特許第6481791号(P6481791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6481791
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】電動ハンド及び対象物体の把持方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   B25J15/08 C
   B25J15/08 U
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-55665(P2018-55665)
(22)【出願日】2018年3月23日
【審査請求日】2018年3月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592028846
【氏名又は名称】第一精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】五反田 富高
(72)【発明者】
【氏名】松島 浩二
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 実開平3−15088(JP,U)
【文献】 特開2003−83824(JP,A)
【文献】 特開2009−58388(JP,A)
【文献】 特開2015−85390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転モータと、
前記回転モータの回転子に連結された回転運動部材と、
前記回転運動部材の回転に伴って、前記回転運動部材の回転軸を中心とする円周の接線方向に並進運動して対象物体を把持する複数の並進運動部材と、
記回転運動部材及び前記対象物体から力を受けて並進運動以外の運動をしないように前記複数の並進運動部材を保持しつつ、前記複数の並進運動部材をその並進運動の方向に案内する案内部と、
前記案内部と前記回転モータの固定子との間に設けられ、前記複数の並進運動部材が前記対象物体を把持する把持力の反力と線形関係にあるトルクのみを検出するトルクセンサと、
を備える電動ハンド。
【請求項2】
前記複数の並進運動部材は、
前記回転運動部材の回転軸を中心に、回転対称に配置されている、
請求項1に記載の電動ハンド。
【請求項3】
前記案内部には、直動レールが設けられ、
前記複数の並進運動部材には、
前記直動レールに案内されるブロックと、
並進運動により、対象物体に接近又は離隔する爪部と、
がそれぞれ設けられている、
請求項1に記載の電動ハンド。
【請求項4】
同一の前記直動レールが、2つの前記ブロックを案内する、
請求項3に記載の電動ハンド。
【請求項5】
前記回転運動部材には、前記回転モータの回転子が連結されていない端部にピニオンギアが設けられ、
前記並進運動部材には、前記ピニオンギアと噛み合うラックギアが設けられている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電動ハンド。
【請求項6】
回転モータの回転子を駆動して回転運動部材を回転し、
前記回転運動部材の回転に伴って、前記回転運動部材の回転軸を中心とする円周の接線方向に複数の並進運動部材を並進させて対象物体を把持させ、
記回転運動部材及び前記対象物体から力を受けて並進運動以外の運動をしないように前記複数の並進運動部材を保持しつつ、前記複数の並進運動部材をその並進運動の方向に案内する案内部と、前記回転モータの固定子との間に設けられたトルクセンサで、前記複数の並進運動部材が前記対象物体を把持する把持力の反力と線形関係にあるトルクのみを検出し、
検出されたトルクに基づいて、前記回転モータの回転を調整しつつ、前記複数の並進運動部材により、前記対象物体を把持する、
対象物体の把持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ハンド及び対象物体の把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つのフィンガーを電動モータにより開閉して対象物体(ワーク)を把持する電動ハンドが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この電動ハンドは、電動モータ、ねじ軸、ナット、一対の揺動アーム、一対のフィンガー(把持部)がこの順に連結された構成を有している。電動モータにより回転駆動されるねじ軸に嵌合されたナットがねじ軸の軸方向に往復移動すると、一対の揺動アームが揺動し、一対のフィンガーが互いに接近して対象物体を把持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−112661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動ハンドで対象物体をその形を保持したまま把持するには、電動モータの出力トルクを制御して電動ハンドの把持力を適切な値とする必要がある。しかしながら、上記特許文献1に開示された電動ハンドには、対象物体を把持する機構として、ねじ軸、ナット、一対の揺動アーム及び一対のフィンガーから成るリンク機構のような複雑な機構が組み込まれている。電動ハンドと対象物体を把持するフィンガーとの間に上述のような複雑な機構が介在していると、電動モータの出力トルクが複雑な機構の動作に消費されてしまい、電動モータのトルクをロスなくフィンガーに伝えるのが困難になる。また、出力トルクと電動ハンドの把持力との関係はその機構の状態に大きく左右される。
