(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の説明において、基板とは、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板をいう。
【0038】
以下の説明においては、一方主面のみに回路パターン等(以下「パターン」と記載する)が形成されている基板を例として用いる。ここで、パターンが形成されている一方主面を「表面」と称し、その反対側のパターンが形成されていない他方主面を「裏面」と称する。また、下方に向けられた基板の面を「下面」と称し、上方に向けられた基板の面を「上面」と称する。なお、以下においては上面を表面(一方主面)として説明する。
【0039】
以下、本発明の実施の形態を、半導体基板の処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明する。なお、本発明は、半導体基板の処理に限らず、液晶表示器用のガラス基板などの各種の基板の処理にも適用することができる。
【0040】
<第1実施形態>
<1−1.装置構成>
図1は、第1実施形態に係る蒸気乾燥装置の概略構成を示す図である。蒸気乾燥装置1は半導体基板等の基板W(以下、単に「基板W」と記載する)に付着しているDIW等の付着液を除去するために、基板Wに付着液よりも表面張力が低い低表面張力液体の蒸気を供給する蒸気乾燥処理に用いられる枚葉式の装置である。
【0041】
ここで、低表面張力液体としては、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、エタノール、メタノール等の有機溶剤が用いられる。以下、第1実施形態では、低表面張力液体をIPAとして説明する。
【0042】
なお、低表面張力液体としては、上記の液体に限られず、DIWよりも表面張力が低く、DIWよりも揮発性の高い液体であれば、上記液体に代えて用いることができる。
【0043】
また、基板Wの付着液は、DIWに限られず、例えば低表面張力液体として選択される液体と同一の液体であってもよい。
【0044】
蒸気乾燥装置1は、基板Wの乾燥処理を行う基板処理部90と、IPA蒸気を生成し、当該IPA蒸気を基板処理部90へ供給する蒸気供給装置10と、蒸気乾燥装置1の制御を行う制御部70を備える。制御部70は、蒸気乾燥装置1の各部と電気的に接続し、各部へ指令を行うことで蒸気乾燥装置1の制御を行う。
【0045】
図2は、蒸気乾燥装置1における後述の脱水部33の詳細構成を示す図である。
図3は、制御部70と蒸気乾燥装置1の各部との接続関係を示すブロック図である。以下、
図1、
図2および
図3を適宜用いて、蒸気乾燥装置1の構成について説明する。
【0046】
蒸気供給装置10は、主に、混合液体貯留部11と、蒸気供給管13と、蒸気生成手段20と、循環脱水手段30と、排気手段40と、混合蒸気供給手段50と、を備える。蒸気供給装置10における各部の詳説については、後述する。
【0047】
基板処理部90は、主に、基板Wを収容するチャンバ91と、蒸気供給装置10から供給されるIPA蒸気と窒素ガスを混合する窒素ガス混合手段60と、IPA蒸気を基板Wに吹き付けるノズル92と、を備える。基板処理部90における各部の詳説については、後述する。
【0048】
次に、蒸気供給装置10における各部の構成について説明する。
【0049】
蒸気供給装置10は、水分を含む液体のIPA(以下、「混合液体」と記載する)を貯留する混合液体貯留部11と、混合液体貯留部11に混合液体供給源から混合液体を供給するための配管12と、当該配管12に介挿され、混合液体供給源と、混合液体貯留部11との連通を制御するバルブV1とを備える。
【0050】
バルブV1は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV1に動作指令を行い、バルブV1が開成されると、混合液体供給源から配管12を介して混合液体貯留部11に混合液体が供給される。また、制御部70がバルブV1に動作指令を行い、バルブV1が閉成されると、混合液体供給源からの混合液体貯留部11への混合液体の供給が停止される。
【0051】
ここで、第1実施形態において混合液体供給源から供給される混合液体は、水分を0.1重量%含み、IPAを99.9重量%含む液体である。混合液体供給源は、蒸気乾燥装置1内に設けられたタンクであってもよいし、蒸気乾燥装置1外であって工場内に設けた大型タンク等の工場設備や、工場外から持ち込まれる可動式タンクであってもよい。
【0052】
混合液体貯留部11は、混合液体を貯留するタンクである。混合液体貯留部11は、その内部に貯留された混合液体の量を検知するため、液面センサ(図示省略)が備えられる。液面センサは、制御部70と電気的に接続し、混合液体貯留部11内の液面が所定高さ以上であるときに、検出信号を制御部70へ出力する。
【0053】
なお、本発明の実施に関しては液面センサの設置は必須ではなく、混合液体貯留部内の混合液体の貯留量がオペレータに把握できるように、当該タンクに窓を設ける構成としてもよい。
【0054】
また、蒸気供給装置10は、混合液体貯留部11に貯留された混合液体に含まれる水分濃度を測定するセンサ14を備える。一般に、水分濃度測定用のセンサには、オフライン用センサとインライン用センサがある。オフライン用センサは、貯留部から実際に外部へ取り出して測定を行うものであり、インライン用センサは、液体を、貯留部内や管路内から取り出さずに測定を行うものである。第1実施形態において用いるセンサ14は、混合液体貯留部11の外部であるオフライン上に設置され、水分濃度をppm(parts per million)オーダー、すなわち0.0001%のオーダーにて測定できるオフライン用センサであり、本実施形態ではセンサ14としてカール・フィッシャー法を利用した水分測定装置を用いる。
【0055】
センサ14は、制御部70と電気的に接続し、センサ14で測定した水分濃度を電気信号として制御部70へ出力する。制御部70に入力された当該電気信号は、データとして、後述する記憶部72に記憶される。以上により、混合液体貯留部11に貯留される水分濃度を、センサ14および制御部70によって監視することができる。
【0056】
なお、第1実施形態では上述のように水分濃度を測定するセンサ14を用いるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、IPA濃度を測定するセンサをセンサ14として用いてもよい。また、第1実施形態ではセンサ14としてオフライン用センサを用いたが、インライン用センサを用いる構成としてもよい。
【0057】
