【文献】
プラズモン基礎理解の徹底と応用展開〜実用化への要求仕様と課題/解決策検討、,日本,株式会社情報機構,2011年 4月25日,第114頁−117頁、第181頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<<有機発光ダイオードの製造方法>>
=第一の態様=
本発明の第一の態様の有機発光ダイオードの製造方法は、粒子単層膜をエッチングマスクとしたドライエッチング法により、表面に複数の凹凸が二次元に配列した凹凸構造(以下、二次元凹凸構造ということがある。)が設けられた基板を作製する基板作製工程と、前記凹凸構造上に、少なくとも、陽極導電層と、有機発光材料を含有する発光層を含むエレクトロルミネッセンス層と、金属層を含む陰極導電層とを、前記金属層の前記エレクトロルミネッセンス層側の表面に前記凹凸構造が複写されるように積層する積層工程と、を有する有機発光ダイオードの製造方法であって、前記基板作製工程にて、前記粒子単層膜を、粒子径の異なる複数の粒子の混合物を用いて形成し、下記要件(A)および(B)を満たす凹凸構造を有する基板を作製することを特徴とする。
要件(A):平均高さが15nm以上150nm以下である。
要件(B):高さ分布のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が前記式(I)に示される範囲内にあるときに有限の値を持ち、かつスペクトル強度の該範囲での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値の35%以上を占める値を持つ。
【0017】
詳しくは後で説明するが、基板表面の凹凸構造が上記要件(A)および(B)を満たすことで、金属層のEL層側の表面に形成される二次元凹凸構造も、要件(A)および(B)を満たすものとなる。これにより、可視光〜近赤外領域(380nm〜2500nm)において任意の広帯域の光の取出し効率を飛躍的に向上させることができる。
つまり、EL層内の発光層で有機発光材料分子から発光する際に、ごく近傍に近接場光が発生する。発光層と金属層との距離は非常に近いため、近接場光は金属層の表面にて伝播型の表面プラズモンのエネルギーに変換される。
ここで、金属表面の伝播型表面プラズモンは、自由電子の粗密波が表面電磁場を伴うものである。平坦な金属表面に存在する表面プラズモンの場合、該表面プラズモンの分散曲線と光(空間伝播光)の分散直線とは交差しないため、表面プラズモンを光として取り出すことはできない。これに対し、金属表面にナノメートルオーダーの微細構造があると、該微細構造によって回折された空間伝播光の分散曲線が表面プラズモンの分散曲線と交差するようになり、表面プラズモンのエネルギーを輻射光として取り出すことができる。したがって、金属層のEL層側の表面に二次元凹凸構造が設けられていることで、表面プラズモンとして失われていた光のエネルギーが取り出され、取り出されたエネルギーは、輻射光として金属層表面から放射される。このとき金属層から輻射される光は指向性が高く、その大部分が取出し面(有機発光ダイオードの基板側またはその反対側の表面)に向かう。そのため、取出し面から高強度の光が出射し、取出し効率が向上する。
従来は、二次元凹凸構造を周期性の高い格子構造としていた。たとえば特許文献4では、単一の粒子径の粒子を用いて配列のずれの少ない粒子単層膜を形成し、これをエッチングマスクとしたドライエッチング法によって周期格子構造を有する基板を作製することで、金属層の発光層側の表面に周期格子構造を形成している。一方、本発明では、粒子径の異なる複数の粒子の混合物を用いて粒子単層膜を形成するため、最終的に金属層のEL層側の表面に形成される二次元凹凸構造は、周期性が低く、凹部または凸部がランダムに分布している。この二次元凹凸構造のランダム性が、広帯域の光の取出し効率の向上に寄与する。
二次元凹凸構造のランダム性は、上記要件(B)に反映される。たとえば粒子単層膜を単一の粒子径の粒子を用いて形成した場合、形成される凹凸構造は、その高さ分布のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が式(I)に示される範囲内の全体にわたって有限の値を持つものとはならない。
以下、本発明の第一の態様の製造方法を、添付の図面を用いて、実施形態を示して説明する。
【0018】
≪第一実施形態≫
本実施形態で製造する有機発光ダイオード10の構成を説明する概略断面図を
図1に示す。
有機発光ダイオード10は、一般にボトムエミッション型と称されているタイプの層構成を有する有機発光ダイオードであり、透明基板11上に、透明導電体からなる陽極導電層12と、EL層13と、金属からなる陰極導電層(金属層)14とが順次積層されている。
透明基板11の陽極導電層12が積層される側の表面には、直径がそれぞれ異なる円錐台形状の凸部15a、15b、15cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造が設けられている。該凹凸構造については後で詳しく説明する。
EL層13は、陽極導電層12側から順次積層されたホール注入層13a、ホール輸送層13b、有機発光材料で構成される発光層13c、13d、13e、電子輸送層13fおよび電子注入層13gから構成される。これらの層は一層の役割が一つの場合もあるし二つ以上の役割を兼ねる場合もある。例えば、電子輸送層と発光層を一層で兼ねることができる。
陽極導電層12、EL層13(ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、13d、13eおよび電子輸送層13f)各層の陰極導電層14側の表面には、透明基板11表面と同様の凹凸構造が形成されている。一方、陽極導電層12、EL層13、陰極導電層14各層の透明基板11側の表面には、前記凹凸構造が反転した形状の二次元凹凸構造が形成されている。
陽極導電層12および陰極導電層14には電圧が印加できるようになっている。陽極導電層12および陰極導電層14に電圧を印加すると、それぞれからEL層13にホールおよび電子が注入される。注入されたホールおよび電子は発光層13cで結合し励起子が生成される。この励起子が再結合する際に光が発生する。
【0019】
[透明基板11]
透明基板11を構成する材質としては、目的の取出し波長の光を透過するものであれば特に限定されず、無機材料でも有機材料でもよく、それらの組み合わせでもよい。無機材料としては、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス、白板ガラス等の各種ガラス、マイカ等の透明無機鉱物などが挙げられる。有機材料としては、シクロオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム等の樹脂フィルム、該樹脂フィルム中にセルロースナノファイバー等の微細繊維を混入した繊維強化プラスチック素材などが挙げられる。
用途にもよるが、一般に、透明基板11は可視光透過率の高いものを使用する。該可視光透過率としては、可視光領域(波長380nm〜780nm)でスペクトルに偏りを与えないことから、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0020】
透明基板11の、陽極導電層12が積層される側の表面には、直径がそれぞれ異なる円錐台形状の凸部15a、15b、15cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造(以下、円錐台凹凸構造ということがある。)が設けられている。この円錐台凹凸構造上に陽極導電層12、EL層13(ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13cおよび電子輸送層13d)が順次積層されることで、各層の陰極導電層14側の表面には、透明基板11表面と同様の円錐台凹凸構造が形成される。そのため最終的にEL層13上に陰極導電層14を積層すると、陰極導電層14の側のEL層13側の表面には、基板11表面の円錐台凹凸構造が反転した形状の二次元凹凸構造、つまり、直径がそれぞれ異なる逆円錐台形状の凹部16a、16b、16cが複数、二次元にランダムに配列した二次元凹凸構造(以下、逆円錐台凹凸構造ということがある。)が形成される。
逆円錐台凹凸構造における凹部16a、16b、16cそれぞれの直径および深さは、円錐台凹凸構造における凸部15a、15b、15cそれぞれの直径および高さと一致する。また、逆円錐台凹凸構造における凹部16a、16b、16cの配列パターンは、円錐台凹凸構造における凸部15a、15b、15cの配列パターンと一致する。
【0021】
ここで、「二次元にランダムに配列」とは、複数の凸部15a、15b、15c(または凹部16a、16b、16c)が、同一平面上に配置され、且つそれらの中心間の間隔および配列方向が一定でない状態をいう。二次元にランダムに配列していることで、広帯域の光を効率良く取り出すことができる。一次元の場合(配列方向が一方向。たとえば複数の溝(又は山)が平行に配置されたような構造)や、二次元に周期的に配列している場合(少なくとも二方向に一定の間隔で配列。たとえば三角格子(六方格子)状、正方格子状等)、ある一つの波長の光の取出し効率は向上しても、他の波長の光の取出し効率は不良である。
【0022】
本実施形態における透明基板11は、原板の表面を粒子単層膜で被覆し、該粒子単層膜をエッチングマスクとして当該原板をドライエッチングすることにより作製したものである。
粒子単層膜をエッチングマスクとすることから、凸部15a、15b、15cの形状はそれぞれ、粒子単層膜を構成する粒子の形状を反映して、基板面内方向に関して等方的である。
「原板」とは、表面に二次元凹凸構造が設けられていない基板を示す。
凸部の大きさを示す円の定義を以下に述べる。すなわち、基板面を、基板面に対して垂直方向(積層方向)から観察し、ある凸部X0に注目したとき、凸部X0を取り囲むように隣接する他の凸部X1、X2、X3・・・Xnが存在する。X0とX1の間の鞍部の鞍点をx1、同様に他の凸部との鞍部の鞍点をx2、x3・・・xnとし、これらのうち最も高いものの高さにおける凸部X0の断面を得る。この断面の輪郭をL0とし、それに最小自乗適合する円を描く。これを凸部X0の大きさを示す適合円C0と定義する。
上記輪郭L0と適合円C0との距離の標準偏差を求め、それを適合円C0の半径で除した値である変動係数が0.3以下であれば、当該凸部X0の形状が基板面内方向に関して等方的であるといえる。
【0023】
透明基板11表面の円錐台凹凸構造は、下記要件(A)および(B)を満たす必要がある。
【0024】
[要件(A)]
要件(A):凸部15a、15b、15cの平均高さが15nm以上150nm以下である。
凸部15a、15b、15cの平均高さは、15nm以上70nm以下が好ましく、20nm以上40nm以下がより好ましく、20nm以上30nm以下がさらに好ましい。
平均高さが15nm未満または150nm超であると、光の取出し効率の向上効果が不充分となる。これは以下の理由による。すなわち、凸部15a、15b、15cの平均高さが15nm未満であると、二次元凹凸構造として十分な表面プラズモンの回折波を生成できなくなり、表面プラズモンを輻射光として取り出す効果が低下する。さらに、凸部15a、15b、15cの平均高さが150nmを超えると、陽極導電層12、EL層13、陰極導電層14を積層する際に、凹凸が急峻であるため、陽極導電層12と陰極導電層14とが短絡する可能性も高くなってくるため好ましくない。