【0005】
このような状況では、電動ハンドの把持力を直接検出しても、その検出値に基づいて電動モータの出力トルクを制御して適切な把持力で対象物体を把持するのが困難になる。また、電動モータの出力トルクを検出し、その検出値で電動モータを制御しても、適切な把持力で対象物体を把持するのが困難になる。上記特許文献1に開示される電動ハンドでは、例えば豆腐のような軟らかいものを、形を保持したまま把持するのは困難である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、適切な把持力で対象物体を把持することができる電動ハンド及び対象物体の把持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る電動ハンドは、
回転モータと、
前記回転モータの回転子に連結された回転運動部材と、
前記回転運動部材の回転に伴って、前記回転運動部材の回転軸を中心とする円周の接線方向に並進運動して対象物体を把持する複数の並進運動部材と、
記回転運動部材及び前記対象物体から力を受けて並進運動以外の運動をしないように前記複数の並進運動部材を保持しつつ、前記複数の並進運動部材をその並進運動の方向に案内する案内部と、
前記案内部と前記回転モータの固定子との間に設けられ、前記複数の並進運動部材が前記対象物体を把持する把持力の反力と線形関係にあるトルクのみを検出するトルクセンサと、
を備える。
【0008】
この場合、前記複数の並進運動部材は、
前記回転運動部材の回転軸を中心に、回転対称に配置されている、
こととしてもよい。
【0009】
前記案内部には、直動レールが設けられ、
前記複数の並進運動部材には、
前記直動レールに案内されるブロックと、
並進運動により、対象物体に接近又は離隔する爪部と、
がそれぞれ設けられている、
こととしてもよい。
【0010】
同一の前記直動レールが、2つの前記ブロックを案内する、
こととしてもよい。
【0011】
前記回転運動部材には、前記回転モータの回転子が連結されていない端部にピニオンギアが設けられ、
前記並進運動部材には、前記ピニオンギアと噛み合うラックギアが設けられている、
こととしてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係る対象物体の把持方法は、
回転モータの回転子を駆動して回転運動部材を回転し、
前記回転運動部材の回転に伴って、前記回転運動部材の回転軸を中心とする円周の接線方向に複数の並進運動部材を並進させて対象物体を把持させ、
記回転運動部材及び前記対象物体から力を受けて並進運動以外の運動をしないように前記複数の並進運動部材を保持しつつ、前記複数の並進運動部材をその並進運動の方向に案内する案内部と、前記回転モータの固定子との間に設けられたトルクセンサで、前記複数の並進運動部材が前記対象物体を把持する把持力の反力と線形関係にあるトルクのみを検出し、
検出されたトルクに基づいて、前記回転モータの回転を調整しつつ、前記複数の並進運動部材により、前記対象物体を把持する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転モータの回転子と回転運動部材とが連結され、回転運動部材の回転に伴って並進運動する複数の並進運動部材により、対象物体が把持される。また、トルクセンサは、回転運動部材の回転力を受ける複数の並進運動部材を並進運動の方向に案内する案内部と、回転モータの固定子との間に生じるトルクを検出する。複数の並進運動部材が対象物体を把持すると、その把持力の反力が対象物体から並進運動部材へ加えられ、回転運動部材、回転モータの回転子及び固定子に伝えられる。この反力は、回転モータの固定子と案内部との間に生じるトルクとなってトルクセンサにより検出される。
【0014】
この構成であれば、回転モータの出力トルクをロスなく並進運動部材に伝えて対象物体を把持することができるうえ、案内部を基準として、並進運動部材が対象物体を把持する把持力の反力に相当するトルクをトルクセンサで検出することができる。これにより、対象物体を把持する把持力に相当するトルクを検出し、そのトルクに基づいて把持力を正確に制御することができる。この結果、適切な把持力で対象物体を把持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は、本発明の実施の形態に係る電動ハンドの外観を示す斜視図である。(B)は、(A)の電動ハンドの側面図であり、(C)は、電動ハンドの正面図である。
