特許第6482705号(P6482705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6482705
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】塗布ノズル
(51)【国際特許分類】
   B05B 1/04 20060101AFI20190304BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B05B1/04
   B05C5/00 103
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-118713(P2018-118713)
(22)【出願日】2018年6月22日
【審査請求日】2018年8月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】特許業務法人 Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千依
(72)【発明者】
【氏名】勝野 智晶
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/073751(WO,A1)
【文献】 特開2014−155904(JP,A)
【文献】 特開2012−011284(JP,A)
【文献】 特開2004−330094(JP,A)
【文献】 特開平11−179243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00−3/18,
7/00−9/08
B05C 5/00−5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料が導入される導入通路と、前記導入通路の下端の開口から塗装方向に対して直角な幅方向に拡がり前記導入通路よりも幅広の空間容積を有する拡大通路と、前記拡大通路の下端の前記幅方向に沿って前記拡大通路に連通し前記拡大通路の下端の前記幅方向に対して直角方向の幅よりも狭い幅のスリット状の間隙であるスリット通路を内部に設けた塗布ノズルであって、
前記スリット通路は、前記塗料が吐出する弧状に延びたスリット吐出口とその反対側で前記拡大通路側から前記塗料が進入してくるスリット入口とを有し、前記スリット入口から前記スリット吐出口に向かって前記幅方向に拡大する幅広に形成され、前記スリット吐出口の円弧に対する曲率半径をR、前記スリット吐出口の円弧に対する弦長をLtとしたとき、RとLtの関係が、Lt/R×100(%)=70〜130であり、
前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角は、80°〜100°の範囲内であることを特徴とする塗布ノズル。
【請求項2】
前記塗布ノズルは、複数の構造体の組付けによって構成され、前記複数の構造体のうちの2つの構造体の間に前記スリット通路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の塗布ノズル。
【請求項3】
前記スリット通路の位置は、前記導入通路の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長線上とはずらした配置としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗布ノズル。
【請求項4】
前記スリット通路の前記スリット吐出口の開口は、前記幅方向に対して直角方向の幅を、前記幅方向の中央部で一定とし、前記中央部の両側から前記幅方向の両端に向かって徐々に狭くしていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の塗布ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に用いられる塗布型制振材等の高粘性塗料を被塗布体に吹き付けるスリット塗装に使用されて、高粘性塗料を被塗布体表面に吹き付けるための塗布ガンの先端に取り付けて高粘性塗料を噴出させる高粘性塗料用の塗布ノズルに関するもので、特に、塗布パターン幅が吐出量、塗装距離及び塗料温度による影響を受け難い塗布ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のフロアには、制振、防音のための制振材が敷設されるところ、近年の車体の燃費向上等を目的とした軽量化の要求により、従来の比重の重いアスファルトの貼付型制振シートに代わり、アクリル樹脂と無機粒子等を主成分とした高粘性塗料を車体に吹き付けて施工する塗布型制振材の適用が拡大しつつある。そして、このような制振用等の高粘性塗料の施工には、工程時間を短縮できる塗装ロボットによる自動化が進められており、その塗布工法として、例えば、特許文献1乃至特許文献3に示したように、ロボットアームで把持した塗布ガンの先端にスリット式の塗布ノズルを取付け、ポンプ等で高粘性塗料をスリット式の塗布ノズルまで圧送し、そのスリット式の塗布ノズルから高粘性塗料の圧で膜状(フィルム状)に吐出させて車体等の被塗装体に吹き付け塗装する手段が知られている。
【0003】
高粘性塗料を定量的に自動車の車体等の被塗装体に自動塗装する(吹き付ける)ための塗装設備について特許文献1及び特許文献2に開示された内容で説明すると、図8に示すように、スリット式の塗布ノズルNを装備する塗装設備50は、材料コンテナ51と、プランジャポンプ52と、フィルタ53と、レギュレータ54と、熱交換器55と、定量ポンプ56と、ロボットアーム57と、スリット式塗布ノズルNとを具備している。
材料コンテナ51は塗料を貯溜するものであり、プランジャポンプ52は塗料を塗装設備50の全体に充填し、圧送するものであり、フィルタ53は塗料に混入した異物を取り除くものであり、レギュレータ54は塗装設備50内の塗料の圧力を適切に保つためのものであり、熱交換器55は塗装設備50の塗料の温度を一定に保つためのものであり、定量ポンプ56はサーボモータによって駆動され、スリット式塗布ノズルNへの塗料の吐出量を調整するものであり、ロボットアーム57は塗布ノズルNを車体等の被塗装体に対し自在に移動させるものである。
【0004】
そして、このようにロボットアーム57を用いた自動塗装では、ロボットアーム57に把持されて先端にスリット式塗布ノズルNが取付けられた塗布ガンGを自在に移動させることで、被塗装体に対する塗布位置の制御を可能とし、また、塗布ガンG(スリット式塗布ノズルN)の移動速度の調節で塗布膜厚の制御を可能とする。
ここで、特許文献1乃至特許文献3に開示された従来のスリット式塗布ノズルの発明によれば、吐出口の幅よりも塗装パターン幅を広くしたいために、吐出角度を大きくする等によってノズルから吐出させる塗料をできるだけ幅方向に広げるようにし、ノズルから吐出する塗料が放射状に広げられて被塗布面に吹き付けられるものであった。このため、ノズルから吐出した塗料の広がりパターン、つまり、塗布パターン幅は、吐出口を通過する塗料の圧力に大きく依存する。そこで、従来は、圧力で制御している吐出量を変化させることで、塗布パターン幅の調整を行っていた。即ち、従来、塗布パターン幅は吐出量で制御していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−155904号公報
【特許文献2】特開2012−11284号公報
【特許文献3】特開平11−179243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1乃至特許文献3に開示された従来のスリット式塗布ノズルを用いての実際の塗布では、吐出量の変化による塗布パターン幅の変動が大きかった。それに加え、塗装距離や塗料温度(材料粘度)によっても塗布パターンが大きく変動した。
特に、特許文献1の技術においては、低吐出領域でのせん断速度を確保するために、ノズルの開口面積を小さくするものであるが、ノズルの開口面積を小さくすると、吐出口を通過する塗料の圧力が増すから、塗料粘度(塗料温度)及び塗装距離の変化による塗布パターン幅の変動が大きくなった。
また、特許文献2の技術においては、扁平率を下げることで、せん断速度を確保して塗膜表面を平滑化できるものであるが、吐出量及び塗装距離が塗布パターン幅に大きく影響した。
このため、従来のスリット式塗布ノズルを用いた塗布では、狙いとする所望の塗布パターン幅を得るための吐出量、塗料温度、塗装距離の微調整が難しく、また、高い精度での調整を必要とした。
【0007】
即ち、従来のスリット式塗布ノズルを用いた塗装では、狙いとする所望の塗布パターン幅に安定させるためには、精密できめ細かな(小さい単位の)吐出量、塗装距離、塗料温度の設定、調整を要し、一定の吐出量、塗装距離及び塗料温度とするための高い精度の塗布制御技術を必要とするものであった。即ち、吐出量や塗料温度のきめ細かな設定、調整と、それを一定に維持するための塗装設備50の高精度、高性能な機器、例えば、吐出量が安定している定量ポンプや、塗料温度を一定とする細かな調節を可能とする熱交換器等を必要とした。また、塗装距離を一定に維持するきめ細かな設定、調整のためのロボットについてもきめ細かな制御を要し、ロボットティーチング(教示)としてのプログラム入力機構も複雑であった。
【0008】
特に、自動車等の車両の制振、防音のための塗布型制振材等については、水平面だけでなく、凹凸面、曲面、垂直面に対しても適用がなされ、塗布型制振材用の高粘性塗料を塗布する際には、被塗装面と塗布ガンの間に相対的な位置変化が生じる。このため、塗布パターン幅の塗装距離依存性が高いほど、塗布パターン幅にバラつきが生じ易かった。塗装距離の一定化、即ち、被塗装面の形状に追従して塗装ガンの位置を変位させるにしても、被塗装面の位置形状の検出、ロボットアームの応答等といった極めて複雑な機構の高度な制御技術が必要となる。また、曲面形状等になると、ロボットアームの慣性力を考慮し、吐出量に関してロボットアームの移動の加減速と連動させる対応も必要となるから、制御が複雑化する。
【0009】
そこで、本発明は、吐出量、塗装距離及び塗料温度の影響による塗布パターン幅の変動を抑えて塗布パターン幅を安定化できる塗布ノズルの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明の塗布ノズルは、塗料が導入される導入通路よりも幅広の空間容積を有する拡大通路の下端の幅方向に沿って連通したスリット状の間隙であるスリット通路が、弧状に延び前記塗料が吐出するスリット吐出口とその反対側の前記拡大通路側のスリット入口とを有し、前記スリット吐出口の円弧に対する曲率半径をR、前記スリット吐出口の円弧に対する弦長をLtとしたとき、RとLtの関係が、Lt/R×100(%)=70〜130であるものである。
【0011】
上記導入通路は、定量ポンプ等の圧送手段で圧送されてきた塗料が入力される塗料の入力側であり、例えば、長手方向に延びる柱状に形成されて拡大通路に連通し、入力された塗料を拡大通路に導くものである。
上記拡大通路は、前記導入通路に連通して前記導入通路の下端の開口よりも幅方向に拡がり前記導入通路よりも幅広の空間容積を有するものである。ここで、上記幅方向とは、塗布ノズルの塗装方向(進行方向)に直角な方向である。上記拡大通路の形状は、特別問われるものではないが、通常、下方に向かって幅広に形成され、例えば、上から下に向かって幅方向を拡大する、即ち、上側が幅狭で下側が幅広とする略台形状とすることもできるし、上側が幅狭で下側が幅広とする略台形状のうち少なくとも下側を幅方向に延びる弧状に形成した略扇台形状とすることもできる。なお、上記塗装方向とは、被塗布面に対し塗膜を吹き付ける塗布ノズルの移動方向で、塗布ノズルから吐出された塗料が被塗装面(ワーク)に塗布される塗布膜の塗布線方向である。塗布ノズルの厚さ方向に相当する。
【0012】
そして、上記スリット通路は、前記拡大通路の下に連通し前記拡大通路の下端における前記幅方向に対する直角方向(塗装方向に対して並行方向、即ち、厚さ方向)の幅よりも狭い幅のスリット状の間隙であり、前記塗料が吐出する弧状に延びたスリット吐出口とその反対側の前記拡大通路側で前記拡大通路内の塗料が送り込まれるスリット入口とを有し、前記拡大通路からスリット入口に送り込まれてきた塗料が前記スリット吐出口から吐出する塗料の出力側である。
