特許第6482214号(P6482214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6482214改質された基材の製造方法、および改質された基材
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  • 特許6482214-改質された基材の製造方法、および改質された基材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482214
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】改質された基材の製造方法、および改質された基材
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20190304BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20190304BHJP
   D06M 11/50 20060101ALI20190304BHJP
   C03C 25/10 20180101ALN20190304BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
   D06M15/643
   C09D183/04
   D06M11/50
   !C03C25/10
   D06M101:00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-182882(P2014-182882)
(22)【出願日】2014年9月9日
(65)【公開番号】特開2016-56469(P2016-56469A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】513248016
【氏名又は名称】岩宮 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】岩宮 陽子
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2008/041747(JP,A1)
【文献】 特開2000−309068(JP,A)
【文献】 特開2010−224174(JP,A)
【文献】 特開2007−284843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C25/00−25/70
C09D1/00−10/00
101/00−201/10
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(A)(a)オルガノアルコキシシラン、その加水分解物、およびその縮合物の群から選ばれた少なくとも1種からなるオルガノシロキサン類を主成分とするコーティング組成物を、基材に付与し、当該(a)オルガノシロキサン類を硬化させたのち、さらに、(2)過酸化水素(水)を付与し、乾燥させることを特徴とする、改質された基材の製造方法。
【請求項2】
(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランが、R1 Si(OR2 3(式中、R1 は炭素数1〜8の有機基、R2 は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基を表す)で表されるオルガノトリアルコキシシランである、請求項1記載の改質された基材の製造方法。
【請求項3】
(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランには、さらにR1Si(OR2 (式中、R1 は同一または異なり、炭素数1〜8の有機基、R2 は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基を表す)で表されるジオルガノジアルコキシシランを含む、請求項2記載の改質された基材の製造方法。
【請求項4】
(1)(A)コーティング組成物をオルガノアルコキシシラン換算で基材に対し0.1〜50重量%付与し、乾燥・硬化させたのち、(2)過酸化水素(水)を過酸化水素換算で当該基材に対し0.01〜3重量%付与したのち、乾燥させる、請求項1〜3いずれかに記載の改質された基材の製造方法。
【請求項5】
基材がガラス繊維布帛である、請求項1〜4いずれかに記載の改質された基材の製造方法。
【請求項6】
過酸化水素(水)を付与したのち、さらに(3)上記(A)コーティング組成物をオルガノアルコキシシラン換算で基材に対し0.1〜50重量%付与し、乾燥・硬化させる、請求項1〜5いずれかに記載の改質された基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維布帛などの基材に対し、適度な強度と良好な光透過性、そして良好な撥水性と柔軟性、更には難燃性を付与した表面処理された改質基材の製造方法と、この製造方法によって得られる改質された基材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、先に繊維素材に、特定の化合物を主成分とするシラン系コート液を塗布し、触媒の作用で硬化・固化させて、表面形成されたコート素材を提案した(特許文献1の請求項1)。
