特許第6481336号(P6481336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481336
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】乳化重合用単量体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/24 20060101AFI20190304BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20190304BHJP
   C08F 246/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C08F2/24
   C08F4/40
   C08F246/00
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-227699(P2014-227699)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-89105(P2016-89105A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 邦宏
(72)【発明者】
【氏名】森保 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】盛田 正美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠之
(72)【発明者】
【氏名】西川 徹
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 仏国特許出願公開第02813607(FR,A1)
【文献】 特開平11−035614(JP,A)
【文献】 特開2000−026506(JP,A)
【文献】 特開平07−330813(JP,A)
【文献】 特表2004−529098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 − 2/60
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル単量体、(B)乳化剤、(C)重合開始剤、(D)還元剤、及び(E)水を含む乳化重合用単量体組成物であって、(C)重合開始剤が3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドであり、
(A)ビニル単量体が、(a−1)水酸基含有ビニル単量体、(a−2)カルボキシル基含有ビニル単量体、及びこれらと共重合可能な(a−3)重合性ビニル単量体からなる乳化重合用単量体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機過酸化物を含有する乳化重合用単量体組成物に関する。詳しくは、重合後の残存モノマーが少なく、かつ多分散度が小さいポリマーを得ることができる、重合開始剤として使用可能な有機過酸化物を含む乳化重合用単量体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全、安全衛生等の観点より、塗料、接着剤、粘着剤、紙加工剤等、各種被覆剤等の分野において無公害化、安全衛生化が強く求められ、各分野で種々の水性化製品が開発されている。これら水性化製品の多くは、種々のビニル単量体または2種類以上の混合体を乳化重合法により重合したエマルジョンから製造されており、重合開始剤には過硫酸塩が使用されている。
【0003】
しかし、過硫酸塩を使用した乳化重合では、得られたラテックス中に未反応のビニル単量体(以下、残存モノマーと称する)が残存し、機械的物性値の低下や臭気の残存、環境問題等の問題を引き起こすことがある。そこで、残存モノマーを低減するための技術として、下記特許文献1が提案されている。
【0004】
特許文献1には、ビニル単量体の一種であるアクリル酸エステルを乳化重合するにあたって、重合開始剤として水に対する溶解度が500ppm以上の有機過酸化物を使用することで、残存モノマーが少なく臭気の少ないアクリル樹脂ラテックスが得られると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−35614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている有機過酸化物であるt−ブチルハイドロパーオキサイドを用いて実際に重合評価を行ったところ、残存モノマーの低減には不十分であった。また、t−ブチルハイドロパーオキサイドから生成するt−ブトキシラジカルは、活性が高いために生成したポリマーから水素を引き抜いてしまい、得られるポリマーの多分散度が大きくなってしまうといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記問題を考慮し、重合後の残存モノマーが少なく、かつ多分散度が小さいポリマーを得ることができる、重合開始剤として使用可能な有機過酸化物を用いた乳化重合用単量体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の有機過酸化物を用いることによって、本発明の目的を達成する乳化重合用単量体組成物を発明するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(A)ビニル単量体、(B)乳化剤、(C)重合開始剤、(D)還元剤、及び(E)水を含む乳化重合用単量体組成物であって、(C)重合開始剤が3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドであることを特徴とする。
【0010】
また、前記乳化重合用単量体組成物であって、(A)ビニル単量体は、(a−1)水酸基含有ビニル単量体、(a−2)カルボキシル基含有ビニル単量体、及びこれらと共重合可能な(a−3)重合性ビニル単量体からなってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の有機過酸化物を乳化重合用単量体組成物の重合開始剤に使用することにより、得られるポリマーの物性値の低下や臭気の原因となる残存モノマーを低減することができる。具体的には、本発明の乳化重合用単量体組成物には、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドが重合開始剤として用いられている。3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドは、還元剤を併用することによりレドックス反応による活性ラジカルを生じる。したがって、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドを重合開始剤として使用することにより、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドから生じた活性ラジカルによりポリマーが生成する。
