(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅及びニッケルを含む金属で形成された導電成分と、焼成温度で溶融又は熱分解しない非導電性無機粒子で形成された抵抗調整成分と、焼成温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス粒子で形成された無機バインダーと、これらの成分を分散させるための有機ビヒクルとを含む抵抗体ペーストであって、前記導電成分の少なくとも一部が前記抵抗調整成分の少なくとも一部を被覆することにより、非導電性無機粒子の少なくとも一部の表面が導電層で被覆された複合粒子を形成し、前記導電成分が、前記導電層と金属粒子とを含み、この金属粒子の割合が、前記複合粒子100質量部に対して、17〜243質量部であり、前記非導電性無機粒子が、アルミナ、シリカ、酸化チタン、炭化ケイ素から選択された少なくとも一種であり、焼成した抵抗体の抵抗値が、200〜100,000μΩ・cmである抵抗体ペースト。
導電成分、抵抗調整成分及び無機バインダー成分の体積割合が、導電成分、無機バインダー成分及び抵抗調整成分の体積の総和に対して、それぞれ10〜80体積%、1〜75体積%及び5〜50体積%である請求項1〜5のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
導電成分が、銅とニッケルとの合金であるか、銅、ニッケル及び銅とニッケルとの合金からなる群より選択された少なくとも2種であるとともに、銅とニッケルとの質量比が、銅/ニッケル=90/10〜30/70である請求項1〜7のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
【背景技術】
【0002】
従来から、200mΩ/□〜100Ω/□程度の低・中抵抗の厚膜抵抗体として、銀(Ag)とパラジウム(Pd)を主成分とする貴金属ペーストからなる端子電極部と、酸化ルテニウム(RuO
2)を主成分とする抵抗体ペーストからなる抵抗体とで形成される厚膜抵抗体が知られている。しかし、貴金属ペーストは高価であり、はんだ喰われによる端子電極接続部分の信頼性の低下や、Agのエレクトロマイグレーションなどの問題が懸念される。
【0003】
このような問題に対して、端子電極部として、Cuを主成分(導電成分)とする導電ペーストで形成されたCu電極を用いることも考えられるが、酸化ルテニウムは大気中で焼成する必要があり、Cu電極と組み合わせることはできない。すなわち、酸化ルテニウムペーストを大気焼成すればCu電極が酸化してしまい、窒素中で焼成すれば酸化ルテニウムが還元されて抵抗が不安定になる。このような問題を回避するために、抵抗体ペーストとして銅及びニッケルを主成分とする卑金属系抵抗体ペーストが提案されている。
【0004】
特許第3642100号公報(特許文献1)には、絶縁基板と、この絶縁基板の少なくとも片面に形成した銅/ニッケル合金からなる抵抗層と、前記絶縁基板の対向する一対の両端部に前記抵抗層を接続するように設けた端面電極とを有するチップ抵抗器において、抵抗層が銅/ニッケル合金粉に銅粉、ガラスフリット及び有機ビヒクル成分からなる厚膜抵抗体ペーストを印刷し、焼成して形成した合金層からなるチップ抵抗器が開示されている。この文献には、ガラスフリット成分は金属成分に対して重量比で0.5〜10%であることが記載されている。また、1Ω以下、特に100mΩ以下の低抵抗の厚膜抵抗体を提供することが目的であると記載され、実施例では、10〜100mΩの抵抗値を有する抵抗体が製造されている。
【0005】
特開2010−129896号公報(特許文献2)には、銅粉体とニッケル粉体とからなる導電性金属粉体と、ガラス粉体と、樹脂及び溶剤を含むビヒクルとを少なくとも含有するペーストであって、前記ガラス粉体が、ビスマスを酸化物換算で70質量%以上含有する第1のガラス粉体と、鉛、及びカドミウムを実質的に含まない第2のガラス粉体とからなる抵抗体ペーストが開示されている。この文献には、第1ガラス粉体の配合量は、導電性金属粉体100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲が好ましいと記載され、実施例では2〜5質量部配合されている。また、第2ガラス粉体の配合量は、導電性金属粉体100質量部に対して2〜10質量部の範囲が好ましいと記載され、実施例では1〜10質量部配合されている。また、前記抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体膜の体積抵抗率は20〜200μΩ・cmであると記載され、実施例では37〜126μΩ・cmの抵抗体膜が製造されている。
【0006】
これらの抵抗体ペーストは、温度係数も小さく、抵抗体ペーストとしては有用である。しかし、これらの抵抗体ペーストで形成される抵抗体膜の抵抗は、比較的低いため、200mΩ/□以上の低・中抵抗用途で用いることはできない。なお、本発明者らは、ガラス粒子の割合を増量することを検討したが、ガラスは焼成時に溶融流動するため、焼成後の抵抗膜の形状が崩れたり、焼成時にガラスが溶融流動して局所的に集中することにより、導通経路を妨げたり遮断し、安定な抵抗値が得られなかった。
【0007】
特許第3559160号公報(特許文献3)には、銅粉及びニッケル粉の混合粉からなる導電性粉末又はCu−Ni合金粉からなる導電性粉末と、この導電性粉末100重量部に対し3〜20重量部であり、成分にPb及びCdを含まず、かつ主成分がZnO及び/又はBaOからなるガラス粉末と、前記導電性粉末100重量部に対し1〜10重量部である銅酸化物粉末とを、ビヒクルとしての有機樹脂及び溶剤に対して導電成分の割合が75〜90重量%となるように分散させた抵抗体ペーストが開示されている。この文献には、ガラス粉末は、厚膜抵抗体をセラミック基板に接着するためと抵抗値の調整のために必要であると記載されている。実施例では、面抵抗25〜40mΩ/□の厚膜抵抗体が製造されている。
【0008】
しかし、この抵抗体ペーストで形成される抵抗体膜の抵抗も低く、200mΩ/□以上の低・中抵抗用途で用いることはできない。さらに、非導電性粒子である銅酸化物粉末を含むため、均一な抵抗値を発現するのが困難であり、仮に抵抗値を上昇させたとしても、抵抗値にバラツキが生じ易い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[抵抗体ペースト]
