特許第6482783号(P6482783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482783
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】オゾン発生量の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/11 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   C01B13/11 K
   C01B13/11 H
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-149695(P2014-149695)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-23112(P2016-23112A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】津曲 一郎
(72)【発明者】
【氏名】細谷 満
(72)【発明者】
【氏名】川田 吉弘
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−174410(JP,A)
【文献】 特開2002−284508(JP,A)
【文献】 特開2014−047669(JP,A)
【文献】 特開平06−305705(JP,A)
【文献】 特開平04−062342(JP,A)
【文献】 特開平04−270102(JP,A)
【文献】 特開2010−209854(JP,A)
【文献】 特表2013−544221(JP,A)
【文献】 実開昭59−137940(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0042012(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B13/00−13/36
F01N3/00−3/38,9/00−11/00
B01D53/34−53/86,53/92−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに含まれる一酸化窒素を酸化するためのオゾンを原料ガスから生成するための交流電圧の振幅と、前記交流電圧の周波数とがオゾン発生量に対して規定された電圧マップを記憶する記憶部と、
オゾン発生量の目標量に対応する前記振幅、および、前記目標量に対応する前記周波数を前記電圧マップから求め、前記求めた振幅と前記求めた周波数とを有する交流電圧に電源の出力を制御する制御部と、を備え、
前記電圧マップにおいて、
前記電圧マップに定められた最小の目標量である第1の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として一定値である第1の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられ、
前記第1の目標量よりも大きく、かつ、前記第1の目標量の次に大きい第2の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として前記第1の振幅の次に大きい一定値である第2の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられ、
前記第1の振幅及び前記第2の振幅では、周波数に対してオゾン発生量が比例する周波数の所定範囲であって、かつ、周波数の単位増加量に対するオゾン発生量の増加量が前記所定範囲外に比べて大きい前記所定範囲において、オゾン発生量を実現可能な振幅が複数存在する場合には、小さい振幅が前記目標量に対応付けられ、
前記交流電圧の印加によって生成されたオゾンの濃度を検出する検出部をさらに備え、
前記制御部は、
前記検出部が検出した前記濃度に基づいて前記オゾン発生量を演算し、
前記目標量と前記オゾン発生量との偏差の絶対値が、前記目標量に対して5%以下の値であることを条件として有し、
前記条件の成立時には前記目標量の新たな演算に基づき前記出力を制御し、
前記条件の不成立時には前記偏差に基づく前記周波数のフィードバック制御により前記出力を制御する
オゾン発生量の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記フィードバック制御の継続時間が上限時間を超えると前記フィードバック制御を終了し、前記目標量の新たな演算に基づき前記出力を制御する
