【文献】
CHO, Jung Keun et al.,Inhibition and structural reliability of prenylated flavones from the stem bark of Morus lhou on β−secretase(BACE−1),Bioorganic & Medicinal chemistry Letters,2011年,Vol.21, No.10,p.2945−2948
【文献】
SHIMMYO, Yoshiari et al.,Flavonols and flavones as BACE−1 inhibitors: Structure−activity relationship in cell−free, cell−based and in silico studies reveal novel pharmacophore features,Biochemica et Biophysica Acta,2008年,Vol.1780, No.5,p.819−825
【文献】
SERMBOONPAISARN, Thiendanai et al.,Potent and selective butyrylcholinesterase inhibitors from Ficus foveolata,Fitoterapia,2012年,Vol.83, No.4,p.780−784
【文献】
GUO, Ava J.Y. et al.,Galangin, a flavonol derived from Rhizoma Alpiniae Officinarum, inhibits acetylcholinesterase activity in vitro,Chemico−Biological Interactions,2010年,p.246−248
【文献】
添付文書,アリセプト,2009年 7月,第20版,インターネット<URL:http://www.drc.toyaku.ac.jp/packins/pdf/170033/170033_1190012C1020_1_16/170033_1190012C1020_1_16.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記医薬が、認知的に無症状の前アルツハイマー病疾患から前アルツハイマー病認知機能障害への移行を防止するまたは遅延させるためのものである、請求項13に記載の使用。
前記医薬が、全タウ(tTau)、リン酸化タウ(pTau)、人工アミロイド前駆体タンパク(APPneo)、可溶性Αβ40、リン酸化タウ/Αβ42比率および全タウ/Αβ42比率からなる群から選択される1つ以上の成分におけるCSFの値の減少および/またはΑβ42/Αβ40比率、Αβ42/Αβ38比率、sAPPα、sAPPα/sAPPβ比率、sAPPα/Αβ40比率およびsAPPα/Αβ42比率からなる群から選択される1つ以上の成分におけるCSFの値の増加を生じさせる、請求項13〜22のいずれか一項に記載の使用。
前記ASBIが経口投与、イソフォレーシス送達、経皮送達、非経口送達、エアロゾール投与、吸入投与、静脈内投与および直腸投与からなる群から選択される経路によって投与されるために調剤される、請求項13〜24のいずれか一項に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0059】
ある特定の実施形態において、新規機序によりβセクレターゼ媒介のAPP処理を阻害するバイオフラボノイド類似体が特定される。具体的には、これらの分子がMBP−C125APP基質のBACE切断を阻害し、結果としてC99の生成の阻害をもたらすが、β−サイトペプチド基質(P5−P5’)の阻害はもたらさないと考えられている。さらに、ここで特定される様々なバイオフラボノイドおよびその類似体は神経芽腫SHSY5Y細胞におけるsAPPβを阻害する。さらに阻害作用はMBP−C125基質への結合と関連していることが証明されている。したがって、これらの分子はAPP特異性の阻害剤(ASBI)であり、APP処理を調節する新たな機序を供給すると考えられる。これらのASBIは病理学的APP処理によって特徴づけられる病理(例えば、アルツハイマー病、MCIあるいは前症候的MCIのような、前アルツハイマー病疾患等)の治療、および、または、予防に用いることができる。
【0060】
ASBIは少なくとも選択的で、APP基質に特有であるように思われ、ASBIは典型的に酵素の他の基質では活性でないため、望ましくない副作用をあまり示さないと考えられる。γセクレターゼの阻害剤に関しては、NotchのようなAPP以外の基質がγセクレターゼ阻害の潜在的副作用に対する懸念を生み、γセクレターゼ阻害剤の最近の失敗、セマガセスタットはそのような懸念を増強させる。BACEの場合も同様に、例えば、PSGL1またはLRPのような非APP基質の阻害は有害な副作用を生成し得る。したがって、最適なBACE阻害剤は、BACEではなくAPPに結合し、APP特異性のBACE阻害(ASBI)をもたらす物となる。
【0061】
特定の理論に拘束されないが、そのようなASBIはAPPまたはAPP−BACE複合体(「不活性」複合体)と膜にて相互作用し、初期エンドソームにおける「活性」複合体への移行を防ぎ、pH<5でBACEは完全に活性状態であると考えられる(例えば、
図10を参照)。いくつかのβ−サイト結合抗体はBACEによるAPPの切断を遮断し、さらにADの動物モデルにおいても作用することが示されているが、しかしながら、効果的調剤開発のためには、抗体のような比較的大きい生体分子よりも有機小分子のほうが典型的に好まれる。
【0062】
本明細書に記載される第1のASBIの特定に関するデータは、そのようなアプローチが実施可能であるということを示す。APP特異性のBACE阻害剤(ASBI)はアミロイド前駆体タンパク質(APP)のBACE切断を阻害するが、他の基質のタンパク質分解的切断は阻害しない。そのような治療薬はアルツハイマー病(または他のアミロイド生成性疾患)の治療薬の新しい種類を表すと考えられる。
【0063】
初めに、448化合物の臨床ライブラリーがスクリーニングされ、この分析はフラボノイドP5−P5’基質の切断を防がない一方で、特異的にBACEのMBP−C125基質を阻害する単一フラボノイドの特定をもたらした。このバイオフラボノイド、ルチン(例えば、
図1を参照)は栄養剤で、細胞内におけるsAPPβを阻害することもわかっている。バイオフラボノイドのパネルがその後細胞培養においてASBIおよびsAPPβ分析で試験された。この試験は別の栄養剤で、ASBI分析およびAPPのBACE切断の防止における細胞において効果的だった公知のヒト使用を伴う、第2のフラボノイド、ガランギン(例えば、
図1を参照)を特定した。ガランギンもまた、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)の阻害剤であると報告された。簡素なニトロセルロースフィルターリガンド結合分析を用い、MBP−C125基質への様々なバイオフラボノイドの初期結合が実証された。バイオフラボノイドのパネルがASBI分析においてスクリーニングされた。ルチンおよびガランギンは、細胞内におけるsAPPβレベルを調整するのに効果的であると特定され、APP基質への結合を示す(実施例1を参照)。
【0064】
フラボノイドがAPPおよびAPLP2のBACE切断を阻害することができたと実証された。HEK−293分析はこのデータを得るためにAPPまたはAPLP2−Gal4に遺伝子導入された。この分析系はOrcholskiら(2011)J.J.Alzheimers Dis.23(4):689−699に記載される。トランス活性化がMint3およびTazとの遺伝子導入によって達成される。ASBIはAPP−Gal4のトランス活性化のみを阻害し、APLP2−Gal4のトランス活性化は阻害しないことが予期された。これらの実験のために細胞は、Gal4ルシフェラーゼレポータープラスミド(トランス活性化測定のため)、ベータガラクトシターゼプレスミド(同時遺伝子導入の効率性の為に正規化するため)および特定されたテストプラスミドと同時遺伝子導入された。正規化されたルシフェラーゼ作用はAPP−Gal4単独による転写の誘導に対する倍率(
図7A)として、またはAPLP2−Gal4単独の誘導に対する倍率として(
図7B)として表される。10μMのガランギンのこの分析における予備試験は、それがAPP−Gal4およびAPLP2−Gal4を阻害することを示した。
【0065】
NTgマウスを用いた脳摂取分析におけるこれら2つのバイオフラボノイド初期薬物動力学的評価は、ルチンはsc服用の後10mpkでのいかなる脳レベルも有しないということを示したが、ガランギンが相当な脳レベルを示し(1時間で40ng/g)、したがって、遺伝子組換え(Tg)マウスモデルにおける概念実証研究の評価を可能にする。Tgマウスの処置が、5日間にわたって100mpkでのsc経路によって施された。ガランギンが次いでsAPPα、およびAβ40ならびにAβ42に対する効果に関して評価された(例1を参照)。Aβレベルの減少はこの研究において非常に有望であった。ガランギンの脳レベルの更なる増加がガランギンのプロドラッグの使用によって可能であった(
図1を参照)。
【0066】
本明細書に提供される例は、ある特定のバイオフラボノイドがAPPに結合しAPPおよびAPLP2のBACE切断を阻害することを示し、したがって、それらはAPP特異性のBACE阻害剤であるということを示唆する。これらの分子はBACEの直接阻害からの潜在毒性のないアルツハイマー病の治療の新しい種類を表す。ガランギンはADマウスモデルにおいてAβ40およびAβ42を減少させるのに効果的であることも示された。
【0067】
ルチンはマウスモデルにおいて効果的ではなかったが、これは血液脳関門を通過することの困難によるものであると思われる。しかしながら、これは、ルチンおよびその誘導体あるいは類似体が、本明細書に記載される方法における使用に不適当であるということを意味するわけではない。分子の血液脳関門通過および/または血液脳関門迂回の多くの方法が当業者に知られている。
【0068】
典型的に、脳内を標的とする薬品の機序はBBB通過またはBBB背後通過を含む。様々な実施形態において、BBB通過の薬品送達の様式は浸透手段によるBBBの撹乱を伴う;生化学的な、ブラジキニンのような血管刺激物質の使用によって;または高密度焦点式超音波(HIFU)の局部照射によっても(例えば、McDannoldら(2008)Ultrasound in Medicine and Biology,34(5): 834−840を参照)行われる。BBB通過をする他の方法は、グルコースおよびアミノ酸担体のような担体輸送体;受容体媒介トランスサイトーシス;およびp−糖タンパク質のような能動拡散輸送体の遮断を含む、内因性輸送システムの使用を伴ってもよい。BBBの背後を通過する薬品送達の方法は(注射針を用いるような)脳内移植および対流促進配分を含む。ある特定の実施形態において、mマンニトールをBBB通過に用いることができる。ナノ粒子もまたBBBを超える薬品移動を助けることができる(例Silva,(2008). BMC Neuroscience,9:S4、等を参照)。
【0069】
ガランギンおよびルチンにおけるASBI作用の発見を背景に、同様の作用が、本明細書に記載される追加のバイオフラボノイド類似体の多くの中に存在すると思われる。これらの類似体のうちいかなるものの特定のASBI作用も、例えば、上記分析および本明細書に提供される実施例において、記載された分析を用いて容易に確認することができる。
【0070】
膜結合性のプロテアーゼβセクレターゼおよびγセクレターゼによるAPPの一連の切断はAβの形成をもたらす。β−サイトAPP切断酵素−1(BACE1)はβ−アミロイド生成性経路におけるAPPの第1の切断を媒介する主要βセクレターゼ作用として特定された。本明細書に記載されるASBI化合物のAPPにおける特にBACE1作用の遮断する能力を背景に、これらのASBI化合物は、Aβレベルを下げるまたは神経毒Aβ種の形成を防止することができると考えられる(また本明細書に記載されるデータもそれを示す)。したがって、これらの化合物は、疾患の進行を防止するまたは遅延させる、および/またはアミロイド生成性疾患経路の前臨床的兆候の進行を防止するまたは遅延させると考えられる。
【0071】
したがって、これらの薬剤は、前アルツハイマー病認知機能障害の発症を防止するまたは遅延させる、および/または前アルツハイマー病認知機能障害の1つ以上の症状を改善する、および/または、前アルツハイマー病疾患あるいはアルツハイマー病の認知機能障害の進行を防止するまたは遅延させる、および/または非アミロイド生成性経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の処理を促進すると考えられる。ある特定の実施形態において、これらの薬剤はアルツハイマー病の治療(例えば、疾患の重症度を軽減するため、および/または疾患の1つ以上の症状を改善するため、および/または疾患の進行を遅延させるため)に用いることができる。
【0072】
治療および予防方法
様々な実施形態において、治療および/または予防方法が、活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、および、その類似体、誘導体、プロドラッグ、または、その互変異生体または立体異性体、あるいは、当該ASBI、当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、あるいはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)を活用して提供される。典型的に、方法は、1つ以上の活性剤を対象(例えば、その薬剤を必要とするヒト)に対して、求められる治療または予防結果を実現するのに十分な量で投与することを含む。
【0073】
予防
ある特定の実施形態において、活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、プロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI、当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、あるいはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)は様々な予防状況において活用される。したがって、例えば、ある特定の実施形態において、活性剤は、アルツハイマー病認知機能障害の発症を防止するもしくは遅延させる、および/または前アルツハイマー病疾患の1つ以上の症状および/または認知機能障害を改善するおよび/または、前アルツハイマー病疾患および/または認知機能障害からアルツハイマー病への進行を防止するもしくは遅延させるために用いられ得る。
【0074】
したがって、ある特定の実施形態において、本明細書に記載される予防方法は「危険性のある」および/または、初期アルツハイマー病(AD)病理変化の兆候を有すると特定されるが、MCI若しくは認知症の臨床基準には合致しない対象に対して企図される。特定の理論にとらわれず、この疾患の「前臨床的」段階でさえ、AD認知症への進行の危険性のあるAD−病態生理学的過程(略AD−P、例Sperling(2011)Alzheimer’s & Dementia,1−13参照)を示唆するバイオマーカー兆候を有する完全に無症状の個人から、すでにわずかな減退を見せているもののMCIの標準基準(例Albertら(2011)Alzheimer’s and Dementia, 1−10(doi:10.1016/j.jalz.2011.03.008)には満たないバイオマーカー陽性個人への連続した範囲を表すと考えられる。
【0075】
この後者の個人の群は「非標準、非MCI」として分類されるかもしれないが、「前症状的」「前臨床的」「無症状的」または「前顕在的」と指定され得る。様々な実施形態において、この前症状的ADの連続した範囲は(1)1つ以上のアポリタンパク質E(APOE)ε4対立遺伝子を有し、AD−Pバイオマーカー陽性の点においてAD認知症を進行させる危険性の増加を有すると知られているあるいは考えられる個人および(2)前症状的バイオマーカー陽性段階にあり、ほとんど確実に臨床的症状および認知症への進行を顕示するであろう常染色体優性突然変異有する者を包含する。
【0076】
最も広く正当性が認められているAD−Pのバイオマーカーが異常を示し、同様に秩序ある様式で最大値に達成したバイオマーカーモデルが提言されている(例えば、Jackら(2010)Lancet Neurol.,9:119−128)。このバイオマーカーモデルは提案した(前AD/AD)の病態生理学的順序に匹敵し、ADの前臨床的(無症状的)段階の追跡に適切である(例Sperlingら(2011)Alzheimer’s & Dementia,1−13内
図3を参照)。脳アミロイドのバイオマーカーは陽電子放出断層撮影(PET)結像におけるCSF Aβ
42の減少およびアミロイドトレーサー保持の上昇を含むがこれに限られない。上昇したCSFタウはADに特異的ではなく、ニューロン損傷のバイオマーカーであると考えられる。代謝低下の側頭頭頂パターンを伴う減少したPET上のフルオロデキシグルコース18F(FDG)の取り込みはAD関連のシナプス機能障害のバイオマーカーである。側頭葉内側部、傍辺縁系および側頭頭頂皮質を含む特徴的パターンにおける、構造的磁気共鳴映像法(MRI)上の脳萎縮はAD関連の神経変性のバイオマーカーである。他のマーカーは、容積測定MRI、FDG−PET、または血漿バイオマーカーを含むがこれに限られない(例えば、Vemuriら(2009)Neurology,73:294−301;Yaffeら(2011)JAMA 305:261−266)。
【0077】
ある特定の実施形態において、本明細書において企図される予防方法に適する対象は無症状的脳アミロイド症を有するとして特徴付けられる対象を含むがこれに限られない。いくつかの実施形態において、これらの個人は、PETアミロイド結像上の上昇したトレーサー保持および/またはCSF分析における低いAβ42を伴うAβ蓄積のバイオマーカー兆候を有するが、神経変性またはわずかな認知的および/または行動的症状を示唆する付加的な脳変化の検出可能な兆候は有しない。
【0078】
現在利用可能なAβのCSFおよびPET結像バイオマーカーは、主としてアミロイド蓄積および小繊維型アミロイドの沈着の兆候を供給する。データは、可溶性またはオリゴマー型Aβは、タンクの役割を果たす、プラークと平衡状態であり得ると提言している。ある特定の実施形態において、可溶性Aβのみが存在する同定可能な前プラーク段階があることが熟慮される。ある特定の実施形態において、オリゴマー型アミロイドが病理カスケードにおいて臨床的であり、有益なマーカーを供給してもよいということが熟慮される。さらに、早期シナプス変化はアミロイド蓄積の兆候以前に存在し得る。
【0079】
ある特定の実施形態において、本明細書で企図される予防方法に適する対象は、シナプス機能障害および/または送気神経変性の兆候を伴いアミロイド陽性として特徴付けられる対象を含むがこれに限られない。様々な実施形態において、これらの対象はアミロイド陽性の兆候および1つ以上の「下流」AD−P関連のニューロン損傷のマーカーの存在を有する。実例となるしかし制限的ではないニューロン損傷のマーカーは(1)上昇したCSFタウまたはリン酸化タウ(2)FDG−PET上のADのようなパターンにおける代謝低下(すなわち後帯状、楔前部および/または側頭頭頂皮質)および(3)容積測定MRIにおいて、特有の解剖学的分布における皮質の細線化/灰白質損失(すなわち、側面および内側頭頂、後帯状、および外側側頭皮質)、および/または海馬萎縮を含むがこれに限られない。他のマーカーは、既定ネットワーク接続性のfMRI測定を含むがこれに限られない。ある特定の実施形態において、FDG−PETおよびfMRIのような機能的画像法によって査定される初期シナプス機能障害は容積損失の前に検出可能である。特定の理論にとらわれず、早期神経変性の兆候を伴うアミロイド陽性の個人は、軌道をさらに進んでいる(すなわち、前臨床的(無症状的)ADの後期段階)可能性があると考えられる。
【0080】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される予防方法に適する対象は神経変性およびわずかな認知的減退の兆候を有するアミロイド陽性によって特徴づけられる対象を含むが、これに限られない。特定の理論にとらわれず、アミロイド蓄積、初期神経変性のバイオマーカー兆候およびわずかな認知的減退の兆候を有する個人は前臨床的(無症状的)ADの最終段階であり、軽度認知機能障害(MCI)の臨床的基準との境界領域に接近していると考えられる。これらの個人は、個人が標準認知測定の「標準」領域内の能力を見せる場合であっても、(具体的に認知予備力の代理を考慮する場合)個人自身の基準値からの減退の兆候を示す可能性がある。特定の理論にとらわれず、より精度の高い認知測定、具体的にエピソード記憶測定はアミロイド陽性個人における非常にわずかな認知機能障害を検出する可能性があると考えられる。ある特定の実施形態において、基準は記憶減退または他のわずかな神経行動的変化の自己申請を含むがこれに限られない。
【0081】
上記のように、本明細書に記載される予防方法に適した対象/患者は、疾患(例えば、MCIのようにアミロイドプラーク形成によって特徴づけられる疾患)の危険性にあるが症状は示さない個人、ならびにある特定症状またはマーカーを現在示している対象とを含む。MCIおよびその後のアルツハイマー病の危険性は概して加齢とともに増加するということが知られている。したがって、ある特定の実施形態において、他の危険要素の無い無症状の対象において、予防適用は、50歳以上の患者または55歳以上の患者または60歳以上の患者または65歳以上の患者または70歳以上の患者または75歳以上の患者または80歳以上の患者に関するものであり、具体的に軽度認知機能障害(MCI)の最重症度の発症を防止するまたは遅延させるおよび/またはMCIからアルツハイマー(AD)病初期段階への進行を遅延させるまたは防止することを目的とする。
【0082】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される方法は、無症状であろうと疾患の症状を示していようと、既知のアルツハイマー病(または他のアミロイド生成性疾患)の遺伝的危険性を有している個人に特に有益な方法を提言する。そのような個人は、MCIまたはADを経験したことのある血縁者(例えば、親、祖父母、兄弟姉妹)を有し、危険性が遺伝子またはバイオマーカーの分析によって決定づけられた個人を含む。アルツハイマー病の危険性の遺伝子マーカーは、例えば、APP遺伝子における変異、具体的にそれぞれHardy変異Swedish変異を参照し、717位置および670及び671位置における変異(Hardy(1997)Trends.Neurosci.,20:154−159を参照)を含む。他の危険性のマーカーは、プレセニリン遺伝子(PS1およびPS2)における変異、ADの家族歴、家族性アルツハイマー病(FAD)変異、APOEε4対立遺伝子、高コレステロール血症またはアテローム性動脈硬化を有することを含む。アルツハイマー病進行のさらなる感受性遺伝子は例えばSleegersら(2010)Trends Genet.26(2):84−93において考察されている。
【0083】
いくつかの実施形態において、対象は無症状であるがMCIまたはアルツハイマー病進行の家族性および/または遺伝的危険性を有する。無症状の患者において、治療はいかなる年齢(例えば、20,30,40,50歳)においても開始できる。しかしながら、大抵は、患者が最低でも約40,50,60、または70歳になるまで治療は不必要である。
【0084】
