【実施例】
【0060】
次にこの発明の実施例について述べる。
【0061】
(コンデンサ素子高さ寸法と容量出現率の関係)
L寸の異なるコンデンサ素子を用意して、それぞれのコンデンサ素子を用いた固体電解コンデンサの容量出現率について調べた。
【0062】
コンデンサ素子としては、同一の電極箔種、セパレータ種のものを用い、電極箔の幅寸法及びセパレータの幅寸法が異なるサンプルを用意した。陽極箔および陰極箔の幅寸法は同一とし、それぞれ幅寸法が6.5mm、8mm、10mm、14mmの陽極箔と陰極箔を用意した。またセパレータとしては、それぞれの電極箔の幅寸法より1mmだけ長いセパレータを用意した。それぞれの仕様の陽極箔と陰極箔に、それぞれ陽極のリード線、陰極のリード線を接続し、さらにそれらをセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成した。そして、巻回したコンデンサ素子の両端面よりそれぞれ1mm内側の位置に端面が配置されるように巻き止めテープ(素子止めテープ)を巻きつけて、コンデンサ素子の巻きほぐれを防止した。
【0063】
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーと、p−トルエンスルホン酸第二鉄をエタノールに溶解した溶液を混合・攪拌して、重合液を作製した。重合液の作製直後にコンデンサ素子を重合液に浸漬して、コンデンサ素子に重合液を含浸し、その後にコンデンサ素子を引き上げて、コンデンサ素子内で、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合反応を進行させた。この重合液にコンデンサ素子を浸漬する際には、コンデンサ素子の重合液に対する浸漬深さは、コンデンサ素子の高さ寸法の40〜75%程度の高さまで浸漬を行っている。リード線が導出された端面まで重合液に浸漬すると、両極のリード線間が固体電解質で短絡してしまう。
【0064】
その後、コンデンサ素子を外装ケースに収納して、封口して固体電解コンデンサを完成した。作製した固体電解コンデンサは、全て定格電圧16Vで、外径寸法が10mmのものである。
【0065】
そして、予め測定しておいたホウ酸水溶液中での陽極箔の静電容量に対する固体電解コンデンサの静電容量と対比して、容量出現率を算出した。その結果は次の表1の通りであった。ここで、本実施例において、固体電解コンデンサの高さ寸法を製品L寸、コンデンサ素子の高さ寸法を素子L寸とも表記する。
【0066】
【表1】
【0067】
以上の結果から、固体電解コンデンサの製品L寸が12.5mm(素子L寸9.0mm)までの固体電解コンデンサでは、容量出現率が74%得られているのに対し、固体電解コンデンサの製品L寸が16.0mm以上になると容量出現率が70%以下となることが判明した。この結果は、固体電解コンデンサの製品L寸が大きくなるにつれて、コンデンサ素子に対してモノマー溶液、酸化剤溶液の含浸が十分に行われていないことを示している。
【0068】
この結果より、コンデンサ素子への重合液の含浸のメカニズムについて推定すると、コンデンサ素子を重合液に浸漬した際には、コンデンサ素子の下端面のセパレータを通じて、重合液が内部に浸透していく。この際、コンデンサ素子の下端面ではセパレータが電極箔よりも突出しているため、セパレータが重合液に接触する面積が大きくなり、重合液を吸液する効率が高まる。そして、セパレータの繊維間を毛細管現象により、重合液がコンデンサ素子に浸透していき、コンデンサ素子の内部にまで重合液が供給される。
この毛細管現象によって、コンデンサ素子内では重合液の液面よりも高い位置まで、供給されることとなる。特に、コンデンサ素子の外周では重合液の液面との表面張力により、液面よりも高い位置でセパレータが濡れて、重合液がセパレータに浸透する。そして、コンデンサ素子のリード線を導出した上端面にまで到達する。
この上端面に到達した重合液はコンデンサ素子の上端面に拡がり、コンデンサ素子のリード線を導出した上端面からも重合液の浸透が開始する。このことによって、重合液中にコンデンサ素子全体を浸漬しない場合でも、コンデンサ素子の内部に固体電解質層が形成される。
【0069】
しかしながら、上記のメカニズムによっても素子L寸が長くなると、その内部にまで、重合液を浸透させることは困難となってくる。特に、モノマーと酸化剤を混合した混合含浸法においては、コンデンサ素子に重合液が浸透する過程においてもモノマーの重合反応が進行するため、コンデンサ素子の内部に重合液が浸透する前に、固体化した導電性高分子によって、それ以上の重合液の浸透が阻害される。