本発明の抵抗体ペーストは、銅及びニッケルを含む金属で形成された導電成分と、焼成温度で溶融又は熱分解しない非導電性無機粒子で形成された抵抗調整成分と、焼成温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス粒子で形成された無機バインダーと、これらの成分を分散させるための有機ビヒクルとを含む。
【0020】
(導電成分)
導電成分は、銅及びニッケルを含む金属で形成されており、焼成後の抵抗体において電気導通経路を形成する。本発明では、導電成分の少なくとも一部は、後述するように、抵抗調整成分である非導電性無機粒子の表面を被覆することにより複合粒子を形成している。ペースト膜中では導電成分、抵抗調整成分及び無機バインダー成分が混ざった状態で存在しているが、導電成分の少なくとも一部が非導電性無機粒子を被覆する導電層(金属層)として含まれることにより、同じ導電成分の体積割合であっても金属粒子だけの場合に比べて、導電成分が互いに隣接し易くなるため、導電成分は焼結し易くなって抵抗値のばらつきが小さい抵抗体が得られる。
【0021】
導電成分を構成する金属は、銅ニッケル合金抵抗体を形成するために、銅及びニッケルを含んでいればよく、さらに他の金属を含んでいてもよい。他の金属としては、例えば、遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウムなどの周期表第4A族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5A族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6A族金属;マンガンなどの周期表第7A族金属;鉄、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金などの周期表第8族金属;銀、金などの周期表第1B族金属など)、周期表第2B族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)、周期表第3B族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第4B族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表第5B族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。これらの金属は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、合金であってもよい。他の金属の割合は、金属粒子中50質量%以下(例えば、0〜50質量%)であってもよく、例えば、30質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下(例えば、0.1〜5質量%)であってもよい。金属粒子は、安価で導電性に優れる点から、通常、銅及びニッケルのみで形成されている。
【0022】
銅及びニッケルのみで形成された導電成分は、銅とニッケルとの合金であるか、銅、ニッケル及び銅とニッケルとの合金からなる群より選択された少なくとも2種(例えば、銅とニッケルとの組み合わせ、銅及び/又はニッケルと前記合金との組み合わせなど)であってもよく、簡便性などの点から、通常、銅とニッケルとの組み合わせである。
【0023】
導電成分において、銅とニッケルとの質量比は、例えば、銅/ニッケル=90/10〜30/70、好ましくは80/20〜40/60、さらに好ましくは70/30〜50/50(特に65/35〜55/45)程度である。銅とニッケルとの質量比は、大きすぎたり、小さすぎると、抵抗値温度依存性(TCR)が大きくなる。これに対して、前記範囲であれば、銅ニッケル合金抵抗体の抵抗値温度依存性(TCR)を充分に低い範囲に制御できるが、本発明では、無機バインダー成分以外に、抵抗調整成分を多量に添加する場合がある。そのため、これらの成分によりTCRが本来の銅ニッケル合金抵抗体のTCRから変化することも想定されるが、本発明では、本来の銅ニッケル合金抵抗体のTCRを維持していた。その理由は、無機バインダー成分及び抵抗調整成分は、電気的には絶縁性であるため、金属の焼結ネットワークで形成された導通経路に電気的影響を与えないこと、熱化学的にも高温に至るまで安定であるため、組成的にも影響を及ぼさないことにより、実際には、銅ニッケル合金抵抗体のTCRは殆ど影響を受けることなく本来の低いTCRを発現していることなどが原因であると推定できる。本明細書では、低いTCRとは、絶対値が概ね500ppm/℃以下であり、実際に抵抗器として使用できるレベルのTCRを意味する。
【0024】
導電成分の少なくとも一部は、前述のように、複合粒子の導電層を形成する。導電成分の全部を前記導電層(金属層)で形成してもよいが、焼成しても強度が大きく、かつパターン崩れや膨れが抑制された厚膜を形成できる点から、金属粒子(導電粒子)を含んでいてもよい。導電成分が金属層及び金属粒子の両方を形成する場合、銅及びニッケルは、いずれかに含まれていてもよく、両方に含まれていてもよい。
【0025】
金属粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状又は略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体状(多角錘状、正方体状や直方体状など多角方体状など)、板状(扁平、鱗片又は薄片状など)、ロッド状又は棒状、繊維状、不定形状などであってもよい。金属粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多角体状、不定形状などである。
【0026】
金属粒子の粒径は、特に制限されないが、多量の非導電性成分(無機バインダー成分及び抵抗調整成分)が配合されているため、例えば、銅粒子とニッケル粒子とをそれぞれ別個の金属粒子として使用する場合、均一な分散性及び焼成時の合金化の点から、小粒径の金属粒子を使用する方が有利である。一方、銅とニッケルとの合金粒子を使用する場合、合金化の均一性に問題はないものの、分散性の点から、同様に小粒径の合金粒子を使用するのが有利である。
【0027】
金属粒子の中心粒径(D50)は、例えば、0.05〜10μm、好ましくは0.08〜8μm、さらに好ましくは0.1〜5μm(特に0.2〜3μm)程度である。金属粒子の粒径が小さすぎると、経済性が低下するとともに、ペースト中での分散性も低下し、大きすぎると、ペーストの印刷性及び分散性、合金化の均一性が低下する。
