(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係る免震具を適用した実施形態に係る免震具について図面を参照しつつ説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、第1の実施形態の各要素の参照符号は、100番台で、第2の実施形態の各要素の参照符号は、200番台で示し、第3の実施形態の各要素の参照符号は、300番台で示し、第1の変形例に係る免震具の各要素の参照符号は、400番台で示し、第2の変形例に係る免震具の各要素の参照符号は、500番台で示し、第1、第2及び第3の実施形態及び第1及び第2の変形例で下2ケタが同じ参照符号の要素同士は、特に説明しない場合は、同じ形状及び構成である。
【0030】
〔第1の実施形態〕
図1(a)は、第1の実施形態に係る免震具101を模式的に示す平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の線IB−IBに沿った部分断面図であり、(c)は、
図1(b)のIC部の部分拡大図である。なお、
図1(b)では、受部材105のみが断面として図示されている。
【0031】
図1(a)、(b)に示されるように、免震具101は、主として、床に配置される陳列棚や家具等の什器である被支持物を相対移動可能に支持するための受部材105と、当該被支持物を載置可能な第1の摺動面107aを有する第1の摺動部材107と、を備える。さらに、本実施形態の免震具101は、免震具101の必須の構成要素ではないが、被支持物の底面に連結されている支持部材121を備え、支持部材121が、第1の摺動部材107を介し受部材105に載置されている。また、第1の摺動部材107は、四フッ化エチレン樹脂を含有する材料から形成されている。
【0032】
円盤形状の受部材105には、一方の端面部側に凹部111が設けられている。凹部111は、平らで円形の円形底面111aと、円形底面111aの外周縁部に連続し、円形底面111aに対して垂直方向に延在する円筒面111bと、により構成される。円筒面111bは、受部材105の円形底面111a上に載置される支持部材121の移動領域を規制する機能を有する。
【0033】
さらに、円形底面111aは、床等の平面部に当接する受部材105の裏面110に対して平行に延在する。従って、受部材105が、
図1(b)に示すように水平な床上に置かれると、円形底面111aも水平に延在することになる。
【0034】
また、円形底面111aには、四フッ化エチレン樹脂を含有する材料から構成される樹脂製の第1の摺動部材107が固定されている。第1の摺動部材107は、均一の厚さを有し、円形底面111aの全面を覆うように寸法付けされている。このように、第1の摺動部材107の上面である第1の摺動面107aに、支持部材121の後述する台座部121cが摺動する。
【0035】
図1(c)に示されるように、第1の摺動部材107は、3層に積層されている部材であり、鋼板等から構成される基盤Bと、基盤Bに青銅系等の金属粉末が焼結され形成される多孔質金属焼結層Sと、この多孔質金属焼結層S上に、四フッ化エチレン樹脂を含有する材料から薄膜状に形成される樹脂層Rと、を有する。樹脂層Rを薄膜状で非常に薄く形成し、更にこの樹脂層Rの下に、多孔質金属焼結層Sを設けることで、第1の摺動部材107の圧縮強度が確保できる。従って、樹脂層Rのクリープ変形を防止することができる。また、多孔質金属焼結層Sは摺動特性が良好な青銅系材料で構成されているため、支持部材121が樹脂層R上を摺動することにより樹脂層Rが摩耗して多孔質金属焼結層Sが露出した状態に至り、多孔質金属焼結層S上で、支持部材121が摺動したとしても、支持部材121が急激に摩耗したり、焼け付いたりして破損することを防止できる。
特に前記多孔質金属焼結層Sに球状青銅系金属粉末を用いると、その効果はより好ましい。
【0036】
なお、本実施形態では、第1の摺動部材107を、円形底面111a上に載置される基盤B上に多孔質金属焼結層S及び四フッ化エチレン樹脂を含む材料から形成された樹脂層Rを予め積層し、エポキシ系の合成樹脂接着剤により凹部111の円形底面111aに接着する構成としたが、円形底面111a上に、直に、多孔質金属焼結層S及び四フッ化エチレン樹脂を含む材料から形成された樹脂層Rを積層する構成も可能である。
【0037】
例えば、第1の摺動部材107には、オイレス工業株式会社製のオイレスドライメットST、LF等を使用することができる。なお、オイレスドライメットSTの場合、多孔質金属焼結層Sは、青銅系金属粉末から形成され、更にこの上に形成される樹脂層Rの厚さは、0.3mmである。オイレスドライメットLFの場合、多孔質金属焼結層Sは、青銅系金属粉末から形成され、更にこの上に形成される樹脂層Rの厚さは、0.03mmである。
【0038】
第1の摺動部材107が樹脂層Rのみで形成されている場合は、支持部材121から樹脂層Rに加わる荷重により樹脂層Rにクリープ変形が生じる恐れがあるが、上述の通り、この樹脂層Rの下に多孔質金属焼結層Sを設けることにより、樹脂層Rの厚みが非常に薄いにも拘わらず、第1の摺動部材107全体としての圧縮強度を確保でき、樹脂層Rのクリープ変形を防止すことができる。また、後述する第2の実施形態の第2の摺動部材207についても第1の摺動部材107と同様の構成である。
【0039】
さらに、受部材105の上面112には、リング状の固定プレート115が、円周方向で等間隔に離間配置される複数のネジ117である締結手段により、保護部材であるゴムシート119を挟んだ状態で締結されている。ネジ117としては、十字穴付き皿ねじ等を用いることができる。
【0040】
ゴムシート119は、伸縮可能なニトリルゴム等から形成される平面視で円形状のシート部材であり、支持部材121を貫通させるための開口119aを備える。このゴムシート119が凹部111を覆うことにより、凹部111への塵、ゴミ等の侵入を防止することができる。