このスリット通路は、前記スリット吐出口の円弧に対する曲率半径をR、前記スリット吐出口の円弧に対する弦長をLtとしたとき、RとLtの関係が、Lt/R×100(%)=70〜130、好ましくは、Lt/R×100(%)=75〜125、更に好ましくは、Lt/R×100(%)=80〜123であるものである。
【0013】
ここで、上記スリット吐出口の円弧に対する曲率半径Rは、全ての領域で一定であることに限定されず、円弧形状が徐変されている場合には、即ち、楕円の円弧を含め曲率半径が変化している円弧の場合には、可変する曲率半径の最大値と最小値の平均をスリット吐出口の円弧に対する曲率半径Rとする。
また、上記スリット吐出口の円弧に対する弦長Ltとは、スリット吐出口の幅方向の両端点を直線で結んだ線分の寸法である。
そして、上記Lt/R×100(%)=70〜130とは、70≦Lt/R×100(%)≦130であることを意味し、Lt/Rの比率からすれば、Lt/Rの比率が0.7以上、1.3以下である。
【0014】
また、上記スリット吐出口の開口は、通常、塗装方向に対して直角方向の幅方向の幅(横幅)を幅広とし、塗装方向に対して並行方向の幅(縦幅)、即ち、前記幅方向に対して直角方向の幅(縦幅)を狭くした形状の吐出口である。
なお、上記スリット通路の形状は、少なくともスリット吐出口が弧状に延び、上記RとLtの関係が所定の範囲内の規定であればよいが、好ましくは、スリット入口側からスリット吐出口側に向かって幅広の形成、即ち、上側が幅狭で下側が幅広とする略台形状のうち少なくとも下側を幅方向に延びる弧状に形成した略扇台形状である。更に、前記拡大通路の下側が幅方向に延びる弧状に形成されていると、スリット通路は前記拡大通路の円弧に沿って配設されスリット入口が幅方向に延びる弧状に形成されることになる。なお、スリット入口が弧状に延びるものである場合、その円弧は、スリット入口の孤に対する曲率半径が一定の正円弧状(真円弧状)であってもよいし、曲率半径が可変する楕円弧状で円弧形状が徐変されていてもよい。更に、スリット吐出口の円弧に対する中心角とスリット入口の円弧に対する中心角が必ずしも一致していなくともよい。即ち、スリット吐出口とスリット入り口の関係は、それらの幅方向においてスリット吐出口とスリット入口の距離が一定であってもよいし、変化してもよい。
【0015】
ところで、上記塗布ノズルを用いた塗布に好適な前記塗料の粘度は、0.1Pa・s/20℃〜10Pa・s/20℃(せん断速度9400s-1/20℃)の範囲内の高粘性塗料である。塗料粘度が低すぎる場合、塗布ノズルのスリット吐出口から吐出する塗料の広がりが大きくなるから、特定のスリット形状に規定しても、吐出量(圧力)、塗料温度(粘度、流体抵抗)及び塗装距離(ガン距離)による塗布パターン幅の変動が大きくなる。一方で、塗料粘度が高すぎる場合、詰まりや塗料ムラが生じ易く塗布性に影響を及ぼすことになる。0.1Pa・s/20℃以上、10Pa・s/20℃以下(せん断速度9400s-1/20℃)の範囲内の高粘性塗料であれば、塗布ノズルのスリット吐出口から吐出する塗料の広がりが狭くなるから、吐出量(圧力)、塗料温度(粘度、流体抵抗)及び塗装距離(ガン距離)の影響により塗布パターン幅が変動することもなく安定した塗布パターン幅が得られ、また、塗布性を低下させることもない。より好ましくは、0.5Pa・s/20℃以上、5Pa・s/20℃以下(せん断速度9400s-1/20℃)の範囲内、更に好ましくは、1Pa・s/20℃以上、5Pa・s/20℃以下(せん断速度9400s-1/20℃)の範囲内の高粘性塗料である。
【0016】
また、前記塗料の吐出量の条件は、3000cc/分〜10000cc/分の範囲内が好ましい。スリット吐出口から吐出させる塗料の量が少なすぎる場合、パターン割れが生じやすくなる。一方で、吐出量が多いと、塗布圧力の増大によって塗布面に塗布された塗料の波打ち、シワの発生が起こり易くなり平滑性が損なわれる。前記塗料の吐出量が3000〜10000cc/分の範囲内であれば、塗料のパターン割れやシワが生じることなく平滑な塗膜の塗布を可能とし、良好な塗膜外観性を確保できる。より好ましい吐出量の条件は、6000cc/分〜10000cc/分の範囲内である
【0017】
請求項1の発明の塗布ノズルは、前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角、つまり、前記スリット吐出口の開度が、80°以上、100°以下の範囲内であり、好ましくは85°以上、95°以下の範囲内であるものである。
【0018】
請求項1の発明の塗布ノズルの前記スリット通路は、前記スリット入口から前記スリット吐出口に向かって幅方向に拡大する略扇台形状に形成されているものである。
ここで、上記略扇台形状とは、少なくとも1組の対辺が平行である台形において、平行関係にある互いに対向する1対の辺(上辺及び下辺)のうち、少なくとも長辺側(下辺側)の辺が曲率のある円弧に置き換えられた形状のものをいい、互いに対向する1対の辺(上辺及び下辺)の短辺側から長辺側に向かって幅広な形状である。
【0019】
請求項2の発明の塗布ノズルは、複数の構造体の組付けによって構成され、前記複数の構造体のうちの2つの構造体の間に前記スリット通路が形成されているものである。
ここで、上記複数の構造体の組付けによって構成とは、少なくとも2以上の別部材がねじやボルト等の接合手段で組付けられた構成でねじやボルト等の取外しによって分割されて分解可能であることを意味する。即ち、複数の構造体がねじやボルト等の取外しで分割可能に組付けられた構成である。2つの部材で構成し前記幅方向に対して直角な方向(塗装方向に対して並行方向、即ち、厚さ方向)で層状とする2層構造としてもよいし、3つの部材で構成する3層構造としてもよいし、それ以上の多層構造であってもよい。
【0020】
また、上記複数の構造体のうちの2つの構造体の間に前記スリット通路が形成は、塗布ノズルが2つの別部材の構造体で構成されているときは、その2つの構造体によって前記スリット通路を区画形成して2つの構造体間に前記スリット通路を形成する構成である。また、3つ以上の別部材の構造体で構成さていても、そのうちの2つの別部材の構造体によって前記スリット通路を区画形成して2つの構造体間に前記スリット通路を形成する構成である。2つの別部材間に前記スリット通路を形成することで、前記スリット通路の目詰まりが生じたときでも、前記スリット通路を形成している2部材に分解できることで目詰まりを容易に解消することが可能である。
【0021】
請求項3の発明の塗布ノズルの前記スリット通路の位置は、前記導入通路の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長線上からずれた配置としたものである。
上記スリット通路が前記導入通路の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長線上からずれた配置とは、前記導入通路の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長線上に配置した場合と比較して、前記塗料の流路を長くできるように前記導入通路と前記スリットの位置関係を規定したものである。
【0022】
請求項4の発明の塗布ノズルは、前記スリット通路の前記スリット吐出口の開口が、前記幅方向の中央部で前記幅方向に対して直角方向の幅が一定で、前記中央部の両側から前記幅方向の両端に向かって前記幅方向に対して直角方向の幅を徐々に狭くしたものである。
ここで、上記スリット吐出口の前記幅方向に対して直角方向の幅とは、塗布ノズルの塗装方向に対して並行な方向の幅、即ち、塗布ノズルの厚さ方向を意味する。また、上記幅方向とは、塗布ノズルの塗装方向に対して直角な方向である。
そして、上記スリット吐出口の開口の前記幅方向に対して直角方向の幅が、前記幅方向の中央部で一定で、前記中央部の両側から前記幅方向の両端に向かって徐々に狭くしたとは、スリット吐出口の前記幅方向の中央部に前記幅方向に対して直角方向の幅が一定の部分を設け、その前記幅方向に対して直角方向の幅が一定な中央部の両端側から前記スリット吐出口の幅方向の両端までは前記幅方向に対して直角方向の幅が徐々に小さくなるように変化していることを意味する。即ち、前記スリット吐出口の開口は、前記幅方向の中央部で前記幅方向に対して直角方向の幅が一定な所定幅を残して前記幅方向の両端に向かって徐々に前記幅方向に対する直角方向の幅を小さくしたものである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明の塗布ノズルによれば、塗料が導入される導入通路の下に、前記導入通路の下端の開口よりも幅方向に拡がった前記導入通路よりも幅広の空間容積を有する拡大通路が前記導入通路に連通して形成され、更に、前記拡大通路の下端の幅方向に沿って前記拡大通路に連通したスリット状の間隙としてスリット通路が設けられている。そして、前記スリット通路は、前記塗料が吐出する弧状に延びたスリット吐出口とその反対側の前記拡大通路側のスリット入口とを有し、前記スリット吐出口の円弧に対する曲率半径をR、前記スリット吐出口の円弧に対する弦長をLtとしたとき、RとLtの関係が、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内とされている。
【0024】
請求項1の発明の塗布ノズルによれば、スリット吐出口の円弧に対する曲率半径Rとスリット吐出口の円弧に対する弦長Ltの関係を、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリットの形状により、スリット吐出口から吐出した塗料の幅方向への広がりが狭くて幅方向への拡散の度合いが小さいものとなる。即ち、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリットの形状によれば、スリット吐出口の開口面に対し略垂直方向に吐出した塗料の幅方向の拡散が抑えられ、スリット吐出口から吐出した塗料の走向が被塗布面側に向かって放射状に拡がり難く、直進に近い走向となる。よって、塗装距離(ガン距離)による塗布パターン幅のばらつきが小さいものとなる。
【0025】
また、このようにスリット吐出口の円弧に対する曲率半径Rとスリット吐出口の円弧に対する弦長Ltの関係を、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリットの形状によれば、スリット吐出口から吐出した塗料の拡散の度合いが小さいものであるから、スリット吐出口から吐出した塗料の塗布パターン幅が、スリット吐出口から塗料が吐出するときの圧力や流体抵抗を受け難くなる。即ち、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリットの形状によれば、スリット吐出口から吐出した塗料の幅方向への広がりが狭いものであるから、圧力で制御される吐出量を変化させても塗布パターン幅が変動し難く、また、塗料温度、塗料粘度を変化させても、塗布パターン幅は変動し難い。
こうして、請求項1の発明の塗布ノズルによれば、吐出量、塗装距離及び温度の影響による塗布パターン幅の変動が抑えられ、塗布パターン幅を安定化させることができる。
【0026】
請求項1の発明の塗布ノズルによれば、前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角が、80°〜100°の範囲内である。
ここで、前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角が小さ過ぎると、例えば、50〜100mmの所定の塗布パターン幅を確保することができずパターン幅が不足し易い。一方で、前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角が大き過ぎると、スリット吐出口から吐出する塗料の拡散の程度が大きくなり、パターン割れが発生することがある。また、塗布パターン幅に関し前記スリット吐出口から吐出するときの塗料の圧力、流体抵抗等への依存が大きくなり、吐出量、塗装距離及び塗料温度による塗布パターン幅の変動が大きくなることがある。
よって、前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角が、80°〜100°の範囲内であれば、パターン割れを生じさせることなく、また、吐出量、塗装距離及び塗料温度による塗布パターン幅の変動を極めて小さくし、より安定的に所定のパターン幅を確保できる。より好ましくは、前記スリット通路の前記スリット吐出口の円弧に対する中心角が、85°〜95°の範囲内である。