さらに、蒸気供給装置10は、混合液体貯留部11に接続される配管15と、配管15に介挿されるバルブV11を備える。配管15は、混合液体貯留部11に貯留される混合液体を、センサ14に所望の量だけ滴下するためのドレンラインであり、一端は混合液体貯留部11に接続され、他端はセンサ14へ滴下可能に開放されている開放端である。
【0058】
バルブV11は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV11に動作指令を行い、バルブV11が開成されると、混合液体貯留部11から配管15を介して、配管15の他端である開放端から混合液体が流出(あるいは、滴下)する。また、制御部70がバルブV11に動作指令を行い、バルブV11が閉成されると、配管15の開放端からの混合液体の流出が停止される。
【0059】
なお、センサ14への混合液体の供給は、配管15の開放端から直接滴下されるよう構成されても良いし、開放端から流出した混合液体を他の容器に流入し、当該容器からスポイト等で混合液体を取得してから当該スポイトからセンサ14へ滴下するように構成してもよい。本実施形態では、配管15の開放端から直接滴下されるように構成する。
【0060】
また、蒸気供給装置10は、混合液体貯留部11に貯留された混合液体から、混合液体の蒸気を含む混合蒸気を生成する蒸気生成手段20を備える。
【0061】
蒸気生成手段20は、窒素ガス供給源から混合液体貯留部11に貯留される混合液体中へ窒素ガスを供給するための配管21と、配管21に介挿され、窒素ガス供給源と混合液体貯留部11との連通を制御するバルブV2と、混合液体貯留部11に貯留された混合液体を加熱する加熱部22とを備える。
【0062】
バルブV2は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV2に動作指令を行い、バルブV2が開成されると、窒素ガス供給源から配管21を介して混合液体貯留部11の混合液体中に窒素ガスが供給される。また、制御部70がバルブV2に動作指令を行い、バルブV2が閉成されると、窒素ガス供給源からの混合液体貯留部11への窒素ガスの供給が停止される。
【0063】
ここで、第1実施形態において窒素ガス供給源から供給される窒素ガスは、図示しない乾燥手段等により含有水分が除去され、露点が−40℃以下、より好ましくは−80℃以下に調整された窒素ガスである。窒素ガス供給源は、蒸気乾燥装置1内に設けられたタンクであってもよいし、蒸気乾燥装置1外であって工場内に設けた大型タンク等の工場設備や、工場外から持ち込まれる可動式タンクであってもよい。
【0064】
なお、第1実施形態の蒸気生成手段20では、上述のように窒素ガスを用いるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、アルゴンガスや、窒素80%および酸素20%を含み、露点が−40℃以下である清浄乾燥空気(CDA)を、窒素ガスに代えて、供給する構成としてもよい。
【0065】
加熱部22は、公知の抵抗加熱ヒータであり、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により混合液体貯留部11に貯留された混合液体の加熱を実行する。加熱の温度は制御部70の動作指令によって調整され、少なくとも常温以上から100℃程度まで混合液体貯留部11に貯留された混合液体を加熱することが可能である。
【0066】
蒸気生成手段20により混合液体の蒸気を生成する際には、制御部70の動作指令により、バルブV2を開成して混合液体中に窒素ガスを供給し、加熱部22を動作させて混合液体貯留部11に貯留された混合液体を、沸騰しない程度に加熱する。
【0067】
具体的には、加熱部22により混合液体を50℃ないし60℃程度に加熱する。混合液体において、IPAの沸点は82.6℃であり、純水の沸点は100℃であり、IPAと水とを混合した混合液体の共沸点は約87℃であるため、上述のように50℃ないし60℃程度に加熱することで、混合液体を沸騰させることなく、混合液体の蒸気圧を常温時以上に高めることができる。これにより、窒素ガス供給源から供給された窒素ガスへの混合液体の蒸気の混入を促進でき、窒素ガス、IPAおよび水蒸気を含む混合蒸気が生成される。
【0068】
第1実施形態では、上述のように、混合蒸気の生成手法として、バブリング方式と液体加熱方式を併せて採用する。
【0069】
なお、本発明の実施に関して、混合蒸気の生成手段としては、上述した方式に限られず、2流体ノズル方式を用いてもよいし、バブリング方式、液体加熱方式を併用せず、それぞれ単独で用いても良い。また、第1実施形態では、上述のように加熱部22によって混合液体を沸点より低い温度に加熱して気化を促進するが、本発明の実施に関してはこれに限られず、沸点以上の温度に加熱してもよい。
【0070】
また、蒸気供給装置10は、混合液体貯留部11に貯留された混合液体を導入して、当該混合液体に含まれる水分を除去、すなわち、脱水し、当該脱水された混合液体を混合液体貯留部11に帰還させる循環脱水手段30を備える。
【0071】
循環脱水手段30は、配管31と、バルブV3と、ポンプ32と、脱水部33と、配管34とを備える。脱水部33は、混合液体に含まれる水分を除去する部位であり、詳細については後述する。
【0072】
配管31は、混合液体貯留部11と脱水部33における後述の分離部331とを接続し、混合液体貯留部11に貯留された混合液体を脱水部33へ導入する。配管31には、バルブV3とポンプ32が介挿される。配管34は、脱水部33と混合液体貯留部11とを接続する、配管31とは別途設けられる配管であり、脱水部33を通過し、脱水部33により脱水処理がされた混合液体を混合液体貯留部11へ送り戻す。
【0073】
バルブV3は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。また、ポンプ32は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により配管31内の液体をバルブV3側から脱水部33側へ送るポンプである。制御部70がポンプ32およびバルブV3に動作指令を行い、ポンプ32の動作が開始され、バルブV3が開成されると、混合液体貯留部11から配管31を介して脱水部33に混合液体が供給される。さらに、脱水部33を通過し、脱水部33により脱水処理がされた混合液体が、配管34を介して混合液体貯留部11に供給される。
【0074】
また、制御部70がポンプ32およびバルブV3に動作指令を行い、ポンプ32の動作が停止され、バルブV3が閉成されると、配管31を介して行われる混合液体貯留部11から脱水部33への混合液体の供給、および配管34を介して行われる脱水部33から混合液体貯留部11への混合液体の供給が停止される。
