(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンの過給機に設けられたウエストゲートバルブの実開度を示すセンサ信号及び前記ウエストゲートバルブの目標開度に基づいて前記ウエストゲートバルブの駆動機構をフィードバック制御するバルブ制御装置であって、
前記ウエストゲートバルブを閉じる時と前記ウエストゲートバルブを開く時とで異なる制御ゲインを設定するゲイン設定部を備え、
前記ゲイン設定部は、前記目標開度と前記実開度との目実偏差を計算し、前記目標開度の変化量を示す目標変化量を取得し、当該目標変化量の絶対値を所定の目標変化量しきい値と比較することにより目標変化量の大小を判定し、当該目標変化量の大小に基づいて前記フィードバック制御の過渡部と定常部とを判定し、前記定常部に比較して前記過渡部の制御ゲインを高く設定することを特徴とするバルブ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るバルブシステム及びバルブ制御装置は、
図1に示すように、EWGバルブ1、EWGモータ2及びEWG制御部3を備える。なお、本実施形態における上記「EWG」は「Electric Waste Gate」の略である。
【0014】
EWGバルブ1は、過給機におけるエンジン排ガスの迂回経路に設けられたウエストゲートバルブであり、エンジンに供給される燃焼空気の過給圧を調節する。すなわち、EWGバルブ1の開度が上昇すると過給圧は減少し、一方、EWGバルブ1の開度が低下すると過給圧は上昇する。このようなEWGバルブ1は、所定の連結機構を介してEWGモータ2と機械的に接続されており、EWGモータ2の駆動力によって開度が調節(操作)される。なお、過給機は、周知のようにエンジンの補機であり、ウエストゲートバルブと共にエンジンに供給される燃焼空気の過給圧を調節する。
【0015】
ここで、EWGバルブ1の開度は、EWGバルブ1における弁体の弁座に対する位置(リフト量)によって規定される物理量である。すなわち、リフト量が大きくなると、つまり弁体の弁座に対する距離が大きくなると、EWGバルブ1の開度は上昇し、一方、リフト量が小さくなると、つまり弁体の弁座に対する距離が小さくなると、EWGバルブ1の開度は下降する。
【0016】
EWGモータ2は、上記EWGバルブ1を駆動するアクチュエータであり、例えば直流モータである。このEWGモータ2は、上記EWGバルブ1のリフト量を示す電圧をセンサ信号(電圧信号)として出力するリフトセンサ2aを備えている。このようなEWGモータ2は、EWG制御部3から入力される駆動信号に基づいて作動し、EWGバルブ1の開度を操作する。なお、EWGモータ2は上述した連結機構とともに、本実施形態における駆動機構を構成している。なお、上記センサ信号は、EWGバルブ1(ウエストゲートバルブ)の実開度(実リフト量)を示す開度信号である。
【0017】
EWG制御部3は、本実施形態におけるバルブ制御装置であり、上記EWGモータ2を制御することによってEWGバルブ1の開度を調節する。このEWG制御部3は、エンジンECUにおける1つの制御機能要素であり、エンジンECUにおいて上位制御系を構成する上位制御機能要素から各種の情報(エンジンECU情報)を取得すると共に上記リフトセンサ2aからセンサ信号を取得し、これらエンジンECU情報及びセンサ信号に基づいて駆動信号を生成することによりEWGモータ2を制御する。すなわち、このEWG制御部3は、EWGバルブ1を制御対象とし、EWGモータ2を駆動対象とする上記駆動機構を介してEWGバルブ1の開度(リフト量)を調節する。
【0018】
上記エンジンECU情報は、EWG制御部3の外部に設けられたエンジンECUの指示信号やエンジンの作動状態を示す信号であり、例えば目標リフト量、IG ON信号、エンジン水温信号及び水温センサ故障信号等である。このようなEWG制御部3は、エンジンECU情報とEWGバルブ1における実リフト量とに基づいてEWGモータ2をフィードバック制御する。
【0019】