【0027】
請求項1の発明の塗布ノズルによれば、前記スリット通路は、前記スリット入口から前記スリット吐出口に向かって前記幅方向に拡大する幅広に形成されているから、スリット入口からスリット吐出口に向かって塗料が広げられることで、例えば、50〜100mmの所定の塗布パターン幅を確保でき、また、塗布膜の薄膜化が可能であり、過剰な塗布を防止できる。
【0028】
請求項2の発明の塗布ノズルによれば、前記塗布ノズルは、複数の構造体の組付けによって構成され、前記複数の構造体うちの2つの構造体の間に前記スリット通路が形成されているから、スリット通路に異物が混入して目詰まりし塗布パターンに乱れが生じた場合でも、2つの構造体に分割して容易に異物を取り除くことができる。よって、請求項1に記載の効果に加えて、メンテナンスが容易であり、安定して所定幅の塗布パターンを確保できる。特に、3つ以上の別部材の構造体の三層構造である場合、前記スリット通路を区画する2つの構造体の前記スリット通路を形成する壁面が摩耗により部分的に消耗されたときでも、前記スリット通路を区画する2つの構造体を交換するのみで良いから、低コストで済む。更に、前記スリット通路を区画する2つの構造体のみ摩耗に強い材料で構成し、その他の構造体は安価な材料を使用することもできるから、低コスト化が可能である。
【0029】
請求項3の発明の塗布ノズルによれば、前記スリット通路の位置は、前記導入通路の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長線上とはずらした配置であるから、前記導入通路の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長線上に配置した場合と比較して、塗料の流路を長くできるため、前記導入通路から前記スリット通路の前記スリット入口に送り込まれる塗料の流速分布のばらつきを縮小できる。したがって、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、スリット吐出口から吐出する塗料の平滑性の向上を可能とする。
【0030】
請求項4の発明の塗布ノズルによれば、前記スリット吐出口の開口を、前記幅方向の中央部で前記幅方向に対して直角方向の幅が一定で、前記中央部の両側から前記幅方向の両端に向かって前記幅方向に対して直角方向の幅が徐々に狭くしているから、前記スリット吐出口の前記幅方向の中央側では前記塗料が厚く吐出し、前記幅方向の両端側では前記塗料が薄く吐出する。よって、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、塗布膜の幅方向の端部側で重ね塗りをしたときでも、その重ね塗りした部分の厚みの増大が抑えられる。特に、スリット吐出口の円弧に対する曲率半径Rとスリット吐出口の円弧に対する弦長Ltの関係を、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリットの形状により、前記スリット吐出口から吐出した塗料の幅方向の塗料の拡散が抑えられることで、被塗布面に塗布された塗布膜の幅方向で塗料ムラが生じ難い。このため、塗布膜の幅方向の端部側で重ね塗りをしたときでも、塗布膜の平滑性に優れ、塗布された膜厚の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は本発明の実施の形態に係る塗布ノズルを用いて高粘性塗料を塗布する状態を模式的に示す全体斜視図である。
図2図2は本発明の実施の形態に係る塗布ノズルの平面図である。
図3図3は本発明の実施の形態に係る塗布ノズルを塗料吐出側から見た正面図である。
図4図4は本発明の実施の形態に係る塗布ノズルの図2に示すA−A断面図である。
図5図5は本発明の実施の形態の実施例1〜実施例3に係る塗布ノズルについてその要部を比較して示す平面図である。
図6図6は本発明の実施の形態に係る塗布ノズルから吐出した塗料の拡がり状態を実施例3と比較例1(従来品)との比較で説明する模式図である。
図7図7は本発明の実施の形態に係る塗布ノズルを用いて塗布された塗布膜について、幅方向の端部で塗り重ねたときの状態を示す塗布膜の断面図である。
図8図8はスリット式の塗布ノズルを装備した塗装設備の全体構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する部分及び機能を意味するものであるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0033】
本実施の形態の塗布ノズル10は、外装部11A及び内装部11Bからなる本体部11と蓋部12とで形成され、全体の構成が下方の先端側に向かって幅広とされた略扇台形状である。本体部11の外装部11Aは、全体が略扇台形状であるが、塗料導入側の基端部側の方(上方)の方が厚く形成され、その下方の先端部側(孤状側)が薄く形成されて、断面が逆L字状を呈している。本体部11の内装部11Bは、全体が略扇台形状の平板状に形成されて外装部11Aにおいて厚みが薄く形成された下部側(先端部側)に配設されている。更に、その内装部11Bの反外装部11A側の片面側には全体が略扇台形状の蓋部12が配設されている。即ち、塗布ノズル10の下部側は外装部11Aと蓋部12の間に内装部11Bが介在している。そして、これら外装部11Aと内装部11Bと蓋部12は4本の埋め込みビス28で固定されている。つまり、外装部11Aに対し、その厚みが薄く形成された下部側に平板状の内装部11B及びそれに重ねて蓋部12があてがわれて埋め込みビス28によって取付けられ、全体が略扇台形状の厚板状を呈している。図4で示した断面図でみると、外装部11Aにおいて段差の形成によって厚みが薄くされた凹領域(切欠部)に対して、平板状の内装部11Bがあてがわれて取付けられ、更に、内装部11Bの後述する貫通孔22を囲む上側及び左右側に対して、蓋部12の後述する凹領域の切欠部22cを除く厚みが厚い凸領域である上側及び左右側があてがわれて取付けられている。こうして、図4で示したように、外装部11Aにおいて厚みが薄くされた凹領域(切欠部)に内装部11B及び蓋部12が収められるが、蓋部12はその一部が本体部11側から突出し、塗布ノズル10の塗装方向に並行する片面側は段差面を有する。なお、図1において、埋め込みビス28による固定は、蓋部12の上方で左右2箇所及び下方で左右端部側の2箇所の計4箇所に対応する箇所での取付けであるが、図2乃至図5において、埋め込みビス28等の図示は省略している。
【0034】
ここでの扇台形状とは、1組の対辺が平行である台形において、平行関係にある互いに対向する1対の辺(上底及び下底)のうち、少なくとも1本の辺が曲率のある円弧に置き換えられた形状のものをいう。
そして、本実施の形態の塗布ノズル10の全体は、線対称な等脚台形において、平行な2本の対辺(底辺)のうちの長辺側(下底側)の辺が曲率のある円弧に置き換えられた略扇台形状である。また、外装部11A、内装部11B、蓋部12の各部材の全体形状についても、線対称な等脚台形において、平行な2本の対辺(底辺)のうちの長辺側(下底側)の辺が曲率のある円弧に置き換えられた略扇台形状である。なお、下辺の円孤は、塗布ノズル10の下方に凸状に湾曲する曲率の円弧状であり、塗布ノズル10の幅方向の中央側が凸の頂上(最下部)である。
【0035】
こうして本実施の形態の塗布ノズル10は、外装部11A、内装部11B及び蓋部12の複数の別部材である構造体の組付けによって構成されたものであり、埋め込みビス28の着脱によって分解及び組立てが自在である。よって、塗布ノズル10内で高粘性塗料Pが詰まった場合でも、それらの分解、洗浄によって容易に目詰まりを解消することが可能である。
【0036】
そして、このように外装部11A及び内装部11Bからなる本体部11と蓋部12から構成された本実施の形態の塗布ノズル10の内部には、高粘性塗料Pが通過する内部空間の通路として、本体部11の基端部側において高粘性塗料Pが導入される導入通路21と、導入通路21の下側に配設した拡大通路22と、塗布ノズル10の幅方向に対して直角方向の厚さ方向の一端部側(塗装方向に対して並行方向の一端部側)で拡大通路22の下側に配設したスリット通路23とを有する。
【0037】
導入通路21は、本体部11を構成する外装部11Aの基端部側の内部においてその幅方向の中央側に略円柱状に形成された空間であり、塗布ノズル10に対して高粘性塗料Pを供給する略円柱状の導入管31が接続されて、導入管31から高粘性塗料Pが導入される。なお、この導入通路21は、外装部11Aの基端部側の幅方向の中央側で下の拡大通路22側に向かう貫通孔として形成され、その内周面には雌ねじ31aが螺設してあり、この雌ねじ31aと導入管31の外周囲に螺設された雄ねじ31bが螺合することで、本体部11の外装部11Aの基端部側に導入管31が取付けられ、塗布ノズル10が導入管31の先端に固定されることになる。これより、導入管31に所定圧力で送り込まれた高粘性塗料Pは塗布ノズル10の導入通路21に導入されることになる。
【0038】
導入通路21から連続する拡大通路22は、外装部11Aにおいてその下方(先端部側)で略扇台形状に形成された凹部22aと、その凹部22aに対応して内装部11Bにおいてその幅方向中央側で略扇台形状に形成された貫通孔22bと、蓋部12においてその内面側、即ち、内装部11B側との対向側で、段差形成によって略扇台形状に切欠かれた凹領域の切欠部22cとにより構成されている。この拡大通路22は、導入通路21の下端の開口よりも幅方向に拡がり、更に、塗布ノズル10の下方に向かって、即ち、塗布ノズル10の弧状の先端部側に向かって幅広とされて導入通路より21も幅広い空間容積を有する略扇台形状を呈する空間である。本実施の形態の塗布ノズル10の全体は、上述したように、線対称な等脚台形において、平行な2本の対辺(底辺)のうちの長辺側(下底側)の辺が曲率のある円弧に置き換えられた略扇台形状であるが、拡大通路22についても、線対称な等脚台形において、平行な2本の対辺(底辺)のうちの長辺側(下底側)の辺が曲率のある円弧に置き換えられた略扇台形状である。なお、下辺の円孤は、塗布ノズル10の下方に凸状に湾曲する曲率の円弧状であり、塗布ノズル10の幅方向の中央側が凸の頂上(最下部)である。
【0039】
更に、この拡大通路22に対し、蓋部12側であって、内蓋部11Bとの間には、拡大通路22よりも極めて狭いスリット通路23のスリット入口23bが開口していることにより、拡大通路22の下に内装部11Bの貫通孔22bの弧状に沿うように略扇台形状のスリット通路23が設けられている。
【0040】
このスリット通路23は、高粘性塗料Pが吐出される略円弧状のスリット吐出口23aとその反対側の拡大通路22側で所定深さに位置する略円弧状のスリット入口23bとを有し、先端部側に向かって幅方向が拡大する略扇台形状の拡大通路22に対し、その幅方向に拡大する延長方向にスリット入口23b側からスリット吐出口23a側に向かって弧状に延びる幅方向が拡大している。なお、スリット吐出口23a及びスリット入口23bは共に、塗布ノズル10の下方に凸状に湾曲する曲率の円弧状であり、塗布ノズル10の幅方向の中央側が凸の頂上(最下部)である。
【0041】
即ち、スリット通路23は、本体部11及び蓋部12で構成される塗布ノズル10の略扇台形状の下端部の幅方向に延びる円弧に沿って、本体部11の内装部11B側と蓋部12との間に形成された幅方向に細長いスリット状の間隙である。詳細には、スリット通路23は、拡大通路22の下端の弧状側であって塗布ノズル10の厚さ方向の一端部側、即ち、蓋部12側で拡大通路22の下に位置しており、内装部11Bに対向する蓋部12の内面側に形成された略扇台形状の切欠部22c側と、内装部11Bの円弧側の下端部との間に設けられて塗布ノズル10の円弧側の先端部側で弧状に所定幅延びる略円弧状を呈する空間である。なお、スリット吐出口23a及びスリット入口23bが共に弧状であるから、スリット通路23の全体形状は、略円弧状と云うこともできるし、スリット入口23bからスリット吐出口23aに向かって幅広としているから、線対称な等脚台形において、平行な2本の対辺(底辺)の両辺(上底及び下底)が曲率のある円弧に置き換えられた略扇台形状と云うこともできる。