【0028】
導電成分中の金属粒子(導電粒子)の割合は、例えば、導電成分全体に対して95質量%以下であってもよく、例えば、10〜95質量%、好ましくは10〜90質量%程度である。金属粒子の割合が多すぎると、非導電性無機粒子を被覆する金属層の割合が少なくなり、抵抗値のバラツキが大きくなり易い。逆に少なすぎると、金属粒子に比べて金属層同士での焼結性はやや低いため、焼結が進み難くなって膜がやや脆く削れ易くなる。
【0029】
導電成分の体積割合は、導電成分、抵抗調整成分及び無機バインダー成分の体積の総和に対して、5〜85体積%程度の範囲から選択でき、例えば、10〜85体積%、好ましくは15〜83体積%(例えば、20〜80体積%)、さらに好ましくは25〜75体積%(特に50〜75体積%)程度である。導電成分の占める体積が大きすぎると、抵抗体の抵抗値が低くなりすぎ、小さすぎると、安定した導電性を得るのが困難となる。
【0030】
(抵抗調整成分)
抵抗調整成分は、非導電性無機粒子で形成されている。抵抗調整成分は、焼成した抵抗体中の導電成分の含有量を低減させ抵抗値を上げるとともに、低融点ガラスの溶融流動を抑えて導電経路の断線を防止するために配合される。すなわち、抵抗調整成分は、無機バインダー成分の過剰な流動、偏析を抑制し、焼成した抵抗膜の形状を維持しながら抵抗値を安定に向上させる機能を有する。また、抵抗調整成分は、溶融ガラスによって分解ガスなどが閉じ込められて焼成膜が膨れることを抑制する役割も有している。
【0031】
さらに、パターン崩れは、焼成中に多量の低融点ガラス粒子が軟化溶融し、金属粒子の表面だけでは留まりきれず、基板上に印刷された所定パターンよりも大きく濡れ広がってしまうことで生じる。本発明では、抵抗調整成分(非導電性無機粒子)を一定量以上添加することにより、低融点ガラス粒子の配合量を低減できるため、パターン広がりのない焼成抵抗体膜が得られる。
【0032】
また、焼成膜の膨れは、焼成中に溶融したガラスが有機ビヒクルとして添加したバインダー樹脂の分解ガスを閉じ込めることにより生じる。バインダー樹脂は、分解され易い樹脂を選択して配合されるものの、窒素雰囲気下での焼成では分解は遅延し易く、完全に分解する温度は上昇してガラスの軟化温度付近やそれ以上になる。このような膨れは、溶融ガラスが連続的に連なってガス抜け可能な箇所が無くなると発生し易くなる。本発明では、非導電性無機粒子を添加することにより、ガラスは非導電性無機粒子表面に濡れ広がる必要があるため、その作用で連続膜を形成するのが遅れたり、連続膜自体を形成し難くなるため、ガスが抜け易くなると推定できる。非導電性無機粒子を含まない場合、パターン崩れはガラス成分の割合が40体積%を超えると起こり易く、膨れは20体積%を超えると起こり易い。
【0033】
非導電性無機粒子は、非導電性であり、かつ焼成温度で溶融又は熱分解(又は崩壊)しなければよい。すなわち、非導電性無機粒子は、焼成温度よりも低い軟化点を有していても、焼成温度で溶融又は崩壊せずに、粒子形状を保持できればよいが、通常、非導電性無機粒子は、焼成温度よりも高い融点又は熱分解温度を有しており、例えば、焼成温度よりも100℃以上(例えば、100〜2000℃)高い融点又は熱分解温度、好ましくは焼成温度よりも200℃以上(例えば、200〜1500℃)高い融点又は熱分解温度、さらに好ましくは焼成温度よりも300℃以上(例えば、300〜1200℃)高い融点又は熱分解温度であってもよい。具体的には、非導電性無機粒子の融点又は熱分解温度は、1000〜3000℃、好ましくは1200〜2500℃、さらに好ましくは1500〜2200℃程度である。融点又は熱分解温度が低すぎると、過剰流動(移動)が発生し、抵抗体の形状や抵抗値の均一性が低下する。
【0034】
非導電性無機粒子としては、融点が高く、容易に還元されにくい材質、例えば、炭化物(炭化ケイ素SiC、炭化ホウ素B
4C、炭化チタンTiC、炭化タングステンWC、ダイヤモンドなど)、窒化物(窒化ケイ素Si
3N
4、窒化アルミニウムAlN、窒化チタンTiN、窒化ホウ素BN、窒化炭素C
3N
4など)、酸化物(シリカSiO
2、アルミナAl
2O
3、酸化亜鉛ZnO、酸化銅Cu
2O又はCuO、酸化チタンTiO
2、酸化ジルコニウムZrO、酸化カルシウムCaO、酸化マグネシウムMgO、酸化ベリリウムBeOなどの金属酸化物、CaAl
2O
4、CaTiO
3、CaZrO
3、MgAl
2O
4、MgTiO
3、MgZrO
3、ZnAl
2O
4、ZnSiO
4などの金属複合酸化物など)などで形成された粒子などが挙げられる。これらの非導電性無機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。非導電性無機粒子がこれらの材質で形成されていると、高温不活性雰囲気中での焼成においても安定であり、溶融による形状崩れがなく、また還元により金属化して銅ニッケルの焼結や合金化に関与して電気特性に影響を与える虞もない。これらのうち、安価に入手し易く、化学的にも安定でめっきプロセスも柔軟に選択できる点から、アルミナ、シリカ、酸化チタン、炭化ケイ素が特に好ましい。
【0035】
非導電性無機粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状又は略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体形状(多角錘状、正方体状や直方体状など多角方体状など)、板状又はフレーク状(扁平、鱗片又は薄片状など)、ロッド状又は棒状、繊維状又は針状、不定形状などであってもよい。これらの形状のうち、ペースト中の分散性及び抵抗値調整効果の再現性などの点から、球状(真球状又は略球状)が好ましい。球状粒子は、他の形状の粒子よりも分散し易く、異方性もないため、安定した抵抗値の調整効果が得られる。
【0036】
非導電性無機粒子の粒径は、特に限定されないが、非導電性無機粒子の中心粒径(D50)は、例えば、0.05〜20μm、好ましくは0.1〜15μm(例えば、0.2〜12μm)、さらに好ましくは0.5〜10μm(特に1〜7μm)程度である。非導電性無機粒子の粒径が小さすぎると、抵抗値を向上させる効果はあるが、高抵抗を要する場合、多量に非導電性無機粒子を配合することが必要となってペーストの印刷性が低下したり、抵抗値のバラツキが大きくなったりし易い。また、小さい粒子は凝集し易いため、導電成分の膜が一部分しか形成できないことも生じ易い。反対に大きすぎると、ペーストの印刷性が低下し、得られた抵抗膜の平滑性が低下し易くなる上に、パターン崩れや膨れも発生し易くなる。