上記目標リフト量は、EWGバルブ1の開度目標を示す制御目標値である。上記IGON信号は、イグニッションスイッチのON/OFF状態を示す信号、つまりエンジンの起動状態を示す起動信号である。また、エンジン水温信号は、エンジンに備えられた水温センサによって検出されるエンジンの冷却水温度を示す信号である。さらに、水温センサ故障は、上記水温センサが故障したことを示す信号である。
【0020】
このようなEWG制御部3は、
図2に示されているように、フィルタ部3a、制御量変換部3b、全閉学習処理部3c、補正部3d、最終リフト量設定部3e、位置制御部3f、速度制御部3g、DUTY設定部3h、駆動回路3i及びゲイン設定部3jを備えている。なお、上記「DUTY」は、デューティ比を示す用語である。
【0021】
フィルタ部3aは、リフトセンサ2aから入力されるセンサ信号つまりアナログの電圧信号をデジタル信号(検出電圧データ)に変換すると共に当該デジタル信号にメディアンフィルタ処理(デジタル信号処理)を施して制御量変換部3bに出力する。上記メディアンフィルタ処理は、時系列データである検出電圧データについて所定データ数毎の中央値(メディアン)を抽出することによりノイズ除去を行うフィルタ処理である。センサ信号を出力するリフトセンサ2aは、エンジンに付帯するEWGモータ2に設けられる関係で各種ノイズが重畳し易いが、フィルタ部3aは、このようなノイズを除去して実リフト量(実開度)をより正確に示す検出電圧データを制御量変換部3bに出力する。
【0022】
ここで、ノイズを除去するためのデジタル信号処理には一般に移動平均処理が用いられるが、メディアンフィルタ処理は移動平均処理よりもノイズ除去性能が高いので、フィルタ部3aではメディアンフィルタ処理を採用している。本実施形態では、位置制御部3fに加えて速度制御部3gを備えているが、速度制御部3gは、実リフト量の微分値を用いて速度制御量を演算するために実リフト量に重畳したノイズの影響を受け易い。本実施形態では、このような速度制御部3gを備える関係で、移動平均処理ではなくメディアンフィルタ処理を採用している。
【0023】
制御量変換部3bは、上記検出電圧データ(電圧量)を実リフト量に変換する。この制御量変換部3bは、例えば検出電圧データ(電圧量)と実リフト量(位置)との関係を示す変換テーブルを備え、当該変換テーブルに基づいて検出電圧データに相当する実リフト量を抽出して全閉学習処理部3cに出力する。なお、上記変換テーブルに代えて、検出電圧データと実リフト量との関係を示す変換式を予め記憶し、当該変換式に基づいて検出電圧データに相当する実リフト量を抽出してもよい。
【0024】
全閉学習処理部3cは、EWGバルブ1の弁体が弁座に着座した際の実リフト量(着座位置)を全閉リフト量として学習する機能構成要素である。上記全閉リフト量は、EWGバルブ1の温度に応じて変動するため固定値として扱うことができない。この全閉学習処理部3cは、このような事情から、IG ON信号、また制御量変換部3bから入力される実リフト量に基づいて、EWGバルブ1の弁体が弁座に着座した際の実リフト量(着座位置)を全閉リフト量として学習する。
【0025】
ここで、上記全閉リフト量には、長期学習値と短期学習値とがある。長期学習値はエンジンの起動毎に取得される学習値であり、一方、短期学習値は、弁体の着座毎に取得される学習値である。すなわち、全閉学習処理部3cは、IG ON信号に基づいてエンジンの起動を判断すると、当該エンジンの起動後においてEWGバルブ1の弁体が最初に着座した際の全閉リフト量を長期学習値として記憶する。一方、全閉学習処理部3cは、エンジンの起動に関わりなく、EWGバルブ1の弁体が弁座に着座する度に、その際の全閉リフト量を短期学習値として記憶する。
【0026】
全閉学習処理部3cは、制御量変換部3bから入力される実リフト量に加えてエンジンの起動を示すIG ON信号をも利用することにより長期学習値を取得すると共に、制御量変換部3bから入力される実リフト量のみに基づいて短期学習値を取得する。このような全閉学習処理部3cは、長期学習値及び短期学習値を最終リフト量設定部3eに出力する一方、短期学習値のみを補正部3dに出力する。