【0075】
次に、循環脱水手段30における脱水部33について、
図2を用いて説明する。
図2は、脱水部33の構成を示す模式図である。
【0076】
脱水部33は、配管31に直接接続する分離部331と、ポンプ32からみて分離部331の後段に設けられる吸着部332と、ポンプ32からみて吸着部332の後段に設けられ、配管34と接続するフィルタ333と、を備える。
【0077】
また、脱水部33は、配管34において、混合液体貯留部11とフィルタ333との間に介挿され、混合液体貯留部11とフィルタ333との連通を制御するバルブV10を備える。バルブV10は、配管34を介して混合液体貯留部11から脱水部33へ混合液体が逆流しないように設けられるバルブである。
【0078】
なお、本発明の実施に関してはバルブV10の位置に設けられるのはバルブに限られず、逆流防止弁を配管34内に設けてもよい。
【0079】
分離部331は、混合液体に含まれるIPAと水分とを分離する分離膜により構成され、浸透気化(Pervaporation:PV)法により、分離対象である混合液体中の水分を、IPAから分離する。分離膜としては、ゼオライト膜、ポリイミド系分離膜、またはセルロース系分離膜を用いることができ、第1実施形態では、アルコールからの脱水用の分離膜として広く用いられ、きわめて強い吸湿性を有するゼオライト膜を用いる。
【0080】
吸着部332は、混合液体に含まれる水分を吸着する吸着部材により構成され、吸着部材の吸湿性を利用して、混合液体から水分を選択的に吸着除去し、混合液体におけるIPAの濃度を高める。吸着部材の材質には、第1実施形態では、ゼオライトを用いる。なお、本発明の実施に関してはゼオライトに限られず、アルコール中の水分を選択的に吸着する材質であれば、用いることができる。
【0081】
フィルタ333は、多孔質なろ材により構成され、混合液体を分離部331および吸着部332に通すことにより生じる不純物粒子(例えば、ゼオライト片)を取り除く。ろ材としては、ガラス繊維フィルタ、またはメンブレンフィルタの他、公知の溶剤用フィルタを用いることができる。第1実施形態では、半導体洗浄工程で広く用いられ、有機溶剤耐性を有するメンブレンフィルタを用いる。
【0082】
図1に戻る。蒸気供給装置10は、混合液体貯留部11において、蒸気生成手段20により生成された混合蒸気を排気機構へ排気する排気手段40をさらに備える。
【0083】
排気手段40は、混合液体貯留部11と排気機構とを接続する配管41と、配管41に介挿され、混合液体貯留部11と排気機構との連通を制御するバルブV4とを備える。
【0084】
バルブV4は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV4に動作指令を行い、バルブV4が開成されると、混合液体貯留部11から配管41を介して排気機構へ混合蒸気が排気される。また、制御部70がバルブV4に動作指令を行い、バルブV4が閉成されると、混合液体貯留部11からの排気機構への混合蒸気の排気が停止される。
【0085】
なお、配管41に、さらにポンプを介挿して、混合蒸気を積極的に排出する構成としてもよい。
【0086】
ここで、排気機構は、混合液体貯留部11の外に設けられ、配管41を介して混合液体貯留部11から排出された混合蒸気をそのまま貯留、または混合蒸気に公知の液化処理を施して液体状態として貯留するタンクであり、蒸気乾燥装置1内に設けられたタンクであってもよいし、蒸気乾燥装置1外であって工場内に設けた大型タンク等の工場設備や、工場外へ持ち出し可能な可動式タンクであってもよい。当該タンクに貯留された混合蒸気は、工場内外で廃棄され、または公知のIPA精製処理が施されることで再利用される。
【0087】
また、蒸気供給装置10は、混合液体貯留部11と基板処理部90における配管61とを接続する蒸気供給管13と、蒸気供給管13に介挿され、混合液体貯留部11と配管61との連通を制御するバルブV5とを備える。蒸気供給管13を介して、混合液体貯留部11において、蒸気生成手段20により生成された混合蒸気が、基板処理部90または後述の混合蒸気貯留部52へ供給される。
【0088】
バルブV5は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV5に動作指令を行い、バルブV5が開成されると、蒸気供給管13を介して、混合液体貯留部11と、後述の配管51または基板処理部90における配管61とが、接続する。
【0089】
このバルブV5が開成され、後述のバルブV6が開成されると、蒸気供給管13および配管61を介して、混合液体貯留部11と基板処理部90におけるノズル92が接続する。また、バルブV5が開成され、後述のバルブV7が開成されると、蒸気供給管13および配管51を介して、混合液体貯留部11と混合蒸気貯留部52が接続する。
【0090】
また、制御部70がバルブV5に動作指令を行い、バルブV5が閉成されると、混合液体貯留部11と、配管51または配管61との接続が遮断される。
【0091】
なお、蒸気供給管13は、さらにポンプが介挿される構成としてもよい。ポンプを介挿することで、蒸気供給管13内の混合蒸気が積極的に基板処理部90へ供給される構成とすることができる。また、混合液体貯留部11で生成された混合蒸気が蒸気供給管13に供給された後、混合蒸気が蒸気供給管13内で冷却されると、蒸気供給管13内で凝集して混合液体に戻り、基板Wに対し、混合液体の液だれが発生するおそれがある。これを防止するため、蒸気供給管13に、蒸気供給管13内を50〜60℃程度に温調する温調機構を設けてもよい。
【0092】
また、蒸気供給装置10は、混合蒸気を混合液体貯留部11に供給する混合蒸気供給手段50をさらに備える。混合蒸気供給手段50は、混合蒸気を貯留する混合蒸気貯留部52と、混合蒸気貯留部52と蒸気供給管13とを接続する配管51と、配管51に介挿され、蒸気供給管13と混合蒸気貯留部52との連通を制御するバルブV7と、混合蒸気貯留部52と混合液体貯留部11とを接続する配管53と、配管53に介挿され、混合蒸気貯留部52と混合液体貯留部11との連通を制御するバルブV8と、を有する。
【0093】
混合蒸気貯留部52は、内部に混合蒸気を貯留するタンクである。混合蒸気への外の空気や水分の混入を防止するため、混合蒸気貯留部52は、配管51、配管53と接続する他は密閉されている。よって、外部雰囲気と混合蒸気貯留部52内の混合蒸気は、遮断されている。
【0094】
