特許第6482014号(P6482014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6482014プラズマ表面処理装置およびプラズマ表面処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482014
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】プラズマ表面処理装置およびプラズマ表面処理システム
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   H05H1/24
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-155267(P2014-155267)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-31916(P2016-31916A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2016年4月13日
【審判番号】不服2018-4482(P2018-4482/J1)
【審判請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】514193384
【氏名又は名称】株式会社イーツーラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【弁理士】
【氏名又は名称】寒川 潔
(72)【発明者】
【氏名】高島 賢二
【合議体】
【審判長】 森 竜介
【審判官】 西村 直史
【審判官】 野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−111677(JP,A)
【文献】 特開2005−293854(JP,A)
【文献】 特開2012−216318(JP,A)
【文献】 特表2004−514054(JP,A)
【文献】 特開2006−286550(JP,A)
【文献】 特開2007−141644(JP,A)
【文献】 特開2004−311314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
C23C 14/00−14/58、16/00−16/56、
H01L 21/302、21/304、21/461、21/3065、21/205、21/31、21/365、21/469、21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧近傍下で繊維または繊維束で構成された長尺の被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理方法であって、前記長尺の被処理体を長手方向に搬送する搬送経路に、前記被処理体の外周を囲うようにチャンバを形成し、このチャンバにおいて前記被処理体を挟んで対向する位置に、電気的に接地された金属板が配置されるとともに、この金属板に前記被処理体の搬送方向に沿ってスリット状の噴出口を一対形成し、この一対の噴出口からプラズマ化された処理ガスを前記チャンバ内に噴射することにより、前記チャンバ内を搬送される被処理体に対して前記噴出口のスリット長に応じた広範囲の区間でプラズマ化された処理ガスを噴き付けるプラズマ表面処理方法を実施するプラズマ表面処理装置であって、
プラズマ化された処理ガスを下向きに噴射するスリット状の噴出口を備えた上部プラズマヘッドと、
プラズマ化された処理ガスを上向きに噴射するスリット状の噴出口を備えた下部プラズマヘッドと、
これら上部および下部のプラズマヘッド間にチャンバを形成させる一対のチャンバ形成部材とを備えてなり、
上部および下部のプラズマヘッドは、いずれも処理ガスの噴出口が形成された面が電気的に接地されるとともに、互いに処理ガスの噴出口が平行に向かい合うように対向配置され、
前記一対のチャンバ形成部材は、上部および下部のプラズマヘッドの噴出口を挟んで対面配置されて、上部および下部のプラズマヘッドの間に、前記噴出口の長手方向に貫通するチャンバが形成されている
ことを特徴とするプラズマ表面処理装置。
【請求項2】
前記上部および下部のプラズマヘッドの噴出口は、前記被処理体を挟んで正対する位置から相互に偏心させて対向配置されていることを特徴とする請求項に記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項3】