【0027】
補正部3dは、制御量変換部3bから入力される実リフト量を全閉学習処理部3cから入力される短期学習値に基づいて補正する機能構成要素である。すなわち、この補正部3dは、実リフト量と短期学習値との差分をとることにより短期学習値を基準としたリフト量(補正リフト量)を計算し、当該補正リフト量を位置制御部3f及び速度制御部3gに出力する。
【0028】
最終リフト量設定部3eは、エンジンECU情報の1つとしてエンジンECUから入力される目標リフト量、全閉学習処理部3cから入力される長期学習値及び短期学習値、また補正部3dから入力される補正リフト量に基づいて最終目標リフト量(制御目標値)を設定する。上記目標リフト量は、方形波状の電圧値としてEWGバルブ1のリフト量(開度)を指定する信号である。最終リフト量設定部3eは、このような目標リフト量に対して、EWGバルブ1の弁体を弁座に着座させる際の目標リフト量に特定の処理を施すことにより、弁体を弁座に対してソフトランディングさせ得る最終目標リフト量を生成する。
【0029】
すなわち、最終リフト量設定部3eは、弁体が着座するために移動(弁座に対して降下)を開始してから着座させるまでの期間を前期間と後期間との2つの期間に分割し、前期間においては最高速度で降下させる一方、後期間では弁体を比較的緩やかに移動させて弁座に対してソフトランディングさせる最終目標リフト量を生成する。また、最終リフト量設定部3eは、前期間と後期間との切替ポイント(ソフトランディング開始リフト量)及び弁体の最終的な停止目標リフト量を長期学習値及び短期学習値に基づいて設定する。
【0030】
位置制御部3fは、位置操作量を生成して速度制御部3gに出力する。すなわち、この位置制御部3fは、最終リフト量設定部3eから入力される最終目標リフト量(制御目標値)と補正部3dから入力される補正リフト量(制御量)との差分に周知のPID処理を施すことによって位置操作量を生成する。なお、この位置制御部3fにおけるPID処理の制御ゲインは、ゲイン設定部3jによって設定される。
【0031】
速度制御部3gは、位置制御部3fから入力された位置操作量と補正部3dから入力される補正リフト量とに基づいて速度操作量を生成してDUTY設定部3hに出力する。すなわち、この速度制御部3gは、位置制御部3fから入力された位置操作量にリミッタ処理を施す一方、補正部3dから入力される補正リフト量に微分処理を施す。そして、速度制御部3gは、上記リミッタ処理後の位置操作量と上記微分処理によって得られたリフト速度との差分に周知のPID処理を施すことによって速度操作量を生成する。なお、この速度制御部3gにおけるPID処理の制御ゲインも、上記位置制御部3fにおける制御ゲインと同様にゲイン設定部3jによって設定される。
【0032】
DUTY設定部3h及び駆動回路3iについては、便宜上、駆動回路3iについて先に説明する。この駆動回路3iは、パルス駆動方式のモータ駆動回路である。すなわち、この駆動回路3iは、DUTY設定部3hから制御信号として入力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号に基づいて直流電力をPWM電力に変換し、当該PWM電力を駆動信号としてEWGモータ2に出力する。
【0033】
一方、DUTY設定部3hは、上記速度制御部3gから入力される速度操作量に基づいて上記PWM信号を生成するPWM信号発生器である。また、このDUTY設定部3hは、速度操作量にリミッタ処理を施す機能(DUTYリミッタ)を有する。すなわち、DUTY設定部3hは、速度操作量及びDUTYリミッタに基づいて、デューティ比の上限が制限されると共に速度操作量に応じたデューティ比(DUTY)を決定し、当該デューティ比に対応したPWM信号を生成する。
【0034】
ここで、上記デューティ比は、最大値(上限)が例えば100%であり、EWGバルブ1を閉じる場合のEWGモータ2の回転方向(第1の回転方向)を正極性、またEWGバルブ1を開く場合のEWGモータ2の回転方向(第2の回転方向)を負極性をする両極性の量である。すなわち、上記デューティ比は、速度操作量に応じて±100%の範囲内で変化する量である。なお、DUTY設定部3hは、このようなデューティ比をゲイン設定部3jに出力する。
