特許第6482448号(P6482448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482448
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】浸透取水ユニット
(51)【国際特許分類】
   B01D 24/46 20060101AFI20190304BHJP
   B01D 29/62 20060101ALI20190304BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20190304BHJP
   B01D 29/00 20060101ALI20190304BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B01D23/24 Z
   C02F1/44 A
   B01D23/02 A
   B01D65/08
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-200190(P2015-200190)
(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公開番号】特開2017-70913(P2017-70913A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】新里 英幸
(72)【発明者】
【氏名】岡本 豊
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆之
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−057271(JP,A)
【文献】 特開平08−281078(JP,A)
【文献】 特開平01−030603(JP,A)
【文献】 特開2006−112139(JP,A)
【文献】 特開平09−239363(JP,A)
【文献】 特表2013−527378(JP,A)
【文献】 特開2012−005923(JP,A)
【文献】 特表2011−506067(JP,A)
【文献】 特開2000−210660(JP,A)
【文献】 特開平11−128692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0305465(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 24/46
B01D 29/00−62
B01D 65/08
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水中に固定的に配置される筐体と、
前記筐体に弾性変形可能に固定され、多孔構造を有するとともに、前記原水に生じる波により加えられた力に起因して弾性変形しつつ弾性変形による弾性力によって復元する弾性振動を行う弾性ろ過材と、を備える、浸透取水ユニット。
【請求項2】
前記弾性ろ過材に接続部材を介して接続され、前記原水の水面上に配置される浮体をさらに備え、
前記弾性ろ過材は、表面が前記原水の水面に略沿った状態で前記筐体に弾性変形可能に固定されている、請求項1に記載の浸透取水ユニット。
【請求項3】
前記弾性ろ過材は、前記表面の略中央に前記接続部材が接続されている、請求項2に記載の浸透取水ユニット。
【請求項4】
前記弾性ろ過材は、前記浮体が前記弾性ろ過材から離れる方向に移動された際に前記浮体と前記弾性ろ過材との間に張力が生じるように前記接続部材が接続されていることによって、弾性振動を行うように構成されている、請求項2または3に記載の浸透取水ユニット。
【請求項5】
前記筐体には、前記弾性ろ過材と前記筐体とによって囲まれた、前記原水をろ過した処理水が流入する処理水流入空間が設けられており、
前記処理水流入空間の圧力変動を抑制する圧力変動抑制部をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の浸透取水ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透取水ユニットに関し、特に、原水中に設置される浸透取水ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原水中に設置される取水ユニットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、水中内に配置され、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、中空糸膜束の上端に支持端を介して接続された浮子と、中空糸膜束の下端に接続され、中空糸膜を通過したろ過水が貯留される集水部とを備える、中空糸膜モジュールが開示されている。この中空糸膜モジュールでは、水位変動により水面に浮かぶ浮子の位置が変化することによって、中空糸膜が張られた状態と弛んだ状態とに変化するように構成されている。そして、中空糸膜が弛んだ状態において、中空糸膜束からの汚泥の排出が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3417139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された中空糸膜モジュールでは、中空糸膜モジュールでは、中空糸膜ごとの弾性(バネ定数)は小さいため、中空糸膜を多数束ねることでバネ定数は向上すると思われるものの、束ねた中空糸膜に生じる物理的な運動はまだ小さいと考えられる。このため、中空糸膜に付着した原水中の汚泥などの異物を、束ねた中空糸膜の物理的な運動によって効果的に除去するのは困難と考えられる。この結果、中空糸膜から汚泥などの異物を十分に除去することができないという問題点があると考えられる。さらに、束ねた中空糸膜に生じる物理的な運動が小さいことに起因して、中空糸膜への汚泥の付着自体を十分に抑制することができないという問題点もあると考えられる。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ろ過材に異物が付着するのを十分に抑制することが可能で、かつ、ろ過材に付着した異物を十分に除去することが可能な浸透取水ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における浸透取水ユニットは、原水中に固定的に配置される筐体と、筐体に弾性変形可能に固定され、多孔構造を有するとともに、原水に生じる波により加えられた力に起因して弾性変形しつつ弾性変形による弾性力によって復元する弾性振動を行う弾性ろ過材と、を備える。なお、「原水」は、弾性ろ過材によりろ過される前の水を意味する。