【0012】
また、従来重合開始剤として使用されている過硫酸塩やt−ブチルハイドロパーオキサイドから生じる活性ラジカルは、酸素中心ラジカルである。この酸素中心ラジカルは極めて活性が高く、生成したポリマー鎖から水素を引き抜く反応が起こり、ポリマーラジカルが生成する。このポリマーラジカルはβ-開裂反応による分解や再結合反応による架橋を引き起こすため、多分散度が増大する傾向にある。一方、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドも過硫酸塩やt−ブチルハイドロパーオキサイドと同様に酸素中心ラジカルを生じる。しかし、これらの酸素ラジカルの多くはβ-開裂反応により炭素中心ラジカルへと変化する。炭素中心ラジカルは酸素ラジカルと比較して活性が低く、ポリマー鎖から水素を引き抜く反応が起こり難くなるため、上述したポリマーの分解や架橋が生じず、多分散度の小さいポリマーを得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<乳化重合用単量体組成物>
本発明の乳化重合用単量体組成物は、(A)ビニル単量体、(B)乳化剤、(C)重合開始剤、(D)還元剤、及び(E)水を含む。
【0014】
<A.ビニル単量体>
ビニル単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩のアクリルアミド系単量体類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、P−メチルスチレンスルホン酸およびそのナトリウム、カリウム塩等のスチレン系単量体類が挙げられ、これら1種または2種類以上の混合体が使用される。なお、使用されるビニル単量体は上記に限定されるものではない。
【0015】
(A)ビニル単量体は、(a−1)水酸基含有ビニル単量体、(a−2)カルボキシル基含有ビニル単量体、及び(a−3)これらと共重合可能な重合性ビニル単量体からなることが好ましい。
【0016】
(a−1)水酸基含有ビニル単量体の例としては、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーが挙げられ、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルメタクリレート、ブタル酸水素アクリロイルオキシエチル、β−ヒドリキシエチル−β−アクリロイルオキシエチルフタレート、1,4−ブチレングリコールモノアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタアリルアルコール、イソプロペニルアルコール、1−ブテニルアルコール、エチレングリコールモノアクリレート、1,4−ブタンジオールモノアクリレート等を用いることができる。
【0017】
なお、本明細書中において、「(メタ)アクリレート」の語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を意味する総称である。
【0018】
(a−2)カルボキシル基含有ビニル単量体の例としては、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーが挙げられ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボン酸類及びそれらの塩を用いることができる。
【0019】
(a−3)重合性ビニル単量体としては、(a−1)水酸基含有ビニル単量体及び(a−2)カルボキシル基含有ビニル単量体と共重合可能なものであればよく、その例としてエチレン性不飽和モノマーが挙げられ、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ラウリル等のエステル類、ビニルアルコールと酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸とのエステル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ブタジエン、イソプレン等のカルボン酸とのエステル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ブタジエン、イソプレン等の不飽和炭化水素類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトナクリルアミド等のアミド類、ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート又はメタクリレート等のポリオキシアルキレン誘導体、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等グリコール類のジアクリレート及びジメタクリレート等、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類のポリアクリレート及びポリメタクリレート等、アリルアルコール、メタリルアルコール等のアクリレート及びメタクリレート類を用いることができる。
【0020】
<B.乳化剤>
乳化重合反応に用いる、乳化剤又は分散剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、反応性乳化剤等全ての界面活性剤が使用でき、いずれの界面活性剤も本発明の(B)乳化剤として用いることができる。
【0021】
アニオン性界面活性剤としては、ナトリウムドデシルサルフェートもしくはカリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート、ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、ナトリウムスルホリシノエート、スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩もしくはスルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート、ナトリウムラウレートもしくはトリエタノールアミンオレエートもしくはトリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネートもしくはアルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属塩サルフェート等のアルキルアリールスルホネート、高アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルサルフェート塩、又はポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が使用できる。