請求項に記載のオゾン発生量の制御装置。
【請求項3】
排ガスに含まれる一酸化窒素を酸化するためのオゾンを原料ガスから生成するための交流電圧の振幅と、前記交流電圧の周波数とを変更することによりオゾン発生量を制御するオゾン発生量の制御方法であって、
前記交流電圧を出力する電源の出力を制御する制御部は、
前記オゾン発生量の目標量を演算する工程と、
前記交流電圧の振幅と、前記交流電圧の周波数とがオゾン発生量に対して規定された電圧マップから、前記目標量に対応付けられた前記振幅と前記周波数とを求める工程と、
前記求めた振幅と前記求めた周波数とを示す信号を前記電源に出力する工程と、を備え、
前記電圧マップにおいて、
前記電圧マップに定められた最小の目標量である第1の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として一定値である第1の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられ、
前記第1の目標量よりも大きく、かつ、前記第1の目標量の次に大きい第2の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として前記第1の振幅の次に大きい一定値である第2の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられ、
前記第1の振幅及び前記第2の振幅では、周波数に対してオゾン発生量が比例する周波数の所定範囲であって、かつ、周波数の単位増加量に対するオゾン発生量の増加量が前記所定範囲外に比べて大きい前記所定範囲において、オゾン発生量を実現可能な振幅が複数存在する場合には、小さい振幅が前記目標量に対応付けられ、
前記制御部は、
前記交流電圧の印加によって生成されたオゾンの濃度を検出する検出部が検出した前記濃度に基づいて前記オゾン発生量を演算する工程と、
前記目標量と前記オゾン発生量との偏差の絶対値が、前記目標量に対して5%以下の値であることを条件として有し、前記条件が成立するか否かを判定する工程と、
前記条件の成立時には前記目標量の新たな演算に基づき前記出力を制御する工程と、
前記条件の不成立時には前記偏差に基づく前記周波数のフィードバック制御により前記出力を制御する工程と、をさらに備える
オゾン発生量の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン発生量の制御装置及びオゾン発生量の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化する排気浄化システムとして、選択還元型触媒を用いた排気浄化システムが実用化されている。選択還元型触媒を用いた排気浄化システムでは、排気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)とのモル比が1に近づくほど、NO及びNOが窒素に還元される反応が速く進む。例えば特許文献1には、排気ガスに含まれるNOの一部を酸化してNOに変換するべく、オゾン発生装置で発生させたオゾンを選択還元型触媒の上流に添加する排気浄化システムが開示されている。このオゾン発生装置では、誘電材を介して対向配置された一対の電極間に流れる酸素に交流電圧を印加してオゾンを発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−193620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの運転状態が変化するとNOxの浄化に必要とされるオゾンの量も変化する。そのため、オゾン発生装置には、エンジンの運転状態が変化したとしてもその運転状態に適した目標量のオゾンを適した時期に発生させることが求められる。
【0005】