【0041】
支持部材121は、受部材105が水平な床面に置かれた状態において、鉛直方向に延在する。支持部材121は、長手方向に沿って雄ねじが螺刻され、被支持物に固定される連結部121aと、連結部121aの一端部に連続する六角ナット部121bと、六角ナット部121bに連続する台座部121cとを有する。
【0042】
支持部材121は、什器の底部に設けられている雌ねじに連結部121aを螺合させることで、什器に固定される。台座部121cは、平面視で円盤状であり、その外径は、六角ナット部121bの、連結部121aの長手方向に対して垂直な面に沿った最大外形より大きく寸法付けされている。また、台座部121cは、第1の摺動部材107を介して受部材105に当接する。
【0043】
上記構成の免震具101において、
図1(b)の紙面上において左右方向へ移動させようとする力成分が、台座121cと第1の摺動面107aとの間の静止摩擦力F1(F1=μ1・S1・σ1:但し、μ1は、第1の摺動面107aの静止摩擦係数であり、S1は、第1の摺動面107aに接する台座部121cの面積であり、σ1は、支持部材121の連結部121aの軸方向(
図1(b)の上下方向)に加わる台座部121cの面圧である。)を超えると、支持部材121が第1の摺動部材107に対して相対的に移動する。
【0044】
なお、第1の摺動面107aの静止摩擦係数μ1は、免震具101に所定の振動力が加わった場合に支持部材121が第1の摺動部材107に対して相対移動を開始するように設定されている。さらに、実施形態では、当該相対移動が開始するときに発生する摩擦力は、静止摩擦係数μ1を適宜選択することで設定しているが、上記F1の他のパラメータであるS1、σ1を適宜選択することで、当該摩擦力を設定できることは言うまでもない。
【0045】
また、受部材105の床面に対する静止摩擦力を、支持部材121の第1の摺動部材107に対する静止摩擦力より大きくすることは、床面と受部材105との間の静止摩擦係数、支持部材121と第1の摺動部材107との間の静止摩擦係数μ1、受部材105の床面に接する面積、支持部材121の第1の摺動部材107に接する面積、受部材105の床面に対する面圧、支持部材121の第1の摺動部材107に対する面圧等のパラメータにより設定できる。従って、上記設定を行っている実施形態では、支持部材121と第1の摺動部材107に対する静止摩擦力を超える振動力(
図1(b)の左右方向へ移動させようとする力成分)が、免震具101の支持部材121に加わると、支持部材121が第1の摺動部材107に対し相対移動する。さらに、受部材105の床面に対する静止摩擦力を超える比較的大きい振動力が免震具101に加わると、受部材105が床面に対して摺動する。このように、受部材105の裏面110が第2の摺動面を構成することになる。
【0046】
本実施形態では、支持部材121に振動力が加わるときに発生する摩擦力Fdが、M2[kg]・980[cm/s
2]・μ0の値より大きくなると、支持部材121の台座部121cが受部材111の円筒面111bに当接した状態で、受部材105が床面に対し移動する。ここで、Fdは、M1・αで示され、M1は、支持部材121に加わる荷重、αは、摩擦力Fdにより生じる支持部材121の振動加速度である。M2は、受部材105に加わる荷重、980は、重力加速度、μ0は、受部材105の裏面110と床面との間の静止摩擦係数である。
【0047】
このように、本実施形態の免震具101を利用すると、地震動により、受部材105に対して支持部材121が相対移動するので、振動を吸収することができ、免震具が装着されている什器が突然転倒することや、什器に収容されている物品が突然落下することを防止できる。
【0048】
〔第2の実施形態〕
図2(a)は、第2の実施形態に係る免震具201を模式的に示す平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)の線IIB−IIBに沿った部分断面図であり、(c)は、
図2(a)の線IIC−IICに沿った部分断面図である。なお、
図2(b)、(c)には、受部材205のみが断面として図示されている。さらに、第2の実施形態に係る免震具201の形状及び構成については、第1の実施形態と異なる形状及び構成について主として記載する。従って、特に記載しない要素の形状及び構成については、第1の実施形態に係る免震具101の要素の形状及び構成と同じである。
【0049】
図2(b)、(c)に示されるように、第2の実施形態の免震具201は、第1の実施形態と異なり、第2の摺動部材253が、皿ねじ251等の締結手段により、受部材205の裏面210に固定されている。また、第2の摺動部材253は、平面視で円形状の板状部材により構成される。本実施形態では、第2の摺動部材253は、十字穴が頭部に刻設されている複数の皿ねじ251により、第2の摺動部材253の外周端面に沿って円周方向に等間隔に離間する位置で固定されている。
【0050】
さらに、第1の実施形態と同様に、第2の実施形態の免震具201は、主として、床に配置される陳列棚や家具等である被支持物を支持する支持部材221と、支持部材221が相対移動可能に載置される受部材205と、支持部材221と受部材205との間に介在する第1の摺動部材207と、を備える。また、上述の通り、受部材205は、裏面210に第2の摺動部材253を備えるので、受部材205は、第2の摺動部材253を介して床面に載置され、第2の摺動面253aが床に当接する構成である。
【0051】
第1及び第2の摺動部材207、253は、四フッ化エチレン樹脂を含有する材料から形成されている。なお、第1及び第2の摺動部材207、253は、四フッ化エチレン樹脂及び含油ポリアセタール樹脂の少なくとも一方を含有する材料を用いることができる。
