(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トリガー部材は、前記第2免震層が極めて稀に発生する地震動による外力を受けた場合に、すべり又は変形して、前記第1構造体に対して前記第2構造体を水平方向に相対変位させる請求項1又は2に記載の免震構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、建物の高さ方向に複数の免震層を設けることで、地震時に生じる免震建物の変形を分散させて、下部免震層の水平変位量を低減することができる。このため、建物の高さ方向に複数の免震層を備えていない建物と比較して、下部免震層の構成が容易になる。一方、地震の大きさに関わらず上部の免震層に水平変位が生じるので、この免震層を縦方向に貫通するエレベータシャフトや配管などにせん断変形が生じる。このため、地震時にエレベータシャフトや配管などのせん断変形を吸収する追従機構が必要となり、建物の建築コストを低減する観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、高い免震性能を備えつつ、建物の建築コストを低減することができる免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の免震構造は、第1構造体を支持する第1免震層と、前記第1構造体上に設けられ、第2構造体を支持する第2免震層と、前記第2免震層に設けられ、所定値以上の地震力が入力されると、すべり又は変形して、前記第1構造体に対して前記第2構造体を水平方向に相対変位させるトリガー部材と、を有する。
【0007】
請求項1に記載の免震構造によれば、第1免震層によって第1構造体が支持されており、この第1構造体上には、第2免震層によって第2構造体が支持されている。ここで、第2免震層には、トリガー部材が設けられている。そして、トリガー部材は、所定値以上の地震力が入力されるまでは、すべり又は変形せず、第1構造体に対して第2構造体が相対変位しないようになっている。すなわち、地震力が所定値以下の場合では、第1構造体と第2構造体とが一体に水平方向へ変位する。このため、エレベータシャフトや配管等のせん断変形を吸収する追従機構を設計する必要性が緩和される。
【0008】
一方、第2免震層に所定値以上の地震力が入力されると、トリガー部材がすべり又は変形するため、第2構造体が第1構造体に対して水平方向に相対変位する。これにより、第2免震層(複数の免震層のうち上部にある免震層)を備えていない構造と比較して、第1構造体の水平変位量を小さくすることができる。
【0009】
さらに、所定値以上の地震力が入力されるまでは、第2免震層が機能しないため、トリガー部材のない建物高さ方向に複数の免震層を備えた免震構造と比較して、所定値以上の地震力が入力された後の第2免震層の水平変形量を小さくすることができる。また、これに応じて第2構造体の応答加速度も低減させることができる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る免震構造は、請求項1に記載の免震構造であって、前記トリガー部材は、すべり支承又は鋼材ダンパである。
【0011】
請求項2に記載の本発明に係る免震構造によれば、すべり支承をトリガー部材として用いた場合、すべり支承の静止摩擦力がトリガー荷重となる。そして、静止摩擦力より大きい地震力が入力されることにより、トリガーが解除され、動摩擦力を伴うすべりが生じる。この結果、地震動による入力エネルギーを吸収することができる。一方、鋼材ダンパをトリガー部材として用いた場合、鋼材ダンパの降伏荷重がトリガー荷重となる。そして、降伏荷重より大きい地震力が入力されることにより、トリガーが解除され、鋼材ダンパが塑性変形する。この結果、地震動による入力エネルギーの吸収することができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明に係る免震構造は、請求項1又は2に記載の免震構造であって、前記トリガー部材は、前記第2免震層が極めて稀に発生する地震動による外力を受けた場合に、すべり又は変形して、前記第1構造体に対して前記第2構造体を水平方向に相対変位させる。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係る免震構造によれば、極めて稀に発生する地震動(大地震)による外力を受けた場合を除いて、下部構造体と上部構造体とが一体に水平変位する。