【0008】
この発明の一の局面による浸透取水ユニットでは、上記のように、多孔構造を有するとともに、原水に生じる波により加えられた力に起因して弾性変形しつつ弾性変形による弾性力によって復元する弾性振動を行う弾性ろ過材を、箱状の筐体に弾性変形可能に固定する。これにより、原水に生じる波により加えられた力により弾性ろ過材が変形させられた際に、弾性ろ過材を元の状態に復元する弾性力による弾性振動が弾性ろ過材に発生するので、弾性ろ過材に十分な大きさの振動を確実に生じさせることができる。この結果、弾性振動により弾性ろ過材に異物が付着しにくくなるので、弾性ろ過材に異物が付着するのを十分に抑制することができるとともに、付着した異物を弾性振動により弾性ろ過材から除去する(離間させる)ことができる。したがって、多孔構造の弾性ろ過材に目詰まりが生じるのを効果的に抑制することができる。また、原水中に配置される筐体に弾性ろ過材を弾性変形可能に固定することによって、原水中に弾性ろ過材を安定的に固定した状態で、弾性ろ過材を弾性振動させることができるので、所望の弾性振動を安定的に得ることができる。
【0009】
上記一の局面による浸透取水ユニットにおいて、好ましくは、浸透取水ユニットは、弾性ろ過材に接続部材を介して接続され、原水の水面上に配置される浮体をさらに備え、弾性ろ過材は、表面が原水の水面に略沿った状態で筐体に弾性変形可能に固定されている。このように構成すれば、原水の水面上の波により、浮体が水面と略直交する鉛直方向に移動されることによって、接続部材を介して浮体に接続された弾性ろ過材に鉛直方向の変位を与えることができるので、容易に、弾性変形可能な弾性ろ過材に弾性振動を生じさせることができる。また、弾性ろ過材を、表面が水面に略沿った状態で弾性変形可能に筐体に固定する。これにより、原水の水面上に配置される浮体の鉛直方向の移動を利用して、弾性ろ過材を表面と略直交する鉛直方向に容易に弾性振動させることができる。
【0010】
この場合、好ましくは、弾性ろ過材は、表面の略中央に接続部材が接続されている。このように構成すれば、浮体の移動に起因する外力を弾性ろ過材の表面の略中央に加えることができるので、弾性ろ過材を山または谷が1つのみ存在する基準(一次)モードによって弾性振動させることができる。これにより、山と谷とが少なくとも1つずつ存在する高次モードにより弾性ろ過材を弾性振動させる場合と比べて、複雑な振動制御を行うことなく、鉛直方向の振幅を十分確保しつつ弾性ろ過材を弾性振動させることができる。この結果、弾性ろ過材の弾性振動における鉛直方向の変位量をより効果的に大きくすることができ、更に、弾性ろ過材全体を変位させることができるので、弾性ろ過材の表面に異物が付着するのをより効果的に抑制することができるとともに、付着した異物を弾性ろ過材の表面全体からより効果的に除去する(離間させる)ことができる。
【0011】
上記浮体をさらに備える構成において、好ましくは、弾性ろ過材は、浮体が弾性ろ過材から離れる方向に移動された際に浮体と弾性ろ過材との間に張力が生じるように接続部材が接続されていることによって、弾性振動を行うように構成されている。このように構成すれば、浮体と弾性ろ過材との間に生じる張力により、弾性ろ過材から離れる方向(鉛直上方向)の変位を弾性ろ過材に確実に与えることができるので、弾性ろ過材の表面と略直交する方向に弾性ろ過材を確実に振動させることができる。
【0012】
上記一の局面による浸透取水ユニットにおいて、好ましくは、筐体には、弾性ろ過材と筐体とによって囲まれた、原水をろ過した処理水が流入する処理水流入空間が設けられており、処理水流入空間の圧力変動を抑制する圧力変動抑制部をさらに備える。このように構成すれば、処理水流入空間において弾性ろ過材の弾性振動により生じた圧力変動を、圧力変動抑制部により抑制することができる。これにより、処理水流入空間の圧力が高くなり弾性ろ過材を水が過度に通過しにくくなることや、処理水流入空間の圧力が低くなり弾性ろ過材を水が過度に通過しやすくなることを抑制することができるので、弾性ろ過材を通過する水の通過速度(取水速度)が変動するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記のように、ろ過材(弾性ろ過材)に異物が付着するのを十分に抑制することが可能で、かつ、ろ過材に付着した異物を十分に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態による浸透取水ユニットを示した模式的な斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態による浸透取水ユニットの浮体が基準位置である状態を示した断面図である。
図3】本発明の第1実施形態による浸透取水ユニットの浮体が上方に移動した状態を示した断面図である。
図4】本発明の第1実施形態による浸透取水ユニットの浮体が上方に移動した状態を示した斜視図である。
図5】本発明の第1実施形態による浸透取水ユニットの浮体が下方に移動した状態を示した断面図である。
図6】振動モードを説明するための図である。(a)が基準モードでの振動、(b)が高次モードでの振動を表す。
図7】本発明の第1実施形態の変形例による浸透取水ユニットを示した模式的な模式図である。
図8】本発明の第1実施形態の変形例による浸透取水ユニットの浮体が上方に移動した状態を示した斜視図である。
図9】本発明の第2実施形態による浸透取水ユニットの浮体が上方に移動した状態を示した断面図である。
図10】本発明の第2実施形態による浸透取水ユニットの浮体が下方に移動した状態を示した断面図である。
図11】本発明の第2実施形態の変形例による浸透取水ユニットの浮体が上方に移動した状態を示した断面図である。
