(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0023】
<実施形態1>
(全体構成)
図1は、実施形態1に係る車両用試験装置1(動力系の試験装置)の概略構成を示すブロック図である。車両用試験装置1は、供試体であるモータやトランスミッション等を回転させた状態で該供試体の各種測定データを得るための試験装置である。そのため、車両用試験装置1は、供試モータ2(供試体)に駆動連結されるダイナモ11(回転体)と、該ダイナモ11を駆動制御するためのダイナモ制御装置21(制御部)と、供試モータ2を駆動制御するためのモータ制御装置31とを備える。なお、本実施形態では、動力系の試験装置として、車両用試験装置1の例を挙げているが、他の用途の試験装置であってもよい。
【0024】
ダイナモ11は、電動モータであり、入力電流に応じて回転数及び出力トルクが制御される。ダイナモ11の構成は、一般的な電動モータと同様であるため、詳しい説明を省略する。ダイナモ11には、図示しない回転子の回転速度を検出するための回転速度センサ12が設けられている。
【0025】
ダイナモ11の回転子は、中間軸13を介して供試モータ2の回転軸(図示省略)に接続されている。なお、ダイナモ11の回転子と中間軸13とは、両者にそれぞれ設けられたカップリング同士がボルトによって締結されることにより、駆動連結されている。また、中間軸13と供試モータ2の回転軸も、同様に、カップリング同士がボルトによって締結されることにより、駆動連結されている。
【0026】
中間軸13には、ダイナモ11と供試モータ2との間に生じるトルクを検出するためのトルク計14(トルク検出部)が設けられている。このトルク計14は、中間軸13に生じるねじれ角の差を検出する。トルク計14では、検出したねじれ角の差から中間軸13に生じるトルクを求め、トルク信号として出力する。なお、トルク計14からねじれ角の差に対応する信号を出力して、ダイナモ制御装置等の制御装置によってトルク値を算出してもよい。
【0027】
ダイナモ制御装置21は、速度指令Nrefに応じてダイナモ11を駆動制御するように構成されている。具体的には、ダイナモ制御装置21は、速度制御部22(ASR)と、指令変換部23(T/I)と、電流制御部24(ACR)とを備える。
【0028】
速度制御部22には、ダイナモ11に設けられた回転速度センサ12から出力される速度検出信号を速度指令Nrefから減算した信号が、入力される。すなわち、速度制御部22には、速度指令Nrefとダイナモ11の回転速度との差が、信号として入力される。これにより、ダイナモ制御装置21では、ダイナモ11の回転速度のフィードバック制御が行われる。速度制御部22では、入力された信号に応じて、トルク指令(トルク指令信号)を出力する。
【0029】
指令変換部23には、速度制御部22から出力されたトルク指令に、後述する帰還回路25で生成された信号を正帰還することにより得られる信号が、入力される。指令変換部23は、入力された信号を電流指令に変換して出力する。
【0030】
電流制御部24は、指令変換部23から出力される電流指令に応じて、ダイナモ11に対して入力電流を供給する。
【0031】
ダイナモ制御装置21は、トルク計14によって検出されたトルクに応じて、トルク指令を補正する。具体的には、ダイナモ制御装置21は、トルク計14から出力されるトルクの信号(トルク信号)に基づいて所定の位相遅れを有する信号を生成し、該信号をトルク指令に対して正帰還する帰還回路25(トルク指令補正部)を有する。この帰還回路25は、ローパスフィルタ26(LPF)と、ハイパスフィルタ27(HPF)とを有する。
【0032】
ローパスフィルタ26(位相遅れフィルタ)は、トルク計14から出力されるトルクの信号において、高周波領域の信号成分を除去するとともに、通過する低周波領域の信号成分の位相を遅らせる。ローパスフィルタ26のゲイン特性の一例を
図2Aに示す。また、ローパスフィルタ26の位相特性の一例を
図2Bに示す。これらの図から分かるように、ローパスフィルタ26は、低い周波数(
図2Aの例では約10Hz以下)の信号成分は通過させる一方、高い周波数の信号成分は通過させない。また、ローパスフィルタ26は、通過する信号の周波数に応じて、0度から90度の範囲で信号の位相を遅らせる。