いくつかの実施形態において、対象は例えば軽度認知機能障害(MCI)またはアルツハイマー病(AD)の症状を示している。現在アルツハイマー病を罹患している個人は、特徴的な認知症、ならびに上記の危険要素の存在によって認識される。さらに多数の診断検査がADを有する個人を特定するために入手可能である。これらはCSFタウ、リン酸化タウ(pTau)、Aβ42レベルおよびC末端切断APP断片(APPネオ)の測定を含む。増加した全タウ(tTau)、リン酸化タウ(pTau)、APPネオ、可溶性Aβ40、pTau/Aβ42比率およびtTau/Aβ42比率、および減少したAβ42レベル、Aβ42/Aβ40比率、Aβ42/Aβ38比率、sAPPαレベル、sAPPα/sAPPβ比率、sAPPα/Aβ40比率、およびsAPPα/Aβ42比率はADの存在を示す。いくつかの実施形態において、対象または患者はMCIを有すると診断される。尿における神経系タンパク質(NTP)の上昇したレベルおよび/またはα2−マクログロブリン(α2M)の上昇したレベルおよび/または血漿における構成要因H(CFH)もまたMCIおよび/またはADのバイオマーカーである(例Anoopら(2010)Int.J. Alzheimers Dis.2010:606802参照)。
【0085】
ある特定の実施形態において、治療に適した患者は加齢に伴う記憶障害(AAMI)、または軽度認知機能障害(MCI)を有する可能性がある。本明細書に記載される方法は特にMCIの予防および/または治療に適合している。そのような例において、方法はMCIの発症を遅延させるまたは防止する、および/または1つ以上のMCIの特徴的な症状を減少させる、および/またはMCIからアルツハイマー病の早期、中期、後期段階への進行を遅延させるまたは防止する、または疾患の最重症度を低減させることができる。
【0086】
軽度認知機能障害(MCI)
軽度認知機能障害(MCI、初期認知症または孤立性記憶障害としても知られる)は年齢や教育に対して予期されるものを超えるが、典型的に日常活動の妨げにはならない認知機能障害を有する個人に与えられる診断である(例Petersenら(1999)Arch.Neurol.56(3):303−308を参照)。それは多くの例において正常な加齢と認知症の間の境界あるいは移行段階であると考えられている。MCIは様々な症状を示し得るが、記憶喪失が主症状である場合、それは「健忘症MCI」と呼ばれ、度々アルツハイマー病の危険性要素であると見なされる(例Grundmanら(2004) Arch.Neurol.61(1):59−66;およびインターネット上en.wikipedia.org/wiki/Mild_cognitive_impairment−cite_note−Grundman−1を参照)。個人が記憶以外の領域における障害を有する場合、それは非健忘症単一または多数領域MCIであると分類され、これらの個人は他の認知症に(例えば、レビー小体を伴う認知症)転換する可能性がより高いと考えられている。健忘症MCI患者はアルツハイマー病の神経病理学的基準に達しない場合があるが、患者はアルツハイマー病進展の移行段階にある可能性があり、この仮説的移行段階にある患者は新皮質における拡散アミロイドおよび側頭葉内側部における頻繁な神経原線維変化を示す(例Petersenら(2006)Arch.Neurol.63(5):665−72)。
【0087】
MCIの診断は典型的に、臨床観察、神経画像検査、血液検査および神経心理学検査を含む包括的臨床評価を含む。ある特定の実施形態において、MCIの診断基準はAlbertら(2011)Alzheimer’s&Dementia.1−10によって記載されるものを含むがこれに限られない。本明細書に記載されるように、診断基準は(1)高度な結像技術や脳脊髄液分析が利用不可能な医療機関によって用いられ得る主要臨床基準および(2)臨床試験を含む臨床研究状況において用いられ得る研究基準を含む。第2の基準セットは結像及び脳脊髄液測定に基づいたバイオマーカー使用を包含する。ADによる軽度認知機能障害の最後の基準セットは、バイオマーカー発見の存在および本質によって決まる確実な4レベルを有する。
【0088】
ある特定の実施形態において、MCIの臨床評価/診断は(1)患者または情報提供者または臨床医によって報告される認知の変化(すなわち、長期にわたる減退の歴史的又は観察的兆候)を反映する懸念、(2)典型的に記憶を含む1つ以上の認知領域における障害の客観的証拠(すなわち、複数領域における認知機能レベルを確立するための形式または臨床検査)、(3)機能的能力における独立性の保持、(4)認知症ではない、およびある特定の実施形態において(5)AD病態生理学的過程に一致するMCI病因、を含む。可能ならば典型的に認知減退の血管、外傷性、医学的原因は除外される。ある特定の実施形態において、可能ならば認知における長期的な減退の兆候が特定される。適切な場合、診断はAD遺伝的要素と一致する病歴によって強化される。
【0089】
認知領域における障害に関しては、本人の以前のレベルと比較した認知の変化に関する懸念の兆候があるはずである。患者の年齢及び教育的背景に期待されるものより大きい1つ以上の認知領域における低い能力があるはずである。反復検査が可能な場合、能力における減退は時間とともに顕著であるはずである。この変化は記憶、実行機能、注意、言語および空間視覚能力を含む様々な認知領域において起こり得る。エピソード記憶(すなわち、新情報を学習し保持する能力)における障害は、後にAD認知症の診断へと進行するMCI患者においてもっとも一般的に見られる。
【0090】
機能的能力における独立性の保持に関しては、MCIを有する人は買い物をするのに用いる複雑機能的タスクを遂行することに軽度な問題を一般的に有する。彼らはそのような活動を遂行するにあたり過去に比べ、より時間をかけ、より非効率的になり、より多くの間違いをする可能性がある。にもかかわらず、彼らは一般的に最小の支援または援助で日常生活における機能の自身の独立性を維持する。
【0091】
認知症に関しては、認知的変化は十分に軽度であり、社会的または職業的機能における重大な障害の兆候はない。個人が一度しか評価されていない場合、変化は、病歴からおよび/またはその個人に期待される以上に認知能力に障害があるという兆候によって推論される。
【0092】
認知検査は、個人の認知機能障害の程度を客観的に査証するにあたり最良である。MCIを有する個人の認知検査におけるスコアは典型的に、文化的に適切な基準データにおける、個人と同等の年齢及び教育に対する平均を、1から1.5標準偏差で下回る(すなわち、可能な場合障害領域において)。
【0093】
エピソード記憶(すなわち、新情報を学習し保持する能力)は後にAD認知症の診断へと進行するMCI患者において最も一般的に見られる。数年内にAD認知症へと進行する可能性が非常に高いMCI患者を特定するのに有益である、様々なエピソード記憶検査がある。これらの検査は典型的に即時および遅延想起の両者を査定し、遅延後の保持を決定づけることができる。全てではないものの、この点において有益だと証明されている検査の多くは複数試験を有する単語リスト学習テストである。そのような検査は経時的な学習速度、ならびに学習試験の過程で身に付けられた最大量を明らかにする。それらは、個人が実際は即時想起のタスクに注意を払っているということを示すのに有益でもあり、この場合これは即時想起に保持された内容の相対量を査定する基準として用いることができる。そのような検査の例はフリーアンドキュー選択連想検査、Ray聴覚言語学習検査、およびカリフォルニア言語学習検査を含むがこれに限られない。他のエピソード記憶測定は改定ウェクスラー記憶検査(または他の版)の論理的記憶IおよびII項の即時および遅延想起、および改定ウェクスラー記憶検査IおよびIIの視覚再現下位試験のような非言語素材の即時および遅延想起を含むがこれに限られない。
【0094】
他の認知領域がMCIを有する個人において障害を受けるため、記憶に加え領域を検査することが望ましい。これらは実行機能(例えば、集合移動、論理的思考、問題解決、計画立案)、言語(例えば、命名、流暢性、表現的発話、理解)、空間視覚能力、および注意制御(例えば、単純および分割された注意)を含むがこれに限られない。トレイルメーキング検査(実行機能)、ボストン命名検査、文字およびカテゴリー流暢性(言語)、形状模写(空間能力)、およびディジットスパンフォワード検査(注意)を含むがこれに限られない、多くの臨床神経心理学的測定が、これらの認知領域を査定するために使用可能である。
【0095】
上に示したように、遺伝子要素がMCIの診断に含まれ得る。ADの常染色体優性型の存在が既知の場合(すなわちAPP,PS1,PS2における変異)、MCIの進行はAD認知症への前兆である可能性が最も高い。これらの場合の大多数は早期のAD発症に発展し得る(すなわち65歳以上での発症)。
【0096】
さらに、後期のAD認知症発症の発展における遺伝子影響がある。たとえば、アポリタンパク質E(APOE)遺伝子における1つまたは2つのε4対立遺伝子の存在は、広くAD認知症後記発症の危険性を増やすとして認められている遺伝的変異である。証拠は、MCIの臨床的認知的あるいは病院学的基準に達しおよびAPOEε4陽性である個人は、数年内にAD認知症に進行する可能性が遺伝子特徴を有しない個人に比べ高いということを示している。負荷遺伝子がAPOEよりは小さいが重要な役割を果たし、AD認知症への進行の危険性における変化をもたらすと考えられている(例Bertramら(2010)Neuron,21:270−281を参照)。
【0097】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される予防方法に適する対象は上記の主要な臨床基準の1つ以上を有すると特定された対象、および/または例えば下記のような1つ以上のMCIに対する「研究基準」を有すると特定された対象を含むがこれに限られる必要はない。
【0098】
MCIの特定/予後判定の「研究基準」は、MCI症候群がADの病態生理学的過程によるものであるという可能性を増加させるバイオマーカーを含むが、これに限られない。特定の理論にとらわれず、臨床基準およびバイオマーカーの共同適用は、MCI症候群がAD病態生理学的過程によるものであるということの様々な確実性をもたらすと考えられている。ある特定の実施形態において、最も研究され、臨床転帰に適用されている2つのカテゴリーのバイオマーカーが熟慮されている。これらは「Aβ」(CSFAβ
42、および/またはPETアミロイド結像を含む)および「ニューロン損傷のバイオマーカー」(MRI上でのCSFタウ/p−タウ、海馬、または側頭葉内側部萎縮、およびPETまたはSPECTで上での側頭頭頂/楔前部代謝低下または低循環を含むがこれに限られない。)
【0099】
特定の理論にとらわれず、Aβおよびニューロン損傷(タウ/p−タウの増加またはAD特有の地形模様におけるバイオマーカー結像)の兆候は共にAD病態生理学的過程が存在することの最も高い可能性をもたらす。逆に、これらのバイオマーカーが陰性である場合、これは別の診断の可能性に関する情報を供給し得る。バイオマーカーに関する発見は相反する可能性があり、したがっていかなるバイオマーカーの組み合わせも鑑別診断状況における使用において指示的(指示尺度)でありそれ自身は決定的ではない。異常の異なる重症度は様々な可能性または予後をもたらす可能性があり、それらは広範囲の適用には正確に量で表すのが困難であることを認める。
【0100】
臨床的および認知的MCI症候群が病因学としてのADに一致する潜在MCI患者にとって、バイオマーカー分析の追加は診断におけるあるレベル確実性をもたらす。エピソード記憶障害および推定変性病因の兆候を含む、MCIの臨床的および認知的症候群が確立された最も典型的な例において、最も可能性の高い要因はADの神経変性過程である。しかしながら、最終的な結果はなお可変の程度の確実性を有する。AD認知症への進行の可能性は認知減退の重症度およびAD病態生理が根底の原因であると示唆する証拠の性質によって異なる。特定の理論にとらわれず、ニューロン損傷を反映する陽性バイオマーカーは認知症への進行が数年以内に起こる可能性を増加させ、Aβ蓄積およびニューロン損傷を反映する陽性発見は共にその診断がADによるMCIであるという最も高い可能性をもたらすと考えられている。
【0101】
陽性Aβバイオマーカーおよびニューロン損傷の陽性バイオマーカーは、MCI症候群はAD過程によるものであるという指摘を供給し、対象は本明細書に記載される方法に適切である。
【0102】
ニューロン損傷バイオマーカーが検査されていないまたは検査されることができない状況における陽性AβバイオマーカーまたはAβバイオマーカーが検査されていないまたは検査されることができない状況におけるニューロン損傷の陽性バイオマーカーはMCI症候群がADによるものであるという中級の可能性を示す。そのような対象は本明細書に記載される方法に適すると思われる。
【0103】
Aβ及びニューロン損傷双方に対す陰性バイオマーカーは、MCI症候群がADによるものではないということを示す。そのような例において患者は本明細書に記載される方法に適さない可能性がある。
【0104】
磁気共鳴映像法が軽度認知機能障害から後期アルツハイマー病への脳における灰白質の進行性消失を含む劣化を観察することができるという証拠がある(例えば、Whitwellら(2008)Neurology 70(7):512−520)。PiB PET結像として知られる技術は、それらの沈着と選択的に結合するC11トレーサーを用いて生きている対象におけるベータアミロイド沈着の領域および形を明確に示す(例Jackら(2008)Brain 131(Pt3):665−680)。
【0105】
ある特定の実施形態において、MCIは典型的に1)記憶障害の兆候、2)一般的認知的および機能的能力の保存の観察、3)診断された認知症の不在がある場合に診断される。
【0106】
ある特定の実施形態において、MCIおよびアルツハイマー病の段階は部分的に臨床的認知症評価(CDR)のスコアによって特定、分類され得る。CDRはアルツハイマー病および関連する認知症に適応できる認知的および機能的能力の6領域、すなわち記憶、見当識、判断力および問題解決、社会適応、家庭および趣味、および身の回りの世話を特徴付けるために用いられる5点尺度である。各評価に必要な情報は患者および信頼できる情報提供者または副次的情報源(例えば、家族)の半構造化面接を通して獲得される。
【0107】
CDR表は、面接データおとび臨床判断に基づき適切な評価をする臨床医を導く説明的いかりを提供する。各領域に対する評価に加え、CDRスコアの全体がアルゴリズムの使用を通して算出される。このスコアは患者の障害/認知症のレベルを特徴付けるおよび追跡するのに有益である:0=通常、0.5=非常に軽度な認知症、1=軽度認知症、2=中度認知症および、3=重度認知症。実例となるCDR表を表1に示す。
【0109】
約0.5または約0.5から1.0のCDR評価は大抵臨床的に関連のあるMCIと見なされる。高いCDR評価はアルツハイマー病への進行を示唆するものであり得る。
【0110】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される1つ以上の薬剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または、当該ASBI、当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、プロドラッグ)の投与は、タウ、リン酸化タウ(pTau)、APPネオ、可溶性Aβ40、可溶性Aβ42および/またはAβ42/Aβ40比率からなる群から選択される1つ以上の構成要素のレベルのCSFにおける減少がある場合、および/または、対象の脳におけるプラーク負荷の減少がある場合、および/または、対象の脳におけるプラーク形成の速度の減少がある場合、および/または、対象の認知能力における改善がある場合、および/または、対象による生活の質の認識された向上がある場合、および/または、臨床的認知症評価(CDR)における大きな減少がある場合、および/または、臨床的認知症評価の増加のペースが遅延したあるいは停止した場合、および/または、MCIからAD早期段階への進行が遅延したあるいは停止した場合において、効果的であると見なされる。
【0111】
いくつかの実施形態において、MCIの診断はいくつかの臨床検査の結果を考慮して決定付けられ得る。例えば、Grundmanら、Arch Neurol(2004)61:59−66は、客観的記憶障害を特定するための簡単な記憶試験(段落の想起)、記憶以上のより広い認知障害を除外するための全般認知の測定(以下詳細に記載のミニ認知状態試験(MMSE))、および患者の記憶病訴および記憶障害を確認して患者が認知症を患わないことを保証するための、患者と介護者との構造臨床面談を使用しMCIの診断を臨床的効率に確定可能である。MCIの患者は、平均して、この一連の試験に含む非記憶認知測定で、標準より下1標準偏差(SD)未満の結果となる。学習、注意、カテゴリー流暢性、認知速度および実行機能の検査はMCIを有する患者において損なわれる可能性があるが、これらは記憶障害に比べ圧倒的に顕著ではない。
【0112】
アルツハイマー病(AD)
ある特定の実施形態において、活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異性体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、または、その類似体、誘導体、プロドラッグ)、および/または、それらの製剤がアルツハイマー病の治療のために企図される。そのような例において、本明細書に記載される方法は、アルツハイマー病(AD)の発症を防止するまたは遅延させる、対象が臨床AD診断へ移行した場合ADの重症度を減少させる、および/または、アルツハイマー病の1つ以上の症状を軽減するのに有益である。
【0113】
具体的に、アルツハイマー病が早期段階の場合、方法は1つ以上のAD特有の症状を減少させるまたは除去する、および/または、MCIからアルツハイマー病初期又は後期段階への進行を遅延させるまたは防止することができる。
【0114】
現在アルツハイマー病を患っている個人は、特徴的認知症、ならびに上記危険性要素の存在から認識され得る。さらに、多くの診断検査がADを有する個人を特定するために使用可能である。現在アルツハイマー病を患っている個人は、特徴的認知症、上記危険性要素の存在から認識され得る。さらに、多くの診断検査がADを有する個人を特定するために使用可能である。これらはCSFタウ、リン酸化タウ(pTau)sAPPα、sAPPβ、Aβ40、Aβ42レベル、および/または、C末端切断APP断片(APPネオ)の測定を含む。増加したタウ、pTau、sAPPβ、および/または、APPネオ、および/または、減少したsAPPα、可溶性Aβ40および/または可溶性Aβ42レベルは、特に鑑別診断状況において、ADの存在を示す。
【0115】
ある特定の実施形態において、治療に適する対象はアルツハイマー病を有する可能性がある。アルツハイマー病を患っている個人はアルツハイマー病および関連障害協会(Alzheimer’s disease and Related Disorders Association)(ADRDA)基準によっても診断され得る。NINCDS−ADRDAアルツハイマー病基準は1984年に神経および伝達障害および脳卒中国立機関(the National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)、および、アルツハイマー病および関連障害協会(Alzheimer’s disease and Related Disorders Association)(現在はアルツハイマー協会として知られる)によって提言され、アルツハイマー病(AD)の診断に最も用いられるものの1つである。McKhann、ら(1984)Neurology 34(7): 939−44。この基準によると、認知機能障害および疑わしい認知症の存在は、有危険性または推定ADの臨床診断のための神経心理学的検査によって確認されるべきである。しかしながら、組織病理学的確認(脳組織の顕微鏡検査)が概して決定的診断に用いられる。NINCDS−ADRDAアルツハイマー病基準はADにおいて損なわれ得る8認知領域、すなわち記憶、言語、知覚能力、注意、構成能力、見当識、問題解決および機能的能力を特定する。これらの基準はよい信頼性および妥当性を示す。
【0116】
患者機能の基本的評価は、ミニメンタルステート検査のような古典的な精神測定法(Folsteinら(1975)J.Psychiatric Research 12 (3):189−198)および、アルツハイマー病を有する患者の状態と機能を評価する包括的尺度であるアルツハイマー病評価尺度(ADAS)を用いて表すことができる(例Rosenら(1984)Am.J.Psychiatr.,141:1356−1364を参照)。これらの精神測定尺度はアルツハイマー病の状態の進行の測定基準を供給する。適性質的人生尺度(Suitable qualitative life scales)は治療を観察するためにも用いられ得る。疾患進行の程度はミニメンタルステート検査(MMSE)を用いて決定付けられ得る(例えば、Folsteinらsupraを参照)。25点(30点中)以上のいかなるスコアも事実上標準(正常)である。これより低い場合、スコアは重度(≦9点)、中度(10〜20点)または軽度(21〜24点)のアルツハイマー病を示す。
【0117】
アルツハイマー病は表2に示されるように、1)中度認知低下(中期または早期アルツハイマー病)、2)中程度に重い認知低下(中度または中期アルツハイマー病)、3)重度認知低下(中度重度または中期アルツハイマー病)および4)極めて重度の認知低下(重度または後期アルツハイマー病)を含む様々な段階に分類される。
【0119】
様々な実施形態において、アルツハイマー病と診断された対象への、本明細書に記載される1つ以上の薬剤の投与は、タウ、リン酸化タウ(pTau)、APPネオ、可溶性Aβ40、可溶性Aβ42、および/またはAβ42/Aβ40比率からなる群から選択される1つ以上の構成要素のレベルのCSFにおける低下がある場合、および/または、対象の脳におけるプラーク負荷の減少がある場合、および/または、対象の脳におけるプラーク形成の速度の減少がある場合、および/または、対象の認知能力における改善がある場合、および/または、対象によって認知される生活の質改善がある場合、および/または、対象の臨床的認知症等級(CDR)における相当な低下がある場合、および/または、臨床的認知症等級における増加のペースが遅延または停止した場合、および/または、ADの進行が遅延または停止した場合(例えば、表3に示した1つの段階から別の段階への進行が遅延または停止した場合)に効果的であると見なされる。
【0120】
ある特定の実施形態において、本方法が適している対象は概してアルツハイマー病以外の精神疾患または障害を有しない。例えば、ある特定の実施形態において、対象はパーキンソン病および/または統合失調症および/または視診病のような神経疾患または障害を有しないおよび危険性を有しない。
【0121】
活性剤
本明細書に記載される方法は、例えばガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグのような1つ以上の活性剤の投与が、例えば軽度認知機能障害、アルツハイマー病、黄斑変性症等のような脳におけるアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患の治療および/または予防に用途を見い出すという発見に部分的に基づいている。
【0122】
バイオフラボノイド
ある特定の実施形態において本明細書に記載される方法において用いられる活性剤はガランギンまたはルチンのようなフラボノイド、および/またはその誘導体および/または類似体を含む。ある特定の実施形態において、フラボノイドは式:
【0124】
で表される、フラボノイドであり、
式中、R
1はOH、O−サッカリド、O−アルキル、O−トリフルオロメチル、O−アリール、O−ヘテロアリールからなる群から選択され、
R
4およびR
5はH、OH、NH
2、O−アルキル、O−トリフルオロメチル、S−アルキル、S−アリール、カルボン酸塩、ハロゲン、NH−アルキル、N,N−ジアルキル、NHCO−アルキル、およびヘテロアリール、アルキル尿素、およびカルバミン酸塩からなる群から独立的に選択され、