すなわち、比較的頻繁に発生する規模の地震時には、下部構造体と上部構造体とが一体に水平変位するので、エレベータシャフトや配管などに作用するせん断応力を考慮せずに済む。これにより、建物高さ方向に複数の免震層を備えていない免震建物と同様の設備構造を適用することができ、建築コストを効果的に低減することができる。なお、ここでいう「極めて稀に発生する地震動」とは、平成十三年三月三十日国土交通省告示第三八八号にて告示されている地震動を指しており、「稀に発生する地震動」に対する加速度応答スペクトルの5倍の数値の加速度応答スペクトルを有する地震動を指す。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係る免震構造によれば、高い免震性能を備えつつ、建物の建築コストを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る免震構造について説明する。
図1に示されるように、本発明に係る免震構造が適用された建物10は、下側の第1構造体11と上側の第2構造体12とを備えている。また、第1構造体11の下方には、第1免震層14が設けられており、この第1免震層14によって第1構造体11が支持されている。
【0017】
一方、第2構造体12は、第1構造体11上に積層されている。また、第1構造体11と第2構造体12との間には第2免震層16が設けられており、この第2免震層16によって第2構造体12が支持されている。なお、本実施形態では、第1構造体11と第2構造体12とを略同一の大きさの構造体としているが、これに限定されず、第1構造体11と第2構造体12とを異なる大きさに形成してもよい。
【0018】
第1免震層14は、免震支承部材である積層ゴム18と、図示しない免震減衰部材(例えばオイルダンパ)とを含んで構成されている。免震減衰部材は、基礎100と第1構造体11とを繋いでおり、第1免震層14に減衰を付与する。
【0019】
積層ゴム18は、下フランジ18Aと、上フランジ18Bと、下フランジ18Aと上フランジ18Bとの間に設けられた本体部18Cとを備えている。下フランジ18Aは、図示しないボルト等によって基礎100に固定されており、上フランジ18Bは、図示しないボルト等によって第1構造体11の下面側に固定されている。また、本体部18Cは、ゴム板と鋼板とが上下方向に積層されて形成されており、水平方向に変形可能に構成されている。
【0020】
なお、第1構造体11を水平方向に相対変位可能に支持することができるものであれば、積層ゴム18に限らず、他の免震支承部材を用いてもよい。また、
図1では、3基の積層ゴム18が図示されているが、積層ゴム18の数や大きさについては特に限定されない。
【0021】
第2免震層16は、トリガー部材としてのすべり支承20を含んで構成されており、本実施形態では、すべり支承20の一例として、剛すべり支承を用いている。また、必要に応じて、図示しない積層ゴムを第2免震層16に配置してもよい。
【0022】
すべり支承20は、支承部20Aと、スライドプレート20Bとを備えている。支承部20Aは、下面側がすべり面となる略円柱状に形成されている。また、支承部20Aは、図示しないボルト等によって第2構造体12の下面に固定されており、第2構造体12と一体に水平変位するように構成されている。一方、スライドプレート20Bは、支承部20Aと第1構造体11との間に配置されており、第1構造体11の上面に固定されている。また、第2免震層16に設けられた積層ゴムは、第1免震層14に設けられた積層ゴム18と同様の構成とされている。なお、支承部20Aとスライドプレート20Bの相対的位置関係を逆にしてもよい。
【0023】
以上のように構成された免震構造体の振動モデルは、
図2のように表される。ここで、符号22は、第1構造体11の基礎を示しており、符号24は、第2構造体12の基礎を示している。
【0024】
バネ定数k1と減衰係数c1は、第1免震層14の振動特性を示すものであり、積層ゴム18及び図示しない免震減衰部材(オイルダンパ等)によって決定される。また、バネ定数k2と減衰係数c2は、第1構造体11の振動特性を示すものであり、第1構造体11の構造等によって決定される。
【0025】
一方、バネ定数k3と減衰係数c3は、第2免震層16の振動特性を示すものであり、すべり支承20及び図示しない積層ゴム等によって決定される。さらに、バネ定数k4と減衰係数c4は、第2構造体12の振動特性を示すものであり、第2構造体12の構造等によって決定される。
【0026】