本発明は、目標量の変動に対するオゾン発生量の応答性を高めることが可能なオゾン発生量の制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するオゾン発生量の制御装置は、原料ガスからオゾンを生成するための交流電圧の振幅と、前記交流電圧の周波数とがオゾン発生量に対して規定された電圧マップを記憶する記憶部と、オゾン発生量の目標量に対応する前記振幅、および、前記目標量に対応する前記周波数を前記電圧マップから求め、前記求めた振幅と前記求めた周波数とを有する交流電圧に電源の出力を制御する制御部と、を備え、前記電圧マップにおいて、第1の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として一定値である第1の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられ、前記第1の目標量よりも大きく、かつ、第2の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として前記第1の振幅よりも大きい一定値である第2の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられている。
【0007】
上記課題を解決するオゾン発生量の制御方法は、原料ガスからオゾンを生成するための交流電圧の振幅と、前記交流電圧の周波数とを変更することによりオゾン発生量を制御するオゾン発生量の制御方法であって、前記交流電圧を出力する電源の出力を制御する制御部は、前記オゾン発生量の目標量を演算する工程と、前記交流電圧の振幅と、前記交流電圧の周波数とがオゾン発生量に対して規定された電圧マップから、前記目標量に対応付けられた前記振幅と前記周波数とを求める工程と、前記求めた振幅と前記求めた周波数とを示す信号を前記電源に出力する工程と、を備え、前記電圧マップにおいて、第1の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として一定値である第1の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられ、前記第1の目標量よりも大きく、かつ、第2の目標量以下の前記目標量には、前記振幅として前記第1の振幅よりも大きい一定値である第2の振幅が対応付けられ、かつ、前記目標量が大きいほど高い周波数が対応付けられている。
【0008】
オゾン発生器において、目標量の変動に対する応答性は、交流電圧の振幅のみを変更する場合よりも周波数のみを変更する場合の方が高い。また、目標量の自由度は、交流電圧の周波数のみを変更する場合よりも振幅のみを変更する場合の方が高い。
【0009】
上記構成によれば、目標量が第1の目標量以下の範囲において変動する場合、オゾン発生量は、交流電圧の振幅ではなく交流電圧の周波数で制御される。その後、目標量が第1の目標量を超えると、交流電圧の振幅が第1の振幅から第2の振幅に変更される。そして、目標量が第1の目標量よりも大きく、且つ、第2の目標量以下の範囲において変動する場合、オゾン発生量は、交流電圧の振幅ではなく交流電圧の周波数で制御される。すなわち、制御部は、オゾン発生量の応答性が高いパラメーターである周波数でオゾン発生量を主に制御する。その結果、目標量の変動に対するオゾン発生量の応答性が高くなる。
【0010】
上記オゾン発生量の制御装置は、前記交流電圧の印加によって生成されたオゾンの濃度を検出する検出部をさらに備え、前記制御部は、前記検出部が検出した前記濃度に基づいて前記オゾン発生量を演算し、前記目標量と前記オゾン発生量との偏差が、前記交流電圧の印加に対して前記オゾン発生量の応答性が高いと判定される範囲内であることを条件として有し、前記条件の成立時には前記目標量の新たな演算に基づき前記出力を制御し、前記条件の不成立時には前記偏差に基づく前記周波数のフィードバック制御により前記出力を制御することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、目標量とオゾン発生量との偏差がオゾン発生量の応答性が高いと判定される範囲外である場合、例えば振幅の変更直後のように交流電圧の振幅が不安定な場合に、偏差に基づく周波数のフィードバック制御が行われる。フィードバック制御では、目標量とオゾン発生量との偏差が大きくともその偏差の大きさに応じて周波数が変更される。上述したように、周波数は、オゾン発生量の応答性が高いパラメーターである。すなわち、目標量とオゾン発生量との間に応答性が高いとはいえない偏差が生じたとしても、その偏差が生じたことによりオゾン発生量の応答性が高まる。
【0012】
上記オゾン発生量の制御装置において、前記制御部は、前記フィードバック制御の継続時間が上限時間を超えると前記フィードバック制御を終了し、前記目標量の新たな演算に基づき前記出力を制御することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、フィードバック制御に起因した周波数の過度な上昇、あるいは、過度な低下が抑えられる。
