【実施例1】
【0013】
<構成>以下、この実施例の構成について説明する。
自動車などの車両には、車室内の前部に、
図1の縦断面図(
図2の底面図も併せて参照)に示すような、インストルメントパネル1が設置される。そして、このインストルメントパネル1の助手席側の部分に、緊急時に助手席乗員を保護するための安全装置として、助手席用のエアバッグ装置2を設置する。
【0014】
上記した助手席用のエアバッグ装置2は、袋状のエアバッグ本体3を折畳んで収納するエアバッグモジュール4と、このエアバッグモジュール4の上方に設置されたエアバッグリッド部(この場合には、インストルメントパネル1とされている)と、エアバッグリッド部にエアバッグモジュール4を取付けるためのガイド部材6と、を備える。
【0015】
この場合、大型の樹脂部品であるインストルメントパネル1をエアバッグリッド部としている。但し、エアバッグリッド部は、インストルメントパネル1とは別体に構成して、インストルメントパネル1に設けられた開口部に取付けるものとしても良い。以下、インストルメントパネル1をエアバッグリッド部とする場合について説明するが、別体型のものとする場合には、インストルメントパネル1をエアバッグリッド部と読み替えれば良い。
【0016】
そして、上記したインストルメントパネル1(エアバッグリッド部)に対するエアバッグモジュール4の取付け構造(エアバッグ取付構造)として、
図3、
図4に示すような、裏面側にガイド部材取付部7が形成されたインストルメントパネル1と、このインストルメントパネル1にエアバッグモジュール4を設置するための、
図5、
図6に示すような、ガイド部材6とを、
図1、
図2に示すように、ガイド部材取付部7にガイド部材6を当接した状態で振動溶着によって固定する構造を採用する。
【0017】
ここで、上記したインストルメントパネル1は、裏面側に開裂線8を形成することによってエアバッグリッド部とされる。この開裂線8は、膨張したエアバッグ本体3の押圧力で破断(または開裂)されることによって、エアバッグ本体3が車室内の乗員側へ膨出するための膨出用開口を開成させるものである。この開裂線8は、例えば、二枚開きの場合、平面視「H」字状や数字の「8」字状などとされる。
【0018】
そして、上記したガイド部材6は、開裂線8の内側に形成されるリッド部11を補強するドア部12と、ドア部12の周囲を取囲む取付フランジ部13と、取付フランジ部13に対してドア部12を回動自在に連結するヒンジ部14と、取付フランジ部13の内周縁部から車両前後方向15を基準としてほぼ前斜め下方へ延びてエアバッグ本体3の膨出をガイドするガイド枠状の取付脚部16とを有するものとされる。エアバッグモジュール4はこの取付脚部16の内側にその上部を挿入した状態で、取付脚部16に形成された係止孔17にエアバッグモジュール4に設けられたフック部18を遊嵌させることによって、係止可能状態とされる。上記とは別に、エアバッグモジュール4は、その下部を、車体に対して締結固定される。
【0019】
ガイド部材取付部7は、開裂線8の内側のリッド部11に可動部となるドア部12の上面を振動溶着し、開裂線8の外側に固定部となる取付フランジ部13の上面を振動溶着するために確保された領域である。ガイド部材取付部7は、取付フランジ部13の外周部に相当するかまたはそれよも大きいものとされる。ガイド部材取付部7の車両後方側(
図1中右側)には、ガイド部材6の車両後方への移動を規制するための位置決めリブ19を一体に形成するようにしても良い。なお、ガイド部材取付部7の車両前方側(
図1中左側)に上記と同様の位置決めリブ19aを設けようとした場合、仮想線で示すように、型抜き方向による制約から、前下りの傾斜形状となるので、ガイド部材6の車両後方への移動を規制するのが困難なものとなる。
【0020】
以上のような基本的な構成に対し、この実施例では、以下のような構成を備えるようにしている。
(1)
図4に示すように、上記インストルメントパネル1のガイド部材取付部7の側部に、インストルメントパネル1の裏面に対して離間するパネル側溶着案内面21を一体に形成する。
また、
図5、
図6に示すように、上記ガイド部材6の側部に、ガイド側溶着案内面22を一体に形成する。
そして、
図7、
図8に示すように、ガイド側溶着案内面22が、上記パネル側溶着案内面21と位置が重なるようにする。
更に、上記パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22との一方に位置規定用凹部23を形成する。