ここで、第2免震層16には、トリガー荷重が設定されている。このトリガー荷重は、所定値より小さい地震力が入力された場合には第2免震層16が機能せず、所定値以上の地震力が入力された場合に第2免震層16を機能させるように構成されている。そして、本実施形態では、すべり支承20の静止摩擦力がトリガー荷重となっている。すなわち、すべり支承20は、所定値以上の地震力によって静止摩擦力以上の外力が入力されると、トリガーが解除され、支承部20Aがスライドプレート20B上をすべる。これにより、第1構造体11に対して第2構造体12が水平方向に相対変位する。また、このとき、動摩擦力が生じることで、地震動による入力エネルギーを吸収することができるように構成されている。
【0027】
なお、本実施形態では一例として、極めて稀に発生する地震動による外力を受けた場合に、支承部20Aがスライドプレート20B上をすべるように構成されている。ここでいう「極めて稀に発生する地震動」とは、平成十三年三月三十日国土交通省告示第三八八号にて告示されている地震動のことであり、「稀に発生する地震動」に対する加速度応答スペクトルの5倍の数値の加速度応答スペクトルを有する地震動を指す。
【0028】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の免震構造の作用及び効果について説明する。本実施形態では、第2免震層16にすべり支承20が設けられており、所定値以上の地震力が入力されるまでは、すべり支承20が機能しないように構成されている。これにより、比較的頻繁に発生する規模の地震時には、第1免震層14の積層ゴム18が変形して第1構造体11が水平方向に変位するのに対して、第2免震層16は機能せず、すべり支承20の支承部20Aはスライドプレート20B上をすべらない。このため、第1構造体11に対して第2構造体12が相対変位せず、第1構造体11と第2構造体12とが一体に水平方向へ変位する。これにより、第1構造体11と第2構造体12を貫通してエレベータシャフトや配管等を配置する場合であっても、エレベータシャフトや配管等に作用するせん断応力を考慮せずに済む。すなわち、せん断変形を吸収する追従機構を設計する必要性が緩和される。
【0029】
特に、本実施形態では、極めて稀に発生する地震動による外力を受けるまでは、すべり支承20が機能しないので、建物高さ方向に複数の免震層を備えていない免震建物と同様の設備構造を適用することができる。
【0030】
一方、いわゆる500年間隔地震などの非常に大きい地震が発生した際には、第2免震層16が極めて稀に発生する地震動による外力を受け、すべり支承20の支承部20Aがスライドプレート20B上をすべる。これにより、建物高さ方向に複数の免震層を備えていない免震建物と比較して、免震性能を高めることができる。また、支承部20Aがスライドプレート20B上をすべる際の動摩擦力により、入力エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0031】
また、本実施形態では、所定値以上の地震力が入力されることで、第1構造体11に対して第2構造体12が水平方向に相対変位するため、第1免震層14の変形量が低減され、第1構造体11の水平変位量を小さくすることができる。これにより、第1構造体11と基礎100との水平方向のクリアランスを小さく設計することができる。
【0032】
さらに、所定値以上の地震力が入力されるまでは、第2免震層16が変形しないため、すべり支承20を備えていない一般的な建物高さ方向に複数の免震層を有する免震建物と比較すると、所定値以上の地震力が入力された後の第2免震層16の変形量を小さくすることができる。また、第2構造体12の応答加速度も小さくなる。この作用について、
図4に示された比較例の免震構造と実施例の免震構造とを比較することにより説明する。なお、実施例の免震構造は、
図1に示される構造と同様の構造とする。また、
図4において、本実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0033】
図4(A)に示されるように、比較例1の免震構造が適用された建物101は、建物高さ方向に複数の免震層を有する免震構造ではなく、第1免震層14のみを備えた構造とされている。すなわち、基礎100と構造体102との間に第1免震層14が設けられており、この第1免震層14は、免震支承である積層ゴム18と図示しない免震減衰部材であるオイルダンパを含んで構成されている。
【0034】
一方、
図4(B)に示されるように、比較例2の免震構造が適用された建物103は、第2免震層104を備えた建物高さ方向に複数の免震層を有する免震構造とされている。具体的には、下側の第1構造体11と上側の第2構造体12とを備えており、第1構造体11の下方には、第1構造体11を支持する第1免震層14が設けられている。