図12】本発明の第2実施形態の変形例による浸透取水ユニットの浮体が下方に移動した状態を示した断面図である。
図13】本発明の第3実施形態による浸透取水ユニットを示した断面図である。
図14】本発明の第3実施形態の変形例による浸透取水ユニットを示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1図6を参照して、本発明の第1実施形態による浸透取水ユニット100について説明する。
【0017】
(浸透取水ユニットの構成)
本発明の第1実施形態による浸透取水ユニット100は、薬剤の注入などを行わずに、流木などの浮遊物や、ごみ、海洋生物・河川生息生物やプランクトンなどの微生物、懸濁物質(所定の粒径以下の不溶解性物質、いわゆるシルト)などから構成される異物を海水(原水)から除去して、海水がろ過された水(処理水)を得、取水管3より処理水を取水した後、水処理施設Fにおいて海水淡水化処理を行い、清澄な水を得るために用いられるユニットである。この浸透取水ユニット100は、好ましくは、約25m/日以上の取水速度を有する高速取水システムに用いられる。
【0018】
浸透取水ユニット100は、図1に示すように、海水中に設置される箱状の筐体1と、筐体1に固定され、海水中の異物を通過させずに、海水を通過(浸透)させることにより海水をろ過する機能を有するろ過材2と、海水がろ過された処理水を筐体1の外部(たとえば陸上)の水処理施設Fに導くための取水管3と、ろ過材2にロープ(索)4を介して接続された浮体5とを備えている。また、この浸透取水ユニット100は、所望の取水量に合わせて海中に複数配置することが可能である。なお、ろ過材2およびロープ4は、それぞれ、特許請求の範囲の「弾性ろ過材」および「接続部材」の一例である。
【0019】
筐体1は、略直方体の外観形状を有しており、海底面B上に固定されている。ここで、筐体1を海底面B上に固定するための工事は、海底面B下に取水管を埋設することによって取水を行う一般的な浸透取水法と比べて、工事のコストや日数を大幅に削減することが可能である。また、筐体1を容易に海底面Bから取り外すことができるので、筐体1のメンテナンスを容易に行うことが可能である。なお、図2に示すように、水深(海面Sと海底面Bとの鉛直方向(Z方向)の距離)H1は、約1〜20mであり、筐体1の鉛直方向の長さH2は、約1〜5mである。
【0020】
また、図1に示すように、筐体1には、上側(Z1側、海面側)に開口10aを有し、海面Sに略沿った水平方向における断面が略正方形を有する凹部10が形成されている。その結果、筐体1は箱状に形成されている。なお、凹部10の4隅の角部10bは、R形状(円弧形状)に形成されるのが好ましく、その結果、筐体1の側壁部1aはなだらかに接続されている。また、筐体1は、樹脂、FRP(繊維強化プラスチック)、鉄鋼、コンクリート、または、これらの複合材などから構成されている。
【0021】
ろ過材2は、略正方形の開口10aの形状に合わせて、略正方形の平板状(平膜状)に形成されている。そして、ろ過材2は、表面2aが海面Sに略沿うように、凹部10内に固定されている。この結果、ろ過材2は、凹部10を、ろ過材2よりも上側(Z1側)の原水(海水)側と、ろ過材2よりも下側(Z2側)とに区画するように固定されている。なお、ろ過材2よりも下側には、筐体1とろ過材2とによって囲まれた処理水流入空間10cが設けられている。この処理水流入空間10cでは、ろ過材2を通過することによってろ過された処理水が流入する。
【0022】
ここで、凹部10の正方形の断面の4隅がR形状に形成されていることにより、凹部10の4隅の角部10bが角ばった形状に形成されている場合と比べて、ろ過材2が後述する弾性変形した際にろ過材2の4隅に固定された部分に応力が集中するのを抑制することが可能である。
【0023】
ここで、第1実施形態では、ろ過材2は、繊維が編み込まれた布や、不織布、スポンジ、多孔質の膜などから構成されており、多孔構造を有する平板状(平膜状)の部材である。なお、ろ過材2が布製である場合には、布製のろ過材2を鉛直方向に複数枚積層させることによって、実質的な孔径を低下させて、より微細な異物を付着させることが可能である。また、ろ過材2の鉛直方向の厚みt(図2参照)は、100mm程度である。このろ過材2の厚みtは、ろ過材2の材質などにより適宜変更することが可能である。
【0024】
また、ろ過材2は、撓みがほとんど発生しないようにある程度の水平方向に張力が発生した状態で、筐体1の4辺の側壁部1aに固定されている。この結果、ろ過材2は、外力が加えられない通常状態においては、表面2aが海面Sに略沿った状態である一方、外力が加えられた際においては、鉛直方向に弾性変形するとともに、弾性変形した際の弾性力によって復元する弾性振動を行うように筐体1に固定されている。なお、「ろ過材2の表面2aが海面Sに略沿った状態」は、ろ過材2の表面2aが海面Sに完全に沿った状態(ろ過材2の表面2aと海面Sとが成す角度が0度の状態)だけでなく、ろ過材2の表面2aが海面Sに対して若干傾斜した状態(たとえば、ろ過材2の表面2aと海面Sとが成す角度が±30度以内(0度を除く)の角度範囲で、ろ過材2の表面2aが海面Sに対して傾斜した状態)も含む広い概念である。
【0025】
ここで、ろ過材として筐体1の凹部10に収容されたろ過砂を用いる場合には、ろ過砂の外部への流出、異物が付着することによるろ過砂の粒径の増大、および、ろ過砂の粒度分布の偏りなどに起因してろ過性能が低下しやすい。また、ろ過砂に亀裂や陥没が生じると、直接異物が取水管3に取り込まれやすくなってしまう。さらに、ポンプPを用いて取水する場合には、ポンプPの吸引による圧力に起因して砂が密集してしまい、ろ過性能(取水量)が低下しやすい。一方で、第1実施形態のように、ろ過材2として多孔構造を有する平板状の部材を用いることによって、上記ろ過砂を用いた際の不具合を解決することが可能である。さらに、第1実施形態の浸透取水ユニット100では、適切な孔径を有するろ過材2を用いることによって、異物を除去しつつ、ろ過砂を用いた場合よりも速い速度で取水を行うことが可能である。
【0026】