凸部15a、15b、15cの平均高さは、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される。具体的には、まず、円錐台凹凸構造内の無作為に選択された5μm×5μmの領域1カ所についてAFM像を得る。ついで、該AFM像の対角線方向に線を引き、この線と交わった凸部15a、15b、15cを直径ごとに分類し、それぞれの高さを測定する。その測定値から、直径ごとに平均値(凸部15aの高さの平均値、凸部15bの高さの平均値、凸部15cの高さの平均値)を求める。このような処理を、無作為に選択された合計25カ所の5μm×5μmの領域について同様に行い、各領域における凸部15a、15b、15cそれぞれの高さの平均値を求める。こうして得られた25カ所の領域における平均値をさらに平均した値を、凸部15aの平均高さ、凸部15bの平均高さ、凸部15cの平均高さとする。
1つの凸部の高さは、上述したように、ある凸部X0に注目して他の凸部との鞍部の鞍点x1、x2、x3・・・xnを求め、これらの平均高さと、凸部X0の中心の高さとの差として求められる。
本発明においては、凸部15aの平均高さ、凸部15bの平均高さ、凸部15cの平均高さはいずれも15nm以上150nm以下である。
凸部15a、15b、15cそれぞれの平均高さは、粒子単層膜をエッチングマスクとしてドライエッチングを行う際のドライエッチング条件により調節できる。
なお、凹部16a、16b、16cの直径および平均深さは、それぞれ、凸部15a、15b、15cの直径および平均高さと同じである。そのため、凹部16a、16b、16cの平均深さは、凸部15a、15b、15cの平均高さから間接的に定量できる。
【0025】
[要件(B)]
要件(B):円錐台凹凸構造表面の高さ分布のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が下記式(I)に示される範囲内の全体にわたって有限の値、つまりゼロではない値(non-zero value)を持ち、かつスペクトル強度の該範囲での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値の35%以上を占める値を持つ。
【0027】
ここで、「高さ分布のスペクトル強度」は、フーリエ変換後の波数空間におけるスペクトル強度である。
要件(B)を満たしている場合、上記スペクトル強度は、凹凸構造のAFM(原子間力顕微鏡)像を二次元フーリエ変換してその強度を取ることにより得られるフーリエ変換像(縦軸および横軸の単位は波数)において、下記式(IA)に示す波数域全体に分布している。一方、要件(B)を満たしていない場合、たとえば単一粒子径の粒子を用いて形成された粒子単層膜をエッチングマスクとして形成された凹凸構造の場合、該スペクトル強度は1つの波数の絶対値域のみに値を持つ。
【0029】
ε
m(λ)は金属層(陰極導電層14)を構成する金属の比誘電率を示す。陰極導電層に用いられる金属の比誘電率は、エリプソメトリーにより実数部および虚数部を同時に測定することが可能である。おおよその値は文献値から引用することができ、金が−240+38i(λ=2500nm)〜−0.83+6.5i(λ=380nm)、銀が−230+29i(λ=2500nm)〜−3.0+0.66i(λ=380nm)、アルミニウムが−660+160i(λ=2500nm)〜−21.1+4.1i(λ=380nm)である。(Edward D. Palik編「Handbook of Optical Constants of Solids」(1998年Academic Press出版)より引用)。
ε
d(λ)はEL層の等価的な比誘電率を示す。おおよそEL層の等価的な比誘電率は2.0〜5.0の範囲である。
λ
maxは取り出し波長の最大値、λ
minは取り出し波長の最小値を示す。
Re[ ]は複素数の実部を示す。実際の金属の比誘電率は複素数なので、表面プラズモンの波数も複素数となるが、格子のパラメーターとして必要なのは実部である。
【0030】
式(I)において、λ
max、λ
minはそれぞれ可視光〜近赤外領域(380nm〜2500nm)内で任意の値を取り得る。ただしλ
max>λ
minである。
広帯域の光取り出しを行う目的において、λ
maxとλ
minとの差(λ
max−λ
min)は、200nm超が好ましく、300nm以上がより好ましい。
可視光全域の光の取り出し効率を向上する場合は、式(I)においては、λ
maxが780nmであり、λ
minが380nmであることが最も好ましい。このような有機発光ダイオードは、発光強度の強い白色有機発光ダイオードとして、各種用途、特に画像表示装置や照明装置に有用である。
【0031】
なお、表面の凹凸構造が、直径がそれぞれ異なる凹部が複数、二次元にランダムに配列した構造である透明基板(以下、透明基板11’)の場合、該凹凸構造は、下記要件(A”)および(B”)を満たす必要がある。
要件(A”):凹部の平均高さ(平均深さ)が15nm以上150nm以下である。
要件(B”):透明基板11’表面の高さ分布(深さ分布)のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が下記式(I)に示される範囲内全体にわたって有限の値を持ち、かつスペクトル強度の該範囲での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値の35%以上を占める値を持つ。
凹部の平均高さは凸部15a、15b、15cの平均高さと同様にして測定できる。
透明基板11’の高さ分布(深さ分布)のスペクトル強度は透明基板11の高さ分布のスペクトル強度と同様にして測定できる。
【0032】
[陽極導電層12]
陽極導電層12には、目的の取出し波長の光を透過する透明導電体が用いられる。
該透明導電体としては、特に限定されず、透明導電材料として公知のものが使用できる。たとえばインジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide(ITO))、インジウム−亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide(IZO))、酸化亜鉛(Zinc Oxide(ZnO))、亜鉛−スズ酸化物(Zinc Tin Oxide(ZTO))等が挙げられる。
陽極導電層12の厚さは、通常、50〜500nmである。
なお、有機発光ダイオード10を構成する各層の厚さは、分光エリプソメーター、接触式段差計、AFM等により測定できる。
【0033】
[EL層13]
EL(エレクトロルミネッセンス)層は、少なくとも、有機発光材料を含有する発光層を含む。EL層は、発光層のみから構成されてもよいが、一般的にはさらに、発光層以外の他の層を含む。該他の層は、発光層の機能を損なわない限り、有機材料から構成されるものであっても無機材料から構成されるものであってもよい。
本実施形態においてEL層13は、ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、13d、13e、電子輸送層13fおよび電子注入層13gの7層から構成される。これらの層の中で最も重要なものは発光層であり、例えばホール注入層や電子注入層は層構成によっては省略できる。また、電子輸送層は発光層を兼ねることもできる。これらの層を構成する材質は、特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0034】
上記のうち、発光層13c、13d、13eを構成する有機発光材料としては、これまで、有機ELの発光層を構成する有機発光材料として公知のものが利用でき、たとえば蛍光および/または燐光を発生する有機化合物、該有機化合物を他の物質(ホスト材料)にドープした化合物、該有機化合物にドーピング材料をドープした化合物等が挙げられる。
蛍光および/または燐光を発生する有機化合物としては、色素系、金属錯体系、高分子系、等が知られており、いずれを用いてもよい。たとえば色素系の有機化合物の具体例として、1,4−bis[4−(N,N−diphenylaminostyrylbenzene)](以下、DPAVBと略記する。)、2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H,11H−10−(2−ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1−gh](以下、クマリンC545Tと略記する。)、ジスチルアリーレン誘導体である4,4’−bis(2,2−diphenyl−ethen−1−yl)biphenyl(以下、DPVBiと略記する。)等が挙げられる。また、金属錯体系の有機化合物の具体例として、Tris(8−quinolinolato)aluminium(以下、Alqと略記する。)、Tris[1−phenylisoquinoline−C2,N]iridium(III)(以下、Ir(piq)
3と略記する。)、Bis[2−(2−benzoxazolyl)phenolato] Zinc(II)(以下、ZnPBOと略記する。)等が挙げられる。
ホスト材料としては、たとえば後述するホール輸送材料、電子輸送材料、等が利用できる。
ドーピング材料は、発光効率の向上、発生する光の波長を変化させる等の目的で用いられるもので、たとえばジスチルアリーレン誘導体である4,4’−bis(9−ethyl−3−carbazovinylene)−1,1’−biphenyl(以下、BcZVBiと略記する。)等が挙げられる。
【0035】
本実施形態において、発光層は、含まれる有機発光材料がそれぞれ異なる複数の発光層13c、13d、13eが直接積層された多層構造とされている。
発光層13c、13d、13eにそれぞれ含有させる有機発光材料の組み合わせは、必要とされる有機発光ダイオード10からの取出しスペクトルに応じて設定される。
1種の有機発光材料は、通常、1つの発光ピークを有している。そのため、本発明においては、可視光から近赤外域(380nm〜2500nm)の任意の広帯域波長域の光を取り出すために、発光層13c、13d、13eがそれぞれ、発光ピークが異なる有機発光材料を含有することが好ましい。たとえば発光ピークが620〜750nmの赤色発光材料と、発光ピークが495〜570nmの緑色発光材料と、発光ピークが450〜495nmの青色発光材料とを組み合わせると、発生した光が合成され、有機発光ダイオード10の透明基板11側から白色光が取り出される。或いは、上記青色発光材料と発光ピークが570〜590nmの黄色発光材料の組み合わせでも白色光を合成することができる。
【0036】
なお、ここでは、含まれる有機発光材料がそれぞれ異なる複数の層を積層して発光層を構成する、いわゆるマルチレイヤー方式の例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば発光層は、複数種の有機発光材料を混合物として含有する単一の層であってもよい。また、マルチレイヤー方式以外の積層方式の多層構造であってもよい。マルチレイヤー方式以外の積層方式としては、たとえばタンデム方式等が挙げられる。
マルチレイヤー方式、タンデム方式はともに、照明用の白色発光ダイオードにおける発光層の構造として知られている。たとえばマルチレイヤー方式は、複数の単色発光層(たとえば赤色発光層、緑色発光層、青色発光層)を直接積層する方式である。タンデム方式は、複数の単色発光層を、中間層を介して積層する方式で、中間層は、電荷発生能を有する材料で構成される(たとえば特開2010−129301号公報、特開2010−192366号公報、特表2010−527108号公報等)。
