(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482277
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】ひずみ非結合センサ
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5684 20120101AFI20190304BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
G01C19/5684
B81B3/00
【請求項の数】13
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-550758(P2014-550758)
(86)(22)【出願日】2013年1月4日
(65)【公表番号】特表2015-507746(P2015-507746A)
(43)【公表日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】GB2013050006
(87)【国際公開番号】WO2013102763
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2015年7月7日
【審判番号】不服2018-3683(P2018-3683/J1)
【審判請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】1200128.5
(32)【優先日】2012年1月5日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】フェル,クリストファー ポール
【合議体】
【審判長】
小林 紀史
【審判官】
清水 稔
【審判官】
櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−516196(JP,A)
【文献】
特表2011−528103(JP,A)
【文献】
特表2006−518673(JP,A)
【文献】
特開2000−249562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/56-G01C 19/5783, B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板に固定されたセンサ素子と、を備えるセンサであって、前記基板および前記センサ素子は異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有し、前記センサ素子および前記基板はそれぞれ、実質的に互いに平行に配置された概ね平坦な面を有し、前記センサは、単一のスペーサをさらに備え、それにより前記センサ素子が前記基板上に固定され、前記スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ素子の少なくとも一部を離間させるように配置され、前記スペーサは、前記センサ素子と前記基板との接触面積が前記スペーサの面積に限定されるように、前記基板の面および前記センサ素子の面のうちの小さい方の面積よりも小さい面積であり、
前記センサは、振動型リングジャイロスコープから成り、
前記センサ素子が前記センサの磁石アッセンブリの一部であることを特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記スペーサが前記センサ素子および前記基板のうちの一方または他方と一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記スペーサが前記センサ素子および前記基板のうちの一方と一体に形成され、かつ前記センサ素子および前記基板のうちの他方に固着されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
前記スペーサが前記基板と一体に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記スペーサが前記基板の周囲の部分から直立する小径突起によって画定されることを特徴とする請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
空洞が前記基板の面に形成され、前記スペーサが前記空洞の基部から直立することを特徴とする請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記突起が前記空洞の中央に配置されることを特徴とする請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記空洞が環状の形態であることを特徴とする請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記突起が概ね円柱状であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のセンサ。
【請求項10】