【0035】
ゲイン設定部3jは、最終リフト量設定部3eから入力される最終目標リフト量、制御量変換部3bから入力される実リフト量及びDUTY設定部3hから入力されるデューティ比(DUTY)に基づいて、位置制御部3f及び速度制御部3gにおける各制御ゲインを設定する機能構成要素である。
【0036】
このゲイン設定部3jは、EWGバルブ1のリフト量(開度)を比較的速く変化させる過渡部には比較的大きな制御ゲイン(第1の制御ゲイン)を設定し、EWGバルブ1のリフト量変化(開度変化)が比較的緩やかな定常部には比較的小さな制御ゲイン(第2の制御ゲイン)を設定する。また、このゲイン設定部3jは、EWGバルブ1を閉じる時とEWGバルブ1を開く時とで異なる制御ゲインを設定する。なお、このゲイン設定部3jにおけるゲイン選定処理の詳細については、後述する動作説明で詳しく説明する。
【0037】
次に、このように構成されたバルブシステム及びバルブ制御装置の動作について、
図3及び
図4をも参照して詳しく説明する。
【0038】
本実施形態におけるEWG制御部3(バルブ制御装置)は、基本動作として目標リフト量(制御目標値)とセンサ信号(制御量)とに基づいて駆動信号(操作量)を生成することである。すなわち、EWG制御部3は、目標リフト量とセンサ信号とに基づいてEWGモータ2をフィードバック制御する。そして、このフィードバック制御の結果として、EWGモータ2に機械的に接続されたEWGバルブ1の開度が目標リフト量に従って調節される。
【0039】
最終リフト量設定部3eは、エンジンECU(上位制御系)から入力される目標リフト量、全閉学習処理部3cから入力される長期学習値及び短期学習値並びに補正部3dから入力される補正リフト量に基づいて通常駆動用の最終目標リフト量を設定する。すなわち、最終リフト量設定部3eは、方形波状の電圧信号である目標リフト量について、長期学習値及び短期学習値を用いることによりEWGバルブ1を全閉させる際の立下り部及び全閉時のリフト量を指定するローレベル部を修正することにより最終目標リフト量を生成する。
【0040】
より具体的には、最終リフト量設定部3eは、EWGバルブ1の弁体を弁座に対してソフトランディングさせる際の開始リフト量(ソフトランディング開始リフト量Lk)及び停止目標リフト量Ltを長期学習値、短期学習値及び規定値(定数)に基づいて以下のように設定する。
Lk=長期学習値−短期学習値+規定値
Lt=長期学習値−短期学習値−規定値
そして、最終リフト量設定部3eは、補正部3dから順次入力される補正リフト量を監視し、当該補正リフト量が上記ソフトランディング開始リフト量Lkに一致すると、一定の傾斜(速度)で停止目標リフト量Ltに到達する制御目標値を出力する。
【0041】
ここで、ソフトランディング開始リフト量Lk及び停止目標リフト量Ltは長期学習値、短期学習値及び規定値(定数)によって規定されるが、補正リフト量は、上述したように実リフト量と短期学習値との差分として与えられるものなので、ソフトランディング開始リフト量Lk及び停止目標リフト量Ltは、実質的には長期学習値及び規定値(定数)のみによって規定される量である。なお、補正リフト量ではなく実リフト量を取り込むように最終リフト量設定部3eを構成した場合には、ソフトランディング開始リフト量Lkは(長期学習値+規定値)、また停止目標リフト量Ltは(長期学習値−規定値)となり、長期学習値及び規定値(定数)のみによって規定される。
【0042】
一方、フィルタ部3aは、リフトセンサ2aから入力されるセンサ信号(アナログ信号)を順次サンプリングして検出電圧データ(デジタル信号)に変換し、当該検出電圧データにメディアンフィルタ処理を施す。このメディアンフィルタ処理によって検出電圧データに重畳しているセンサ信号に由来するノイズ成分が除去されるので、検出電圧データは、リフト量をより正確に示す信号となる。そして、上記メディアンフィルタ処理によってノイズが除去された検出電圧データ(電圧量)は、制御量変換部3bにおいてリフト量に変換されて全閉学習処理部3c、補正部3d及びゲイン設定部3jに出力される。
