特許第6482092号(P6482092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482092
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】銅合金の製造方法および銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/04 20060101AFI20190304BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20190304BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20190304BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C22C1/04 A
   C22C9/00
   B22F3/14 101B
   B22F1/00 J
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-569086(P2016-569086)
(86)(22)【出願日】2016年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2016057847
(87)【国際公開番号】WO2016189929
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2017年11月10日
(31)【優先権主張番号】62/165,366
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2015-204590(P2015-204590)
(32)【優先日】2015年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】且井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】村松 尚国
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 正章
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/069318(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/083977(WO,A1)
【文献】 特開平3-166329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
C22C 1/04
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)銅粉末とCu−Zr母合金とを、又は銅粉末とZrH2粉末とを、Cu−xZr(但し、xはZrのatomic%であり、0.5≦x≦8.6を満たす)の合金組成で秤量し、平均粒径D50が1μm以上500μm以下の範囲になるまで不活性雰囲気中で粉砕混合し混合粉末を得る工程と、
(b)共晶点温度よりも低い所定温度及び所定圧力の範囲で加圧保持し、前記混合粉末を放電プラズマ焼結する工程と、
を含む銅合金の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)では、Cuが50質量%のCu−Zr母合金を用いる、請求項1に記載の銅合金の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)では、銅粉末と、Cu−Zr母合金と、粉砕媒体とを密閉容器内に密閉した状態で混合粉砕する、請求項1又は2に記載の銅合金の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)では、ZrH2粉末を用いる、請求項1に記載の銅合金の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)では、銅粉末と、ZrH2粉末と、粉砕媒体とを密閉容器内に密閉した状態で混合粉砕する、請求項1又は4に記載の銅合金の製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)では、前記混合粉末を黒鉛製ダイス内に挿入し、真空中で放電プラズマ焼結する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅合金の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)では、共晶点温度よりも400℃〜5℃低い前記所定温度で放電プラズマ焼結する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅合金の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)では、10MPa以上60MPa以下の範囲の前記所定圧力で放電プラズマ焼結する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の銅合金の製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)では、10分以上100分以下の範囲の保持時間で放電プラズマ焼結する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の銅合金の製造方法。