前記一対のチャンバ形成部材は、互いが対面する面に、いずれも前記噴出口の長手方向に沿った凹状溝が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ表面処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置を複数連結し、隣接するプラズマ表面処理装置のチャンバ同士が連通するように構成されていることを特徴とするプラズマ表面処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はプラズマ表面処理方法、プラズマ表面処理装置およびプラズマ表面処理システムに関し、より詳細には、大気圧近傍の圧力下で発生させた放電プラズマを用いて行う長尺の被処理体に対する表面処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ表面処理装置を用いて長尺の被処理体(たとえば、カーボンファイバなど繊維状の被処理体)の表面処理を行う場合、図5(a)に示すように、プラズマ化された処理ガスを噴き出すスリット状の噴出口bを備えたプラズマヘッドaを、被処理体Wの搬送方向Xと直交する向きに配置し、被処理体Wを搬送しつつ、噴出口bからプラズマ化された処理ガスを噴射することにより、被処理体Wの表面処理を行っている。
【0003】
しかしながら、プラズマヘッドaの噴出口bのスリット幅は、通常1mm程度と狭いことから(たとえば、特許文献1参照)、被処理体Wの搬送速度を速めると、被処理体Wと処理ガスの接触が不十分となってしまい、被処理体Wの表面処理が十分になされないおそれがあった。そのため、従来のプラズマ表面処理方法では、被処理体Wの搬送速度を速めることができず、表面処理の処理効率が低いという問題があった。
【0004】
なお、この点については、たとえば、被処理体Wの搬送方向Xに、複数台のプラズマヘッドa,a,…を併設することによって、被処理体Wの搬送速度を速めることが考えられるが、その場合、高額なプラズマヘッドaが複数台必要になり、被処理体Wの表面処理にかかるコストが上昇するという新たな問題が生じる。
【0005】
また、従来の方法では、図5(b)に示すように、噴出口bから噴き出される処理ガスは、被処理体Wの一方の面(プラズマヘッドaと対面する側の面)にのみ噴き付けられることになるので、他方の面の表面処理が不十分となるおそれがあった。つまり、被処理体Wに対する表面処理に処理ムラが生じるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−96616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、長尺の被処理体の表面処理において、低コストで、被処理体の処理効率が高く、かつ、処理ムラの少ないプラズマ表面処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るプラズマ表面処理装置は、大気圧近傍下で繊維または繊維束で構成された長尺の被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理方法であって、上記長尺の被処理体を長手方向に搬送する搬送経路に、上記被処理体の外周を囲うようにチャンバを形成し、このチャンバにおいて上記被処理体を挟んで対向する位置に、電気的に接地された金属板が配置されるとともに、この金属板に上記被処理体の搬送方向に沿ってスリット状の噴出口を一対形成し、この一対の噴出口からプラズマ化された処理ガスを上記チャンバ内に噴射することにより、上記チャンバ内を搬送される被処理体に対して上記噴出口のスリット長に応じた広範囲の区間でプラズマ化された処理ガスを噴き付けるプラズマ表面処理方法を実施するプラズマ表面処理装置であって、プラズマ化された処理ガスを下向きに噴射するスリット状の噴出口を備えた上部プラズマヘッドと、プラズマ化された処理ガスを上向きに噴射するスリット状の噴出口を備えた下部プラズマヘッドと、これら上部および下部のプラズマヘッド間にチャンバを形成させる一対のチャンバ形成部材とを備えてなり、上部および下部のプラズマヘッドは、いずれも処理ガスの噴出口が形成された面が電気的に接地されるとともに、互いに処理ガスの噴出口が平行に向かい合うように対向配置され、上記一対のチャンバ形成部材は、上部および下部のプラズマヘッドの噴出口を挟んで対面配置されて、上部および下部のプラズマヘッドの間に、上記噴出口の長手方向に貫通するチャンバが形成されていることを特徴とする。
【0011】