【0033】
よって、ローパスフィルタ26を通過した信号は、高周波数の信号成分がカットされるとともに、トルク計14から出力されたトルクの信号に対して遅れた位相を有する。
【0034】
なお、ローパスフィルタ26の時定数は、車両用試験装置1の時定数tの逆数が2πf(fはねじり共振周波数)となるように、設定されるのが好ましい。すなわち、ローパスフィルタ26の時定数をt
1、それ以外の車両用試験装置1での制御遅れ(トルク計の時定数、電流制御の遅れ、制御演算の遅れ、信号処理の遅れなど)をt
2とした場合に、車両用試験装置1の時定数t=t
1+t
2の逆数は、2πf、2πfに近い値、または2πfよりも小さい値が好ましい。ローパスフィルタ26の時定数を上述の値に設定することで、車両用試験装置1の軸系のねじり振動をより効果的に減衰することができる。
【0035】
ハイパスフィルタ27は、低周波領域の信号成分を除去する。すなわち、ハイパスフィルタ27は、定常的なトルクの信号成分は除去しつつ、ねじり振動が生じているときの信号成分のみを通過するように構成されている。ハイパスフィルタ27のゲイン特性の一例を
図3Aに示す。また、ハイパスフィルタ27の位相特性の一例を
図3Bに示す。これらの図から分かるように、ハイパスフィルタ27は、高い周波数(
図3Aの例では約10Hz以上)の信号成分は通過させる一方、低い周波数の信号成分は通過させない。なお、ハイパスフィルタ27では、通過する信号の周波数に応じて、0度から90度の範囲で信号の位相を進める。
【0036】
帰還回路25では、上述のようなローパスフィルタ26とハイパスフィルタ27とを直列に設けることにより、信号の位相をローパスフィルタ26によって遅らせるとともに、定常的な信号の振幅自体はハイパスフィルタ27によって大幅にカットすることができる。すなわち、本実施形態の帰還回路25では、トルク計14から出力されるトルクの信号に基づいて、ねじり振動が生じた場合の振動成分のみを、該トルクの信号に対して所定の位相遅れを有する信号として出力する。
【0037】
上述のように帰還回路25で生成された信号は、速度制御部22から出力されるトルク指令に対して加算される。すなわち、帰還回路25で生成された信号は、トルク指令に対して正帰還される。
【0038】
これにより、トルク指令は補正されるため、ダイナモ11の駆動制御によって、車両用試験装置1の軸系に減衰要素を付加することができる。本実施形態の構成を適用した場合のトルク指令に対するボード線図を
図4に示す。
図4に示すように、単にダイナモ11の速度制御のみを行った場合(図中のねじり共振抑制制御なし、図中の破線)には、特定の周波数で大きく共振が生じる。これに対し、本実施形態の構成を適用した場合(図中のねじり共振抑制制御あり、図中の実線)には、特定の周波数(100Hz以下の周波数)での共振の発生を抑制することができる。したがって、本実施形態の構成によって、軸系のねじり振動を効果的に抑制できることが分かる。なお、トルク指令を帰還回路25によって補正することにより、軸系のねじり振動の減衰効果が得られる点については後述する。
【0039】
本実施形態では、帰還回路25がローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27を備えているため、トルク計14から出力されるトルクの信号のうち、一部の周波数帯の信号成分に対して所定の位相遅れを有する信号が帰還回路25で生成される。しかしながら、トルク計14から出力されるトルクの信号の全周波数帯の信号成分に対して所定の位相遅れを有する信号を生成するように帰還回路を構成してもよい。
【0040】
なお、トルク計14から出力されるトルクの信号のノイズ成分を除去するためには、本実施形態のように、フィルタ等によって、所定範囲の周波数帯の信号成分に対して所定の位相遅れを有する信号を生成するのが好ましい。
【0041】
モータ制御装置31は、入力されるトルク指令T
refに応じて供試モータ2の駆動を制御する。具体的には、モータ制御装置31は、指令変換部32と、電流制御部33とを有する。指令変換部32は、入力されたトルク指令T