【0042】
念のため、図2に示すように、弧状に延びるスリット吐出口23aの幅方向の両端をb1,b2としたとき、スリット通路23は、弧状に延びるスリット入口23bの中央側の弧の曲率半径よりもスリット吐出口23aの弧(孤b12)の曲率半径Rが大きく、スリット入口23b側からスリット吐出口23a側に向かって幅広とされているから、換言すれば、スリット吐出口23aの弧(孤b12)に対する中心点C1に向かって、スリット吐出口23a側からスリット入口23b側に向かって収斂していると言える。そして、スリット吐出口23aの弧(孤b12)に対する中心角をθとすると、スリット通路23のスリット吐出口23aは、開き角度θ(開度θ)で拡がっている。
【0043】
こうして、本実施の形態の塗布ノズル10においては、高粘性塗料Pが導入される導入通路21が内部に設けられ全体が略扇台形状の外装部11A及び内装部11Bからなる本体部11と、本体部11の幅方向に拡がる弧状側で本体部11に対して取付けられた全体が略扇台形状の蓋部12とから構成され、外装部11A及び内装部11Bからなる本体部11の内壁面及び蓋部12の内壁面の区画によって、導入通路21の下に導入通路21に連通して導入通路21の下端の開口よりも幅方向に広がり導入通路21よりも幅広い空間容積を有する略扇台形状の拡大通路22が形成され、また、本体部11の内装部11Bと蓋部12の間に、拡大通路22の弧状側の下で拡大通路22に連通して本体部11及び蓋部12の円弧に沿って配設されたスリット状の間隙である略円弧状を呈するスリット通路23が形成されている。
【0044】
したがって、ロボットアーム57(図8参照)に挟持された塗布ガンGから導入管31に所定圧力で送り込まれた高粘性塗料Pは、塗布ノズル10の導入通路21に導入され、導入通路21から拡大通路22へと導かれる。
ここで、拡大通路22は、導入通路21の下端の開口よりも幅方向に広がり導入通路21よりも幅広い空間容積を有し、拡大通路22の先端部側では本体部11の内装部11Bと蓋部12の間に、拡大通路22よりも極めて狭いスリット通路23のスリット入口23bが開口しているも、拡大通路22の下端の厚さ方向はスリット入口23bの開口よりも十分に大きな寸法である。即ち、スリット通路23の幅方向に対して直角方向(厚さ方向)の幅は、拡大通路22の下端の幅方向に対して直角方向(厚さ方向)の幅よりも極めて幅狭である。
【0045】
よって、導入通路21から拡大通路22内へ導かれた高粘性塗料Pは、拡大通路22にて先端部側に向かって幅方向に拡がるから、流速を落としつつスリット通路23のスリット入口23bに送り込まれることになる。このとき、導入通路21から拡大通路22内に導かれた高粘性塗料Pの流路が広がるも、高粘性塗料Pを吐出する出口(スリット吐出口23a)に向かってはスリット通路23によって流路が狭まるから、導入通路21からの高粘性塗料Pは拡大通路22内で一時的に滞留することになる。このため、この拡大通路22にて高粘性塗料Pの内部圧力が解放されやすくなり、内部圧力や粘度の偏りが均一化されて、スリット入口23bに高粘性塗料Pが押し出されることになる。よって、スリット通路23のスリット吐出口23aからは、圧力の偏りを少なくして高粘性塗料Pを吐出できるから、塗料ムラを防止でき塗布膜PLをその平滑性が良好なものとする。即ち、導入管31に送り込まれた高粘性塗料Pに圧力分布、流速、粘度等にばらつきがあっても、拡大通路22にてそれらのばらつきを補正でき、塗布膜PLの平滑性の安定化を図ることができる。
【0046】
特に、本実施の形態の塗布ノズル10においては、図3及び図4で示したように、スリット通路23が、本体部11を構成する外装部11Aの内部に設けた導入通路21の下端を拡大通路22に向かって軸方向(鉛直方向)に延ばした延長上に配置されているものではなく、長手方向に延びる導入通路21の長手方向の延長上からずれた位置にスリット通路23が配置している。即ち、導入通路21の長手方向の延長上からずれた位置の拡大通路22の円弧側でスリット通路23のスリット入口23bの開口が存在する。
【0047】
このため、導入通路21に導入された高粘性塗料Pが鉛直方向に直進的にスリット通路23のスリット入口23bに流下、流通することはなく、その流れの向き(方向)が変化して流下しやすくなる。即ち、導入通路21の長手方向の延長上にスリット通路23を設けた場合と比較して、導入通路21からスリット通路23に向かう高粘性塗料Pの軌跡を長くして抵抗を受け易くできる。このため、導入通路21の長手方向の延長上にスリット通路23を設けた場合と比較して、導入通路21からスリット通路23に向かう高粘性塗料Pが減速し易くなり、流速分布のばらつきを縮小できる。よって、拡大通路22内で内部圧力や粘度の偏りの均一化がより促進され、導入管31に送り込まれた高粘性塗料Pに圧力分布、流速、粘度等にばらつきがあっても、より塗料ムラが防止され、塗布膜PLの平滑性を向上させることが可能である。更に、高粘性塗料Pの減速によって、スリット通路23のスリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの拡がりを抑え幅方向の拡散の程度を小さくすることも可能である。
【0048】
また、本実施の形態の塗布ノズル10においては、略扇台形状を呈する拡大通路22の下部の円弧側、特に、スリット通路23のスリット入口23bに高粘性塗料Pを送り込む内装部11Bの貫通孔22bの下部の円弧において、その幅方向の両端部側のコーナが角を持たず面取した形状(R状にカーブした形状)である。換言すると、弧状に延びるスリット入口23bの円弧は曲率半径が一定でなく徐変されており、スリット通路23におけるスリット入口23bとスリット吐出口23aの間隔は、幅方向の両端部側で拡大している。
これより、スリット通路23の幅方向の端部側では、スリット通路23を通過する高粘性塗料Pが、幅方向の中央側と比較してより大きな抵抗を受け流速が減速することになるから、スリット通路23のスリット吐出口23aの幅方向の両端部側から吐出する高粘性塗料Pが遠くまで吐出され難くなり、スリット通路23のスリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの拡がりを抑え幅方向の拡散の程度を小さくすることができる。
【0049】
更に、本実施の形態のスリット通路23のスリット吐出口23aの開口形状、即ち、高粘性塗料Pを吐出する吐出口の形状は、図3に示したように、その幅方向の中央側の開口が広く、幅方向の端b1,b2側に向かって開口が徐々に小さくなる形状である。なお、スリット吐出口23aの開口は幅方向に左右対称形状であり、スリット吐出口23aの図示しない左右対称線は、導入通路21の下端開口の図示しない左右対称中心線と一致する。
ここで、スリット吐出口23aの幅方向をスリット横幅Lとし、そのスリット横幅Lの開口寸法(長さ)をスリット横幅Ltとすると、スリット横幅Ltは、円弧状に形成されたスリット吐出口23aの孤b1,b2を結ぶ直線距離の弦長に該当する。
【0050】
そして、スリット横幅Lに対して直角方向の厚み方向(塗装方向に対して並行方向)の開きをスリット縦幅Wとしたとき、スリット吐出口23aの幅方向の中心位置から両側にスリット横幅Ltの約1/3程度の長さの範囲の中央部23aaでは、スリット横幅Lに対して直角方向のスリット縦幅Wの開口寸法(長さ、間隔、隙間)が一定のスリット縦幅W1となっており、矩形状を呈している。一方、スリット縦幅W1が一定の中央部23aaの両側の端部23abは、スリット吐出口23aの幅方向の端b1,b2側に向かって、スリット縦幅Wの開口寸法が徐々に小さく変化しており、スリット吐出口23aの幅方向の端b1,b2では、スリット縦幅Wの開口寸法が最も小さいスリット縦幅W2となっている(W1>W2)。
【0051】
即ち、図3に示したように、スリット吐出口23aの幅方向の中心から両側にスリット幅Ltの約1/3程度の長さの範囲では、スリット吐出口23aを構成する幅方向に延びる対向辺が平行で対向辺の間隔が一定、つまり、スリット縦幅Wの長さが一定であり、その部分を中央部23aaとしている。なお、中央部23aaにおけるスリット縦幅Wの長さをスリット縦幅W1とし、スリット横幅Lの長さをスリット横幅L1としている。図3おいて、中央部23aaの幅方向の両端はa1,a2とする。
また、スリット吐出口23aの幅方向の左右両側(中央部23aaの外側)では、スリット吐出口23aを構成する幅方向に延びる対向辺のうち直線的に幅方向に延びる内装部11B側の辺に対し、それに対向する蓋部12側の辺が端a1,a2から端b1,b2に向かって内装部11B側の辺に近づくように傾斜して対向辺の間隔がa1,a2側から端b1,b2に向かって徐々に狭くなっており、その部分を端部23abとしている。なお、端部23abの端b1,b2におけるスリット縦幅Wの長さをスリット縦幅W2とし、端部23abのスリット横幅Lの長さをスリット横幅L2としている。スリット縦幅W1はスリット縦幅Wの最大開口寸法であり、スリット縦幅W2はスリット縦幅Wの最小開口寸法である。
【0052】
なお、スリット横幅Lの開口寸法はLt=L1+2L2であり、本実施の形態においては、L1>L2である。これにより、幅方向で塗布膜PLを塗り重ねるときでも過剰な塗布を必要とせずに膜厚を均一化できる。念のため、上述したようにスリット横幅Ltは、円弧状に形成されたスリット吐出口23aの孤長ではなく、孤b1,b2を結ぶ直線距離、即ち、孤b1,b2の弦長を示すものである。
【0053】
このように、本実施の形態のスリット吐出口23aの開口形状は、幅方向の中央側でスリット縦幅Wが一定の中央部23aaを設け、その幅方向の両側a1,a2から両端b1,b2まではスリット縦幅Wが変化して端b1,b2に向かって徐々に小さくなる端部23abを設けている。
これより、図7に示したように、塗布ノズル10において高粘性塗料Pの吐出口であるスリット吐出口23aの幅方向の中央部側からは高粘性塗料Pが厚く吐出され、幅方向の両端側に向かって次第に高粘性塗料Pが薄く吐出される。即ち、スリット吐出口23aの幅方向の中央側においては高粘性塗料Pが略一定の厚さで吐出されるのに対し、幅方向の両端側では端に向かって徐々に薄い厚みで吐出される。したがって、所定の列の塗布を終え、塗布膜PLの幅方向で端を重ねて(横継して)次の列を塗布する際に、高粘性塗料Pの厚さが薄く変化する部分同士が重なるように重ね塗りを行えば、重ね塗りした部分が不必要に厚く突出して盛り上がることなく、厚さが一定の中央側に比して重ね塗りした部分で厚みが増大するのを抑制できる。よって、塗装された塗布膜PLの凹凸を少なくして平坦化でき、膜厚の均一化を図ることができる。特に、被塗布面40の凹凸面に塗布する際に凸部で塗り重ねたときでも、その塗り重ねた部分の厚みの増大が少ないことで、重ね塗りした部分が他部品と干渉し難い。好ましくは、スリット縦幅W2をスリット縦幅W1の0.4〜0.6倍の範囲内とすることで、重ね塗りした部分とそれ以外との膜厚の差をより小さくできて塗装された塗布膜PLの平坦性に優れる。
【0054】
ここで、本発明者らはガン距離、吐出量及び温度の変化による塗布パターン幅PWの変動を小さくするために、種々の形状、構成の塗布ノズルを試作して高粘性塗料Pの塗布実験を行ったところ、弧状のスリット入口23bから弧状のスリット吐出口23aに向かって幅方向の寸法が拡大する形状のスリット通路23について、スリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの拡散度合いに着目した。そして、スリット通路23について、その幅広側のスリット吐出口23aの弧状の曲がり度合(曲率)とスリット吐出口23aのスリット横幅Lの開口寸法であるスリット横幅Lt、即ち、スリット吐出口23aの両端b1,b2を結ぶ円弧b12の弦長Ltとの関係が所定の範囲内であれば、スリット吐出口23aの開口面から垂直方向に放出した高粘性塗料Pが放射状に幅方向に広がるのが抑えられ、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向への拡散度合いを小さくして被塗布面40に高粘性塗料Pを吹き付けることができることで、塗布パターン幅PWの塗装距離h(ガン距離h)依存性、吐出量依存性及び温度依存性から脱却できることを見出した。
【0055】