【0037】
抵抗調整成分の少なくとも一部は、後述するように、導電層で被覆されて複合粒子を形成するが、抵抗調整成分の全部が導電層(金属層)で被覆されていてもよく、導電層で被覆されていない抵抗調整成分(非被覆抵抗調整成分)を含んでいてもいずれでもよい。非被覆抵抗調整成分の割合は、例えば、抵抗調整成分全体に対して90質量%以下(例えば、0〜90質量%)であってもよく、例えば、0〜80質量%、好ましくは0〜70質量%(例えば、5〜60質量%)、さらに好ましくは0〜50質量%(例えば、10〜30質量%)程度である。非被覆抵抗調整成分の割合が多すぎると、抵抗値のバラツキが大きくなり易い。
【0038】
抵抗調整成分の体積割合は、導電成分、抵抗調整成分及び無機バインダー成分の体積の総和に対して、1〜75体積%程度の範囲から選択でき、例えば、5〜70体積%、好ましくは10〜60体積%、さらに好ましくは15〜55体積%(特に20〜50体積%)程度である。抵抗調整成分の占める体積が大きすぎると、抵抗値が高すぎて安定性が低下する。一方、抵抗調整成分の占める体積が小さすぎると、導電性が大きくなり、200μΩ・cm以上の抵抗値を安定に得るのが困難となる上に、パターン崩れや膨れが発生し易くなる。
【0039】
抵抗調整成分の質量割合は、導電成分100質量部に対して、例えば、1〜200質量部、好ましくは2〜150質量部、さらに好ましくは5〜120質量部(特に10〜100質量部)程度である。
【0040】
抵抗調整成分と無機バインダー成分との体積比は、抵抗調整成分/無機バインダー成分=20/1〜1/20程度の範囲から選択でき、例えば、15/1〜1/10、好ましくは10/1〜1/5、さらに好ましくは8/1〜1/3(特に7/1〜1/1)程度である。抵抗調整成分の割合が多すぎると、無機バインダー成分が相対的に減少するため、固化が不十分となり、脆くなり易い。一方、少なすぎると、パターン崩れや膨れが発生し易くなる。
【0041】
(複合粒子)
前記抵抗調整成分の少なくとも一部は、表面の少なくとも一部が金属で被覆された導電層(金属層)を有する複合粒子を形成している。
【0042】
複合粒子は、非導電性無機粒子の表面を概ね導電層で被覆していればよく、完全に導電層で被覆されていなくてもよい。導電層による被覆率(面積割合)は、非導電性無機粒子の全表面に対して、例えば、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上であり、略100%被覆されているが特に好ましい。導電層による被覆面積が小さすぎたり、不連続的であったりすると、抵抗値を安定化させる効果は低くなり易い。
【0043】
導電層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば0.05〜5μm、好ましくは0.075〜4μm、さらに好ましくは、0.1〜3μm程度である。導電層の厚みが極端に薄い場合には導電成分同士の焼結性が低下する。極端に厚い場合にはペースト中の導電成分の体積割合が大きくなりすぎて低い抵抗しか得られなくなる。
【0044】
なお、導電層の厚みを直接測定する方法としては、複合粒子の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像(SEM像)から測定する方法がある。この方法では、まず、複合粒子をエポキシ樹脂中に包埋して硬化させ、これをダイヤモンド刃で切断した後に研磨して粒子断面が露出するように試料調整を行う。次に、露出した複合粒子の断面を長さスケールが表示されるようにして撮影し、最後にそのSEM像から導電層の厚みを読み取ることができる。但し、この方法では非常に局所的であり、概ね一粒子のみに対する評価となるため、多くの粒子が集まった複合粒子粉末の全体を表すには適していない。測定を多く行って平均化すれば全体を表すこともできるが、試料調整などに多くの労力を要するため合理的であるとは言えない。従って、この方法を行うのは導電層の存在確認や大まかな厚みの把握程度にとどめ、平均膜厚の評価としては導電層形成前後の重量差を用いて計算により求める方法が用いられる。そのような理由から、本発明の導電層の厚みは、導電層と非導電性無機粒子との質量比に基づいて測定し、導電層が非導電性無機粒子の全表面を均一に被覆した場合を想定した平均厚みである。
【0045】
導電層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、非導電性無機粒子の表面に触媒を付与して金属イオンの溶液から金属を析出させる無電解めっき法、金属の微粒子分散液を非導電性無機粒子の表面にコートした後に熱処理によって膜化する方法、支持体表面に薄く広げた非導電性無機粒子にスパッタリングターゲットから飛び出させた金属原子を被覆させる方法などを選択できる。これらの方法のうち、安価なプロセスと多量の処理が可能である点から、無電解めっき法が好ましい。無電解めっき法は、特に限定されず、メッキ種に応じて慣用の条件で行なえばよい。
【0046】
(無機バインダー成分)
無機バインダー成分は、低融点ガラス粒子で形成されている。無機バインダー成分は、基板などに対する濡れ性を高めて密着性を向上させるとともに、抵抗膜全体にわたって溶融固化することにより強靭な抵抗体を形成するために配合され、絶縁性であるため、抵抗調整の役割も有している。
【0047】
低融点ガラス粒子は、焼成温度よりも低い軟化点を有していればよいが、強靱な抵抗体を形成できる点から、低融点ガラス粒子の軟化点は、例えば、焼成温度よりも100℃以上(例えば、100〜600℃)低い軟化点、好ましくは焼成温度よりも200℃以上(例えば、200〜500℃)低い軟化点、さらに好ましくは焼成温度よりも300℃以上(例えば、300〜400℃)低い軟化点であってもよい。具体的には、低融点ガラス粒子の軟化点は、400〜800℃、好ましくは420〜700℃、さらに好ましくは450〜600℃程度である。軟化点が高すぎると、溶融流動性が低下するため、密着性や抵抗膜の均一性が低下する。特に、軟化点が焼成温度に近いと、ガラスの流動が十分に起こらず導電成分や抵抗調整成分を互いに繋ぎ固めることができないため、形成した膜が脆くなり、後加工でのハンドリング性や実用性が低下する傾向がある。
【0048】