refを電流指令に変換して出力する。電流制御部33は、指令変換部32から出力された電流指令に応じて供試モータ2に対して入力電流を供給する。
【0042】
(位相遅れによる減衰効果)
図5に、
図1に示す構成を、ダイナモ11及び供試モータ2の2慣性モデルで考えた場合のブロック図を示す。
図5において、T
Dはダイナモ11における発生トルクを、T
Mは供試モータ2における発生トルクを、Tはトルク計14で検出されるトルクを、それぞれ示す。また、J
Dはダイナモ11の慣性モーメントを、J
Mは供試モータ2の慣性モーメントをそれぞれ示す。さらに、kは軸系のバネ定数を、cは減衰定数をそれぞれ示す。
【0043】
図5のモデルにおいて、ダイナモ11における発生トルクT
Dに対し、トルク計14で検出されるトルクTの伝達関数は、下式のとおりである。
【0044】
【数1】
ここで、ωn及びζは、それぞれ下式によって表される。
【0047】
これらの式に示すように、ωnは
図5に示すモデルの軸系の固有値を示しており、ζは減衰要素に関する値である。ζにおいて、J
D、J
M、ωnはいずれも固定値なので、減衰定数cを変えることにより、軸系の減衰要素の減衰効果をコントロールすることができる。本実施形態に記載の帰還回路25では、ローパスフィルタ26の時定数やゲインを変えることにより、軸系に付与される減衰力を調整することができる。
【0048】
一方、
図1に示す構成を、より詳細な2慣性モデルのブロック図で表すと、
図6に示すブロック図となる。
図6において、K
T1はダイナモ11のモータトルク定数であり、K
T2は供試モータ2のモータトルク定数である。また、T
C1はダイナモ11に対するトルク指令を、T
C2は供試モータ2に対するトルク指令を、Taはダイナモ11の慣性モーメントJ
Dに作用するトルクを、Tkはねじりトルクを、Tcは減衰トルクを、T
fbはトルク指令に対してフィードバックされるトルク値を、それぞれ示す。a
fbは帰還回路25のフィードバックゲインであり、t
1はローパスフィルタ26の時定数である。その他、
図5に示す符号と同一の符号は、
図5と同様の物理量等を意味するため、説明を省略する。
【0049】
図6に示すように、ダイナモ11の慣性モーメントJ
Dに作用するトルクTaを、ダイナモ11の慣性モーメントJ
Dで除すことにより、回転角加速度ω’が得られ、ω’を積分することにより回転角速度ωが得られる。このようにω’を積分する際に、信号の位相は90度(π/2)遅れる。回転角速度ωを積分することにより、回転角度θが得られる。この際にも、信号の位相はさらに90度(π/2)遅れる。ここで、ダイナモ11と供試モータ2との回転角度θの差が、トルク計TQによって検出される。そのため、トルク計TQで検出される信号の位相は、トルクTaの位相に対して180度(π)遅れている。
【0050】
ここで、検出したトルクをフィードバックしないパッシブ系の2慣性モデルを考えると、
図7に示すようなブロック図で表される。
図7に示すように、減衰トルクTcは、ダイナモ11と供試モータ2との回転角速度ωの差によって決まる。そのため、減衰トルクTcの位相は、トルクTaの位相に対して90度(π/2)遅れている。しかも、
図7の例では、減衰トルクTcはダイナモ11に入力されるトルクに対して負帰還されるため、位相はさらに180度(π)遅れる。よって、パッシブ系の2慣性モデルでは、減衰トルクTcは、ダイナモ11のトルクTaに対して位相が270度遅れている(
図7における破線矢印の経路での位相差が270度)。
【0051】
図6に示すモデルでも、
図7に示すパッシブ系のモデルと同様、ダイナモ11のトルクTaに対して270度位相が遅れた減衰トルクTcを生成することにより、
図7に示すパッシブ系のシステムと同様の減衰効果が得られる。上述のとおり、
図6に示すモデルでは、トルク計TQで検出された信号はトルクTaの位相に対して180度遅れている。よって、ローパスフィルタ26の時定数t
1を90度(π/2)遅れるように設定すれば、
図6の破線矢印の経路での位相差は
図7と同じ270度となり、最も高い減衰効果が得られる。
【0052】