また、浮体5は、海面S上に浮いた状態で配置されており、海面Sに発生する波(進行波)により、鉛直方向(Z方向)に移動可能に構成されている。また、ろ過材2と浮体5とを接続するロープ4の一方端は、浮体5に固定されており、ロープ4の他方端は、ろ過材2の水平方向の略中央C1において、ろ過材2に固定されている。この際、ロープ4は、浮体5が海面Sに波が発生していない状態における位置(基準位置)に位置する状態において、ろ過材2と浮体5との間に若干の張力が生じるような状態(緊張係留状態)になるように、ろ過材2と浮体5とに接続されている。つまり、ロープ4の長さは、基準位置の浮体5の下面(Z2側の面)とろ過材2の表面2aとの鉛直方向の距離L1(図2参照)と略等しい。なお、基準位置におけるロープ4の張力は、ろ過材2の略中央C1を上方(Z1方向)に略変位させない程度の張力になるように設定されている。
【0027】
これにより、海面Sの進行波により、浮体5が基準位置からみてろ過材2から離れる方向(Z1方向)に移動された際に、浮体5が移動された分、図3および図4に示すように、浮体5とろ過材2との間にろ過材2を上方に引っ張るような大きな張力が生じる。この結果、ろ過材2の略中央C1が上方に引っ張られてろ過材2が変位する。この際、ろ過材2の4辺の端部は固定端であることによって、ろ過材2の端部は節になる。したがって、ろ過材2の中央C1を頂点とする1つの山になるように、ろ過材2の全体が上方に変形する。この際、ろ過材2が延ばされることにより、ろ過材2の材質や厚みによってはろ過材2の実質的な孔径が大きくなって、ろ過材2を海水が通過しやすくなる。また、この際、ろ過材2には、下方に向かって弾性変形による弾性力が生じる。
【0028】
その後、海面Sの進行波により、浮体5が基準位置からみてろ過材2へ近づく方向(Z2方向)に移動された際には、図5に示すように、浮体5とろ過材2との距離が短くなることにより、ロープ4の長さが浮体5とろ過材2との距離よりも長くなる。その結果、浮体5とろ過材2との間の張力がなくなり、ロープ4が撓む。この際、ろ過材2は、下方に向かう弾性力により下方に移動するものの、海水や処理水の抵抗により弾性力が弱められて、ろ過材2の表面2aが海面Sに沿った状態からさらに下方に弾性変形するのが抑制される。この結果、ろ過材2の表面2aが海面Sに沿った状態に略戻る。
【0029】
そして、海面Sの進行波が連続的にもたらされることによって、浮体5では、常時鉛直方向への移動(振動)が繰り返される。この結果、図3および図4図5との状態が連続的に生じることによって、浮体5に接続されたろ過材2は常時振動される。また、固定端であるろ過材2の4辺の端部においても、振動の際に反力が生じる。したがって、ろ過材2に生じる振動と反力とにより、ろ過材2に異物が付着したり、ろ過材2の表面2a全体に堆積したりするのが抑制されるとともに、ろ過材2に付着したり、ろ過材2の表面2a全体に堆積した異物が振動によりろ過材2から離れる方向である上方に浮きあげられて海水中に放出される。さらに、浮きあげられた異物は、進行波により筐体1から離れる水平方向に移動されるため、異物が再度ろ過材2に付着(堆積)するのが抑制される。この結果、異物がろ過材2から離間されて除去されることによって、多孔構造を有するろ過材2全体が閉塞するのが抑制され、その結果、ろ過材2の取水性能を保持することができる。
【0030】
次に、ろ過材の振動モードについて説明する。
【0031】
図6(b)に一例として示すように、弾性振動による節(弾性振動において鉛直方向の変位が生じない点)がろ過材2の端部以外に存在して、ろ過材2の一部のみが鉛直方向の一方向(たとえば上方)に変位する高次モードでは、節がろ過材2の中央C1に位置してしまう。
【0032】
一方、第1実施形態では、ろ過材2の略中央C1のみに力が加えられることにより、ろ過材2における弾性振動のモードは、基準モードになる。なお、基準モードとは、図6(a)に示すように、弾性振動による節が存在せず、ろ過材2の全体が鉛直方向に変位するモードである。この結果、ろ過材2の略中央C1のみに弾性振動のための力が加えられる第1実施形態のろ過材2では、高次モードの発生を抑制することができる。したがって、振動が単純で制御が容易な基準モードによりろ過材2を弾性振動させることができるので、振動が複雑で制御が困難なことに起因して振幅が小さくなりやすい高次モードでろ過材を弾性振動させる場合と比べて、ろ過材2が弾性振動する状態を維持しやすいとともに、ろ過材2の振幅が小さくなるのを抑制することが可能である。
【0033】
図1および図2に示すように、取水管3は、筐体1の1辺の側壁部1aを貫通するように筐体1の凹部10から筐体1の外部に向かって延びる主管30と、凹部10の処理水流入空間10c内に配置され、主管30と直交する方向に延びた状態で主管30に接続される補助管31とを含んでいる。また、主管30の処理水流入空間10cに配置される部分と、補助管31とには、処理水が流通する孔部30aおよび31aがそれぞれ複数形成されている。これらの孔部30aおよび31aを介して、処理水流入空間10c内の処理水が取水管3内に流入するように浸透取水ユニット100は構成されている。
【0034】
また、取水管3(主管30)の筐体1とは反対側には、ポンプP(図1参照)が接続されている。浸透取水ユニット100においては、ポンプPを駆動させることによって、処理水流入空間10cに向かう吸引力が発生して、原水(海水)がろ過材2を通過してろ過された処理水が処理水流入空間10cに流入するとともに、水処理施設Fに向かう吸引力が発生して、処理水流入空間10cに流入した処理水が取水管3を介して処理水流入空間10cから汲み上げられて、水処理施設Fに導かれる。
【0035】
また、浸透取水ユニット100において、水処理施設F側から筐体1に向かって処理水を流通(逆流)させるようにポンプPを駆動させることによって、ろ過材2に付着または堆積した異物を海水中に放出する(ろ過材2の逆洗を行う)ことが可能なように構成してもよい。なお、第1実施形態では、ろ過材2に生じる振動によりろ過材2に付着する異物の除去を行うことができるので、ろ過材2の逆洗を行わなくてもよいし、ろ過材2の逆洗を行うとしても、ろ過材としてろ過砂を用いる場合よりも逆洗の回数を減少させることが可能である。
【0036】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0037】