特許文献1の発明では、同特許文献の請求項1規定の式1に示した、ケイ素原子の4個の置換基のうち、1個は加水分解が不可能で、化合物同士の重縮合に関与しない置換基Rで置換されたものの縮合体を用いて繊維素材をコートして、適度な強度と良好な光透過性、良好な撥水性と柔軟性、更には対摩耗性と難燃性(耐熱性)を付与したコート素材を製造するものである。
【0003】
したがって、特許文献1記載の発明によれば、身近に存在する和紙、洋紙、布等の繊維素材の、柔軟性を有するという性質を生かしたコート素材が提供できるのである。しかも、これらコート素材に付与される種々の特性は、例えば、触媒として使用する有機金属触媒の選択と使用量、化合物の選択と使用量、コート液の塗布量等を任意に選択・調整することにより、実施者が比較的自由に調製が可能であるという効果もある。
【0004】
また、特許文献1の発明では、コート液を塗布することにより、コート素材を製造するものであるから、従来から使用されている、パラフィン紙等のように、高い光透過性と優れた撥水性を呈することはできるが、工場生産によらなければ製造できなかった素材とは異なり、通常の紙素材等、身近に存在し、簡単に入手できるものについて、その柔軟性を生かしたまま、強度、光透過性、撥水性、難燃性そして耐摩耗性を付与できるという効果がある。
【0005】
さらに、その丈夫さゆえに障子住宅やホテル・旅館等で障子紙として使用されているレーヨン障子紙等との比較では、当該発明によって製造されるコート素材は、静電気を生じ難いため、埃がつき難く、しかもレーヨン障子紙を超える撥水性を有しているため、濡れ雑巾等での拭き掃除が可能で、洗っても水分を吸い込んで接着部分が剥がれることがない、という効果がある。
つまり、特許文献1の発明にしたがって通常の障子紙から製造したコート素材では、レーヨン障子紙に代表される特殊障子紙のように、レーヨン、アクリル、塩化ビニルといった化学物質を使用していないため、静電気が発生することが無く、埃が付きにくいという効果を達成できるのである。従来の特殊障子紙は、長年の使用の間に周囲のほこりを吸着して黒ずんでしまい、一定間隔で張り替えの必要があったが、本願発明で製造したコート素材による障子紙では、長期間の使用でも黒ずむことがなく、張り替え間隔を飛躍的に長くすることができるのである。
【0006】
さらに、特許文献1の発明により製造したコート素材を、従来のゾル−ゲル液を用いて製造したものと比較すれば、シランカップリング剤を用いる必要がないことから、コート膜の形成反応が不均一になることがなく、したがって、コーティング膜の強度は低下しないという効果がある。また更には、式1の化合物等は合成が容易であることから、従来の有機・無機複合材料を用いるものと比較して、より安価にコート素材を提供し得るという効果もある。
【0007】
ところで、この特許文献1の技術をガラス繊維に適用した場合、繊維素材をコートし自然乾燥後、一枚もしくは数枚重ねたシートを押し型により、圧力を適度に与え、常温で1〜2日放置したのち(乾燥機による乾燥で120℃、3〜5時間くらい)、型枠から外すことにより、ガラス繊維の球面型やU型、波型などの形状が型枠に合わせ固定化し、不燃のガラス成形加工品を得ることができる。
しかしながら、上記特許文献1の発明をガラス繊維布帛に応用したところ、透明性、硬度が高く、優れた複合素材を得ることができるが、得られる表面処理されたガラス繊維布帛は、固い棒や爪などで擦過した場合に傷がついたり(部分白化)、擦過部分が不透明火(黒ずむ)になるなどの難点があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3456956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ガラス繊維布帛などのあらゆる基材をオルガノシラン系コート剤で処理するに際し、強度と硬度が高く、良好な光透過性、更には良好な撥水性を有するとともに、棒や爪などで擦過した場合でも、耐擦過性に優れ、透明性を保持することが可能な、表面処理されたガラス繊維布帛などの基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(1)(A)(a)オルガノアルコキシシラン、その加水分解物、およびその縮合物の群から選ばれた少なくとも1種からなるオルガノシロキサン類を主成分とするコーティング組成物(以下「(A)コーティング組成物」ともいう)を、基材に付与し、当該(a)オルガノシロキサン類を硬化させたのち、さらに、(2)過酸化水素(水)を付与し、乾燥させることを特徴とする、改質された基材の製造方法に関する。
ここで、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランとしては、R1 Si(OR2 3(式中、R1 は炭素数1〜8の有機基、R2 は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基を表す)で表されるオルガノトリアルコキシシランが好ましい。