バルブV7は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV7に動作指令を行い、バルブV7が開成されると、蒸気供給管13と混合蒸気貯留部52とが連通する。このとき、バルブV5が開成されており、混合液体貯留部11から蒸気供給管13へ混合蒸気が供給されている場合、配管51を介して混合蒸気が混合蒸気貯留部52に供給され、混合蒸気が混合蒸気貯留部52に貯留される。また、制御部70がバルブV7に動作指令を行い、バルブV7が閉成されると、蒸気供給管13と混合蒸気貯留部52との連通が遮断され、蒸気供給管13内を流れる混合蒸気は、混合蒸気貯留部52には供給されない。
【0095】
なお、配管51におけるバルブV7と混合蒸気貯留部52との間に、さらにポンプを介挿して、蒸気供給管13内の混合蒸気を積極的に混合蒸気貯留部52へ供給する構成としてもよい。
【0096】
また、配管51に、さらに逆流防止弁を介挿して、混合蒸気貯留部52から蒸気供給管13への混合蒸気の逆流を防止する構成としてもよい。
【0097】
バルブV8は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV8に動作指令を行い、バルブV8が開成されると、混合蒸気貯留部52と混合液体貯留部11とが連通し、混合蒸気貯留部52に混合蒸気が貯留されていれば、混合蒸気が配管53を介して混合液体貯留部11に供給される。
【0098】
ここで、以下で後述するように、混合蒸気貯留部52に混合蒸気を供給する際には、蒸気生成手段20における窒素ガス供給源からの高圧な窒素ガスを利用することで、混合蒸気貯留部52に、混合蒸気が大気圧よりも高い正圧状態にて貯留される。したがって、バルブV8を開成した際、混合液体貯留部11の内部が大気圧であり、混合蒸気貯留部52の内部が大気圧よりも高い正圧状態であれば、混合蒸気貯留部52から混合蒸気が配管53を介して混合液体貯留部11に供給される。
【0099】
また、制御部70がバルブV8に動作指令を行い、バルブV8が閉成されると、混合蒸気貯留部52と混合液体貯留部11との連通が遮断され、混合蒸気貯留部52に貯留される混合蒸気は、混合液体貯留部11には供給されない。
【0100】
なお、配管51、混合蒸気貯留部52または配管53において、混合蒸気が冷却されると、これらの内部において凝集して混合液体に戻り、配管や貯留部内部で混合液体の液だれが発生するおそれがある。これを防止するため、配管51、混合蒸気貯留部52または配管53に、これらの内部を50〜60℃程度に温調する温調機構を設けて、混合蒸気の凝集を抑制する構成としてもよい。
【0101】
次に、基板処理部90における各部の構成について説明する。
【0102】
基板処理部90は、基板Wを収容するチャンバ91を備える。チャンバ91は、側壁、天井および底面によって基板Wを処理するための処理空間を形成する。
【0103】
また、基板処理部90は、チャンバ91において、基板Wの搬入出を行うためのシャッタ93、搬入された基板Wを保持する保持部(図示省略)、および当該保持部に保持された基板Wの主面に混合蒸気を供給するノズル92を備える。
【0104】
ノズル92には図示省略する移動機構が備えられ、当該移動機構は制御部70と電気的に接続しており、制御部70の動作指令によって、ノズル92は基板Wの主面と対向する位置に位置決めされる。また、シャッタ93および保持部も、それぞれ制御部70と電気的に接続しており、制御部70の動作指令によって、シャッタ93の開閉、および保持部による基板Wの保持状態が制御される。
【0105】
また、基板処理部90は、蒸気供給装置10から供給されるIPA蒸気に、窒素ガスを混合する窒素ガス混合手段60を備える。窒素ガス混合手段60は、蒸気供給管13とノズル92とを接続する配管61と、配管61に介挿され、蒸気供給管13とノズル92との連通を制御するバルブV6とを備える。
【0106】
さらに、窒素ガス混合手段60は、配管61におけるバルブV6とノズル92の間に分岐接続し、配管61と窒素ガス供給源とを接続する配管62と、配管62に介挿され、配管61と窒素ガス供給源との連通を制御するバルブV9とを備える。
【0107】
窒素ガス供給源は、配管62へ窒素ガスを供給する気体供給源(例えば、窒素ガスが圧縮されて貯留されるガスボンベ)である。窒素ガス供給源は、蒸気乾燥装置1内に設けられたボンベであってもよいし、蒸気乾燥装置1外であって工場内に設けた大型ボンベ等の工場設備や、工場外から持ち込まれる可動式ボンベであってもよい。第1実施形態において窒素ガス供給源から供給される気体は、露点が−40℃以下、好ましくは、露点が−100℃以下であり、99.999体積%濃度以上の窒素ガスである。
【0108】
バルブV6は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV6に動作指令を行い、バルブV6が開成されると、蒸気供給管13とノズル92とが連通し、蒸気供給管13内を流れる混合蒸気が配管61を介してノズル92に供給される。また、制御部70がバルブV6に動作指令を行い、バルブV6が閉成されると、蒸気供給管13とノズル92との連通が遮断され、蒸気供給管13内を流れる混合蒸気は、ノズル92には供給されない。
【0109】
また、バルブV5が開成した状態でバルブV6が開成されると、混合液体貯留部11と基板処理部90におけるノズル92とが、蒸気供給管13および配管61を介して接続する。
【0110】
バルブV9は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令により開閉するバルブである。制御部70がバルブV9に動作指令を行い、バルブV9が開成されると、窒素ガス供給源と配管61とが連通し、窒素ガスが窒素ガス供給源から配管62を介して配管61およびノズル92に供給される。また、制御部70がバルブV9に動作指令を行い、バルブV9が閉成されると、窒素ガス供給源と配管61との連通が遮断され、窒素ガス供給源からの窒素ガスの配管61およびノズル92への供給が停止する。
【0111】
なお、配管61において、混合蒸気が冷却されると、配管61内において凝集して混合液体に戻り、基板Wへの混合液体の液だれが発生するおそれがある。これを防止するため、配管61に、内部を50〜60℃程度に温調する温調機構を設けて、混合蒸気の凝集を抑制する構成としてもよい。また、配管62は配管61と管路接続するため、混合蒸気が流入する可能性がある。したがって、配管62においても、上記温調機構を設けて、混合蒸気の凝集を抑制する構成としてもよい。
【0112】
次に、制御部70の構成について
図3を用いて説明する。
図3は制御部70の構成と、制御部70と蒸気乾燥装置1との各部の関係を示すブロック図である。制御部70は、蒸気乾燥装置1の各部、すなわち、センサ14、加熱部22、ポンプ32、基板処理部90および各バルブV1乃至V11と電気的に接続しており、各部の動作を制御する。
【0113】