なお、ローパスフィルタ26による信号の位相遅れ(所定の位相遅れ)は、少しでも位相遅れが生じればよい。前記位相遅れは、トルク計14から出力されるトルクの信号の位相に対して、90度により近い45度から135度が好ましく、90度が最も好ましい。前記位相遅れが90度に近いほど、車両用試験装置1の軸系のねじり振動をより効果的に低減できる。
【0053】
本実施形態の以上の構成によって、以下のような作用効果が得られる。
【0054】
以上の構成により、
図4に示すように、ねじり共振抑制制御を行わない場合(図中の破線)に比べて、車両用試験装置1の軸系の共振を抑制できる。したがって、車両用試験装置1の軸系のねじり振動を効果的に低減することができる。
【0055】
本実施形態の構成による効果を、
図8及び
図9を用いて説明する。
図8は、本実施形態のようなねじり共振抑制制御を行わない場合に、トルク指令としてステップ状の信号(図中の太線)をモータ制御装置31に入力した際にトルク計14で検出されるトルク値を示す。
図9は、本実施形態の構成を適用した場合に、トルク指令としてステップ状の信号(図中の太線)をモータ制御装置31に入力した際にトルク計14で検出されるトルク値を示す。
【0056】
図8に示すように、本実施形態のようなねじり共振抑制制御を行わない場合には、トルク計14で検出されるトルクは大きく変動する。一方、
図9に示すように、本実施形態の構成を適用した場合には、
図8の場合に比べてトルク計14で検出されるトルクの変動は小さくなる。したがって、
図8及び
図9から、本実施形態の構成によって、ねじり振動を効果的に抑制できることが分かる。
【0057】
また、従来構成のようにトルク計14の出力を微分しないため、該トルク計14から出力されるトルクの信号に含まれるノイズは増大されない。しかも、帰還回路25は、ローパスフィルタ26を備えているため、ノイズ等の高い周波数成分を減衰させることができる。よって、本実施形態の構成では、トルク計14から出力されるトルクの信号に含まれるノイズの影響を受けることなく、軸系のねじり振動を抑制することができる。
【0058】
本実施形態の構成では、ローパスフィルタ26とハイパスフィルタ27とを組み合わせることにより、トルク計14によって検出されたトルクに対して所定の位相遅れを有する信号をトルク指令に帰還することができる。したがって、簡単な構成によって、軸系のねじり振動を抑制することができる。
【0059】
<実施形態2>
図10は、実施形態2に係る車両用試験装置41の概略構成を示すブロック図である。この実施形態2の構成は、ダイナモ11を制御するダイナモ制御装置42ではなく、供試モータ2を制御するモータ制御装置43が、速度制御部22を有する点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0060】
図10に示すように、ダイナモ11を制御するダイナモ制御装置42(制御部)は、指令変換部23、電流制御部24、ローパスフィルタ26、ハイパスフィルタ27を有する。ダイナモ制御装置42には、トルク指令T
refが入力される。これにより、トルク指令T
refに基づいて指令変換部23で電流指令を生成し、電流制御部24によってダイナモ11に対して入力電流を供給する。ローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27によって構成される帰還回路25は、実施形態1と同様、トルク計14から出力されるトルクの信号(トルク信号)に対して所定の位相遅れを有する信号を生成して、トルク指令(トルク指令信号)に正帰還する。
【0061】
本実施形態では、供試モータ2にも、ダイナモ11と同様、図示しない回転子の回転速度を検出するための回転速度センサ12が設けられている。
【0062】
供試モータ2を制御するモータ制御装置43は、速度制御部22、指令変換部32、電流制御部33を有する。モータ制御装置43には、速度指令Nrefが入力される。
【0063】
速度制御部22には、供試モータ2に設けられた回転速度センサ12から出力される速度検出信号を速度指令Nrefから減算した信号が、入力される。すなわち、速度制御部22には、速度指令Nrefと供試モータ2の回転速度との差が、信号として入力される。これにより、モータ制御装置43では、供試モータ2の回転速度のフィードバック制御が行われる。速度制御部22では、入力された信号に応じて、トルク指令を出力する。