【0070】
製品L寸が16.0mm以上になると容量出現率が70%以下となることは、製品L寸が大きくなるにつれて、コンデンサ素子に対してモノマー溶液、酸化剤溶液の含浸が十分に行われていないためと推察された。
【0071】
そこで、重合液のコンデンサ素子への含浸性を高めるために、コンデンサ素子の最外周に配置されているセパレータに着目した。
最外周に配置されているセパレータは、コンデンサ素子を重合液に浸漬にした際、最も早く重合液と接する部位の一つである。そのため、重合液の浸透も最も早い部位となる。そこで、最外周のセパレータを重合液に浸漬し、そのセパレータから毛細管現象によって、重合液が速やかにコンデンサ素子の上端面にまで到達し、さらに上端面よりコンデンサ素子の内側のセパレータに重合液の浸透が速やかに行われることで、重合液がコンデンサ素子に浸透しやすくなると推察した。
【0072】
(実施形態)
次に、実施形態について述べる。陽極箔及び陰極箔の幅寸法は同一とし、それぞれの幅寸法が10mm、14mmの陽極箔と陰極箔を用いた。セパレータとしては、それぞれの電極箔よりも1mmだけ幅寸法の長いセパレータを用いた。素子L寸としては、11.0mm、15.0mmとし、巻き止めテープの幅を2.0mmとして、コンデンサ素子を作製した。
この巻き止めテープの巻き止め位置は、
図2(a)(b)(c)に示すように、コンデンサ素子の下端面からの距離を変えて、コンデンサ素子を作製した。すなわち、コンデンサ素子の素子L寸の長さを5等分して、それぞれ下端面から2/5未満の距離の範囲、2/5以上3/5未満の距離の範囲、3/5以上の距離の範囲に、巻き止めテープを周回し、コンデンサ素子の巻きほぐれを防止した。なお、
図2(a)(b)(c)は、素子L寸が15mmの場合のコンデンサ素子を表したものである。素子L寸が11.0mmの場合も、素子L寸は異なるものの、同様の比率である。
【0073】
これらのコンデンサ素子を3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーと、p−トルエンスルホン酸第二鉄をエタノールに溶解した溶液を混合した重合液に浸漬して、コンデンサ素子にモノマーと酸化剤を含浸し、その後にコンデンサ素子を引き上げて、コンデンサ素子内で、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合反応を進行させた。
【0074】
(コンデンサ素子の重合液に対する浸漬深さ)
この重合液にコンデンサ素子を浸漬する際に、コンデンサ素子の重合液に対する浸漬深さは次の通りとした。
サンプルA:コンデンサ素子の下端より高さ寸法の60%の高さ(
図3参照)
サンプルB:コンデンサ素子の下端より高さ寸法の75%の高さ(図示せず)
サンプルC:コンデンサ素子の下端より高さ寸法の80%の高さ(
図4(a)(b)(c)参照)
【0075】
サンプルA及びサンプルBの重合液に対する浸漬深さは、コンデンサ素子の下端より高さ寸法の3/4以下の高さ、サンプルCはコンデンサ素子の下端より高さ寸法の3/4を超える高さである。
【0076】
上記の浸漬深さは、具体的な数値に換算すると、素子L寸が11.0mmの場合には、サンプルAはコンデンサ素子の上端面から4.4mmの深さ、サンプルBは2.8mmの深さ、サンプルCは2.2mmの深さである。
また、素子L寸が15.0mmの場合には、サンプルAはコンデンサ素子の上端面から6.0mmの深さ、サンプルBは3.8mmの深さ、サンプルCは3.0mmの深さである。
【0077】
その結果、素子L寸が11.0mmの場合にはサンプルC、すなわち、コンデンサ素子の重合液に対する浸漬深さが、素子L寸の3/4(75%)を超える高さまでコンデンサ素子を浸漬した場合には、巻き止めテープの巻き付け位置に関わらず、コンデンサ素子のリード線が導出された上端面まで重合液が這い上がり(
図4(d)参照)、コンデンサ素子のリード線が導出された上端面で導電性高分子が多量に形成されて、陽極と陰極のリード線間を短絡する結果となった。
【0078】
一方で、素子L寸が11mmの場合、サンプルA及びサンプルBは、重合液がコンデンサ素子の上端面に這い上がることなく、コンデンサ素子に固体電解質を形成することができた。
【0079】
また、素子L寸が15.0mmの場合、サンプルA、サンプルBおよびサンプルCのすべてにおいて、重合液がコンデンサ素子の上端面に這い上がることなく、コンデンサ素子に固体電解質を形成することができた。
【0080】
(巻き止めテープの位置と容量出現率)