【0043】
全閉学習処理部3cは、エンジンECUから入力されるIG ON信号をトリガー信号として、エンジンが起動する度に制御量変換部3bから順次入力される実リフト量のうち、EWGバルブ1の弁体が弁座に着座した際のリフト量を長期学習値として学習する。すなわち、全閉学習処理部3cは、IG ON信号に基づいてエンジンの起動を判断し、またEWGバルブ1の弁体が弁座に着座する度に、その際の全閉リフト量を短期学習値として取得・更新する。
なお、全閉学習処理部3cは、エンジンの停止時に長期学習値を不揮発性メモリに保存し、次にエンジンが起動した際には、上記保存した長期学習値を短期学習値の初期値として出力する。
【0044】
このような学習処理によって取得された長期学習値及び短期学習値のうち、長期学習値は最終リフト量設定部3eに提供されて、上述した最終目標リフト量の生成に利用され、一方、短期学習値は補正部3dに供給される。そして、補正部3dでは、実リフト量から短期学習値が減算されて補正リフト量が生成される。
【0045】
そして、位置制御部3fは、最終目標リフト量と補正リフト量との差分に基づいて位置操作量を生成して速度制御部3gに出力し、当該速度制御部3gは、上記位置操作量と補正リフト量の微分値との差分に基づいて速度操作量を生成する。そして、DUTY設定部3hは、デューティ比が上記速度操作量に応じて設定されたPWM信号を生成して駆動回路3iに出力し、当該駆動回路3iは、PWM信号に応じた波高値の駆動信号を生成してEWGモータ2を駆動する。なお、速度制御部3gには速度リミッタが設定され、またDUTY設定部3hにはDUTYリミッタが設定されているので、EWGモータ2の最高回転速度は許容範囲内に確実に制限される。
【0046】
以上がEWG制御部3(バルブ制御装置)の基本動作であるが、位置制御部3fが位置操作量を生成する際に用いる制御ゲイン(位置制御ゲイン)及び速度制御部3gが速度操作量を生成する際に用いる制御ゲイン(速度制御ゲイン)は、ゲイン設定部3jによって以下のように設定される。
【0047】
すなわち、ゲイン設定部3jは、最終リフト量設定部3eから入力される最終目標リフト量と制御量変換部3bから入力される実リフト量とを減算処理することにより目実偏差を計算する(ステップS1)。そして、ゲイン設定部3jは、上記目実偏差に移動平均処理を施すことによりノイズを除去し(ステップS2)、さらに絶対値処理を施すことにより目実偏差の絶対値を計算する(ステップS3)。さらに、ゲイン設定部3jは、目実偏差の絶対値を所定の偏差しきい値(第1の偏差しきい値)と比較処理することにより、最終目標リフト量の過渡部と定常部とを判定する(ステップS4)。
【0048】
ここで、比較処理S4にはヒステリシスが設定されている。すなわち、比較処理S4の論理値が「0」→「1」に遷移する場合の第1の偏差しきい値は、論理値が「1」→「0」に遷移する場合の第1の偏差しきい値とは異なる値に設定されている。このようなヒステリシスの設定は、目実偏差の絶対値が第1の偏差しきい値に対して近い値の場合において、目実偏差の絶対値の変動によって比較処理S4の論理値が変動することを抑制するためのものである。
【0049】
過渡部とは、
図4に示すように、最終目標リフト量においてEWGバルブ1のリフト量(開度)を比較的速く変化させる部位であり、定常部とは、EWGバルブ1のリフト量(開度)変化が比較的緩やかな部位である。ゲイン設定部3jは、目実偏差の絶対値が第1の偏差しきい値以下の場合は最終目標リフト量の定常部と判定し、目実偏差の絶対値が第1の偏差しきい値よりも大きい場合は最終目標リフト量の過渡部と判定する。
【0050】
すなわち、定常部では制御偏差が比較的小さいが、過渡部では制御遅れやオーバーシュート等が発生し易いので制御偏差が比較的大きい。このようなフィードバック制御における制御特性に鑑みて、ゲイン設定部3jは、目実偏差の絶対値を用いて定常部と過渡部とを識別する。
【0051】