また、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランには、さらにR1Si(OR2 (式中、R1 は同一または異なり、炭素数1〜8の有機基、R2 は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基を表す)で表されるジオルガノジアルコキシシランを含んでいてもよい。
本発明の製造方法の好ましい態様は、(1)(A)コーティング組成物をオルガノアルコキシシラン換算で基材に対し0.1〜50重量%付与し、乾燥・硬化させたのち、(2)過酸化水素(水)を過酸化水素換算で当該基材に対し0.01〜3重量%付与したのち、乾燥させる方法が挙げられる。
以上の基材としては、ガラス繊維布帛が好ましい。
である、請求項1〜5いずれかに記載の改質された基材の製造方法。
本発明では、上記のように、過酸化水素(水)を付与したのち、さらに(3)上記(A)コーティング組成物をオルガノアルコキシシラン換算で基材に対し0.1〜50重量%付与し、乾燥・硬化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラス繊維布などの基材をオルガノシラン系のコーティング組成物で処理するに際し、強度と硬度が高く、良好な光透過性、更には良好な撥水性を有するとともに、固い棒や爪などで擦過した場合でも、耐擦過性に優れ、透明性を保持することが可能な、表面処理されたガラス繊維布帛などの基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】比較例1および実施例1のサンプルをそれぞれ、爪で擦過した場合の傷のつき方を実証するための写真であり、左側は実施例1のサンプル、右側は比較例1のサンプルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以上のように、本発明は、(1)(a)オルガノアルコキシシラン、その加水分解物、およびその縮合物の群から選ばれた少なくとも1種からなるオルガノシロキサン類を主成分とする(A)コーティング組成物を、基材に付与し、当該(a)オルガノシロキサン類を硬化させたのち、さらに、(2)過酸化水素(水)を付与し、さらに必要に応じて(3)オルガノシロキサン類を主成分とする(A)コーティング組成物を塗布し乾燥・硬化させる、改質された基材の製造方法に関する。
以下、「コーティング組成物」、「基材」などについて、項分け記載で本発明を詳述する。
【0014】
<(A)コーティング組成物>
本発明に用いられる(A)コーティング組成物は、(a)オルガノアルコキシシラン類を主成分とするものであるが、通常、(a)オルガノアルコキシシラン類のほかに、(b)親水性有機溶剤、および(c)水を含むものである。
【0015】
(a)オルガノアルコキシシラン類:
(a)オルガノアルコキシシラン類としては、式(1):R1 Si(OR2 3 (式中、R1 は炭素数1〜8の有機基、R2は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基を表す)で表されるオルガノアルコキシシラン(以下「オルガノアルコキシシラン(1)」ともいう)、その加水分解物、あるいはその縮合物が挙げられる。(a)成分は、エマルジョン(コロイド状も含む)でも、溶剤系でもよい。
なお、(a)オルガノアルコキシシラン類には、式(2);R1 Si(OR2(式中、R1 は同一または異なり、炭素数1〜8の有機基、R2は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基を表す)で表されるオルガノアルコキシシラン(以下「オルガノアルコキシシラン(2)」ともいう)、その加水分解物、あるいはその縮合物を(a)成分中、50重量%以下程度併用することができる。
【0016】
(a)成分を構成するオルガノアルコキシランは、水の存在により酸またはアルカリの存在下もしくは非存在下で加水分解および重縮合して高分子量化するものであり、その塗膜は加熱下または常温下で硬化する。
【0017】
ここで、オルガノアルコキシシランの加水分解触媒となる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸なとどが挙げられる。また、加水分解触媒となる塩基としては、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。なお、これらの通常の触媒を用いる場合には、加水分解の際に、反応水を共存させる。
【0018】
かかるオルガノアルコキシシラン(1)は、前記式中のR1 が炭素数1〜8の有機基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基などのアルキル基、そのほかγ−クロロプロピル基、ビニル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メタクリルオキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、フェニル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−アミノプロピル基などであり、また式中のR2 は同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基および/または炭素数1〜4のアシル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、アセチル基などである有機シラン化合物である。