制御部70は、各種演算処理を行うCPU71や記憶部72を有するコンピュータにより構成されている。記憶部72は、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM721、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM722および制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスク723を備える。磁気ディスクには、基板Wに応じた基板処理条件が、プログラム73(レシピとも呼ばれる)として予め格納されおり、CPUがその内容をRAMに読み出し、RAMに読み出されたプログラムの内容に従ってCPUが蒸気乾燥装置1の各部を制御する。
【0114】
制御部70は、変更・追加用プログラムを記憶した記憶媒体74を読み取る読取手段75をさらに備える。外部から記憶媒体74を読取手段75に挿入し、読取手段75で読み取った記憶媒体74内の変更・追加用プログラムは、記憶部72にプログラム73として記憶される。
【0115】
また、制御部70には、オペレータに現在選択されているプログラム73や蒸気乾燥装置1の状態等を報知する表示部76と、オペレータがプログラム73の作成・変更や、複数のプログラム73の中から所望のものを選択するために用いる入力部77が、接続されている。
【0116】
<1−2.処理工程>
次に、上記のように構成された蒸気乾燥装置1における蒸気供給および基板処理の工程について説明する。ここで、基板Wの主面には、凹凸のパターンが予め形成されている。パターンは、凸部および凹部を備えている。本実施形態において、凸部は、100〜200nmの範囲の高さであり、10〜20nmの範囲の幅である。また、隣接する凸部間の距離(凹部の幅)は、10〜1000nmの範囲である。また、基板Wの主面には、予め実行される湿式処理によって、例えばリンス液としてのDIWが付着している。
【0117】
なお、本実施形態では上記のようなスケールのパターンが形成された基板Wを用いるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、上記の範囲に含まれないスケールのパターンを用いてもよいし、表面に凹凸のパターンが形成されていない基板Wに対して後述の基板処理を行ってもよい。
【0118】
以下、
図4を参照して、第1実施形態における蒸気供給方法を説明する。
図4は第1実施形態における蒸気供給装置10の、基板処理部90への蒸気供給動作を示すフローチャートである。
【0119】
まず、所定の基板Wに応じたプログラム73が入力部77(
図3参照)でオペレータにより選択され、実行指示される。その後、蒸気供給装置10における各部の動作が、制御部70の動作指令によって実行される。
【0120】
基板処理部90へ含有水分をより少なくした混合蒸気を供給するために、蒸気供給装置10では、以下の蒸気供給工程を実行する。すなわち、まず混合液体貯留部11に混合液体を混合液体供給源から供給し、貯留する貯留工程(S11)と、混合液体貯留部11に貯留される混合液体を循環脱水手段30へ導入し、脱水部33にて脱水を行った混合液体を混合液体貯留部11に帰還させる循環脱水工程(S12)と、循環脱水工程により混合液体中の水分濃度が第1所定値以下(本実施形態では、0.001重量%以下)になったことがセンサ14で検知された後、加熱部22により混合液体貯留部11に貯留される混合液体を加熱して混合蒸気を発生させ、発生した混合蒸気を排気手段40によって混合液体貯留部11の外部に排気する気化脱水工程(S13)と、気化脱水工程により混合液体中の水分濃度が第2所定値以下(本実施形態では、0.0005重量%以下)になったことがセンサ14で検知された後、配管21を介して窒素ガス供給源から混合液体貯留部11の混合液体中に窒素ガスを供給することで混合蒸気を発生させ、発生した混合蒸気を蒸気供給管13を介して基板処理部90に送る蒸気供給工程(S14)と、を実行する。
【0121】
以上の各工程(S11〜S14)の詳細について、
図1、
図2および
図3を適宜参照しながら説明する。
【0122】
まず、プログラム73がオペレータにより選択・実行指示がなされると、制御部70は、蒸気乾燥装置1における各部が、初期状態となっているかを確認し、初期状態となっていない部分があれば、動作指令により各部を初期状態とする。初期状態として、蒸気乾燥装置1はすべてのバルブV1〜V11を閉成し、ポンプ32等、各部のポンプは動作を停止している。また、加熱部22は動作を停止しており、混合液体貯留部11への加熱は行われていない。当該初期状態が確認された後、制御部は各工程(S11〜S14)を順次実行する。
【0123】
貯留工程(S11)が制御部70の動作指令により開始されると、まず、制御部70は、混合液体貯留部11に設けられた液面センサからの検出信号の有無を確認する。検出信号が無く、液面が所定高さよりも低いことを検知すると、制御部70は、バルブV1に動作指令を行い、バルブV1を開成して、混合液体供給源から混合液体を混合液体貯留部11へ、配管12を介して供給する。
【0124】
混合液体供給源からの混合液体の供給により、混合液体貯留部11内の混合液体の液面が上昇し、液面センサが検知する所定高さ以上に液面が達すると、液面センサが制御部70へ検出信号を送信する。制御部70は、当該検出信号を受信すると、バルブV1に制御指令を行い、バルブV1を閉成して、混合液体貯留部11への混合液体供給源からの混合液体の供給を停止する。
【0125】
ここで、混合液体供給源から供給される混合液体は、水分を0.1重量%含み、IPAを99.9重量%含む液体である。
【0126】
なお、混合液体貯留部11内や配管12内の雰囲気に、水蒸気が含まれている場合には、IPAによる吸湿が生じるため、混合液体供給源から供給する混合液体よりも、混合液体貯留部11に貯留される混合液体の方がIPA濃度が低くなり、水分濃度が高くなる。
【0127】
また、混合液体貯留部11内に、既に混合液体が貯留されている場合には、混合液体供給源から新しく混合液体を供給した後の、混合液体貯留部11内の混合液体のIPA濃度および水分濃度は、既に貯留されていた混合液体のIPA濃度や水分濃度に依存する。
【0128】
液面センサが所定高さ以上であり、バルブV1が閉成していることを制御部70が確認すると、次に、循環脱水工程(S12)が開始される。循環脱水工程が開始されると、制御部70は、循環脱水手段30に動作指令を行い、ポンプ32を動作させ、バルブV3およびバルブV10(
図2参照)を開成する。
【0129】
制御部70の動作指令により、ポンプ32が動作し、バルブV3およびバルブV10が開成すると、混合液体貯留部11に貯留される混合液体が、配管31から脱水部33に導入される。