また、ゲイン設定部3jは、最終目標リフト量に移動平均処理を施すことにより最終目標リフト量の平均値を取得し(ステップS5)、この平均値に微分処理を施すことにより最終目標リフト量の変化量(目標変化量)を取得し(ステップS6)、さらに絶対値処理を施すことにより目標変化量の絶対値を計算する(ステップS7)。そして、ゲイン設定部3jは、目標変化量の絶対値を所定の目標変化量しきい値と比較処理することにより、目標変化量の大小を判定する(ステップS8)。なお、この比較処理S8にも、上述した比較処理S4と同様にヒステリシスが設定されている。
【0052】
すなわち、ゲイン設定部3jは、目標変化量の絶対値が目標変化量しきい値以下の場合は目標変化量が比較的小さい値であると判定し、目標変化量の絶対値が目標変化量しきい値よりも大きい場合には、目標変化量が比較的大きい値であると判定する。目標変化量の絶対値が目標変化量しきい値以下の状態は、最終目標リフト量の変化が比較的小さい状態つまり上述した定常部の状態であり、目標変化量の絶対値が目標変化量しきい値よりも大きい状態は、最終目標リフト量の変化が比較的大きい状態つまり上述した過渡部の状態である。
【0053】
さらに、ゲイン設定部3jは、実リフト量についても移動平均処理を施すことにより実リフト量の平均値を取得し(ステップS9)、この平均値に微分処理を施すことにより変化量(実変化量)を取得し(ステップS10)、さらに絶対値処理を施すことにより実変化量の絶対値を計算する(ステップS11)。そして、ゲイン設定部3jは、実変化量の絶対値を所定の実変化量しきい値と比較処理することにより、実変化量の大小を判定する(ステップS12)。なお、この比較処理S12にも、上述した比較処理S4、S8と同様にヒステリシスが設定されている。
【0054】
すなわち、ゲイン設定部3jは、実変化量の絶対値が実変化量しきい値以下の場合は実変化量が比較的小さい値であると判定し、実変化量の絶対値が実変化量しきい値よりも大きい場合には、実変化量が比較的大きい値であると判定する。実変化量の絶対値が実変化量しきい値以下の状態は、実リフト量の変化が比較的小さい状態つまり上述した定常部の状態であり、実変化量の絶対値が実変化量しきい値よりも大きい状態は、実リフト量の変化が比較的大きい状態つまり上述した過渡部の状態である。
【0055】
上述した3つの比較処理S4,S8,S12の何れかによって、EWGモータ2のフィードバック制御における定常状態(最終目標リフト量の定常部)と過渡状態(最終目標リフト量の過渡部)とが識別される。例えば、各比較処理S4,S8,S12の論理値は、何れも定常状態の場合に「0」であり、過渡状態の場合に「1」となる。ゲイン設定部3jは、このような比較処理S4,S8,S12の論理値について論理和処理を行う(ステップS13)。
【0056】
また、ゲイン設定部3jは、目実偏差を第2の偏差しきい値と比較処理することにより、最終目標リフト量と実リフト量との大小関係を判定する(ステップS14)。最終目標リフト量が実リフト量より大きい状態は、
図4(a)、(b)に示すようにEWGバルブ1の開度を上昇させる場合(EWGバルブ1を開ける場合)に相当する。最終目標リフト量が実リフト量以下である状態は、
図4(a)、(b)に示すようにEWGバルブ1の開度を下降させる場合(EWGバルブ1を閉じる場合)に相当する。すなわち、上記比較処理S14によってEWGバルブ1を開ける状態と閉める状態とが識別される。なお、
図4における中間開度とは、EWGバルブ1が、全閉である時の開度と、全開である時の開度の間の開度を示す。
【0057】
さらに、ゲイン設定部3jは、DUTY設定部3hから入力されるデューティ比(DUTY)をDUTYしきい値と比較処理することによりデューティ比の極性を評価し(ステップS15)、当該比較処理の論理値に否定論理処理を施す(ステップS16)。デューティ比は、上述したようにEWGバルブ1を閉じる場合の正極性であり、またEWGバルブ1を開く場合に負極性となる。上記比較処理S15の論理値は、比較処理S14の論理値に対して論理が反転した結果になる。したがって、否定論理処理S16の論理値は、EWGバルブ1の開/閉に対して比較処理S14の論理値と整合したものとなる。