図2】電動ハンドの内部構造を示す図1(B)のA−A線断面図である。
図3】電動ハンドの内部構造を示す図1(C)のB−B線断面図である。
図4】回転運動部材と並進運動部材とが係合している部分を示す平面図である。
図5図1の電動ハンドの制御系を示す模式図である。
図6】(A)は、対象物体を把持していない状態で、回転運動部材と並進運動部材とに生じる力を示す模式図である。(B)は、対象物体を把持していない状態で、爪部の様子を示す模式図である。
図7】(A)は、対象物体を把持している状態で、爪部に加わる力を示す模式図である。(B)は、対象物体を把持している状態で、回転運動部材と並進運動部材とに生じる力を示す模式図である。
図8】(A)は、トルクセンサで検出されるトルクを示す模式図である。(B)は、把持力の反力と、トルクセンサで検出されるトルクとの関係を示すグラフである。
図9】(A)は、電動ハンドの並進運動部材の構成の変形例を示す図である。(B)は、対象物体が保持される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。全図において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号が付されている。
【0017】
図1(A)、図1(B)及び図1(C)に示すように、本実施の形態に係る電動ハンド1の一部は、外部カバー2で覆われている。外部カバー2の+z側には、回転モータ10の固定子11が露出している。また、外部カバー2の−z側には、一対の把持部3が張り出している。電動ハンド1では、一対の把持部3が対象物体Mを挟み込んで、適切な把持力により把持する。ここで、適切な把持力とは、把持部3と対象物体Mとの静止摩擦係数と対象物体Mとの積の力を上回り、対象物体Mを変形させることなく保持できる力のことである。本実施の形態では、把持部3が動く方向をx軸方向として説明を行う。
【0018】
図1(B)のA−A断面である図2と、図1(C)のB−B断面である図3に示すように、電動ハンド1は、駆動源である回転モータ10と、トルクを検出するトルクセンサ20と、把持部3(図1(A))を把持する方向に案内する案内部30と、回転運動を行う回転運動部材40と、並進運動を行う一対の並進運動部材50と、を備える。
【0019】
回転モータ10は、固定子11と、回転子12とを備える。固定子11は、直方体状の筐体を有しており、その内部に回転子12を回転可能に保持している。なお、固定子11の筐体は、直方体状でなくてもよい。回転子12は、固定子11から−z方向に延びている。図2及び図3では、回転軸AXがz軸方向と平行になっている。回転モータ10には、外部から電力が供給されている。回転子12は、供給された電力に応じたトルクで、固定子11に対して回転軸AXを中心に回転する。
【0020】
トルクセンサ20の+z側の端部は、回転モータ10の固定子11にボルト締めで固定されている。一方、トルクセンサ20の−z側の端部は、案内部30を構成するベースプレート31にボルト締めで固定されている。トルクセンサ20は、回転モータ10の固定子11と、案内部30(ベースプレート31)との間に生じる回転軸AX回りのトルクを検出する。
【0021】
トルクセンサ20には、回転軸AXを中心軸とする円柱状の貫通孔20aが設けられている。回転モータ10の回転子12は、この貫通孔20a内に回転可能な状態で挿入される。
【0022】
案内部30は、並進運動部材50(図1(A)の把持部3)を、その並進運動の方向、すなわちx軸方向に案内する。言い換えると、案内部30は、x軸方向以外の方向への並進運動部材50の動きを規制する。案内部30は、ベースプレート31と、ハウジング32と、直動レール33と、を備える。
【0023】
ベースプレート31は、金属で形成された平板状の部材である。ベースプレート31は、図示しない他の部材と接続されており、案内部30の基板となる部材である。ベースプレート31には、回転軸AXを中心軸とする円柱状の貫通孔31aが設けられている。この貫通孔31aがトルクセンサ20の貫通孔20aと同軸に配置された状態で、ベースプレート31がトルクセンサ20に取り付けられている。トルクセンサ20で検出されるトルクは、このベースプレート31を基準として、回転モータ10の固定子11に生じるトルクとなる。
【0024】
ハウジング32は、ベースプレート31の−z側の面に取り付けられている。ベースプレート31とハウジング32とで、内部空間32aが形成される。
【0025】
直動レール33は、ハウジング32の−z側の面に取り付けられている。直動レール33は、回転軸AXに直交するx軸方向に延びている。図3に示すように、直動レール33の側面には、一対の把持部3(並進運動部材50)と係合し、これを案内するための溝部33aがx軸方向に延びている。