第1実施形態では、上記のように、多孔構造を有するとともに、原水(海水)に生じる波により加えられた力に起因して弾性変形しつつ弾性変形による弾性力によって復元する弾性振動を行うろ過材2を、箱状の筐体1に弾性変形可能に固定する。これにより、海水に生じる波により加えられた力によりろ過材2が変形させられた際に、ろ過材2を元の状態に復元する弾性力による弾性振動がろ過材2に発生するので、ろ過材2に十分な大きさの振動を確実に生じさせることができる。この結果、弾性振動によりろ過材2に異物が付着しにくくなるので、ろ過材2に異物が付着するのを十分に抑制することができるとともに、付着した異物を弾性振動によりろ過材2から除去する(離間させる)ことができる。この結果、多孔構造のろ過材2に目詰まりが生じるのを効果的に抑制することができる。
【0038】
また、第1実施形態では、海水中に配置される筐体1にろ過材2を弾性変形可能に固定することによって、海水中にろ過材2を安定的に固定した状態で、ろ過材2を弾性振動させることができるので、所望の弾性振動を安定的に得ることができる。
【0039】
また、第1実施形態では、ろ過材2にロープ4を介して接続され、海水の海面S上に配置される浮体5を浸透取水ユニット100に設けるとともに、ろ過材2を、表面2aが海水の海面Sに略沿った状態で筐体1に弾性変形可能に固定する。これにより、海水の海面S上での波により、浮体5が海面Sと略直交する鉛直方向(Z方向)に移動されることによって、ロープ4を介して浮体5に接続されたろ過材2に鉛直方向の変位を与えることができるので、容易に、弾性変形可能なろ過材2に弾性的な振動を生じさせることができる。また、ろ過材2を、表面2aが海面Sに略沿った状態で弾性変形可能に筐体1に固定する。これにより、海面S上に配置される浮体5の鉛直方向の移動を利用して、ろ過材2を表面2aと略直交する鉛直方向に容易に弾性振動させることができる。
【0040】
また、第1実施形態では、ろ過材2の表面2aの略中央C1にロープ4を接続する。これにより、浮体5の移動に起因する外力をろ過材2の表面2aの略中央C1に加えることができるので、ろ過材2を山または谷が1つのみ存在する基準(一次)モードによって弾性振動させることができる。この結果、山と谷とが少なくとも1つずつ存在する高次モードによりろ過材2を弾性振動させる場合と比べて、複雑な振動制御を行うことなく、鉛直方向の振幅を十分確保しつつろ過材2を弾性振動させることができる。したがって、ろ過材2の弾性振動における鉛直方向の変位量をより効果的に大きくすることができ、更に、ろ過材2全体を変位させることができるので、ろ過材2の表面2aに異物が付着するのをより効果的に抑制することができるとともに、付着した異物をろ過材2の表面2a全体からより効果的に除去する(離間させる)ことができる。
【0041】
また、第1実施形態では、ろ過材2を、浮体5がろ過材2から離れる上方に移動された際に浮体5とろ過材2との間に張力が生じるようにロープ4が接続されていることによって、弾性振動を行うように構成する。これにより、浮体5とろ過材2との間に生じる張力により、ろ過材2から離れる上方(Z1方向)への変位をろ過材2に確実に与えることができるので、ろ過材2の表面2aと略直交する鉛直方向にろ過材2を確実に振動させることができる。
【0042】
[第1実施形態の変形例]
次に、図7および図8を参照して、本発明の第1実施形態の変形例による浸透取水ユニット200について説明する。この浸透取水ユニット200では、直方体状の外観形状を有する第1実施形態の筐体1の代わりに、円柱状の外観形状を有する筐体101を用いる例について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成に関しては、同じ符号を付すとともに、説明を省略する。
【0043】
(浸透取水ユニットの構成)
本発明の第1実施形態の変形例による浸透取水ユニット200は、図7に示すように、箱状の筐体101と、ろ過材102と、取水管3と、ロープ4および浮体5とを備えている。なお、ろ過材102は、特許請求の範囲の「弾性ろ過材」の一例である。
【0044】
筐体101は、略円柱状の外観形状を有しており、海底面B上に固定されている。また、筐体101には、上側(Z1側)に開口110aを有し、海面Sに沿った水平方向における断面が略真円状である凹部110が形成されている。
【0045】
ろ過材102は、略真円状の開口110aの形状に合わせて、略真円状の平板状(平膜状)に形成されている。また、ろ過材102は、撓みがほとんど発生しないようにある程度の水平方向に張力が発生した状態で、筐体101の円環状の側壁部101aに固定されている。この結果、ろ過材102は、外力が加えられない通常状態においては、表面102aが海面Sに略沿った状態である一方、外力が加えられた際においては、鉛直方向に弾性変形するとともに、弾性変形した際の弾性力によって復元する弾性振動を行うように筐体101に固定されている。
【0046】
ここで、第1実施形態の変形例では、海面Sの進行波により、浮体5が基準位置からみてろ過材102から離れる方向(Z1方向)に移動された際に、図8に示すように、ろ過材102の略中央C2が上方に引っ張られて変位する。この結果、ろ過材102の中央C2を頂点とする1つの山になるように、ろ過材102の全体が上方に弾性変形する。その後、海面Sの進行波により、浮体5が基準位置からみてろ過材102へ近づく方向(Z2方向)に移動された際に、ろ過材102の表面102aが海面Sに略沿った状態に戻る。そして、海面Sの進行波が連続的にもたらされることによって、浮体5に接続されたろ過材102は常時振動される。また、ろ過材102の略中央C2のみに力が加えられることにより、ろ過材102における弾性振動のモードは、基準モードになる。なお、第1実施形態の変形例のその他の構成および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0047】
[第2実施形態]
次に、図9および図10を参照して、本発明の第2実施形態による浸透取水ユニット300について説明する。この第2実施形態では、第1実施形態の構成に加えて、浸透取水ユニット300に水柱管206が設けられている例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成には、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。また、水柱管206は、特許請求の範囲の「圧力変動抑制部」の一例である。
