特許第6482087号(P6482087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6482087DNAメチル化解析方法ならびにCYP3A4発現量推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482087
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】DNAメチル化解析方法ならびにCYP3A4発現量推定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20190304BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20190304BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20190304BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C12N15/10 100
   C12Q1/68
   C12Q1/686
   G01N33/53 D
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-505212(P2016-505212)
(86)(22)【出願日】2015年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2015055106
(87)【国際公開番号】WO2015129646
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2018年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-34688(P2014-34688)
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】家入 一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 豪
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102344958(CN,A)
【文献】 江口駿介他,CYP3A4遺伝子発現の個人差解明を指向したエピジェネティック解析,第28回日本薬学会九州支部大会講演要旨集,2011年,p.24
【文献】 Kacevska M. et al.,DNA methylation dynamics in the hepatic CYP3A4 gene promoter.,Biochimie,2012年,Vol.94, No.11,pp.2338-2344
【文献】 Habano W. et al.,METHYLATION OF PXR, VDR AND PRMT1 GENES AND THEIR ROLES IN THE REGULATION OF CYP3A4 EXPRESSION IN CO,第24回日本薬物動態学会年会講演要旨集,2009年,p.269 1-P-57
【文献】 Hayashi T. et al.,Regulation of CYP3A4 Expression Level in Japanese Liver.,第27回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集,2004年,p.444, 1PA-163
【文献】 Xu W. et al.,Isolation of circulating tumor cells in patients with hepatocellular carcinoma using a novel cell se,Clin Cancer Res.,2011年,Vol.17, No.11,pp.3783-3793
【文献】 藤元治朗他,原発性肝癌肝切除例における自己血輸血法の安全性と有用性,日本外科学会雑誌,1991年,Vol.92, No.7,pp.825-830
【文献】 遺伝子空間的転写モデルに基づいたCYP3A4代謝活性の個人差解明とその臨床展開,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2014年 5月30日,課題番号 23390035
【文献】 江口駿介他,ヒトCYP3A4遺伝子発現のゲノム空間構造解析に基づく個人差解明,日本薬学会第133年会,2013年,28pmF-211S
【文献】 遺伝子空間的転写モデルに基づいたCYP3A4代謝活性の個人差解明とその臨床展開,KAKEN 2012年度実績報告書,2014年 7月24日,研究課題/領域番号 23390035
【文献】 藤田麻里絵他,エピジェネティック制御機構に基づくCYP3A4遺伝子発現制御メカニズムの解析,第30回日本薬学会九州支部大会講演要旨集,2013年,p.132,2-A-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
C12P 21/00−21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト血液中から正常な肝臓由来細胞を分離する肝臓由来細胞分離工程と,
分離された肝臓由来細胞のDNAを抽出するDNA抽出工程と,
肝臓由来細胞のDNAにおいて,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れた配列5に示される領域のメチル化の度合いを解析するメチル化解析工程とを含むことを特徴とするDNAメチル化解析方法
【請求項2】
解析工程における肝臓由来細胞DNAが,抽出工程を経た後,さらにCYP3A4遺伝子から5Mbp離れた配列5に示される領域のDNAをPCR法にて増幅する増幅工程を経て得られることを特徴とする請求項1に記載のDNAメチル化解析方法
【請求項3】
増幅工程に用いるプライマー配列が,配列番号12及び/又は配列番号13に示すプライマーであることを特徴とする請求項2に記載のDNAメチル化解析方法
【請求項4】
肝臓由来細胞分離工程が,
ヒト血液中から細胞ペレットを経る細胞ペレット分離工程と,
細胞ペレットに,肝臓に特異的に発現する抗原ないしレセプターをターゲットとして,肝臓由来細胞を選択的に分離する選択的分離工程とからなることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のDNAメチル化解析方法