【0019】
これらのオルガノアルコキシシラン(1)の具体例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルエトキシシラン、γ−アミノプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシランなどを例示できる。
【0020】
これらのオルガノアルコキシシラン(1)は、1種の単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。好ましくは、メチルトリメトキシシランおよび/またはメチルトリエトキシシランを使用する。また、(a)成分としては、かかるオルガノアルコキシシランを、あらかじめ酸またはアルカリの存在下もしくは非存在下で加水分解した加水分解物、該加水分解物をさらに熟成して重縮合した縮合物を使用することもできる。縮合の度合いとしては、2〜10分子程度の縮合体が挙げられる。
【0021】
なお、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシラン(2)の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシランなどや、これらの化合物の2〜10分子程度の縮合体を例示することができる。
オルガノアルコキシシラン(2)の使用量は、(a)成分中に50重量%以下程度であり、50重量%を超えると、オルガノアルコキシシラン(1)とうまくシロキサン結合が生成せず好ましくない。オルガノアルコキシシラン(2)の使用量は、(a)成分中に、50重量%以下、好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%程度ある。(a)成分中に、オルガノアルコキシシラン(2)を併用すると、得られるシートに柔軟性を付与することができる。
【0022】
本発明の(a)成分は、オルガノアルコキシシランを水の存在下で、加水分解触媒として、酸や塩基などを用いて、加水分解、縮合させるから、得られる(a)成分は、オルガノアルコキシシラン、その加水分解物、その縮合物の混合物となり、反応水と生成するアルコール類の混合系であって、その形態は、溶剤系、エマルジョン、もしくはコロイド状である。
【0023】
なお、(a)成分の加水分解、縮合には、有機金属化合物を用いることもできる。この例示としては、例えばチタン、ジルコニウム、アルミニウムあるいはスズの錯体であり、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタネート、テトラプロポキシジルコネート、テトラブトキシジルコネート、トリプロポキシアルミネート、アルミニウムアセチルアセトナート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートなどが挙げられる。
【0024】
(a)〜(c)成分中における(a)成分の配合割合は、オルガノアルコキシシラン換算で10〜70重量%、好ましくは15〜50重量%である。(a)成分の配合割合が、10重量%未満ではバインダーとしての効能がなくなり、一方70重量%を超えると過剰なシロキサ結合体が生じ、表面の平滑さを失い、シリカ粉体を生じる。
【0025】
(b)親水性有機溶剤;
本発明で使用する(b)親水性有機溶剤は、アルコール類、グリコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類などである。アルコール類としては、炭素数1〜8の脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−n−ペンタノールなどが挙げられる。グリコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノールが挙られる。エステル類としては、前記アルコール類およびグリコール類のギ酸、酢酸、プロピオン酸などのエステル、具体的にはギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチルなどを例示できる。
【0026】
エーテル類として、前記アルコール類およびグリコール類のアルキルエーテルなど、具体的にはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、アセトフェノンなどが挙げられる。
【0027】
(a)〜(c)成分中の(b)親水性有機溶剤の配合割合は、15〜75量%、好ましくは20〜60重量%である。(c)成分の配合割合が、20%重量%未満ではコーティング組成物の粘度が上昇しすぎ、保存安定性が低下し、一方重量60%を超えると保存安定性は向上するもののコーティング組成物中の固形分濃度が小さくなり得られる塗膜の乾燥速度および加水分解速度が低下し、硬化に長時間を要するので好ましくない。
【0028】
(c)水;