【0048】
(浸透取水ユニットの構成)
本発明の第2実施形態による浸透取水ユニット300では、図9に示すように、筐体201に、処理水流入空間210cの圧力変動を抑制する水柱管206が取り付けられている。この水柱管206は、例えば鉛直方向に延びる部分が海面より上に出るように延びるL字形状を有しており、筐体201の側壁部1aに取り付けられている。この結果、水柱管206の内部は、筐体201の処理水流入空間210cと連通している。なお、図9および図10では、水柱管206が筐体201に1つ取り付けられているものの、水柱管206は筐体201に複数取り付けられていてもよい。特に、筐体206が水平方向(鉛直方向と直交する方向)に大きい場合などには、複数の水柱管206を筐体201に取り付けるのが好ましい。また、L字状の水柱管206の水平方向に延びる部分は、筐体201の1個の側壁部1aに固定されている。また、L字状の水柱管206の鉛直方向に延びる部分は、海面Sの上方(Z1方向)まで延びるように形成されている。また、L字状の水柱管206の上端部は閉鎖されていることにより、水柱管206および処理水流入空間210cに水柱管206の上端部を介して外部から異物が入り込むのを抑制することが可能である。なお、水柱管206の上端部は閉鎖されずに開放されていてもよいし、上端部近傍に貫通孔が設けられていてもよい。これにより、水柱管206の上端部近傍の空気の内圧を大気圧にすることができるとともに、開放された上端部または貫通孔を介して水柱管206の内部の過剰な処理水を浸透取水ユニット300の外部に放出することが可能である。
【0049】
また、水柱管206の内部には、連通する処理水流入空間210cから処理水が流入している。ここで、浮体5が基準位置に位置する状態における水柱管206内部の液面S0は、海面Sと略同じ高さ位置になる。
【0050】
ここで、海面Sの波の振幅が大きく、その結果、浮体5の鉛直方向の変位が大きい場合には、浮体5に接続されたろ過材2の振幅も大きくなる。その結果、処理水流入空間210cの圧力(内圧)が、基準状態における基準圧(海水の静水圧とポンプP(図1参照)の吸引に起因する圧力との和からなる圧力)から大きく変動してしまう。具体的には、図9に示すように、ろ過材2が中央C1を頂点として上方に大きく弾性変形した際には、処理水流入空間210cの体積が大きくなり、その結果、処理水流入空間210cの圧力が基準圧よりも低くなる。この場合、ろ過材2を通過する海水の量(ろ過流量)が増大してしまい、定格以上の処理水を取水してしまう虞がある。
【0051】
そこで、第2実施形態の上記構成では、処理水流入空間210cの圧力が基準圧よりも低くなった場合には、処理水流入空間210cに水柱管206内の処理水が流入することによって、処理水流入空間210cの圧力低下(変動)が抑制される。これにより、浸透取水ユニット300において定格以上の処理水が取水されるのが抑制される。なお、この際、水柱管206内部の液面S1は、液面S0よりも高さ位置が下方に移動する。
【0052】
また、図9の状態から、図10に示すように、海面Sの進行波により浮体5が基準位置からみてろ過材2へ近づく方向(Z2方向)に移動された際には、下方に向かう弾性力が大きいことに起因して、ろ過材2の表面2aが海面Sに沿った状態からさらに下方にろ過材2は弾性変形してしまう。この結果、ろ過材2が中央C1を頂点として下方に大きく弾性変形する。この場合、処理水流入空間210cの体積が小さくなって処理水流入空間210cの圧力が基準圧よりも高くなり、その結果、ろ過材2を通過する海水の量(ろ過流量)が減少するか、または、海水がろ過材2を通過できなくなる虞がある。
【0053】
そこで、第2実施形態の上記構成では、処理水流入空間210cの圧力が基準圧よりも高くなった場合には、処理水が処理水流入空間210cから水柱管206に流出することによって、処理水流入空間210cの圧力上昇(変動)が抑制される。これにより、ろ過材2を通過する海水の量が減少したり、海水がろ過材2を通過できなくなるのが抑制される。なお、この際、水柱管206内部の液面S2は、液面S0よりも高さ位置が上方に移動する。また、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0054】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0055】
第2実施形態では、上記のように、処理水流入空間210cが圧力変動を抑制する水柱管206を含むことによって、処理水流入空間210cにおいてろ過材2の弾性振動により生じた圧力変動を、水柱管206により抑制することができる。これにより、処理水流入空間210cの圧力が高くなりろ過材2を水が過度に通過しにくくなることや、処理水流入空間210cの圧力が低くなりろ過材2を水が過度に通過しやすくなることを抑制することができるので、ろ過材2を通過する水の通過速度(取水速度)が変動するのを抑制することができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0056】
[第2実施形態の変形例]
次に、図11および図12を参照して、本発明の第2実施形態の変形例による浸透取水ユニット400について説明する。この第2実施形態の変形例では、第2実施形態の水柱管206の代わりに、ろ過材2とは別個のろ過材307を特許請求の範囲に記載の圧力変動抑制部として用いる例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成には、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。なお、ろ過材307は、特許請求の範囲の「圧力変動抑制部」の一例である。
【0057】
(浸透取水ユニットの構成)