即ち、本発明者らの実験研究によれば、スリット吐出口23aの円弧(孤b1,b2)に対する曲率半径Rと、スリット吐出口23aのスリット横幅Lt、即ち、スリット吐出口23aの両端b1,b2を結ぶ円弧に対する弦(弦b1,b2)の弦長Ltとの比率を、70≦Lt/R×100(%)≦130に設定することで、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが被塗布面40に達するまでの放射状の広がり、幅方向の拡散が抑制され、つまり、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが放射状に幅を広げながら拡散するのが抑えられ、高粘性塗料Pの走向は直進的なものに近づく。
【0056】
図6を参照して説明すると、従来の塗布ノズル(図6の左蘭参照)では高粘性塗料Pを幅方向に広げるように、即ち、被塗布面40に高粘性塗料Pが到達するまでにスリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pを放射状に拡げて被塗布面40に吹き付けるものであるから、塗布パターン幅PWはスリット吐出口23aを通過する高粘性塗料Pの圧力や流体抵抗に依存する。このため、スリット吐出口23aを通過する高粘性塗料Pの圧力を高くすれば、また、粘度を低くすれば、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に大きく拡散し易くなり、放射状の広がり、幅方向の拡散の程度を大きくできる。換言すれば、高粘性塗料Pの圧力や粘度で塗布パターン幅PWを広げることができ、高粘性塗料Pの吐出量や温度を変化させることで所望の塗布パターン幅PWに調整できる。よって、圧力で制御されている吐出量や流体抵抗に影響する高粘性塗料Pの温度、粘度の変化によって塗布パターン幅PWが大きく変動しやすい。また、スリット吐出口23aから吐出される高粘性塗料Pの幅方向の拡散の程度が大きいから、塗装距離hによって、被塗布面40に塗布された塗布膜PLの塗布パターン幅PWが大きく相違してくる。
【0057】
これに対し、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係をLt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定した本実施の形態のスリット通路23の形状によれば、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に大きく広がらないようにして被塗布面40に吹き付けるものである(図6の右蘭参照)。つまり、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係をLt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定することによってスリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの幅方向の拡散の度合いを小さくしたスリット通路23の形状であるから、塗布パターン幅PWはスリット吐出口23aを通過する高粘性塗料Pの圧力や流体抵抗の影響を受け難くなる。よって、圧力で制御されている吐出量や流体抵抗に影響する高粘性塗料Pの温度、粘度の変化によっても塗布パターン幅PWが変動し難い。また、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの放射状の広がり、つまり、幅方向への拡散の度合いが小さく、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの走向は直進的なものに近づくから、塗装距離hが塗布パターン幅PWに影響し難くなり、塗装距離hが変化したときでも塗布パターン幅PWが変動し難い。
【0058】
ここで、本発明者らの実験研究によれば、スリット吐出口23aの円弧(孤b12)に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係がLt/R×100(%)>130の場合、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡散の程度、つまり、スリット横幅Ltに対する塗布パターン幅PWの拡がり具合いが大きく、高粘性塗料Pが遠くまで吐出され易くなる。このため、スリット吐出口23aを通過する高粘性塗料Pの圧力が高いと、また、粘度が低いと、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に大きく拡散し易くなり、高粘性塗料Pの圧力が低いとき、また、粘度が高いときと比較して、塗布パターン幅PWが大きく拡がってしまった。更に、高粘性塗料Pの圧力が高いと、また、粘度が低いと、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に大きく拡散することで、塗装距離hが大きくなるに従って塗布パターン幅PWが大きく拡がってしまった。
一方で、Lt/R×100(%)<70であると、塗布パターン幅PWが不足し、効率性、生産性の観点から好ましい50〜100mmの塗布パターン幅PW、より好ましくは、60〜90mmとする塗布パターン幅PWが得られ難くなる。
【0059】
したがって、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係が70≦Lt/R×100(%)≦130であれば、所定の塗布パターン幅PWを確保しつつ、高粘性塗料Pの幅方向の拡散の程度、つまり、スリット横幅Ltに対する塗布パターン幅PWの拡がり具合いが小さくなって、高粘性塗料Pが遠くまで吐出され難いものとなるから、塗装距離hによって塗布パターン幅PWが変動し難いものとなる。また、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係が70≦Lt/R×100(%)≦130であれば、高粘性塗料Pの圧力や粘度で塗布パターン幅PWが広がり難くなり、スリット吐出口23aを通過する高粘性塗料Pの圧力の高低や粘性の大小に関わらず、所定の塗布パターン幅PWを確保でき、吐出量や温度を変化させても塗布パターン幅PWが変動し難いものとなる。
【0060】
更に、本発明者らの実験研究によれば、スリット吐出口23aの円弧(孤b12)に対する中心角θは80〜110°の範囲内が好ましい。スリット吐出口23aの円弧に対する中心角θが小さ過ぎる場合、塗布パターン幅PWが不足し50〜100mmの所定のパターン幅PWを得ることができなくなる。一方で、スリット吐出口23aの円弧に対する中心角θが大き過ぎると、スリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの幅方向の拡散の程度が大きくなり、パターン割れが発生する。また、高粘性塗料Pの幅方向の拡散の程度が大きくなることで、材料粘度が低い高粘性塗料Pでは、塗装距離h、吐出量、温度が変化したときの塗布パターン幅PWの変動が大きくなることがある。
スリット吐出口23aの円弧に対する中心角θが80〜110°の範囲内であれば、所定の塗布パターン幅PWを確保できパターン割れも発生し難いものとなる。また、例えば、0.1〜1.5Pa・S/20℃(せん断速度が9400s-1/20℃での測定)の粘度の高粘性塗料Pの塗布において、ガン距離、吐出量、温度の変化による塗布パターン幅PWの変動が安定的に抑えられる。
【0061】
ここで、本実施の形態に係る塗布ノズル10の実施例を具体的に説明する。
スリット吐出口23aの寸法形状を変化させて実施例1〜実施例5に係る塗布ノズル10と比較例1〜比較例2に係る塗布ノズルを製作し、高粘性塗料Pの各種塗布実験を行った。各実施例及び比較例の設計内容を表1の上段に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例1〜実施例5に係る塗布ノズル10においては、スリット吐出口23aのスリット縦幅Wの最小長さW2、即ち、幅方向の両端b1、b2におけるスリット縦幅Wの開口寸法(長さ)であるスリット縦幅W2を実施例1〜実施例5の全てでW2=0.3mmに統一しているが、スリット縦幅Wの最大長さW1、即ち、幅方向の中央部23aaにおけるスリット縦幅Wの開口寸法(長さ)であるスリット縦幅W1については、実施例1〜実施例3及び実施例5でW1=0.5mmとし、実施例4でW1=0.6mmとしている。
【0064】
ここで、本発明者らの実験研究によれば、高粘性塗料Pがスリット吐出口23aを通過する際のせん断速度が5000〜20000s-1程度の範囲内であれば、塗布膜PLの平滑性、良好な塗膜外観性を確保できることを確認しているところ、スリット縦幅Wの開口寸法(長さ)によってせん断速度が変化する。そして、従来、自動車の車体に対し制振材等の高粘性塗料Pをスリット塗布する際の吐出量は300〜10000cc/分程度である。そこで、8000cc/分以上の高吐出量域でも所定のせん断速度を確保して塗布膜PLの平滑性、良好な塗膜外観性を確保するために、本発明者らがスリット縦幅Wの開口寸法の好適値について検討したところ、スリット縦幅Wを小さくすると高粘性塗料Pのせん断速度が大きくなり、反対にスリット縦幅Wを大きくすると高粘性塗料Pのせん断速度が小さくなり、所定のせん断速度を確保するために、スリット縦幅Wはその最大長さW1が最小長さW2の1.5倍〜2.5倍の範囲内が好ましかった。即ち、本発明者らの実験研究によれば、W2=0.3mmに対し、W1=0.5mm〜0.6mmであれば所定のせん断速度を確保して塗布膜PLの平滑性、良好な外観性を確保できることから、スリット縦幅Wの最大長さW1については、実施例1〜実施例3及び実施例5でW1=0.5mmとし、実施例4でW1=0.6mmと設定した。
【0065】
なお、本発明者らの実験研究によれば、スリット吐出口23aのスリット横幅Lt(スリット吐出口23aの円弧に対する弦長Lt)に対し、スリット縦幅Wが一定部分の中央部23aaのスリット横幅L1の比率が大きくなると、高粘性塗料Pを幅方向の端部で塗り重ねたときのその重複部分(ラップ部D)の厚さの増加分が大きくなり、塗布膜PLの均一性が低下することを確認した。そこで、好ましくは、スリット吐出口23aのスリット横幅Ltに対するスリット横幅L1の比率は、L1/Lt×100(%)=33〜45の範囲内である。33≦L1/Lt×100(%)≦45であれば、塗装方向に並行するスリット縦幅Wが一定の部分(中央部23aa)と塗装方向に並行するスリット縦幅Wが変化する部分(端部23ab)のスリット横幅Lのバランスがとれて、重ね塗り部分Dの幅d(図7参照)が大きくても小さくても塗布膜PLが略平坦になって、重ね塗り部分Dの突出や凹みが生じ難いものとなる。より好ましくは、L1/Lt×100(%)=34〜40の範囲内である。
実施例1〜実施例5と比較例1〜比較例2では、スリット吐出口23aのスリット横幅Ltに対するスリット横幅L1の比率は、Lt/R×100(%)=34%〜35%とし、スリット吐出口23aのスリット横幅LのL1/L2の比率を略同程度としている。
【0066】
実施例1〜実施例3においては、全て、スリット吐出口23aのスリット横幅Lは、Lt=49mm、L1=17mm、L2=16mmで統一されてスリット開口面積が21.3mm2であり、また、スリット吐出口23aの孤(孤b12)に対する中心角がθ=90°であり、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rのみが相違する。即ち、実施例1では曲率半径R=40mmであり、実施例2では曲率半径R=50mmであり、実施例3では曲率半径R=60.5mmである。これより、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係が、実施例1ではLt/R×100=122.5%、実施例2ではLt/R×100=98.0%、実施例3ではLt/R×100=81.0%である。
【0067】
また、実施例4に係る塗布ノズル10においては、スリット吐出口23aのスリット横幅Lt及びスリット縦幅W1が実施例1〜実施例3よりも大きく、スリット開口面積も実施例1〜実施例3よりも大きくなっている。即ち、実施例4では、スリット横幅Lは、Lt=52mm、L1=18mm、L2=17mmであり、スリット開口面積が26.1mm2、中心角θ=90°である。そして、実施例4では、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが実施例1〜実施例3よりも大きく曲率半径R=64.54mmである。これにより、実施例4ではLt/R×100=80.6%である。
