(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アリーナに植え付けられている天然芝の生育を維持するためには、水やりや施肥等のメンテナンスはもとより、天然芝の光合成を阻害しない生育環境を確保することも重要となる。従って、充分な日照と、適度な通風とは必須条件となる。
特に、通風に関しては、芝に対する二酸化炭素の供給作用に加えて、芝の表面に付着して二酸化炭素の供給の障害となる水膜や水滴等を除去する作用もあり、芝面の全域にわたって通風されることが好ましい。
【0005】
上述した従来の競技場によれば、芝に対する日照に関しては、アリーナの上方が解放されていたり、透光性の屋根材で構成されていれば、太陽光は遮られることなく芝面に照射され、好ましい受光環境が整い易い。
しかし、芝に対する通風に関しては、アリーナの四隅に形成された通路によれば、風向きによっては風が通路に入らないし、仮に風向きが良好であっても、競技場の角部に当たる風は通路以外に逃げ易いから、風が通路を通してアリーナへ到達し難く、強風時を除けば、アリーナの芝面上において空気が澱み易い。
その結果、アリーナの芝の全域への充分な通風環境が得られない問題点がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、アリーナの芝の全域を対象とした通風環境が得られる競技場を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、アリーナと、前記アリーナの周部に配置し、前記周部の一辺にメインスタンドを有するスタンドとを備えた競技場であって、平面視において、前記スタンドの外方と前記アリーナとを通風可能な状態に連通させる複数の連通路を、前記スタンドの下方空間を貫通する状態で、前記アリーナの各辺部に設けてあり、前記アリーナと、前記スタンドの外方の地表面と、前記連通路とは、同じレベルに形成してあり、
前記複数の連通路として、前記メインスタンドの位置する側の前記スタンドのうち前記アリーナの位置する側の端部を
上方が解放された構造に形成された
複数の第一連通路と、前記メインスタンドの位置する側以外の前記スタンドのうち最前端の下方に設けられた垂れ壁に備えられた開口を介した
複数の第二連通路と、
が備えられ、かつ、前記複数の第一連通路と複数の第二連通路とによって、前記スタンドの外方と前記アリーナとが連通され
、前記複数の第二連通路のうち、前記メインスタンドと対向する側の前記スタンドに設けられている前記第二連通路は、前記第一連通路よりも多く備えられているところにある。
【0008】
本発明によれば、平面視において、アリーナの各辺部に対応させて複数の連通路を設けてあるから、アリーナに対する連通路の分布を、アリーナの全周にわたるようにすることが可能となり、競技場の外側に吹く風を、アリーナの各辺部に対応した広い範囲からアリーナに受け入れることができるようになる。従って、風が連通路に入り易くなり、且つ、風向が何れの方向であっても、その風向に対応する連通路を通して、スタンドの外方とアリーナとの通風が可能となる。また、風向が変化すれば、その風向に対応する別の連通路を通してアリーナへの通風が可能となる。
また、各連通路は、スタンドの下方空間を貫通する状態に設けられているから、連通路のアリーナ側の開口は、アリーナの上面に近接した高さに位置し、アリーナ上への通風を効率よく実施することができる。
以上の結果、従来のように、アリーナの四隅付近に通風が偏るのではなく、アリーナの全域にわたる充分な通風が可能となる通風環境が得られる。
よって、アリーナの天然芝に対する好ましい生育環境を提供することができる。
また、本構成によれば、連通路を介してスタンドの外方とアリーナとを連通させる一連の流路の線形が、同一レベルの極めて単純な形状に構成することができ、通風空気の流下損失を更に小さくできる。従って、周辺の風が微風であっても、効率よくアリーナの通風に反映させることが可能となる。
また、競技場の建設において、アリーナ部分を深く掘り下げる必要がなくなり、地盤掘削工数の減少によって工期短縮やコストダウンを図ることが可能となる。
【0009】