【0058】
ゲイン設定部3jは、このような比較処理S14の論理値と否定論理処理S16の論理値とを論理積処理する(ステップS17)。この論理積処理S17の論理値は、目実偏差に基づいてEWGバルブ1が開く状態にあると判定された場合(比較処理S14の論理値が「1」の場合)、かつ、デューティ比(DUTY)に基づいてEWGバルブ1が開く状態にあると判定された場合(否定論理処理S16の論理値が「1」の場合)に「1」となり、比較処理S14あるいは/及び否定論理処理S16の論理値が「0」の場合には「0」となる。
【0059】
そして、ゲイン設定部3jは、上述した論理和処理S13の論理値と論理積処理S17の論理値とに基づいて位置制御ゲイン及び速度制御ゲインのゲイン選択処理を行う(ステップS18)。すなわち、ゲイン設定部3jは、論理和処理S13の論理値が示すEWGモータ2のフィードバック制御の制御状態(定常状態あるいは過渡状態)及び論理積処理S17の論理値が示すEWGバルブ1の動作状態(開く状態あるいは閉じる状態)、つまり当該4つの状態に基づいて制御テーブル(2次元テーブル)を検索することにより、4つの状態に応じた位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを選択する。なお、上記4つの状態は、最終目標リフト量について見た場合に、
図4に示すように定常開部、定常閉部、過渡閉部、過渡開部に相当する。
【0060】
ゲイン設定部3jは、上記ゲイン選択処理S18において、過渡状態かつ閉じる状態の場合(過渡閉部)には、過渡状態では、最終目標リフト量に対する実リフト量の追従性を最も良好にする必要があるので、またエンジン排気の排圧に対抗する必要があるので、最も大きな位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを設定する。また、ゲイン設定部3jは、過渡状態においてEWGバルブ1を開く場合(過渡開部)には、上記過渡閉部よりも若干小さな位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを設定する。
【0061】
また、ゲイン設定部3jは、定常状態の場合(定常開部及び定常閉部)には、実リフト量(開度)の安定性を重視する、つまり実リフト量(開度)の微小変動を抑制するために、EWGバルブ1の動作状態(開く状態あるいは閉じる状態)に関わりなく、最も小さな位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを設定する。さらに、ゲイン設定部3jは、定常状態の場合においてEWGバルブ1を閉じる場合(定常閉部)には、定常状態の場合においてEWGバルブ1を開く場合(定常開部)よりも若干大きな位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを設定する。
【0062】
このような本実施形態によれば、EWGバルブ1を開く場合と閉じる場合とで異なる位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを設定するので、排気圧力の影響下であってもEWGバルブ1の実リフト量(実開度)の最終目標リフト量(目標開度)に対する追従性を維持することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、EWGバルブ1を開く場合よりも閉じる場合により大きな位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを設定するので、排気圧力の影響下であってもEWGバルブ1の開閉時において実リフト量(実開度)の最終目標リフト量(目標開度)に対する追従性を維持することができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、定常状態(定常部)の位置制御ゲイン及び速度制御ゲインに比較して過渡状態(過渡部)の位