R
2およびR
3はH、OH、NH
2、O−アルキル、O−トリフルオロメチル、S−アルキル、S−アリール、カルボン酸塩、ハロゲン、NH−アルキル、N,N−ジアルキル、NHCO−アルキル、ヘテロアリール、アルキル尿素、およびカルバミン酸塩からなる群から独立的に選択される。
【0125】
ある特定の実施形態において、R
2および/またはR
3はOHである。ある特定の実施形態において、R
2はOHでありRは
3OHである。ある特定の実施形態において、R
2および/またはR
3はO−アルキル、S−アルキル、NH−アルキルおよびNHCO−アルキルからなる群から独立的に選択される。ある特定の実施形態においてO−アルキル、S−アルキル、NH−アルキルおよびNHCO−アルキルのアルキル構成要素は、C
1−12アルキルまたはC
1−9アルキルまたはC
1−6アルキルまたはC
1−3アルキルである。ある特定の実施形態において、R
2および/またはR
3はハロゲンである。ある特定の実施形態においてR
2はハロゲンでありR
3はハロゲンである。ある特定の実施形態において、R
2および/またはR
3はCl、Br、FlおよびIからなる群から独立的に選択される。ある特定の実施形態において、R
2および/またはR
3はS−アリールおよびヘテロアリールからなる群から独立的に選択される。ある特定の実施形態において、R
2およびR
3は独立的に選択されるS−アリールである。ある特定の実施形態において、R
2およびR
3は独立的に選択されるヘテロアリールである。ある特定の実施形態において、R
4および/またはR
5はOHである。ある特定の実施形態においてR
4はHでありR
5はOHである、またはR
4はOHでありR
5はHである。ある特定の実施形態において、R
4はOHでありR
5はOHである。ある特定の実施形態において、R
4および/またはR
5はHである。ある特定の実施形態においてR
4はHでありR
5はHである。ある特定の実施形態において、R
4および/またはR
5がOHである場合、R
1はO−サッカリドである。ある特定の実施形態において、R
4および/またはR
5はO−アルキル、S−アルキル、NH−アルキルおよびNHCO−アルキルからなる群から独立的に選択される。ある特定の実施形態において、R
4およびR
5はO−アルキル、S−アルキル、NH−アルキルおよびNHCO−アルキルからなる群から独立的に選択される。ある特定の実施形態において、当該O−アルキル、S−アルキル、NH−アルキルおよびNHCO−アルキルのアルキル構成要素はC
1−12アルキル、またはC
1−9アルキル、またはC
1−6アルキル、またはC
1−3アルキルである。ある特定の実施形態において、R
4およ
び/またはR
5はハロゲンである。ある特定の実施形態において、R
4はハロゲンでありR
5はハロゲンである。ある特定の実施形態において、R
4および/またはR
5はCl、Br、Fl、およびIからなる群から独立的に選択される。ある特定の実施形態において、R
4および/またはR
5はS−アリールおよびheterからなる群から選択される。ある特定の実施形態において、R
4およびR
5は独立的に選択されるヘテロアリールである。ある特定の実施形態において、R
1はO−サッカリドである(例えば、O−単糖、O−二糖、O−三糖等)。ある特定の実施形態において、R
1はO−アルキル、O−トリフルオロメチル、O−アリールまたはO−ヘテロアリールである。
【0126】
ある特定の実施形態において、APP特異性のBACE阻害剤はガランギンまたはその誘導体である。ある特定の実施形態において、APP特異性のBACE阻害剤はルチンまたはその誘導体である。
【0127】
本明細書で企図される、ガランギンおよび/またはルチンその様々な誘導体の製造方法は当業者に公知である。ガランギンおよびルチンの両者はある誘導体と同様に市販されている。
【0128】
これらの化合物は、当業者に公知の方法を用い、本明細書に記載される様々な誘導体および類似体を調製するためにさらに官能化され得る。例えば実施例2に記載した手順は、様々な市販のジヒドロキシ−2−フェニル−4H−クロメン−オンを用い、類似体の合成において用いられる。アセトキシ基への変換は実施例2に記載されるように成される。ジメチルジオキシランでの処理が3−ヒドロキシフラボンへ変換するために用いられる。さらなる弱塩基による加水分解がアセトキシ保護基を除去するために成され、フラボン誘導体の粗混合物は、求められるフラボン類似体を獲得するため、フラッシュ・クロマトグラフィーおよび再結晶によって精製される。
【0129】
フラボノイドプロドラッグ
ある特定の実施形態において本明細書に記載される様々なフラボノイドはフラボノイドプロドラッグとして提供され得ることが企図される。実例となるガランギンプロドラッグを
図2に示す。
【0130】
ある特定の実施形態において、プロドラッグは、式II:
【0132】
で表されるガランギンプロドラッグであり、
式中、R
1、R
2およびR
3はHである、または哺乳類の体内において除去された保護基であり、そこにおいてR
1、R
2およびR
3の1つ以上がHではなく、そこにおいて当該プロドラッグは哺乳類に投与された場合、APPのBACE処理を部分的または完全に阻害する)。
【0133】
ある特定の実施形態においてR
1、R
2およびR
3のうちの少なくとも1つが、R
1、R
2およびR
3のうちの少なくとも1つが次からなる群から独立的に選択されるからなる群から独立的に選択される。
【0135】
ある特定の実施形態において、R
1はHである。ある特定の実施形態において、R
2は上記a基であり、R
3は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態においてR
3は上記a基であり、R
2は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態においてR
2およびR
3は両方とも上記a基である。
【0136】
ある特定の実施形態において、R
1はHである。ある特定の実施形態において、R
2は上記b基であり、R
3は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
3は上記b基であり、R
2は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
2およびR
3は両方とも上記b基である。
【0137】
ある特定の実施形態において、R
1はHである。ある特定の実施形態において、R
2は上記c基であり、R
3は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
3は上記c基であり、R
2は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
2およびR
3は両方とも上記c基である。
【0138】
ある特定の実施形態において、R
1はHである。ある特定の実施形態において、R
2はd基であり、R
3は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態においてR
3は上記d基であり、R
2は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
2およびR
3は両方とも上記d基である。
【0139】
ある特定の実施形態において、R
1はHである。ある特定の実施形態において、R
2は上記e基であり、R
3は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
3はe基であり、R
2は上記a,b,c,d,またはe基である。ある特定の実施形態において、R
2およびR
3は両方とも上記e基である。
【0140】
本明細書に記載されるようなガランギンプロドラックの調製方法は当業者に公知である。
【0141】
そのような手順の1つを実施例2に記載する。(化合物2の合成には
図11の合成図を参照)
【0142】
様々な活性剤および合成図は実例を意図するものであり制限的ではない。本明細書で提供される教示を用い、多数の他のフラボノイド、フラボノイド誘導体およびフラボノイドプロドラッグASBI化合物を当業者によって合成することができる。
【0143】
製剤処方
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される1つ以上の活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI、当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)は、それを必要とする哺乳類、例えばアミロイド前駆体タンパク質の異常な処理によって特徴づけられる疾患の危険性を有するまたは罹患している哺乳類、MCIからアルツハイマー病への進行の危険性を有する哺乳類等に投与される。ある特定の実施形態において、活性剤は、前アルツハイマー病疾患および/または認知機能障害の発症を防止するまたは遅延させるため、および/または、前アルツハイマー病認知機能障害の1つ以上の症状を改善するため、および/または、前アルツハイマー病疾患または認知機能障害からアルツハイマー病への進行を防止するまたは遅延させるため、および/または、非アミロイド生成性経路によってアミロイド前駆体タンパク質(APP)の処理を促進するために投与される。
【0144】
活性剤は生来の形態、または所望であれば、塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは誘導体が薬理学上適切すなわち現在の方法において効果的であるという条件の下、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、誘導体、等の形態で投与され得る。塩、エステル、アミド、プロドラッグまたは活性剤の他の誘導体は、有機合成化学の当業者に公知の標準手順、例えばMarch(1992)Advanced Organic Chemistry; Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.N.Y.Wiley−Interscience記載の標準手順、および上記標準手順を用いて調製され得る。
【0145】
例えば、薬学的に許容可能な塩は、塩を形成することができる官能基を有する本明細書に記載される薬剤に対して調製され得る。薬学的に許容可能な塩は、親化合物の作用を保持し、それが投与された対象およびそれが投与された状況に有害または逆効果をもたらさないあらゆる塩である。
【0146】
様々な実施形態において、薬学的に許容可能な塩は有機または無機塩基から得ることができる。塩は一価または多価イオンであってもよい。特に対象となるのは、無機イオンである、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムである。有機塩はアミン、具体的にはモノアルキル、ジアルキル、またはトリアルキルアルキルアミン、またはエタノールアミンのようなアンモニウム塩で生成されてもよい。塩はカフェイン、トロメタミンおよび類似分子で形成されてもよい。
【0147】
塩、エステル、アミド、プロドラッグ等として薬学的活性剤を製剤する方法は当業者に公知である。例えば塩は、適切な酸との反応を典型的に含む従来の方法を用いて遊離塩基から調製され得る。概して、薬品の塩基形がメタノールやエタノールのような極性有機溶媒において溶解され、そこに酸が添加される。結果として生じる塩は沈殿するか、またはより極性の低い溶媒を加えることで溶液から取り出される。酸付加塩を調製するために適切な酸は、有機塩酸、例えば、酢酸、プロビオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等、および、無機塩酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等を含むがこれに限られない。酸付加塩は適切な塩基での処理によって遊離塩基に再変換することができる。本明細書に記載される活性剤の、ある特定の、特に望ましい酸付加塩は、塩化水素酸または臭化水素酸を用いて調製されるようなハロゲン化物塩を含む。反対に、本発明の活性剤の塩基性塩の調製は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン等のような薬学的に許容可能な塩基を用いた同様の方法で調製される。特に望ましい塩基性塩はアルカリ金属塩、例えば、ナトリウム塩、および銅塩を含む。
【0148】
塩基性薬品の塩形態の調製には、対イオンのpKaは薬品のpKaより最低で約2pH単位低いことが好ましい。同様に酸性薬品の塩形態の調製には、対イオンのpKaは、薬品のpKaより最低で約2pH単位高いことが好ましい。これは対イオンが溶液のpHを、塩プラトーに至るためにpH
maxよりも低いレベルにすることを可能にし、ここでは塩の可溶性が遊離酸または遊離塩基の可溶性より優勢となる。医薬品有効成分(API)におけるイオン化基のpKa単位、および、酸または塩基における相違の一般化された規則はプロトン移動をエネルギー的に起こりやすくすることを意図するものである。APIのpKaと対イオンが大きく異ならない場合、水性の環境で固体複合物は形成するがすぐに不均化を起こし得る(すなわち薬品および対イオンのそれぞれに分解する。)
【0149】
好適には、対イオンは薬学的に許容可能な対イオンである。適切な陰イオン塩形態は、酢酸、安息香酸、ベンジレート、酒石酸、臭化物、炭酸、塩化物、クエン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、フマル酸、グルセプチン酸、グルコン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マンデル酸、メシラート、臭化メチル、粘液酸、ナプシル酸、硝酸塩、パモ酸(エンボネート)、リン酸塩および二リン酸塩、サリチル酸塩および二サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸エステル塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシレート、トリエチオダイド、吉草酸塩等を含むがこれに限られず、一方で、適切な陽イオン形態は、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン、亜鉛等を含むが、これに限られない。
【0150】
エステルの調製は典型的に活性剤の分子構造内に存在するヒドロキシル基および/またはカルボキシル基の官能基化を含む。ある特定の実施形態において、エステルは典型的にアシル置換された遊離アルコール基の誘導体、すなわちRがアルキルで、好適には低アルキルの、式RCOOHのカルボン酸から誘導された部分である。エステルは、消耗であれば、従来の水素化分解または加水分解手順によって遊離塩基に再変換され得る。
【0151】
アミドもまた当業者に公知または関連文献に記載の技術を用いて調製できる。例えば、アミドは、適切なアミン反応物質を用いエステルから調製され得、またはアンモニアまたは低アルキルアミンとの反応により無水物または酸塩化物から調製され得る。
【0152】
様々な実施形態において、本明細書に特定される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)は、1つ以上の本明細書に記載される病理/適応の予防的および/または治療的療法(例えば、過剰アミロイドプラーク形成および/または沈着または不要アミロイドまたは前アミロイド処理によって特徴づけられる病理)のために、非経口投与、局所投与、経口投与、経鼻投与(または別の方法による吸引)、直腸投与、またはエアロゾールまたは経皮による局所投与に有益である。
【0153】
本明細書に記載される活性剤は薬学的に許容可能な担体(添加剤)と結合することができ、薬理組成物を形成する。薬学的に許容可能な担体は1つ以上の生理的に許容可能な化合物を含むことができ、それは例えば組成物を安定させるまたは活性剤の吸収を増加または減少させる働きをする。生理的に許容可能な化合物は、例えば、グルコース、スクロースのような炭水化物、またはデキストラン、アスコルビン酸、グルタチオンのような抗酸化物質、キレート剤、低分子量タンパク質、脂質のような保護及び摂取促進剤、活性剤のクリアランスまたは加水分解を減少させる組成物、または添加剤又は他の安定剤および/または緩衝剤を含むことができる。
【0154】
他の生理的に許容可能な化合物で、具体的に錠剤、カプセル、ジェルカプセル等の調製に有益なものは、結合剤、希釈剤/増量剤、崩壊剤、滑沢剤、懸濁化剤等を含むがこれに限られない。
【0155】
ある特定の実施形態において、経口投薬形態(例えば、錠剤)を製造するためには、例えば、賦形剤(例えば、ラクトース、スクロース、デンプン、マンニトール等)、任意の崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポヒドン等)、結合剤(例えば、αデンプン、アラビアゴム、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリン等)、および任意の滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000等)が活性成分(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)に加えられ、結果として得られる組成物が圧縮される。必要な場合、圧縮された生成物は、味を消すため、または腸溶性または持続放出性のために、公知の方法を用いて被覆される。適切な被覆物質はエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、POLYOX(登録商標)、エチレングリコール、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびEudragit(RohmおよびHaas、ドイツ、メタクリル酸アクリル共重合体)を含むがこれに限られない。
【0156】
他の生理的に許容可能な化合物は湿潤剤、乳化剤、分散剤または防腐剤を含み、防腐剤は、微生物の成長および活動を防止することに特に有益である。様々な防腐剤が公知であり、例えばフェノールおよびアスコルビン酸を含む。当業者は、生理的に許容可能な化合物を含む薬学的に許容可能な担体の選択は、例えば活性剤の投与経路および活性剤の具体的な生理化学的特徴に左右されるということをよく理解するだろう。
【0157】
ある特定の実施形態において、添加剤は無菌であり、概して望ましくない物質を含まない。これらの組成物は従来の公知の滅菌技術で滅菌され得る。錠剤およびカプセルのような様々な経口投薬形態添加剤には無菌状態は要求されない。USP/NF基準が通常十分である。
【0158】
調剤組成物は投与方法に応じて、様々な単位投与形態で投与され得る。適切な単位投薬形態は、粉末、錠剤、丸剤、カプセル、トローチ剤、坐薬、パッチ、スプレー式点鼻薬、注射剤、埋め込み型持続放出製剤、粘着性フィルム剤、局所ニス、脂質複合体等を含むがこれに限られない。
【0159】
本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)からなる調剤組成物は従来の混合、分解、粒状化、糖衣錠生成、粉末化、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥処理の手段によって製造され得る。調剤組成物は1つ以上の生理的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤または助剤を用いて、従来の方法で製剤され得、薬学的活性剤から薬学的に使用可能な調製への処理を容易にする。適切な製剤は選択された投与経路に依存する。
【0160】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤は経口投与のために製剤される。経口投与には、適切な製剤が、活性剤と経口投与に適切で当業者に公知の薬学的に許容可能な担体を混合することによって、容易に製剤され得る。そのような担体は本明細書に記載される活性剤の、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプレット、リゼンジ、ジェルカプセル、カプセル、液剤、ジェル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液等としての治療を受ける対象への経口投与を可能にする。経口固体製剤、例えば粉末、カプセルおよび錠剤に適切な添加剤は、糖(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトールおよびソルビトール)セルロース調製(例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、合成高分子(例えば、ポリビニルピロリドン(PVP))のような増量剤、造粒剤、および結合剤を含み得る。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムのようなその塩、のような崩壊剤も加えられ得る。所望であれば固体投薬形態は、標準技術を用い、糖衣または腸溶性コーティングであり得る。腸溶性コーティング粒子の調製は例えば米国特許第4,786,505号および4,853,230号において開示される。
【0161】
吸入による投与には、活性剤が、加圧パックまたは噴霧器からエアロゾールスプレー形式で便利に送達され、高圧ガス、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスを用いる。加圧エアロゾールの場合、投与単位は計量された量を送達する弁を供給することによって決定づけられる。例えば吸入具または吸入器において用いられるゼラチンのような、カプセルおよびカートリッジは、化合物の粉末混合およびラクトースまたはデンプンのような適切な粉末基剤を含み製剤され得る。
【0162】
様々な実施形態において、活性剤は坐薬または停留浣腸のような直腸または膣内組成物に製剤され得、ココアバターまたは他のグリセリドのような従来の坐薬の基剤を含む。直腸または膣内送達の活性剤製剤方法は当業者に公知であり、(例えば、Allen(2007) Suppositories,Pharmaceutical Pressを参照)活性剤と適切な基剤の組み合わせを典型的に含む(例えば、親水性(PEG)、ココアバターまたはウィテップゾールW45のような脂溶性物質)、Suppocire APおよびポリグリコライズドグリセリド等のような両親媒性物質)。基剤は所望の融解/送達プロファイルに基づき選択及び調合される。
【0163】
局所投与には、本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)は液剤、ジェル剤、軟膏、クリーム剤、懸濁剤等として製剤され得、当業者に公知の通りである。
【0164】
ある特定の実施形態において本明細書に記載される活性剤は、当業者に公知の標準方法に従って、全身投与(例えば、注入物質として)のために製剤される。全身投与は、例えば、皮下、静脈、筋内、くも膜下または腹腔内注射のような注射による投与のために意図されたもの、および経皮、経粘膜経口または肺内投与のために意図されたものを含むがこれに限られない。注射のために、本明細書に記載される活性剤は、水溶液、好適にはハンクス液、リンガー液のように生理的に相溶性のある緩衝剤、または生理食塩水緩衝剤および/またはある乳剤において製剤され得る。水溶液は、懸濁剤、安定剤および/または分散剤のようの製剤薬剤を含みうる。ある特定の実施形態において、活性剤は、適切なビヒクル、例えば滅菌発熱性物質除去蒸留水と使用前に構成される、粉末形態で提供され得る。経粘膜投与および/または血液脳関門通過のためには、関門を浸透するのに適切な浸透剤が製剤において用いられ得る。そのような浸透剤は概して当業者に公知である。注入可能製剤および吸入可能性剤は概して無菌または実質的に無菌製剤として提供される。
【0165】
