【0009】
[熱可塑性エラストマー]
本発明の蓄光性樹脂組成物は、樹脂成分として熱可塑性エラストマーを使用することが重要である。かかる熱可塑性エラストマーを使用することにより、マスターペレットを製造する際に、他の熱可塑性樹脂に比べて、はるかに組成物中の蓄光顔料の崩壊を抑制することができる。熱可塑性エラストマーの、高温での可塑性と常温でのゴム弾性の性質が崩壊の抑制に寄与しているものと考えられる。
当該熱可塑性エラストマーとして、高温と常温での上記特性を発現する限り特に制限されないが、本発明によって得られる蓄光性樹脂成形体が燐光による発光輝度を十分に発揮するために、透明性の熱可塑性エラストマーであることが好ましい。本発明において、透明性とは、全光線透過率が85%以上、詳しくは85〜93%であることに相当する。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、PPやPEをマトリックスとしてエチレンプロピレンゴムやエチレンプロピレンジエンゴムなどのオレフィン系ゴムをマトリックス中に微分散したゴム弾性を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。当該オレフィン系熱可塑性エラストマーは多くのものが市販されているので、MFR等を勘案して購入し使用することができる。例えば、三菱化学社から商品名「サーモラン」や「ゼラス」として各種MFR、各種物性の樹脂が販売されている。
また、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体、或いはスチレンとエチレンとブチレンとのブロック共重合体を基本構造とするスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられ、旭化成ケミカルズ社から商品名「タフテック」として、クラレ社から「セプトン」や「ハイブラー」として、アロン化成社から「AR−SCシリーズ」として販売されている。
更に、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとのブロック共重合体を基本構造とするアクリル系熱可塑性エラストマーが挙げられ、クラレ社から、商品名「クラリティ」として販売されている。その他、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーや塩ビ系熱可塑性エラストマーも使用できる。「タフテック」、「AR−SCシリーズ」および「クラリティ」は、透明性に優れる熱可塑性エラストマーであり好適なエラストマーである。
【0010】
[蓄光顔料]
蓄光顔料は特に制限されず、硫化亜鉛・銅蛍光体(ZnS:Cu)、CaSrS:Biなどの硫化物系顔料、一般式MAl
20
4(Mは、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等)で表され必要に応じてユーロピウム(Eu)やネオジウム(Nd)等の賦活剤を含有するアルミン酸塩系顔料、具体的には、CaAl
20
4:Eu,Nd(発光ピーク波長:440nm)、SrAl
20
4:Eu,Dy(発光ピーク波長:520nm)、SrAl
20
4:Eu(発光ピーク波長:520nm)、その他Sr
4Al
140
25:Eu,Dy(発光ピーク波長:490nm)などが挙げられる。これら蓄光顔料はモト・ルミマテリアル社等から市販されている。
【0012】
[マスターペレットの製造方法]
本発明においては、前記蓄光性樹脂組成物からマスターペレットを製造する際の方法に特徴がある。即ち、組成物中の蓄光顔料の崩壊をできるだけ抑制するためには、圧縮成形或いはロール成形の混練成形法の採用が重要となる。従来の押出成形型のペレットミルでマスターペレットを製造すると、せん断応力が大きく蓄光顔料が崩壊し、得られた成形体の発光輝度が低下する。また、押出成形機で成形体を製造する場合も同様の崩壊が起こる。
圧縮成形とは、金型内で圧力を掛けながら加熱溶融し次いで冷却してシート状に成形する方法であり、ロール成形とは、カレンダー部の熱ロール間を通して徐々に圧延し、シート状或いはフィルム状に成形する方法であり、何れも、溶融体に掛かるせん断応力が小さく、蓄光顔料の崩壊が抑制される。既存の装置並びに従来公知の条件が広く採用される。
圧縮成形或いはロール成形によって得られたシート状成形体は、ペレタイザーなどで裁断してペレット化して蓄光性マスターペレットとする。
【0013】
[蓄光性樹脂成形体]
得られた蓄光性マスターペレットは、以下に示す熱可塑性樹脂と混合、成形した所定の形状の成形体とすることができる。蓄光性マスターペレットと熱可塑性樹脂との配合比は、マスターペレット中の蓄光顔料の含有比率と、最終成形体中に所望される蓄光顔料の含有比率とから、任意に決定される。通常、成形体100質量部当たり、2〜20質量部の蓄光顔料が配合される。なお、蓄光性マスターペレットだけで成形体を作製する場合もある。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂,ABS樹脂などから、最終製品の用途や必要な物性に応じて任意に選択できる。