また、上記パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22との他方に、振動溶着時に上記位置規定用凹部23に嵌合する位置規定用凸部24を形成する。
【0021】
ここで、ガイド部材取付部7の側部は、車幅方向25の両側部とするのが好ましい。パネル側溶着案内面21は、インストルメントパネル1とほぼ平行な面とするのが好ましい。パネル側溶着案内面21は、好ましくは、インストルメントパネル1の裏面との間を連結する側面部21aを有して、少なくとも、一面が開いたボックス形状部を構成するものなどとされる。これにより、パネル側溶着案内面21に必要な強度を確保することができる。一方、ガイド部材6の側部は、取付フランジ部13の車幅方向25の両側部とするのが好ましい。位置が重なるとは、少なくとも振動溶着時に僅かにでも上下方向26に重複する部分(重なり部分27)を有することである。この場合には、インストルメントパネル1のガイド部材取付部7にガイド部材6を当接配置した状態でパネル側溶着案内面21の下側(組付時には
図7、
図8のように上下反転するので上側となる)にガイド側溶着案内面22の一部が重なるようにしている。
【0022】
ガイド側溶着案内面22は、パネル側溶着案内面21とほぼ平行な面とされる。ガイド側溶着案内面22は、パネル側溶着案内面21と同様のボックス形状部の一部としても良いが、この場合には、取付フランジ部13からパネル側溶着案内面21の側面部21aに沿ってほぼ下方へ延びる垂下壁22aによって連結されている。垂下壁22aには、必要に応じて補強リブ22b(
図9、
図10参照)を設けることができる。位置規定用凹部23および位置規定用凸部24については後述する。
【0023】
(2)上記位置規定用凹部23は、振動溶着方向へ延びて、上記位置規定用凸部24の振動溶着方向への移動を許容すると共に、位置規定用凸部24の振動溶着方向と直交する方向への移動を規制するものとされる。
【0024】
この場合、振動溶着方向は、車幅方向25とされる。また、振動溶着方向と直交する方向は、車両前後方向15とされる。振動溶着方向へ延びる位置規定用凹部23は、
図9に示すようなスリット部23a(または長溝)や、
図10に示すような長孔23bなどとすることができる。これに対し、位置規定用凸部24は、
図9に示すような位置決めリブ24aや、
図10に示すような位置決めピン24bなどとすることができる。なお、スリット部23aおよび長孔23bと、位置決めリブ24aおよび位置決めピン24bとの組み合わせは上記に限るものではない。
【0025】
位置規定用凹部23は、インストルメントパネル1の成形後に別工程で加工・形成される。これにより、型構造上難しい位置規定用凹部23の形成を、無理なく確実に行うことができる。位置規定用凹部23の加工は、例えば、切削工具(エンドミルなどの回転工具)などを用いて行うことができる。更に、位置規定用凹部23を、切削工具で加工する場合、
図8に示すように、位置規定用凹部23の断面形状は、切削工具の形状に応じた奥狭まりのものなどとなる可能性が高い(テーパ状凹部)。このような場合には、位置規定用凸部24は、位置規定用凹部23における幅が狭くなった奥側の部分を基準として位置決めを行わせるようにするのが好ましい。即ち、位置規定用凸部24の厚みを、位置規定用凹部23の奥側の部分のスリット幅に
合せて設定する。
【0026】
(3)
図9、
図10に示すように、上記パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22との重なり部分27に、少なくとも、振動溶着代31以上の隙間32が形成される。
【0027】
ここで、振動溶着代31は、溶着リブ33の突設量にほぼ相当する。溶着リブ33は、
図1や
図6に示すように、ドア部12および取付フランジ部13の上面に対して一体に立設される。
【0028】
(4)上記位置規定用凹部23が、上記パネル側溶着案内面21に形成されるようにする。
また、上記位置規定用凸部24が、上記ガイド側溶着案内面22に形成されるようにする。
【0029】
ここで、位置規定用凹部23は、上記したインストルメントパネル1に開裂線8を形成するのと同じ加工工程で加工させるようにする。開裂線8の加工には、例えば、熱刃による加工や、超音波カッターによる加工や、レーザーによる加工などが存在しているので、位置規定用凹部23も、それぞれ、熱刃や、超音波カッターや、レーザーによって加工するのが良い。よって、上記したように、位置規定用凹部23を切削工具(例えば、エンドミルなどの回転工具)で加工する場合には、開裂線8も同じ切削工具で同時に加工するのが効率的となる。