【請求項5】
細胞ペレット分離工程が,密度勾配遠心分離法を用いてなされることを特徴とする請求項4に記載のDNAメチル化解析方法
【請求項6】
選択的分離工程におけるターゲットが,アシアロ糖タンパク質受容体であることを特徴とする請求項4又は5に記載のDNAメチル化解析方法
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載のDNAメチル化解析方法により,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れた配列5に示される領域のメチル化度合いの評価を行い,ヒト肝臓のCYP3A4の発現量を推定することを特徴とするインビトロCYP3A4発現量推定方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,DNAメチル化解析方法ならびにCYP3A4発現量推定方法に関する。より詳しくは,ヒトの血液をサンプルとして用いて肝臓由来正常細胞を分離し,この肝臓由来正常細胞からDNAの抽出を行い,さらに,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れたCpG islandの一部の領域のDNAメチル化解析を行い,その結果をもとに人体におけるCYP3A4発現量を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Cytochrome P450(CYP)は,生体内物質や外界からの異物などの代謝を幅広く担っている代謝酵素である。CYPは,薬物代謝において極めて重要な役割を果たしており,医薬品の80〜90%の代謝に関わっていることが知られている。CYPには基質特異性の異なる複数の分子種が存在する。中でもCYP3A4は,主要代謝臓器である肝臓において,CYPの中で最も多く発現している(非特許文献1)。
【0003】
CYP3A4は,主に肝臓および小腸に分布しており,現在の臨床現場で用いられている薬物の半数以上を基質とする。このことからCYP3A4は,薬物治療における個別適正化において重要な代謝酵素の1つである(非特許文献2)。しかし,ヒト肝臓においてCYP3A4は,発現量が約50倍,酵素活性が約10〜20倍の個人差があることが報告されている(非特許文献3)。
CYP3A4活性の個人差は60〜90%が遺伝的要因によるものだという報告がある(非特許文献4)。この報告をはじめとして,これまでCYP3A4遺伝子のexon領域,intron領域,5’上流,3’下流非翻訳領域について遺伝子多型解析が行われてきた。しかしながら,個人差に重要となるSNPsは見つかっておらず,個人差の要因は不明であった。このような事情もあって,近年,個人差要因を説明する機構として,遺伝子配列の変化を伴わない遺伝子発現制御機構であるエピジェネティクス機構について研究が行われてきている。
【0004】
エピジェネティックな制御機構の1つとして,DNAメチル化が知られている。哺乳類のDNAは,全配列の60〜90%がメチル化されている。一般的に,DNAメチル化では遺伝子上のCG配列のC5位炭素原子がメチル化される。CG配列が高頻度に出現するCpG islandと呼ばれる領域では,CG配列の多くはメチル化されていない。また,遺伝子プロモーター領域や転写開始部位がメチル化されることで,遺伝子発現が抑制されることが知られている(非特許文献5,6)。
【0005】
DNAメチル化と疾患の関連性について様々な検討が行われており,疾患によってはDNAメチル化状態が変化し遺伝子発現量が変化することが知られている。このことから,DNAメチル化との関連性が高い疾患である癌において,バイオマーカーや治療効果の判定を行う際にDNAメチル化解析を利用する試みが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Evans WE, Relling MV. (1999) Pharmacogenomics: translating functional genomics into rational therapeutics. Science, 286:487-91.
【非特許文献2】Vincent J. Wacher, Chi-Yuan Wu, and Leslie Z Benet. (1995) Overlapping substrate specificities and tissue distribution of cytochrome P450 3A and P-glycoprotein: Implications for drug delivery and activity in cancer chemotherapy. Moleular Carcinogenesis, 13:129-134.
【非特許文献3】Shimada T, Yamazaki H, Himura M, Inui Y, Guengerich FP. (1994) Interindividual variations in human liver cytochrome P-450 enzymes involved in the oxidation of drug, carcinogens and toxic chemicals: studies with liver microsomes od 30 Japanese and 30 Caucasians. J Pharmacol Exp Ther, 270(1):414-23.
【非特許文献4】Lown KS, Thummel KE, Benedict PE, Shen DD, Turgeon DK, Berent S, Watkins PB. (1995) The erythromycin breath test predicts the clearance of midazolam. Clin Phermacol Ther, 57(1):16-24.
【非特許文献5】Ng HH and Bird A. (1999) DNA methylation and chromatin modification. Current Opinion Genetics&Development 9:158-163.
【非特許文献6】Nakao M. (2001) Epigenetics: interaction of DNA methylation and chromatin. GENE 278:25-31.