前で記載された製剤に加え、活性剤はデポ製剤としても製剤され得る。そのような長期作用型製剤は埋め込み(例えば皮下または筋内)によってまたは筋内注射によって投与され得る。したがって、例えば、活性剤は適切な高分子または疎水性物質(例えば許容可能な油における乳剤として)またはイオン交換樹脂と製剤され得、または難溶性誘導体として、例えば難溶性塩として、製剤され得る。
【0166】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤はまた、従来の経皮薬品送達系すなわち「パッチ」を用い、皮膚を通して送達され得、ここで活性剤は典型的に、皮膚に添付する薬品送達装置としての役割を果たす積層構造の中に含有される。そのような構造において、薬品組成物は典型的に上部の下地層の下にある層または「貯留層」に含まれる。この文脈における「貯留層」という用語は、皮膚表面への送達に最終的に利用できる「活性成分」の量を指すということが理解されるだろう。したがって、例えば、「貯留層」は、パッチの下地層上の粘着剤における、または当業者に公知の様々な異なるマトリックス製剤のいかなるものにおける活性成分をも含みうる。パッチは単一の貯留層または複数の貯留層を含み得る。
【0167】
1つの例示的実施形態において、貯留層は薬学的に許容可能な接触粘着物質の高分子マトリックスから成り、薬品送達の間、システムを皮膚に添付する役割を果たす。適切な皮膚摂食粘着物質の例は、ポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリル酸塩、ポリウレタン等を含むがこれに限られない。または、薬品保有貯留層および皮膚摂食粘着剤は離れて別の層に存在し、粘着剤が貯留層の下にあり、この場合貯留槽は上記のように高分子マトリックスまたは、液体あるいはヒドロゲル貯留層、または他の形態を有し得る。これらの層の下地層は、装置の上表面の役割を果たすが、好適にはパッチの主要構造要素として機能し、装置にその柔軟性の大部分を供給する。下地層に選択される物質は好適に活性剤および存在するいかなる他の物質にも実質的に不浸透である。
【0168】
または他の調剤送達系が用いられ得る。例えば、リポソーム、乳剤、およびマイクロエマルション/ナノエマルションが送達賦形剤の公知の例であり、薬学的活性化合物の保護及び送達に用いられ得る。ジメチルスルホキシドのような特定の有機溶媒も、大抵高い毒性の損失を伴うものの、また用いられ得る。
【0169】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)はナノエマルションにおいて製剤される。ナノエマルションは水中油型(O/W)ナノエマルションおよび油中水滴型(W/O)ナノエマルションを含むがこれに限られない。ナノエマルションは約20から約1000nmの平均液滴直径を有する乳化として定義付けることができる。大抵、平均液滴サイズは約20nmまたは50nmから約500nmの間である。サブミクロンエマルション(SME)およびミニエマルションという用語が同義語として用いられる。
【0170】
実例となる水中油型(O/W)ナノエマルションは、界面活性剤ミセル、すなわち小分子界面活性剤または合成洗剤からなるミセル(例えば、SDS/PBS/2−プロパノール)、高分子ミセル−高分子、共重合体、またはブロック共重合体界面活性剤からなるミセル(例えば、Pluronic L64/PBS/2−プロパノール)、混合ミセル、すなわち2つ以上の界面活性剤要素を有するミセル、または液相(概してアルコールまたは脂肪酸化合物)の1つがミセル形成に関与するミセル(例えば、オクタン酸/PBS/EtOH)、統合ミセル、すなわち活性剤が補助的界面活性剤の役割を果たし、ミセルの不可欠な部分を形成する混合ミセル、およびピカリング(固相)エマルション、すなわち活性剤が固体ナノ粒子の外側と会合する乳化(例えば、ポリスチレンナノ粒子/PBS/非油相)を含むがこれに限られない。
【0171】
実例となる油中水滴型(W/O)ナノエマルションは、界面活性剤ミセル、すなわち小分子界面活性剤または洗剤からなるミセル(例えば、ジオクチルスルホコハク酸/PBS/2−プロパノール、イソプロピルミリステート/PBS/2−プロパノール等)、高分子ミセル、すなわち高分子、共重合体、またはブロック共重合体界面活性剤からなるミセル(例えば、PLURONIC(登録商標)L121/PBS/2−プロパノール)、混合ミセル、すなわち2つ以上の界面活性剤要素を有するまたは液相の1つ(概してアルコールまたは脂肪酸化合物)がミセル形成に関与するミセル(例えば、カプリン酸/カプリル酸ジグリセリド/PBS/EtOH)、統合ミセル、すなわち活性剤が補助的界面活性剤の役割を果たし、ミセルの不可欠な部分を形成する混合ミセル(例えば、活性剤/PBS/ポリプロピレングリコール)、およびピカリング(固相)エマルション、すなわち活性剤が固体ナノ粒子の外側と会合するエマルション(例えば、キトサンナノ粒子/非水相/鉱油)を含むがこれに限られない。
【0172】
上に示されたように、ある特定の実施形態において、ナノエマルションは1つ以上の界面活性剤または洗剤を含む。いくつかの実施形態において、界面活性剤は非陰イオン洗剤(例えば、ポリソルベート界面活性剤、ポリオキシエチレンエーテル等)である。本発明において利用を見出す界面活性剤は、TWEEN(登録商標)、TRITON(登録商標)、およびTYLOXAPOL(登録商標)族の化合物のような界面活性剤を含むがこれに限られない。
【0173】
ある特定の実施形態において、エマルションはさらに1つ以上の陽イオンハロゲン保有化合物を含み、それには塩化セチルピリジニウムを含むがこれに限られない。さらなる実施形態において、組成物はさらに、組成物と微生物の相互作用を増加させる(相互作用促進剤)1つ以上の化合物(例えば、エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤、または緩衝剤におけるエチレンビス(オキシエチレンニトリロ)テトラ酢酸)を含む。
【0174】
いくつかの実施形態において、ナノエマルションはさらに乳化形成を支援する乳化剤かを含む。乳化剤は油水界面で凝集し2つの隣接した液滴の直接接触を防止するある種の連続膜を形成する化合物を含む。本発明のある特定の実施形態は抗病原性特性を損なうことなく水を用いて求められる濃度に容易に希釈される水中油型(O/W)乳化組成物を特徴とする。
【0175】
水相に分散した個別の油滴に加え、ある特定の水中油型エマルションは小脂質小胞(例えば、大抵いくつかの互いから水相の層で分離する実質的に同心の脂質二重層からなる脂質球)、ミセル(例えば、極性頭部基が水相に向かって外方向に面し、無極性尾部基が水相から内方向に隔離されるように配置された50〜200の分子の小集合体における両親媒性分子)またはラメラ相(各粒子が薄いフィルムまたは水によって分離された平行両親媒性二分子層からなる脂質分散)のような、他の脂質構造も含みうる。
【0176】
これらの脂質構造は無極性残基(例えば、長鎖炭化水素)を水から遠ざける疎水性力の結果として形成される。上記の脂質調製は概して界面活性剤脂質製剤(SLP)として記載される。SLPは粘膜に対して最小限に有毒で、小腸内で代謝されると考えられている(例えば、Hamoudaら(1998)J.Infect.Disease 180: 1939を参照)。
【0177】
ある特定の実施形態において、エマルションは水相において分配される不連続な油相を含み、第1成分はアルコールおよび/またはグリセロールを含み、第2成分は界面活性剤またはハロゲン保有化合物を含む。水相はいかなるタイプの水相をも含むことができ、水(例えば、脱イオン水、蒸留水、水道水)および溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水または他の緩衝システム)を含むがこれに限られない。油相はいかなるタイプの油をも含むことができ、植物油(例えば、大豆油、アボカド油、アマニ油、ココナッツ油、綿実油、スクアレン油、オリーブ油、菜種油、ベニバナ油およびヒマワリ油)、動物油(例えば、魚油)、香味油、不水溶性ビタミン、鉱油、および潤滑油を含むがこれに限られない。ある特定の実施形態において、油相は水中油型乳化の30〜90体積%を成し(すなわち最終乳化総量の30〜90%を構成する)、より好適には50〜80%である。製剤は特定の界面活性剤に制限される必要はないが、しかしながらある特定の実施形態において、界面活性剤はポリソルベート界面活性剤(例えば、TWEEN 20(登録商標)、TWEEN 40(登録商標)、TWEEN 60(登録商標)、およびTWEEN 80(登録商標))、フェノキシポリエトキシエタノール(例えば、TRITON(登録商標)X−100、X−301、X−165、X−102およびX−200、およびTYLOXAPOL(登録商標))またはドデシル硫酸ナトリウム等である。
【0178】
ある特定の実施形態においてハロゲン含有成分が存在する。ハロゲン含有化合物の本質、いくつかの好適な実施形態においてハロゲン含有化合物は、塩化物塩(例えば、NaCl、KCl等)、ハロゲン化セチルピリジニウム、ハロゲン化セチルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化セチルジメチルアンモニウム、ハロゲン化セチルジメチルベンジルアンモニウム、ハロゲン化セチルトリブチルホスホニウム、ハロゲン化ドデシルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルベンジルジメチルアンモニウム、臭化セチルピリジニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化セチルジメチルエチルアンモニウム、臭化セチルブチルホスホニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム等を含む。
【0179】
ある特定の実施形態において、エマルションは第4級アンモニウム化合物を含む。第4級アンモニウム化合物は、N−アルキルジメチルベンジルアンモニウムサッカリン酸塩、1,3,5−トリアジン−1,3,5(2H,4H,6H)−トリエタノール、1−デカナミニウム、N−デシル−N,N−ジメチル−、塩化物(または)塩化ジデシルジメチルアンモニウム、2−(2−(p−(ジイソイソブイル)クレソキシ)エトキシ)塩化エチルジメチルベンジルアンモニウム、2−(2−(p−(ジイソブチル)フェノキシ)エトキシ)塩化エチルジメチルベンジルアンモニウム、アルキル1または3ベンジル−1−(2−ヒドロキセチル)−2−塩化イミダゾリニウム、アルキルビス(2−ヒドロキシエチル)塩化ベンジルアンモニウム、塩化アルキルデメチルベンジルアンモニウム、アルキルジメチル3,4−塩化ジクロロベンジルアンモニウム(100%C12)、アルキルジメチル3,4−塩化ジクロロベンジルアンモニウム(50%C14、40%C12、10%C16)、アルキルジメチル3,4−塩化ジクロロベンジルアンモニウム(55%C14、23%C12、20%C16)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(100%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(100%C16)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(41%C14、28%C12)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(47%C12、18%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(55%C16、20%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(58%C14、28%C16)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(60%C14、25%C12)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(61%C11、23%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(61%C12、23%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(65%C12、25%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(67%C12、24%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(67%C12、25%C14)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(90%C14、5%C12)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(93%C14、4%C12)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(95%C16、5%C18)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(および)塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(脂肪酸内の)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(C12−C16)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(C12−C18)、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウムおよび塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルジメチベンジルアンモニウム、臭化アルキルジメチルエチルアンモニウム(90%C14、5%C16、5%C12)、臭化アルキルジメチルエチルアンモニウム(大豆油の脂肪酸内の混合アルキルおよびアルケニル基)、塩化アルキルジメチルエチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルジメチルエチルベンジルアンモニウム(60%C14)、塩化アルキルジメチルイソプロイルベンジルアンモニウム(50%C12、30%C14、17%C16、3%C18)、塩化アルキルトリメチルアンモニウム(58%C18、40%C16、1%C14、1%C12)、塩化アルキルトリメチルアンモニウム(90%C18、10%C16)、塩化アルキルジメチル(エチルベンジル)アンモニウム(C12−18)、ジ(C8−10)−アルキルジメチルアンモニウム塩化物、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルメチルベンジルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジイソデシルジメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ドデシルビス(2−ヒドロキシエチル)オクチル水素アンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ドデシルカーバモイルメチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘプタデシルヒドロキシエチルイミダゾリニウム、ヘキサヒドロ−1,3,5−スリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン、塩化ミリスタルコニウム(および)QuatRNIUM14、N,塩化N−ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウムポリマー、n−塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化n−アルキルジメチルエチルベンジルアンモニウム、塩化n−テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム一水和物、塩化オクチルデシルジメチルアンモニウム、塩化オクチルドデシルジメチルアンモニウム、塩化オクチフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム、オキシジエチレンビス(塩化アルキルジメチルアンモニウム)、第4級アンモニウム化合物、ジココアルキルジメチル、塩化物、塩化トリメトルキシリプロピルジメチルオクタデシルアンモニウム、トリメトキシリルquats、塩化トリメチルドデシルベンジルアンモニウム、n−塩化ドデシルジメチルエチルベンジルアンモニウム、n−塩化ヘクサデシルジメチルベンジルアンモニウム、n−塩化テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、n−塩化テトラデシルジメチルエチルベンジルアンモニウム、およびn−塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムを含むがこれに限られない。
【0180】
ナノエマルション製剤およびその生成方法は当業者に公知であり、例えば以下に記載される:米国特許第7,476,393、7,468,402、7,314,624、6,998,426、6,902,737、6,689,371、6,541,018、6,464,990、6,461,625、6,419,946、6,413,527、6,375,960、6,335,022、6,274,150、6,120,778、6,039,936、5,925,341、5,753,241、5,698,219および5,152,923号およびFanunら(2009)Microemulsions:Properties and Applications(Surfactant Science), CRC Press,Boca Ratan Fl.。
【0181】
ある特定の実施形態において、1つ以上の本明細書に記載される活性剤は、例えば希釈可能状態で貯蔵容器内に(例えば、あらかじめ計量された量で)、または可溶性カプセル内に、ある量の水、アルコール、水素、過酸化物、または他の希釈剤へ追加可能状態で「濃縮物」として提供され得る。
【0182】
持続放出製剤
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤の「持続放出」製剤が企図される。様々な実施形態において、そのような持続放出製剤は静脈の血漿中濃度の高いピークおよび従来の即放出経口投薬形態を回避するために設計される。
【0183】
実例となる持続放出製剤は例えば治療薬剤を有する固体高分子の半透性マトリックスを含む。持続放出物質の様々な用法が確立されており、当業者に公知である。持続放出カプセルは、その化学的性質に依存して、化合物を数週間から100日以上にわたって放出し得る。治療試薬の化学的性質および生物学的安定性に応じて、安定化のための追加方策が用いられ得る。
【0184】
ある特定の実施形態において、そのような「持続放出」製剤は粘膜を利用し、錠剤崩壊(または浸食)および/または薬品溶出および長期にわたる錠剤からの放出を独立的に制御することが可能であり、より安全な送達プロファイルを供給する。ある特定の実施形態において本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)の経口製剤は、規定量の時間にわたり送達される規定量の活性剤を含む単一、反復服用量を供給する。
【0185】
例示的持続放出製剤の1つは実質的に均質組成物であり、約0.01%から約99%w/w、または約0.1%から約95%、または約0.1%、または約1%、または約2%、または約5%、または約10%、または約15%、または約20%、または約80%、または約90%、または約95%、または約97%、または約98%、または約99%の活性成分(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその互変異生体または立体異性体、または当該ASBI,当該立体異性体、または当該互変異生体の薬学的に許容可能な塩または溶媒和物、またはその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)、および対象(患者)の標的粘膜に接着を供給する1つ以上の粘膜接着剤(本明細書で「生体接着剤」とも呼ばれる)を含み、さらに1つ以上の次のものを含み得る:単一の錠剤内で添加剤の結合を供給する1つ以上の結合剤、1つ以上のヒドロゲル形成添加剤、1つ以上の増量剤、1つ以上の滑沢剤、1つ以上の流動促進剤、1つ以上の可溶化剤、1つ以上の界面活性剤、1つ以上の香味剤、1つ以上の崩壊剤、1つ以上の緩衝賦形剤、1つ以上のコーティング剤、1つ以上の制御放出調整剤、および1つ以上の薬品の溶出または崩壊時間及び動態を改変および制御する、または活性薬品を分解から保護する他の賦形剤および要素。
【0186】
様々な実施形態において、経口腔粘膜送達のための持続放出調剤投薬形態は固体または非固体であり得る。1つの好適な実施形態において、投薬形態は固体であり、唾液との接触後にヒドロゲルになる。
【0187】
適切な賦形剤は、製剤に追加される市販製品の生産に必要な物質を含むがこれに限られず、増量剤、結合剤、界面活性剤、生体接着剤、滑沢剤、崩壊剤、安定剤、可溶化剤、流動促進剤、溶出または崩壊時間に影響する添加物または要素を含み得るがこれに限られない。適切な賦形剤は上記のものに限られず、また他の経口製剤に適切な無毒性の薬学的に許容可能な担体はRemingtonの調剤科学17版(1985年)において示される。
【0188】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤の経口腔粘膜薬品送達のための持続放出製剤は1つ以上の生体接着剤(粘膜接着剤)またはいくつかの生体接着剤の混合物を含み薬品送達の間口腔粘膜への接着を促進する。さらに生体接着剤は投薬形態が浸水している間における投薬形態浸食時間および/または薬品溶出動態を制御することに効果的であり得る。そのような粘膜接着薬品送達システムは、吸収位置での薬品の滞留時間を延長することができ、また薬品のバイオアベイラビリティを増加させることができるため、非常に有益である。ヒドロゲルを形成する粘膜接着高分子は典型的に親水性および膨潤性であり、接着に有利に働く、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ着のような多数の水素結合形成基を含む。乾燥形態で用いられる場合、それらは粘膜表面から水分を誘導して膨張し、水素結合、静電気、疎水性またはファンデルワールス相互作用を通した高分子/粘液相互作用をもたらす。
【0189】
実例となる適切な粘膜接着および生体接着物質は天然、合成または生体高分子、脂質、リン脂質等を含むがこれに限られない。天然および/または合成高分子の例は、セルロース誘導体(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等)、天然ガム(グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、ビーガム等)、ポリアクリル酸塩(CARBOPOL(登録商標)、ポリカルボフィル等)、アルギン酸塩、チオール含有高分子、POLYOX(登録商標)yエチレン、全分子量のポリエチレングリコール(PEG)(好適には1000から40,000Daの間、線状または分岐、いかなる組成でも)、全分子量のデキストラン(好適には1000から40,000Daの間、いかなる原料からでも)、乳酸とグリコール酸の混合によって調製される(様々な粘着性、分子量および乳酸/グリコール酸比率のPLA、PGA、PLGA)のようなブロック高分子、反復単位のいかなる数および結合のポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体(PLURONICS(登録商標)、TEKTRONIX(登録商標)またはGENAPOL(登録商標)ブロック共重合体)、上記共重合体の結合物理的または科学的に結合した単位(例えばPEG−PLAまたはPEG−PLGA共重合体)混合物を含む。好適には、生体接着添加剤は、ポリエチレングリコール、POLYOX(登録商標)yエチレン、ポリアクリル酸高分子、例えばCARBOPOL(登録商標)(例えばCARBOPOL(登録商標)71G,934P,971P,974P,等)およびポリカルボフィル(例えばNOVEON(登録商標)AA−1、NOVEON(登録商標)CA−1、NOVEON(登録商標)CA−2等)、セルロースおよびその誘導体および最も好適にはそれはポリエチレングリコール、カルボポール、および/またはセルロース誘導体またはその結合からなる群から選択される。