【請求項10】
Cu母相内に第二相が分散する構造を有し、下記(1)〜(3)の特徴を有する、銅合金。
(1)断面視したときに前記第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲である。
(2)前記Cu母相と前記第二相とが二つの相に分離しており、前記第二相はCu−Zr系化合物を含む。
(3)前記第二相は、外殻にCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にZrリッチなZr相を包含している。
【請求項11】
前記銅合金は、更に(4)、(5)のうち1以上の特徴を有する、請求項10に記載の銅合金。
(4)前記外殻であるCu−Zr系化合物相は、粒子最外周と粒子中心との間の距離である粒子半径の40%〜60%の厚さを有する。
(5)前記外殻であるCu−Zr系化合物相の硬さはビッカース硬さ換算値でMHv585±100であり、前記中心核であるZr相の硬さはビッカース硬さ換算値でMHv310±100である。
【請求項12】
前記Cu−Zr系化合物相は、Cu5Zrを含む、請求項10又は11に記載の銅合金。
【請求項13】
銅粉末とCu−Zr母合金との混合粉末又は、銅粉末とZrH2粉末との混合粉末が放電プラズマ焼結されて形成されている、請求項10〜12のいずれか1項に記載の銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金の製造方法および銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅合金の製造方法としては、平均粒径が30μm以下であり、Zrを5.00at%以上8.00at%以下含有する亜共晶組成のCu−Zr二元系合金粉末を、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は合金粉末の融点)で直流パルス通電を行うことにより放電プラズマ焼結する焼結工程、を含むものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、導電性をより高めると共に機械的強度をより高めた銅合金を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2014/069318号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載された銅合金の製造方法では、亜共晶組成のCu−Zr二元系合金から高圧ガスアトマイズ法により作製したCu−Zr二元系合金粉末を放電プラズマ焼結(SPS)するものであり、その原料粉末を得る処理が煩雑であった。機械的強度を高め、且つ導電性を高めた銅合金をより簡便な手法で作製することが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、より簡便な処理で導電性や機械的強度をより高めたものを作製することができる銅合金の製造方法および銅合金を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、銅粉末とCu−Zr母合金とを原料粉体として用いるか、銅粉末とZrH2粉末とを原料粉体として用い、放電プラズマ焼結すると、より簡便な処理で導電性や機械的強度をより高めたものを作製することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の銅合金の製造方法は、
(a)銅粉末とCu−Zr母合金とを、又は銅粉末とZrH2粉末とを、Cu−xZr(但し、xはZrのatomic%であり、0.5≦x≦8.6を満たす)の合金組成で秤量し、平均粒径D50が1μm以上500μm以下の範囲になるまで不活性雰囲気中で粉砕混合し混合粉末を得る工程と、
(b)共晶点温度よりも低い所定温度及び所定圧力の範囲で加圧保持し、前記混合粉末を放電プラズマ焼結する工程と、
を含むものである。
【0008】
また、本発明の銅合金は、
α−Cu母相内に第二相が分散する構造を有し、下記(1)〜(3)の特徴を有するものである。
(1)断面視したときに前記第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲である。
(2)前記α−Cu母相と前記第二相とが二つの相に分離しており、前記第二相はCu−Zr系化合物を含む。
(3)前記第二相は、外殻にCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にZrリッチなZr相を包含している。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、より簡便な処理で導電性や機械的強度をより高めた銅合金を作製することができる。この理由は、以下のように推察される。一般的に、金属粉末は、その元素によって反応性に富むものがあり、例えば、Zr粉末は酸素に対する反応性が高く、原料粉末として大気中で用いる際には取り扱いに極めて注意を要する。一方、Cu−Zr母合金粉末(例えばCu50質量%Zr母合金)やZrH2粉末は、比較的安定であり、大気中であっても取り扱いしやすい。そして、これらの原料粉体を混合粉砕し、放電プラズマ焼結するという比較的簡便な処理で銅合金を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験例3の混合粉末の粒度分布。
図2】実験例3のSPS条件の説明図。