【非特許文献7】Koch I, Weil R, Wolbold R, Brockmoller J, Hustert E, Burk O, Nuessler A, Neuhaus P, Eichelbaum M, Zander U, Wojnowski L. (2002) Interindividual variability and tissue-specificity in the expression of cytochrome P450 3A mRNA. Drug Metabolism and Disposition
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは,ヒト肝臓組織のDNAメチル化解析により,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れたCpG islandの一部の領域(Differentially methylated region,DMR)において,個人間でDNAメチル化頻度にばらつきが見られ,DMRにおけるDNAメチル化頻度とCYP3A4発現量との間に強い相関が認められることを明らかにしている。
【0008】
このCYP3A4遺伝子から5Mbpも離れた遺伝子領域のメチル化が,CYP3A4の発現に影響を及ぼしているという知見は,遺伝学の常識からは考えられないものであり,極めて貴重な知見である。
さらにこの知見は,DMRにおけるDNAメチル化がCYP3A4発現の個人差において一定の役割を果たしており,DNAメチル化を解析することでCYP3A4発現量を推測できる可能性があることを示すものである。しかしながら,ヒト肝組織を採取することは臨床的に難しく,ヒト肝組織におけるCYP3A4発現量予測を可能とするバイオマーカーは未だ確立されていない。
【0009】
上記事情を背景として本発明では,ヒト個体の薬物代謝能に応じた適切な医療を提供することにつながりうる,DMRにおけるメチル化解析方法,ならびにヒト個体におけるCYP3A4の発現量推定方法の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは,鋭意研究の結果,血液中に存在するかもしれない,肝臓から剥離した肝細胞を分離すること,および,その肝細胞のDNA抽出およびDNAメチル化解析を行うことに着想した。
【0011】
発明者らが確認を行ったところ,血液中から正常な肝細胞の分離に成功した。加えて,この分離した肝臓由来正常細胞を用いて,DNAの抽出およびDNAメチル化解析が可能であることを確認した。
これらにより,ヒトの血液をサンプルとして用いて肝臓由来正常細胞を分離し,この肝臓由来正常細胞のDNAを用いることにより,DMRにおけるメチル化解析方法およびヒト個体におけるCYP3A4発現量推定する方法の発明を完成させた。
【0012】
本発明は,以下の構成からなる。
本発明の第一の構成は,ヒト血液中から正常な肝臓由来細胞を分離する肝臓由来細胞分離工程と,分離された肝臓由来細胞のDNAを抽出するDNA抽出工程と,肝臓由来細胞のDNAにおいて,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れた遺伝子領域のメチル化の度合いを解析するメチル化解析工程とを含むことを特徴とするDNAメチル化解析方法である。
【0013】
本発明の第二の構成は,解析工程における肝臓由来細胞DNAが,抽出工程を経た後,さらにCYP3A4遺伝子から5Mbp離れた遺伝子領域のDNAをPCR法にて増幅する増幅工程を経て得られることを特徴とする第一の構成に記載のDNAメチル化解析方法である。
本発明の第三の構成は,増幅工程に用いるプライマー配列が,配列番号12ないし配列番号13に示すプライマーであることを特徴とする第二の構成に記載のDNAメチル化解析方法である。
【0014】
本発明の第四の構成は,肝臓由来細胞分離工程が,ヒト血液中から細胞ペレットを経る細胞ペレット分離工程と,細胞ペレットに,肝臓に特異的に発現する抗原ないしレセプター等をターゲットとして,肝臓由来細胞を選択的に分離する選択的分離工程とからなることを特徴とする第一ないし第三の構成に記載のDNAメチル化解析方法である。
本発明の第五の構成は,細胞ペレット分離工程が,密度勾配遠心分離法を用いてなされることを特徴とする第四の構成に記載のDNAメチル化解析方法である。
本発明の第六の構成は,選択的分離工程におけるターゲットが,アシアロ糖タンパク質受容体であることを特徴とする第四又は第五の構成に記載のDNAメチル化解析方法である。
【0015】
本発明の第七の構成は,第一ないし第六の構成に記載のDNAメチル化解析方法により,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れた遺伝子領域のメチル化度合いの評価を行い,ヒト肝臓のCYP3A4の発現量を推定することを特徴とするインビトロCYP3A4発現量推定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により,DMRにおけるメチル化解析方法,ならびにヒト個体におけるCYP3A4の発現量推定方法の提供が可能となった。これにより,ヒト個体の薬物代謝能に応じた適切な医療を提供することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】肝臓由来正常細胞におけるGSTP1プロモーター領域のメチル化解析結果を示した図