マルチレイヤー方式において、複数の単色発光層は、一般的には、発生する光の波長が短いものほど陰極導電層12側に配置される。たとえば赤色発光層、緑色発光層、青色発光層の3層から構成される場合、陰極導電層12から最も近い位置に青色発光層が配置され、最も遠い位置に赤色発光層が配置される。しかし、チャージバランスを考慮して各色発光層の積層順序は入れ替わる場合もある。
【0037】
なお、陽極導電層12と透明基板11との間に、さらに、光の波長を変換する色変換層が設けられる場合は、発色層13c、13d、13eに含まれる有機発光材料は1種であってもよい。また、発色層13c、13d、13eを1層としてもよい。
色変換層としては、通常、入射した光をそれよりも長波長の光(たとえば青色光を緑色光に変換するもの、緑色光を赤色光に変換するもの)が用いられる。
たとえば発色層13c、13d、13eを1層の青色発光層とし、陽極導電層12の透明基板11側に、青色光を緑色光に変換する色変換層と、緑色光を赤色光に変換する色変換層とを順次積層すると、有機発光ダイオード10の透明基板11側から白色光が取り出される。
【0038】
ホール注入層13a、ホール輸送層13b、電子輸送層13dを構成する材質としては、それぞれ、有機材料が一般的に用いられる。
たとえばホール注入層13aを構成する材質(ホール注入材料)としては、たとえば、4,4’,4”−tris(N,N−2−naphthylphenylamino)triphenylamine(以下、2−TNATAと略記する。)等が挙げられる。
ホール輸送層13bを構成する材質(ホール輸送材料)としては、たとえば、4,4’−bis[N−1−napthyl]−N−phenyl−amino]−biphenyl(以下、α−NPDと略記する。)、銅フタロシアニン(以下、CuPcと略記する。)、N,N’−Diphenyl−N,N’−di(m−tolyl)benzidine(以下、TPDと略記する。)等の芳香族アミン化合物などが挙げられる。
電子輸送層13dを構成する材質(電子輸送材料)としては、たとえば、上述したAlq、2,5−Bis(1−naphthyl)−1,3,4−oxadiazole(以下、BNDと略記する。)、2−(4−tert−Butylphenyl)−5−(4−biphenylyl)−1,3,4−oxadiazole(以下、PBDと略記する。)等のオキサジオール系化合物等の金属錯体系化合物などが挙げられる。
【0039】
電子注入層13eは必須ではないが、電子輸送層13dと陰極導電層14との間に電子注入層13eを設けると、仕事関数の差を少なくすることが出来て陰極導電層14から電子輸送層13dに電子が移行しやすくなる。
ただし陰極導電層14としてMg/Ag=10/90〜90/10等のマグネシウム合金を使用すると、電子注入層13eを設けなくても、電子注入効果が得られる。
電子注入層13eを構成する材質としては、フッ化リチウム(LiF)などが使用できる。
EL層13全体の厚さは、通常、30〜500nmである。
【0040】
[陰極導電層14]
陰極導電層14は、金属からなる。
該金属としては、たとえば、Ag、Au、Al、またはそれらのうちのいずれかを主成分とする合金が挙げられる。ここで「主成分とする」とは、当該合金中、Ag、AuまたはAlが占める割合が70質量%以上であることを示す。
合金を構成する、主成分以外の金属としては、Mg等が挙げられる。
合金の具体例としては、たとえばMg/Ag=10/90〜90/10(質量比)等のマグネシウム合金が挙げられる。
陰極導電層14の厚さは、通常、50〜3000nmである。
【0041】
有機発光ダイオード10の製造は、たとえば積層方式の場合、以下の手順で実施できる。
まず、表面に、直径がそれぞれ異なる凸部15a、15b、15cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造が設けられた透明基板11を作製する(基板作製工程)。次に、透明基板11の前記凹凸構造上に、陽極導電層12と、EL層13(ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c(赤)、発光層13d(緑)、発光層13e(青)、電子輸送層13f、電子注入層13g)と、陰極導電層14とを順次積層する(積層工程)。
以下、各工程について、より詳細に説明する。
【0042】
<基板作製工程>
透明基板11は、粒子径の異なる複数の粒子の混合物(以下、混合粒子ということがある。)を用いて形成した粒子単層膜をエッチングマスクとしたドライエッチング法により作製できる。
粒子単層膜をエッチングマスクとしたドライエッチング法は、基板表面に、粒子の単層膜を、ラングミュアー・ブロジェット法(以下、LB法ともいう。)の原理を用いて作製し、これをエッチングマスクとして基板表面をドライエッチングすることで凹凸構造を形成する方法であり、たとえば特開2009−158478号公報に詳細に開示されている。
従来法では、粒子間隔の制御が高精度で行われた2次元的最密充填格子を得るために、単一の粒子径の粒子を用いている。つまり、単一の粒子径の粒子を用いて形成された粒子単層膜においては、粒子が2次元に最密充填しているため、これをエッチングマスクとして基板原板表面をドライエッチングすると、凹凸構造として、高精度な三角格子(六方格子)状の二次元格子構造が形成される。このような二次元格子構造を有する基板を用いて形成された陰極導電層表面の二次元格子構造は高精度であることから、これを使用することによって、大面積である場合であっても高効率で表面プラズモンの回折波を得ることができ、光取出し効率が向上し、高輝度の有機発光ダイオードを得ることが可能となるとされている。しかし従来法で製造された有機発光ダイオードは、特定の1つの波長の光の取出し効率が向上するように最適化されており、白色光やさらに長波長側の光(可視光〜近赤外領域(380nm〜2500nm))のような任意の波長域の取出し効率を向上させることは難しい。
一方、本発明では、粒子単層膜を、混合粒子を用いて形成する。この粒子単層膜を用いて形成される凹凸構造は、上記のように、直径がそれぞれ異なる凸部15a、15b、15cが複数、二次元にランダムに配列したものとなる。そして該凹凸構造が上記要件(A)および(B)を満足することにより、得られる有機発光ダイオードが、可視光全域や、380nm〜2500nmにおける任意の広帯域の光の取出し効率に優れたものとなる。
【0043】
透明基板11は、より具体的には、原板(凹凸構造を形成する前の透明基板11)の表面を、混合粒子からなる粒子単層膜で被覆する工程(被覆工程)と、該粒子単層膜をエッチングマスクとして用いて原板をドライエッチングする工程(ドライエッチング工程)とを行うことにより作製できる。
【0044】
{被覆工程}
被覆工程は、表面が疎水性で、粒子径がそれぞれ異なる複数の粒子と有機溶剤とを混合することにより、混合粒子が有機溶剤中に分散した分散液を調製する工程(分散液調製工程)と、水槽に、その液面上で混合粒子を展開させるための液体(下層液)を入れ、該下層液の液面に前記分散液を滴下し、有機溶剤を揮発させることにより、混合粒子からなる粒子単層膜を液面上に形成する工程(粒子単層膜形成工程)と、粒子単層膜を原板上に移し取る工程(移行工程)とを行うことにより実施できる。
このとき、下層液としては、表面が疎水性である粒子が液面下に潜ってしまわないように、親水性の液体が用いられる。また、有機溶剤は、分散液を展開させた際に分散液が下層液と混和せずに空気と下層液の気液界面に展開するように、疎水性のものが選択される。
なお、ここでは混合粒子として表面が疎水性のもの、有機溶剤として疎水性のものを選択し、下層液として親水性のものを使用する例を示したが、混合粒子として表面が親水性のもの、有機溶剤として親水性のものを選択し、下層液として疎水性の液体を使用してもよい。
【0045】
[分散液調製工程]
分散液調製工程では、表面が疎水性で、粒子径がそれぞれ異なる3種の粒子A、B、C(粒子径は、粒子A>粒子B>粒子C)を用意し、それらの粒子A、B、Cが、揮発性が高く疎水性の高い有機溶剤(たとえばクロロホルム、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン等)中に分散した分散液を調製する。
【0046】
3種の粒子A、B、Cは、要件(A)、(B)を考慮して設定される。
たとえば、使用する3種の粒子A、B、Cの粒子径は、それぞれ、凸部15a、15b、15cの直径に対応し、この粒子径とこの後のドライエッチング工程でのドライエッチング条件を選択することにより、形成される凸部15a、15b、15cの直径や高さ、形状、隣接する凸部の中心間の距離等を調節できる。本発明においては、混合粒子を用いているため、凹凸構造中の複数の凸部の直径や中心間の距離にばらつきが生じる。ばらつきがあることで、ばらつきがない場合に比べて、要件(B)におけるスペクトル強度が有限の値を持つ波数の絶対値|k|の範囲が広くなる。
要件(B)におけるスペクトル強度が有限の値を持つ波数の絶対値|k|の範囲は、凹凸構造中の複数の凸部の直径や中心間の距離のばらつきの程度、3種の粒子A,B,Cそれぞれの粒度分布、平均粒子径、A,B,Cの混合比率などによって調節できる。
【0047】
粒子A、B、Cの粒子径は、いずれも、10nm以上2000nm以下の範囲内であることが好ましく、50nm以上1700nm以下の範囲内であることがより好ましい。
粒子A、B、Cそれぞれの粒子径の変動係数は0〜20%であることが好ましく、0〜10%であることがより好ましい。
粒子A、B、Cそれぞれの平均粒子径の差は、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
粒子の粒子径は、一次粒子径のことである。粒子の粒子径、粒子径の変動係数はそれぞれ、動的光散乱法により求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから常法により求めることができる。
【0048】
なお、ここでは3種の粒子径の粒子を用いた例を示しているが本発明はこれに限定されるものではなく、粒子径が異なる粒子は2種以上であればよい。例えば2種〜40種の粒子径の粒子を用いてもよい。
広帯域において取り出し効率の向上効果を均等化する観点からは、多種であるほうが好ましい。
多種類の粒子径の混合物を使用する場合、それぞれの粒径の変動係数が0〜20%のものを用いるのが好ましい。
なお、粒度分布が広い粒子であれば、1種類の粒径でも本発明の主旨の効果を得ることが出来る。1種類の粒径で粒子マスクを構成する場合、その粒径の変動係数は、20〜400%の範囲で可能である。
粒径の変動係数が0〜20%のものと20〜400%のものを組み合わせて粒子マスクを構成しても本発明の主旨の効果を得ることが可能である。
【0049】
粒子A、B、Cの材質は特に限定されず、たとえば、Al、Au、Ti、Pt、Ag、Cu、Cr、Fe、Ni、Siなどの金属、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、MgO
2、CaO
2などの金属酸化物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子、その他の半導体材料、無機高分子等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