本発明において、(c)水は、(a)成分のオルガノアルコキシシランの加水分解剤である。この水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水を使用できる。また、(a)成分のアルキルアルコキシシランの加水分解により生成する水も包含される。
(a)〜(c)成分中の水の配合割合は、5〜70重量%、好ましくは10〜40重量%である。(c)成分の配合割合が、5重量未満では、(a)オルガノアルコキシシランの加水分解が十分に生起し難く、一方70重量%を超えるとコーティング組成物の安定性が低下し、また塗膜の乾燥速度が低下するので好ましくない。
なお、(a)成分としては、あらかじめ原料となるオルガノアルコキシシランの加水分解物、その部分縮合物などを用いる場合には、この(c)水は特に必要ではない。
このように、オルガノアルコキシシランをあらかじめ加水分解、縮合している場合には、当該組成物中には、(c)水が存在せずに、(a)〜(b)成分を主成分とする溶剤系であってもよい。
【0029】
なお、本発明の組成物中には、上記のように、酸を添加することが好ましい。酸は、組成物のpHを7未満の酸性領域に調整し、(a)成分の加水分解を促進するとともにコーティング後の塗膜の硬化促進の働きをするものである。かかる酸としては、硝酸、塩酸などの無機酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、マレイン酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、グリコール酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸を挙げることができる。これらの酸のうち、特に酢酸が好ましい。これらの酸は、1種または2種以上を併用することができる。
【0030】
かかる酸の組成物中の配合割合は、(a)〜(c)成分中、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランに対し、0.1〜1重量%程度である。これにより、組成物のpHを7未満、好ましくは3.5〜5.5に調整することが可能となる。酸の含有量が、0.1重量%未満では(a)オルガノアルコキシシランの加水分解およびコーティング後の塗膜の硬化が充分でなくなり、一方1重量%を超えると塗膜になったとき残存酸が多くなり好ましくない。
【0031】
さらに、本発明の組成物には、各種界面活性剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、金属アセチルアセトネート、またナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸などのアルカリ金属塩、チヌビン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などの安定剤などの従来公知のその他の添加剤を添加することもできる。
【0032】
本発明のコーティング組成物は、上記成分(a)〜(c)および必要に応じて酸などの添加剤を含み、そのpH7未満の酸性領域での固形分濃度が10〜40重量%、好ましくは10〜30重量%のエマルジョンあるいはコロイダル状の液状組成物である。固形分が10重量%未満では、1回の塗布で十分な厚さの塗膜が得られず作業性が悪化したり、塗膜強度が低すぎたりし、一方40重量%を超えるとゲル化し易く粘度が上昇し、密着性が悪化し、さらには均一な膜厚の塗膜が得られ難くなり好ましくない。
【0033】
本発明のコーティング組成物は、例えば溶液系、あるいはエマルジョン系もしくはコロイド状の(a)成分(親水性有機溶剤や水を含む)を、ロールミル、ボールミル、攪拌機などを用いて十分に分散させて調製することができるが、この調製方法に限定されるものではない。
このように、本発明のコーティング組成物の調製方法では、(a)成分の混合液(具体例としては、ジアルキルジアルコキシシランの縮合物であるシリコーンオリゴマーとアルキルトリアルコキシシランの縮合物を親水性有機溶剤にとかした溶液(必要に応じて、加水分解触媒を添加)からなるエマルジョン組成物を調製し、ロールミル、ホールミル、撹拌機などで十分に分散させることが望ましい。
【0034】
<基材>
本発明のコーティング組成物のコーティングの対象となる基材は、編物、織物、不織布、紙などの布帛や、フィルム、シートなどが挙げられる。具体的には、ポリアミド繊維やポリエステル繊維、レーヨン繊維、ガラス繊維、綿、パルプなどからなる布帛類やフィルムのほか、和紙、コピー紙、タイペック(デュポン社製のポリエチレン製不織布)、壁紙、襖紙、障子紙、天井紙、テーブルクロス、カーテン、マット、ゴムシートなどが挙げられる。
なかでも、ガラス繊維布帛が好ましい例である。
【0035】
ガラス繊維布帛;
本発明の基材となるガラス繊維布帛は、織物、編物、不織布などの形態が考えられるが、好ましくは織物である。