上記オゾン発生量の制御装置において、前記電圧マップでは、前記第1の振幅及び前記第2の振幅の各々において、前記周波数と前記オゾン発生量とが比例の関係にあることが好ましい。
【0014】
交流電圧の印加によりオゾンを発生させるオゾン発生器は、交流電圧の振幅を一定に保持したまま周波数を変化させると、所定の周波数の範囲においては周波数に比例してオゾン発生量が増加するという特性を有する。上記構成によれば、電圧マップに規定された周波数は、同じ振幅の下ではオゾン発生量が比例する周波数である。そのため、オゾン発生量と周波数とが比例の関係にあるとの条件の下でフィードバック制御を行うことが可能であることから、フィードバック制御における比例項や積分項の演算が簡素化される。その結果、フィードバック制御における制御部の負荷が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】オゾン発生量の制御装置の一実施形態を搭載した排気浄化システムの概略構成を示す図である。
図2】交流電圧の一例を示す図であって、(a)は正弦波状の交流電圧を示す図であり、(b)はパルス状の交流電圧を示す図である。
図3】(a)はオゾン発生器における交流電圧とオゾン発生量との関係の一例を示すグラフであり、(b)は電圧マップの一例を模式的に示すグラフである。
図4】電源の出力を制御する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図4を参照して、オゾン発生量の制御装置及び制御方法の一実施形態を説明する。まず、オゾン発生装置が搭載される排気浄化システムについて説明する。
図1に示されるように、排気浄化システム20は、エンジン10の排気通路11の途中に配設された各種触媒や排気ガスに対して各種添加剤を添加する装置を備える。
【0017】
ディーゼル酸化触媒21は、エンジン10の排気通路11に配設されたタービン12の下流に位置する。ディーゼル酸化触媒21に流入する排気ガスでは、窒素酸化物(NOx)の大部分が一酸化窒素(NO)である。ディーゼル酸化触媒21は、排気ガスに含まれる炭化水素や一酸化炭素を酸化させて水や二酸化炭素に変換するとともに、排気ガスに含まれるNOの一部を酸化させて二酸化窒素(NO)に変換する。ディーゼル酸化触媒21にてNOに変換されるNOの量は、ディーゼル酸化触媒21の活性度とディーゼル酸化触媒21の通過に要する時間とに依存する。ディーゼル酸化触媒21を通過した排気ガスは、DPF22に流入する。
【0018】
DPF22は、排気ガスに含まれる粒子状物質を補足する。補足された粒子状物質は、例えばバーナーを用い、DPF22に流入する排気ガスを昇温させることで除去される。DPF22を通過した排気ガスには、尿素水添加装置23によって尿素水が添加される。
【0019】
排気ガスに添加された尿素水は、加水分解によりアンモニアと二酸化炭素とに変換される。尿素水が添加された排気ガスには、オゾン発生装置30によってオゾン(O)が添加される。
【0020】
オゾン発生装置30は、空気を原料ガスとしてオゾンを発生させ、その発生させたオゾンを含むオゾンガスをオゾン添加ノズル24から排気ガスに添加する。排気ガスに含まれるNOは、NO+O→NO+Oで示される反応式のもとにオゾンによって酸化されてNOに変換される。オゾンが添加された排気ガスは、選択還元型触媒25に流入する。
【0021】
選択還元型触媒25は、アンモニアとNOxとを反応させることでNOxを窒素と水とに還元する。選択還元型触媒25の下流に位置するアンモニア酸化触媒26は、選択還元型触媒25を通過したアンモニアを酸化して窒素と水とに変換する。
【0022】
なお、エンジン10の吸気通路13には、エアクリーナー14とコンプレッサー15との間に、吸入空気量Qaを検出する吸入空気量センサー17が取り付けられている。また、エンジン10の排気通路11には、ディーゼル酸化触媒21を通過した排気ガスの温度である排気温度Teを検出する排気温度センサー27、ディーゼル酸化触媒21を通過した排気ガスのNOx濃度Cxを検出するNOx濃度センサー28が取り付けられている。
【0023】
排気温度Teは、ディーゼル酸化触媒21の温度、換言すればディーゼル酸化触媒21の活性度に応じて変化する値である。また、吸入空気量Qaは、ディーゼル酸化触媒21の通過に要する時間に関わる値である。そして、ディーゼル酸化触媒21に流入するNOxの大部分がNOであるため、排気温度Te、吸入空気量Qaからディーゼル酸化触媒21を通過した排気ガスにおけるモル比R(=NO/NOx)が推定される。