図2】磁気分離前細胞におけるRNA検出結果を示した図
図3】磁気分離後細胞におけるRNA検出結果を示した図
図4】DMRにおけるDNAメチル化度合いが,CYP3A4遺伝子の転写活性に及ぼす影響を示した図
図5】ルシフェーラゼアッセイの結果を示した図
図6】各検体におけるCYP3A4のmRNA発現を比較した図
図7】メチル化解析を行ったCpG islandsを示した図
図8】各CpG islandsにおけるメチル化頻度を解析した結果を示した図
図9】DMRにおけるメチル化頻度と,AERの相関について解析を行った結果を示した図
図10】DMRにおけるメチル化頻度と,CYP3A4のmRNA発現量の相関について解析を行った結果を示した図
図11】ヒト末梢血細胞ペレットを用いたクローニング-シークエンス法ならびにCOBRA (Combined Bisulfite Restriction Analysis)法によるメチル化解析結果を示した図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では,本発明のDNAメチル化解析方法ならびにCYP3A4発現量推定方法について説明を行う。
【0019】
<<DNAメチル化解析方法の概要>>
本発明のDNAメチル化解析方法では,まず,ヒトの血液を用いて,その血液から正常な肝臓由来細胞を分離する(肝臓由来細胞分離工程)。そして分離された肝臓由来細胞からDNAの抽出を行う(DNA抽出工程)。この抽出されたDNAについて,CYP3A4遺伝子から5Mbp離れた遺伝子領域(82563-82608 [GenBank accession number : AC069292],以下,「DMR」)のメチル化の度合いを解析する(メチル化解析工程)。
よって,本発明のDNAメチル化解析方法では,肝臓由来細胞分離工程,DNA抽出工程,メチル化解析工程,これら3つの工程を必須の構成とする。以下では,これらの工程について説明を行う。
【0020】
[肝臓由来細胞分離工程]
肝臓由来細胞分離工程は,ヒト血液中から,肝臓由来の正常細胞を分離する工程である。肝臓由来細胞分離工程は,この肝臓由来正常細胞の分離が可能な限り特に限定する必要はなく,種々の手法を単独,もしくは組み合わせて用いることができる。
【0021】
肝臓由来細胞分離工程の一例として,密度勾配遠心分離法と磁気ビーズによる分離を組み合わせた手法が挙げられる。
【0022】
まず,密度勾配遠心分離法により細胞ペレットを得る方法について説明する。
フィコールやパーコール等の密度勾配遠心用の試薬を滅菌チューブに入れ,その上にヒト血液サンプルを静置し,遠心分離を行う。ヒト血液サンプルについては直接用いてもよいが,バッファー等により溶血作業を行ったものを用いてもよい。また,遠心分離の条件については,用いる血液サンプルや密度勾配遠心用試薬によって適宜調整すれよい。
密度勾配遠心分離法により得られた細胞ペレットは,肝臓由来正常細胞以外に,白血球などの他の細胞を含んでいる。よって,この細胞ペレットから,肝由来正常細胞を選択的に抽出する必要がある。
このように,肝臓由来細胞分離工程においては,密度勾配遠心分離法を用いることが好ましい。これにより,簡便に肝臓由来正常細胞を含む細胞ペレットを得ることができ,本発明のDNAメチル化解析方法の作業効率を向上させる効果を有する。
【0023】
続いて磁気ビーズによる分離により,得られた細胞ペレットから肝臓由来正常細胞を抽出する方法について説明する。
得られた細胞ペレットと,肝臓特異的に発現している抗原ないし受容体と結合するタンパク等を反応させる。このような抗原ないし受容体として,アシアロ糖タンパク質受容体などが挙げられる。また,反応させるタンパク等は,その後の磁気ビーズとの反応のため,ビオチンなどのラベル分子を予め結合させておく。
次に,反応により得られたタンパク結合細胞ペレットと,磁気ビーズとを反応させる。この際に用いる磁気ビーズは,ラベル分子に結合する抗体等を結合させておく。この反応により,磁気ビーズがラベル分子を介して肝臓由来正常細胞に結合する。これを,カラムなどにより精製することにより,細胞ペレットから肝臓由来正常細胞を選択的に分離することができる。
このように,肝臓由来細胞分離工程において,肝臓に特異的に発現する抗原ないしレセプター等をターゲットとして,肝臓由来細胞を選択的に分離することが好ましい。これにより,肝臓由来正常細胞を効率的に抽出することが可能なり,本発明のDNAメチル化解析方法の作業効率を向上させる効果を有する。
【0024】
[DNA抽出工程]
DNA抽出工程は,肝臓由来細胞分離工程により得られた肝臓由来正常細胞からDNAを抽出する工程である。DNA抽出工程は,このDNA抽出が可能な限り特に限定する必要はなく,種々の手法を用いることができる。