そして、上記したいずれの手段で加工する場合でも、開裂線8の加工形成後に、同じ工程で開裂線8の実際の形成位置に合わせて、位置規定用凹部23を加工する。これにより、開裂線8の形成と位置規定用凹部23の形成とが同一基準で行われることになるため、互いの位置精度が向上する。即ち、位置規定用凹部23によってガイド部材6を高精度で位置決めしてインストルメントパネル1に溶着固定することができるため、開裂溝8に対するガイド部材6の取付け位置精度が向上し、エアバッグ装置2の展開性能を向上させることができる。
なお、既存の位置決めリブ19は、インストルメントパネル1の射出成形と同時に形成されるものであり、ガイド部材6はインストルメントパネル1に開裂線8を形成した後に、インストルメントパネル1に対して振動溶着されるものである。よって、既存の位置決めリブ19のように位置を事前に設定したもののみに基いて位置決めを行わせる場合には、インストルメントパネル1に対する開裂線8の形成による位置のバラ付きと、開裂線8に対するガイド部材6の取付位置のバラ付きとの両方を考慮しなければならず、既存の位置決めリブ19のみによる位置決めは、開裂溝8に対するガイド部材6の位置決め精度が低いものとなっていた。これに対し、この実施例では、開裂線8の加工形成後に同じ基準で位置規定用凹部23を加工するので、既存の位置決めリブ19のみを用いる場合よりも、高い位置決め精度を得ることができる。
【0030】
以下、エアバッグ取付方法について説明する。
【0031】
(5)このエアバッグ取付方法は、インストルメントパネル1の裏面に形成したガイド部材取付部7に、ガイド部材6を当接配置して、両者を振動溶着によって固定するものとされる。
そして、上記インストルメントパネル1のガイド部材取付部7の側部に一体に形成した、インストルメントパネル1に沿って離間するパネル側溶着案内面21に、上記ガイド部材6の側部に一体に形成したガイド側溶着案内面22を重ねると共に、
上記パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22との一方に形成した位置規定用凹部23に、上記パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22との他方に形成した位置規定用凸部24を嵌合させた状態で振動溶着する。
【0032】
なお、既に述べたが、上記した取付作業は、インストルメントパネル1とガイド部材6とを上下反転させて行うようにする。
【0033】
<作用>以下、この実施例の作用について説明する。
インストルメントパネル1とガイド部材6とは、インストルメントパネル1を裏返しにして、インストルメントパネル1の裏面側に形成されたガイド部材取付部7に、上下反転させたガイド部材6を上方から当接した状態で振動溶着を行うことによって固定される。そして、インストルメントパネル1に固定されたガイド部材6にエアバッグモジュール4を保持させることにより、インストルメントパネル1の裏面側にエアバッグモジュール4が設置される。
【0034】
緊急時には、エアバッグモジュール4から膨出された袋状のエアバッグ本体3をガイド部材6の取付脚部16でガイドすることにより、エアバッグ本体3は車室内へ膨出される。この際、膨張したエアバッグ本体3の押圧力が、ガイド部材6のドア部12を介してインストルメントパネル1のリッド部11に作用することにより、開裂線8が開裂され、リッド部11が開成することで、インストルメントパネル1に膨出用開口が形成される。エアバッグ本体3は、この膨出用開口から車室内の乗員側へ向けて膨出される。このエアバッグ本体3によって、座席の正しい位置に着座している乗員の体が拘束保護される。
【0035】
<効果>この実施例によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)インストルメントパネル1の裏面に対してガイド部材6を固定する場合、ガイド部材6の取付位置精度を高めることは、エアバッグ装置2の展開性能にとって重要である。そこで、従来は、インストルメントパネル1の裏面におけるガイド部材取付部7の周囲に位置決めリブ19を立てて、この位置決めリブ19でガイド部材6の位置決めを直接行わせるようにしていた。しかし、インストルメントパネル1は、型抜方向に制約があるので、型抜方向との関係で、車両前方側については、このような位置決めリブ19aを設けることが難しく、または、強いて車両前方側に位置決めリブ19aを設けたとしても、その位置決めリブ19aを位置決めにとって有効な形状にすることができないので位置決め機能を十分に発揮させることが難しい。また、上記したように、インストルメントパネル1に事前に形成された位置決めリブ19aでは、後加工される開裂線8との関係で位置精度を高めることは難しい。