【0024】
オゾン発生装置30は、原料ガス生成部32と、オゾン発生器36と、オゾン発生量の制御装置45と、を備える。
原料ガス生成部32において、コンプレッサー33は、大気中の空気を圧縮したガスを酸素を含む原料ガスとして、一定の供給量Qsでエアドライヤー34へ連続的に供給する。エアドライヤー34は、原料ガスに含まれる水分を除去し、原料ガスを乾燥させたうえで酸素富化膜35に供給する。酸素富化膜35は、原料ガスの窒素と酸素とを分離し、原料ガスの酸素濃度を高める。原料ガス生成部32は、水分含有量が少なく、且つ、酸素濃度の高い原料ガスをオゾン発生器36に供給する。オゾン発生器36は、原料ガスからオゾンを含むオゾンガスを生成する。オゾン発生器36で生成されたオゾンガスは、オゾン添加ノズル24から排気ガスに添加される。
【0025】
オゾン発生器36は、無声放電方式のオゾン発生器であり、電源37に電気的に接続されたワイヤ状の放電電極38と、放電電極38を取り囲むように位置して放電電極38に対して誘電体39を介して対向する接地電極40と、を備える。放電電極38と誘電体39との間の空間は、放電空間41である。電源37の出力は、振幅Em及び周波数fを有する交流電圧Eである。電源37は、交流電圧Eを放電電極38に印加する。
【0026】
図2(a)及び図2(b)に交流電圧Eの一例を示す。図2(a)に示されるように、交流電圧Eの1つの例は正弦波状の電圧である。正弦波状の電圧において、振幅Emは正弦波のピーク値であり、周波数fは周期Tの逆数である。また、図2(b)に示されるように、交流電圧Eの他の例は、正極パルスと、正極パルスに対してオーバーシュートする反転パルスとを含むパルス状の電圧である。パルス状の電圧において、振幅Emは正極パルスのピーク値であり、周波数fは周期Tの逆数である。なお、本実施形態の放電電極38には、図2(b)に示すパルス状の電圧が交流電圧Eとして印加される。
【0027】
オゾン発生器36は、放電空間41に対する原料ガスの供給と、電源37からの交流電圧Eの印加とを受けて、原料ガスに含まれる酸素の一部をオゾンへと変換し、そのオゾンを含むオゾンガスを生成する。排気通路11に供給されるオゾンガスのオゾン濃度Czは、検出部であるオゾン濃度センサー42によって検出される。無声放電は電流値の変化が大きいときに発生しやすいことから、電流値が変化しやすい周波数fは、交流電圧Eの変化に対するオゾン発生量Gzの応答性が高いパラメーターである。オゾン発生量Gzは、オゾン発生器36における単位時間あたりのオゾンの発生量であり、制御装置45によって制御される。
【0028】
制御装置45は、CPU、ROM、及びRAMを有するマイクロコンピューターを中心に構成される。制御装置45は、各種処理を実行する制御部46と、各種制御プログラムや各種データを格納する記憶部47と、を備える。制御部46は、記憶部47に格納された各種制御プログラムに基づいて、オゾン発生量Gzの目標量Gtを演算し、その目標量Gtの分だけのオゾンが生成されるように交流電圧Eの振幅Emと周波数fとを制御する処理を実行する。
【0029】
制御部46は、吸入空気量センサー17からの信号に基づいて吸入空気量Qa、排気温度センサー27からの信号に基づいて排気温度Te、NOx濃度センサー28からの信号に基づいてNOx濃度Cxを取得する。制御部46は、オゾン濃度センサー42からの信号に基づいてオゾン濃度Czを取得する。
【0030】
制御部46は、目標量Gtを演算する。制御部46は、ディーゼル酸化触媒21を通過した排気ガスにおけるモル比Rを排気温度Te及び吸入空気量Qaに基づき演算する。そして、制御部46は、吸入空気量Qa、NOx濃度Cx、及び、モル比Rに基づいて、モル比Rが0.5に変更される分だけNOをNOに酸化するために必要なオゾン量を目標量Gtとして演算する。
【0031】
制御部46は、上記目標量Gtと記憶部47に記憶した電圧マップ51とに基づいて電源37の出力を制御する。電圧マップ51は、オゾン発生量Gzの各々に対して交流電圧Eの振幅Em及び周波数fが一義的に規定されたデータである。電圧マップ51は、供給量Qsだけの原料ガスをオゾン発生器36に供給し、且つ、放電電極38に対して振幅Em及び周波数fの交流電圧Eを印加したときのオゾン発生量Gzの測定値に基づくデータである。制御部46は、目標量Gtに対応する振幅Emと周波数fとを電圧マップ51から選択し、その選択した振幅Em及び周波数fを示す信号を電源37に出力する。