一例をあげると,タンパク質分解酵素等により細胞組織由来タンパク質を分解後,フェノール及びクロロホルムを用いて核酸抽出や精製を行ったり,市販されている抽出キットを用いて得られた核酸を抽出したりするなどである。
【0025】
得られたDNAについて,DMRのDNAを,PCR法などの核酸増幅方法により,増幅することが好ましい。これにより,本発明におけるDNAメチル化解析の精度を向上させる効果を有する。
核酸増幅法としてPCR法を例にあげると,プライマーとして配列番号12ないし配列番号13に示すプライマーを用い,耐熱性DNAポリメラーゼ,デオキシヌクレオチド3リン酸などの基質を反応溶液に加え,熱変性,アニーリング,伸長反応を行い,これらのサイクルを繰り返すことにより核酸増幅を行えばよい。
【0026】
[メチル化解析工程]
メチル化解析工程は,DMRにおけるメチル化の度合いを解析する工程である。メチル化解析工程は,DMRにおけるメチル化解析が可能限り特に限定する必要はなく,種々のメチル化解析手法を用いることができる。このようなメチル化解析手法として,バイサルファイトシークエンス法,バイサルファイトクローニングシークエンス法,Methylation Specific PCR法,COBRA (Combined Bisulfite Restriction Analysis)法,Methylated DNA immunoprecipitation (MeDIP)法などが挙げられる。
一例として,バイサルファイトシークエンス法を用いたDNAメチル化解析を挙げると,得られたDNAにバイサルファイト処理を行ない,非メチル化シトシンをウラシルに変換する。そして,バイサルファイト処理前後で生じるシトシンとチミン(ウラシル)の差異を配列データとして得,これをメチル化の度合いとして評価すればよい。
【0027】
<<CYP3A4発現量推定方法の概要>>
上述したDNAメチル化解析方法を経て,DMRにおけるメチル化度合いに関する情報を得ることが可能となる。このメチル化度合いの情報をもとに,ヒト肝臓におけるCYP3A4発現量の推定を行う。DMRにおけるメチル化頻度が低いほど,CYP3A4のmRNA量が多いことから,CYP3A4の発現量についても低いことが考えられる。
【実施例】
【0028】
<<実験例1.末梢血からの細胞ペレットの分離>>
ヒトの末梢血から,肝臓由来の正常細胞が分離できるかについて検討を行うに際し,肝臓由来正常細胞と推定される細胞ペレットの分離を行うことを目的として行った。
【0029】
<実験概容>
1.チューブに,18〜20℃に調整したヒト末梢血サンプル14mLと等量のbalanced solutionを入れ転倒混和した。なお,balanced solutionについては,下記,solution Aとsolution Bを1対9の比で混合したものを用いた。
[Solution A]
D-glucose(20mg),CaCl2(0.148mg),MgCl2(3.984mg),KCl(8.052mg),Tris
(349.13mg)を超純水にて溶解し,pH7.6に調整後,20mLにメスアップしたもの
[Solution B]
NaCl(368.55mg/45mL)
2.50mLチューブにFicoll-Paque mediaを20mL分取し,その上に血液とbalanced salt solutionの混合溶液を加え,1750rpmで40分間遠心した。
3.上清を除去後,中間層を新しいチューブに入れ,3倍量のbalanced salt solutionを加えて1750rpmで15分間遠心した。
4.上清を除去後,7mLのbalanced salt solutionを加え,1750rpmで10分間遠心し,上清を除去し細胞ペレットを得た。
【0030】
<<実験例2.asialofetuinのbiotin化>>
細胞ペレットを間接的にMicrobeadsに結合させるためのターゲット抗原としてbiotinを用いることから,asialofetuinのbiotin化を目的として行った。
【0031】
<実験概容>
1.0.2mg asialofetuinを100μLのWS bufferで溶かし,Filtration Tube に入れ,ピペッティングした後,8000×gで10分間遠心し,洗浄を行った。
2.NH2-Reactive Biotinに10μL DMSOを加え溶解させた。
3.1のFiltration tubeに,100μL Reaction buffer,DMSOで溶解したNH2-Reaction Biotin全量の順に加えた後,37℃で10分間インキュベートし,asialofetuinのbiotin化反応を行った。
4.3の溶液に,100μL WS bufferを加え,8000×gで10分間遠心し,上清を除去することにより,洗浄作業を行った。同様の洗浄作業をさらに1回行った。
5.4で得られた溶液の上清を除去後,200μL WS buffer を加え,10回以上ピペッティングしたものをbiotinylated asialofetuin溶液として得た。この溶液は,4℃で保存し,後の実験に用いた。
【0032】
<<実験例3,Asialofetuin,microbeadsによる標識と磁気分離>>
