(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481837
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラ回転角調整による変動圧力低減方法
(51)【国際特許分類】
B63H 5/07 20060101AFI20190304BHJP
B63H 5/08 20060101ALI20190304BHJP
B63B 9/08 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
B63H5/07 D
B63H5/08
B63B9/08
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-127803(P2017-127803)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-100073(P2018-100073A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2017年7月3日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0173705
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513107735
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ オーシャン サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】パク,チョル ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,グン ド
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンハ
【審査官】
福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−137336(JP,A)
【文献】
特開2010−036600(JP,A)
【文献】
特開平02−204659(JP,A)
【文献】
特開昭61−232983(JP,A)
【文献】
特開昭56−013293(JP,A)
【文献】
特開平02−299997(JP,A)
【文献】
米国特許第05150855(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 5/07 − 5/10
B63H 5/18 − 5/20
B63H 21/17
B63H 21/21
B63B 9/08
B63B 43/00 − 43/32
B64C 11/50
B64D 31/12
G01B 21/22 − 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラ回転角の調整による変動圧力低減方法であって、
振動センサシステム(1)が2個のプロペラ(71,72)の相対回転角別振動信号を計測し、計測した振動信号情報を振動分析システム(10)に伝送する段階S0と、
前記振動分析システム(10)が2個の前記プロペラ(71,72)の相対回転角別振動信号を分析して最小の振動が発生する最適相対回転角を決定し、前記決定した最適相対回転角情報を制御器(20)に伝送する段階S1と、
各シャフト(61,62)に取り付けられたエンコーダ(31,32)が2個の前記プロペラ(71,72)の回転数及び回転角の情報を収集し、収集した情報を前記制御器(20)に伝送する段階S2と、
前記制御器(20)が2個のプロペラ(71,72)の相対回転角を計算し、前記相対回転角と前記最適相対回転角とを比較し、前記相対回転角を前記最適相対回転角に一致させるための制御命令をプロペラ位相制御システム(40)に伝送する段階S3と、
前記プロペラ位相制御システム(40)が前記制御器(20)の前記制御命令に従って2個の前記プロペラ(71,72)の前記相対回転角を前記最適相対回転角に一致させるための制御を実行する段階S4と、
を有することを特徴とする変動圧力低減方法。
【請求項2】
前記段階S0において、前記振動センサシステム(1)は、単一又は複数の加速度センサで構成され、前記加速度センサは、変動圧力による船体振動の影響が大きい前記プロペラ(71,72)の上方の船体内部に設置されることを特徴とする請求項1に記載の変動圧力低減方法。
【請求項3】
前記段階S4において、前記プロペラ位相制御システム(40)は、2個の前記プロペラ(71,72)のうちいずれか一つの前記プロペラ(71又は72)の回転数を徐々に増加あるいは減少させ、それによって前記相対回転角を前記最適相対回転角に一致させることを特徴とする請求項1に記載の変動圧力低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラ回転角調整による変動圧力の低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変動圧力は、プロペラが回転しつつ発生するキャビテーションにより船体表面に起きる圧力変化を意味する。
