特許第6482441号(P6482441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6482441蓄光性樹脂組成物、蓄光性樹脂成型体、および蓄光性マスターペレットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482441
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】蓄光性樹脂組成物、蓄光性樹脂成型体、および蓄光性マスターペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20190304BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20190304BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20190304BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20190304BHJP
   B29B 9/04 20060101ALI20190304BHJP
   B29B 7/10 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/01
   C08L101/00
   C08J3/22CEQ
   B29B9/04
   B29B7/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-191204(P2015-191204)
(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-66223(P2017-66223A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】水野 祥孝
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−315687(JP,A)
【文献】 米国特許第04629583(US,A)
【文献】 特開2016−055533(JP,A)
【文献】 特開2000−119448(JP,A)
【文献】 特開2008−075704(JP,A)
【文献】 特開2000−336201(JP,A)
【文献】 特開2004−182841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08J 3/00−3/28、99/00
B29B 7/00−11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー100重量部当たり、5〜40重量部の蓄光顔料を含有する組成物を圧縮成形法或いはロール成形法で混練成形して蓄光性マスターペレットを製造し、次いで当該蓄光性マスターペレットと熱可塑性樹脂とを混合し、成形することを特徴とする蓄光性樹脂成形体の製造方法
【請求項2】
熱可塑性エラストマーが、透明性熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の蓄光性樹脂組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の色のくすみや残光輝度の低下を抑制した蓄光性樹脂成形体、これに使用する蓄光性樹脂組成物並びに蓄光性マスターペレットの製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
蓄光顔料は、紫外線や可視光線によって発光し、これら励起光を取り除いた後も発光するという残光性を有する蛍光体であり、この発光は通常燐光とも言われている。
蓄光顔料は、上記特性を生かして、防災や安全表示のための建材や道路標識、滑り止め、クッション、釣り具、文具などに広く利用されている。当該蓄光顔料は、従来蓄光インクとしての形態が主流であったが、昨今、熱可塑性樹脂中に蓄光顔料を含有させた樹脂成形体での利用が広まり用途開発が進んでいる。
上記熱可塑性樹脂としては、用途や強度に応じて、ポリエチレンやポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂;、ポリスチレンやABSなどスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニール樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂など様々な樹脂が使用されている。
一方、蓄光顔料は嵩密度や形状が異なり、従来のペレットミルによるマスターペレットの製造、押出成型による成形体の製造方法では、蓄光顔料が崩壊するという問題を生じる。蓄光顔料が崩壊すると輝度が低下するので、安全性の確保の観点から十分な発光輝度並びに発光の持続性を確保するためには、輝度の低下分を補うだけの余分量の蓄光顔料を配合しなければならない。蓄光顔料は一般に高価な材料であり、過剰に配合することは工業的に極めて不利である(特許文献1、特許文献2)。
上記蓄光顔料を熱可塑性エラストマー中に配合した成形体は公知である。しかしながら、蓄光性マスターペレットを熱可塑性エラストマーを用いて先に作製し次いで成形体とする方法ではなく、いきなり押出(同時)成形で成形体としている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3947619号公報
【特許文献2】特開2004−182841号公報
【特許文献3】特開2004−315687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、成形時に蓄光顔料が崩壊を起こすことを抑制して崩壊による色のくすみおよび発光(残光)輝度の低下を防ぐ、蓄光性樹脂組成物並びにこの組成物を使用した蓄光性マスターペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、マスターペレットの製造に好適な樹脂組成物並びに方法について鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂として熱可塑性エラストマーを選択し、しかも、成形時に成形溶融体にできるだけせん断応力が掛からない成形法を採用することによって蓄光顔料の崩壊が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、熱可塑性エラストマー100重量部当たり、5〜40重量部の蓄光顔料を含有する組成物を圧縮成形法或いはロール成形法で混練成形して蓄光性マスターペレットを製造し、次いで当該蓄光性マスターペレットと熱可塑性樹脂とを混合し、成形することを特徴とする蓄光性樹脂成形体の製造方法が提供される。