【0052】
受部材205の円形底面211aに載置された第1の摺動部材207の第1の摺動面207aの静止摩擦力F1は、受部材205の裏面210に固定された第2の摺動部材253の第2の摺動面253aの静止摩擦力F2より小さくなるように、第1の摺動部材207の第1の摺動面207a及び第2の摺動部材253の第2の摺動面253aの静止摩擦係数等が選択されている。
【0053】
上記構成の免震具201において、
図2(b)、(c)の紙面上において左右方向へ移動させようとする力成分が、台座221cと第1の摺動面207aとの間の静止摩擦力F1(F1=μ1・S1・σ1:ここで、μ1は、第1の摺動面207aの静止摩擦係数であり、S1は、第1の摺動面207aに接する台座部221cの面積であり、σ1は、支持部材221の連結部221aの軸方向(
図2(b)、(c)の上下方向)に加わる台座部221cの面圧である。)を超えると、支持部材221が第1の摺動部材207に対して相対的に移動する。一方、受部材205は、床面に対して移動しない。これは、第1の滑動面207aの静止摩擦係数μ1が第2の摺動面253aの静止摩擦係数μ2より小さく構成されており、左右方向へ移動させようとする力成分が受部材205と床面との間の静止摩擦力(後述するF2)を超えないためである。
【0054】
さらに、大きな力が免震具201に伝わり、その力が受部材205と免震具201が載置されている床との間の静止摩擦力F2(F2=μ2・S2・σ2:ここで、μ2は、第2の摺動面253aの静止摩擦係数であり、S2は、床に接する第2の摺動部材253の第2の摺動面253aの面積であり、σ2は、支持部材221の連結部221aの軸方向(
図2(b)、(c)の上下方向)下方に加わる第2の摺動部材253の面圧である。)を超えると、受部材205が、床に対して摺動する。すなわち、F1<F2が成り立つように、第1の摺動部材207と第2の摺動部材253とを構成する。
【0055】
なお、第2の摺動面253aの静止摩擦係数は、免震具201に所定の振動力が加わった場合に第2の摺動部材253が床に対して相対移動(摺動)を開始するように設定されている。具体的には、支持部材221に振動力が加わるときに発生する摩擦力Fdが、M2[kg]・980[cm/s
2]・μ2の値(すなわち、上述するF2)より大きくなると、支持部材221の台座部221cが受部材211の円筒面211bに当接した状態で、受部材205が床面に対し移動する。ここで、Fdは、M1・αで表され、M1は、支持部材221に加わる荷重、αは、摩擦力Fdにより生じる支持部材221の振動加速度である。M2は、第2の摺動部材205に加わる荷重、980は、重力加速度、μ2は、第2の摺動面253aと床面との間の静止摩擦係数である。また、第2の実施形態では、当該相対移動が開始するときに発生する摩擦力は、静止摩擦係数μ1、μ2を適宜選択することで設定しているが、上記F1、F2の他のパラメータであるS1、σ1、S2、σ2を適宜選択することで、当該摩擦力を設定できることは言うまでもない。
【0056】
このように、本実施形態の免震具201を利用すると、地震動により、支持部材221が受部材205に対して最初に相対移動し、次に受部材205が床面に対して相対移動するので、多段階で振動を吸収することができ、より広範囲の振動力に対する免震機能を果たすことができる。結果として、広範囲の振動力に対し、免震具が装着されている什器が突然転倒することや、什器に収容されている物品が突然落下することを防止できる。
【0057】
さらに、第2の実施形態では、第1及び第2の摺動部材207、253として、四フッ化エチレン樹脂又は含油ポリアセタール樹脂を含有する材料を用いることにより、第1の摺動面207aと第2の摺動面253aの静止摩擦係数の関係を正確に制御することができるため、免震性能を確実に設定できる。さらに、基盤Bと多孔質金属焼結層Sと薄膜状に形成された樹脂層Rの3層構造を有した摺動部材207、253を用いているため樹脂層Rのクリープ変形を極力防止することができるので、耐久性にも優れている。また、四フッ化エチレン樹脂又は含油ポリアセタール樹脂を含有する材料を用いることにより、潤滑油を定期的に供給する構成が不要となるため、免震具のメインテナンスが容易となるとともに、免震具の寿命を長期化することができる。
【0058】
〔第3の実施形態〕
図3は、第3の実施形態に係る免震具301の軸線に沿った部分断面図である。また、
図3中、受部材305のみが断面として図示されている。さらに、第3の実施形態に係る免震具301の形状及び構成については、第1の実施形態と異なる形状及び構成について主として記載する。従って、特に記載しない要素の形状及び構成については、第1の実施形態に係る免震具101の要素の形状及び構成と同じである。
【0059】
図3に示されるように、免震具301は、第1の実施形態と異なり、第1の摺動部材を構成する四フッ化エチレン樹脂を含有する材料から受部材305を形成している。すなわち、第1の摺動部材と受部材305が一部品として構成され、円形底面311aが第1の摺動面307aを構成する。なお、受部材305は、四フッ化エチレン樹脂及び含油ポリアセタール樹脂の少なくとも一方を含有する材料を用いることができる。
【0060】
さらに、上記構成の免震具301において、
図3の紙面上において左右方向へ移動させようとする力成分が、台座321cと第1の摺動面307aとの間の静止摩擦力F3(F3=μ3・S3・σ3:ここで、μ3は、第1の摺動面307aの静止摩擦係数であり、σ3は、支持部材321の連結部321aの軸方向(
図3の上下方向)に加わる台座部321cの面圧である。)を超えると、支持部材321が受部材305に対して相対的に移動する。なお、第1の摺動面307aの静止摩擦係数F3は、免震具301に所定の振動力が加わった場合に支持部材321が受部材305に対して相対移動を開始するように設定されている。