前記スペーサが前記基板および前記センサ素子のうちの小さい方の面積の半分未満の面積であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のセンサ。
【請求項11】
前記スペーサが前記基板および前記センサ素子のうちの小さい方の面積の30%未満の面積であることを特徴とする請求項10に記載のセンサ。
【請求項12】
前記スペーサが前記基板および前記センサ素子を少なくとも約30μmの距離だけ離間させることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のセンサ。
【請求項13】
前記センサ素子が前記磁石アッセンブリの下部磁極片から成ることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関し、特に、熱的に誘起される応力に起因する不正確さが低減されるセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
センサは通常いくつかの構成部品で構成されており、少なくともそのいくつかは、異なる材料からなり、かつ互いに強固に相互接続されている。センサが温度の変化を受ける場合、各構成部品の熱膨張または収縮が発生する。構成部品が、異なる材料からなる場合によくあることだが、異なる熱膨張率を有する場合、通常は応力が誘起される。
【0003】
微小電気機械システム(micro−electromechanical system)(MEMS)技術は、いくつかのセンサ設計を作るために使用されてきた。例えば、MEMSベースの加速度計およびジャイロスコープは周知である。そのような装置は、典型的には、例えば、ガラスまたはシリコンの基板に固定された実質的に平坦なシリコン層を備える。他の構成要素が基板に固定されてもよく、かつ、上述したように、前記他の構成要素と基板との間の熱膨張差は、シリコン層内に応力を誘起することがあり、この応力層は次いで、センサの動作時に有害な影響を及ぼし得る。例えば、センサのバイアスまたはスケールファクタが影響を受ける場合がある。
【0004】
米国特許出願公開第2010/0072563号および国際公開第2008/069394号では、センサ素子が基板に固着されている、センサ構成について説明している。それぞれの場合において、センサ素子は、固定部に対して移動可能な可動部を含み、センサ素子の表面全体ではなく、センサ素子の固定部のみが 基板に固着されるとはいえ、センサ素子の複数の部分が基板に固着されるので、熱膨張または収縮差により、結果的にセンサ素子に応力が誘起される。
【0005】
米国特許出願公開第2010/0251818号および米国特許出願公開第2010/0300201号は、センサ素子を支持するために弾性または柔軟性のある支持部を使用して熱膨張差を吸収する構成について説明している。
【0006】
米国特許出願公開第2003/0038415号は、センサ用の柔軟性のある取り付け構成について説明している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記で概説された欠点が克服されまたは低減効果のあるセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、基板と、基板に固定されたセンサ素子と、を備えるセンサが提供され、基板およびセンサ素子は異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有し、センサ素子および基板はそれぞれ、実質的に互いに平行に配置された概ね平坦な面を有し、本センサはさらに単一のスペーサを備え、それによりセンサ素子が基板に固定され、スペーサは、基板の少なくとも一部からセンサ素子の少なくとも一部を離間させるように配置され、スペーサは、基板の面およびセンサ素子の面のうちの小さい方の面積よりもかなり小さい面積である。
【0009】
スペーサは、センサ素子および基板のうちの一方または他方、または両方と一体に形成されてもよい。スペーサが、センサ素子および基板のうちの一方と一体に形成される場合、それは、例えば、好適なエポキシを使用して、センサ素子および基板のうちの他方に好都合に固着される。スペーサと、センサ素子および基板の前記他方との間の接触面積、すなわち、スペーサの面積は、その構成要素の面の面積よりもかなり小さいことが認識されるだろう。
【0010】
この構成では、センサ素子および基板が、スペーサの位置においてセンサ素子および基板の面積の小さい部分にわたってのみ相互接続されているので、センサ素子および基板の熱膨張差に起因する応力は、スペーサにおいてセンサ素子および基板が相互接続されるそれらの面積の小さい部分に起因する応力に限られ、したがって、センサの動作に対する影響をかなり低減する。
【0011】
好都合には、スペーサは、基板と一体に形成されている。例えば、それは、小径突起によって画定されることができ、基板の周囲の部分から直立している。空洞が基板の面に形成されることができ、突起は、好ましくは、空洞の中央に配置される。好都合には、空洞は環状の形態である。