【0003】
プロペラの翼で発生するキャビテーションは、不均一な船体後流の影響で
図1に示すように回転角度に従って発生量が変わるようになる。
【0004】
図1は、プロペラの翼で発生する一般的なキャビテーション様相を示す。
図1の左側は船舶の後から見るプロペラの形状及び基準角度を示し、
図1の右側はプロペラの翼角度によるキャビテーション発生パターンの計算例を示す。
【0005】
図2は、
図1のキャビテーション発生による変動圧力時間履歴の計算例を示す。
【0006】
図2の結果は、プロペラが1回転するときの結果であり、プロペラの翼数に該当する4回の周期的な圧力変動を確認できる。
【0007】
このとき、変動圧力時間履歴の大きさと位相は、プロペラと船体位置との間の相対的距離に従って変わる。
【0008】
したがって、船体の多様な位置での変動圧力は大きさと位相が異なる。
【0009】
変動圧力は、船舶振動及び騷音の主な原因であって、変動圧力が大きいと、船舶の振動及び騷音がそれに比例して大きく発生する。
【0010】
これは、2軸のプロペラで駆動される船舶、すなわち2軸船の場合も例外となり得ない。
【0011】
特に、2軸船は、左右2個のプロペラが各々変動圧力を誘発するので、これらが合わせられた全体の変動圧力が通常の船舶より大きく、複雑に発生する可能性があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラの相対回転角を調整し、それによってプロペラキャビテーションにより船体表面に起きる変動圧力を低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような目的を達成するために、本発明の一態様によれば、2軸船の2個のプロペラ71,72で発生する変動圧力時間履歴の位相差を調整することによって全体の変動圧力を低減し、変動圧力時間履歴の位相差の調整は、2個のプロペラ71,72の相対回転角の調整により達成される2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラ回転角の調整による変動圧力低減方法が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラ回転角の調整による変動圧力低減方法が提供される。その方法は、振動センサシステム1が2個のプロペラ71,72の相対回転角別振動信号を計測し、計測した振動信号情報を振動分析システム10に伝送する段階S0と、振動分析システム10が2個のプロペラ71,72の相対回転角別振動信号を分析して最小の振動が発生する最適相対回転角を決定し、決定した最適相対回転角情報を制御器20に伝送する段階S1と、各シャフト61,62に取り付けられたエンコーダ31,32がプロペラ71,72の回転数及び回転角の情報を収集し、収集した情報を制御器20に伝送する段階S2と、制御器20が2個のプロペラ71,72の相対回転角を計算し、相対回転角と最適相対回転角とを比較し、相対回転角を最適相対回転角に一致させるための制御命令をプロペラ位相制御システム40に伝送する段階S3と、プロペラ位相制御システム40が制御器20の制御命令に従って2個のプロペラ71,72の相対回転角を最適相対回転角に一致させるための制御を実行する段階S4とを有する。
【0015】
上記段階S0において、振動センサシステム1は、単一又は複数の加速度センサで構成され、加速度センサは、変動圧力による船体振動の影響が大きいプロペラ71,72の上方の船体内部に設置される。
【0016】
上記段階S4において、プロペラ位相制御システム40は、2個のプロペラ71,72のうちいずれか一つのプロペラ71又は72の回転数を徐々に増加あるいは減少させ、それによって相対回転角が最適相対回転角に一致させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、2軸船のリアルタイム振動情報とプロペラ回転角の調整を通じてプロペラの回転状態を最適状態に維持し、それによって船舶の運航条件に従って変動圧力をリアルタイムで効率的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】プロペラの翼で発生する一般的なキャビテーション様相を示す図である。
【
図2】
図1のキャビテーションの発生による変動圧力時間履歴の計算例を示す図である。
【
図3】2軸船の後から見るプロペラの形状及び基準角度を示す図である。
【
図4】
図3の相対回転角の変化による変動圧力の大きさ変化の計算例を示す図である。
【
図5】本発明を実現するためのシステム構成を示す図である。
【
図6】本発明の段階別実現プロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の望ましい実施形態を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図3は、2軸船の後から見るプロペラの形状及び基準角度を示す。
【0021】