【0068】
更に、実施例5に係る塗布ノズル10においては、スリット吐出口23aのスリット横幅Ltが実施例1〜実施例4よりも大きく、スリット開口面積も実施例1〜実施例4よりも大きくなっている。即ち、実施例5では、スリット横幅Lは、Lt=62.4mm、L1=21.6mm、L2=20.4mmであり、スリット開口面積が27.12mm2、中心角θ=90°である。そして、実施例5では、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが実施例1〜実施例4よりも大きく曲率半径R=77.5mmである。これにより、実施例5ではLt/R×100=80.5%である。
【0069】
一方、従来品に相当する比較例1は、実施例1〜実施例5よりもスリット縦幅Wは大きいがスリット横幅Lは小さいものである。即ち、比較例1では、スリット横幅Lは、Lt=43mm、L1=15mm、L2=14mm、スリット縦幅Wは、W1=0.8mm、W2=0.4mm、スリット開口面積が28.8mm2、中心角θ=90°である。そして、比較例1では、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが実施例1〜実施例5よりも小さく、曲率半径R=30mmである。これにより、比較例1ではLt/R×100=143.3%となっている。
【0070】
また、別の従来品に相当する比較例2は、実施例1〜実施例5よりもスリット縦幅Wは大きいがスリット横幅Lは比較例1よりも大幅に小さいものである。即ち、比較例2では、スリット横幅Lは、Lt=22.6mm、L1=7.8mm、L2=7.4mm、スリット縦幅Wは、W1=0.8mm、W2=0.4mm、スリット開口面積は15.12mm2、中心角θ=100°である。そして、比較例2では、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが実施例1〜実施例5及び比較例1よりも小さく、曲率半径R=15mmである。これにより、比較例2ではLt/R×100=150.7%である。
【0071】
念のため、図5において、スリット吐出口23aのスリット横幅Lt(スリット吐出口23aの円弧に対する弦長Lt)を同一長とし、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが相違している実施例1〜実施例3に係る塗布ノズル10の構成を示した。
各実施例及び比較例においては、スリット通路23のスリット入口23bの中央側の円弧に対する中心点C1とスリット吐出口23aの円弧に対する中心点C1を一致させており、実施例及び比較例の全てでスリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと、スリット入口23bの中央側の円弧に対する曲率半径の比率を略同一としている。即ち、実施例及び比較例の全てでスリット通路23の中央の長さは同一としている。例えば、スリット入口23bの中央側の円弧に対する曲率半径はスリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rの0.85〜0.95の範囲内であり、幅方向の中央部でスリット入口23bとスリット出口23a間の距離は3〜8mmである。
なお、図5に示すように、実施例1〜実施例3では、何れもスリット吐出口23aのスリット横幅Lt(スリット吐出口23aの円弧に対する弦長Lt)=49mmで統一され、また、スリット吐出口23aの円孤(孤b12)に対する中心角θ=90°に統一されているが、実施例1では曲率半径R=40mm、実施例2では曲率半径R=50mm、実施例3では曲率半径R=60.5mmであるから、実施例1〜実施例3うち実施例1のスリット吐出口23aの円孤の曲率(曲り具合い)が最も大きくて急カーブである。また、このときスリット吐出口23aから高粘性塗料Pが吐出する時の吐出圧力は、例えば、5Pa〜25Paである。
【0072】
そして、このような構成の実施例1〜実施例5の各塗布ノズル10と比較例1〜比較例2の各塗布ノズルを用いて、高粘性塗料Pの各種塗布実験を行った。
具体的には、塗装距離h(以下、ガン距離hと呼ぶ)や、吐出量や、塗料温度を各種変化させたときの塗布パターン幅PWの変動を調べた。なお、本実験では、高粘性塗料Pとして、自動車用の塗布型制振材の塗料であり、材料粘度が1.0Pa・s/20℃(せん断速度が9400s-1/20℃での測定)のものを用いた。
【0073】
まず、ガン距離hについては、被塗布面40と塗布ノズル10の先端の間の距離hを50mmとしたときの塗布パターン幅PWの測定、被塗布面40と塗布ノズル10の先端の間の距離hを75mmとしたときの塗布パターン幅PWの測定、被塗布面40と塗布ノズル10の先端の間の距離hを100mmとしたときの塗布パターン幅PWの測定を行い、被塗布面40と塗布ノズル10の先端の間の距離hを50mm、75mm、100mと変化させたときの塗布パターン幅PWの差を見た。なお、このとき実験条件としては、吐出量を8000cc/分、ガン速度を500mm/s、塗料温度を25℃で統一した。
【0074】
ガン距離hを50mm、75mm、100mとしたときの塗布パターン幅PWの差が6mm以内であれば、塗布パターン幅PWがガン距離に依存せずガン距離hが変化しても安定した塗布パターン幅PWが得られるとして、合格(○)と判断した。特に、塗布パターン幅PWの差が6mm以内であれば、曲面、凹凸等を有する被塗布面40に対しても、被塗布面40の高低差に追従して塗布ガンGの位置を変化させなくとも安定した塗布パターン幅PWが得られる。よって、ガン距離hを一定とするロボットの細かな調整を行わなくとも、塗布パターン幅PWのバラつきが少ない塗布を可能とする。一方、塗布パターン幅PWの差が6mmを超えるものは、塗布パターン幅PWのガン距離依存性が高く、ガン距離hの変化によって塗布パターン幅PWが大きく変動し塗布パターン幅PWのバラつきが大きくなるとして不合格(×)と判定した。
【0075】
また、吐出量については、吐出量を6000cc/分としたときの塗布パターン幅PWの測定、吐出量を8000cc/分としたときの塗布パターン幅PWの測定、吐出量を10000cc/分としたときの塗布パターン幅PWの測定を行い、吐出量を6000cc/分、8000cc/分、10000cc/分と変化させたときの塗布パターン幅PWの差を見た。なお、このとき実験条件としては、ガン距離hを50mm、ガン速度を500mm/s、塗料温度を25℃で統一した。
【0076】
吐出量を6000cc/分、8000cc/分、10000cc/分と変化させたときの塗布パターン幅PWの差が20mm以内であれば、塗布パターン幅PWが吐出量に依存せず、吐出量の影響で塗布パターン幅PWが大きく変動せずに安定した塗布パターン幅PWが得られるとして合格(○)と判断した。一方、塗布パターン幅PWの差が20mmを超えるものは、塗布パターン幅PWの吐出量依存性が高く、吐出量により塗布パターン幅PWが大きく変動するとして不合格(×)と判定した。
【0077】
塗料温度については、塗料温度が15℃であるときの塗布パターン幅PWの測定、塗料温度が25℃であるときの塗布パターン幅PWの測定、塗料温度が35℃であるときの塗布パターン幅PWの測定を行い、塗料温度を15℃、25℃、35℃と変化させたときの塗布パターン幅PWの差を見た。なお、このとき実験条件としては、吐出量を8000cc/分、ガン速度を500mm/s、ガン距離hを50mmで統一した。
【0078】
塗料温度を15℃、25℃、35℃と変化させたときの塗布パターン幅PWの差が5mm以内であれば、塗布パターン幅PWが塗料温度に依存せず、温度の影響で塗布パターン幅PWが大きく変動せずに安定した塗布パターン幅PWが得られるとして合格(○)と判断した。一方、塗布パターン幅PWの差が5mmを超えるものは、塗布パターン幅PWの塗料温度依存性が高く温度により塗布パターン幅PWが大きく変動するとして不合格(×)と判定した。
【0079】
ここで、自動車用の塗布型制振材の塗布においては、制振性の観点から、被塗装面40に対し高粘性塗料Pが塗布されていない塗り残しが無いように(塗布膜PL間の隙間が生じないように)、塗布膜PLの列において幅方向の端部で塗り重ねを行うといった塗布面積に対しての過剰な塗布を行うのが好ましいところ、塗布膜PLの幅方向端部の塗り重ねによって、塗り重ねた部分の厚みが増すと周囲部品と干渉してしまう恐れがある。
【0080】
そこで、実施例1〜実施例5の各塗布ノズル10と比較例1〜比較例2の各塗布ノズルを用いて塗布膜PLを幅方向の端縁で重ねる塗布を行い、塗布膜PLを塗り重ねたときの膜厚の増加を見た。具体的には、図7で示したように、塗布膜PLを幅方向に列設する塗布を行うが、このとき、前列と次列で隣合う列間に隙間を設けることなく、前列の塗布膜PLに対して次の列を塗布する際に、前列の塗布膜PLの幅方向の端部に重なるように重ね塗りを行う。そして、幅方向の端縁で塗布膜PLが重ねられた部分D(以下、ラップ部Dとする)の幅dを10mm及び20mmとしたときの前列または次列の塗布膜PLの中央S側の膜厚t1とラップ部Dの膜厚t2との比較を行い、前列または次列の塗布膜PLの中央S側の膜厚t1に対するラップ部Dの膜厚t2の厚さ増加分を見た。
なお、このときの実験条件としては吐出量8000cc/分、ガン距離50mm、ガン速度500mm/s、塗料温度25℃で統一した。
【0081】
ガン距離、吐出量、及び温度を変化させたときの塗布パターン幅PWの測定結果並びに塗布膜PLを幅方向に列設する塗布を行い、所定幅塗り重ねたときの塗り重ね膜厚の増加分を測定した結果は表1の下段に示した通りである。
【0082】
表1に示したように、従来品である比較例1及び比較例2については、スリット吐出口23aのスリット横幅Lが実施例1〜実施例5よりも小さいのに対し、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが実施例1〜実施例5よりも小さく、Lt/R×100>130%である。このため、図6で示したように、スリット吐出口23aの開口面から垂直に吐出する高粘性塗料Pの幅方向への拡散度合いが大きく、吐出量の増大、即ち、圧力の増大によって、塗布パターン幅PWが拡大し、吐出量を6000cc/分、8000cc/分、10000cc/分と変化させたときの塗布パターン幅PWの差が20mmを超えて、吐出量の変化で塗布パターン幅PWが大きく変動し、塗布パターン幅PWの吐出量依存性が極めて高いものであった。
換言すれば、従来品である比較例1及び比較例2の塗布ノズルは、吐出量の増大で塗布パターン幅PWが大きくなっていることから、圧力(吐出量)でスリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pを幅方向に放射状に大きく拡げることができるものであり、吐出量の増減で塗布パターン幅PWを制御できるものである。
【0083】
また、このようにLt/R×100>130%である比較例1及び比較例2に係るノズル形状においては、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが放射状に幅方向に大きく拡散するものであるから、高粘性塗料Pの流体抵抗、即ち、粘度の低下によっても、塗布パターン幅PWが大きく拡がる。このため、温度の上昇によって粘度が低下すると、スリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pが大きく拡散して塗布パターン幅PWが大きく拡がり、塗料温度を15℃、25℃、35℃と変化させたときの塗布パターン幅PWの差が5mmを超えるものとなった。即ち、塗料温度の変化で塗布パターン幅PWが大きく変動し、塗布パターン幅PWの温度依存性が極めて高いものであった。
【0084】