この粒子A、B、Cの材質や後述するドライエッチング条件を選択することにより、形成される凸部15a、15b、15cの高さや形状、すなわち凹部16a、16b、16cの深さや形状を調節できる。
【0050】
粒子A、B、C(以下、単に「粒子」という。)は、下層液として水を使用する場合は、表面が疎水性であるものが好ましい。粒子の表面が疎水性であれば、上述したように水槽(トラフ)の下層液の液面上に粒子の分散液を展開させて粒子単層膜を形成する際に、下層液として水を用いて容易に粒子単層膜を形成できる上に粒子単層膜を基板表面に容易に移行させることができる。
上記で例示した粒子のうち、ポリスチレンなどの有機高分子の粒子は表面が疎水性であるため、そのまま使用できるが、金属粒子や金属酸化物粒子においては表面を疎水化剤により疎水性にすることにより使用できる。
疎水化剤としては、例えば、界面活性剤、アルコキシシランなどが挙げられる。
界面活性剤を疎水化剤として使用する方法は、幅広い材料の疎水化に有効であり、粒子が金属、金属酸化物などからなる場合に好適である。
【0051】
界面活性剤としては、臭素化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭素化デシルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム、4−オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤が好適に使用できる。また、アルカンチオール、ジスルフィド化合物、テトラデカン酸、オクタデカン酸なども使用できる。
このような界面活性剤を用いた疎水化処理は、有機溶剤や水などの液体に粒子を分散させて液中で行ってもよいし、乾燥状態にある粒子に対して行ってもよい。
液中で行う場合には、例えば、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエチルケトン、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの1種以上からなる揮発性有機溶剤中に、疎水化対象の粒子を加えて分散させ、その後、界面活性剤を混合してさらに分散を続ければよい。このようにあらかじめ粒子を分散させておき、それから界面活性剤を加えると、表面をより均一に疎水化することができる。このような疎水化処理後の分散液は、そのまま、下層水の液面に滴下するための分散液として使用できる。
疎水化対象の粒子が水分散体の状態である場合には、この水分散体に界面活性剤を加えて水相で粒子表面の疎水化処理を行った後、有機溶剤を加えて疎水化処理済みの粒子を油相抽出する方法も有効である。こうして得られた分散液(有機溶剤中に粒子が分散した分散液)は、そのまま、下層水の液面に滴下するための分散液として使用できる。
なお、この分散液の粒子分散性を高めるためには、有機溶剤の種類と界面活性剤の種類とを適切に選択し、組み合わせることが好ましい。粒子分散性の高い分散液を使用することによって、粒子がクラスター状に凝集することを抑制でき、各粒子が2次元に密集した粒子単層膜がより得られやすくなる。例えば、有機溶剤としてクロロホルムを選択する場合には、界面活性剤として臭素化デシルトリメチルアンモニウムを使用することが好ましい。その他にも、エタノールとドデシル硫酸ナトリウムとの組み合わせ、メタノールと4−オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムとの組み合わせ、メチルエチルケトンとオクダデカン酸との組み合わせなどを好ましく例示できる。
疎水化対象の粒子と界面活性剤の比率は、疎水化対象の粒子の質量に対して、界面活性剤の質量が1/3〜1/15倍の範囲が好ましい。
また、こうした疎水化処理の際には、処理中の分散液を撹拌したり、分散液に超音波照射したりすることも粒子分散性向上の点で効果的である。
【0052】
アルコキシシランを疎水化剤として使用する方法は、Si、Fe、Alなどの粒子や、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2などの酸化物粒子を疎水化する際に有効である。ただしこれら粒子に限らず、基本的には、水酸基等を表面に有する粒子であればいかなる粒子に対して適用することができる。
アルコキシシランとしては、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
疎水化剤としてアルコキシシランを用いる場合には、アルコキシシラン中のアルコキシシリル基がシラノール基に加水分解し、このシラノール基が粒子表面の水酸基に脱水縮合することで疎水化が行われる。よって、アルコキシシランを用いた疎水化は、水中で行うことが好ましい。
このように水中で疎水化を行う場合には、例えば界面活性剤などの分散剤を併用して、疎水化前の粒子の分散状態を安定化するのが好ましい。ただし、分散剤の種類によってはアルコキシシランの疎水化効果が低減することもあるため、分散剤とアルコキシシランとの組み合わせは適切に選択する。
【0053】
アルコキシシランにより疎水化する具体的方法としては、まず、水中に粒子を分散させておき、これとアルコキシシラン含有水溶液(アルコキシシランの加水分解物を含む水溶液)とを混合し、室温から40℃の範囲で適宜攪拌しながら所定時間、好ましくは6〜12時間反応させる。このような条件で反応させることによって、反応が適度に進行し、十分に疎水化された粒子の分散液を得ることができる。反応が過度に進行すると、シラノール基同士が反応して粒子同士が結合してしまい、分散液の粒子分散性が低下し、得られる粒子単層膜は、粒子が部分的にクラスター状に凝集した2層以上のものになりやすい。一方、反応が不十分であると、粒子表面の疎水化も不十分となり、得られる粒子単層膜は粒子間のピッチが広がったものになりやすい。
また、アミン系以外のアルコキシシランは、酸性またはアルカリ性の条件下で加水分解するため、反応時には分散液のpHを酸性またはアルカリ性に調整する必要がある。pHの調整法には制限はないが、0.1〜2.0質量%濃度の酢酸水溶液を添加する方法によれば、加水分解促進の他に、シラノール基安定化の効果も得られるため好ましい。
疎水化対象の粒子とアルコキシシランの比率は、疎水化対象の粒子の質量に対して、アルコキシシランの質量が1/10〜1/100倍の範囲が好ましい。
所定時間反応後、この分散液に対して、前述の揮発性有機溶剤のうちの1種以上を加え、水中で疎水化された粒子を油相抽出する。この際、添加する有機溶剤の体積は、有機溶剤添加前の分散液に対して0.3〜3倍の範囲が好ましい。こうして得られた分散液(有機溶剤中に粒子が分散した分散液)は、そのまま、滴下工程において下層水の液面に滴下するための分散液として使用できる。なお、こうした疎水化処理においては、処理中の分散液の粒子分散性を高めるために、撹拌、超音波照射など実施することが好ましい。分散液の粒子分散性を高めることによって、粒子がクラスター状に凝集することを抑制でき、粒子単層膜がより得られやすくなる。
【0054】
[粒子単層膜形成工程]
粒子単層膜形成工程では、まず、水槽(トラフ)を用意し、該水槽(トラフ)に、下層液として水(以下、下層水という場合もある。)を入れる。次に、前記分散液を前記下層水の液面に滴下する。すると、分散液中の粒子A、B、Cが分散媒である溶剤によって下層水の液面上に展開する。その後、該溶剤が揮発することで、粒子A、B、Cがランダムに2次元的に配置され単層化した粒子単層膜が形成される。
【0055】
分散液の粒子濃度(粒子A、B、Cの合計の濃度)は1〜10質量%とすることが好ましい。
また、分散液の下層水の液面への滴下速度は、0.001〜0.01ml/秒とすることが好ましい。
分散液中の粒子の濃度や滴下量がこのような範囲であると、粒子が部分的にクラスター状に凝集して2層以上となる、粒子が存在しない欠陥箇所が生じる、などの傾向が抑制された粒子単層膜が得られやすい。
【0056】
前述した粒子単層膜の形成は、粒子の自己組織化によるものである。その原理は、粒子が集結すると、その粒子間に存在する分散媒に起因して表面張力が作用し、その結果、粒子同士はバラバラの状態で存在するのではなく、水面上で密集した単層構造を自動的に形成するというものである。このような表面張力による密集構造の形成は、別の表現をすると横方向の毛細管力による粒子同士の相互吸着とも言える。
例えば3つの粒子が水面上に浮いた状態で集まり接触すると、粒子群の喫水線の合計長を最小にするように表面張力が作用し、3つの粒子は三角形(粒径が異なる粒子同士では正三角形とはならない)を基本とする配置で安定化する。仮に、喫水線が粒子群の頂点にくる場合、すなわち、粒子が液面下に潜ってしまう場合には、このような自己組織化は起こらず、粒子単層膜は形成されない。よって、粒子と下層水は、一方が疎水性である場合には他方を親水性にして、粒子群が液面下に潜ってしまわないようにすることが重要である。
下層液としては、以上の説明のように水を使用することが好ましく、水を使用すると、比較的大きな表面自由エネルギーが作用して、一旦生成した粒子の密集した単層構造が液面上に安定的に持続しやすくなる。
【0057】
[移行工程]
移行工程では、粒子単層膜形成工程により下層水の液面上に形成された粒子単層膜を、単層状態のままエッチング対象物である原板上に移し取る。
粒子単層膜を原板上に移し取る具体的な方法には特に制限はなく、例えば、疎水性の原板を粒子単層膜に対して略平行な状態に保ちつつ、上方から降下させて粒子単層膜に接触させ、ともに疎水性である粒子単層膜と原板との親和力により、粒子単層膜を原板に移行させ、移し取る方法;粒子単層膜を形成する前にあらかじめ水槽の下層水内に原板を略水平方向に配置しておき、粒子単層膜を液面上に形成した後に液面を徐々に降下させることにより、原板上に粒子単層膜を移し取る方法などがある。これらの方法によれば、特別な装置を使用せずに粒子単層膜を原板上に移し取ることができるが、より大面積の粒子単層膜であっても、その粒子の密集状態を維持したまま原板上に移し取りやすい点で、いわゆるLB法を採用することが好ましい。
LB法では、水槽内の下層水中に原板をあらかじめ略鉛直方向に浸漬しておき、その状態で上述の粒子単層膜形成工程を行い、粒子単層膜を形成する。そして、粒子単層膜形成工程後に、原板を上方に引き上げることによって、粒子単層膜を原板上に移し取ることができる。
このとき、粒子単層膜は、粒子単層膜形成工程により液面上ですでに単層の状態に形成されているため、移行工程の温度条件(下層水の温度)や原板の引き上げ速度などが多少変動しても、粒子単層膜が崩壊して多層化するなどのおそれはない。
下層水の温度は、通常、季節や天気により変動する環境温度に依存し、ほぼ10〜30℃程度である。
また、この際、水槽として、粒子単層膜の表面圧を計測するウィルヘルミー法による表面圧力センサーと、粒子単層膜を液面に沿う方向に圧縮する可動バリアとを具備するLBトラフ装置を使用すると、より大面積の粒子単層膜をより安定に原板上に移し取ることができる。このような装置によれば、粒子単層膜の表面圧を計測しながら、粒子単層膜を好ましい拡散圧(密度)に圧縮でき、また、原板の方に向けて一定の速度で移動させることができる。そのため、粒子単層膜の液面から原板上への移行が円滑に進行し、小面積の粒子単層膜しか原板上に移行できないなどのトラブルが生じにくい。