可塑性エラストマーが、透明性熱可塑性エラストマーであることが好適である
【発明の効果】
【0007】
本発明によって提供される蓄光性樹脂組成物は、マスターペレットを製造する際に含有する蓄光顔料の崩壊を防止できる。その結果、当該マスターペレットを原料として製造される蓄光性樹脂成形体は発光輝度の低下が少なく、過剰の蓄光顔料を配合する必要がない。
更に、上記蓄光性樹脂組成物からマスターペレットを製造する方法としては、蓄光顔料の崩壊を最大限に抑制する観点から、圧縮成型或いはロール成形による混練成形法が最も好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の蓄光性樹脂組成物はマスターペレットの製造に使用される組成物であって、熱可塑性エラストマーおよび蓄光顔料を含有してなる組成物であり、熱可塑性エラストマー100重量部当たり、5〜40重量部の蓄光顔料を含有する。以下各成分について説明する。
【0009】
[熱可塑性エラストマー]
本発明の蓄光性樹脂組成物は、樹脂成分として熱可塑性エラストマーを使用することが重要である。かかる熱可塑性エラストマーを使用することにより、マスターペレットを製造する際に、他の熱可塑性樹脂に比べて、はるかに組成物中の蓄光顔料の崩壊を抑制することができる。熱可塑性エラストマーの、高温での可塑性と常温でのゴム弾性の性質が崩壊の抑制に寄与しているものと考えられる。
当該熱可塑性エラストマーとして、高温と常温での上記特性を発現する限り特に制限されないが、本発明によって得られる蓄光性樹脂成形体が燐光による発光輝度を十分に発揮するために、透明性の熱可塑性エラストマーであることが好ましい。本発明において、透明性とは、全光線透過率が85%以上、詳しくは85〜93%であることに相当する。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、PPやPEをマトリックスとしてエチレンプロピレンゴムやエチレンプロピレンジエンゴムなどのオレフィン系ゴムをマトリックス中に微分散したゴム弾性を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。当該オレフィン系熱可塑性エラストマーは多くのものが市販されているので、MFR等を勘案して購入し使用することができる。例えば、三菱化学社から商品名「サーモラン」や「ゼラス」として各種MFR、各種物性の樹脂が販売されている。
また、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体、或いはスチレンとエチレンとブチレンとのブロック共重合体を基本構造とするスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられ、旭化成ケミカルズ社から商品名「タフテック」として、クラレ社から「セプトン」や「ハイブラー」として、アロン化成社から「AR−SCシリーズ」として販売されている。
更に、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとのブロック共重合体を基本構造とするアクリル系熱可塑性エラストマーが挙げられ、クラレ社から、商品名「クラリティ」として販売されている。その他、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーや塩ビ系熱可塑性エラストマーも使用できる。「タフテック」、「AR−SCシリーズ」および「クラリティ」は、透明性に優れる熱可塑性エラストマーであり好適なエラストマーである。
【0010】
[蓄光顔料]
蓄光顔料は特に制限されず、硫化亜鉛・銅蛍光体(ZnS:Cu)、CaSrS:Biなどの硫化物系顔料、一般式MAl(Mは、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等)で表され必要に応じてユーロピウム(Eu)やネオジウム(Nd)等の賦活剤を含有するアルミン酸塩系顔料、具体的には、CaAl:Eu,Nd(発光ピーク波長:440nm)、SrAl:Eu,Dy(発光ピーク波長:520nm)、SrAl:Eu(発光ピーク波長:520nm)、その他SrAl1425:Eu,Dy(発光ピーク波長:490nm)などが挙げられる。これら蓄光顔料はモト・ルミマテリアル社等から市販されている。
【0011】
[蓄光性樹脂組成物]
本発明の蓄光性樹脂組成物は、上記必須成分に加えて、本発明の特徴を損なわない範囲で、無機または有機の充填剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤などの各種添加剤、更には、染料や顔料などの着色剤を任意に配合することができる。
上記必須並びに任意の成分を混合して樹脂組成物とする方法は、特に限定されず公知の方法で実施することができる。通常は、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合する。
当該樹脂組成物は、各成分をドライブレンドして混合状態で存在させ、マスターペレット用の原料として使用される。
【0012】
[マスターペレットの製造方法]
本発明においては、前記蓄光性樹脂組成物からマスターペレットを製造する際の方法に特徴がある。即ち、組成物中の蓄光顔料の崩壊をできるだけ抑制するためには、圧縮成形或いはロール成形の混練成形法の採用が重要となる。従来の押出成形型のペレットミルでマスターペレットを製造すると、せん断応力が大きく蓄光顔料が崩壊し、得られた成形体の発光輝度が低下する。また、押出成形機で成形体を製造する場合も同様の崩壊が起こる。