2軸船の場合、一般的に左右2個のプロペラの翼形状と回転数は同一であり、回転方向が反対である。
【0022】
したがって、2個のプロペラのキャビテーションの発生パターンは基本的に類似する。
【0023】
しかしながら、特定の船体位置で各プロペラにより発生する変動圧力の時間履歴は、該当プロペラと船体位置との間の相対的距離に従って大きさと位相が異なるようになる。
【0024】
この場合、2個のプロペラで起きる変動圧力時間履歴の位相が一致する場合には、補強干渉により全体変動圧力は最大となり、一方、位相が反対となる場合には相殺干渉により全体変動圧力は最小となる。
【0025】
これは、2軸船の場合、2個のプロペラで発生する変動圧力時間履歴の位相差を任意に調整できる場合、全体変動圧力を低減できることを意味することである。本発明は、このような技術的原理を積極的に活用した2軸船の変動圧力低減方法を提示しようとする。
【0026】
本発明の場合、変動圧力時間履歴の位相差の調整は、2個のプロペラの相対回転角(
図3のΔθ)の調整により達成され得る。
【0027】
ここで、相対回転角は、2個のプロペラ間の回転角の差を意味する。
【0028】
図4は、
図3の相対回転角の変化による変動圧力の大きさ変化の計算例を示す。
【0029】
図4において、2個のプロペラの相対回転角が約40〜50度になる場合、相対回転角が0度である場合に比べて約25%の変動圧力低減効果が得られることがわかる。
【0030】
もちろん、
図4は、一つの例に該当するものであって、2軸船ごとに変動圧力が最小になる相対回転角は異なることがある。
【0031】
本発明では、変動圧力が最小となる相対回転角を‘最適相対回転角’と称する。
【0032】
以下、本発明により2軸船の変動圧力を低減するプロセスに対して段階別に詳細に説明する。
【0033】
図5は本発明を実現するためのシステム構成を示し、
図6は本発明の段階別実現プロセスを示す。
【0034】
本発明によるシステムは、振動センサシステム1、振動分析システム10、制御器20、エンコーダ31,32、及びプロペラ位相制御システム40を含んで構成され、エンコーダ31,32は、各シャフト61,62に装着される。
【0035】
<S0:振動信号計測段階>
まず、振動センサシステム1が2個のプロペラ71,72の相対回転角別振動信号を計測した後、計測した振動信号情報を振動分析システム10に伝送する。
【0036】
振動センサシステム1は、単一又は複数の加速度センサで構成され、加速度センサは、変動圧力による船体振動の影響が大きいプロペラ71,72の上方の船体内部に設置される。
【0037】
<S1:最適相対回転角の決定段階>
振動分析システム10が2個のプロペラ71,72の相対回転角別振動信号を分析して最小の振動が発生する最適相対回転角を決定する。
【0038】
振動分析システム10は、決定した最適相対回転角情報を制御器20に伝送する。
【0039】
<S2:プロペラ情報収集段階>
各シャフト61,62に取り付けられるエンコーダ31,32がプロペラ71,72の回転数及び回転角の情報を収集した後、収集した情報を制御器20に伝送する。
【0040】
<S3:相対回転角計算段階>
制御器20が2個のプロペラ71,72の相対回転角を計算する。
【0041】
制御器20は、相対回転角と最適相対回転角とを比較し、相対回転角と最適相対回転角との間の差がある場合、相対回転角を最適相対回転角に一致させるための制御命令をプロペラ位相制御システム40に伝達する。
【0042】
もちろん、相対回転角と最適相対回転角との間に差がない場合には、制御器20は、上記のような制御命令を伝達しない。
【0043】
<S4:プロペラ位相制御段階>
プロペラ位相制御システム40は、制御器20の制御命令に従って2個のプロペラ71,72の相対回転角を最適相対回転角に一致させるための制御を実行する。
【0044】
この場合、相対回転角を最適相対回転角に一致させるための制御は、多様な方式でなされることができる。
【0045】
例えば、プロペラ位相制御システム40は、2個のプロペラ71,72のうちいずれか一つのプロペラ71又は72の回転数を徐々に増加又は減少させ、それによって、2個のプロペラ71,72間の回転角の差、すなわち相対回転角を最適相対回転角に一致させることができる。
【0046】
このとき、プロペラ位相制御システム40は、プロペラ71,72の回転数情報を制御器20から受信し、プロペラ71,72の回転数を調整するために該当プロペラ71,72に接続されているエンジンシステム50を制御する。
【0047】
振動現象に変化が生じると、上記段階S0乃至段階S4の過程を反復することで、プロペラ71,72の回転状態を最適状態に維持し、それによって、2軸船の変動圧力を船舶の運航条件に従ってリアルタイムで効率的に低減することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 振動センサシステム
10 振動分析システム
20 制御器
31,32 エンコーダ
40 プロペラ位相制御システム
50 エンジンシステム
61,62 シャフト
71,72 プロペラ