そして、このプラズマ表面処理装置は、好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
(1)上記上部および下部のプラズマヘッドの噴出口は、上記被処理体を挟んで正対する位置から相互に偏心させて対向配置されている。
【0012】
(2)上記一対のチャンバ形成部材は、互いが対面する面に、いずれも上記噴出口の長手方向に沿った凹状溝が形成されている。
【0014】
本発明に係るプラズマ表面処理システムは、本発明に係るプラズマ表面処理装置を複数連結し、隣接するプラズマ表面処理装置のチャンバ同士が連通するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長尺の被処理体を長手方向に搬送する搬送経路に、被処理体の外周を囲うようにチャンバが形成され、このチャンバにおいて被処理体を挟んで対向する位置に、被処理体の搬送方向に沿ったスリット状の噴出口が一対形成され、この一対の噴出口からプラズマ化された処理ガスがチャンバ内に噴射されるので、被処理体はチャンバ内を通る際にスリット長に応じた広範囲の区間でプラズマ化された処理ガスに晒される。そのため、被処理体の搬送速度を速めても、被処理体はチャンバ内で処理ガスと十分に接触することになるので、表面処理効果を低下させることなく、表面処理の処理効率の向上を図ることができる。
【0016】
また、チャンバ内に処理ガスを噴射する噴出口が、被処理体を挟んで対向する位置に一対配置されるので、チャンバ内を通る被処理体には両面から処理ガスが噴き付けられる。そのため、処理ガスの噴き付けが被処理体の片面に集中することがなく、処理ムラが発生せず、表面処理をムラなく均一に行うことができる。
【0017】
また、一対の噴出口を被処理体を挟んで正対する位置から相互に偏心させて配置することにより、チャンバ内で処理ガスが渦状に対流するので、被処理体に対してムラなく均一に処理ガスを噴き付けることができ、表面処理をムラなく均一に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るプラズマ表面処理装置の外観構成の一例を示す斜視図である。
図2】同プラズマ表面処理装置の概略構成を示す分解斜視図である。
図3】同プラズマ表面処理装置におけるチャンバ側面の形状の一例を示す断面図であり、図3(a)はチャンバ側面を断面円弧状に形成した場合を、図3(b)はチャンバ側面を断面略コ字状に形成した場合を、図3(c)はチャンバ側面を断面V字状に形成した場合を、それぞれ示している。
図4】同プラズマ表面処理装置を用いたプラズマ表面処理システムの概略構成の一例を示す平面図である。
図5】長尺の被処理体に対する従来のプラズマ表面処理方法の概要を示しており、図5(a)はプラズマ表面処理装置を下方から見た図であり、図5(b)は同プラズマ表面処理装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
実施形態1
図1は、本発明に係るプラズマ表面処理装置1の外観構成の一例を示している。この図1に示すプラズマ表面処理装置1は、大気圧近傍の圧力下において、長尺の被処理体Wに対して、プラズマ化させた処理ガスを噴き付けることにより、被処理体Wの表面処理を行う装置であって、プラズマ化させた処理ガスを噴射する一対のプラズマヘッド2a,2bと、プラズマヘッド2a,2bの間にチャンバ4を形成させる一対のチャンバ形成部材3a,3bとを主要部として備えている。
【0020】
被処理体Wは、プラズマ表面処理装置1に連続供給可能な長尺の物体で構成される。本実施形態では、この被処理体Wは、糸状または紐状の繊維あるいは繊維の束(繊維状の物体)で構成されており、図示しない搬送手段によって、プラズマ表面処理装置1に連続供給されるようになっている(図1参照)。なお、この被処理体Wを構成する物体としては、たとえば、天然繊維、化学繊維、炭素繊維、ガラス繊維などが例示される。
【0021】
被処理体Wに対して行う表面処理としては、プラズマ化された処理ガスを用いて行う被処理体表面の親水化、撥水化、表面還元、有機物除去、コーティングなどが例示される。
【0022】
プラズマヘッド2a,2bは、いずれも、その筐体6内に、誘電体バリア放電によって処理ガスをプラズマ化させるプラズマ発生装置(図示せず)を収容しており、筐体6の底面には、プラズマ化された処理ガスを噴き出す噴出口5(図2参照)が備えられている。
【0023】