低融点ガラス粒子は、前記軟化点を有していればよいが、通常、酸化ケイ素に加えて、他の酸化物を含んでいる。他の酸化物としては、例えば、他の金属酸化物(例えば、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどのアルカリ金属酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの周期表4A族金属酸化物;酸化クロムなどの周期表6A族金属酸化物;酸化鉄などの周期表8族金属酸化物;酸化亜鉛などの周期表2B族金属酸化物;酸化アルミニウムなどの周期表3B族金属酸化物;酸化スズ、酸化鉛などの周期表4B族金属酸化物;酸化ビスマスなどの周期表5B属金属酸化物など)、酸化ホウ素などが挙げられる。これらの他の酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸化物のうち、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ホウ素など含有している場合が多い。
【0049】
前記酸化物で形成された低融点ガラス粒子としては、慣用の低融点ガラス粒子、例えば、ホウケイ酸系ガラス粒子、ホウケイ酸亜鉛系ガラス粒子、亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子、鉛系ガラス粒子などが挙げられる。これらの低融点ガラス粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの低融点ガラス粒子のうち、亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子などが汎用される。
【0050】
低融点ガラス粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状又は略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体形状(多角錘状、正方体状や直方体状など多角方体状など)、板状(扁平、鱗片又は薄片状など)、ロッド状又は棒状、繊維状、不定形状などであってもよい。低融点ガラス粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多角体状、不定形状などである。
【0051】
低融点ガラス粒子の中心粒径(D50)は、特に限定されず、例えば、0.1〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは1〜5μm(特に2〜4μm)程度である。低融点ガラス粒子の粒径が小さすぎると、ペースト中での分散性が低下し、大きすぎると、導電成分及び抵抗調整成分との均一な混合が困難となる。
【0052】
無機バインダー成分の体積割合は、導電成分、抵抗調整成分及び無機バインダー成分の体積の総和に対して、4〜53体積%程度の範囲から選択でき、例えば、5〜50体積%、好ましくは6〜40体積%、さらに好ましくは8〜30体積%(特に10〜25体積%)程度である。本発明では、無機バインダー成分の割合が多くても、焼成体の抵抗値を均一化でき、無機バインダー成分の体積割合は、導電成分、抵抗調整成分及び無機バインダー成分の体積の総和に対して、例えば、15〜50体積%、20〜45体積%、さらに好ましくは25〜43体積%(特に30〜40体積%)であってもよい。無機バインダー成分の占める体積が大きすぎると、ガラス量が多すぎて焼成抵抗体の形状保持が困難となるとともに、焼成時のガス抜きが困難となるため、焼成膜に膨れが発生したり、抵抗値が大きくばらつき、断線し易くなる。一方、無機バインダー成分の占める体積が小さすぎると、焼成膜強度、焼成膜と基板間の密着力を確保するのが困難となる。
【0053】
無機バインダー成分の質量割合は、導電成分100質量部に対して、例えば、1〜50質量部、好ましくは2〜45質量部、さらに好ましくは3〜40質量部(特に5〜30質量部)程度である。
【0054】
(有機ビヒクル)
有機ビヒクルは、金属粒子を含む抵抗体ペーストの有機ビヒクルとして利用される慣用の有機ビヒクル、例えば、有機バインダー及び/又は有機溶剤であってもよい。有機ビヒクルは、有機バインダー及び有機溶剤のいずれか一方であってもよいが、通常、有機バインダーと有機溶剤との組み合わせ(有機バインダーの有機溶剤による溶解物)である。
【0055】
有機バインダーとしては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体など)、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂など)などが挙げられる。これらの有機バインダーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機バインダーのうち、焼成過程で容易に焼失し、かつ灰分の少ない樹脂、例えば、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)、セルロース誘導体(ニトロセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、酢酸セルロースなど)、ポリエーテル類(ポリオキシメチレンなど)、ゴム類(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)などが汎用され、熱分解性などの点から、ポリ(メタ)アクリル酸メチルやポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C
1−10アルキルエステルが好ましい。
【0056】