【0032】
制御部46は、原料ガスの供給量Qsと電源37の出力の変更後におけるオゾン濃度Czとに基づいて、変更後の交流電圧Eでのオゾン発生量Gzを演算する。制御部46は、目標量Gtとオゾン発生量Gzとの偏差ΔGを演算し、その演算した偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下の値であるか否かを判定する。判定値Gjは、偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下の値であれば、交流電圧Eの変更に対するオゾン発生量Gzの応答性が高いと判定される値であり、例えば目標量Gtに対する5%の値である。偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下のとき、制御部46は、目標量Gtを新たに演算し、その演算した目標量Gtに基づいて電源37の出力を制御する。一方、偏差ΔGの絶対値が判定値Gjよりも大きいとき、制御部46は、交流電圧Eの周波数fに対するフィードバック制御を行う。
【0033】
フィードバック制御において、制御部46は、偏差ΔGに対する比例ゲインの乗算値である比例項Pと偏差ΔGの積算値に対する積分ゲインの乗算値である積分項Iとを演算する。制御部46は、比例項Pと積分項Iとを周波数fに加算することにより、交流電圧Eの周波数fのみを変更する。なお、比例ゲイン及び積分ゲインは、後述する図3(b)に示すグラフ、すなわち電圧マップ51に規定された周波数fとオゾン発生量Gzとの関係に基づいて振幅Em毎に設定される。
【0034】
制御部46は、フィードバック制御による周波数fの変更後に偏差ΔGの絶対値が上記判定値Gj以下である場合には、周波数fのフィードバック制御を終了する。また、制御部46は、例えばカウンターやタイマーを用いてフィードバック制御の継続時間tを計測し、その継続時間tが予め設定された上限時間tmを超えると周波数fのフィードバック制御を終了する。
【0035】
図3(a)及び図3(b)を参照して、電圧マップ51について説明する。なお、図3(a)は、供給量Qsだけの原料ガスをオゾン発生器36に供給した場合における交流電圧Eとオゾン発生量Gzの測定値との関係の一例を示すグラフである。また、図3(a)及び図3(b)に示される振幅Em1,Em2,Em3,Em4は、Em1<Em2<Em3<Em4の関係を有する。
【0036】
図3(a)に示されるように、オゾン発生器36では、振幅Emが高いほど各周波数fにおけるオゾン発生量Gzが増加するとともに、周波数fが高いほど各振幅Emにおけるオゾン発生量Gzが増加する。図3(a)からも明らかなように、振幅Emは、オゾン発生器36におけるオゾン発生量Gzの自由度が高いパラメーターである。
【0037】
また、オゾン発生器36には、周波数f1以上周波数f2以下の範囲のように、周波数fの単位増加量に対するオゾン発生量Gzの増加量が他の範囲に比べて大きい部分であって、周波数fに対してオゾン発生量Gzが比例する周波数fの範囲が存在する。なお、「比例」とは、周波数fの単位増加量に対するオゾン発生量Gzの増加量がおおよそ一定であり、周波数fに対するオゾン発生量Gzが単一の直線で近似されることを意味する。
【0038】
図3(b)に示されるように、電圧マップ51は、上述した周波数f1〜周波数f2の範囲における振幅Emとオゾン発生量Gzとの関係に基づいて、オゾン発生量Gzに対して振幅Emと周波数fとを一義的に規定したデータである。周波数f1〜周波数f2の範囲においてオゾン発生量Gzを実現可能な振幅Emが複数存在する場合、電圧マップ51のオゾン発生量Gzには、複数の振幅Emのうちで最も小さい振幅Emが対応付けられる。電圧マップ51には、オゾン発生量GzがGz≦Gz1以下の範囲には第1の振幅である振幅Em1、Gz1<Gz≦Gz2の範囲には第2の振幅である振幅Em2、Gz2<Gz≦Gz3の範囲には第3の振幅である振幅Em3、Gz3<Gz≦Gz4の範囲には第4の振幅である振幅Em4が対応付けられている。
【0039】
図4を参照して電源37の出力を制御する処理の一例について説明する。なお、この処理は、エンジン10の運転中に繰り返し実行されてもよいし、例えば選択還元型触媒25の温度が活性温度、例えば200℃以下であることを条件に繰り返し実行されてもよい。
【0040】
図4に示されるように、制御部46は、ステップS11にて吸入空気量Qa、排気温度Te、及び、NOx濃度Cxを取得し、ステップS12にて目標量Gtを演算する。