ガラス織物としては、例えば特開平6−192937号公報、特開平8−195114号公報、特開平8−246292号公報、特開平8−259637号公報、特開平8−290528号公報、特開平8−306215号公報、特開2001−55646号公報、特開2003−3375号公報、特開2003−171848号公報記載のガラス繊維織物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ガラス繊維織物の構造としては、例えば平織、目抜き平織、摸しゃ織、綾織、繻子織、絡み織、三軸織物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
さらに、ガラス繊維布帛の目付けとしては、グラスウール表皮材、内装材用クロス用途としては、150〜500g/m、複合材料、ライニング用クロス用途としては、100〜860g/m、鋼板補強用クロス用途としては、200g/m前後、産業資材用ガラスクロスとしては90〜600g/m、アルミろ過用クロスとしては200〜500g/m、スクリムクロス用途としては80〜300g/m2、集塵用フィルターガラスクロスとしては、300〜900g/m程度であるが、これらの目付けに限定されるものではない。
【0036】
<(1)基材への(A)コーティング組成物の付与>
基材へのコーティング組成物の付与(コーティング)には、刷毛塗り、スプレー、ディッピング、ロールコート、印刷などの塗装手段を用いることができる。1回塗りで目的とする乾燥膜厚の塗膜を形成することができ、さらに2〜5回程度塗り重ねることもできる。また、重ね塗りの場合、1回毎に加熱・乾燥処理を行ってもよい。
コーティング組成物の基材への付与量は、基材に対し、(a)成分を構成するオルガノアルコキシシランの縮合物(オルガノポリシロキサン)として、0,1〜50重量%、好ましくは0,1〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。特に、オルガノポリシロキサンによる被覆が、基布の表面改質を目的としている場合は少なくてもよく、基布全重量に対して1〜10重量%程度が好ましい。一方、オルガノポリシロキサンによる被覆が、基布の耐切創性や耐摩耗性の向上を目的としている場合には、オルガノポリシロキサンの付着量は、基布全重量に対し1〜20重量%が好ましく、3〜15重量%がより好ましい。
【0037】
本発明の(A)コーティング組成物は、基材にコーティングされると、常温〜60℃の温度で(a)オルガノアルコキシシランの加水分解と同時に重縮合反応を生起してゾルを生成し、さらに反応が進行してゲル、すなわちオルガノポリシロキサンとなる。これを常温で1〜6日間放置するかもしくは80〜150℃で10〜60分間加熱することにより、溶剤の揮散とともにオルガノポリシロキサンの硬化塗膜を形成する。ただし、前記反応温度および放置または加熱時間は、使用する各成分の種類および配合割合により異なるので、前記に限定されるものではない。
【0038】
<(2)基材への過酸化水素(水)の付与>
本発明では、ガラス繊維布帛などの基材を、オルガノシラン系のコーティング組成物で処理して、乾燥・硬化させたのち、さらに、過酸化水素(水)で処理することが肝要である。このように、さらに過酸化水素(水)で基材を処理すると、基材表面に形成されているオルガノポリシロキサンと過酸化水素の活性ヒドロキシラジカルが反応して、オルガノポリシロキサンのさらなる縮合がすすみ、また、過酸化水素の活性ヒドロキシラジカルが基材表面に反応して、基材とオルガノシロキサンとの結合をさらに強固にするものと考えられる。
【0039】
ここで、過酸化水素は、常温では無色の、水よりわずかに粘度の高い弱酸性の液体でエタノール、エーテル、水に可溶であり、僅かにオゾンに似た臭いがする。
過酸化水素は、不安定で酸素を放出しやすく、非常に強力な酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成しやすい。過酸化水素は活性酸素の一種ではあるが、フリーラジカルではない。強い腐食性を持ち、高濃度のものが皮膚に付着すると痛みをともなう白斑が生じる。また、可燃物と混合すると過酸化物を生成、発火させることがある。水に溶けると、分解されるまでは水生生物に対して若干の毒性を持つ。実験室では、酸素を得る際に使われる。この反応式は以下の通りである。
2H → 2HO+O
なお、過酸化水素は消防法第2条第7項及び別表第一第6類2号により危険物第6類(酸化性液体)に指定されている。また、重量%で6%を超える濃度の水溶液は毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。
試薬用としては、濃度30w/v%の過酸化水素水が市販されている。主に酸化剤として用いられる。
一般に、2.5〜3.5 w/v%の過酸化水素水は、医療用の外用消毒剤として利用され、オキシドール (Oxydol)という日本薬局方名、またはオキシフル (Oxyfull)という商品名でも呼ばれる。
本発明では、過酸化水素(水)として、一般に市販されている、上記のようなオキシフルあるいはオキシドールと称される過酸化水素水を用いることが好ましい。
【0040】
表面処理されたガラス繊維布帛などの基材への過酸化水素(水)の付与は、刷毛塗り、スプレー、ディッピング、ロールコート、印刷などの塗装手段を用いることができる。1回塗りで目的とする乾燥膜厚の塗膜を形成することができ、さらに2〜5回程度塗り重ねることもできる。また、重ね塗りの場合、1回毎に加熱・乾燥処理を行ってもよい。