【0026】
回転運動部材40は、回転モータ10の回転子12に連結されている。回転運動部材40は、回転本体41と、ピニオンギア42(図4参照)とを備える。回転本体41は、金属で形成された円柱状の部材であり、回転モータ10の回転子12に連結され、回転軸AXの方向に延びている。回転本体41は、トルクセンサ20の貫通孔20a及びベースプレート31の貫通孔31aを通って、ハウジング32の内部空間32aに進入している。
【0027】
ハウジング32には、回転軸AXを中心に凹部32bが設けられており、凹部32bにベアリング32cが挿入されている。回転本体41の−z側の端部は、ベアリング32cに嵌め込まれている。回転本体41は、回転子12の回転に合わせて回転軸AX回りに回転する。
【0028】
ピニオンギア42は、回転モータ10の回転子12が固定されていない端部、すなわちハウジング32の内部空間32aに進入する回転運動部材40(回転本体41)の端部に設けられている。図4に示すように、ピニオンギア42は、回転軸AXを中心に回転する円形歯車である。したがって、回転モータ10の回転子12が回転すると、回転本体41が回転し、ピニオンギア42が回転する。
【0029】
一対の並進運動部材50は、図1の一対の把持部3に対応する。図4に示すように、並進運動部材50は、回転運動部材40の回転軸AXを中心に2回回転対称に配置されている。並進運動部材50は、回転運動部材40の回転に伴って、回転運動部材40の回転軸AXを中心とする円周(図4の仮想円弧C)の接線方向に並進運動する。
【0030】
並進運動部材50は、並進本体51と、ラックギア52と、ブロック53と、爪部54と、をそれぞれ備える。
【0031】
並進本体51は、x軸方向に並進運動を行う並進運動部材50の本体である。図3に示すように、ハウジング32における直動レール33のy軸方向の両側には、貫通孔32dがそれぞれ設けられている。並進本体51は、ハウジング32の内部空間32aから貫通孔32dを通って−z方向に張り出している。貫通孔32dは、並進本体51のx軸方向の移動を妨げないように、x軸方向を長手方向としている。
【0032】
より具体的には、並進本体51は、図4に示すように、ハウジング32の内部空間32aではx軸方向に延びており、その延びた部分の端部から−z方向に折れ曲がって貫通孔32dを通ってハウジング32の外部に張り出している。ハウジング32の外部に張り出した端部は、xy平面に平行な平板状の部材となっている。
【0033】
ラックギア52は、直線方向に歯切りをした直線状の部材である、図4に示すように、ラックギア52は、並進本体51のハウジング32の内部空間32a内のx軸方向に延びた部分に取り付けられている。ラックギア52は、ピニオンギア42と噛み合っており、ピニオンギア42の回転により並進本体51をx軸方向に並進運動させる。より具体的には、ピニオンギア42が回転すると、一対のラックギア52は、逆方向に駆動され、一対の並進本体51同士は、接近又は離隔する。
【0034】
ブロック53は、並進本体51のハウジング32の外部に張り出した平板状の部分の+z側の面に接続されている。また、ブロック53は、図3に示すように、直動レール33の溝部33aに嵌め込まれ、案内部30の直動レール33と、x軸方向に摺動可能に連結されている。ブロック53は、直動レール33にx軸方向に案内される。並進本体51がx軸方向に並進運動すると、ブロック53も、直動レール33に案内されたx軸方向に並進運動する。本実施の形態では、同一の直動レール33が、2つのブロック53を案内する。
【0035】
爪部54は、並進本体51の下方の端部に設けられている。爪部54は、もう一方の爪部54と、x軸方向に対向するように配置されている。一対の爪部54は、並進運動により、対象物体Mに接近又は離隔する。
【0036】
上述のような構成を有する本実施の形態に係る電動ハンド1の動作について説明する。図5に示すように、電動ハンド1を実際に使用するには、回転モータ10を制御する制御装置60と、回転モータ10を駆動する駆動装置70とが必要になる。
【0037】
ここで、回転モータ10がステッピングモータであるものとする。対象物体Mを把持する場合には、制御装置60は、トルクセンサ20のセンサ検出値をモニタリングしつつ、駆動装置70にパルス指令を出力する。駆動装置70は、入力されたパルス指令に従って、回転モータ10を駆動する。
【0038】
例えば、図6(A)に示すように、パルス指令に従って回転モータ10の回転子12がトルクT1で回転駆動すると、回転運動部材40(ピニオンギア42)が回転する。回転運動部材40の回転に伴って、一対の並進運動部材50(ラックギア52)は、回転運動部材40(ピニオンギア42)から力F1を受け、回転運動部材40の回転軸を中心とする円周(図4の仮想円弧C)の接線方向に並進させる。並進運動部材50は、互いに接近する方向に移動する。