図3】実験例1−3,3−3,4−3の原料粉体のSEM像。
図4】実験例1−3,3−3,4−3の原料粉体のX線回折測定結果。
図5】実験例1〜4の断面のSEM−BEI像。
図6】実験例1〜4の銅合金の導電率測定結果。
図7】実験例1−3,3−3,4−3のX線回折測定結果。
図8】実験例3−1の断面のSEM−BEI像。
図9】実験例3−2の断面のSEM−BEI像。
図10】実験例3−3の断面のSEM−BEI像。
図11】実験例3−3の断面のSEM−BEI像及びEDX測定結果。
図12】実験例3−3の断面のSEM−BEI像、STEM−BF像、EDX分析結果及びNBD図形。
図13】実験例3−3の断面のSTEM−BF像、EDX分析結果及びNBD図形。
図14】ポイント1,4におけるナノ電子線回折解析結果。
図15】ナノインデンテーション法による硬さHの測定結果。
図16】実験例3−3のEBSDによる菊池線のチャネリングパターン測定結果。
図17】実験例3−3のEBSD法による結晶方位マップ。
図18】実験例3−3のEBSD法による結晶方位マップ。
図19】実験例4−1の断面のSEM−BEI像。
図20】実験例4−2の断面のSEM−BEI像。
図21】実験例4−3の断面のSEM−BEI像。
図22】SPS温度及び時間を変更した銅合金の断面のSEM−BEI像。
図23】実験例4の断面のSEM−BEI像及びEDX法による元素マップ。
図24】実験例4−3の断面のTEM−BF像及びSAD図形。
図25】実験例1−3の銅合金のSEM−BEI像とナノインデンテーション法による硬さとヤング率測定結果。
図26】実験例2−3の断面のSEM−BEI像及びEDX法による元素マップ。
図27】実験例1のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験の結果。
図28】実験例3、4のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験の結果。
図29】実験例1、3、4のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験の結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の銅合金の製造方法について説明する。本発明の銅合金の製造方法は、(a)原料の混合粉末を得る粉末化工程と、(b)混合粉末を放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)する焼結工程と、を含むものである。
【0012】
(a)粉末化工程
この工程では、銅粉末とCu−Zr母合金とを、又は銅粉末とZrH2粉末とを、Cu−xZr(但し、xはZrのatomic%(以下at%とする)であり、0.5≦x≦8.6を満たす)の合金組成で秤量し、平均粒径D50が1μm以上500μm以下の範囲になるまで不活性雰囲気中で粉砕混合し混合粉末を得る。この工程では、Cu−xZr(0.5at%≦x≦8.6at%)の合金組成で原料(銅粉末及びCu−Zr母合金、又は銅粉末及びZrH2粉末)を秤量するものとしてもよい。銅粉末は、例えば、平均粒径が180μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。また、銅粉末は、例えば、平均粒径が100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが更に好ましい。この平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定するD50粒子径とする。また、銅粉末は、銅と不可避的成分とからなることが好ましく、無酸素銅(JIS C1020)がより好ましい。不可避的成分としては、例えば、Be,Mg,Al,Si,P,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Sn,Pb,Nb,Hfなどが挙げられる。この不可避的成分は、全体の0.01質量%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。この工程では、Zrの原料として、Cuが50質量%のCu−Zr母合金を用いることが好ましい。このCu−Zr合金は、比較的、化学的に安定であり、作業しやすく好ましい。Cu−Zr母合金は、インゴットや金属片としてもよいが、より微細な金属粒子である方が粉砕混合が容易になり好ましい。Cu−Zr合金は、例えば、平均粒径が250μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。また、この工程では、Zrの原料として、ZrH2粉末を用いることが好ましい。このZrH2粉末は、比較的、化学的に安定であり、大気中での作業がしやすく好ましい。ZrH2粉末は、例えば、平均粒径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが好ましい。
【0013】