【0061】
また、受部材305の第2の摺動面309の床面に対する静止摩擦力を、支持部材321の第1の摺動面307aに対する静止摩擦力より大きくすることは、床面と受部材305との間の静止摩擦係数μ3、支持部材321と第1の摺動面307aとの間の静止摩擦係数、受部材305の床面に接する面積、支持部材321の第1の摺動面307aに接する面積、受部材305の床面に対する面圧、支持部材321の第1の摺動面307aに対する面圧等のパラメータにより設定できる。従って、上記設定を行っている本実施形態では、支持部材321の第1の摺動面307に対する静止摩擦力を超える振動力(
図3の左右方向へ移動させようとする力成分)が、免震具301に加わると、支持部材321が第1の摺動面に対し相対移動する。さらに、受部材305の床面との間の静止摩擦力を超える比較的大きい振動力が、免震具301に加わると、受部材305が床面に対して摺動する。
【0062】
本実施形態では、支持部材321に加わる振動力により発生する摩擦力Fdが、M2[kg]・980[cm/s
2]・μ0の値より大きくなると、支持部材321の台座部321cが受部材311の円筒面311bに当接した状態で、受部材305が床面に対し移動する。ここで、Fdは、M1・αで示され、M1は、支持部材321に加わる荷重、αは、摩擦力Fdにより生じる支持部材321の振動加速度である。M2は、受部材305に加わる荷重、μ0は、980は、重力加速度、受部材305の裏面310と床面との間の静止摩擦係数である。
【0063】
本実施形態の免震具301を利用すると、地震動により、受部材305に対して支持部材321が相対移動するので、振動を吸収することができ、免震具が装着されている什器が突然転倒することや、什器に収容されている物品が突然落下することを防止できる。さらに、受部材305自体を、四フッ化エチレン樹脂及び含油ポリアセタール樹脂の少なくとも一方を含有する材料を用いることにより、第1の実施形態のように、第1摺動部材を用意する必要がないため、加工コストを削減できる。
【0064】
(第3の実施形態の変形例)
本実施形態の変形例として、受部材305の裏面310を第2の実施形態と同様に第2の摺動面309として構成することも可能である。具体的には、受部材305の円形底面311aである第1の摺動面307aの静止摩擦係数μ3が、受部材305の第2の摺動面309の静止摩擦係数μ4より小さくなるように、第1の摺動面307a及び第2の摺動面309の静止摩擦係数等が選択される。
【0065】
上記構成の免震具301において、
図3の紙面上において左右方向へ移動させようとする力成分が、台座321cと第1の摺動面307aとの間の静止摩擦力F3(F3=μ3・S3・σ3:ここで、μ3は、第1の摺動面307aの静止摩擦係数であり、σ3は、支持部材321の連結部321aの軸方向(
図3の上下方向)下方に加わる台座部321cの面圧である。)を超えると、支持部材321が受部材305に対して相対的に移動する。一方、受部材305は、床面に対して移動しない。これは、受部材305の第1の摺動面307aの静止摩擦係数μ3が第2の摺動面309の静止摩擦係数μ4より小さく構成されており、左右方向へ移動させようとする力成分が受部材305と床面との間の静止摩擦力(後述するF4)を超えないためである。
【0066】
さらに大きな力が免震具301に伝わり、その力が受部材305と免震具301が載置されている床との間の静止摩擦力F4(F4=μ4・S4・σ4:ここで、μ4は、第2の摺動面309の静止摩擦係数であり、S4は、床に接する第2の摺動部材353の第2の摺動面309の面積であり、σ4は、支持部材221の連結部321aの軸方向(
図3の上下方向)下方に加わる受部材305の面圧である。)を超えると、受部材305が、床に対して摺動する。すなわち、F3<F4が成り立つように、受部材305の第1の摺動面307aを構成する領域と第2の摺動面309を構成する領域とを形成する。
【0067】
なお、第2の摺動面309の静止摩擦係数は、免震具301に所定の振動力が加わった場合に受部材305が床に対して相対移動(摺動)を開始するように設定されている。具体的には、支持部材321に加わる振動力により発生する摩擦力Fdが、M2[kg]・980[cm/s
2]・μ4の値より大きくなると、支持部材321の台座部321cが受部材311の円筒面311bに当接した状態で、受部材305が床面に対し移動する。ここで、Fdは、M1・αで示され、M1は、支持部材321に加わる荷重、αは、摩擦力Fdにより生じる支持部材321の振動加速度である。M2は、受部材305に加わる荷重、980は、重力加速度、μ4は、受部材305の裏面310と床面との間の静止摩擦係数である。また、第3の実施形態及びその変形例では、当該相対移動が開始するときに発生する摩擦力は、静止摩擦係数μ3、μ4を選択することで設定しているが、上記F3、F4の他のパラメータであるS3、σ3やS4、σ4をも適宜選択することで、当該摩擦力を設定できることは言うまでもない。
【0068】
このように、本実施形態の免震具301を利用すると、地震動により、支持部材321が受部材305に対して最初に相対移動し、次に受部材305が床面に対して相対移動するので、多段階で衝撃を吸収することができ、より広範囲の振動力に対する免震機能を果たすことができる。結果として、広範囲の振動力に対し、免震具が装着されている什器が突然転倒することや、什器に収容されている物品が突然落下することを防止できる。
【0069】
第1の実施形態では、第2の摺動部材を設けなかったが、受部材を四フッ化エチレン樹脂又は含油ポリアセタール樹脂を含有する材料から一体成形することで、第2摺動部材の機能を持たせることも可能である。
【0070】