本発明においては、前記スタンドの下方空間には、前記アリーナの辺部に沿って複数の居室が連設された居室ゾーンが形成してあり、前記居室ゾーンには、隣り合う前記居室の間に前記連通路が配置してあると好適である。
【0010】
一般的に、スタンドの下方空間に居室ゾーンが形成されている場合、各居室どうしは隙間なく連設してあるから、その部分に前記連通路を形成するのは困難である。
しかし、本構成によれば、居室ゾーンで隣り合って設けられている居室の間に、前記連通路を配置してあるから、居室ゾーンとしての機能を維持しながら、前記連通路を設けることができる。
その結果、アリーナの辺部に多くの連通路を設けることが可能となり、アリーナを対象としたキメの細かな通風環境を構築することができる。また、連通路そのものを、居室ゾーン内におけるゾーニング手段としても利用することができる。
【0011】
本発明においては、前記居室ゾーンは、複数の居室を上下に配置してあると好適である。
【0012】
居室ゾーンにおける隣室間に前記連通路を配置するに伴って、居室ゾーンにおける居室の占める面積が減少することが懸念されるが、本構成によれば、複数の居室を上下に配置することで、居室ゾーンにおける居室の延平面積を減少させることなく連通路を確保することが可能となる。
その結果、空間の有効利用によって、居室ゾーンとしての機能の低下を招かずに、複数の連通路を確保することが可能となる。
【0013】
本発明においては、前記連通路は、前記アリーナと同じレベルで接続してあると好適である。
【0014】
本構成によれば、連通路のアリーナ側の開口がアリーナと同じレベルに位置することで、連通路とアリーナとに至る通風流路に大きな段差がつき難くなり、当該連通路を通した通風における空気の流下損失を小さくでき、アリーナ上への通風の効率を、更に向上させることができる。
よって、周辺の風速が低い場合でも、アリーナの天然芝に対する通風を好ましい状態で実施できるようになる。
【0015】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1〜3は、本発明の競技場の一実施形態であるサッカー場Kを示すもので、サッカー競技が実施される中央部のアリーナ1と、アリーナ1の周部に配置したスタンド構造部2と、アリーナ1の上を開放し、且つ、スタンド構造部2の上を覆う屋根部3とを備えて構成されている。
尚、当該実施形態で説明するサッカー場Kは、主たる構造に鉄骨構造を採用してあり、その平面形状は、南北方向に細長い略矩形形状である。
図1においては、紙面右側が北の方位を示している。
【0020】
アリーナ1は、北側の辺部1aと南側の辺部1cとが短辺で、東側の辺部1bと西側の辺部1dとが長辺となる矩形平面形状に形成してあり、略全域にわたって天然芝が植え付けてある。
また、アリーナ1は、サッカー場Kの周囲(観客席2Aの外方)Rに略水平状態に広がる地表面Gと略同レベルに形成してある(
図2、
図3参照)。
【0021】
屋根部3は、
図2、
図3に示すように、屋根板3Aと、屋根板3Aを支持する屋根大梁3Bとを設けて構成してあり、前述のとおり、アリーナ1の上方を除いて、スタンド構造部2の上方全域を覆う状態に設置されている。
即ち、屋根板3Aの前端ラインは、直下の観客席2A(後述)の前端ラインに平面視で略重なるように設定してあり、雨粒が、観客席2Aに垂下するのを防止している。
また、屋根大梁3Bは、スタンド構造部2の柱によって支持されている。
尚、図には示さないが、現実的には、屋根大梁3Bに架設された小梁や桁等を介して屋根板3Aは支持されている。
【0022】
スタンド構造部2は、
図1に示すように、平面的にも構造的にもアリーナ1の全周にわたって連続するように設けてあり、平面視での外形は、四隅が面取りされた略矩形形状に構成されている。
また、スタンド構造部2は、アリーナ1に面する前端側より後端側ほど高くなる「すり鉢」状に形成された観客席(スタンドに相当)2Aと、その観客席2Aの下方空間に形成されて観客席2Aを下方から支持する複数階層の支持構造部2Bとを備えて構成してある(
図2、
図3参照)。
当該実施形態のサッカー場Kにおいては、スタンド構造部2の全周の内、西側に配置されているスタンド構造部2がメインスタンド構造部S1として構成され(