【0064】
指令変換部32及び電流制御部33は、実施形態1と同様の構成及び機能を有するため、詳しい説明を省略する。
【0065】
以上の構成においても、ダイナモ制御装置42が帰還回路25を有するため、実施形態1と同様、トルク計14から出力されるトルク信号に対して所定の位相遅れを有する信号をトルク指令に正帰還することができる。したがって、上述の構成でも、車両用試験装置41の軸系のねじり振動を抑制することができる。
【0066】
<実施形態3>
図11は、実施形態3に係る車両用試験装置51の概略構成を示すブロック図である。この実施形態3の構成は、供試モータ2の代わりにトランスミッション3及びエンジン4を用いるとともに、ダイナモ制御装置52が走行抵抗を演算してトルク指令を出力する走行抵抗演算部53を有する点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0067】
図11に示すように、ダイナモ11には、中間軸13を介してトランスミッション3が連結されている。このトランスミッション3は、エンジン4にも連結されている。これにより、トランスミッション3は、エンジン4の駆動力を、中間軸13を介してダイナモ11に伝達することができる。なお、本実施形態では、トランスミッション3及びエンジン4の少なくとも一方が供試体である。
【0068】
ダイナモ11を制御するダイナモ制御装置52(制御部)は、車両の走行抵抗をダイナモ11によって再現するように、該ダイナモ11の駆動を制御する。具体的には、ダイナモ制御装置52は、走行抵抗演算部53、指令変換部23、電流制御部24、ローパスフィルタ26、ハイパスフィルタ27を有する。
【0069】
走行抵抗演算部53は、車両の走行抵抗を演算してダイナモ11に対するトルク指令(トルク指令信号)を出力する。詳しくは、走行抵抗演算部53は、予め設定された道路環境(路面とタイヤとの摩擦、風力、道路の勾配など)に応じた車両の転がり抵抗、空気抵抗、加速抵抗、登坂抵抗などを含む走行抵抗を、車速や加速度、走行距離に応じて演算する。走行抵抗演算部53において、実際の車両の走行抵抗を演算するとともに該走行抵抗をダイナモ11に対するトルク指令として出力することにより、ダイナモ11による実際の車両の走行抵抗の再現が可能になる。
【0070】
走行抵抗演算部53から出力されたトルク指令は、実施形態1と同様、帰還回路25から出力される信号が正帰還された後、指令変換部23によって電流指令に変換される。指令変換部23から出力された電流指令に応じて、電流制御部24はダイナモ11に入力電流を供給する。
【0071】
なお、ローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27によって構成される帰還回路25は、実施形態1と同様なので、詳しい説明を省略する。
【0072】
トランスミッション3に連結されたエンジン4は、エンジン制御装置55によって駆動制御される。エンジン制御装置55は、スロットル制御部56を有する。スロットル制御部56は、エンジン4の吸気の流入量を調整するためのスロットルバルブの開度を制御する。スロットル制御部56にはスロットル開度指令θrefが入力される。スロットル制御部56は、入力されたスロットル開度指令θrefに応じて開度信号をエンジンのスロットルバルブに供給する。これにより、エンジン4の出力を制御することができる。
【0073】
以上の構成により、供試体としてトランスミッション3及びエンジン4を用いた場合でも、車両用試験装置51の軸系のねじり振動を低減することができる。すなわち、本実施形態の軸系でも、軸振動に対する減衰要素がほとんどないが、トルク計14から出力されるトルクの信号に基づいて所定の位相遅れを有する信号を生成してトルク指令に正帰還することにより、軸系に減衰要素を付加することができる。
【0074】
また、ダイナモ制御装置52が走行抵抗演算部53を有するため、ダイナモ11の駆動によって実際の車両の走行抵抗を模擬することが可能になる。よって、車両の実際の走行条件に近い状態でトランスミッション3及びエンジン4の少なくとも一方の評価試験を行うことができる。