また、第1及び第2の実施形態の免震具101、201の第1の摺動部材107、207は、受部材105(205)の凹部111(211)に設ける構成とした。しかし、台座部121c(221c)の、受部材105(205)に対して摺動する部位に設ける構成、又は台座部121c(221c)及び凹部111(211)の両方に設ける構成としてもよい。
【0071】
さらに、第1及び第2の実施形態の支持部材121は、支持部121a、六角ナット部121b、及び台座部121cが、一体成形された一部品として構成しているが、各構成要素を別体として構成しても良い。
第1及び第2の実施形態では、受部材及び第1及び第2の摺動部材のそれぞれを、平面視で円形としたが、四角形等の多角形、楕円形等を各要素毎に変更できることは言うまでもない。
【0072】
第1〜第3の実施形態の受部材は、円形底面111a、211a、311aを有する板状部と、円筒面111b、211b、311bを有する筒状部と、を一部品として構成しているが、当該円形底面を有する板状部材と、当該円筒面を有する筒状部材と、を別部材として、構成することも可能である。このように構成することにより、被支持部、床面などの免震具の使用環境に応じて板状部材と、板状部材に対して相対移動する支持部や床との組み合わせを変えることができ、免震具の設計の自由度が増す。なお、板状部材及び筒状部材の結合は、ねじで留めることや、一方に凸部を設け、他方に凹部を設け、凸部を凹部に係止することで実現できる。
【0073】
さらに、第1〜第3の実施形態の受部材に設けられている第1の摺動面は、免震具が載置される床面に平行に延在している。この構成により、地震等による振動が免震具に伝達された場合であっても、振動の周期に同期して移動することを防止できるため、免震具の所期の免震性能を確実に発揮できる。
【0074】
上記実施形態は、摺動部材や摺動面として特に好ましい材料を適用した事例である、四フッ化エチレン樹脂及び含油アセタール樹脂の少なくともどちらかの樹脂材料を含むケースを提示したが、所望される免震性能や耐久性等によっては、前記二つの樹脂材料以外に、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フェノール樹脂等の摺動特性の良好な樹脂材料を含んだ材料を使用することが可能あることは、言うまでもない。
【0075】
第1の実施形態(及び第2の実施形態)の摺動部材は、基盤Bに対する樹脂層Rの定着性を向上させるために、多孔質金属焼結層Sを用いる構成である。しかし、多孔質金属焼結層Sの代わりに金属製の網状体を利用することも可能である。網状体として、直線状の刃を有する固定下型と、波形状、台形状、三角形状等の刃を有する可動上型との間に金属薄板を固定型に対し直角方向にまたは固定下型の刃に対し斜方向に送入し、可動上型を上下方向に往復させて金属薄板に切り込みを入れると同時に切り込みを拡開し規則正しい網目列を形成することで作製されるエキスパンドメタル、縦糸および横糸として金属細線を織ることにより形成される織組ワイヤメッシュ、金属細線を編むことによって形成される編組ワイヤメッシュ等が挙げられる。さらに、基盤Bの表面を荒らすことや、表面に凹凸を設けることで基盤Bに対する樹脂層Rの定着性を向上させ、多孔質金属焼結層Sを使用せずに、樹脂層Rを基盤にBに直接積層し、摺動特性と耐クリープ特性ともに満足する構成にすることも可能である。
【0076】
第1〜第3の実施形態及び変形例の支持部材は、免震具の必須の構成要素ではなく、床、地面、載置台等における所定面積の平面部上で被支持物を支持するための脚部に過ぎない。従って、上記実施形態及び変形例の免震具は、支持部材が組み込まれている構成であるが、被支持物に予め装着されている支持部材を利用する、支持部材を備えない構成とすることも可能である。
【0077】
次に、第1の実施形態並びに第3の実施形態及びその変形例における免震具101、201、301の第1及び第2の変形例に係る免震具401、501について説明する。なお、第1及び第2の変形例に係る免震具401、501の受部材405、505は、第2の実施形態のように、第2の摺動部材と受部材とを別体として構成することも可能であることは言うまでもない。従って、後述の第1及び第2の変形例に係る免震具401、501は、前述の第1〜第3の実施形態及びその変形例のいずれの態様でも利用できる。また、第1〜第3の実施形態及びその変形例に関して記載されている種々の変更例は、後述の第1及び第2の変形例に係る免震具401、501に適用できる。
【0078】
〔免震具の第1の変形例〕
第1の変形例の免震具401について
図4〜7を参照しつつ説明する。
図4(a)は、第1の変形例に係る免震具401の平面図であり、
図4(b)は、第1の変形例に係る免震具401の正面図であり、
図4(c)は、
図4(a)の線IVC−IVC(直径)に沿った断面図である。
図5(a)は、
図4に示されるロウアー部材461の平面図であり、
図5(b)は、
図5(a)の線VB−VB(直径)に沿った断面図であり、
図5(c)は、
図5(a)の線VC−VC(半径)に沿った断面図であり、
図6(a)は、
図4に示されるアッパー部材463の下面図であり、
図6(b)は、
図6(a)のVIB部の拡大図であり、
図6(c)は、
図6(a)の線VIC−VIC(半径)に沿った断面図であり、
図7(a)は、別の態様の規制部463eを備えるアッパー部材463を示す下面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の線VIIB−VIIB(半径)に沿った断面図である。
【0079】
図4(a)〜(c)に示されるように、免震具401の受部材405は、凹部411が設けられているロウアー部材461と、ロウアー部材461が固定されるアッパー部材463とから構成される。凹部411には、前述した実施形態と同様に、第1の摺動部材407が装着されている。ロウアー部材461は、