細胞ペレット中に存在するであろう肝臓由来正常細胞を分離するために行った。
【0033】
<実験概容>
1.WS Bufferで細胞ペレットを懸濁した後,biotinylated asialofetuin溶液20μLと混合し,37℃で45分間インキュベートを行い,正常肝細胞のasialofetuin受容体とbiotinylated asialofetuinを反応させた。
2.1で得られた反応溶液を400×gで5分間遠心後,上清を除去し,1mL Bufferを加えさらに300×gで10分間遠心し,洗浄作業を行った。なお,Bufferとしては下記のとおり調製したものを用いた。
[Buffer]
dH2O 16mL,10×PBS 2mL,0.5 M EDTA 80μLを混合し,pH 7.6に調整し
19mLにメスアップした後,1mL 10% BSA を加えたもの
3.2で遠心分離したものの上清を除去し,残渣を80μLのBufferで溶出した。これに,20μL Anti-Biotin MicroBeadsを加えて十分に混合した後,4℃で15分間インキュベートした。これにより,正常肝細胞にasialofetuin受容体を介して結合しているbiotinと,microbeads上のAnti-biotinを反応させた。
4.3の反応液を300×gで遠心後,上清を除去し500μL Bufferを加え300×gで遠心して洗浄作業を行った。残渣を500μL Bufferで溶出し細胞懸濁液として,その後の分離に用いた。
5.MACS separatorにカラムを設置し,500μL Bufferでカラムをリンスした。
6.4で得られた細胞懸濁液中の凝集塊を取り除くために,プレセパレーションフィルターを設置した。
7.細胞懸濁液をフィルターにapplyし,溶液が落ち切った後に500 μL Bufferで3回洗浄した。
8.MACS separator からカラムを外し,安定な場所へ設置して1mL Bufferを加えてプランジャーで押し出し,磁気分離細胞を得,その後の実験に用いた。
【0034】
<<実験例4.GSTP1プロモーター領域のメチル化解析>>
実験例3で得られた磁気分離細胞が肝臓由来正常細胞であること,および,肝臓由来正常細胞のDNAメチル化解析が可能かどうかを確認するために行った。
DNAメチル化解析として,プロモーター領域が肝細胞特異的にメチル化されていることが報告されているGlutathione S-transferase P1(GSTP1)のDNAメチル化解析を行い,肝臓由来正常細胞と肝正常細胞のDNAメチル化状態の比較を行うことにより,磁気分離細胞が肝臓由来正常細胞であるかどうかの確認を行った。
【0035】
<実験概容>
1.バイサルファイトシークエンス法を用いて,磁気分離細胞におけるGSTP1のDNAメチル化解析を行った。比較対象として,ヒト正常肝細胞,および磁気分離作業前の細胞ペレットのDNAメチル化解析を合わせて行った。
2.DNAメチル化解析については,文献報告によればGSTP1 遺伝子の転写開始点から数えて-7〜+4までのCpG sitesについてメチル化の報告があることから,GSTP1遺伝子の転写開始点から数えて-7〜+4までのCpG sitesについてメチル化解析を行い,解析についてはそれぞれ10個のクローンを解析した。
3.図1に結果を示す。DNAメチル化解析の結果,ヒト肝組織(A)では,GSTP1のDNAはメチル化状態であることが確認された。
4.磁気分離前の末梢血由来細胞(B)は非メチル化状態であったのに対し,磁気分離後の細胞(C)はメチル化状態であった。加えて,磁気分離後の細胞のメチル化状態は,ヒト肝組織のメチル化状態と類似していた。
5.これらの結果から,実験例3で行った一連の分離作業により,磁気分離細胞に肝細胞が含まれている可能性が強く示唆された。加えて,末梢血由来細胞から,肝臓由来正常細胞と推定される細胞のDNAメチル化解析が可能であることが確認された。
【0036】
<<実験5.SmartFlareTM RNA検出プローブによる確認>>
実験例3で得られた磁気分離細胞が,肝臓由来正常細胞であることを確認するために行った。
SmartFlareTM RNA 検出プローブを用いて肝細胞特異的に発現する microRNA である miR-122 の蛍光染色を行った。
【0037】
<実験概容>
1.SmartFlareTM RNA検出プローブを用いて,肝細胞特異的に発現するmicroRNAであるmiR-122の蛍光染色を行った。同時に,ポジティブコントロールとしてほとんどの細胞に発現する GAPDH mRNA,ネガティブコントロールとして細胞内のいずれの配列も認識しないmiRNA Scramble,さらに肝細胞に発現せず血球細胞に発現するmiR-137の蛍光染色を行った。
2.図2および図3に結果を示す。磁気分離前の細胞においては,GAPDH mRNAとmiR-137の蛍光が観察され,血球細胞の存在が確認された(図2)。
3.磁気分離細胞において,GAPDH mRNAとmiR-122の蛍光が観察され,血球に発現するmiR-137は観察されなかった(図3)。
4.miR-122は肝細胞に特異的に発現することから,磁気分離により,末梢血細胞から肝細胞が分離された可能性が示唆された。