この工程では、Cu−xZr(0.5at%≦x≦8.6at%)の合金組成で混合するが、例えば、5.0at%≦x≦8.6at%の範囲としてもよい。Zrの含有量が多いと、機械的強度が増加する傾向になる。また合金組成は、0.5at%≦x≦5.0at%の範囲としてもよい。Cuの含有量が多いと、導電性が増加する傾向になる。即ち、この工程では、Cu1-XZrX(0.005≦X≦0.086)の合金組成で混合するが、例えば、0.05≦X≦0.086の範囲としてもよい。Zrの含有量が多いと、機械的強度が増加する傾向になる。また合金組成は、0.005≦X≦0.05の範囲としてもよい。Cuの含有量が多いと、導電性が増加する傾向になる。この工程では、銅粉末と、Cu−Zr母合金又はZrH2粉末と、粉砕媒体とを密閉容器内に密閉した状態で混合粉砕するものとしてもよい。この工程では、例えば、ボールミルにより混合粉砕することが好ましい。粉砕媒体は、メノウ(SiO2)、アルミナ(Al23)、窒化珪素(Si34)、炭化珪素(SiC)、ジルコニア(ZrO2)、ステンレス(Fe-Cr−Ni)、クロム鋼(Fe−Cr)、超硬合金(WC−Co)などがあり、特に限定されないが、高硬度・比重・異物混入を防止する観点から、Zrボールであることが好ましい。また、密閉容器内は、例えば、窒素、He、Arなど、不活性雰囲気とする。混合粉砕の処理時間は、平均粒径D50が1μm以上500μm以下の範囲になるよう、経験的に定めるものとしてもよい。この処理時間は、例えば、12時間以上としてもよいし、24時間以上としてもよい。また、混合粉末は、平均粒径D50が100μm以下の範囲が好ましく、50μm以下の範囲がより好ましく、20μm以下の範囲が更に好ましい。混合粉砕したあとの混合粉末は、粒径が小さいほど均一な銅合金が得られるため、好ましい。粉砕混合して得られた混合粉末は、例えば、Cu粉末やZr粉末を含むものとしてもよいし、Cu−Zr合金粉末を含むものとしてもよい。粉砕混合して得られた混合粉末は、例えば、粉砕混合の過程で少なくとも一部が合金化してもよい。
【0014】
(b)焼結工程
この工程では、共晶点温度よりも低い所定温度及び所定圧力の範囲で加圧保持し、混合粉末を放電プラズマ焼結する。この工程(b)では、混合粉末を黒鉛製ダイス内に挿入し、真空中で放電プラズマ焼結するものとしてもよい。真空条件は、例えば、200Pa以下としてもよいし、100Pa以下としてもよいし、1Pa以下としてもよい。また、この工程では、共晶点温度よりも400℃〜5℃低い温度(例えば、600℃〜950℃)で放電プラズマ焼結するものとしてもよいし、共晶点温度よりも272℃〜12℃低い温度で放電プラズマ焼結するものとしてもよい。また、放電プラズマ焼結は、0.9Tm℃以下の温度(Tm(℃)は合金粉末の融点)となるように行うものとしてもよい。混合粉末の加圧条件は、10MPa以上100MPa以下の範囲としてもよく、60MPa以下の範囲としてもよい。こうすれば、緻密な銅合金を得ることができる。また、加圧保持時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、15分以上が更に好ましい。また、加圧保持時間は、100分以下の範囲が好ましい。放電プラズマ条件としては、例えば、ダイスとベース板との間で500A以上2000A以下の範囲の直流電流を流すことが好ましい。
【0015】
本発明の銅合金は、Cu母相内に第二相が分散する構造を有し、下記(1)〜(3)の特徴を有するものである。この銅合金は、更に(4)、(5)のうち1以上の特徴を有するものとしてもよい。
(1)断面視したときに第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲である。(2)Cu母相と第二相とが二つの相に分離しており、第二相はCu−Zr系化合物を含む。
(3)第二相は、外殻にCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にZrリッチなZr相を包含している。
(4)外殻であるCu−Zr系化合物相は、粒子最外周と粒子中心との間の距離である粒子半径の40%〜60%の厚さを有する。
(5)外殻であるCu−Zr系化合物相の硬さはMHv585±100であり、中心核であるZr相の硬さはMHv310±100である。
【0016】
Cu母相は、Cuを含む相であり、例えば、α−Cuを含む相としてもよい。このCu相によって、導電率を高くすることができ、さらには加工性をより高めることができる。このCu相は、共晶相を含まない。ここで、共晶相とは、例えば、CuとCu−Zr系化合物とを含む相をいうものとする。
【0017】
この銅合金において、第二相の平均粒径D50は、以下のように求めるものとする。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて試料断面の100倍〜500倍の領域の反射電子像を観察し、そこに含まれる粒子の内接円の直径を求め、これをこの粒子の直径とする。そして、その視野範囲に存在するすべての粒子の粒径を求める。これを複数視野(例えば5視野)について行い、得られた粒径から累積分布を求め、そのメディアン径を平均粒径D50とする。この銅合金において、Cu−Zr系化合物相は、Cu5Zrを含むことが好ましい。Cu−Zr系化合物相は、単相としてもよいし、2種以上のCu−Zr系化合物を含む相としてもよい。例えば、Cu9Zr2相単相やCu5Zr相単相、Cu8Zr3相単相でもよいし、Cu5Zr相を主相とし他のCu−Zr系化合物(Cu9Zr2やCu8Zr3)を副相とするものとしてもよいし、Cu9Zr2相を主相とし他のCu−Zr系化合物(Cu5ZrやCu8Zr3)を副相とするものとしてもよい。なお、主相とは、Cu−Zr系化合物相のうち、最も存在割合(体積比または観察領域における面積比)の多い相をいい、副相とは、Cu−Zr系化合物相のうち主相以外の相をいうものとする。このCu−Zr系化合物相は、例えば、ヤング率や硬さが高いことから、このCu−Zr系化合物相の存在によって銅合金の機械的強度をより高めることができる。