圧縮成形とは、金型内で圧力を掛けながら加熱溶融し次いで冷却してシート状に成形する方法であり、ロール成形とは、カレンダー部の熱ロール間を通して徐々に圧延し、シート状或いはフィルム状に成形する方法であり、何れも、溶融体に掛かるせん断応力が小さく、蓄光顔料の崩壊が抑制される。既存の装置並びに従来公知の条件が広く採用される。
圧縮成形或いはロール成形によって得られたシート状成形体は、ペレタイザーなどで裁断してペレット化して蓄光性マスターペレットとする。
【0013】
[蓄光性樹脂成形体]
得られた蓄光性マスターペレットは、以下に示す熱可塑性樹脂と混合、成形した所定の形状の成形体とすることができる。蓄光性マスターペレットと熱可塑性樹脂との配合比は、マスターペレット中の蓄光顔料の含有比率と、最終成形体中に所望される蓄光顔料の含有比率とから、任意に決定される。通常、成形体100質量部当たり、2〜20質量部の蓄光顔料が配合される。なお、蓄光性マスターペレットだけで成形体を作製する場合もある。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂,ABS樹脂などから、最終製品の用途や必要な物性に応じて任意に選択できる。
一旦蓄光顔料の崩壊が無いマスターペレットが得られれば、その後熱可塑性樹脂と混合して成形する際には、蓄光顔料の崩壊はほとんど起きない。従って、蓄光性樹脂成形体の成形方法は特に制限が無く、従来公知の射出成形、ブロー成形、圧縮成形、注型成形、押出成形などの成形方法が採用できる。
【実施例】
【0014】
本発明を以下の実施例で更に説明する。以下の実施例は、説明のためのものであり、いかなる意味においても本発明はこれに限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0015】
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分と略号は、以下の通りである。
(A)熱可塑性エラストマー:
A−1:プラステック社製「アムゼルAZ180」 アクリル系エラストマー
A−2:アロン化成社製「AR-SC-75」 スチレン系エラストマー
(B)蓄光顔料
B−1:ネモト・ルミマテリアル社製「GLL-300FF」・・SrAl204:Eu,Dy
B−2:ネモト・ルミマテリアル社製「BGL-300FF」・・Sr4Al14025:Eu,Dy
(C)熱可塑性樹脂
C−1:塩化ビニル樹脂 昭和化成工業社製「841J」
密度:1.10g/cm3、メルトフローレート:1.0g/10min
C−2:ABS樹脂 日本エイアンドエル社製「ST600」
密度:1.10g/cm3
メルトボリュームフローレート:3.0cm3/10min
(D)その他樹脂
D−1:硬質アクリル樹脂 三菱レイヨン社製「アクリペットVH」
密度:1.19g/cm3、メルトフローレート:2.0g/10min
【0016】
実施例1
〔蓄光性樹マスターペレットの製法〕
表1で示す処方に従って、ロール成形機中に熱可塑性エラストマー「アクリル系エラストマー(A−1)」100質量部と蓄光顔料「GLL-300FF」25質量部からなる蓄光性樹脂組成物を投入して、巾1000mm×厚み2mmのシートを作製した(巻物)。
得られたシートを、裁断機を使用して、約3mm×約3mm×2mmのマスターペレットを作製した。
〔蓄光性樹脂成形体の製造〕
上記方法で得られたマスターペレット125質量部を、押出成形機中で塩化ビニル樹脂(C−1)125質量部と混合して、200mm×20mm×4mmの蓄光性樹脂成形体を作製した。
【0017】
得られた成形体の一部から切り出して試験片(約3mm×約3mm×2mm)を作製し、以下の方法で各物性を測定した。結果を表1に示す。
(1)残光輝度試験
JISZ9107に準拠して残光輝度を測定した使用機器や条件を以下に示す。
〈使用機器〉
光源:常用光源D65 F65D-A(スガ試験機)
照度計:T-10P(JIS C1609-1:2006 AA級準拠、コニカミノルタ)
輝度計:BM-5A(TOPCON)
〈測定条件〉
励起条件:常用光源D65蛍光ランプ 200lx、20分
測定:励起停止300分後までの残光輝度
下地色:黒
環境温度湿度:23±2℃、50±10%
〈残光輝度評価〉
○:60分経過後の残存輝度が10mcd/m以上
×:60分経過後の残存輝度が10mcd/m未満
(2)目視外観評価
○:蓄光顔料が均一に分散し、良好な発光が見られた。
×:蓄光顔料が粉砕・変色し、発光も暗くなる。
【0018】
比較例1,2
比較例1,2においては、マスターペレットを作製せずに直接押出成形法でシート状の蓄光性樹脂成形体を作製し、次いで該成形体から試験片を切り出し測定に供した。その結果を表1に示す。
【0019】
実施例2〜9、比較例3
実施例2〜9および比較例3においては、表1に示す処方に従い、実施例1に準じて蓄光性樹脂成形体を作製してその物性も同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
実施例1、2、5〜9はアクリル系エラストマーを用いて、実施例3,4はスチレン系エラストマーを用いてそれぞれマスターペレットを作製した。更に、これらマスターペレットを用いて、実施例1〜5、8,9では塩化ビニル樹脂を母材とした成形体を、実施例7ではABS樹脂を母材とした成形体を、実施例6はマスターペレット単独で成形体を作製した。
実施例1での60分経過後の残光輝度は21.7mcd/m2であった(1分経過後は911.8mcd/m2)。実施例2での60分経過後の残光輝度は17.8mcd/m2であった(1分経過後は385.5mcd/m2)。実施例3〜9においても、60分経過後の残光輝度は10mcd/m2以上であり、長時間十分な蓄光性を保持した。何れの実施例においても、蓄光顔料は均一に分散しており良好な発色が見られた。
比較例1,2は、熱可塑性エラストマーに代えて硬質アクリル樹脂を使用して押出成形法でいきなり成形体とした。その成形体は、蓄光顔料が粉砕され変色し、しかも残光輝度が大きく低下した。比較例3は、熱可塑性エラストマーに代えて硬質アクリル樹脂を使用してマスターペレットを作製し、次いで当該マスターペレットを母材である塩化ビニル樹脂に配合して成形体を作製した。その成形体は、比較例1,2より残光輝度、目視評価ともわずかに良くなるが、十分な効果をえることはできなく、残光輝度も10mcd/m2を超えなかった。