【0022】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、又はエチレンオキサイドと脂肪酸アミンもしくはアミドもしくは酸との縮合生成物等が使用できる。
【0023】
カチオン性界面活性剤としては、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、牛脂アルキルプロピレンジアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が使用できる。
【0024】
両性界面活性剤としては、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、アクリルグリシン、アミドベタイン型、イミダゾリン型等が使用できる。
【0025】
高分子界面活性剤としては、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリ(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリ(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、又はこれらの重合体の構成単位である重合性単量体の2種以上の共重合体もしくは他の単量体との共重合体等が使用できる。また、クラウンエーテル類等の相関移動触媒等も、界面活性を示すものとして有用である。
【0026】
反応性乳化剤としては、花王株式会社製のラテムルPDシリーズ、第一工業製薬株式会社製のアクアロンシリーズ、三洋化成工業株式会社製のエレミノールJSもしくはRS、日本乳化剤株式会社製のアントックスシリーズ、株式会社ADEKA製のアデカリアソープシリーズ、又は新中村化学工業株式会社製のNKエステルMシリーズ等が使用できる。
【0027】
(B)乳化剤は、従来公知の使用量の範囲で任意に使用することができるが、概ね、上記(A)ビニル単量体の総量100質量部に対して0.01〜35質量部、好ましくは0.1〜20質量部、更に好ましくは0.5〜10質量部である。0.01質量部未満ではこの乳化に於いて安定な乳化状態が得られず、35質量部を超えると乳化に於いては過剰量となり、意味がないばかりか無駄なコスト増加を招く。なお、本明細書において、数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。
【0028】
<C.重合開始剤>
本発明の(C)重合開始剤は、有機過酸化物である3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドである。3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドは、従来公知の乳化重合用重合開始剤の通常の使用量の範囲で任意に使用することができるが、概ね、上記(A)ビニル単量体の総量100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.01〜1質量部が良い。
【0029】
この有機過酸化物は、種々のビニル単量体を乳化重合する際の重合開始剤として有効に使用される。3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドは、還元剤を併用することによりレドックス反応による活性ラジカルを生じる。したがって、この有機過酸化物を重合開始剤として使用することにより、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドから生じた活性ラジカルによりポリマーが生成する。
【0030】
また、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドは分子内に水酸基を有している。一般に有機過酸化物を用いた重合では、有機過酸化物から生じた活性ラジカルから重合が進行するため、ポリマーの末端に重合開始剤の一部が導入される。したがって、この有機過酸化物を重合開始剤として使用して得られるポリマーの末端には、重合開始剤由来の水酸基が導入される。水酸基を含むポリマーは、塗料、粘接着剤、ウレタンフォーム、ゲルコート剤、各種成型材料、床材等の用途に用いることができる。例えば、2液型(反応型)の塗料や粘接着剤などにおいて、水酸基を含むポリマーとイソシアネート基を含むポリマーとの反応によりウレタン結合などを形成することにより、3次元的な架橋構造をとることで塗膜の硬化(強度向上)や接着を可能とすることができる。
【0031】
<D.還元剤>
(D)還元剤としては、L−アスコルビン酸、ロンガリット、グルコース、ホルマリン、硫酸第一鉄、硫酸銅、重亜硫酸ナトリウム、チオ尿素などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。その使用量としては、使用される3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドと同一モル数が好ましいが、0.2〜2倍モル数の範囲で適宜使用量を加減することができる。
【0032】
<E.水>
本発明の乳化重合用単量体組成物中に占める(E)水の量は20〜90重量%、好ましくは25〜85重量%、更に好ましくは50〜80重量%である。90重量%を越えると重合体の製造効率が低下し、また、20重量%未満では安定な乳化状態が得られなくなる傾向にある。
【0033】
<添加剤>
本発明の乳化重合用単量体組成物には、必要に応じて一般的な添加剤を加えることもできる。その例としては、増粘剤、成膜助剤、顔料分散剤、顔料、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防カビ剤等が挙げられる。
【0034】
<ビニル単量体の重合方法>