【0190】
ある特定の実施形態において粘膜接着/生体接着添加剤は典型的に1〜50%w/w、好適には1〜40%w/wまたは最も好適には5〜30%w/wの間で存在する。と具体的な製剤は1つ以上の異なる生体接着剤を任意の組み合わせで含み得る。
【0191】
ある特定の実施形態において、系口腔粘膜薬品送達のための製剤は結合剤または2つ以上の結合剤の混合物も含み得、単一の投薬形態への添加剤の結合を容易にする。例示的な結合剤は、セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等)、ポリアクリル酸塩(例えばCARBOPOL(登録商標)、ポリカルボフィル等)、POVIDONE(登録商標)(全等級)、あらゆる分子量または等級、照射済みまたは未照射のPOLYOX(登録商標)(登録商標)、デンプン、ポリビニルピロリドン(PVP)、AVICEL(登録商標)等からなる群から選択される。ある特定の実施形態において、結合剤は典型的に0.5〜60%w/w、好適には1〜30%w/wおよび最も好適には1.5〜15%w/wで存在する。
【0192】
ある特定の実施形態において、製剤は1つ以上のヒドロゲル形成賦形剤も含む。例示的なヒドロゲル形成添加剤は、ポリエチレングリコールおよびエチレングリコール骨格を有するホモ重合体または架橋ヘテロ重合体の他の高分子、エチレングリコール単位を用いるブロック共重合体、例えばPOLYOX(登録商標)yエチレンホモ重合体(例えばPOLYOX(登録商標)(登録商標)N10/分子量=100,000 POLYOX(登録商標)−80/分子量=200,000、POLYOX(登録商標)1105/分子量=900,000、POLYOX(登録商標)−301/分子量=4,000,000、POLYOX(登録商標)−303/分子量=7,000,000、POLYOX(登録商標)WSR−N−60K、全てユニオンカーバイドの商標)、全物質量および等級のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(例えばMETOLOSE(登録商標)90SH50000、METOLOSE(登録商標)90SH30000、全て信越化学工業の商標)、ポロキサマー(LUTROL(登録商標)F−68、LUTROL(登録商標)F−127、F−105等、全てBASF化学の商標)、GENAPOL(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG、例えばPEG−1500、PEG−3500、PEG−4000、PEG−6000、PEG−8000、PEG−12000、PEG−20,000など)、天然ガム(キサンタンガム、ローカストビーンガム等)およびセルロース誘導体(HC、HMC、HMPC、HPC、CP、CMC)、ポリアクリル酸塩基の遊離または架橋高分子及びその結合、生分解性高分子、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、および物理的ブレンドまたは交差結合によるその結合からなる群から選択される。ある特定の実施形態において、ヒドロゲル成分は交差結合され得る。ヒドロゲル形成添加は典型的に0.1〜70%w/w、好適には1〜50%w/w又は最も好適には1〜30%w/wで存在する。
【0193】
ある特定の実施形態において、製剤は1つ以上の、投薬形態の水和において選択的に薬品分子に接着し、したがって経口投薬形態からの拡散の比率を減少させる物質である、制御放出調整剤も含み得る。そのような添加剤はまた製剤による水分の取り込み比率を減少させ得、したがってより延長した薬品溶出および錠剤からの放出を可能にする。概して選択された添加剤は脂溶性であり、疎水性または脂溶性薬品へ自然に複合体を形成することができる。放出調整剤と薬品の会合の程度は製剤における調整剤−医薬品比率を変えることで変化させることができる。さらにそのような相互作用は、製造過程において放出調整剤と活性薬品の適切な組み合わせによって適切に促進される。または、制御放出調整剤は、正電荷または負電荷の正味荷電を有する合成高分子または生物高分子の荷電高分子であり得、静電相互作用によって活性成分に結合することができ、したがって錠剤中の拡散および/またはその粘着表面への透過の動態の両方を修飾する。上に記載された他の化合物と同様に、そのような相互作用は可逆であり、活性成分との永続的化学結合を含まない。ある特定の実施形態において、制御放出調整剤は典型的に0〜80%w/w、好適には1〜20%w/w、最も好適には1〜10%w/wで存在する。
【0194】
様々な実施形態において、持続放出製剤は経口投薬形態の開発に求められる当業者に公知の他の従来の成分を含み得る。これらの成分は1つ以上の増量剤(例えばラクトースUSP、デンプン1500、マンニトール、ソルビトール、マリトールまたは他の非還元糖、微結晶性セルロース(例えば、AVICEL(登録商標))、リン酸水素カルシウム脱水物、スクロース、およびその混合物)、少なくとも1つの可溶化剤(例えばシクロデキストリン、pH調整剤、塩および緩衝剤、界面活性剤、脂肪酸、リン脂質、脂肪酸の金属等)、金属塩および緩衝剤、有機(例えば酢酸塩、クエン酸、酒石酸塩等)または無機(リン酸、炭酸塩、重炭酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩、塩化物等)、金属の塩、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等)、少なくとも1つの滑沢剤(例えばステアリン酸およびステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の二価陽イオン、タルク、グリセロールモノステアレート等)、1つ以上の流動促進剤(コロイド状二酸化ケイ素、沈降二酸化ケイ素、ヒュームドシリカ(CAB−O−SIL(登録商標) M−5P、キャボットコーポレーションの商標)、ステアロウェットおよびステロテックス、シリカ(例えばSILOID(登録商標)およびSILOX(登録商標)シリカ−Grace Davisonプロダクツの商標、アエロジル−デグサファーマの商標)、高脂肪酸、その金属塩、硬化植物油等)、香味剤または甘味剤および着色剤(例えばアスパルテーム、マンニトール、ラクトース、スクロース、他の人工甘味料、酸化鉄およびFD&Cレーキ)、化学薬品の物理的劣化から薬品物質を安定化させる支援をする添加剤(例えば抗酸化物質、抗加水分解剤、凝集抑制剤等)を含み得る。抗酸化物質は、BHT、BHA、ビタミン、クエン酸、EDTA、重硫酸ナトリウム、メタビサルフェートナトリウム、チオ尿素、メチオニン、界面活性剤、アミノ酸、例えばアルギニン、グリシン、ヒスチジン、メチオニン塩、pH調整剤、キレート剤および乾燥または液剤形態における緩衝剤、錠剤崩壊動態および錠剤からの薬品放出ひいては薬物動態に影響し得る1つ以上の賦形剤(崩壊剤、例えば当業者に公知のものおよび、デンプン、カルボキシ−メチルセルロース型または架橋ポリビニルピロリドン(例えばクロスポビドン、PVP−XL)、アルギン酸塩、セルロースベースの崩壊剤(例えば精製セルロース、メチルセルロース、架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース(Ac−Di−Sol)およびカルボキシメチルセルロース)、セルロースの低置換ヒドロキシプロピルエステル、微結晶性セルロース(例えばAVICEL(登録商標))、イオン交換樹脂(例えばAMBRELITE(登録商標)IPR88)、ガム(例えば寒天、ローカストビーン、カラヤ、ペクチンおよびトラガカント)、グアーガム、ガムカラヤ、キチンおよびキトサン、スメクタ、ゲランガム、イサプギュラハスク、ポラクリリンカリウム(Tulsion
339)・ガス放出崩壊剤(例えば重曹、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムまたは炭酸カルシウムに加え、クエン酸および酒石酸)、デンプングリコール酸ナトリウム、(例えばEXPLOTAB(登録商標)およびPRIMOGEL(登録商標))、デンプンDC等、少なくとも1つの持続薬品放出に有益なあらゆる型の生分解性高分子を含み得る。例示的高分子組成物は、ポリ無水物および乳酸およびグリコール酸の共重合体、ポリ(dl−ラクチド−共−グリコリド)(PLGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリオルトエステル、タンパク質、および多糖を含むがこれに限られない。
【0195】
ある特定の実施形態において、活性剤は化学的に修飾され得、血漿中の薬物動態を大きく改変することができる。これは例えばポリ(エチレングリコール)(PEG)との複合体化によって達成され得、部位特異的PEG化を含む。PEG化は、薬物動態の最適化、免疫原性および投薬回数の低減により薬品の性能を改善し得る。
【0196】
本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)のGIまたは経口腔粘膜送達のための製剤生成方法もまた提供される。1つの方法は粉末生成、乾燥粉末混合および直接圧縮による錠剤化の段階を含む。または、湿式造粒過程が用いられ得る。そのような方法(たとえば高せん断造粒過程)は、活性成分および場合によってはいくつかの賦形剤のミキサー内での混合を含む。結合剤は乾燥混合段階で加えられたまたは造粒に用いられる液体に溶解した添加剤の1つであり得る。造粒溶液または懸濁液はミキサー内の乾燥粉末に加えられ、望まれる特性に至るまで混合される。これは大抵、適性な溶解時間、含量均一性、および他の物理的特性を有し、投薬形態の生成に適する特性の顆粒を生成する。湿式造粒段階の後、製品はほとんどの場合乾燥および/または乾燥後に製粉され、製品の大部分が所望の寸法範囲に形成される。時折、製品は湿った状態で寸法された後に、振動造粒機または製粉機を用いて乾燥される。乾燥造粒は許容可能寸法範囲に収まるように、最初に篩過装置によって、その後過大粒子の製粉化によって処理され得る。
【0197】
さらに、製剤は他の造粒過程によっても製造され得、全て当業者に公知であるが、例えば噴霧式流動層造粒、押出および球形化または流動層ローター造粒がある。
【0198】
さらに、発明の錠剤投薬形態は、上記のように製造された最初の錠剤を当業者に公知の適切なコーティングを用いて被覆することにより調製され得る。そのようなコーティングは、活性コアを損傷から(摩耗、破損、ダスト生成)、輸送及び保存の間コアがさらされる影響から(大気湿度、温度変動)保護することを意図し、当然これらのフィルムコーティングは着色され得る。水蒸気に対するフィルムコーティングの密閉効果は水蒸気透過性によって表される。被覆は利用可能な過程の1つ、例えばワースターコーティング、ドライコーティング、フィルムコーティング、流動層コーティング、パンコーティング等によって施され得る。典型的な被覆物質は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドンビニルアセテート共重合体(PVPVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール/ポリエチレングリコール共重合体(PVA/PEG)、酢酸フタル酸セルロース、エチルセルロース、ジェランガム、マルトデキストリン、メタクリル樹脂、メチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(全等級および分子量のHPMC)、カラギナン、セラック等を含む。
【0199】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤を含む錠剤コアは、生体接着剤および/またはpH抵抗物質で被覆され得、上記のように定義付けられた物質が舌下空洞における錠剤の生物学的接着を改善することを可能にする。
【0200】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBI、およびその類似体、誘導体、またはプロドラッグ)は包接錯体として製剤される。シクロデキストリン包接錯体に限られない一方で、シクロデキストリンは調剤的包接錯体の形成に最も頻繁に用いられる薬剤である。シクロデキストリン(CD)はグルコースの環状オリゴマーであり、典型的に6、7、または8グルコース単量体を含み、α−1、4結合を伴う。これらのオリゴマーは一般的にそれぞれα−CD、β−CD、およびγ−CDと呼ばれる。最大12グルコース単量体を含む高オリゴマーが公知であり、本明細書に記載される製剤において企図される。官能性シクロデキストリン包接錯体もまた企図される。実例となるが制限的でない官能性シクロデキストリンはシクロデキストリンのスルホン酸塩、スルホン酸塩およびスルフィン酸塩、または二硫酸塩、1つ以上のエーテルがヒドロキシブテニルシクロデキストリンであるシクロデキストリンの混合エーテルのスルホン酸塩、スルホン酸塩およびスルフィン酸塩、または二硫酸塩を含むがこれに限られない。実例となるシクロデキストリンは、1つ以上のヒドロキシブテニル置換基がスルホン酸化およびスルフィン酸化または二硫酸化した1つ以上の2−ヒドロキシブテニル置換基を含む多糖エーテル、および、1つ以上のヒドロキシブテニル置換基がスルホン酸化およびスルフィン酸化または二硫酸化した1つ以上の2−ヒドロキシブテニル置換基を含むアルキルポリグリコシドエーテルを含む。様々な実施形態において、スルホン酸化ヒドロキシブテニルシクロデキストリンと1つ以上の本明細書に記載される活性剤の間で形成される包接錯体が企図される。シクロデキストリン、およびシクロデキストリン包接錯体の調製方法は例えば米国特許公報第2004/0054164号およびそこに記載された参考文献さらに米国特許公報第2011/0218173号およびそこに記載された参考文献において見られる。
【0201】
薬物動態(PK)および薬剤特性
本明細書に記載される持効性(制御された)放出の経口(GIまたは経粘膜)製剤の1つの優位点は、固体投与形態または液体投与形態を問わず、即放性製剤に比べて、対象の治療期間内に血漿薬品濃度をより長期間で維持出来ることである。そのような従来の即放性製剤に対して典型的に観察される高いピークのプラズマ水準は、1〜12時間以上で薬品の持効性放出によって鈍くなる。更に、錠剤の溶解期間中は薬品が継続的に口腔から血流に渡り込み、より安定したプラトーで血漿薬物動態を提供するため、血漿水準の急落を回避する。更に、本明細書に記載される投与形態は、治療安全性に支障が生じる血漿薬物動態における山および谷の減少による潜在的な有害な副作用を最小化することによって治療安全性を向上させ得る。
【0202】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤の経口経粘膜製剤は、粘膜を活用し、独立に錠剤の切断(または崩壊)および時間とともに薬品の溶解ならびに錠剤からの放出によってより安全な送達プロフィールを提供するように設計される。本明細書に記載される経口製剤は、所定分量の活性剤を含む、個別の、繰り返し投与を提供する。
【0203】
本明細書に記載される生体接着経口経粘膜製剤の優位点の1つは、非常に一貫性のある生物学的利用能を示し、固体投与形態または静脈内投与態形態を問わず、現在利用可能な投与形態に比べてより長期間で対象の治療期間内に血漿薬品濃度をより長期間で維持出来ることである。更に、錠剤の溶解期間以上の間、薬品が継続的に口腔またはGI管から血流に渡り込み、血漿水準の急落を回避し、従来の即放性経口投与形態に比べて、長期間のプラトー段階を有する血漿薬物動態を提供する。更に、本明細書に記載される投与形態は、治療安全性に支障が生じ、現在利用可能な投与形態において典型的である、血漿薬品薬物動態における山および谷の比較的な減少による潜在的な有害な副作用を最小化することによって治療安全性を向上させ得る。
【0204】
本明細書に記載される様々な実施形態における生体接着製剤は、本明細書に記載される活性剤の薬物動態のプロフィールを操作制御するように設計可能である。したがって、製剤は、「低速な」分解時間(および崩壊動態プロフィール)および低速な薬品放出を達成するように調節可能であり、それによって、維持可能な薬品作用を提供する、非常に長期間の薬物動態のプロフィールを可能にする。そのような製剤が高速な作用開始を提供するように、依然として設計されることもあるが、多くの場合は、持続的な薬品PKおよび作用を可能にしながら、生体接着機構、作用の再現性、鈍くされたC
max等、他の性能特性を維持することが求められる。
【0205】
本発明の生体接着経粘膜製剤の性能および特性は、製造方法に対して独立である。いくつかの従来の確立された既知の工程を、投与形態の物理化学特性または体内性能に影響を及ぼさずに、本発明の製剤を製造することに使用可能である(例えば湿式および乾式造粒法、直接圧縮法等)。
【0206】
本発明の投与形態の投与後に、本明細書に記載される活性剤の測定血漿水準に対する持続性プラトー段階を示す例示的な数学比率は「最適治療標的比率」または「OTTR」という用語であり、治療水準で薬品が存在する平均時間を表し、薬品の消失半減期に対して正規化した、血漿中の薬品濃度がC
maxの50%超を維持する時間に、対象の投与形態で取得されるC
maxに対する、同等の投与量のIV投与後の正規化されたC
maxの比率を乗じたものとして、定義される。ある特定の実施形態において、OTTRを下記の数式で計算できる。
OTTR=(C
IVmax/C
max)×(投与量/投与量
IV)(C
maxの50%超である時間)/(薬品の終末
IV消失半減期)
【0207】
ある特定の実施形態において、OTTRは、約15を超えるか、または約20を超えるか、または約25を超えるか、または約30を超えるか、または約40を超えるか、または約50を超える。
【0208】
投与
ある特定の実施形態において本明細書に記載される1つ以上の活性剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグ)が、それを必要とする哺乳動物(例えば、アミロイド前駆体タンパク質の以上処理を特徴とする病理学の危険性があるか、もしくはそれを患う哺乳動物、またはMCIがアルツハイマー病へ進行する危険性がある哺乳動物、等)に対して投与される。ある特定の実施形態において活性剤が、前アルツハイマー症の発生を防ぐまたは遅延させる、および/または前アルツハイマー症の1つ以上の病状を改善させる、および/または前アルツハイマー症もしくは疾患がアルツハイマー病へ進行することを防ぐまたは遅延させる、および/または非アミロイド生成性経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)を促進するために投与される。ある特定の実施形態において1つ以上の活性剤が、初期、中期または未期アルツハイマー病の治療において、例えば疾患の重度を緩和する、および/または疾患の1つ以上の病状を改善させる、および/または疾患の進行を遅延させるために投与される。
【0209】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤(ガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグ)は、いくつかの経路のいずれかで投与できる。したがって、例えば、経口、非経口(静脈内(IV)、筋内(IM)、デポIM、皮下(SQ)およびデポSQ)、舌下、経鼻(吸入)、髄腔内、経皮(例えば、経皮パッチで)、局所的に、電気泳動法で、または直腸に投与できる。典型的に投与形態は頭脳への送達を簡易にするように選択される(例えば、血液脳関門を通す通過)。これに関して、本明細書に記載される化合物は容易に頭脳に送達可能であることを指摘する。当業者に既知の投与形態は、当該化合物の送達に適切である。活性剤は、治療を受ける対象に対して望ましくない副作用無しに、予防および/または治療的に有用な効果を生成するために十分な分量/投与量の計画で投与する。具体的な分量/投与量計画は、個人の体重、性別、年齢ならびに健康状態、および特定の化合物の製剤、生化学的性質、生物学的活性、生物学的利用度および副作用によって異なる。
【0210】
ある特定の実施形態において治療または予防の有効量は、治療する疾患に対する既知の体外および体内のモデルシステムで薬剤を試験することによって経験的に決定でき得る。治療または予防の有効投与量は、先ず低い投与量で投与し、それから、最小限の副作用で、または副作用が無く望ましい効果を達成する投与量に至るまで、少しずつ増加することによって決定できる。
【0211】
ある特定の実施形態において、経口投与の場合、本明細書に記載される薬剤で、前アルツハイマー症の発生を防ぐまたは遅延させる、および/または前アルツハイマー症の1つ以上の病状を改善させる、および/または前アルツハイマー症もしくは疾患がアルツハイマー病へ進行することを防ぐまたは遅延させる、および/または非アミロイド生成性経路によるアミロイド前駆体タンパク質を促進する、および/またはADの治療または予防のための有効投与量は、約0.1mg/1日〜約500mg/1日もしくは約1,000mg/1日、または約0.1mg/1日〜約200mg/1日の範囲に入り、例えば約1mg/1日〜約100mg/1日、例えば約5mg/1日〜約50mg/1日を挙げる。いくつかの実施形態において、対象に、約0.05〜約0.50mg/kg、例えば約0.05mg/kg、0.10mg/kg、0.20mg/kg、0.33mg/kg、0.50mg/kgの投与量で化合物を投与する。患者に1つの投与量から始めるが、時間が経って患者の状況が変わるとともに、投与量を変更(適宜に増加または減少)してもよいことが理解される。転帰評価に応じて、より高い投与量を使用してもよい。例えば、ある特定の実施形態において、1000mg/1日まで、例えば、5mg/1日、10mg/1日、25mg/1日、50mg/1日、100mg/1日、200mg/1日、300mg/1日、400mg/1日、500mg/1日、600mg/1日、700mg/1日、800mg/1日、900mg/1日、または1000mg/1日を投与してもよい。
【0212】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤は、経口で、例えば、IV、IM、デポIM、SCまたはデポSCで投与してもよい。非経口投与の場合は、治療上有効な量で、約0.5〜約100mg/1日、好ましくは約5〜約50mg/1日を送達すべきである。一ヶ月に一回または2週間毎に、注射用のデポ製剤を使用する場合、投与量は約0.5mg/1日〜約50mg/1日、または月間投与量で、約15mg〜約1,500mgとするべきである。多少アルツハイマー病の患者が忘れがちであることで、好ましくは非経口投与形態をデポ製剤とする。
【0213】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤は舌下で投与してもよい。舌下で投与する場合、化合物またはその類似体は、上記IM投与に記載された分量で1日に1〜4回投与してもよい。
【0214】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤は経鼻で投与してもよい。この経路で投与する場合、当業者に知られるように、鼻噴霧または乾式粉末が適切な投与形態である。経鼻投与に対して化合物またはその誘導体の投与量は、上記IM投与に対する分量である。
【0215】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤は髄腔内投与してもよい。この経路で投与する場合、当業者に知られるように、適切な投与形態は非経口投与形態としてもよい。髄腔内投与に対して化合物またはその類似体の投与量は、上記IM投与に対する分量である。