ここで、筐体6に収容されるプラズマ発生装置は、電圧印加電極と接地電極とが一定の間隔を空けて対向配置されるとともに、これら電極の一方または双方の電極対向面をセラミックスなどの誘電体で覆った構造を備えている。そして、電圧印加電極に高周波電圧を印加することによって両電極間に放電(誘電体バリア放電)を発生させ、放電中の電極間に処理ガスを供給することによって処理ガスをプラズマ化(プラズマ活性化)させて、プラズマ化した処理ガスを噴出口5から筐体外部に噴射するように構成されている。
【0024】
なお、電圧印加電極と接地電極は、特に図示しないが、筐体6内の長手方向(被処理体Wの搬送方向X)のほぼ全長にわたって対向配置されており、噴出口5の全領域から(噴出口5の全長にわたって)プラズマ化された処理ガスが噴射されるようになっている。また、これに伴って、プラズマ化された処理ガスが、噴出口5からムラなく均一に噴射されるように、放電空間(電圧印加電極と接地電極の間)への処理ガスの供給路には、処理ガスの供給を均一化させる機構が備えられている。
【0025】
筐体6は、図2に示すように、底部が開口された金属製の箱体で構成されており、その底部に金属製の底板7が装着されることによって、筐体6の底面が形成されている。この底板7は、電気的に接地されており、プラズマ発生装置と被処理体Wとを電気的に隔離する電磁シールドの役割を果たすように構成されている。そのため、被処理体Wとして導電性物質を用いた場合でも、被処理体Wはプラズマ生成装置からの電気的な影響を受けないようになっている。なお、本実施形態では、筐体6も金属で構成されることから、底板7が電気的に接地されることに伴って筐体6も電気的に接地される。そのため、筐体6は、プラズマ発生装置で発生する高周波電界が筐体外部に漏れるのを防ぐシールドケースとしての役割を果たしている。
【0026】
噴出口5は、筐体6の底板7を貫通して形成された細長いスリット状の貫通孔で構成されており、図2に示すように、底板7の長手方向のほぼ全長にわたって直線状に形成されている。具体的には、この噴出口5は、そのスリット幅は1mm程度とされ、スリット長(長手方向の長さ)は、筐体6に収容されるプラズマ発生装置の電極(放電空間)の長さに応じて設定されている。
【0027】
そして、このように構成されたプラズマヘッド2a,2bは、図2に示すように、その底板7が互いに向かい合うように対向配置される。具体的には、プラズマヘッド2a,2bは、互いに処理ガスの噴出口5が平行に向かい合うように対向配置される。なお、この対向配置にあたり、上方に位置するプラズマヘッド2aが本発明の上部プラズマヘッドを構成し、下方に位置するプラズマヘッド2bが本発明の下部プラズマヘッドを構成する。すなわち、上部プラズマヘッド2aは、プラズマ化された処理ガスを下向きに噴射するように配置され、下部プラズマヘッド2bは、プラズマ化された処理ガスを上向きに噴射するように配置される。
【0028】
チャンバ形成部材3a,3bは、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの間に被処理体Wに対して表面処理を施す作業空間であるチャンバ4を形成させる板状の部材で構成され、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの間に介在して、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの各噴出口5を挟んで対面配置されることにより、互いに対面する面の間に、チャンバ4を形成させるようになっている。
【0029】
また、チャンバ形成部材3a,3bの長手方向の寸法は、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの長手方向寸法と同寸とされており、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの間に介装されることによって、チャンバ4が長手方向(被処理体Wの搬送方向X)に貫通するように構成されている。なお、このチャンバ4の形成にあたっては、プラズマヘッド2a,2bとチャンバ形成部材3a,3bとの間に、図示しないOリングなどのシール部材が介装され、チャンバ4内に噴射された処理ガスが、プラズマヘッド2a,2bとチャンバ形成部材3a,3bとの接合部から外部に漏れ出さないように構成される。つまり、プラズマヘッド2a,2bから噴射された処理ガスは、チャンバ4内に封じ込められるようになっている。
【0030】
そして、本実施形態では、これらチャンバ形成部材3a,3bは、セラミックス、ガラス、ジルコニアなどの耐熱性を有する絶縁材料で構成される。すなわち、被処理体Wの表面処理を行う場合、チャンバ4内には高温の処理ガスが供給されるので、チャンバ形成部材3a,3bは耐熱性のある材料で構成される。また、処理ガスがチャンバ4の内面と反応するのを防ぎ、効率よく被処理体Wと反応させるために、チャンバ形成部材3a,3bは絶縁体で構成される。