好ましい拡散圧は、5〜80mNm
−1であり、より好ましくは10〜40mNm
−1である。このような拡散圧であると、各粒子が隙間無く密集した粒子単層膜が得られやすい。また、原板を引き上げる速度は、0.5〜20mm/分が好ましい。
【0058】
上記移行工程により、原板表面を粒子単層膜で被覆することができる。
移行工程の後、さらに、必要に応じて、粒子単層膜を原板上に固定するための固定工程を行ってもよい。粒子単層膜を原板上に固定することによって、この後のドライエッチング時に粒子が原板上を移動してしまう可能性が抑えられ、より安定かつ高精度に原板表面をエッチングすることができる。特に、ドライエッチングが進むにつれて、各粒子の直径が徐々に小さくなるため、原板上を移動する可能性が大きくなる。
固定工程の方法としては、バインダーを使用する方法や焼結法がある。
バインダーを使用する方法では、粒子単層膜が形成された原板の該粒子単層膜側にバインダー溶液を供給して粒子単層膜と原板との間にこれを浸透させる。
バインダーの使用量は、粒子単層膜の質量の0.001〜0.02倍が好ましい。このような範囲であれば、バインダーが多すぎて粒子間にバインダーが詰まってしまい、エッチングの精度に悪影響を与えるという問題を生じることなく、十分に粒子を固定することができる。バインダー溶液を多く供給してしまった場合には、バインダー溶液が浸透した後に、スピンコーターを使用したり、基板を傾けたりして、バインダー溶液の余剰分を除去すればよい。
バインダーの種類としては、先に疎水化剤として例示したアルコキシシランや一般の有機バインダー、無機バインダーなどを使用でき、バインダー溶液が浸透した後には、バインダーの種類に応じて、適宜加熱処理を行えばよい。アルコキシシランをバインダーとして使用する場合には、40〜80℃で3〜60分間の条件で加熱処理することが好ましい。
焼結法を採用する場合には、粒子単層膜が形成された原板を加熱して、粒子単層膜を構成している各粒子を原板に融着させればよい。加熱温度は粒子の材質と原板の材質に応じて決定すればよいが、粒子径が1μm以下の粒子はその物質本来の融点よりも低い温度で界面反応を開始するため、比較的低温側で焼結は完了する。加熱温度が高すぎると、粒子の融着面積が大きくなり、その結果、粒子単層膜としての形状が変化するなど、精度に影響を与える可能性がある。また、加熱を空気中で行うと原板や各粒子が酸化する可能性があるため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。酸素を含む雰囲気下で焼結を行う場合は、後述のエッチング工程で酸化層を考慮した条件を設定することが必要となる。
【0059】
{ドライエッチング工程}
以上のようにして粒子単層膜で被覆された原板表面を、ドライエッチングすることにより、透明基板11を得ることができる。
具体的には、ドライエッチングを開始すると、まず、粒子単層膜を構成している各粒子の隙間をエッチングガスが通り抜けて原板の表面に到達し、その部分に凹部が形成され、各粒子に対応する位置にそれぞれ凸部が現れる。引き続きドライエッチングを続けると、各凸部上の粒子も徐々にエッチングされて小さくなり、同時に、原板表面の凹部も深くなっていく。そして、最終的には各粒子はドライエッチングにより消失し、それとともに原板の表面に凹凸構造が形成される。
このとき、ドライエッチング条件(バイアス、ガス流量、堆積ガスの種類と量など)を調節することによって、形成される凸部15a、15b、15cの平均高さや形状を調節できる。
ドライエッチングに使用するエッチングガスとしては、例えば、Ar、SF
6、F
2、CF
4、C
4F
8、C
5F
8、C
2F
6、C
3F
6、C
4F
6、CHF
3、CH
2F
2、CH
3F、C
3F
8、Cl
2、CCl
4、SiCl
4、BCl
2、BCl
3、BC
2、Br
2、Br
3、HBr、CBrF
3、HCl、CH
4、NH
3、O
2、H
2、N
2、CO、CO
2などが挙げられるが、本発明の効果を阻害しない範囲でこれらに限定されることは無い。粒子単層膜を構成する粒子や原板の材質などに応じて、これらのうちの1種以上を使用できる。
使用可能なエッチング装置としては、反応性イオンエッチング装置、イオンビームエッチング装置などの異方性エッチングが可能なものであって、最小で20W程度のバイアス電場を発生できるものであれば、プラズマ発生の方式、電極の構造、チャンバーの構造、高周波電源の周波数等の仕様に特に制限はない。
【0060】
本発明においてはドライエッチング工程でのエッチング選択比(基板のエッチング速度/粒子単層膜のエッチング速度)が0.01〜1.0となるようにエッチングの各条件(粒子単層膜を構成する粒子の材質、原板の材質、エッチングガスの種類、バイアスパワー、アンテナパワー、ガスの流量と圧力、エッチング時間など)を設定することが好ましい。
例えば、粒子単層膜エッチングマスクを構成する粒子としてコロイダルシリカ粒子を選択し、原板として石英板を選択してこれらを組み合わせた場合、エッチングガスにArやCF
4などのガスを用いることで、凸部の高さと凸部間の距離の比が比較的低くなるようにエッチングをすることができる。
また、電場のバイアスを数十から数百Wに設定すると、プラズマ状態にあるエッチングガス中の正電荷粒子は、加速されて高速でほぼ垂直に原板に入射する。よって、原板に対して反応性を有する気体を用いた場合は、垂直方向の物理化学エッチングの反応速度を高めることができる。
原板の材質とエッチングガスの種類の組み合わせによるが、ドライエッチングでは、プラズマによって生成したラジカルによる等方性エッチングも並行して起こる。ラジカルによるエッチングは化学エッチングであり、エッチング対象物のどの方向にも等方的にエッチングを行う。ラジカルは電荷を持たないためバイアスパワーの設定でエッチング速度をコントロールすることはできず、エッチングガスのチャンバー内濃度で操作することができる。荷電粒子による異方性エッチングを行うためにはある程度のガス圧を維持しなければならないので、反応性ガスを用いる限りラジカルの影響はゼロに出来ない。しかし、原板を冷却することでラジカルの反応速度を遅くする手法は広く用いられており、その機構を備えた装置も多いので、利用することが好ましい。
また、ドライエッチング工程において、主としてバイアスパワーを調整し、かつ状況に応じていわゆる堆積ガスを併用することで、原板表面に、凸部底面の直径と高さとの比(凸部底面の直径/高さ)が比較的低い二次元格子構造を形成することができる。
【0061】
<積層工程>
上述のようにして作製した透明基板11の凹凸構造上に、陽極導電層12、EL層13(ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、発光層13d、発光層13e、電子輸送層13f、電子注入層13g)、陰極導電層14をこの順で積層することで、有機発光ダイオード10が得られる。
発光層13c、13d、13eは、含まれる有機発光材料がそれぞれ異なる単色発光層であり、本実施形態では、発光層13cが赤色発光層、発光層13dが緑色発光層、発光層13eが青色発光層である。
このように、発光層を、含まれる有機発光材料がそれぞれ異なる単色発光層が複数積層された多層構造とする場合、複数の単色発光層のうち、発生する光の波長が短いものほど陰極導電層12側に形成することが好ましい。
ただし本発明はこれに限定されない。たとえば赤色発光層、緑色発光層、青色発光層の積層順は上記に限定されず、各発光層の特性に合わせた順番で積層すればよい。また、発光層を、青色発光層と黄色発光層とを組み合わせた2層構造としてもよい。
発光層は、複数の有機発光材料の混合物を含む単一の層であってもよい。
発光層が多層構造である場合、積層方式は、上記のように各層を直接積層するマルチレイヤー方式に限定されず、その他の積層方式であってもよい。たとえば1つの単色発光層上に次の単色発光層を積層する前に中間層を積層してタンデム方式としてもよい。
これら各層の積層方法は、特に限定されず、一般的な有機発光ダイオードの製造において用いられている公知の方法を利用できる。たとえば、陽極導電層12および陰極導電層14は、それぞれ、スパッタリング法、真空蒸着法などによって形成できる。また、EL層13の各層は、真空蒸着法によって形成される。
陽極導電層12、EL層13の厚さは非常に薄いため、上記のように各層を順次積層していくと、透明基板11表面の凹凸構造が各層に複製されていく。そのため、該EL層13上に積層された陰極導電層14は、EL層13側の表面に、該円錐台凹凸構造が反転した形状の逆円錐台凹凸構造を有するものとなる。
【0062】
以上、本発明の第一の態様の有機発光ダイオードの製造方法に関して第一実施形態を示して説明したが本発明はこれに限定されるものではない。
たとえば、第一実施形態では、凸部15a、15b、15cの形状が円錐台形状である場合を示したが、本発明はこれに限定されず、たとえば円柱状、円錐状、正弦波状、或いはそれらを基本とした派生形状等であってもよい。
第一実施形態では、基板作製工程にて、透明基板11を、原板の表面を粒子単層膜で被覆し、該粒子単層膜をエッチングマスクとして当該原板をドライエッチングすることにより作製したが、表面に、直径がそれぞれ異なる凸部15a、15b、15cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造が設けられた基板を形成し、該基板を鋳型として透明基板11を作製してもよい。
たとえば該鋳型表面の構造を他の原板に偶数回転写すると、表面に、直径がそれぞれ異なる凸部15a、15b、15cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造を有する透明基板が得られる。
また、該鋳型表面の構造を他の原板に奇数回転写すると、表面に、直径がそれぞれ異なる凹部が複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造を有する透明基板が得られる。この透明基板表面の凹凸構造は、鋳型表面の凹凸構造が反転した形状となる。
鋳型表面の構造の転写は、公知の方法、たとえば特開2009−158478号公報に開示されているような、ナノインプリント法、熱プレス法、射出成型法、UVエンボス法等の方法により実施できる。
転写回数が増えると微細凹凸の形状は鈍化するので、実用的な転写回数としては1〜4回が好ましい。
【0063】
また、第一実施形態では、EL層13が、ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、13d、13e、電子輸送層13f、電子注入層13gの7層から構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、13d、13e、電子輸送層13f、電子注入層13gのうちの二つ以上の層の機能を一つの層が兼ね備えてもよい。また、発光層13c、13d、13e以外の層、たとえばホール注入層13aやホール輸送層13b、電子輸送層13f、電子注入層13gは省略してもよい。最も単純な系は、EL層13が発光層13c、13d、13eのみから構成されるものである。
また、電子注入層13gを設けた例を示したが、陰極導電層14が電子注入層の機能を兼ね備える場合は、電子注入層13gを設けなくてもよい。たとえば陰極導電層14をMg/Ag=10/90等のマグネシウム合金で構成すると、上述したように、電子注入効果が得られ、陰極導電層14が電子注入層の機能を兼ね備えたものとなる。