【0216】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤は局所に投与してもよい。この経路で投与する場合、適切な投与形態は、クリーム、軟膏またはパッチである。局所に投与する場合、投与量は約1.0mg/1日〜約200mg/1日である。パッチで送達可能な分量が限られたため、2つ以上のパッチを使用してもよい。パッチの数および大きさが重要ではなく、重要なのは、当業者に知られるように、化合物の治療上有効な量を送達することである。化合物は、当業者に知られるように、坐剤として直腸に投与してもよい。坐剤投与の場合、治療上有効な量は約1.0mg〜約500mgである。
【0217】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤は、当業者に知られるように、移植で投与してもよい。化合物を移植で投与する場合、治療上有効な量は上記デポ投与に対する分量である。
【0218】
様々な実施形態において、投与形態は対象に対して、毎日1回、2回、3回、または4回に投与してもよい。好ましくは、化合物を3回以下に、より好ましくは1日に1回または2回に投与する。好ましくは、薬剤を経口投与形態で投与する。
【0219】
当業者に明らかであろうが、精確な投与量および投与頻度は、投与する当業者の医師によく知られるように、治療する特定の疾患、治療する疾患の重度、特定の患者の年齢、体重、一般的な健康状態、および患者が受ける他の薬品によって異なる。
【0220】
組成物および方法は本明細書に人間の使用に関して記載されるが、動物用、例えば獣医学の使用にも適切である。したがって、好ましい生物は、ヒト、非ヒト霊長類、犬科、ウマ科、猫科、豚、有蹄動物、ウサギ目、等を含むがそれに限られない。
【0221】
上記の製剤および投与方法は、例示的であり、制限を付ける意図ではない。本明細書に記載される教示を使用することによって他の適切な製剤および投与形態が簡単に考案可能であることを理解される。
【0222】
供用治療
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される活性剤(例えばガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグ)は、MCIおよび/またはADを含む、脳内のアミロイド沈着を特徴とする疾患を治療または予防するために使用する、他の治療的な薬剤または方法と供用してもよい。そのような薬剤または方法は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えば、(−)−フェンセリンエナンチオマー、タクリン、イピダクリン、ガランタミン、ドネペジル、イコペジル、ザナペジル、リバスティグミン、フペルジンA、フェンセリン、フィゾスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム、エドロホニウム、ラドスチギルおよびウンゲレミンを制限無しに含む)、NMDA受容体拮抗薬(例えば、メマンチンを制限無しに含む)、ムスカリン様受容体作用薬(例えば、タルサクリジン、AF−102B、AF−267B(NGX−267)を制限無しに含み)、ニコチン受容体作用薬(例えば、イスプロニクリン(AZD−3480)を制限無しに含む)、β−セクレターゼ阻害剤(例えば、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンを含むチアゾリジンジオンを制限無しに含む)、γ−セクレターゼ阻害剤(例えば、セマガセスタット(LY−450139)、MK−0752、E−2012、BMS−708163、PF−3084014、ベガセスタット(GSI−953)およびNIC5−15を制限無しに含む)、Aβ凝集の阻害剤(例えば、クリオキノール(PBT1)、PBT2、トラミプロサート(ホモタウリン)、シロ−イノシトール(シロ−イシクロヘキサンヘキサオールとも呼ばれ、AZD−103およびELND−005を制限無しに含む)、Aβ断片での受動免疫療法(例えば、バピネオズマブおよびエピガロカテキン−3−ガレート(例えば、Cg)を制限無しに含む)、シクロオキシゲナーゼII阻害剤のような抗炎症剤、ビタミンEおよびギンコライドのような抗酸化剤、免疫学的方法、例えばAβペプチドで免疫付与、または抗−Aβペプチド抗体、スタチン、Cerebrolysin(商標),AIT−082(Emilieu (2000)、Arch.Neurol.57:454)、ネトリン(Luorenco(2009)Cell Death Differ 16:655−663)、ネトリン ミメティック、NGF、NGFミメティック、BDNFならびに他の未来の神経栄養性薬剤、および神経発生を促進する薬剤(例えば幹細胞治療)の投与を含む。MCIおよび/またはADを含む、脳内のアミロイド沈着を特徴とする疾患を治療または予防するための、トロピセトロン、ジスルフィラム、ホノキオールおよび/またはニメタゼパムとの組み合わせで有用な、さらなる薬剤は、例えば、Mangialasche,et al.,Lancet Neurol(2010)9:702−716に記載されている。
【0223】
様々な実施形態において、本明細書に記載される活性剤の1つ以上との供用治療は、それらの薬剤と一緒にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与することを明示的に除外する。
【0224】
加齢性黄斑変性症および緑内障に対するASBIの使用
様々な実施形態においてASBIは前アルツハイマー症の発生を防ぐまたは遅延させる、および/または前アルツハイマー症の1つ以上の病状を改善させる、および/または前アルツハイマー症もしくは疾患がアルツハイマー病へ進行することを防ぐまたは遅延させる、および/または非アミロイド生成性経路によるアミロイド前駆体タンパク質を促進する、および/またはアルツハイマー病の治療のために使用することが企図されるが、他にもASBIの用途も企図される。具体的に、ある特定の実施形態において、ASBIは、加齢性黄斑変性症および/または緑内障に対して治療および/または予防に使用することが企図される。
【0225】
特定の理論に拘束されるものではないが、異常な細胞外沈着が加齢性黄斑変性症(AMD)の発症および進行を促進すると考えられており、アルツハイマー病および粥状硬化症の場合でもそうである。両方の疾患において、タンパク質沈着は多数の共通要素、例えばアポE、補体およびAβペプチドを含む。例えば、ヒトAMDにおいて、Aβペプチド沈着はドルーゼンに伴い、そこで蓄積し、活性化された補体部分と共局在化する(Andersonら(2004)Exp.Eye.Res.,78:243−256;Dentchevら(2003)Mol.Vis.,9:184−190;Johnsonら(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99:11830−11835.).Luiblら(2006)J.Clin.Invest., 116:378−385は、Aβのオリゴマー型を特異的に認識する抗体を使用することによって、ドナーのヒト眼球のドルーゼン、サブ−RPE基底沈殿物およびRPEにおいて潜在的に毒性のアミロイドオリゴマーの存在を示す。これらのAβオリゴマーは、ドルーゼンを有さない年齢一致の対照ドナー眼球には検知されなかった。Isasら(2010) Invest.Ophthalmol Vis.Sci.,51:1304−1310も、ドルーゼン中に可溶性とともに熟成のAβ小線維を検知した。合わせて、これらの所見は、AMDの発症におけるAβの関与を示す。更に、Aβペプチドは、AMDのネズミモデルにおいて、サブ−RPE基底沈殿物および新生血管病変に検知された(Dingら(2008)Vision Res.,48:339−345;Malekら(2005)Proc Natl Acad Sci USA,102:11900−11905)。このモデルにおいて、老化ヒトアポE4対象置換ネズミ(アポE4ネズミ)は、高脂肪、コレステロール含有(HFC)飼料が与えられると、(アポE4−HFCネズミ)乾および湿AMDの両方の場合に認める形態上の特徴を示す。これらの特徴は、肥厚びまん性のサブ−RPE沈殿物、脂質およびタンパク質含有の限局的なドルーゼンのような沈殿物、ブルッフ膜の肥厚、感光体変性領域に反対するRPE萎縮症の所々の領域およびCNVを含む(Malekら(2005)Proc Natl Acad Sci USA,102:11900−11905)。AMDのアポE4−HFCネズミモデルにおいて、Aβ蓄積はRPE/脈絡膜のレベルで損害を誘発すると考えられ、また以前には、抗Aβ40特定抗体の前進投与は本モデルで示す視覚機能の低下を部分的に軽減可能であることが示されている(Dingら(2008)Vision Res.,48:339−345)。また、Aβ40およびAβ42の双方を同時に標的とする抗Aβ免疫療法がアポE4−HFCネズミにおいて、病理組織学的変化を遮断し、完全に視覚機能を保護することも示された。(Dingら(2011)Proc.Nat’l.Acad.Sci.U.S.A.,108(28):E279−E287)
【0226】
特定の理論に拘束されるものではないが、眼球内でAβへのAPP処理は、網膜および網膜色素上皮(RPE)細胞層にてBACEおよびγ−セクレターゼの作用により起こり、またsAPPαおよびAβは、硝子体液に分泌されると考えられている(例として、Prakasamら(2008)J.Alzh.Dis.,20: 1243−1253を参照)。Aβは、更に房水に送達され、そこでは容易に測定可能である。
【0227】
これらの所見を踏まえて、ASBI、例えば本明細書に記載されるものは、加齢性黄斑変性症(AMD)および/または緑内障の治療または予防において有用であり得ると考えられる。したがって、ASBIは、AMD(および/または緑内障)が現れることを遅延するまたは予防するため、および/またはAMD病状の1つ以上を緩和するため、および/または疾患の進行を減速する、停止する、または逆行させるために対象に投与することができると考えられる。様々な実施形態において、1つ以上のASBI(例えば、本明細書に記載される活性剤の1つ以上)を、これらの目的に対象(例えば、ヒト、非ヒト哺乳動物)に投与する。上記のように、様々な実施形態において、ASBIは経口投与、電気泳動送達、経皮送達、非経口投与、エアロゾール投与、吸入投与、静脈内投与および直腸投与からなる群から選択される経路を介し投与する。
【0228】
ある特定の実施形態において、投与は直接に眼球に行う。したがって、例えば、ある特定の実施形態において、薬剤は点眼液の形で、眼内注射経由等で投与可能である。
【0229】
典型的にASBIは、AMDまたは緑内障の治療および/または予防のための有効量で投与し、その有効量は投与様式によって異なる。ある特定の実施形態において、有効量は、哺乳動物において、加齢性黄斑変性症(AMD)に伴う1つ以上の病状を緩和するのに十分な量である。ある特定の実施形態において、有効量はAMD疾患(または緑内障)のリスクを減少するかその発症を遅延させる、および/または硝子体液および/または房水にてAβの減少、および/または網膜および/またはRPE細胞層にてアミロイド沈着の減少によって特徴付けられる、その最終的な重度を減少するのに十分な量である。
【0230】
APP処理を評価するためのアッセイシステム
特定の理論に拘束されないが、本明細書に記載される活性剤(例えば、ガランギンやルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグ)は、非アミロイド生成性経路によるAPP処理を促進する、および/またはアミロイド生成性経路によるAPP処理を減少するまたは阻害すると考えられる。非アミロイド生成性経路において、先ずAPPはAβ配列内でαセクレターゼにより切断され、APPsα細胞外ドメイン(「sAPPα」)を放出する。一方、アミロイド生成性経路は、βセクレターゼがAPPをAβのアミノ末端で切断する時に開始し、それによってAPPsβ細胞外ドメイン(「sAPPβ」)を放出する。非アミロイド生成性およびアミロイド生成性経路によるAPP処理は、当該技術分野において周知であり、例えば、Xu(2009)J Alzheimer’s Dis.,16(2):211−224およびDe Strooperら(2010 Nat Rev Neurol 6(2):99−107で考察されている。
【0231】
活性剤の有効性を評価する1つの方法は、アミロイド生成性経路によるAPP処理の程度に対して、低下または除去を特定することであり、例えば、対象薬剤の投与に応答して、βセクレターゼ切断によるAPP処理レベルの減少または除去が挙げられる。βセクレターゼ切断部位にてAPP切断の程度を特定するためのアッセイは当該技術分野において周知である。例示的なアッセイは、例えば米国特許第5,744,346号および第5,942,400号に記載される。生物学試料におけるsAPPαおよびsAPPβ、またAPPneoおよびAβの有無および水準を特定するキットは、例えば、PerkinElmerから、市販のものを取得可能である。
【0232】
ASBIアッセイ
本明細書に記載される、いかなる化合物のASBI活性も、例えば、本明細書に記載される実施例において示すアッセイにより、容易に確認できる。基本的に、ある特定の実施形態において、APP基質のMBP−C125のBACE切断を阻害する化合物を特定するために一対のアッセイを使用し、その結果、C99の生成を阻害するが、β−位ペプチド基質(P5−P5’)は阻害しない。
【0233】
実施例に示すように、一実施形態において、MBP−C125 APP695wtの融合タンパク質を基質の1つとして使用してもよい。第2の基質は市販のP5−P5’蛍光基質にしてもよい。各基質は、例えば96ウェルプレート形式で組み換えBACE(R&D(cat#931−AS−050)と培養する。MBP−C125基質は、BACE切断によるC−99生成物はAlphaLisaアッセイを読み出しとして使用し測定可能である。P5−5’基質に対しては、BACE切断による蛍光の損失を読み出しとして使用してもよい。ASBIは、蛍光基質を阻害せずにMBP−C125のBACE切断を阻害する。
【0234】
他の細胞無しの系
活性剤の阻害活性を示す例示的なアッセイは、例えば、WO00/17369、WO00/03819および米国特許第5,942,400号および第5,744,346号に記載される。そのようなアッセイは、細胞無しの培養、またはαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼを発現する細胞およびαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼの切断部位を有するAPP基質を使用する細胞有りの培養において実施可能である。
【0235】
1つの例示的な実施形態において、対象の薬剤を、APPのαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ切断部位を含有するAPP基質、例えば、KM−DAまたはNL−DA(APP−SW)のアミノ酸配列を含む、完全APPまたはその変異体、APP断片、または組み換えあるいは合成APP基質、と接触させ、αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ酵素、その断片、またはαセクレターゼまたはβセクレターゼのAPP切断部位で切断するように有効である合成または組み換えポリペプチド変異体の存在下で、酵素の切断活性に適切な培養条件で培養する。望ましい活性を有する薬剤は、APP基質の切断を低下または予防し、適切な基質は基質ペプチドあるいは該ペプチドもしくはそのαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ切断生成物の精製や検知を容易にすることに有用である修飾を含む、融合タンパク質またはペプチドであり得る誘導体を任意に含む。有用な修飾は、抗体結合のために既知の抗原性エピトープの挿入、ラベルまたは検出可能な部分の接続、結合基質の接続等を含む。
【0236】
細胞無しの体内アッセイに適切な培養条件は、例えば、約200ナノモル〜10マイクロモル基質、約10〜200ピコモル酵素、および約0.1ナノモル〜10マイクロモルの薬剤の水溶液で、pHの約4〜7で、約37℃で、約10分〜3時間の期間を含む。これらの培養条件は、実施例に過ぎなく、特定のアッセイ部分および/または望ましい測定体制に応じて変更可能である。特定のアッセイ部分に対して培養条件の最適化は、使用する特定のαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ酵素ならびにその最適なpH、アッセイに使用する可能性がある任意の他の追加酵素および/またはマーカー等を考慮すべきである。そのような最適化は一般的で、過度の実験の必要がない。
【0237】
別の例示的なアッセイは、マルトース結合タンパク質(MBP)がAPP−SQのC末端125アミノ酸に融合された融合ペプチドを活用する。MBP部分は抗MBP取得抗体によりアッセイ基質上に捕捉される。αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼの存在下で取得された融合タンパク質を培養すると、それぞれにαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ切断部位で基質の切断を引き起こす。この系は、対象の薬剤の阻害活性を検出するために使用することができる。切断活性の分析は、例えば切断生成物の免疫学的アッセイにより行っても良い。そのような免疫学的アッセイの1つは、例えば抗体SW192を使用し、切断された融合タンパク質のカルボキシ末端で露出された独自のエピトープを検出する。このアッセイは、例えば米国特許第5,942,400に記載される。
【0238】
細胞有りのアッセイ
多数の細胞に基づいたアッセイが、αセクレターゼ活性とβセクレターゼ活性の相対関係および/またはAPP処理による、非アミロイド生成性よりもアミロイド生成性のAβオリゴマーの放出に対して、対象の薬剤の活性を評価するために使用することができる。細胞内で、薬剤が存在すると存在しない状態でAPP基質とαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ酵素との接触は、薬剤のαセクレターゼ促進および/またはβセクレターゼ阻害の活性を示すために使用することができる。好ましくは、薬剤の存在下のアッセイは、非阻害対照と比較すると、酵素活性に対する、少なくとも約30%、最も好ましくは、少なくとも約50%の阻害を提供する。
【0239】
一実施形態において、αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼを自然に発現する細胞を使用する。別の方法で、上記のように細胞は、組み換えαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ、あるいは合成変異酵素を発現するように修飾する。APP基質は培養媒体に添加してもよく、好ましくは細胞に発現する。APP、APPの変異体または突然変異体を自然に発現する細胞、またはAPPのアイソフォーム、突然変異または変異APP、組み替えまたは合成APP、APP断片あるいは、αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼAPP切断部位を含む合成APPペプチドまたは融合タンパク質を発現するように転換した細胞が使用できるが、但し、発現されたAPPg酵素に直接に接触可能であり、酵素切断活性を分析可能であることを条件とする。
【0240】
通常APPからAβを処理するヒト細胞株は薬剤の阻害活性アッセイに対して有用な手段を提供する。Aβおよび/または他の切断生成分の生成と、培養媒体への放出は、例えばウェスタンブロット法または、ELISAのような酵素接続免疫学的アッセイ(EIA)等の免疫学的アッセイにより測定可能である。
【0241】
APP基質および活性αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼを発現する細胞を、薬剤の存在下で培養して、対照と比較したαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼの相対的な酵素活性を示すことができる。αセクレターゼとβセクレターゼとの相対的活性はAPP基質の一つ以上の切断生成物の分析により測定できる。例えば、基質APPに対するβセクレターゼ活性の阻害は、Aβ、sAPPβおよびAPPneoのような特定のβセクレターゼによるAPP切断生成物の放出を低下させるであろうことが予測される。基質APPに対してαセクレターゼ活性の促進または強化は、sAPPαおよびp3ペプチドのような特定のαセクレターゼによるAPP切断生成物の放出を増加させるであろうことが予測される。
【0242】
神経および非神経細胞の両方ともAβを処理し放出するが、内因性βセクレターゼ活性の水準は低く、多くの場合はEIAでは検出し難い。したがって、強化βセクレターゼ活性、APPからAβへの強化処理、および/またはAβの強化生成を有することが既知である細胞腫の使用が好ましい。例えば、APPのスエーデン突然変異(APP−SW)、インディアナ突然変異(APP−IN)、またはAPP−SW−INの細胞の遺伝子移入は、強化βセクレターゼ活性を有し、容易に測定可能なAβ分量を生成する細胞を提供する。
【0243】
そのようなアッセイにおいて、例えばAPP、αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼを発現する細胞が、APP基質の切断部位でαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ酵素活性に適切な条件下で培養媒体に培養される。細胞を薬剤に露出すると、媒体に放出するAβ分量および/または細胞溶解物中のCTF99断片の量が対照と比較すると低下する。APPの切断生成物は、例えば、上記のように特定の抗体との免疫反応により分析できる。
【0244】
αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ活性の分析に好ましい細胞は、一次ヒト神経細胞、導入遺伝子がAPPである一次トランスジェニック動物神経細胞、およびAPP−SW等の、APPを発現する安定性293細胞株のように他の細胞を含む。
【0245】
体内アッセイ動物モデル
αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼの相対的な活性、および/またはAβを放出するためのAPP処理に対して、対象薬剤の活性を分析することに、様々な動物モデルを使用できる。例えば、APP基質、αセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ酵素を発現するトランスジェニック動物を、薬剤の阻害活性を示すことに使用することができる。特定のトランスジェニック動物モデルは、例えば米国特許第5,877,399号、第5,612,486号、第5,387,742号、第5,720,936号、第5,850,003号、第5,877,015号、および第5,811,633号、そしてGanesら、1995, Nature 373:523に記載される。好ましくは、ADの病態生理学に関連する特徴を示す動物を使用する。本明細書に記載されるようなトランスジェニックネズミに薬剤を投与することにより、薬剤の阻害活性を示す別の方法が提供される。薬剤を薬学有効担体中で、対象組織まで適切な治療量で届く投与経路を介して投与することも好ましい。
【0246】
βセクレターゼ切断部位でAPPのβセクレターゼ媒介切断、およびAβ放出に対しての阻害は、これらの動物において、脳脊髄液または組織のような、動物体液中の切断断片を測定することによって分析できる。同様に、αセクレターゼ切断部位でAPPのαセクレターゼ媒介切断およびsAPPα放出の促進または強化は、これらの動物において、脳脊髄液または組織のような、動物体液中の切断断片を測定することによって分析できる。ある特定の実施形態において、Aβ沈着または斑に対する脳組織分析が好ましい。