図2参照)、北側、東側、南側にそれぞれ配置されているスタンド構造部2は、一般スタンド構造部S2として構成されている(
図3参照)。
【0023】
観客席2Aは、
図2、
図3に示すように、前端列より後方側に位置する列が徐々に床面が高くなるように多数の段差をつけて形成してあり、それぞれの列の床面上に、多数のベンチbが設置されている。また、観客席2Aには、前記支持構造部2Bの各階層に連通自在な出入口4が適宜箇所に開放状態に設けられている。
【0024】
支持構造部2Bは、柱、梁、壁、床等を備えた複数階層の構造体として形成してあり、観客席2Aのみならず、屋根部3をも支持する構造として構成されている。
支持構造部2Bには、例えば、駐車場5や、クラブハウス、更衣室、事務室、会議室、倉庫、レストラン、売店、便所等の居室6や、サッカー場Kの周囲Rとアリーナ1とを通風可能な状態に連通させる連通路7や、図には示さないが、階段室や、エレベータ等が設けてある。
【0025】
メインスタンド構造部S1は、
図1に示すように、支持構造部2Bが、アリーナ1の西側の辺部1dに沿って複数の居室6が連設された居室ゾーンとして構成されており、当該サッカー場Kの主だった設備が設置されている。
メインスタンド構造部S1に形成されている
第一連通路7Aは、隣り合う居室6の間に配置され、サッカー場Kの周囲Rとアリーナ1とにわたって居室ゾーンを貫通する状態に設けられている。
【0026】
平面的には、
第一連通路7Aは、アリーナ1の西側の辺部1d方向に間隔をあけた複数個所に設けられている。また、
第一連通路7Aの床は、1階部分の床として構成してあり、サッカー場Kの周囲Rの地表面G、及び、アリーナ1と、略同じレベルとなるように形成されている(
図2参照)。
よって、
第一連通路7Aを通したアリーナ1への通風において、空気抵抗をより少なくでき、効率良く通風を図ることができる。尚、この
第一連通路7Aは、アリーナ1に対する通風を叶える手段以外にも使用され、例えば、一般の通路としても利用できるように構成されている。
図2中の記号Wは、
第一連通路7Aの側壁を示しており、
第一連通路7Aのアリーナ1側の端部は、上方が解放された構造に形成してある。この解放部分においては、側壁Wの上縁部は、観客席2A側の手摺壁に相当するもので、例えば、上縁部に手摺を設けてあってもよい。
【0027】
また、メインスタンド構造部S1においては、複数の
第一連通路7Aの設置スペースを確保するに伴って、面積確保が困難となる複数の居室6が生じるが、それらの居室6どうしを、上下に重なる状態に配置することで、観客席2Aのスラブ下の斜めの空間をも有効に利用できるようにし、所定通りの延床面積と居室数を確保している(
図2参照)。
【0028】
一般スタンド構造部S2は、
図1に示すように、支持構造部2Bが、主として駐車場5を設けた駐車ゾーンとして構成されている。
一般スタンド構造部S2に形成されている
第二連通路7Bは、
図3に示すように、観客席2Aの最前列のスラブと、その下方に位置するアリーナ1とにわたって設けられた垂れ壁8の部分に、通風可能な状態に形成した開口部9を備えて構成してある。
従って、サッカー場Kの周囲Rとアリーナ1とは、駐車場5と開口部9を通して通風可能な状態に連通されている。
この開口部9は、アリーナ1の北側の辺部1a、東側の辺部1b、南側の辺部1cそれぞれの長手方向に間隔をあけた複数個所に形成してある(
図1参照)。
【0029】
また、スタンド構造部2の内、アリーナ1の四隅に対応した箇所には、アリーナ1の対角線に概ね沿った方向で貫通する連通路7Cが形成してあり、この連通路7Cを通しても、前記連通路7A,7Bと同様にアリーナ1の通気を図ることができる。
【0030】
尚、各連通路7には、図には示さないが、連通路7を開閉操作自在な開閉手段(例えば、扉やシャッター等)が設けてあり、適宜、開閉操作を行って、アリーナ1への通風を切り替えることができるように構成されている。
【0031】
当該サッカー場Kによれば、アリーナ1の周りに間隔をあけて配置された複数の連通路7を通して、サッカー場Kの周囲Rと、アリーナ1との充分な通風が可能となり、アリーナ1の全域を対象とした通風環境が得られる。