【0039】
図6(B)に示すように、一対の並進運動部材50の爪部54の間に対象物体Mがない場合には、並進運動部材50は対象物体Mから反力を受けることなく並進運動を行う。トルクセンサ20は、案内部30と、回転モータ10の固定子11との間に生じるトルクを検出する。ここでは、回転運動部材40は、並進運動部材50から反力F1’を受ける。トルクセンサ20で検出されるトルクは、回転モータ10の固定子11が回転子12、回転運動部材40及び並進運動部材50を駆動するトルクT1の反トルクT1’となる。
【0040】
図7(A)に示すように、一対の爪部54が対象物体Mに接触すると、一対の爪部54は対象物体Mから反力F2’を受け、その把持力は、力F1よりも大きいF2となる(F2>F1)。把持力F2で対象物体Mを把持すると、図7(B)に示すように、この反力F2’は、並進運動部材50から回転運動部材40に伝えられ、回転運動部材40は、回転モータ10の回転子12の回転方向とは逆向きのトルクT2’を並進運動部材50から受ける。
【0041】
図8(A)に示すように、反力F2’による回転運動部材40が受けるトルクTとは逆向きのトルクT2’は、回転運動部材40、回転モータ10の回転子12を介して、回転モータ10の固定子11に伝えられる。案内部30のベースプレート31は不図示の外部部材に固定されており、その位置及び姿勢は一定である。このため、回転モータ10の固定子11と、案内部30(ベースプレート31)との間にトルクT2’が生じる。トルクセンサ20は、このトルクT2’を検出する。
【0042】
本実施の形態に係る電動ハンド1では、回転モータ10と、並進運動部材50との間には、回転運動部材40が挿入されているだけで、リンク機構のような複雑な機構は設けられていない。したがって、トルクセンサ20で検出されるトルクT2’は、対象物体Mを把持する把持力の反力F2’によるものとなる。図8(B)に示すように、把持力の反力とトルクセンサ20で検出されるトルクT2’の間には線形の関係がある。例えば、反力がF1’であるときには、トルクセンサ20のトルク検出値はT1’となり、反力がF2’であるときには、トルクセンサ20のトルク検出値はT2’となる。
【0043】
制御装置60は、トルクセンサ20で検出されるトルクがT2’に達すると、駆動装置70を介して回転モータ10の回転を停止させる。これにより、一対の把持部3は、把持力F2を維持した状態で対象物体Mを把持する。このように、この電動ハンド1によれば、対象物体Mの把持力と線形関係のあるトルクを検出し、そのトルクを制御して、把持力を適切に調整することができる。
【0044】
このようにすれば、対象物体Mが軟らかくつぶれやすい対象物体Mであり、対象物体Mをつぶさずに把持する把持力がF2である場合でも、対象物体Mを把持する把持力はF2以上とはならないので、対象物体Mをつぶさずに把持することができる。
【0045】
なお、制御装置60は、対象物体Mを把持する際に、フィードバック制御を行って制御するようにしてもよい。この場合、制御装置60は、トルクセンサ20のセンサ検出値をモニタリングしつつ、把持力F2を目標値としてフィードバック制御を行い、パルス指令を駆動装置70に出力する。駆動装置70は、パルス指令に基づいて、駆動電力を回転モータ10に供給する。回転モータ10は、供給された駆動電力で回転子12及び回転運動部材40を回転させる。これにより一対の並進運動部材50が並進運動し、一対の爪部54が互いに接近する方向に移動する。
【0046】
一対の爪部54で対象物体Mを把持すると、トルクセンサ20では、その把持力F2の反力F2’によるトルクT2’が検出される。制御装置60は、トルクセンサ20のセンサ検出値をモニタリングしつつ、把持力がF2となるような、すなわちトルクセンサ20のセンサ検出値がT2’に維持されるようなパルス指令を駆動装置70に出力し、駆動装置70が回転モータ10を回転駆動する。これにより、対象物体Mが軟らかくつぶれやすいものであっても、つぶれないような把持力F2で、対象物体Mを把持することができる。
【0047】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、回転モータ10の回転子12と回転運動部材40とが連結され、回転運動部材40の回転に伴って並進運動する複数の並進運動部材50により、対象物体Mが把持される。また、トルクセンサ20は、回転運動部材40の回転力を受ける複数の並進運動部材50を並進運動の方向に案内する案内部30と、回転モータ10の固定子11との間に生じるトルクを検出する。
【0048】
複数の並進運動部材50が対象物体Mを把持すると、その把持力F2の反力F2’が対象物体Mから並進運動部材50へ加えられ、回転運動部材40、回転モータ10の回転子12及び固定子11に伝えられる。この反力F2’は、回転モータ10の固定子11と案内部30との間に生じるトルクT2’となってトルクセンサ20により検出される。
