以下であればよい。図13図16に示す形態は、リムR側やタイヤ構成部材側に接触する導電性ゴム11の一端11aの幅W2や他端11bの幅W3が途中の幅W1より広く形成されているため、接触面積の増大により電気の入出が良好となり電気抵抗低減効果が顕著に得られる。しかも、図16に示す形態は、導電性ゴム11の一端11aおよび他端11bの幅W2,W3が途中の幅W1よりも広く形成され、かつ一端11aの幅W2が他端11bの幅W3よりも広く形成されているため、リムR側からの電気の入りがより良好となり電気抵抗低減効果がより顕著に得られる。
【0060】
従って、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aの厚み方向の幅W2が、他端11bとの間の最大幅W1よりも大きいことが好ましい。また、導電性ゴム11は、子午断面において、他端11bの厚み方向の幅W3が、一端11aとの間の最大幅W1よりも大きいことが好ましい。さらに、導電性ゴム11は、子午断面において、一端11aの厚み方向の幅W2が、他端11bの幅W3よりも大きいことが好ましい。
【0061】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11は、電気抵抗値が1×10Ω以下であることが好ましい。
【0062】
この空気入りタイヤ1によれば、導電性ゴム11が電気を通しやすく電気抵抗低減効果が顕著に得られる。一方、リムクッションゴム5Aの電気抵抗値が1×10Ωを超えるため低発熱性のゴムを採用することができ、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上することができる。
【0063】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、導電性ゴム11が複数箇所に設けられていることが好ましい。
【0064】
導電性ゴム11を複数箇所に設けることで、電気抵抗低減効果を顕著に得ることができる。この場合、図9に示すように、リムRへの接触圧が比較的高い位置A〜位置Eの範囲や位置Fから位置Gの範囲に導電性ゴム11の少なくとも一端11aを配置することが電気抵抗低減効果を図るうえで好ましい。特に、リムRへの接触圧が常に高い位置A〜位置Eの範囲の複数箇所に導電性ゴム11の少なくとも一端11aを配置することが電気抵抗低減効果を図るうえでより好ましい。さらに、リムRへの接触圧が常に高いビードコア51の下部(タイヤ径方向外側)である位置C〜位置Dの範囲の複数箇所に導電性ゴム11の少なくとも一端11aを配置することが電気抵抗低減効果を図るうえでさらに好ましい。
【0065】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、カーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aの60℃における損失正接tanδが0.12以下であり、かつカーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aの電気抵抗値が1×10Ω以上であることが好ましい。
【0066】
この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aを上記のごとく規定することで、カーカス層6のコートゴムおよびサイドウォール部4のサイドゴム4Aに低発熱性のゴムを採用することになり、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができ、しかも高速操縦安定性能における耐熱ダレ性能の向上も図ることができる。さらに、この場合にインナーライナー層9に導電性ゴム11の他端11bを接触させることで、リムRから入った電気をトレッド部2側に適宜流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果をより顕著に得ることができる。この結果、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能とをより高い次元で両立することができる。
【0067】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図1および図2に示す空気入りタイヤ1の要部拡大図である図17および図18に示すように、トレッド部2に、トレッド部2の外面であるトレッド面21に一端12aが露出しトレッド部2の内部に他端12bが設けられたアーストレッドゴム12を有することが好ましい。
【0068】
この空気入りタイヤ1によれば、アーストレッドゴム12を有することで、リムRから入った電気をトレッド部2のトレッド面21から路面に効果的に流すことができ、電気抵抗低減性能を向上する効果を顕著に得ることができる。このため、トレッドゴム2Aに低発熱性のゴムを採用することができ、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能を向上する効果を顕著に得ることができる。
【0069】