【0247】
APP基質をαセクレターゼおよび/またはβセクレターゼ酵素と、薬剤の存在下で、APPの酵素媒介切断、および/または基質からAβの放出を可能にする、十分な条件の下で、接触させると、望ましい薬剤はβセクレターゼ切断部位でAPPのβセクレターゼ媒介切断を減少することに有効、および/またはAβの放出分量を減少することに有効である。薬剤は、αセクレターゼ切断部位でAPPのαセクレターゼ媒介切断を減少することに効果的、および/またはsAPPαの放出分量を減少することにも好ましくて有効である。そのような接触が、例えば、上記のように、動物モデルに対して薬剤の投与の場合は、薬剤は動物の脳組織中のAβ沈着を減少し、βアミロイド斑の数および/または大きさを減少することに有効である。ヒトの対象に対する投与の場合は、薬剤は、Aβの増大分量を特徴とする病気の進行を阻害遅延させること、ADの進行を遅延させること、および/またはその病気のリスクがある患者においてADの発症または発病を予防することに有用である。
【0248】
臨床有効性を監視する方法
様々な実施形態において、治療の有効性は、薬剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグ)の投与を開始する前の病気のパラメータに対するベースライン測定値を薬剤または類似体を投与後の一つ以上の時点で同一のパラメータと比較することにより決定することができる。測定でき、例示的なパラメータの一つは、APP処理のバイオマーカー(例えば、ペプチドオリゴマー)である。そのようなバイオマーカーは、血液、血漿、血清、尿、粘液または脳脊髄液(CSF)における、sAPPα、p3(Aβ17−42またはAβ17−40)、sAPPβ、可溶性Aβ40および/または可溶性Aβ42の増加したレベルを含むがそれらに限らない。sAPPαおよび/またはp3の増加したレベル、およびsAPPβおよび/またはAPPneoの低下したレベルの検出は、治療の有効性指標である。逆に、sAPPαおよび/またはp3の低下したレベル、および/またはsAPPβ、APPneo、タウまたはリン酸化タウ(pTau)の増加したレベルの検出は、治療が有効ではないことを示す。
【0249】
治療の有効性を測定するための別のパラメータは頭脳中のアミロイド斑沈着のレベルである。アミロイド斑は当該技術分野においていかなる周知の方法でも、例えばCT、PET、PIB−PETおよび/またはMRIにより測定できる。薬剤(例えば、ガランギン、ルチンのようなASBIおよびその類似体、誘導体またはプロドラッグ)の投与は斑の形成速度の減少、および頭脳中の斑沈着の逆行または減少までの結果となり得る。治療の有効性は、対象の認知能力に対して安定化および/または改善を観察することによって判断できる。認知能力は、当業者の許容範囲内でいかなる方法でも評価可能であり、例えば、臨床的認知症定格(CDR)、ミニ認知状態試験(MMSE)、またはFolstein試験、DSM−IV(精神疾患の診断・統計マニュアル、第4版)またはDSM−Vに記載された評価基準、等を含む。
【0250】
臨床的有効性は当該技術分野において、いかなる周知の方法でも監視可能である。有効性を監視する測定可能なバイオマーカーは、血液、血漿、血清、尿、粘液または脳脊髄液(CSF)におけるsAPPα、sAPPβ、Aβ42、Aβ40、APPneoおよびp3(例えば、Aβ17−42 or Aβ17−40)のレベルを監視することを含むがそれらに限らない。sAPPαおよび/またはp3の増加したレベルおよびsAPPβおよび/またはAPPneoの低下したレベルの検出は、治療または予防計画の有効性指標である。逆に、sAPPαおよび/またはp3の低下したレベルおよびsAPPβおよび/またはAPPneoの増加したレベルの検出は、治療または予防計画の有効性が無い指標である。他のバイオマーカーは、タウおよびリン酸化タウ(pTau)を含む。タウおよびpTauの低下したレベルの検出は、治療または予防計画の有効性指標である。
【0251】
有効性は、脳内のアミロイド斑負荷を測定することによっても決定することができる。脳内のアミロイド斑負荷が増加しないか、または低下する場合、治療または予防計画が有効であると見なす。逆に、脳内のアミロイド斑負荷が増加する場合、治療または予防計画が有効ではないと見なす。アミロイド斑負荷は、当該技術分野において、いかなる周知の方法でも、例えばCT、PET、PIB−PETおよび/またはMRIを含めて、測定できる。
【0252】
有効性は、対象の認知能力を測定することによっても決定できる。認知能力は当該技術分野においていかなる周知の方法でも測定することができる。例示的な試験は臨床的認知症定格(CDR)スコアを与えるか、またはミニ認知状態試験(MMSE)を適用することを含む(Folsteinら、Journal of Psychiatric Research 12(3):189−98)。例えば、CDRまたはMMSEを適用する際に、同じスコアを維持するか、またはスコアが向上する対象は、治療または予防計画が有効であることを示す。逆に、例えばCDRまたはMMSEを適用する際に、低下した認知能力を示すスコアを受ける対象は、治療または予防計画が有効ではないことを示す。
【0253】
ある特定の実施形態において、監視方法は、薬剤の投与量を投与する前に、対象における測定可能なバイオマーカーまたはパラメータ(例えば、アミロイド斑負荷または認知能力)のベースライン値を測定し、それからこれを、治療後に同じ測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの値と比較することを含む。
【0254】
他の方法において、測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの対照値(例えば、平均値および標準偏差)が、対照群に対して決定される。ある特定の実施形態において、対照群の全員は、事前治療を受けておらず、AD、MCIを患わずADまたはMCIの発症リスクがない。そのような場合は、測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの値が対照値に近づいたら、治療は有効であると見なす。別の実施形態において、対照群の全員は、事前治療を受けなかったが、ADまたはMCIが診断されている。そのような場合は、測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの数値が対照値に近づいたら、治療は有効ではないと見なす。
【0255】
別の方法において、現在治療を受けていないが、以前治療を受けた対象が、治療の再開が必要かどうかを判断するために、一つ以上のバイオマーカーまたは臨床パラメータを監視される。対象における一つ以上のバイオマーカーまたは臨床パラメータの測定値は、以前治療後に対象において達成した値と比較することができる。別の方法において、対象において測定した値は、治療を受けた後に対象群に対して測定した対照値(平均値に加えて標準偏差/ANOVA)と比較可能である。別の方法において、対象に対して測定した値は、予防的に治療し、疾患の病状を認めない対象群、または疾患特徴の改善を示す、治療的に治療を受けた対象群に対する対照値と比較することができる。そのような場合、測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの数値が対照値に近づいたら、治療は有効であると見なし、再開の必要はない。これらのすべての場合、対照レベルに対して有意義な差異(例えば、1標準偏差を超える)は、対象において治療を再開すべきである指標である。
【0256】
ある特定の実施形態において、分析用の組織試料は、典型的に対象からの血液、血漿、血清、尿、粘液または脳脊髄液である。
【0257】
キット
様々な実施形態において、活性剤(例えば、本明細書に記載される、ガランギン、ルチンおよびその類似体、誘導体、その互変異生体または立体異性体、またはそのプロドラッグのような、APP特異性のBACE阻害剤(ASBI))は、複数または単一投与容器に封入することができる。封入した薬剤は、例えば、使用するために組み立てる部分や部品を含めて、キットの形で提供可能である。例えば、凍結乾燥された形態の活性剤および適切な希釈剤を、使用する前に組み合わせるための分離された成分として提供することができる。キットは、活性剤および、同時投与用の第2の治療薬剤を含み得る。活性剤および第2の治療薬剤は、別々の成分として提供可能である。キットは複数の容器を含み、各容器が化合物の一つ以上の単位投与量を含み得る。その容器は、好ましくは、望ましい投与様式に適応し、本明細書に記載されるように、経口投与の場合は、錠剤、ゲルカプセル、持続放出カプセル等、非経口投与の場合は、デポ薬品、事前充填シリンジ、アンプル、バイアル等、および局所投与の場合は、パッチ、メディパッド、クリーム等を含むがそれらに限らない。
【0258】
ある特定の実施形態において、キットを提供し、本明細書に記載される一つ以上のASBI化合物、またはそのプロドラッグ、互変異生体または立体異性体、または該化合物の薬学的に許容範囲内の塩または溶媒和を含む、上述立体異性体または上述互変異生体またはプロドラッグ好ましくは薬学組成物として適切な容器の中で、および/または適切な梱包で提供し、また、一つ以上の追加活性剤を、任意に、存在する場合、望ましくは薬学組成物として適切な容器の中で、および/または適切な梱包で提供し、なお、任意で、例えば化合物または組成物の投与方法について使用説明書等の、任意に使用説明を含む。
【0259】
別の実施形態において、単一または複数の容器、本明細書に記載または請求される一つ以上のASBI化合物、またはその互変異生体あるいは立体異性体、または該化合物、該互変異生体または該立体異性体の薬学的に許容できる塩または溶媒和物を含む薬学的に許容できる組成物、任意に一つ以上の追加治療薬剤を含む薬学的に許容範囲内の組成物、および任意に、使用説明を含むキットを提供する。キットは、意図される用途に適切なラベル(例えば、説明資料)を任意に含み得る。
【0260】
いかなる薬学的な薬品でもそうであるが、梱包材および/または容器は、保管および配達の際に薬品の安定性を保護するように設計される。さらに、キットは、使用説明、または使用者、例えば医師、技術者または患者に助言を与える、予防剤、治療剤または対象の疾患に対する改善的な治療をどのように組成物を正しく投与するかに関して他の情報や資料を含み得る。いくつかの実施形態において、使用説明は、実際の投与量および監視手順を含むがそれに限らない投与計画を述べるまたは提案し得る。
【0261】
いくつかの実施形態において、使用説明は、組成物の投与がアレルギー反応、例えばアナフィラキシーを含むがそれに限らない拒絶反応をもたらし得ることを示す情報や資料を含み得る。情報や資料は、アレルギー反応が、軽度の掻痒性皮疹のみとして現れるか、または紅皮症、血管炎、アナフィラキシー、Steven−Johnson症候群等のように重度であり得ることを示すことができる。ある特定の実施形態において、情報や資料はアナフィラキシーが致命的であることがあり、いずれかの異種タンパク質が体内に導入される場合に起こり得ることを示し得る。ある特定の実施形態において、情報や資料はこれらのアレルギー反応がじんましんまたは発疹として現れ、致命的な全身性反応に進み、露出のすぐ後に、例えば、10分以内に起こり得ることを示し得る。情報や資料は、アレルギー反応により対象に感覚異常症、低血圧症、喉頭水腫、認知状態の変化、貌面あるいは咽頭血管性水腫、気道閉塞、気管支けいれん、蕁麻疹ならびにかゆみ症、血清病、関節炎、アレルギー性腎炎、糸球体腎炎、側頭動脈炎、好酸球増加症、またはそれらの組み合わせを経験する可能性があることをさらに示し得る。
【0262】
使用説明の資料は典型的に書面または印刷資料を含むが、それらに限定されない。そのような指示を記憶し、エンドユーザーに通信可能な、いかなる媒体も本発明により企図される。そのような媒体は、電子ストレージ媒体(例えば磁気ディスク、テープ、カートリッジ)光媒体(例えばCD ROM)等、を含むがそれらに限定されない。そのような媒体は、そのような使用説明資料を提供するインターネットサイトのアドレスを含み得る。
【0263】
いくつかの実施形態において、キットは、一つ以上の梱包材、例えば箱、瓶、管、バイアル、容器、噴霧器、吸入器、静注パック、封筒等、および本明細書に記載される活性剤を含む、少なくとも一つの単位投与形態ならびに梱包材を含み得る。いくつかの実施形態において、キットは、対象の疾患に対して組成物を予防的、治療的または改善的な治療として使用するための説明も含む。
【0264】
いくつかの実施形態において、キットは、例えば、箱、瓶、管、バイアル、容器、噴霧器、吸入器、静注パック、封筒等、一つ以上の梱包材、その梱包材内に、一つ以上の活性剤(例えば、本明細書に記載される、ガランギン、ルチン、およびその類似体、誘導体、その互変異生体あるいは立体異性体、またはそのプロドラッグのような、APP特異性のBACE阻害剤(ASBI))を含む薬剤、少なくとも一つの単位投与量を含む第1の組成物、および例えば、(本明細書に記載されるように)アルツハイマー病の治療および/または予防において使用する薬剤またはそのプロドラッグ、コドラッグ、代謝産物、類似体、相同体、同族体、誘導体、塩およびそれらの組み合わせのような、第2の薬剤を含む第2の組成物を含み得る。いくつかの実施形態において、キットは、対象の疾患に対して組成物を予防的、治療的または改善的な治療として使用するための説明も含み得る。
【0265】
ある特定の実施形態において、説明書/説明資料は、存在する場合、投与量、および/または治療計画、および/またはキットに含まれる活性剤の禁忌を教示する。説明資料は、存在する場合、典型的に書面または印刷資料を含むが、それらに限らない。そのような説明を記憶し、エンドユーザーに通信可能で、いかなる媒体も本発明により企図される。そのような媒体は、電子ストレージ媒体(例えば磁気ディスク、テープ、カートリッジ)光媒体(例えばCD ROM)等、を含むがそれらに限定されない。そのような媒体は、そのような教科材を提供するインターネットサイトのアドレスを含み得る。
【実施例】
【0266】
下記の実施例は、請求された発明を、制限せず、例示するために記載される。
【実施例1】
【0267】
APP特異性のBACE阻害剤(ASBI):
アルツハイマー病に対する治療剤の新規分類
様々な病理に対する治療におけるプロテアーゼ阻害戦略(例えばBACE阻害剤)の重要な制限は、基質標的作用であり、すなわち、所与の標的プロテアーゼ、例えばBACEまたはγセクレターゼ複合体の、全基質の切断の阻害である。γ−セクレターゼの場合は、APP以外の基質、例えばNotchは、γ−セクレターゼ阻害の潜在的な副作用に関する懸念を生じ、そしてγ−セクレターゼ阻害剤であるSemagacestatの最近の失敗は、そのような懸念を強化する。BACEの場合は、非APP基質、例えばPSGL1またはLRPの阻害が、同様な懸念を生じる。
【0268】
したがって、最適なBACE阻害剤は、BACEではなくAPPに結合し、APP特異性のBACE阻害に繋がるものである(ASBI)。そのような治療剤はアルツハイマー病の治療剤で新規分類となる、すなわち、ASBIの分類である。
【0269】
本実施例に報告される、最初のASBIの特定に関するデータは、そのような取り組み方が実施可能であることを証明する。APP特異性のBACE阻害剤(ASBI)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のBACE切断を阻害するが、他の基質のタンパク質分解切断を阻害しない。ASBIアッセイにおいて448の臨床化合物(NCC 3364)を含む小規模の収集を検索することによって、1μMの投与量でASBIとして有効であった、シトラスフラボノイド配糖体であるルチンというバイオフラボノイドを特定した。バイオフラボノイド群のさらなる分析では、50μMの投与量でASBIと同様に作用する、ガランガル根茎からのバイオフラボノイドである、ガランギンという第2の分子を発見した。これらのバイオフラボノイドは、ADに対する疾患修飾治療剤の新規と考えられる分類の最初の成員を表す。
【0270】
本明細書に記載される、APP特異性のBACE阻害剤を特定し、特異的にAPP処理を調節する体内能力を評価する取り組み方の計画的な適用は、今まで報告されていないと考える。細胞モデルにおいてASBIとして作用する分子リード化合物を提供する、バイオフラボノイド栄養サプリメントを特定した。プロドラッグの取り組み方を介して、脳において増加している、このバイオフラボノイドのレベルが、ADネズミモデルにおいてAβ42の低下に繋がることが証明された。したがって、ASBIは、ADに対する治療剤の新規分類を表す。
【0271】
材料および方法
化合物
ルチン(ASBI−1)を、Sigma(cat # R5143,St.Louis,MO)から入手して、ガランギン(ASBI−2)を、Sigma(cat# 282200,St.Louis,MO)から入手して、プロガランギン(PG−1)を、合成した。
【0272】
ASBIアッセイ。
a)MBP−C125基質に対するBACE切断阻害用の化合物の評価、およびb)P5−P5’基質のBACE阻害剤候補の評価、の2部分を含む。
【0273】
a) MBP−C125切断アッセイ。
APPの125 C−末端残基(水中1μL/1mM)を有するマルトーゼ結合タンパク質のタンパク質構造物を、フラボノイド(100uM)15とともに培養した。次に、混合物に対してBACE(Sigma #B9059、BASE緩衝液中、5μlの3単位/ml)により、30分で切断を行った。0、10、20および30分後に反応混合物の2μLを凍結し、作成されたAPP−C99を特定するために、それぞれの時点に対して同時に定量を行った。定量は、抗Abeta受容ビーズ(AL275AC)を抗APP受容ビーズ(AL275AC)と交換し、抗体を2xのALPHALisa緩衝液と混合することによって変更されたPerkin Elmer ALPHALisaアミロイドアミロイドベータキット(AL275C)を使用し実行した。
【0274】
b)P5−P5’切断アッセイ。
100μMでのフラボノイドによる、蛍光基質P5−P5’のBACE切断の阻害を、Sigma−Aldrich(CS0010)製のβ−セクレターゼ(BACE1)活性検出キットおよび標準プロトコルを使用して測定した。
【0275】
プラスミド
pAPtag5−NRG1−β1構造体が、Carl Blobel博士の厚意によって提供された(Horiuchiら(2005)Dev.Biol.283:459−471)。BACE1構造体はMichael Willem博士およびChristian Haass博士から贈られたものである(Willemら(2006)Science 314:664−666)。pCMV5−Mint3、pMst−AβPP、pG5E1B−lucおよびpCMV−LacZ構造体が、Thomas Sudhof博士、Patrick Mehlen博士およびVeronique Corset博士の厚意により提供された(Cao(2001)Science 293:115−120)。pEF−N−FLAG−TAZ構造体が、Michael Yaffe博士およびIain Farrance博士の厚意により提供された。pcDNA3.1−APLP2−Gal4構造体は、以前に説明されている(Orcholskiら(2011)J.Alzheimer’s Dis.23:689−699)。
【0276】
細胞培養およびウェスタンブロット。
ヒトAβPP過剰発現チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(7W)がEdward Koo博士の厚意により提供された。プラスミド構築物はリポフェクタミン2000(インビトロゲン)を伴い一時的にHEK293Tまたは7W細胞に核酸導入された。ウェスタンブロット分が以前に記載されたように実施された(Swistowskiら(2009)J.Neurosci.,29:15703−15712)。簡潔に言えば、核酸導入の48時間後、細胞を採取し、NP−40細胞溶解緩衝剤(50mM TrisHCl,pH 8.0、150mM NaClおよび1%NP−40)内で溶解した。細胞溶解物を1X LDSローディングバッファー(インビトロゲン)および50mM DTTと混合し、100℃で10分間煮沸した。SDS−PAGEおよびエレクトロントランスファー後、ウェスタンブロッティングを抗APP抗体(β−CTFに対するCT15、Edward Koo博士の厚意により贈られた、全長APPおよびsAPPαに対する6E10(Covance))を用いて施された。30分間のTBS−Tween洗浄を二次抗体との培養後に行った。
【0277】
ニューレグリン1脱落分析
ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)−NRG1(pAPtag5−NRG1−β1)融合タンパク質をコード化するcDNA構築物を、全長野生型BACE1を伴いまたは伴わず、リポフェクタミン2000(インビトロゲン)を用いて、以前に記載のように、6穴フォーマット内のHEK293細胞に核酸導入した(Vassarら(1999)Science,286:735−741)。核酸導入後、培地をDMEM含有10%加熱不活性化ウシ胎仔血清に交換し、24時間培養した。SEAP作用を馴化培地において測定した。アルカリホスファターゼ活性の測定には、200μlの反応液(0.1Mグリシン、pH10.4、1mM MgCl
2,1mg/ml4−ニトロフェニルジナトリウム塩六水和物を含む1mM ZnCl
2、シグマ)が20μlの馴化培地に加えられた。吸収度は405nmで読み取った。両側スチューデントt−検定を用いて統計分析を行った。
【0278】
トランス活性化分析
HEK293T細胞を5つのプラスミド(1)pG5E1B−luc,0.3μg、(2)pCMV−LacZ,0.1μg、(3)pMst−APP(APP−Gal4)またはpcDNA3.1−APLP2−Gal4、0.3μg、(4)pCMV5−Mint3、1.0μg;(5)pEF−N−FLAG−TAZ,1.0μgと共核酸導入した。細胞を核酸導入後、48時間、0.2ml per well細胞培養溶解緩衝剤(Promega)においてし、それらのルシフェラーゼおよびβ−ガラクトシターゼ作用を、それぞれPromegaルシフェラーゼ分析キットおよびPromegaβ−ガラクトシターゼ分析キットによって決定づけた。ルシフェラーゼ作用は、核酸導入の効率性および転写への一般的効果について、対照へのβ−ガラクトシターゼ作用によって正規化された。核酸導入は80〜90%コフルエンシー(cofluency)でリポフェクタミン2000(インビトロゲン)を用いて6穴プレート内で行われた。
【0279】
表面プラズモン共鳴(SPR)試験。
カルボキシメチル化したデキストラン(CM−5)チップの4つのフロー細胞(FC1、FC2、FC3、FC4)の表面を、50mMのNaOH、1mMのHClの0.05%のH
3PO
4で順次、20mMリン酸ナトリウムpH7.4、125mM塩化ナトリウムで平行して、30μl/分の流速で、1分間、Biacore T−100(GE Healthcare)を使用し、洗浄した。3つの融合タンパク質を、20mMのリン酸塩、125mMの塩化ナトリウムpH7.4を使用し、アミンカップリングにより固定した。その3つのタンパク質は、マルトーゼ結合タンパク質(MBP)およびAPP細胞外ドメインの残基230−624(90−kDa)(FC4)を含む融合タンパク質であるMBP−eAPP
230−624、残基230−624(45−kDa)(FC2)のみを含むタンパク質であるeAPP
230−624および、チオレドキシン(TRX)ならびに細胞外ドメイン(20−kDa)(FC3)の残基575−624を含む融合タンパク質であるTRX−eAPP