【0049】
この構成であれば、回転モータ10の出力トルクをロスなく並進運動部材50に伝えて対象物体Mを把持することができるうえ、案内部30を基準として、並進運動部材50が対象物体Mを把持する把持力F2の反力F2’に相当するトルクT2’を検出することができる。これにより、対象物体Mを把持する把持力を検出し、そのトルクT2’に基づいて把持力を正確に制御することができる。この結果、適切な把持力で対象物体Mを把持することができる。
【0050】
本実施の形態によれば、例えば、豆腐のような軟らかい対象物体Mを持った場合でも、把持力を、対象物体Mをつぶさないような値に保つことができる。この結果、対象物体Mを変形させずに、把持することができる。
【0051】
なお、上記実施の形態では、回転運動部材40の回転軸AXを中心に、2回回転対称に並進運動部材50を配置したが、本発明はこれには限られない。図9(A)に示すように、並進運動部材50を3回回転対称に配列するようにしてもよい。この場合、図9(B)に示すように、対象物体Mは、3つの爪部54で把持される。並進運動部材50は、4回回転対称又はそれ以上に配列することもできる。
【0052】
また、上記実施の形態では、1本の直動レール33に、2つのブロック53を摺動可能とした。これにより、直動レール33をブロック53毎に備える必要がなくなるので、電動ハンド1を小型化することができる。
【0053】
もちろん、2本の直動レール33を設け、各直動レール33にブロック53を1つずつ摺動可能に取り付けるようにしてもよい。また、図9(A)に示すように、3つの並進運動部材50を3回回転対称に配列する場合には、並進運動部材50それぞれに、直動レール33を設けるようになる。
【0054】
また、上記実施の形態では、回転運動部材40にピニオンギア42が設けられ、並進運動部材50にラックギア52が設けられて、回転モータ10の回転子12の回転運動を、並進運動部材50の並進運動に変換した。しかしながら、本発明はこれには限られない。例えば、他のギア機構、例えば遊星歯車機構で把持部3を駆動するようにしてもよい。溝カム又はヨークカムのようなカム方式で把持部3を駆動するようにしてもよい。ただし、電動ハンド1では、回転モータの回転力の回転運動から対象物体Mを把持する直線運動へ1段階で変換するだけのより簡単な機構で構成されるのが望ましい。
【0055】
なお、回転モータ10の種類に特に制限はない。回転モータ10は、誘導モータであってもよいし、同期モータであってもよい。また、回転モータ10は、交流モータであってもよいし、直流モータであってもよい。また、回転モータ10は、単相モータであってもよいし、三相モータであってもよい。上記実施の形態では、回転モータ10はステッピングモータであったため、回転モータ10に出力する指令はパルス指令であったが、回転モータ10に加えられる指令は、電圧指令、電流指令等、回転モータ10の種類に応じたものとなる。
【0056】
また、ベースプレート31、ハウジング32及び直動レール33は一体の部材から構成されるようにしてもよい。
【0057】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、電動ハンドに適用することができ、特に、軟らかい対象物体を把持する電動ハンドに適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 電動ハンド、2 外部カバー、3 把持部、10 回転モータ、11 固定子、12 回転子、20 トルクセンサ、20a 貫通孔、30 案内部、31 ベースプレート、31a 貫通孔、32 ハウジング、32a 内部空間、32b 凹部、32c ベアリング、32d 貫通孔、33 直動レール、33a 溝部、40 回転運動部材、41 回転本体、42 ピニオンギア、50 並進運動部材、51 並進本体、52 ラックギア、53 ブロック、54 爪部、60 制御装置、70 駆動装置、AX 回転軸、C 仮想円弧、M 対象物体
【要約】
【課題】適切な把持力で対象物体を把持することができる電動ハンド及び対象物体の把持方法を提供する。
【解決手段】電動ハンド1は、回転モータ10と、回転運動部材40と、複数の並進運動部材50と、案内部30と、トルクセンサ20と、を備える。回転運動部材40は、回転モータ10の回転子12に連結されている。並進運動部材50は、回転運動部材40の回転に伴って、回転運動部材40の回転軸AXを中心とする円周の接線方向に並進運動する。案内部30は、複数の並進運動部材50をその並進運動の方向に案内する。トルクセンサ20は、案内部30と回転モータ10の固定子11との間に生じるトルクを検出する。
【選択図】図2
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