【0075】
<実施形態4>
図12は、実施形態4に係る車両用試験装置61の概略構成を示すブロック図である。この実施形態4の構成は、供試体としてモータの代わりにトランスミッション3を用いるとともに、トランスミッション3の入出力側にそれぞれダイナモを連結する点で実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0076】
図12に示すように、トランスミッション3の入力側には駆動ダイナモ62(回転体)が中間軸13を介して連結されている一方、トランスミッション3の出力側には吸収ダイナモ63(回転体)が中間軸15を介して連結されている。これにより、駆動ダイナモ62の出力は、トランスミッション3によって所定の変速比で変換されて吸収ダイナモ63に伝達される。すなわち、本実施形態の車両用試験装置61では、トランスミッション3による変速性能の評価試験を行うことができる。
【0077】
駆動ダイナモ62とトランスミッション3とを連結する中間軸13、及び、吸収ダイナモ63とトランスミッション3とを連結する中間軸15には、それぞれ、トルクを検出するためのトルク計14,16が設けられている。また、駆動ダイナモ62及び吸収ダイナモ63には、それぞれ、図示しない回転子の回転速度を検出するための回転速度センサ12が設けられている。
【0078】
駆動ダイナモ62の駆動を制御する駆動ダイナモ制御装置64(制御部)は、トルク指令T1
ref(トルク指令信号)に応じて駆動ダイナモ62の駆動を制御するように構成されている。具体的には、駆動ダイナモ制御装置64は、指令変換部23と、電流制御部24と、ローパスフィルタ26と、ハイパスフィルタ27とを有する。ローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27は、駆動ダイナモ62とトランスミッション3とを連結する中間軸13に設けられたトルク計14から出力されるトルクの信号に基づいて生成される信号をトルク指令T1
refに対して正帰還する帰還回路25を構成する。駆動ダイナモ制御装置64の各構成は、実施形態1と同様なので詳しい説明を省略する。
【0079】
吸収ダイナモ63の駆動を制御する吸収ダイナモ制御装置65も、駆動ダイナモ制御装置64と同様、トルク指令T2
refに応じて吸収ダイナモ63の駆動を制御するように構成されている。具体的には、吸収ダイナモ制御装置65は、指令変換部32と、電流制御部33とを有する。吸収ダイナモ制御装置65の各構成は、実施形態1と同様なので詳しい説明を省略する。
【0080】
この実施形態の構成においても、駆動ダイナモ62とトランスミッション3との間に生じるトルクを検出し、該トルクの信号に対して所定の位相遅れを有する信号を生成してトルク指令に正帰還することにより、車両用試験装置61の軸系のねじり振動を抑制することができる。
【0081】
<実施形態5>
図13は、実施形態5に係る車両用試験装置71の概略構成を示すブロック図である。この実施形態5の構成は、吸収ダイナモ制御装置73が帰還回路25を有する点で実施形態4の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態4と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態4と異なる構成についてのみ説明する。
【0082】
図13に示すように、車両用試験装置71は、駆動ダイナモ制御装置72と、吸収ダイナモ制御装置73(制御部)とを備える。駆動ダイナモ制御装置72は、駆動ダイナモ62の駆動を制御する。駆動ダイナモ制御装置72は、指令変換部23と、電流制御部24とを有する。これらの指令変換部23及び電流制御部24の構成及び機能は、実施形態1と同様である。この実施形態では、実施形態4とは異なり、駆動ダイナモ制御装置72には、帰還回路25が設けられていない。
【0083】