また、上述したように、発光層の層構成はマルチレイヤー方式であっても良く、タンデム方式であっても良い。
【0064】
また、第一実施形態では、透明基板11上に、陽極導電層12、EL層13、陰極導電層14をこの順序で積層した例を示したが、逆の順序で積層してもよい。すなわち、透明基板11上に、陰極導電層14、EL層13、陽極導電層12の順で積層してもよい。この場合、EL層13を構成するホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、13d、13e、電子輸送層13f、電子注入層13gの積層順も逆になる。
また、陰極導電層が、金属層である陰極導電層14のみから構成される例を示したが、陰極導電層は複数の層が積層された多層構造であってもよい。
陰極導電層が多層構造である場合、少なくとも1層が金属層であればよく、他の層は、金属からなるものであっても、金属以外の導電材料からなるものであってもよい。金属以外の導電材料としては、たとえば陽極導電層12を構成する材料として挙げたITO、IZO、ZnO、ZTO等が挙げられる。
【0065】
また、有機発光ダイオードの光取出し方式は、上記第一実施形態に示すような、光取り出し面が基板(透明基板11)側の面であるボトムエミッション方式であっても良く、光取り出し面が基板側とは反対側の面(積層上面)であるトップエミッション方式であっても良い。
トップエミッション方式である場合、積層上面は、陰極導電層であっても陽極導電層であっても良い。ただし、いずれの場合でも、EL層側から放射された光を透過するために、透明または半透明である必要がある。また、トップエミッション方式の場合、基板は透明基板に限定されない。
上記各種光取り出し方式の一般的積層構成を以下に示す。
1)ボトムエミッション方式[光取り出し面は透明基板]:
透明基板(凹凸構造を陽極導電層側の表面に持つ)−陽極導電層(透明導電体層)−EL層{ホール注入層−ホール輸送層−発光層(赤緑青3層または青+黄または緑+赤)−電子輸送層−電子注入層}−陰極導電層(金属層)。
2)トップエミッション方式[光取り出し面は陰極導電層]:
基板(凹凸構造を反射層側の表面に持つ)−反射層−陽極導電層(透明導電体層)−EL層{ホール注入層−ホール輸送層−発光層(赤緑青3層または青+黄または緑+赤)−電子輸送層−電子注入層}−陰極導電層A(半透明の金属層)−陰極導電層B(透明導電体層)。
3)トップエミッション方式[光取り出し面は陽極導電層]:
基板(凹凸構造を陰極導電層側の表面に持つ)−陰極導電層(金属層)−EL層{電子注入層−電子輸送層−発光層(赤緑青3層または青+黄または緑+赤)−ホール輸送層−ホール注入層}−陽極導電層(透明導電体層)。
【0066】
上記のうち、2)のトップエミッション方式において、反射層は、基板側から光が出ないようにするため、および基板側に向かった光を積層側に反射して取り出すために設けられる。反射層は一般的には金属で構成される。該金属としては、アルミニウム、銀、その他の各種金属が使用できる。
陰極導電層Aは、積層上面から光を取り出すために半透明とされている。陰極導電層Aの透明性は膜厚によって調整される。陰極導電層Aの厚さは、通常、半透明とするために、10〜50nm程度とされる。陰極導電層Aを構成する金属としては、前記陰極導電層14を構成する金属として挙げたものと同様のものが挙げられ、好ましくは金、銀、アルミニウムの中から選択される金属が用いられる。電子注入層の機能を併せ持つように、マグネシウムを10%以下の濃度で混入しても良い。
陰極導電層Bは、陰極導電層Aのみでは厚さが薄すぎて充分な電流を得られないために設けられる。陰極導電層Bを構成する透明導電体としては、たとえば陽極導電層12を構成する材料として挙げたITO、IZO、ZnO、ZTO等が挙げられる。
【0067】
=第二の態様=
本発明の第二の態様の有機発光ダイオードの製造方法は、原板の表面を粒子単層膜で被覆し、該粒子単層膜をエッチングマスクとして当該原板をドライエッチングすることにより、表面に複数の凹凸が二次元に配列した凹凸構造を有する鋳型を作製し、該鋳型表面の前記凹凸構造を他の原板に1回以上転写することにより基板を作製する基板作製工程と、前記基板に転写された凹凸構造上に、少なくとも、陽極導電層と、有機発光材料を含有する発光層を含むEL層と、金属層を含む陰極導電層とを、前記金属層の前記EL層側の表面に前記凹凸構造が複写されるように積層する積層工程と、を有する有機発光ダイオードの製造方法であって、
前記基板作製工程にて、前記粒子単層膜を、粒子径の異なる複数の粒子の混合物を用いて形成し、下記要件(A)および(B)を満たす凹凸構造を有する鋳型を作製することを特徴とする。
要件(A):平均高さが15nm以上150nm以下である。
要件(B):高さ分布のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が前記式(I)に示される範囲内にあるときに有限の値を持ち、かつスペクトル強度の該範囲での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値の35%以上を占める値を持つ。
【0068】
本態様の製造方法は、基板作製工程にて、前記凹凸構造を有する鋳型を作製し、これを転写することにより基板を作製することを必須とする以外は、前記第一の態様の製造方法と同様である。
より具体的には、原板(前記凹凸構造を形成する前の鋳型)の表面を、混合粒子からなる粒子単層膜で被覆する工程(被覆工程)と、該粒子単層膜をエッチングマスクとして用いて原板をドライエッチングして前記要件(A)および(B)を満たす凹凸構造を形成して鋳型を得る工程(ドライエッチング工程)と、該凹凸構造を転写原板に1回以上転写する工程(転写工程)とを行うことにより作製できる。
【0069】
本態様における被覆工程は、前記第一の態様における被覆工程(分散液調製工程、粒子単層膜形成工程および移行工程)と同様にして実施できる。
この工程で用いる原板は、ドライエッチング可能なものであれば特に限定されない。原板に対し、直接、粒子単層膜による被覆とドライエッチングを行って透明基板11を作製する場合、原板は透明なものに限定されるが、本態様においては、原板は透明でなくてもよい。
【0070】
本態様におけるドライエッチング工程は、前記第一の態様におけるドライエッチング工程と同様にして実施できる。
該ドライエッチング工程により、表面に複数の凸部が二次元に配列した凹凸構造を有する鋳型が得られる。この鋳型表面の凹凸構造における凸部の形状は、粒子単層膜をエッチングマスクとすることから、基板面内方向に関して等方的である。
凸部の形状が基板面内方向に関して等方的であるかどうかの判別手順は上述したとおりである。
【0071】
転写工程において、鋳型表面の凹凸構造の他の原板への転写は、公知の方法、たとえば特開2009−158478号公報に開示されているような、ナノインプリント法、熱プレス法、射出成型法、UVエンボス法等の方法により実施できる。
鋳型の凹凸構造を転写する原板(以下、転写原板ということがある。)は、単層構造であっても多層構造であってもよい。例えば透明なガラス板の表面に透明樹脂層が積層したものであってもよい。転写原板の材質、層構成は、転写方法等に応じて適宜設定できる。
転写回数が1回の場合、転写原板としては、目的とする基板に対応する原板(凹凸構造が転写される前の基板)が用いられる。転写回数が2回以上の場合、最後に用いられる転写原板は、目的とする基板に対応する原板(凹凸構造が転写される前の基板)が用いられ、その前までに用いられる転写原板は、鋳型に用いた原板や、目的とする基板に対応する原板と同じでも異なってもよい。
転写回数が増えると微細凹凸の形状は鈍化するので、実用的な転写回数としては1〜4回が好ましい。
【0072】
形成された鋳型表面の凹凸構造を他の原板に偶数回転写すると、該凹凸構造と同じ形状の凹凸構造を有する基板が得られる。また、形成された鋳型表面の凹凸構造を他の原板に奇数回転写すると、該凹凸構造が反転した形状の凹凸構造を有する基板が得られる。
例えば、鋳型として、前記透明基板11と同様の形状のものを作製する。つまり
図2に示すように、表面に、直径がそれぞれ異なる凸部25a、25b、25cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造が設けられた鋳型21を作製する。この鋳型21表面の凹凸構造を他の原板に偶数回転写すると、鋳型21と同様に、表面に、直径がそれぞれ異なる凸部25a、25b、25cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造を有する基板が得られる。この基板の凹凸構造上に、上記第一の態様の第一実施形態と同様に、陽極導電層12、EL層13(ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、発光層13d、発光層13e、電子輸送層13f、電子注入層13g)、陰極導電層14をこの順で積層した場合、
図1に示す有機発光ダイオード10と同様の有機発光ダイオードが得られる。
一方、鋳型21表面の凹凸構造を他の原板に奇数回転写すると、表面に、直径がそれぞれ異なる凹部35a、35b、35cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造を有する基板31が得られ、凹部35a、35b、35cの形状はそれぞれ凸部25a、25b、25cの形状が反転した形状となる。この基板31の凹凸構造上に、上記第一の態様の第一実施形態と同様に、陽極導電層12、EL層13(ホール注入層13a、ホール輸送層13b、発光層13c、発光層13d、発光層13e、電子輸送層13f、電子注入層13g)、陰極導電層14をこの順で積層した場合、
図3に示す構成の有機発光ダイオード30が得られる。
有機発光ダイオード30においては、陰極導電層14のEL層13側の表面に、基板31表面の凹凸構造が反転した形状の凹凸構造、つまり、直径がそれぞれ異なる凸部36a、36b、36cが複数、二次元にランダムに配列した凹凸構造が形成される。凸部36a、36b、36cそれぞれの直径および高さは、凹部35a、35b、35cそれぞれの直径および高さ(深さ)と一致する。また、凸部36a、36b、36cの配列パターンは、基板31表面の凹凸構造における凹部35a、35b、35cの配列パターンと一致する。
【0073】
形成された鋳型表面の凹凸構造における凸部の形状が基板面内方向に関して等方的であることから、該凹凸構造を偶数回転写することにより形成される基板表面の凹凸構造における凸部、形成された鋳型表面の凹凸構造を奇数回転写することにより形成される基板表面の凹凸構造における凹部の形状もそれぞれ基板面内方向に関して等方的である。
凸部の形状が基板面内方向に関して等方的であるかどうかの判別手順は上述したとおりである。すなわち、基板面を、基板面に対して垂直方向(積層方向)から観察し、ある凸部X0に注目したとき、凸部X0を取り囲むように隣接する他の凸部X1、X2、X3・・・Xnが存在する。X0とX1の間の鞍部の鞍点をx1、同様に他の凸部との鞍部の鞍点をx2、x3・・・xnとし、これらのうち最も高いものの高さにおける凸部X0の断面を得る。この断面の輪郭をL0とし、それに最小自乗適合する円を描く。これを凸部X0の大きさを示す適合円C0と定義する。
上記輪郭L0と適合円C0との距離の標準偏差を求め、それを適合円C0の半径で除した値である変動係数が0.3以下であれば、当該凸部X0の形状が基板面内方向に関して等方的であるといえる。