ここで、図17および図18に示すように、トレッド部2をなすトレッドゴム2Aは、トレッド面21に露出するキャップトレッドゴム2Aaと、キャップトレッドゴム2Aaのタイヤ径方向内側であってベルト補強層8やベルト層7に隣接するアンダートレッドゴム2Abとを有する。そして、アーストレッドゴム12は、図17に示すように、キャップトレッドゴム2Aaに設けられ、他端12bがアンダートレッドゴム2Abに接触して配置されている。また、アーストレッドゴム12は、図18に示すように、アンダートレッドゴム2Abを貫通して他端12bがベルト補強層8やベルト層7に接触して配置されていてもよい。なお、キャップトレッドゴム2Aaは、近年ではシリカ配合量が増加する傾向にある。シリカは絶縁性のため電気を通しにくい。このため、図18に示すように、アンダートレッドゴム2Abを貫通して他端12bがベルト補強層8やベルト層7に接触して配置すれば、リムRから入った電気をトレッド部2のトレッド面21から路面により効果的に流すことができる。
【実施例】
【0070】
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、電気抵抗低減性能であるタイヤ電気抵抗値、耐転がり抵抗性能、高速耐久性能(キャンバー付)、高速操縦安定性能(耐熱ダレ性能)に関する性能試験が行われた(図19参照)。
【0071】
この性能試験では、タイヤサイズ235/45R19空気入りタイヤ(試験タイヤ)を、19×8Jの正規リムに組み付け、正規内圧(250kPa)を充填した。
【0072】
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0073】
電気抵抗低減性能であるタイヤ電気抵抗値の評価方法は、気温23℃、湿度50%の条件下にて1000[V]の電圧を印加して、トレッド面とリム間の抵抗値の電気抵抗値Ωが測定される。この評価は、数値が小さいほど放電性が優れ、電気抵抗低減性能が優れていることを示している。
【0074】
耐転がり抵抗性能の評価方法は、室内ドラム試験機が用いられ、荷重4kNおよび速度50km/h時における抵抗力が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、耐転がり抵抗性能が優れていることを示している。
【0075】
高速耐久性能の評価方法は、試験タイヤを、規定内圧の120%増した内圧とし、温度80℃の環境下で5日間乾燥劣化させた後、規定内圧とし、ドラム径1707mmのキャンバー付ドラム試験機にて、速度120km/h、荷重負荷5kNで走行開始し、24時間ごとに速度を10km/hずつ増加させながら、タイヤが破損するまで試験を行ない、破損したときの走行距離を測定する。そして、この測定に基づいて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が大きいほど高速耐久性能が優れていることを示している。
【0076】
高速操縦安定性能の評価方法は、試験タイヤを試験車両に装着して速度60km/h〜100km/hで走行させレーンチェンジ時およびコーナリング時における旋回安定性、剛性感、操舵性の項目について、熟練のドライバーによる官能評価により操縦安定性能を評価した。そして、この官能評価に基づいて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が大きいほど操縦安定性能が優れていることを示している。
【0077】
図19において、従来例および比較例の空気入りタイヤは、導電性ゴムを有していない。一方、実施例1〜実施例11の空気入りタイヤは、導電性ゴムを有し、リムクッションゴムおよび導電性ゴムの60℃における損失正接tanδが規定されている。また、実施例4〜実施例11の空気入りタイヤは、リムクッションゴムの300%モジュラス(300M)が規定されている。また、実施例1〜実施例6の空気入りタイヤは、導電性ゴムを図3に示す配置としてタイヤ構成部材がカーカス層である。また、実施例7〜実施例8の空気入りタイヤは、導電性ゴムを図8に示す配置としてタイヤ構成部材がカーカス層である。また、実施例9の空気入りタイヤは、導電性ゴムを図7に示す配置としてタイヤ構成部材がインナーライナー層である。また、実施例10の空気入りタイヤは、導電性ゴムを図5に示す配置としてタイヤ構成部材がビードフィラーである。また、実施例11の空気入りタイヤは、導電性ゴムを図6に示す配置としてタイヤ構成部材がビード補強層である。
【0078】
図19の試験結果に示すように、実施例1〜実施例11の空気入りタイヤは、耐転がり抵抗性能および高速耐久性能と、電気抵抗低減性能であるタイヤ電気抵抗値とが両立され、実施例4〜実施例11の空気入りタイヤは、さらに高速安定性能が改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 空気入りタイヤ
5 ビード部
51 ビードコア
52 ビードフィラー
5A リムクッションゴム
6 カーカス層
9 インナーライナー層
10 ビード補強層
11 導電性ゴム
11a 一端
11b 他端
R リム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19