有機溶剤としては、特に限定されず、抵抗体ペーストに適度な粘性を付与し、かつ抵抗体ペーストを基板に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発できる有機化合物であればよく、高沸点の有機溶剤であってもよい。このような有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素(パラキシレンなど)、エステル類(乳酸エチルなど)、ケトン類(イソホロンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、脂肪族アルコール(オクタノール、デカノール、ジアセトンアルコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトールなど)、カルビトールアセテート類(エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)、脂環族アルコール類[例えば、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール類(モノテルペンアルコールなど)など]、芳香族アルコール類(メタクレゾールなど)、芳香族カルボン酸エステル類(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、窒素含有複素環化合物(ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノンなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機溶剤のうち、ペーストの流動性などの点から、テルピネオールなどの脂環族アルコール、ブチルカルビトールアセテートなどのC
1−4アルキルセロソルブアセテート類が好ましい。
【0057】
有機ビヒクルの体積割合は、抵抗体ペースト(固形分又は不揮発分)の体積全体に対して、例えば、30〜80体積%、好ましくは40〜75体積%、さらに好ましくは50〜70体積%(特に55〜65体積%)程度である。
【0058】
有機ビヒクルの質量割合は、導電成分100質量部に対して、例えば、5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部、さらに好ましくは20〜100質量部(特に30〜80質量部)程度である。有機バインダーと有機溶剤とを組み合わせる場合、有機バインダーの割合は、有機ビヒクル全体に対して5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜40質量%(特に20〜40質量%)程度である。
【0059】
(他の添加剤)
抵抗体ペーストには、慣用の添加剤、例えば、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤又は分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤又はレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0060】
抵抗体ペーストは、前記成分を含むペーストを得ることができる限り特に限定されないが、通常、導電成分、無機バインダー成分及び抵抗調整成分を、慣用の方法で有機ビヒクル中に分散させることにより調製できる。
【0061】
[抵抗体及びその製造方法]
本発明の抵抗体は、抵抗体ペーストを焼成して得られるが、通常、基板の上に、抵抗体ペーストを塗布するコーティング工程、得られた塗膜を、不活性ガス雰囲気下、低融点ガラス粒子の軟化点以上の温度で焼成する焼成工程を含む製造方法により得られる。
【0062】
コーティング工程において、基板としては、焼成可能な材料であれば特に限定されず、各種の材料、例えば、半導体(シリカやアルミナ、窒化アルミニウムなどのセラミックスなど)、ガラス、金属などの無機材料、エンジニアリングプラスチックなどの有機材料などを利用できる。これらの基板のうち、耐熱性基板やセラミックスグリーンシートなどが汎用され、抵抗体ペーストとの密着性に優れる点から、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板などのセラミックス基板が好ましい。
【0063】
基板の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、0.001〜10mm、好ましくは0.01〜5mm、さらに好ましくは0.05〜3mm(特に0.1〜1mm)程度であってもよい。
【0064】
抵抗体ペーストのコーティング方法としては、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などを挙げることができる。コーティングは、基板の全面に形成してもよいが、通常、パターン状などにして基板の全面に対して一部の面に形成される。塗膜でパターンを形成(描画)した場合、形成されたパターン(描画パターン)を焼成処理することにより焼結パターン(焼結膜、金属膜、焼結体層、導体層)を形成できる。パターン(塗布層)を描画するための描画法(又は印刷法)としては、パターン形成可能な印刷法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、オフセット印刷法、凹版オフセット印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。これらの方法のうち、スクリーン印刷法などが好ましい。
【0065】
コーティング後は、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、有機溶剤の種類に応じて選択でき、例えば、50〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃程度である。加熱時間は、例えば、1分〜3時間、好ましくは5分〜2時間、さらに好ましくは10分〜1時間程度である。
【0066】
コーティングされた塗膜は、所定の温度で加熱(又は焼成又は加熱処理)する焼成工程に供されることにより、抵抗体が得られる。
【0067】
焼成工程において、焼成温度は、導電成分である金属を焼結でき、かつ低融点ガラス粒子の軟化点以上であればよく、例えば、500℃以上(例えば、500〜2000℃)、好ましくは550〜1500℃、さらに好ましくは600〜1200℃(特に700〜1100℃)程度である。熱処理時間(加熱時間)は、熱処理温度などに応じて、例えば、1分〜48時間、好ましくは5分〜8時間、さらに好ましくは10〜120分程度であってもよい。焼成済みのセラミックス基板に塗布した場合などにおいては本発明の抵抗体を単独で焼成してもよく、未焼成のセラミックスグリーンシートに塗布したり挟み込んだりした場合などであればセラミックスグリーンシートと同時に焼成してもよい。
【0068】
焼成は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行われ、特に、窒素雰囲気中で行われるのが好ましい。
【0069】