【0130】
脱水部33では、混合液体が分離部331、吸着部332を順次通過することで、混合液体に含まれる水分の分離、吸着が行われ、混合液体に含まれる水分が除去される、すなわち脱水処理がなされる。そして、フィルタ333では、分離部331および吸着部332において生じた不純物微粒子をろ過により除去する。これにより、脱水部33を通過させることで、脱水部33への導入前の混合液体よりも水分濃度が低下し、IPA濃度が上昇した混合液体を得ることができる。
【0131】
脱水部33を通過し、脱水処理された混合液体は、配管34を通って混合液体貯留部11に戻される。脱水処理され、IPA濃度が高くなった混合液体が、混合液体貯留部11に貯留され、脱水処理がなされる前の混合液体と混ざることで、混合液体貯留部11に貯留される混合液体全体のIPA濃度が高くなる。
【0132】
なお、循環脱水工程(S12)において、制御部70は、循環脱水手段30への動作指令の前に、センサ14により、混合液体貯留部11に貯留される混合液体における水分濃度を確認してもよい。この場合、制御部70がセンサ14で検知された水分濃度を確認し、センサ14で検知された水分濃度が第1所定値以上である場合に、循環脱水手段30へ動作指令を行う。これにより、既に水分濃度が第1所定値以下である場合に、循環脱水工程(S12)を省略することができる。
【0133】
第1実施形態において、第1所定値は、0.001重量%(すなわち10ppm)である。また、センサ14がIPA濃度を検知する場合には、センサ14で検知されたIPA濃度が第3所定値以下である場合に、制御部70は、循環脱水手段30に動作指令を行い、ポンプ32を動作させ、バルブV3を開成するように構成してもよい。ここで、第3所定値は、99.999重量%である。
【0134】
なお、第1所定値としては、0.001重量%に限られないが、混合液体供給源から供給される混合液体における水分濃度以下の値に設定されることが好ましく、第1実施形態では0.01重量%以下の値が第1所定値として選ばれることが好ましい。
【0135】
また、同様に、第3所定値としては、99.999重量%に限られないが、混合液体供給源から供給される混合液体におけるIPA濃度以上の値に設定されることが好ましく、第1実施形態では99.99重量%以上の値が第3所定値として選ばれることが好ましい。
【0136】
制御部70は、循環脱水工程(S12)の開始後、所定時間が経過する毎に、バルブV11に動作指令を行い、配管15を介して所定容量の混合液体をセンサ14へ滴下し、センサ14により検出される混合液体の水分濃度を確認する。センサ14において検出される水分濃度が第1所定値以下になったことを確認すると、気化脱水工程(S13)を開始する。本実施形態では、気化脱水工程(S13)の開始後も、継続して所定時間、循環脱水工程(S12)が行われ、所定時間経過後に循環脱水工程が終了する。
【0137】
すなわち、制御部70がセンサ14から第1所定値以下の信号を受信してから制御部70に備えられる図示省略のタイマがカウントを行い、所定の時間が経過した後に、制御部70の動作指令により、ポンプ32が停止され、バルブV3およびバルブV10が閉成され、脱水部33への混合液体貯留部11からの混合液体の導入、および脱水部33からの混合液体貯留部11への混合液体の帰還が停止する。
【0138】
気化脱水工程(S13)が開始されると、制御部70は蒸気生成手段20に動作指令を行い、加熱部22を動作させ、加熱部22による混合液体貯留部11内の混合液体の加熱を開始する。第1実施形態では、加熱部22により混合液体は50℃ないし60℃程度に加熱される。これにより、混合液体の蒸気圧が高くなることで、混合液体の液面から、IPA蒸気および水蒸気を含む混合蒸気が発生する。
【0139】
また、制御部70は、排気手段40に動作指令を行い、バルブV4を開成する。これにより、加熱部22によって生成された混合蒸気は、配管41を通って排気機構に排気される。
【0140】
ここで、加熱部22により生成される混合蒸気におけるIPA蒸気と水蒸気の割合と、混合液体貯留部11内に貯留される混合液体におけるIPAと水分の割合について、説明する。
図5に、IPAと純水に係る気液平衡曲線を示す。
【0141】
図5は、IPAと純水の混合液体(すなわち、液相)におけるIPA濃度を横軸に、当該混合液体を蒸発させた際に生成されるIPA蒸気と水蒸気の混合蒸気(すなわち、気相)におけるIPA(蒸気)濃度を縦軸に、それぞれ示している。
【0142】
例えば、IPA濃度が61重量%であり、純水が39重量%である十分な量の混合液体の一部を蒸発させると、IPA蒸気の濃度が82重量%であり、水蒸気が18重量%である混合蒸気が生成される。すなわち、IPA濃度が61重量%である混合液体から混合蒸気を生成すると、混合液体のIPA濃度よりも高い濃度のIPA蒸気が得られることを意味する。これは、一般に、IPAの方が純水よりも蒸気圧が高く、揮発しやすい特性に起因する。
【0143】
このような性質は、
図5の気液平衡曲線に示すように、IPA濃度が87重量%以下である混合液体において見られる。IPA濃度が87重量%の混合液体を蒸発させると、IPA蒸気の濃度が87重量%である混合蒸気が生成される。すなわち、混合液体におけるIPA濃度が87重量%のとき、混合液体と、その混合液体から生成される混合蒸気との、IPA濃度が等しくなる、いわゆる共沸状態となる。本願では、このように混合液体のIPA濃度(すなわち、低表面張力液体濃度)と、その混合液体から生成される混合蒸気のIPA蒸気濃度(すなわち、低表面張力液体の蒸気濃度)とが等しくなるときの、IPA濃度のことを、「共沸濃度」と称する。
【0144】
そして、混合液体において、この共沸濃度よりもIPA濃度が高くなると、混合蒸気におけるIPA蒸気濃度は、混合液体におけるIPA濃度よりも低くなる。換言すると、混合液体において、この共沸濃度よりも水分濃度が低くなると、混合蒸気における水蒸気濃度は、混合液体における水分濃度よりも高くなる。
【0145】
例えば、IPA濃度が97重量%であり、純水が3重量%である十分な量の混合液体の一部を蒸発させると、IPA蒸気の濃度が95重量%であり、水蒸気が5重量%である混合蒸気が生成される。すなわち、共沸濃度よりも高いIPA濃度である混合液体から混合蒸気を生成すると、混合液体の水分濃度よりも高い濃度の水蒸気が得られることを意味する。そして、混合蒸気として、より多くの割合の水蒸気が混合液体から除去されることで、混合蒸気を生成した後の混合液体のIPA濃度は高くなる。
【0146】