吸収ダイナモ制御装置73は、吸収ダイナモ63の駆動を制御する。吸収ダイナモ制御装置73は、指令変換部32と、電流制御部33と、ローパスフィルタ26と、ハイパスフィルタ27とを有する。指令変換部32及び電流制御部33の構成及び機能は、実施形態1と同様である。ローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27は、トランスミッション3と吸収ダイナモ63とを連結する中間軸15に設けられたトルク計16から出力されたトルクの信号に基づいて、所定の位相遅れを有する信号を生成する。ローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27で生成された信号は、トルク指令T2
ref(トルク指令信号)に正帰還される。よって、ローパスフィルタ26及びハイパスフィルタ27によって、帰還回路25が構成される。
【0084】
以上の構成でも、トルク計16から出力されたトルクの信号に対して所定の位相遅れを有する信号を生成して、吸収ダイナモ63のトルク指令T2
refに正帰還することができる。したがって、実施形態4と同様、車両用試験装置71の軸系のねじり振動を抑制することができる。
【0085】
<実施形態6>
図14は、実施形態6に係る車両用試験装置81の概略構成を示すブロック図である。この実施形態6の構成は、駆動ダイナモ制御装置64及び吸収ダイナモ制御装置73の両方が帰還回路25,82を有する点で実施形態4、5の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態4、5の構成と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態4、5と異なる構成についてのみ説明する。
【0086】
図14に示すように、車両用試験装置81は、駆動ダイナモ制御装置64(制御部)と、吸収ダイナモ制御装置73(制御部)とを備える。駆動ダイナモ制御装置64及び吸収ダイナモ制御装置73は、それぞれ、指令変換部23,32と、電流制御部24,33と、ローパスフィルタ26,83(位相遅れフィルタ)と、ハイパスフィルタ27,84とを有する。すなわち、駆動ダイナモ制御装置64及び吸収ダイナモ制御装置73は、それぞれ、ローパスフィルタ26,83及びハイパスフィルタ27,84によって構成される帰還回路25,82(トルク指令補正部)を有する。
【0087】
駆動ダイナモ制御装置64の帰還回路25は、駆動ダイナモ62とトランスミッション3とを連結する中間軸13に設けられたトルク計14から出力されるトルクの信号(トルク信号)に基づいて、該信号に対して所定の位相遅れを有する信号を生成する。帰還回路25は、生成された信号を、駆動ダイナモ62に対するトルク指令T1
ref(トルク指令信号)に正帰還する。
【0088】
吸収ダイナモ制御装置73の帰還回路82は、吸収ダイナモ63とトランスミッション3とを連結する中間軸15に設けられたトルク計16から出力されるトルクの信号(トルク信号)に基づいて、該信号に対して所定の位相遅れを有する信号を生成する。帰還回路82は、生成された信号を、吸収ダイナモ63に対するトルク指令T2
ref(トルク指令信号)に正帰還する。
【0089】
以上の構成により、駆動ダイナモ62及び吸収ダイナモ63に対するトルク指令に、それぞれ、トルク計14,16から出力されるトルクの信号に対して所定の位相遅れを有する信号を正帰還することができる。これにより、車両用試験装置81の軸系のねじり振動をより効果的に且つ迅速に減衰することができる。したがって、軸系の共振によるねじり振動の増大をより効果的に抑制することができる。
【0090】
図15に、本実施形態の構成を適用した場合のボード線図を示す。
図15に示すように、本実施形態のようなねじり共振抑制制御を適用しなかった場合(図中の破線)には、特定の周波数で共振しているが、本実施形態のねじり共振抑制制御を適用した場合(図中の実線)には、特定の周波数での共振を抑制することができる。よって、本実施形態の構成により、ねじり振動を抑制することができる。
【0091】
ここで、車両用試験装置81の軸系において、トランスミッション3よりも駆動ダイナモ側の軸系(以下、駆動軸系という)及びトランスミッション3よりも吸収ダイナモ側の軸系(以下、吸収軸系という)のうち、ねじり剛性の高い軸系のダイナモを制御する制御装置のローパスフィルタに、車両用試験装置81の軸系の1次共振周波数に対応した時定数を設定するのが好ましい。これにより、車両用試験装置81の軸系の1次共振周波数の振動だけでなく、2次以上の共振周波数の振動も減衰することができる。