得られた抵抗体の平均厚みは、用途に応じて0.1〜500μm程度の範囲から適宜選択でき、例えば、0.2〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは1〜30μm(特に3〜25μm)程度であってもよい。
【0070】
本発明の抵抗体は、近年要求の高い200μΩ・cm以上、例えば、200〜100,000μΩ・cm(膜厚10μmの面抵抗200mΩ/□〜100Ω/□)程度の低・中抵抗の体積抵抗率を有しており、特に有用性の高い500〜50,000μΩ・cmの範囲において特に効果的である。
【0071】
さらに、本発明の抵抗体は、抵抗値温度依存性(TCR)の絶対値が、例えば、500ppm/℃以下、好ましくは300ppm/℃以下、さらに好ましくは200ppm/℃以下である。そのため、本発明の抵抗体は、温度依存性が小さく、安定性に優れている。
【0072】
なお、本発明において、体積抵抗率及びTCRは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、各物性における測定方法、実施例に用いた材料を以下に示す。
【0074】
[体積抵抗率及び抵抗値の安定性]
評価用試料として、実施例及び比較例で得られた抵抗膜(焼成膜)を、温度25±3℃、湿度65±10%RHの雰囲気に30分間以上静置した後、4端子法で抵抗膜の抵抗値を測定した。また、抵抗膜の厚みを触針式膜厚計で測定し、体積抵抗率を求めた。
【0075】
(体積抵抗率)
実施例及び比較例で得られた抵抗体について、それぞれ10サンプルの測定を行い、その平均値を体積抵抗率とした。
【0076】
(抵抗値のバラツキ)
10サンプルの体積抵抗率のうち、最大値から最小値を引いた値を平均値で除した数値をバラツキの大きさとし、以下の基準で可否判定をした。
【0077】
○:バラツキが0.2以下
×:バラツキが0.2を超える。
【0078】
[TCR]
評価用試料を125℃の恒温槽に入れ、30分間以上静置した後、4端子法で抵抗膜の抵抗値を測定した。この抵抗値と上記25℃で測定した抵抗値に対する変化率を求め、以下の基準で評価した。
【0079】
TCR=[{125℃の平均抵抗値−25℃の平均抵抗値}/{25℃の平均抵抗値×(125℃−25℃)}]×10
6(ppm/℃)
(基準)
○:TCRが±300ppm/℃以内
×:TCRが−300ppm/℃未満又は300ppm/℃を超える。
【0080】
[焼成膜強度]
(膜削れ(スクラッチ試験))
JIS−K5600−5−4に準拠し、芯先が平坦になるように削った硬度9Hの鉛筆を用い、抵抗膜面に対して鉛筆が斜め45度であたるようにセットして加重750gをかけてスクラッチし、以下の基準で評価した。
【0081】
○:膜が削れていない
△:膜にキズが入る程度で、大きな削れはない
×:膜が脆く削れる。
【0082】
(基板に対する密着性)
抵抗膜に対して、ステンレス製のピンセットで基板から突き剥がす操作を行い、以下の基準で評価した。
【0083】
○:大きな力を入れても剥がせない
△:ある程度力を入れれば剥がせる
×:あまり力を入れなくても剥がせる。
【0084】
[パターン崩れ]
抵抗膜の外観を顕微鏡で観察し、低融点ガラス成分が印刷領域から流出したり、印刷パターンが低融点ガラス成分の溶融流動により大きく崩れているかどうかを確認し、以下の基準で評価した。
【0085】
○:焼成膜が良好で均一な形状を有している
×:ガラス成分が印刷領域から流出したり、印刷パターンが大きく崩れている。
【0086】
[膨れ]
抵抗膜をルーペ(15倍)で膨れているかどうか観察し、以下の基準で評価した。
【0087】
○:膨れの発生はない
×:膨れが発生している。
【0088】
[総合判定]
前記各項の判定をベースに、下記のような総合判定をした。
【0089】
○:各要求項目とも良好であり、抵抗体材料として優れている
△:一部の項目が最良形態より劣っているが、抵抗体材料としては使用可能である
×:総合的に抵抗体材料として不適である。
【0090】
なお、各判定において、△以上を合格とする。
【0091】
[用いた材料]
アルミナ粉 粒径3μm:アルミナ粒子、電気化学工業(株)製「DAM−03」、中心粒径(D50)3μm、比重4
アルミナ粉 粒径1μm:アルミナ粒子、(株)高純度化学研究所製「ALO14PB」、中心粒径(D50)1μm、比重4
シリカ粉 粒径3μm:電気化学工業(株)製「FB−3SDC」、中心粒径(D50)3μm、比重2.2
炭化珪素粉 粒径7μm:信越化学工業(株)製「シナノランダム♯2,000」、中心粒径(D50)7μm、比重3.2
銅粉 粒径0.3μm:銅粒子、三井金属鉱業(株)製「1030Y」、中心粒径(D50)0.3μm、比重8.9
ニッケル粉 粒径0.4μm:ニッケル粒子、住友金属鉱山(株)製「SNP−350E」、中心粒径(D50)0.4μm、比重8.9
Zn系ガラス粉 粒径3μm:亜鉛系ガラス粒子(ZnO−SiO
2−B
2O−R
2O(Rはアルカリ系金属である)、軟化点575℃、中心粒径(D50)3μm、比重3
有機ビヒクル:アクリル樹脂を、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒(質量比1/1)中に溶解して調製したアクリル樹脂30質量%の溶液、比重1
アルミナ基板:ニッコー(株)製「96%アルミナ基板」。
【0092】
(複合粒子の調製)
非導電性粒子(非導電性無機粒子)として前述のアルミナ粉(中心粒径1μm及び3μm)を用いた。これらのアルミナ粉の表面に無電解めっき法によって銅めっき、ニッケルめっき、及び銅とニッケルとの合金めっきをそれぞれ施した。具体的には、各無電解めっきにおいて、最初に、非導電性粒子をめっき前処理液に撹拌しながら分散させ脱脂・洗浄した。続いて、めっき触媒核を吸着させてから各組成のめっき液に所定時間浸漬して非導電性粒子の表面に金属を析出させた。最後にこれらの粒子を乾燥させて目的の複合粒子を得た。めっき前のアルミナ粉の質量とめっき後の粒子の質量とから金属層(めっき膜)の質量パーセントを求めた。また、この質量パーセントから金属層の厚みを算出した。
【0093】
このようにして作製した複合粒子の粉末をSEM観察したところ、凝集塊や異常な析出が無いことを確認できた。また、作製した複合粒子をエポキシ樹脂中に包埋して硬化させ、ダイヤモンド刃で切断した後に研磨して粒子の断面を露出させた。この断面をSEM−EDXによって観察及び元素分析して、金属層がアルミナ粉表面を覆っていることを確認した。
【0094】