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを高く設定するので、排気圧力の影響下であってもEWGバルブ1の開閉時において実リフト量(実開度)の最終目標リフト量(目標開度)に対する追従性を維持することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、EWGバルブ1を開く時において、定常状態(定常部)の位置制御ゲイン及び速度制御ゲインに比較して過渡状態(過渡部)の位置制御ゲイン及び速度制御ゲインを高く設定するので、排気圧力の影響下であってもEWGバルブ1の実リフト量(実開度)の最終目標リフト量(目標開度)に対する追従性を維持することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、3つの比較処理S4,S8,S12の論理値を論理和処理S13することによって過渡状態(過渡部)と定常状態(定常部)とを識別するので、比較処理S4,S8,S12の何れか1つあるいは2つを用いる場合に比較して過渡状態と定常状態とを的確に識別することができる。なお、比較処理S4,S8,S12の何れか1つを用いる場合には、比較処理S4を用いること、つまり最終目標リフト量と実リフト量との差分に基づいて過渡状態と定常状態とを識別することが信頼性(安定性)の観点から好ましい。さらに、比較処理S4,S8,S12の何れか2つを用いる場合には、比較処理S4,S8を用いることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態によれば、比較処理S14の論理値と否定論理処理S16の論理値とを論理積処理S17することによってEWGバルブ1が開く状態とEWGバルブ1が閉じる状態とを識別しているので、比較処理S14の論理値あるいは否定論理処理S16の論理値のいずれか一方を用いる場合に比較してEWGバルブ1が開く状態とEWGバルブ1が閉じる状態とを的確に識別することができる。なお、比較処理S14の論理値あるいは否定論理処理S16の論理値のいずれか一方を用いる場合には、否定論理処理S16の論理値を用いること、つまりDUTY設定部3hが計算したデューティ比(DUTY)を採用することが信頼性(安定性)の観点から好ましい。
【0068】
さらに、本実施形態によれば、3つの比較処理S4,S8,S12にヒステリシスが設定されているので、過渡状態と定常状態との識別結果が変動することを抑制することができる。したがって、位置制御ゲイン及び速度制御ゲインの頻繁な切替を抑制し、以ってEWGバルブ1を安定制御することができる。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、EWGバルブ1(ウエストゲートバルブ)を制御対象バルブとしたが、本発明はこれに限定されない。本発明は、エンジンにおけるEWGバルブ1(ウエストゲートバルブ)以外の各種バルブ、つまり各種の流量調節弁や開閉弁に適用可能である。
【0070】
(2)上記実施形態では、制御状態の過渡状態と定常状態との識別に加えて、EWGバルブ1が開く状態と閉じる状態とを識別したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、必要に応じてEWGバルブ1が開く状態と閉じる状態との識別を割愛してもよい。
【0071】
(3)上記実施形態では、3つの比較処理S4,S8,S12によって制御状態の過渡状態と定常状態とを識別したが、本発明はこれに限定されない。3つの比較処理S4,S8,S12の何れか1つあるいは2つを用いて過渡状態と定常状態とを識別してもよい。また、3つの比較処理S4に設定したヒステリシスについても必要に応じて割愛するか、あるいはノイズの影響を比較的受け難い比較処理S8のみとしてもよい。
【0072】
(4)上記実施形態では、比較処理S14と比較処理S15とに基づいてEWGバルブ1が開く状態と閉じる状態とを識別したが、本発明はこれに限定されない。比較処理S14あるいは比較処理S15の何れか一方に基づいてEWGバルブ1が開く状態と閉じる状態とを識別してもよい。