【0074】
上記転写工程により得られる基板が、鋳型表面の凹凸構造を他の原板に偶数回転写することにより形成されるものである場合、該基板表面の凹凸構造における凸部の平均高さ、高さ分布のスペクトル強度はそれぞれ上記要件(A)、要件(B)を満たす。
上記転写工程により得られる基板が、鋳型表面の凹凸構造を他の原板に奇数回転写することにより形成されるものである場合、該基板表面の凹凸構造における凹部の平均深さ、深さ分布のスペクトル強度はそれぞれ上記要件(A)、要件(B)を満たす。
凸部の平均高さ、高さ分布のスペクトル強度の測定方法は上記のとおりである。
凹部の平均深さは凸部15a、15b、15cの平均高さと同様にして測定できる。凹部の深さ分布のスペクトル強度は、凸部の高さ分布のスペクトル強度と同様にして測定できる。
1つの凸部の高さは、上述したように、ある凸部X0に注目して他の凸部との鞍部の鞍点x1、x2、x3・・・xnを求め、これらの平均高さと、凸部X0の中心の高さとの差として求められる。
【0075】
以上説明した本発明の第一の態様または第二の態様の製造方法により製造された有機発光ダイオードおいては、広帯域の光の取出し効率が飛躍的に向上し、高強度の発光が得られる。
したがって、本発明の第一の態様または第二の態様の製造方法は、光取出し波長が可視光〜近赤外領域(380nm〜2500nm)全体にわたる有機発光ダイオードの製造に有用である。より具体的には、可視光〜近赤外領域の中で必要とされる波長域(例えば可視光領域(380nm〜780nm))を設定し、この波長域全体にわたって光取り出し効率が飛躍的に高めることが可能である。
また、本発明の第一の態様または第二の態様の製造方法により製造される有機発光ダイオードを用いることで、明るい画像表示装置や照明装置が得られる。
【0076】
<<有機発光ダイオード>>
本発明の第三の態様の有機発光ダイオードは、表面に複数の凹凸が二次元に配列した凹凸構造が設けられた基板の前記凹凸構造上に、少なくとも、陽極導電層と、有機発光材料を含有する発光層を含むEL層と、金属層を含む陰極導電層とが、前記金属層の前記EL層側の表面に前記凹凸構造が複写されるように積層した積層構造を備える有機発光ダイオードであって、
前記凹凸構造が、下記要件(A1)および(B1)を満たすことを特徴とする。
要件(A1):平均高さが15nm以上150nm以下である。
要件(B1):高さ分布のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が下記式(I)に示される範囲内全体にわたって有限の値を持ち、かつスペクトル強度の該範囲での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値の35%以上を占める値を持つ。
【0077】
【数8】
ε
m(λ)は前記金属層を構成する金属の比誘電率を示す。
ε
d(λ)は前記EL層の等価的な比誘電率を示す。
λ
maxおよびλ
minはそれぞれ、この有機発光ダイオードの発光スペクトル中の一部または全部を含む領域の最大値および最小値を示し、かつλ
max−λ
min>200nmである。
Re[ ]は複素数の実部を示す。
【0078】
本態様の有機発光ダイオードは、表面に複数の凹凸が二次元に配列した凹凸構造(二次元凹凸構造)が設けられた基板として、前記凹凸構造が前記要件(A1)および(B1)を満たすものを備える。
本態様の有機発光ダイオードは、基板表面の二次元凹凸構造が前記要件(A1)および(B1)を満たすことで、金属層のEL層側の表面に形成される二次元凹凸構造も、要件(A1)および(B1)を満たすものとなっている。これにより、上記λ
maxおよびλ
minで規定される、この有機発光ダイオードの発光スペクトル中の一部または全部を含む領域の光の取出し効率が飛躍的に向上したものとなっている。
【0079】
本態様の有機発光ダイオードが備える基板の材質は、前記第一の態様の製造方法の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。
前記要件(A1)についての説明は、前記第一の態様における要件(A)についての説明と同じである。
前記要件(B1)についての説明は、式(I)中のλ
max、λ
minを、それぞれ、本態様の有機発光ダイオードの発光スペクトル中の一部または全部を含む領域の最大値、最小値を示すものとし、かつλ
max−λ
min>200nmに特定した以外は、前記第一の態様における要件(B)についての説明と同じである。
基板表面の二次元凹凸構造において二次元に配列する複数の凹部または凸部の形状は、要件(A1)および要件(B1)を満たす範囲内であれば特に限定されないが、基板面内方向に関して等方的であることが好ましい。
このような形状の凹部または凸部が二次元に配列した二次元凹凸構造は、第一の態様または第二の態様に示したような、混合粒子からなる粒子単層膜をエッチングマスクとしたドライエッチング法により容易に製造できる。また、このとき混合する粒子の粒子径、ドライエッチング条件等により、凹部または凸部の平均高さ(平均深さ)や高さ(深さ)分布の制御、目的とする凹凸構造の設計が容易である。
【0080】
本態様の有機発光ダイオードにて、基板の凹凸構造上に設けられる積層構造は、少なくとも、陽極導電層と、有機発光材料を含有する発光層を含むEL層と、金属層を含む陰極導電層とが、前記金属層の前記EL層側の表面に前記凹凸構造が複写されるように積層したものであればよく、前述した第一の態様の製造方法の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0081】
<<画像表示装置>>
本発明の第四の態様の画像表示装置は、前記第一の態様または第二の態様の製造方法によって製造された有機発光ダイオードを少なくとも一部に有するものである。
本発明の第五の態様の照明装置は、前記第三の態様の有機発光ダイオードを少なくとも一部に有するものである。
第四の態様または第五の態様の画像表示装置の構成は、前記第一の態様もしくは第二の態様の製造方法によって製造された有機発光ダイオードまたは前記第三の態様の有機発光ダイオードを備えるものであれば特に限定されず、例えば光源として有機発光ダイオードが用いられている公知の画像表示装置の構成と同様であってよい。
【0082】
<<照明装置>>
本発明の第六の態様の照明装置は、前記第一または第二の態様の製造方法によって製造された有機発光ダイオードを少なくとも一部に有するものである。
本発明の第七の態様の照明装置は、前記第三の態様の有機発光ダイオードを少なくとも一部に有するものである。
第六の態様または第七の態様の照明装置の構成は、前記第一の態様もしくは第二の態様の製造方法によって製造された有機発光ダイオードまたは前記第三の態様の有機発光ダイオードを備えるものであれば特に限定されず、例えば光源として有機発光ダイオードが用いられている公知の照明装置の構成と同様であってよい。
【0083】
<<基板>>
本発明の第八の態様の基板は、表面に複数の凹部または凸部が二次元に配列した凹凸構造が設けられた基板であって、
前記凹凸構造が、下記要件(A2)および(B2)を満たすことを特徴とする。
要件(A2):平均高さが15nm以上150nm以下である。
要件(B2):高さ分布のスペクトル強度が、波数の絶対値|k|が下記式(II)に示される範囲内全体にわたって有限の値を持ち、かつスペクトル強度の該範囲での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値の35%以上を占める値を持つ。
【0084】
【数9】
式(II)中、k
1およびk
2は、以下の式(III)、(IV)を満たす。
【0086】
本態様の基板は、金属層を構成する金属がアルミニウムであり、EL層の等価的な比誘電率が2.89である場合の前記第三の態様の有機発光ダイオードの製造用として有用である。該基板表面の凹凸構造上に、少なくとも、陽極導電層と、有機発光材料を含有する発光層を含み、等価的な比誘電率が2.89であるEL層と、アルミニウム層を含む陰極導電層とを、前記アルミニウム層の前記EL層側の表面に前記凹凸構造が複写されるように積層することで、上記式(II)であらわされる範囲における光の取出し効率に優れた有機発光ダイオードが得られる。
本態様の基板は、前記凹部または凸部の形状が基板面内方向に関して等方的であることが好ましい。本態様における「凹部または凸部の形状が基板面内方向に関して等方的である」は、前記第三の態様における「凹部または凸部の形状が基板面内方向に関して等方的である」と同義であり、その詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0087】
以下に本発明の実施の形態の一例を説明する。本発明の概念を用いるものである限り、必ずしも対象とする有機発光ダイオードの構造、構成、方式を限定するものではない。
なお、実施例9は参考例である。
[実施例1]
平均粒子径Λ1が250.6nmで、粒子径の変動係数が3.0%である球形コロイダルシリカの5.0質量%水分散体(分散液)、平均粒子径Λ2が150.1nmで、粒子径の変動係数が7.4%である球形コロイダルシリカの5.0質量%水分散体(分散液)、平均粒子径Λ3が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカの5.0質量%水分散体(分散液)、を用意した。なお、平均粒子径および粒子径の変動係数は、Malvern Instruments Ltd 社製 Zetasizer Nano−ZSによる粒子動的光散乱法で求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから求めた。
ついで、これら3種類の粒子分散液をそれぞれ孔径1.2μmφのメンブランフィルターでろ過し、メンブランフィルターを通過した3種類の粒子分散液を混合した。混合比は、すべての粒子が基板に単層に堆積されたときの粒子の占有面積の合計が各粒子径で1:1:1になるように調整した。
その後、3種類の粒子分散液の混合液に濃度1.0質量%のフェニルトリエトキシシランの加水分解物水溶液を加え、約40℃で3時間反応させた。この際、フェニルトリエトキシシランの質量が3種類の粒子の合計質量の0.015倍となるように分散液と加水分解水溶液とを混合した。
ついで、反応終了後の分散液に、この分散液の体積の5倍の体積のメチルイソブチルケトンを加えて充分に攪拌して、疎水化されたコロイダルシリカを油相抽出した。
【0088】
こうして得られた濃度1.05質量%の疎水化コロイダルシリカ分散液を、粒子単層膜の表面圧を計測する表面圧力センサーと、粒子単層膜を液面に沿う方向に圧縮する可動バリアとを備えた水槽(LBトラフ装置)中の液面(下層水として水を使用、水温23.2℃)に滴下速度0.01ml/秒で滴下し、その後、分散液の溶剤であるメチルイソブチルケトンを揮発させ、粒子単層膜を形成させた。なお、水槽の下層水には、あらかじめ有機発光ダイオードの透明基板として用いるための石英基板(30mm×30mm×1.0mm、両面鏡面研磨)を略鉛直方向に浸漬しておいた。
ついで、この粒子単層膜を、可動バリアにより、拡散圧が22〜30mNm
−1になるまで圧縮し、石英基板を3mm/分の速度で引き上げ、基板の片面上に水面の粒子単層膜を移し取った。