ステップS13にて制御部46は、記憶部47に記憶した電圧マップ51から、ステップS12にて演算した目標量Gtに対応する振幅Em及び周波数fを選択する。そして制御部46は、ステップS13にて選択した振幅Em及び周波数fを示す信号を電源37に出力する(ステップS14)。電源37は、制御部46から入力された振幅Em及び周波数fの交流電圧Eを放電電極38に印加する。
【0041】
次に制御部46は、オゾン濃度センサー42からオゾン濃度Czを取得し(ステップS15)、ステップS14で印加した交流電圧Eでのオゾン発生量Gzを演算する(ステップS16)。そして制御部46は、目標量Gtとオゾン発生量Gzとの偏差ΔGを演算し、偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下であるか否かを判定する(ステップS17)。
【0042】
偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下であった場合(ステップS17:YES)、制御部46は、一連の処理を一旦終了する。一方、偏差ΔGの絶対値が判定値Gjよりも大きい場合(ステップS17:NO)、制御部46は、フィードバック制御を開始し、フィードバック制御の継続時間tの計時を開始する(ステップS18)。
【0043】
次のステップS19において、制御部46は、継続時間tが上限時間tm以下であるか否かを判定する。継続時間tが上限時間tmを超えていた場合(ステップS19:NO)、制御部46は、一連の処理を一旦終了する。
【0044】
一方、継続時間tが上限時間tm以下であった場合(ステップS19:YES)、制御部46は、偏差ΔGに基づいて比例項P及び積分項Iを演算する(ステップS20)。そして制御部46は、ステップS13にて選択した振幅EmとステップS20で演算した比例項P及び積分項Iとに基づく周波数fを演算する(ステップS21)。制御部46は、ステップS13にて選択した振幅EmとステップS21にて演算した周波数fとを示す信号を電源37に出力する。(ステップS22)。
【0045】
次に、制御部46は、オゾン濃度センサー42からオゾン濃度Czを取得し(ステップS23)、ステップS22で変更した交流電圧Eでのオゾン発生量Gzを演算する(ステップS24)。そして制御部46は、ステップS12にて設定した目標量GtとステップS24にて演算したオゾン発生量Gzとの偏差ΔGを演算し、その演算した偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下であるか否かを判定する(ステップS25)。
【0046】
偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下である場合(ステップS25:YES)、制御部46は、一連の処理を一旦終了する。一方、偏差ΔGの絶対値が判定値Gjよりも大きい場合(ステップS25:NO)、制御部46は、ステップS19の処理に移行する。
【0047】
上述したオゾン発生装置30の作用について説明する。
オゾン発生装置30において、目標量GtとしてGt≦Gz1を満たす値が演算され続ける間、交流電圧Eは、振幅Emが振幅Em1から変更されることなく周波数fのみが変更される。その後、エンジン10の運転状態が変化して、目標量GtがGz1<Gt≦Gz2を満たす値に変化すると、交流電圧Eは、振幅Emが振幅Em1から振幅Em2に変更されるとともに周波数fも変更される。そして、目標量GtとしてGz1<Gt≦Gz2を満たす値が演算され続ける間、交流電圧Eは、振幅Emが振幅Em2から変更されることなく周波数fのみが変更される。
【0048】
上記実施形態のオゾン発生量の制御装置及び制御方法の制御方法によれば、以下の効果が得られる。
(1)交流電圧Eは、オゾン発生量Gzの応答性が高いパラメーターである周波数fによって主に制御され、オゾン発生量Gzそのものについての自由度が高いパラメーターである振幅Emが必要に応じて変更される。その結果、オゾン発生量Gzの自由度を高めつつ、目標量Gtの変動に対するオゾン発生量Gzの応答性が高められる。
【0049】
(2)電圧マップ51では、オゾン発生量Gzを実現可能な振幅Emが複数存在する場合、そのオゾン発生量Gzには、複数の振幅Emのうちで最も小さい振幅Emが対応付けられる。これにより、オゾン発生装置30における消費電力が抑えられる。
【0050】