【0018】
この銅合金において、第二相に包含されるZr相は、例えば、Zrが90at%以上であるものとしてもよいし、92at%以上であるものとしてもよいし、94at%以上であるものとしてもよい。また、第二相は、最外殻に酸化膜が形成されているものとしてもよい。この酸化膜の存在によって、第二相中へのCuの拡散が抑制される可能性がある。また、第二相の中心核には、多数のくびれた微粒子が双晶を形成しているものとしてもよい。この微粒子は、Zr相であり、くびれの中に形成されているのがCu−Zr系化合物相であるものとしてもよい。このような構造を有すると、例えば、導電性をより高めると共に、機械的強度をより高めることができると推測される。
【0019】
この銅合金は、亜共晶組成の銅粉末とCu−Zr母合金と、又は銅粉末とZrH2粉末とが放電プラズマ焼結されて形成されているものとしてもよい。放電プラズマ焼結については、上述した工程を採用することができる。亜共晶組成とは、例えば、Zrを0.5at%以上8.6at%以下含有し、その他をCuとする組成としてもよい。この銅合金には、不可避的成分(例えば微量の酸素など)を含むものとしてもよい。酸素の含有量は、例えば、700ppm以下であることが好ましく、200ppm〜700ppmであるものとしてもよい。不可避的成分としては、例えば、Be,Mg,Al,Si,P,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Sn,Pb,Nb,Hfなどが挙げられる。この不可避的成分は、全体の0.01質量%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。また、この銅合金は、表1に示す組成を、Zrを0.5at%以上8.6at%以下含有するまでの希釈した場合の組成としてもよい。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明の銅合金は、引張強さが200MPa以上であるものとしてもよい。また、本発明の銅合金は、導電率が20%IACS以上であるものとしてもよい。なお、引張強さは、JIS−Z2201に準じて測定した値をいう。また、導電率は、JIS−H0505に準じて銅合金の体積抵抗を測定し、焼き鈍した純銅の体積抵抗(0.017241μΩm)との比を計算して導電率(%IACS)に換算するものとする。
【0022】
以上詳述した本実施形態の銅合金及びその製造方法によれば、より簡便な処理で導電性や機械的強度をより高めた銅合金を作製することができる。この理由は、以下のように推察される。一般的に、金属粉末は、その元素によって酸素との反応性に富むものがあり、例えば、Zr粉末は反応性が高く、原料粉末として大気中で用いる際には爆発などの危険に極めて注意を要する。一方、Cu−Zr母合金粉末(例えばCu50質量%Zr母合金)やZrH2粉末は、比較的安定であり、取り扱いしやすい。そして、これらの原料粉体を混合粉砕し、放電プラズマ焼結するという比較的簡便な処理で導電性や機械的強度をより高めた銅合金を作製することができる。また、この銅合金は、例えば、放電電極や摺動部品として用いたときに、摩擦係数が低くて安定であり、摩耗量や重量損失をより低減することができる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0024】
以下には、銅合金を具体的に製造した例を実験例として説明する。実験例3−1〜3−3、4−1〜4−3が本発明の実施例に相当し、実験例1−1〜1−3、2−1〜2−3が参考例に相当する。
【0025】
[実験例1(1−1〜1−3)]
末として高圧Arガスアトマイズ法で作製したCu−Zr系合金粉末を用いた。この合金粉末は、平均粒径D50が20〜28μmであった。Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量は、1at%、3at%、5at%であり、それぞれ実験例1−1〜1−3の合金粉末とした。合金粉末の粒度は、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−3000J)を用いて測定した。この粉末の酸素含有量は0.100mass%であった。焼結工程としてのSPS(放電プラズマ焼結)は、SPSシンテックス(株)製放電プラズマ焼結装置(Model:SPS−210LX)を用いて行った。直径20mm×10mmのキャビティを持つ黒鉛製ダイス内に粉末40gを入れ、3kA〜4kAの直流パルス通電を行い、昇温速度0.4K/s、焼結温度1173K(約0.9Tm;Tmは合金の融点)、保持時間15min、加圧30MPaで実験例1−1〜1−3の銅合金(SPS材)を作製した。なお、この方法で作製したものを「実験例1」と総称する。
【0026】
[実験例2(2−1〜2−3)]
市販のCu粉末(平均粒径D50=33μm)、市販のZr粉末(平均粒径D50=8μm)を用い、Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量を1at%、3at%、5at%となるよう配合し、それぞれ実験例2−1〜2−3の合金粉末とした。20℃、200MPaの条件でCIP成形を行ったのち、実験例1と同様の工程を経て、得られた銅合金を実験例2(2−1〜2−3)とした。実験例2では、すべてAr雰囲気中で処理を行った。
【0027】
[実験例3(3−1〜3−3)]