気化脱水工程(S13)は、上記のメカニズムを利用する。すなわち、循環脱水工程(S12)によって混合液体における水分濃度を第1所定値以下(第1実施形態では0.001重量%以下、すなわちIPA濃度は共沸濃度以上)まで低くした後、加熱部22によって混合液体の液面から混合蒸気を生成することで、当該混合蒸気に含まれる水蒸気の濃度が、混合液体に含まれる水分の濃度よりも高くなり、混合蒸気生成後に混合液体の水分濃度が低くなることを利用する。
【0147】
気化脱水工程では、さらに制御部70が混合蒸気供給手段50に動作指令を行い、バルブV8を開成して、混合蒸気貯留部52から配管53を介して混合液体貯留部11へ、混合蒸気を供給する。混合蒸気貯留部52から供給される当該混合蒸気の詳細については後述するが、当該混合蒸気は、気化脱水工程において、混合液体貯留部11に貯留される混合液体のIPA濃度よりも高いIPA蒸気濃度を有する混合蒸気である。
【0148】
このように、IPA蒸気濃度が、混合液体貯留部11に貯留される混合液体のIPA濃度よりも高い混合蒸気を、気化脱水工程中に混合液体貯留部11へ供給することで、混合液体の周りの雰囲気をIPA蒸気濃度が高い雰囲気とすることができる。これにより、混合液体貯留部11における混合液体からIPAが蒸発し、排気機構へ排気されるのを抑制しつつ、混合液体中に含まれる水分を優先的に脱水させることができる。
【0149】
気化脱水工程(S13)により、混合液体貯留部11に貯留される混合液体のIPA濃度が高くなり、水分濃度が低くなる。
【0150】
制御部70は、気化脱水工程(S13)の開始後も、所定時間が経過する毎に、バルブV11に動作指令を行い、配管15を介して所定容量の混合液体をセンサ14へ滴下し、センサ14により検出される混合液体の水分濃度を確認する。制御部70は、混合液体貯留部11に貯留される混合液体の水分濃度が第2所定値以下になったことを確認すると、排気手段40に動作指令を行い、バルブV4およびバルブV8を閉成する。続いて、制御部70は、蒸気供給工程(S14)を開始する。
【0151】
第1実施形態において、第2所定値は、0.0005重量%(すなわち5ppm)である。また、センサ14がIPA濃度を検知する場合には、センサ14で検知されたIPA濃度が第4所定値以上である場合に、制御部70は、排気手段40に動作指令を行い、バルブV4およびバルブV8を閉成すればよい。ここで、第4所定値は、99.9995重量%である。
【0152】
なお、第2所定値としては、0.0005重量%に限られないが、第1所定値よりも小さい値に設定される。また、同様に、第4所定値としては、99.9995重量%に限られないが、第3所定値よりも大きい値に設定される。
【0153】
ここで、混合液体貯留部11には、貯留工程(S11)の時点で既に、IPA濃度が共沸点濃度以上の混合液体(99.9%)が貯留されているため、この混合液体が第1所定値(0.001重量%)以上の水分濃度であったとしても、循環脱水工程(S12)により第1所定値以下の水分濃度にすることなく、気化脱水工程(S13)を行うことで共沸濃度を利用する効果は得られる。
【0154】
しかし、気化脱水工程を行うと、上述のように混合液体貯留部11からのIPAのロスが生じる。そこで、気化脱水工程の前に、予め循環脱水工程を行い、IPA濃度をある程度高めてから、気化脱水工程を行う。これにより、IPAのロスを抑制しつつ、混合液体貯留部11内に微量に残留する水分を除去することができる。
【0155】
また、循環脱水工程のみを継続しても、第2所定値以下まで水分濃度を低くすることは可能である。しかしながら、水分濃度がある程度低くなると、脱水部33による脱水効率が低下することから、貯留工程(S11)の後、第2所定値以下となる低い水分濃度が得られるまでの所要時間が長くなる。
【0156】
図6に、脱水部33の水分除去による水分濃度の低下と、循環脱水工程開始からの経過時間との関係を示す。
図6に示すように、グラフ線の傾きは水分濃度が低くなるごとに緩やかになり(すなわち、水分除去効率が低下し)、混合液体貯留部11内の混合液体が、ある程度低い水分濃度になると、脱水部33による水分濃度の低下の度合いは飽和する。
【0157】
脱水部33における分離部331、吸着部332およびフィルタ333は、一般に消耗品であり、上記のように長時間使用すると、交換のサイクルが早くなることで、装置のメンテナンス負担が増加する。
【0158】
そこで、第1実施形態では、混合液体貯留部11内の混合液体が、脱水部33による水分除去の効率が低くなりはじめる水分濃度(第1実施形態の場合には、第1所定値)以下になったところで、気化脱水工程を行う。これにより、脱水部33の使用時間を抑制しつつ(すなわち、装置のメンテナンス負担を抑制しつつ)、混合液体貯留部11内に微量に残留する水分を除去することができる。
【0159】
したがって、第1所定値の値の最適値は、脱水部33の機能に依存する。予め脱水部33を用いて
図6に示す関係を取得し、所定傾きに対応する水分濃度を第1所定値と規定するようにしてもよい。
【0160】
図4に戻る。次に、蒸気供給工程(S14)について説明する。
【0161】
ここで、基板処理部90では、制御部70により、蒸気供給工程(S14)に並行して、または先行して、基板Wの搬入・保持工程が行われる。
【0162】
基板Wの搬入・保持工程では、制御部70が基板処理部90の各部に動作指令を行うことで、基板Wがシャッタ93からチャンバ91に搬入され、保持部(図示省略)に基板Wが保持される。そして、ノズル92が基板Wの主面に対向する位置に位置決めされる。ここで、基板Wの主面には、チャンバ91への搬入前から、またはチャンバ91への搬入後に図示省略するチャンバ91内の湿式処理部により基板Wに湿式処理がなされることで、薬液やリンス液等の処理液(以下、単に「処理液」と記す)が付着している。
【0163】
蒸気供給工程(S14)は、混合液体貯留部11において生成した混合蒸気を蒸気供給管13へ供給する工程である。蒸気供給工程(S14)が開始されると、制御部70は、蒸気生成手段20に動作指令を行い、加熱部22による混合液体貯留部11内の混合液体への加熱を維持し、バルブV2を開成する。これにより、窒素ガス供給源から窒素ガスが、配管21を介して、混合液体貯留部11の混合液体中に供給される。これにより、混合液体貯留部11において、混合蒸気が生成される。
【0164】
また、制御部70は、バルブV5に動作指令を行い、バルブV5を開成する。これにより、混合液体貯留部11で生成された混合蒸気が、蒸気供給管13内へ供給される。
【0165】
続いて、制御部70は、バルブV6に動作指令を行い、バルブV6を開成する。これにより、蒸気供給管13内を流れる混合蒸気が、配管61を介してチャンバ91内のノズル92から基板Wに供給される。すなわち、混合蒸気の供給により、基板Wの表面に付着した処理液と混合蒸気が置換することで、基板Wの表面の処理液の除去が実行される。