本発明の第2実施形態の変形例による浸透取水ユニット400では、図11および図12に示すように、筐体301に、処理水流入空間310cの圧力変動を抑制するろ過材307が取り付けられている。このろ過材307は、筐体301の側壁部1aに形成された孔部301b内に取り付けられており、海水側と処理水流入空間310c側とを区切るように配置されている。そして、ろ過材307は、異物を除去しつつ、海水または処理水を通過させることが可能なように構成されている。また、ろ過材307の表面307aは、ろ過材2よりも小さな平面積を有している。
【0058】
この結果、図11に示すように、ろ過材2が中央C1を頂点として上方(Z1方向)に大きく弾性変形して、処理水流入空間310cの圧力が基準圧よりも低くなった場合には、ろ過材307は、海水を通過させて処理水流入空間310cに処理水を供給する。これにより、浸透取水ユニット400における処理水流入空間310cの圧力低下(変動)が抑制される。
【0059】
また、図12に示すように、浮体5が基準位置から離れる下方(Z2方向)に移動されて、処理水流入空間310cの圧力が基準圧よりも高くなった場合には、ろ過材307は、処理水流入空間310cの処理水を通過させて浸透取水ユニット400の外部に放出することによって、処理水流入空間310c内の処理水を減少させる。これにより、浸透取水ユニット400における処理水流入空間310cの圧力上昇(変動)が抑制される。なお、第2実施形態の変形例のその他の構成および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0060】
[第3実施形態]
図13を参照して、本発明の第3実施形態による浸透取水ユニット500について説明する。この第3実施形態では、ろ過材402を高次モードで振動可能に構成した例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成には、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0061】
(浸透取水ユニットの構成)
本発明の第3実施形態による浸透取水ユニット500は、図13に示すように、筐体401と、ろ過材402と、取水管3とを備える一方、上記第1実施形態の浸透取水ユニット100とは異なり、浮体とロープとは備えていない。また、浸透取水ユニット500(筐体401)は、水深が浅い位置に配置されている。具体的には、海面Sと筐体401の上端(Z1側の端部)との距離L2が、約0.1〜2m、好ましくは約0.2m以上約0.3m以下の範囲内になるように、筐体401が配置されている。
【0062】
また、ろ過材402は、海面Sに略沿った水平方向に小さな張力で緩く引っ張った状態で、筐体401の4辺の側壁部1aに固定されている。また、ろ過材402は、表面2aが海面Sに略沿うように、凹部10内に固定されている。これにより、進行波に発生する鉛直方向への山と谷との変化により、下向きの水圧がろ過材402に加えられることによって、ろ過材402には弾性振動が生じる。その際、進行波は不規則波のため、不規則波の振幅と位相に応じた振動モードでろ過材402が弾性振動される。つまり、ろ過材402は、進行波によって、基準モードか、または、いずれかの高次モードで振動するように構成されている。
【0063】
また、ろ過材402の端部は、ろ過材402に生じさせたい振動モードに応じて、固定端または自由端のいずれかになるように、筐体401の4つの側壁部1aに取り付けてもよい。つまり、図13のようにろ過材402の端部が固定端(節)になるようにろ過材402が筐体401に固定されている場合に限られず、ろ過材402の端部が鉛直方向に変位可能な自由端になるようにろ過材402が筐体401に取り付けられてもよい。このように、ろ過材402の端部の取り付け状態に応じて振動モードを調整することによって、ろ過材402を周囲の状況に合わせて振動しやすくすることが可能である。なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0064】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0065】
第3実施形態では、上記のように、進行波に発生する鉛直方向への山と谷との変化により、下向きの水圧がろ過材402に加えられることによって、ろ過材402に弾性振動が生じるように構成する。これにより、ろ過材402を、基準モードか、または、いずれかの高次モードで振動させることができる。また、浸透取水ユニット500では、ロープや浮体を用いる必要がないので、ロープの絡まりや浮体の水平方向への移動などに起因する不具合が浸透取水ユニット500に発生するのを防止することができる。なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0066】
[第3実施形態の変形例]
図14を参照して、本発明の第3実施形態の変形例による浸透取水ユニット600について説明する。この第3実施形態の変形例では、第3実施形態の浸透取水ユニット500とは異なる方法で、ろ過材502を高次モードで振動可能に構成した例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成には、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0067】
(浸透取水ユニットの構成)
本発明の第3実施形態の変形例による浸透取水ユニット600は、図14に示すように、筐体501と、ろ過材502と、取水管3とに加えて、振動板ユニット508とを備えている。振動板ユニット508は、筐体501の4辺の側壁部1aの各々の上端に取り付けられた振動板508aと、各々の振動板508aの上端に固定された振動子508bとを有している。この結果、振動板508aは、振動子508bが固定された上端が鉛直方向と直交する方向に変位(振動)することによって、鉛直方向と直交する方向に片持ち梁のように振動するように構成されている。なお、4つの振動板508aは、直接的には互いに接続されておらず、各々個別の振動で振動可能なように構成されている。
【0068】
振動板508aの下端近傍で、かつ、振動板508aに囲まれる内側(凹部510側)の表面には、ろ過材502が固定されている。このろ過材502は、凹部510内と凹部510外の領域とに区画するように4つの振動板508aに固定されている。この結果、凹部510は、筐体501とろ過材502とによって囲まれた処理水流入空間になる。