【0038】
<<実験例6.HepG2細胞におけるDNAメチル化のCYP3A4遺伝子発現への影響評価>>
DMRにおけるDNAメチル化がCYP3A4遺伝子の転写活性に影響を与えるか否かを調べるため行った。
【0039】
<実験概容>
1.サンプルとして,ヒト肝がん由来細胞であるHepG2 細胞を用いて解析を行った。
2.HepG2細胞を,DNA脱メチル化剤である5-aza-dCを各濃度で含んだDMEM培地で3日間培養を行った。なお,5-aza-dCを溶解する際に用いたDMSO溶液を0.025%含むDMEM培地で培養したものを比較対象とした。
3.培養後,HepG2細胞を回収し,全量の約3分の1を用いて,RNA抽出を行った。
4.抽出したRNAについて,quantitative real-time PCR法によりCYP3A4のmRNA量を測定した。合わせて,比較対象として,GAPDHのmRNA量の測定も行った。なお,これらを増幅するプライマーについては,下記のものを用いた。

[CYP3A4]
Forward : 5’- CCCTCGAGTTCTACTCCGGTAAAC -3’(配列1)
Reverse : 5’- CCCTCGAGCACTACTTTCCTTACTTATCTCTCT -3’(配列2)
[GAPDH]
Forward : 5’- CCTCCCGCTTCGCTCTCTGCT -3’(配列3)
Reverse : 5’- GAGCGATGTGGCTCGGCTGG -3’(配列4)

5.結果を図4に示す。コントロール(DMSOのみ)のmRNAを1としたとき,CYP3A4遺伝子は0.5,1,2μMの5-aza-dC処理によりそれぞれ2.1倍,2.7倍,3.4倍と濃度依存的なmRNA量の増加を示した。
6.この結果から,脱メチル化が起きやすい環境にあるほど,CYP3A4 mRNA量が増加していることが分かった。
【0040】
<<実験7.CpG islandのCYP3A4 転写活性への影響評価>>
DMRがCYP3A4転写活性に与える影響について評価を行った。
【0041】
<実験概容>
1.ヒストンアセチル化とCYP3A4発現に相関の得られているCYP3A4転写開始点近傍約2kbpの配列,および,それぞれ下記3つの配列を挿入したレポーターベクターを作製し,luciferase reporter assayを行った。配列5はDMRであり,配列6配列7は,それぞれDMR近傍の配列であって,それぞれ低メチル化状態,高メチル化状態の比較対象として選択した。
配列5(DMR):
5’-CACAGTCTGCGCTCCTGGTACACGCGCTTCAACTTCGGTTGGTGTG-3’
(82563-82608 [GenBank accession number : AC069292])
配列6:
5’-CAGCGTGGCCACCGCCCCCACCCCCATCCCCCATCCCCGCACCCCC-3’
(82447-82492 [GenBank accession number : AC069292])
配列7:
5’-CGAGCCTGGCGAAAGGTCCGCTGAGCGGGCTGTCGTCCGGAGCCAC-3’
(82659-82704 [GenBank accession number : AC069292])
2.挿入したCpG islandの配列は非メチル化状態とした。ヒストンアセチル化状態での影響を評価するため,細胞にアセチル化促進剤であるTSA処理を行った。
3.Luciferase reporter assayの結果,DMR 領域を含んだレポーターベクターはTSA存在下で約34.8倍の転写活性を示した。これはTSA処理を行っていないコントロールに比べて有意な転写活性の上昇であった(p < 0.01)。
4.配列6および配列7を挿入したレポーターベクターはどちらにおいてもコントロールに比べて有意な転写活性の上昇は認められなかった。
5.これらの結果から,DMR領域がCYP3A4の転写活性に重要な役割を果たしていることを示すことが分かった。

【0042】
<<実験8.CYP3A4遺伝子発現に関与するCpG islandのメチル化解析>>
DMRにおけるメチル化頻度が,ヒトCYP3A4発現にどのような影響を与えているかを調べるために行った。
【0043】
<実験概容>
1.CYP3A4遺伝子が座位するヒト7番染色体に存在するCpG islandsにおいて,ヒト肝臓より抽出したgenome DNAを用い,DNAメチル化解析を行った。
2.対象検体は,CYP3A4 mRNA発現量が低い検体(HHL No. 12, 16, 20, 36)と高い検体(HHL No. 6, 7, 14, 15)を4検体ずつ,合計8つのヒト肝臓由来の検体を用いた(図6)。
3.各検体において,解析対象としたCpG islandsを図7に示す。
(1) DMRが含まれる,SGCE-PEG10遺伝子間に存在する3ヵ所のCpG islandsを解析対象とした。
(2) 合わせて,CYP3Aファミリー遺伝子近傍に存在する4か所のCpG islandsも解析対象とした。