575−624であった。タンパク質はLibeuら(2011), J.Alzheimer’s Dis.,25(3):547−566 Libeuら(2011)に説明された通りに生成された。フロー細胞FC1を対照として使用した。ガランギンをDMSO中の10mM溶液から1%DMSO、20mMリン酸ナトリウムpH7.4,125mM 塩化ナトリウム、0.05% Tween中の50μMまで希釈し、それから1.5倍で10段階希釈した。各希釈に対して結合トレースを記録し、結合フェーズは60秒であり、解離フェーズは240秒であった。各サイクルは20℃で行われ、流速は不変で20μl/分であった。追加の240秒の緩衝液フローは、60μl/分で細胞に亘って再生フェーズとして、化合物を完全にタンパク質から分離することを容易にするために適用した。センソグラムは、Biacore T100評価ソフトウェアを使用し、基準および緩衝液信号を減ずるによって取得された。結合曲線はPRISM(Graphpad Inc)でモデル化された。
【0280】
薬物動態学(PK)分析。
ガランギンおよびプロガランギンの頭脳浸透を標準PKで評価し、皮下(Sub−Q)注射で5匹の成体非トランスジェニックマウスに50μlの5mg/ml標準原液のジメチルスルホキシド(DMSO)中の化合物、または25gのマウスに対して、10mg/kgの投与量を与えた。注射を受けたマウスを、1、2、4、6および8時間の時点でケタミン/キシラジンで麻酔し、心穿刺で採血した。次にマウスを食塩水でかん流し、脳組織を切断しドライアイス上でスナップ凍結した。血液を3000rpmで、10分で遠心し、血漿上澄を取得した。血漿および右半脳を、Integrated Analytical Solutions(IAS,Berkeley,CA)へ、化合物の基準試料とともに、組織中と血漿中の化合物水準分析のために送った。化合物レベルは、LC−MS/MSアプローチで測定した。
【0281】
パイロット有効性テスト。
ガランギンおよびプロガランギン(PG−1)を、10%Solutol/15%DMSO/75%ポリエチレングリコール(Peg)に溶解した。各化合物について、10mg/mlの標準原液を調製し、毎日、14日間に、40mkdの投与量で、100μlの皮下注射を行った。ガランギン群およびプロガランギン群に5匹のPDAPPのADモデルJ20マウスがおり、9匹の媒体のみの処置を受けたJ20対照も使用した。治療の最後の日に、注射の2時間後、上記のようにネズミを麻酔し、血漿を取得するために採血し、脳組織を採取した。右半脳は、海馬および内嗅皮質を隔離するために詳細に切断し、これらの組み合わせた組織を、生化学的分析に使用した。残りの組織および血漿は、化合物水準分析のためにIASに送った。
【0282】
生化学。
Aβ1−42およびAβ1−40水準は海馬/内嗅皮質の組織を使用し測定した。簡単にいえば、凍結組織試料の重量を測り、5M guandine−HCl/50mM Tris、pH8中の20% w/v超音波分解生成物を調製した。超音波分解は、氷水中で試料の試験管を使用し、60Hzで4x5秒に、それから80Hzで3x5秒行った。次に試料は室温で3時間に回転し、アッセイ実行まで−20℃で凍結した。Invitrogen ELISAキットを、メーカーの指示に従い、Aβ1−40およびAβ1−42に使用した。
【0283】
結果
APP特異性のBACE阻害剤(ASBI)の特定。
ASBI特定のために、2基質試験法を使用し、一次高速大量処理スクリーニング(HTS)アッセイを準備した(
図3Aおよび3B)。以前報告された(Sinhaら(1999) Nature,402:537−540)BACE基質、すなわち、野生型APPのカルボキシ末端125に融合されたマルトーゼ結合タンパク質を含むMBP−C125 APP
695wt融合タンパク質を、一次基質として使用し、APPのBACE切断部位のP5−P5’残基より由来した市販のP5−P5’蛍光基質を二次基質として使用した。各基質は、96ウェルプレート形式で組み換えBACE(R&D(cat#931−AS−050)と培養した。MBP−C125基質は、BACE切断によるC−99生成物をAlphaLISAアッセイを用い、読み出しとして測定可能であった(
図3B)。P5−5’基質に対しては、BACE切断による蛍光の損失を読み出しとして使用した。ASBIはMBP−C125基質のBACE切断を阻害しながら、ASBIがどこでAPP基質を結合したかによって、必ずしも蛍光基質の切断を阻害する訳ではないであろうことが予想された。
【0284】
448化合物が含まれた臨床化合物収集の予備的なスクリーニングに基づいて、最初のスクリーニングでただ1つの化合物を特定できたため、当たる比率が非常に低いことを予想した。次に、さらなる開発のために検証された「ヒット」を特定するように、潜在的な「ヒット」に対して投与量応答曲線を作成した。HTSスクリーニングを、各候補に対して10μMの初期濃度で行った。448の市販臨床化合物の小規模の化合物収集を使用し初期スクリーニングを完了した。スクリーニングでは、一つのヒット(
図3A)をもたらし、バイオフラボノイドであるルチン(ASBI−1、ルトサイドとも呼ぶ)であると特定された。これは蕎麦に存在するシトラスフラボノイドグリコシドから得られる。このバイオフラボノイドは、SH−SY5Y細胞においてsAPPβを減少させ、APP特異的であることが示され、ルチンが特有にAPPのBACE切断に作用するという考えを支持する。次に、一連のバイオフラボノイド(
図4)を試験し、最初は細胞においてsAPPβ阻害の能力を試験した。別のバイオフラボノイドであるガランギンも特定され、ASBIのような挙動を有し、MBP基質のBACE切断を阻害しながら(
図4、菱形)、P5−P5’基質に対して阻害を示さない(
図4円形)。ガランギン(ASBI−2)は、ガランガル根茎に存在するフラバノールであり、一般的に栄養サプリメントとして使用される。
【0285】
細胞においてsAPPβおよびAPP処理に対してバイオフラボノイドASBIの作用。
APPは、2つの主要な経路で処理され、非アミロイド生成性経路はαセクレターゼ切断が係り、APPをsAPPαおよびα−CTF(C83)にタンパク質分解するが、アミロイド生成性経路は、β−セクレターゼ切断から始まり、APPをsAPPβおよびβ−CTF(C99)に切断する。次にβ−CTFはγ−セクレターゼにより切断され、AβおよびAICDを生成する。APPのβ−セクレターゼ処理を阻害する、ASBIの能力をAPPを発現するSH−SY5Y神経芽腫細胞において試験した。BACE切断精製物から形成されたsAPPβ断片をPerkin−ElmerのAlphaLisaアッセイ(Cat#A2132)を使用し測定した。初期スクリーニングにおけるルチンの発見後、1μMではSH−SY5Y細胞によるsAPPβの生成を僅かに阻害することを示した(
図5A)。一連のバイオフラボノイドを試験することによってガランギンがASBIとして特定された。ガランギンでSH−SY5Y細胞を処理すると、50μMで、同様にsAPPβレベルを低下させた。APPレベルに対しての効果は検出できなかった。
【0286】
バイオフラボノイドASBIはAPP−Gal4およびAPLP2−Gal4のトランス活性化を阻害する
APP−C31切断が細胞の死と関連する一方で、γ−セクレターゼ切断にしたがって生成されるAPP細胞内領域(AICD)は様々なシグナル伝達経路に関連づけられており、さらにKAI1、ネプリリシンおよびAPPそのものを含む多くの遺伝子発現を調整することが示されている(Hongら(2000)Science)。APP−Gal4/Mint3/TAZトランス活性分析(Maillardら(2007)J.Med.Chem.,50:776−781;Hardyら(1991)Trends Pharmacol.Sci.,12:383−388)が確立され、この分析を用いて、ASBIがAPP−Gal4トランス活性化を阻害するということが発見された(
図7)。この効果を確認するため、APPGal−4/Fe65トランス活性化分析が行われた。APP−Gal4トランス活性化におけるASBIの効果を試験した(
図7)。これらの結果は、ルチン(ASBI−1)およびガランギン(ASBI−2)がAPPおよび関連構成員であるAPP−Gal4トランス活性化の両方を阻害するということを示す。
【0287】
ASBIのAPPとの相互作用
ASBIのAPPとの相互作用についての探索ためにリガンドブロット技法を用い、そこではMBP−C125APPがニトロセルロースブロッタンド(blotand)上にドットブロットされ、バイオフラボノイドによる処理の際に、タンパク質への結合が検出された。ウシ血清アルブミン(BSA)によるニトロセルロースフィルター結合分析が対照として用いられた。UVおよびMALDI質量分光学分析の両方を用いてバイオフラボノイドの結合が決定された。これはタンパク質小分子相互作用の定性的測定であるが、ASBIがAPPに結合したことを確かに示す。
【0288】
次に表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、APPへの結合を実証し、さらにガランギンのAPPへの親和性を決定した。
【0289】
表面プラズモン共鳴(SPR)のスクリーニング:
APPの細胞外ドメインのための化合物の結合親和性をSPRを用いて決定した。APPの細胞外ドメインの断片への、化合物の親和性を測定する技法が開発された。ガランギンについて、結合実験法TRX−eAPP575−624が用いられた。eAPPをCM5ビアコアチップ(GEヘルスケア社)に架橋した。様々な濃度のガランギンがチップ上へ流入する形で用いられ、プラズモン共鳴信号がビアコアT100を用いて決定された(
図5B)。
【0290】
バイオフラボノイド ASBI処理がAD遺伝子導入マウスモデルにおけるAβを減少させる
マウスにおけるバイオフラボノイドであるルチンおよびガランギンの脳透過性が評価され、10mpkの皮下投与の後、低レベルのガランギン(1時間あたりCmax約50ng/g)が脳内で検出できた一方で、脳内でルチンは全く検出されなかったということが見出された(
図8)。ガランギンの脳レベルが高められうるのかを確かめるために、プロドラッグ(PG−1)が試験され、ガランギンの脳への伝達の向上(1時間あたりCmax約100ng/g)をもたらした。これらの薬物動態分析に基づき、ガランギンおよびプロガランギン(PG−1)をADマウスモデル、つまりPDAPP(J20)マウスにて試験することが決定された。
【0291】
40mpkでのガランギンによるJ20マウスの処理は、Aβ40のいくらかの減少を示す一方で、Aβ42は海馬および大脳皮質において変化がなかった。しかしながら、プロガランギンによる処理では、そのプロドラッグの処理時に見られるガランギンの脳レベルの上昇に一致する形でAβ40およびAβ42両方の減少を示す。これらの結果は併せて、バイオフラボノイドのガランギンが直接APPに作用し、APPのBACE切断は阻害するがニューレグリンおよびBACE標的ペプチドは阻害せず、BACE依存APP核信号を阻害し、さらにAD遺伝子導入マウスモデルにおいてAβ1−42を減少させるということを示す。
【0292】
考察
栄養剤として用いられ、新規機序β−セクレターゼ仲介APP処理を阻害する2つのバイオフラボノイド類似物が特定された。これらの分子はMBP−C125APP基質のBACE切断を阻害し、結果としてC99の生成の阻害をもたらすが、β−ペプチド基質(P5−P5’)の切断は阻害しない。さらに、これらのバイオフラボノイドは神経芽細胞腫SH−SY5Y細胞におけるsAPPβを減少させる一方で、ガランギンはニューレグリンBACE依存の切断を減少させることができない。さらに、この活動はMBP−C125基質との結合に関係があることが実証された。これらの知見はAPP処理を調節する新たな構造を定義する。
【0293】
本明細書に記載されるこの手法は、アルツハイマー病(AD)に対するプロテアーゼ阻害剤策略の重要な制限に対処し、例えばBACEまたはγ−セクレターゼ化合物のような既出の標的プロテアーゼの全ての基質の切断の阻害が回避されるような構造を提供する。Notchのような、APP以外のγ−セクレターゼ基質はγ−セクレターゼ阻害の副作用の潜在性への懸念を引き起こし、γ−セクレターゼ阻害剤およびセマガセスタットの近年の失敗はそのような懸念をさらに強めている。BACEの場合において、PSGL1およびLRPのような非APP基質が同様の懸念を招いている。そのため、最適なBACE阻害剤とは、BACEよりもむしろAPPと結合し、APP特異性のBACE阻害剤(ASBI)に至るようなものであろう。本明細書に記載されるそのような治療法は、アルツハイマー病治療の新たな分野を具現する。
【0294】
既知の2つのBACE基質が、免疫機能において重要である可能性が高い:それは白血球付着を仲介するP−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(Lichtenthalerら(2003)J.Biol.Chem.278:48713−48719)、および切断後に分泌され、免疫反応の阻害に関わる酵素であるシアリル−トランスフェラーゼST6GalI(Kitazumeら(2003)J.Biol.Chem.278:14865−14871)である。ST6GalIのみによって合成されるシアリル−アルファ−2,6ガラクトース残基のB−細胞特異的レクチン、CD22/Siglec−2との相互作用はB−細胞機能(同文献)にとって重要である。グリコシル化酵素を欠乏するマウスが通常に成長しているように見えるものの、加齢とともにわずかな神経異常を示すということは注目に値する。グリコシル化酵素を欠乏するマウスは音刺激によって誘導される壊滅的な聴覚原性発作を示す。この点において、BACE1ヌルのマウスの免疫抗原投与に対する反応についての報告書は現在のところ提出されていないという点に留意することは重要である。BACE1はAPP同族体、つまりAPLP2を処理するということもまた示されている;この同族体は、推測されるBACE1切断サイト周辺のAPPの配列特異性とは異なった配列特異性を有するが、しかしガランギンはBACEによるAPLP2の切断をも阻害した。APLP2タンパク質分解産物のレベルはBACE1欠乏マウスにおいて減少し、BACE1過剰マウスにおいて増加した(Pastorinoら(2004)Mol.Cell Neurosci.,25:642−649)。ADにおける病態修飾療法の甚大な必要性を鑑みるに、APP基質に特有のBACE阻害剤を開発するこの手法は新規であり、この疾患に対する有効な臨床候補となる可能性がある。
【0295】
ASBIを特定するためのHTS分析が設定された。この分析における448の化合物の臨床ライブラリーの一次審査は、P5−P5’基質の切断を防止しなかった一方でBACEのMSB−C125基質を明確に阻害したバイオフラボノイドの特定につながった。このバイオフラボノイド、つまりルチンも、細胞内におけるsAPPβの生成を阻害することが発見された栄養剤である。バイオフラボノイドの一群がその後に細胞培養内のASBIおよびsAPPβ分析において試験された。この試験から別のバイオフラボノイドおよびガランギンが特定された。ガランギンはASBI分析および細胞内において、APPのBACE切断を防止するのに効果的であった別の栄養剤である。単純なニトロセルロースフィルターリガンド結合分析を用いて、様々なバイオフラボノイドのMBP−C125基質との初期結合が実証された。バイオフラボノイドの一群がASBI分析において審査された。しかしながら、ルチンおよびガランギンのみがASBIとして有効であった(
図4)。ガランギンは細胞内のsAPPβレベルを調節し、APP基質への結合を示した(
図5)。興味深いことに、ガランギンはアセチルコリンエステラーゼの阻害剤であること(Guoら(2010) Chemico−Ciol.Interaction,187:246−248)、自食作用を誘導すること(Wenら(2012)Pharmacology,89:247−255)も報告されている。
【0296】
APPおよびAPLP2−Gal4でトランスフェクトされたHEK−293分析を用いて、バイオフラボノイドがAPPおよびAPLP2のBACE切断を阻害することが実証された(この分析の詳細についてはOrcholskiら(2011)J.Alzheimers Dis.,23(4):689−99を参照のこと)。Mint3およびTazとのトランスフェクションにおいてトランス活性化が達成された。ASBIはAPLP2−Gal4のトランス活性化ではなく、APP−Gal4のトランス活性化のみを阻害すると期待された。しかしながら、ガランギンはAPP−Gal4およびAPLP2−Gal4の両方を阻害した。そのため、ガランギンはAPPへの特有性というよりはむしろAPP族への特有性を示す;しかしながらAPLP2に由来したAβ類似断片の実証を鑑みるに、APPおよびAPLP2両方のBACE切断を阻害する能力は、APPのみの切断を阻害するよりも望ましいかもしれない(Eggertら(2004)J.Biol.Chem.279(18):18146−18156)。
【0297】
NTgマウスを用いた脳への取り込み分析におけるこれら2つのバイオフラボノイドの当初の薬物動態評価は、ルチンが血液脳関門を通過しないということを示した一方で、ガランギンは一定の脳通過を示しために、遺伝子導入(Tg)マウスモデルにおける概念実証研究のその評価が可能となった。その後ガランギンはそのAβ40およびAβ42におけるインビボ効果を評価された(
図7)。Aβレベルの減少はこの研究において非常に有望である。ガランギンのプロドラッグ(PG−1)を用いることでガランギンの脳レベルのさらなる上昇が可能であり、PG−1はインビボにおいてAβ40およびAβ42を減少させるのにガランギンよりも有効であるということが実証された。
【0298】
結論として、本研究はある特定のバイオフラボノイドがAPPに結合し、さらにAPPおよびAPLP2のBACE切断を阻害する能力を有することを示し、したがってそれらがAPPに特異的なBACE阻害剤として機能することを示す。これらは、BACEの直接阻害による潜在毒性を持たない、アルツハイマー病治療剤の新しい分類を体現する。そのプロドラッグ類似物としてのガランギン、つまりプロガランギン−1もADマウスモデルにおいてAβ40およびAβ42を減少させるのに効果的であることもまた示された。
【実施例2】
【0299】
ASBIとしてのプロガランギン
CNS曝露試験が行われ、ヘパリンプラズマおよび脳を回収するための経時的構造から構成された。10mg/kgでのガランギンまたはプロガランギン(化合物−2)の皮下投与の後、その化合物のプラズマおよび脳内レベルが定量LC/MS/MS法によって決定された。プラズマサンプルが内部標準を含むアセトニトリル:メタノール(1:1)混合物で沈殿された。脳サンプルが酢酸エチルに直接均質化され、または液−液法によって5Mグアニジン均等質から抽出された。結果として生じる浮遊物を、蒸発乾固させ、LC/MS/MS法分析に供した。各々の化合物に対して5匹のマウスを使用した。それから脳−プラズマ比およびプラズマ/脳最高血中濃度レベルが決定された(例および
図8を参照のこと)。
【0300】
実験の手順−化合物合成
5,7ジアセトキシフラボン:
5,7−ジヒドロキシ−2−フェニル−4H−クロメン−4−オン(5.00g、19.67mmol)をピリジン(1:5、42mL)中の無水酢酸の溶液に加え、さらにその反応混合物を常温で60時間攪拌した。その反応混合物をジエチルエーテル(100mL)で希釈し、濾過した。この固形物を追加のジエチルエーテル(3x50mL)で洗浄し、高真空下で乾燥し、4−オキソ−2−フェニル−4H−クロメン−5,7−ジイルジアセテート(6.40g、18.92 mmol、96%)を白い結晶性固体として得た。
1H NMR(400MHz、CDCl3)δ2.36(s、3H、CH3COO)、2.45(s、3H、CH3COO)、6.67(s、1H、H−3)、6.85(d、J=2Hz、1H、H−6)、7.36(d、J=2Hz、1H、H−8)、7.50(m、3H、H−3’、5’、H−4’)、7.84(dd、J=8Hz、2H、H−2’、6’);13C NMR(100HHz、CDCl3)δ21.2(q、CH3COO)、21.3(q、CH3−C=O)、108.7(d、C−3)、109.1(d、C−8)、113.7(d、C−6)、115.1(s、C−4a)、26.3(2×d、C−2’、6’)、129.2(2×d、C−3’、5’)、131.2(d、C−4’)、131.9(s、C−1’)、150.3(s、C−5)、154.0(s、C−7)、157.8(s、C−8a)、162.6(s、C−2)、168.1(s、CH3−C=O)、169.5(s、CH3COO)、176.5(s、C−4)。
【0301】
DMNOの調整:
3Lの、三つ口丸底反応フラスコに、高効率の機械的攪拌棒、固形物用の追加じょうご、および凝縮装置(30cm)を装着し、下方移動のために設置し、二口受容フラスコにつなぎ、後者のフラスコを、ドライアイス/アセトン溶液槽によって−78℃で冷却した。反応フラスコを、水(254mL)、アセトン(192mL)およびNaHCO3(58g)の混合物で充填し、氷/水槽の支援により、5〜10℃に冷却した。激しい攪拌と冷却を行いながら、固体OXONE(登録商標)(120g、0.195mol)を3分間隔で5回に分けて加えた。最後の追加から3分後、追加じょうごを栓で置き換え、フラスコに中程度の真空(80〜100mmHg)を適用した。冷却槽(5〜10℃)を反応フラスコから取り除き、激しく撹拌しながら、DMDO/アセトン溶液を蒸留し、冷却された(−78℃)受容フラスコに90分かけて収集した。受容フラスコを−20℃にまで暖め、K
2CO
3上で3時間乾燥した。DMDO溶液を乾燥した管に濾過し、使用まで−20℃で保管した。約130mlのDMDO溶液を回収した。DMDOの濃度は、0.2mLアリコートの乾燥したDMDO溶液をCDCl
3に溶かし、ジメチルジオキシラン(δ1.65における)メチルプロトン信号の高さとアセトン(0.5%)の右方の
13C衛星ピークのメチルプロトン信号の高さの比較によってNMRによって決定し、その結果0.05MのDMDO溶液となった。この分析は遅延なく行われなくてはならない。
【0302】
5,7−ジアセトキシ−3−ヒドロキシフラボン:
4−オキソ−2−フェニル−4H−クロメン−5,7−ジイルジアセテート(1.80g、5.32mmol)をDCM(32ml)中の乾燥粉末状4Å分子篩(1.80g)の懸濁液に加え、0℃まで冷却した。DMDO溶液(120ml、7.0mmol、1.32当量)を滴下した。結果として生じた溶液を0℃で3時間攪拌し、常温まで暖めさせ、その温度で48時間撹拌した。反応混合物をCELITE(登録商標)床上で無水硫酸ナトリウムの層を通して濾過し、揮発性物質を真空、周囲温度で除去し、粗製7−オキソ−1a−フェニル−7,7a−ジヒドロ−1aH−オキシレノ[2,3−b]クロメン−4,6ジイルジアセテート(約1.90g)油として得た。この油を次の段階に進めた。
【0303】
粗製反応混合物(約1.90g)を15mgのp−TSAを含むDCM(32ml)内で攪拌した。反応混合物はほぼ即時凝固した。反応混合物をCDM(20ml)で希釈し、2日間攪拌して、その段階でTLC分析は7−オキソ−1α−フェニル−7,7α−ジヒドロ−1αHオキシレン[2,3−b]クロメン−4,6ジイルジアセテートの消費を示した。反応混合物をシリカゲル上に吸着させ、フラッシュカラムクロマトグラフィー(クロロホルム溶離剤とする)を繰り返して、純粋でない3−ヒドロキシ−4−オキソ−2−フェニル−4H−クロメン−5,7−ジイルジアセテート(800mg)を得た。アセトン/ジエチルエーテル混合物からの再結晶によってさらなる精製が達成され、3−ヒドロキシ−4−オキソ−2−フェニル−4H−クロメン−5,7−ジイルジアセテート(660mg、1.86mmol、2段階で35%)を、クリーム色の固体として得た。この物質は水和物として単離された。さらに、微量のジエチルエーテルが、真空下の延長した乾燥の後の真空下でも除去できなかった。
【0304】
本明細書に記載される実施例および実施形態は例示説明の目的のみのものであり、様々な修正や変更が、それに鑑みて当業者に提言されること、およびそれらが本願の意図および範囲および添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書において引用されるすべての出版物、特許および特許申請は、その全体が参照により本明細書に援用される。