市販のCu粉末(平均粒径D50=1μm)と、市販のCu−50質量%Zr合金を用い、Zrボールを用いたボールミルにて24時間混合粉砕を行った。得られた粉末の平均粒径D50は18.7μmであった。図1は、実験例3の混合粉末の粒度分布である。Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量を1at%、3at%、5at%となるよう配合し、それぞれ実験例3−1〜3−3の合金粉末とした。この粉末を用い、実験例1と同様の工程を経て、得られた銅合金を実験例3(3−1〜3−3)とした。図2は、実験例3のSPS条件の説明図である。
【0028】
[実験例4(4−1〜4−3)]
市販のCu粉末(平均粒径D50=1μm)と、市販のZrH2粉末(平均粒径D50=5μm)を用い、Zrボールを用いたボールミルにて4時間混合粉砕を行った。得られた粉末を用い、Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量を1at%、3at%、5at%となるよう配合し、それぞれ実験例4−1〜4−3の合金粉末とした。この粉末を用い、実験例1と同様の工程を経て、得られた銅合金を実験例4(4−1〜4−3)とした。
【0029】
(ミクロ組織の観察)
ミクロ組織の観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)と走査型透過電子顕微鏡(STEM)、およびナノビーム電子線回折法(NBD)を用いて行った。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ製S−5500を用い、加速電圧2.0kVで2次電子像及び反射電子像を撮影した。TEM観察は、日本電子製JEM−2100Fを用い、加速電圧200kVでBF−STEM像やHAADF−STEM像を撮影し、ナノ電子線回折を行った。また、EDX(日本電子製JED−2300T)を用いた元素分析を適宜行った。測定試料は、日本電子製SM−09010クロスセクションポリッシャ(CP)を用い、イオン源をアルゴン、加速電圧5.5kVでイオンミリングすることで調製した。
【0030】
(XRD測定)
化合物相の同定は、Co−Kα線を用いてX線回折法により行った。XRD測定は、リガク製RINT RAPIDIIを用いた。
【0031】
(電気的特性評価)
得られた実験例のSPS材の電気的性質は、常温においてプローブ式導電率測定および長さ500mmでの四端子法電気抵抗測定によって調べた。導電率はJISH0505に準じて銅合金の体積抵抗を測定し、焼き鈍した純銅の体積抵抗(0.017241μΩm)との比を計算して導電率(%IACS)に換算した。換算には、以下の式を用いた。導電率γ(%IACS)=0.017241÷体積抵抗ρ×100。
【0032】
(Cu−Zr系化合物相の特性評価)
実験例3の銅合金に含まれるCu−Zr系化合物相に対してヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHの測定を行った。測定装置は、Agilent Technologies社製Nano Indenter XP/DCMを用い、インデンターヘッドとしてXP、圧子をダイヤモンド製バーコビッチ型を用いた。また、解析ソフトはAgilent Technologies社のTest Works4を用いた。測定条件は、測定モードをCSM(連続剛性測定)とし、励起振動周波数を45Hz、励起振動振幅を2nm、歪速度を0.05s-1、押し込み深さを1000nm、測定点数Nを5、測定点間隔を5μm、測定温度を23℃、標準試料をフューズドシリカとした。サンプルをクロスセクションポリッシャ(CP)により断面加工を行い、熱溶融性接着剤を用いて試料台及びサンプルを100℃、30秒加熱してサンプルを試料台に固定し、これを測定装置に装着してCu−Zr系化合物相のヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHを測定した。ここでは、5点測定した平均値をヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHとした。
【0033】
(結果と考察)
まず、原料について検討した。図3は、(a)実験例1−3,(b)実験例3−3,(c)実験例4−3の原料粉体のSEM像である。実験例1−3の原料粉体は、球状であり、実験例3−3,4−3の原料粉体は、粗大な涙滴状のCu粉末と微細な球状のCuZr粉末又はZrH2粉末がそれぞれに混在していた。図4は、実験例1−3,3−3,4−3の原料粉体のX線回折測定結果である。実験例1−3の原料粉体では、Cu相、Cu5Zr化合物相と、Unknown相であった。実験例3−3の原料粉体では、Cu相、CuZr化合物相およびCu5Zr化合物相であった。また、実験例4−3の原料粉体では、Cu相とZrH2相、およびα−Zr相の複相組織であった。これらの粉末を用いて、以下検討したSPS材を作製した。
【0034】