更に、Lt/R×100>130%である比較例1及び比較例2においては、図6で示したように、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが放射状に幅方向に拡がるその拡散度合いが大きく、スリット吐出口23aからの高粘性塗料Pが放射状に大きく拡げられるものであるため、ガン距離hによる塗布パターン幅PWのバラつきが大きいものである。即ち、ガン距離hを50mm、75mm、100mと変化させたときの塗布パターン幅PWの差が6mmを超え、ガン距離hが大きい(長い)程、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが大きく幅方向に拡散していることで、塗布パターン幅PWが大きく拡がってしまった。特に、比較例2では、高粘性塗料Pの放射状の拡散度合いが大きいことで、ガン距離hが大きい(長い)とパターン割れが生じた。即ち、ガン距離hの変化による塗布パターン幅PWの変動が大きく、塗布パターン幅PWはガン距離hの影響を大きく受けるものであった。こうして比較例1及び比較例2では、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが放射状に大きく拡げられるものであるから、ガン距離hによって塗布パターン幅PWが大きく変化し、塗布パターン幅PWの距離依存性も極めて高いものであった。
【0085】
これに対し、実施例1〜実施例5の塗布ノズル10においては、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係が70≦Lt/R×100(%)≦130であるスリット形状であることで、図6に示したように、スリット吐出口23aの開口面から垂直に吐出する高粘性塗料Pの幅方向への拡散度合いが小さくてスリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に拡がり難くその拡散が抑えられて直進的な吐出に近いものである。そして、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係が70≦Lt/R×100(%)≦130であるスリット形状としたことで、スリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの拡散が抑えられて塗布パターン幅PWが圧力や流体抵抗に依存しなくなる。即ち、スリット形状についてLt/R×100=70%〜130%の範囲内としたことで、高粘性塗料Pが幅方向に拡散し難い形状であるから、塗布パターン幅PWの圧力や流体抵抗による影響を受け難い。
【0086】
このように実施例1〜実施例5の塗布ノズル10においては、スリット形状についてスリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係を70≦Lt/R×100(%)≦130の範囲内に制御してスリット吐出口23aから吐出する高粘性塗料Pの拡散を抑えたことで、図6に示したように、吐出量を増大させたときでも、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが大きく拡散しないから、塗布パターン幅PWが大きく拡げられることもなく、吐出量を6000cc/分、8000cc/分、10000cc/分と変化させたときでも塗布パターン幅PWの差が17mm以下と塗布パターン幅PWの変動が非常に小さく安定した塗布パターン幅PWが得られた。
【0087】
また、塗料温度の上昇によってスリット吐出口23aを通過する高粘性塗料Pの粘度が低下しても、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に大きく拡散しないから、塗布パターン幅PWが大きく拡げられることもなく、温度を15℃、25℃、35℃と変化させたときでも塗布パターン幅PWの差が5mm以下と極めて小さいものであった。即ち、温度が変化しても塗布パターン幅PWの変動は非常に小さく、安定した塗布パターン幅PWが得られた。
【0088】
更に、スリット形状についてLt/R×100=70%〜130%の範囲内に制御したことで、図6に示したように、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向へ大きく拡げられることなく直進的に近い走向であるから、ガン距離hによる塗布パターン幅PWのバラつきが極めて小さく、ガン距離hが50mm、75mm、100mと変化しても塗布パターン幅PWが拡がらないため塗布パターン幅PWの差は6mm以下であり、安定した塗布パターン幅PWが得られた。
【0089】
特に、実施例1〜実施例5の比較から、Lt/Rの比率が小さいほど、ガン距離、吐出量及び塗料温度を変化させたときの塗布パターン幅PWの変動が小さかった。これは、スリット吐出口23aのスリット横幅Ltが小さいほど、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡がりが小さく、また、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rが大きいほど、スリット吐出口23aの曲がり具合(曲率)が小さいことで、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡散度合いが小さくなるためである。即ち、Lt/Rの比率が小さいほど、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが遠くまで拡散されずに高粘性塗料Pの幅方向の拡がりが小さくて、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの直進性能が高く、圧力や流速による影響を受け難くなっているためである。このことは実施例1及び実施例2よりもLt/Rの比率を小さくした実施例3では、塗布パターン幅PWが実施例1及び実施例2よりも小さくなっていることからも確認できる。また、Lt/Rの比率が小さいほど、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが大きく幅方向に拡げられず直進に近い吐出パターンとなるから、ガン距離hによる塗布パターン幅PWのばらつきもなくなる。但し、Lt/Rの比率が小さすぎると、塗布パターン幅PWが不足し、効率性、生産性の観点から好ましい50〜100mmの塗布パターン幅PW、より好ましくは、60〜90mmとする塗布パターン幅PWが得られ難くなる。本発明者らの実験研究によれば、Lt/R×100≫70%であれば所定のパターン幅PWを確保できることを確認している。より好ましくは、75%≦Lt/R×100≦125%である。
【0090】
そして、実施例1〜実施例3の比較からも分かるように、Lt/R×100=70%〜130%の範囲内とした塗布ノズル10によれば、Lt/R×100=70%〜130%の範囲内でLt/Rの比率を変化させることで、塗布パターン幅PWを調整することができ、Lt/R×100=70%〜130%の範囲内でLt/Rの比率を変化させたスリットノズルの選定によって容易に狙いとする所望のパターン幅PWを選択することが可能である。
【0091】
即ち、スリット形状についてスリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係をLt/R×100=70%〜130%の範囲内とした本実施の形態の塗布ノズル10によれば、Lt/R×100=70%〜130%の範囲内でLt/Rの比率を変化させた塗布パターン形状の異なるノズルの選定により、被塗布面40の形状や塗布範囲に応じた所望のパターン幅に制御でき、従来のように吐出量で塗布パターン幅PWを制御しないから、狙いとする所望の塗布パターン幅PWを得るために吐出量、塗装距離、塗料温度を調整する塗装設備50における細かな制御に頼らなくとも、塗布パターン幅PWの安定化を可能とする。つまり、精密できめ細かな(小さい単位の)吐出量、塗装距離h(ガン距離h)、塗料温度の設定、調整を要する高い精度の塗布制御技術を必要としない。よって、吐出量や塗料温度のきめ細かな設定、調整と、それを一定に維持するための塗装設備50の高精度、高性能な機器、例えば、吐出量が安定している定量ポンプや、塗料温度の細かな調節を可能とする熱交換器等の設備の簡略化を図ることが可能となる。また、塗装距離hのきめ細かな設定、調整を行ったり、塗装距離hを一定に維持したりするロボットについてもきめ細かな制御を要しないため、ロボットティーチング(教示)としてのプログラム入力機構も簡略化が可能となる。
【0092】
こうして、本実施の形態の塗布ノズル10によれば、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係をLt/R×100=70%〜130%の範囲内としたことで、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡散が小さいから、従来のように圧力で吐出パターンが拡がり難くて塗布パターン幅PWが圧力や流体抵抗に依存しない。即ち、塗布パターン幅PWは圧力で制御される吐出量依存性や温度依存性から脱却し、Lt/Rの比率を変化させるスリット形状の設計によって所望とする塗布パターン幅PWの調整を可能とするものである。また、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡散が小さく直進的に近い吐出パターンであるから、塗布パターン幅PWがガン距離依存性から脱却し、塗装距離hによる塗布パターン幅PWのバラつきが抑えられる。即ち、高粘性塗料Pが被塗布面40に到達するまでの塗装距離hのバラつきに対する塗布パターン幅PWの変動は極めて小さく、塗布パターン幅PWの塗装距離hによる影響は少なくなる。よって、曲面、凹凸等を有する被塗布面40に対しても、被塗布面40の高低差に追従して塗布ガンGの位置を変化させなくとも安定した塗布パターン幅PWが得られる。つまり、ガン距離hを一定とするロボットの細かな調整を簡易化し、塗布パターン幅PWのバラつきが少ない塗布を可能とする。
【0093】
更に、表1の下段に示したように、比較例1及び比較例2の塗布ノズルでは、塗布膜PLを幅方向に列設する塗布で、前列と次列を幅方向の端部で塗り重ねたとき、その塗り重ね部分のラップ部Dの幅d(ラップ代d)が10mmの場合、図7に示した前列または次列の塗布膜PLの中央S側の厚みt1に対するラップ部Dの厚みt2の増加分が、比較例1で+30%、比較例2で+50%であった。更に、ラップ部Dの幅dが20mmの場合では、図7に示した前列または次列の塗布膜PLの中央S側の厚みt1に対するラップ部Dの厚みt2の増加分が、比較例1で+35%、比較例2で+60%であった。
【0094】
これに対し、実施例1〜実施例5の塗布ノズル10によれば、塗り重ね部分のラップ部Dの幅d(ラップ代d)が10mmの場合、図7に示した前列または次列の塗布膜PLの中央S側の厚みt1に対するラップ部Dの厚みt2の増加分が、+22%以下に抑えられており、更に、ラップ部Dの幅dが20mmの場合でも、図7に示した前列または次列の塗布膜PLの中央S側の厚みt1に対するラップ部Dの厚みt2の増加分が+25%以下に抑えられていた。したがって、実施例1〜実施例5の塗布ノズル10によれば、塗布膜PLを幅方向に列設する塗布で、前列と次列を幅方向の端部で塗り重ねたときでも、その重複部分Dの膜厚の増大が少ない。そして、重ね塗り部分の重複幅に関わらず、多少変化しても重ね塗り部分が殆ど盛り上がることがない。よって、膜厚の均一性に優れ、凹凸を有する被塗布面40の凸部分で塗り重ねたときでも、周囲部品との干渉の恐れがないものである。
【0095】
これは、実施例1〜実施例5の塗布ノズル10において、スリット吐出口23aの開口形状を中央部23aaでスリット縦幅Wの長さを一定とし、また、端部23abで端b1,b2に向かってスリット縦幅Wを徐々に小さく変化するように形成していることで、スリット吐出口23aの中央側では塗料Pが厚く吐出し、幅方向の両端側では塗料Pが薄く吐出する。これより、列の塗布膜PLの厚みが中央S側よりも端部側で小さくなり、端部側で塗り重ねても膜厚が厚くなり過ぎない。それに加え、実施例1〜実施例5の塗布ノズル10においては、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltとの関係をLt/R×100=70%〜130%の範囲内としたことで、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡散が小さいために、塗布膜PLの幅方向で塗料ムラが生じ難い。即ち、塗布膜PLが幅方向に大きく拡げられないことで、被塗布面40に塗布された塗布膜PLの幅方向の塗料ムラ、凹凸が少なく平坦性に優れる。これより、重ね塗り部分の重複幅に関わらず、多少変化しても重ね塗り部分Dと中央S側の膜厚差のバラツきが少ないことで、前列または次列の塗布膜PLの中央S側の厚みt1に対するラップ部Dの厚みt2の増加分が小さくなった。