(3)また、最も小さい振幅Emが対応付けられることで、放電空間41の昇温も抑えられる。その結果、放電空間41の昇温に起因したオゾンの分解が抑えられる。
(4)制御部46は、偏差ΔGが判定値Gjよりも大きい場合、たとえば振幅Emの変更直後のように交流電圧Eの振幅Emが不安定な場合に、周波数fのフィードバック制御を行う。これにより、振幅Emの変更時におけるオゾン発生量Gzの応答性が高まる。
【0051】
(5)制御部46は、フィードバック制御の継続時間tが上限時間tmを超えるとフィードバック制御を終了する。これにより、フィードバック制御における周波数fの過度な上昇、あるいは、過度な低下が抑えられる。
【0052】
(6)電圧マップ51において各振幅Emに対応付けられている周波数fは、周波数fの単位増加量に対するオゾン発生量Gzの増加量が他の範囲に比べて大きい部分である。そのため、単位量だけオゾン発生量Gzを増加させる際に必要な周波数fの増加分が他の範囲よりも小さい。その結果、周波数fの増加にともなう消費電力の増大が抑えられる。
【0053】
(7)また、電圧マップ51の各振幅Emでは、周波数fとオゾン発生量Gzとが比例の関係にある。そして、その比例の関係に基づいて振幅Em毎に比例ゲイン及び積分ゲインが設定されていることから、フィードバック制御における比例項P及び積分項Iの演算が簡素化される。その結果、制御部46に対する負荷が軽減される。また、図3(a)及び図3(b)からも明らかなように、たとえフィードバック制御によって電圧マップ51に規定された周波数fの範囲を超えて周波数fが変更されたとしても、偏差ΔGに基づいて周波数fが制御されている以上、オゾン発生量Gzが目標量Gtに近づくように周波数fが制御される。
【0054】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・エンジン10の回転数が高いほど、エンジン10から排出される排気ガスの流量が多くなるとともに、その排気ガスがオゾン添加ノズル24の位置に到達するまでに要する時間も短くなる。こうした排気ガスの流量の変化に対して柔軟に対応するべく、オゾン発生装置30は、オゾン発生器36に対する原料ガスの供給量が可変であってもよい。
【0055】
こうした構成において、制御部46は、エンジン10の回転数を取得するとともに、原料ガスの供給量毎の電圧マップ51が記憶部47に記憶される。そして制御部46は、エンジン10の回転数に基づいて供給量を制御するとともに、供給量に応じて電圧マップ51を切り替える。
【0056】
・電圧マップ51を構成する周波数fは、オゾン発生量Gzとの関係が比例の関係にある周波数fに限らず、例えば図3(a)における周波数f2よりも大きい周波数fを含んでいてもよい。
【0057】
・フィードバック制御において制御部46は、偏差ΔGの絶対値が判定値Gj以下となるまで周波数fのフィードバック制御を継続してもよい。
・制御部46は、周波数fのフィードバック制御を行うことなく、目標量Gtの演算と、目標量Gtに対応する振幅Em及び周波数fの選択とを繰り返し行ってもよい。こうした構成によれば、偏差ΔGの演算、及び、偏差ΔGに基づく各種演算が必要なくなることから、制御部46に対する負荷が軽減される。
【0058】
・電圧マップ51では、オゾン発生量Gzが少なくとも2つの範囲に区分され、各範囲に互いに異なる振幅Emが対応付けられ、複数の振幅Emの各々に対して周波数fが対応付けられていればよい。そのため、例えばオゾン発生装置30に要求されるオゾン発生量Gzがオゾン発生量Gz2以下の場合には、電圧マップ51から選択される振幅Emは、振幅Em1,Em2のみであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…エンジン、11…排気通路、12…タービン、13…吸気通路、14…エアクリーナー、15…コンプレッサー、17…吸入空気量センサー、20…排気浄化システム、21…ディーゼル酸化触媒、22…DPF、23…尿素水添加装置、24…オゾン添加ノズル、25…選択還元型触媒、26…アンモニア酸化触媒、27…排気温度センサー、28…NOx濃度センサー、30…オゾン発生装置、32…原料ガス生成部、33…コンプレッサー、34…エアドライヤー、35…酸素富化膜、36…オゾン発生器、37…電源、38…放電電極、39…誘電体、40…接地電極、41…放電空間、42…オゾン濃度センサー、45…制御装置、46…制御部、47…記憶部、51…電圧マップ。
図1
図2
図3
図4