【0012】
好都合には、突起は、概ね円柱状である。しかしながら、他の形状も可能である。例えば、それは、多角形の断面を有することができる。
【0013】
好都合には、スペーサは、基板および/またはセンサ素子の面積の半分未満の面積である。好ましくは、スペーサの面積は、基板および/またはセンサ素子の面積の30%未満である。
【0014】
好ましくは、スペーサは、基板およびセンサ素子を約30μmの距離を置いて離間させる。しかしながら、本発明は、この間隔が例えばより大きくなる他の構成にも適用可能である。実際に、例えば約300μmのようなより大きい間隔は、スペーサをわたる応力結合を減衰させることができるため、有利であり得る。
【0015】
好都合には、センサは、振動型リングジャイロスコープから成る。そのような構成では、センサ素子は、好都合には、センサの磁石アッセンブリの一部から成る。例えば、それは磁石アッセンブリの下部磁極片から成ってもよい。しかしながら、本発明は他の形態のセンサに適用されてもよく、かつ、そのような構成において、センサ素子が他の形態であってもよいことが認識されるだろう。
【0016】
本発明はさらに、以下の添付の図面を参照して、例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】公知の形態の振動型リングジャイロスコープの概略図である。
【
図2】
図1に類似するが、本発明の一実施例によるセンサを示す図である。
【
図3】典型的なセンサの30個のサンプルに対する温度との直交バイアス変動を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例によるセンサのサンプルの直交バイアス変動を示す、
図3に類似のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず
図1を参照すると、リング状の共振器10を備えるセンサが示されており、共振器10は、共振器10から外側に延在する一体的な支持リガメント(
図1には示されていない)によって支持枠12に取り付けられる。支持枠12は、ガラス台座14上に設置され、ガラス台座14は次いで、ガラス基板16上に設置されている。
【0019】
基板16には、下部磁極片20と、上部磁極片24と、それらの間に配置されたマグネット22とから構成された磁石アッセンブリ18が取り付けられている。磁石アッセンブリ18、具体的にはその中の下部磁極片20は、下部磁極片20とガラス基板16との間に配置された、薄い実質的に剛性の接着剤の層により、ガラス基板16に取り付けられている。下部磁極片20は、よって、その下面全体が基板16に固設されている。下部磁極片20は、典型的には、比較的小さい熱膨張率を有する好適な強磁性材料からなる。磁極片20は、約7×10
-6の熱膨張率を有し得る。シリコンとパイレックスガラスの熱膨張率は、それぞれ、約3×10
-6および2×10
-6である。典型的には、接着剤は、高温で、例えば約130℃で適用される。アッセンブリがこの温度から冷却されると、下部磁極片20と基板16との間に熱膨張/収縮差が発生し、本明細書で前述されるように、下部磁極片20と基板16の中、および共振器10と支持枠12の中に応力を誘起する。使用時の温度変化も、同じ理由で応力を誘起するであろう。
【0020】
この形態のセンサは周知であり、よって、それが動作する仕方は、本明細書では説明しない。例えば、この一般型のセンサは英国特許第2322196号および米国特許出願公開第2011/0167911号において説明されている。
【0021】
支持枠12、台座14、および基板16は、典型的には概ね正方形の断面形状をしており、台座14は概ね円形の断面形状の内部開口を含み、その中に概ね円筒形状である磁石アッセンブリ18が配置される。結果として、センサ内の応力分布が不均一となり、最大値では台座14の幅が最小となり、角の最小値では台座14の幅が最大となる。この変動する応力パターンが、共振器10を支持枠12に設置するリガメントを介して共振器10内に結合され、共振器の剛性を変化させる。
【0022】
共振器内へのこの変動する応力パターンの結合がセンサの動作に影響を与えることは、当業者に認識されるであろう。本出願人は、当業者に理解されるように、これらの熱的に誘起される応力に起因する変動が、直交バイアス変動の主要な原因であると考える。
図3は、温度変化に起因する直交バイアス変動を示すグラフであり、これらは非常に大きく、よって、センサの使用に影響を与えることになることが認識されるだろう。
【0023】
図2は、本発明の一実施例によるセンサを示す。
図2のセンサは、
図1のものと非常に類似しており、よって、それらの間の違いのみを以下に詳細に説明する。適切な場合には、本明細書に前述の説明は、
図2の実施例の理解を助けるために参照され得る。同様の参照番号は、類似している部分を示すか、または実質的に同じ機能を実行するために、
図1および
図2で使用される。
【0024】