【0166】
基板Wの表面の処理液が混合蒸気と置換し、基板Wの表面が混合液体で覆われると、次に、制御部70は、バルブV9に動作指令を行い、バルブV9を開成する。また、バルブV6に動作指令を行い、バルブV6を閉成する。これにより、ノズル92と混合液体貯留部11との連通が遮断され、混合蒸気の基板Wへの供給が停止する。また、配管61へ窒素ガス供給源から窒素ガスが供給され、基板Wの表面からの混合液体の気化が実行される。
【0167】
以上により、基板Wの表面の混合液体が除去され、基板Wの蒸気乾燥処理が完了する。
【0168】
ここで、基板Wの表面を覆う混合液体の元となる混合蒸気は、循環脱水工程(S12)および気化脱水工程(S13)により、含有する水分濃度が5ppm以下となっており、循環脱水工程や気化脱水工程を行わなかった場合と比べ、水分濃度が低くなっている。これにより、基板Wの表面を覆う混合液体を基板Wから除去する際にも、基板Wの表面に残留する水分が少なくなり、当該混合液体に含まれる水分に起因して基板Wの表面のパターン倒壊が生じるのを防止することができる。
【0169】
また、バルブV6が閉成された後、制御部70がバルブV7に動作指令を行い、バルブV7を開成する。また、蒸気生成手段20における窒素ガス供給源からの混合液体貯留部11への窒素ガスの供給は継続する。ここで、窒素ガス供給源から混合液体貯留部11へ供給される窒素ガスの圧力は、大気圧よりも高い正圧である。いま、バルブV2,V5,V7のみが開成しているため、混合液体貯留部11の混合液体に窒素ガスを通過させて生成される混合蒸気は大気圧よりも高い正圧状態で、蒸気供給管13および配管51を通り、混合蒸気貯留部52に正圧状態で貯留される。
【0170】
これにより、含有する水分濃度が第2所定値以下の混合蒸気を次の気化脱水工程に向けて混合蒸気貯留部52に貯留できる。
【0171】
蒸気供給工程において、基板Wの蒸気乾燥処理が終了した後、制御部70が蒸気乾燥装置1の各部に動作指令を行い、バルブV9、バルブV5、バルブV2、バルブV7を閉成し、加熱部22の動作を停止させ、シャッタ93から基板Wをチャンバ91外へ搬出して、一連の蒸気乾燥工程が終了する。
【0172】
以上のS11ないしS14が、第1実施形態における蒸気乾燥工程である。
【0173】
第1実施形態では、気化脱水工程の前に、予め循環脱水工程を行い、IPA濃度をある程度高めてから、気化脱水工程を行うことで、IPAのロスを抑制しつつ、混合液体貯留部11内に微量に残留する水分を除去することができる。
【0174】
さらに、第1実施形態では、循環脱水工程と併せて気化脱水工程を行うことで、脱水部の使用時間を抑制して、装置のメンテナンス負担を抑制しつつ、混合液体貯留部内に微量に残留する水分を除去することができる。
【0175】
そして、これら循環脱水工程、気化脱水工程により、基板Wに供給される混合蒸気の水分濃度を低下させることで、処理液と置換し、基板Wの表面を覆う混合液体を基板Wから除去する際にも、基板Wの表面に残留する水分が少なくなり、当該混合液体に含まれる水分に起因して基板Wの表面のパターン倒壊が生じるのを防止することができる。
【0176】
また、第1実施形態では、混合液体貯留部に循環脱水手段が接続し、混合液体貯留部に混合液体の貯留を行った後、すなわち貯留工程の後に、循環脱水工程や気化脱水工程を実行する。これにより、混合液体貯留部に外部から供給される混合液体内に、元々含まれている水分を除去することができ、当該混合液体に含まれる水分に起因して基板Wの表面のパターン倒壊が生じるのを防止することができる。
【0177】
<2.変形例>
第1実施形態では、本発明における実施の形態に関し、最も実行する工程の多い実施形態を示した。本発明の実施に関してはこれに限られず、第1実施形態で示した全ての工程を実行しなくても、本発明が解決すべき課題は解決されうる。
【0178】
<2−1.気化脱水工程の省略>
本発明の実施に関しては、気化脱水工程をせず、貯留工程の後、循環脱水工程を行い、その後蒸気供給工程を行っても良い。必要なIPA濃度の高さは、基板処理部90にて処理を行う基板Wに形成されるパターンのスケールに依存し、含有する水分濃度が10ppmであっても、パターン倒壊が生じるのを防止できるような場合には、
図4に示す循環脱水工程(S12)の後、気化脱水工程(S13)を行わずに蒸気供給工程(S14)を行っても良い。
【0179】
これにより、気化脱水工程において生じるIPAのロスなく、混合液体貯留部11内の混合液体に残留する水分を除去することができ、基板Wの蒸気乾燥処理におけるパターン倒壊を防止できる。
【0180】
<2−2.気化脱水工程における混合蒸気貯留部からの混合蒸気供給の省略>
本発明の実施に関しては、気化脱水工程において、混合蒸気貯留部52からの混合液体貯留部11への混合蒸気の供給は必須ではなく、当該混合蒸気の供給を行わずに、加熱部22による混合液体の加熱による混合液体の気化を実行してもよい。
【0181】
これにより、混合蒸気貯留部52を用意する必要が無いため、装置コストの増加や装置の大型化を抑制することができる。
【0182】
<2−3.超音波発生部>
第1実施形態において、蒸気生成手段20は加熱部22を備えていた。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、加熱部22に代えて、または加熱部22に加えて、混合液体貯留部11に貯留される混合液体に対し超音波振動を付与する超音波発生部を備えても良い。超音波発生部は、制御部70と電気的に接続し、制御部70の動作指令によって混合液体に対し超音波振動を付与する。
【0183】
混合液体は、超音波振動によって液面が霧状となる。この状態で、窒素ガス供給源から窒素ガスを混合液体貯留部11に供給することで、窒素ガス中に当該霧状の混合液体を含ませられ、混合液体は霧状となることで表面積が大きくなることに起因し、窒素ガス中で気化する。これにより、混合液体の蒸気を含む混合蒸気が生成される。
【0184】
上述のように、加熱部22に代えて超音波発生部を用いると、常温のまま混合蒸気を生成できる。加熱部22を用いて、混合液体を50℃ないし60℃程度に加熱した上でバブリングを行って混合蒸気を得ると、常温よりも高温の混合蒸気が蒸気供給管13にて常温に冷却され、蒸気供給管13内に混合液体の凝集が生じるおそれがある。第1実施形態では、これを防止するために蒸気供給管13に温調機構を設ける必要が生じる場合があったが、加熱部22に代えて超音波発生部を用いれば、混合液体を加熱することなく混合蒸気を得ることができるため、高温から常温に冷却されることに起因する混合液体の凝集が生じるおそれがなく、当該凝集対策のための部品コストを削減でき、装置を簡易化することができる。