【0036】
そこで、インストルメントパネル1のガイド部材取付部7の側部にパネル側溶着案内面21を設け、ガイド部材6の側部にガイド側溶着案内面22を設けて、パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22とに位置規定用凹部23と位置規定用凸部24を形成するようにした。これにより、位置規定用凹部23と位置規定用凸部24とによる位置決めが、パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22とを介在させた間接的なものとなるので、上記したような位置規制を行うための部位を、型抜方向による制限を受けることなく設けて、(所要の方向に対する)位置決め機能を発揮させることが可能となる。また、上記したように、開裂線8の加工形成後に同じ基準で位置規定用凹部23を加工するので、既存の位置決めリブ19のみを用いる場合よりも、高い位置決め精度を得ることができる。
【0037】
(2)位置規定用凹部23を振動溶着方向へ延びるものとした。これにより、位置規定用凹部23にガイド側溶着案内面22を嵌合した状態で、振動溶着を支障なく行わせつつ、しかも、振動溶着方向と直交する方向(この場合には、車両前後方向15)に対する位置決めを、構造的に無理なく確実に行わせることができる。
【0038】
(3)パネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22との重なり部分27に振動溶着代31以上の隙間32を形成した。これにより、振動溶着の途中でパネル側溶着案内面21とガイド側溶着案内面22とに当りが生じて振動溶着が妨げられるのを防止することができる。よって、振動溶着を強固且つ確実に行わせることができる。
【0039】
また、振動溶着のためにインストルメントパネル1裏面のガイド部材取付部7にガイド部材6を当接配置した際に、上記した隙間32が存在することで、パネル側溶着案内面21やガイド側溶着案内面22に変形を生じさせることなく、位置規定用凹部23と位置規定用凸部24とを十分な嵌合状態にセットすることができるようになると共に、上記隙間32を通して位置規定用凹部23と位置規定用凸部24との嵌合状態が適正であるかどうかを容易且つ確実に目視確認することができるようになる。
【0040】
(4)位置規定用凹部23をパネル側溶着案内面21に形成し、位置規定用凸部24をガイド側溶着案内面22に形成した。位置規定用凹部23と位置規定用凸部24とは逆に設けることもできるが、インストルメントパネル1の裏面側には、袋状のエアバッグ本体3が展開する時の押圧力によって、インストルメントパネル1に膨出用開口を形成するための開裂線8が設けられるので、位置規定用凹部23をパネル側溶着案内面21の側に設けるようにすることで、開裂線8の形成の際に同時に位置規定用凹部23を形成することが可能となるので、加工工程が統合されて効率が良い。
【0041】
また、上記したようにパネル側溶着案内面21を断面ボックス形状のものとすることにより、位置規定用凹部23を形成した時の強度確保が容易となる。
【0042】
(5)この実施例にかかるエアバッグ取付方法によれば、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものである。よって、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。また、例えば、各実施例に複数の構成が含まれている場合には、特に記載がなくとも、これらの構成の可能な組合せが含まれることは勿論である。また、複数の実施例や変形例がこの発明のものとして開示されている場合には、特に記載がなくとも、これらに跨がった構成の組合せのうちの可能なものが含まれることは勿論である。また、図面に描かれている構成については、特に記載がなくとも、含まれることは勿論である。更に、「等」の用語がある場合には、同等のものを含むという意味で用いられている。また、「ほぼ」「約」「程度」などの用語がある場合には、常識的に認められる範囲や精度のものを含むという意味で用いられている。