図5(a)に示されるように円形状であり、凹部411を規定する周壁部481には、その周方向で等間隔に平面視で丸みを帯びた矩形状の有底穴である肉抜き部477が複数設けられている。
【0080】
凹部411を規定する円形底面411aと円筒面411bとが接続する部位には、第1の摺動部材407が誤った向きに装着されることを防止するための誤装着防止部である爪部が配置されている。本実施形態では、3つの爪部471、473および475が設けられ、円筒面411bの直径方向に対向配置される2つの爪部471、473と、周方向に関し爪部471より爪部473の近くに別の爪部475が配置されている。
【0081】
一方、第1の摺動部材407の外周縁部407b(
図4(c)参照。)には、第1の摺動部材407の第1の摺動面407aを上面(アッパー部材463側に向けて)として前記爪部471、473、475に対応する位置に、爪部471、473、475を収容できる凹部形状の位置決め凹部407c、407d、407eが設けられている。このように、第1の摺動部材407の位置決め凹部407c、407d、407eと位置決め凹部407c、407d、407eに収容される凹部411の爪部471、473、475を、それらの直径に関し非対称に設けることにより、使用者が間違うことなく、第1の摺動部材407の第1の摺動面407aが
図4(b)の上向きに一意的になるように、ロウアー部材461に装着することができる。
【0082】
なお、誤装着防止部は、直径に関し非対称に爪部をロウアー部材461に設ける構成としたが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、第1の摺動部材407の外周面407fをテーパー形状とし、円筒面411bを当該テーパー形状に相補的な形状とすることや、非対称な形状の単一の凸部と凸部に相補的な形状の凹部をロウアー部材461と第1の摺動部材407とに設けること等により、第1の摺動面407aを所望の向きに一意的に配置できる構成の誤装着防止部を構成できる。また、上記誤装着防止部は、二部品から構成される第1及び第2の変形例に係る受部材405、505に設けられているが、一部品から構成される第1〜第3の実施形態及びその変形例の受部材105、205、305にも設けることが可能である。
【0083】
また、ロウアー部材461の周壁部481は、周方向に等間隔に配置される凹部である肉抜き部477が刻設されている。この肉抜き部477を設けることにより、周壁部481にその径方向への可撓性が得られ、後述するアッパー部材463のロウアー部材461への圧入が容易になる。
【0084】
〔アッパー部材〕
アッパー部材463について主として
図6(a)〜(c)、
図7(a)、(b)を参照しつつ説明する。
図6(a)は、
図4に示されるアッパー部材463の下面図であり、
図6(b)は、
図6(a)のVIB部の拡大図であり、
図6(c)は、
図6(a)の線VIC−VIC(半径)に沿った断面図であり、
図7(a)は、別の態様の規制部463eを備えるアッパー部材463を示す下面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の線VIIB−VIIB(半径)に沿った断面図である。
【0085】
アッパー部材463は、円環状の部材であり、
図4(b)に示されるように、平坦な頂壁部463aと、頂壁部463aの外周縁から正面視で末広がりに延在する外周壁部463bとを有する。また、
図6(c)に示されるように、アッパー部材463は、頂壁部463aに対してほぼ垂直方向に延びる内周壁部463cを備え、外周壁部463bと内周壁部463cとはほぼ鋭角を成す。
【0086】
また、外周壁部463bと内周壁部463cとの間に画定される環状空間には、その周方向で等間隔にリブ487が外周壁部463bと内周壁部463cとを接続するように延在する。また、アッパー部材463をロウアー部材461に圧入できるように、内周壁部463cの内周面463dには、周方向に等間隔でロウアー部材461の外周面481a位置より半径方向内方に突出する3つの突起部482、483、484が設けられている。すなわち、突起部482、483、484の、内周面463dからその直径方向に関する長さ寸法は、突起部482、483、484の先端部に接する内周円の直径が、ロウアー部材461の外周面481aの直径より小さくなるように寸法付けられている。
【0087】
アッパー部材463の内周壁部463cの内周面463dの直径寸法は、ロウアー部材461の外周面481aの直径寸法より若干大きく寸法付けされている。従って、前記突起部482、483、484の突出高さ分だけ、ロウアー部材461の外周面481aを径方向内方に、又は/及びアッパー部材463の内周面463dを径方向外方に撓ませることにより、ロウアー部材461の外周面481aにアッパー部材463の内周面463dが容易に嵌入でき両部材を組み付けられる。組付け後は、アッパー部材463の内周面463dに設けられている突起部482、483、484の弾性付勢力により、ロウアー部材461とアッパー部材463とが圧入状態で固定される。
更に、アッパー部材463の内周壁部463cの内周面463dをテーパー形状にすることにより、ロウアー部材461に対するアッパー部材463の組み付け作業性がより向上する。
【0088】
アッパー部材463の頂壁部463aの内径側端部463gには、環状の頂壁部463aに連続し、
図4(b)の状態において頂壁部463aに対して垂直で下方向(内周壁部463cが延びる方向)に並びに頂壁部463aの周方向に連続し延びる規制部463eが設けられている。規制部463eの内周面463fは、第1の摺動部材407の外周面407fの外径寸法より小さく寸法付けされている。従って、アッパー部材463がロウアー部材461に組み付けられている状態では、ロウアー部材461に保持されている第1の摺動部材407が、仮にアッパー部材463の頂壁部463aに近づく方向(第1の摺動部材407の厚さ方向)に相対的に大きく移動しても、規制部463eにより、ロウアー部材461の凹部411から外部へ脱落することを防止できる。なお、