一旦蓄光顔料の崩壊が無いマスターペレットが得られれば、その後熱可塑性樹脂と混合して成形する際には、蓄光顔料の崩壊はほとんど起きない。従って、蓄光性樹脂成形体の成形方法は特に制限が無く、従来公知の射出成形、ブロー成形、圧縮成形、注型成形、押出成形などの成形方法が採用できる。
【実施例】
【0014】
本発明を以下の実施例で更に説明する。以下の実施例は、説明のためのものであり、いかなる意味においても本発明はこれに限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0015】
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分と略号は、以下の通りである。
(A)熱可塑性エラストマー:
A−1:プラステック社製「アムゼルAZ180」 アクリル系エラストマー
A−2:アロン化成社製「AR-SC-75」 スチレン系エラストマー
(B)蓄光顔料
B−1:ネモト・ルミマテリアル社製「GLL-300FF」・・SrAl
20
4:Eu,Dy
B−2:ネモト・ルミマテリアル社製「BGL-300FF」・・Sr
4Al
140
25:Eu,Dy
(C)熱可塑性樹脂
C−1:塩化ビニル樹脂 昭和化成工業社製「841J」
密度:1.10g/cm
3、メルトフローレート:1.0g/10min
C−2:ABS樹脂 日本エイアンドエル社製「ST600」
密度:1.10g/cm
3、
メルトボリュームフローレート:3.0cm
3/10min
(D)その他樹脂
D−1:硬質アクリル樹脂 三菱レイヨン社製「アクリペットVH」
密度:1.19g/cm
3、メルトフローレート:2.0g/10min
【0016】
実施例1
〔蓄光性樹マスターペレットの製法〕
表1で示す処方に従って、ロール成形機中に熱可塑性エラストマー「アクリル系エラストマー(A−1)」100質量部と蓄光顔料「GLL-300FF」25質量部からなる蓄光性樹脂組成物を投入して、巾1000mm×厚み2mmのシートを作製した(巻物)。
得られたシートを、裁断機を使用して、約3mm×約3mm×2mmのマスターペレットを作製した。
〔蓄光性樹脂成形体の製造〕
上記方法で得られたマスターペレット125質量部を、押出成形機中で塩化ビニル樹脂(C−1)125質量部と混合して、200mm×20mm×4mmの蓄光性樹脂成形体を作製した。
【0017】
得られた成形体の一部から切り出して試験片(約3mm×約3mm×2mm)を作製し、以下の方法で各物性を測定した。結果を表1に示す。
(1)残光輝度試験
JISZ9107に準拠して残光輝度を測定した使用機器や条件を以下に示す。
〈使用機器〉
光源:常用光源D65 F65D-A(スガ試験機)
照度計:T-10P(JIS C1609-1:2006 AA級準拠、コニカミノルタ)
輝度計:BM-5A(TOPCON)
〈測定条件〉
励起条件:常用光源D65蛍光ランプ 200lx、20分
測定:励起停止300分後までの残光輝度
下地色:黒
環境温度湿度:23±2℃、50±10%
〈残光輝度評価〉
○:60分経過後の残存輝度が10mcd/m
2以上
×:60分経過後の残存輝度が10mcd/m
2未満
(2)目視外観評価
○:蓄光顔料が均一に分散し、良好な発光が見られた。
×:蓄光顔料が粉砕・変色し、発光も暗くなる。
【0018】
比較例1,2
比較例1,2においては、マスターペレットを作製せずに直接押出成形法でシート状の蓄光性樹脂成形体を作製し、次いで該成形体から試験片を切り出し測定に供した。その結果を表1に示す。
【0019】
実施例2〜9、比較例3
実施例2〜9および比較例3においては、表1に示す処方に従い、実施例1に準じて蓄光性樹脂成形体を作製してその物性も同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
実施例1、2、5〜9はアクリル系エラストマーを用いて、実施例3,4はスチレン系エラストマーを用いてそれぞれマスターペレットを作製した。更に、これらマスターペレットを用いて、実施例1〜5、8,9では塩化ビニル樹脂を母材とした成形体を、実施例7ではABS樹脂を母材とした成形体を、実施例6はマスターペレット単独で成形体を作製した。
実施例1での60分経過後の残光輝度は21.7mcd/m
2であった(1分経過後は911.8mcd/m
2)。実施例2での60分経過後の残光輝度は17.8mcd/m
2であった(1分経過後は385.5mcd/m
2)。実施例3〜9においても、60分経過後の残光輝度は10mcd/m
2以上であり、長時間十分な蓄光性を保持した。何れの実施例においても、蓄光顔料は均一に分散しており良好な発色が見られた。
比較例1,2は、熱可塑性エラストマーに代えて硬質アクリル樹脂を使用して押出成形法でいきなり成形体とした。その成形体は、蓄光顔料が粉砕され変色し、しかも残光輝度が大きく低下した。比較例3は、熱可塑性エラストマーに代えて硬質アクリル樹脂を使用してマスターペレットを作製し、次いで当該マスターペレットを母材である塩化ビニル樹脂に配合して成形体を作製した。その成形体は、比較例1,2より残光輝度、目視評価ともわずかに良くなるが、十分な効果をえることはできなく、残光輝度も10mcd/m
2を超えなかった。