過酸化水素(水)の基材への付与量は、基材に対し、過酸化水素換算で、0.01〜3重量%、好ましくは0,05〜2%重量である。0,01%重量%未満では、ガラス繊維基布あるいは、基材加工した基布上に、過酸化水素(水)が均等に浸透せず、一方、3重量%を超えると、過酸化水素(水)が余剰となり、乾燥に余分な時間と無駄な液剤を使用してしまうこととなる。
基材に対し、過酸化水素(水)を付与したのち、常温で10〜30分、その後オルガノシラン系のコーと剤でコート処理し、乾燥機で、80〜200℃で、0.5〜5時間、好ましくは0.5〜3時間、乾燥させることにより、基材へのポリオルガノシロキサンの結合力が増加するとともに、ポリオルガノシロキサンの縮合がさらに進んで、基材表面の耐擦過性、硬度の向上、光透過性、撥水性、防汚性などの効果が表れる。
【0041】
<(3)過酸化水素(水)付与後の基材への(A)コーティング組成物の付与>
本発明では、上記のように、(2)基材へ過酸化水素(水)を付与したのち、さらに(3)上記(A)コーティング組成物をオルガノアルコキシシラン換算で基材に対し0.1〜50重量%付与し、乾燥・硬化させてもよい。この際の(A)コーティング組成物の乾燥・硬化条件は、(1)工程と同様である。過酸化水素(水)を付与したのちに、必要に応じてさらに(A)コーティング組成物を付与すると、本発明の効果が一層向上する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
参考例1(コーティング組成物の調製)
500ml三つ口フラスコに、メチルトリメトキシシラン181g、メタノール50g及び純水18gを加え十分に攪拌した。さらに61%硝酸2gを加え攪拌しながら3時間加熱・環流させ、反応終了後、加熱しながら反応容器内を減圧しメタノールを除去した。このようにして得られたアルコキシシラン縮合体は、ガスクロマトグラフィー分析により3〜4量体が中心であった。
このアルコキシシラン縮合体18gに、イソプロピルアルコール2.0g、エチレングリコール2.0g、テトラブトキシチタニウム0.8gを添加して、本発明に用いられるコーティング組成物を調製した。
【0043】
比較例1
ガラス長繊維製の平織物(日東紡社製の平織のガラス繊維織物、目付:200g/m)に、参考例1で得られたコーティング組成物をハケを用いて塗布した。その後、最初60℃から乾燥を始め、徐々に温度を上げ、最終的に、100℃まで温度を上げて、表面処理されたガラス繊維織物を得た。この処理により、織物には、参考例1で得られたコーティング組成物が固形分換算で、この平織物に対し、10重量%付与されていた。
このものについて、促進耐候性試験(100時間)を行った。
<促進耐候性試験(100時間>
試料名;Eパネル(促進耐候性試験200時間経過品)
試験法:JISK7350−2−1995に規定の暴露試験方法に準拠
試験機;スガ試験機(株)製、キセノンロングライフフェードメーター
光源;JISK7350−2−1995に規定するキセノンアーク光源
スガ試験機(株)製、水冷式キセノンアークランプ(2.5KW定格)
表示照射照度 48W/m(300〜400nm)
温度条件;ブラックパネル温度 63±2℃
噴霧条件;水噴霧なし
ドラム回転数;1分間に2回転
以上の条件で、促進耐候性試験(100時間)を実施し、測色試験を測定した。
以上の測定箇所は、神奈川県産業技術センターである。
その結果は、下記のとおりであった。
【0044】
【表1】
【0045】
以上のように、比較例1の試料は、耐候性に優れ、また、透かしてみると、半透明性にも優れたものであった。しかしながら、その表面を爪で擦過すると、明らかに擦過傷が残り、その部分を透かしてみると、擦過部分の黒ずみが明確であり、透明性が無傷の箇所に比べて劣っていることが分かった。爪で擦過した場合のサンプルの写真を図1に示す。図1の右側が本比較例の場合で、擦過した箇所の黒ずみが明確であった。
【0046】
実施例1
比較例1で得られた表面処理され、まだ耐候性試験に供していない試料を用い、これに、さらに市販の過酸化水素水(第一三共社製、オキシフル。過酸化水素濃度3重量%)を刷毛塗りで、基材に対し、過酸化水素換算で1重量%付与したのち、10分間、乾燥させて、その上に、比較例1と同様にしてさらにコーティング組成物を塗布し、同様にして乾燥・硬化させて、本発明の表面硬化処理されたガラス繊維織物を得た。
このものについて、比較例1と同様の耐候性試験を実施したところ、比較例1と同様に耐候性にも優れていた。
さらに、この試料について、その表面を爪で擦過したが、まったく擦過傷はついておらず、さらにその部分を透かしてみても、半透明性にも優れており、比較例1に比べて、耐擦過性、硬度、色相、に優れていることが明らかであった。図1の左側のサンプルは、本実施例1であり、爪で擦過しても、擦過傷がなく、無傷であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により得られる表面処理された基材、例えばガラス繊維布帛は、硬度、色相、耐擦過性、撥水性、光透過性、不燃性に優れており、例えばLED照明の躯体、建築用内装材、外装材、天井材、などの用途に有用である。
図1