図5は、実験例1〜4の断面のSEM−BEI像である。実験例1では、CuとCu−Zr系化合物(主としてCu5Zr)との2相が、共晶相を含むことなく、断面視したときに大きさ10μm以下の結晶が分散した構造を有していた。この実験例1では、断面視したときのCu−Zr系化合物の粒径が小さく、比較的均一な構造を有していた。一方、実験例2〜4では、α−Cu母相内に、比較的大きい第二相が分散する構造を有していた。図6は、実験例1〜4の銅合金の導電率測定結果である。実験例1〜4の銅合金は、上述した構造の違いはあるが、Zrの含有量と導電率との傾向は、実験例1〜4の銅合金において大きな違いはなかった。これは、銅合金の導電性はCu相に依存しており、Cu相には構造的な違いは無いためであると推察された。また、銅合金の機械的強度はCu−Zr系化合物相に依存すると考えられ、これらを有することから、実験例2〜4についても、機械的強度は比較的高い値を示すものと推察された。図7は、実験例1−3,3−3,4−3のX線回折測定結果である。図7に示すように、実験例1、3〜4では、α−Cu相及びCu5Zr化合物相及びunknown相が検出され、これらの複合組織を有するものと推察された。これは、粉末の出発原料が異なっていても、SPS材の構造が同じであることを示している。なお、実験例1−1,1−2,3−1,3−2,4−1,4−2のSPS材の構造は、Zr量によってX線回折強度は異なるものであったが、それぞれ図7に示すSPS材と同じ複相構造であった。
【0035】
次に、実験例3について詳しく検討した。図8は、実験例3−1の断面のSEM−BEI像であり、図9は、実験例3−2の断面のSEM−BEI像であり、図10は、実験例3−3の断面のSEM−BEI像である。撮像したSEM写真から、第二相の平均粒径D50を求めた。第二相の平均粒径は、100倍〜500倍の領域の反射電子像を観察し、その画像に含まれる粒子の内接円の直径を求め、これをこの粒子の直径とした。そして、その視野範囲に存在するすべての粒子の粒径を求めた。これを5視野について行うものとした。得られた粒径から累積分布を求め、そのメディアン径を平均粒径D50とした。図8〜10のSEM写真に示すように、実験例3の銅合金は、断面視したときに第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲にあることがわかった。また、第二相は、粗大な粒子の最外殻に酸化膜が形成されていると推察された。また、第二相の中心核には、多数のくびれた微粒子と双晶を形成していることがわかった。図11は、実験例3−3の断面のSEM−BEI像及びEDX測定結果である。図12は、実験例3−3の断面のSEM−BEI像、STEM−BF像、EDX分析結果及びNBD図形である。図13は、実験例3−3の断面のSTEM−BF像、EDX分析結果及びNBD図形である。
【0036】
元素分析の結果より、第二相は、外殻にCu5Zrを含むCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にCuが10at%以下であるZrリッチなZr相を包含していることがわかった。図14は、図13に示したポイント1,4におけるナノ電子線回折解析結果である。図13に示すように、色の薄い微粒子ではZrが94at%であり、Zr相であることがわかった。また、色の部分は、Cuが85at%でありZrが15at%であり、Cu5Zr相であることが予想された。また、図13に示すように、ポイント1〜3では、Zrが92at%以上のZr相であり、ポイント4,5では、Cu5Zr相であることが予想された。また、図14に示すように、ナノ電子線回折及び元素分析の結果からすれば、ポイント1のZr相は、α−Zr相の可能性があると考えられた。また、ポイント4は、Cu5Zr相であると裏付けられた。
【0037】
図15は、ナノインデンテーション法による硬さHの測定結果である。ヤング率E及び硬さHは、多点測定を実施し、測定後、SEM観察によりZr相内に押し込まれた測定点を抜粋した。測定結果から、ヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHを求めた。その結果、Zr相のヤング率は、平均値で75.4GPaであり、硬さHは、平均値で3.37GPa(ビッカース硬さ換算値MHv=311)であった。Cu−Zr系化合物相は、後述するようにヤング率Eが159.5GPaであり、硬さHが6.3GPa(ビッカース硬さ換算値MHv=585)であり、Zr相と異なることがわかった。この際の換算は、MHv=0.0924×Hを用いた(ISO14577−1 Metallic Materials−Instrumented Indentation Test for Hardness and Materials Parameters − Part 1:Test Method,2002.)。
【0038】
図16は、実験例3−3のEBSD分析結果である。図16には、SEM像のポイント1(第二相であるCu-Zr系化合物相)、ポイント2(Cu−Zr系化合物相内部のZrリッチなZr相)、ポイント3(Cu−Zr系化合物相内部の別な箇所のZrリッチなZr相)のうち、ポイント2について菊池線のチャネリングパターンから結晶構造のフィッティングを行った結果を示した。ポイント1、2、3は、異なるパターンが観察され、結晶方位が異なっていた.またフィッティングの結果より、Zr相の結晶構造は、面心立法格子(FCC)、六方最密格子(HCP)、体心立方格子(BCC)のいずれとも一致せず、Cuを少量含んだ不完全な構造を持つことがわかった。図17、18は、実験例3−3のEBSD法による結晶方位マップである。TSLソリューションズ社製OIM(Orientation Imaging Microscopy)ソフトを用いて表示した。この結果から、ZrリッチなZr相は周囲のCu−Zr系化合物相を含んだ領域が独立して存在しているのではなく、化合物相の中にZr相が点在した構造であることがわかった。
【0039】