図7(b)に示すように、規制部463eの下方向(内周壁部463cが延びる方向)への長さは、アッパー部材463をロウアー部材461に組み付けた状態において、第1の摺動部材407の第1の摺動面407aに到達するように寸法付けてもよく、この場合は摺動部材407の厚さ方向の遊びによる不要なガタつきを好ましく防止することができる。
【0089】
上記例では、規制部463eをアッパー部材463に設ける構成であるが、ロウアー部材461に規制部を設ける構成や、ロウアー部材461及びアッパー部材463の両方に設ける構成とすることも可能である。例えば、ロウアー部材461の凹部411の円筒面411bに、その半径方向内方に突出する凸部を規制部として設けることができる。第1の摺動部材407を凹部411内に装着する際には、第1の摺動部材407に力を加え、第1の摺動部材407及び当該凸部の一方又は両方を撓ませることで、第1の摺動部材407が当該凸部を越え円形底面411aに配置する。同様に、第1〜第3の実施形態及びその変形例に係る受部材の凹部の円筒面(例えば、
図1の参照符号111b)にも、同様の凸部を規制部として設けることが可能である。
【0090】
アッパー部材463は、ロウアー部材461への嵌入に支障のない程度に撓むことができる弾性を有していれば良く、特に材料に関しては制限されるものはない。また、アッパー部材463の規制部463eを、第1の摺動部材407の第1の摺動面407aまで延設させ、内周面463fに被支持物である什器の支持部材(
図1の参照符号121参照。)の台座部(
図1の参照符号121c参照。)が当接することに備え、緩衝部464(
図7(a)、(b)参照。)を設けることができる。緩衝部464の材料としては、フェルト材等の繊維状の材料やゴム材料等の弾性材料が好適である。
【0091】
なお、緩衝部464は、第1の摺動部材407の第1の摺動面407aまで延設するアッパー部材463の規制部436eの内周面463fに設けられたが、規制部436eが第1の摺動面407aまで延設しない場合には、ロウアー部材461の凹部411の円筒面411b(
図5参照。)に設けても良い。
【0092】
更に、第2の摺動面であるロウアー部材461の裏面410が摺動し、被支持物である什器に近接する壁(
図9(a)の参照符号Wを参照)等の障害物と当接することに備えて、アッパー部材463の外周壁部463bの外周面463hに緩衝部を設けても良い。前述した規制部463eの内周面463fに設ける緩衝部464と同様に、外周壁部463bに設ける緩衝部の材料としては、フェルト材等の繊維状の材料やゴム材料等の弾性材料を用いることができる。
【0093】
これにより、什器(
図9の参照符号601を参照。)の支持部材(
図1の参照符号121参照。)の台座部(
図1の参照符号121c)が振動により、ロウアー部材461の円筒面411b(
図5参照。)又はアッパー部材463の規制部463eに当接する際に、什器及び什器に載置されている物品に作用する衝撃を低減することができる。更に大きな振動が台座部(
図1の参照符号121c等を参照)に作用して第2の摺動面である裏面410が摺動し、被支持物の什器周辺に位置する壁(
図9(a)の参照符号Wを参照。)等の障害物とアッパー部材463とが当接する際に、什器及び什器に載置されている物品に作用する衝撃を低減することができる。
【0094】
緩衝部は、支持部材(
図1の参照符号121参照。)の台座部(
図1の参照符号121c参照。)が当接するアッパー部材463の部位、および被支持物である什器周辺の障害物が当接するアッパー部材463の部位に設けたが、これに替えてアッパー部材463自体を弾性変形可能な材質、より好ましくは免震具に作用する振動力を減衰できる減衰性を有する材質から形成することができる。減衰性を付与するために、例えば、ゴム材料や、軟質樹脂としてのシリコーン樹脂などが利用できる。
【0095】
また、緩衝部は、第1〜第3の実施形態及びその変形例に係る免震具の受部材にも適用できることは言うまでもない。緩衝部は、受部材の円筒面(例えば、
図1の111b参照。)及び受部材の、壁(
図9(a)の参照符号Wを参照。)等の障害物が当接する恐れのある外面である外周面(
図1の参照符号105h参照。)の一方又は両方に設けることが可能であり、また、受部材自体を減衰性の材料から構成することも可能である。
【0096】
〔シート部材〕
また、本変形例(及び後述する第2の変形例)の免震具401は、床面と、受部材405のロウアー部材461の裏面410との間に配置されるシート部材471を備えている。シート部材471は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂から形成することができる。
【0097】
例えば、免震具401が配置される床面等の平面部にワックスを塗り直す際に、ワックス剥離剤やワックスが受部材405と床面との間に入り込んだり、入り込まない場合でも、場所による床面の状態が異なることにより、受部材405と平面部である床面との間の摩擦係数にバラツキが発生し、免震具401が所期の性能を発揮しないことを防止するために、免震具401の下にシート部材471を敷くことも好ましい。
【0098】
シート部材471は、上述のPPS樹脂に限らず、以下の4つの条件を具備する他の材料から形成することも可能である。
(1)剥離性に優れる。例えば、免震具401が地震動等による振動を受けた場合、シート部材471上に固化しているワックスが存在しても、実施形態及びその変形例において説明した免震具の所定の作動に影響を与えないように、ワックスがシート部材471から容易に剥がれる程度の剥離性をシート部材471が有することが必要である。