【0069】
振動子508bは、波のエネルギーを捉えやすくするために、断面が台形の4角柱状に形成されているとともに、振動板508aの上端の全体に亘って取り付けられている。なお、振動子508bが進行波により振動可能であれば、振動子508bの形状は、断面が台形の4角柱状に限られない。これにより、進行波による鉛直方向と直交する方向への振動子508bの振動が、振動板508aを介してろ過材502に伝達される。これにより、ろ過材502に弾性振動が生じる。その際、各々の振動子508bの振動が組み合わせられることによって、ろ過材502は、基準モードか、または、いずれかの高次モードで振動するように構成されている。なお、第3実施形態の変形例のその他の構成は、上記第1実施形態と同様であり、効果は、上記第3実施形態と同様である。
【0070】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0071】
たとえば、上記第1〜第3実施形態およびそれらの変形例では、本発明の浸透取水ユニットを、海水(原水)から清澄な水(処理水)を得るためのユニットとして用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明の浸透取水ユニットを、汽水や淡水(原水)から清澄な水(処理水)を得るためのユニットとして用いてもよい。つまり、本発明の浸透取水ユニットは、原水の種類や原水の取水位置に拘わらず、原水から異物が除去された処理水を必要とするすべての設備に取水する際に適用可能である。なお、原水に波が生じないような場所(たとえば、取水井など)で本発明の浸透取水ユニットを用いる場合には、波発生装置などを用いて、原水に波を生じさせるのがよい。
【0072】
また、上記第1、第2実施形態およびそれらの変形例では、ろ過材2(102)の表面2a(102a)の略中央C1(C2)にロープ4を接続した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ろ過材の表面の中央以外の位置にロープを接続してもよい。この際、振動モードを考慮して、ろ過材に生じさせたい振動モードの山(谷)の位置にロープを接続するのが好ましい。なお、基準モードで振動させるためには、ろ過材の表面の中央またはその近傍(略中央)にロープを接続するのが好ましい。また、振動モードを考慮して、ろ過材の表面に複数のロープを所定の位置にそれぞれ接続してもよい。
【0073】
また、上記第2、第3実施形態およびそれらの変形例では、略正方形のろ過材2を用いる例を示したが、上記第2および第3実施形態(および変形例)において、上記第1実施形態の変形例の略真円状のろ過材102を用いてもよい。
【0074】
また、上記第1〜第3実施形態、第1および第2実施形態の変形例では、ろ過材を筐体に直接的に取り付けた例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、筐体に取り外し可能な取付ユニットにろ過材を取り付けることによって、取付ユニットを筐体へ取り付けることにより、ろ過材を筐体に間接的に取り付けてもよい。これにより、取付ユニットの筐体からの着脱により、ろ過材を容易に交換することが可能である。
【0075】
また、上記第1、第2実施形態およびそれらの変形例では、浮体5とろ過材2(102)とをロープ4を用いて接続した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、浮体の移動が接続部材を介してろ過材に伝達されればよく、その結果、接続部材はロープでなくてもよい。たとえば、接続部材を撓まない剛体の棒部材から構成してもよい。この際、接続部材が撓まないことにより、ろ過材が谷に変形しやすく、その結果、処理水流入空間における圧力変動が生じやすくなると考えられるため、第2実施形態またはその変形例のような圧力変動を抑制する圧力変動抑制部(水柱管206またはろ過材307)を筐体に設けるのが好ましい。また、上記第1、第2実施形態およびそれらの変形例では、浮体5が基準位置からみてろ過材2へ近づく方向に移動された際にロープ4が撓む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、浮体が基準位置からみてろ過材へ近づく方向に移動された際であってもロープが撓まないような状態(完全緊張係留状態)になるように、ロープをろ過材と浮体とに接続してもよい。
【0076】
また、本発明では、上記第2実施形態の水柱管206と第2実施形態の変形例のろ過材307とを、第1実施形態の変形例、第3実施形態およびその変形例の浸透取水ユニット200(500、600)に適用してもよい。さらに、本発明では、上記第2実施形態の水柱管206と第2実施形態の変形例のろ過材307とを共に備える浸透取水ユニットを設けてもよい。
【0077】
また、上記第1実施形態では、略正方形状のろ過材2を用いる例を示し、上記第1実施形態の変形例では、略真円状のろ過材102を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ろ過材の平面形状については限定されない。たとえば、ろ過材の平面形状は、略長方形状や楕円状、六角形形状などであってもよい。なお、筐体の断面形状は、ろ過材の平面形状に合わせた方が好ましい。
【0078】
また、上記第1〜第3実施形態およびそれらの変形例では、浸透取水ユニットからポンプを用いて取水した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ポンプを用いずに、ろ過材に加えられる水圧だけで取水するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1、101、201、301、401、501 筐体
2、102、402、502 ろ過材(弾性ろ過材)
2a、102a (弾性ろ過材の)表面
4 ロープ(接続部材)
5 浮体
100、200、300、400、500、600 浸透取水ユニット
210c、310c 処理水流入空間
206 水柱管(圧力変動抑制部)
307 ろ過材(圧力変動抑制部)
C1、C2 中央
S 海面(水面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14