従って、アリーナ1の全域に植栽されている天然芝の光合成を促進できる好ましい生育環境を整備することができる。
【0032】
また、空間の有効利用によって、連通路7の設置に伴う居室6の延床面積の減少を防止でき、居室ゾーンとしての機能の低下を招かずに、複数の連通路7を確保することが可能となった。
更には、周囲Rの地表面Gに合わせた構造を採用したことで、複雑な根切り工事を実施せずに、短時間に且つ経済的に建設を進めることができるようになった。
【0033】
また、当該実施形態のサッカー場Kにおいては、
図4〜6に示すように、居室6の平面配置として、各居室6を機能別にまとめた平面配置を行うことで、より使い易いものにしている。
【0034】
図4は、1階平面図を示し、メインスタンド構造部S1には、試合運営に係る居室6をまとめて配置した「試合運営エリアA1」が設けられ、南側の一般スタンド構造部S2には、当該サッカー場Kに係るクラブチームの居室6をまとめて配置した「クラブハウスエリアA2」が設けられている。
尚、試合運営エリアA1の内、一部、
第一連通路7Aと重複する部分A1aに関しては、選手のウォームアップに使用できる空間として構成してあり、
第一連通路7Aの通風を許容できるように構成してある。
【0035】
図5は、2階平面図を示し、メインスタンド構造部S1には、メディアに係る居室6をまとめて配置した「メディアエリアA3」や、サッカー場Kに従事するスタッフに係る居室6をまとめて配置した「スタッフエリアA4」や、サッカー場Kやサッカーに係る資料の展示や販売等が実施される「ミュージアムエリアA5」が設けられ、南側の一般スタンド構造部S2には、1階と同様に「クラブハウスエリアA2」が設けられている。
【0036】
図6は、3階平面図を示し、3階部分が、外部からサッカー場Kへの出入口階となるように構成してあり、サッカー場Kの全周にわたって周回できる「コンコースエリアA6」が設けてある。この周回路に面して、多数の店舗等の居室6が設けられている。
また、周回路のアリーナ1側の内周部には、車椅子に乗車したまま観戦ができる車椅子席A6aが多数設けられており、サッカー場Kに入場してからの車椅子の移動を最小限にできるように考慮されている。
【0037】
また、「その他の居室エリアA7」は、例えば、便所等として使用できる(
図5、
図6参照)。
【0038】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0039】
〈1〉 アリーナ1やスタンド2や屋根部3の形状は、適宜変更することが可能である。
従って、競技場K全体としても、平面形状が矩形形状に限るものではなく、正方形形状や、4角形以外の多角形形状であったり、円弧を組み合わせた形状であってもよい。
【0040】
〈2〉 連通路7は、先の実施形態で説明した形状や数や仕様に限るものではなく、適宜変更することが可能である。
また、連通路7とアリーナ1とスタンド2Aの外方の地表面Gとが同じレベルに形成してあることに限らず、それら三つの内の何れか二つが同じレベルであったり、それぞれが異なったレベルとして形成してあってもよい。
また、連通路7は、略水平状態に形成してあることに限らず、傾斜状態に形成してあってもよい。
例えば、
図7に示すように、地表面Gとそれより低いアリーナ1とにわたって下り勾配の連通路7が設けてあったり、
図8に示すように、地表面Gとそれより高いアリーナ1とにわたって上り勾配の連通路7が設けてあってもよい。
【0041】
〈3〉 連通路7に、通気を促進する送風装置を備えてあってもよい。その場合、アリーナ1に対する給気側の連通路7と排気側の連通路7とで、送風装置の送風方向を、一連の動線上で揃うように制御することが好ましい。
【0042】
〈4〉 競技場Kの方位や、スタンド構造部2におけるメインスタンド構造部S1の配置、及び、スタンド構造部2における連通路7や居室6や駐車場5の配置は、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、適宜、変更が可能である。
【0043】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。