ついで、粒子単層膜が形成された石英基板上に、バインダーとして0.15質量%モノメチルトリメトキシシランの加水分解液を浸透させ、その後、加水分解液の余剰分をスピンコーター(3000rpm)で1分間処理して除去した。その後、これを100℃で10分間加熱してバインダーを反応させ、コロイダルシリカからなる粒子単層膜エッチングマスク付きの石英基板を得た。
【0089】
ついで、得られた粒子単層膜エッチングマスク付き石英基板に対して、CHF
3ガスによりドライエッチングを行って凹凸構造付き石英基板を得た。エッチング条件は、アンテナパワー1500W、バイアスパワー100W(13.56MHz)、ガス流量30sccmとした。
【0090】
得られた凹凸構造付き石英基板表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察した。そのAFM像を
図4に示す。
図4に示すとおり、凹凸構造付き石英基板の表面には、直径の異なる3種の凸部がランダムに分布していた、また、各凸部の形状は、円錐台形状であった。
図4中、画像上、明るい部分が凸部の上面である。
この凹凸構造における平均高さをAFMによって求めたところ、平均粒子径Λ1の粒子に対応する凸部の平均高さh1、平均粒子径Λ2の粒子に対応する凸部の平均高さh2、平均粒子径Λ3の粒子に対応する凸部の平均高さh3はそれぞれ30.5nm、31.1nm、29.2nmであった。
なお、平均高さh1、h2、h3は段落[0024]に記述した方法で求めた。
【0091】
また、上記AFM像に対して2次元フーリエ変換を施した。その2次元フーリエ変換像を
図5に示す。該2次元フーリエ変換像においては、対応する波数のスペクトル強度が濃淡で示され、色が薄いほど強度が強く、黒い部分は有限の値を持っていない。
さらに、該スペクトルの波数の絶対値|k|=(k
x2+k
y2)
0.5が一定になるところの強度を積分して得られるプロファイル(以下、このプロファイルをスペクトル強度プロファイルと呼ぶ)を
図6に示す。
図6によると、スペクトル強度が大きい部分は可視光周波数領域に対応する表面プラズモンの波数である13.9μm
−1(可視光780nmに対応)〜30.2μm
−1(可視光380nmに対応)の範囲内(
図6中、破線で囲まれた範囲内)に入っており、この凹凸構造体が可視光の光取り出しに有効であることを示している。
なお、上記表面プラズモンの波数範囲は以下のように算出した。
可視光780nmに対応するAlの比誘電率ε
m=−66.5+46.0i、可視光380nmに対応するAlの比誘電率ε
m=−21.1+4.08i、iは虚数単位、ε
dは有機EL層の等価的な比誘電率として2.89を使用した。
【0092】
【数11】
【0093】
上記凹凸構造付き石英基板の凹凸構造面側に、陽極導電層としてIZOを50nmの厚さでスパッタリング法により成膜した。
次にホール注入材料として2−TNATAを30nmの厚さで蒸着法によって成膜してホール注入層を形成した。
次にホール輸送材料としてα−NPDを70nmの厚さで蒸着法によって成膜してホール輸送層を形成した。
次に電子移動・発光層として、3層構造の多層膜を以下の手順で形成した。すなわち、ホール輸送層上に、クマリンC545Tを1.0%濃度でAlqにドープした赤色発光材料を5nmの厚さで蒸着法によって成膜し、次にIr(piq)
3を導電性材料(PH1)に5.0%濃度でドープした緑色発光材料を20nmの厚さで蒸着法によって成膜し、次にBcZVBiを5.0%濃度でDPVBiにドープした青色発光材料を30nmの厚さで蒸着法によって成膜した。
次に電子輸送材料としてAlqを20nmの厚さで蒸着法によって成膜して電子輸送層を形成した。さらに電子注入層としてLiFを0.6nmの厚さで蒸着法によって成膜した。
最後に、アルミニウムを150nmの厚さで蒸着法によって成膜して陰極導電層を形成し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオード素子を完成した。蒸着にシャドウマスクを使用することにより、発光エリアは2×2mmに作製した。
【0094】
[実施例2]
平均粒子径Λ1が301.3nmで、粒子径の変動係数が3.2%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ3が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図7に示す。
【0095】
[実施例3]
平均粒子径Λ1が150.1nmで、粒子径の変動係数が7.4%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図8に示す。
【0096】
[実施例4]
平均粒子径Λ1が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図9に示す。
【0097】
[実施例5]
平均粒子径Λ1が353.0nmで、粒子径の変動係数が3.2%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が250.6nmで、粒子径の変動係数が3.0%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ3が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図10に示す。
【0098】
[実施例6]
平均粒子径Λ1が250.6nmで、粒子径の変動係数が3.0%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ3が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図11に示す。
【0099】
[実施例7]
平均粒子径Λ1が301.3nmで、粒子径の変動係数が3.2%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が250.6nmで、粒子径の変動係数が3.0%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ3が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ4が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1:1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図12に示す。
【0100】
[実施例8]
平均粒子径Λ1が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が150.1nmで、粒子径の変動係数が7.4%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ3が90.2nmで、粒子径の変動係数が9.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図13に示す。
【0101】
[実施例9]
平均粒子径Λ1が301.3nmで、粒子径の変動係数が3.2%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が250.6nmで、粒子径の変動係数が3.0%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングして凹凸構造付き石英基板を作製し、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した凹凸構造付き石英基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図14に示す。
【0102】
[比較例1]
石英基板表面に凹凸構造を形成しなかった以外は、実施例1と全く同じ操作で同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した石英基板表面(凹凸構造なし)のスペクトル強度プロファイルを
図15に示す。
【0103】
[比較例2]
平均粒子径Λ1が250.6nmで、粒子径の変動係数が3.0%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ2が202.5nmで、粒子径の変動係数が4.6%である球形コロイダルシリカ、平均粒子径Λ3が150.1nmで、粒子径の変動係数が7.4%である球形コロイダルシリカを、水面展開時の占有面積比が1:2:1になるように混合して使用する以外は、実施例1と全く同じ操作で石英基板表面に混合粒子をコーティングし、同じ厚さ、同じ材料で構成される各電極層とEL層を積層し、ボトムエミッション型の白色有機発光ダイオードを完成した。
この素子に使用した基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイルを
図16に示す。
【0104】
[電流効率特性および電力効率特性の評価]
実施例1〜実施例9、および比較例1〜比較例2で得た白色有機発光ダイオードについて、下記手順で電流効率特性および電力効率特性を評価した。
白色有機発光ダイオードを12.5mA/m
2の電流密度で発光させたときの垂直方向の輝度(cd/m
2)を輝度計にて測定し、電流密度あたりの電流効率(電流密度(mA/m
2)−電流効率(cd/A))を求めた。また、輝度を測定する際に電圧も測定しておき、輝度から光束(lm)を換算し、電流密度あたりの電力効率(電流密度(mA/m
2)−電力効率(lm/W))を求めた。
それらの測定結果から、電流密度あたりの電流効率、電力効率それぞれについて、実施例1〜実施例9、および比較例1〜比較例2の測定値の、比較例1の測定値(ブランク)に対する向上率を下記式により算出した。
向上率=(実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例2の測定値)/比較例1の測定値
【0105】
[発光表面の色度の評価]
日本電色工業(株)製の分光色差計SE−6000にて、実施例および比較例で作製した素子の発光表面の色度を、CIE表色系における色度座標(x,y)として求めた。
【0106】
電流効率特性および電力効率特性の評価および発光表面の色度の評価を表1にまとめた。また、各例のスペクトル強度プロファイルから、可視光領域(380nm〜780nm)における基板の凹凸構造のスペクトル強度の積分値が全体に占める割合(スペクトル強度の波数13.9μm
−1〜30.2μm
−1の範囲内での積分値がスペクトル強度の全波数領域での積分値に占める割合)(%)を求め、表1にまとめた。
実施例1〜実施例9の電流密度あたりの電流効率(電流密度(mA/m
2)vs輝度(cd/A))の向上率は、比較例1の1.97倍〜3.43倍、電流密度あたりの電力効率(電流密度(mA/m
2)vs発光効率(lm/W))は比較例1の2.11〜3.78倍であった。
一方、比較例2の基板の凹凸構造のスペクトル強度プロファイル(
図16)は、白色光の波数領域である13.9〜30.2(μm
−1)から主たるピークを外しており、白色光スペクトルの一部しか取り出せないため、取り出し効率は高くならず、かつ色度が著しくずれた。色度の著しいずれは、白色光スペクトルのうち一部の波長域しかプラズモニック格子が取り出せていないために全体の色バランスが崩れたことを意味している。
以上の結果から、実施例1〜実施例9で得た白色有機発光ダイオードにおいては、比較例1〜比較例2に比べて発光強度が大幅に増大し、電力効率、電流効率ともに大きく向上することが示された。
【0107】
【表1】