【0031】
また、チャンバ形成部材3a,3bは、互いに対面する面に、いずれも噴出口5の長手方向に沿った凹状溝8が形成されている。この凹状溝8は、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bからチャンバ4内に噴射されるプラズマ化された処理ガス(上下方向からチャンバ4内に供給される処理ガス)が、チャンバ4内で対流し易くなるように設けられたものであって、本実施形態では、この凹状溝8は、図3(a)に示すように、断面が略円弧状となるように構成されている。
【0032】
なお、この凹状溝8は、処理ガスの対流を補助する形状であれば適宜設計変更可能であり、たとえば、図3(b)に示すように断面略コ字状としたり、図3(c)に示すように断面略V字状に構成したりすることが可能である。このように、チャンバ4の側面に凹状溝8を設けたことで、本実施形態に示すプラズマ表面処理装置1では、チャンバ4内に供給されるプラズマ化された処理ガスが、チャンバ4内で対流・攪拌されやすくなり、被処理体Wに処理ガスをムラなく均一に噴き付けることができるようになる
【0033】
そして、この凹状溝8と併せて、本実施形態に示すプラズマ表面処理装置1では、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bにおける各噴出口5の位置が、被処理体Wを挟んで正対する位置(図3(a)に鎖線の矢符で示す位置)から、相互にわずかに偏心させて対向するように配置されている(図3(a)に実線の矢符で示す位置参照)。具体的には、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの各噴出口5は、チャンバ4の中央から数mm〜十数mm程度に位置をずらして配設される。図3(a)に示す例では、上部の噴出口5を中央から左側に、下部の噴出口5を中央から右側にそれぞれ位置をずらしている。これにより、上部および下部の各噴出口5から噴射される処理ガスは、チャンバ4の中心で衝突することなく、チャンバ4内に渦状の対流を生じさせる。そのため、チャンバ4の側面の凹状溝8と相まって、チャンバ4内での処理ガスの対流・攪拌が促進され、被処理体Wに処理ガスをムラなく均一に噴き付けることができるようになる。
【0034】
次に、このように構成されたプラズマ表面処理装置1を用いた被処理体Wの表面処理方法について説明する。
【0035】
本発明に係るプラズマ表面処理装置1を用いた被処理体Wの表面処理にあたっては、はじめに、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bのプラズマ発生装置で誘電体バリア放電を行わせ、この状態で、電圧印加電極と接地電極の間に処理ガスを供給して、チャンバ4内にプラズマ化された処理ガスを噴射・供給し、チャンバ4内にプラズマ化された処理ガスを充満させる。
【0036】
なお、このときにプラズマ発生装置に供給する処理ガスは、実施する表面処理の内容・種類に応じて適宜決定されるが、たとえば、窒素(N2)ガスと空気(CDA:Clean Dry Air)の混合ガスなどが用いられる。
【0037】
チャンバ4内にプラズマ化された処理ガスが充満すると、次に、チャンバ4内への被処理体Wの搬送を開始させる。この搬送は、図示しない搬送手段によって行われ、図1に示すように、被処理体Wががチャンバ4内を通過するように、被処理体Wを長手方向(搬送方向X)に搬送する。すなわち、被処理体Wの搬送経路上にチャンバ4が配置されており、搬送手段によって、チャンバ4内には被処理体Wが連続供給される。
【0038】
これにより、被処理体Wは、被処理体Wの外周を囲うように形成されたチャンバ4内を通過する際に、噴出口5のスリット長に応じた広範囲の区間でプラズマ化された処理ガスに晒されることになり、この間に、被処理体Wに対して表面処理が施される。つまり、本実施形態に示すプラズマ表面処理装置1では、スリット状に開口された噴出口5の長手方向の全長にわたって被処理体Wに対する表面処理区間が形成されているので、被処理体Wの搬送速度を速めても、被処理体Wに対して十分な表面処理が施される。
【0039】
また、チャンバ4内では、処理ガスが上下両方向から、渦上の対流を伴って被処理体Wに噴き付けられるため、被処理体Wに対してムラなく均一に表面処理を施すことができる。
【0040】