(2)耐アルカリ性に優れる。例えば、免震具401が配置される平面部である床面では、強アルカリ性のワックス剥離剤が使われる環境下であるので、アルカリ性の溶剤に侵され難い性質を有することが必要である。
【0099】
(3)耐久性に優れる。実施形態及びその変形例において説明したように、例えば、第1の摺動面407aと、第2の摺動面を構成するロウアー部材461の裏面410とが、静止摩擦係数に関し所定の関係を有するように設定される。従って、シート部材471は、ロウアー部材461の裏面410がシート部材471の表面に対して長時間経過後も所定の静止摩擦係数となるような表面状態を維持する、すなわち耐久性を有することが必要である。
(4)耐荷重性に優れる:シート部材471は、例えば、免震具401から受ける負荷によりシート部材471が破断することのない程度の耐荷重性を有する。なお、シート部材471に比較的低い負荷しか掛からない場合には、PTFE(4フッ化エチレン)樹脂からシート部材471を形成することも可能である。
【0100】
〔免震具の第2の変形例〕
次に、第2の変形例に係る免震具501及び免震具501を備える被支持物の一例である什器について
図8(a)〜(d)、
図9(a)、(b)を参照しつつ説明する。
図8(a)は、第2の変形例に係る免震具501の平面図であり、
図8(b)は、
図8(a)の線VIIIB−VIIIBに沿った断面図であり、
図8(c)は、
図8(b)のVIIIC部の拡大図であり、
図8(d)は、カバー部材519の平面図であり、
図9(a)は、免震具501を備える陳列棚601を示す正面図であり、
図9(b)は、免震具501を備える陳列棚601を示す側面図である。
である。
【0101】
第2の変形例に係る免震具501の受部材505は、スナップフィットにより、アッパー部材563とロウアー部材561とが固定される構成である。その他の構成については、第1の変形例に係る免震具401と同じであるので、異なる事項を中心に説明する。また、第2の変形例に係る免震具501に関し記載しない構成及び効果については、第1の変形例に係る免震具401と同じである。さらに、第1の変形例に関連して説明したべ別の態様の緩衝部や規制部についても、第2の変形例に係る免震具501に適用できることは言うまでもない。
【0102】
図8(c)に示されるように、受部材505を構成するロウアー部材561の外周部に形成されている係合段部561aに、アッパー部材563の外周部563bに設けられているフック状の保持部563aを、保持部563aの弾性を利用しはめ込み引っ掛ける構成である。なお、アッパー部材563に係合段部を設け、ロウアー部材561にフック状の保持部を設ける構成とすることも可能である。
【0103】
〔保護部材〕
また、本変形例の受部材505には、前述の本実施形態及びその変形例に示されているゴムシート119、219、319と同様に、保護部材であるカバー部材519が装着され、ワックス、ワックス剥離剤、ゴミ等が受部材505の凹部511に進入し、第1の摺動面507aが所期の機能を発揮しないことを防止している。カバー部材519は、所定厚さを有し、凹部511の一部を覆うように
図8(a)、(d)に示されるように平面視で三日月形状である。
【0104】
〔陳列棚〕
次に、什器である陳列棚601の支持部材521が免震具501に載置される場合について
図9を参照しつつ説明する。
図9(a)、(b)に示すように、什器601は、支持部材521が下面に装着されている基台617と、基台617の上面に立設される3本の柱611と、3本の柱611間に延び基台617の上面から直立する2つの背面板619と、3本の柱611に架け渡され、柱611の長手方向に互いに離間配置される3段の棚613と、柱611に装着され、各棚613を支持する支持板615とを備える。
【0105】
陳列棚601は、
図9(a)の正面視で左側に配置される柱611が、壁Wの近傍になるように配置されている。また、
図9(b)の側面視で示されるように、陳列棚601の両側に人が通る通路Iが延在する場合には、カバー部材519は、人が通る通路I側の、凹部511の領域の一部を覆うように凹部511に装着することが好ましい。
【0106】
また、カバー部材519は、凹部511を構成する円形底面511aとほぼ同じ曲率半径を有する円弧状部519aと、円弧状部519aの両端に滑らかに連続し、円弧状部519aと同方向に凸である所定の曲率半径を有する湾曲部519bにより画成される。また、支持部材521の受部材505に対する相対移動により支持部材521がカバー部材519に衝突すると、カバー部材519は凹部511から容易に外れるか、凹部511内で容易に変形するように構成されている。
【0107】
上記した免震具401、501では、シート部材471、571を備える免震具であるが、シート部材を備えない免震具として利用することも可能である。また、免震具101、201および301についてもシート部材を備えて免震具として利用可能である。さらに、上記変形例に係る免震具401、501では、圧入又はスナップフィットによりアッパー部材とロウアー部材とを互いに脱着可能に組み付けているが、本発明は当該手段に限定されず、ねじ等を利用し両部材を組み付けることも可能である。このように、アッパー部材がロウアー部材から脱着可能であるので、第1の摺動部材の取り替えといった免震具の保守を容易に行うことができる。もちろん、アッパー部材とロウアー部材を接着剤等により固定的に組み付ける構成とすることも可能である。
【0108】
また、本免震具の被支持物を本明細書において、陳列棚・家具等の什器としたが、他の被支持物であってもよく、例えば冷蔵庫等の家電製品やサーバーラック、また成型機や切削機械等の産業機械にも、本免震具を使用することができる。