図2のセンサでは、下部磁極片20の下側または下面20aは、実質的にその全ての面積にわたっては、基板16と係合しない。むしろ、下面20aの大部分は、短い距離dで基板16から離間している。距離dは、例えば、約30μmとすることができる。図示のように、これは、スペーサ26の存在によって達成される。
図2の実施例では、スペーサ26は基板16と一体に形成されている。しかしながら、スペーサ26が、下部磁極片20の一部を形成する、または別の構成要素である、という構成が可能である。さらに、スペーサは、基板上に形成されたスペーサの一部、および下部磁極片上に形成された別の一部からなる、2つの部分による形態とすることもできる。
【0025】
本明細書で前述した構成では、距離dは約30μmであるが、本発明の範囲から逸脱することなく他の間隔を使用できることが認識されるだろう。実際に、例えば、300μmのようなより大きい間隔が、それが結果的に、スペーサをわたる応力結合のいくらかの減衰になる場合があるため、有利である場合がある。ある程度まで、深さは、スペーサを形成するために使用される技術、およびスペーサと基板の残りの部分の構造的な完全性によって左右されるだろう。
【0026】
スペーサ26は、基板16の表面16aに、浅い凹部または空洞28をエッチングすることにより、好都合に形成される。他の製造技術を使用することもできる。例えば、粉末ブラスト法を用いてもよい。通常は、エッチングは、結果的に比較的浅い凹部を形成するだろうが、より深い凹部が望まれる場合には、粉末ブラストが適切である。凹部または空洞28は、概ね環状の形態であり、下部磁極片20の直径よりわずかに大きい外径を有し、スペーサ26は、環状の凹部または空洞28の中央によって形成されるか、または画定される。よって、スペーサ26は、凹部または空洞28の中央から、実質的に表面16aの平面まで突出している。
【0027】
図1のセンサと同様に、組み立て中に、下部磁極片20は、例えば好適なエポキシの使用により、基板16に固設されている。しかしながら、
図1のセンサとは異なり、下部磁極片20の下面20aの一部のみが、基板16に固定されていて、下面20aの前記一部は、スペーサ26に固定されている。下部磁極片20の下面20aの残りの部分は、凹部または空洞28、およびスペーサ26の存在により、基板16から吊設される、または離間している。センサ素子20と基板16との接触面積は、スペーサ26の面積にこのように限定される。
【0028】
下部磁極片20の表面積の比較的小さな部分のみが、基板16と接触し、固設されるので、熱膨張または収縮差は、単に、結果的にアッセンブリへ限定された応力を付与、または誘起することが認識されるだろう。共振器10内への熱的に誘起される応力の結合は、したがって、非常に低減され、センサの動作および感度の強化につながる。
【0029】
一例として、示された構成では、下部磁極片20は約6mmの直径であり、凹部または空洞は磁極片20よりもわずかに大きく、スペーサ26は約3mmの直径である。したがって、この実施例では、下部磁極片20と基板16との間の接触面積(すなわち、スペーサ26の面積)は、
図1の構成の同等の接触面積の約25%であることが認識されるだろう。この実施例では、接触面積は、
図1の構成の同等の面積の25%に減少するが、本発明は、この点に関して限定されないことが認識されるだろう。例えば、本発明の利益のいくつかは、下部磁極片20の面積の約50%未満に接触面積を減少させることによって生ずる。しかしながら、好ましくは、接触面積がこれより小さい、好都合には、下部磁極片20の面積の約30%未満である。実際には、共振器10内への熱的に誘起される応力の結合を低減するために、接触面積を最小にすることと、下部磁極片20が適切に支持され、かつ基板16上の位置に固設されることを確実にすることとの間には、トレードオフが存在することが認識されるだろう。
【0030】
図4は
図3に類似したグラフであり、実質的に同じ尺度であるが、しかし、本明細書で前述したように、
図2の実施例の直交バイアス変動を示している。
図3および
図4のグラフを比較することにより、
図2の構成の温度で、直交バイアス変動が大幅に低減されることに留意されたい。
【0031】
本発明の構成は、共振器内への熱的に誘起される応力の結合の減少を達成するだけでなく、それらの有害な影響を減少させるが、しかし、また、空洞28を形成するための単一の追加的な製造工程のみの導入を伴う、比較的簡便な方法でこの結果を達成する。
【0032】
本明細書で前述される構成において、下部磁極片20は、基板16に固設されるセンサ素子を形成する。しかしながら、他の形態のセンサにおいて、センサ素子は他の形態をとってもよいことが認識されるだろう。本発明はこの点において限定されない。
【0033】
添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、広範囲な修正および変更が本明細書に前述の構成になされてもよい。例えば、説明された構成では、スペーサ26は、凹部または空洞26の中央に形成され、概ね円柱状の形態である。しかしながら、所望であれば、他の形状および位置を採用することができる。