【0096】
以上説明してきたように、本実施の形態の塗布ノズル10は、長手方向に延びる略円柱状に形成され高粘性塗料Pが導入される導入通路21と、導入通路21の下端の開口から塗装方向に対して直角な幅方向に拡がり導入通路21よりも幅広の空間容積を有する略扇台形状の拡大通路22と、拡大通路22に連通し拡大通路22の幅方向に拡がる弧状側の円弧に沿って拡大通路22の下に配設され、拡大通路22の下端の幅方向に対して直角方向(厚み方向)の幅よりも狭い幅のスリット状の間隙であるスリット通路23とを内部に設けた塗布ノズル10であって、スリット通路23は、高粘性塗料Pが吐出する弧状に延びたスリット吐出口23aとその反対側の拡大通路22側で弧状に延び拡大通路22側から高粘性塗料Pが進入してくるスリット入口23bとを有し、スリット入口23bからスリット吐出口23aに向かって幅広の略円弧状(略扇台形状)に形成され、スリット吐出口23aの円弧(孤b12)に対する曲率半径をR、スリット吐出口23aの円弧(孤b12)に対する弦長をLt(スリット横幅Lt)としたとき、RとLtの関係が、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内であるものである。
【0097】
したがって、本実施の形態の塗布ノズル10によれば、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rとスリット吐出口23aの円弧に対する弦長Ltの関係を、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリット通路23の形状により、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの幅方向への広がりが狭くて拡散の度合いが小さいものとなる。即ち、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリット通路23の形状によれば、スリット吐出口23aの開口面に対し略垂直方向に吐出した高粘性塗料Pの幅方向の拡散が抑えられ、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pの走向が被塗布面40側に向かって放射状に幅方向へ広がることなく直進的に近い走向となる。よって、塗装距離h(ガン距離h)による塗布パターン幅PWのばらつきが小さいものとなる。
【0098】
また、このようにスリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rとスリット吐出口23aの円弧に対する弦長Ltの関係を、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリット通路23の形状では、スリット吐出口23aから吐出した高粘性塗料Pが幅方向に拡散し難いものであるから、塗布パターン幅PWがスリット吐出口23aから吐出する高粘塗料Pの圧力や流体抵抗の影響を受け難い。即ち、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリット通路23の形状により、スリット吐出口23aからの高粘性塗料Pの吐出パターンが幅方向に広がり難いものであるから、圧力を高めても吐出パターンが拡大せず、圧力で制御される吐出量を変化させても塗布パターン幅PWが変動し難く、また、高粘性塗料Pの温度、粘度が変化しても、塗布パターン幅PWは変動し難い。
こうして、本実施の形態の塗布ノズル10によれば、吐出量、塗装距離h及び塗料温度の影響による塗布パターン幅PWの変動が抑えられ、塗布パターン幅PWが安定化する。
【0099】
なお、上記実施の形態の塗布ノズル10では、スリット吐出口23aの円弧(孤b12)に対する曲率半径Rは、全ての領域で一定であり、弧状に延びるスリット吐出口23aの円弧は正円弧(真円弧)状であるが、本発明を実施する場合には、曲率半径が変化する円弧、例えば、円弧形状が徐変されている楕円弧状であってもよい。この場合のスリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rは、可変する曲率半径の最大値と最小値の平均値とし、その平均値の曲率半径Rが上記所定の範囲内であれば、高粘性塗料Pの温度、粘度が変化しても、塗布パターン幅PWは変動し難くなる。
【0100】
特に、スリット通路23のスリット吐出口23aの円弧(孤b12)に対する中心角θが、80°〜100°の範囲内であれば、塗布パターン幅PWが拡がり過ぎず、パターン割れが生じることもない。更に、吐出量、塗装距離h及び塗料温度による塗布パターン幅PWの変動が極めて小さく、より安定的に所定のパターン幅PWを確保できる。
【0101】
また、上記実施の形態の塗布ノズル10によれば、スリット通路23の位置は、導入通路21の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした位置とはずらした配置であるから、導入通路21の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長上に配置した場合と比較して、高粘性塗料Pの流路を長くできるため、導入通路21からスリット通路23のスリット入口23bに送り込まれる高粘性塗料Pが減速され易く、流速分布のばらつきが抑えられる。よって、拡大通路22内で内部圧力や粘度の偏りの均一化がより促進され、導入管31に送り込まれた高粘性塗料Pに圧力分布、流速、粘度等にばらつきがあっても、塗布膜PLの塗料ムラが防止され、塗布膜PLの平滑性を向上させることが可能である。
【0102】
しかし、本発明を実施する場合には、スリット通路23の位置を導入通路21の中心軸上に配置してもよいし、導入通路21の下端の開口位置を鉛直方向に延ばした延長上に配置するも中心軸とは少しずれた位置に配置してもよい。
【0103】
加えて、上記実施の形態の塗布ノズル10によれば、スリット通路23は、スリット入口23bからスリット吐出口23aに向かって幅方向に拡大するから、スリット入口23bからスリット吐出口23aに向かって塗料が広げられることで、例えば、50〜100mmの所定の塗布パターン幅PWを確保でき、また、スリット吐出口23aから吐出する塗布膜PLの薄膜化が可能であり、過剰な塗布を防止できる。例えば、塗布膜PLを250〜1000μmの膜厚とすることができる。
【0104】
そして、上記実施の形態の塗布ノズル10によれば、スリット通路23のスリット吐出口23aのスリット縦幅Wを幅方向の中央部23aaで一定とし、中央部23aaの両側から幅方向の両端b1,b2に向かって徐々に狭くしているから、スリット吐出口23aの中央側では塗料Pが厚く吐出し、幅方向の両端b1,b2側では塗料Pが薄く吐出する。よって、塗布膜PLの幅方向の端部側で重ね塗りをしたときでも、その重ね塗りした部分Dの厚みt2の増大が抑えられる。
【0105】
また、スリット吐出口23aのスリット縦幅Wが幅方向の両端b1,b2に向かって徐々に小さくなるように変化させているから、一重塗りした塗布膜PLの端部側の厚みから、そこに塗り重ねる領域幅dを適宜設定して、塗布膜PLの重ね塗りした部分Dの厚みt2をスリット縦幅Wが一定の部分から吐出した塗布膜の中央S側の厚みt1に近づけて略均一な厚みとし、一重塗りした中央S側の厚みt1に均一な塗布膜PLの仕上り状態とすることもできるし、塗り重ねの厚みt2を任意に設定することも可能である。
【0106】
特に、スリット吐出口23aの円弧に対する曲率半径Rと弦長Ltの関係を、Lt/R×100(%)=70〜130の範囲内に規定したスリットの形状により、スリット吐出口23aから吐出した塗料Pの幅方向への拡散が抑えられることで、被塗布面40に塗布された塗布膜PLの幅方向で塗料ムラが生じ難く、塗布膜PLの平滑性に優れる。よって、例えば、重ね塗り部分Dの幅d=10mm〜20mmの幅で塗布膜PLの幅方向の端部側で塗り重ねたときでも、重ね塗り部分Dと中央S側の膜厚差のバラつきが少なく、塗布された塗布膜PLはより均一な膜厚となる。
【0107】
また、上記実施の形態の塗布ノズル10は、本体部11と、それとは別部材の蓋部12とから構成され、更に本体部11が外装部11A及び内装部11Bの別部材で構成され、これら外装部11A、内装部11B及び蓋部12が埋め込みビス28で組付けられている。
そして、上記実施の形態の塗布ノズル10においては、内装部11B及び蓋部12の間にスリット通路23が形成されている。
よって、スリット通路23に異物が混入して目詰まりし塗布パターンに乱れが生じた場合でも、内装部11B及び蓋部12を分解することで、容易に異物を取り除き、目詰まりを解消することができる。即ち、メンテナンスが容易であり、安定して所定幅の塗布パターンを確保できる。
【0108】
ここで、高粘性塗料Pを薄膜のフィルム状に吐出させるためのスリット通路23はスリット状の間隙であるから、スリット通路23を画成する壁面は摩耗が進行しやすい。そこで、上記実施の形態の塗布ノズル10においては、外装部11A、内装部11B及び蓋部12の三層構造とし、本体部11を別部材の外装部11A及び内装部11Bで構成して、内装部11B及び蓋部12でスリット通路23を画成する構成としている。これより、スリット通路23を画成する周囲の内壁面の摩耗が進行したときでも、内装部11B及び蓋部12のみを交換するだけで済むから、低コストである。また、内装部11B及び蓋部12を摩耗に強い材料とし、外装部11Aでは安価な材料を使用すればよいから、低コストで製造できる。
【0109】
しかし、本発明を実施する場合には、塗布ノズル10を1つの部材で構成することもできるし、本体部11及び蓋部12の2つの部材で構成し、本体部11及び蓋部12の間にスリット通路23を設けて、本体部11及び蓋部12の分解で目詰まりを解消するとしてメンテナンスを容易にしてもよい。また、導入通路21、拡大通路22及びスリット通路23を同一面上に形成し、その同一面に対して面対称の構成としてもよい。これにより、塗布ノズル10の製造が容易となる。
【0110】
なお、本実施の形態の塗布ノズル10は、自動車等の車体に適用する説明としたが、自動車の分野に限定されず、鉄道列車、船舶等や、建築物の内外塗装等に適用することも可能である。特に、上記実施の形態の塗布ノズル10を用いたスリット式の塗装では、塗料を噴霧化させることなく膜状に吐出させるものであるから、塗料の被塗布面40からの跳ね返りやはみ出しが生じることもない。ここで、高粘性塗料Pとしては、制振用以外にも、耐チッピング用の塗料が用いられ、例えば、自動車の床裏部やホイルハウス部等に施工されるアンダーコートやシーラとして使用されるものである。
そして、塗布ノズル10のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、組付け方法等については上記実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0111】
10 塗布ノズル
21 導入通路
22 拡大通路
23 スリット通路
23a スリット吐出口
23b スリット入口
23aa 中央部
【要約】
【課題】吐出量、塗装距離及び塗料温度の影響による塗布パターン幅の変動を抑えて塗布パターン幅を安定化さること。
【解決手段】塗布ノズル10は、塗料が導入される導入通路21と、導入通路21の下端の開口から幅方向に拡がり導入通路21よりも幅広の空間容積を有する略扇台形状の拡大通路22と、拡大通路22の下に連通したスリット状の間隙であるスリット通路23を内部に設け、スリット通路23は、高粘性塗料Pが吐出する弧状に延びたスリット吐出口23aとその反対側の拡大通路22側で弧状に延びたスリット入口23bとを有し、スリット入口23bからスリット吐出口23aに向かって幅広に形成され、スリット吐出口23aの弧に対する曲率半径をR、スリット吐出口23aの弧に対する弦長をLtとしたとき、RとLtの関係が、Lt/R×100(%)=70〜130であるものである。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8