次に、素子L寸が11.0mm、15.0mm共に、サンプルAについて、コンデンサ素子を外装ケースに収納して、封口して固体電解コンデンサを作製した。作製した固体電解コンデンサは、全て定格電圧16V、外径寸法10mmである。このサンプルAにおける、巻き止めテープの貼り付け位置と容量出現率の関係を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
この表2の結果より、巻き止めテープの位置によって、固体電解コンデンサの容量出現率に違いがあることがわかる。
比較例1、比較例3は巻き止めテープと重合液の液面が重なった場合であり、巻き止めテープにより、重合液がコンデンサ素子の側面の上端側に浸透することを阻害されたことから、容量出現率が低下したと考えられる。
【0083】
比較例2および比較例4は、重合液に巻き止めテープを浸漬せずに、コンデンサ素子に重合液を含浸した場合である。比較例2、比較例4は巻き止めテープを重合液に浸漬していないため、比較例1、比較例3に比べて重合液がコンデンサ素子の最外周セパレータに接触する面積が大きくなる。その結果、比較例2、比較例4は、比較例1、比較例3よりも容量出現率が高くなったと考えられる。しかしながら、比較例2、比較例4は、重合液がコンデンサ素子の側面の上端側に浸透する際に、巻き止めテープの貼り付け位置までしか浸透しなかったため、実施例1、実施例2に比べて容量出現率が低下した。
【0084】
また、比較例2、比較例4を作製する際には、巻き止めテープの位置と重合液の液面を極めて接近させる必要がある。そのため、重合液の液面の高さとコンデンサ素子の浸漬深さとを注意深く制御する必要があり、作業が煩雑なものとなる。
【0085】
以上の結果から、コンデンサ素子の素子L寸の長さを5等分して、それぞれ下端面から2/5未満の距離の範囲に巻き止めテープを巻きつけた実施例1、実施例2が最も良好な容量出現率を得られ、かつ簡易な製造方法であることが判った。
【0086】
(その他の実施形態)
次に、その他の実施形態について述べる。陽極箔の幅寸法を13.5mm、陰極箔の幅寸法を10mm、セパレータの幅寸法を15mmとした。素子のL寸を15.0mm、巻き止めテープの幅を2.0mmとして、コンデンサ素子を作製した。このコンデンサ素子の巻き止めテープの巻き止め位置は、
図2(a)に示すように下端面から2/5未満の距離の範囲とした。
【0087】
作製したコンデンサ素子を、EDOTモノマー溶液に浸漬した後、酸化剤としてp−トルエンスルホン酸第二鉄をエタノールに溶解した溶液に浸漬した。この操作を2回行い、コンデンサ素子に固体電解質層を形成した。このコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口して固体電解コンデンサとした。作製した固体電解コンデンサは、定格電圧16V、外径寸法10mmである。上記のとおり作製した固体電解コンデンサを実施例3とした。
【0088】
実施例2のコンデンサ素子の、陽極箔及び陰極箔の幅寸法を13.5mmとしたこと以外は同一の方法で固体電解コンデンサを作製し、これを実施例4とした。
【0089】
作製した実施例3および実施例4の固体電解コンデンサの静電容量、容量出現率、100kHzでのESRを表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
実施例3は、陽極箔の幅寸法に対して陰極箔を短くし、さらに個別含浸法により固体電解質層を形成した固体電解コンデンサである。実施例4は陽極箔及び陰極箔の幅寸法を同一とし、混合含浸法により固体電解質層を形成した固体電解コンデンサである。表3の結果より、実施例3は特に優れた電気的特性を有していることがわかった。
【0092】
実施例3は、陰極箔を、陽極箔の幅寸法より短くしたことにより、陽極箔と陰極箔との幅寸法の差の分(
図5参照。破線の丸で示す箇所)だけ、導電性高分子前駆体溶液がコンデンサ素子の内部に入り込みやすくなり、陽極箔の表面を固体電解質が被覆する面積が多くなる。よって、固体電解質の形成量が増加し、緻密な固体電解質層が形成されるため、固体電解質層自体の抵抗が低下する。さらに、固体電解質層の形成方法として個別含浸法を用いたことにより、モノマーが浸透しやすく、モノマー含浸後に酸化剤を含浸することにより、既にモノマーがセパレータに浸透しているためにぬれ性が向上し、酸化剤の含浸性が向上する。
【0093】
以上のことから、コンデンサ素子の巻き止めテープの位置を調整し、さらに陽極箔に対する陰極箔の幅寸法を短くし、かつ個別含浸法を用いることにより、さらに優れた電気的特性を示すことがわかった。