次に、実験例4について詳細に検討した。図19は、実験例4−1の断面のSEM−BEI像であり、図20は、実験例4−2の断面のSEM−BEI像であり、図21は、実験例4−3の断面のSEM−BEI像である。撮像したSEM写真から、上述と同様に第二相の平均粒径D50を求めた。図19〜20のSEM写真に示すように、実験例4の銅合金は、断面視したときに第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲にあることがわかった。また、第二相は、粗大な粒子の外殻にCu5Zrを含むCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にZrリッチなZr相を包含していることがわかった(図21)。図22は、実験例4−3の組成でSPS温度及び時間を変更した銅合金の断面のSEM−BEI像である。925℃で5分間SPS処理を行うと、Zr相が生成することがわかった。図23は、実験例4の断面のSEM−BEI像及びEDX法による元素マップである。図23に示すように、第二相の中心核部分は、Cuが少なく、Zrが極めて多い、ZrリッチなZr相であると推察された。図24は、(a)実験例4−3の断面のTEM−BF像及び(b)Area1のSAD図形、(c)Area2のSAD図形である。図24に示すSPS材のCu5Zr化合物相にも、内部に双晶を持つ微細組織が観察された。図24(b)は、図24(a)に示す微細組織内のArea1のSAD(Selected Area Diffraction:制限視野回折)図形であり、図24(c)は、図24(a)に示す微細組織内のArea2のSAD図形である。なお、制限視野絞りは200nmであった。これらのAreaの中心部において、EDX分析も行った。その結果、Area1で観察された微細組織は、実験例3のSPS材と同様にCuを5at%含むZrリッチな相であり、測定した3つの格子面間隔は、1.2%以下の差でα−Zr相の格子面間隔と一致した。また、Area2の化合物相は、実験例1,3のSPS材と同様のCu5Zr化合物相であった。
【0040】
また、実験例1,2について検討した。図25は、Cu−Zr系合金粉末をSPSした実験例1−3の銅合金のSEM−BEI像である。図25に示すように、Cu−Zr系化合物相は、ヤング率Eが159.5GPaであり、硬さHが6.3GPa(ビッカース硬さ換算値MHv=585)であった。図26は、実験例2−3の断面のSEM−BEI像及びEDX法による元素マップである。図26に示すように、Cu粉末とZr粉末とで作製した銅合金では、α−Cu母相内に、比較的大きい第二相が分散する構造を有していた。第二相は、外殻にCu5Zrを含むCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にZrリッチなZr相を包含していることがわかった。実験例2においては、焼結工程を経てもZr粉末が残ったものと推察された。
【0041】
さらに、実験例1、3、4を用いてピン・オン・ディスク摺動摩耗試験(JIS K7218に準拠)を行った。図27は、実験例1のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験(JIS K7218に準拠)の結果である。図28は、実験例3、4のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験の結果である。図29は、実験例1、3、4のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験結果をまとめた図である。ピン・オン・ディスク摺動摩耗試験は、実験例のSPS材から、直径2mm、高さ8mmの試験ピンを切り出し、200rpmで回転させたS45製ディスクに接触させて行った。この際、回転するディスク上には、出光興産製ダフニー・スーパーハイドロ46Aの鉱油を液摘下した。面圧2MPaを負荷した状態で1min保持し、さらに1MPaずつ各1min保持しながら面圧を20MPaまでステップアップさせる試験を行い、(a)摩擦係数の変化、(b)試験後のピンの摩耗長さ、(c)摩耗による重量損失を3回測定し、その平均値を求めた。また比較例として、OFC(無酸素銅;JIS C1020)のピン・オン・ディスク摺動摩耗試験も合わせて行った。図27に示すように、実験例1では、Cu−Zr系化合物の粒径が小さく、比較的均一な構造を有しているため、OFCに比べて、面圧が高くなっても摩擦係数が低くて安定であり、ピンの長さの摩耗量や重量損失も小さく抑えられることがわかった。また、図27〜29に示すように、実験例3、4においても実験例1と同様に、OFCに比べて優れた摩擦係数の安定性や耐摩耗性を有することが分かった。
【0042】
以上のように、本実施例の実験例3、4では、原料として比較的化学的に安定なCu−Zr母合金を用いるか、ZrH2を用いるかによって、より簡便な処理で導電性や機械的強度をより高め、耐摩耗性にも優れる実験例1と同等の銅合金を作製することができることがわかった。
【0043】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
本出願は、2015年5月22日に出願された米国仮出願第62/165,366号及び2015年10月16日に出願された日本国特許出願第2015−204590号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、銅合金の製造に関する技術分野に利用可能である。
図1
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