【0035】
また、第1構造体11と第2構造体12との間には第2免震層104が設けられており、この第2免震層104によって第2構造体12が支持されている。ここで、本比較例では、第2免震層104は、第1免震層14と同様に免震支承である積層ゴム18と図示しない免震減衰部材であるオイルダンパを含んで構成されている。すなわち、すべり支承20が設けられていない点で本実施形態に係る免震構造と異なる構成とされている。
【0036】
以上のように構成された比較例1及び比較例2に係る建物と、実施例に係る建物について、地震入力の倍率に対する第2構造体の加速度を計算し、計算結果を
図3(A)に示した。また、地震入力の倍率に対する第2免震層の水平変形量を計算し、計算結果を
図3(B)に示した。なお、構造体の加速度及び水平変形量の計算に用いた諸元は、一例として、以下の表1〜3に示した数値を用いた。表1には実施例の諸元が記載され、表2には比較例1の諸元が記載され、表3には比較例2の諸元が記載されている。ここで、比較例1では、第1構造体上に第2構造体が固定されたものと仮定しており、実施例及び比較例2と同じ総重量となるように値を調整している。また、
図3における地震入力の倍率は、レベル2の地震動が1に対応するものとする。レベル2の地震動とは、平成十三年三月三十日国土交通省告示第三八八号にて告示されている、「極めて稀に発生する地震動」に相当する。
【0040】
図3(A)に示されるように、比較例1及び比較例2では、地震入力の倍率が大きくなるにつれ、第2構造体の加速度が線形に上昇している。これに対して、実施例に係る第2構造体の加速度は、地震入力の倍率が1に到達するまでは比較例1及び比較例2と同様の挙動を示すが、地震入力の倍率が1より大きくなると、第2構造体の加速度の増加量が小さくなることが確認できた。これは、
図1に示されるように、地震入力の倍率が1より大きくなることで、第2免震層16のすべり支承20が機能し、支承部20Aがスライドプレート20B上をすべって、第1構造体11に対して第2構造体12を水平方向に相対変位させるためである。
【0041】
次に、
図3(B)に示されるように、比較例2の免震構造では、トリガー部材としてのすべり支承が設けられていないため、地震入力の倍率が1よりも小さい場合であっても、第2免震層が機能し、第2構造体が第1構造体に対して水平変位していることが分かる。これに対して、実施例に係る第2免震層の水平変形量は、地震入力の倍率が1に到達するまでほぼ0となっている。すなわち、すべり支承20の静止摩擦力がトリガー荷重となっているため、この静止摩擦力よりも大きい外力が入力されるまでは、第2構造体が第1構造体に対してほとんど水平変位しない。これにより、上述したように、第1構造体と第2構造体を貫通してエレベータシャフトや配管等を配置する場合であっても、地震入力の倍率1に対して、これらのエレベータシャフトや配管等に作用するせん断変形を吸収する追従機構を設けずに済むことが確認された。なお、
図3(B)のグラフでは、地震入力の倍率が1のときに、実施例に係る第2免震層の水平変形量が0となっているが、これに限定されない。すなわち、エレベータシャフトや配管等に作用するせん断応力が許容できる程度であれば、第2構造体が第1構造体に対して水平変位してもよい。例えば、地震入力の倍率が1のときに、第2免震層が数cm程度水平変形する構造としてもよい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、本実施形態のすべり支承20は、極めて稀に発生する地震動(レベル2の地震動)による外力を受けた場合に機能するように構成されているが、これに限定されない。例えば、極めて稀に発生する地震動による外力の半分の外力を受けた場合に、すべり支承20が機能するように構成してもよい。
【0043】
また、本発明に係る免震構造は、
図1に示された構成に限定されず、種々の構成を適用できる。一例として、
図5〜8に示された第1変形例〜第6変形例に係る免震構造を適用してもよい。なお、以下の説明において、実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0044】
(第1変形例)
図5(A)に示されるように、本実施形態の第1変形例に係る免震構造では、第1構造体11と第2構造体12との間に第2免震層32が設けられており、この第2免震層32は、トリガー部材としての両面すべり支承30を含んで構成されている。