(3) なお,各CpG islandsにおいて,実験手技的に解析が困難なCG sitesが存在したことから,それらについては解析を行わず,その場合は,いくつかのCG sitesに限局してメチル化解析を行った。
4.DNAメチル化解析は,バイサルファイトパイロシークエンス法により行った。プライマーとしては,下記のプライマーを用いた。
バイサルファイトPCRプライマー
Forward:5’- GTTAGTTTGGTTAGTTTAGTATTAGTA -3’(配列8)
Reverse:5’- Bio-AAAACCCAATCAAATTTCTTC -3’(配列9)
バイサルファイトシークエンスプライマー
I:5’- TTAGTTTGGTTAGTTTAGTATTAG -3’(配列10)
II:5’- TTAGAGGAGGGTTATTGTAG -3’(配列11)
III:5’- GAGGAGTAAGTTGGGAT -3’(配列12)
IV:5’- TTTTTAGGTGTAATTTATATAAGG -3’(配列13)
5.メチル化解析の結果を図8に示す。
(1) メチル化頻度の比率は,各CG sitesによって異なっていた。
(2) CpG islandsごとにみると,8検体一様にメチル化頻度の比率は同じような傾向を示しており,個人差と考えられるメチル化頻度の差は認められなかった。
(2) しかしながら,DMRを含む領域である,SGCE-PEG10遺伝子間CpG island 82363-82893の中で,14,15,16,17番目のCG siteにおいてメチル化頻度に個人差が認められた(図8,(b))。
6.DNAメチル化解析の結果をもとに,図8(b)に示す4か所のCG sitesにおけるメチル化頻度について,AERとの相関を解析した。結果を図9に示す。
(1) メチル化頻度に個人差が見られる14番目のCG siteにおいて,メチル化頻度とAERについて,逆相関の傾向が得られた (rs = -0.655 , p = 0.079) 。
(2) この解析結果は,メチル化頻度が高くなるにつれて,2本の染色体間でアリル発現に大きな偏りが生じていることを示すものである。
7.さらに,DNAのメチル化が直接CYP3A4遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。結果を図10に示す。
(1) 図8(b)に示す4か所のCG sitesにおけるメチル化頻度とCYP3A4 mRNA発現量の間には,14,16番目のCG sitesにおいて有意な相関が得られた (rs = -0.822, p = 0.009,rs = -0.751, p = 0.029, Fig. 9) 。
(2) 特に14番目のCG siteでは強い相関関係が認められた。
(3) すなわち,これらのCG siteにおいては,メチル化頻度が高くなるにつれてAERと同様,CYP3A4 mRNA発現量も低下することを示すものである。
【0044】
<<実験例9.末梢血からの細胞ペレットの分離>>
ヒト末梢血から分離したヒト肝細胞ペレットを用いて一連のメチル化解析操作を行い,メチル化解析が可能かどうかを確認する目的で実験を行った。
【0045】
<実験概容>
1.Ficoll-Paque PLUS (GE Healthcare)を用いて,ヒト末梢血20mLより細胞粗画分を得た。
2.得られた細胞粗画分に対して,TrypLE(ライフテクノロジージャパン株式会社製) 3mLを加え,37℃で 5 分間インキュベートした後,DMEM 3mLを加えて失活させ,1500rpmで1分遠心した。
3.上清を除去後,沈殿した細胞ペレットを回収し,精製・洗浄作業を行った。その後,PBSにて懸濁した細胞溶液をサンプルとして,実験例2から8に準じる方法にて,メチル化解析を行った。
4.得られたサンプルについてメチル化解析の代表的な手法であるクローニング-シークエンス法とCOBRA (Combined Bisulfite Restriction Analysis)法により解析した結果を図11に示す。
(1) 左図は,上記5.により得られたDNAについてサブクローニングにて分離した計9つクローンについてシークエンスを行い,各CpG siteのメチル化有無の結果を示している。検討を行った9つのクローンのうち,3つのクローンについては,CpG site number 14から17いずれのDMR領域においてもメチル化されていたことから,当該検体についてはCpG site number 14から17において約30%のDNAメチル化頻度であることが示された。
(2) 右図は,上記5.により得られたDNAついてCOBRA法によりCpG site number 15におけるDNAメチル化頻度を測定した結果の例を示す。電気泳動の結果,CpG site number 15は,約20%のDNAメチル化頻度であった。
5.今回確立した方法により末梢血からヒト肝細胞の分離と分離した肝細胞におけるDNAメチル化頻度が定量的に測定可能であることが示された。得られたDNAメチル化頻度は,肝組織におけるDNAメチル化頻度を反映しており肝組織のDNAメチル化頻度を非侵襲的に評価することが可能であると思われる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]