【0092】
また、車両用試験装置81の軸系は、トランスミッション3の変速比によって、駆動軸系及び吸収軸系のうちねじり剛性の高い軸系が入れ替わる可能性がある。そのため、駆動ダイナモ制御装置64及び吸収ダイナモ制御装置73のそれぞれのローパスフィルタ26,82に、車両用試験装置81の軸系の1次共振周波数に対応した時定数を設定してもよい。これにより、トランスミッション3の変速比が変わっても、車両用試験装置81の軸系の1次共振周波数の振動及び2次以上の共振周波数の振動を減衰することができる。
【0093】
さらに、駆動ダイナモ制御装置64のローパスフィルタ26及び吸収ダイナモ制御装置73のローパスフィルタ83のうち、一方のローパスフィルタに車両用試験装置81の軸系の1次共振周波数に対応した時定数を設定し、他方のローパスフィルタに2次以上の共振周波数に対応した時定数を設定してもよい。これにより、車両用試験装置81の軸系の1次共振周波数の振動だけでなく、2次以上の共振周波数の振動も減衰することができる。具体的には、駆動軸系及び吸収軸系のうちねじり剛性の高い軸系のダイナモを制御する制御装置のローパスフィルタに2次共振周波数に対応した時定数を設定する一方、ねじり剛性の低い軸系のダイナモを制御する制御装置のローパスフィルタに1次共振周波数に対応した時定数を設定すればよい。
【0094】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0095】
前記各実施形態では、帰還回路25,82は、トルク計14,16の出力側からローパスフィルタ26,83及びハイパスフィルタ27,84の順に設けられている。しかしながら、ローパスフィルタ26,83とハイパスフィルタ27,84との順番が逆であってもよい。また、帰還回路は、ハイパスフィルタを備えていなくてもよい。
【0096】
前記各実施形態では、ローパスフィルタ26,83によって、トルク計14,16から出力されたトルクの信号に基づいて所定の位相遅れを有する信号が生成される。しかしながら、トルク計14,16から出力されたトルクの信号に基づいて所定の位相遅れを有する信号を生成可能な構成であれば、ローパスフィルタ以外の構成であってもよい。
【0097】
前記各実施形態では、ローパスフィルタ26,83は、一次遅れフィルタである。しかしながら、ローパスフィルタ26,83は、二次以上の遅れフィルタであってもよい。これにより、ねじり共振周波数付近の周波数帯域以外の振動成分を、より低減することができる。よって、
図16に示すように、二次遅れフィルタの場合(図中のねじり共振抑制制御あり(二次)の場合)は、一次遅れフィルタの場合(図中のねじり共振抑制制御あり(一次)の場合)よりも低周波の振動成分を効果的に低減することができる。なお、
図16は、実施形態5の
図14に示す軸系の場合のボード線図である。また、
図16におけるねじり共振抑制制御あり(一次)は、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタのいずれも一次遅れフィルタの場合のボード線図であり、
図16におけるねじり共振抑制制御あり(二次)は、ローパスフィルタ及びハイパスフィルタのいずれも二次遅れフィルタの場合のボード線図である。
【0098】
前記実施形態3〜6では、ダイナモ制御装置52、駆動ダイナモ制御装置64及び吸収ダイナモ制御装置73のローパスフィルタ26,83は、トランスミッション3の変速比に関係なく一定である。車両用試験装置の軸系のねじり共振周波数は、トランスミッション3の変速比に応じて変化する。そのため、ローパスフィルタの時定数を変速比に応じて変更してもよい。例えば、トランスミッション3の変速比に応じて最適なローパスフィルタの時定数をメモリ等に予め記憶しておき、トランスミッション3の変速比に応じてローパスフィルタの時定数を変更してもよい。これにより、トランスミッション3を含む軸系において、より効果的にねじり振動を減衰することができる。