【0045】
両面すべり支承30は、支承部30Aと、上スライドプレート30Bと、下スライドプレート30Cとを備えている。支承部30Aは、上面側及び下面側の両面がすべり面となる略円柱状に形成されている。このため、支承部30Aは、第1構造体11及び第2構造体12のどちらにも固定されておらず、両構造体に対して水平変位可能とされている。
【0046】
上スライドプレート30Bは、支承部30Aと第2構造体12との間に配置されており、第2構造体12の下面に固定されている。一方、下スライドプレート30Cは、支承部30Aと第1構造体11との間に配置されており、第1構造体11の上面に固定されている。
【0047】
ここで、両面すべり支承30の静止摩擦力がトリガー荷重となっており、所定値以上の地震力によって静止摩擦力以上の外力が入力されると、トリガーが解除される。また、本変形例では一例として、極めて稀に発生する地震動による外力を受けた場合に、支承部30Aが上スライドプレート30B及び下スライドプレート30Cに対してすべるように構成されている。
【0048】
また、上スライドプレート30Bの周囲には、上ストッパ36が配置されている。上ストッパ36は、第2構造体12に固定されており、第2構造体12から上スライドプレート30Bよりも下方まで延出されている。このため、支承部30Aは、第2構造体12に対して上ストッパ36で囲まれた領域内のみをすべるように構成されている。
【0049】
上ストッパ36と同様に、下スライドプレート30Cの周囲には、下ストッパ34が配置されている。下ストッパ34は、第1構造体11に固定されており、第1構造体11から下スライドプレート30Cよりも上方まで延出されている。このため、支承部30Aは、第1構造体11に対して下ストッパ34で囲まれた領域内のみをすべるように構成されている。
【0050】
以上のように構成された免震構造は、実施形態と同様の効果を有する。すなわち、極めて稀に発生する地震動による地震力が入力されるまでは、両面すべり支承30が機能せず、第1構造体11と第2構造体12とが相対変位しないようになっている。一方、極めて稀に発生する地震動による地震力が入力されると、支承部30Aが上スライドプレート30B及び下スライドプレート30Cに対してすべる。
【0051】
また、本変形例では、上スライドプレート30Bと支承部30Aとの相対変位に支承部30Aと下スライドプレート30Cとの相対変位を加えたものが、第2免震層32の水平変形量と等しい。このため、第2免震層32において第2構造体12の自重を伝える鉛直方向の力線(すなわち夫々の支承部30Aの位置)と第1構造体11において第2構造体12の自重を受ける鉛直方向の力線(すなわち第1構造体11における夫々の柱位置)との相対変位を前述の実施形態に比べて大幅に抑制することができる。この結果、第1構造体11に生じる第2構造体12の自重による偏心モーメントの大きさを低減することができる。
【0052】
なお、本変形例に係る両面すべり支承30は、上面側の動摩擦係数と下面側の動摩擦係数が略同一となるように構成したが、これに限定されない。例えば、下面側の摩擦係数を上面側の動摩擦係数よりも小さくなるように構成してもよい。この場合、下すべり面が先に滑動し下ストッパ34に接触したのち上すべり面が滑動することになるため、上ストッパ36を外して上スライドプレート30Bを大きく形成することが可能となり、より過大な地震入力に備えることができる。
【0053】
(第2変形例)
次に、本実施形態の第2変形例に係る免震構造について説明する。
図5(B)に示されるように、本変形例に係る免震構造では、第1構造体11と第2構造体12との間に第2免震層42が設けられており、この第2免震層42は、トリガー部材としての鋼材ダンパ40と、図示しない積層ゴムとを含んで構成されている。
【0054】
鋼材ダンパ40は、延性鋼材によって形成された複数のU字型ダンパ43を備えており、本変形例では、4つのU字型ダンパ43を備えている(
図5(B)では、2つのU字型ダンパ43のみが図示されている)。また、それぞれのU字型ダンパ43は、上直線部43Bと、下直線部43Cと、湾曲部43Aとを備えて略U字状に形成されている。
【0055】
上直線部43Bは、第2構造体12の下面に沿って直線状に延在されており、第2構造体12の下面に取付けられた上部取付座44とボルト48によって締結されている。また、下直線部43Cは、第1構造体11の上面に沿って上直線部43Bと略平行に延在されており、第1構造体11の上面に取り付けられた下部取付座46とボルト48によって締結されている。
【0056】