得られた複合粒子のうち、粒径3μmのアルミナ粉(コア)を用いた複合粒子としては、以下の4種類の金属層(シェル)を備えた複合粒子が得られた。
【0095】
厚み約0.15μmのCuめっき(複合粒子中のCuの割合:25質量%)
厚み約0.15μmのNiめっき(複合粒子中のNiの割合:25質量%)
厚み約3μmのNiめっき(複合粒子中のNiの割合:94質量%)
厚み約0.4μmのCuとNiとの合金(Cu:Ni=6:4(質量比))めっき(複合粒子中の合金の割合:50質量%)
粒径1μmのアルミナ粉(コア)を用いた複合粒子としては、金属層(シェル)として、厚み約0.1μmのNiめっき(複合粒子中のNiの割合:40質量%)を備えた複合粒子が得られた。
【0096】
(抵抗体ペースト作製)
実施例及び比較例ともに、表1に記載した配合割合で秤量した各材料をミキサーにより混合した後、3本ロール(EXAKT社(ドイツ)製)で均一に混合することによって、実施例及び比較例の抵抗体ペーストを調製した。
【0097】
(抵抗体の作製)
調製した抵抗体ペーストを、予め4端子測定ができるように厚膜銅電極を形成した96%のアルミナ基板上に1×10mmの矩形の抵抗パターンをスクリーン印刷し、印刷基板を100℃の送風乾燥機で20分乾燥し溶媒を除去した後、ベルト炉に投入し、窒素雰囲気中ピーク温度900℃でピーク温度保持時間10分間の条件で焼成した(投入−排出総時間60分)。
【0098】
実施例1〜4
粒径3μmのアルミナ粉の表面にNiめっき(25質量%、厚み約0.15μm)を施した粒子を用いた。また、Cu:Ni比を調整するために銅粉を、導電成分体積率を変量するために、銅粉及び/又はニッケル粉を添加した。また、無機バインダー体積率は15%で揃えた。これらのペーストを用いて、前記の方法で抵抗体を作製して各物性の評価を行ったところ、表1に示すように、導電成分体積率が小さいほど高い体積抵抗率を示し、体積率が大きいほど低い体積抵抗率を示した。また、抵抗値のバラツキは小さく、良好な結果が得られた。これは、本来、アルミナ粉は導通経路形成に参加できず、むしろ、その形成を阻害するが、表面に金属層を設けることで表面が導通経路の安定的形成に役立ちとともに、内部が絶縁性によって抵抗調整の役割を果たすためである。その他の項目についても良好な結果が得られた。
【0099】
実施例5
アルミナ粉表面のめっき金属種をCuに代え(25質量%、厚み約0.15μm)、Cu:Ni比調整のための金属粉をNiとし、表1に示す組成でペーストを調製した以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表1に示すように、各項目とも良好な結果が得られた。
【0100】
参考例1
アルミナ粒子の金属層をCuとNiとの合金めっき(50質量%、厚み約0.4μm)に代え、銅粉及びニッケル粉を添加しない(全ての導電成分を非導電性粒子表面を覆う金属層とした)こと以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表1に示すように、全ての導電成分を、非導電性粒子表面を覆う金属層としても良好な結果が得られたが、焼成膜強度はやや低く、スクラッチ試験において大きな削れは無いもののキズが入った。しかし、実用上使用できるレベルではあった。
【0101】
実施例
6
前述のCuめっき粒子とNiめっき粒子との両方を用い、表1に示す組成でペーストを調製した以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表1に示すように、良好な結果が得られた。
【0102】
実施例
7
複合粒子を粒径1μmのアルミナ粉の表面にNiめっき(40質量%、厚み約0.1μm)を施した粒子に代え、抵抗調整成分として金属層で覆われていないアルミナ粒子(1μm)も添加し、表1に示す組成でペーストを調製した以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表1に示すように、高い体積抵抗率を示したが抵抗値のバラツキも小さく、良好な結果が得られた。
【0103】
実施例
8及び
9
金属層(Niめっき層)の厚みを大きくした複合粒子を用い、実施例
9では抵抗調整成分としてアルミナ粒子(3μm)も添加し、表1に示す組成でペーストを調製した以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表1に示すように、良好な結果が得られた。
【0104】
実施例
10
複合粒子を粒径1μmのアルミナ粉の表面にNiめっき(40質量%、厚み約0.1μm)を施した粒子に代え、無機バインダーの割合も増加し、表1に示す組成でペーストを調製した以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表1に示すように、良好な結果が得られた。
【0105】
【表1】
【0106】
実施例
11及び
12
複合粒子を粒径3μmのシリカ粉の表面にNiメッキ(39重量%、厚さ約0.15μm)を施した粒子に代え、表2に示す組成でペーストを調製した以外は、実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製し評価した。表2に示すように、良好な結果を得た。
【0107】
実施例
13及び
14
複合粒子を粒径7μmの炭化珪素粉の表面にNiメッキ(20重量%、厚さ約0.2μm)を施した粒子を用い、表2に示す組成でペーストを調製した以外は、実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製し評価した。表2に示すように、良好な結果を得た。
【0108】
比較例1〜5
抵抗調整成分として金属層で覆われていない非導電性粒子(アルミナ粒子)を用い、表2に示す組成でペーストを調製した以外は実施例1〜4と同様にして抵抗体を作製して評価を行った。表2に示すように、添加量に応じて任意に抵抗調整できるが、実施例と比較すると抵抗のバラツキは大きかった(実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例5と比較例4、実施例
7と比較例5がそれぞれ対応)。比較例5で抵抗調整成分の体積率のわりに高抵抗であるのは抵抗調整成分に用いたアルミナ粒子の粒子径が小さいためである。
【0109】
【表2】
【0110】
なお、表1及び2において、複合粒子、非導電性粒子、金属粒子、無機バインダー及び有機ビヒクルの各成分の割合は、特にことわりのない限り、質量基準である。