3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシドを重合開始剤に用いて乳化重合用単量体組成物中のビニル単量体を乳化重合するにあたっては、その方法に特に制限はなく従来公知の乳化重合方法が採用される。ビニル単量体の重合系への添加方法においては、初期に全ビニル単量体を一括して添加する方法、ビニル単量体の一部を添加して重合を開始した後残りのビニル単量体を逐次的にあるいは間欠的に添加する方法、ビニル単量体と分散安定剤水溶液をあらかじめ乳化しておきそれを添加する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明の乳化重合用単量体組成物を重合させることによって、(A)ビニル単量体である(a−1)水酸基含有ビニル単量体、(a−2)カルボキシル基含有ビニル単量体、及び(a−3)重合性ビニル重合体が(B)乳化剤と反応してポリオールエマルジョンを形成する。カルボキシル基含有ビニル単量体は、ポリオールエマルションの酸価を付与するために用いられる。
【0036】
なお、本発明の乳化重合用単量体組成物の重合物の被塗物としては特に限定されないが、例えば、無機窯業基材、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属基材、ガラス基材、紙基材等に使用可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中に記載される「部」は、全て質量基準である。
【0038】
<乳化重合物の製造>
(実施例1)
攪拌機、原料投入口、窒素吹き込み口を備えた500mlフラスコ内で、水140質量部、乳化剤としてジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム4.0質量部、還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬製)0.42質量部を混合し、窒素置換を行いながら攪拌した。反応容器内を60℃に昇温した後に、メタクリル酸メチル34質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル30質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル24質量部、スチレン10質量部、メタクリル酸2質量部および重合開始剤として3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルヒドロペルオキシド(日油製:パーヘキシルGH)0.30質量部を混合した単量体溶液を4時間かけて滴下し、反応温度を60℃に保ちながら1時間攪拌して乳化重合物を得た。
【0039】
(実施例2〜10)
重合に使用した単量体、乳化剤、還元剤、重合開始剤及び反応温度を下記表1に記載する種類、配合量及び温度に変更した以外は、実施例1と同様にして乳化重合物を得た。
【0040】
(比較例1)
攪拌機、原料投入口、窒素吹き込み口を備えた500mlフラスコ内で、水140質量部、乳化剤としてジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム4.0質量部を混合し、窒素置換を行いながら攪拌した。反応容器内を60℃に昇温した後に重合開始剤として過硫酸カリウム(和光純薬製)0.30質量部を混合した後、メタクリル酸メチル34質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル30質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル24質量部、スチレン10質量部、メタクリル酸2質量部を混合した単量体溶液を4時間かけて滴下し、反応温度を60℃に保ちながら1時間攪拌して乳化重合物を得た。
【0041】
(比較例2)
重合時の反応温度を80℃に変更した以外は、比較例1と同様にして乳化重合物を得た。
【0042】
<評価方法>
各実施例及び比較例で得られた乳化重合物を、下記試験法によって評価した。得られた評価結果を下記表1に示す。
【0043】
(重合転化率)
スクリュー管瓶中に乳化重合物を1g入れた後、メタノール10mlを加えポリマーを析出させた。次に、n−ノナン(内部標準物質)0.25gをメタノール50mlで希釈した溶液2mlを加え、0.45μlのメンブランフィルターで濾過した後、残存する単量体量を測定した。単量体量を基に重合転化率を算出した。検量線は各単量体と内部標準物質n−ノナンをメタノールで希釈し3点で求めた。
<分析条件>
GC :SHIMADZU GC−2014
カラム :HR−1、信和化工社製、15m、内径0.53mm、膜厚1.0μm
カラム温度:40℃で10分間保持→250℃まで毎分10℃の昇温
INJ :100℃
DET :250℃
【0044】
(重量平均分子量及び多分散度)
スクリュー管瓶中に乳化重合物を3g入れた後、メタノール100mlを加えポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾別し、150℃の乾燥機で重量が恒量するまで乾燥した。乾燥したポリマー0.05〜0.08gをスクリュー管瓶に計り取り、テトラヒドロフラン約25mlを加えて完全に溶解させ、0.20μlのメンブランフィルターで濾過した後、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)にて測定した。
<分析条件>
GPC装置:TOSOH HLC−8320GPC
カラム:TOSOH TSKgel Super Multipore Hz−M、15cm、4.6mID、2本
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、0.35ml/min
【0045】
【表1】

なお、表1中の略称は以下の通りである。
KPS:過硫酸カリウム
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
MA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
MMA:メタクリル酸メチル
EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
BA:アクリル酸n−ブチル
St:スチレン
【0046】
表1に示されるように、実施例1〜10は高い重合転化率と小さい多分散度を示した。一方KPSを重合開始剤として用いた比較例1では、実施例1〜10と比べて重合転化率が低いことから、残存モノマーが多く残っていることが推測され、また、多分散度も大きかった。KPSを重合開始剤として用いており、反応温度を80℃にした比較例2は、反応温度60℃の比較例1と比べて重合転化率は向上されたものの、多分散度は大きいままであった。