ここで、上直線部43Bと下直線部43Cとは、湾曲部43Aによって連結されている。湾曲部43Aは、上直線部43B及び下直線部43Cと一体に形成されており、外側に湾曲されている。
【0057】
図5(B)に図示された一対のU字型ダンパ43は、互いに湾曲部43Aが外側を向くようにして、紙面の左右方向に配置されている。また、紙面の奥行方向には、一対の図示しない鋼材ダンパが配置されている。ここで、U字型ダンパ43の降伏荷重は、極めて稀に発生する地震動による地震力が入力された場合に塑性変形するように設定されている。このため、比較的頻繁に発生する規模の地震時には、U字型ダンパ43が変形せず、第1構造体11と第2構造体12とが一体に水平変位するように構成されている。
【0058】
以上のように構成された免震構造は、実施形態と同様の効果を有する。すなわち、極めて稀に発生する地震動による地震力が入力されるまでは、鋼材ダンパ40が変形せず、第1構造体11と第2構造体12とが相対変位しないようになっている。一方、極めて稀に発生する地震動による地震力が入力されると、鋼材ダンパ40が塑性変形し、第2構造体12が第1構造体11に対して相対変位する。また、塑性変形することで、地震動による入力エネルギーを吸収することができる。
【0059】
なお、本変形例では、U字状の鋼材ダンパ40を適用したが、これに限らず、他の形状の鋼材ダンパを適用してもよい。例えば、鉛ダンパや、ハニカムダンパなどの金属系ダンパを適用してもよい。また、すべり支承と鋼材ダンパとを組み合わせてもよく、例えば、
図1の免震構造において、第2免震層32に
図5(B)の鋼材ダンパ40を配置してもよい。
【0060】
(第3変形例)
次に、本実施形態の第3変形例に係る免震構造について説明する。
図6(A)に示されるように、本変形例に係る免震構造が適用された建物50では、第1免震層14に第1構造体51が支持されており、この第1構造体51の下部が横長に形成されている。そして、この下部に第2免震層16を介して第2構造体52が支持されている。これにより、第1構造体51と第2構造体52とでいわゆるツインタワーを構成している。
【0061】
(第4変形例)
次に、本実施形態の第4変形例に係る免震構造について説明する。
図6(B)に示されるように、本変形例に係る免震構造が適用された建物60では、第1免震層14に中間基礎板61が支持されている。そして、この中間基礎板61上に第1構造体62及び第2構造体63が形成されている。また、第2構造体63と中間基礎板61との間には、第2免震層16が設けられており、この第2免震層16を介して第2構造体63が中間基礎板61上に支持されている。これにより、第3変形例と同様に第1構造体62と第2構造体63とでいわゆるツインタワーを構成している。
【0062】
(第5変形例)
次に、本実施形態の第5変形例に係る免震構造について説明する。
図7に示されるように、本変形例に係る免震構造が適用された建物70では、第1免震層14に第1構造体としての中間基礎板72が支持されており、この中間基礎板72上に第2免震層16を介して第2構造体71が支持されている。
【0063】
(第6変形例)
次に、本実施形態の第6変形例に係る免震構造について説明する。
図8に示されるように、本変形例に係る免震構造が適用された建物80では、第5変形例と同様に、第1免震層14に第1構造体としての中間基礎板81が支持されており、この中間基礎板81上に第2免震層16を介して第2構造体83が支持されている。
【0064】
また、本変形例では、基礎100に段差が設けられており、基礎100における第2構造体83の外周部の下方に位置する部分が第1免震層14よりも高く形成されている。そして、基礎100と第2構造体83との間にすべり支承82が設けられており、このすべり支承82によって第2構造体83の外周部が支持されている。
【0065】
ここで、すべり支承82は、支承部82Aとスライドプレート82Bとを含んで構成されており、支承部82Aがスライドプレート82B上をすべるように構成されている。また、すべり支承82における静止摩擦力は、中間基礎板81と第2構造体83との間のすべり支承20における静止摩擦力と比較して、小さく設定されている。このため、すべり支承82は、地震によって第1免震層14の積層ゴム18が変形すると、この変形に応じてスライドプレート82B上をすべるように構成されている。すなわち、すべり支承82には第1免震層14の変形と同一のすべり変位が生じる。
【0066】
以上のように構成された第3変形例〜第6変形例に係る免震構造は、実施形態に係る免震構造と同様の効果を有する。