さらに、長尺の被処理体Wの表面処理を1台のプラズマ表面処理装置1で行うことができるので、長尺の被処理体Wの表面処理を低コストで実施することができる。
【0041】
実施形態2
次に、本発明に係るプラズマ表面処理システムを図4に基づいて説明する。
本発明に係るプラズマ表面処理システムは、上述したプラズマ表面処理装置1を複数台連結することにより構成されている。
【0042】
具体的には、図4に示すように、複数台(図示例では3台)のプラズマ表面処理装置1,1,…のチャンバ4同士が連通するように、プラズマ表面処理装置1を直列に連結している。この連結にあたっては、連結部分から処理ガスが漏れ出さないように、プラズマ表面処理装置1,1,…同士の間にはOリングなどのシール部材(図示せず)が介装される。
【0043】
このように、複数台のプラズマ表面処理装置1を連結すると、搬送中の被処理体Wに対してプラズマ化された処理ガスが作用する区間が増加する(図示のように3台連結した場合には、処理ガスが作用する区間が3倍になる)ので、プラズマ表面処理装置1を1台のみで使用する場合に比べて、被処理体Wの搬送速度を速めることができる。すなわち、プラズマ表面処理装置1を連結して使用することにより、表面処理の処理効率をより一層高めることができるようになる。
【0044】
なお、このようにプラズマ表面処理装置1を連結して、被処理体Wの搬送速度を速めると、チャンバ4の入口側では被処理体Wの搬入に伴って空気(外気)が流入し、チャンバ4の出口側では被処理体Wの搬出に伴って処理ガスが流出するようになるので、図4に示すプラズマ表面処理システムでは、チャンバ4の入口側と出口側の双方に空気の流入と処理ガスの流出を防ぐ排気装置10を設けている。
【0045】
このように、プラズマ表面処理装置1,1,…を複数台連結することにより、プラズマ表面処理装置1を単独で使用する場合に比して、被処理体Wの搬送速度をより一層速めることができ、被処理体Wの表面処理の処理効率を更に向上させることができる。
【0046】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなくその範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0047】
たとえば、上述した実施形態では、チャンバ形成部材3a,3bに凹状溝8を形成させた場合を示したが、この凹状溝8は省略することも可能である。すなわち、チャンバ形成部材3a,3bの互いに対面する面をフラットに構成することも可能である。
【0048】
また、上述した実施形態では、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの噴出口5の位置を互いに左右にずらした場合を示したが、いずれか一方の噴出口5のみを中央から左側または右側にずらして構成してもよい。さらに、上部および下部のプラズマヘッド2a,2bの噴出口5は、被処理体Wを挟んで正対する位置に配置することも可能である。
【0049】
また、上述した実施形態では、チャンバ形成部材3a,3bをセラミックス、ガラス、ジルコニアなどの絶縁材料で構成した場合を示したが、耐熱性を有する材料であれば、カーボンや金属材料などの導電性材料で構成することも可能である。なお、チャンバ形成部材3a,3bを導電性材料で構成した場合、触媒効果によって表面処理性能が低下するおそれがある。そのため、チャンバ形成部材3a,3bを導電性材料で構成する場合、チャンバ4の内面を形成する部位に絶縁材料を配置しておくのが好ましい。
【0050】
また、上述した実施形態1では、プラズマ表面処理装置1を単独で使用する構成を示したが、実施形態2に示す構成と同様に、プラズマ表面処理装置1の両端に排気装置10を備えるように構成することも可能である。
【0051】
また、上述した実施形態では、プラズマヘッド2a,2bを上下に配置した場合を示したが、プラズマヘッド2a,2bの配置を90°傾けて、プラズマヘッド2a,2bが左右に配置されるように構成することも可能である。
【0052】
なお、上述した実施形態では、被処理体Wが繊維状の物体である場合を示したが、被処理体Wは長尺であれば繊維状のものに限られず、たとえば、線状または板状の物体を被処理体として表面処理を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 プラズマ表面処理装置
2a,2b プラズマヘッド
3a,3b チャンバ形成部材
4 チャンバ
5 噴出口
6 プラズマヘッドの筐体
7 プラズマヘッドの底板
8 凹状溝
W 被処理体
X 被処理体の搬送方向
図1
図2
図3
図4
図5